神経筋障害の処置のためのPEG化IGF−I変異体の使用
本発明は、神経筋障害、特に筋萎縮性側索硬化症(ALS)の処置、予防、及び/又は進行の遅延のためのポリエチレングリコール(PEG)化IGF−I変異体の医薬的使用に関する。より具体的には、本発明は、神経筋障害、特にALSの処置、予防、及び/又は遅延のための医薬組成物の製造のためのPEG化IGF−I変異体の使用であって、PEG化IGF−I変異体は、それが野生型ヒトIGF−Iアミノ酸配列(配列番号1)に由来し、アミノ酸位置27、65、及び68に1つ又は2つのアミノ酸改変を保有し、位置27、65、及び68のアミノ酸の1つ又は2つが極性アミノ酸であるが、しかし、リジンではなく、PEGが少なくとも1つのリジン残基に付着していることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経筋障害、特に筋萎縮性側索硬化症(ALS)の処置、予防、及び/又は進行の遅延のためのポリエチレングリコール(PEG)化IGF−I変異体の医薬的使用に関する。より具体的には、本発明は、神経筋障害、特にALSの処置、予防、及び/又は遅延のための医薬組成物の製造のためのPEG化IGF−I変異体の使用であって、PEG化IGF−I変異体は、それが野生型ヒトIGF−Iアミノ酸配列(配列番号1)に由来し、アミノ酸位置27、65、及び68に1つ又は2つのアミノ酸改変を保有し、位置27、65、及び68のアミノ酸の1つ又は2つが極性アミノ酸であるが、しかし、リジンではなく、PEGが少なくとも1つのリジン残基に付着していることを特徴とする。
【0002】
神経筋障害は、ニューロパチー(後天性又は遺伝性のいずれか)、筋ジストロフィー、ALS、脊髄性筋萎縮症(SMA)を含む一連の状態、ならびに一連の非常に稀な筋障害を包含する。神経筋障害は、随意筋を制御する神経に影響を及ぼす。ニューロンが不健康になるか、又は死亡した場合、神経系と筋肉の間のコミュニケーションが破綻する。結果として、筋肉が弱り、衰弱する。脱力は、単収縮、痙攣、痛み及び疼痛、ならびに関節及び運動の問題を招きうる。時折、それは、また、心臓機能及び貴方の呼吸能力に影響を及ぼす。進行性の筋脱力には多くの原因があり、それらは乳児期から成人期を通じた任意の時に襲いうる。
【0003】
筋ジストロフィー(MD)は、神経筋障害のサブグループである。MDは、筋肉の遺伝性疾患のファミリーを表す。一部の形態が小児に影響を及ぼし(例、デュシェンヌ型ジストロフィー)、20〜30年以内に致死的である。他の形態が成人期に存在し、より遅く進行性である。いくつかのジストロフィーの遺伝子が同定されており、デュシェンヌ型ジストロフィー(ジストロフィン遺伝子中の突然変異を原因とする)ならびに十代及び成人発症型三好型ジストロフィー又はその変異体、肢帯型ジストロフィー2B又はLGMD−2B(ジスフェリン遺伝子中の突然変異を原因とする)を含む。これらは、筋肉中の関連タンパク質の発現を妨げ、それにより筋肉機能不全を起こす「機能欠失型」突然変異である。これらの突然変異のマウスモデルが存在し、本質的に自然発生的に生じる、又は関連遺伝子の不活化もしくは欠損により生成される。これらのモデルは、筋肉において欠けるタンパク質を置換し、正常な筋肉機能を回復させうる治療を試験するために有用である。
【0004】
神経筋障害は、また、中枢神経系の運動ニューロンの破壊及び運動ニューロン経路における変性変化に起因する神経障害の群に属する運動ニューロン疾患(MND)を含み、そして他の神経変性疾患(例えばパーキンソン病、アルツハイマー病、オリーブ橋小脳萎縮症など)とは異なり、それらは運動ニューロン以外のニューロンの破壊を原因とする。米国立神経疾患・脳卒中研究所(NINDS)は、運動ニューロン疾患(MND)を、身体の上部又は下部における神経に影響を及ぼす進行性の変性障害と呼ぶ。NINDSによると、一部は遺伝する。一般的に、MNDは中年期に襲う。症状は、嚥下困難、肢脱力、不明瞭言語、歩行障害、顔面脱力、及び筋痙攣を含みうる。呼吸は、これらの疾患の後期において影響を受けうる。大半のMNDの原因が公知ではないが、しかし、環境、毒性、ウイルス、又は遺伝子の因子が、全て疑われる。MNDの形態は、成人脊髄性筋萎縮症(SMA)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)(ルー・ゲーリック病としても公知)、小児進行性脊髄性筋萎縮症(SMA1)(SMA1型又はウェルドニッヒ・ホフマン病としても公知)、中期脊髄性筋萎縮症(SMA2)(SMA2型としても公知)、若年性脊髄性筋萎縮症(SMA3)(SMA3型又はクーゲルバーグ・ウェランダー病としても公知)、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)(ケネディ病又はX連鎖SBMAとしても公知)を含む。運動ニューロン疾患は、運動ニューロンが変性し、死亡する障害である。運動ニューロン(上位運動ニューロン及び下位運動ニューロンを含む)は、随意筋に影響を与えて、それらを刺激して収縮させる。上位運動ニューロンは大脳皮質に由来し、脳幹及び脊髄を通じて線維を送り、下位運動ニューロンの制御に関与する。下位運動ニューロンは脳幹及び脊髄に位置しており、筋肉に線維を送る。下位運動ニューロン疾患は、下位運動ニューロンの変性を含む疾患である。下位運動ニューロンが変性する場合、それが通常活性化する筋線維が連絡切断され、収縮しなくなり、筋脱力及び反射低下の原因となる。いずれかの型のニューロンの喪失は脱力を招き、筋萎縮症(消耗症)及び無痛性脱力がMNDの臨床特徴である。
【0005】
ALSは、脊髄、脳幹、及び大脳皮質における運動ニューロンの選択的で進行性の喪失により特徴付けられる致死的な運動ニューロン疾患である。それは、典型的に、進行性の筋脱力及び神経筋呼吸不全を招く。ALSの約10%が、Cu/Znスーパーオキシドジスムターゼ1酵素(SOD1)をコードする遺伝子中の点突然変異に関連付けられる。ALSでのこの主要な遺伝子的原因の発見によって、種々の治療の可能性を試験するための基礎が提供された。神経栄養因子(NTF)の強力な神経保護活性は、神経萎縮症、軸索変性、及び細胞死の予防に及び、90年代初期にALSの処置に対する非常に多くの希望を生んだ。毛様体神経栄養因子(CNTF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、及びインスリン様成長因子1(IGF−1)は、ALS患者において既に評価されている。ALS患者においてこれらの因子を試験するための理論的根拠は、発生、外傷性神経損傷中での、又はALSに似た動物モデル(例えばpmnマウス又はwobblerマウスなど)における自然発生の細胞死パラダイムに対するそれらの栄養効果に基づいた。IGF−Iを除き(Lai EC et al. Neurology 1997, 49: 1621-1630)、これらの組換えタンパク質の全身送達は、ALS患者において臨床的に有益な効果を導かなかった(Turner MR at al. Semin. Neurol. 2001; 21: 167-175)。望まれていない副作用及び限定的なバイオアベイラビリティによって、それらの潜在的な臨床上の利益の評価が困難になっていた。ニューロトロフィンを適用する際の実際の困難は、これらのタンパク質が全て比較的短い半減期を有しており、神経変性疾患が慢性であり、長期間の処置を必要とすることである。
【0006】
同時期に、異なるALS関連SOD1突然変異を過剰発現するいくつかの系統のトランスジェニックマウスが生成されている(Newbery HJ et al. Trends Genet. 2001; 17: S2-S6)。ALSの臨床的及び神経病理学的な特徴の多くを厳密に模倣することにより、これらのマウスは神経栄養因子の前臨床的な潜在能力を研究するためのより関連する動物モデルを提供してきた。組換え栄養タンパク質の直接投与は、失望させるものであった。運動ニューロンの神経病理に対する有益な効果は、わずか又は無である(Azari MF et al. Brain Res. 2003; 982: 92-97; Feeney SJ et al. Cytokine 2003; 23: 108-118; Dreibelbis JE et al. Muscle Nerve 2002; 25: 122-123)。神経栄養因子(例えばグリア細胞株由来の神経栄養因子(GDNF)、IGF−I又はカルジオトロフィン1(CT−1)など)のウイルスベクター媒介性の送達によって、しかし、行動又は神経病理の改善が明らかになり(Wang LJ et al. J. Neurosci. 2002; 22: 6920-6928; Bordet T et al. Hum. Mol. Genet. 2001; 10: 1925-1933及びKaspar BK et al. Science 2003, 301: 839-842)、適切な適用計画を用いて、有効性を達成することができることを示唆している。
【0007】
インスリン様成長因子(IGF−I)は、インスリンと構造的に関連する循環タンパク同化ホルモンである。循環中では、IGF−Iの99%超がIGF−I結合タンパク質(IGFBP)に結合しており、それらはIGFに対して非常に高い親和性を有しており、IGF−I機能を調節する。この因子は、特定のプロテアーゼを介したタンパク質分解によりIGFBPから局所的に放出させることができる。血清IGF−I(〜75%)の主な供給源は肝臓であるが(Sjogren, K., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 94 (1999) 7088-7092; Yakar, S., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 96 (1999) 7324-7329)、IGF−Iは身体の全ての細胞において局所的に産生される。その内分泌機能の他、IGF−Iは、発生中の成熟脳においてパラクリンの役割を有する(Werther, G.A, et al., Mol. Endocrinol. 4 (1990) 773-778)。インビトロ試験では、IGF−Iが、CNS(Knusel, B., et al., J. Neurosci. 10 (1990) 558-570; Svrzic, D.、及びSchubert, D., Biochem. Biophys. Res. Commun. 172 (1990) 54-60)中のいくつかの型のニューロン(ドーパミンニューロン(Knusel, B., et al., J. Neurosci. 10 (1990) 558-570)、オリゴデンドロサイト(McMorris, F. A, and Dubois-Dalcq, M., J. Neurosci. Res. 21 (1988) 199-209; McMorris, F. A, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83 (1986) 822-826; Mozell, R. L., and McMorris, F. A, J. Neurosci. Res. 30 (1991) 382-390)、及び脊髄運動ニューロン(Hughes, R. A, et al., J. Neurosci. Res. 36 (1993) 663-671; Neff, N. T., et al., J. Neurobiol. 24 (1993) 1578-1588; Li, L., et al., J. Neurobiol. 25 (1994) 759-766)を含む)に対する強力で非選択的な栄養物質であることが示されている。脳血液関門(BBB)を越えた受容体媒介性輸送を介した脳中への末梢IGF−Iの侵入が実証されている(Rosenfeld, R. G. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 149 (1987) 159-166; Duffy, K. R., et al., Metab. Clin. Exp. 37 (1988) 136-140; Pan, W. and Kastin, AJ.. Neuroendocrinology 72 (2000) 171-178)。主にSOD1トランスジェニックマウスにおいて生成された前臨床データによって、IGF−Iが、髄腔内に、又は、除放デバイス又は遺伝子治療アプローチを介して送達された場合、ALS関連パラメーターに対して有効性を示すとの強い証拠が提供されている(Kaspar et al., Science 301: 839, 2003; Boillee and Cleveland, Trends Neurosci 27: 235, 2004; Dobrowolny et al., J Cell Biol168: 193, 2005; Nagano et al., J Neurol Sci 235: 61, 2005; Narai et al., J Neurosci Res 82:452, 2005)。これは、IGF−Iの一定の送達が必要とされることを示唆する。なぜなら、ヒトでの使用に適したIGF−I用量の非経口適用時でのALSモデルにおける有効性について発表データが存在しないからである。
【0008】
米国特許第5,093,317号には、コリン作動性神経細胞の生存がIGF−Iの投与により増強されることが言及されている。IGF−Iが末梢神経の再生を促進し(Kanje, M., et al., Brain Res. 486 (1989) 396-398)、オルニチンデカルボキシラーゼ活性を増強する(米国特許第5,093,317号)ことがさらに公知である。米国特許第5,861,373号及びWO 93/02695 A1には、患者の中枢神経系においてIGF−I及び/又はそのアナログの活性濃度を増加させることにより主にグリア及び/又は非コリン作動性神経細胞に影響を及ぼす中枢神経系への損傷又はその疾患を処置する方法について言及されている。WO 02/32449 A1は、哺乳動物の鼻腔に、治療的有効量のIGF−I又はその生物活性変異体を含む医薬組成物を投与することによる、哺乳動物の中枢神経系における虚血性障害を低下又は予防するための方法に関する。IGF−I又はその変異体は、鼻腔を通じて吸収され、虚血性事象に関連する虚血性傷害を低下又は予防するために効果的な量で哺乳動物の中枢神経系に輸送される。EP 0 874 641 A1では、AIDS関連痴呆、AD、パーキンソン病、ピック病、ハンチントン病、肝性脳症、皮質‐基底神経節症候群、進行性痴呆症、痙性対麻痺を伴う家族性認知症、進行性核上麻痺、多発性硬化症、シルダーの脳硬化症、又は急性壊死性出血性脳脊髄炎に起因する中枢神経系における神経損傷を処置又は予防するための薬物を製造するためのIGF−I又はIGF−IIの使用を主張しており、ここで、この薬物は血液脳関門又は血液脊髄関門の外側で有効量のIGFを非経口投与するための形態である。
【0009】
臨床使用では、しかし、外来性適用後での末梢におけるIGF−Iの短い半減期が、明らかな不利点であり、重篤な問題を生じる高投与回数を必要とする。IGF−Iでの急性過負荷に起因する副作用(低血糖症、IGF−Iでの臨床試験において頻繁に見られる、NDAレポート21−839(http://www.fda.gov/cder/foi/nda/2005/021839_S000_Increlex_Pharm.pdf)も参照のこと)によって、最大耐量が、持続的有効性にまだ達しないレベルに限定される。この不利点を克服し、より良好な活性のためのより高用量を達成するために、吸収速度が遅く、血中滞留性がより長く安定であるが、しかし、生物活性を保持している修飾IGF−Iが必要とされうる。前記修飾IGF−Iが依然としてその神経保護作用を発揮できることを確実にするために、血液脳関門輸送が十分に稼働していることも必要とされる。
【0010】
前臨床使用において、血液中での大きな化合物変動のない継続的な供給のためのミニポンプ及びミクロスフェアとしての除放デバイス中へのカプセル封入により上記困難の少なくとも一部に対処することが試みられてきた(Carrascosa C et al. Biomaterials 25; 707-714;WO 03/077940 A1)。しかし、このアプローチを使用して、血中IGF−Iの初期の強い増加が観察されており、ヒトにおいてIGF−Iの皮下注射(s.c.)と同じ急性副作用を生じうる。
【0011】
驚くべきことに、特異的にPEG化されたIGF−I(PEG−IGF−I)変異体は、非経口注射されたとき、必要な薬物動態学的プロファイルを有することが見出された。前記PEG化IGF−I変異体は、非PEG化IGF−Iよりも10倍高い用量及び/又は血漿中濃度まで急性血糖降下活性を有さない。PEG化によってIGF−Iの結合及び受容体媒介性の血液脳関門透過が損なわれることが明らかに期待されてきたであろう。以下で詳細に記載されるPEG化IGF−I変異体は、驚くべきことに、動物、即ち、神経筋傷害のマウスモデルにおいて、非PEG化IGF−Iで必要とされるよりずっと低用量で神経保護的及び機能的であり、1)血液脳関門輸送が十分に稼働していること、2)分子がインビボでその生物学的活性を十分に保持していること、及び3)低血糖症が、IGF−Iと比較して、>10倍高い用量のPEG−IGF−Iでだけ見られ、それによってヒトにおけるより良好な有効性のためにさらにより高投与量のPEG−IGF−Iが可能になることを示している。
【0012】
発明の概要
第1の実施態様において、本発明は、以下に記載される医薬的有効量のPEG化IGF−I変異体を、それを必要とする患者に投与することによる神経筋障害の処置のための方法に関する。
【0013】
好ましい実施態様において、本発明は、以下に記載される医薬的有効量のPEG化IGF−I変異体を、それを必要とする患者に投与することによるMND、特にALSの処置のための方法に関する。
【0014】
別の実施態様において、本発明は、さらに、薬学的に許容しうる担体を伴う、以下に記載されるPEG化IGF−I変異体を含む医薬組成物に関し、ここで前記医薬組成物は、神経筋障害、好ましくはMND、及びさらにより好ましくはALSの処置、予防、及び/又は進行の遅延において有用である。
【0015】
本発明のさらなる局面は、神経筋障害、好ましくはMND、及びさらにより好ましくはALSの処置のための薬物の製造のための、以下に記載されるPEG化IGF−I変異体の使用に関する。
【0016】
発明の詳細な説明
別に定義されない場合、本明細書において使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者により共通して理解されるのと同じ意味を有する。本明細書において記載されるものと類似の又は等価の任意の方法及び材料を、本発明の実行又は試験において使用することができるが、好ましい方法及び材料が以下に記載される。
【0017】
定義
「神経筋障害」という用語は、筋肉の機能を直接的に(内因性の筋病理を介して)又は間接的に(神経病理を介して)損なう疾患及び病気を包含する。神経筋障害の例は、限定はされないが、以下を含む:
運動ニューロン疾患、例えばALS(別名、ルー・ゲーリック病)、脊髄性筋萎縮症1型(SMA1、ウェルドニッヒ・ホフマン病)、脊髄性筋萎縮症2型(SMA2)、脊髄性筋萎縮症3型(SMA3、クーゲルベルク・ヴェランダー病)、脊髄延髄性筋萎縮症(SBMA、別名、ケネディ病及びX連鎖SBMA)、
筋ジストロフィー、例えばデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD、別名、仮性肥大型)、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)、エメリ・ドレフュス型筋ジストロフィー(EDMD)、肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSH又はFSHD、別名、ランドジー・デジェリーヌ型)、筋強直性ジストロフィー(MMD、別名、シュタイネルト病)、眼球咽頭型筋ジストロフィー(OPMD)、遠位筋ジストロフィー (DD、三好型)、先天性筋ジストロフィー(CMD)、
筋肉の代謝病、例えばホスホリラーゼ欠損症(MPD又はPYGM、別名、マッカードル病)、酸性マルターゼ欠損症(AMD、別名、ポンペ病)、ホスホフルクトキナーゼ欠損症(別名、垂井病)、脱分枝酵素欠損症(DBD、別名、コリ病又はフォーブズ病)、ミトコンドリアミオパチー(MITO)、カルニチン欠損症(CD)、カルニチンパルミチルトランスフェラーゼ欠損症(CPT)、ホスホグリセリン酸キナーゼ欠損症、ホスホグリセリン酸ムターゼ欠損症、乳酸脱水素酵素欠損症、ミオアデニル酸デアミナーゼ欠損症、パルミチルトランスフェラーゼ欠損症(CPT)、ホスホグリセリン酸キナーゼ欠損症、ホスホグリセリン酸ムターゼ欠損症、乳酸脱水素酵素欠損症、ミオアデニル酸デアミナーゼ欠損症;
末梢神経の疾患、例えばシャルコー・マリー・ツース病(CMT、別名、遺伝性運動感覚性ニューロパチー(HMSN)又は腓骨筋萎縮症(PMA)、フリードライヒ失調症(FA)、デジェリン・ソッタス病(DS)、
炎症性ミオパチー、例えば皮膚筋炎(DM)、多発性筋炎(PM)、封入体筋炎(IBM)、神経筋接合部の疾患、例えば重症筋無力症(MG)、ランバート・イートン症候群(LES)、先天性筋無力症症候群(CMS)、
内分泌異常に起因するミオパチー、例えば甲状腺機能亢進性ミオパチー(HYPTM)、甲状腺機能低下性ミオパチー(HYPOTM)、
他のミオパチー、例えば先天性筋緊張症(MC、別名、トムゼン病及びベッカー病)、先天性パラミオトニア(PC)、セントラルコア病(CCD)、ネマリンミオパチー(NM)、
筋細管ミオパチー/中心核ミオパチー(MTM又はCNM)、周期性麻痺(PP、2つの形態:低カリウム血性及び高カリウム血性)。
【0018】
「MND」により、運動機能を伴うニューロン、即ち、運動インパルスを運ぶニューロンに影響を及ぼす疾患を意味する。そのようなニューロンは、また、「運動ニューロン」と呼ばれる。これらのニューロンは、限定されないが、以下を含む:前部脊髄のアルファニューロン(骨格筋線維を神経支配するアルファ線維を生じる);前部脊髄のベータニューロン(錘外及び錘内筋線維を神経支配するベータ線維を生じる);前部脊髄のガンマニューロン(筋紡錘の錘内線維を神経支配するガンマ(紡錘運動)線維を生じる);求心性インパルスが起こる筋肉以外の筋肉に供給する異名運動ニューロン;求心性インパルスが起こる筋肉に供給する同名運動ニューロン;細胞体が脊髄の腹側灰白柱中にあり、終末が骨格筋中にある下位末梢ニューロン;介在ニューロンからインパルスを受ける末梢ニューロン;及び、運動皮質から、脳神経の運動核に、又は、脊髄の腹側灰白柱にインパルスを伝導する大脳皮質中の上位ニューロン。
【0019】
運動ニューロン障害の非限定的な例は、以下を含む:種々の筋萎縮症、例えば遺伝性筋委縮症(遺伝性脊髄性筋萎縮症を含む)、急性乳児脊髄性筋萎縮症、例えばウェルドニッヒ・ホフマン病など、小児における進行性筋萎縮症、例えば近位型、遠位型、及び延髄型など、青年期発症型又は成人発症型の脊髄性筋萎縮症(近位型、肩甲腓骨型、顔面肩甲上腕型、及び遠位型を含む)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、及び原発性側索硬化症(PLS)。また、この用語内には、運動ニューロンの損傷が含まれる。
【0020】
「筋萎縮性側索硬化症」(「ALS」)という用語は、ルー・ゲーリック病とも呼ばれ、皮質、脳幹、及び脊髄の運動ニューロンに影響を及ぼす致死的疾患である。(Hirano, (1996) Neurology, 47(4 Suppl. 2): S63-6)。疾患の病因は未知であるが、1つの理論は、ALSにおける神経細胞死が、過剰な細胞外グルタミン酸に起因する神経細胞の過剰興奮の結果であるということである。グルタミン酸は、グルタミン酸作動性ニューロンにより放出され、グリア細胞中に取り込まれる神経伝達物質であり、そこで、それは酵素グルタミン合成酵素によりグルタミンに変換され、グルタミンは次にニューロンに再侵入し、グルタミナーゼにより加水分解され、グルタミン酸を形成し、このようにして神経伝達物質プールを補充する。正常な脊髄及び脳幹において、細胞外グルタミン酸レベルは、細胞外液中で低マイクロモルレベルに保たれている。なぜなら、グリア細胞(ニューロンを支持するために部分的に機能する)が、興奮性アミノ酸トランスポーター2型(EAAT2)タンパク質を使用して、グルタミン酸を即時に吸収するからである。ALS患者における正常EAAT2タンパク質の欠損は、疾患の病理において重要であるとして同定された{例、Meyer et al. (1998) J. Neurol. Neurosurg. Psychiatry, 65: 594-596; Aoki et al. (1998) Ann. Neurol. 43: 645-653;Bristol et al. (1996) Ann Neurol. 39: 676-679)。EAAT2の低下したレベルについての1つの説明は、EAAT2が異常にスプライシングされていることである(Lin et al. (1998) Neuron, 20: 589-602)。異常スプライシングによって、EAAT2タンパク質のC末端領域中に位置付けられる45〜107のアミノ酸の欠失を伴うスプライス変異体が産生される(Meyer et al.(1998) Neurosci Lett. 241: 68-70)。EAAT2の欠如又は欠陥に起因して、細胞外グルタミン酸が蓄積し、ニューロンの持続的な興奮を起こす。グルタミン酸の蓄積は、神経細胞に対して毒性効果を有している。なぜなら、ニューロンの持続的な興奮が早期細胞死を招くからである。ALSの病理について多くのことが公知であるが、家族性ALSにおける散発型の病原性及び突然変異SODタンパク質の原因特性についてはほとんど公知ではない(Bruijn, et al. (1996) Neuropathol. Appl. Neurobiol, 22: 373-87; Bruijn, et al. (1998) Science 281: 1851-54)。多くのモデルが推測されており、グルタミン酸毒性、低酸素症、酸化ストレス、タンパク質凝集体、ニューロフィラメント、及びミトコンドリア機能障害を含む(Cleveland, et al. (1995) Nature 378: 342-43; Cleveland, et al. Neurology, 47 (4 Suppl. 2): S54-61, discussion S61-20996); Cleveland, (1999) Neuron, 24: 515-20;Cleveland, et al. (2001) Nat. Rev. Neurosci., 2: 806-19; Couillard-Despres, et al. (1998) Proc. Natl. Acad. ScL USA, 95: 9626-30; Mitsumoto, (1997) Ann. Pharmacother., 31: 779-81; Skene, et al. (2001) Nat. Genet. 28: 107-8; Williamson, et al. (2000) Science, 288: 399)。
【0021】
現在、ALSのための療法はなく、疾患の経過を予防又は逆転させるために効果的であることが判明している治療もない。いくつかの薬物が、近年、食品医薬品局(FDA)により承認されている。今までに、ALSを処置するための試みには、細胞保護効果を有する長鎖脂肪アルコールを用いて(米国特許第5,135,956号を参照のこと);又はピルビン酸塩を用いて(米国特許第5,395,822号を参照のこと);及びグルタミン酸カスタードを遮断するためのグルタミン合成酵素を使用して(米国特許第5,906,976号を参照のこと)神経変性を処置することが含まれてきた。例えば、リルゾール(グルタミン酸放出阻害剤)が、米国において、ALSの処置のために承認されており、少なくとも一部のALS患者の生存を3ヶ月間だけ延ばすと思われる。しかし、一部のレポートでは、リルゾール治療が生存時間をわずかに延長させるにもかかわらず、それは、患者において筋力の改善を提供するように思われないことが示されてきた。従って、リルゾールの効果は、治療によって患者のクオリティーオブライフが改変されない点で限定される(Borras-Blasco et al. (1998) Rev. Neurol, 27: 1021-1027)。
【0022】
以下で使用される通り、「分子量」は、PEGの平均分子量を意味する。
【0023】
本発明の「PEG又はPEG基」は、ポリ(エチレングリコール)を必須部分として含む残基を意味する。そのようなPEGは、結合反応のために必要であるさらなる化学基を含みうる;それらは分子の化学合成に起因する;又は、それは、互いからの分子の部分の最適な距離のためのスペーサーである。また、そのようなPEGは、一緒に連結される1つ又は複数のPEG側鎖からなりうる。複数のPEG鎖を伴うPEG基は、マルチアームPEG又は分岐PEGと呼ばれる。分岐PEGを、例えば、ポリエチレンオキシドの種々のポリオール(グリセロール、ペンタエリスリトール、及びソルビトールを含む)への付加により調製できる。例えば、4アーム分岐PEGを、ペンタエリスリトール及びエチレンオキシドから調製できる。分岐PEGは、通常、2〜8のアームを有し、例えば、EP−A 0 473084及び米国特許第5,932,462号において記載されている。特に好ましくは、リジンの第一級アミノ基を介して連結された2つのPEG側鎖を伴うPEG(PEG2)である(Monfardini, C, et al., Bioconjugate Chem. 6 (1995) 62-69)。
【0024】
本明細書において使用される「実質的に均質な」とは、産生される、含まれる、又は使用されるPEG化IGF−I変異体分子だけが、付着された1つ又は2つのPEG基を有するものであることを意味する。この調製物は、少量の未反応(即ち、PEG基を欠く)タンパク質を含みうる。ペプチドマッピング及びN末端シークエンシングにより確認される通り、以下の1例は、少なくとも90%のPEG−IGF−I変異体抱合体及び多くても5%の未反応タンパク質である調製物を提供する。PEG化IGF−I変異体のそのような均質な調製物の単離及び精製は、通常の精製方法、好ましくは分子ふるいクロマトグラフィーにより実施できる。
【0025】
本明細書において使用される「モノPEG化」とは、IGF−I変異体が、IGF−I変異体1分子当たり1つのリジンだけでPEG化されることを意味し、それにより、1つのPEG基だけがこの部位で共有結合的に付着される。純粋なモノPEG化IGF−I変異体(N末端PEG化を伴わない)は、調製物の少なくとも80%、好ましくは90%、最も好ましくはモノPEG化IGF−I変異体は調製物の92%又はそれ以上であり、残りは、例えば、未反応(非PEG化)IGF−I及び/又はN末端PEG化IGF−I変異体である。本発明のモノPEG化IGF−I変異体の調製物は、従って、例えば、医薬的適用において、均質な調製物の利点を呈するだけ十分に均質である。同じことが、ジPEG化種に適用される。
【0026】
本明細書において使用される「PEG化IGF−I変異体」又は「アミノ反応性PEG化」は、IGF−I変異体が、IGF−I変異体分子の1つ又は2つのリジンへのアミノ反応性共役により1つ又は2つのポリ(エチレングリコール)基に共有結合的に結合することを意味する。PEG基は、リジン側鎖の第一級[エプシロン]アミノ基であるIGF−I変異体分子の部位に付着している。PEG化は、また、N末端[アルファ]アミノ基で起こることがさらに可能である。使用される合成方法及び変異体に起因して、PEG化IGF−I変異体は、IGF−I変異体の混合物(K65、K68、及び/又はK27でPEG化されており、N末端PEG化を伴う、又は伴わない)からなりうるが、それにより、PEG化部位は、異なる分子において異なりうる、又は、1分子当たりのポリ(エチレングリコール)側鎖の量及び/又は分子中のPEG化部位に関して実質的に均質でありうる。好ましくは、IGF−I変異体は、モノ及び/又はジPEG化されており、特に、N末端PEG化IGF−I変異体から精製される。
【0027】
本明細書において使用される「PEG又はポリ(エチレングリコール)」は、市販されている、又は、当技術分野において周知の方法に従ってエチレングリコールの開環重合により調製できる水溶性ポリマーを意味する(Kodera, Y., et al., Progress in Polymer Science 23 (1998) 1233-1271; Francis, G. E., et al., Int. J. Hematol. 68 (1998) 1-18)。「PEG」という用語を広範に使用して、任意のポリエチレングルコール分子を包含し、ここで、エチレングリコール(EG)単位の数が、少なくとも460、好ましくは460〜2300、特に好ましくは460〜1840である(230 EG単位は、分子量約10kDaを指す)。EG単位の上限数は、PEG化IGF−I変異体の可溶性によってのみ限定される。通常、2300単位を含むPEGより大きなPEGは使用されない。好ましくは、本発明において使用されるPEGは、一端で、ヒドロキシ又はメトキシ(メトキシPEG、mPEG)で終結し、他端で、エーテル酸素結合を介してリンカー成分に共有結合的に付着している。ポリマーは直鎖又は分岐のいずれかである。分岐PEGは、例えば、Veronese, F. M., et al., Journal of Bioactive and Compatible Polymers 12 (1997) 196-207において記載されている。
【0028】
本発明の局面は、医薬的有効量のPEG化IGF−I変異体を、それを必要とする患者に投与することによる、神経筋障害、好ましくは運動ニューロン疾患、最も好ましくはALSの処置のための方法に関する。さらにより好ましい実施態様において、処置すべき疾患は、スーパーオキシドジスムターゼ1の突然変異を招く遺伝子欠損を原因とするALSである。
【0029】
このPEG化IGF−I変異体は、PEGが組換えヒトIGF−Iムテインのリジン残基に付着していることを特徴とし、野生型ヒトIGF−Iアミノ酸配列(配列番号1)のアミノ酸位置27、65、及び68に1つ又は2つのアミノ酸改変を保有し、位置27、65、及び68のアミノ酸の1つ又は2つが極性アミノ酸であるが、しかし、リジンではない。
【0030】
本明細書において使用される「極性アミノ酸」は、システイン(C)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、ヒスチジン(H)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、アルギニン(R)、セリン(S)、及びスレオニン(T)からなる群より選択されるアミノ酸を指す。リジンも極性アミノ酸であるが、しかし、除外される。なぜなら、リジンは本発明により置き換えられるからである。アルギニンは、好ましくは、極性アミノ酸として使用される。
【0031】
好ましくは、野生型IGF−Iアミノ酸配列(配列番号1)の以下:
(a)K65R及びK68R(配列番号2)
(b)K27R及びK68R(配列番号3)
(c)K27R及びK65R(配列番号4)
のアミノ酸改変により特徴付けられるPEG化形態の組換えヒトIGF−Iムテインである。
【0032】
特別な優先度が、アミノ酸改変K27R及びK65R(配列番号4)を伴い、K68でのモノPEG化により特徴付けられる、PEG化形態の組換えヒトIGF−Iムテインに与えられる。
【0033】
優先度が、また、上に記載されるリジンPEG化IGF−I変異体及びN末端がPEG化されたIGF−I変異体の組成物に与えられ、ここでIGF−I変異体は、一次アミノ酸配列の点で、及び、1つ又は2つのアミノ酸改変を、野生型ヒトIGF−Iアミノ酸配列(配列番号1)のアミノ酸位置27、65、及び68に保有する点で同一であり、位置27、65、及び68の1つ又は2つのアミノ酸は極性アミノ酸であるが、しかし、リジンではない。好ましくは、分子比は9:1〜1:9(比は、リジン‐PEG化IGF−I変異体/N末端PEG化IGF−I変異体を意味する)である。さらに好ましくは、モル比が少なくとも1:1(N末端がPEG化されたIGF−I変異体の1部分当たり少なくとも1部分のリジンPEG化IGF−I変異体)、好ましくは少なくとも6:4(N末端がPEG化されたIGF−I変異体の4部分当たり少なくとも6部分のリジンPEG化IGF−I変異体)である組成物である。好ましくは、リジン‐PEG化IGF−I変異体及びN末端PEG化IGF−I変異体の両方がモノPEG化されている。好ましくは、この組成物中では、変異体は、リジン‐PEG化IGF−I変異体及びN末端PEG化IGF−I変異体の両方において同一である。IGF−I変異体は、好ましくは、野生型ヒトIGF−Iアミノ酸配列(配列番号1)の以下:
(a)K65R及びK68R(配列番号2)
(b)K27R及びK68R(配列番号3)
(c)K27R及びK65R(配列番号4)
のアミノ酸改変を有するIGF−Iムテインより選択される。
【0034】
配列番号2〜4の好ましいPEG化形態の組換えヒトIGF−Iムテインは、リジンPEG化IGF−I又はリジンPEG化IGF−I変異体の産生のための手順に従った場合に入手可能であり、変異体は、参照により本明細書において完全に組み入れられるWO 2008/025528 A1において記載される通りに別の極性アミノ酸により独立的に置換されたリジン27、65、及び/又は68からなる群より選択される1つ又は2つのアミノ酸を含む。WO 2008/025528 A1において記載されるプロセスによって、配列番号2〜4の組換えヒトIGF−Iムテインの調製が可能になり、それらはN末端PEG化を持たない。
【0035】
さらに好ましくは、PEG化IGF−I変異体は、N末端の3つまで(好ましくは3つ全て)のアミノ酸がトランケートされている変異体である。各野生型突然変異体をDes(1−3)−IGF−Iと名付け、N末端からアミノ酸残基グリシン、プロリン、及びグルタミン酸が欠けている(Kummer, A., et al., Int. J. Exp. Diabesity Res. 4 (2003) 45-57)。
【0036】
好ましくは、ポリ(エチレングリコール)基は、全体的な分子量、少なくとも20kDa、より好ましくは約20〜100kDa、特に好ましくは20〜80kDaを有する。ポリ(エチレングリコール)基は直鎖又は分岐のいずれかである。
【0037】
本明細書において使用されるアミノ反応性PEG化は、反応性(活性化)ポリ(エチレングリコール)の使用により、好ましくは、好ましくはメトキシポリ(エチレングリコール)のNヒドロキシスクシンイミジルエステルの使用により、ポリ(エチレングリコール)鎖をIGF−I変異体の第一級リジンアミノ基に無作為に付着させる方法を指定する。共役反応によって、ポリ(エチレングリコール)が、リジン残基の反応性第一級[エプシロン]アミノ基及び場合によりIGF−IのN末端アミノ酸の[アルファ]アミノ基に付着される。タンパク質へのPEGのそのようなアミノ基の抱合は、当技術分野において周知である。例えば、そのような方法の概説が、Veronese, F. M., Biomaterials 22 (2001) 405-417により与えられる。Veroneseによると、タンパク質の第一級アミノ基へのPEGの抱合は、第一級アミノ基のアルキル化を実施する活性化PEGを使用することにより実施できる。そのような反応では、活性化アルキル化PEG、例えばPEGアルデヒド、PEGトレシルクロリド、又はPEGエポキシドを使用できる。さらなる有用な試薬は、アシル化PEG、例えば、カルボキシル化されたPEG又は末端ヒドロキシ基がクロロホルメート又はカルボニルイミダゾールにより活性化されたPEGのヒドロキシスクシンイミジルエステルなどである。さらなる有用なPEG試薬は、アミノ酸アームを伴うPEGである。そのような試薬はいわゆる分岐PEGを含みうる。それにより、少なくとも2つの同一の又は異なるPEG分子が、ペプチドスペーサー(好ましくはリジン)により一緒に連結され、例えば、リジンスペーサーの活性化カルボン酸としてIGF−I変異体に結合する。モノN末端共役は、また、Kinstler, O., et al., Adv. Drug Deliv. Rev. 54 (2002) 477-485により記載されている。
【0038】
有用なPEG試薬は、例えば、Nektar Therapeutics Inc.から入手可能である。
【0039】
PEGでの任意の分子量(例、約20kDa〜100kDa)を、実際的に望ましいとして使用できる(nは460〜2300である)。PEG中の反復単位の数「n」は、ダルトンで記載される分子量について概算される。例えば、2つのPEG分子がリンカーに付着されている場合、ここで、各PEG分子が同じ分子量10kDaを有し(各nは約230である)、リンカー上のPEGの総分子量は約20kDaである。リンカーに付着したPEGの分子量も異なりうる。例えば、リンカー上の2つの分子の内、1つのPEG分子が5kDaであり、1つのPEG分子が15kDaでありうる。分子量は常に平均分子量を意味する。
【0040】
アミノ反応性PEG化IGF−I変異体の産生のための適したプロセス及び好ましい試薬が、WO 2006/066891において記載されている。改変は、例えば、Veronese, F. M., Biomaterials 22 (2001) 405-417により記載される方法に基づいており、プロセスが上に記載されるPEG化IGF−I変異体をもたらす限り施すことができることが理解される。本発明のPEG化IGF−I変異体の調製のための特に好ましいプロセスが、WO 2008/025528 A1において記載されており、それは、参照により本明細書において完全に組み入れられる。
【0041】
標的タンパク質中の3つまでの潜在的に反応性の第一級アミノ基(2つまでのリジン及び1つの末端アミノ酸)の出現は、ポリ(エチレングリコール)鎖の付着点において異なる一連のPEG化IGF−I変異体の異性体をもたらす。
【0042】
PEG化IGF−I変異体は、1つ又は2つのPEG基(直鎖又は分岐であり、それに無作為に付着している)を含み、それにより、PEG化IGF−I変異体中の全てのPEG基の全体的な分子量は、好ましくは、約20〜80kDaである。この範囲の分子量からの小さな逸脱が可能である。しかし、活性が、低下したIGF−I受容体の活性化及び血液脳関門輸送に起因して、分子量の増加にともない減少することが予測される。従って、PEGの分子量についての範囲20〜100kDaが、PEGの抱合体及びMND、特にALSの効率的な処置のために有用なIGF−I変異体についての最適化された範囲として理解されるべきである。
【0043】
医薬製剤
以上に記載されるPEG化IGF−I変異体は、循環中での改善された安定性により特徴付けられ、低い適用間隔、即ち、長期間隔を用いて、全身にわたるIGF−I受容体への持続的な接近を可能にする。
【0044】
PEG化IGF−I変異体は、方法が当業者に公知である医薬組成物の調製のための方法に従って製剤化できる。そのような組成物の産生のために、本発明のPEG化IGF−I変異体は、好ましくは、医薬組成物の所望の成分を含む水溶液に対する透析により、薬学的に許容しうる担体との混合物中で組み合わされる。
【0045】
そのような許容しうる担体が、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th edition, 1990, Mack Publishing Company(Oslo et al.による編集)(例、pp.1435−1712)において記載されている。典型的な組成物は、有効量の本発明の物質(例えば、約0.1〜100mg/ml)を、適した量の担体と一緒に含む。組成物は非経口的に投与してよい。本発明のPEG化IGF−Iは、好ましくは、腹腔内、皮下、静脈内、又は鼻腔内適用を介して投与される。
【0046】
本発明の医薬的製剤は、当技術分野において公知の方法に従って調製できる。通常、PEG化IGF−I変異体の溶液は、医薬組成物中での使用が意図される緩衝液に対して透析され、所望の最終タンパク質濃度は濃縮又は希釈により調整される。
【0047】
そのような医薬組成物は、好ましくは腹腔内、皮下、静脈内、又は鼻腔内適用を介した注射又は注入での投与のために使用でき、薬学的に許容しうる希釈剤、保存剤、可溶化剤、乳化剤、アジュバント、及び/又は担体と一緒に有効量のPEG化IGF−I変異体を含んでよい。そのような組成物は、種々の緩衝液含有物(例、アルギニン、酢酸、リン酸)、pH、及びイオン強度の希釈剤、添加剤、例えば界面活性剤及び可溶化剤(例、Tween(商標)80/ポリソルベート、プルロニック(商標)F68)、抗酸化剤(例、アスコルビン酸、二亜硫酸ナトリウム)、保存剤(Timersol(商標)、ベンジルアルコール)及び増量物質(例、サッカロース、マンニトール)を含み、物質は、ポリマー化合物、例えばポリ酢酸、ポリグリコール酸などの粒状調製物中に又はリポソーム中に組込まれる。そのような組成物は、PEG化IGF−I変異体の放出及びクリアランスの物理的状態の安定化率に影響を及ぼしうる。
【0048】
投与量及び薬物濃度
典型的に、標準的な処置計画において、患者を、特定の期間にわたり、1kg当たり、1週間当たり、0.001〜20mg、好ましくは0.01〜8mgの範囲のPEG化IGF−I変異体の投与量で処置し、1週間から約3ヶ月間又はそれより長く持続する。薬物は、1ml当たり、以上に記載されるPEG化IGF−I変異体0.1〜100mgを含む医薬的製剤の週1回皮下、静脈内、又は腹腔内ボーラス注射又は注入として適用される。この処置は、PEG化IGF−Iを、標準的な処置の前、中、又は後に適用することにより、任意の標準的(例、化学療法)処置と組み合わせることができる。これは、標準的処置だけと比較し、改善された転帰をもたらす。
【0049】
以上に記載されるPEG化IGF−I変異体を、処置の成功のために週1又は2回だけ投与できることが見出された。神経筋障害、好ましくはMND、さらにより好ましくはALSの処置のための方法は、従って、それを必要とする患者へ、以上に記載される治療的有効量のPEG化IGF−I変異体を、1kg当たり、及び3〜8日当たり、好ましくは7日当たり0.001〜3mg、好ましくは0.01〜3mgの範囲のPEG化IGF−I変異体の各々1つの投与量で投与することを含むべきである。PEG化IGF−I変異体として、好ましくは、モノPEG化IGF−I変異体が使用される。
【0050】
以上に記載されるPEG化IGF−I変異体を、神経筋障害、好ましくはMND、さらにより好ましくはALSの処置のための薬物の調製のために使用でき、それは、それを必要とする患者に治療的有効量で、及び、1kg当たり、及び6〜8日当たり、好ましくは7日当たり0.001〜3mg、好ましくは0.01〜3mgの範囲のPEG化IGF−I変異体の1つ又は2つの投与量で投与される。PEG化IGF−I変異体として、好ましくは、モノPEG化IGF−I変異体が使用される。
【0051】
以上に記載されるPEG化IGF−I変異体を、神経筋障害、好ましくはMND、さらにより好ましくはALSの処置のための第2の薬理学的に活性な化合物と組み合わせた組み合わせで、別々に、連続的に、又は同時に使用することもできる。好ましくは、組み合わせの第2の薬理学的に活性な化合物が、グルタミン酸放出に対する阻害効果又は電位依存性ナトリウムチャネルの不活化の効果又は興奮性アミノ酸受容体での伝達物質の結合に続く細胞内事象に干渉する能力を有する少なくとも1つの神経保護薬である。
【0052】
第2の薬理学的に活性な化合物は、好ましくは、リルゾールである。リルゾールによってTTX−Sナトリウムチャネルが遮断され、それは損傷したニューロンに関連する(Song JH, Huang CS, Nagata K, Yeh JZ, Narahashi T. Differential action of riluzole on tetrodotoxin-sensitive and tetrodotoxin-resistant sodium channels J. Pharmacol. Exp. Ther. 1997; 282: 707-14)。これによってカルシウムイオンの流入が低下し、グルタミン酸受容体の刺激が間接的に妨げられる。直接的なグルタミン酸受容体の遮断と一緒に、運動ニューロンに対する神経伝達物質グルタミン酸の効果が低下する。
【0053】
本明細書において使用される「リルゾール」という用語は、2−アミノ−6−(トリフルオロメトキシ)ベンゾチアゾール、6−(トリフルオロメトキシ)ベンゾチアゾール−2−アミン又はCAS−1744−22−5を指す。この実施態様のより広い意味において、「リルゾール」という用語は、また、グルタミン酸放出に対する阻害効果、電圧依存性ナトリウムチャネルの不活化、及び、興奮性アミノ酸受容体での伝達物質の結合に続く細胞内事象に干渉する能力より選択される、やはりリルゾールを用いて観察される少なくとも1つの薬理学的特性を有する活性成分を含む。ALSにおけるリルゾールの使用がUS 5,527,814において記載されており、化合物及びその調製がEP 050 551において開示されている。他の神経保護化合物が、例えば、Yagupolskii et al., Zhurnal Obschei Khimii 33 (7), 2301-7 (1963)により記載されている通りに調製できる。
【0054】
以下の実施例、参考文献、及び図面を提供し、本発明の理解を助け、その真の範囲が添付の特許請求の範囲において記載されている。本発明の精神から逸脱することなく、記載されている手順に改変を行うことができることが理解される。
【0055】
配列リスト
配列番号1
野生型ヒトIGF−Iのアミノ酸配列(SwissProt P01343に従ったIGF−I前駆体タンパク質のアミノ酸1〜70)。
配列番号2
アミノ酸置換K65R及びK68Rを保有するヒトIGF−Iムテインのアミノ酸配列。
配列番号3
アミノ酸置換K27R及びK68Rを保有するヒトIGF−Iムテインのアミノ酸配列。
配列番号4
アミノ酸置換K27R及びK65Rを保有するヒトIGF−Iムテインのアミノ酸配列。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】図1は、マウスにおける100μg/kgのrhIGF−I又はPEG−IGF−Iの皮下注射後での血清検出を示す。PEG−IGF−I又はrhIGF−Iの血清レベルは、示した時間点でELISA技術により検出された。
【図2】図2は、マウスにおけるrhIGF−I又はPEG−IGF−I(100μg/kg)の皮下注射後での海馬のCA1ニューロンにおけるIGF−I免疫反応性を示す。示した時間点で、脳を除去し、hIGF−Iについて免疫染色した。海馬のCA1領域からのデジタル画像を、ニューロン内の染色強度について分析した。
【図3】図3は、ビーグル犬におけるPEG−IGF−I(200−5000μg/kg)の皮下注射後での血漿グルコースレベルを示す。グルコースレベルは、Roche AkkuCheckデバイスを使用して、各時間点で、血液滴から推定した。矢印は、5000μg/kg用量での、雄イヌにおける重篤な低血糖症の有意な発生だけを示す。
【図4】図4は、rhIGF−I又はPEG−IGF−Iを用いた5日間の処置後でのマウス初代運動ニューロンのインビトロでの生存を示す。C57B1/6マウスからの初代運動ニューロンを、異なる濃度のPEG−IGF−I又はrhIGF−Iの存在又は非存在において培養し、生存を、インビトロで5日目に位相差顕微鏡法により推定した。
【図5】図5は、賦形剤又は150μg/kgのPEG−IGF−I s.c. 2日に1回(q2d)で処置されたpmnマウスの握力を示す。動物を、前肢の筋力について週1回試験した。番号は、時間点当たりで分析された動物を示す(**,p<0.01)。
【図6】図6は、賦形剤又は150μg/kgのPEG−IGF−I s.c. q2dで処置されたpmnマウスでのロータロッド成績を示す。動物を、運動協調性について週1回試験した。番号は、時間点当たりの動物を示す(**,p<0.05)。
【図7】図7は、賦形剤又はPEG−IGF−I(150μg/kg s.c. q2d)で処置されたpmnマウスの顔面神経核中での運動ニューロンの生存を示す。動物を出生後34日目に殺し、組織を組織学的検査のために処理した。運動ニューロン数の立体解析学的検査を盲検で実施し、値はマウス1匹当たりの総数を表わす(**,p<0.01)。
【図8】図8は、賦形剤又はPEG−IGF−I(150μg/kg s.c. q2d)で処置されたpmnマウスの腰髄での運動ニューロンの生存を示す。動物を出生後34日目に殺し、組織を組織学的検査のために処理した。運動ニューロン数の立体解析学的検査を盲検で実施し、値はマウス1匹当たりの総数を表わす(***,p<0.001)。
【図9】図9は、賦形剤又はPEG−IGF−I(150μg/kg s.c. q2d)で処置されたpmnマウスの近位横隔神経での有髄軸索数を示す。動物を出生後34日目に殺し、組織を組織学的検査のために処理した。有髄軸索数の立体解析学的検査を盲検で実施し、値は横隔神経1つ当たりの総数を表わす(*,p<0.05)。
【図10】図10は、賦形剤又はPEG−IGF−I(150μg/kg s.c. q2d)で処置されたpmnマウスの遠位横隔神経での有髄軸索数を示す。動物を出生後34日目に殺し、組織を組織学的検査のために処理した。有髄軸索数の立体解析学的検査を盲検で実施し、値は横隔神経1つ当たりの総数を表わす(**,p<0.01)。
【図11】図11は、賦形剤又はPEG−IGF−I(150μg/kg s.c. 3.5日に1回(q3.5d))で処置されたSOD1(G93A)マウスの体重分析を示す。体重を週1回評価し、値を、100%に設定された最初の検査での体重について正規化した(*,p<0.05)。
【図12】図12は、賦形剤又はPEG−IGF−I(150μg/kg s.c. q3.5d)で処置されたSOD1(G93A)マウスの疾患発症を示す。動物を週1回検査し、疾患発症を後肢脱力、異常歩行、及び逆ワイヤーメッシュ上に握る困難により定義した。カプラン・マイヤープロットは、出生後34週目から処置された個々のマウスにおける疾患発症を示す。棒グラフは、両群についての疾患発症時での平均週齢を示す(p<0.05)。
【図13】図13は、賦形剤又はPEG−IGF−I(150μg/kg s.c. q3.5d)で処置されたSOD1(G93A)マウスの握力を示す。動物は、週1回、前肢の筋力について試験した。時間経過中に死亡する動物のLOCF分析を、最後の測定値をさらなるデータに含めることにより実施した(*,p<0.05; **,p<0.01)。
【図14】図14は、賦形剤又はPEG−IGF−I(150μg/kg s.c. q3.5d)で処置されたSOD1(G93A)マウスでのロータロッド成績を示す。動物は、週1回、運動協調性について試験した。時間経過中に死亡する動物のLOCF分析を、最後の測定値をさらなるデータに含めることにより実施した(*,p<0.05;**,p<0.01)。
【図15】図15は、神経筋単位に関連するPEG−IGF−Iのインビボでの作用を示し、ALSマウスモデルで実証された通りである。PEG−IGF−Iは、神経筋機能も改善させ、脳幹及び脊髄中の運動性軸索及び運動ニューロンを保護することが示された。従って、神経筋接合部の保持に関与する全ての部位に作用することが示唆されている。
【0057】
方法:
マウス胎児運動ニューロンの培養
胎生期12.5日のマウスからの脊髄運動ニューロンの培養を、モノクローナルラット抗p75抗体(Chemicon, Hofheim, Germany)を使用したパニング技術により調製した。個々の腰髄の腹外側部を切開し、10μM 2−メルカプトエタノールを含むHBSSに移した。トリプシンでの処理後(0.05%、10分間)、単一細胞浮遊物を粉砕により生じさせた。細胞を、ラット抗体p75コーティング済み培養ディッシュ(Greiner, Nurtingen, Germany)上にプレーティングし、室温で30分間静置した。個々のウェルを、その後、ハンクス平衡塩類溶液(HBSS;3回)を用いて洗浄し、付着細胞を、次に、脱分極生理食塩水(0.8% NaCl、35mM KCl、及び1μM 2−メルカプトエタノール)を用いてプレートから単離した。細胞を、記載の通りにポリオルニチン及びラミニンでプレコーティングされた4ウェル培養ディッシュ(Greiner)中に密度3000個細胞/ウェルでプレーティングした(Miller, T. M. et al., J. Biol. Chem. 272, 9847-9853, 1997)。細胞を、Neurobasal培地(Life Technologies, Karlsruhe, Germany)、B27サプリメント、10%ウマ血清、500μMグルタマックス、及び50μg/mlアポトランスフェリン中で、37℃で、5% CO2大気において増殖させた。培地の50%を、最初に、1日目に、そして次に隔日で交換した。プレーティングされた細胞の初回カウントを、全ての細胞が培養ディッシュに付着した4時間後に行った。明るい相の細胞を、次に、追加で5日目にカウントした。10の視野(1.16mm2/視野)を、各ウェルにおいて、各時間点でカウントした。
【0058】
血清rhIGF−Iレベル又はPEG−IGF−Iレベル及びCA1ニューロン中でのニューロン内IGF−I染色
血清rhIGF−Iレベル又はPEG−IGF−Iレベルの推定のために、C57Bl/6マウスからの血液サンプルを、100μg/kgのrhIGF−I又はPEG−IGF−Iの単回皮下注射後に異なる時間点(1つの時間点当たりn=4)で採取した。血清を調製し、ELISAアッセイにより処理した。rhIGF−Iの検出のために、市販のrhIGF−Iアッセイ(DSL)を使用した。PEG−IGF−Iの検出のために、ストレプトアビジンコーティング済みアッセイマイクロプレートを、ビオチン化抗PEG(IgM)捕捉抗体でコーティングした。血清サンプルを、ジゴキシゲニン化IGFBP−4を用いて15時間にわたりインキュベートし、内因性IGFBPにより結合された任意のIGF−IをIGFBP−4により置換した。洗浄後、プレートを抗Dig−POD(Fab)とインキュベートし、ABTS呈色反応により検出した。吸光シグナルを、SpectraMax M2eリーダーを用いて、405nm及び490nmで定量化した。
【0059】
100μg/kgのrhIGF−I又はPEG−IGF−Iのいずれかの単回皮下注射後の異なる時間点で、C57Bl/6マウスを、イソフルラン麻酔下で断頭し、脳を除去した。半球をドライアイス中で急速凍結し、パラホルムアルデヒド(4%リン酸緩衝食塩水、PBS)中で後固定した。その後、40μmの矢状スライス(sagittal slice)を、ビブラトーム(Zeiss)を用いて切った。免疫反応性の半定量的分析のために、24枚のスライスを、外側縁から2mmで開始して切った。4枚目ごとにスライスをカウントのために使用し、マウス1匹当たり合計6枚のスライスを明らかにした。スライスをヤギ抗hIGF−I抗体(R&D Systems)を用いて免疫染色し、核色素で対比染色した。二次検出を、ロバ抗ヤギCy3(Jackson)を用いた標識により実施した。CA1ニューロンのデジタル画像を、十分に盲検で、ImagePro 4.5ソフトウェア(Media Cybernetics)を使用して半自動的に取得したCA1細胞層にわたり、PixelFlyカメラ(Klughammer)を使用し、同じ強度及び染色強度で評価した。マウス1匹当たり6枚のスライスからの強度値を平均した。
【0060】
血中グルコースの推定
ビーグル犬をPEG−IGF−I(200〜5000μg/kg s.c.)で処置し、血液サンプルを6日間(144時間)までの異なる時間間隔後に採取した。血液グルコースを、血液滴から、AkkuCheckデバイス(Roche)を使用して評価した。
【0061】
機能評価
マウスを定期的にモニターし、マウスが、後肢脱力、異常歩行、及び逆ワイヤーメッシュ上に握る困難を呈した場合に定義された疾患発症を評価した。SOD1(G93A)トランスジェニックマウスにおける疾患発症はばらつき(Gurney et al., Science 264 (5166): 1772-1775, 1994)、それは出生後第3週中にpmnマウスにおいて生じる(Schmalbruch et al., J Neuropathol Exp Neurol 50(3): 192-204, 1991)。発生する脱力を評価するために、突然変異マウスを、出生後24日目(pmn突然変異マウス)又は出生後34週目(SOD G93A突然変異マウス)に開始する機能運動試験に週1回供した。前肢の握力(ニュートン)を、電子握力メーター(Columbus Instruments, Columbus, Ohio)での5回の試行を平均することにより記録した。また、マウスを、ロータロッド装置(Hugo Basile Bio. Res. App.)上でバランスを保持するそれらの能力について試験し、ロッドは、直線加速度4〜40rpm(回転毎分)を受けた。各マウスによりロッド上に保持される時間(秒)(潜伏期)を、1セッション当たり3回記録した。出生後24日目(pmnマウス)又は出生後34週目(SOD1マウス)での平均値を100%と見なし、その後の分析からの結果を、この値に対して正規化した。
【0062】
組織学的分析
PEG IGF−I及び賦形剤(即ち、PEG IGF−Iを伴わない各緩衝液)で処置したpmnマウスの顔面神経核及び腰髄における運動ニューロン細胞体の数を、出生後34日目に決定した。また、横隔神経の近位部及び遠位部中での有髄軸索の数を、これらのマウス突然変異体においてカウントした。動物を、pH7.4での0.1Mリン酸緩衝液中の4%パラホルムアルデヒド(PFA)で経心的に灌流し、脳幹及び腰髄(L1−L6)を切開した。連続切片を、顔面神経核を含む脳幹領域から(7μm)及び腰髄から(12.5μm)切った。ニッスル染色後、運動ニューロンを、5番目(顔面神経核)又は10番目(脊髄)毎の切片においてカウントし、生カウント(raw count)を、分割核(split nuclei)について補正した(Masu et al., Nature 365: 27-32, 1993)。横隔神経を、4%パラホルムアルデヒド及び2%グルタルアルデヒドを含む0.1Mカコジル酸緩衝液中で一晩後固定した。オスミウム酸染色及び脱水後、全てのサンプルをSpurr媒質中に包埋した。光学顕微鏡検査のための半薄(0.5μm)断面を、ガラスナイフを用いて切って、アズールメチレンブルーで染色した。無傷の有髄線維の数を、デジタルカメラ(ActionCam; Agfa, Mortsel,Belgium)を備えたLeica(Nussloch, Germany)光学顕微鏡下で神経断片から撮影された写真から決定した。
【0063】
実施例
実施例1:
rhIGF−I及びPEG−IGF−Iの全身暴露を推定するために、100μg/kgのrhIGF−I又はPEG−IGF−Iの単回皮下注射後での薬物レベルを、特異的検出アッセイを使用してC57B1/6マウスにおいて推定した。それにより、PEG−IGF−Iは、rhIGF−1と比較し、強く長期化された半減期ならびにより高い血清暴露の両方を示した(図1)。この増加した末梢暴露が脳についても言えるか否かをさらに研究するために、これらのマウスの脳切片を、ヒトIGF−Iを認識する抗体を用いて免疫染色し、CA1領域中のニューロン内染色を評価した。CA1ニューロンのIGF−I染色が、rhIGF−Iの皮下注射後2及び6時間目に増加し、しかし、24時間後にベースラインのレベルに戻る(図2)。対称的に、増加したIGF−I染色が、PEG−IGF−I注射後24及び48時間目に観察され、48時間目により高いレベルに達した(図2)。これらのデータによって、rhIGFI及びPEG−IGF−Iの両方の脳侵入が、末梢暴露と類似の動態を示し、rhIGF−Iと比較してPEG−IGF−1のずっと高い末梢暴露が、rhIGF−Iと比較して、PEG−IGF−Iのより良好でより持続性の脳侵入についても言えることを示すことが示される。
【0064】
実施例2:
ビーグル犬における毒性試験において、rhIGF−Iでは、皮下注射で与えられた150μg/kgの比較的低用量でさえ低血糖症を急性的に誘導する大きな潜在能力が示されている(NDAレポート21−839)。PEG−IGF−Iの血糖降下能を分析するために、雄雌のビーグル犬を、200〜5000μg/kgの範囲での単回用量のPEG−IGF−Iの皮下注射で処置した。図3において示す通り、最高2000μg/kgまで、一貫した低血糖症は観察されなかった。しかし、5000μg/kgの用量では、2匹の犬のうち1匹が重篤な低血糖症を受け(図2中の矢印を参照のこと)、グルコース注入により回復されなければならなかった;結果的に、グルコース試験はこの時間点で中止された。まとめると、これらのデータによって、2000μg/kg s.c.までのPEG−IGF−Iが、150μg/kgのrhIGF−Iで観察される低血糖症と類似の血糖降下能を有さないことが実証される(NDAレポート21−839)。
【0065】
実施例3:
rhIGF−Iに関連するPEG−IGF−Iのインビトロでの活性を研究するために、両方の化合物を、運動ニューロンの生存に対するそれらの有効性について比較した。E 12.5齢のC57B1/6マウス胚からの初代運動ニューロンを、異なる濃度のrhIGF−I又はPEG−IGF−Iの非存在又は存在において培養し、生存している運動ニューロンを5日後に位相差顕微鏡法によりカウントした。図4において示す通り、両方の化合物は、運動ニューロンの保護に対する同じ有効性を示した。データは、rhIGF−I及びPEG−IGF−Iが同じ生物学的活性を有することを示す。
【0066】
実施例4:
rhIGF−Iについて、いくつかの局所的又は持続的な投与計画が、SOD1(G93A)マウス(ALSについて広く使用される動物モデル)において有効性を示している(Kaspar et al., Science 301: 839, 2003; Dobrowolny et al., J Cell Biol 168: 193, 2005; Nagano et al., J Neurol Sci 235: 61, 2005; Narai et al., J Neurosci Res 82: 452, 2005)。本発明者らは、従って、疾患の臨床発症の少し前に150μg/kgでの皮下注射で適用されたPEG−IGF−Iのインビボでの有効性を、ALSのための2つの独立モデル、pmnマウス及びSOD1(G93A)において研究した。
散発性ALSのモデルにおけるPEG−IGF−Iの試験のために、pmnマウスを使用した(Bommel et al., J Cell Biol 159: 563, 2002)。このALSモデルは、出生後2週間までに機能障害の最初の症状を発生し、出生後5〜6週目に死亡を招く。pmnマウスを、従って、2日ごとに(q2d)、賦形剤(n=12)又は150μg/kgのPEG−IGF−I(n=13) s.c.で、出生後13日目から、即ち、疾患が始まったばかりの時に処置した。握力を分析することによる前肢の筋力の週1回の評価を使用し、PEG−IGF−Iの明らかな効果が出生後45日目に観察され、ここで、PEG−IGF−Iで処置された生存しているpmnマウスが、賦形剤で処置された動物と比較し、有意に高い成績を示した(p<0.05、n=4−5、図5)。ロータロッド上で費やされた時間を試験することによる運動協調性の分析によって、PEG−IGF−Iで処置されたpmnマウスは、賦形剤で処置されたマウスよりも良好に行うことが明らかになり、出生後38日目に有意であった(p<0.05、n=8−12、図6)。さらに、組織学的分析を、出生後13日目から賦形剤又はPEG−IGF−I(150μg/kg s.c.)で処置されたpmnマウスから実施し、出生後34日目に灌流した。顔面運動ニューロンの立体解析学的カウントによって、PEG−IGF−I処理群において有意に高い数の生存している運動ニューロンが明らかになった(p<0.01、n=6−12、図7)。同様に、腰髄中の運動ニューロンの生存が有意に増加した(p<0.001、n=5−6、図8)。最後に、横隔神経中の有髄軸索数の分析によって、賦形剤対PEG−IGF−I処置済みpmnマウスを比較した場合に、近位横隔神経(p<0.05、n=4−5、図9)ならびに遠位横隔神経(p<0.01、n=5−6、図10)中の有意に高い有髄軸索数が明らかになった。
【0067】
家族性ALSについて最も広く使用されるモデルにおけるPEG−IGF−Iの試験のために、SOD1(G93A)マウス(低コピー)を使用した。これらのマウスは、出生後34〜35週目までに疾患の最初の症状を、その後4〜5週辺りで死亡を発生した。SOD1(G93A)マウスは、従って、週に2回(q3.5d)、賦形剤(n=6)又は150μg/kgのPEG−IGF−I(n=7) s.c.で、出生後34週目から、即ち、疾患が始まったばかりの時に処置した。実験の経過を通して統計的検出力を確実にするために、LOCF(最終観察の引き延ばし補完法(last observation carried forward))分析を実施した。この方法(臨床試験においても使用される)では、全てのその後の時間点について、死亡前での動物の最後の測定が保持されている。体重変化の分析によって、疾患の初期段階(37週目辺り)における体重の降下が、PEG−IGF−I処置されたマウスにおいて有意に遅延されることが明らかになった(37、38、及び39週目についてp<0.05、n=6−7 LOCF、図11)。後肢脱力、異常歩行、及び逆ワイヤーメッシュ上に握る困難の最初の兆候により測定される疾患発症自体が、平均して、出生後38.5週目〜42.5週目までの4週間だけ遅延された(p<0.05、n=6−7、図12)。握力を分析することによる前肢の筋力の週1回の評価を使用し、PEG−IGF−Iの有意な保護効果が、出生後35週目から、継続的に、全ての動物の死亡まで観察された(35、38、42、及び43週目についてp<0.05、36、39、40、及び41週目についてp<0.01、n=6−7 LOCF、図13)。ロータロッド上で費やされた時間を試験することによる運動協調性の分析によって、PEG−IGF−Iで処置されたSOD1(G93A)マウスが、賦形剤で処置されたマウスよりも有意に良好に行うことが明らかになった(37、38、39、及び41週目についてp<0.05、40、42、及び43週目についてp<0.01、n=6−7 LOCF、図14)。
【0068】
pmnマウス及びSOD1(G93A)マウスからの全てのインビボでのデータをまとめると、試験によって、PEG−IGF−Iが、ALSモデルにおいて全ての関連標的で神経筋機能に干渉し、疾患の全ての段階で作用する潜在能力を有することが示されている。PEG−IGF−Iが、筋力及び機能を保存していることが示されており、恐らくは神経筋接合部及び接合性を保護することにより、筋肉に対する同化効果を示唆している。それに加えて、PEG−IGF−Iは、脊髄及び顔面神経核において運動性軸索及び運動ニューロン細胞体を救出することが示されており、運動ニューロンに対する直接的な保護効果を示唆している(図15)。これらの変性がALSの後期で起こるため、PEG−IGF−Iは、恐らくは、初期及び後期の両方で疾患の経過に影響を及ぼしうる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経筋障害、特に筋萎縮性側索硬化症(ALS)の処置、予防、及び/又は進行の遅延のためのポリエチレングリコール(PEG)化IGF−I変異体の医薬的使用に関する。より具体的には、本発明は、神経筋障害、特にALSの処置、予防、及び/又は遅延のための医薬組成物の製造のためのPEG化IGF−I変異体の使用であって、PEG化IGF−I変異体は、それが野生型ヒトIGF−Iアミノ酸配列(配列番号1)に由来し、アミノ酸位置27、65、及び68に1つ又は2つのアミノ酸改変を保有し、位置27、65、及び68のアミノ酸の1つ又は2つが極性アミノ酸であるが、しかし、リジンではなく、PEGが少なくとも1つのリジン残基に付着していることを特徴とする。
【0002】
神経筋障害は、ニューロパチー(後天性又は遺伝性のいずれか)、筋ジストロフィー、ALS、脊髄性筋萎縮症(SMA)を含む一連の状態、ならびに一連の非常に稀な筋障害を包含する。神経筋障害は、随意筋を制御する神経に影響を及ぼす。ニューロンが不健康になるか、又は死亡した場合、神経系と筋肉の間のコミュニケーションが破綻する。結果として、筋肉が弱り、衰弱する。脱力は、単収縮、痙攣、痛み及び疼痛、ならびに関節及び運動の問題を招きうる。時折、それは、また、心臓機能及び貴方の呼吸能力に影響を及ぼす。進行性の筋脱力には多くの原因があり、それらは乳児期から成人期を通じた任意の時に襲いうる。
【0003】
筋ジストロフィー(MD)は、神経筋障害のサブグループである。MDは、筋肉の遺伝性疾患のファミリーを表す。一部の形態が小児に影響を及ぼし(例、デュシェンヌ型ジストロフィー)、20〜30年以内に致死的である。他の形態が成人期に存在し、より遅く進行性である。いくつかのジストロフィーの遺伝子が同定されており、デュシェンヌ型ジストロフィー(ジストロフィン遺伝子中の突然変異を原因とする)ならびに十代及び成人発症型三好型ジストロフィー又はその変異体、肢帯型ジストロフィー2B又はLGMD−2B(ジスフェリン遺伝子中の突然変異を原因とする)を含む。これらは、筋肉中の関連タンパク質の発現を妨げ、それにより筋肉機能不全を起こす「機能欠失型」突然変異である。これらの突然変異のマウスモデルが存在し、本質的に自然発生的に生じる、又は関連遺伝子の不活化もしくは欠損により生成される。これらのモデルは、筋肉において欠けるタンパク質を置換し、正常な筋肉機能を回復させうる治療を試験するために有用である。
【0004】
神経筋障害は、また、中枢神経系の運動ニューロンの破壊及び運動ニューロン経路における変性変化に起因する神経障害の群に属する運動ニューロン疾患(MND)を含み、そして他の神経変性疾患(例えばパーキンソン病、アルツハイマー病、オリーブ橋小脳萎縮症など)とは異なり、それらは運動ニューロン以外のニューロンの破壊を原因とする。米国立神経疾患・脳卒中研究所(NINDS)は、運動ニューロン疾患(MND)を、身体の上部又は下部における神経に影響を及ぼす進行性の変性障害と呼ぶ。NINDSによると、一部は遺伝する。一般的に、MNDは中年期に襲う。症状は、嚥下困難、肢脱力、不明瞭言語、歩行障害、顔面脱力、及び筋痙攣を含みうる。呼吸は、これらの疾患の後期において影響を受けうる。大半のMNDの原因が公知ではないが、しかし、環境、毒性、ウイルス、又は遺伝子の因子が、全て疑われる。MNDの形態は、成人脊髄性筋萎縮症(SMA)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)(ルー・ゲーリック病としても公知)、小児進行性脊髄性筋萎縮症(SMA1)(SMA1型又はウェルドニッヒ・ホフマン病としても公知)、中期脊髄性筋萎縮症(SMA2)(SMA2型としても公知)、若年性脊髄性筋萎縮症(SMA3)(SMA3型又はクーゲルバーグ・ウェランダー病としても公知)、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)(ケネディ病又はX連鎖SBMAとしても公知)を含む。運動ニューロン疾患は、運動ニューロンが変性し、死亡する障害である。運動ニューロン(上位運動ニューロン及び下位運動ニューロンを含む)は、随意筋に影響を与えて、それらを刺激して収縮させる。上位運動ニューロンは大脳皮質に由来し、脳幹及び脊髄を通じて線維を送り、下位運動ニューロンの制御に関与する。下位運動ニューロンは脳幹及び脊髄に位置しており、筋肉に線維を送る。下位運動ニューロン疾患は、下位運動ニューロンの変性を含む疾患である。下位運動ニューロンが変性する場合、それが通常活性化する筋線維が連絡切断され、収縮しなくなり、筋脱力及び反射低下の原因となる。いずれかの型のニューロンの喪失は脱力を招き、筋萎縮症(消耗症)及び無痛性脱力がMNDの臨床特徴である。
【0005】
ALSは、脊髄、脳幹、及び大脳皮質における運動ニューロンの選択的で進行性の喪失により特徴付けられる致死的な運動ニューロン疾患である。それは、典型的に、進行性の筋脱力及び神経筋呼吸不全を招く。ALSの約10%が、Cu/Znスーパーオキシドジスムターゼ1酵素(SOD1)をコードする遺伝子中の点突然変異に関連付けられる。ALSでのこの主要な遺伝子的原因の発見によって、種々の治療の可能性を試験するための基礎が提供された。神経栄養因子(NTF)の強力な神経保護活性は、神経萎縮症、軸索変性、及び細胞死の予防に及び、90年代初期にALSの処置に対する非常に多くの希望を生んだ。毛様体神経栄養因子(CNTF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、及びインスリン様成長因子1(IGF−1)は、ALS患者において既に評価されている。ALS患者においてこれらの因子を試験するための理論的根拠は、発生、外傷性神経損傷中での、又はALSに似た動物モデル(例えばpmnマウス又はwobblerマウスなど)における自然発生の細胞死パラダイムに対するそれらの栄養効果に基づいた。IGF−Iを除き(Lai EC et al. Neurology 1997, 49: 1621-1630)、これらの組換えタンパク質の全身送達は、ALS患者において臨床的に有益な効果を導かなかった(Turner MR at al. Semin. Neurol. 2001; 21: 167-175)。望まれていない副作用及び限定的なバイオアベイラビリティによって、それらの潜在的な臨床上の利益の評価が困難になっていた。ニューロトロフィンを適用する際の実際の困難は、これらのタンパク質が全て比較的短い半減期を有しており、神経変性疾患が慢性であり、長期間の処置を必要とすることである。
【0006】
同時期に、異なるALS関連SOD1突然変異を過剰発現するいくつかの系統のトランスジェニックマウスが生成されている(Newbery HJ et al. Trends Genet. 2001; 17: S2-S6)。ALSの臨床的及び神経病理学的な特徴の多くを厳密に模倣することにより、これらのマウスは神経栄養因子の前臨床的な潜在能力を研究するためのより関連する動物モデルを提供してきた。組換え栄養タンパク質の直接投与は、失望させるものであった。運動ニューロンの神経病理に対する有益な効果は、わずか又は無である(Azari MF et al. Brain Res. 2003; 982: 92-97; Feeney SJ et al. Cytokine 2003; 23: 108-118; Dreibelbis JE et al. Muscle Nerve 2002; 25: 122-123)。神経栄養因子(例えばグリア細胞株由来の神経栄養因子(GDNF)、IGF−I又はカルジオトロフィン1(CT−1)など)のウイルスベクター媒介性の送達によって、しかし、行動又は神経病理の改善が明らかになり(Wang LJ et al. J. Neurosci. 2002; 22: 6920-6928; Bordet T et al. Hum. Mol. Genet. 2001; 10: 1925-1933及びKaspar BK et al. Science 2003, 301: 839-842)、適切な適用計画を用いて、有効性を達成することができることを示唆している。
【0007】
インスリン様成長因子(IGF−I)は、インスリンと構造的に関連する循環タンパク同化ホルモンである。循環中では、IGF−Iの99%超がIGF−I結合タンパク質(IGFBP)に結合しており、それらはIGFに対して非常に高い親和性を有しており、IGF−I機能を調節する。この因子は、特定のプロテアーゼを介したタンパク質分解によりIGFBPから局所的に放出させることができる。血清IGF−I(〜75%)の主な供給源は肝臓であるが(Sjogren, K., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 94 (1999) 7088-7092; Yakar, S., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 96 (1999) 7324-7329)、IGF−Iは身体の全ての細胞において局所的に産生される。その内分泌機能の他、IGF−Iは、発生中の成熟脳においてパラクリンの役割を有する(Werther, G.A, et al., Mol. Endocrinol. 4 (1990) 773-778)。インビトロ試験では、IGF−Iが、CNS(Knusel, B., et al., J. Neurosci. 10 (1990) 558-570; Svrzic, D.、及びSchubert, D., Biochem. Biophys. Res. Commun. 172 (1990) 54-60)中のいくつかの型のニューロン(ドーパミンニューロン(Knusel, B., et al., J. Neurosci. 10 (1990) 558-570)、オリゴデンドロサイト(McMorris, F. A, and Dubois-Dalcq, M., J. Neurosci. Res. 21 (1988) 199-209; McMorris, F. A, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83 (1986) 822-826; Mozell, R. L., and McMorris, F. A, J. Neurosci. Res. 30 (1991) 382-390)、及び脊髄運動ニューロン(Hughes, R. A, et al., J. Neurosci. Res. 36 (1993) 663-671; Neff, N. T., et al., J. Neurobiol. 24 (1993) 1578-1588; Li, L., et al., J. Neurobiol. 25 (1994) 759-766)を含む)に対する強力で非選択的な栄養物質であることが示されている。脳血液関門(BBB)を越えた受容体媒介性輸送を介した脳中への末梢IGF−Iの侵入が実証されている(Rosenfeld, R. G. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 149 (1987) 159-166; Duffy, K. R., et al., Metab. Clin. Exp. 37 (1988) 136-140; Pan, W. and Kastin, AJ.. Neuroendocrinology 72 (2000) 171-178)。主にSOD1トランスジェニックマウスにおいて生成された前臨床データによって、IGF−Iが、髄腔内に、又は、除放デバイス又は遺伝子治療アプローチを介して送達された場合、ALS関連パラメーターに対して有効性を示すとの強い証拠が提供されている(Kaspar et al., Science 301: 839, 2003; Boillee and Cleveland, Trends Neurosci 27: 235, 2004; Dobrowolny et al., J Cell Biol168: 193, 2005; Nagano et al., J Neurol Sci 235: 61, 2005; Narai et al., J Neurosci Res 82:452, 2005)。これは、IGF−Iの一定の送達が必要とされることを示唆する。なぜなら、ヒトでの使用に適したIGF−I用量の非経口適用時でのALSモデルにおける有効性について発表データが存在しないからである。
【0008】
米国特許第5,093,317号には、コリン作動性神経細胞の生存がIGF−Iの投与により増強されることが言及されている。IGF−Iが末梢神経の再生を促進し(Kanje, M., et al., Brain Res. 486 (1989) 396-398)、オルニチンデカルボキシラーゼ活性を増強する(米国特許第5,093,317号)ことがさらに公知である。米国特許第5,861,373号及びWO 93/02695 A1には、患者の中枢神経系においてIGF−I及び/又はそのアナログの活性濃度を増加させることにより主にグリア及び/又は非コリン作動性神経細胞に影響を及ぼす中枢神経系への損傷又はその疾患を処置する方法について言及されている。WO 02/32449 A1は、哺乳動物の鼻腔に、治療的有効量のIGF−I又はその生物活性変異体を含む医薬組成物を投与することによる、哺乳動物の中枢神経系における虚血性障害を低下又は予防するための方法に関する。IGF−I又はその変異体は、鼻腔を通じて吸収され、虚血性事象に関連する虚血性傷害を低下又は予防するために効果的な量で哺乳動物の中枢神経系に輸送される。EP 0 874 641 A1では、AIDS関連痴呆、AD、パーキンソン病、ピック病、ハンチントン病、肝性脳症、皮質‐基底神経節症候群、進行性痴呆症、痙性対麻痺を伴う家族性認知症、進行性核上麻痺、多発性硬化症、シルダーの脳硬化症、又は急性壊死性出血性脳脊髄炎に起因する中枢神経系における神経損傷を処置又は予防するための薬物を製造するためのIGF−I又はIGF−IIの使用を主張しており、ここで、この薬物は血液脳関門又は血液脊髄関門の外側で有効量のIGFを非経口投与するための形態である。
【0009】
臨床使用では、しかし、外来性適用後での末梢におけるIGF−Iの短い半減期が、明らかな不利点であり、重篤な問題を生じる高投与回数を必要とする。IGF−Iでの急性過負荷に起因する副作用(低血糖症、IGF−Iでの臨床試験において頻繁に見られる、NDAレポート21−839(http://www.fda.gov/cder/foi/nda/2005/021839_S000_Increlex_Pharm.pdf)も参照のこと)によって、最大耐量が、持続的有効性にまだ達しないレベルに限定される。この不利点を克服し、より良好な活性のためのより高用量を達成するために、吸収速度が遅く、血中滞留性がより長く安定であるが、しかし、生物活性を保持している修飾IGF−Iが必要とされうる。前記修飾IGF−Iが依然としてその神経保護作用を発揮できることを確実にするために、血液脳関門輸送が十分に稼働していることも必要とされる。
【0010】
前臨床使用において、血液中での大きな化合物変動のない継続的な供給のためのミニポンプ及びミクロスフェアとしての除放デバイス中へのカプセル封入により上記困難の少なくとも一部に対処することが試みられてきた(Carrascosa C et al. Biomaterials 25; 707-714;WO 03/077940 A1)。しかし、このアプローチを使用して、血中IGF−Iの初期の強い増加が観察されており、ヒトにおいてIGF−Iの皮下注射(s.c.)と同じ急性副作用を生じうる。
【0011】
驚くべきことに、特異的にPEG化されたIGF−I(PEG−IGF−I)変異体は、非経口注射されたとき、必要な薬物動態学的プロファイルを有することが見出された。前記PEG化IGF−I変異体は、非PEG化IGF−Iよりも10倍高い用量及び/又は血漿中濃度まで急性血糖降下活性を有さない。PEG化によってIGF−Iの結合及び受容体媒介性の血液脳関門透過が損なわれることが明らかに期待されてきたであろう。以下で詳細に記載されるPEG化IGF−I変異体は、驚くべきことに、動物、即ち、神経筋傷害のマウスモデルにおいて、非PEG化IGF−Iで必要とされるよりずっと低用量で神経保護的及び機能的であり、1)血液脳関門輸送が十分に稼働していること、2)分子がインビボでその生物学的活性を十分に保持していること、及び3)低血糖症が、IGF−Iと比較して、>10倍高い用量のPEG−IGF−Iでだけ見られ、それによってヒトにおけるより良好な有効性のためにさらにより高投与量のPEG−IGF−Iが可能になることを示している。
【0012】
発明の概要
第1の実施態様において、本発明は、以下に記載される医薬的有効量のPEG化IGF−I変異体を、それを必要とする患者に投与することによる神経筋障害の処置のための方法に関する。
【0013】
好ましい実施態様において、本発明は、以下に記載される医薬的有効量のPEG化IGF−I変異体を、それを必要とする患者に投与することによるMND、特にALSの処置のための方法に関する。
【0014】
別の実施態様において、本発明は、さらに、薬学的に許容しうる担体を伴う、以下に記載されるPEG化IGF−I変異体を含む医薬組成物に関し、ここで前記医薬組成物は、神経筋障害、好ましくはMND、及びさらにより好ましくはALSの処置、予防、及び/又は進行の遅延において有用である。
【0015】
本発明のさらなる局面は、神経筋障害、好ましくはMND、及びさらにより好ましくはALSの処置のための薬物の製造のための、以下に記載されるPEG化IGF−I変異体の使用に関する。
【0016】
発明の詳細な説明
別に定義されない場合、本明細書において使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者により共通して理解されるのと同じ意味を有する。本明細書において記載されるものと類似の又は等価の任意の方法及び材料を、本発明の実行又は試験において使用することができるが、好ましい方法及び材料が以下に記載される。
【0017】
定義
「神経筋障害」という用語は、筋肉の機能を直接的に(内因性の筋病理を介して)又は間接的に(神経病理を介して)損なう疾患及び病気を包含する。神経筋障害の例は、限定はされないが、以下を含む:
運動ニューロン疾患、例えばALS(別名、ルー・ゲーリック病)、脊髄性筋萎縮症1型(SMA1、ウェルドニッヒ・ホフマン病)、脊髄性筋萎縮症2型(SMA2)、脊髄性筋萎縮症3型(SMA3、クーゲルベルク・ヴェランダー病)、脊髄延髄性筋萎縮症(SBMA、別名、ケネディ病及びX連鎖SBMA)、
筋ジストロフィー、例えばデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD、別名、仮性肥大型)、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)、エメリ・ドレフュス型筋ジストロフィー(EDMD)、肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSH又はFSHD、別名、ランドジー・デジェリーヌ型)、筋強直性ジストロフィー(MMD、別名、シュタイネルト病)、眼球咽頭型筋ジストロフィー(OPMD)、遠位筋ジストロフィー (DD、三好型)、先天性筋ジストロフィー(CMD)、
筋肉の代謝病、例えばホスホリラーゼ欠損症(MPD又はPYGM、別名、マッカードル病)、酸性マルターゼ欠損症(AMD、別名、ポンペ病)、ホスホフルクトキナーゼ欠損症(別名、垂井病)、脱分枝酵素欠損症(DBD、別名、コリ病又はフォーブズ病)、ミトコンドリアミオパチー(MITO)、カルニチン欠損症(CD)、カルニチンパルミチルトランスフェラーゼ欠損症(CPT)、ホスホグリセリン酸キナーゼ欠損症、ホスホグリセリン酸ムターゼ欠損症、乳酸脱水素酵素欠損症、ミオアデニル酸デアミナーゼ欠損症、パルミチルトランスフェラーゼ欠損症(CPT)、ホスホグリセリン酸キナーゼ欠損症、ホスホグリセリン酸ムターゼ欠損症、乳酸脱水素酵素欠損症、ミオアデニル酸デアミナーゼ欠損症;
末梢神経の疾患、例えばシャルコー・マリー・ツース病(CMT、別名、遺伝性運動感覚性ニューロパチー(HMSN)又は腓骨筋萎縮症(PMA)、フリードライヒ失調症(FA)、デジェリン・ソッタス病(DS)、
炎症性ミオパチー、例えば皮膚筋炎(DM)、多発性筋炎(PM)、封入体筋炎(IBM)、神経筋接合部の疾患、例えば重症筋無力症(MG)、ランバート・イートン症候群(LES)、先天性筋無力症症候群(CMS)、
内分泌異常に起因するミオパチー、例えば甲状腺機能亢進性ミオパチー(HYPTM)、甲状腺機能低下性ミオパチー(HYPOTM)、
他のミオパチー、例えば先天性筋緊張症(MC、別名、トムゼン病及びベッカー病)、先天性パラミオトニア(PC)、セントラルコア病(CCD)、ネマリンミオパチー(NM)、
筋細管ミオパチー/中心核ミオパチー(MTM又はCNM)、周期性麻痺(PP、2つの形態:低カリウム血性及び高カリウム血性)。
【0018】
「MND」により、運動機能を伴うニューロン、即ち、運動インパルスを運ぶニューロンに影響を及ぼす疾患を意味する。そのようなニューロンは、また、「運動ニューロン」と呼ばれる。これらのニューロンは、限定されないが、以下を含む:前部脊髄のアルファニューロン(骨格筋線維を神経支配するアルファ線維を生じる);前部脊髄のベータニューロン(錘外及び錘内筋線維を神経支配するベータ線維を生じる);前部脊髄のガンマニューロン(筋紡錘の錘内線維を神経支配するガンマ(紡錘運動)線維を生じる);求心性インパルスが起こる筋肉以外の筋肉に供給する異名運動ニューロン;求心性インパルスが起こる筋肉に供給する同名運動ニューロン;細胞体が脊髄の腹側灰白柱中にあり、終末が骨格筋中にある下位末梢ニューロン;介在ニューロンからインパルスを受ける末梢ニューロン;及び、運動皮質から、脳神経の運動核に、又は、脊髄の腹側灰白柱にインパルスを伝導する大脳皮質中の上位ニューロン。
【0019】
運動ニューロン障害の非限定的な例は、以下を含む:種々の筋萎縮症、例えば遺伝性筋委縮症(遺伝性脊髄性筋萎縮症を含む)、急性乳児脊髄性筋萎縮症、例えばウェルドニッヒ・ホフマン病など、小児における進行性筋萎縮症、例えば近位型、遠位型、及び延髄型など、青年期発症型又は成人発症型の脊髄性筋萎縮症(近位型、肩甲腓骨型、顔面肩甲上腕型、及び遠位型を含む)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、及び原発性側索硬化症(PLS)。また、この用語内には、運動ニューロンの損傷が含まれる。
【0020】
「筋萎縮性側索硬化症」(「ALS」)という用語は、ルー・ゲーリック病とも呼ばれ、皮質、脳幹、及び脊髄の運動ニューロンに影響を及ぼす致死的疾患である。(Hirano, (1996) Neurology, 47(4 Suppl. 2): S63-6)。疾患の病因は未知であるが、1つの理論は、ALSにおける神経細胞死が、過剰な細胞外グルタミン酸に起因する神経細胞の過剰興奮の結果であるということである。グルタミン酸は、グルタミン酸作動性ニューロンにより放出され、グリア細胞中に取り込まれる神経伝達物質であり、そこで、それは酵素グルタミン合成酵素によりグルタミンに変換され、グルタミンは次にニューロンに再侵入し、グルタミナーゼにより加水分解され、グルタミン酸を形成し、このようにして神経伝達物質プールを補充する。正常な脊髄及び脳幹において、細胞外グルタミン酸レベルは、細胞外液中で低マイクロモルレベルに保たれている。なぜなら、グリア細胞(ニューロンを支持するために部分的に機能する)が、興奮性アミノ酸トランスポーター2型(EAAT2)タンパク質を使用して、グルタミン酸を即時に吸収するからである。ALS患者における正常EAAT2タンパク質の欠損は、疾患の病理において重要であるとして同定された{例、Meyer et al. (1998) J. Neurol. Neurosurg. Psychiatry, 65: 594-596; Aoki et al. (1998) Ann. Neurol. 43: 645-653;Bristol et al. (1996) Ann Neurol. 39: 676-679)。EAAT2の低下したレベルについての1つの説明は、EAAT2が異常にスプライシングされていることである(Lin et al. (1998) Neuron, 20: 589-602)。異常スプライシングによって、EAAT2タンパク質のC末端領域中に位置付けられる45〜107のアミノ酸の欠失を伴うスプライス変異体が産生される(Meyer et al.(1998) Neurosci Lett. 241: 68-70)。EAAT2の欠如又は欠陥に起因して、細胞外グルタミン酸が蓄積し、ニューロンの持続的な興奮を起こす。グルタミン酸の蓄積は、神経細胞に対して毒性効果を有している。なぜなら、ニューロンの持続的な興奮が早期細胞死を招くからである。ALSの病理について多くのことが公知であるが、家族性ALSにおける散発型の病原性及び突然変異SODタンパク質の原因特性についてはほとんど公知ではない(Bruijn, et al. (1996) Neuropathol. Appl. Neurobiol, 22: 373-87; Bruijn, et al. (1998) Science 281: 1851-54)。多くのモデルが推測されており、グルタミン酸毒性、低酸素症、酸化ストレス、タンパク質凝集体、ニューロフィラメント、及びミトコンドリア機能障害を含む(Cleveland, et al. (1995) Nature 378: 342-43; Cleveland, et al. Neurology, 47 (4 Suppl. 2): S54-61, discussion S61-20996); Cleveland, (1999) Neuron, 24: 515-20;Cleveland, et al. (2001) Nat. Rev. Neurosci., 2: 806-19; Couillard-Despres, et al. (1998) Proc. Natl. Acad. ScL USA, 95: 9626-30; Mitsumoto, (1997) Ann. Pharmacother., 31: 779-81; Skene, et al. (2001) Nat. Genet. 28: 107-8; Williamson, et al. (2000) Science, 288: 399)。
【0021】
現在、ALSのための療法はなく、疾患の経過を予防又は逆転させるために効果的であることが判明している治療もない。いくつかの薬物が、近年、食品医薬品局(FDA)により承認されている。今までに、ALSを処置するための試みには、細胞保護効果を有する長鎖脂肪アルコールを用いて(米国特許第5,135,956号を参照のこと);又はピルビン酸塩を用いて(米国特許第5,395,822号を参照のこと);及びグルタミン酸カスタードを遮断するためのグルタミン合成酵素を使用して(米国特許第5,906,976号を参照のこと)神経変性を処置することが含まれてきた。例えば、リルゾール(グルタミン酸放出阻害剤)が、米国において、ALSの処置のために承認されており、少なくとも一部のALS患者の生存を3ヶ月間だけ延ばすと思われる。しかし、一部のレポートでは、リルゾール治療が生存時間をわずかに延長させるにもかかわらず、それは、患者において筋力の改善を提供するように思われないことが示されてきた。従って、リルゾールの効果は、治療によって患者のクオリティーオブライフが改変されない点で限定される(Borras-Blasco et al. (1998) Rev. Neurol, 27: 1021-1027)。
【0022】
以下で使用される通り、「分子量」は、PEGの平均分子量を意味する。
【0023】
本発明の「PEG又はPEG基」は、ポリ(エチレングリコール)を必須部分として含む残基を意味する。そのようなPEGは、結合反応のために必要であるさらなる化学基を含みうる;それらは分子の化学合成に起因する;又は、それは、互いからの分子の部分の最適な距離のためのスペーサーである。また、そのようなPEGは、一緒に連結される1つ又は複数のPEG側鎖からなりうる。複数のPEG鎖を伴うPEG基は、マルチアームPEG又は分岐PEGと呼ばれる。分岐PEGを、例えば、ポリエチレンオキシドの種々のポリオール(グリセロール、ペンタエリスリトール、及びソルビトールを含む)への付加により調製できる。例えば、4アーム分岐PEGを、ペンタエリスリトール及びエチレンオキシドから調製できる。分岐PEGは、通常、2〜8のアームを有し、例えば、EP−A 0 473084及び米国特許第5,932,462号において記載されている。特に好ましくは、リジンの第一級アミノ基を介して連結された2つのPEG側鎖を伴うPEG(PEG2)である(Monfardini, C, et al., Bioconjugate Chem. 6 (1995) 62-69)。
【0024】
本明細書において使用される「実質的に均質な」とは、産生される、含まれる、又は使用されるPEG化IGF−I変異体分子だけが、付着された1つ又は2つのPEG基を有するものであることを意味する。この調製物は、少量の未反応(即ち、PEG基を欠く)タンパク質を含みうる。ペプチドマッピング及びN末端シークエンシングにより確認される通り、以下の1例は、少なくとも90%のPEG−IGF−I変異体抱合体及び多くても5%の未反応タンパク質である調製物を提供する。PEG化IGF−I変異体のそのような均質な調製物の単離及び精製は、通常の精製方法、好ましくは分子ふるいクロマトグラフィーにより実施できる。
【0025】
本明細書において使用される「モノPEG化」とは、IGF−I変異体が、IGF−I変異体1分子当たり1つのリジンだけでPEG化されることを意味し、それにより、1つのPEG基だけがこの部位で共有結合的に付着される。純粋なモノPEG化IGF−I変異体(N末端PEG化を伴わない)は、調製物の少なくとも80%、好ましくは90%、最も好ましくはモノPEG化IGF−I変異体は調製物の92%又はそれ以上であり、残りは、例えば、未反応(非PEG化)IGF−I及び/又はN末端PEG化IGF−I変異体である。本発明のモノPEG化IGF−I変異体の調製物は、従って、例えば、医薬的適用において、均質な調製物の利点を呈するだけ十分に均質である。同じことが、ジPEG化種に適用される。
【0026】
本明細書において使用される「PEG化IGF−I変異体」又は「アミノ反応性PEG化」は、IGF−I変異体が、IGF−I変異体分子の1つ又は2つのリジンへのアミノ反応性共役により1つ又は2つのポリ(エチレングリコール)基に共有結合的に結合することを意味する。PEG基は、リジン側鎖の第一級[エプシロン]アミノ基であるIGF−I変異体分子の部位に付着している。PEG化は、また、N末端[アルファ]アミノ基で起こることがさらに可能である。使用される合成方法及び変異体に起因して、PEG化IGF−I変異体は、IGF−I変異体の混合物(K65、K68、及び/又はK27でPEG化されており、N末端PEG化を伴う、又は伴わない)からなりうるが、それにより、PEG化部位は、異なる分子において異なりうる、又は、1分子当たりのポリ(エチレングリコール)側鎖の量及び/又は分子中のPEG化部位に関して実質的に均質でありうる。好ましくは、IGF−I変異体は、モノ及び/又はジPEG化されており、特に、N末端PEG化IGF−I変異体から精製される。
【0027】
本明細書において使用される「PEG又はポリ(エチレングリコール)」は、市販されている、又は、当技術分野において周知の方法に従ってエチレングリコールの開環重合により調製できる水溶性ポリマーを意味する(Kodera, Y., et al., Progress in Polymer Science 23 (1998) 1233-1271; Francis, G. E., et al., Int. J. Hematol. 68 (1998) 1-18)。「PEG」という用語を広範に使用して、任意のポリエチレングルコール分子を包含し、ここで、エチレングリコール(EG)単位の数が、少なくとも460、好ましくは460〜2300、特に好ましくは460〜1840である(230 EG単位は、分子量約10kDaを指す)。EG単位の上限数は、PEG化IGF−I変異体の可溶性によってのみ限定される。通常、2300単位を含むPEGより大きなPEGは使用されない。好ましくは、本発明において使用されるPEGは、一端で、ヒドロキシ又はメトキシ(メトキシPEG、mPEG)で終結し、他端で、エーテル酸素結合を介してリンカー成分に共有結合的に付着している。ポリマーは直鎖又は分岐のいずれかである。分岐PEGは、例えば、Veronese, F. M., et al., Journal of Bioactive and Compatible Polymers 12 (1997) 196-207において記載されている。
【0028】
本発明の局面は、医薬的有効量のPEG化IGF−I変異体を、それを必要とする患者に投与することによる、神経筋障害、好ましくは運動ニューロン疾患、最も好ましくはALSの処置のための方法に関する。さらにより好ましい実施態様において、処置すべき疾患は、スーパーオキシドジスムターゼ1の突然変異を招く遺伝子欠損を原因とするALSである。
【0029】
このPEG化IGF−I変異体は、PEGが組換えヒトIGF−Iムテインのリジン残基に付着していることを特徴とし、野生型ヒトIGF−Iアミノ酸配列(配列番号1)のアミノ酸位置27、65、及び68に1つ又は2つのアミノ酸改変を保有し、位置27、65、及び68のアミノ酸の1つ又は2つが極性アミノ酸であるが、しかし、リジンではない。
【0030】
本明細書において使用される「極性アミノ酸」は、システイン(C)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、ヒスチジン(H)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、アルギニン(R)、セリン(S)、及びスレオニン(T)からなる群より選択されるアミノ酸を指す。リジンも極性アミノ酸であるが、しかし、除外される。なぜなら、リジンは本発明により置き換えられるからである。アルギニンは、好ましくは、極性アミノ酸として使用される。
【0031】
好ましくは、野生型IGF−Iアミノ酸配列(配列番号1)の以下:
(a)K65R及びK68R(配列番号2)
(b)K27R及びK68R(配列番号3)
(c)K27R及びK65R(配列番号4)
のアミノ酸改変により特徴付けられるPEG化形態の組換えヒトIGF−Iムテインである。
【0032】
特別な優先度が、アミノ酸改変K27R及びK65R(配列番号4)を伴い、K68でのモノPEG化により特徴付けられる、PEG化形態の組換えヒトIGF−Iムテインに与えられる。
【0033】
優先度が、また、上に記載されるリジンPEG化IGF−I変異体及びN末端がPEG化されたIGF−I変異体の組成物に与えられ、ここでIGF−I変異体は、一次アミノ酸配列の点で、及び、1つ又は2つのアミノ酸改変を、野生型ヒトIGF−Iアミノ酸配列(配列番号1)のアミノ酸位置27、65、及び68に保有する点で同一であり、位置27、65、及び68の1つ又は2つのアミノ酸は極性アミノ酸であるが、しかし、リジンではない。好ましくは、分子比は9:1〜1:9(比は、リジン‐PEG化IGF−I変異体/N末端PEG化IGF−I変異体を意味する)である。さらに好ましくは、モル比が少なくとも1:1(N末端がPEG化されたIGF−I変異体の1部分当たり少なくとも1部分のリジンPEG化IGF−I変異体)、好ましくは少なくとも6:4(N末端がPEG化されたIGF−I変異体の4部分当たり少なくとも6部分のリジンPEG化IGF−I変異体)である組成物である。好ましくは、リジン‐PEG化IGF−I変異体及びN末端PEG化IGF−I変異体の両方がモノPEG化されている。好ましくは、この組成物中では、変異体は、リジン‐PEG化IGF−I変異体及びN末端PEG化IGF−I変異体の両方において同一である。IGF−I変異体は、好ましくは、野生型ヒトIGF−Iアミノ酸配列(配列番号1)の以下:
(a)K65R及びK68R(配列番号2)
(b)K27R及びK68R(配列番号3)
(c)K27R及びK65R(配列番号4)
のアミノ酸改変を有するIGF−Iムテインより選択される。
【0034】
配列番号2〜4の好ましいPEG化形態の組換えヒトIGF−Iムテインは、リジンPEG化IGF−I又はリジンPEG化IGF−I変異体の産生のための手順に従った場合に入手可能であり、変異体は、参照により本明細書において完全に組み入れられるWO 2008/025528 A1において記載される通りに別の極性アミノ酸により独立的に置換されたリジン27、65、及び/又は68からなる群より選択される1つ又は2つのアミノ酸を含む。WO 2008/025528 A1において記載されるプロセスによって、配列番号2〜4の組換えヒトIGF−Iムテインの調製が可能になり、それらはN末端PEG化を持たない。
【0035】
さらに好ましくは、PEG化IGF−I変異体は、N末端の3つまで(好ましくは3つ全て)のアミノ酸がトランケートされている変異体である。各野生型突然変異体をDes(1−3)−IGF−Iと名付け、N末端からアミノ酸残基グリシン、プロリン、及びグルタミン酸が欠けている(Kummer, A., et al., Int. J. Exp. Diabesity Res. 4 (2003) 45-57)。
【0036】
好ましくは、ポリ(エチレングリコール)基は、全体的な分子量、少なくとも20kDa、より好ましくは約20〜100kDa、特に好ましくは20〜80kDaを有する。ポリ(エチレングリコール)基は直鎖又は分岐のいずれかである。
【0037】
本明細書において使用されるアミノ反応性PEG化は、反応性(活性化)ポリ(エチレングリコール)の使用により、好ましくは、好ましくはメトキシポリ(エチレングリコール)のNヒドロキシスクシンイミジルエステルの使用により、ポリ(エチレングリコール)鎖をIGF−I変異体の第一級リジンアミノ基に無作為に付着させる方法を指定する。共役反応によって、ポリ(エチレングリコール)が、リジン残基の反応性第一級[エプシロン]アミノ基及び場合によりIGF−IのN末端アミノ酸の[アルファ]アミノ基に付着される。タンパク質へのPEGのそのようなアミノ基の抱合は、当技術分野において周知である。例えば、そのような方法の概説が、Veronese, F. M., Biomaterials 22 (2001) 405-417により与えられる。Veroneseによると、タンパク質の第一級アミノ基へのPEGの抱合は、第一級アミノ基のアルキル化を実施する活性化PEGを使用することにより実施できる。そのような反応では、活性化アルキル化PEG、例えばPEGアルデヒド、PEGトレシルクロリド、又はPEGエポキシドを使用できる。さらなる有用な試薬は、アシル化PEG、例えば、カルボキシル化されたPEG又は末端ヒドロキシ基がクロロホルメート又はカルボニルイミダゾールにより活性化されたPEGのヒドロキシスクシンイミジルエステルなどである。さらなる有用なPEG試薬は、アミノ酸アームを伴うPEGである。そのような試薬はいわゆる分岐PEGを含みうる。それにより、少なくとも2つの同一の又は異なるPEG分子が、ペプチドスペーサー(好ましくはリジン)により一緒に連結され、例えば、リジンスペーサーの活性化カルボン酸としてIGF−I変異体に結合する。モノN末端共役は、また、Kinstler, O., et al., Adv. Drug Deliv. Rev. 54 (2002) 477-485により記載されている。
【0038】
有用なPEG試薬は、例えば、Nektar Therapeutics Inc.から入手可能である。
【0039】
PEGでの任意の分子量(例、約20kDa〜100kDa)を、実際的に望ましいとして使用できる(nは460〜2300である)。PEG中の反復単位の数「n」は、ダルトンで記載される分子量について概算される。例えば、2つのPEG分子がリンカーに付着されている場合、ここで、各PEG分子が同じ分子量10kDaを有し(各nは約230である)、リンカー上のPEGの総分子量は約20kDaである。リンカーに付着したPEGの分子量も異なりうる。例えば、リンカー上の2つの分子の内、1つのPEG分子が5kDaであり、1つのPEG分子が15kDaでありうる。分子量は常に平均分子量を意味する。
【0040】
アミノ反応性PEG化IGF−I変異体の産生のための適したプロセス及び好ましい試薬が、WO 2006/066891において記載されている。改変は、例えば、Veronese, F. M., Biomaterials 22 (2001) 405-417により記載される方法に基づいており、プロセスが上に記載されるPEG化IGF−I変異体をもたらす限り施すことができることが理解される。本発明のPEG化IGF−I変異体の調製のための特に好ましいプロセスが、WO 2008/025528 A1において記載されており、それは、参照により本明細書において完全に組み入れられる。
【0041】
標的タンパク質中の3つまでの潜在的に反応性の第一級アミノ基(2つまでのリジン及び1つの末端アミノ酸)の出現は、ポリ(エチレングリコール)鎖の付着点において異なる一連のPEG化IGF−I変異体の異性体をもたらす。
【0042】
PEG化IGF−I変異体は、1つ又は2つのPEG基(直鎖又は分岐であり、それに無作為に付着している)を含み、それにより、PEG化IGF−I変異体中の全てのPEG基の全体的な分子量は、好ましくは、約20〜80kDaである。この範囲の分子量からの小さな逸脱が可能である。しかし、活性が、低下したIGF−I受容体の活性化及び血液脳関門輸送に起因して、分子量の増加にともない減少することが予測される。従って、PEGの分子量についての範囲20〜100kDaが、PEGの抱合体及びMND、特にALSの効率的な処置のために有用なIGF−I変異体についての最適化された範囲として理解されるべきである。
【0043】
医薬製剤
以上に記載されるPEG化IGF−I変異体は、循環中での改善された安定性により特徴付けられ、低い適用間隔、即ち、長期間隔を用いて、全身にわたるIGF−I受容体への持続的な接近を可能にする。
【0044】
PEG化IGF−I変異体は、方法が当業者に公知である医薬組成物の調製のための方法に従って製剤化できる。そのような組成物の産生のために、本発明のPEG化IGF−I変異体は、好ましくは、医薬組成物の所望の成分を含む水溶液に対する透析により、薬学的に許容しうる担体との混合物中で組み合わされる。
【0045】
そのような許容しうる担体が、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th edition, 1990, Mack Publishing Company(Oslo et al.による編集)(例、pp.1435−1712)において記載されている。典型的な組成物は、有効量の本発明の物質(例えば、約0.1〜100mg/ml)を、適した量の担体と一緒に含む。組成物は非経口的に投与してよい。本発明のPEG化IGF−Iは、好ましくは、腹腔内、皮下、静脈内、又は鼻腔内適用を介して投与される。
【0046】
本発明の医薬的製剤は、当技術分野において公知の方法に従って調製できる。通常、PEG化IGF−I変異体の溶液は、医薬組成物中での使用が意図される緩衝液に対して透析され、所望の最終タンパク質濃度は濃縮又は希釈により調整される。
【0047】
そのような医薬組成物は、好ましくは腹腔内、皮下、静脈内、又は鼻腔内適用を介した注射又は注入での投与のために使用でき、薬学的に許容しうる希釈剤、保存剤、可溶化剤、乳化剤、アジュバント、及び/又は担体と一緒に有効量のPEG化IGF−I変異体を含んでよい。そのような組成物は、種々の緩衝液含有物(例、アルギニン、酢酸、リン酸)、pH、及びイオン強度の希釈剤、添加剤、例えば界面活性剤及び可溶化剤(例、Tween(商標)80/ポリソルベート、プルロニック(商標)F68)、抗酸化剤(例、アスコルビン酸、二亜硫酸ナトリウム)、保存剤(Timersol(商標)、ベンジルアルコール)及び増量物質(例、サッカロース、マンニトール)を含み、物質は、ポリマー化合物、例えばポリ酢酸、ポリグリコール酸などの粒状調製物中に又はリポソーム中に組込まれる。そのような組成物は、PEG化IGF−I変異体の放出及びクリアランスの物理的状態の安定化率に影響を及ぼしうる。
【0048】
投与量及び薬物濃度
典型的に、標準的な処置計画において、患者を、特定の期間にわたり、1kg当たり、1週間当たり、0.001〜20mg、好ましくは0.01〜8mgの範囲のPEG化IGF−I変異体の投与量で処置し、1週間から約3ヶ月間又はそれより長く持続する。薬物は、1ml当たり、以上に記載されるPEG化IGF−I変異体0.1〜100mgを含む医薬的製剤の週1回皮下、静脈内、又は腹腔内ボーラス注射又は注入として適用される。この処置は、PEG化IGF−Iを、標準的な処置の前、中、又は後に適用することにより、任意の標準的(例、化学療法)処置と組み合わせることができる。これは、標準的処置だけと比較し、改善された転帰をもたらす。
【0049】
以上に記載されるPEG化IGF−I変異体を、処置の成功のために週1又は2回だけ投与できることが見出された。神経筋障害、好ましくはMND、さらにより好ましくはALSの処置のための方法は、従って、それを必要とする患者へ、以上に記載される治療的有効量のPEG化IGF−I変異体を、1kg当たり、及び3〜8日当たり、好ましくは7日当たり0.001〜3mg、好ましくは0.01〜3mgの範囲のPEG化IGF−I変異体の各々1つの投与量で投与することを含むべきである。PEG化IGF−I変異体として、好ましくは、モノPEG化IGF−I変異体が使用される。
【0050】
以上に記載されるPEG化IGF−I変異体を、神経筋障害、好ましくはMND、さらにより好ましくはALSの処置のための薬物の調製のために使用でき、それは、それを必要とする患者に治療的有効量で、及び、1kg当たり、及び6〜8日当たり、好ましくは7日当たり0.001〜3mg、好ましくは0.01〜3mgの範囲のPEG化IGF−I変異体の1つ又は2つの投与量で投与される。PEG化IGF−I変異体として、好ましくは、モノPEG化IGF−I変異体が使用される。
【0051】
以上に記載されるPEG化IGF−I変異体を、神経筋障害、好ましくはMND、さらにより好ましくはALSの処置のための第2の薬理学的に活性な化合物と組み合わせた組み合わせで、別々に、連続的に、又は同時に使用することもできる。好ましくは、組み合わせの第2の薬理学的に活性な化合物が、グルタミン酸放出に対する阻害効果又は電位依存性ナトリウムチャネルの不活化の効果又は興奮性アミノ酸受容体での伝達物質の結合に続く細胞内事象に干渉する能力を有する少なくとも1つの神経保護薬である。
【0052】
第2の薬理学的に活性な化合物は、好ましくは、リルゾールである。リルゾールによってTTX−Sナトリウムチャネルが遮断され、それは損傷したニューロンに関連する(Song JH, Huang CS, Nagata K, Yeh JZ, Narahashi T. Differential action of riluzole on tetrodotoxin-sensitive and tetrodotoxin-resistant sodium channels J. Pharmacol. Exp. Ther. 1997; 282: 707-14)。これによってカルシウムイオンの流入が低下し、グルタミン酸受容体の刺激が間接的に妨げられる。直接的なグルタミン酸受容体の遮断と一緒に、運動ニューロンに対する神経伝達物質グルタミン酸の効果が低下する。
【0053】
本明細書において使用される「リルゾール」という用語は、2−アミノ−6−(トリフルオロメトキシ)ベンゾチアゾール、6−(トリフルオロメトキシ)ベンゾチアゾール−2−アミン又はCAS−1744−22−5を指す。この実施態様のより広い意味において、「リルゾール」という用語は、また、グルタミン酸放出に対する阻害効果、電圧依存性ナトリウムチャネルの不活化、及び、興奮性アミノ酸受容体での伝達物質の結合に続く細胞内事象に干渉する能力より選択される、やはりリルゾールを用いて観察される少なくとも1つの薬理学的特性を有する活性成分を含む。ALSにおけるリルゾールの使用がUS 5,527,814において記載されており、化合物及びその調製がEP 050 551において開示されている。他の神経保護化合物が、例えば、Yagupolskii et al., Zhurnal Obschei Khimii 33 (7), 2301-7 (1963)により記載されている通りに調製できる。
【0054】
以下の実施例、参考文献、及び図面を提供し、本発明の理解を助け、その真の範囲が添付の特許請求の範囲において記載されている。本発明の精神から逸脱することなく、記載されている手順に改変を行うことができることが理解される。
【0055】
配列リスト
配列番号1
野生型ヒトIGF−Iのアミノ酸配列(SwissProt P01343に従ったIGF−I前駆体タンパク質のアミノ酸1〜70)。
配列番号2
アミノ酸置換K65R及びK68Rを保有するヒトIGF−Iムテインのアミノ酸配列。
配列番号3
アミノ酸置換K27R及びK68Rを保有するヒトIGF−Iムテインのアミノ酸配列。
配列番号4
アミノ酸置換K27R及びK65Rを保有するヒトIGF−Iムテインのアミノ酸配列。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】図1は、マウスにおける100μg/kgのrhIGF−I又はPEG−IGF−Iの皮下注射後での血清検出を示す。PEG−IGF−I又はrhIGF−Iの血清レベルは、示した時間点でELISA技術により検出された。
【図2】図2は、マウスにおけるrhIGF−I又はPEG−IGF−I(100μg/kg)の皮下注射後での海馬のCA1ニューロンにおけるIGF−I免疫反応性を示す。示した時間点で、脳を除去し、hIGF−Iについて免疫染色した。海馬のCA1領域からのデジタル画像を、ニューロン内の染色強度について分析した。
【図3】図3は、ビーグル犬におけるPEG−IGF−I(200−5000μg/kg)の皮下注射後での血漿グルコースレベルを示す。グルコースレベルは、Roche AkkuCheckデバイスを使用して、各時間点で、血液滴から推定した。矢印は、5000μg/kg用量での、雄イヌにおける重篤な低血糖症の有意な発生だけを示す。
【図4】図4は、rhIGF−I又はPEG−IGF−Iを用いた5日間の処置後でのマウス初代運動ニューロンのインビトロでの生存を示す。C57B1/6マウスからの初代運動ニューロンを、異なる濃度のPEG−IGF−I又はrhIGF−Iの存在又は非存在において培養し、生存を、インビトロで5日目に位相差顕微鏡法により推定した。
【図5】図5は、賦形剤又は150μg/kgのPEG−IGF−I s.c. 2日に1回(q2d)で処置されたpmnマウスの握力を示す。動物を、前肢の筋力について週1回試験した。番号は、時間点当たりで分析された動物を示す(**,p<0.01)。
【図6】図6は、賦形剤又は150μg/kgのPEG−IGF−I s.c. q2dで処置されたpmnマウスでのロータロッド成績を示す。動物を、運動協調性について週1回試験した。番号は、時間点当たりの動物を示す(**,p<0.05)。
【図7】図7は、賦形剤又はPEG−IGF−I(150μg/kg s.c. q2d)で処置されたpmnマウスの顔面神経核中での運動ニューロンの生存を示す。動物を出生後34日目に殺し、組織を組織学的検査のために処理した。運動ニューロン数の立体解析学的検査を盲検で実施し、値はマウス1匹当たりの総数を表わす(**,p<0.01)。
【図8】図8は、賦形剤又はPEG−IGF−I(150μg/kg s.c. q2d)で処置されたpmnマウスの腰髄での運動ニューロンの生存を示す。動物を出生後34日目に殺し、組織を組織学的検査のために処理した。運動ニューロン数の立体解析学的検査を盲検で実施し、値はマウス1匹当たりの総数を表わす(***,p<0.001)。
【図9】図9は、賦形剤又はPEG−IGF−I(150μg/kg s.c. q2d)で処置されたpmnマウスの近位横隔神経での有髄軸索数を示す。動物を出生後34日目に殺し、組織を組織学的検査のために処理した。有髄軸索数の立体解析学的検査を盲検で実施し、値は横隔神経1つ当たりの総数を表わす(*,p<0.05)。
【図10】図10は、賦形剤又はPEG−IGF−I(150μg/kg s.c. q2d)で処置されたpmnマウスの遠位横隔神経での有髄軸索数を示す。動物を出生後34日目に殺し、組織を組織学的検査のために処理した。有髄軸索数の立体解析学的検査を盲検で実施し、値は横隔神経1つ当たりの総数を表わす(**,p<0.01)。
【図11】図11は、賦形剤又はPEG−IGF−I(150μg/kg s.c. 3.5日に1回(q3.5d))で処置されたSOD1(G93A)マウスの体重分析を示す。体重を週1回評価し、値を、100%に設定された最初の検査での体重について正規化した(*,p<0.05)。
【図12】図12は、賦形剤又はPEG−IGF−I(150μg/kg s.c. q3.5d)で処置されたSOD1(G93A)マウスの疾患発症を示す。動物を週1回検査し、疾患発症を後肢脱力、異常歩行、及び逆ワイヤーメッシュ上に握る困難により定義した。カプラン・マイヤープロットは、出生後34週目から処置された個々のマウスにおける疾患発症を示す。棒グラフは、両群についての疾患発症時での平均週齢を示す(p<0.05)。
【図13】図13は、賦形剤又はPEG−IGF−I(150μg/kg s.c. q3.5d)で処置されたSOD1(G93A)マウスの握力を示す。動物は、週1回、前肢の筋力について試験した。時間経過中に死亡する動物のLOCF分析を、最後の測定値をさらなるデータに含めることにより実施した(*,p<0.05; **,p<0.01)。
【図14】図14は、賦形剤又はPEG−IGF−I(150μg/kg s.c. q3.5d)で処置されたSOD1(G93A)マウスでのロータロッド成績を示す。動物は、週1回、運動協調性について試験した。時間経過中に死亡する動物のLOCF分析を、最後の測定値をさらなるデータに含めることにより実施した(*,p<0.05;**,p<0.01)。
【図15】図15は、神経筋単位に関連するPEG−IGF−Iのインビボでの作用を示し、ALSマウスモデルで実証された通りである。PEG−IGF−Iは、神経筋機能も改善させ、脳幹及び脊髄中の運動性軸索及び運動ニューロンを保護することが示された。従って、神経筋接合部の保持に関与する全ての部位に作用することが示唆されている。
【0057】
方法:
マウス胎児運動ニューロンの培養
胎生期12.5日のマウスからの脊髄運動ニューロンの培養を、モノクローナルラット抗p75抗体(Chemicon, Hofheim, Germany)を使用したパニング技術により調製した。個々の腰髄の腹外側部を切開し、10μM 2−メルカプトエタノールを含むHBSSに移した。トリプシンでの処理後(0.05%、10分間)、単一細胞浮遊物を粉砕により生じさせた。細胞を、ラット抗体p75コーティング済み培養ディッシュ(Greiner, Nurtingen, Germany)上にプレーティングし、室温で30分間静置した。個々のウェルを、その後、ハンクス平衡塩類溶液(HBSS;3回)を用いて洗浄し、付着細胞を、次に、脱分極生理食塩水(0.8% NaCl、35mM KCl、及び1μM 2−メルカプトエタノール)を用いてプレートから単離した。細胞を、記載の通りにポリオルニチン及びラミニンでプレコーティングされた4ウェル培養ディッシュ(Greiner)中に密度3000個細胞/ウェルでプレーティングした(Miller, T. M. et al., J. Biol. Chem. 272, 9847-9853, 1997)。細胞を、Neurobasal培地(Life Technologies, Karlsruhe, Germany)、B27サプリメント、10%ウマ血清、500μMグルタマックス、及び50μg/mlアポトランスフェリン中で、37℃で、5% CO2大気において増殖させた。培地の50%を、最初に、1日目に、そして次に隔日で交換した。プレーティングされた細胞の初回カウントを、全ての細胞が培養ディッシュに付着した4時間後に行った。明るい相の細胞を、次に、追加で5日目にカウントした。10の視野(1.16mm2/視野)を、各ウェルにおいて、各時間点でカウントした。
【0058】
血清rhIGF−Iレベル又はPEG−IGF−Iレベル及びCA1ニューロン中でのニューロン内IGF−I染色
血清rhIGF−Iレベル又はPEG−IGF−Iレベルの推定のために、C57Bl/6マウスからの血液サンプルを、100μg/kgのrhIGF−I又はPEG−IGF−Iの単回皮下注射後に異なる時間点(1つの時間点当たりn=4)で採取した。血清を調製し、ELISAアッセイにより処理した。rhIGF−Iの検出のために、市販のrhIGF−Iアッセイ(DSL)を使用した。PEG−IGF−Iの検出のために、ストレプトアビジンコーティング済みアッセイマイクロプレートを、ビオチン化抗PEG(IgM)捕捉抗体でコーティングした。血清サンプルを、ジゴキシゲニン化IGFBP−4を用いて15時間にわたりインキュベートし、内因性IGFBPにより結合された任意のIGF−IをIGFBP−4により置換した。洗浄後、プレートを抗Dig−POD(Fab)とインキュベートし、ABTS呈色反応により検出した。吸光シグナルを、SpectraMax M2eリーダーを用いて、405nm及び490nmで定量化した。
【0059】
100μg/kgのrhIGF−I又はPEG−IGF−Iのいずれかの単回皮下注射後の異なる時間点で、C57Bl/6マウスを、イソフルラン麻酔下で断頭し、脳を除去した。半球をドライアイス中で急速凍結し、パラホルムアルデヒド(4%リン酸緩衝食塩水、PBS)中で後固定した。その後、40μmの矢状スライス(sagittal slice)を、ビブラトーム(Zeiss)を用いて切った。免疫反応性の半定量的分析のために、24枚のスライスを、外側縁から2mmで開始して切った。4枚目ごとにスライスをカウントのために使用し、マウス1匹当たり合計6枚のスライスを明らかにした。スライスをヤギ抗hIGF−I抗体(R&D Systems)を用いて免疫染色し、核色素で対比染色した。二次検出を、ロバ抗ヤギCy3(Jackson)を用いた標識により実施した。CA1ニューロンのデジタル画像を、十分に盲検で、ImagePro 4.5ソフトウェア(Media Cybernetics)を使用して半自動的に取得したCA1細胞層にわたり、PixelFlyカメラ(Klughammer)を使用し、同じ強度及び染色強度で評価した。マウス1匹当たり6枚のスライスからの強度値を平均した。
【0060】
血中グルコースの推定
ビーグル犬をPEG−IGF−I(200〜5000μg/kg s.c.)で処置し、血液サンプルを6日間(144時間)までの異なる時間間隔後に採取した。血液グルコースを、血液滴から、AkkuCheckデバイス(Roche)を使用して評価した。
【0061】
機能評価
マウスを定期的にモニターし、マウスが、後肢脱力、異常歩行、及び逆ワイヤーメッシュ上に握る困難を呈した場合に定義された疾患発症を評価した。SOD1(G93A)トランスジェニックマウスにおける疾患発症はばらつき(Gurney et al., Science 264 (5166): 1772-1775, 1994)、それは出生後第3週中にpmnマウスにおいて生じる(Schmalbruch et al., J Neuropathol Exp Neurol 50(3): 192-204, 1991)。発生する脱力を評価するために、突然変異マウスを、出生後24日目(pmn突然変異マウス)又は出生後34週目(SOD G93A突然変異マウス)に開始する機能運動試験に週1回供した。前肢の握力(ニュートン)を、電子握力メーター(Columbus Instruments, Columbus, Ohio)での5回の試行を平均することにより記録した。また、マウスを、ロータロッド装置(Hugo Basile Bio. Res. App.)上でバランスを保持するそれらの能力について試験し、ロッドは、直線加速度4〜40rpm(回転毎分)を受けた。各マウスによりロッド上に保持される時間(秒)(潜伏期)を、1セッション当たり3回記録した。出生後24日目(pmnマウス)又は出生後34週目(SOD1マウス)での平均値を100%と見なし、その後の分析からの結果を、この値に対して正規化した。
【0062】
組織学的分析
PEG IGF−I及び賦形剤(即ち、PEG IGF−Iを伴わない各緩衝液)で処置したpmnマウスの顔面神経核及び腰髄における運動ニューロン細胞体の数を、出生後34日目に決定した。また、横隔神経の近位部及び遠位部中での有髄軸索の数を、これらのマウス突然変異体においてカウントした。動物を、pH7.4での0.1Mリン酸緩衝液中の4%パラホルムアルデヒド(PFA)で経心的に灌流し、脳幹及び腰髄(L1−L6)を切開した。連続切片を、顔面神経核を含む脳幹領域から(7μm)及び腰髄から(12.5μm)切った。ニッスル染色後、運動ニューロンを、5番目(顔面神経核)又は10番目(脊髄)毎の切片においてカウントし、生カウント(raw count)を、分割核(split nuclei)について補正した(Masu et al., Nature 365: 27-32, 1993)。横隔神経を、4%パラホルムアルデヒド及び2%グルタルアルデヒドを含む0.1Mカコジル酸緩衝液中で一晩後固定した。オスミウム酸染色及び脱水後、全てのサンプルをSpurr媒質中に包埋した。光学顕微鏡検査のための半薄(0.5μm)断面を、ガラスナイフを用いて切って、アズールメチレンブルーで染色した。無傷の有髄線維の数を、デジタルカメラ(ActionCam; Agfa, Mortsel,Belgium)を備えたLeica(Nussloch, Germany)光学顕微鏡下で神経断片から撮影された写真から決定した。
【0063】
実施例
実施例1:
rhIGF−I及びPEG−IGF−Iの全身暴露を推定するために、100μg/kgのrhIGF−I又はPEG−IGF−Iの単回皮下注射後での薬物レベルを、特異的検出アッセイを使用してC57B1/6マウスにおいて推定した。それにより、PEG−IGF−Iは、rhIGF−1と比較し、強く長期化された半減期ならびにより高い血清暴露の両方を示した(図1)。この増加した末梢暴露が脳についても言えるか否かをさらに研究するために、これらのマウスの脳切片を、ヒトIGF−Iを認識する抗体を用いて免疫染色し、CA1領域中のニューロン内染色を評価した。CA1ニューロンのIGF−I染色が、rhIGF−Iの皮下注射後2及び6時間目に増加し、しかし、24時間後にベースラインのレベルに戻る(図2)。対称的に、増加したIGF−I染色が、PEG−IGF−I注射後24及び48時間目に観察され、48時間目により高いレベルに達した(図2)。これらのデータによって、rhIGFI及びPEG−IGF−Iの両方の脳侵入が、末梢暴露と類似の動態を示し、rhIGF−Iと比較してPEG−IGF−1のずっと高い末梢暴露が、rhIGF−Iと比較して、PEG−IGF−Iのより良好でより持続性の脳侵入についても言えることを示すことが示される。
【0064】
実施例2:
ビーグル犬における毒性試験において、rhIGF−Iでは、皮下注射で与えられた150μg/kgの比較的低用量でさえ低血糖症を急性的に誘導する大きな潜在能力が示されている(NDAレポート21−839)。PEG−IGF−Iの血糖降下能を分析するために、雄雌のビーグル犬を、200〜5000μg/kgの範囲での単回用量のPEG−IGF−Iの皮下注射で処置した。図3において示す通り、最高2000μg/kgまで、一貫した低血糖症は観察されなかった。しかし、5000μg/kgの用量では、2匹の犬のうち1匹が重篤な低血糖症を受け(図2中の矢印を参照のこと)、グルコース注入により回復されなければならなかった;結果的に、グルコース試験はこの時間点で中止された。まとめると、これらのデータによって、2000μg/kg s.c.までのPEG−IGF−Iが、150μg/kgのrhIGF−Iで観察される低血糖症と類似の血糖降下能を有さないことが実証される(NDAレポート21−839)。
【0065】
実施例3:
rhIGF−Iに関連するPEG−IGF−Iのインビトロでの活性を研究するために、両方の化合物を、運動ニューロンの生存に対するそれらの有効性について比較した。E 12.5齢のC57B1/6マウス胚からの初代運動ニューロンを、異なる濃度のrhIGF−I又はPEG−IGF−Iの非存在又は存在において培養し、生存している運動ニューロンを5日後に位相差顕微鏡法によりカウントした。図4において示す通り、両方の化合物は、運動ニューロンの保護に対する同じ有効性を示した。データは、rhIGF−I及びPEG−IGF−Iが同じ生物学的活性を有することを示す。
【0066】
実施例4:
rhIGF−Iについて、いくつかの局所的又は持続的な投与計画が、SOD1(G93A)マウス(ALSについて広く使用される動物モデル)において有効性を示している(Kaspar et al., Science 301: 839, 2003; Dobrowolny et al., J Cell Biol 168: 193, 2005; Nagano et al., J Neurol Sci 235: 61, 2005; Narai et al., J Neurosci Res 82: 452, 2005)。本発明者らは、従って、疾患の臨床発症の少し前に150μg/kgでの皮下注射で適用されたPEG−IGF−Iのインビボでの有効性を、ALSのための2つの独立モデル、pmnマウス及びSOD1(G93A)において研究した。
散発性ALSのモデルにおけるPEG−IGF−Iの試験のために、pmnマウスを使用した(Bommel et al., J Cell Biol 159: 563, 2002)。このALSモデルは、出生後2週間までに機能障害の最初の症状を発生し、出生後5〜6週目に死亡を招く。pmnマウスを、従って、2日ごとに(q2d)、賦形剤(n=12)又は150μg/kgのPEG−IGF−I(n=13) s.c.で、出生後13日目から、即ち、疾患が始まったばかりの時に処置した。握力を分析することによる前肢の筋力の週1回の評価を使用し、PEG−IGF−Iの明らかな効果が出生後45日目に観察され、ここで、PEG−IGF−Iで処置された生存しているpmnマウスが、賦形剤で処置された動物と比較し、有意に高い成績を示した(p<0.05、n=4−5、図5)。ロータロッド上で費やされた時間を試験することによる運動協調性の分析によって、PEG−IGF−Iで処置されたpmnマウスは、賦形剤で処置されたマウスよりも良好に行うことが明らかになり、出生後38日目に有意であった(p<0.05、n=8−12、図6)。さらに、組織学的分析を、出生後13日目から賦形剤又はPEG−IGF−I(150μg/kg s.c.)で処置されたpmnマウスから実施し、出生後34日目に灌流した。顔面運動ニューロンの立体解析学的カウントによって、PEG−IGF−I処理群において有意に高い数の生存している運動ニューロンが明らかになった(p<0.01、n=6−12、図7)。同様に、腰髄中の運動ニューロンの生存が有意に増加した(p<0.001、n=5−6、図8)。最後に、横隔神経中の有髄軸索数の分析によって、賦形剤対PEG−IGF−I処置済みpmnマウスを比較した場合に、近位横隔神経(p<0.05、n=4−5、図9)ならびに遠位横隔神経(p<0.01、n=5−6、図10)中の有意に高い有髄軸索数が明らかになった。
【0067】
家族性ALSについて最も広く使用されるモデルにおけるPEG−IGF−Iの試験のために、SOD1(G93A)マウス(低コピー)を使用した。これらのマウスは、出生後34〜35週目までに疾患の最初の症状を、その後4〜5週辺りで死亡を発生した。SOD1(G93A)マウスは、従って、週に2回(q3.5d)、賦形剤(n=6)又は150μg/kgのPEG−IGF−I(n=7) s.c.で、出生後34週目から、即ち、疾患が始まったばかりの時に処置した。実験の経過を通して統計的検出力を確実にするために、LOCF(最終観察の引き延ばし補完法(last observation carried forward))分析を実施した。この方法(臨床試験においても使用される)では、全てのその後の時間点について、死亡前での動物の最後の測定が保持されている。体重変化の分析によって、疾患の初期段階(37週目辺り)における体重の降下が、PEG−IGF−I処置されたマウスにおいて有意に遅延されることが明らかになった(37、38、及び39週目についてp<0.05、n=6−7 LOCF、図11)。後肢脱力、異常歩行、及び逆ワイヤーメッシュ上に握る困難の最初の兆候により測定される疾患発症自体が、平均して、出生後38.5週目〜42.5週目までの4週間だけ遅延された(p<0.05、n=6−7、図12)。握力を分析することによる前肢の筋力の週1回の評価を使用し、PEG−IGF−Iの有意な保護効果が、出生後35週目から、継続的に、全ての動物の死亡まで観察された(35、38、42、及び43週目についてp<0.05、36、39、40、及び41週目についてp<0.01、n=6−7 LOCF、図13)。ロータロッド上で費やされた時間を試験することによる運動協調性の分析によって、PEG−IGF−Iで処置されたSOD1(G93A)マウスが、賦形剤で処置されたマウスよりも有意に良好に行うことが明らかになった(37、38、39、及び41週目についてp<0.05、40、42、及び43週目についてp<0.01、n=6−7 LOCF、図14)。
【0068】
pmnマウス及びSOD1(G93A)マウスからの全てのインビボでのデータをまとめると、試験によって、PEG−IGF−Iが、ALSモデルにおいて全ての関連標的で神経筋機能に干渉し、疾患の全ての段階で作用する潜在能力を有することが示されている。PEG−IGF−Iが、筋力及び機能を保存していることが示されており、恐らくは神経筋接合部及び接合性を保護することにより、筋肉に対する同化効果を示唆している。それに加えて、PEG−IGF−Iは、脊髄及び顔面神経核において運動性軸索及び運動ニューロン細胞体を救出することが示されており、運動ニューロンに対する直接的な保護効果を示唆している(図15)。これらの変性がALSの後期で起こるため、PEG−IGF−Iは、恐らくは、初期及び後期の両方で疾患の経過に影響を及ぼしうる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経筋障害の処置、予防、及び/又は遅延のための医薬組成物の製造のためのポリエチレングリコール(PEG)化IGF−I変異体の使用であって、前記ポリエチレングリコール(PEG)化IGF−I変異体は、それが野生型ヒトIGF−Iアミノ酸配列(配列番号1)に由来し、アミノ酸位置27、65、及び68に1つ又は2つのアミノ酸改変を保有し、位置27、65、及び68のアミノ酸の1つ又は2つが極性アミノ酸であるが、しかし、リジンではなく、PEGが少なくとも1つのリジン残基に付着していることを特徴とする使用。
【請求項2】
前記PEG化IGF−I変異体が、野生型ヒトIGF−Iアミノ酸配列(配列番号1)の以下:
(a)K65R及びK68R(配列番号2)
(b)K27R及びK68R(配列番号3)、又は
(c)K27R及びK65R(配列番号4)
のアミノ酸改変により特徴付けられる、請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記PEG化IGF−I変異体がK68でモノPEG化されており、野生型ヒトIGF−Iアミノ酸配列(配列番号1)の以下:
K27R及びK65R(配列番号4)
のアミノ酸改変により特徴付けられる、請求項1又は2記載の使用。
【請求項4】
前記PEGが全体的な分子量20〜100kDaを有する、請求項1〜3のいずれか一項記載の使用。
【請求項5】
前記PEG化IGF−I変異体が、N末端アミノ酸でさらにPEG化されている、請求項1〜4のいずれか一項記載の使用。
【請求項6】
前記PEG化IGF−I変異体が、K65又はK68のいずれかでモノPEG化されているか、又は、K65及びK68でジPEG化されている、請求項1〜5のいずれか一項記載の使用。
【請求項7】
前記PEG化IGF−I変異体が、3つまでのN末端アミノ酸がトランケートされていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項記載の使用。
【請求項8】
前記PEG化IGF−I変異体が、ポリ(エチレングリコール)基が分岐ポリ(エチレングリコール)基であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項記載の使用。
【請求項9】
前記神経筋障害が運動ニューロン疾患(MND)である、請求項1〜8のいずれか一項記載の使用。
【請求項10】
前記MNDが筋萎縮性側索硬化症(ALS)である、請求項9記載の使用。
【請求項11】
PEG化IGF−I変異体が、第2の薬理学的に活性な化合物と組み合わせた組み合わせにおいて、別々に、連続的に、又は同時に使用される、請求項10記載の使用。
【請求項12】
組み合わせの第2の薬理学的に活性な化合物が、グルタミン酸放出に対する阻害効果又は電位依存性ナトリウムチャネルの不活化の効果又は興奮性アミノ酸受容体での伝達物質の結合に続く細胞内事象に干渉する能力を有する少なくとも1つの神経保護薬である、請求項11記載の使用。
【請求項13】
第2の薬理学的に活性な化合物がリルゾールである、請求項12記載の使用。
【請求項14】
処置を必要とする被験者における神経筋障害の処置、予防、及び/又は進行の遅延のための方法であって、前記被験者に、請求項1〜8のいずれか一項記載の治療的有効量のPEG化IGF−Iを、薬学的に許容しうる形態で投与することを含む方法。
【請求項15】
前記神経筋障害がMND、好ましくはALSである、請求項13記載の方法。
【請求項16】
前記神経筋障害の処置、予防、及び/又は進行の遅延のための薬学的に許容しうる形態の、請求項1〜8のいずれか一項記載のPEG化IGF−I変異体を含む医薬組成物。
【請求項17】
前記神経筋障害がMND、好ましくはALSである、請求項15記載の医薬組成物。
【請求項18】
本明細書に記載される発明。
【請求項1】
神経筋障害の処置、予防、及び/又は遅延のための医薬組成物の製造のためのポリエチレングリコール(PEG)化IGF−I変異体の使用であって、前記ポリエチレングリコール(PEG)化IGF−I変異体は、それが野生型ヒトIGF−Iアミノ酸配列(配列番号1)に由来し、アミノ酸位置27、65、及び68に1つ又は2つのアミノ酸改変を保有し、位置27、65、及び68のアミノ酸の1つ又は2つが極性アミノ酸であるが、しかし、リジンではなく、PEGが少なくとも1つのリジン残基に付着していることを特徴とする使用。
【請求項2】
前記PEG化IGF−I変異体が、野生型ヒトIGF−Iアミノ酸配列(配列番号1)の以下:
(a)K65R及びK68R(配列番号2)
(b)K27R及びK68R(配列番号3)、又は
(c)K27R及びK65R(配列番号4)
のアミノ酸改変により特徴付けられる、請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記PEG化IGF−I変異体がK68でモノPEG化されており、野生型ヒトIGF−Iアミノ酸配列(配列番号1)の以下:
K27R及びK65R(配列番号4)
のアミノ酸改変により特徴付けられる、請求項1又は2記載の使用。
【請求項4】
前記PEGが全体的な分子量20〜100kDaを有する、請求項1〜3のいずれか一項記載の使用。
【請求項5】
前記PEG化IGF−I変異体が、N末端アミノ酸でさらにPEG化されている、請求項1〜4のいずれか一項記載の使用。
【請求項6】
前記PEG化IGF−I変異体が、K65又はK68のいずれかでモノPEG化されているか、又は、K65及びK68でジPEG化されている、請求項1〜5のいずれか一項記載の使用。
【請求項7】
前記PEG化IGF−I変異体が、3つまでのN末端アミノ酸がトランケートされていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項記載の使用。
【請求項8】
前記PEG化IGF−I変異体が、ポリ(エチレングリコール)基が分岐ポリ(エチレングリコール)基であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項記載の使用。
【請求項9】
前記神経筋障害が運動ニューロン疾患(MND)である、請求項1〜8のいずれか一項記載の使用。
【請求項10】
前記MNDが筋萎縮性側索硬化症(ALS)である、請求項9記載の使用。
【請求項11】
PEG化IGF−I変異体が、第2の薬理学的に活性な化合物と組み合わせた組み合わせにおいて、別々に、連続的に、又は同時に使用される、請求項10記載の使用。
【請求項12】
組み合わせの第2の薬理学的に活性な化合物が、グルタミン酸放出に対する阻害効果又は電位依存性ナトリウムチャネルの不活化の効果又は興奮性アミノ酸受容体での伝達物質の結合に続く細胞内事象に干渉する能力を有する少なくとも1つの神経保護薬である、請求項11記載の使用。
【請求項13】
第2の薬理学的に活性な化合物がリルゾールである、請求項12記載の使用。
【請求項14】
処置を必要とする被験者における神経筋障害の処置、予防、及び/又は進行の遅延のための方法であって、前記被験者に、請求項1〜8のいずれか一項記載の治療的有効量のPEG化IGF−Iを、薬学的に許容しうる形態で投与することを含む方法。
【請求項15】
前記神経筋障害がMND、好ましくはALSである、請求項13記載の方法。
【請求項16】
前記神経筋障害の処置、予防、及び/又は進行の遅延のための薬学的に許容しうる形態の、請求項1〜8のいずれか一項記載のPEG化IGF−I変異体を含む医薬組成物。
【請求項17】
前記神経筋障害がMND、好ましくはALSである、請求項15記載の医薬組成物。
【請求項18】
本明細書に記載される発明。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公表番号】特表2011−518778(P2011−518778A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−502341(P2011−502341)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【国際出願番号】PCT/EP2009/053465
【国際公開番号】WO2009/121759
【国際公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【国際出願番号】PCT/EP2009/053465
【国際公開番号】WO2009/121759
【国際公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】
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