説明

移動予測表示装置およびレーダシステム

【課題】様々な形状の物標についても、観測者が物標の移動予測結果を把握することが容易である移動予測表示装置およびレーダシステムを提供する。
【解決手段】画像データ生成部16は、測位レーダ部12で取得された測位データに基づいて画像データを生成し、測位画像データ記憶部18に入力する。切り出し部20は、観測しようとする面、すなわち切り出し面のデータを測位画像データ記憶部18から取り出し、画像合成部24および表示判定部26に入力する。表示判定部26は、物標の像が移動する様子によって物標の移動予測の結果を表示することが可能であるか否かの判定を行う。一方、ドップラレーダ部14は、切り出し面内での物標の移動速度を算出し、画像合成部24に入力する。画像合成部24は、表示判定部の判定結果に従って物標の移動予測の結果を表示する画像データを生成し、画像表示部30に入力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置が取得したデータに基づいて物標の移動予測を行い、その結果を表示する移動予測表示装置、およびそのような移動予測表示装置を備えたレーダシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
雲等の物標の動きを観測するためのレーダ装置では、物標の現在の位置のみならず物標の将来の位置を予測できることが好ましい。物標の将来の位置を予測できるレーダ装置としては、物標の過去の移動軌跡から線形予測等を行うことで物標の移動予測を行う構成としたものが従来から用いられている。
【0003】
過去の移動軌跡に基づいて物標の移動予測を行うレーダ装置では、時間に対して離散的に取得された過去の位置データに基づいて最小自乗法等の演算処理を行い、将来の物標の位置を算出する。しかしながら、離散時間間隔が長過ぎる場合や過去に取得された位置データの誤差が大きい場合には、移動予測に対する誤差が大きくなってしまう。
【0004】
そこで、レーダ装置と物標との間を電磁波が往復する時間に基づいて物標の位置を測定する測位レーダ装置と、送信した電磁波の周波数と物標で反射した電磁波の周波数の差に基づいて物標の移動速度を測定するドップラレーダ装置とを組み合わせることで、移動予測に対する誤差を低減することが考えられる。測位レーダ装置とドップラレーダ装置とを組み合わせたレーダ装置では、測位レーダ装置によって現在の物標の位置を測定し、ドップラレーダ装置によって測定された物標の移動速度によって物標の将来の位置を予測する。そのため、移動予測結果は過去に取得されたデータに依存せず、主にドップラレーダ装置によって直接測定された移動速度に依存するため、移動予測に対する誤差を低減することができる。
【0005】
なお、次の文献には、測位レーダ装置とドップラレーダ装置とを組み合わせることにより物標の誤航跡を低減する技術が開示されている。
【0006】
【非特許文献1】森田、原、関口 2004年電子情報通信学会通信ソサイエティ大会 B−2−9
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
測位レーダ装置とドップラレーダ装置とを組み合わせたレーダ装置では、物標の像が移動する様子によって表示画面上に移動予測結果を表示する。例えば現在の物標の位置を表す物標の像に、将来の物標の位置を表す物標の像を重ねて表示画面上に表示すれば、観測者は物標の移動予測結果を把握することができる。
【0008】
ところが、レーダ装置が観測する物標の形状および大きさとしては様々なものが考えられ、このように物標の移動予測結果を表示することが好ましくない場合がある。例えば、物標が表示画面上に一様に広がって表示される様な場合には、観測者が物標の移動予測結果を把握することが困難となる。
【0009】
本発明は、このような課題に対してなされたものであり、様々な形状の物標についても、観測者が物標の移動予測結果を把握することが容易である移動予測表示装置およびレーダシステムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、物標の位置を測定する測位レーダ装置から取得した物標測位データと、物標の移動速度を測定するドップラレーダ装置から取得した物標移動速度データとに基づいて物標の移動予測を行う移動予測部と、物標の移動予測の結果を表示する表示部と、を含む移動予測表示装置であって、物標測位データに基づいて物標の像を把握し、把握した物標の像に基づいて、物標の像が移動する様子によって物標の移動予測の結果を表示することが可能であるか否かの判定を行う表示判定部を含み、表示部は、表示判定部の判定結果に基づいて物標の移動予測の結果を表示することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る移動予測表示装置においては、表示部は、表示判定部が、物標の像が移動する様子によって物標の移動予測の結果を表示することが可能であるものと判定した場合には、物標の像が移動する様子によって物標の移動予測の結果を表示する構成とすることが好適である。
【0012】
また、本発明に係る移動予測表示装置においては、表示部は、物標の移動予測の結果を物標移動速度データを用いて定量的に表示する構成とすることが好適である。
【0013】
また、本発明に係る移動予測表示装置においては、表示部は、物標の移動予測の結果として少なくとも物標の移動方向を表示する構成とすることが好適である。
【0014】
また、本発明に係る移動予測表示装置においては、前記物標は降水粒子であり、移動予測部は、高度層ごとに物標の移動予測を行い、表示部は、高度層ごとに取得された物標の移動予測の結果を投影図を以て表示する構成とすることが好適である。
【0015】
また、本発明に係る移動予測表示装置は、物標の位置を測定する測位レーダ装置と、物標の移動速度を測定するドップラレーダ装置と、を含むレーダシステムに適用することが好適である。
【0016】
また、本発明に係るレーダシステムは、降水粒子の位置を測定する測位レーダ装置と、降水粒子の移動速度を測定するドップラレーダ装置と、前記測位レーダ装置から取得した測位データと前記ドップラレーダ装置から取得した移動速度データとに基づいて降水粒子の移動予測を行う移動予測部と、降水粒子の移動予測の結果を表示する表示部と、を含むレーダシステムであって、移動予測部は、高度層ごとに降水粒子の移動予測を行い、表示部は、高度層ごとに取得された物標の移動予測の結果を投影図を以て表示することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、様々な形状の物標についても、観測者が物標の移動予測結果を把握することが容易な移動予測表示装置およびレーダシステムを実現することができる。例えば、物標が層状に広がる物体であり、表示画面上に一様に広がって表示される様な場合にも、観測者は物標の移動予測結果を容易に把握することができる。また、降水粒子を物標とする本発明の一態様にあっては、層積雲のように層状に上空を覆っている雲の移動予測結果を容易に把握することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1に本発明の第1の実施形態に係るレーダシステム1を示す。測位レーダ部12は、アンテナ10から送信され物標で反射した電磁波をアンテナ10から受信する。そして、レーダシステム1と物標との間を電磁波が往復する時間と電磁波の伝搬速度とに基づいて物標までの距離を算出し、算出された距離と電磁波を送信した方向とに基づいて物標の位置を測位データとして算出する。
【0019】
測位レーダ部12が取得した測位データは、画像データ生成部16に入力され、観測された物標を描く観測画像データが生成される。この観測画像データは3次元画像データとして生成されることが好適である。ここで、3次元画像データとは、表示しようとする3次元空間を画素に分解し、1つの画素について色彩および輝度に関するディジタル符号を配置した単位画素データの集合である。3次元空間においては画像座標が定義されており、画素の位置の指定は画像座標の座標値を指定することで行われる。画像データ生成部16において生成された観測画像データは、後述する2次元画像を抽出するための処理等の便宜上、測位画像データ記憶部18に入力される。
【0020】
観測者は、観測画像データが表す3次元空間から切り出して観測しようとする面である切り出し面を、切り出し面指定部22において指定する。この指定は、画像座標において切り出し面の方程式を定義する演算に帰着される。
【0021】
切り出し部20は、測位画像データ記憶部18から観測画像データを読み込み、切り出し面指定部22で指定された切り出し面上に存在する画素の単位画素データを抽出する。以下、切り出し面上に存在する画素についての単位画素データの集合を切り出し面画像データとする。切り出し面画像データの抽出は、単位画素データが有する画素の座標値が、上述のように定義された切り出し面の方程式を満足するか否かに基づいて行う。このように抽出された切り出し面画像データによって表される切り出し面画像が、観測しようとする面の画像、すなわち切り出し面の画像である。
【0022】
レーダシステム1を気象レーダシステムとして適用する場合には、物標は降水粒子であり、切り出し面としては観測しようとする高度層を表す面を指定することが好適である。
【0023】
切り出し部20で抽出された切り出し面画像データは、画像合成部24に入力され、次に説明するドップラレーダ部14によって取得された物標の移動速度に関する情報と合成される。また、切り出し面画像データは画像合成部24に入力される他、表示判定部26にも入力される。表示判定部26は、物標の像が切り出し面全体に亘って不規則に存在しているのか、切り出し面上に一様に広がって存在しているのかを判定する。この判定は、例えば、切り出し面の面積に対する物標が占める面積の割合に基づいて行うこと等が考えられる。このような判定を行うのは、物標の像が切り出し面全体に亘って不規則に存在しているのか、切り出し面上に一様に広がって存在しているのかによって画像合成部24で行われる処理が異なるからである。なお、判定結果に基づく画像合成部24の処理については後述する。
【0024】
ドップラレーダ部14は、アンテナ10から送信された電磁波の周波数と、物標で反射してアンテナ10で受信された電磁波の周波数との差であるドップラシフト周波数を算出し、ドップラシフト周波数に基づいて物標の移動速度を算出する。
【0025】
ドップラシフト周波数に基づいて物標の移動速度を算出する場合、電磁波の送受信方向の移動速度が求められる。しかしながら、物標の移動速度は、先述の切り出し面指定部22で指定された切り出し面に射影された成分として算出されることが物標の動向を観測する観点から好ましい。そこで、電磁波の送受信方向について求められた物標の移動速度は、移動速度ベクトルと方向余弦ベクトルとの演算によって切り出し面に射影される。方向余弦ベクトルは、切り出し面を表す方程式から算出され、切り出し面指定部22からドップラレーダ部14に入力される。
【0026】
また、レーダシステム1を気象レーダシステムとして適用する場合には、観測しようとする高度層における降水粒子の移動速度を算出することが好ましい。そこで、一定仰角方向の電磁波の送受信を全方位について行う手法によって得られたデータから、レーダの距離分解能に相当する高度層における降水粒子の移動方向および速度を算出するVAD法(Velocity Azimuth Display)や、ドップラレーダ部14の観測範囲内に微少領域を定義し、微少領域の中点における3次元速度ベクトルを推定するVVP法(Volume Azimuth Processing)等の処理を適用することが好適である。
【0027】
ドップラレーダ部14において算出された物標の移動速度は、物標移動速度データとして画像合成部24に入力される。移動速度データは、切り出し面画像データを構成する画素の各々に対応して、切り出し面内の2次元ベクトルを以て物標の速度を表したものであり、物標の切り出し面内における移動速度分布を表すものである。したがって、切り出し面画像データがn個の画素から構成される場合、物標移動速度データは物標の速度分布を表すn個の2次元ベクトルの情報を含むこととなる。ただし、上記VAD法やVVP法を用いる場合は、物標移動速度データは空間の代表値なのでn個より少ない。この場合は、内挿等でn個に拡張することもできる。
【0028】
画像合成部24は、ドップラレーダ部14から入力された物標移動速度データに基づいて、切り出し面内における物標の現在の移動速度分布や、時間t後の切り出し面内における物標の位置を定量的に表示する定量予測画像データを生成する。ここで、定量的に表示するとは、物標の移動速度分布や時間t後の切り出し面内における物標の変位分布等の物理量を、数値、ベクトル量を表す矢印、予想軌跡等を以て表示することをいう。また、定量予測画像データとは、これらの物理量を定量的に表示するための画像データをいう。
【0029】
画像合成部24は、表示判定部26により物標の像が切り出し面全体に亘って不規則に存在しているものと判定された場合と、切り出し面上に一様に広がって存在しているものと判定された場合とでは異なる処理を行うため、以下、場合に分けて説明する。
【0030】
(1)物標の像が切り出し面全体に亘って不規則に存在しているものと判定された場合
画像合成部24は、切り出し部20から入力された切り出し面画像データと、ドップラレーダ部14から入力された物標移動速度データとに基づいて、時間t後の切り出し面画像を予測して表示する予測切り出し面画像データを生成する。時間tは、時間指定部28において外部の制御装置(図示せず。)や観測者によって指定され、時間指定部28から画像合成部24に入力される構成となっているが、画像合成部24において予め設定しておく構成とすることも可能である。
【0031】
先の説明から明らかなように、切り出し面画像データを構成する単位画素データは、切り出し面画像データを構成する画素の各々について、画素の位置座標に関する情報を有する。一方、物標移動速度データは、切り出し面画像データを構成する画素の各々について、切り出し面内の速度ベクトルに関する情報を有する。したがって、切り出し面画像データを構成する画素の各々について、切り出し面内の速度ベクトルに時間tを乗算した変位ベクトルを算出することができる。
【0032】
画像合成部24は、切り出し面画像を構成する画素の各々の位置座標にこのように算出された変位ベクトルを加算することで、現在各々の画素が表出している色彩および輝度の時間t後における移動先の位置座標を算出する。そして、各々の単位画素データが有する色彩および輝度の情報を、時間t後の予測移動先の位置座標に存在する画素に対応する単位画素データに新たに書き込むことにより、予測切り出し面画像データを生成する。予測切り出し面画像データは、時間t後に各々の画素が表出すべき色彩および輝度の情報を各々の単位画素データに反映させた画像データであるといえる。
【0033】
次に、画像合成部24は、定量予測画像データ、切り出し面画像データおよび予測切り出し面画像データを画像表示部30に入力する。画像表示部30は、切り出し面画像および予測切り出し面画像と共に、物標の移動速度分布や時間t後の切り出し面内における物標の変位分布等の物理量を、数値、ベクトル量を表す矢印、予想軌跡等を以て重ねて表示する。
【0034】
(2)物標の像が切り出し面全体に一様に広がって存在しているものと判定された場合
画像合成部24は、予測切り出し面画像データの生成は行わず、切り出し面画像データおよび定量予測画像データを画像表示部30に入力する。画像表示部30は、切り出し面画像と共に、物標の移動速度分布や時間t後の切り出し面内における物標の変位分布等の物理量を、数値、ベクトル量を表す矢印、予想軌跡等を以て重ねて表示する。
【0035】
このように、物標の像が切り出し面全体に亘って不規則に存在している場合に限り予測切り出し面画像データを表示するのは、物標の像が切り出し面画像上に一様に広がって表示される様な場合について予測切り出し面画像を表示したとしても、物標の移動予測結果を把握することがほとんど不可能であるためである。そして、物標の移動予測結果を把握することがほとんど不可能であるにもかかわらず、それに供されるデータを生成することは計算の無駄となるため、この場合は、画像合成部24において予測切り出し面画像データの生成は行わず計算量を削減する構成としたのである。
【0036】
レーダシステム1を気象レーダシステムに適用し、切り出し面をある高度層に指定する場合には、積雲のように綿状に成長して他の雲から孤立して存在する対流性の雲は、その像が高度層全体に亘って不規則に存在しているものとなるため、予測切り出し面画像によって表示することが好ましい。一方、層積雲のように上空を層状に覆う雲は、その像が高度層全体に一様に広がって存在しているものとなるため、定量予測画像データによって定量的に表示することが好ましい。
【0037】
図2(a)および図2(b)は、本発明の第1の実施形態に係るレーダシステム1を気象レーダシステムに適用し、雲の移動予測結果を画像表示部30の表示画面30aに表示したものである。図2(a)はある高度層における積雲の観測結果を表示たものである。T1は現在の雲の像を示しており、この像は切り出し面画像データに基づいて表示される。積雲が観測された場合、表示判定部26は物標の像が切り出し面全体に亘って不規則に存在しているものと判定するため、予測切り出し面画像データが生成される。T2は時間t後に予想される雲の像を示しており、この像は予想切り出し面画像データに基づいて表示される。また、点TC1は観測された現在の雲の像の代表点、点TC2は時間t後に予想される雲の像の代表点を示しており、点TC1から点TC2へ引かれた矢印は時間t内における変位を表す変位ベクトルΔ1を示す。変位ベクトルΔ1、「TC1の移動方向」および「TC1の移動速度」の表示は、定量予測画像データに基づいて表示される。
【0038】
図2(b)は、層積雲の観測結果を表示している。T3は画像全体に広がって観測された層積雲の像を示しており、この像は切り出し面画像データに基づいて表示される。層積雲が観測された場合、表示判定部26は物標の像が切り出し面全体に一様に広がって存在しているものと判定するため、予測切り出し面画像データは生成されない。点x1から点x28のそれぞれから引かれた矢印は各点における雲の移動速度ベクトルvを示す。また、点TC3は変位ベクトルの観測代表点であり、点TC3から引かれた矢印は時間t内における変位を表す変位ベクトルΔ2を示す。移動速度ベクトルv、変位ベクトルΔ2、「TC3の移動方向」および「TC3の移動速度」の表示は、定量予測画像データに基づいて表示される。このように、本実施形態によれば、層積雲のように像が切り出し面全体に一様に広がって存在している物標についても、移動予測結果を容易に把握することができる。
【0039】
上述の第1の実施形態に係るレーダシステム1では、切り出し面指定部22で指定された1つの切り出し面について物標の移動予測を行う。この構成は3次元空間に存在する物標の移動予測結果を2次元で把握するのには好適であるが、移動予測結果を立体的に把握することは困難である。
【0040】
次に説明する本発明の第2の実施形態は、このような問題に鑑み、切り出し部20において複数の切り出し面を指定し、複数の切り出し面における物標の移動予測結果を投影図で表示する構成としたものである。この構成は、例えば、ある指定された切り出し面においては物標の像が切り出し面全体に一様に広がって存在しているが、他に指定された切り出し面においては物標の像が切り出し面全体に亘って不規則に存在しているような場合の物標の移動予測に好適である。
【0041】
図3に第2の実施形態に係るレーダシステム3の構成を示す。図1のレーダシステム1と同一の構成部については同一の符号を付してその説明を省略する。切り出し面指定部22においては、複数の切り出し面が指定され、指定された複数の切り出し面のそれぞれについて物標の移動予測が行われ、移動予測画像データが生成される。ここで、移動予測画像データとは、上述の定量予測画像データ、切り出し面画像データおよび予測切り出し面画像データの総称をいうものとする。生成された移動予測画像データは、後の投影画像を生成する処理の便宜上、移動予測画像データ記憶部40に入力される。
【0042】
観測者は、切り出し面指定部22で指定した複数の切り出し面をどの方向から眺めるかを観測方向指定部44において指定する。この指定は、切り出し面を眺める方向を画像座標におけるベクトルDで指定することに帰着される。
【0043】
投影画像生成部42は、観測方向指定部44から入力されたベクトルDを基準にした投影座標を定義する。ここで投影座標とは、3次元の観測対象をベクトルDで表される方向から眺めた様子を、斜投影法や等角投影法等の投影法によって平面上に描くための2次元座標をいう。
【0044】
投影画像生成部42は、複数の切り出し面に対する移動予測画像データを移動予測画像データ記憶部40から読み込む。そして、移動予測画像データが表す画像は投影座標に写像されることによって、投影法で描かれた画像に変形される。このように投影法で描かれた画像を表すものに変形された画像を表す画像データを投影画像データとする。投影画像データは画像表示部30に入力され、画像表示部30は複数の切り出し面における物標の移動予測結果を投影法によって表示する。
【0045】
図4は、レーダシステム3を気象レーダシステムに適用し、雲の移動予測結果を画像表示部30の表示画面30bに表示したものである。切り出し面指定部22においては、n個の高度層を高度間隔hで指定している。図4では、切り出し面L1においては物標の像が切り出し面全体に一様に広がって存在しているものと判定され、切り出し面L2から切り出し面Lnにおいては物標の像が切り出し面全体に亘って不規則に存在しているものと判定されている。
【0046】
図4の切り出し面L1の表示において、T1(L1)は切り出し面上に広がった雲の像を示しており、この像は切り出し面L1に対する切り出し面画像データに基づいて表示される。図4の括弧内の符号Li(iは2からnのうちいずれかの自然数である。以下のiについて同じとする。)は、切り出し面Liについての符号であることを意味する。切り出し面上に広がった像が観測された場合、表示判定部26は、物標の像が切り出し面全体に一様に広がって存在しているものと判定するため、切り出し面L1に対する予測切り出し面画像データは生成されない。点x1(L1)から点x9(L1)のそれぞれから引かれた矢印は各点における雲の移動速度ベクトルv(L1)を示す。また、点TC1(L1)は変位ベクトルの観測代表点であり、点TC1(L1)から引かれた矢印は時間t内における変位を表す変位ベクトルΔL1を示す。移動速度ベクトルv(L1)、変位ベクトルΔL1、「TC1(L1)の移動方向」および「TC1(L1)の移動速度」の表示は、切り出し面L1に対する定量予測画像データに基づいて表示される。
【0047】
図4の切り出し面L1からLnの表示において。T1(Li)は切り出し面Liにおける雲の像を示しており、この像は切り出し面Liに対する切り出し面画像データに基づいて表示される。このように雲の断面の形状が島状に観測された場合、表示判定部26は、物標の像が切り出し面全体に亘って不規則に存在しているものと判定するため、切り出し面Liに対する予測切り出し面画像データが生成される。T2(Li)は時間t後に予想される雲の像を示し、切り出し面Liに対する予想切り出し面画像データに基づいて表示される。また、点TC1(Li)は観測された現在の雲の像の代表点、点TC2(Li)は時間t後に予想される雲の像の代表点を示しており、点TC1(Li)から点TC2(Li)へ引かれた矢印は時間t内での変位を表す変位ベクトルΔLiを示す。変位ベクトルΔLi、「TC1(Li)の移動方向」および「TC1(Li)の移動速度」の表示は、切り出し面Liに対する定量予測画像データに基づいて表示される。本実施形態によれば、高度層毎に雲の形状が変化するような場合であっても、移動予測結果を容易に把握することができる。
【0048】
第1の実施形態に係るレーダシステム1および第2の実施形態に係るレーダシステム3では、物標の移動速度をドップラレーダ部14によって取得している。一般にレーダ装置の観測結果は、観測方向が低仰角になる程建造物や山岳等の障害物の影響を受けやすくなり観測誤差が大きくなる。したがって、ドップラレーダ部14によって取得された物標の移動速度もまた、このような誤差を含むことが懸念される。次に説明する第3の実施形態では、このような問題点に鑑み、物標の移動速度に関するデータを公衆の電気通信回線から取得するものである。
【0049】
図5に第3の実施形態に係るレーダシステム5の構成を示す。図1のレーダシステム1と同一の構成部については同一の符号を付してその説明を省略する。このレーダシステム5は、特に降水粒子の移動予測を行うものである。
【0050】
外部データ取得部50は、公衆の電気通信回線から上空の降水粒子の移動速度データを取得する。この移動速度データは切り出し面上に射影した移動速度を表すものでなければならないため、データ取得に際しては切り出し部20から入力される方向余弦ベクトルを用いる。データの配信元としては、例えばインターネットによる気象情報提供サービス等がある。外部データ取得部50によって取得された降水粒子の移動速度データは、加重平均部52に入力される。
【0051】
一方、ドップラレーダ部14において算出された降水粒子の移動速度は、レーダシステム1における処理と同一の処理を経て、物標移動速度データとして加重平均部52に入力される。
【0052】
加重平均部52は、外部データ取得部50から入力された降水粒子の移動速度データが表す速度ベクトルと、ドップラレーダ部14から入力された物標移動速度データが表す速度ベクトルとの加重平均速度ベクトルを算出し、画像合成部24に入力する。加重平均速度ベクトルを算出する際の重み付け係数、すなわち、外部データ取得部50から入力されたデータとドップラレーダ部14から入力されたデータの寄与割合は、最適な移動予測が行うことができる値に設定される。
【0053】
画像合成部24が、切り出し面についての移動予測画像データを生成し、物標すなわち降水粒子の移動予測結果を画像表示部30に表示する構成は、第1の実施形態に係るレーダシステム1と同一である。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明した。本発明はこれらの実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、様々な実施形態が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るレーダシステムの構成を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るレーダシステムによって雲の移動予測結果を表示部に表示した様子を示す図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係るデータシステムの構成を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係るレーダシステムによって雲の移動予測結果を画像表示部に表示した様子を示す図である。
【図5】本発明の第3の実施形態に係るデータシステムの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
1,3,5 レーダシステム、10 アンテナ、12 測位レーダ部、14 ドップラレーダ部、16 画像データ生成部、18 測位画像データ記憶部、20 切り出し部、22 切り出し面指定部、24 画像合成部、26 表示判定部、28 時間指定部、30 画像表示部、30a,30b 表示画面、40 移動予測画像データ記憶部、42 投影画像生成部、44 観測方向指定部、50 外部データ取得部、52 加重平均部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物標の位置を測定する測位レーダ装置から取得した物標測位データと、物標の移動速度を測定するドップラレーダ装置から取得した物標移動速度データとに基づいて物標の移動予測を行う移動予測部と、
物標の移動予測の結果を表示する表示部と、
を含む移動予測表示装置であって、
物標測位データに基づいて物標の像を把握し、把握した物標の像に基づいて、物標の像が移動する様子によって物標の移動予測の結果を表示することが可能であるか否かの判定を行う表示判定部を含み、
表示部は、表示判定部の判定結果に基づいて物標の移動予測の結果を表示することを特徴とする移動予測表示装置。
【請求項2】
請求項1に記載の移動予測表示装置であって、
表示部は、表示判定部が、物標の像が移動する様子によって物標の移動予測の結果を表示することが可能であるものと判定した場合には、物標の像が移動する様子によって物標の移動予測の結果を表示することを特徴とする移動予測表示装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の移動予測表示装置であって、
表示部は、物標の移動予測の結果を物標移動速度データを用いて定量的に表示することを特徴とする移動予測表示装置。
【請求項4】
請求項3に記載の移動予測表示装置であって、
表示部は、物標の移動予測の結果として少なくとも物標の移動方向を表示することを特徴とする移動予測表示装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の移動予測表示装置であって、
前記物標は降水粒子であり、
移動予測部は、高度層ごとに物標の移動予測を行い、
表示部は、高度層ごとに取得された物標の移動予測の結果を投影図を以て表示することを特徴とする移動予測表示装置。
【請求項6】
物標の位置を測定する測位レーダ装置と、
物標の移動速度を測定するドップラレーダ装置と、
を含むレーダシステムであって、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の移動予測表示装置を含むことを特徴とするレーダシステム。
【請求項7】
降水粒子の位置を測定する測位レーダ装置と、
降水粒子の移動速度を測定するドップラレーダ装置と、
前記測位レーダ装置から取得した測位データと前記ドップラレーダ装置から取得した移動速度データとに基づいて降水粒子の移動予測を行う移動予測部と、
降水粒子の移動予測の結果を表示する表示部と、
を含むレーダシステムであって、
移動予測部は、高度層ごとに降水粒子の移動予測を行い、
表示部は、高度層ごとに取得された物標の移動予測の結果を投影図を以て表示することを特徴とするレーダシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−226685(P2006−226685A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−37167(P2005−37167)
【出願日】平成17年2月15日(2005.2.15)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】