説明

移動体

【課題】歩行者の意思に応じて移動速度を任意に可変することができ、歩行者の安全を確保することができる歩行者の歩行を補助する移動体を提供する。
【解決手段】移動体1は、本体部2と、電動機6と、回転軸6aの回転により回転する駆動輪3と、一端8aが本体部2に軸支され、他端8bに歩行者が握る握り部8cを有し、一端8aを中心に前後回りに自在に揺動する杖8と、2次電池5から電動機6に供給される電流を制御する駆動輪制御装置20とを備える。移動体1は、杖8の揺動角度を検出する角度センサ8eと、杖8に作用する軸力を検出する軸力センサ8fを有する。駆動輪制御装置20は、角度信号および軸力信号に基づき、電動機6に供給される電流の電流値を演算し、指令信号を出力する制御演算部と、制御演算部から供給される指令信号に基づき、2次電池5から電動機6に供給される電流を制御するドライバ部とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、移動体に対し、特に、歩行者の歩行を補助する移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
足腰の弱くなった人や視覚障害等の歩行者の歩行を補助する装置として、駆動輪と駆動輪を駆動する電動機を搭載し、駆動輪の駆動により移動する移動体が提案されている。これらの移動体には、歩行者が握る握り部を備えた杖が備えられており、移動体本体または杖には、杖に作用する力や杖の角度を検出するセンサが備えられている。そして、これらのセンサで検出される杖に作用する力や杖の角度により、移動体の移動方向や速度が制御される(例えば、特許文献1、特許文献2)。
【0003】
特許文献1に提案されている移動体は、杖の角度を検出する回転センサが移動体本体に備えられており、杖の移動体本体に対する角度が回転センサにより検出されている。そして、移動体の前進または停止が検出された角度に基づき制御される。
【0004】
特許文献2に提案されている移動体は、杖に作用する力を検出する軸力センサが杖に備えられており、歩行者が杖に加える力が軸力センサにより検出されている。そして、例えば、歩行者が杖の軸方向に加える力の大きさにより駆動輪のトルクを制御している。
【特許文献1】特開平9−327315号公報
【特許文献2】特開2001−212189号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に提案されている移動体は、前進または停止の動作をするのみでおり、歩行者の意思に応じて移動速度を可変することができない。一方、特許文献2に提案されている移動体は、歩行者が杖の軸方向に加える力の大きさにより駆動輪のトルクを制御しているため、歩行者が路肩等でつまずいた場合など歩行者の意思に反する力が杖に生じた場合に、不用意な動作をするおそれがある。そのため、歩行者の安全を図れないおそれがある。
【0006】
そこで、本発明においては、歩行者の意思に応じて移動速度を任意に可変することができ、歩行者の安全を確保することができる歩行者の歩行を補助する移動体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の移動体は、本体部と、前記本体部に取り付けられた2次電池と、前記本体部に取り付けられ、回転軸を有し、前記2次電池から供給される電流により前記回転軸が回転する電動機と、前記本体部に取り付けられ、前記電動機の前記回転軸に連結され、前記回転軸の回転により回転する駆動輪と、棒状に形成され、一端が前記本体部に軸支され、他端に歩行者が握る握り部を有し、前記一端を中心に前記本体部の移動方向の前後回りに自在に揺動する杖と、前記2次電池から前記電動機に供給される電流を制御する駆動輪制御装置とを備え、歩行者の歩行方向に移動し、歩行者の歩行を補助する移動体において、前記移動体は、前記杖の前記一端と前記本体部の間に配置され、前記杖の揺動角度を検出し、前記揺動角度に対応する角度信号を出力する角度センサを有し、前記杖は、前記杖に作用する軸力を検出し、前記軸力に対応する軸力信号を出力する軸力センサを有し、前記駆動輪制御装置は、前記角度センサおよび前記軸力センサに接続され、前記制御演算部、前記2次電池および前記電動機に接続され、前記制御演算部から供給される前記指令信号に基づき、前記2次電池から前記電動機に供給される電流を制御するドライバ部とを有する。
【発明の効果】
【0008】
このように、本発明の移動体は、角度センサから供給される角度信号および軸力センサから供給される軸力信号の双方の信号に基づき、移動体を駆動する電動機の電流を制御する。このため、本発明の移動体は、歩行者の意思に応じて移動速度を任意に可変することができ、歩行者の安全を確保することができる歩行者の歩行を補助する移動体となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、この発明の実施形態における移動体1を図1に基づいて説明する。図1は、本実施形態の移動体の側面図である。移動体1は、板状の本体部2と、本体部2の上面2aの進行方向Dfの前方に取り付けられた2次電池5と、本体部2の下面2bの略中央に取り付けられた電動機6とを備える。電動機6は回転軸6aを有し、2次電池5から供給される電流により電動機6の回転軸6aは回転される。
【0010】
本体部2の下面2bの進行方向Dfの後方には駆動輪3が配置されており、駆動輪3は、本体部2に取り付けられたシャフト3bに回転自在に軸支されている。また、駆動輪3の側面3bにはプーリ3aが設けられており、電動機6の回転軸6aと駆動輪3のプーリ3aにベルト7が掛け回されている。このベルト7を介して電動機6の回転軸6aの回転が駆動輪3に伝達され、駆動輪3は回転軸6aの回転により回転する。
【0011】
本体部2の上面2aの進行方向Dfの前方には操舵装置10が取り付けられるとともに、操舵装置10には本体部2を挟んで本体部2の下面2bに操舵アーム10aが取り付けられている。操舵アーム10aには操舵軸10bが取り付けられており、操舵軸10bに舵角輪4が回転自在に取り付けられている。操舵アーム10aは操舵装置10により揺動し、この操舵アーム10aの揺動により、舵角輪4は、任意の舵角位置に配置される。
【0012】
本体部2の上面2aには、歩行者Hが荷物を置くための板状の荷台11が取り付けられている。
【0013】
本体部2の上面2aの略中央には、コの字形状に形成された取り付け部2cが、コの字形状の開口部2dを紙面上方に向けて取り付けられており、開口部2dに摺動軸2eが取り付けられている。
【0014】
本体部2には棒状に形成された杖8が取り付けられている。杖8の一端8aは、開口部2dに取り付けられた摺動軸2eに揺動自在に取り付けられており、摺動軸2eを介して本体部2に軸支される。このように軸支されることで、杖8は本体部2の走行方向(移動方向)Dfの前後回りに自在に揺動する。
【0015】
杖8の他端8bには、歩行者Hが握る握り部8cが設けられているとともに、握り部8cの上面にはタッチスイッチ8dが取り付けられている。このタッチスイッチ8dにより、歩行者が握り部8cを握っているか否かが判断される。
【0016】
本体部2に開口部2dを介して取り付けられた摺動軸2eと、杖8の一端8aとの間には、角度センサ8eが取り付けられている。この角度センサ8eにより、本体部2に対する杖8の走行方向(移動方向)Dfの前後回りの揺動角度を検出し、揺動角度に対応ずる角度信号を出力する。
【0017】
杖8の下方には、軸力センサ8fが取り付けされており、この軸力センサ8fにより歩行者Hが握り部8cを介して杖8に加える軸力を検出し、軸力に対応する軸力信号を出力する。なお、歩行者Hが握り部8cを押し、杖8に圧縮方向の軸力が作用する場合には、圧縮方向の軸力に対応する「正」の信号である第1の軸力信号が出力される。一方、歩行者Hが握り部8cを引き、杖8に引張り方向の軸力が作用する場合には、引張り方向の軸力に対応する「負」の信号である第2の軸力信号が出力される。
【0018】
杖8の上方には、操舵角センサ8gが取り付けられており、この操舵角センサ8gにより歩行者が握り部8cを杖8の軸回り方向に回転する角度を検出し、操舵角信号を出力する。
【0019】
本体部2の上面2aの後方には、駆動制御装置20が取り付けられており、駆動制御装置20には電源スイッチ9が取り付けられている。駆動制御装置20には、電源スイッチ9、タッチスイッチ8d、角度センサ8e、軸力センサ8f、操舵角センサ8g、2次電池5および電動機6に接続されており、角度センサ8e等から供給される各種信号に基づき、2次転地5から電動機6に供給される電流を制御する。なお、駆動制御装置20の構成および動作については後述する。
【0020】
図2に本実施形態の移動体1の使用例を示す。地面Gを歩行する歩行者Hは、移動体1に揺動自在に取り付けられた杖8の他端8bに取り付けられた握り部8cを、手Haで握り、歩行方向Dfに移動体1を押し進める。このとき、移動体1は、角度センサ8e等により、杖8の揺動角度等の状態を検出し、これらの状態に基づき駆動輪3の回転力を制御し、歩行者Hの歩行を補助する動作を行う。
【0021】
次に、図3に基づき駆動制御装置20の構成および動作について説明する。駆動制御装置20は、制御演算部21およびドライバ22を備えている。制御演算部21には、電源スイッチ9およびタッチスイッチ8dが接続されており、電源スイッチ9がオンとなり、かつ、歩行者Hが握り部8cを握りタッチスイッチ8dがオンとなったときに動作し、それ以外の場合には動作が禁止される。
【0022】
制御演算部21には、角度センサ8eおよび軸力センサ8fが接続されており、制御演算部21は、これらのセンサ(8e、8f)からそれぞれ供給される角度信号および軸力信号に基づき、電動機に供給する電流の電流値を演算し、この演算結果に基づく指令信号を出力する。
【0023】
ドライバ部22は、制御演算部21、2次電池5および電動機6に接続されており、制御演算部21から供給される指令信号に基づき、2次電池5から電動機6に供給される電流を制御する。
【0024】
制御演算部21には、さらに操舵角センサ8gが接続されており、制御演算部21は、操舵角センサ8gから供給される操舵角信号に基づき、操舵輪の角度を演算し、制御演算部21に接続された舵角駆動装置30に舵角信号を供給する。舵角駆動装置30は、2次電池5に接続されており、2次電池5から供給される電流により駆動され、舵角駆動装置30から供給される舵角信号に基づき舵角輪4を所定の舵角位置に配置する。
【0025】
図4に基づき、駆動制御装置20において、電動機6の制御に関する部分の構成を詳説する。制御演算部21には、第1のメモリ21a、第1の比較手段21b、第2のメモリ21c、第2の比較手段21dおよび指令信号生成手段21eが備えられている。
【0026】
第1の比較手段21aは、軸力センサ8f、第1のメモリ21aおよび指令信号生成手段21eに接続されている。第1のメモリ21aには、軸力信号の値として「ゼロ」が記憶されている。
【0027】
第1の比較手段21aは、第1のメモリ21aに記憶されている値および軸力センサ8fから供給される軸力信号を参照し、軸力センサ8fから供給される軸力信号が「ゼロ」を超えるか否か、すなわち、軸力信号が「正」の第1の軸力信号であるか「負」の第2の軸力信号であるか判定する。そして、その判定結果を指令信号生成手段21eに供給する。
【0028】
第2の比較手段21dは、角度センサ8e、第2のメモリ21cおよび指令信号生成手段21eに接続されている。第2のメモリ21cには、角度信号の値として、第1乃至第5の角度信号が記憶されている。第2の角度信号は、第1の角度信号よりも小さく、第3の角度信号よりも小さい。また、第5の角度信号は、第4の角度信号よりも小さい。
【0029】
第2の比較手段21dは、第2のメモリ21cに記憶されている値および角度センサ8eから供給される角度信号を参照し、角度センサ8eから供給される角度信号が第2のメモリ21cに記憶されている値を超えるか否かを判定する。そして、その判定結果を指令信号生成手段21eに供給する。
【0030】
指令信号生成手段21eは、軸力センサ8f、角度センサ8e、第1の比較手段21bおよび第2の比較手段21dに接続されており、第1及び第2の比較手段21b、21dからの判定結果に基づき、電流値の演算の処理モードを変更する。そして、各処理モードに対応し、軸力センサ8fから供給される軸力信号および角度センサ8eから供給される角度信号に応じて、電流値を演算し、演算結果に基づく指令信号をドライバ部22に供給する。
【0031】
次に図5および図6に基づき、歩行者Hが握り部8cを押している場合、すなわち、軸力センサ8fが圧縮方向に軸力を検出し、軸力センサ8fから圧縮方向の軸力に対応する「正」の値である第1の軸力信号F+が駆動制御装置20に供給されたときにおける駆動制御装置20および電動機6の動作について説明する。
【0032】
図5は、握り部に作用する力および本体部に対する杖の揺動角度を示す移動体の側面図であり、図6は、揺動角度と電動機の回転軸の回転力との関係を示す図である。揺動角度θは、板本体部2の上面2aに対し鉛直方向に位置する基準位置L1から杖8の中心線Lsまでの角度をいい、基準位置L1から移動体1の移動方向Dfの後方回りを「正」とする。
【0033】
軸力センサ8fから第1の軸力信号が第1の比較手段21bに供給された場合、その旨の信号が、第1の比較手段21bから指令信号生成手段21eに供給される。このとき、指令信号生成手段21eは、杖8の本体部2に対する揺動角度θの大小等に応じ、アシストモード、第1のブレーキモード、第1の遷移モードまたは第2の遷移モードのいずれか一つの処理モードにて動作する。
【0034】
上述のように第2のメモリ21cには、第1乃至第3の角度が記憶されており、第2の比較手段21dにて、角度センサ8eから供給される角度信号と第1乃至第3の角度とを比較し、その比較結果が指令信号生成手段21eに供給される。そして、その結果に基づき各処理モードのいずれか一つが、指令信号生成手段21eで選択され実行される。
【0035】
アシストモードは、杖8が、基準位置L1から移動体1の移動方向Dfの後方回りに傾倒し、基準位置L1から第1の角度θ1の間で揺動し、角度センサ8eから第1の角度θ1以下の揺動角度θに対応する角度信号が制御演算部21に供給された場合に、指令信号生成手段21eで実行される処理モードである。
【0036】
アシストモードでは、揺動角度θ(角度信号)の大きさの増減に対応し、電動機6の回転軸6aの駆動方向の回転力を、第1の軸力信号F+の大きさに比例して増減させる指令信号をドライバ部22に供給する処理モードである。このときの駆動方向の回転力Trは、Tr=(F+)×k1×sinθ×rで示される。
【0037】
ここで、「駆動方向の回転力」とは、歩行者Hの移動方向Dfに移動体1を進めるように駆動輪3を回転させるように、電動機6の回転軸6aを回転させたときに生じるトルクである。このように「駆動方向の回転力」が電動機6の回転軸6aに生じると、移動体1により、歩行者Hは歩行方向への歩みを進めることを補助される。
【0038】
第1のブレーキモードは、杖8が、基準位置L1から移動体1の移動方向Dfの後方回りに傾倒し、第1の角度θ1を超えて揺動し、角度センサ8eから第1の角度θ1以上の揺動角度θに対応する角度信号が制御演算部21に供給された場合に、指令信号生成手段21eで実行される処理モードである。
【0039】
第1のブレーキでは、揺動角度θ(角度信号)の大きさの増減に対応し、電動機6の回転軸6aの制動方向の回転力を、第1の軸力信号F+の大きさに比例して増減させる指令信号をドライバ部22に供給する処理モードである。このときの駆動方向の回転力Trは、Tr=−(F+)×k2×sinθ×rで示される。
【0040】
ここで、「制動方向の回転力」とは、歩行者Hの移動方向Dfに移動体1を進むのを阻止するよう駆動輪3を回転させるように、電動機6の回転軸6aを回転させたときに生じるトルクである。このように「制動方向の回転力」が電動機6の回転軸6aに生じると、移動体1により、歩行者Hが歩行方向への不用意に歩みを進めてしまうことを防止できる。
【0041】
第1の遷移モードは、杖8が、基準位置L1から移動体1の移動方向Dfの後方回りに傾倒し、第1の角度θ1を超えた後に、角度センサ8eから第2の角度θ2と第1の角度θ1との間の揺動角度θに対応する角度信号が制御演算部21に供給された場合に、指令信号生成手段21eで実行される処理モードである。
【0042】
第1の遷移モードでは、揺動角度θ(角度信号)の大きさの増減に対応し、電動機6の回転軸6aの制動方向の回転力を、第1の軸力信号F+の大きさに比例して増減させる指令信号をドライバ部22に供給する処理モードである。このときの駆動方向の回転力Trは、Tr=−(F+)×k3×sin(θ−θ2)×rで示される。
【0043】
第2の遷移モードは、杖8が、基準位置L1から移動体1の移動方向Dfの後方回りに傾倒し、第1の角度θ1を超えた後に、角度センサ8eから第3の角度θ3と第2の角度θ2との間の揺動角度θに対応する角度信号が制御演算部21に供給された場合に、指令信号生成手段21eで実行される処理モードである。
【0044】
第2の遷移モードでは、揺動角度θ(角度信号)の大きさの増大とともに、電動機6の回転軸6aの制動方向の回転力を減少させ、揺動角度θ(角度信号)の大きさの減少とともに、電動機6の回転軸6aの制動方向の回転力を増大させる指令信号をドライバ部22に供給する処理モードである。このとき制動方向の回転力は、第1の軸力信号F+の大きさに比例する。
【0045】
制御演算部21は、杖8の揺動角度θが、第1の角度θ1を超え、さらに第2の遷移モードとなった後に、第3の角度θ3未満となった場合には、再度アシストモードにて動作する。
【0046】
このように、アシストモードでは、杖8の揺動角度θの増減に対応して駆動方向の回転力を増減させることで、歩行者Hが自らの意思で杖8を傾けることにより、移動体1の速度を可変させることが可能である。また、歩行者Hがつまづいた場合など、杖8が必要以上に傾いた場合には、第1のブレーキモードとなり移動体1の速度を減速させることにより、移動体1が歩行者Hから遠ざかってしまうことを防止でき安全である。
【0047】
さらに、第1のブレーキモードとなったからアシストモードへの切替には第1および第2の遷移モードを設け、移動体1が急発進することが防止されており、歩行者Hにとって安全である。また、駆動方向および制動方向の回転力は、軸力センサ8fからの軸力信号に比例して増減するよう設定されているため、杖8の揺動角度のみで移動体1の速度を可変する場合よりも、さらに歩行者Hが自らの意思で、移動体1の速度を可変させることが可能である。
【0048】
次に図7および図8に基づき、歩行者Hが握り部8cを引いている場合、すなわち、軸力センサ8fが引張り方向に軸力を検出し、軸力センサ8fから引張り方向の軸力に対応する「負」の値である第2の軸力信号F−が駆動制御装置20に供給されたときにおける駆動制御装置20および電動機6の動作について説明する。
【0049】
図7は、握り部に作用する力および本体部に対する杖の揺動角度を示す移動体の側面図であり、図8は、揺動角度と電動機の回転軸の回転力との関係を示す図である。図7では図5と同様に、揺動角度θは、板本体部2の上面2aに対し鉛直方向に位置する基準位置L1から杖8の中心線Lsまでの角度をいい、基準位置L1から移動体1の移動方向Dfの後方回りを「正」とする。
【0050】
軸力センサ8fから第2の軸力信号F−が第1の比較手段21bに供給された場合、その旨の信号が、第1の比較手段21bから指令信号生成手段21eに供給される。このとき、指令信号生成手段21eは、杖8の本体部2に対する揺動角度θの大小等に応じ、フリーモード、第2のブレーキモードまたは第3の遷移モードのいずれか一つの処理モードにて動作する。
【0051】
上述のように第2のメモリ21cには、第1乃至第3の角度が記憶されており、第2の比較手段21dにて、角度センサ8eから供給される角度信号と第1乃至第3の角度とを比較し、その比較結果が指令信号生成手段21eに供給される。そして、その結果に基づき各処理モードのいずれか一つが、指令信号生成手段21eで選択され実行される。
【0052】
フリーモードは、杖8が、基準位置L1から移動体1の移動方向Dfの後方回りに傾倒し、基準位置L1から第4の角度θ4の間で揺動し、角度センサ8eから第4の角度θ4以下の揺動角度θに対応する角度信号が制御演算部21に供給された場合に、指令信号生成手段21eで実行される処理モードである。
【0053】
フリーモードでは、電動機6の回転軸6aの駆動方向および制動方向の回転力を「ゼロ」にすべく、ゼロ信号の指令信号をドライバ部22に供給する処理モードである。このときの駆動方向の回転力Trは、Tr=0で示される。
【0054】
第2のブレーキモードは、杖8が、基準位置L1から移動体1の移動方向Dfの後方回りに傾倒し、第4の角度θ4を超えて揺動し、角度センサ8eから第4の角度θ4以上の揺動角度θに対応する角度信号が制御演算部21に供給された場合に、指令信号生成手段21eで実行される処理モードである。
【0055】
ブレーキでは、揺動角度θ(角度信号)の大きさの増減に対応し、電動機6の回転軸6aの制動方向の回転力を、第2の軸力信号F−の大きさに比例して増減させる指令信号をドライバ部22に供給する処理モードである。このときの駆動方向の回転力Trは、Tr=−(F−)×k4×sinθ×rで示される。
【0056】
第3の遷移モードは、杖8が、基準位置L1から移動体1の移動方向Dfの後方回りに傾倒し、第4の角度θ4を超えた後に、角度センサ8eから第5の角度θ5と第4の角度θ4との間の揺動角度θに対応する角度信号が制御演算部21に供給された場合に、指令信号生成手段21eで実行される処理モードである。
【0057】
第3の遷移モードでは、揺動角度θ(角度信号)の大きさの増減に対応し、電動機6の回転軸6aの制動方向の回転力を、第2の軸力信号F−の大きさに比例して増減させる指令信号をドライバ部22に供給する処理モードである。このときの駆動方向の回転力Trは、Tr=−(F−)×k3×sin(θ−θ5)×rで示される。
【0058】
制御演算部21は、杖8の揺動角度θが、第4の角度θ4を超え、さらに第3の遷移モードとなった後に、第5の角度θ5未満となった場合には、再度フリーモードにて動作する。
【0059】
このように、歩行者Hが握り部8cを引張り、軸力センサ8fから第2の軸力信号F−が出力されているときは、原則としてフリーモードとしている。これにより、歩行者Hが移動体1を引き寄せたに歩行者Hの意思に逆らうことなく、移動体1が歩行者Hの近傍に移動させることができる。また、杖8を大きく傾けたときは、第2のブレーキモードとなることにより、歩行者Hが不用意に杖8を引いたときに移動体1が急に近づくことがなく安全である。さらに、ひとたび第2のブレーキモードとなった後には、第3の遷移モードを経由させることとしたため、ブレーキが急に解除されることがなく安全である。
【0060】
以上のように、本実施形態の移動体1は、角度センサ8eから供給される角度信号および軸力センサ8fから供給される軸力信号の双方の信号に基づき、移動体1を駆動する電動機6の動作を制御する。このため、本発明の移動体は、歩行者の意思に応じて移動速度を任意に可変することができ、歩行者の安全を確保することができる歩行者の歩行を補助する移動体となる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施形態における移動体の側面図である。
【図2】本発明の実施形態における移動体の使用例である。
【図3】本発明の実施形態における移動体の駆動制御装置のブロック図である。
【図4】本発明の実施形態における移動体の制御演算部のブロック図である。
【図5】握り部に作用する圧縮方向の軸力および本体部に対する杖の揺動角度を示す移動体の側面図である。
【図6】圧縮方向の軸力が杖に作用する場合における揺動角度と電動機の回転軸の回転力との関係を示す図である。
【図7】握り部に作用する引張り方向の軸力および本体部に対する杖の揺動角度を示す移動体の側面図である。
【図8】引張り方向の軸力が杖に作用する場合における揺動角度と電動機の回転軸の回転力との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
1 移動体
2 本体部
3 駆動輪
5 2次電池
6 電動機
6a 回転軸
8 杖
8a 一端
8b 他端
8c 握り部
8e 角度センサ
8f軸力センサ
20 駆動制御装置
21 制御演算部
22 ドライバ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体部と、
前記本体部に取り付けられた2次電池と、
前記本体部に取り付けられ、回転軸を有し、前記2次電池から供給される電流により前記回転軸が回転する電動機と、
前記本体部に取り付けられ、前記電動機の前記回転軸に連結され、前記回転軸の回転により回転する駆動輪と、
棒状に形成され、一端が前記本体部に軸支され、他端に歩行者が握る握り部を有し、前記一端を中心に前記本体部の移動方向の前後回りに自在に揺動する杖と、
前記2次電池から前記電動機に供給される電流を制御する駆動輪制御装置とを備え、歩行者の歩行方向に移動し、歩行者の歩行を補助する移動体において、
前記移動体は、前記杖の前記一端と前記本体部の間に配置され、前記杖の揺動角度を検出し、前記揺動角度に対応する角度信号を出力する角度センサを有し、
前記杖は、前記杖に作用する軸力を検出し、前記軸力に対応する軸力信号を出力する軸力センサを有し、
前記駆動輪制御装置は、
前記角度センサおよび前記軸力センサに接続され、前記角度センサから供給される角度信号および前記軸力センサから供給される軸力信号に基づき、前記電動機に供給される電流の電流値を演算し、この演算結果に基づく指令信号を出力する制御演算部と、
前記制御演算部、前記2次電池および前記電動機に接続され、前記制御演算部から供給される前記指令信号に基づき、前記2次電池から前記電動機に供給される電流を制御するドライバ部とを有することを特徴とする移動体。
【請求項2】
前記制御演算部は、
前記軸力センサが圧縮方向の軸力を検出し、圧縮方向の軸力に対応する第1の軸力信号が前記軸力センサから供給されたときにおいて、
前記杖が、予め定められた基準位置から前記移動体の移動方向の後方回りに傾倒し、前記基準位置から予め定められた第1の角度の間で揺動し、前記角度センサから前記第1の角度以下の揺動角度に対応する角度信号が前記制御演算部に供給される場合には、前記角度信号の大きさの増減に対応し、前記電動機の回転軸の駆動方向の回転力を増減させる前記指令信号を前記ドライバ部に供給するアシストモードにて動作し、
前記杖が、前記第1の角度を超えて揺動し、前記角度センサから前記第1の角度を超えた揺動角度に対応する角度信号が前記制御演算部に供給される場合には、前記角度信号の大きさの増減とともに前記電動機の回転軸の制動方向の回転力を増減させる前記指令信号を前記ドライバ部に供給する第1のブレーキモードにて動作し、
前記杖が、前記第1の角度を超えた後に、前記第1の角度よりも小さい予め定められた第2の角度から前記第1の角度の間で揺動し、前記角度センサから前記第2の角度と前記第1の角度の間の揺動角度に対応する角度信号が前記制御演算部に供給される場合には、前記角度信号の大きさの増減とともに前記電動機の回転軸の制動方向の回転力を増減させる前記指令信号を前記ドライバ部に供給する第1の遷移モードにて動作し、
前記杖が、前記第1の角度を超えた後に、前記第2の角度よりも小さい予め定められた第3の角度から前記第2の角度の間で揺動し、前記角度センサから前記第3の角度と前記第2の角度の間の揺動角度に対応する角度信号が前記制御演算部に供給される場合には、前記角度信号の大きさの増大とともに前記電動機の回転軸の駆動方向の回転力を減少させ、前記角度信号の大きさの減少とともに前記電動機の回転軸の駆動方向の回転力を増大させる前記指令信号を前記ドライバ部に供給する第2の遷移モードにて動作し、
前記杖が前記第1の角度を超えた後に前記第3の角度の未満で揺動し、前記角度センサから前記第3の角度未満の揺動角度に対応する角度信号が前記制御演算部に供給される場合には、再度、前記アシストモードにて動作することを特徴とする請求項1に記載の移動体。
【請求項3】
前記制御演算部は、
前記第1の軸力信号の大きさに比例し、前記電動機の回転軸の駆動方向または制動方向の回転力を増減させる前記指令信号を前記ドライバ部に供給することを特徴とする請求項2に記載の移動体。
【請求項4】
前記制御演算部は、
前記軸力センサが引張り方向の軸力を検出し、圧縮方向の軸力に対応する第1の軸力信号が前記軸力センサから供給されたときにおいて、
前記杖が、前記基準角度から前記移動体の移動方向の後方回りに傾倒し、前記基準角度から予め定められた第4の角度の間で揺動し、前記角度センサから前記第4の角度以下の揺動角度に対応する角度信号が前記制御演算部に供給される場合には、前記電動機の回転軸の駆動方向および制動方向の回転力をゼロにさせるべく、ゼロ信号の指令信号を前記ドライバ部に供給するフリーモードにて動作し、
前記杖が前記第4の角度を超えて揺動し、前記角度センサから前記第4の角度を超えた揺動角度に対応する角度信号が前記制御演算部に供給される場合には、前記角度信号の大きさの増減とともに前記電動機の回転軸の制動方向の回転力を増減させる前記指令信号を前記ドライバ部に供給する第2のブレーキモードにて動作し、
前記杖が前記第4の角度を超えた後に、前記第4の角度よりも小さい予め定められた第5の角度から前記第4の角度の間で揺動し、前記角度センサから前記第5の角度と前記第4の角度の間の揺動角度に対応する角度信号が前記制御演算部に供給される場合には、前記角度信号の大きさの増減とともに前記電動機の回転軸の制動方向の回転力を増減させる前記指令信号を前記ドライバ部に供給する第3の遷移モードにて動作し、
前記杖が前記第4の角度を超えた後に前記第5の角度の未満で揺動し、前記角度センサから前記第5の角度未満の揺動角度に対応する角度信号が前記制御演算部に供給される場合には、再度、前記フリーモードにて動作することを特徴とする請求項3に記載の移動体。
【請求項5】
前記制御演算部は、
前記第2の軸力信号の大きさに比例し、前記電動機の回転軸の駆動方向または制動方向の回転力を増減させる前記指令信号を前記ドライバ部に供給することを特徴とする請求項4に記載の移動体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−125221(P2010−125221A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−305396(P2008−305396)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000144027)株式会社ミツバ (2,083)
【Fターム(参考)】