説明

移動作業装置

【課題】 足場等を設置することなく、且つ過度にスペースを確保する必要なく、構造物の周りで構造物への接近状態を維持しながら構造物に対する位置関係を自由に変えられ、構造物に対し迅速に調査・診断等の各種作業を実行できる移動作業装置を提供する。
【解決手段】 構造物80を取囲む略環状体を形成し、構造物80に多数のローラ12を接触させつつ、アクチュエータ21での調整に基づいて複数のローラ12で構造物を締付ける状態を得られる一方、さらにローラ12を回転駆動可能としていることから、略環状体である装置が構造物の所定高さ位置に取付いた状態で、装置全体を構造物に対し所望の向きへ移動させられ、作業部の構造物に対する作業を、作業部の位置を変えながら実行でき、確実に作業の自動化が図れる上、足場や枠等が不要でこれらの設置及び解体の手間もかからず、作業全体で手間やコスト等の削減を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱や煙突、橋脚等の構造物に対し、その周囲から調査・診断や、補修等の工事を実行する移動作業装置に関し、特に、構造物を取囲んで配置され、周囲地上部からの支持を要さず自立した状態で構造物に対し適宜移動しつつ各種作業を実行可能な移動作業装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、既設の大型コンクリート構造物の経年劣化への対策が問題となっているが、調査・診断により発見された劣化に対し、大がかりな構造物建替え工事の周囲環境に与える影響に対する懸念の他、工事技術の進歩により一部補修でも十分な強度が確保可能になったこと等から、劣化が著しく建替え以外では対応できない場合を除いて、建替えを行わずに補修で対応する例が増えている。
【0003】
特に、道路や鉄道等のインフラとして重要な構築物の一部を占める橋脚等の垂直に起立した柱状構造物においては、劣化が深刻な事態に至る前に発見できるよう調査、診断が十分な頻度で行われており、劣化が発見された場合は、この劣化への対策として速やかに補修工事がなされているが、この他、前記柱状構造物の場合は、安全性に係る基準の変更等に合わせて、強度をさらに増大させて安全性を高める補強工事も行われるようになっている。
【0004】
こうした補修や補強等の工事や、これらに先立つ調査、診断の作業を、垂直に起立した柱状構造物に対して行う場合には、高所作業車のバケットに作業者が乗ったり、構造物の周囲に足場や枠を構築した上で、構造物近傍から作業者が適切な作業用機器を用いて構造物に対する作業を行うのが一般的である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の柱状構造物の調査、診断等の作業にあたっては、高所作業車を使用しない限り、構造物の高い部位に対する作業を行うために、足場を設置する必要があったことから、作業自体の手間に加えて、足場の設置や解体に係るコストと時間がかかるという課題を有していた。
【0006】
このうち、作業者が行う調査、診断等の作業について、こうした作業を自動化する作業装置を導入し、作業の省力化を図ることも考えられるが、この作業装置の移動は、装置を移動可能な状態で地上側から支持する足場や枠等の構造上の制約から、水平もしくは垂直方向に限られ、一度に構造物全体に対して作業を行うことができず、作業を一連に行えるのは最大でも構造物の一面に対してのみとなる。このため、作業装置が移動可能な範囲に位置する構造物の所定部位に対する作業を完了し、続いて移動範囲外にある残りの作業対象部位に対する作業を行おうとする際には、作業装置にとどまらず足場や枠についても移設、すなわち解体並びに再構築する必要があった。こうして作業中に足場等の設置と解体の繰返しが発生することとなり、これらに非常に手間がかかるという問題がある。
【0007】
さらに、橋脚等の柱状構造物には、円柱状や楕円柱状、角柱状などの形状があり、作業装置を適切に移動させるためには、構造物の形状に合わせてそれぞれ異なる形態の足場や枠を構築する必要があり、また作業装置も異なるものを使用しなければならない場合もあることから、作業に係るコストが増大することとなる。結果として、構造物に対して地上側から足場等を組んで、自動的に作業を行う作業装置を用いるのは、手間やコスト等の削減にはつながらず、現実的な手法とは言い難かった。
【0008】
一方、高所作業車を用いる場合は、構造物に対する各種作業を連続的に行えるが、作業の間、ブームやバケット位置を保持するために高所作業車を作動状態に維持しておく必要があり、運用のコストが極めて大であり、また、地上側に高所作業車のスペースを確保すると共に、周囲空間に高所作業車のブームやバケットを無理なく移動させられるスペースを確保する必要があり、あらゆる場所で利用することはできないという課題を有していた。
【0009】
本発明は前記課題を解決するためになされたもので、構造物周囲を取囲む足場等を設置することなく、且つ構造物周囲の地上部に過度にスペースを確保する必要なく、構造物の周りで構造物への接近状態を維持しながら構造物に対する位置関係を自由に変えられ、構造物に対し迅速に調査・診断等の各種作業を実行できる移動作業装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る移動作業装置は、二つ以上の相互に連結されるリンクフレームを介して間隔調整自在に連結される複数の本体フレームと、当該各本体フレームに対しそれぞれ傾動自在に配置される一又は複数のローラフレームと、当該各ローラフレームに回動自在に支持され、他の物体表面に接触して転動可能とされるローラと、前記ローラフレームの全部又は一部に取付けられてローラと連結され、当該連結されたローラをローラフレームに対し回動させるローラ駆動部と、前記本体フレームの全部又は一部に取付けられてローラフレームと連結され、当該連結されたローラフレームを本体フレームに対し傾動させ、ローラの回動軸の向きを変化させるローラ方向調整部と、前記各本体フレーム間にあるリンクフレーム同士の相対位置関係を変化させて各本体フレーム間の間隔を調整する複数のアクチュエータと、前記本体フレームに対し固定又は移動可能として配設され、ローラの当接する物体に対する所定の作業を実行する作業部とを備え、前記本体フレームとリンクフレームが、環状に連結され且つ前記ローラを環内周側に位置させる配置とされて所定の柱状の構造物を取囲む略環状体をなし、前記アクチュエータによる本体フレーム間隔調整に伴って各本体フレームのローラが前記構造物表面に当接して当該ローラの内側の構造物を締付け、構造物の所定高さ位置に前記略環状体が落下することなくとどまる自立状態を得るものである。
【0011】
このように本発明によれば、回動方向調整可能なローラを備える複数の本体フレームとリンクフレームで構造物の周囲を取囲む略環状体を形成し、構造物に多数のローラを接触させつつ、アクチュエータでの本体フレーム間隔調整に基づいて本体フレーム間に所定の緊張力を発生させると共に各ローラに構造物に対する押圧力を発生させて、複数のローラで構造物を締付ける状態を得られる一方、さらにローラを回転駆動可能としていることにより、略環状体である装置が構造物の所定高さ位置に取付いた状態を保つことができ、そのままの状態でローラの向きを制御しつつローラを駆動すれば、装置全体を構造物に対し落下させることなく所望の向きへ移動させられることとなり、作業部の構造物に対する作業を、作業部の位置を変えながら構造物のあらゆる位置に対して実行でき、装置を一旦構造物周囲に設置すれば着脱を繰返すことなく構造物の全体にわたって作業を行え、確実に作業の自動化が図れる上、足場や枠等が不要でこれらの設置及び解体の手間もかからず、作業全体で手間やコスト等の削減を実現できる。また、装置は構造物周囲のみに設置されることで、作業にあたって大きなスペースも要さず、あらゆる作業現場で問題なく適用でき、構造物に対する各種作業の効率化が図れる。
【0012】
また、本発明に係る移動作業装置は必要に応じて、複数のレール状部材を端部同士で傾動可能に連結して環状に連続する状態として形成されてなり、所定箇所を前記本体フレームに取付けられて構造物周囲を取囲む状態として配設されるレール部を備え、前記作業部が、前記レール部に一部を常時接触させ、レール部に沿って構造物周囲を移動可能とされるものである。
【0013】
このように本発明によれば、環状に連続して構造物周囲を取囲むレール部を配設すると共に、作業部をこのレール部に沿って移動可能とし、構造物に対し作業部を構造物の周方向に動かそうとする場合には、作業部をレール部に沿って移動させて対応できることにより、作業部の移動方向によっては作業部のみをレール部に沿って移動させればよく、この作業部の移動に際して装置全体を動かさずに済むこととなり、作業の際における作業部の移動時間や移動にかかるコストを低減できる。
【0014】
また、本発明に係る移動作業装置は必要に応じて、前記複数の本体フレームとリンクフレームを環状に連結してなる前記略環状体が、本体フレーム上下端部に取付けられる所定の連結用部材を介して複数段上下方向に重ねた状態で一体に連結されて構造物周囲に配置されるものである。
【0015】
このように本発明によれば、本体フレームとリンクフレームを複数連結してなる略環状体を複数段重ねた状態で連結して一体化させ、構造物周囲に配置して構造物に対し移動させることにより、構造物に当接させられるローラの数を増やして、複数ローラでの構造物の締付けに伴って装置全体を構造物周囲に保持する力が十分確保でき、柱状構造物の断面積が大きい場合や、作業部が大型化、大重量化した場合でも、装置全体を構造物に対し落下させることなく所望の向きへ移動させられる状態を確実に実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(本発明の第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態に係る移動作業装置を図1ないし図7に基づいて説明する。図1は本実施形態に係る移動作業装置の概略平面図、図2は本実施形態に係る移動作業装置の要部正面図、図3は本実施形態に係る移動作業装置における本体フレームの概略側面図、図4は本実施形態に係る移動作業装置における作業部の移動状態説明図、図5は本実施形態に係る移動作業装置における本体フレームとリンクフレームの連結状態説明図、図6は本実施形態に係る移動作業装置におけるローラの向き調整状態説明図、図7は本実施形態に係る移動作業装置の構造物周囲移動状態説明図である。
【0017】
前記各図に示すように、本実施形態に係る移動作業装置1は、二つの相互に連結されるリンクフレーム20を介して間隔調整自在に連結される複数の本体フレーム10と、この各本体フレーム10に対しそれぞれ傾動自在に配置される複数のローラフレーム11と、この各ローラフレーム11に回動自在に支持され、他の物体表面に接触して転動可能とされるローラ12と、前記ローラフレーム11の全てに取付けられてローラ12と連結され、この連結されたローラ12をローラフレーム11に対し回動させるローラ駆動部13と、前記本体フレーム10の全てに取付けられてローラフレーム11と連結され、この連結されたローラフレーム11を本体フレーム10に対し傾動させ、ローラ12の回動する向きを変化させるローラ方向調整部14と、前記各本体フレーム10間にあるリンクフレーム20同士の相対位置関係を変化させて各本体フレーム10間の間隔を調整する複数のアクチュエータ21と、複数のレール状部材31を端部同士で傾動可能に連結して環状に連続する状態として形成されるレール部30と、前記本体フレーム10に対し移動可能として配設され、ローラ12の当接する物体に対する所定の作業を実行する作業部40とを備える構成であり、前記本体フレーム10とリンクフレーム20が、環状に連結されると共に前記ローラ12を環内周側に位置させる配置とされて、所定の柱状の構造物80を取囲む閉じた略環状体をなすものである。
【0018】
前記本体フレーム10は、細長い矩形状の略枠状体として形成され、長手方向を上下方向に一致させ、この上下方向の複数の所定高さ位置で、それぞれ同じ高さ位置で互いに離れた二箇所ずつにそれぞれリンクフレーム20端部を傾動自在に連結される他、枠内周側に複数取付けられたローラ方向駆動部14としてのモータの駆動軸にローラフレーム11をそれぞれ固定され、各ローラ方向駆動部14を介してローラフレーム11を傾動自在に支持する構成である。このローラフレーム11の本体フレーム10に対する傾動の中心軸は、本体フレーム10に対する各リンクフレーム20の傾動の中心軸、並びにリンクフレーム20同士の相互傾動の中心軸とそれぞれ直交する配置とされる。この本体フレーム10の上端部にはレール部30をなす各レール状部材31がそれぞれ固定される。
【0019】
前記リンクフレーム20は、略棒状部材で形成され、一端部を本体フレーム10に傾動自在に連結されると共に、他端部を別のリンクフレーム20の端部に傾動自在に連結され、本体フレーム10間に二つ配設される構成である。
【0020】
前記アクチュエータ21は、流体圧シリンダであり、両端部を各本体フレーム10間にある二つのリンクフレーム20におけるそれぞれのアーム中間部所定位置にそれぞれ傾動可能な状態で連結されて配設される構成である。アクチュエータ21の伸縮動作によって、連結する二つのリンクフレーム20を互いに傾動させ、リンクフレーム20同士の相対角度を変化させることで、これらのリンクフレーム20を挟む本体フレーム10間の間隔を調整可能となっている。
【0021】
そして、この本体フレーム10間の間隔調整に伴って、各本体フレーム10のローラ12が前記他の物体としての構造物80表面に当接してこのローラ12の内側に位置する構造物80を締付けることとなり、構造物80の所定高さ位置に環状の装置全体が落下することなくとどまる状態を得られる仕組みである。
【0022】
前記ローラ12は、ホイール12aの外周にタイヤ12bを配設されてなる構成であり、前記ローラフレーム11に回動自在に取付けられ、このローラフレーム11を介して本体フレーム10に角度調整自在に配設される。このローラ12の回動軸は、ローラフレーム11の本体フレーム10に対する傾動の中心軸と直交する配置とされる。このようにローラフレーム11を用いてローラ12を支持し、本体フレーム10からローラフレーム11の長さ分だけローラ12位置を突出させていることで、構造物80が角柱状などの場合でも構造物80の角部と本体フレーム10やリンクフレーム20が接触することはなく、構造物80の周囲を無理なく移動させられる。
【0023】
ローラ12の駆動は、ローラフレーム11に取付けられたローラ駆動部13としてのモータによりなされる構成である。ローラ駆動部13は、回転速度を調整しながらローラ12を正逆回転させる他、ローラ12を静止状態に保持するブレーキ機能も有する。なお、ローラ12の本体フレーム10に対する向き(構造物80に対し転動する向き)は、ローラ方向調整部14で本体フレーム10に対しローラフレーム11を傾動させることで調整される仕組みである。
【0024】
こうしたローラ12の駆動や方向調整、アクチュエータ21の伸縮動作については、制御装置(図示を省略)により装置全体が適切な姿勢を維持して移動を安全に行えるようそれぞれ制御される。制御装置は、装置各部に必要数設置されるジャイロセンサや加速度センサ、角度センサ等から装置全体の姿勢や移動位置を把握し、これに基づいて姿勢制御及び移動制御を実行する仕組みである。
【0025】
前記レール部30は、複数のレール状部材31を端部同士で傾動可能に連結して環状に連続する状態として形成されてなり、所定箇所を前記本体フレーム10に取付けられて構造物80周囲を取囲む状態として配設される構成である。
【0026】
このレール部30は、装置水平移動時の本体フレーム10及びリンクフレーム20の動きに合わせて適宜屈曲しながら、連続する状態を維持する。屈曲する節部となるレール状部材31の連結部分が、本体フレーム10とリンクフレーム20の連結部や、リンクフレーム20同士の連結部の直上にそれぞれ位置していることから、レール部30全体が本体フレーム10やリンクフレーム20と並行する状態を維持し、無理なく本体フレーム10やリンクフレーム20の動きに追随できる。
【0027】
前記作業部40は、レール部30に係合してレール部30上で移動可能な台車部41と、この台車部41の上に着脱可能に取付けられて計測、診断等所定の作業を実行する作業機構部42とを備え、レール部30に沿って本体フレーム10などの他部分に対し移動可能とされる構成である。なお、作業機構部42については、構造物に対する計測、診断をはじめとする従来同様の各種作業に対応して適宜選択されて取付けられ、前もって入力されたプログラム設定に基づく自動制御により、もしくは作業者の遠隔操作により作業を実行する公知の機構部分であり、詳細な説明を省略する。
【0028】
前記台車部41は、発生させた駆動力で環状のレール部30に沿って構造物80周囲を上側の作業機構部42と共に移動する一方、作業機構部42が構造物80に対し適切な位置関係となるよう作業機構部42の向きを調整するものである。具体的には、台車部41に組込まれたターンテーブル41aの端部二箇所に設けられた非接触型の距離計41bを用いて構造物80表面までの距離を測定し、各距離計41bでの測定値があらかじめ設定された条件に一致する、例えば、作業機構部42が構造物80に正対する状態に対応する値となるように、作業機構部42の載ったターンテーブル41aを回動させ、作業機構部42の向きを調整する仕組みである。この台車部41には、作業機構部42とは別にカメラ等を取付けて、作業状況の離れた場所からの監視や映像としての記録等に用いるようにしてもよい。
【0029】
次に、本実施形態に係る移動作業装置の動作状態について説明する。まず、構造部80の断面形状の大きさに見合った数に調整した本体フレーム10とリンクフレーム20の組合せとした略環状をなす本装置における所定の連結部分を一旦切離した状態として、装置を各ローラ12が構造物80に面するようにして構造物80の周囲に配置した後、切離した部分を再度連結して装置を略環状とする。この時、各本体フレーム10間の間隔は十分に確保されており、切離し部分を連結するのに強い力を加えて引寄せる必要はなく、連結作業は支障無くスムーズに行える。
【0030】
本装置を構造物周囲に配置した直後の状態では、全てのローラ12が構造物80に接しておらず、装置を構造物80の所定高さ位置に保持できる状態とはなっていないため、アクチュエータ21を動作させて、連結しているリンクフレーム20同士のなす角度を小さくし、本体フレーム10間の間隔を小さくし、各本体フレーム10に配置されているローラ12を構造物80表面に当接させ、全てのローラ12で構造物80を締付ける状態とする。こうして、本装置がローラ12を介して周囲から構造物80を掴んだ状態となって、構造物80の所定高さ位置に環状の装置全体が落下することなくとどまる状態を得られることとなる。
【0031】
本装置が構造物80の所定高さ位置にとどまれる状態で、この初期時点での高さ位置が作業部40による作業対象位置かどうかを判定し、作業対象位置でない場合には、作業対象位置に向けての移動を開始する。移動は、アクチュエータ21による本体フレーム10間の間隔の調整でローラ12を構造物80表面に強く押し当て、構造物80を締付ける状態を維持しつつ、まず移動方向の調整として、ローラ方向調整部14で本体フレーム10に対しローラフレーム11を傾動させ、ローラ12の向きを移動させたい向きに合わせる。高さ位置のみ変える場合には、ローラ12を垂直向きとし(図6(B)参照)、高さ位置と共に装置全体を水平向きに動かす、すなわち、螺旋状に移動させる場合には、ローラ12を斜め向きとする(図6(A)参照)。
【0032】
続いて、各ローラ駆動部13により全てのローラ12を進ませたい回転方向に一斉に回転駆動し、装置を移動させる。特に、ローラ12の進行方向に水平成分が加わる場合、ローラ12の回転駆動と共に、装置全体の水平方向位置変化を経ても各ローラ12が構造物表面に一定の接触圧で当接するのをそのまま維持するように、アクチュエータ21で本体フレーム10間の間隔を調整していく。これにより構造物80周囲で装置全体を水平方向に無理なく移動させることができる。装置が所望の位置まで移動したら、ローラ駆動部13を停止させ、ローラ12を回転しない状態に維持する。
【0033】
装置全体が構造物80の作業対象位置に位置したら、環状のレール部30に沿って作業部40を移動させながら、作業部40による所定の作業を実行する。作業例としては、構造物に対する調査・診断作業、構造物の補修に係る作業、構造物の構築における仕上げ作業、構造物表面の一部除去作業などがある。構造物に対する調査・診断作業では、作業機構部42として様々な調査・診断用機器を用いて作業が行われ、例えば、カメラによる構造物表面撮像とそれに基づくクラック解析や、打音調査器による構造物の健全度測定、表面温度測定器による構造物の健全度測定、電磁波探傷装置による鉄筋等を含む構造物内部の探査、強度測定装置による構造物の強度測定、構造物表面の一部採取による中性化測定、X線探査装置による構造物内部状況取得等が挙げられる。この他の各種作業でも、作業機構部42として様々な機器を用いることができ、ブラスト装置による表面処理作業、はつり装置による構造物のはつり作業、塗装装置による各種塗装作業、穿孔装置による穿孔作業等が行われる。
【0034】
そして、所定高さ位置での作業が終了したら、前記同様、装置を別の作業対象高さ位置に移動させ、作業部40による作業を実行させる。そして、作業対象位置の段数分、これらの動作を繰返させる。作業に際し、構造物80に対し作業部40を構造物80の周方向に動かす場合に、作業部40のみをレール部30に沿って移動させ、装置全体を動かさずに済むことで、移動にかかる時間を装置全体を動かす場合に比べて短縮できる。
【0035】
構造物80に対する全ての作業が終了したら、装置全体を最初の高さ位置まで戻し、装置を構造物80周囲の地上側から別途支持しつつ、アクチュエータ21を動作させて、連結しているリンクフレーム20同士のなす角度を大きくし、本体フレーム10間の間隔を広げ、各本体フレーム10に配置されているローラ12を構造物80表面から離し、装置が構造物80上に保持されない状態に移行させる。この後、略環状の装置における所定の連結部分を一旦切離した状態として、装置を構造物80の周囲から取外して回収する。
【0036】
この他、作業に係る作業部40の移動において、作業部40をレール部30に沿って装置の他部分と独立して動かすのではなく、装置全体の一体的な移動で作業部40の移動を図るようにすることもでき、この場合には、装置が構造物80の周囲に配置された初期位置にとどまっている状態から、作業部40を動かしたい経路に対応するように装置全体の移動を開始する。移動は、アクチュエータ21による本体フレーム10間の間隔の調整でローラ12を構造物80表面に強く押し当て、構造物80を締付ける状態を維持しつつ、前記同様にローラ方向調整部14で本体フレーム10に対しローラフレーム11を傾動させ、ローラ12の向きを移動させたい向きに合わせる。そして、各ローラ駆動部13により全てのローラ12を進ませたい回転方向に一斉に回転駆動し、装置を移動させる。装置全体の移動で作業部40が作業対象位置に達したら、装置の移動を必要に応じ継続又は一時停止しつつ、作業部40による所定の作業を実行する。同じ方向への移動が進行して、作業部40が作業対象範囲外に達するまで装置が移動したら、ローラ方向調整部14でローラの向きを変え、あらためて装置を作業部40が作業を行える位置に移動させて作業を繰返す。
【0037】
装置全体を移動させながらの作業部40による構造物80に対する全ての作業が終了したら、前記同様、装置全体を最初の高さ位置まで戻し、装置を構造物周囲の地上側から別途支持しつつ、アクチュエータ21を動作させて本体フレーム10間の間隔を広げ、各本体フレーム10のローラ12を構造物80表面から離し、装置が構造物上に保持されない状態に移行させる。この後、装置の所定連結部分を切離し、装置を構造物80の周囲から取外して回収する。
【0038】
このように、本実施形態に係る移動作業装置においては、回動方向調整可能なローラ12を備える複数の本体フレーム10とリンクフレーム20で構造物80の周囲を取囲む略環状体を形成し、構造物80に多数のローラ12を接触させつつ、アクチュエータ21での本体フレーム10間隔調整に基づいて各ローラ12で構造物12を締付ける状態を得られる一方、さらにローラ12を回転駆動可能としていることから、略環状体をなす装置が構造物80の所定高さ位置に取付いた状態を維持でき、そのままの状態でローラ12の向きを制御しつつローラ12を駆動すれば、装置全体を構造物80に対し落下させることなく所望の向きへ移動させられることとなり、作業部40の構造物80に対する作業を、作業部40の位置を変えながら構造物80のあらゆる位置に対して実行でき、装置を一旦構造物80周囲に設置すれば着脱を繰返すことなく構造物80の全体にわたって作業を行え、確実に作業の自動化が図れる上、足場や枠等が不要でこれらの設置及び解体の手間もかからず、作業全体で手間やコスト等の削減を実現できる。
【0039】
(本発明の第2の実施形態)
前記第1の実施形態に係る移動作業装置では、略環状体をなす装置が単独で用いられる構成としているが、これに限らず、図8及び図9に示すように、装置を上下方向に複数段重ねて構造物80周囲に配置すると共に、上下の装置の本体フレーム10端部同士を連結用部材50で連結して一体化する構成とすることもでき、構造物80に当接させられるローラ12の数を増やして、複数ローラ12での構造物80の締付けに伴って装置全体を構造物80周囲に保持する力が十分確保でき、柱状構造物の断面積が大きい場合や、作業部40が大型化、大重量化した場合でも、装置全体を構造物80に対し落下させることなく所望の向きへ移動させられる状態を確実に実現できる。
【0040】
この場合、全ての装置でローラ12の駆動その他を同期させるように制御する必要があるが、仮に上下の装置でタイミングのずれ等によりわずかにずれが生じた場合でも、連結用部材50に設けた屈曲可能なジョイント部51でずれを許容できる構造としていることにより、装置の連結に無理が生じない。
【0041】
このように装置を複数段重ねて配置する構成では、構造物の断面形状が一部で大きく変化している場合に対応でき、他部分に対して断面形状が変化している部分の作業に際し、断面形状に対応する本体フレーム10とリンクフレーム20の組合せ数とした装置を連結して使用することで、様々な形状の構造物に対し作業を行えることとなる。
【0042】
この他、複数段重ねた本装置を、隣合う二つの橋脚や二つの柱部分の各周囲にそれぞれ配設した上で、これら装置間に作業用架台を略水平に架設し、昇降可能な各装置を作業用架台の支持部として用いる一方、橋脚間の橋梁部分や柱間の梁又は天井部分に対して、作業用架台上に移動可能に配設した作業部で作業を行わせることもできる。
【0043】
なお、前記第1及び第2の各実施形態に係る移動作業装置では、角柱状の構造物に適用する例を示しているが、これに限らず、図10や図11に示すように、円柱状や長円(角丸長方形)柱状、楕円柱状など他の柱状構造物についても、構造物周囲の所定高さ位置に移動可能に保持される状態とすることができる。
【0044】
また、前記第1及び第2の各実施形態に係る移動作業装置においては、全てのローラフレーム11にローラ駆動部13をそれぞれ配設して、全てのローラ12を駆動する構成としているが、これに限らず、装置全体を移動させるのに必要な駆動力が得られるのであれば、一部のローラフレーム11のみにローラ駆動部13を配設して一部のローラ12のみ回転駆動し、ローラ駆動部13のないローラは当初から駆動しない構成としたり、ローラ駆動部13で駆動可能となっているローラ12のうち一部のローラのみ回転駆動し、残りはローラ駆動部13による駆動を行わず自由回動状態に維持する構成とすることもでき、駆動力発生を必要最小限にとどめて装置の運用コストを抑えられる。
【0045】
また、前記第1及び第2の各実施形態に係る移動作業装置において、本体フレームやリンクフレーム等の各機構部が何にも覆われず露出状態で配設される構成としているが、これに限らず、図12に示すように、本体フレーム10に取付けられて装置全体を上下及び側方から覆うカバー60を配設し、カバー60の上下部分の内周縁を構造物80表面に気密状態で密着させ、装置全体をカバーで外部から隔離した状態として覆う構成とすることもでき、カバー60内の空間を負圧状態にして構造物80周囲にカバー60を含む装置全体を強力に吸着させた状態とすれば、装置の落下防止を図ることができ、緊急時や駆動用動力源供給が停止した場合に確実に落下を防いで地上側での危険を回避できる。さらに、はつり、表面処理、並びに塗装等の作業時には、作業部を上下に挟んで装置が配置されるようにすると共に、上下の装置に跨るカバーを配設し、作業部の移動経路周囲もカバーで覆われる構成とすることもでき、作業で生じた破片等の飛散防止を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る移動作業装置の概略平面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る移動作業装置の要部正面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る移動作業装置における本体フレームの概略側面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る移動作業装置における作業部の移動状態説明図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る移動作業装置における本体フレームとリンクフレームの連結状態説明図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る移動作業装置におけるローラの向き調整状態説明である。
【図7】本発明の第1の実施形態に係る移動作業装置の構造物周囲移動状態説明図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る移動作業装置の要部正面図である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る移動作業装置における本体フレーム及び連結用部材の概略側面図である。
【図10】本発明の移動作業装置の円柱状構造物に対する適用状態説明図である。
【図11】本発明の移動作業装置の長円柱状構造物に対する適用状態説明図である。
【図12】本発明の他の実施形態に係る移動作業装置における本体フレームの概略側面図である。
【符号の説明】
【0047】
1 移動作業装置
10 本体フレーム
11 ローラフレーム
12 ローラ
12a ホイール
12b タイヤ
13 ローラ駆動部
14 ローラ方向調整部
20 リンクフレーム
21 アクチュエータ
30 レール部
31 レール状部材
40 作業部
41 台車部
41a ターンテーブル
41b 距離計
42 作業機構部
50 連結用部材
51 ジョイント部
60 カバー
80 構造物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つ以上の相互に連結されるリンクフレームを介して間隔調整自在に連結される複数の本体フレームと、
当該各本体フレームに対しそれぞれ傾動自在に配置される一又は複数のローラフレームと、
当該各ローラフレームに回動自在に支持され、他の物体表面に接触して転動可能とされるローラと、
前記ローラフレームの全部又は一部に取付けられてローラと連結され、当該連結されたローラをローラフレームに対し回動させるローラ駆動部と、
前記本体フレームの全部又は一部に取付けられてローラフレームと連結され、当該連結されたローラフレームを本体フレームに対し傾動させ、ローラの回動軸の向きを変化させるローラ方向調整部と、
前記各本体フレーム間にあるリンクフレーム同士の相対位置関係を変化させて各本体フレーム間の間隔を調整する複数のアクチュエータと、
前記本体フレームに対し固定又は移動可能として配設され、ローラの当接する物体に対する所定の作業を実行する作業部とを備え、
前記本体フレームとリンクフレームが、環状に連結され且つ前記ローラを環内周側に位置させる配置とされて所定の柱状の構造物を取囲む略環状体をなし、
前記アクチュエータによる本体フレーム間隔調整に伴って各本体フレームのローラが前記構造物表面に当接して当該ローラの内側の構造物を締付け、構造物の所定高さ位置に前記略環状体が落下することなくとどまる自立状態を得ることを
特徴とする移動作業装置。
【請求項2】
前記請求項1に記載の移動作業装置において、
複数のレール状部材を端部同士で傾動可能に連結して環状に連続する状態として形成されてなり、所定箇所を前記本体フレームに取付けられて構造物周囲を取囲む状態として配設されるレール部を備え、
前記作業部が、前記レール部に一部を常時接触させ、レール部に沿って構造物周囲を移動可能とされることを
特徴とする移動作業装置。
【請求項3】
前記請求項1又は2に記載の移動作業装置において、
前記複数の本体フレームとリンクフレームを環状に連結してなる前記略環状体が、本体フレーム上下端部に取付けられる所定の連結用部材を介して複数段上下方向に重ねた状態で一体に連結されて構造物周囲に配置されることを
特徴とする移動作業装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−57763(P2009−57763A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−226645(P2007−226645)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(599117989)株式会社富士建 (1)
【Fターム(参考)】