説明

積層ゴム支承体

【課題】積層ゴム支承体のゴム材料と補強板とが弾塑性金属材料と接する境界部分における応力集中を回避し、ゴム層と補強板境界部の損傷を防止する。
【解決手段】ゴム層4と補強板5とを交互に積層した積層ゴム部6の上下端面に各々フランジプレート7、8が接合されて形成され、積層ゴム部に上下方向に貫通する貫通孔9を有する積層ゴム体と、貫通孔に封入された円柱状の弾塑性金属材料プラグ10とを備える積層ゴム支承体1において、各々のフランジプレートの近傍の補強板5a、5bに穿設された弾塑性金属材料プラグ挿入用孔の径D’を、中間部の補強板に穿設された弾塑性金属材料プラグ挿入用孔の径Dよりも大きく形成した。応力が集中する各々のフランジプレートの近傍の弾塑性金属材料プラグ挿入用孔の内周面と、弾塑性金属材料プラグの外周面との間の領域にゴム層を配したため、応力集中による該領域の損傷を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層ゴム支承体であって、特に、ゴム層と補強板とを交互に積層し、かつ上下端面にフランジ部材又は厚肉鋼板を接合してなる積層ゴムにおいて、積層ゴム体内に鉛等の弾塑性金属材料を封入して水平方向の振動を吸収する積層ゴム支承体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上述のような構成を有する積層ゴム支承体は、地震等の外乱により水平せん断変形を生じる際に、弾塑性金属材料がゴム層に過大に食い込み、ゴム層と補強板との接着部分が損傷することがある。特に、積層ゴム支承体の水平せん断変形時に、積層ゴム支承体の積層方向の中間部分に比べて積層方向の両端のフランジ部材等に近い弾塑性金属材料に生じる応力が大きいため、この部分で弾塑性金属材料がゴム層に食い込み、ゴム層と補強板の接着部分が損傷したり、この部分の補強板が変形する虞がある。そこで、該積層ゴム支承体のゴム層と補強板との接着部分の損傷や、補強板の変形による性能低下等の不具合を防止するため、幾つかの技術が提案されている。
【0003】
特許文献1には、ゴム層と補強板とを交互に積層し、上下に厚肉補強板を接合した積層ゴム体の貫通孔内に鉛を充填した鉛プラグ入り積層ゴム支承体において、該ゴム層の各々に、前記補強板及び厚肉補強板の内径と同じ内径を有し、かつ外径を小さくした中間プレートを配した構成が開示されている。
【0004】
本構成により、ゴム層の厚みが比較的厚くとも、前記中間プレートを各ゴム層に配するため、ゴム層への鉛の過大な食い込みを防止することができ、効果的に鉛プラグを拘束することができ、所定の減衰効果が安定的に得られるという好ましい効果が得られる。その反面、鉛プラグの周囲には、補強板と中間プレートの両方が密に配されているため、鉛プラグの鉛直方向の硬さが設計された値より大きくなる傾向にあった。
【0005】
そこで、特許文献2には、積層ゴム支承体のすべてのゴム層において、弾塑性金属材料との拘束力を高めるのではなく、積層方向の両端の厚肉鋼板に近い弾塑性金属材料周辺部分の拘束力を高めるようにした技術も開示されている。
【0006】
また、特許文献3に記載の鉛封入積層ゴムは、積層方向の両端の厚肉鋼板に近い弾塑性金属材料周辺部分の補強板の枚数を多くし、当該箇所での弾塑性金属材料の拘束力を高めるようにしている。
【0007】
さらに、特許文献1乃至3は、鉛プラグを拘束する積層ゴム体内に配される補強板の配置、枚数等によりゴム層への過大な鉛の食い込みを防止する発明を開示するが、特許文献4には、補強板については特別な工夫をしないで、鉛プラグと接するゴム材料の部分、詳しくは、積層ゴム体の各ゴム層に設けられる貫通孔の周囲の所定幅領域のゴム硬度を、他の部分より高くすることで、ゴム層への鉛の食い込みを防止する技術が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開2001−355676号公報
【特許文献2】特開2005−146680号公報
【特許文献3】特許第3503712号公報
【特許文献4】特開2001−012545号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の鉛プラグ入り積層ゴム装置では、鉛直方向の硬さが設計された値より大きくなる傾向があり、特許文献3に記載の鉛封入積層ゴムは、薄肉補強板の枚数を変えることによりゴム層の厚みも変化するため、設計面及び製造面で手間がかかるという問題があった。
【0010】
特許文献4においても、すべてのゴム層において、設けられた貫通孔の周囲の所定幅領域に配するゴム材料の硬度を、他の部分の硬度と比べて高くするため、鉛直方向の硬さが設計された値より大きくなる傾向がある。
【0011】
上記特許文献1乃至4に示されるように、従来、弾塑性金属材料を封入して水平方向の振動を吸収する積層ゴム支承体において、該弾塑性金属材料のゴム層への過大な食い込みを防止する技術は、弾塑性金属材料と接する積層ゴム体の中空孔部内周面の剛性を高めるものであり、硬さの異なるゴム材料と補強板とが弾塑性金属材料と接する範囲に存在する構成を取る限り、これらの境界部分に応力が集中することは避けられない。
【0012】
そこで、本発明は、上記従来技術における問題点に鑑みてなされたものであって、ゴム材料と補強板とが弾塑性金属材料と接する境界部分における応力集中を回避し、ゴム層と補強板境界部の損傷を防止しうる積層ゴム支承体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明は、ゴム層と補強板とを交互に積層した積層ゴム部の上下端面に各々フランジプレートが接合されて形成され、前記積層ゴム部に上下方向に貫通する貫通孔を有する積層ゴム体と、該貫通孔に封入された円柱状の弾塑性金属材料プラグとを備える積層ゴム支承体において、前記各々のフランジプレートの近傍の補強板に穿設された弾塑性金属材料プラグ挿入用孔の径が、中間部の補強板に穿設された弾塑性金属材料プラグ挿入用孔の径よりも大きいことを特徴とする。
【0014】
そして、本発明によれば、積層ゴム支承体の動作中に、応力が集中する各々のフランジプレートの近傍の補強板と弾塑性金属材料プラグの外周面とが接することがないため、応力集中による損傷を防止することができる。
【0015】
また、本発明は、上下構造物の各々に取り付けられる取付用鋼板と、ゴム層と補強板とを交互に積層した積層ゴム部の上下端面に各々、前記取付用鋼板の各々と緊結される厚肉鋼板が配されて形成され、前記積層ゴム部に上下方向に貫通する貫通孔を有する積層ゴム体と、該貫通孔に封入された円柱状の弾塑性金属材料プラグとを備える積層ゴム支承体において、前記各々の厚肉鋼板の近傍の補強板に穿設された弾塑性金属材料プラグ挿入用孔の径が、中間部の補強板に穿設された弾塑性金属材料プラグ挿入用孔の径よりも大きいことを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、積層ゴム支承体の動作中に、応力が集中する各々の厚肉鋼板の近傍の補強板と弾塑性金属材料プラグの外周面とが接することがないため、応力集中による損傷を防止することができる。
【0017】
上記積層ゴム支承体において、前記各々のフランジプレート又は各々の厚肉鋼板の近傍の補強板の弾塑性金属材料プラグ挿入用孔の内周面と、前記弾塑性金属材料プラグの外周面との間に、ゴム材料からなる緩衝部材を配することができる。この際、緩衝部材を前記ゴム層と同一の材料で形成し、かつ前記ゴム層と一体的に加硫成型することができる。
【0018】
また、上記積層ゴム支承体において、前記各々のフランジプレート又は各々の厚肉鋼板の近傍の補強板と接するゴム層の、該補強板の略々内径位置から弾塑性金属材料プラグの外周面までの範囲と、前記緩衝部材のゴム材料を、他のゴム層部分のゴム硬度より高いゴム材料とすることができ、かつ該他のゴム層と一体的に加硫成型することができる。これにより、弾塑性金属材料プラグのゴム層への食い込みをさらに効果的に抑制することができる。
【0019】
さらに、上記積層ゴム支承体において、前記各々のフランジプレート又は各々の厚肉鋼板の近傍の補強板と接するゴム層の、該補強板の略々内径位置から弾塑性金属材料プラグの外周面までの範囲と、前記緩衝部材のゴム材料を天然ゴム材料とし、他のゴム層部分のゴム材料を高減衰性ゴム材料とすることができる。この構成によれば、反発弾性能力の優れた天然ゴム材料を弾塑性金属材料プラグの食い込みが生じやすい領域に配することができ、さらに優れた効果を生じさせることが可能となるとともに、積層ゴム支承体全体の減衰性能をゴム材料と弾塑性金属材料プラグ両方の和とすることができるため、弾塑性金属材料プラグの大きさ(径)を小さくすることができ、ゴム層への弾塑性金属材料プラグの食い込みを抑制する効果がある。
【0020】
また、上記積層ゴム支承体において、前記弾塑性金属材料プラグを、鉛、錫、又はそれらの合金で形成することができ、これらの金属は、積層ゴム支承体が大きな水平変形を生じても追従し、かつエネルギー吸収に優れるため、上記構造上の効果と相まって長期間の安定性と好ましい減衰効果を有する積層ゴム支承体を構成することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明によれば、ゴム材料と補強板とが弾塑性金属材料と接する境界部分における応力集中を回避し、ゴム層と補強板の境界部の損傷を防止しうる積層ゴム支承体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0023】
図1(a)は、本発明にかかる積層ゴム支承体の第1の実施の形態を示し、この積層ゴム支承体1は、いわゆるフランジ一体型であって、ゴム層4と補強板5とを交互に積層して形成された積層ゴム部6と、積層ゴム部6の上下端面に各々接合されるフランジプレート7、8とからなる積層ゴム体16と、積層ゴム部6に封入された弾塑性金属材料プラグ(鉛プラグ)10と、フランジプレート7、8の各々に、鉛プラグ10を封入するために備えられたキャッププレート11、12で構成される。尚、上記弾塑性金属材料としては、鉛、錫、又はそれらの合金等を用いることができるが、以下の説明では、鉛を用いるものとする。
【0024】
積層ゴム部6は、図2に示すように、ゴム層4と補強板5とを交互に積層して形成され、上下方向に貫通する貫通孔9を備える。また、図1及び図2に示すように、この積層ゴム部6のフランジプレート7、8の近傍の補強板5a、5bに穿設された鉛プラグ挿入用孔の径D’は、中間部の補強板5に穿設された鉛プラグ挿入用孔の径D(鉛プラグ10の外径と略々等しい)よりも大きく形成される。
【0025】
補強板5a、5bの鉛プラグ挿入用孔の内周面と、鉛プラグ10の外周面との間には、図1(b)に明示するように、ゴム層4と同一の材料で形成した緩衝部材14を配する。
【0026】
図3に示すように、上側フランジプレート7は、鋼板により、全体が円板状に形成され、積層ゴム部6の貫通孔9と同径の貫通孔7aと、上側キャッププレート11を嵌合するための凹部7bとを備える。尚、下側フランジプレート8も、上側フランジプレート7と同様の構成を有する。
【0027】
図1に示すように、上側キャッププレート11は、鋼板により、全体が円板状に形成され、上側フランジプレート7の凹部7bに嵌挿される程度の外径を有する。尚、下側キャッププレート12も、上側キャッププレート11と同様の構成を有する。
【0028】
次に、上記構成を有する積層ゴム支承体1の製造方法について、図4を中心に参照しながら説明する。
【0029】
同図に示すように、まず、加硫成型用金型の下板21の中央に設けた凹部21aに、成型後に挿入する鉛プラグ10の外径と略々同一の外径を有する成型用中心ピン22を嵌めて立設し、さらに下板21の中央位置から対称に所定の距離をおいて設けた2つの凹部21b、21cに、鋼板位置決め用ピン24、25を各々嵌めて立設する。
【0030】
次に、予め中心位置に鉛プラグ10の直径と略々同一の孔加工と、鋼板位置決め用ピン24、25に対応する位置に該ピン24、25と略々同一の孔加工がなされ、未加硫ゴム板4aと接触する範囲に接着処理が施された下側フランジプレート8を、磁石等により吊り上げ、成型用中心ピン22と鋼板位置決め用ピン24、25に貫通させながら加硫成型用金型の下板21の上面に載置する。次に、加硫成型用金型の筒体20を据え付ける。
【0031】
その後、予め中心位置に鉛プラグ10の直径と略々同一の孔径と、鋼板位置決め用ピン24、25に対応する位置にに該ピン24、25と略々同一の孔径が型抜きされ、所定の厚みに調整された未加硫ゴム板4aを、成型用中心ピン22と鋼板位置決め用ピン24、25に貫通させ、下側フランジプレート8の上面に載置する。
【0032】
次に、予め中心位置に鉛プラグ10の直径より拡径された大きさの孔5cが加工され、鋼板位置決め用ピン24、25に対応する位置に該ピン24、25と略々同一の孔加工がされ、ゴム層4と接触する範囲に接着処理がされた補強板5bを、成型用中心ピン22と鋼板位置決め用ピン24、25に貫通させ、未加硫ゴム板4aの上面に載置する。
【0033】
次に、成型用中心ピン22と拡径された孔5cとの間に未加硫ゴム材料27を充填した後、未加硫ゴム板4aと補強板5を順次必要枚数だけ積層する。そして、上側フランジプレート7(図1参照)の近傍の中心孔が拡径された補強板5a(図1参照)と成型用中心ピン22との間を、以下図示を省略するが、下側と同様に未加硫ゴム材料を充填し、さらに未加硫ゴム板と上側フランジプレート7を載置し、その後加硫成型用金型の上板(不図示)を載置する。
【0034】
上記積層工程後、加硫成型用金型を成型用プレス機(不図示)に入れ、バンピング作業を経て、加圧・加温による加硫成型工程を行い、未加硫ゴム板4aと各補強板5とを一体化する。
【0035】
所定時間経過後、加硫成型用金型を脱型し、成型用中心ピン22及び鋼板位置決め用ピン24、25を抜き、フランジプレート7、8の近傍の補強板5a、5bの鉛プラグ挿入用孔5cの径が、中間部の補強板5の鉛プラグ挿入用孔径より大きいことを特徴とし、中心位置に鉛プラグ10の直径と略々同一の直径を有する貫通孔9を備えた積層ゴム体6を得ることができる(図5(a)参照)。
【0036】
上記加硫成型工程により加硫した後、十分冷却してから、図5(b)に示すように、下側フランジプレート8の凹部8bに下側キャッププレート12を溶接により固定する。次に、所定の形状に仕上げられた鉛プラグ10を積層ゴム体16の上方から挿入し、下側フランジプレート8の貫通孔8a及び貫通孔9内に落とし込む。下側フランジプレート8の貫通孔8aの直径は、鉛プラグ10の直径と略々同じであり、鉛プラグ10の下端は、下側キャッププレート12の上面に当接する。その後、上側キャッププレート11を上側フランジプレート7の貫通孔7aに嵌挿し、図5(c)に示すように、鉛プラグ10の上端に当接させ、上側キャッププレート11を上側フランジプレート7の貫通孔7aに溶接により固定する。
【0037】
尚、図2に示す鋼板位置決め用ピン24、25を抜いた後に形成される中空部24a、25aは、フランジプレート7、8及び補強板5の防錆のため、積層ゴム支承体1としての変形性能に支障を及ぼさない範囲で弾性材料等を充填してもよく、またフランジプレート7、8は、上部構造物2及び下部構造物3と各々締結され、鋼板位置決め用ピン24、25の中空部24a、25aは外部と遮断されるため、防錆処理等を施さずにそのままにしておいてもよい。
【0038】
次に、上記のようにして製造された積層ゴム支承体1の動作について、図1及び図6を参照しながら説明する。
【0039】
図1(a)に示すように、上部構造物2と下部構造物3との間に配された積層ゴム支承体1が、図6(a)に示すように、地震等の外乱により上部構造物2と下部構造物3との水平相対変位によりせん断変形を生じると、積層ゴム支承体1の鉛プラグ10がせん断変形し、水平方向の振動を吸収する。ここで、本発明では、フランジプレート7、8の近傍の補強板5a、5bの鉛プラグ挿入用孔の内周面と、鉛プラグ10の外周面との間の領域に緩衝部材14を配したため、図6(b)に示すように、鉛プラグ10と補強板5a(5bは図示を省略)とが緩衝部材14を挟んで互いに離間した状態を維持することができ、鉛プラグ10と補強板5a、5bとの境界部分に応力が集中することがなく、応力集中による該領域の損傷を防止することができる。
【0040】
次に、本発明にかかる積層ゴム支承体の第2の実施の形態について、図7及び図8を参照しながら説明する。尚、図8は、図7に示した積層ゴム支承体31の積層ゴム体36を示す斜視図であって、鉛プラグ47が挿入される前の状態を示す。この積層ゴム体36も、上記積層ゴム体16と同様の製造方法で製造することができ、図8に示すように、積層ゴム体36には、鋼板位置決め用ピン跡48と、鉛プラグ47を挿入するための貫通孔50が形成されている。
【0041】
この積層ゴム支承体31は、いわゆるボルト固定型であって、ゴム層34と補強板35とが交互に積層され、上下に厚肉鋼板39、40を有する積層ゴム体36と、上下構造物32、33に各々取り付けられる取付用鋼板37、38と、取付用鋼板37、38と厚肉鋼板39、40との間で水平力を伝達するとともに、弾塑性金属材料プラグ(鉛プラグ)47を封入するために備えられたせん断キー41、42と、取付用鋼板37、38と厚肉鋼板39、40とを緊結するボルト43(図8にその螺合穴を示すように、全部で16本)と、ボルト44(ボルト43と同数)と、ボルト43、44と各々螺合するねじ穴43’(ボルト44と螺合するねじ穴の図示は省略)とで構成される。尚、以下の説明でも、弾塑性金属材料として鉛を用いるものとする。
【0042】
この構成を有する積層ゴム支承体31は、積層ゴム体36に厚肉鋼板39、40が設けられ、厚肉鋼板39、40が取付用鋼板37、38とせん断キー41、42を介して連結されていることが、第1の実施の形態と異なる。
【0043】
本実施の形態においても、積層ゴム体36の厚肉鋼板39、40の近傍の補強板35a、35bに穿設された鉛プラグ挿入用孔の径D’は、中間部の補強板35に穿設された鉛プラグ挿入用孔の径D(鉛プラグ47の外径と略々等しい)よりも大きく形成され、補強板35a、35bの鉛プラグ挿入用孔の内周面と、鉛プラグ47の外周面との間には、ゴム層34と同一の材料で形成した緩衝部材46を配する。
【0044】
上部構造物32と下部構造物33の間に配された積層ゴム支承体31が、地震等の外乱により上部構造物32と下部構造物33の水平相対変位によりせん断変形を生じると、積層ゴム支承体31の鉛プラグ47がせん断変形し、水平方向の振動を吸収する。ここで、本実施の形態では、厚肉鋼板39、40の近傍の補強板35a、35bの鉛プラグ挿入用孔の内周面と、鉛プラグ47の外周面との間の領域に緩衝部材46を配したため、第1の実施形態と同様に、鉛プラグ47と補強板35a、35bとが緩衝部材46を挟んで互いに離間した状態を維持することができ、鉛プラグ47と補強板35a、35bとの境界部分に応力が集中することがなく、応力集中による該領域の損傷を防止することができる。
【0045】
以上のように、本発明による積層ゴム支承体は、積層ゴム体内径部のフランジプレート又は厚肉鋼板(以下「フランジプレート等」という)の近傍の補強板と、挿入される鉛プラグとの間に緩衝部材が配されるため、フランジプレート等の近傍の補強板とゴム層の間に生じる鉛プラグの過大な食い込み、及び補強板とゴム層間の接着面への侵入を好ましく防止でき、履歴性能の安定化並びに耐久性に優れるほか、地震等の外乱が生じ、積層ゴム支承体に水平せん断変形が生じた場合において、該緩衝部材周辺の変形作用により初期剛性を低くすることができ、比較的小さな地震においても上部構造物の固有周期を好適に伸ばし、上部構造物の応答を低減することが可能となる。
【0046】
前記フランジプレート等の近傍の補強板の円柱状鉛プラグ挿入用孔径を、どの程度拡径するかは、積層ゴムの一つの層の厚みと補強板の厚みによって適宜変更できるが、概ね、中間部の補強板の円柱状鉛プラグ挿入用孔径より、直径において、フランジプレート等の近傍の補強板と接するゴム層の厚みの20%から30%大きくすることで、鉛プラグがフランジプレート等の近傍のゴム層に食い込むのを効果的に防止することが可能となる。
【0047】
また、前記円柱状鉛プラグの挿入用孔径を大きくしたフランジプレート等の近傍の補強板は、上下各々の厚肉鋼板から2枚程度内側に配するだけでよく、特別大きな水平変形量が想定される積層ゴム支承体であれば、その枚数を増やしてもよく、また水平変形量が小さく設計される積層ゴム支承体、換言すれば安全率が高く設計された積層ゴム支承体では1枚でもよい。
【0048】
また、上記積層ゴム支承体において、前記各々のフランジプレート等の近傍の補強板と接するゴム層の、該補強板の略々内径位置から鉛プラグの外周面までの範囲と、前記緩衝部材のゴム材料を、他のゴム層部分のゴム硬度より高いゴム材料とすることができ、かつ該他のゴム層と一体的に加硫成型することができる。
【0049】
さらに、上記積層ゴム支承体において、前記各々のフランジプレート等の近傍の補強板と接するゴム層の、該補強板の略々内径位置から鉛プラグの外周面までの範囲と、前記緩衝部材のゴム材料を天然ゴム材料とし、他のゴム層部分のゴム材料を高減衰性ゴム材料とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明にかかる積層ゴム支承体の第1の実施形態を示す図であって、(a)は断面図、(b)は拡大断面図である。
【図2】図1の積層ゴム支承体の積層ゴム体を示す図であって、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A線断面図である。
【図3】図1の積層ゴム支承体のフランジプレートを示す図であって、(a)は平面図、(b)は(a)のB−B線断面図である。
【図4】図1の積層ゴム支承体の製造方法を説明するための分解断面図である。
【図5】図1の積層ゴム支承体の製造方法を説明するための断面図である。
【図6】図1の積層ゴム支承体の動作を説明するための図であって、(a)は断面図、(b)は拡大断面図である。
【図7】本発明にかかる積層ゴム支承体の第2の実施形態を示す断面図である。
【図8】図6の積層ゴム支承体の積層ゴム体を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0051】
1 積層ゴム支承体
2 上部構造物
3 下部構造物
4 ゴム層
4a 未加硫ゴム板
5 補強板
5a、5b (フランジプレート近傍の)補強板
5c 孔
6 積層ゴム部
7 上側フランジプレート
7a 貫通孔
7b 凹部
8 下側フランジプレート
8a 貫通孔
8b 凹部
9 貫通孔
10 弾塑性金属材料プラグ(鉛プラグ)
11 上側キャッププレート
12 下側キャッププレート
14 緩衝部材
16 積層ゴム体
20 筒体
21 下板
21a〜21c 凹部
22 成型用中心ピン
24 鋼板位置決め用ピン
24a 中空部
25 鋼板位置決め用ピン
25a 中空部
27 未加硫ゴム材料
31 積層ゴム支承体
32 上部構造物
33 下部構造物
34 ゴム層
35 補強板
35a、35b (厚肉鋼板近傍の)補強板
36 積層ゴム体
37 上側取付用鋼板
38 下側取付用鋼板
39 上側厚肉鋼板
40 下側厚肉鋼板
41 上側せん断キー
42 下側せん断キー
43 ボルト
43’ ねじ穴
44 ボルト
46 緩衝部材
47 弾塑性金属材料プラグ(鉛プラグ)
48 鋼板位置決め用ピン跡
50 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム層と補強板とを交互に積層した積層ゴム部の上下端面に各々フランジプレートが接合されて形成され、前記積層ゴム部に上下方向に貫通する貫通孔を有する積層ゴム体と、該貫通孔に封入された円柱状の弾塑性金属材料プラグとを備える積層ゴム支承体において、
前記各々のフランジプレートの近傍の補強板に穿設された弾塑性金属材料プラグ挿入用孔の径が、中間部の補強板に穿設された弾塑性金属材料プラグ挿入用孔の径よりも大きいことを特徴とする積層ゴム支承体。
【請求項2】
上下構造物の各々に取り付けられる取付用鋼板と、
ゴム層と補強板とを交互に積層した積層ゴム部の上下端面に各々、前記取付用鋼板の各々と緊結される厚肉鋼板が配されて形成され、前記積層ゴム部に上下方向に貫通する貫通孔を有する積層ゴム体と、該貫通孔に封入された円柱状の弾塑性金属材料プラグとを備える積層ゴム支承体において、
前記各々の厚肉鋼板の近傍の補強板に穿設された弾塑性金属材料プラグ挿入用孔の径が、中間部の補強板に穿設された弾塑性金属材料プラグ挿入用孔の径よりも大きいことを特徴とする積層ゴム支承体。
【請求項3】
前記各々のフランジプレート又は各々の厚肉鋼板の近傍の補強板の弾塑性金属材料プラグ挿入用孔の内周面と、前記弾塑性金属材料プラグの外周面との間に、ゴム材料からなる緩衝部材が配されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の積層ゴム支承体。
【請求項4】
前記緩衝部材が前記ゴム層と同一の材料からなり、かつ前記ゴム層と一体的に加硫成型されていることを特徴とする請求項3に記載の積層ゴム支承体。
【請求項5】
前記各々のフランジプレート又は各々の厚肉鋼板の近傍の補強板と接するゴム層の、該補強板の略々内径位置から弾塑性金属材料プラグの外周面までの範囲と、前記緩衝部材のゴム材料が、他のゴム層部分のゴム硬度より高いゴム材料からなり、かつ該他のゴム層と一体的に加硫成型されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の積層ゴム支承体。
【請求項6】
前記各々のフランジプレート又は各々の厚肉鋼板の近傍の補強板と接するゴム層の、該補強板の略々内径位置から弾塑性金属材料プラグの外周面までの範囲と、前記緩衝部材のゴム材料が天然ゴム材料で、他のゴム層部分のゴム材料が高減衰性ゴム材料からなることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の積層ゴム支承体。
【請求項7】
前記弾塑性金属材料プラグが、鉛、錫、又はそれらの合金からなることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の積層ゴム支承体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−96290(P2010−96290A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−268276(P2008−268276)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】