説明

積層シート

【課題】 本発明は、低温環境下でも耐衝撃性が優れ、線膨張率が小さい積層シート、特に外装建材として好適に使用できる積層シートを提供する。
【解決手段】 本発明の積層シートは、一軸延伸熱可塑性樹脂シートの両面に、ポリ塩化ビニル系樹脂97〜88重量%とアクリレート系共重合体粒子3〜12重量%からなるポリ塩化ビニル系樹脂組成物シートが積層されてなり、0℃におけるアイゾット衝撃値が10kJ/m2 以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層シート、特に線膨張率が小さく、耐衝撃性が優れており、外装建材として好適に使用できる積層シートに関する。
【背景技術】
【0002】
屋外で使用される外層建材は昼夜の寒暖差の影響を受ける。寒暖による伸縮が大きいと応力が発生し、これが繰り返されると、たわみ、反り、部材の破壊等につながるため、外装建材には低伸縮性が求められる。
【0003】
これらの問題を解決するために、例えば、「熱可塑性合成樹脂よりなる長尺の成形体の内部に、成形体の長さ方向に一軸延伸された延伸樹脂層が成形体全長に亘って埋設一体化されていることを特徴とする合成樹脂製長尺成形体。」が提案され、「延伸樹脂層が、成形体の長さ方向に2〜30倍延伸されたポリオレフィン系又はポリエステル系の層である」と記載されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2005−120613号公報
【0004】
しかしながら、上記合成樹脂製長尺成形体は一軸延伸された熱可塑性樹脂シートを芯材として用いているので、延伸された方向に割れやすく、特に冬場の低温環境下では耐衝撃性が低く、輸送や施工時に割れやすいという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記欠点に鑑み、低温環境下でも耐衝撃性が優れ、線膨張率が小さい積層シート、特に外装建材として好適に使用できる積層シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の積層シートは、一軸延伸熱可塑性樹脂シートの両面に、ポリ塩化ビニル系樹脂97〜88重量%とアクリレート系共重合体粒子3〜12重量%からなるポリ塩化ビニル系樹脂組成物シートが積層されてなり、0℃におけるアイゾット衝撃値が10kJ/m2以上であることを特徴とする。
【0007】
本発明で使用される熱可塑性樹脂としては、延伸可能な任意の熱可塑性樹脂が使用可能であり、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等のオレフィン系樹脂、熱可塑性ポリエステル系樹脂等が挙げられるが、線膨張係数が小さく、軽量で、耐衝撃性、耐久性等に優れた熱可塑性ポリエステル系樹脂が好ましい。
【0008】
又、一軸延伸熱可塑性樹脂シートの延伸倍率は、小さすぎても大きすぎても線膨張係数の絶対値が大きくなり、延伸倍率が小さくなると引張弾性率が小さくなり、大きくなると耐衝撃性が低下するので2.5〜10倍が好ましく、より好ましくは3〜8倍である。
【0009】
上記一軸延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートは、引張弾性率が7GPaを下回ると線膨張係数が大きくなり、15GPaを上回ると耐衝撃性が低下するので、引張弾性率は7〜15GPaが好ましい。
【0010】
上記一軸延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法は、特に限定されるものではないが、非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度±20℃の温度で引抜延伸した後、引抜延伸温度より高い温度で総延伸倍率が3〜8倍に一軸延伸するのが好ましい。
【0011】
上記熱可塑性ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリグリコール酸、ポリ(L−乳酸)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート/ヒドロキシバリレート)、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート/乳酸、ポリブチレンサクシネート/カーボネート、ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリテトラメチレナジペート/テレフタレート、ポリブチレンサクシネート/アジペート/テレフタレート等が挙げられ、耐熱性の優れたポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0012】
熱可塑性ポリエステル系樹脂の極限粘度は、低すぎるとシート作成時にドローダウンを起こしやすく、高すぎると、延伸しても機械的強度(特に弾性率)が上昇しないので、0.6〜1.0が好ましい。
【0013】
熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚みは特に限定されないが、0.1mm未満では、延伸後のシート厚みが薄くなりすぎ、取扱いに際しての強度が十分な大きさとならないことがあり、5mmを超えると延伸が困難となることがあるので0.1〜5mmが好ましい。
【0014】
熱可塑性ポリエステル系樹脂は非晶状態であるのが好ましい。その結晶化度は特に限定されるものではないが、示差走査熱量計で測定した結晶化度が10%未満あることが好ましく、より好ましくは5%未満である。
【0015】
非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの引抜延伸する方法は、特に限定されず所定のクリアランスを有する引抜金型を通して引抜延伸してもよいが、一対のロール間を通して引抜延伸するのが、延伸後の厚みを自由にコントロールでき、又、引抜金型の特定部位の磨耗が生じることがないので好ましい。
【0016】
引抜延伸する際の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの温度は、特に限定されるものではないが、ガラス転移温度付近の温度に予熱されているのが好ましい。予熱温度は、低すぎても高すぎても熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが所定の温度にならないことがあるので、熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度−20℃〜熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度+10℃の温度が好ましい。
【0017】
引抜延伸する際の温度は、低温であると熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが硬すぎて、引抜こうとしても先に切断されてしまうことがあり、切断されなくてもシートにボイドができて白化してしまうなどの問題があり、逆に、高温になると熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが柔らかくなりシートを引抜く張力によりシートが切断されるので、熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度±20℃の温度範囲であり、好ましくは熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度〜熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度+10℃の温度範囲である。
【0018】
又、非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを引抜く際に、ロールは回転している必要はないが、特に熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚みが厚い場合には、せん断発熱によるロールの蓄熱に起因するシートの温度上昇が生じやすいため、引抜方向に回転させるのが好ましい。
【0019】
ロールの回転速度が遅いと、ロールと熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの接触時間が長くなり、摩擦熱が発生し、ロール温度が上昇して、加熱された熱可塑性ポリエステル系樹脂を冷却する効果が低下し、所定の引抜延伸温度を超えてしまい、逆にロールの回転速度が早くなると、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの表面の熱可塑性ポリエステル系樹脂のみが流動し、均一に引抜延伸できなくなり、得られた引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの弾性率が低下する。
【0020】
従って、ロールの回転速度は熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを同一条件の引抜速度でロールが回転していない状態で引き抜いた際の送り速度と実質的に同一又はそれ以下の速度が好ましい。
【0021】
又、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚さが厚い(1.5mm以上)場合は、ロールとシートとのせん断による発熱が大きくなるため、ロールの回転速度は上記送り速度の50〜100%が好ましい。また、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚さが薄い場合は、ロールによる冷却効果が大きいのでロールの回転速度は遅くてもよい。
【0022】
引抜延伸の延伸倍率は、特に限定されるものではないが、延伸倍率が低いと、引張強度、引張弾性率に優れたシートが得られず、高くなると延伸時にシートの破断が生じやすくなるので、2〜9倍が好ましく、より好ましくは2.5〜7倍である。
【0023】
引抜延伸された熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを引抜延伸の温度より高い温度で一軸延伸するのが好ましい。
【0024】
引抜延伸された熱可塑性ポリエステル系樹脂シートのポリエステル系樹脂は、延伸の阻害要因となる熱による等方的な結晶化及び配向が抑えられた状態で分子鎖は高度に配向しているので強度及び弾性率が優れているが結晶化度は低いので、加熱されると配向は容易に緩和され弾性率は低下してしまうという欠点を有している。
【0025】
しかし、この引抜延伸された熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、該引抜延伸の温度より高い温度で一軸延伸することにより配向が緩和されることなく結晶化度が上昇し、加熱されても配向が容易に緩和されない耐熱性の優れた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが得られる。
【0026】
上記一軸延伸する方法としてはロール延伸法が好適に用いられる。ロール延伸法とは、速度の異なる2対のロール間に延伸原反を挟み、延伸原反を加熱しつつ引っ張る方法であり、一軸方向のみに強く分子配向させることができる。
【0027】
上記一軸延伸する際の温度は、引抜延伸の温度より高い温度であればよいが、高すぎると一次延伸された熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが溶融して切断されるので、昇温速度10℃/minで測定した示差走査熱量曲線での熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化ピークの立ち上がり温度〜融解ピークの立ち上がり温度の温度範囲が好ましい。
【0028】
尚、ポリエチレンテレフタレートの結晶化ピークの立ち上がり温度は約120℃であり、融解ピークの立ち上がり温度は約230℃である。従って、ポリエチレンテレフタレートシートを一軸延伸する際は約120℃〜約230℃で一軸延伸するのが好ましい。
【0029】
上記一軸延伸の延伸倍率は、特に限定されるものではないが、延伸倍率が低いと、引張強度、引張弾性係数等の優れたシートが得られず、高くなると延伸時にシートの破断が生じやすくなるので、1.05〜3倍が好ましく、さらに好ましくは1.1〜2倍である。
【0030】
尚、一軸延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの延伸倍率は3〜8倍が好ましいので、引抜延伸倍率と、一軸延伸倍率の和が3〜8倍になるように延伸するのが好ましい。
【0031】
本発明においては、耐熱性を向上させるために一軸延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートは一軸延伸温度より高い温度で熱固定するのが好ましい。
【0032】
熱固定温度は、昇温速度10℃/minで測定した示差走査熱量曲線での熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化ピークの立ち上がり温度より低いと熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化が進まないので耐熱性が向上せず、融解ピークの立ち上がり温度より高いと熱可塑性ポリエステル系樹脂が溶解して延伸(配向)が消滅し引張弾性率、引張強度等が低下し、一軸延伸温度より30℃以上高くなると、一軸延伸温度で結晶化した結晶の配向が緩和されるので、昇温速度10℃/minで測定した示差走査熱量曲線での熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化ピークの立ち上がり温度〜融解ピークの立ち上がり温度であって、一軸延伸温度より30℃以上高くない温度が好ましい。
【0033】
又、熱固定する際に、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに大きな張力がかかっていると延伸され、張力がかかっていないか、非常に小さい状態では収縮するので、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの延伸方向の長さが実質的に変化しないようにした状態で行うことが好ましく、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに圧力もかかっていないのが好ましい。
【0034】
即ち、熱固定された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの長さが、熱固定前の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの長さの0.95〜1.1で、一軸延伸倍率より低い倍率になるように熱固定するのが好ましい。
【0035】
従って、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートをピンチロール等のロールで加熱室内を移動しながら連続的に熱固定する場合は、入口側と出口側の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの送り速度比を0.95〜1.1になるように設定して熱固定するのが好ましい。
【0036】
熱固定する際の加熱方法は、特に限定されるものではなく、例えば、熱風、ヒーター等で加熱する方法があげられる。
【0037】
熱固定する時間は、特に限定されず、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚さや熱固定温度により異なるが、一般に10秒〜10分が好ましい。
【0038】
更に、上記熱固定された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、ガラス転移温度〜昇温速度10℃/minで測定した示差走査熱量曲線での熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化ピークの立ち上がり温度の範囲で、実質的に張力がかからない状態でアニールするのが好ましい。
【0039】
上記アニールすることにより、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートは弾性率等の力学的物性が良好であって、ガラス転移温度以上の温度に加熱されても弾性率等の力学的物性が低下することがなく、且つ、収縮率を低く抑えることができる。
【0040】
又、アニールする際に、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに大きな張力がかかっていると延伸されるので、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに実質的に張力がかからない状態でアニールするのが好ましい。
【0041】
即ち、アニールされた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの長さが、アニール前の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの長さの1.0以下になるようにアニールするのが好ましい。
【0042】
従って、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートをピンチロール等のロールで加熱室内を移動しながら連続的にアニールする場合は、入口側と出口側の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの送り速度比を1.0以下になるように設定してアニールするのが好ましい。
【0043】
アニールする際の加熱方法は、特に限定されるものではなく、例えば、熱風、ヒーター等で加熱する方法があげられる。
【0044】
アニールする時間は、特に限定されず、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚さやアニール温度により異なるが、一般に10秒以上が好ましく、より好ましくは30秒〜60分であり、更に好ましくは1〜20分である。
【0045】
本発明で使用されるポリ塩化ビニル系樹脂組成物は、ポリ塩化ビニル系樹脂97〜88重量%とアクリレート系共重合体粒子3〜12重量%からなる。
【0046】
上記ポリ塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル単独重合体、塩化ビニルを主成分(50重量%以上)とし、塩化ビニルモノマーと共重合可能なモノマーとの共重合体及びこれらの塩素化物が挙げられる。これらは単独で用いられても良く、2種類以上併用して用いられても良い。
【0047】
上記塩化ビニルモノマーと共重合可能なモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等のα−オレフィン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート類;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル類;フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類;N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のN−置換マレイミド類等が挙げられる。これらのその他の共重合性モノマーは、単独で用いられても良いし、2種類以上が併用して用いられても良い。
【0048】
上記アクリレート系共重合体粒子は、従来からポリ塩化ビニル系樹脂成形体を製造する際に衝撃改質剤として使用されているアクリレート系共重合体粒子であればよく、例えば、ローム・アンド・ハース社製、商品名「KM−357P」が挙げられる。
【0049】
又、アクリレート系共重合体粒子としては、耐衝撃改良性の優れ、且つ、ポリ塩化ビニル系樹脂との相溶性が優れているのが好ましいので、アクリル系共重合体に塩化ビニルを主成分とするビニルモノマーがグラフト共重合されてなるグラフト共重合体粒子が好ましい。
【0050】
上記グラフト共重合体粒子としては、任意のアクリレートを主体とするアクリル系共重合体に塩化ビニルを主成分とするビニルモノマーがグラフト共重合されてなるグラフト共重合体粒子でよいが、耐衝撃改良性を改良するのであるから、柔らかいアクリル系共重合体が好ましい。
【0051】
即ち、単独重合体のガラス転移温度が−140℃〜30℃である少なくとも1種類の(メタ)アクリレートを主成分とするラジカル重合性モノマー100重量部と多官能性モノマー0.1〜10重量部とからなるアクリル系共重合体(a)3〜10重量%に、塩化ビニルを主成分とするビニルモノマー(b)を90〜97重量%グラフト共重合して得られるグラフト共重合体粒子が好ましい。
【0052】
上記塩化ビニル系グラフト共重合体は、アクリル系共重合体(a)に塩化ビニルを主成分とするビニルモノマー(b)がグラフト共重合体されていることにより、従来までの塩化ビニル系樹脂に塩素化ポリエチレンやMBS樹脂等の衝撃強化剤を加えた場合に生ずる衝撃強化剤の分散不良による耐衝撃性のバラツキをなくすことができ、安定した耐衝撃性を発現することが可能となる。
【0053】
上記(メタ)アクリレートモノマーは、アクリル系共重合体(a)を形成し、製造される塩化ビニル系グラフト共重合体の耐衝撃性を向上させるために配合するものであり、室温での柔軟性を付与するため、その単独重合体のガラス転移温度(Tg)は−140℃以上0℃未満である。
【0054】
上記単独重合体のガラス転移温度が−140℃〜30℃の(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、クミルアクリレート、n−ヘプチル(メタ)アクリレート、2−メチルヘプチル(メタ)アクリレート、2 −エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、2−メチルオクチル(メタ)アクリレート、2−エチル(メタ)ヘプチルアクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ラウリルメタアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、パルミチルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは単独または2 種以上を組み合わせて用いることができる。
【0055】
なお、上記単独重合体のガラス転移温度が−140℃以上0℃未満である(メタ)アクリレートモノマーの単独重合体のガラス転移温度は、高分子学会績「高分子データ・ハンドブック(基礎編)」(1986年、培風館社)によった。
【0056】
上記(メタ)アクリレートを主成分とするラジカル重合性モノマーには、上記(メタ)アクリレート以外のラジカル重合が可能なモノマーが添加されてもよく、例えば、単独重合体のガラス転移温度が上記範囲以外の(メタ)アクリレート、2−アクリロイルオキシエチルフタル酸等の極性基含有ビニルモノマー、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−クロロスチレン等の芳香族ビニルモノマー、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル等が挙げられる。
【0057】
ラジカル重合性モノマーの比率が多くなると耐衝撃性が得られにくくなるので、ラジカル重合性モノマーの添加量は(メタ)アクリレートモノマーとラジカル重合性モノマーの合計量の49重量%以下が好ましい。
【0058】
上記多官能性モノマーは、上記アクリル系共重合体(a)を製造する際及び製造後の上記アクリル系共重合体(a)の粒子の構造を保持するために配合するものである。
【0059】
上記多官能性モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ〉アクリレート、1 .6 −ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールトリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート;ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0060】
又、その他の多官能性モノマーとしては、ジアリルフタレート、ジアリルマレート、ジアリルフマレート、ジアリルサクシネ−ト、トリアリルイソシアヌレート等のジ若しくはトリアリル化合物、ジビニルベンゼン、ブタジエン等のジビニル化合物等が挙げられる。 これらは単独または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0061】
上記アクリル系共重合体(a)における上記多官能性モノマーの配合量は、アクリル系共重合体を形成する、単独重合体のガラス転移温度が−140℃〜30℃である(メタ)アクリレートと、これと共重合可能なラジカル重合性モノマーから成る混合モノマー成分100量量部に対して、0.1〜30量量部である。
【0062】
上記多官能性モノマーの配合量が、0.1 量量部未満では、アクリル共重合体が塩化ビニル系グラフト共重合体樹脂中で独立した粒子形状を保てなくなるため、塩化ビニル系グラフト共重合体樹脂の耐衝撃性が低下する。一方、30量量部を越えると、アクリル系共重合体の架橋密度が高くなり、有効な耐衝撃性が得られなくなるため上記範囲に限定される。
【0063】
上記ラジカル重合性モノマーと多官能性モノマーとを共重合させる方法としては、例えば、乳化重合法、懸濁重合法等が挙げられ、耐衝撃性の発現性がよく、アクリル系共重合体の粒子径の制御が行い易い点から乳化重合法が望ましい。尚、上記共重合とは、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等すべての共重合をいう。
【0064】
上記乳化重合法により重合を行う際には、乳化分散剤、重合開始剤を用いる。また、必要に応じて、pH調整剤、酸化防止剤等を添加してもよい。上記乳化分散剤は、ラジカル重合性モノマー成分と多官能性モノマーとの混合物(以下、「混合モノマー」という)の乳化液中での分散安定性を向上させ、重合を効率的に行うために用いるものである。
【0065】
上記乳化分散剤としては特に限定されず、例えば、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、部分ケン化ポリ酢酸ビニル、セルロース系分散剤、ゼラチン等が挙げられる。これらの中では、アニオン系界面活性剤が好ましく、上記アニオン系界面活性剤の具体例としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテルサルフエート(第一工業製薬社製「ハイテノール225L 」、「ハイテノールM−08」)等が挙げられる。
【0066】
上記重合開始剤としては特に限定されず、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素水等の水溶性重合開始剤、べンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等の有機系過酸化物、アゾビスイソプチロニトリル等のアゾ系開始剤等が挙げられる。
【0067】
上記乳化重合法の種類は特に限定されず、例えば、一括重合法、モノマー滴下法、エマルジョン滴下法等が挙げられる。上記一括重合法は、ジャケット付重合反応器内に純水、乳化分散剤、及び、混合モノマーを一括して添加し、窒素気流加圧下で攪拌して充分乳化した後、反応器内をジャケットで所定の温度に昇温し、その後重合させる方法である。
【0068】
上記モノマ一滴下法は、ジャケット付重合反応器内に純水、乳化分散剤、及び、重合開始剤を入れ、窒素気流下による酸素除去及び加圧を行い、反応器内をジャケットにより所定の温度に昇温した後、混合モノマーを一定量ずつ滴下して重合させる方法である。
【0069】
上記エマルジョン滴下法は、混合モノマー、乳化分散剤、及び、純水を攪拌して乳化モノマーを予め調製し、次いで、ジャケット付重合反応器内に純水、及び、重合開始剤を入れ、窒素気流下による酸素除去及び加圧を行い、反応器内をジャケットにより所定の温度に昇温した後、上記乳化モノマーを一定量ずつ滴下して重合させる方法である。
【0070】
又、上記エマルジョン滴下法では、重合初期に上記乳化モノマーの一部を一括添加し(この一括添加したモノマーを以下「シードモノマー」と呼ぶ)、その後残りの乳化モノマーを滴下する方法を用いれば、シードモノマーの量を変化させることにより、生成するアクリル系共重合体(a)の粒径を容易に制御することができる。更に、シードモノマー及び滴下する乳化モノマーの種類及び組成を順次、変更、区別することにより、コアシェル構造などの多層構造を形成することも可能である。
【0071】
上記したような重合方法において、反応終了後に得られるアクリル系共重合体の固形分濃度は、アクリル系共重合体の生産性、重合反応の安定性の点から10重量%〜60重量%が好ましい。又、上記したような重合方法においては、反応終了後のアクリル系共重合体の機械的安定性を向上させる目的で保護コロイド等を添加しても良い。
【0072】
上記グラフト共重合体粒子は、上記アクリル系共重合体(a)3〜10重量%に塩化ビニルを主成分とするビニルモノマー(b)を90〜97重量%グラフト重合して得られる。上記アクリル系共重合体(a)が3重量%未満では、製造される塩化ビニル系グラフト共重合体が充分な耐衝撃性を得ることができず、10重量%を越えると、製造される塩化ビニル系グラフト共重合体の曲げ強度や引張強度等の機械的強度が低くなるため上記範囲に限定され、好ましくは4〜7重量%である。
【0073】
上記塩化ビニル系グラフト共重合体中のポリ塩化ビニルの重合度は、300〜2000が好ましく、より好ましくは400〜1600であり、更に好ましくは800〜1400である。重合度が300未満であると、充分な機械的強度が得られなくなり、2000を越えると、塩化ビニル系グラフト共重合体を成形する際の成形性が悪くなることがある。
【0074】
上記アクリル系共重合体(a)に、塩化ビニルを主成分とするビニルモノマー(b)をグラフト共重合させる方法としては、特に限定されず、例えば、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法、塊状重合法等が挙げられ、懸濁重合法が好ましい。上記懸濁重合法により重合を行う際には、分散剤、重合開始剤等を用いる。
【0075】
上記分散剤としては、特に限定はされないが、上記アクリル系共重合体の分散安定性を向上させ、塩化ビニルを主成分とするビニルモノマー(b)のグラフト重合を効率的に行う目的で添加される。例えば、ポリ(メタ)アクリル酸塩、(メタ〉アクリル酸塩−アルキルアクリレート共重合体、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリ酢酸ビニル及びその部分ケン化物、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、デンプン、無水マレイン酸−スチレン共重合体等が挙げられ、これらは単独または2種類以上組み合わせて用いることができる。
【0076】
上記重合開始剤としては、特に限定されないが、ラジカル重合開始剤がグラフト共重合に有利であるという理由から好適に用いられる。例えば、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジオクチルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、α−クミルパーオキシネオデカノエート等の有機パーオキサイド類、2、2−アゾビスイソブチロニトリル、2、2−アゾビス−2、4−ジメチルバレロニトリル等のアゾ化合物等が挙げられる。
【0077】
塩化ビニルを主成分とするビニルモノマー(b)をグラフト共重合させる隙に、重合中に重合槽内に付着するスケールを減少させる目的で、上記アクリル系共重合体の分散溶液に、凝集剤を添加しても良い。更に、必要に応じて、pH調整剤、酸化防止剤等が添加されてもよい。
【0078】
上記懸濁重合法としては、例えば、以下の方法を用いることができる。即ち、温度調整機及び攪拌機を備えた反応容器に、純水、上記アクリル系共重合体分散溶液、分散剤、重合開始剤、及び、必要に応じて水溶性増粘剤、重合度調節剤を投入する。その後、真空ポンプで重合器内の空気を排出し、更に攪拌条件下で塩化ビニルを主成分とするビニルモノマー(b)を投入した後、反応容器内をジャケットにより加熱し、塩化ビニルを主成分とするビニルモノマー(b)のグラフト共重合を行う。
【0079】
この時、重合温度は所望の塩化ビニル系グラフト共重合体粒子中の塩化ビニル系樹脂の重合度に対応した温度に制御する。一般には、例えば、重合度800の場合は64℃、重合度900の場合は61.5℃、重合度1000の場合は57.5℃、重合度1200の場合は53.5℃、重合度2400の場合は39.5℃である。
【0080】
上記した懸濁重合法では、ジャケット温度を変えることにより反応容器内の温度、つまり重合温度を制御することが可能である。
反応終了後は、未反応の塩化ビニル等を除去しスラリー状にし、更に脱水乾燥することにより塩化ビニル系グラフト共重合体粒子が製造される。
【0081】
上記の製造方法で得られたグラフト共重合体粒子は、アクリル系共重合体(a)にポリ塩化ビニルの一部が直接結合しているので、耐衝撃性に優れると共に機械的強度にも優れる。
【0082】
上記グラフト共重合体粒子の市販品としては、積水化学社製、商品名「AG−64T」(アクリル含有量5.3重量%)、「AG−72P」(アクリル含有量7.0重量%)、「AG−162E」(アクリル含有量16.0%)等が挙げられる。
【0083】
ポリ塩化ビニル系樹脂組成物におけるアクリレート系共重合体粒子の量は、少なくなると充分な耐衝撃性が得られにくくなり、又、多くなると曲げ強度や引張強度等の機械的強度が低くなるので、ポリ塩化ビニル系樹脂97〜88重量%とアクリレート系共重合体粒子3〜12重量%からなる。
【0084】
上記ポリ塩化ビニル系樹脂組成物には、必要に応じて安定剤、外滑剤、内滑剤、加工助剤、酸化防止剤、光安定剤、充填剤、顔料、可塑剤等の添加剤が添加されてもよい。
【0085】
上記安定剤としては特に限定されず、例えば、熱安定剤、熱安定化助剤などが挙げられる。上記熱安定剤としては特に限定されず、例えば、ジブチル錫メルカプト、ジオクチル錫メルカプト、ジメチル錫メルカプト、ジブチル錫メルカプト、ジブチル錫マレート、ジブチル錫マレートポリマー、ジオクチル錫マレート、ジオクチル錫マレートポリマー、ジブチル錫ラウレート、ジブチル錫ラウレートポリマー等の有機錫系安定剤;ステアリン酸鉛、二塩基性亜りん酸鉛、三塩基性硫酸鉛等の鉛系安定剤;カルシウム−亜鉛系安定剤;バリウム−亜鉛系安定剤;バリウムーカドミウム系安定剤などが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0086】
上記内滑剤としては、例えば、ステアリン酸、ステアリルアルコール、ステアリン酸ブチル等が挙げられる。上記加工助剤としては、例えば、重量平均分子量10万〜300万のアルキルアクリレート/アルキルメタクリレート共重合体であるアクリル系加工助剤が挙げられ、具体例としては、n−ブチルアクリレート/メチルメタクリレート共重合体、2−エチルヘキシルアクリレート/メチルメタクリレート/ブチルメタクリレート共重合体等が挙げられる。
【0087】
上記酸化防止剤としては、例えば、フェノール系抗酸化剤等が挙げられる。上記光安定剤としては、例えば、サリチル酸エステル系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系等の紫外線吸収剤、あるいはヒンダードアミン系の光安定剤等が挙げられる。
【0088】
上記充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、タルク等が挙げられる。上記顔料としては、例えば、アゾ系、フタロシアニン系、スチレン系、染料レーキ系等の有機顔料、酸化物系、クロム酸モリブデン系、硫化物・セレン化物系、フェロシアン化物系等の無機顔料等が挙げられる。又、上記可塑剤としては、例えば、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート等が挙げられる。
【0089】
上記添加剤をポリ塩化ビニル系樹脂組成物に混合する方法としては、ホットブレンドによる方法でも、コールドブレンドによる方法でもよい。
【0090】
上記一軸延伸熱可塑性樹脂シートの両面にポリ塩化ビニル系樹脂組成物シートを積層する方法は従来公知の任意の方法が採用されてよく、例えば、下記の方法が挙げられる。
(1)一軸延伸熱可塑性樹脂シートの両面にポリ塩化ビニル系樹脂組成物を溶融押出塗工して積層する方法。
【0091】
(2)一軸延伸熱可塑性樹脂シートの両面にポリ塩化ビニル系樹脂組成物シートを熱プレスにより接着して積層する方法。
(3)一軸延伸熱可塑性樹脂シートの両面に、一軸延伸熱可塑性樹脂シートを構成する熱可塑性樹脂の融点より低い融点を有するポリエステル系、ポリオレフィン系等のホットメルト型接着剤でポリ塩化ビニル系樹脂組成物シートを接着して積層する方法。
【0092】
(4)一軸延伸熱可塑性樹脂シートの両面に、反応性接着剤、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、ポリエステル系接着剤、ゴム系接着剤等の接着剤でポリ塩化ビニル系樹脂組成物シートを接着して積層する方法。
【0093】
本発明の積層シートは、上記一軸延伸熱可塑性樹脂シートの両面にポリ塩化ビニル系樹脂組成物シートが積層されてなるが、肉厚であると重量が大きくなり、薄肉であると機械的強度等が不足するため、一軸延伸された熱可塑性樹脂シートの肉厚は0.2〜1.0mmが好ましく、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物シートの肉厚は0.4〜2.0mmが好ましい。
【0094】
又、本発明の積層シートは、アイゾット衝撃値が小さいと輸送時や施工時の衝撃等により、一軸延伸熱可塑性樹脂シートの延伸方向に沿って割れが発生するので、0℃におけるアイゾット衝撃値が10kJ/m2 以上である。
【0095】
上記積層シートは、異型成形、曲げ加工等の成形方法により所定形状に成形することができ、所定形状の積層成形体が得られる。又、積層シートの耐候性や意匠性を向上させるために、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物シートの表面に異なる樹脂層を積層したり、塗料を塗装してもよい。
【0096】
本発明の積層シートは、外装建材として、特に雨樋として好適に用いられる。
【発明の効果】
【0097】
本発明の積層シートの構成は上述の通りであるので、低温環境下でも耐衝撃性が優れ、線膨張率が小さく、特に外装建材として好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0098】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに許しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0099】
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレート(ユニチカ社製、商品名「NEH−2070」、極限粘度0.88)を溶融押出成形した後急冷して得られた厚さ2.5mmのポリエチレンテレフタレートシート(結晶化度1.3%)を延伸装置(協和エンジニアリング社製)に供給し、80℃に予熱した後、74℃に加熱された一対のロール(ロール間隔0.6mm)間を2m/minの速度で引抜いて引抜延伸し、更に熱風加熱槽中でポリエチレンテレフタレートシート表面温度を200℃に加熱し、出口速度2.5m/minに設定してロール延伸して、延伸倍率が約6倍、厚さ0.6mmの延伸ポリエチレンテレフタレートシートを得た。
【0100】
尚、上記ポリエチレンテレフタレートシートのガラス転移温度は76.7℃、昇温速度10℃/minで測定した示差走査熱量曲線での結晶化ピークの立ち上がり温度は約139℃であり、融解ピークの立ち上がり温度は約234℃であった。
【0101】
得られた延伸ポリエチレンテレフタレートシートを、ピンチロールが設置され、200℃に設定されているライン長10mの熱風加熱槽に、入口速度2.5m/minで供給し、出口速度2.75m/minに設定して熱固定を行い、熱固定された延伸ポリエチレンテレフタレートシートを得た。熱固定された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの長さが、熱固定前の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの長さの1.00倍であった。
【0102】
熱固定された延伸ポリエチレンテレフタレートシートを、ピンチロールが設置され、90℃に設定されているライン長14mの熱風加熱槽に、入口速度2.75m/minで供給し、出口速度2.7m/minに設定してアニールを行い、アニールされた延伸ポリエチレンテレフタレートシートを得た。アニールされた延伸ポリエチレンテレフタレートシートの長さが、アニール前の延伸ポリエチレンテレフタレートシートの長さの0.98倍であった。
【0103】
塩化ビニル樹脂(徳山積水工業社製、商品名「TS−1000R」) 92.0重量部、アクリル系共重合体粒子(ローム・アンド・ハース社製、商品名「KM−375P」)8.0重量部、有機錫系熱安定剤(三共有機合成社製、商品名「STANN ONZ−100F」)1.0重量部、酸化ポリエチレンワックス(三井化学社製、商品名「Hiwax220MP」)0.5重量部、加工助剤(カネカ社製、商品名「PA−20」)0.5重量部及び炭酸カルシウム(白石カルシウム社製、商品名「ホワイトン305S」)2.0重量部を200Lスーパーミキサー(カワタ社製)に供給し、高速回転して110℃まで昇温した後、冷却してポリ塩化ビニル系樹脂組成物を得た。
【0104】
アニールされた延伸ポリエチレンテレフタレートシートを2軸異方向押出機(プラスチック工学研究所製、商品名「BT−50」)に供給して、200℃に加熱された雨樋形状の金型内で雨樋形状に賦形すると共に、その両面にポリエステル系ホットメルト型接着剤からなるフィルム(クラボウ社製、厚み0.04mm、融点126℃)を165℃でラミネートし、次いで、上記ポリ塩化ビニル系樹脂組成物を190℃で厚さ0.41mmに積層して延伸ポリエチレンテレフタレートシートにポリエステル系ホットメルト接着剤によって接着させ、肉厚1.5mm、周長200mmの雨樋形状の積層成型体を得た。
【0105】
(実施例2)
ポリエチレンテレフタレート(ユニチカ社製、商品名「NEH−2070」、極限粘度0.88)を溶融押出成形した後急冷して得られた厚さ3.0mmのポリエチレンテレフタレートシート(結晶化度1.3%)を延伸装置(協和エンジニアリング社製)に供給し、80℃に予熱した後、74℃に加熱された一対のロール(ロール間隔0.6mm)間を2m/minの速度で引抜いて引抜延伸し、更に熱風加熱槽中でポリエチレンテレフタレートシート表面温度を180℃に加熱し、出口速度2.5m/minに設定してロール延伸して、延伸倍率が約4倍の延伸ポリエチレンテレフタレートシートを得た。
【0106】
塩化ビニル樹脂(徳山積水工業社製、商品名「TS−1000R」) の添加量を87.0重量部、アクリル系共重合体粒子(ローム・アンド・ハース社製、商品名「KM−375P」)の添加量を13.0重量部とした以外は実施例1で行ったと同様にして、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物を得、上記延伸倍率が約4倍の延伸ポリエチレンテレフタレートシートを用いた以外は実施例1で行ったと同様にして積層して雨樋形状の積層成型体を得た。
【0107】
(実施例3)
ポリエチレンテレフタレート(ユニチカ社製、商品名「NEH−2070」、極限粘度0.88)を溶融押出成形した後急冷して得られた厚さ2.5mmのポリエチレンテレフタレートシート(結晶化度1.3%)を延伸装置(協和エンジニアリング社製)に供給し、80℃に予熱した後、74℃に加熱された一対のロール(ロール間隔0.6mm)間を2m/minの速度で引抜いて引抜延伸し、更に熱風加熱槽中でポリエチレンテレフタレートシート表面温度を180℃に加熱し、出口速度2.5m/minに設定してロール延伸して、延伸倍率が約5倍の延伸ポリエチレンテレフタレートシートを得た。
【0108】
塩化ビニル樹脂(徳山積水工業社製、商品名「TS−1000R」) の添加量を95.0重量部、アクリル系共重合体粒子(ローム・アンド・ハース社製、商品名「KM−375P」)の添加量を5.0重量部にした以外は実施例1で行ったと同様にして、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物を得、上記延伸倍率が約5倍の延伸ポリエチレンテレフタレートシートを用いた以外は実施例1で行ったと同様にして積層して雨樋形状の積層成型体を得た。
【0109】
(実施例4)
アクリル系共重合体粒子がポリ塩化ビニル樹脂がグラフト共重合している、アクリル系共重合体を含有するポリ塩化ビニル系樹脂として、徳山積水工業社製、商品名「AG−64T」を100重量部添加し、アクリル系共重合体粒子を後添加しないこと以外は実施例1で行ったと同様にして、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物を得、実施例3で得られた延伸倍率が約5倍の延伸ポリエチレンテレフタレートシートを用いた以外は実施例1で行ったと同様にして積層して雨樋形状の積層成型体を得た。
【0110】
(比較例1)
塩化ビニル樹脂(徳山積水工業社製、商品名「TS−1000R」) の添加量を100.0重量部とし、アクリル系共重合体粒子を添加しなかった以外は実施例1で行ったと同様にして、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物を得、実施例3で行ったと同様にして雨樋形状の積層成型体を得た。
【0111】
(比較例2)
塩化ビニル樹脂(徳山積水工業社製、商品名「TS−1000R」) の添加量を98.0重量部とし、アクリル系共重合体粒子(ローム・アンド・ハース社製、商品名「KM−375P」)の添加量を2.0重量部にした以外は実施例1で行ったと同様にして、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物を得、実施例3で行ったと同様にして雨樋形状の積層成型体を得た。
【0112】
(比較例3)
ポリエチレンテレフタレート(ユニチカ社製、商品名「NEH−2070」、極限粘度0.88)を溶融押出成形した後急冷して得られた厚さ2.5mmのポリエチレンテレフタレートシート(結晶化度1.3%)を延伸装置(協和エンジニアリング社製)に供給し、80℃に予熱した後、74℃に加熱された一対のロール(ロール間隔1.1mm)間を2m/minの速度で引抜いて引抜延伸し、更に熱風加熱槽中でポリエチレンテレフタレートシート表面温度を180℃に加熱し、出口速度2.5m/minに設定してロール延伸して、延伸倍率が約2倍の延伸ポリエチレンテレフタレートシートを得た。
得られた延伸倍率が約2倍の延伸ポリエチレンテレフタレートシートに実施例1で行ったと同様にしてポリ塩化ビニル系樹脂組成物を積層して雨樋形状の積層成型体を得た。
【0113】
(比較例4)
ポリエチレンテレフタレート(ユニチカ社製、商品名「NEH−2070」、極限粘度0.88)を溶融押出成形した後急冷して得られた厚さ2.5mmのポリエチレンテレフタレートシート(結晶化度1.3%)を延伸装置(協和エンジニアリング社製)に供給し、80℃に予熱した後、74℃に加熱された一対のロール(ロール間隔0.1mm)間を4m/minの速度で引抜いて引抜延伸し、更に熱風加熱槽中でポリエチレンテレフタレートシート表面温度を180℃に加熱し、出口速度5m/minに設定してロール延伸して、延伸倍率が約10倍の延伸ポリエチレンテレフタレートシートを得た。
【0114】
塩化ビニル樹脂(徳山積水工業社製、商品名「TS−1000R」) の添加量を90.0重量部とし、アクリル系共重合体粒子(ローム・アンド・ハース社製、商品名「KM−375P」)の添加量を10.0重量部にした以外は実施例1で行ったと同様にして、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物を得、上記延伸倍率が約10倍の延伸ポリエチレンテレフタレートシートに実施例1で行ったと同様にしてポリ塩化ビニル系樹脂組成物を積層して雨樋形状の積層成型体を得た。
【0115】
(比較例5)
塩化ビニル樹脂(徳山積水工業社製、商品名「TS−1000R」) の添加量を94.0重量部とし、アクリル系共重合体粒子(ローム・アンド・ハース社製、商品名「KM−375P」)の添加量を6.0重量部とした以外は実施例1で行ったと同様にして、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物を得、実施例3で得られた延伸倍率が約5倍の延伸ポリエチレンテレフタレートシートを用い、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物層の厚さを0.16mmとした以外は実施例1で行ったと同様にして積層して肉厚1.0mmの雨樋形状の積層成型体を得た。
【0116】
得られた積層成型体を用いてアイゾット衝撃試験及びハサミ割れ試験を行うと共に、得られた積層成型体の線膨張係数を測定して表1に示した。尚、各測定方法は下記の通りである。
【0117】
(1)アイゾット衝撃試験
得られた雨樋形状の積層成型体の底面部を切出してサンプルとし、プラスチックのアイゾット衝撃試験方法(JIS K7110)に準じて、0℃におけるアイゾット衝撃値を測定した。このとき、ノッチは延伸ポリエチレンテレフタレートシートの一軸延伸方向に沿った方向に入れた。
【0118】
(2)線膨張係数
得られた雨樋形状の積層成型体の底面部を切出してサンプルとし、プラスチックの線膨張率試験法(JIS K7197)に準じて線膨張率を測定した。測定温度は0℃〜50℃であり、昇温速度5℃/分とした。線膨張係数は、サンプルを0℃、50%RHで24時間保持した後、その長さをマイクロメータで測定し、次に50℃、50%RHで24時間保持した後、その長さをマイクロメータで測定し、その差から計算した。
【0119】
(3)ハサミ割れ試験
得られた雨樋形状の積層成型体の底面部から100mm×100mmの平板を切出してサンプルとした。0 ℃において、雨樋施工用柳刃ばさみによるハサミ割れ試験を行い、クラック発生の有無を判定した。切断方向は延伸ポリエチレンテレフタレートシートの一軸延伸方向であり、柳刃ばさみを先端まで閉じて、長さ2cm切断した先端部に、一軸延伸方向へクラックが走るのが目視で確認できたものを割れと判定した。12個のサンプルで試験し、割れたサンプルの数を表1に示した。
【0120】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一軸延伸熱可塑性樹脂シートの両面に、ポリ塩化ビニル系樹脂97〜88重量%とアクリレート系共重合体粒子3〜12重量%からなるポリ塩化ビニル系樹脂組成物シートが積層されてなり、0℃におけるアイゾット衝撃値が10kJ/m2 以上であることを特徴とする積層シート。
【請求項2】
一軸延伸熱可塑性樹脂シートの延伸倍率が3〜8倍であることを特徴とする請求項1 記載の積層シート。
【請求項3】
一軸延伸熱可塑性樹脂シートがポリエステル系樹脂シートであることを特徴とする請求項1又は2記載の積層シート。
【請求項4】
一軸延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが、非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度±20℃の温度で引抜延伸した後、引抜延伸温度より高い温度で総延伸倍率が3倍〜8倍に一軸延伸されたシートであることを特徴とする請求項3記載の積層シート。
【請求項5】
非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの、示差走査熱量計で測定した結晶化度が10%未満であることを特徴とする請求項4記載の積層シート。
【請求項6】
引抜延伸が、一対のロール間を通して行われていることを特徴とする請求項4又は5記載の積層シート。
【請求項7】
非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度−20℃〜該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度+10℃の温度で予熱した後、引抜延伸されていることを特徴とする請求項6記載の積層シート。
【請求項8】
引抜延伸が、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、同一条件の引抜速度でロールが回転していない状態で引き抜いた際の送り速度と実質的に同一速度以下の速度で該ロールを引抜方向に回転させながら行われていることを特徴とする請求項6又は7記載の積層シート。
【請求項9】
一軸延伸温度が、昇温速度10℃/minで測定した示差走査熱量曲線での熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化ピークの立ち上がり温度〜融解ピークの立ち上がり温度であることを特徴とする請求項4〜8のいずれか1項記載の積層シート。
【請求項10】
一軸延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが、昇温速度10℃/minで測定した示差走査熱量曲線での熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化ピークの立ち上がり温度〜融解ピークの立ち上がり温度であって、一軸延伸温度より30℃以上高くない温度で熱固定されていることを特徴とする請求項4〜9のいずれか1項記載の積層シート。
【請求項11】
熱固定が、一軸延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの長さが実質的に変化しない状態で行われていることを特徴とする請求項10記載の積層シート。
【請求項12】
熱固定された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの長さが、熱固定前の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの長さの0.95〜1.1であることを特徴とする請求項11記載の積層シート異型長尺成形体の製造方法。
【請求項13】
熱固定時間が、10秒〜10分であることを特徴とする請求項10〜12のいずれか1項記載の積層シート。
【請求項14】
熱固定された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが、更に、ガラス転移温度〜昇温速度10℃/minで測定した示差走査熱量曲線での熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化ピークの立ち上がり温度の範囲で、実質的に張力のかからない状態でアニールされていることを特徴とする請求項10〜13のいずれか1項記載の積層シート。
【請求項15】
アニール時間が10秒以上であることを特徴とする請求項14記載の積層シート。
【請求項16】
アクリレート系共重合体粒子が、アクリル系共重合体に塩化ビニルを主成分とするビニルモノマーがグラフト共重合されてなるグラフト共重合体粒子であることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項記載の積層シート。
【請求項17】
グラフト系共重合体粒子が、単独重合体のガラス転移温度が−140℃〜30℃である少なくとも1種類の(メタ)アクリレートを主成分とするラジカル重合性モノマー100重量部と多官能性モノマー0.1〜10重量部とからなるアクリル系共重合体(a)3〜10重量%に、塩化ビニルを主成分とするビニルモノマー(b)を90〜97重量%グラフト共重合して得られるグラフト共重合体粒子であることを特徴とする請求項16項記載の積層シート。
【請求項18】
積層シートが外装建材であることを特徴とする請求項1 〜17のいずれか1項記載の積層シート。

【公開番号】特開2007−290265(P2007−290265A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−121562(P2006−121562)
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】