説明

積層セラミックコンデンサの製造方法

【課題】信頼性の高い積層セラミックコンデンサの製造方法を提供する。
【解決手段】誘電体セラミック層となるセラミックグリーンシート12は、BaTiO系を主成分とし、比表面積が2〜8m/gである第1のセラミック粉末を含む、セラミック主原料粉末を含む。内部電極となる導電性ペースト膜13,14は、BaTiO系を主成分とし、比表面積が20m/g以上である第2のセラミック粉末を含む。さらに、上記セラミック主原料粉末は、BaTiO系を主成分とし、比表面積が20m/g以上である第3のセラミック粉末を含む。第1のセラミック粉末の合計重量をTMとしたとき、第2および第3のセラミック粉末の各合計重量は、いずれもTMの1.5〜6.9重量%となるようにされ、第3のセラミック粉末の合計重量と第2のセラミック粉末の合計重量とのさらなる合計は、TMの5.4〜9.9重量%となるようにされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、積層セラミックコンデンサの製造方法に関するもので、特に、セラミック粉末を含有させた導電性ペーストを用いて内部電極となる導電性ペースト膜を形成する工程を備える、積層セラミックコンデンサの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサに備える内部電極は、バインダおよび有機溶剤からなる有機ビヒクル中に導電性金属粉末を分散させてなる導電性ペーストを、誘電体セラミック層となるセラミックグリーンシート上に塗布することによって、導電性ペースト膜を形成し、この導電性ペースト膜をセラミックグリーンシートとともに焼成することによって形成されるのが一般的である。
【0003】
上述の焼成工程において、セラミックグリーンシートと導電性ペースト膜との間で、焼結による収縮挙動が互いに異なるため、焼成工程の後、誘電体セラミック層と内部電極との界面に応力がかかり、場合によっては、コンデンサ本体において、剥離等の構造欠陥が生じることがある。
【0004】
この問題を解決するため、たとえば特開2001−291634号公報(特許文献1)では、内部電極形成用の導電性ペーストにおいて、導電性金属粉末に加えて、誘電体セラミック層の原料と同様の組成を有するセラミック粉末(以下、「共材」と言う。)を添加することが記載されている。
【0005】
より詳細には、特許文献1には、
(1)誘電体セラミック層において、内部電極に近くなるほど、セラミック粒子(グレイン)のシェル部の厚みが大きくされること、および
(2)コアシェル構造を有する粒子と有しない粒子との個数の比率が(9/1)以上(7/3)以下であること
が開示され、上記(1)および(2)の特徴を有するセラミック構造を有する積層セラミックコンデンサを製造する方法として、内部電極形成用導電性ペーストに、上記共材を添加し、その共材の粒径を、誘電体セラミック層となるセラミックグリーンシートに含まれるセラミック粉末の粒径の半分以下としている。
【0006】
しかし、このような共材は、粒子が微小であるため、反応性が非常に高い。よって、内部電極近傍のセラミック部分では、焼成により大きく粒成長する粒子が現れる。この大きく粒成長する粒子は、コアシェル構造のシェル成分となる希土類元素などの添加成分が均一に固溶した結晶粒子であり、いわば、コアシェル構造のシェル部のみからなる粒子のようなものである。
【0007】
また、コアシェル構造の粒子にしても、コア/シェル厚み比のグレイン間でのばらつきも大きくなる。そのため、直流電圧を印加した場合、局所的な電界集中が避けられず、高温負荷試験における寿命特性(信頼性)を低下させることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−291634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、この発明の目的は、上述したような問題を解決し得る積層セラミックコンデンサの製造方法を提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、BaTiO系を主成分とする第1のセラミック粉末を含む、セラミック主原料粉末を用意する工程と、セラミック主原料粉末を含有するセラミックグリーンシートを作製する工程と、BaTiO系を主成分とする第2のセラミック粉末、導電性金属粉末および有機ビヒクルを含む導電性ペーストを用意する工程と、セラミックグリーンシート上に導電性ペーストを塗布することによって、内部電極となる導電性ペースト膜を形成する工程と、導電性ペースト膜が形成された複数のセラミックグリーンシートを積層することによって、生のコンデンサ本体を得る工程と、生のコンデンサ本体を脱バインダし、次いで焼成する工程とを備える、積層セラミックコンデンサの製造方法に向けられるものであって、上述した技術的課題を解決するため、次のような構成を備えることを特徴としている。
【0011】
第1のセラミック粉末は、その比表面積が2〜8m/gである。他方、第2のセラミック粉末は、その比表面積が20m/g以上である。さらに、BaTiO系を主成分とし、かつ比表面積が20m/g以上である第3のセラミック粉末が用意される。
【0012】
セラミック主原料粉末は、第1のセラミック粉末だけでなく、第3のセラミック粉末をも含む。
【0013】
導電性ペースト膜に挟まれる有効層となるセラミックグリーンシートに含まれる第1のセラミック粉末の合計重量をTMとしたとき、
(1)有効層となるセラミックグリーンシートに含まれる第3のセラミック粉末の合計重量がTMの1.5〜6.9重量%となるようにされ、
(2)導電性ペースト膜に含まれる第2のセラミック粉末の合計重量がTMの1.5〜6.9重量%となるようにされ、
(3)有効層となるセラミックグリーンシートに含まれる第3のセラミック粉末の合計重量と導電性ペースト膜に含まれる第2のセラミック粉末の合計重量とのさらなる合計は、TMの5.4〜9.9重量%となるようにされる。
【0014】
さらに、この発明において、第1、第2および第3のセラミック粉末は、Dy、Y、HoおよびGdのうちの少なくとも1種を含む希土類元素酸化物を副成分として含み、第2および第3のセラミック粉末の各々における希土類元素酸化物の含有量は、BaTiOの100モル部に対して、0.3〜9.0モル部である。
【発明の効果】
【0015】
この発明によって製造された積層セラミックコンデンサによれば、後述する実験例からわかるように、高温負荷試験における寿命特性(信頼性)を向上させることができる。
【0016】
その理由は、共材としての第2および第3のセラミック粉末を、それぞれ、内部電極のための導電性ペースト膜および有効層となるセラミックグリーンシートに所定量含有させることにより、シェル成分からなる結晶粒子を、誘電体セラミック層における内部電極近傍にだけでなく、誘電体セラミック層全体にわたって均一に配置することができたためである推測される。
【0017】
また、内部電極のための導電性ペースト膜に含まれる共材としての第2のセラミック粉末の量が過剰になると、導電性ペーストの塗布厚(物理厚)が厚くなって、内部電極が対向する部分と内部電極の引出し部分との間での厚みの差が大きくなり、これが原因でコンデンサ本体が歪み、その結果、構造欠陥が誘発されることがある。これに対して、この発明によれば、導電性ペースト側での共材としての第2のセラミック粉末だけでなく、セラミックグリーンシート側にも、共材としての第3のセラミック粉末を含有させておくので、内部電極となる導電性ペースト膜中の第2のセラミック粉末の必要含有量を、セラミックグリーンシート中に含有される第3のセラミック粉末の含有量の分に応じて、減らすことができる。
【0018】
よって、この発明によれば、信頼性の低下および電気的特性の変化を実質的に招くことなく、内部電極形成用の導電性ペーストに含まれる共材としての第2のセラミック粉末の量を減らし、それによって、導電性ペーストの塗布厚を薄くするといったことも可能となる。
【0019】
また、この発明によれば、導電性ペースト中に含まれる共材としての第2のセラミック粉末の量が変わっても、電気的特性や信頼性にほとんど影響を及ぼさないので、構造欠陥の低減等を目的とする導電性ペースト中の第2のセラミック粉末量の変更にも柔軟に対応することができる。よって、内部電極に含まれる共材の成分および量に関して、多様な変更が可能である。
【0020】
また、この発明によれば、第1、第2および第3のセラミック粉末が、Dy、Y、HoおよびGdのうちの少なくとも1種を含む希土類元素酸化物を副成分として含み、第2および第3のセラミック粉末の各々における上記希土類元素酸化物の含有量が、BaTiOの100モル部に対して、0.3〜9.0モル部とされるので、コアシェル構造において、十分な信頼性を有するシェル相を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の一実施形態による製造方法を実施して得られる積層セラミックコンデンサ1を図解的に示す断面図である。
【図2】図1に示した積層セラミックコンデンサ1を製造する途中に得られる生のコンデンサ本体15の一部を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1を参照して、まず、この発明が適用される積層セラミックコンデンサ1について説明する。
【0023】
積層セラミックコンデンサ1は、積層された複数の誘電体セラミック層2と誘電体セラミック層2間の特定の界面に沿って形成される複数の内部電極3および4とをもって構成される、コンデンサ本体5を備えている。内部電極3および4は、たとえばNiを主成分としている。
【0024】
コンデンサ本体5の外表面上の互いに異なる位置には、第1および第2の外部電極6および7が形成される。外部電極6および7は、たとえばAg、CuまたはAg−Pdを主成分としている。図1に示した積層セラミックコンデンサ1では、第1および第2の外部電極6および7は、コンデンサ本体5の互いに対向する各端面上に形成される。
【0025】
なお、図示した積層セラミックコンデンサ1は、2個の外部電極6および7を備える2端子型のものであるが、この発明に係る製造方法は多端子型の積層セラミックコンデンサにも適用することができる。
【0026】
内部電極3および4は、第1の外部電極6に電気的に接続される複数の第1の内部電極3と第2の外部電極7に電気的に接続される複数の第2の内部電極4とがあり、これら第1および第2の内部電極3および4は、積層方向に関して交互に配置されている。第1の外部電極6と第2の外部電極7とには互いに逆の極性が与えられ、したがって、第1の内部電極3と第2の内部電極4とには互いに逆の極性が与えられる。
【0027】
このような積層セラミックコンデンサ1を製造するため、次のような工程が実施される。
【0028】
まず、BaTiO系を主成分とし、かつ比表面積が2〜8m/gである第1のセラミック粉末を含む、セラミック主原料粉末を用意する。次いで、このセラミック主原料粉末にバインダおよび有機溶剤からなる有機ビヒクルを加えて混合することによって、セラミックスラリーを得、セラミックスラリーをシート状に成形することによって、セラミック主原料粉末を含有するセラミックグリーンシートを得る。
【0029】
他方、BaTiO系を主成分とし、かつ比表面積が20m/g以上である第2のセラミック粉末を用意する。そして、この第2のセラミック粉末に、Ni粉末のような導電性金属粉末と、バインダおよび有機溶剤からなる有機ビヒクルとを加えて混合することによって、導電性ペーストを得る。
【0030】
次に、セラミックグリーンシート上に導電性ペーストを塗布することによって、内部電極3または4となる導電性ペースト膜を形成する。
【0031】
次に、導電性ペースト膜が形成された複数のセラミックグリーンシートを積層することによって、生のコンデンサ本体を得る。
【0032】
次に、生のコンデンサ本体を脱バインダし、次いで焼成する工程が実施され、それによって、焼結したコンデンサ本体5を得る。
【0033】
その後、コンデンサ本体5の互いに対向する各端面上に、外部電極6および7を形成して、積層セラミックコンデンサ1を完成させる。
【0034】
以上のような製造過程の途中で得られる生のコンデンサ本体15の一部が図2に拡大されて示されている。なお、図1において、複数の誘電体セラミック層2のうち、内部電極3および4によって挟まれることによって、電界が印加される有効層としての誘電体セラミック層2については、「2(A)」の参照符号が付されている。図2には、有効層としての誘電体セラミック層2(A)となるべきセラミックグリーンシート12とそれを挟む導電性ペースト膜13および14とが図示されている。
【0035】
この発明の特徴的構成として、セラミックグリーンシート12に含まれる前述のセラミック主原料粉末は、第1のセラミック粉末だけでなく、BaTiO系を主成分とし、かつ比表面積が20m/g以上である第3のセラミック粉末をも含む。
【0036】
そして、導電性ペースト膜13および14(図2に示したもの以外のものをも含む導電性ペースト膜13および14のすべて)に挟まれる有効層となるセラミックグリーンシート12のすべてに含まれる第1のセラミック粉末の合計重量をTMとしたとき、
(1)有効層となるセラミックグリーンシート12のすべてに含まれる第3のセラミック粉末の合計重量がTMの1.5〜6.9重量%となるようにされ、
(2)導電性ペースト膜13および14のすべてに含まれる第2のセラミック粉末の合計重量がTMの1.5〜6.9重量%となるようにされ、
(3)有効層となるセラミックグリーンシート12のすべてに含まれる第3のセラミック粉末の合計重量と導電性ペースト膜13および14のすべてに含まれる第2のセラミック粉末の合計重量とのさらなる合計は、TMの5.4〜9.9重量%となるようにされる。
【0037】
上述のように、内部電極3および4となる導電性ペースト膜13および14中の第2のセラミック粉末の含有量は、導電性ペーストの成分を基準とするのではなく、TM、すなわちセラミックグリーンシート12中の第1のセラミック粉末の含有量を基準として規定される。これは、導電性ペーストの成分を基準とすると、導電性ペースト膜13および14の塗布厚によって、第2のセラミック粉末の絶対量も変化してしまうからである。すなわち、この発明の本質を重視する点から、セラミックグリーンシート12中の第1のセラミック粉末の含有量を基準として、内部電極3および4となる導電性ペースト膜13および14中の第2のセラミック粉末の含有量を規定しているのである。
【0038】
よって、導電性ペースト膜13および14中の第2のセラミック粉末の含有量の計算には、有効層となるセラミックグリーンシート12の厚みおよび導電性ペースト膜13および14をも考慮される。
【0039】
上述した第1、第2および第3のセラミック粉末は、Dy、Y、HoおよびGdのうちの少なくとも1種を含む希土類元素酸化物を副成分として含む。そして、第2および第3のセラミック粉末の各々における希土類元素酸化物の含有量は、BaTiOの100モル部に対して、0.3〜9.0モル部とされる。
【0040】
以下に、この発明による効果を確認するために実施した実験例について説明する。
【0041】
[実験例1]
1.第3のセラミック粉末の準備
表1の「比表面積」の欄に示す比表面積を有するBaTiO粉末を準備し、BaTiO粉末100モル部に対して、表1の「Dy量」の欄に示したモル部をもって、Dy粉末を配合し、ボールミルにて湿式混合を行なった。得られたスラリーを蒸発乾燥した後、解砕し、セラミックグリーンシートに含有させるべき共材としての第3のセラミック粉末を得た。
【0042】
2.セラミック主原料粉末の準備
BaTiO、BaCO3、MgCO、MnCO、SiOおよびDyの各粉末を準備し、焼成後の組成が、
100BaTiO+3.0DyO3/2+1.0MgCO+0.8MnCO+1.0SiO
となり、かつ、Ba/Ti=1.010
となるように、上記各粉末を配合して、第1のセラミック粉末を得た。この第1のセラミック粉末の比表面積は6m/gであった。
【0043】
さらに、この第1のセラミック粉末に、前述の第3のセラミック粉末を、表1の「第3のセラミック粉末含有量」に示すように添加し、ボールミルにて湿式混合を行なった。得られたスラリーを蒸発乾燥した後、解砕し、セラミック主原料粉末を得た。
【0044】
なお、表1の「第3のセラミック粉末含有量」は、後述する工程で得られた生のコンデンサ本体において、導電性ペースト膜に挟まれる有効層となるセラミックグリーンシートに含まれる上記第1のセラミック粉末の合計重量を基準としたときの、有効層となるセラミックグリーンシートに含まれる第3のセラミック粉末の合計重量を百分率で示している。
【0045】
3.セラミックグリーンシートの作製
上記により得られたセラミック主原料粉末に、分散剤、ポリビニルブチラール系バインダおよびエタノールなどの有機溶剤を加えて、ボールミルにより湿式混合し、セラミックスラリーを作製した。このセラミックスラリーを濾過した後、ドクターブレード方式によりシート成形し、セラミックグリーンシートを得た。
【0046】
4.第2のセラミック粉末の準備
BaTiO粉末を準備し、BaTiO粉末100モル部に対して、0.3モル部のDy粉末を配合し、ボールミルにて湿式混合を行なった。得られたスラリーを蒸発乾燥した後、解砕し、内部電極形成用導電性ペーストに含有させるべき共材としての第2のセラミック粉末を得た。得られた第2のセラミック粉末の比表面積は、35m/gであった。
【0047】
5.内部電極形成用導電性ペーストの作製
上記第2のセラミック粉末に、Ni粉末、ポリビニルブチラール系バインダおよびエタノールなどの有機溶剤を加えて、ボールミルにより湿式混合し、導電性ペーストを作製した。ここで、第2のセラミック粉末は、表1の「第2のセラミック粉末含有量」に示すように、3.9重量%添加した。この「第2のセラミック粉末含有量」は、後述する工程で得られた生のコンデンサ本体において、導電性ペースト膜に挟まれる有効層となるセラミックグリーンシートに含まれる上記第1のセラミック粉末の合計重量を基準としたときの、導電性ペースト膜に含まれる第2のセラミック粉末の合計重量を百分率で示している。
【0048】
なお、表1の「第2および第3のセラミック粉末総含有量」には、上記「第2のセラミック粉末含有量」と「第3のセラミック粉末含有量」との和が示されている。
【0049】
6.積層セラミックコンデンサの作製
前述したセラミックグリーンシート上に、上記導電性ペーストを印刷することによって、内部電極となる導電性ペースト膜を形成した。次いで、導電性ペースト膜が形成された30枚のセラミックグリーンシートを含む複数のセラミックグリーンシートを積層することによって、生のセラミック積層体を得た。
【0050】
次に、生のセラミック積層体を所定の寸法にカットし、チップ状の生のコンデンサ本体を得、次いで、生のコンデンサ本体を、大気中において、250℃の温度で脱バインダし、その後、加湿し、かつ酸素分圧を3×10-9atmに設定したN+H混合ガス雰囲気中にて、最高温度1250℃で2時間保持する焼成工程を実施した後、室温まで降温することで焼結したコンデンサ本体を得た。
【0051】
次に、コンデンサ本体に外部電極を形成し、めっき処理を行ない、評価試料としての積層セラミックコンデンサを得た。なお、試料に係る積層セラミックコンデンサは、サイズ2.0mm×1.2mm×1.2mmであり、内部電極間の誘電体セラミック層の厚みは2.5μmであった。
【0052】
7.IR寿命の評価
上記のようにして得られた各試料に係る積層セラミックコンデンサについて、150℃の温度にて、100Vの直流電界(40kV/mmの電界強度)を印加する超加速試験(HALT)を行なった。この超加速試験において、IR値が10kΩ以下になるまでの時間を「IR寿命」として、表1に示した。なお、「IR寿命」が80時間を下回るものを、信頼性に劣ると評価した。
【0053】
【表1】

【0054】
(1)試料1〜5間での比較
試料1〜3では、「第3のセラミック粉末含有量」が1.5〜6.9重量%の範囲にあり、「第2のセラミック粉末含有量」が1.5〜6.9重量%の範囲にあり、しかも、「第2および第3のセラミック粉末総含有量」が5.4〜9.9重量%の範囲にあり、「IR寿命」が80時間以上といった高い信頼性を得ることができた。これは、誘電体セラミック層における内部電極近傍にだけでなく、誘電体セラミック層全体にわたって、シェル相に類似したセラミック組成物を適度に配置できたためであると推測される。
【0055】
他方、試料4のように、「第2および第3のセラミック粉末総含有量」が9.9重量%を超えると、「IR寿命」が80時間未満となり、信頼性が低下した。これは、局所的な粒成長が顕著となり、内部電極と接する誘電体セラミック層の平滑性が低下したり、内部電極間の誘電体セラミック層の1層あたりに存在する粒子個数が減少したりすることにより、局所的に電界が集中したためであると推測される。
【0056】
また、試料5のように、「第2および第3のセラミック粉末総含有量」が5.4重量%を下回った場合にも、「IR寿命」が80時間未満となり、信頼性が低下した。これは、シェル相に類似したセラミック組成物の形成量が不十分であったためであると推測される。
【0057】
(2)試料1および6〜10間での比較
第3のセラミック粉末に含まれる「Dy量」が0.3〜9.0モル部である試料1および7〜9では、「IR寿命」が80時間以上といった高い信頼性を得ることができた。これは、シェル相に類似したセラミック組成物の生成が促進されたためであると推測される。
【0058】
他方、試料6のように、「Dy量」が0.3モル部を下回る場合には、「IR寿命」が80時間未満となり、信頼性が低下した。これは、「Dy量」が少ないため、局所的にDyが固溶していない(すなわち、シェル相がない)箇所が形成されたことに起因するものと推測される。
【0059】
また、試料10のように、「Dy量」が9.0モル部を超える場合にも、「IR寿命」が80時間未満となり、信頼性が低下した。これは、「Dy量」が多いため、Dyからなる偏析が発生したためであると推測される。
【0060】
(3)試料1、11および12間での比較
試料1および11のように、「第3のセラミック粉末」の「比表面積」が20m/g以上である場合、「IR寿命」が80時間以上となり、高い信頼性を得ることができた。これは、「第3のセラミック粉末」が微粒であり、反応性が高いため、シェル相に類似したセラミック組成物の生成が促進されたことに起因するものと推測される。
【0061】
他方、試料12のように、「第3のセラミック粉末」の「比表面積」が20m/g未満の場合には、「IR寿命」が80時間未満となり、信頼性が低下した。これは、「第3のセラミック粉末」の粒径が大きいため、「第3のセラミック粉末」の反応性が低く、シェル相に類似したセラミック組成物の形成が促進されなかったためであると推測される。
【0062】
[実験例2]
1.第2および第3のセラミック粉末の準備
比表面積が35m/gであるBaTiO粉末を準備し、BaTiO粉末100モル部に対して、0.3モル部のDy粉末を配合し、ボールミルにて湿式混合を行なった。得られたスラリーを蒸発乾燥した後、解砕し、内部電極形成用導電性ペーストに含有させるべき共材としての第2のセラミック粉末を得た。
【0063】
また、第2のセラミック粉末の場合と同様にして、セラミックグリーンシートに含有させるべき共材としての第3のセラミック粉末を得た。
【0064】
2.セラミック主原料粉末の準備
実験例1の場合と同様にして、第1のセラミック粉末を得た。
【0065】
さらに、この第1のセラミック粉末に、上記第3のセラミック粉末を、表2の「第3のセラミック粉末含有量」に示すように添加し、ボールミルにて湿式混合を行なった。得られたスラリーを蒸発乾燥した後、解砕し、セラミック主原料粉末を得た。
【0066】
なお、表2の「第3のセラミック粉末含有量」についても、後述する工程で得られた生のコンデンサ本体において、導電性ペースト膜に挟まれる有効層となるセラミックグリーンシートに含まれる上記第1のセラミック粉末の合計重量を基準としたときの、有効層となるセラミックグリーンシートに含まれる第3のセラミック粉末の合計重量を百分率で示している。
【0067】
3.セラミックグリーンシートの作製
上記により得られたセラミック主原料粉末について、実験例1の場合と同様の操作を実施し、セラミックグリーンシートを得た。
【0068】
4.内部電極形成用導電性ペーストの作製
上記第2のセラミック粉末に、Ni粉末、ポリビニルブチラール系バインダおよびエタノールなどの有機溶剤を加えて、ボールミルにより湿式混合し、導電性ペーストを作製した。ここで、第2のセラミック粉末は、表2の「第2のセラミック粉末含有量」に示すように添加した。この「第2のセラミック粉末含有量」についても、後述する工程で得られた生のコンデンサ本体において、導電性ペースト膜に挟まれる有効層となるセラミックグリーンシートに含まれる上記第1のセラミック粉末の合計重量を基準としたときの、導電性ペースト膜に含まれる第2のセラミック粉末の合計重量を百分率で示している。
【0069】
5.積層セラミックコンデンサの作製
前述したセラミックグリーンシート上に、上記導電性ペーストを印刷することによって、内部電極となる導電性ペースト膜を形成した。
【0070】
その後、実験例1の場合と同様の工程を経て、評価試料としての積層セラミックコンデンサを得た。
【0071】
6.IR寿命の評価
上記のようにして得られた各試料に係る積層セラミックコンデンサについて、実験例1の場合と同様の超加速試験(HALT)を行ない、表2に示すように、「IR寿命」を評価した。
【0072】
【表2】

【0073】
(1)試料21、25および27〜29について
試料21、25および27〜29では、「第3のセラミック粉末含有量」および「第2のセラミック粉末含有量」が、ともに、1.5〜6.9重量%の範囲にあることから、「IR寿命」が80時間以上といった高い信頼性を得ることができた。これは、誘電体セラミック層における内部電極近傍にだけでなく、誘電体セラミック層全体にわたって、シェル相に類似したセラミック組成物をバランス良く配置できたためであると推測される。
【0074】
(2)試料22〜24および26について
試料22〜24および26では、「第3のセラミック粉末含有量」および「第2のセラミック粉末含有量」のいずれかが1.5重量%を下回ったため、「IR寿命」が80時間未満となり、信頼性が低下した。
【0075】
これは、試料22および24のように、「第3のセラミック粉末含有量」が1.5重量%を下回った場合には、誘電体セラミック層において、シェル相に類似したセラミック組成物が不足したためであると推測され、他方、試料23および26のように、「第2のセラミック粉末含有量」が1.5重量%を下回った場合には、誘電体セラミック層の内部電極近傍において、シェル相に類似したセラミック組成物が不足したためであると推測される。
【0076】
(3)試料30および31について
試料30および31では、「第3のセラミック粉末含有量」および「第2のセラミック粉末含有量」のいずれかが6.9重量%を上回ったため、「IR寿命」が80時間未満となり、信頼性が低下した。
【0077】
これは、試料30のように、「第3のセラミック粉末含有量」が6.9重量%を上回った場合には、誘電体セラミック層において、局所的に粒成長が生じたためであると推測され、他方、試料31のように、「第2のセラミック粉末含有量」が6.9重量%を上回った場合には、誘電体セラミック層の内部電極近傍において、局所的に粒成長が生じたためであると推測される。これらの局所的な粒成長は、内部電極と接する誘電体セラミック層の平滑性を低下させたり、内部電極間の誘電体セラミック層の1層あたりに存在する粒子個数を減少させたりして、信頼性を低下させる原因となる。
【0078】
[実験例3]
1.第3のセラミック粉末の準備
比表面積が35m/gであるBaTiO粉末を準備し、BaTiO粉末100モル部に対して、表3の「第3のセラミック粉末添加元素」の欄に示した希土類元素を含む酸化物粉末3.0モル部を配合し、ボールミルにて湿式混合を行なった。得られたスラリーを蒸発乾燥した後、解砕し、セラミックグリーンシートに含有させるべき共材としての第3のセラミック粉末を得た。
【0079】
2.セラミック主原料粉末の準備
BaTiO、BaCO3、MgCO、MnCO、SiOおよびReの各粉末を準備し、焼成後の組成が、
100BaTiO+3.0ReO3/2+1.0MgCO+0.8MnCO+1.0SiO
となり、かつ、Ba/Ti=1.010
となるように、上記各粉末を配合して、第1のセラミック粉末を得た。ここで、上記Re粉末として、Reが表3の「第1のセラミック粉末添加元素」の欄に示す希土類元素であるものを用いた。
【0080】
また、この第1のセラミック粉末の比表面積は6m/gであった。
【0081】
さらに、この第1のセラミック粉末に、前述の第3のセラミック粉末を、第1のセラミック粉末に対して3.0重量%の添加量をもって添加し、ボールミルにて湿式混合を行なった。得られたスラリーを蒸発乾燥した後、解砕し、セラミック主原料粉末を得た。
【0082】
3.セラミックグリーンシートの作製
上記により得られたセラミック主原料粉末について、実験例1の場合と同様の操作を実施し、セラミックグリーンシートを得た。
【0083】
4.第2のセラミック粉末の準備
BaTiO粉末を準備し、BaTiO粉末100モル部に対して、表3の「第2のセラミック粉末添加元素」の欄に示した希土類元素を含む酸化物粉末0.3モル部を配合し、ボールミルにて湿式混合を行なった。得られたスラリーを蒸発乾燥した後、解砕し、内部電極形成用導電性ペーストに含有させるべき共材としての第2のセラミック粉末を得た。得られた第2のセラミック粉末の比表面積は、35m/gであった。
【0084】
5.内部電極形成用導電性ペーストの作製
上記第2のセラミック粉末に、Ni粉末、ポリビニルブチラール系バインダおよびエタノールなどの有機溶剤を加えて、ボールミルにより湿式混合し、導電性ペーストを作製した。ここで、第2のセラミック粉末は、後述する工程で得られた生のコンデンサ本体において、導電性ペースト膜に挟まれる有効層となるセラミックグリーンシートに含まれる上記第1のセラミック粉末の合計重量に対して、3.9重量%の添加量となるように添加した。
【0085】
6.積層セラミックコンデンサの作製
前述したセラミックグリーンシート上に、上記導電性ペーストを印刷することによって、内部電極となる導電性ペースト膜を形成した。
【0086】
その後、実験例1の場合と同様の工程を経て、評価試料としての積層セラミックコンデンサを得た。
【0087】
7.IR寿命の評価
上記のようにして得られた各試料に係る積層セラミックコンデンサについて、実験例1の場合と同様の超加速試験(HALT)を行ない、表3に示すように、「IR寿命」を評価した。
【0088】
【表3】

【0089】
(1)試料41〜46間での比較
試料41〜44では、「第3のセラミック粉末添加元素」として、Dy、Y、HoおよびGdのいずれかが用いられているため、「IR寿命」が80時間を超え、高い信頼性を得ることができた。これは、誘電体セラミック層中にシェル相に類似したセラミック組成物の生成が促進されたためであると推測される。
【0090】
他方、「第3のセラミック粉末添加元素」として、上記の元素が添加されていない試料45および46では、「IR寿命」が80時間未満となり、信頼性が低下した。これは、固溶のバランスが変化して、チタン酸バリウムに対して相対的に固溶しにくい元素からなる偏析が発生したためであると推測される。
【0091】
(2)試料41および47〜49間での比較
試料41と試料47〜49とを比較すれば、「第1のセラミック粉末添加元素」として、Dyだけでなく、Dy以外であっても、Y、HoおよびGdのいずれかが添加されていれば、「第3のセラミック粉末添加元素」および「第2のセラミック粉末添加元素」のいずれとも同じであっても異なっていても、「IR寿命」が80時間以上であり、信頼性を低下させることがないことがわかる。すなわち、「第1のセラミック粉末添加元素」として、Dy、Y、HoおよびGdのいずれを選択しても、セラミックグリーンシートに共材としての第3のセラミック粉末を添加し、かつ導電性ペースト膜に共材としての第2のセラミック粉末を添加することによって得られる効果は変わらないことがわかる。
【0092】
(3)試料41および50〜53間での比較
試料41と試料50〜52とを比較すれば、「第2のセラミック粉末添加元素」として、Dyだけでなく、Dy以外であっても、Y、HoおよびGdのいずれかが添加されていれば、「IR寿命」が80時間以上であり、高い信頼性を得ることができることがわかる。これは、誘電体セラミック層の内部電極近傍にシェル相に類似したセラミック組成物の生成が促進されたためであると推測される。
【0093】
他方、試料53のように、「第2のセラミック粉末添加元素」として、上記のDy、Y、HoおよびGd以外のErが添加されている場合には、「IR寿命」が80時間未満となり、信頼性が低下した。これは、固溶のバランスが変化して、チタン酸バリウムに対して相対的に固溶しにくい元素からなる偏析、すなわちErからなる偏析が発生したためであると推測される。
【符号の説明】
【0094】
1 積層セラミックコンデンサ
2 誘電体セラミック層
2(A) 有効層となる誘電体セラミック層
3,4 内部電極
5 コンデンサ本体
6,7 外部電極
12 セラミックグリーンシート
13,14 導電性ペースト膜
15 生のコンデンサ本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BaTiO系を主成分とし、かつ比表面積が2〜8m/gである第1のセラミック粉末を含む、セラミック主原料粉末を用意する工程と、
前記セラミック主原料粉末を含有するセラミックグリーンシートを作製する工程と、
BaTiO系を主成分とし、かつ比表面積が20m/g以上である第2のセラミック粉末、導電性金属粉末および有機ビヒクルを含む導電性ペーストを用意する工程と、
前記セラミックグリーンシート上に前記導電性ペーストを塗布することによって、内部電極となる導電性ペースト膜を形成する工程と、
前記導電性ペースト膜が形成された複数の前記セラミックグリーンシートを積層することによって、生のコンデンサ本体を得る工程と、
前記生のコンデンサ本体を脱バインダし、次いで焼成する工程と
を備え、
前記セラミック主原料粉末は、前記第1のセラミック粉末だけでなく、BaTiO系を主成分とし、かつ比表面積が20m/g以上である第3のセラミック粉末をも含み、
前記導電性ペースト膜に挟まれる有効層となる前記セラミックグリーンシートに含まれる前記第1のセラミック粉末の合計重量をTMとしたとき、
(1)前記有効層となるセラミックグリーンシートに含まれる前記第3のセラミック粉末の合計重量がTMの1.5〜6.9重量%となるようにされ、
(2)前記導電性ペースト膜に含まれる前記第2のセラミック粉末の合計重量がTMの1.5〜6.9重量%となるようにされ、
(3)前記有効層となるセラミックグリーンシートに含まれる前記第3のセラミック粉末の合計重量と前記導電性ペースト膜に含まれる前記第2のセラミック粉末の合計重量とのさらなる合計は、TMの5.4〜9.9重量%となるようにされ、さらに、
前記第1、第2および第3のセラミック粉末は、Dy、Y、HoおよびGdのうちの少なくとも1種を含む希土類元素酸化物を副成分として含み、前記第2および第3のセラミック粉末の各々における前記希土類元素酸化物の含有量は、BaTiOの100モル部に対して、0.3〜9.0モル部である、
積層セラミックコンデンサの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−18679(P2011−18679A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160569(P2009−160569)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】