説明

積層ノズルプレート、液滴吐出ヘッド、及び、積層ノズルプレート製造方法

【課題】 余分な液体などがノズルに流入するのを抑制することのできる積層ノズルプレート、及びこの積層ノズルプレートを備えた液滴吐出ヘッドを提供すると共に、ノズル周囲の撥水膜が平坦となるような積層ノズルプレート製造方法を提供する。
【解決手段】 ノズルプレート14には、インクを吐出するノズル20が形成されており、保護プレート12には、ノズル20を外部に露出させる段差孔22が形成されている。段差孔22の側壁22aには、撥水膜18は形成されておらず、段差孔22の底部22bには撥水膜18が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴を吐出して画像を記録する液滴吐出ヘッド、この液滴吐出ヘッドの構成部材である積層ノズルプレート、及び、この積層ノズルプレートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数のノズルから液滴を吐出し、用紙等の記録媒体に印字を行う液滴吐出装置には、インクジェット記録装置があり、このインクジェット記録装置は、小型で安価、静寂性等の種々の利点があり、広く市販されている。特に、圧電素子を用いて圧力室内の圧力を変化させてインク滴を吐出するピエゾインクジェット方式や、熱エネルギーの作用でインクを膨張させてインク滴を吐出する熱インクジェット方式の記録装置は、高速印字、高解像度が得られる等、多くの利点を有している。
【0003】
このようなインクジェット方式の記録装置においては、複数のノズルからインク滴を吐出した際に、インク滴がノズルの周辺に付着するのを防ぐため、ノズル表面に撥水膜が塗布されている。しかし、この撥水膜は、用紙がジャム等により浮き上がると、紙擦れにより擦傷ダメージを受けてしまい、インク吐出方向が傾いたり、インク滴径及び速度にばらつきが生じるなど、インクの吐出性能が悪化する。
【0004】
この対策として、例えば、ノズルプレートに形成されたノズルの周囲に円形状の段差を設けたインクジェット記録ヘッドが提案されている。このインクジェット記録ヘッドは、ノズルを形成したノズルプレートに、ノズルに対応した円形状の開孔を有する金属プレートを接着することで、ノズルの周囲に円形状の段差を形成し、ノズル周辺の撥水膜に用紙が接触しないようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかし、特許文献1に記載のインクジェット記録ヘッドでは、撥水処理層が段差部全体をカバーしており、ノズルの周辺のインクが撥水処理層にはじかれて、ノズルに流入することが考えられる。また、特許文献1では、ヘッド基板と金属板とを接合して段差部を形成した後に、撥水処理層を形成していると考えられる。したがって、凹部において撥水処理層の形成が困難となり、撥水処理層に凹凸ができてインクの吐出特性にバラツキが生じてしまうことも考えられる。
【特許文献1】特許第3108771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、余分な液体などがノズルに流入するのを抑制することのできる積層ノズルプレート、及びこの積層ノズルプレートを備えた液滴吐出ヘッドを提供すると共に、ノズル周囲の撥水膜が平坦となるような積層ノズルプレート製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の積層ノズルプレートは、液滴を吐出するノズルの形成されたノズルプレートと、前記ノズルプレートの液滴吐出側に積層され、前記ノズルよりも大きい開口で前記ノズルを外部と連通させると共に、前記ノズルプレートの液滴吐出側面の前記ノズル周りを外部に露出させる段差孔の形成された保護プレートと、を備え、前記段差孔により外部に露出されている前記ノズルプレートの段差面に撥水膜が形成され、前記保護プレートの厚み方向に形成される前記段差孔の側壁に撥水膜が形成されていないことを特徴としている。
【0008】
請求項1に記載の積層ノズルプレートは、ノズルプレートにノズルが形成されており、このノズルプレートの液滴吐出側に保護プレートが積層されている。そして、保護プレートにはノズルを外部と連通させると共に、液滴吐出側面のノズル周りを外部に露出させる段差孔が形成されている。
【0009】
本発明では、段差孔により外部に露出されているノズルプレートの段差面に撥水膜が形成され、保護プレートの厚み方向に形成される段差孔の側壁に撥水膜が形成されていないので、撥水膜にはじかれた液体は、撥水膜の形成されていない側壁へ付着する。したがって、ノズルへの液体の流入を抑制することができる。
【0010】
請求項2に記載の積層ノズルプレートは、液滴を吐出するノズルの形成されたノズルプレートと、前記ノズルプレートの液滴吐出側に積層され、前記ノズルよりも大きい開口で前記ノズルを外部と連通させると共に、前記ノズルプレートの液滴吐出側面の前記ノズル周りを外部に露出させる段差孔の形成された保護プレートと、を備え、前記段差孔により外部に露出されている前記ノズルプレートの段差面に、前記ノズルと接するノズル周りに配置され撥水膜が形成された撥水膜領域と、前記ノズルから離れた位置に配置され撥水膜が形成されていない非撥水膜領域と、が構成されていることを特徴としている。
【0011】
請求項2に記載の積層ノズルプレートは、ノズルプレートにノズルが形成されており、このノズルプレートの液滴吐出側に保護プレートが積層されている。そして、保護プレートにはノズルを外部と連通させると共に、液滴吐出側面のノズル周りを外部に露出させる段差孔が形成されている。
【0012】
本発明では、段差孔により外部に露出されているノズルプレートの段差面に、ノズルと接するノズル周りに配置され撥水膜が形成された撥水膜領域と、ノズルから離れた位置に配置され撥水膜が形成されていない非撥水膜領域と、が構成されている。したがって、撥水膜にはじかれた液体は、撥水膜の形成されていない非撥水膜領域へ付着する。したがって、ノズルへの液体の流入を抑制することができる。
【0013】
請求項3に記載の積層ノズルプレートは、請求項1または請求項2に記載の積層ノズルプレートにおいて、前記非撥水膜領域が、前記段差孔の内周に沿って配置されていることを特徴としている。
【0014】
このように、非撥水膜領域を段差孔の内周に沿って配置することにより、容易に非撥水膜領域を形成することができる。
【0015】
請求項4に記載の液滴吐出ヘッドは、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の積層ノズルプレートを備えたものである。
【0016】
請求項4に記載の液滴吐出ヘッドによれば、積層ノズルプレートのノズルへの液体の流入が抑制されているので、液体の吐出方向性の悪化を抑制することができる。
【0017】
請求項5に記載の 積層ノズルプレート製造方法は、液滴を吐出するノズルの形成されるノズルプレートと、前記ノズルよりも大きい開口で前記ノズルを外部と連通させる段差孔の形成された保護プレートと、が積層された積層ノズルプレートの製造方法であって、前記ノズルプレートのノズル面の前記段差孔に対応する位置に撥水膜を形成する撥水膜形成工程と、前記ノズルプレートの前記液滴吐出側の面に、前記段差孔の内側に前記撥水膜が配置されるように、前記保護プレートを位置合わせして接合する接合工程と、前記ノズルプレートにノズルを形成するノズル形成工程と、を有している。
【0018】
本発明の積層ノズルプレート製造方法では、まず、撥水膜形成工程で、ノズルプレートのノズル面の段差孔に対応する位置に撥水膜を形成する。ノズル面の段差孔に対応する位置とは、段差孔が開いていて保護プレートの接合されない部分である。次に、接合工程で、ノズルプレートの液滴吐出側の面に、段差孔の内側に撥水膜が配置されるように、保護プレートを位置合わせして接合する。そして、ノズル形成工程でノズルプレートにノズルを形成する。
【0019】
このように、ノズルプレートと保護プレートとを接合する前にノズル面の段差孔に対応する位置に撥水膜を形成することで、凹部のない平坦な状態で撥水膜を形成することができ、凹部に撥水膜を形成する場合と比較して、撥水膜の凹凸がなくなり平坦なものとすることができる。
【0020】
請求項6に記載の積層ノズルプレート製造方法は、請求項5に記載の積層ノズルプレート製造方法において、前記撥水膜が、前記段差孔の口径よりも小さく形成されることを特徴としている。
【0021】
このように、撥水膜が段差孔の口径よりも小さく形成されていれば、段差孔の内周に沿ってノズルプレートの表面が露出した非撥水膜領域が構成される。非撥水膜領域には、撥水膜にはじかれた液体が付着するので、ノズルへの液体の流入を抑制することができる。
【0022】
請求項7に記載の積層ノズルプレート製造方法は、請求項5または請求項6に記載の積層ノズルプレート製造方法において、前記保護プレートに、前記接合工程の前に撥水膜が形成されていることを特徴とするものである。
【0023】
このように、接合工程の前に保護プレートに撥水膜を形成しておくことにより、保護プレートの表面にインクが付着するのを抑制することができる。
【0024】
請求項8に記載の積層ノズルプレート製造方法は、請求項5乃至請求項7に記載の積層ノズルプレート製造方法において、前記接合工程が、前記ノズルプレートと前記保護プレートとの熱融着処理、を含んでいることを特徴としている。
【0025】
上記の接合工程によれば、ノズルプレートと保護プレートとを熱融着で接合するので、接着剤を用いることなく、効率良く接合することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の積層ノズルプレートによれば、上記のように構成したので、余分な液体などがノズルに流入するのを抑制することのできる。また、本発明の積層ノズルプレート製造方法によれば、ノズル周囲の撥水膜を平坦に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0028】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の積層ノズルプレート10を有するインクジェット記録ヘッド40を示す断面図である。
【0029】
図1に示すように、インクジェット記録ヘッド40は、保護プレート12、ノズルプレート14、及びプールプレート16で構成された積層ノズルプレート10を備えている。保護プレート12の表面には、撥水膜18が塗布されている。さらに、積層ノズルプレート10を構成するプールプレート16の上方には、連通孔プレート30,32と、圧力室プレート34と、振動板36とが位置合わせして積層されている。
【0030】
積層ノズルプレート10を構成するノズルプレート14には、インクを吐出するノズル20が形成されている。ノズルプレート14のインク吐出側面には、保護プレート12が積層され、保護プレート12には、ノズル20の開口よりも大径でノズル20を外部に露出させる段差孔22が形成されている。図2にも示すように、保護プレート12の厚み方向に形成される段差孔22の側壁22aには、撥水膜18は形成されておらず、段差孔22の底部22bには撥水膜18が形成されている。
【0031】
この段差孔22によって、ノズル20の周辺のノズル面23が保護プレート12のプレート面19(撥水膜18が塗布された保護プレート12の表面)から凹状に後退している。これにより、印字時に浮き上がった記録媒体Pが底部22bに接触せず、底部22bのノズル20の周辺に形成されている撥水膜18が傷つかない。この撥水膜18はノズル20の周辺にインクが付着するのを防止するものであり、この撥水膜18により、ノズル20から吐出するインク滴が常にプレート面19に対して垂直に吐出される。
【0032】
そして、撥水膜18は、段差孔22の底部22bには形成されているが、側壁22aには形成されていないので、図3に示すように、余分なインクIは側壁22a側に引き寄せられ、ノズル20へ流入するのを防止することができる。
【0033】
一方、図1に示すように、積層ノズルプレート10を構成するプールプレート16には、ノズル20と連通された連通孔24が形成されている。また、連通孔プレート30,32には、連通孔41,43がぞれぞれ形成され、圧力室プレート34には、圧力室45が形成されている。ノズル20、連通孔24、及び連通孔41,43は、積層ノズルプレート10、プールプレート16、及び連通孔プレート30,32が積層された状態で連通し、圧力室プレート34に形成された圧力室45に繋がっている。
【0034】
また、プールプレート16には、インクプール25が形成され、図示しないインク供給孔から供給されたインクが貯留されている。また、連通孔プレート30,32には、それぞれインクプール25と連結するように供給孔42,44が形成されている。インクプール25、供給孔42,44及び圧力室45は、プールプレート16と連通孔プレート30,32と圧力室プレート34が積層された状態で連通している。なお、図示しないが、振動板36の上部には、圧力室45の上方に圧力発生手段としての単板型の圧電素子が取り付けられており、図示しないフレキシブル配線基板から駆動電圧が印加されるように構成されている。
【0035】
このようなインクジェット記録ヘッド40では、インクプール25から供給孔42,44、圧力室45、連通孔43,41、連通孔24、ノズル20へと連続するインクの通路が形成されている。インク供給孔(図示省略)から供給されインクプール25に貯留されたインクは、供給孔42,44を経て圧力室45内に充填される。そして、圧電素子(図示省略)に駆動電圧が印加されると、圧電素子とともに振動板36がたわみ変形して圧力室45を膨張又は圧縮させる。これによって、圧力室45に体積変化が生じ、圧力室45内に圧力波が発生する。この圧力波の作用によってインクが運動し、ノズル20から外部へインク滴が吐出される。
【0036】
次に、インクジェット記録ヘッド40を構成する積層ノズルプレート10の製造方法について説明する。
【0037】
図4(A)に示すように、ノズル20を形成する前の板状のノズルプレート14に撥水膜18を形成する。撥水膜18は、スピンコート法などにより形成することができる。ここでの撥水膜形成は、凹凸のない平坦なノズルプレート14の表面に行なうので、撥水膜18も平坦に形成することができる。
【0038】
なお、撥水膜18としては、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体(FEP)、4フッ化エチレン樹脂(PTFE)、4フッ化エチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂(PFA)、フッ化ビニリデン樹脂、フッ化ビニル樹脂等のフッ素系樹脂を用いることができる。特に、4フッ化エチレン樹脂(PTFE)、4フッ化エチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂(PFA)が好ましい。
【0039】
次に、図4(B)に示すように、段差孔22に対応する部分を除いて、撥水膜18を除去する。これにより、保護プレート12と接合される領域の撥水膜18が除去され、ノズルプレート14と保護プレート12との良好な接合が得られる。
【0040】
次に、図4(C)に示すように、予め撥水膜18の形成されている保護プレート12をノズルプレート14と熱融着により接合する。このとき、ノズルプレート14と保護プレート12とは、ノズルプレート14に形成した撥水膜18が保護プレート12に形成されている段差孔22の内側に配置されるように位置合わせをして接合する。
【0041】
次に、図4(D)に示すように、ノズルプレート14の保護プレート12を接合した面と逆側の面にプールプレート16を熱融着により接合する。
【0042】
上記のように、ノズルプレート14と保護プレート12、プールプレート16とを熱融着により接着剤を用いずに接合することで、効率良く接合することができる。なお、ノズルプレート14には、機械的強度、耐薬品性、薄膜化に優れた合成樹脂が用いることが好ましく、ポリイミドなどを用いることができる。ポリイミドを用いることで、従来のSUSよりも加工しやすく、またインクに吐出エネルギーを与えた際にダンパ効果によりクロストークを抑制するという利点がある。保護プレート12、プールプレート16には、SUSなどの金属プレート、樹脂フィルム、液晶フィルム、又は樹脂プレートなどを用いることができる。
【0043】
そして、図4(E)に示すように、ノズルプレート14にノズル20を形成する。ノズル20は、プールプレート16の後方からエキシマーレーザ等で穿孔することにより形成することができる。このノズル20は、段差孔22の孔径より小さい口径に形成する。例えば、ノズルの口径を約25μm、段差孔22の直径を100μm〜400μmに設定することができる。このようなノズル20、段差孔22、連通孔24は、所定のパターンで複数形成され、これにより積層ノズルプレート10が完成する。
【0044】
その後、プールプレート16側に、連通孔プレート30,32と、圧力室プレート34とを接合し、圧力室プレート34の開口を覆うように振動板36を接合する。
【0045】
なお、本実施形態では、保護プレート12の表面に撥水膜18が形成されている積層ノズルプレートについて説明したが、保護プレート12の表面には、必ずしも、撥水膜18が形成されている必要はない。図5に示すように、撥水膜18が段差孔22の底部22bにのみ形成され、保護プレート12の表面には形成されていない積層ノズルプレートとして構成することもできる。
【0046】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について図面に基づいて説明する。第1実施形態と同様の部分については同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0047】
図6は、第2実施形態の積層ノズルプレート81を有するインクジェット記録ヘッド80を示す断面図である。
【0048】
図6に示すように、インクジェット記録ヘッド80は、保護プレート12、ノズルプレート14、及びプールプレート16で構成された積層ノズルプレート81を備えている。さらに、積層ノズルプレート81を構成するプールプレート16の上方には、連通孔プレート30,32と、圧力室プレート34と、振動板36とが位置合わせして積層されている。
【0049】
積層ノズルプレート81を構成するノズルプレート14には、インクを吐出するノズル20が形成され、保護プレート12には、段差孔22が形成されている。図7にも示すように、保護プレート12の厚み方向に形成される段差孔22の側壁22aには、撥水膜18は形成されていない。そして、段差孔22の底部23には、ノズル20から連続された撥水膜領域23aに撥水膜18が形成され、撥水膜領域23aの外側の非撥水膜領域23bには撥水膜18が形成されていない。非撥水膜領域23bは、段差孔22の内周に沿って形成されている。
【0050】
なお、非撥水領域23bの幅D1は10μm〜50μmとすることができ、20μm〜30μmであることが好ましい。
【0051】
このように、撥水膜18が、ノズル20周りの撥水膜領域23aに形成されると共に、ノズル20から離れた非撥水膜領域23bに形成されていないことにより、図8に示すように、余分なインクを非撥水膜領域23bに付着させることができ、ノズル20へ流入するのを防止することができる。
【0052】
次に、インクジェット記録ヘッド80を構成する積層ノズルプレート81の製造方法について説明する。
【0053】
図9(A)に示すように、ノズル20を形成する前の板状のノズルプレート14に撥水膜18を形成する。撥水膜18は、スピンコート法などにより形成することができる。ここでの撥水膜形成も、凹凸のない平坦なノズルプレート14の表面に行なうので、撥水膜18も平坦に形成することができる。
【0054】
次に、図9(B)に示すように、段差孔22に対応する部分を除いて、撥水膜18を除去する。このとき、撥水膜18は、底部22bよりもわずかに小さいサイズとなるようにする。これにより、保護プレート12と接合される領域、及び、非撥水膜領域E2の撥水膜18が除去される。
【0055】
次に、図9(C)に示すように、予め撥水膜18の形成されている保護プレート12をノズルプレート14と熱融着により接合する。このとき、ノズルプレート14と保護プレート12とは、ノズルプレート14に形成した撥水膜18が保護プレート12に形成されている段差孔22の内側に配置され、側壁22aの内周と撥水膜18との間に隙間が形成されるように位置合わせをして接合する。ここでの隙間が非撥水膜領域E2となり、撥水膜18の形成されている部分が撥水膜領域E1となる。撥水膜領域E1は、段差孔22よりも小さいので、撥水膜領域E1が段差孔22に対応するように位置合わせするのが容易である。
【0056】
次に、図9(D)に示すように、ノズルプレート14の保護プレート12を接合した面と逆側の面にプールプレート16を熱融着により接合する。
【0057】
そして、図9(E)に示すように、ノズルプレート14にノズル20を形成する。ノズル20は、プールプレート16の後方からエキシマーレーザ等で穿孔することにより形成することができる。このノズル20は、段差孔22の孔径より小さい口径に形成する。例えば、ノズルの口径を約25μm、段差孔22の直径を100μm〜400μmに設定することができる。このようなノズル20、段差孔22、連通孔24は、所定のパターンで複数形成され、これにより積層ノズルプレート10が完成する。
【0058】
その後、プールプレート16側に、連通孔プレート30,32と、圧力室プレート34とを接合し、圧力室プレート34の開口を覆うように振動板36を接合する。
【0059】
なお、本実施形態では、保護プレート12の表面に撥水膜18が形成されている積層ノズルプレートについて説明したが、保護プレート12の表面には、必ずしも、撥水膜18が形成されている必要はない。図10に示すように、撥水膜18が段差孔22の底部22bにのみ形成され、保護プレート12の表面には形成されていない積層ノズルプレートとして構成することもできる。
【0060】
また、本実施形態では、段差孔22の側壁22aに撥水膜18が形成されていない構成について説明したが、図11に示すように、側壁22aに撥水膜18を形成してもよい。
【0061】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態について図面に基づいて説明する。
【0062】
図12は、本発明の第3実施形態の積層ノズルプレート90を示す斜視図である。なお、第1、第2実施形態と同一の部材には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0063】
積層ノズルプレート90は、複数のノズル20が1列に形成されたノズル領域95を取り囲むように、保護プレート92に段差孔94が形成されている。図13にも示すように、保護プレート92の厚み方向に形成される段差孔94の側壁94aには、撥水膜18は形成されておらず、段差孔94の底部を構成するノズル領域95には撥水膜18が形成されている。
【0064】
なお、ノズル20の直径は約25μm程度に設定することができ、ノズル領域95の短手方向の幅は約100μm〜400μm程度に設定することができる。また、ノズル領域95の長手方向の全長は、例えば約50mmに設定することができる。また、段差孔94の深さは、5μm〜20μmに設定することができる。
【0065】
この段差孔94によって、ノズル20の周辺のノズル領域95が、保護プレート92のプレート面96(撥水膜18が塗布された保護プレート92の表面)から凹状に後退している。これにより、印字時に浮き上がった記録媒体Pがノズル領域95に接触せず、ノズル20の周辺の撥水膜18が傷つかない。
【0066】
また、撥水膜18はノズル20の周辺にインクが付着するのを防止するものであり、この撥水膜18により、ノズル20から吐出するインク滴が常にプレート面96に対して垂直に吐出される。
【0067】
そして、撥水膜18は、段差孔94の底部94bには形成されているが、側壁94aには形成されていないので、余分なインクは、側壁94a側に引き寄せられ、ノズル20へ流入するのを防止することができる。
【0068】
なお、この積層ノズルプレート90では、ノズル20面をワイピングするワイパー(図示省略)がノズル領域95の長手方向に移動するように構成されている。
【0069】
本実施形態の積層ノズルプレート90については、第1実施形態の積層ノズルプレート10と同様の工程で製造することができる。
【0070】
本実施形態では、積層ノズルプレート90の段差孔94を保護プレート92の広い範囲に形成し、この段差孔94の内側のノズル領域95に複数のノズル20を形成するので、ノズル20毎に段差孔を作成する場合と比較して、段差孔94の高精度な位置調整が不要となる。
【0071】
なお、本実施形態の積層ノズルプレート90では、複数のノズル20が1列形成されているが、このような構成に限定されるものではなく、ノズル20を複数列(2列以上)形成してもよい。
【0072】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態について図面に基づいて説明する。
【0073】
図14は、本発明の第4実施形態の積層ノズルプレート100を示す斜視図である。なお、第1〜3実施形態と同一の部材には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0074】
積層ノズルプレート100は、複数のノズル20が1列に形成されたノズル領域95を取り囲むように、保護プレート92に段差孔94が形成されている。図15にも示すように、保護プレート92の厚み方向に形成される段差孔94の側壁94aには、撥水膜18は形成されていない。そして、段差孔94の底部を構成するノズル領域95では、ノズル20から連続された撥水膜領域95aに撥水膜18が形成され、撥水膜領域95aの外側の非撥水膜領域95bには撥水膜18が形成されていない。非撥水膜領域95bは、段差孔94の内周に沿って形成されている。すなわち、撥水膜領域94aは、段差孔94よりも小さいサイズとされている。
【0075】
なお、非撥水膜領域95bの幅D2は10μm〜50μmとすることができ、20μm〜30μmであることが好ましい。
【0076】
本実施形態では、撥水膜18が、ノズル20周りの撥水膜領域95aに形成されると共に、ノズル20から離れた非撥水膜領域95bに形成されていないことにより、余分なインクを非撥水膜領域95bに付着させることができ、ノズル20へ流入するのを防止することができる。
【0077】
本実施形態の積層ノズルプレート100については、第2実施形態の積層ノズルプレート10と同様の工程で製造することができる。
【0078】
本実施形態では、積層ノズルプレート100の段差孔94を保護プレート92の広い範囲に形成し、この段差孔94の内側のノズル領域95に複数のノズル20を形成するので、ノズル20毎に段差孔を作成する場合と比較して、段差孔94の高精度な位置調整が不要となる。
【0079】
また、撥水膜領域95aは、段差孔94よりも小さいので、撥水膜領域95aが段差孔94に対応するように位置合わせするのが容易である。
【0080】
以上の第1〜第4実施形態で説明したインクジェット記録ヘッドは、記録媒体P上へ画像(文字を含む)を記録するものであったが、本発明の液滴吐出ヘッドは、これに限定されるものではない。すなわち、記録媒体は紙に限定されるものでなく、また、吐出する液体もインクに限定されるものではない。例えば、高分子フィルムやガラス上にインクを吐出してディスプレイ用カラーフィルターを作成したり、溶接状態の半田を基板上に吐出して部品実装用のバンプを形成したりする等、工業用的に用いられる液滴吐出装置全般に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】第1実施形態のインクジェット記録ヘッドを示す断面図である。
【図2】図1に示すインクジェット記録ヘッドの積層ノズルプレートの段差孔付近を示す拡大斜視図である。
【図3】第1実施形態の積層ノズルプレートにおいて、余分なインクIが側壁側へ引き寄せられていることを示す図である。
【図4】第1実施形態の積層ノズルプレートの製造方法を説明する図である。
【図5】第1実施形態の積層ノズルプレートの変形例である。
【図6】第2実施形態のインクジェット記録ヘッドを示す断面図である。
【図7】図6に示すインクジェット記録ヘッドの積層ノズルプレートの段差孔付近を示す拡大斜視図である。
【図8】第2実施形態の積層ノズルプレートにおいて、余分なインクIが非撥水膜領域へ付着されていることを示す図である。
【図9】第2実施形態の積層ノズルプレートの製造方法を説明する図である。
【図10】第2実施形態の積層ノズルプレートの変形例である。
【図11】第2実施形態の積層ノズルプレートの他の変形例である。
【図12】第3実施形態のインクジェット記録ヘッドのノズル面側の斜視図である。
【図13】第2実施形態のインクジェット記録ヘッドの一部の断面図である。
【図14】第4実施形態のインクジェット記録ヘッドのノズル面側の斜視図である。
【図15】第5実施形態のインクジェット記録ヘッドの一部の断面図である。
【符号の説明】
【0082】
10 積層ノズルプレート
12 保護プレート
14 ノズルプレート
16 プールプレート
18 撥水膜
20 ノズル
22a 側壁
22 段差孔
22b 底部
23 底部
40 インクジェット記録ヘッド
80 インクジェット記録ヘッド
81 積層ノズルプレート
84 段差孔
90 積層ノズルプレート
92 保護プレート
94a 側壁
94 段差孔
95 ノズル領域
100 積層ノズルプレート
23a 撥水膜領域
23b 非撥水膜領域
95a 撥水膜領域
95b 非撥水膜領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出するノズルの形成されたノズルプレートと、
前記ノズルプレートの液滴吐出側に積層され、前記ノズルよりも大きい開口で前記ノズルを外部と連通させると共に、前記ノズルプレートの液滴吐出側面の前記ノズル周りを外部に露出させる段差孔の形成された保護プレートと、
を備え、
前記段差孔により外部に露出されている前記ノズルプレートの段差面に撥水膜が形成され、前記保護プレートの厚み方向に形成される前記段差孔の側壁に撥水膜が形成されていないことを特徴とする積層ノズルプレート。
【請求項2】
液滴を吐出するノズルの形成されたノズルプレートと、
前記ノズルプレートの液滴吐出側に積層され、前記ノズルよりも大きい開口で前記ノズルを外部と連通させると共に、前記ノズルプレートの液滴吐出側面の前記ノズル周りを外部に露出させる段差孔の形成された保護プレートと、
を備え、
前記段差孔により外部に露出されている前記ノズルプレートの段差面に、前記ノズルと接するノズル周りに配置され撥水膜が形成された撥水膜領域と、前記ノズルから離れた位置に配置され撥水膜が形成されていない非撥水膜領域と、が構成されていることを特徴とする積層ノズルプレート。
【請求項3】
前記非撥水膜領域が、前記段差孔の内周に沿って配置されていることを特徴とする請求項2に記載の積層ノズルプレート。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の積層ノズルプレートを備えた液滴吐出ヘッド。
【請求項5】
液滴を吐出するノズルの形成されるノズルプレートと、前記ノズルよりも大きい開口で前記ノズルを外部と連通させる段差孔の形成された保護プレートと、が積層された積層ノズルプレートの製造方法であって、
前記ノズルプレートのノズル面の前記段差孔に対応する位置に撥水膜を形成する撥水膜形成工程と、
前記ノズルプレートの液滴吐出側の面に、前記段差孔の内側に前記撥水膜が配置されるように、前記保護プレートを位置合わせして接合する接合工程と、
前記ノズルプレートにノズルを形成するノズル形成工程と、
を有する、積層ノズルプレート製造方法。
【請求項6】
前記撥水膜が、前記段差孔の口径よりも小さく形成されることを特徴とする請求項5に記載の積層ノズルプレート製造方法。
【請求項7】
前記保護プレートには、前記接合工程の前に撥水膜が形成されていることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の積層ノズルプレート製造方法。
【請求項8】
前記接合工程は、前記ノズルプレートと前記保護プレートとの熱融着処理、を含んでいることを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれか1項に記載の積層ノズルプレート製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−231601(P2006−231601A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−46916(P2005−46916)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】