説明

積層フィルム

本発明は、反射や散乱による伝送の損失がほとんどなく、耐熱性・耐湿性にも優れた、屈折率分布を任意に制御した積層フィルムを提供することを目的とする。すなわち本発明は、樹脂層が少なくとも5以上積層されてなる積層フィルムであって、各樹脂層の厚みが1nm〜100nmであり、かつ同一組成Aの樹脂層の厚みが、積層フィルムの表面側から反対面側に向かうにつれて、増加し又は減少する層構成を含む積層フィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ケーブル、光導波路などの光通信・光回路用途や、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、ELディスプレイ、プロジェクションスクリーンなどのディスプレイ用途において、シート状の光導波路が提案されている。
【0003】
例えば、光通信・回路の用途では、信号光を入射し、入射した信号光を拡散して伝播する光伝送層と、隣接する該光伝送層相互間の信号光の混入を阻止する光遮断層とが交互に積層されてなる信号伝送バスが、特許文献1に開示されている。かかる光導波路は、、クロストークや電磁ノイズが少なく、また位置あわせが容易で、回路基盤を自由に着脱できるといった利点を有する。しかし、かかる光導波路はステップインデックス型(SI型)であるために、高速伝送に適さず、また、大きな曲率で曲げて使用する際には伝送の損失が大きいという問題もあった。
【0004】
SI型のこのような問題を解決しうる方式として、シートの表面から深さ方向にわたって屈折率分布を有するグレーティドインデックス型(GI型)の光導波路が、例えば特許文献2に開示されている。しかし、GI型の光導波路は、例えば特許文献2に開示されているように昇華性または揮発性の有機化合物を浸透・分散させて形成するため、GI型光導波路としてモード分散がほとんど生じない理想的な2乗分布状の屈折率分布に精度良く制御することは困難であり、また、高温や高湿などの環境下では、浸透・分散した化合物が拡散することがしばしばあり、屈折率分布に経時変化が生じるという問題があった。
【0005】
また、スクリーンなどのディスプレイ用途では、アスペクト比の大きなナノ粒子の濃度分布によって光導波路の屈折分布を制御する技術が、特許文献3に開示されている。しかし、ナノ粒子の濃度分布を機械的に制御するわけではないため、精度の高い屈折率分布を達成することは本質的に難しく、また、散乱による損失も大きいという問題もあった。
【0006】
一方で、熱可塑性樹脂を多層に積層したフィルムは、種々提案されており、例えば、耐引裂性に優れた多層に積層したフィルムをガラス表面に貼りつけることにより、ガラスの破損および飛散を大幅に防止できるもの(たとえば特許文献4〜6参照)、屈折率の異なる樹脂層を交互に多層に積層することより、選択的に特定の波長を反射するフィルム(たとえば特許文献7〜9参照)等が開示されている。これらの中で選択的に特定の波長を反射するフィルムは、特定の光を透過あるいは反射するフィルターとして作用し、液晶ディスプレイなどのバックライト用のフィルムとして利用されている。
【0007】
しかしながら、従来の積層フィルムは、層間の屈折率差による反射による損失が大きく、光導波路に適用しうるものではなかった。
【特許文献1】特開平9−270752号公報(第2頁)
【特許文献2】特開平2003−322742号公報(第2頁)
【特許文献3】特開平2004−133473号公報(第2頁)
【特許文献4】特開平6−190995号公報(第2頁)
【特許文献5】特開平6−190997号公報(第2頁)
【特許文献6】特開平10−76620号公報(第2頁)
【特許文献7】特開平3−41401号公報(第2頁)
【特許文献8】特開平4−295804号公報(第2頁)
【特許文献9】特表平9−506837号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、かかる問題を解決し、反射や散乱による伝送の損失がほとんどなく、耐熱性・耐湿性にも優れた、屈折率分布を任意に制御した積層フィルムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の構成を有する。
【0010】
[1] 樹脂層が少なくとも5以上積層されてなる積層フィルムであって、各樹脂層の厚みが1nm〜100nmであり、かつ同一組成Aの樹脂層の厚みが、積層フィルムの表面側から反対面側に向かうにつれて、増加し又は減少する層構成を含む積層フィルム。
【0011】
[2] 少なくとも組成Aの樹脂層と、組成Bの樹脂層を含んでなり、隣り合う組成Aの樹脂層と組成Bの樹脂層との厚みの比が、積層フィルムの表面側から反対面側に向かうにつれて増加し又は減少する層構成を含む、上記[1]記載の積層フィルム。
【0012】
[3] 少なくとも組成Aの樹脂層と、組成Bの樹脂層を含んでなり、組成Aの樹脂層の厚みが積層フィルムの表面側から反対面側に向かうにつれて増加し、かつ組成Bの樹脂層の厚みが、積層フィルムの表面側から反対面側に向かうにつれて減少する層構成を含む、上記[1]または[2]記載の積層フィルム。
【0013】
[4] 組成Aの樹脂層の厚みが、積層フィルムの表面側から積層方向の中心に向かうにつれて増加し又は減少し、かつ、他方の表面側から積層方向の中心に向かうにつれても増加し又は減少する層構成を含む、上記[1]〜[3]のいずれか記載の積層フィルム。
【0014】
[5] 屈折率の差が0.05以上である2種類の熱可塑性樹脂を含んでなる、上記[1]〜[4]のいずれか記載の積層フィルム。
【0015】
[6] 積層フィルムを構成する各層の半数以上の厚みが30nm以下である、上記[1]〜[5]のいずれか記載の積層フィルム。
【0016】
[7] 隣り合う層の厚み比(薄い側の層厚み/厚い側の層厚み)が0.8以上1.0以下である層の対と、0.01以上0.5以下である層の対を含んでなる、上記[1]〜[6]のいずれか記載の積層フィルム。
【0017】
[8] 積層数が50層以上である、上記[1]〜[7]のいずれか記載の積層フィルム。
【0018】
[9] 400〜2500nmの波長領域における最大光線反射率が25%以下である、上記[1]〜[8]のいずれか記載の積層フィルム。
【発明の効果】
【0019】
本発明の積層フィルムは、屈折率分布を任意に設計することが可能であり種々の光路の制御が可能なため、GI型の光導波路とすることも可能であり、高速伝送に対応可能なものとなる。また、導光板や導波路などとして用いた場合には、光の減衰が少なく、かつ分散も少ないため、伝送の損失がほとんどなく、情報伝送容量が大きく広帯域で使用可能なものとなる。また、耐熱性・耐湿性にも優れるものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の積層フィルムを製造するのに好適なフィードブロックの積層装置部分を説明する図である。
【図2】前記積層装置を構成するスリット部材の正面図及び断面図である。
【図3】前記積層装置の内部構造と樹脂の流れとの関係を示す断面図である。
【図4】前記フィードブロックの合流装置部分を説明する図である。
【図5】実施例8の積層フィルムにおけるGI型の屈折率分布図である。
【符号の説明】
【0021】
1,9 側板
2,6 樹脂導入部材(組成Aの樹脂用)
4,8 樹脂導入部材(組成Bの樹脂用)
3,5,7 スリット部材
3a,3b スリット
10 積層装置
11 導入口
12 液溜部(またはその底面)
13 スリットの頂部の稜線
14 稜線の上端部
15 稜線の下端部
16 樹脂の流れ
17 積層装置の流出口
18 合流装置
19〜21 樹脂の流路
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の積層フィルムは、樹脂層が積層してなる特定の積層構成を含んでなる。当該積層構成において、光路の制御が可能となる。光路の制御とは、フィルム中を光が外にほとんど漏れ出すことなく進行する導波路効果や、光が集光や拡大されるレンズ効果、表面から反対表面に光が向かうにつれ、徐々に光路が曲がる効果などをいう。
【0023】
前記樹脂層を構成する樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、UV硬化性樹脂などが挙げられ、なかでも、熱可塑性樹脂が好ましい。
【0024】
熱可塑性樹脂としては、たとえば、
ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン樹脂、
脂環族ポリオレフィン樹脂、
ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド樹脂、
アラミド樹脂、
ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチルサクシネート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートなどのポリエステル樹脂、
ポリカーボネート樹脂、
ポリアリレート樹脂、
ポリアセタール樹脂、
ポリフェニレンサルファイド樹脂、
4フッ化エチレン樹脂、3フッ化エチレン樹脂、3フッ化塩化エチレン樹脂、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン樹脂などのフッ素樹脂、
アクリル樹脂、
メタクリル樹脂、
ポリアセタール樹脂、
ポリグリコール酸樹脂、
ポリイミド樹脂
ポリ乳酸樹脂、
などを用いることができる。この中で、強度・耐熱性・透明性・低損失の観点から、特にアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン、脂環族ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂がより好ましい。またこれらの熱可塑性樹脂としてはホモ樹脂であってもよく、共重合または2種類以上のブレンドであってもよい。また、各層中には、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、無機粒子、有機粒子、減粘剤、熱安定剤、滑剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、屈折率調整のためのドープ剤などが添加されていてもよい。
【0025】
前記積層構成は、異なる組成の樹脂層を含んでなることが好ましい。ここで、異なる組成の樹脂層の組合せとしては、樹脂自体が異なるものや、ブレンド比率の異なるもの、添加物の種類や添加量の異なるものなどが挙げられる。
【0026】
前記積層構成においては、屈折率差が0.05以上である2種類の熱可塑性樹脂を含んでなることが好ましい。前記積層構成に含まれる2種類の熱可塑性樹脂の屈折率差としては、より好ましくは0.07以上であり、さらに好ましくは0.1以上である。当該屈折率差を0.05以上とすることにより、光路の制御を効率的に行うことができるる。
【0027】
また、後述するような関係を有する組成Aと組成Bについて、両者の屈折率差が、絶対値で0.02以上であることが好ましい。より好ましくは0.03以上であり、さらに好ましくは0.05以上である。屈折率差が大きくなるほど、光路の制御が容易になるほか、開口数も大きくできる。一方、上限としては特に限定するものではないが、高精度に積層するのに容易な組成の組み合わせとしたり、散乱による損失を抑える上で、0.4以下とするとよい。
【0028】
また前記樹脂層の厚みとしては、1nm〜100nmであることが重要である。層の厚みを100nm以下とすることにより、光学厚みとして、一般的に適用される光の波長以下となるため、光は見かけ上、層の界面を認識しなくなり、反射・散乱が生じにくくなる。さらに、実質的に連続な屈折率の変化の制御が可能となる。すなわち、本発明では、フィルム断面内における任意の範囲内の屈折率を、その範囲内に存在する屈折率の異なる樹脂層の存在比率によって制御するものである。これは、後ほど記載する本発明の高精度でかつ、各層の厚みを任意に制御する技術によって初めて達成されたものである。このような方法で屈折率分布を制御するため、従来の方法に比較して屈折率分布を精度良く制御できるばかりか、昇華性の材料や揮発性の高い材料を用いる必要がないため、屈折率分布の経時変化も起きにくいものである。可視光線の伝送の損失を防ぐという点からは、層の厚みとしては80nm以下がより好ましい。また、青色〜紫外線の範囲の波長の光に対しては50nm以下がさらに好ましい。また、長距離伝送用途には、30nm以下がさらに好ましい。前記樹脂層の厚みを薄くするほど散乱を抑え伝送損失を低減できる傾向にあり、かかる点からは下限値は特に限定されるものではないが、1nm未満とすると、積層精度の制御や積層状態の確認が困難となる。
【0029】
また前記樹脂層のうち、厚みが30nm以下のものが占める割合としては、層数で、半数以上であることが好ましく、より好ましくは75%個以上、さらに好ましくは90%個以上である。厚み30nm以下の層の占める割合を半数以上とすることで、層間での屈折率差による反射や散乱が抑えられ、伝送する光の損失をより低減させることができる。
【0030】
厚み1nm〜100nmの樹脂層の積層数としては、5層以上とすることが重要であり、50層以上が好ましく、200層以上がより好ましい。積層数が5層より少ない場合、層厚みの薄膜化が困難となり、層の形成が完全に行えなかった箇所において反射による損失が発生する。また、光導波路への光の導入が困難となる。また、積層数が50層以上とすることで、1nm〜100nmの厚みを高精度に積層しやすくなるため、均一な光制御がしやすくなる。さらに積層数が多くなると、光路を制御できる領域が広がり、光接続などが容易となるため好ましい。積層数の上限としては特に限定されないが、低損失でかつハンドリング性のよいフィルム厚みを考慮すると、50000層もあれば足りうる。
【0031】
本発明の積層フィルムは、前記積層構成において、前記樹脂層のうち同一組成Aの樹脂層の厚みが、積層フィルムの表面側から反対面側に向かうにつれて、増加し又は減少する層構成を含んでいることが重要である。積層を構成する樹脂層の厚み分布を制御することによって、積層における屈折率分布を制御するものである。
【0032】
ここで、同一組成Aの樹脂層の厚みが、積層フィルムの表面側から反対面側に向かうにつれて、増加しまたは減少する積層構成について例示する。例えば、表面側から反対面側に向かってa層/b層/c層/d層/e層/f層/g層/h層/i層/j層・・・の順で厚み方向に積層されている層構成を有するフィルムを考える。ここで、同一組成Aからなる樹脂層がa層、c層、e層、g層、i層であるとすると、a層の厚み<c層の厚み<e層の厚み<g層の厚み<i層の厚みとなるように積層された場合や、a層の厚み>c層の厚み>e層の厚み>g層の厚み>i層の厚みのように積層された場合が挙げられる。
【0033】
また、b層、d層、f層、h層、j層については、その層厚みの変化および組成については、目標とする屈折率分布を持たせるために種々変更可能であるが、後述するように、これらの層が組成Bの樹脂層であることがより好ましい。
【0034】
表面側から反対面側に向かうにつれてというのは、必ずしも一方の表面側から反対面側まで一貫して増加または減少しているもののみを言うのではなく、たとえば、表面側付近の層から始まり、中央部付近まで層厚みが増加した後、反対面側に向かうにつれ層厚みが減少する場合も含まれる。またその逆に、表面側付近の層から始まり、中央部付近まで層厚みが減少した後、反対面側に向かうにつれ、層厚みが増加する場合も含まれる。
【0035】
すなわち本発明の積層フィルムは、組成Aの樹脂層の厚みが、積層フィルムの表面側から積層方向の中心に向かうにつれて増加し又は減少し、かつ、他方の表面側から積層方向の中心に向かうにつれても増加し又は減少する層構成を含むことも好ましい。このような場合、フィルム表面部の屈折率に対し、フィルム断面中央部の屈折率が高い又は低いものとなり、特にフィルム断面中央部の屈折率が高い場合には、シリンドリカルレンズの効果を有するフィルムやGI型光導波路に好適となる。より好ましくは、このような厚み変化が対称的であると良い。さらに好ましくは、組成Aの樹脂層厚みが、積層フィルムの表面から積層方向の中心に向かうにつれ、増加し又は減少し、かつ、他方の表面から積層方向の中心に向かうにつれても増加し又は減少し、その厚み分布が2次関数状であると良い。
【0036】
また本発明の積層フィルムは、少なくとも組成Aの樹脂層と、組成Bの樹脂層を含んでなり、隣り合う組成Aの樹脂層と組成Bの樹脂層との厚みの比が、積層フィルムの表面側から反対面側に向かうにつれて増加し又は減少する層構成を含むことが好ましい。ここで、隣り合う組成Aの樹脂層と組成Bの樹脂層との厚みの比とは、積層フィルムのなかで隣接して存在する組成Aの樹脂層と組成Bの樹脂層において、組成Aの樹脂層厚み/組成Bの樹脂層厚みで求められるものである。なお、ここで組成Aの樹脂層は、組成Bの樹脂層より、あらかじめ決定してある一方の表面に近いものでなければならない。また、組成Aと組成B以外の樹脂からなる第3の層や、第4の層が存在していても、特に構わない。このように、隣り合う組成Aの樹脂層と組成Bの樹脂層との厚み比が、積層フィルムの表面から反対面側に向かうにつれて増加し又は減少する層構成を含むと、屈折率分布の制御が容易となる。尚、従来のような積層フィルムにおいては、隣り合う層の厚み比はほぼ一定であったため、屈折率分布を制御することはできない。
【0037】
また本発明の積層フィルムは、少なくとも組成Aの樹脂層と、組成Bの樹脂層を含んでなり、組成Aの樹脂層の厚みが表面側から反対面側に向かうにつれて増加し、かつ組成Bの樹脂層の厚みが、積層フィルムの表面から反対面側に向かうにつれて減少する層構成を含むことも好ましい。このようにすると、屈折率の変化をより大きくすることが容易となるため、開口数を大きくすることも容易となる。
【0038】
前記例において、b層、d層、f層、h層、j層が同一組成Bからなるとすると、各層の厚みがa層の厚み<c層の厚み<e層の厚み<g層の厚み<i層の厚みとなる関係を有し、かつb層の厚み>d層の厚み>f層の厚み>h層の厚み>j層の厚みとなる関係を有する場合や、a層の厚み>c層の厚み>e層の厚み>g層の厚み>i層の厚みでかつb層の厚み<d層の厚み<f層の厚み<h層の厚み<j層の厚みのような場合のように、各層の厚みが増加および減少する層構成を少なくとも含んでいるとより好ましい。
【0039】
さらに好ましくは、組成Bの樹脂層厚みが、積層フィルムの表面から積層方向の中心に向かうにつれ、増加し又は減少し、かつ、他方の表面から積層方向の中心に向かうにつれても増加し又は減少し、その厚み分布が二次関数状であると良い。
【0040】
ただし、積層フィルムを構成するすべての層が上記のような厚み変化を有している必要はなく、その厚み変化する層の配列順も特に限定するものではない。
【0041】
また、本発明の積層フィルムにおいては、その層構成の中に隣り合う層の厚み比(薄い側の層厚み/厚い側の層厚み)が0.8以上1.0以下である層対と、0.01以上0.5以下である層対を含んでなることが好ましい。ここで、隣り合う層とは、隣接する層の組合せのことであり、隣り合う層を構成する樹脂としては異なる樹脂からなる層であることが好ましい。より好ましくは、0.9以上1.0以下である層対と、0.01以上0.3以下である層対を含んでなるものである。このように大きな変化をもった層対がある場合には、積層フィルム中での屈折率の変化が大きくなり、開口数を大きくすることができたり、光路の制御範囲が広がるため好ましい。
【0042】
本発明の積層フィルムは、フィルム面に対し垂直な方向からの光に対し、400nm〜2500nmの波長領域における最大光線反射率が25%以下であることが好ましい。より好ましくは、最大光線反射率が15%以下である。当該最大光線反射率が25%以下であると、一般的に光導波路として使用される光の光路制御の場合に、光の損失がおさえられるため好ましい。
【0043】
本発明の積層フィルムは、前記積層構成をコアとして、さらにクラッドを設けることが好ましい。ここで、クラッドの屈折率はコアの屈折率以下であることが好ましい。また、クラッドの表面にさらに保護層となる樹脂被覆をしてもよい。また、導波路に光を入射するための公知の端面処理や端面加工が施されていることもより好ましい。
【0044】
また、本発明の積層フィルムは、GI型光導波路のコアに好適である。GI型光導波路とする場合は、コアとなる積層フィルムの断面内の屈折率分布が、下記式のような2乗分布をほぼ満たすようにすることがより好ましい。
【0045】
(x)=n(0)(1−(gx)
ここで、xはコアとなる前記積層構成のフィルム厚み方向の中心位置を0とした場合の厚み方向の距離であり、厚み2aのフィルムにおける最表面までの距離はx=aまたはx=−aとなる。また、n(x)はx位置での屈折率のことであり、gは下記式で求められる集束定数のことである。
【0046】
g=(2×Δ/a)1/2
Δ=(n(0)−n2)/(2×n(0)
なお、n2は、クラッドを設けた場合の、当該クラッドの屈折率のことである。このように屈折率分布が2乗分布となると、モード分散がほとんどなくなり、広帯域伝送あるいは高速伝送に対応できるものとなる。また、導波路が曲がっている場合でも、SI型に比べて、伝播時間の差ができにくく、かつ損失も小さくなるものであるから、フレキシブルに使用するシート状の高速通信対応の通信ケーブルとして好適となる。
【0047】
このような屈折率分布を達成するためには、組成Aの樹脂層厚みが、積層フィルムの表面から積層方向の中心に向かうにつれ、増加し又は減少し、かつ、他方の表面から積層方向の中心に向かうにつれても増加し又は減少し、その厚み分布が二次関数状であることが好ましい。より好ましくは、組成Aの樹脂層厚みが、積層フィルムの表面から積層方向の中心に向かうにつれ、増加し又は減少し、かつ、他方の表面から積層方向の中心に向かうにつれても増加し又は減少し、一方で、組成Bの樹脂層厚みが、積層フィルムの表面から積層方向の中心に向かうにつれ、減少し又は増加し、かつ、他方の表面から積層方向の中心に向かうにつれても減少し又は増加し、かつ、一方の組成の樹脂層厚み分布が上に凸の二次関数状であり、他方の組成の樹脂層厚み分布が下に凸の二次関数状であることが好ましい。
【0048】
次に、本発明の積層フィルムの好ましい製造方法の例を以下に説明する。
【0049】
まず組成Aの樹脂および組成Bの樹脂を、ペレットなどの形態で用意する。また、重合と製膜が連続であることも好ましい。この場合、異物が少なくなるため、より低損失となる。ペレットは、必要に応じて、事前乾燥を熱風中あるいは真空下で行い、押出機に供給する。押出機内において、融点以上に加熱溶融された樹脂は、ギヤポンプ等で樹脂の押出量を均一化され、フィルタ等を介して異物や変性した樹脂をろ過される。さらに、樹脂はダイにて目的の形状に成形された後、吐出される。
【0050】
本発明の積層フィルムを得るための方法としては、2台以上の押出機を用いて異なる流路から送り出された樹脂を、マルチマニホールドダイやフィールドブロックやスタティックミキサー等を用いて多層に積層する方法等を使用することができる。また、これらを任意に組み合わせても良い。ここで本発明の効果を効率よく得るためには、各層ごとの層厚みを個別に制御できるマルチマニホールドダイもしくはフィードブロックが好ましい。特に、各層の厚みを精度良く制御するためには、加工精度0.1mm以下で製作した多数の微細スリットを有する部材を含むフィードブロックを用いることが好ましい。ここで、各微細スリットの間隙または長さを調整することにより、所望の各層の厚みに制御することが可能となる。
【0051】
さらに本発明のより好ましい態様である200層以上とするためには、多数の微細スリットを有する部材を少なくとも別個に2個以上含むフィードブロック(図1〜図4)を用いることが好ましい。
【0052】
図1は、当該フィードブロックにおいて別個に供給される樹脂A,Bから積層を形成する部分(「積層装置」と呼ぶ。)を示したものである。図1において、部材1〜9がこの順に重ねられ、積層装置10を形成する。
【0053】
図1の積層装置10は、樹脂導入部材2,4,6,8に由来して4つの樹脂導入口を有するが、例えば樹脂Aを樹脂導入部材2,6の導入口11から供給し、樹脂Bを樹脂導入部材4,8の導入口11から供給する。
【0054】
すると、
スリット部材3は、樹脂導入部材2から樹脂A、樹脂導入部材4から樹脂Bの供給を受け、
スリット部材5は、樹脂導入部材6から樹脂A、樹脂導入部材4から樹脂Bの供給を受け、
スリット部材7は、樹脂導入部材6から樹脂A、樹脂導入部材8から樹脂Bの供給を受けることになる。
【0055】
ここで、各スリットに導入される樹脂の種類は、樹脂導入部材2,4,6,8における液溜部12の底面とスリット部材における各スリットの端部との位置関係により決定される。すなわち、図3に示すように、スリット部材における各スリットの頂部の稜線13は、スリット部材の厚み方向に対して傾斜を有する(図2(b),(c))。そして、樹脂導入部材2,4,6,8における液溜部12の底面の高さは、前記稜線13の上端部14と下端部15との間の高さに位置する。このことにより、前記稜線13が上がった側からは樹脂導入部材2,4,6,8の液溜部12から樹脂が導入されるが(図3中16)、前記稜線13が下がった側からはスリットが封鎖された状態となり樹脂は導入されない。かくして各スリットごとに樹脂AまたはBが選択的に導入されるので、積層構造を有する樹脂の流れがスリット部材3,5,7中に形成され、当該部材3,5,7の下方の流出口17より流出する。
【0056】
スリットの形状としては、樹脂が導入される側のスリット面積と樹脂が導入されない側のスリット面積が同一ではないことが好ましい。さらには、(樹脂が導入されない側のスリット面積)/(樹脂が導入される側のスリット面積)が20%以上90%以下であることが好ましい。より好ましくは50%以下である。また、フィードブロック内の圧力損失が1MPa以上となることが好ましい。また、スリット長(図1中Z方向スリット長さの内、長い方)を100mm以上とすることが好ましい。
【0057】
また、フィードブロック内部に各スリットに対応したマニホールドを有していることも好ましい。マニホールドにより、スリット内部での幅方向(図1中Y方向)の流速分布が均一化するため、積層されたフィルムの幅方向の積層比率を均一化することができ、大面積のフィルムでも精度良く屈折率分布を制御することができる。
【0058】
スリット部材3,5,7の下方の流出口17は、3者の樹脂流れの積層構造が並列となる位置関係で配置され、また、樹脂導入部材4,6によって互いに隔てられている(図4中19L,20L,21L)。そこで、図4に示すような合流装置18により、中L−L’からM−M’にかけてのような、流路の規制による配置の転換が行われ(図4中19M,20M,21M)、3者の樹脂流れの積層構造も直列となる。当該樹脂流れは図4中M−M’からN−N’にかけて拡幅され、図4中N−N’より下流にて合流する。
【0059】
かくして、極薄の樹脂層の任意かつ高精度な積層が可能となる。従来の装置では、200〜300層以上の積層を達成するためには、スクエアーミキサーを併用することが一般的であったが、このような方法では積層流が相似形で変形・積層されるために、上記のように任意の層の厚みを調整することが不可能であった。
【0060】
また、上記のようなフィードブロックを用いることにより、装置が極端に大型化することがないため、熱劣化による異物が少なく、積層数が極端に多い場合でも、高精度な積層が可能となる。
【0061】
フィードブロックの内壁について、壁面抵抗を抑制するため、当該内壁面の粗さを0.4S以下にすることが好ましく、また、室温下における水との接触角が30°以上となるようにすると良い。
【0062】
また、フィードブロックの加熱方法としては、樹脂温度の不均一性を低減するため、熱媒循環方式を採用することが好ましい。
【0063】
フィードブロック内で形成された樹脂層の積層体をシート状に成型するダイとしては、ダイ内での積層体の拡幅率が1倍以上100倍以下であるものが好ましく、より好ましくは50倍以下である。当該拡幅率を100倍以下とすることで、積層体表層部の積層厚みの乱れを抑えることができる。
【0064】
ダイから吐出された積層構造を有するシートは、キャスティングドラム等の冷却体上に押し出され、冷却固化され、キャスティングフィルムとなる。この際、ワイヤー状、テープ状、針状あるいはナイフ状等の電極を用いて、静電気力によりキャスティングドラム等の冷却体に密着させ急冷固化させる方法や、スリット状、スポット状、面状の装置からエアーを吹き出してキャスティングドラム等の冷却体に密着させ急冷固化させる方法、ニップロールにて冷却体に密着させ急冷固化させる方法等を採用することが好ましい。
【0065】
本発明の積層フィルムは、光の伝送の損失をより低減する観点からは、未延伸のフィルムであることがより好ましいが、未延伸フィルムを必要に応じて、一軸延伸、二軸延伸等の、延伸したものでもよい。一軸延伸とは、長手方向(machine direction)または幅方向(transverse direction)に延伸することをいう。二軸延伸とは、長手方向および幅方向に延伸することをいう。二軸延伸は、逐次に二方向に延伸しても良いし、同時に二方向に延伸してもよい。また、二方向に延伸した後さらに長手方向および/または幅方向に再延伸を行ってもよい。
【0066】
長手方向への延伸は、例えばロールの周速差により施すことができる。この延伸は1段階で行ってもよく、また、複数のロール対を使用して多段階に行っても良い。長手方向の延伸の倍率としては樹脂の種類により異なるが、通常、2〜15倍が好ましく、積層フィルムを構成する樹脂の過半量がポリエチレンテレフタレートを用いた場合には、2〜7倍が特に好ましい。また、延伸温度としては積層フィルムを構成する樹脂のガラス転移温度以上、ガラス転移温度+100℃以下が好ましい。また、長手方向への延伸は、テンターを用いて、フィルムの両端をクリップで把持し、フィルムを長手方向に搬送しながら、前記クリップの間隔を広げることでもできる。
【0067】
長手方向に一軸延伸されたフィルムに、用途に応じてコロナ処理やフレーム処理、プラズマ処理などの表面処理を施した後、易滑性、易接着性、帯電防止性などの機能をインラインコーティングにより付与してもよい。
【0068】
幅方向の延伸は、例えばテンターを用いて、フィルムの両端をクリップで把持し、フィルムを長手方向に搬送しながら前記把持の間隔を広げることで行うことができる。幅方向の延伸の倍率としては樹脂の種類により異なるが、通常、2〜15倍が好ましく、積層フィルムを構成する樹脂の過半量がポリエチレンテレフタレートを用いた場合には、2〜7倍が特に好ましく用いられる。また、延伸温度としては積層フィルムを構成する樹脂のガラス転移温度以上、ガラス転移温度+120℃以下が好ましい。
【0069】
こうして二軸延伸されたフィルムは、平面性、寸法安定性を付与するために、テンター内で延伸温度以上融点以下の熱処理を行うのが好ましい。このようにして熱処理された後、均一に徐冷後、室温まで冷やして巻き取られる。また、必要に応じて、熱処理から徐冷の際に弛緩処理などを併用してもよい。
【実施例】
【0070】
本発明に使用した物性値の評価法を記載する。
(物性値の評価法)
(1)固有粘度
オルトクロロフェノール中、25℃でオストワルド粘度計を用いて溶液粘度を測定し、当該溶液粘度から、算出した。固有粘度の単位は[dl/g]で示される。なお、n数は3とし、その平均値を採用した。
【0071】
(2)樹脂の屈折率
未延伸フィルムについては、積層フィルムの構成に供給したものと同一組成の樹脂について、JIS K7142(1996)A法に従って測定した。
【0072】
また、延伸・熱処理等を施した積層フィルムについては、評価の対象とする樹脂単体を、フィルムの全体厚み、延伸・熱処理等を含め同条件にて評価用フィルムを作製し、当該評価用フィルムの厚み方向屈折率nzをJIS K7142(1996)A法に従って、評価した。
【0073】
(3)層厚み、積層数
フィルムの層構成は、ミクロトームを用いて断面を切り出したサンプルについて、電子顕微鏡観察により求めた。すなわち、透過型電子顕微鏡HU−12型((株)日立製作所製)を用い、フィルムの断面を3000〜200000倍に拡大観察し、断面写真を撮影し、当該断面写真より層厚みおよび積層数を測定した。なお、層構成を明確にするためにRuO染色法にて染色を行い、異なる樹脂層同士の染め分けを行った。
【0074】
(4)最大光線反射率
日立製作所製 分光光度計(U−3410 Spectrophotomater)にφ60積分球130−0632((株)日立製作所)および10°傾斜スペーサーを取り付け反射率を測定した。なお、サンプルは長手方向が上下方向になるようにセットし、バンドパラメーターは2/servoとし、ゲインは3と設定し、400nm〜2500nmの範囲を120nm/min.の検出速度で測定した。また、反射率を基準化するため、標準反射板として付属のAlを用いた。そして400nm〜2500nmの波長範囲内で最も高い反射率を最大光線反射率とした。
【0075】
(5)屈折率分布
フィルムサンプルをゼラチンカプセルに入れた後、エポキシ樹脂(BUELER社製)を流し込み、24時間放置した。次にフィルムが包埋されたエポキシ樹脂を、フィルムサンプルの先端が露出するように、片刃で削った。その後、ミクロトーム(LEICA社製 ULTRACUT UCT)にダイヤモンドナイフを取り付けて、フィルム面方向に対し、ナイフの刃が垂直になるように調整し、先端部から徐々に削り取り、サンプルの平滑な断面(厚み方向−幅方向 断面)を作成した。この際、実体顕微鏡にて表面に傷や欠陥が生じていることが確認された場合には、傷や欠陥の無い面がでるまで更に削った。
【0076】
得られたサンプルについて、ビームプロファイル反射率測定法にて、積層フィルム断面内の屈折率分布を計測した。測定条件を以下に記す。
【0077】
装置:サーマウェーブ社製 高精度膜厚計Opti−Probe2000
測定波長:675nm
ビームスポット:1μm
ステージ精度:±0.2μm
検出器:アレイディテクター
測定:ライン測定にて、厚み方向屈折率nzの分布を測定
(6)耐熱・耐湿性
湿熱処理として、60℃・90%RHの雰囲気下でサンプルを250時間保管し、つづいて60℃・真空下で24時間保管した。当該質熱処理の前後についてそれぞれ、上記(5)のサンプリングおよび屈折率分布の測定を行った。湿熱処理前の屈折率分布における最大屈折率と最小屈折率との差d0と、湿熱処理後の屈折率分布における最大屈折率と最小屈折率との差d1とによって求められるd(=|d0−d1|)が、0.02以上となる場合を×(bad)、0.02未満の場合を○(good)とした。
【0078】
(実施例1)
2種類の熱可塑性樹脂として、
熱可塑性樹脂X:メタクリル樹脂(PMMA)
[三菱レイヨン社製 アクリペットVH]
熱可塑性樹脂Y:ポリカーボネイト(PC)
[三菱エンジニアリングプラスチックス社製S−2000]
を用いた。
【0079】
これら熱可塑性樹脂X,Yを、それぞれ乾燥した後、別個に押出機に供給し、230℃の溶融状態とした。
【0080】
溶融した熱可塑性樹脂X,Yを、ギヤポンプおよびフィルタに通過させた後、図1のごとき3001層積層用のフィードブロックに供給した。当該熱可塑性樹脂X,Yは、フィードブロック内にて各層の厚みが表層側から中央側に向かうにつれ徐々に変化し、熱可塑性樹脂Xが1501層、熱可塑性樹脂Yが1500層からなる厚み方向に交互に積層された構造(両表層部は熱可塑性樹脂Xとなる)とした。各層の厚みは、フィードブロック内の微細スリットの形状により調整した。また熱可塑性樹脂X,Yの吐出量は、全体の積層比(=重量比)がX/Y=1になるよう調整した。
【0081】
このようにして形成された計3001層からなる積層体をTダイに供給しシート状に成形した後、ニップロールにて表面温度20℃に保たれたキャスティングドラム上で急冷固化した。
【0082】
得られたフィルムの厚みは45μmであった。
【0083】
得られたフィルムの両表層部では、熱可塑性樹脂Xの層厚みが27nm、熱可塑性樹脂Yの層厚みが3nmであり、中央部では熱可塑性樹脂Xの層厚みが3nm、熱可塑性樹脂Yの層厚みが27nmであった。また、熱可塑性樹脂Xの層厚みは、表層部から中央部に向かうにつれ27nmから3nmに一次関数的に減少し、一方、熱可塑性樹脂Yの層厚みは表層部から中央部に向かうにつれ3nmから27nmに一次関数的に増加する構成であった。
【0084】
屈折率分布は二乗分布とはならず、SI型とGI型の中間(擬似GI型と呼ぶ。)となった。
【0085】
得られた結果を表1に示す。
【0086】
(実施例2)
フィードブロック内の微細スリットの形状を変更し、また熱可塑性樹脂X,Yの吐出量を、全体の積層比(=重量比)がX/Y=1.5になるよう調整した以外は実施例1と同様にして、積層フィルムを作製した。
【0087】
得られたフィルムの厚みは45μmであった。
【0088】
得られたフィルムの両表層部では、熱可塑性樹脂Xの層厚みが27nm、熱可塑性樹脂Yの層厚みが3nmであり、中央部では熱可塑性樹脂Xの層厚みが3nm、熱可塑性樹脂Yの層厚みが27nmであった。また、熱可塑性樹脂Xの層厚みは、表層部から中央部に向かうにつれ27nmから3nmに減少し、一方、熱可塑性樹脂Yの層厚みは表層部から中央部に向かうにつれ3nmから27nmに増加する構成であった。また、熱可塑性樹脂Xの層厚み分布は、フィルム中央部がもっとも薄くなる二次関数分布であり、熱可塑性樹脂Yの層厚み分布は、フィルム中央部がもっとも厚くなる二次関数分布であった。
【0089】
屈折率分布は、2乗分布であり、GI型であった。
【0090】
得られた結果を表1に示す。
【0091】
(実施例3)
実施例2のフィルムの両表面に、クラッドとして、旭硝子工業社製のアモルファスフッ素樹脂(屈折率1.34)をコーティングし、乾燥した。得られたフィルムの厚みは49μmであった。
【0092】
(実施例4)
フィードブロック内の微細スリット形状を変更し、また全体の積層比と熱可塑性樹脂Yの吐出量を変更して熱可塑性樹脂Yの各層の厚みを20nm一定とした以外は、実施例1と同様にして、積層フィルムを作製した。
【0093】
得られたフィルムの厚みは53μmであった。
【0094】
屈折率分布は、疑似GI型となった。
【0095】
得られた結果を表1に示す。
【0096】
(実施例5)
2種類の熱可塑性樹脂として、
熱可塑性樹脂X:ポリエチレンテレフタレート(PET)
固有粘度0.65
熱可塑性樹脂Y:シクロヘキサンジメタノールを30mol%共重合したエチレンテレフタレート重縮合体(PETG)
[イーストマン製 PETG6763]
を用いた。
【0097】
これら熱可塑性樹脂X,Yを、それぞれ乾燥した後、別個に押出機に供給し、280℃の溶融状態とした。
【0098】
溶融した熱可塑性樹脂X,Yを、ギヤポンプおよびフィルタに通過させた後、図1のごとき201層積層用のフィードブロックに供給した。当該熱可塑性樹脂X,Yは、フィードブロック内にて各層の厚みが表層側から中央側に向かうにつれ徐々に変化し、熱可塑性樹脂Xが101層、熱可塑性樹脂Yが100層からなる厚み方向に交互に積層された構造(両表層部は熱可塑性樹脂Xとなる)とした。各層の厚みは、フィードブロック内の微細スリットの形状により調整した。また熱可塑性樹脂X,Yの吐出量は、全体の積層比(=重量比)がX/Y=0.67になるようにて調整した。
【0099】
このようにして形成された計201層からなる積層体をTダイに供給しシート状に成形した後、静電印加にて表面温度25℃に保たれたキャスティングドラム上で急冷固化した。
【0100】
このキャストフィルムを、90℃に設定したロール群で加熱し、縦方向に3.3倍延伸した。次いでこの一軸延伸フィルムを一旦巻き取ることなくテンターに導き、95℃の熱風で予熱後、横方向に3.3倍延伸した。延伸したフィルムは、そのまま、テンター内で235℃の熱風にて熱処理を行い、つづいて5%の弛緩処理を施し、室温まで徐冷後、巻き取った。
【0101】
得られたフィルムの厚みは11μmであった。
【0102】
得られたフィルムの両表層部では、熱可塑性樹脂Xの層厚みが100nm、熱可塑性樹脂Yの層厚みが10nmであり、中央部では熱可塑性樹脂Xの層厚みが10nm、熱可塑性樹脂Yの層厚みが100nmであった。また、熱可塑性樹脂Xの層厚みは、表層部から中央部に向かうにつれ100nmから10nmに減少し、一方、熱可塑性樹脂Yの層厚みは表層部から中央部に向かうにつれ10nmから100nmに増加する構成であった。また、熱可塑性樹脂Xの層厚み分布は、フィルム中央部がもっとも薄くなる二次関数分布であり、熱可塑性樹脂Yの層厚み分布は、フィルム中央部がもっとも厚くなる二次関数分布であった。
【0103】
厚み方向屈折率nzについては、2乗分布となりGI型導波路となったが、二軸延伸によって複屈折が生じたために、幅方向屈折率nyについては中央部の屈折率が表層付近の屈折率より低くなる屈折率分布となっていた。
【0104】
得られた結果を表1に示す。
【0105】
(実施例6)
熱可塑性樹脂X,Yとして、実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0106】
これら熱可塑性樹脂X,Yを、それぞれ乾燥した後、別個に押出機に供給し、230℃の溶融状態とした。
【0107】
溶融した熱可塑性樹脂X,Yを、ギヤポンプおよびフィルタに通過させた後、11層積層用のフィードブロックに供給した。当該熱可塑性樹脂X,Yは、フィードブロック内にて各層の厚みが表層側から中央側に向かうにつれ徐々に変化し、熱可塑性樹脂Xが6層、熱可塑性樹脂Yが5層からなる厚み方向に交互に積層された構造(両表層部は熱可塑性樹脂Xとなる)とした。各層の厚みは、フィードブロック内の各層の流路に設けた微細スリットの形状により調整した。
【0108】
このようにして形成された計11層からなる積層体をTダイに供給しシート状に成形した後、ニップロールにて表面温度20℃に保たれたキャスティングドラム上で急冷固化した。
【0109】
得られたフィルムの厚みは10μmであった。
【0110】
得られた積層フィルムの層厚みは、表層から反対側の表層にかけて樹脂X/樹脂Y/…/樹脂Y/樹脂Xの順で、40nm/10nm/20nm/30nm/10nm/9000nm/10nm/30nm/20nm/10nm/40nmであった。
【0111】
屈折率分布は2乗分布とはならず、疑似GI型となった。
【0112】
得られた結果を表1に示す。
【0113】
(実施例7)
2種類の熱可塑性樹脂として、
熱可塑性樹脂X:ポリエチレンテレフタレート(PET)
固有粘度0.65 …20wt%
ポリエチレンナフタレート(PEN)
固有粘度0.62 …80wt%
からなる樹脂
熱可塑性樹脂Y:PET
固有粘度0.65 …90wt%
PEN
固有粘度0.62 …10wt%
からなる樹脂
を用いた。
【0114】
これら熱可塑性樹脂X,Yを、それぞれ乾燥した後、別個に押出機に供給し、290℃の溶融状態とした。
【0115】
溶融した熱可塑性樹脂X,Yを、ギヤポンプおよびフィルタに通過させた後、図1のごとき801層積層用のフィードブロックに供給した。当該熱可塑性樹脂X,Yは、フィードブロック内にて各層の厚みが表層側から中央側に向かうにつれ徐々に変化し、熱可塑性樹脂Xが401層、熱可塑性樹脂Yが400層からなる厚み方向に交互に積層された構造(両表層部は熱可塑性樹脂Xとなる)とした。各層の厚みは、フィードブロック内の微細スリットの形状により調整した。また熱可塑性樹脂X,Yの吐出量は、全体の積層比(=重量比)がX/Y=1.5になるよう調整した。
【0116】
このようにして得られた計401層からなる積層体をTダイに供給しシート状に成形した後、静電印加にて表面温度25℃に保たれたキャスティングドラム上で急冷固化した。
【0117】
得られたフィルムの厚みは44μmであった。
【0118】
得られたフィルムの両表層部では、熱可塑性樹脂Xの層厚みが10nm、熱可塑性樹脂Yの層厚みが100nmであり、中央部では熱可塑性樹脂Xの層厚みが100nm、熱可塑性樹脂Yの層厚みが10nmであった。また、熱可塑性樹脂Xの層厚みは、表層部から中央部に向かうにつれ10nmから100nmに増加し、熱可塑性樹脂Yの層厚みは、表層部から中央部に向かうにつれ100nmから10nmに減少する構成であった。また、熱可塑性樹脂Xの層厚みの分布は、フィルム中央部がもっとも厚くなる二次関数分布であり、熱可塑性樹脂Yの層厚みの分布は、フィルム中央部がもっとも薄くなる二次関数分布であった。
【0119】
屈折率分布は2乗分布であり、GI型であった。
【0120】
得られた結果を表1に示す。
【0121】
(実施例8)
製膜速度を調整してフィルム厚みを35μmとした以外は実施例7と同様にして、積層フィルムを作製した。
【0122】
得られたフィルムの両表層部では、熱可塑性樹脂Xの層厚みが8nm、熱可塑性樹脂Yの層厚みが80nmであり、中央部では熱可塑性樹脂Xの層厚みが80nm、熱可塑性樹脂Yの層厚みが8nmであった。また、熱可塑性樹脂Xの層厚みの分布は、フィルム中央部がもっとも厚くなる二次関数分布であり、熱可塑性樹脂Yの層厚みの分布は、フィルム中央部がもっとも薄くなる二次関数分布であった。
【0123】
屈折率分布は2乗分布となり、GI型となった。
【0124】
得られた結果を表1に示す。
【0125】
また、得られた積層フィルムの屈折率分布を図5に示す。
【0126】
【表1】

【0127】
(比較例1)
下記以外は実施例1と同様にして、単層フィルムを作製した。
【0128】
単層フィルムの原料とする熱可塑性樹脂として、
熱可塑性樹脂X:メタクリル樹脂(PMMA)
[三菱レイヨン社製 アクリペットVH]
を用いた。
【0129】
またフィードブロックとして、単層フィルム用のものを使用した。
【0130】
また吐出量を変更した。
【0131】
得られたフィルムの厚みは100μmであった。
【0132】
屈折率分布は、厚み方向にわたりほぼ一様であった。このため、高速伝送には不向きであった。
【0133】
得られた結果を表2に示す。
【0134】
(比較例2)
下記以外は実施例5と同様にして、単層フィルムを作製した。
【0135】
単層フィルムの原料とする熱可塑性樹脂として、
熱可塑性樹脂X:ポリエチレンテレフタレート(PET)
固有粘度0.65
を用いた。
【0136】
またフィードブロックとして、単層フィルム用のものを使用した。
【0137】
また吐出量を変更した。
【0138】
得られたフィルムの厚みは100μmであった。
【0139】
屈折率分布は、厚み方向にわたりほぼ一様であった。このため、高速伝送には不向きであった。
【0140】
得られた結果を表2に示す。
【0141】
(比較例3)
下記以外は実施例1と同様にして、積層フィルムを作製した。
【0142】
フィードブロックとして、その内部のスリットの形状を同一成分の積層方向にわたりすべて同一とし、また1001層積層用のものを使用した。
【0143】
得られたフィルムの厚みは91μmであった。
【0144】
得られた積層フィルムの各層の厚みは、積層方向にわたりほぼ均一であり、熱可塑性樹脂Xの層厚みはほぼ90nmであり、熱可塑性樹脂Yの層厚みはほぼ90nmであった。
【0145】
屈折率分布は、厚み方向にわたりほぼ一様であった。このため、高速伝送には不向きであった。
【0146】
得られた結果を表2に示す。
【0147】
(比較例4)
スリット形状と、全体の積層比と、吐出量の調整を変更した以外は実施例5と同様にして、積層フィルムを作製した。
【0148】
得られたフィルムの厚みは26μmであった。
【0149】
得られたフィルムの両表層部では、熱可塑性樹脂Xの層厚みが150nm、熱可塑性樹脂Yの層厚みが110nmであり、中央部では熱可塑性樹脂Xの層厚みが110nm、熱可塑性樹脂Yの層厚みが150nmであった。また、熱可塑性樹脂Xの層厚みは、表層部から中央部に向かうにつれ150nmから110nmに単調に減少し、一方、熱可塑性樹脂Yの層厚みは表層部から中央部に向かうにつれ110nmから150nmに単調に増加した。また、熱可塑性樹脂Xの層厚みの分布は、フィルム中央部がもっとも薄くなる二次関数分布であり、熱可塑性樹脂Yの層厚み分布は、フィルム中央部がもっとも厚くなる二次関数分布であった。
【0150】
厚み方向の屈折率nzについては、2乗分布となりGI型導波路となった。ただし、最大光線反射率の評価において、850nm付近に高い反射率を有していたため、波長830nmの光伝送損失は10db/cm以上と極端に大きなものであり、導波路としては実用に耐えないものであった。
【0151】
得られた結果を表2に示す。
【0152】
(比較例5)
特開平2003−322742号公報の実施例1に記載されている方法と同様の方法で、単膜のPMMAフィルムにヘプタルフルオロ−n−ブタン酸エチルを分散させたフィルムを作製した。
【0153】
得られたフィルムの厚みは1mmであった。
【0154】
得られたフィルムの屈折率分布は、擬似GI型導波路であった。
【0155】
耐熱・耐湿試験において、湿熱処理の前後で屈折率分布が大きく変化するため、導波路としては実用に耐えないものであった。
【0156】
得られた結果を表2に示す。
【0157】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明の積層フィルムは、液晶ディプレイ、プラズマディスプレイ、ELディスプレイ、プロジェクションスクリーンなどの各種ディスプレイ、太陽電池などの光エネルギーデバイス、光学印刷機器やカメラなど種々の光学機器に用いられる光学レンズや導光板のほか、光ケーブルや光導波路・光合流器・光分流器などの各種通信・回路機器に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂層が少なくとも5以上積層されてなる積層フィルムであって、各樹脂層の厚みが1nm〜100nmであり、かつ同一組成Aの樹脂層の厚みが、積層フィルムの表面側から反対面側に向かうにつれて、増加し又は減少する層構成を含む積層フィルム。
【請求項2】
少なくとも組成Aの樹脂層と、組成Bの樹脂層を含んでなり、隣り合う組成Aの樹脂層と組成Bの樹脂層との厚みの比が、積層フィルムの表面側から反対面側に向かうにつれて増加し又は減少する層構成を含む、請求の範囲第1項記載の積層フィルム。
【請求項3】
少なくとも組成Aの樹脂層と、組成Bの樹脂層を含んでなり、組成Aの樹脂層の厚みが積層フィルムの表面側から反対面側に向かうにつれて増加し、かつ組成Bの樹脂層の厚みが、積層フィルムの表面側から反対面側に向かうにつれて減少する層構成を含む、請求の範囲第1項記載の積層フィルム。
【請求項4】
組成Aの樹脂層の厚みが、積層フィルムの表面側から積層方向の中心に向かうにつれて増加し又は減少し、かつ、他方の表面側から積層方向の中心に向かうにつれても増加し又は減少する層構成を含む、請求の範囲第1項記載の積層フィルム。
【請求項5】
屈折率の差が0.05以上である2種類の熱可塑性樹脂を含んでなる、請求の範囲第1〜4項のいずれか記載の積層フィルム。
【請求項6】
積層フィルムを構成する各層の半数以上の厚みが30nm以下である、請求の範囲第1〜4項のいずれか記載の積層フィルム。
【請求項7】
隣り合う層の厚み比(薄い側の層厚み/厚い側の層厚み)が0.8以上1.0以下である層の対と、0.01以上0.5以下である層の対を含んでなる、請求の範囲第1〜4項のいずれか記載の積層フィルム。
【請求項8】
積層数が50層以上である、請求の範囲第1〜4項のいずれか記載の積層フィルム。
【請求項9】
200〜2500nmの波長領域における最大光線反射率が25%以下である、請求の範囲第1〜4項のいずれか記載の積層フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【国際公開番号】WO2005/037544
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【発行日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514761(P2005−514761)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015114
【国際出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】