説明

積層ポリフェニレンスルフィドフィルムおよび積層ポリフェニレンスルフィドフィルムの製造方法。

【課題】ポリフェニレンスルフィドのヒートシール性に優れ、さらに引っ張り伸度向上させることにより、加工性に優れた積層ポリフェニレンスルフィドフィルムを提供することを目的とするものである。
【解決手段】p−フェニレンスルフィド単位を主成分とする二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルム(B層)の少なくとも片側に、p−フェニレンスルフィド単位以外の少なくとも1種以上の共重合単位を共重合した二軸配向共重合ポリフェニレンスルフィドフィルム(A層)が積層されてなる積層フィルムであり、該A層の厚みが5μm以上、50μm以下であり、積層フィルムの破断伸度が100〜150%であることを特徴とする積層ポリフェニレンスルフィドフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層ポリフェニレンスルフィドフィルムおよびその製造方法に関し、さらに詳しくは、ヒートシール性、成形加工性に優れた積層ポリフェニレンスルフィドフィルムおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略称することがある。)フィルムは、優れた耐熱性、難燃性、剛性、耐薬品性、電気絶縁性および低吸湿性などの性質を有しており、特に電気・電子機器、機械部品および自動車部品などに好適に使用されている。例えば、(1)ポリフェニレンスルフィドの無配向フィルムが開示されている(特許文献1)。また、(2)ポリフェニレンスルフィドの二軸配向フィルムが開示されている(特許文献2)。無配向フィルムは、靭性が低く、成形加工性が十分でない場合があり、長期耐熱性に乏しい欠点を有する。一方、二軸配向フィルムは、無配向シートに比べ靭性は大幅に向上するものの、成形加工性が十分でない問題があった。これら、無配向フィルムおよび二軸配向フィルムの成形加工性の悪化は、フィルムの靭性が低いこと、特に、破断伸度が低いことが原因であった。また、二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは、耐薬品性、耐熱性が優れていることからも明らかなように、表面が不活性なため接着性が乏しく、そのため、包装用、電気絶縁用、回路基板用、一般工業用などの用途に用いるためには、接着性、特にヒートシール性を付与する必要があった。
【0003】
従来、接着性を向上する方法としては、(3)コロナ処理を行うことが開示されているが(特許文献3)、未処理に比べて若干の向上は認められるもののほとんど改良は認められなかった。さらに、(4)接着剤を塗布することも提案されているが(特許文献4)、接着性自体が耐熱性に劣るばかりか、接着剤の熱による劣化がポリフェニレンスルフィドフィルムの劣化を促進するため、耐熱性が著しく低下してしまう欠点があった。
【0004】
また、(5)p−フェニレンスルフィド単位以外の共重合単位を導入したフィルムが開示されている(特許文献5)。しかしながら、該フィルムは引き裂き強さの改良は見られるものの、他の機械特性が低下する問題があった。また、(6)二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムのヒートシール性および機械特性を改良するため、p−フェニレンスルフィド単位以外の共重合単位を共重合した共重合ポリフェニレンスルフィドフィルムを積層した積層フィルムが開示されている(特許文献6)。該積層フィルムは、ヒートシール性の向上は認められるものの不十分であり、また、二軸配向ポリフェニレンスルフィドの破断伸度が低いため成形加工性は依然不十分のままであった。
【特許文献1】特開昭57-121052号公報
【特許文献2】特開昭54-142275号公報
【特許文献3】特開平2−228333号公報
【特許文献4】特開昭62-292431号公報
【特許文献5】特開昭61−98526号公報
【特許文献6】特開平4−319436号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、これらの問題点を解消し、二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの優れた耐熱性を損なうことなくヒートシール性、成形加工性に優れた積層ポリフェニレンスルフィドフィルムおよびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の積層フィルムは、上記課題を解決するために次の構成を有する。すなわち、p−フェニレンスルフィドを主成分とする二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルム(B層)の少なくとも片側に、p−フェニレンスルフィド単位以外の少なくとも1種以上の共重合単位を共重合した二軸配向共重合ポリフェニレンスルフィドフィルム(A層)が積層されてなる積層フィルムであり、A層の厚みが5μm以上、50μm以下であり、積層フィルムの破断伸度が100〜150%であることを特徴とする積層ポリフェニレンスルフィドフィルムである。
【発明の効果】
【0007】

本発明によれば、以下に説明するとおり、ヒートシール性に優れ、かつ破断伸度の向上により成形加工性が優れた積層ポリフェニレンスルフィドフィルムを得ることができる。
【0008】
本発明の積層ポリフェニレンスルフィドフィルムは、包装用、電気絶縁用、回路基板用、一般工業用等に幅広く用いることが可能であり、特に電気絶縁用、フレキシブルプリント配線板(FPC)用に用いるとその効果が一層顕著に発現する。
【0009】
また、特に好ましい用途としては、接着剤を用いずにPPS成形体・PPSフィルムや金属成形体・金属板と熱融着することが可能なヒートシール性と高伸度を活かした、薬品缶やケミカルタンクの内張り用途、銅管・鋼管被覆材用途、腐食性の薬物保管用などに好適な全PPS製袋用途、スパイラルチューブ用途、電線被覆用途、アルミ板・銅版・鋼板・亜鉛版などの金属板との張り合わせ用途(特にプレス成型などの成型用張り合わせ金属板用途)に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で用いる二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルム(B層)は、p−フェニレンスルフィド単位を主成分とするポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形してシート状とし、二軸延伸、熱処理してなるフィルムである。該ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、p−フェニレンスルフィド単位を好ましくは93モル%以上、より好ましくは95モル%以上含有することが好ましい。p−フェニレンスルフィド単位が93モル%未満では、二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの結晶性が低下し、フィルムの耐熱性、熱寸法安定性などが損なわれる場合がある。上記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、該ポリフェニレンスルフィド樹脂を90重量%以上含有していることが好ましく、ポリフェニレンスルフィド樹脂以外のポリマを10重量%未満含むことができる。ポリフェニレンスルフィド樹脂以外のポリマは、例えば、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリエーテルエーテルケトンなどの各種ポリマおよびこれらのポリマの少なくとも1種を含むブレンド物を挙げることができる。本発明の場合、ポリエーテルイミドが積層フィルムの破断伸度を向上させるためには好ましい。
【0011】
本発明に用いられるポリエーテルイミドとしては、脂肪族、脂環族または芳香族系のエーテル単位と環状イミド基を繰り返し単位として含有するポリマであり、溶融成形性を有するポリマであれば、特に限定されない。例えば、米国特許第4141927号、特許第2622678号、特許第2606912号、特許第2606914号、特許第2596565号、特許第2596566号、特許第2598478号のポリエーテルイミド、特許第2598536号、特許第2599171号、特開平9−48852号公報、特許第2565556号、特許第2564636号、特許第2564637号、特許第2563548号、特許第2563547号、特許第2558341号、特許第2558339号、特許第2834580号に記載のポリマである。本発明の効果を阻害しない範囲であれば、ポリエーテルイミドの主鎖に環状イミド、エーテル単位以外の構造単位、例えば、芳香族、脂肪族、脂環族エステル単位、オキシカルボニル単位等が含有されていても良い。本発明では、2,2−ビス[4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物とm−フェニレンジアミンまたはp−フェニレンジアミンとの縮合物が、溶融成型性等の観点から好ましい。このポリエーテルイミドは、“Ultem”(登録商標)の商標名で、General Electric社より入手可能である。
【0012】
さらに、ポリフェニレンスルフィド樹脂中にポリエーテルイミドを添加する際には、相溶化剤を添加することが好ましく、好ましい相溶化剤の例としては、例えば、エポキシ基、アミノ基、イソシアネ−ト基から選択される一種以上の官能基を有するアルコキシシランが挙げられる。かかる化合物の具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシシラン、γ−(2−ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物、γ−イソシアネ−トプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネ−トプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネ−トプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアネ−トプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアネ−トプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアネ−トプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアナネ−トプロピルトリクロロシランなどのイソシアネ−ト基含有アルコキシシラン化合物、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。中でも、γ−イソシアネ−トプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネ−トプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネ−トプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアネ−トプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアネ−トプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアネ−トプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアナネ−トプロピルトリクロロシランなどのイソシアネ−ト基含有アルコキシシラン化合物を用いると、ポリエーテルイミドの分散性を向上させることができるため好ましく用いられる。
【0013】
また、無機または有機フィラー、滑剤、着色剤、紫外線吸収剤、相溶化剤などの添加剤を含むこともできる。
【0014】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物中に含有するポリフェニレンスルフィド樹脂が90重量%未満の場合、フィルムの耐熱性、熱寸法安定性などが損なわれる場合がある。
【0015】
本発明の積層ポリフェニレンスルフィドフィルムは、上記二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの少なくとも片側に二軸配向共重合ポリフェニレンスルフィドフィルムが積層されてなる。本発明で用いる共重合ポリフェニレンスルフィドとは、好ましくは繰り返し単位の80モル%以上92モル%以下が主成分としてp−フェニレンスルフィド単位で構成されていることが好ましい。かかる主成分が80モル%未満では、フィルムの耐熱性低下が著しくなる場合があり、92モル%を超えるとヒートシール性を十分高められない場合がある。
共重合単位としては、下記式に示すm−フェニレンスルフィド単位、
【0016】
【化1】

【0017】
【化2】

【0018】
【化3】

【0019】
(ここでXは、アルキレン、CO、SO単位を示す。)
【0020】
【化4】

【0021】
【化5】

【0022】
(ここでRはアルキル、ニトロ、フェニレン、アルコキシ基を示す。)が挙げられ、これらの複合の単位が存在してもかまわない。好ましい共重合単位は、m−フェニレンスルフィド単位である。これらの単位の共重合量は、8モル%以上20モル%以下が好ましく、より好ましくは10モル%以上18モル%以下であり、さらに好ましくは、12モル%以上15モル%以下である。かかる共重合成分が8モル%未満では、ヒートシール性を十分高められない場合がある。
【0023】
本発明で用いられる共重合ポリフェニレンスルフィドの上記主成分と共重合成分との共重合の態様は特に限定はないが、ランダムコポリマーであることが好ましい。
【0024】
本発明においては、共重合ポリフェニレンスルフィドを構成する共重合体の繰り返し単位の残りの部分においては、さらに他の共重合可能な構成単位で構成されてもよいが、例えば、下記式に代表される3官能性フェニルスルフィドは、共重合体全体の1モル%以下であることが好ましい。
【0025】
【化6】

【0026】
本発明の積層フィルムは、上記共重合ポリフェニレンスルフィドを、溶融成形してシート状とし、二軸延伸、熱処理してなるフィルムである。ヒートシール層である共重合ポリフェニレンスルフィド層を二軸配向することで、本願規定の破断伸度を得ることができ、成形加工性が向上できる。共重合ポリフェニレンスルフィド層を積層する方法は、特に限定されないが、共押出による方法が好ましく用いられる。
【0027】
本発明の二軸配向共重合ポリフェニレンスルフィド層(A層)の厚みは、5μm以上、50μm以下であることが重要である。より好ましくは10μm以上30μm以下であり、さらに好ましくは10μm以上25μm以下である。二軸配向共重合ポリフェニレンスルフィド層の厚みが5μm未満の場合、共重合ポリフェニレンスルフィド層の配向緩和が十分進行せずヒートシール性を十分高められない場合があり、50μmを超えると、積層フィルムの耐熱性が低下する場合がある。 上記二軸配向共重合ポリフェニレンスルフィドフィルムは、必要に応じて、熱処理、成形、表面処理、ラミネート、コーティング、印刷、エンボス加工およびエッチングなどの任意の加工を行ってもよい。
【0028】
また、本発明の積層フィルムは、固体NMR測定における炭素核緩和時間(T1)測定において、共重合ポリフェニレンスルフィド層(A層)の132ppmの緩和時間(T1c)と126ppmの緩和時間(T1a)の比が下記式を満足していることが、本発明のヒートシール性を得るために好ましい。
0.3≦T1a/T1c≦0.8
より好ましくは、0.3以上0.7以下であり、さらに好ましくは、0.3以上0.5以下である。炭素核緩和時間(T1)は水素核のようにスピン拡散が起きないため、個々の炭素に特有な緩和時間を求めることができる。1成分系解析と2成分解析を用いることができるが、1成分解析は誤差が大きいため、2成分解析結果を用いることが好ましい。
【0029】
132ppmの緩和時間(T1c)は結晶部に由来するものであり、126ppmの緩和時間(T1a)は非晶部に由来するものである。ここで、炭素核の緩和時間(T1)は、Torchia法で測定されるものであり、主に非晶配向部と結晶部配向の緩和時間を測定するものである。
【0030】
本発明においては、共重合ポリフェニレンスルフィド層の結晶および非晶の配向を本発明の規定の範囲とすることにより本発明のヒートシール性を付与することができるものである。T1a/T1cの比が0.3未満の場合、共重合ポリフェニレンスルフィド層中のp−フェニレンスルフィドの結晶化が進行する場合があり、積層フィルムの破断伸度が低下し、成形加工性が悪化する場合がある。また、0.8を超えると共重合ポリフェニレンスルフィド層の配向緩和が十分進行していないためヒートシール性が低下する場合がある。固体NMR測定は、積層している共重合ポリフェニレンスルフィド層のみを剥離して行う。表層の剥離は、片刃で削りとることも可能であるが、日本ミクロトーム社製自動削り取り機などを用いることができる。
【0031】
T1a/T1cは、共重合ポリフェニレンスルフィド層の非晶配向緩和時間と結晶配向緩和時間の比であり、共重合ポリフェニレンスルフィド層の非晶緩和性を表すものである。
【0032】
共重合ポリフェニレンスルフィド層の結晶および非晶配向状態を上記範囲とするためには、積層する共重合ポリフェニレンスルフィド層の厚みを本願の規定の範囲とすること、および本願規定の製膜延伸条件、熱固定条件とすることにより得ることができる。
【0033】
本発明の積層フィルムの破断伸度は、100%以上150%以下であることが本発明の成形加工性およびヒートシール性を得るために必要である。より好ましくは120%以上150%以下であり、さらに好ましくは130%以上150%以下である。破断伸度が100%未満の場合、成形加工における割れが発生する場合があり、破断伸度の上限は特に設けないが150%を超えるためには製膜における面積延伸倍率を低下させる必要があり、フィルムの平面性および製膜安定性が悪化する場合がある。本発明の積層フィルムの破断伸度は、フィルム長手方向および/または幅方向において上記範囲であることが好ましい。積層フィルムの破断伸度を上記範囲とするためには、本願規定の製膜延伸条件、および熱固定条件とすることにより得ることができる。
【0034】
本発明の共重合ポリフェニレンスルフィドの融点(Tm(A))は、(B)層を構成するポリフェニレンスルフィドより融点(Tm(B))より低いことが好ましく、210℃以上260℃以下が好ましく、より好ましくは220℃以上250℃以下であり、さらに好ましくは、230℃以上240℃以下である。かかる共重合ポリフェニレンスルフィドの融点(Tm(A))が210℃未満では、耐熱性の低下が著しくなる場合があり、また、積層フィルムの破断伸度が低下する場合がある。260℃を超えるとヒートシールを十分高められない場合がある。共重合ポリフェニレンスルフィドの融点は、共重合成分のモル比によって適宜調製できる。例えば、共重合ポリフェニレンスルフィドの融点を210℃とする場合は、共重合成分のモル比を20モル%とすることにより得ることができる。また、本発明の積層フィルムは、B層を構成するp−フェニレンスルフィドの融点Tm(B)−A層を構成する共重合ポリフェニレンスルフィドの融点Tm(A)が15℃以上、70℃以下であることが好ましく、より好ましくは、25℃以上、50℃以下であり、さらに好ましくは、35℃以上、50℃以下である。15℃未満の場合、ヒートシールを十分高められない場合があり、70℃を超えると、耐熱性の低下が著しくなり、積層フィルムの破断伸度が低下する場合がある。
【0035】
更に好ましい熱処理方法としては、延伸後の熱処理を温度の異なる2段以上の工程で行い、その1段目の熱処理を160℃以上220℃以下で行った後、最後段の熱処理をTm(A)以上Tm(B)以下、より好ましくはTm(A)+5(℃)以上Tm(B)−5(℃)以下、さらに好ましくはTm(A)+15(℃)以上Tm(B)−5(℃)以下で行う。さらに、長手方向および/または幅方向に各々1〜20%の範囲で、Tm(B)を越えず、後段の熱処理温度−20(℃)以上、熱処理温度+20(℃)以下の温度で、制限収縮処理(リラックス)させる。2段目の熱処理と制限収縮処理時間の合計は1秒〜15秒が好ましく、より好ましくは1秒〜10秒である。上記の2段以上の熱処理および制限収縮処理を行うことによりフィルムの平面性を向上させることができる場合がある。
【0036】
積層フィルムの各層を構成する樹脂の融点を測定する場合には、予め積層フィルムの厚み方向に水平に切り出した超薄切片を偏光顕微鏡にて厚み構成を調べておき、その各層に対応する分のみを削り取って融点測定に供する。
【0037】
本発明の二軸配向ポリフェニレンスルフィド層(B層)の厚みは、5μmより大きく1000μm以下が好ましい。より好ましくは、10μm以上500μm以下であり、さらに好ましくは、20μm以上300μm以下である。厚みが5μm未満の場合、積層フィルムの耐熱性が低下する場合があり、厚みが1000μmを超えると積層フィルムの成形加工性が低下する場合がある。
【0038】
本発明の積層フィルムにおけるA層の結晶化度は、20%以上35%以下であることが好ましく、より好ましくは25%以上35%以下であり、さらに好ましくは30%以上35%以下である。本発明においては、A層を非晶化するのではなく、結晶を残存させることがヒートシール性を向上させるために好ましい態様である。結晶化度が20%未満の場合、ヒートシール性が十分でない場合があり、結晶化度が35%を超えることは実質的に困難である。
【0039】
本発明の積層フィルムの融点直下の微小吸熱ピーク温度は、240℃以上280℃以下であることが好ましく、より好ましくは250℃以上280℃以下であり、さらに好ましくは、260℃以上280℃以下である。融点直下の微小吸熱ピーク温度が240℃未満の場合、ヒートシール性が十分でない場合があり、280℃を超えると、フィルム平面性が悪化し、製膜安定性が悪化する場合がある。
【0040】
融点直下の微小吸熱ピーク温度は、示差走査熱量分析(DSC)測定による結晶融解前に現れる微小吸熱ピークであり、フィルムの熱処理温度に相当する温度に観察され、熱処理で形成された結晶構造のうち不完全な部分が溶融するために生じるものである。
【0041】
本発明の積層フィルムの用途は、特に限定されないが、包装用、電気絶縁用、回路基板用、一般工業用等に幅広く用いることが可能であり、特に電気絶縁用、フレキシブルプリント配線板(FPC)用に用いるとその効果が一層顕著に発現する。
【0042】
また、特に好ましい用途としては、接着剤を用いずにPPS成形体・PPSフィルムや金属成形体・金属板と熱融着することが可能なヒートシール性と高伸度を活かした、薬品缶やケミカルタンクの内張り用途、銅管・鋼管被覆材用途、腐食性の薬物保管用などに好適な全PPS製袋用途、スパイラルチューブ用途、電線被覆用途、アルミ板・銅版・鋼板・亜鉛版などの金属板との張り合わせ用途(特にプレス成型などの成型用張り合わせ金属板用途)に好適に用いることができる。
【0043】
次いで、本発明の積層フィルムを製造する方法について説明するが、本発明は、下記の記載に限定されないことは無論である。
【0044】
ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)の製造方法としては、例えば、次のような方法が挙げられる。硫化ナトリウムとp−ジクロロベンゼンを、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などのアミド系極性溶媒中で高温高圧下で反応させる。必要によって、トリハロベンゼンなどの共重合成分を含ませることもできる。重合度調整剤として、苛性カリやカルボン酸アルカリ金属塩などを添加し、230〜280℃の温度で重合反応させる。重合後にポリマを冷却し、ポリマを水スラリーとしてフィルターで濾過後、粒状ポリマを得る。これを酢酸塩などの水溶液中で30〜100℃の温度で10〜60分間攪拌処理し、イオン交換水にて30〜80℃の温度で数回洗浄、乾燥してPPS粒状ポリマを得る。得られた粒状ポリマを、酸素分圧10トール以下、好ましくは5トール以下でNMPにて洗浄後、30〜80℃の温度のイオン交換水で数回洗浄し、副生塩、重合助剤および未反応モノマ等を分離しPPS樹脂を得る。上記で得られたPPS樹脂に必要に応じて、他のポリマ、あるいは無機または有機の添加剤等を本発明の目的に支障を与えない程度添加し、PPS樹脂組成物を得る。
【0045】
共重合ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法としては、例えば、次のような方法がある。硫化ナトリウムとp−ジクロロベンゼンおよび副成分モノマを本発明でいう比率で配合し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などのアミド系極性溶媒中で重合助剤の存在下、高温高圧下で反応させる。副成分モノマとしては、
【0046】
【化7】

【0047】
【化8】

【0048】
【化9】

【0049】
(ここでXは、アルキレン、CO、SO単位を示す。)
【0050】
【化10】

【0051】
【化11】

【0052】
(ここでRは、アルキル、ニトロ、フェニレン、アルコキシ基を示す。)が挙げられ、これらの複数の副成分モノマが存在してもかまわない。好ましい副成分モノマは、化12である。
【0053】
【化12】

【0054】
上記で得られたポリマに必要に応じて、あるいは無機または有機の添加剤等を本発明の目的に支障を与えない程度添加し、共重合ポリフェニレンスルフィド樹脂を得る。
【0055】
次に、本発明の積層フィルムの製造方法について説明する。上記のPPS樹脂組成物と、共重合ポリフェニレンスルフィド樹脂を別々の溶融押出装置に供給し、個々の原料の融点以上に加熱する。加熱により溶融された各原料は、溶融押出装置と口金出口の間に設けられた合流装置で溶融状態で2層または3層に積層され、スリット状の口金出口から押し出される。かかる溶融積層体を冷却ドラム上でPPS樹脂のガラス転移点以下に冷却し、実質的に非晶状態の2層積層シートを得る。溶融押出装置は周知の装置が適用可能であるが、1軸または2軸のエクストルーダが簡便であり好ましく用いられる。
【0056】
次いで、このようにして得られた非晶状態の2層積層シートを、PPS樹脂のガラス転移点以上冷結晶化温度以下の範囲で、従来公知の逐次二軸延伸機や同時二軸延伸機により二軸延伸した後、240〜280℃の範囲の温度で熱処理を行い二軸配向2層積層フィルムを得る。
【0057】
延伸は、長手方向に90℃〜120℃で3.0〜4.0倍の範囲で行うことが好ましい。本発明の場合、より好ましい延伸倍率は、3.0〜3.6であり、さらに好ましくは、3.0〜3.5倍である。
【0058】
本発明において、延伸倍率が3.0倍未満の場合、十分なフィルム平面性を有した二軸配向積層フィルムを得られない場合があり、延伸倍率が4.0倍を超えると本発明の破断伸度、ヒートシール性を得られない場合がある。ついで、幅方向に90℃〜120℃で2.8〜4.0倍に延伸することが好ましい。より好ましくは、2.8〜3.3倍であり、さらに好ましくは、2.8〜3.0倍である。本発明において、延伸倍率が2.8倍未満の場合、十分なフィルム平面性を有した二軸配向フィルムを得られない場合があり、延伸倍率が4.0倍を超えると本発明の破断伸度を得られない場合がある。
本発明においては、面積延伸倍率が10倍以上13倍以下であることが、本発明の破断伸度、ヒートシール性を得るために好ましく、より好ましくは10倍以上12倍以下、さらに好ましくは10倍以上11倍以下である。面積延伸倍率が10倍未満の場合、十分なフィルム平面性を有した二軸配向フィルムを得られない場合があり、13倍を超えると破断伸度、ヒートシール性が低下する場合がある。 熱処理温度は共重合ポリフェニレンスルフィド樹脂の融点(以下、Tm(A)と記載する)以上、(B)層のポリフェニレンスルフィド樹脂の融点(以下、Tm(B)と記載する)以下であることが好ましく、より好ましくはTm(A)+5(℃)以上Tm(B)以下であり、さらに好ましくは、Tm(A)+15(℃)以上Tm(B)以下である。
これにより、二軸配向した共重合ポリフェニレンスルフィド層の非晶鎖を配向緩和させることができ、かつ、結晶化度を増加させることができる結果、ヒートシール性を向上させることができる。さらに、長手方向および/または幅方向に各々1〜20%の範囲で、Tm(B)を越えず、熱処理温度−20(℃)以上、熱処理温度+20(℃)以下の温度で、制限収縮処理(リラックス)させることにより、共重合ポリフェニレンスルフィド層の配向緩和が促進できヒートシール性を向上させることができるため好ましい。より好ましくは3〜15%であり、さらに好ましくは3〜10%である。
【0059】
幅方向への延伸および制限収縮処理をテンターオーブン内にて行い、かつそれらがTm(B)以上で行われる場合、共重合ポリフェニレンスルフィド層のテンタークリップへの粘着が起こると製膜性を阻害するので、共重合ポリフェニレンスルフィド層がフィルムのエッジ部に積層されないような積層口金形状とし共重合ポリフェニレンスルフィド層をテンタークリップが噛まないようにすることが好ましい。
【0060】
本発明で用いられる積層フィルムはより強固なヒートシール性を付与するために、共重合ポリフェニレンスルフィド層にコロナ放電処理やプラズマ処理を施すことも本発明の好ましい態様に含まれる。また本発明においては、本発明の効果を妨げない限り、必要に応じて他のシート層を積層することができる。
【0061】
また、本発明においては、積層フィルムの取り扱い性および加工性を向上させるために、各層に不活性粒子を添加することができる。ここで言う不活性粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、チタン酸バリウム、硫酸バリウム、ケイ酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタンおよび酸化亜鉛などの無機フィラーおよび300℃で溶融しない有機の高分子化合物(例えば、架橋ポリスチレン等)の粒子等を挙げることができる。該不活性粒子は、ポリフェニレンスルフィド層(B層)に添加してもよいが、共重合ポリフェニレンスルフィド層(A層)に添加することがヒートシール性の観点から好ましい。
[特性の測定方法]
(1)破断伸度
ASTM−D882に規定された次の方法に従って、インストロンタイプの引張試験機(オリエンテック社製AMF/RTA-100)を用いて、幅10mmのサンプルフィルムをチャック間長さ50mmとなるようにセットし、25℃の温度で、65%RHの雰囲気条件下で引張速度300mm/分で引張試験を行う。
【0062】
破断伸度は、フィルム長手方向、幅方向の両方をn=5で測定し平均したものを用いる。
【0063】
(2)融点(Tm)、微小吸熱ピーク(Tmeta)
JIS K7121−1987に従って示差走査熱量計として、セイコーインスツルメンツ社製DSC(RDC220)、データ解析装置として同社製ディスクステーション(SSC/5200)を用いて、試料5mgをアルミニウム製受皿上、室温から350℃まで、昇温速度20℃/分で昇温した。そのとき、観測される融解の吸熱ピークのピーク温度を融点(Tm)、Tm直下の微小吸熱ピークをTmetaとした。
【0064】
積層フィルムの各層を構成する樹脂の融点を測定する場合には、予め積層フィルムの厚み方向に水平に切り出した超薄切片を偏光顕微鏡にて厚み構成を調べておき、その各層に対応する分のみを削り取って融点測定に供する。
【0065】
(3)固体NMR緩和時間
固体NMR装置として、CMX−300(Chemagnetics社製)を用いて測定した。詳細な測定条件を下記に示す。共重合ポリフェニレンスルフィド層の剥離は、自動削り取り機(日本ミクロトーム社製)を用いた。
温度 : 室温
基準物質 : Siゴム(内部基準:1.56ppm)
測定核 : 75.497791MHz
照射核 : 300.218246MHz
パルス幅 : 4.5μsec
パルス繰り返し時間: ACQTM 0.0341sec PD=10sec
スペクトル幅 : 30.03kHz
パルスモード : CP/MAS、Dipolar Dephasing、DD/MAS
緩和時間測定モード 3種類
コンタクトタイム : 2msec
共重合ポリフェニレンスルフィド層(A層)の結晶部に由来する132ppmの緩和時間(T1c)と、非晶部に由来する126ppmの緩和時間(T1a)の比を下記式によって求めた。
【0066】
T1(a/c)=T1a/T1c。
【0067】
(4)ヒートシール性
10cm角に切り出した正方形のフィルムのヒートシールを行う面の上に、同様に10cm角に切り出した“トレリナ”3030(登録商標)(東レ(株)社製25μm)を重ねて、240℃に加熱したラミネート装置で線圧10kg/cm、速度1m/分でラミネートし、得られたラミネートフィルムの端を手で5回90℃折り曲げ−伸ばし操作を繰り返し、当該の端から手で“トレリナ” 3030を剥がそうとしたとき、全く剥がれないものを○、抵抗はあるものの徐々に剥がすことができるものを△、簡単に剥がれるものを×とした。
【0068】
(5)成形加工性
モータスロット加工機(小田原エンジニアリング社製)を用い、試料を、幅24mm、長さ39mmのスロットに加工速度2ヶ/秒で加工し、目視でフィルム割れの発生したものを不良品とし、不良品発生率を次の基準で評価した。なお、加工個数は各試料100個ずつとする。
◎:不良率が0%
○:不良率が0%を超え5%以下
△:不良率が6%を超え20%以下
×:不良率が20%を超える。
【実施例】
【0069】
(実施例1)
(1)共重合ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造
オートクレ−ブに100モルの硫化ナトリウム9水塩、45モルの酢酸ナトリウムおよび25リットルのN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略称する。)を仕込み、撹拌しながら徐々に220℃の温度まで昇温して、含有されている水分を蒸留により除去した。脱水の終了した系内に、主成分モノマとして89モルのp−ジクロベンゼン、副成分モノマとして12モルのm−ジクロロベンゼン、および0.2モルの1,2,4−トリクロルベンゼンを5リットルのNMPとともに添加し、170℃の温度で窒素を3kg/cmで加圧封入後、昇温し、260℃の温度にて4時間重合した。重合終了後冷却し、蒸留水中にポリマを沈殿させ、150メッシュ目開きを有する金網によって、小塊状ポリマを採取した。このようにして得られた小塊状ポリマを90℃の蒸留水により5回洗浄した後、減圧下120℃の温度にて乾燥して、溶融粘度が1000ポイズであり、融点が240℃の共重合ポリフェニレンスルフィド樹脂を得た。
【0070】
(2)PPS樹脂の製造
p−フェニレンスルフィド単位を主成分とするPPS樹脂は、主成分モノマとして101モルのp−ジクロベンゼンを用い、副成分モノマを用いないこと以外は全て上記(1)の共重合ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造と同様に実施して、PPS樹脂を製造した。なお、PPS樹脂の溶融粘度は、3000ポイズであり、融点は283℃であった。次いで、平均粒径1.2μmの炭酸カルシウム粉末0.3重量%を添加し均一に分散配合して、320℃の温度にて30mmφ2軸押出機によりガット状に押出し、PPS樹脂ペレットを得た。
【0071】
(3)製膜
前記(1)および(2)で得られた共重合ポリフェニレンスルフィド樹脂およびPPS樹脂を、それぞれ180℃の温度で3時間、1mmHgの減圧下で乾燥後、別々のエクストルーダに供給し、溶融状態で口金上部にある二重管型の積層装置で2層になるように導き、続いて設けられたTダイ型口金から吐出させ、25℃の温度の冷却ドラムで急冷し、実質的に共重合ポリフェニレンスルフィド/PPSの2層積層シートを得た。次いで、得られた各積層シートを、表面温度100℃の複数の加熱ロールに接触走行させ、加熱ロールの次に設けられた周速の異なる30℃の冷却ロールとの間で長手方向に3.5倍延伸した。このようにして得られた1軸延伸シートを、テンターを用いて長手方向と直交方向(幅方向)に100℃の温度で3.0倍(面積延伸倍率10.5倍)に延伸し、続いて260℃の温度で10秒間熱処理した後にフィルム長手方向と直角方向に4秒かけて5%制限収縮(リラックス)処理(制限収縮処理温度は熱処理温度と同じ)を行い、100℃の温度で5秒間中間冷却したのち室温まで冷却して共重合ポリフェニレンスルフィド/PPS(20/105μm)の二軸配向積層フィルムを得た。上記のようにして得られた二軸配向積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0072】
(実施例2)
延伸倍率を長手方向3.6倍、幅方向3.3倍(以下3.6×3.3倍と記載する)(面積延伸倍率11.9倍)とする以外は、実施例1と同様にして二軸配向積層フィルムを製作した。得られた二軸配向積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0073】
(実施例3)
延伸倍率を3.7×3.3倍(面積延伸倍率12.2倍)とする以外は、実施例1と同様にして二軸配向積層フィルムを製作した。得られた二軸配向積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0074】
(実施例4)
250℃で熱処理する以外は、実施例1と同様にして二軸配向積層フィルムを製作した。得られた二軸配向積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0075】
(実施例5)
240℃で熱処理する以外は、実施例1と同様にして二軸配向積層フィルムを製作した。得られた二軸配向積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0076】
(実施例6)
積層比を共重合ポリフェニレンスルフィド/PPS(10/115μm)とする以外は実施例1と同様にして二軸配向積層フィルムを作製した。得られた二軸配向積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0077】
(実施例7)
積層比を共重合ポリフェニレンスルフィド/PPS(5/120μm)とする以外は実施例1と同様にして二軸配向積層フィルムを作製した。得られた二軸配向積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0078】
(実施例8)
制限収縮(リラックス)処理を4%とする以外は、実施例1と同様にして二軸配向積層フィルムを製作した。得られた二軸配向積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0079】
(実施例9)
制限収縮(リラックス)処理を3%する以外は、実施例1と同様にして二軸配向積層フィルムを製作した。得られた二軸配向積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0080】
(実施例10)
共重合ポリフェニレンスルフィドの副成分モノマとして10モル%の共重合割合となるようにm−ジクロロベンゼンを配合し、融点が250℃の共重合ポリフェニレンスルフィドとする以外は実施例1と同様にして二軸配向積層フィルムを作製した。得られた二軸配向積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0081】
(実施例11)
共重合ポリフェニレンスルフィドの副成分モノマとして8モル%の共重合割合となるようにm−ジクロロベンゼンを配合し、融点が260℃の共重合ポリフェニレンスルフィドとする以外は実施例1と同様にして二軸配向積層フィルムを作製した。得られた二軸配向積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0082】
(実施例12)
共重合ポリフェニレンスルフィドの副成分モノマとして5モル%の共重合割合となるようにm−ジクロロベンゼンを配合し、融点が265℃の共重合ポリフェニレンスルフィドとする以外は実施例1と同様にして二軸配向積層フィルムを作製した。得られた二軸配向積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0083】
(実施例13)
共重合ポリフェニレンスルフィドの副成分モノマとして3モル%の共重合割合となるようにm−ジクロロベンゼンを配合し、融点が270℃の共重合ポリフェニレンスルフィドとする以外は実施例1と同様にして二軸配向積層フィルムを作製した。得られた二軸配向積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0084】
(実施例14)
実施例1で作製したPPS樹脂95重量部とポリエーテルイミド樹脂(ジーイープラスチック社製 “ウルテム1010”(登録商標)(PEI)5重量部を120℃で3時間減圧乾燥し、さらにPPS樹脂とPEI樹脂の合計100重量部に対して、相溶化剤としてγ−イソシアネ−トプロピルトリエトキシシラン(信越化学社製、”KBE9007”(登録商標)0.5重量部を配合後、310℃に加熱された、ニーディングパドル混練部を5箇所設けたベント付き同方向回転式二軸混練押出機(日本製鋼所製、スクリュー直径30mm、スクリュー長さ/スクリュー直径=45.5)に投入し、滞留時間90秒、スクリュー回転数300回転/分で溶融押出してストランド状に吐出し、温度25℃の水で冷却した後、直ちにカッティングしてブレンドチップを作製した。PPS樹脂/PEI(95/5重量%)のPPS樹脂組成物を得た。
【0085】
上記で得られたPPS樹脂組成物を用い実施例1で用いた二軸配向積層フィルムを3.5×3.0倍(面積延伸倍率10.5倍)とする以外は、実施例1と同様にして二軸配向積層フィルムを製作した。得られた二軸配向積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0086】
(実施例15)
実施例14で用いた二軸配向積層フィルムを3.6×3.3倍(面積延伸倍率11.9倍)とする以外は、実施例13と同様にして二軸配向積層フィルムを製作した。得られた二軸配向積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0087】
(実施例16)
実施例14で用いた二軸配向積層フィルムを3.7×3.3倍(面積延伸倍率12.2倍)とする以外は、実施例13と同様にして二軸配向積層フィルムを製作した。得られた二軸配向積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0088】
(実施例17)
熱処理を210℃5秒間と270℃5秒間の2段熱処理とし、幅方向に4秒かけて270℃で5%制限収縮(リラックス)処理を行う以外は、実施例1と同様にして二軸配向積層フィルムを製作した。得られた二軸配向積層フィルムの評価結果を表1に示す。実施例1と比べて特に平面性に優れていた。
【0089】
(実施例18)
熱処理を210℃5秒間と270℃5秒間の2段熱処理とし、幅方向に4秒かけて270℃で5%制限収縮(リラックス)処理を行う以外は、実施例3と同様にして二軸配向積層フィルムを製作した。得られた二軸配向積層フィルムの評価結果を表1に示す。実施例3と比べて特に平面性に優れていた。
【0090】
(比較例1)
延伸倍率を3.8×3.6倍(面積延伸倍率13.7倍)とする以外は、実施例1と同様にして二軸配向積層フィルムを製作した。得られた二軸配向積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0091】
(比較例2)
積層比を共重合ポリフェニレンスルフィド/PPS(3/120μm)の二軸配向積層フィルムとする以外は実施例1と同様にして二軸配向積層フィルムを作製した。得られた二軸配向積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0092】
(比較例3)
制限収縮(リラックス)処理を0%とする以外は、実施例3と同様にして二軸配向積層フィルムを製作した。得られた二軸配向積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0093】
(比較例4)
共重合ポリフェニレンスルフィドの副成分モノマとして22モル%の共重合割合となるようにm−ジクロロベンゼンを配合し、融点が250℃の共重合ポリフェニレンスルフィドとする以外は実施例1と同様にして二軸配向積層フィルムを作製した。得られた二軸配向積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0094】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の積層フィルムは、PPSの優れた耐熱性を損なうことなくヒートシール性、成形加工性を兼ね備えており、包装用、電気絶縁用、回路基板用、一般工業用等に幅広く用いることが可能であり、特に電気絶縁用、フレキシブルプリント配線板(FPC)用途に好適であり、産業上有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
p−フェニレンスルフィド単位を主成分とする二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルム(B層)の少なくとも片側に、p−フェニレンスルフィド単位以外の少なくとも1種以上の共重合単位が共重合された共重合ポリフェニレンスルフィドを用いてなる二軸配向共重合ポリフェニレンスルフィドフィルム(A層)が積層された積層フィルムであって、該A層の厚みが5μm以上、50μm以下、積層フィルムの破断伸度が100〜150%であることを特徴とする積層ポリフェニレンスルフィドフィルム。
【請求項2】
固体NMR炭素核緩和時間においてA層の132ppmの緩和時間(T1c)と126ppmの緩和時間(T1a)の比が下記式を満足することを特徴とする請求項1に記載の積層ポリフェニレンスルフィドフィルム。
0.3≦T1a/T1c≦0.8
【請求項3】
前記共重合ポリフェニレンスルフィドが、くり返し単位の80モル%以上92モル%以下がp−フェニレンスルフィドからなり、かつ、くり返し単位の8モル%以上20モル%以下がm−フェニレンスルフィドからなるランダム共重合体を含有して構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の積層ポリフェニレンスルフィドフィルム。
【請求項4】
A層を構成する共重合ポリフェニレンスルフィドの融点Tm(A)およびB層を構成するp−フェニレンスルフィドの融点Tm(B)が下記式を満足することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の積層ポリフェニレンスルフィドフィルム。
70(℃)≦Tm(B)−Tm(A)≦15(℃)
【請求項5】
積層フィルムの融点直下の微小吸熱ピーク(Tmeta)が240℃以上280℃以下である請求項1〜4のいずれかに記載の積層ポリフェニレンスルフィドフィルム。
【請求項6】
面積延伸倍率が10〜13倍である請求項1〜5のいずれかに記載の積層ポリフェニレンスルフィドフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2007−326362(P2007−326362A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−123063(P2007−123063)
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】