説明

積層体、及びこれを用いた熱線遮蔽合わせガラス

【課題】タングステン化合物を含んでいても変色による劣化が抑制された積層体を提供する。
【解決手段】タングステン化合物を含有する熱線遮蔽層110、紫外線吸収剤を含有する紫外線吸収層120、及び有機樹脂を含有するラジカル遮断層130を有し、
前記熱線遮蔽層110と前記紫外線吸収層130との間に、少なくとも1層の前記ラジカル遮断層120が配置されることを特徴とする積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性、耐貫通性、防犯性等に優れた合わせガラスなどに好適使用される、熱線遮蔽層を少なくとも含む積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に自動車に用いるガラス、特にフロントガラスには、ガラス板の間に透明接着剤層(中間膜)を挟持させた構造の合わせガラスが使用されている。この透明接着剤層は、例えばPVB膜、EVA膜等から形成され、この透明接着剤層の存在により、合わせガラスの耐貫通性等が向上している。また外部からの衝撃に対し、破損したガラスの破片は透明接着剤層に貼着したままとなるので、その飛散を防止している。このため、例えば自動車の合わせガラスが、盗難や侵入等を目的として破壊されても窓の開放を自由にすることができないため、防犯用ガラスとしても有用である。
【0003】
一方、例えば自動車のドアガラス及び嵌め込みガラスは、一般に事故で破壊されることが少なく、従って上記フロントガラス程の耐貫通性等は必要としないので、僅かに強化された強度の低い1枚のガラス板が使用されている。ところが、このような1枚のガラス板のみを使用した場合、以下のような欠点がある。即ち、(1)耐衝撃性、耐貫通性等の点で合わせガラスに劣る、(2)盗難や侵入等を目的として破壊されると、割れて多数の破片となり、窓の開放を自由に行うことができる、等である。このため、ドアガラス及び嵌め込みガラス等にも、合わせガラスのような特性のガラスを使用することも検討されている。このような用途に適したガラスとして、ガラス板とプラスチックフィルムとを、透明接着剤層を介して接着したフィルム強化ガラスが、例えば特許文献1及び2に記載されている。
【0004】
このような合わせガラスの2枚のガラス板、或いはフィルム強化ガラスのガラス板とプラスチックフィルムとを接着する透明接着剤層は、上述のように、優れた接着性と、耐貫通性が求められている。
【0005】
上記の合わせガラスは、一般に、優れた接着性と耐貫通性を有しており、安全性には優れているが、熱線遮断性については考慮されていない。熱線遮断機能を有するガラスとしては、例えば、熱線カットガラスが市販されている。この熱線カットガラスは、直接太陽光の遮断を目的として、金属等の蒸着、スパッタリング加工によって、ガラス板の表面に金属/金属酸化物の多層コーティングが施されたものである。この多層コーティングは、外部からの擦傷に弱く、耐薬品性も劣る。このようなガラスは、例えば、EVA等からなる中間膜を積層して合わせガラスとされるのが一般的である。
【0006】
また上記熱線カットガラスは、金属を使用しているので、透明性が低下したり、電磁波の透過を阻害し、携帯電話、カーナビ等の通信機能に悪影響をもたらすとの問題がある。さらに、上記熱線カットガラスは、多層コーティングを使用しているので高価となるとの問題もある。
【0007】
そこで、中間膜中に熱線遮蔽剤を分散させた合わせガラスが提案されている。例えば、特許文献3には、軟質樹脂に熱線遮蔽剤としてタングステン酸化物を分散させた中間膜を用いた合わせガラスが提案されている。
【0008】
【特許文献1】特開2002−046217号公報
【特許文献2】特開2002−068785号公報
【特許文献3】WO2005/087680
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献3に記載の中間膜を有する合わせガラスでは、タングステン酸化物を使用することにより、熱線カット機能と透明性の両立が確保される。しかしながら、このようなタングステン化合物を熱線遮蔽剤として含む合わせガラスは、長期間使用した場合に、青色などに変色し、透過率が低下する問題がある。
【0010】
そこで、本発明は、タングステン化合物を含んでいても変色による劣化が抑制された積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
タングステン化合物は、近赤外線の遮蔽効果には優れているが、これを用いた膜は変色を伴う透過率変化が見られることがある。これは、前記膜が屋外で使用されるなどして、長時間太陽光に曝されることが原因と考えられる。すなわち、タングステン化合物は長時間に亘り太陽光、特に紫外線が照射されることにより劣化して5価タングステンを生成し、これにより青色に変色するのではないかと考えられる。
【0012】
このようなタングステン化合物の劣化は、紫外線吸収剤により抑制することができる。しかしながら、さらに長時間に亘って紫外線が照射された場合、紫外線吸収剤自体も劣化するため、タングステン化合物を含むフィルムの青変を十分に抑制することができない場合がある。
【0013】
このようにタングステン化合物だけでなく紫外線吸収剤も紫外線により劣化し、本発明者等はこれらの問題に鑑み種々の検討を行った結果、タングステン化合物及び紫外線吸収剤を含む膜において、紫外線の照射により劣化した紫外線吸収剤はラジカルを生じ、このラジカルがタングステン化合物を劣化させる恐れがあることを見出した。したがって、タングステン化合物と紫外線吸収剤とをそれぞれ別の層に含有させ、さらにこれらの層の間に紫外線吸収剤の紫外線劣化により生じたラジカルがタングステン化合物を含有する層に影響を及ぼすのを防止するための層を配置することにより、タングステン化合物の劣化による変色を高く防止することが可能となる。
【0014】
すなわち、本発明は、タングステン化合物を含有する熱線遮蔽層、紫外線吸収剤を含有する紫外線吸収層、及び有機樹脂を含むラジカル遮断層を有し、
前記熱線遮蔽層と前記紫外線吸収層との間に、少なくとも1層の前記ラジカル遮断層が配置されることを特徴とする積層体により上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の積層体は、タングステン化合物からなる熱線遮蔽剤を含むことにより、近赤外線を効率よくカットすることができる。また、前記機能性フィルムは、熱線遮蔽層とは別に紫外線吸収剤を含む層を設けることにより、タングステン化合物の劣化を防止することができる。さらに、前記熱線遮蔽層と紫外線吸収層との間には、紫外線の照射により劣化した紫外線吸収剤により生じたラジカルが熱線遮蔽層に影響するのを防止するためのラジカル遮断層を設けることにより、さらに長期間に亘る使用においてタングステン化合物の酸化劣化による変色を防止することができる。したがって、本発明の積層体は、熱線(赤外線)を効率よくカットし、且つ劣化による変色が高く抑制され、優れた透明性を長期に亘り維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の積層体の断面図を図1に示す。本発明の積層体は、タングステン化合物を含有する熱線遮蔽層110と、紫外線吸収剤を含有する紫外線吸収層120とを有し、さらにこれらの層110、120の間に有機樹脂を含むラジカル遮断層130を有する。
【0017】
(ラジカル遮断層)
ラジカル遮断層は、紫外線吸収層に含まれる紫外線吸収剤が紫外線の照射により形成したラジカルが、熱線遮蔽層へ移動するなどして影響するのを防止するための層である。
【0018】
ラジカル遮断層は、少なくとも有機樹脂を含む。有機樹脂としては、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、オレフィン樹脂、アクリル樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、セルロース樹脂、及びポリカーボネート樹脂が好ましく挙げられる。特に、フッ素樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、及びポリエチレンテレフタレートが好ましく挙げられる。これらの有機樹脂によれば、ラジカルの影響を高く防止することができる。
【0019】
フッ素樹脂の例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、フルオロエチレンビニルエーテル(FEVE)及びエチレンクロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、下記構造:
【0020】
【化1】


(n=10〜1000)
を有する重合体Aを挙げることができる。これらの中で、上記重合体A、フルオロエチレンビニルエーテル(FEVE)が好ましい。これらの(共)重合体は、さらに官能基(例、アルコキシシリル基、ヒドロキシル基、アミノ基、イミノ基、(メタ)アクリロイロキシ基、エポキシ基、カルボキシル基、スルホニル基、アクリレート型イソシアヌレート基、硫酸塩基)を有していても良い。市販されているフッ素樹脂の好ましい例としては、サイトップ(旭硝子(株)製)、ゼッフル(ダイキン化学(株)製)、オプツール(ダイキン化学(株)製)を挙げることができる。
【0021】
シリコーン樹脂の例としては、ストレートシリコーンワニス及び変性シリコーンワニスを挙げることができる。ストレートシリコーンワニスは、通常、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシランの加水分解重合により製造される(使用時は、一般に塗布後、100℃以上で硬化される)。変性シリコーンワニスは、シリコーンワニスにアルキド、ポリエステル、アクリル、エポキシ等の樹脂を反応させたものである。市販されているシリコーン樹脂の好ましい例としては、シリコーンワニスKRシリーズ(信越化学(株)製)を挙げることができる。
【0022】
オレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩素化ポリエチレン等を挙げることができる。
【0023】
アクリル樹脂としては、アクリロニトリルエチレンプロピレンゴムスチレン共重合体(AES)、アクリロニトリルスチレンアクリレート(ASA)等の熱可塑性アクリル樹脂、或いは熱硬化性アクリル樹脂(自己硬化型、又はポリイソシアネート、アミノ樹脂、ポリエステル若しくはエポキシ樹脂による架橋タイプ)を挙げることができる。
【0024】
エチレン酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニル含有量は、EVA100質量部に対して、23〜38質量部であり、特に23〜28質量部であることが好ましい。この酢酸ビニル含有量が、23質量部未満であると、高温で架橋硬化させる場合に得られる樹脂の透明度が充分でなく、逆に38質量部を超えると成形性が低下する恐れがある。またEVAのメルト・フロー・インデックス(MFR)が、4.0〜30.0g/10分、特に8.0〜18.0g/10分であることが好ましい。
【0025】
有機樹脂としてEVAを含むラジカル遮断層は、架橋剤として有機過酸化物を含むのが好ましい。EVA含有ラジカル遮断層には、さらに必要に応じて、架橋助剤、接着向上剤、及び可塑剤などの種々の添加剤を含有させることができる。
【0026】
有機過酸化物としては、100℃以上の温度で分解してラジカルを発生するものであれば、どのようなものでも併用することもできる。有機過酸化物は、一般に、成膜温度、組成物の調整条件、硬化(貼り合わせ)温度、被着体の耐熱性、貯蔵安定性を考慮して選択される。特に、半減期10時間の分解温度が70℃以上のものが好ましい。
【0027】
この有機過酸化物の例としては、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン−3−ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシアセテート、メチルエチルケトンパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキシル−2,5−ビスパーオキシベンゾエート、ブチルハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、ヒドロキシヘプチルパーオキサイド、クロロヘキサノンパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、クミルパーオキシオクトエート、コハク酸パーオキサイド、アセチルパーオキサイド、m−トルオイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレーオ及び2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイドを挙げることができる。
【0028】
ラジカル遮断層における有機過酸化物の含有量は、EVA100質量部に対して、1〜10質量部、特に1〜5質量部であるのが好ましい。
【0029】
多官能化合物(架橋助剤)としては、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等に複数のアクリル酸あるいはメタクリル酸をエステル化したエステル、さらに前述のトリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートを挙げることができる。
【0030】
EVA含有ラジカル遮断層の接着力をさらに高めるために、接着向上剤として、シランカップリング剤を添加することができる。シランカップリング剤の例として、γ−クロロプロピルメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランを挙げることができる。これらシランカップリング剤は、単独で使用しても、又は2種以上組み合わせて使用しても良い。また上記化合物の含有量は、EVA100質量部に対して5質量部以下であることが好ましい。
【0031】
前記可塑剤としては、特に限定されるものではないが、一般に多塩基酸のエステル、多価アルコールのエステルが使用される。その例としては、ジオクチルフタレート、ジヘキシルアジペート、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート、ブチルセバケート、テトラエチレングリコールジヘプタノエート、トリエチレングリコールジペラルゴネートを挙げることができる。可塑剤は一種用いてもよく、二種以上組み合わせて使用しても良い。可塑剤の含有量は、EVA100質量部に対して5質量部以下の範囲が好ましい。
【0032】
EVA含有ラジカル遮断層は、膜の種々の物性(機械的強度、接着性、透明性等の光学的特性、耐熱性、耐光性、架橋速度等)の改良あるいは調整、特に機械的強度の改良のため、アクリロキシ基含有化合物、メタクリロキシ基含有化合物及び/又はエポキシ基含有化合物を含んでいることが好ましい。
【0033】
使用するアクリロキシ基含有化合物及びメタクリロキシ基含有化合物としては、一般にアクリル酸あるいはメタクリル酸誘導体であり、例えばアクリル酸あるいはメタクリル酸のエステルやアミドを挙げることができる。エステル残基の例としては、メチル、エチル、ドデシル、ステアリル、ラウリル等の直鎖状のアルキル基、シクロヘキシル基、テトラヒドルフルフリル基、アミノエチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、3−クロロ−2−ヒドロキシプオピル基を挙げることができる。また、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールとアクリル酸あるいはメタクリル酸のエステルも挙げることができる。アミドの例としては、ジアセトンアクリルアミドを挙げることができる。
【0034】
エポキシ含有化合物としては、トリグリシジルトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、フェノール(エチレンオキシ)5グリシジルエーテル、p−t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、アジピン酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、グリシジルメタクリレート、ブチルグリシジルエーテルを挙げることができる。
【0035】
ラジカル遮断層に用いられるポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリへキシレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、及びポリエチレン−1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4'−ジカルボキシレートなどが挙げられる。なかでも、PETが好ましい。
【0036】
ラジカル遮断層は、上述した有機樹脂の他に、さらにヒンダードアミン系光安定化剤を含むのが好ましい。これにより、ラジカルの移行をさらに高く防止することができる。ヒンダードアミン系光安定化剤は、有機樹脂に対して有害なラジカル種を補足し、新たなラジカルを発生しないようにするものである。
【0037】
低分子量のヒンダードアミン系光安定化剤としては、デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1(オクチルオキシ)−4−ピペリジニル)エステル、1,1−ジメチルエチルヒドロパーオキサイド及びオクタンの反応生成物(分子量737)70重量%とポリプロピレン30重量%からなるもの;ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート(分子量685);ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート及びメチル−1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルセバケート混合物(分子量509);ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート(分子量481);テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート(分子量791);テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート(分子量847);2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレートとトリデシル−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレートの混合物(分子量900);1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレートとトリデシル−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレートの混合物(分子量900)などが挙げられる。
【0038】
高分子量のヒンダードアミン系光安定化剤としては、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}](分子量2,000〜3,100);コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールの重合物(分子量3,100〜4,000);N,N',N”,N”'−テトラキス−(4,6−ビス−(ブチル−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ)−トリアジン−2−イル)−4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミン(分子量2,286)と上記コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールの重合物の混合物;ジブチルアミン・1,3,5−トリアジン・N,N'−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物(分子量2,600〜3,400)などが挙げられる。上述したヒンダードアミン系光安定化剤は、一種単独で用いられてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
【0039】
これらの中でも、ヒンダードアミン系光安定化剤としては、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、メチル−1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルセバケート、メチル−4−ピペリジルセバケート、及びビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケートを用いるのが好ましい。また、ヒンダードアミン系光安定化剤は、融点が、60℃以上であるものを用いるのが好ましい。
【0040】
ヒンダードアミン系光安定化剤の含有量は、有機樹脂100質量部に対して、0.1〜5.0質量部、より好ましくは0.1〜2.5質量部とするのがよい。これにより、ヒンダードアミン系光安定化剤による安定化の効果が十分に得られる。
【0041】
ラジカル遮断層の作製方法は、有機樹脂に応じて、公知の方法を用いることができる。例えば、有機樹脂としてフッ素樹脂、シリコーン樹脂、オレフィン樹脂、アクリル樹脂及びポリエステル樹脂などを用いた場合には、有機樹脂及び必要に応じてヒンダードアミン系光安定化剤を有機溶剤に分散させた塗布液を、プラスチックフィルムなどの上に塗布、乾燥させることによりラジカル遮断層が得られる。
【0042】
また、有機樹脂としてアクリル樹脂などを用いた場合には、樹脂の重合性モノマー又はオリゴマー、並びに必要に応じて、ヒンダードアミン系光安定化剤、重合開始剤(熱重合開始剤又は光重合開始剤)を、有機溶剤に分散させた塗布液をプラスチックフィルムなどの上に塗布し、加熱又は光照射により硬化させることによりラジカル遮断層が得られる。光照射は、紫外線、Χ線、γ線、電子線などを用いて行えばよい。
【0043】
熱重合開始剤としては、t−ブチルヒドロパーオキサイド、ジーt−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジミリスチルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)、クミルパーオキシオクトエートなどの有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシクロヘキサンニトリルなどのアゾ化合物などを挙げられる。
【0044】
光重合開始剤としては、樹脂の性質に適した任意の化合物を使用することができる。例えば、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−(4−(メチルチオ)フェニル)−2−モルホリノプロパン−1などのアセトフェノン系、ベンジルジメチルケタールなどのベンゾイン系、ベンゾフェノン、4−フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系、イソプロピルチオキサントン、2−4−ジエチルチオキサントンなどのチオキサントン系、その他特殊なものとしては、メチルフェニルグリオキシレートなどが使用できる。特に好ましくは、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−(4−(メチルチオ)フェニル)−2−モルホリノプロパン−1、ベンゾフェノン等が挙げられる。これら光重合開始剤は、必要に応じて、4−ジメチルアミノ安息香酸のごとき安息香酸系叉は、第3級アミン系などの公知慣用の光重合促進剤の1種または2種以上を任意の割合で混合して使用することができる。また、光重合開始剤は、1種単独でまたは2種以上の混合で使用することができる。特に1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャリティケミカルズ社製、イルガキュア184)が好ましい。
【0045】
また、有機樹脂としてEVAを用いた場合には、EVA、及び必要に応じて、有機過酸化物及びヒンダードアミン系光安定化剤などを含む組成物を、通常の押出成形、カレンダ成形(カレンダリング)等により成形することによりラジカル遮断層が得られる。
【0046】
組成物の混合は、40〜90℃、特に60〜80℃の温度で加熱混練することにより行うのが好ましい。また、製膜時の加熱温度は、有機過酸化物が反応しない或いはほとんど反応しない温度とすることが好ましい。例えば、40〜90℃、特に50〜80℃とするのが好ましい。
【0047】
また、EVAを含む上記組成物を有機溶剤に溶解させ、この溶液を適当な塗布機(コーター)で適当な支持体上に塗布、乾燥して塗膜を形成することにより層状物を得ることもできる。
【0048】
また、有機樹脂としてポリエステル樹脂を用いた場合には、ポリエステル樹脂及び必要に応じてヒンダードアミン系光安定化剤をペレット化し溶融押出しして成形することにより、ラジカル遮断層を得ることができる。また、市販されているポリエステル樹脂フィルムなどを使用することもできる。
【0049】
本発明の積層体において、少なくとも一種のラジカル遮断層が用いられる。ラジカル遮断層は一層単独で用いられてもよく、2層以上を積層して用いることもできる。
【0050】
ラジカルによる影響を高く防止することができることから、ラジカル遮断層としては、エチレン酢酸ビニル共重合体を含むラジカル遮断層(A)、及びポリエチレンテレフタレートを含むラジカル遮断層(B)が特に好ましく挙げられる。これらのラジカル遮断層(A)又は(B)を、例えば、図1に示すように、ラジカル遮断層130として一層単独で用いることができる。さらに、図2に示すように、熱線遮蔽層210と紫外線吸収層220との間に、エチレン酢酸ビニル共重合体を含むラジカル遮断層(A)230A及びポリエチレンテレフタレートを含むラジカル遮断層(B)230Bを積層して用いることもできる。
【0051】
ラジカル遮断層の厚さは、好ましくは0.1〜500μm、特に好ましくは50〜200μmである。また、ラジカル遮断層(A)及び(B)を用いた場合、ラジカル遮断層(A)の厚さは、好ましくは10〜1000μm、特に好ましくは100〜500μmである。ラジカル遮断層(B)の厚さは、好ましくは25〜250μm、特に好ましくは50〜200μmである。
【0052】
(紫外線吸収層)
本発明の積層体に用いられる紫外線吸収層は、熱線遮蔽層に含まれるタングステン化合物が太陽光、特に紫外線が照射されることにより劣化するのを防止するために、紫外線吸収剤を含む。
【0053】
紫外線吸収層に用いられる紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物、及びベンゾエート系化合物などが挙げられる。なかでも、タングステン化合物の酸化防止効果が特に高く、長期間に亘り積層体が青色に変色するのを防止できることから、ベンゾフェノン系化合物が好ましく挙げられる。
【0054】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、下記式(I):
【0055】
【化2】


[但し、R1が、水素原子又はヒドロキシル基を表し、R2が、水素原子又はヒドロキシル基を表し、R3が、水素原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1〜14個(特に1〜8個)のアルキル基又は炭素原子数1〜14個(特に5〜8個)のアルコキシ基を表し、そしてR4が、水素原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1〜14個(特に1〜8個)のアルキル基又は炭素原子数1〜14(特に5〜8個)のアルコキシ基を表す]で示される化合物が好ましく用いられる。
【0056】
1が、ヒドロキシル基を表し、R2が、水素原子又はヒドロキシル基、特にヒドロキシル基を表し、R3が、水素原子、ヒドロキシル基、又はアルコキシ基、特にメトキシ基又はオクチルオキシ基を表し、そしてR4が、水素原子、ヒドロキシル基、又はアルコキシ基、特にメトキシ基又はオクチルオキシ基を表すことが好ましい。特にR1とR2とが共にヒドロキシル基、R3とR4とが共に炭素原子数5〜8個のアルコキシ基、特にオクチルオキシ基であることが好ましい。
【0057】
上記ベンゾフェノン系紫外線吸収剤の好ましい例としては、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクチルベンゾフェノン、2,2'、4,4'−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2'−ジヒドロキシ−4,4'−ジメトキシベンゾフェノンを挙げることができ、特に2−ヒドロキシ−4−n−オクチルベンゾフェノン、2,2'−ジヒドロキシ−4,4'−ジメトキシベンゾフェノンが好ましい。
【0058】
なお、上述した紫外線吸収剤は、一種単独で使用することもでき、2種以上を使用することもできる。
【0059】
紫外線吸収剤は、上述した紫外線吸収剤の他に、さらにバインダ樹脂を含む。バインダ樹脂としては、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、オレフィン樹脂、アクリル樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、及びポリビニルブチラール樹脂(PVB)が好ましく、EVA及びPVBがより好ましく、EVAが特に好ましい。これらのバインダ樹脂は、上述したラジカル遮断層における有機樹脂と同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0060】
紫外線吸収層における紫外線吸収剤の含有量は、バインダ樹脂100質量部に対して、0.5〜3質量部、特に0.5〜1質量部であるのが好ましい。このように少量の紫外線吸収剤であっても、優れた変色防止効果を発揮することができる。
【0061】
紫外線吸収層に用いられるEVAにおける酢酸ビニル含有率は、EVA100質量部に対して、23〜38質量部であり、特に23〜28質量部であることが好ましい。この酢酸ビニル含有率が、23質量部未満であると、高温で架橋硬化させる場合に得られる樹脂の透明度が充分でなく、逆に38質量部を超えると成形性が低下して紫外線吸収剤を高分散させることができなくなる恐れがある。またEVAのメルト・フロー・インデックス(MFR)が、4.0〜30.0g/10分、特に8.0〜18.0g/10分であることが好ましい。予備圧着が容易になる。
【0062】
EVA含有紫外線吸収層は、上記EVAに、紫外線吸収剤及び有機過酸化物を含んでおり、さらに必要に応じて架橋助剤、接着向上剤、可塑剤、アクリロキシ基含有化合物、メタクリロキシ基含有化合物、エポキシ基含有化合物、及びシランカップリング剤等の種々の添加剤を含有させることができる。これらの添加剤及び紫外線吸収層の作製方法については、上述したラジカル遮断層と同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0063】
(熱線遮蔽層)
本発明の積層体に用いられる熱線遮蔽層は、熱線遮蔽剤としてタングステン化合物を含有する。タングステン化合物としては、近赤外線を効率よくカットできることから、タングステン酸化物及び/又は複合タングステン酸化物が好ましい。
【0064】
タングステン酸化物は、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表される酸化物である。また、複合タングステン酸化物は、上記タングステン酸化物に、元素M(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素)を添加した組成を有するものである。これにより、z/y=3.0の場合も含めて、WyOz中に自由電子が生成され、近赤外線領域に自由電子由来の吸収特性が発現し、1000nm付近の近赤外線吸収材料として有効となる。本発明では、複合タングステン酸化物が好ましい。
【0065】
上述した一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物において、タングステンと酸素との好ましい組成範囲は、タングステンに対する酸素の組成比が3よりも少なく、さらには、当該赤外線遮蔽材料をWyOzと記載したとき、2.2≦z/y≦2.999である。このz/yの値が、2.2以上であれば、赤外線遮蔽材料中に目的以外であるWO2の結晶相が現れるのを回避することが出来るとともに、材料としての化学的安定性を得ることが出来るので有効な赤外線遮蔽材料として適用できる。一方、このz/yの値が、2.999以下であれば必要とされる量の自由電子が生成され効率よい赤外線遮蔽材料となり得る。
【0066】
複合タングステン酸化物は、安定性の観点から、一般に、MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、(0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3)で表される酸化物であることが好ましい。アルカリ金属は、水素を除く周期表第1族元素、アルカリ土類金属は周期表第2族元素、希土類元素は、Sc、Y及びランタノイド元素である。特に、赤外線遮蔽材料としての光学特性、耐候性を向上させる観点から、M元素が、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snのうちの1種類以上であるものが好ましい。
【0067】
また、複合タングステン酸化物は、シランカップリング剤で処理されていることが好ましい。優れた分散性が得られ、優れた赤外線カット機能、透明性が得られる。
【0068】
元素Mの添加量を示すx/yの値が0.001より大きければ、十分な量の自由電子が生成され赤外線遮蔽効果を十分に得ることが出来る。元素Mの添加量が多いほど、自由電子の供給量が増加し、赤外線遮蔽効果も上昇するが、x/yの値が1程度で飽和する。また、x/yの値が1より小さければ、熱線遮蔽層中に不純物相が生成されるのを回避できるので好ましい。
【0069】
酸素量の制御を示すz/yの値については、MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物においても、上述のWyOzで表記される赤外線遮蔽材料と同様の機構が働くことに加え、z/y=3.0においても、上述した元素Mの添加量による自由電子の供給があるため、2.2≦z/y≦3.0が好ましく、さらに好ましくは2.45≦z/y≦3.0である。
【0070】
さらに、複合タングステン酸化物が六方晶の結晶構造を有する場合、当該酸化物の可視光領域の透過が向上し、近赤外領域の吸収が向上する。
【0071】
この六角形の空隙に元素Mの陽イオンが添加されて存在するとき、可視光領域の透過が向上し、近赤外領域の吸収が向上する。ここで、一般的には、イオン半径の大きな元素Mを添加したとき当該六方晶が形成され、具体的には、Cs、K、Rb、Tl、In、Ba、Sn、Li、Ca、Sr、Feを添加したとき六方晶が形成されやすい。勿論これら以外の元素でも、WO6単位で形成される六角形の空隙に添加元素Mが存在すれば良く、上記元素に限定される訳ではない。
【0072】
六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物が均一な結晶構造を有するとき、添加元素Mの添加量は、x/yの値で0.2以上0.5以下が好ましく、更に好ましくは0.33である。x/yの値が0.33となることで、添加元素Mが、六角形の空隙の全てに配置されると考えられる。
【0073】
また、六方晶以外では、正方晶、立方晶のタングステンブロンズも赤外線遮蔽効果がある。そして、これらの結晶構造によって、近赤外線領域の吸収位置が変化する傾向があり、立方晶<正方晶<六方晶の順に、吸収位置が長波長側に移動する傾向がある。また、それに付随して可視光線領域の吸収が少ないのは、六方晶<正方晶<立方晶の順である。このため、より可視光領域の光を透過して、より赤外線領域の光を遮蔽する用途には、六方晶のタングステンブロンズを用いることが好ましい。
【0074】
本発明で使用される熱線遮蔽剤の平均粒子径は、透明性を保持する観点から、10〜800nm、特に10〜400nmであるのが好ましい。これは、800nmよりも小さい粒子は、散乱により光を完全に遮蔽することが無く、可視光線領域の視認性を保持し、同時に効率良く透明性を保持することができるからである。特に可視光領域の透明性を重視する場合は、さらに粒子による散乱を考慮することが好ましい。この粒子による散乱の低減を重視するとき、平均粒子径は20〜200nm、特に20〜100nmが好ましい。なお、熱線遮蔽剤の平均粒子径は、熱線遮蔽層の断面を透過型電子顕微鏡により倍率100万倍程度で観測し、少なくとも100個の熱線遮蔽剤の面積円相当径を求めた数平均値とする。
【0075】
熱線遮蔽層における熱線遮蔽剤の含有量は、後記するバインダ樹脂100質量部に対して、10〜500質量部、さらに20〜500質量部、特に30〜300質量部であるのが好ましい。
【0076】
また、本発明の複合タングステン酸化物の表面が、Si、Ti、Zr、Alの一種類以上を含有する酸化物で被覆されていることは、耐候性の向上の観点から好ましい。
【0077】
本発明の複合タングステン酸化物は、例えば下記のようにして製造される。
【0078】
上記一般式WyOzで表記されるタングステン酸化物、及び/又は、MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物は、タングステン化合物出発原料を不活性ガス雰囲気もしくは還元性ガス雰囲気中で熱処理して得ることができる。
【0079】
タングステン化合物出発原料には、3酸化タングステン粉末、もしくは酸化タングステンの水和物、もしくは、6塩化タングステン粉末、もしくはタングステン酸アンモニウム粉末、もしくは、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、もしくは、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させたのち水を添加して沈殿させこれを乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、もしくはタングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、金属タングステン粉末から選ばれたいずれか一種類以上であることが好ましい。
【0080】
ここで、タングステン酸化物を製造する場合には製造工程の容易さの観点より、タングステン酸化物の水和物粉末、もしくはタングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、を用いることがさらに好ましく、複合タングステン酸化物を製造する場合には、出発原料が溶液であると各元素を容易に均一混合可能となる観点より、タングステン酸アンモニウム水溶液や、6塩化タングステン溶液を用いることがさらに好ましい。これら原料を用い、これを不活性ガス雰囲気もしくは還元性ガス雰囲気中で熱処理して、上述した粒径のタングステン酸化物、または/及び、複合タングステン酸化物を得ることができる。
【0081】
また、上記元素Mを含む一般式MxWyOzで表される複合タングステン酸化物は、上述した一般式WyOzで表されるタングステン酸化物のタングステン化合物出発原料と同様であり、さらに元素Mを、元素単体または化合物の形で含有するタングステン化合物を出発原料とする。ここで、各成分が分子レベルで均一混合した出発原料を製造するためには各原料を溶液で混合することが好ましく、元素Mを含むタングステン化合物出発原料が、水や有機溶媒等の溶媒に溶解可能なものであることが好ましい。例えば、元素Mを含有するタングステン酸塩、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酸化物、等が挙げられるが、これらに限定されず、溶液状になるものであれば好ましい。
【0082】
ここで、不活性雰囲気中における熱処理条件としては、650℃以上が好ましい。650℃以上で熱処理された出発原料は、十分な着色力を有し熱線遮蔽剤として効率が良い。不活性ガスとしてはAr、N2等の不活性ガスを用いることが良い。また、還元性雰囲気中の熱処理条件としては、まず出発原料を還元性ガス雰囲気中にて100〜650℃で熱処理し、次いで不活性ガス雰囲気中で650〜1200℃の温度で熱処理することが良い。この時の還元性ガスは、特に限定されないがH2が好ましい。また還元性ガスとしてH2を用いる場合は、還元雰囲気の組成として、H2が体積比で0.1%以上が好ましく、さらに好ましくは2%以上が良い。0.1%以上であれば効率よく還元を進めることができる。
【0083】
水素で還元された原料粉末はマグネリ相を含み、良好な赤外線遮蔽特性を示し、この状態で熱線遮蔽剤として使用可能である。しかし、酸化タングステン中に含まれる水素が不安定であるため、耐候性の面で応用が限定される可能性がある。そこで、この水素を含む酸化タングステン化合物を、不活性雰囲気中、650℃以上で熱処理することで、さらに安定な熱線遮蔽剤を得ることができる。この650℃以上の熱処理時の雰囲気は特に限定されないが、工業的観点から、N2、Arが好ましい。当該650℃以上の熱処理により、熱線遮蔽剤中にマグネリ相が得られ耐候性が向上する。
【0084】
本発明の複合タングステン酸化物は、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等のカップリング剤で表面処理されていることが好ましい。シランカップリング剤が好ましい。これによりバインダ樹脂との親和性が良好となり、透明性、熱線カット性の他、各種物性が向上する。
【0085】
シランカップリング剤の例として、γ−クロロプロピルメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、トリメトキシアクリルシランを挙げることができる。ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、トリメトキシアクリルシランが好ましい。これらシランカップリング剤は、単独で使用しても、又は2種以上組み合わせて使用しても良い。また上記化合物の含有量は、複合タングステン酸化物100質量部に対して5〜20質量部で使用することが好ましい。
【0086】
熱線遮蔽層は、タングステン化合物の他に、さらにさらにバインダ樹脂を含む。バインダ樹脂としては、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、オレフィン樹脂、アクリル樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、及びポリビニルブチラール樹脂(PVB)が好ましく、フッ素樹脂が特に好ましい。これらのバインダ樹脂は、上述したラジカル遮断層における有機樹脂と同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0087】
熱線遮蔽層の厚さは、0.1〜50μm、特に1〜10μmであるのが好ましい。
【0088】
本発明の積層体では、ラジカル遮断層が熱線遮蔽層と紫外線吸収層との間に少なくとも配置されるが、紫外線吸収層及びラジカル遮断層は熱線遮蔽層の双方の面上に積層されてもよい。すなわち、図3に示すように、熱線遮蔽層310の双方の面上にラジカル遮断層330及び紫外線吸収層320が積層されるのが好ましい。このような構成を有する積層体によれば、タングステン化合物の劣化をより高く防止することができる。
【0089】
また、本発明の積層体400では、図4に示すように、ラジカル遮断層420が熱線遮蔽層310と紫外線吸収層430との間に少なくとも配置されるが、熱線遮蔽層410のラジカル遮断層420及び紫外線吸収層430が積層される面とは反対側の面上に、さらに接着樹脂層440が積層されるのが好ましい。このような積層体400は、さらに2枚の透明基材450により挟持されて熱線遮蔽合わせガラスとして特に好適に用いられる。
【0090】
(接着樹脂層)
接着樹脂層は、接着樹脂を含む層である。接着樹脂としては、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、オレフィン樹脂、アクリル樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、及びポリビニルブチラール樹脂(PVB)が好ましく、EVA及びPVBがより好ましく、EVAが特に好ましい。これらの接着樹脂は、上述したラジカル遮断層における有機樹脂と同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0091】
EVA含有接着樹脂層は、EVAに、有機過酸化物を含んでおり、さらに必要に応じて架橋助剤、接着向上剤、可塑剤、アクリロキシ基含有化合物、メタクリロキシ基含有化合物、エポキシ基含有化合物、及びシランカップリング剤等の種々の添加剤を含有させることができる。これらの添加剤及び接着樹脂層の作製方法については、上述したラジカル遮断層と同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0092】
(熱線遮蔽合わせガラス)
本発明の積層体は、高い熱線遮蔽性を有するとともに、変色による劣化が高く抑制され、優れた透明性を長期に亘り維持することができることから、合わせガラス用中間膜として用いるのが好ましい。前記積層体により、熱線遮蔽合わせガラスを提供することができる。
【0093】
本発明の積層体を用いた合わせガラスは、2枚の透明基材の間に中間膜が挟持され、これらが接着一体化されてなる合わせガラスであって、前記中間膜として上述した本発明の積層体を用いたものが挙げられる。
【0094】
このような熱線遮蔽合わせガラスの好適な一実施形態を図4及び5に示す。図4及び5は、本発明の熱線遮蔽合わせガラスの断面図である。図4に示す合わせガラスでは、熱線遮蔽層410の一方の面上にラジカル遮断層420及び紫外線吸収層430が積層され、熱線遮蔽層410の他方の面上に接着樹脂層440が積層されてなる積層体400を、さらに2枚の透明基材450で挟持し、これらが接着一体化された構造を有する。
【0095】
また、図5に示す合わせガラスでは、熱線遮蔽層510の一方の面上にエチレン酢酸ビニル共重合体を含むラジカル遮断層(A)530A、ポリエチレンテレフタレートを含むラジカル遮断層530B、及び紫外線吸収層520が積層され、熱線遮蔽層510の他方の面上に接着樹脂層540が積層されてなる積層体500を、さらに2枚の透明基材450で挟持し、これらが接着一体化された構造を有する。
【0096】
本発明の合わせガラスを航空機、自動車のフロントガラスやサイドガラス、又は建築物などの窓ガラスとして使用する場合、紫外線吸収層を室外側に配置し、熱線遮蔽層を室内側に配置するようにして、合わせガラスを使用するのが好ましい。これにより、高い変色防止効果を発揮することができる。なお、熱線遮蔽層の双方の面上にラジカル遮断層及び紫外線吸収層が積層された積層体を用いた合わせガラスでは、このような配置に制限されることはない。
【0097】
本発明の積層体を用いた合わせガラスを作製するには、積層体に用いられる各層を作製し、これらを積層することにより得られた積層体を2枚の透明基材の間に狭持して加熱圧着する手段などが用いられる。加熱圧着することにより、機能性フィルムと透明基材とを接着一体化することができる。
【0098】
加熱圧着は、例えば80〜120℃の温度で予備圧着し、100〜150℃(特に130℃付近)で10分〜1時間加熱処理することにより行われる。また、加熱処理は加圧下で行ってもよい。
【0099】
なお、本発明において、合わせガラスにおける「ガラス」とは透明基材全般を意味するものであり、したがって「合わせガラス」とは透明基材に中間膜として積層体を挟持してなるものを意味する。
【0100】
本発明の合わせガラスに用いられる透明基材は、特に限定されないが、例えば珪酸塩ガラス、無機ガラス板、無着色透明ガラス板などのガラス板の他、プラスチックフィルムを用いてもよい。前記プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンアフタレート(PEN)フィルム、ポリエチレンブチレートフィルムを挙げることができ、PETフィルムが好ましい。透明基材の厚さは、1〜20mm程度が一般的である。
【0101】
合わせガラスにおいて積層体の両側に配置されるそれぞれの透明基材は、同一の透明基材を用いてもよく、異なる透明基材を組み合わせて用いてもよい。透明基材の強度と合わせガラスの用途とを考慮して、透明基材の組み合わせを決定するのが好ましい。
【0102】
本発明の合わせガラスにおける透明基材が、一方がガラス板で、他方がプラスチックフィルムである場合、耐衝撃性、耐貫通性、透明性等において適度な性能を有するように設計することもできる。このため、例えば各種車体、ビル等に装備される窓ガラス等のガラス、又はショーケース、ショーウインド等のガラスに使用することができる。
【0103】
また、透明基材が共にガラス板の場合は、特に優れた耐衝撃性、向上した耐貫通性を示すように設計することができ、合わせガラスを含む種々な用途に使用することができる。
【0104】
一方がプラスチックフィルムの合わせガラス、例えば自動車のサイドガラス及び嵌め込みガラスの場合、フロントガラス程の厚さは必要としないため、プラスチックフィルムの厚さは、0.02〜2mmの範囲が一般的であり、0.02〜1.2mmの範囲が好ましい。中間膜及びプラスチックフィルムの厚さは、当該ガラスを使用する場所等に応じて変えることができる。
【0105】
本発明で使用されるガラス板は、通常珪酸塩ガラスである。ガラス板厚は、フィルム強化ガラスの場合、それを設置する場所等により異なる。例えば、自動車のサイドガラス及び嵌め込みガラスに使用する場合、フロントガラスのように厚くする必要はなく、0.1〜10mmが一般的であり、0.3〜5mmが好ましい。前記1枚のガラス板1は、化学的に、或いは熱的に強化させたものである。
【0106】
自動車のフロントガラス等に適当な両方がガラス板である合わせガラスの場合は、ガラス板の厚さは、0.5〜10mmが一般的であり、1〜8mmが好ましい。
【実施例】
【0107】
以下、本発明を実施例により説明する。本発明は、以下の実施例により制限されるものではない。
【0108】
[実施例1]
ラジカル遮断層としてPETフィルム(厚さ100μm)を用いた。PETフィルム上に、下記配合の熱線遮蔽層形成用塗布液をバーコータにより塗布し、80℃で30秒間乾燥し、熱線遮蔽層(厚さ2μm)を形成した。
【0109】
(配合)
官能基含有フッ素樹脂(固形分15質量%、MIBK85質量%、オプツールAR−110(前記重合体A)、ダイキン工業(株)製)100質量部、
セシウムタングステン酸化物(Cs0.33WO3、固形分20質量%、MIBK80質量%)100質量部。
【0110】
次に、下記の配合を原料としてカレンダ成形法により紫外線吸収層(厚さ500μm)を得た。なお、配合物の混練は、80℃で15分行い、またカレンダロールの温度は80℃、加工速度は5m/分であった。
【0111】
(配合)
EVA(酢酸ビニル含有量25質量%、ウルトラセン635、東ソー(株)製)100質量部、
架橋剤(パーブチルE;日本油脂(株)製 t−ブチルパーオキシ−2−エチルへキシルモノカーボネート)3質量部、
シランカップリング剤(KBM503;信越化学工業(株)製)1質量部、
紫外線吸収剤(2,2'−ジヒドロキシ−4,4'−ジメトキシベンゾフェノン;BASF社製 ユビナール3049;BASFジャパン(株)製)1質量部。
【0112】
次に、紫外線吸収剤を使用しなかった以外は上記紫外線吸収層と同様にして、接着樹脂層(厚さ500μm)を得た。
【0113】
そして、上記で作製したラジカル遮断層上に形成された熱線遮蔽層、紫外線吸収層、及び接着樹脂層を用い、これらを紫外線吸収層/ラジカル遮断層/熱線遮蔽層/接着樹脂層の順となるように積層して積層体を得た後、これをさらに2枚のガラス基板(厚さ2.5mm)で挟持し、100℃で30分間加熱することにより仮圧着を行った後、オートクレーブ中で圧力13×105Pa、温度140℃の条件で30分間加熱した。これにより、接着樹脂層及び紫外線吸収層に含まれるEVAを架橋硬化させて、透明基材と各層間が接着一体化された合わせガラスを得た。
【0114】
[実施例2]
下記の配合を原料としてカレンダ成形法によりラジカル遮断層(A)(厚さ500μm)を得た。なお、配合物の混練は、80℃で15分行い、またカレンダロールの温度は80℃、加工速度は5m/分であった。
【0115】
(配合)
EVA(酢酸ビニル含有量25質量%、ウルトラセン635、東ソー(株)製)100質量部、
架橋剤(パーブチルE;日本油脂(株)製 t−ブチルパーオキシ−2−エチルへキシルモノカーボネート)3質量部、
シランカップリング剤(KBM503;信越化学工業(株)製)1質量部。
【0116】
さらに、ラジカル遮断層(B)としてPETフィルム(厚さ100μm)を用いた。PETフィルム上にラジカル遮断層(A)を積層し、このラジカル遮断層(A)上に下記の熱線遮蔽層形成用塗布液をバーコータにより塗布し、80℃で30秒間乾燥し、熱線遮蔽層(厚さ2μm)を形成した。
【0117】
(配合)
官能基含有フッ素樹脂(固形分15質量%、MIBK85質量%、オプツールAR−110(前記重合体A)、ダイキン工業(株)製)100質量部、
セシウムタングステン酸化物(Cs0.33WO3、固形分20質量%、MIBK80質量%)100質量部。
【0118】
次に、紫外線吸収層及び接着樹脂層を実施例1と同様にして作製した。
【0119】
そして、上記で作製したラジカル遮断層(A)及び(B)、熱線遮蔽層、紫外線吸収層及び接着樹脂層を用い、これらを紫外線吸収層/ラジカル遮断層(B)/ラジカル遮断層(A)/熱線遮蔽層/接着樹脂層の順となるように積層して積層体を得た後、これらをさらに2枚のガラス基板(厚さ2.5mm)で挟持し、100℃で30分間加熱することにより仮圧着を行った後、オートクレーブ中で圧力13×105Pa、温度140℃の条件で30分間加熱した。これにより、接着樹脂層及び紫外線吸収層に含まれるEVAを架橋硬化させて、透明基材と各層間が接着一体化された合わせガラスを得た。
【0120】
[実施例3]
下記の配合を原料としてカレンダ成形法により接着樹脂層(厚さ500μm)を得た。なお、配合物の混練は、80℃で15分行い、またカレンダロールの温度は80℃、加工速度は5m/分であった。
【0121】
(配合)
EVA(酢酸ビニル含有量25質量%、ウルトラセン635、東ソー(株)製)100質量部、
架橋剤(パーブチルE;日本油脂(株)製 t−ブチルパーオキシ−2−エチルへキシルモノカーボネート)3質量部、
シランカップリング剤(KBM503;信越化学工業(株)製)1質量部。
【0122】
前記接着樹脂層上に、下記配合の熱線遮蔽層形成用塗布液をバーコータにより塗布し、80℃で30秒間乾燥し、熱線遮蔽層(厚さ2μm)を形成した。
【0123】
(配合)
官能基含有フッ素樹脂(固形分15質量%、MIBK85質量%、オプツールAR−110(前記重合体A)、ダイキン工業(株)製)100質量部、
セシウムタングステン酸化物(Cs0.33WO3、固形分20質量%、MIBK80質量%)100質量部。
【0124】
次に、前記熱線遮蔽層上に下記配合のラジカル遮断層形成用塗布液をバーコータにより塗布し、80℃で30秒間乾燥し、ラジカル遮断層(厚さ2μm)を形成した。
【0125】
(配合)
官能基含有フッ素樹脂(固形分15質量%、MIBK85質量%、オプツールAR−110(前記重合体A)、ダイキン工業(株)製)100質量部、
ヒンダードアミン系光安定化剤(TINUVIN(登録商標)770 DF;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製)2質量部。
【0126】
次に、実施例1と同様にして作製した紫外線吸収層を、上記で作製したラジカル遮断層上に積層し、積層体を得た後、これらをさらに2枚のガラス基板(厚さ2.5mm)で挟持し、100℃で30分間加熱することにより仮圧着を行った後、オートクレーブ中で圧力13×105Pa、温度140℃の条件で30分間加熱した。これにより、接着樹脂層及び紫外線吸収層に含まれるEVAを架橋硬化させて、透明基材と各層間が接着一体化された合わせガラスを得た。
【0127】
[比較例1]
実施例1と同様にしてPETフィルム上に熱線遮蔽層を形成した。さらに、実施例1と同様にして接着樹脂層及び紫外線吸収層を作製した。そして、これらを接着樹脂層/PETフィルム/熱線遮蔽層/紫外線吸収層の順となるように積層して積層体を得た後、これをさらに2枚のガラス基板(厚さ2.5mm)で挟持し、100℃で30分間加熱することにより仮圧着を行った後、オートクレーブ中で圧力13×105Pa、温度140℃の条件で30分間加熱した。これにより、接着樹脂層及び紫外線吸収層に含まれるEVAを架橋硬化させて、透明基材と各層間が接着一体化された合わせガラスを得た。
【0128】
[比較例2]
下記の配合を原料としてカレンダ成形法により接着樹脂層(厚さ500μm)を得た。なお、配合物の混練は、80℃で15分行い、またカレンダロールの温度は80℃、加工速度は5m/分であった。
【0129】
(配合)
EVA(酢酸ビニル含有量25質量%、ウルトラセン635、東ソー(株)製)100質量部、
架橋剤(パーブチルE;日本油脂(株)製 t−ブチルパーオキシ−2−エチルへキシルモノカーボネート)3質量部、
シランカップリング剤(KBM503;信越化学工業(株)製)1質量部。
【0130】
前記接着樹脂層上に、下記配合の熱線遮蔽層形成用塗布液をバーコータにより塗布し、80℃で30秒間乾燥し、熱線遮蔽層(厚さ2μm)を形成した。
【0131】
(配合)
官能基含有フッ素樹脂(固形分15質量%、MIBK85質量%、オプツールAR−110(前記重合体A)、ダイキン工業(株)製)100質量部、
セシウムタングステン酸化物(Cs0.33WO3、固形分20質量%、MIBK80質量%)100質量部。
【0132】
次に、実施例1と同様にして作製した紫外線吸収層を積層した。この紫外線吸収層を、接着樹脂層上に作製した上記熱線遮蔽層上に積層し、積層体を得た後、これらをさらに2枚のガラス基板(厚さ2.5mm)で挟持し、100℃で30分間加熱することにより仮圧着を行った後、オートクレーブ中で圧力13×105Pa、温度140℃の条件で30分間加熱した。これにより、接着樹脂層及び紫外線吸収層に含まれるEVAを架橋硬化させて、透明基材と各層間が接着一体化された合わせガラスを得た。
【0133】
[評価]
1.初期の視感透過率
上記で作製した各合わせガラスの視感透過率を下記手順に従って測定した。
【0134】
島津製作所株式会社製分光光度計UV3100PC(商品名)により測定したフィルタの透過スペクトルを用い、XYZ表色系の三刺激値のYを計算し、視感透過率(Y)とした。計算方法は、JIS Z8722−2000によった。結果を表1に示す。
【0135】
2.耐候性試験後の視感透過率
上記で作製した各合わせガラスに、促進耐候性試験機(スーパーUVテスターSUV−F11、岩崎電気(株)製)を用いて、温度25℃の雰囲気下、波長295〜450nmの紫外線を100mW/cm2の強度で500時間照射した。また、紫外線の照射は、合わせガラスの紫外線吸収層が形成されている面側から行った。その後、合わせガラスの視感透過率を上記と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0136】
【表1】


このように本発明の積層体を用いた合わせガラスでは、長時間に亘る紫外線照射後であっても視感透過率の低下が低く、変色が高く防止されていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1】本発明の積層体の断面図を示す。
【図2】本発明の積層体の断面図を示す。
【図3】本発明の積層体の断面図を示す。
【図4】本発明の積層体を用いた熱線遮蔽合わせガラスの断面図を示す。
【図5】本発明の積層体を用いた熱線遮蔽合わせガラスの断面図を示す。
【符号の説明】
【0138】
110、210、310、410、510:熱線遮蔽層、
120、220、320、420、520:紫外線吸収層、
130、330、430:ラジカル遮断層、
230A、530A:EVAを含むラジカル遮断層、
230B、530B:PETを含むラジカル遮断層、
400、500:積層体、
440、540:接着樹脂層、
450、550:透明基材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステン化合物を含有する熱線遮蔽層、紫外線吸収剤を含有する紫外線吸収層、及び有機樹脂を含有するラジカル遮断層を有し、
前記熱線遮蔽層と前記紫外線吸収層との間に、少なくとも1層の前記ラジカル遮断層が配置されることを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記有機樹脂が、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、オレフィン樹脂、アクリル樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、セルロース樹脂、及びポリカーボネート樹脂よりなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記ラジカル遮断層が、さらにヒンダードアミン系光安定剤を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記熱線遮蔽層と前記紫外線吸収層との間に、エチレン酢酸ビニル共重合体を含むラジカル遮断層(A)及び/又はポリエチレンテレフタレートを含むラジカル遮断層(B)が配置されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
前記紫外線吸収剤が、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項6】
前記紫外線吸収層が、さらにエチレン酢酸ビニル共重合体を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項7】
前記タングステン化合物が、タングステン酸化物及び/又は複合タングステン酸化物からなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項8】
前記熱線遮蔽層の前記紫外線吸収層及びラジカル遮断層が積層される面とは反対側の面上に、さらに接着樹脂層が積層されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項9】
2枚の透明基材の間に中間膜が挟持され、これらが接着一体化されてなる熱線遮蔽合わせガラスであって、
前記中間膜が、請求項1〜8のいずれか1項に記載の積層体であることを特徴とする熱線遮蔽合わせガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−89452(P2010−89452A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−263764(P2008−263764)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】