説明

積層体、積層体の製造方法及びシール部材

【課題】ゴム基材と接触機材との固着や、コーティング層の剥離等が生じにくい積層体を提供する。
【解決手段】本発明に係る積層体900は、一方の主面を砥石にて研削した研削面110を有する、基材としてのゴム層100と、前記ゴム層100の研削面110に形成されたコーティング層200と、を有する。前記研削面110の表面粗さは、最大高さが3.2μm以上6.3μm以下とすることが好ましい。前記ゴム層100は、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、フッ素ゴム等である。前記コーティング層200は、フッ素樹脂、二硫化モリブデン等である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、その積層体の製造方法、及び、その積層体を用いたシール部材に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料用ガスケットは、燃料タンクの排出口とその排出口に取り付けられるキャップとの間に挟み込まれて使用される。このような燃料用ガスケットは、燃料に対して非透過性である必要があるので、ゴムを基材とする。
【0003】
そして、キャップを排出口から取り外す際は、キャップを回して排出口に対して回転摺動させるところ、ゴム基材は摺動性が十分ではないので、ゴム基材の表面に摺動性を向上させるための樹脂等のコーティング層が形成される。
【0004】
このような燃料用ガスケットを形成する、ゴム基材と樹脂等のコーティング層とからなる積層体は、例えば特許文献1に記載されるように製造される。
【0005】
即ち、ゴム基材の表面に樹脂をコーティングすることで、ゴム基材と樹脂コーティング層とからなる積層体を得る。
【0006】
しかし、得られた積層体を曲げる等により、コーティング層に剥離、クラック発生等が生じることがある。
【0007】
一方で、積層体が金属板等(金属ワーク)上に形成されることがある。積層体を金属ワークに形成する場合は、以下に示すように製造される。
【0008】
即ち、まず、例えば容器形状等の金属ワークを準備し、金属ワークに加硫接着剤を塗布してゴム基材との加硫接着を行う。
【0009】
そして、ゴム基材の表面に樹脂をコーティングすることで、金属ワークに形成された積層体を得る。
【0010】
しかし、加硫接着を行うと、ゴム基材が縮小変形する一方、ゴム基材の端部は容器(金属ワーク)の内側面に密着しているから変形しない。そうすると、加硫接着により、ゴム基材の中央部が凹む一方、ゴム基材の両端部が盛り上がることがある。
【0011】
ゴム基材の主面がこのような形状では、ゴム基材の表面に樹脂を均一にコーティングすることができないことにより、ゴム基材が表面に露出し、ゴム基材と接触機材との固着が生じるおそれがある。また、ゴム層とコーティング層との接着強度が不十分となり、コーティング層の剥離が発生するおそれも生じる。さらには、低温状態若しくは高温状態で燃料用ガスケットを使用する場合は、ゴム層と接触機材との固着や、コーティング層の剥離等の発生の可能性は大きくなる。
【0012】
【特許文献1】特開2007−146096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、ゴム基材と接触機材との固着、コーティング層の剥離、クラック、しわ等が発生しにくいシール部材及び積層体、さらには、そのような積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、この発明の第1の観点に係る積層体は、
一方の主面を砥石にて研削した研削面を有する、基材としてのゴム層と、
前記ゴム層の研削面に形成されたコーティング層と、を有することを特徴とする。
【0015】
また、前記研削面は平面である、ことも可能である。
【0016】
また、前記研削面は、前記ゴム層の主面の端部に砥石にて研削したテーパ面を有する、ことも可能である。
【0017】
また、前記テーパ面のテーパの角度は、5度以上15度以下である、ことも可能である。
【0018】
また、前記研削面の表面粗さは、最大高さが3.2μm以上6.3μm以下である、ことも可能である。
【0019】
また、前記ゴム層は、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、カルボキシル化ニトリルゴム(XNBR)、アクリロニトリル−ブタジエン−イソプレンゴム(NBIR)、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM・ANM)、ポリエステルウレタンゴム(AU)、ポリエーテルウレタンゴム(EU)、エチレンプロピレンゴム(EPM・EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム(CSM)、エピクロルヒドリンゴム(ECO)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム(IIR)、ビニルメチルシリコーンゴム(VMQ)、フッ素化シリコーンゴム(FVMQ)、多硫化ゴム(T)及びノルボルネンゴム(NOR)のうち少なくとも何れか一つを含有するゴムから形成される、ことも可能である。
【0020】
また、前記コーティング層は、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、黒鉛、窒化ホウ素及びボロンナイトライトのうち少なくとも何れか一つを含有する、ことも可能である。
【0021】
また、上記目的を達成するため、この発明の第2の観点に係る積層体の製造方法は、
ゴム層の一方の主面を砥石にて研削して研削面を形成する研削工程と、
前記ゴム層の研削面に、コーティング層を形成するコーティング工程と、を有することを特徴とする。
【0022】
また、前記研削工程において、前記研削面を平面に形成する、ことも可能である。
【0023】
また、前記研削工程では、さらに、前記ゴム層の一方の主面の端部を砥石にて研削してテーパ面を形成する、ことも可能である。
【0024】
また、前記テーパ面のテーパの角度は、5度以上15度以下である、ことも可能である。
【0025】
また、前記研削工程では、前記砥石にて研削した研削面の表面粗さは、最大高さが3.2μm以上6.3μm以下である、ことも可能である。
【0026】
また、上記目的を達成するため、この発明の第3の観点に係るシール部材は、
一方の部品が他方の部品に対して摺動する一対の部品間に挟み込まれてこれらの隙間をシールするシール部材であって、
前記シール部材の材質として、請求項1乃至7の何れかに記載の積層体を、前記コーティング層を前記一方の部品の側に配置させ、前記ゴム層を前記他方の部品の側に配置させて用いる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る積層体は、ゴム基材と接触機材との固着、コーティング層の剥離、クラック、しわ等が発生しにくい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
(実施形態1)
〔積層体〕
本実施形態に係る積層体900は、図1に示されるように、研削面110を有するゴム層100と、コーティング層200と、を有する。コーティング層200は、ゴム層100の研削面110の上に形成されている。ゴム層100は積層体900の基材(ゴム基材)である。
【0029】
ゴム層100の研削面110は、ゴム層100の主面を研削砥石にて研削することにより形成される。
【0030】
研削面110は、図1に示されるように全体としては平面の形状である。研削面110の表面構造は、図2に示されるように、曲面で形成されている波形であることが望ましい。研削面110が直線で形成されているジグザグ形状であると、研削面110上に均一にコーティング層を形成することが困難となるおそれがあるからである。また、コーティング層200の研削面110への接着強度が不十分となる可能性があるからである。
【0031】
研削面110の表面粗さは、最大高さRが3.2μm以上6.3μm以下であることが好ましい。最大高さRが3.2μmよりも小さいと、研削面110とコーティング層200の下面との接触面積が小さくなり、コーティング層200の研削面110への接着強度が不十分となる可能性があるからである。一方、最大高さRが6.3μmよりも大きいと、研削面110の波形の波が大きくて、研削面110上に均一にコーティング層200を形成することが困難となるおそれがあるからである。
【0032】
ここで、表面粗さを表す最大高さRとは、平均線Ravに平行な2直線で波形曲線をはさみ、基準長さLについて波形曲線を抜き取り、抜き取った波形曲線の波の高さのうち最大の高さである。なお、平均線Ravとは、波形曲線における個々の波の高さの平均値を示す線である。また、基準長さLは、0.25mm、0.8mm、2.5mm、8.0mm、25.0mmのうち任意の長さを選択することができる。
【0033】
〔ゴム層〕
ゴム層100の厚みは、積層体900の用途により種々変更することが可能であるが、例えば1mm〜10mmとすることができる。
【0034】
ゴム層100に使用されるゴム組成物は、特に限定されないが、例えば、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、カルボキシル化ニトリルゴム(XNBR)、アクリロニトリル−ブタジエン−イソプレンゴム(NBIR)、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM・ANM)、ポリエステルウレタンゴム(AU)、ポリエーテルウレタンゴム(EU)、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム(CSM)、エピクロルヒドリンゴム(ECO)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム(IIR)、ビニルメチルシリコーンゴム(VMQ)、フッ素化シリコーンゴム(FVMQ)、多硫化ゴム(T)及びノルボルネンゴム(NOR)のうち少なくとも何れか一つを含有するゴムから形成することができる。エチレンプロピレンゴムには、エチレンとプロピレンの共重合ゴム(EPM又はEPR)と、エチレンとプロピレンの系に第3成分として非共役ジエン類を加えて得られる三元共重合体であるエチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)も含まれる。
【0035】
中でも、ゴム組成物としては、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、天然ゴムが、耐久性等に優れて好ましい。
また、フッ素ゴムも、耐熱性、耐油性、耐薬品性に優れていて好ましい。フッ素ゴムは、フッ化ビニリデン系(FKM)、テトラフルオロエチレン−プロピレン系(FEPM)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロビニルエーテル系(FFKM)等を使用することができる。
【0036】
ゴム層100に使用されるゴム組成物には、軟化剤(可塑剤)を含有させることも可能である。軟化剤(可塑剤)は、ゴム組成物に柔軟性を付与してその硬度を下げるために配合されるもので、ゴム成分と親和性の良好なものが好適に使用される。
そのような軟化剤としては、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、芳香族系オイル等が挙げられ、特にエチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体に対して親和性の優れたパラフィン系オイルが好ましい。パラフィン系オイルは、通常炭素数10〜20程度の直鎖状又は分岐状の炭化水素である。このパラフィン系オイルのうち、低温下においてもその機能を発揮させるために、−30℃以下の流動点(JIS K 2269に準拠)を有するものが好ましい。なお、ゴム成分として油展ゴムを使用する場合には、鉱油としてこれらの軟化剤と同様のものを使用することができる。
【0037】
軟化剤の含有量は、ゴム層100に使用されるゴム組成物の柔軟性を十分に付与するために、ゴム組成物のゴム成分100重量部当たり、300〜400重量部であり、300〜350重量部であることが好ましい。軟化剤の含有量が300重量部未満の場合には、ゴム組成物より得られる成形物(ゴム成形物)の硬さを目的とする程度まで下げることができなくなる。その一方、400重量部を越える場合には、軟化剤の含有量が過剰になって過剰分の軟化剤が成形物表面へブリードし、そこで強い粘着性が発現されるおそれがある。
【0038】
また、ゴム層100に使用されるゴム組成物には、架橋剤(加硫剤)を含有させることが可能である。架橋剤としては、硫黄、二塩化硫黄、モルホリンジスルフィド、ジチオジカプロラクタム、エチレンチオウレア、m−フェニレンジマレイミド、ジクミルパーオキサイド等を用いることが可能である。
また、架橋剤として、脂肪族または脂環族系過酸化物を配合することができる。脂肪族または脂環族系過酸化物としては、たとえば3,3,5−トリメチルヘキサノンパーオキシド,ジイソブチリルパーオキシド、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン,2,5−ジメチル2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン,2,5−ジメチル2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3,n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレイト,ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート等が挙げられる。
【0039】
さらには、架橋剤に加えて架橋助剤を含有させることも可能である。架橋助剤としては、例えば、トリエチレングリコールジメタアクリレート,トリメチロールプロパントリメタアクリレート,1,2−ポリブタジエン,ビニルトリメトキシシラン,ビニルトリアセトキシシラン,γ−メタアクリルオキシプロピルトリメトキシシラン,γ−グリシドオキシプロピル−トリ−メトキシシラン等を配合することが可能である。
【0040】
また、ゴム層100に使用されるゴム組成物には、架橋促進剤(加硫促進剤)を含有させることが可能である。架橋促進剤(加硫促進剤)としては、チウラム系、チアゾール系、スルフェンアミド系、ジチオカルバメート系、スルフィド系、チオ尿素系の化合物を含有させることが可能である。具体的には、ジベンゾチアゾルジスルフィド、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、テトラメチルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、2−メルカプトベンゾチアゾール等を用いることができる。
【0041】
また、ゴム層100に使用されるゴム組成物には、充填剤を含有させることも可能である。充填剤としては、無機系充填剤若しくは有機系充填剤のいずれも用いることが可能である。
【0042】
無機系充填剤としては、アルミニウム、銅、鉄、鉛、ニッケル、銀等の金属粉、シリカ、ケイ藻土、アルミナ、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化ベリリウム等の酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、アルミネート水和物等の水酸化物、タルク、クレイ、マイカ、アスベスト、ベントナイト、ゼビオライト、ケイ酸カルシウム、モンモリロナイト等のケイ酸塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト等の炭酸塩、硫酸塩硫酸カルシウム、亜硫酸塩硫酸カルシウム、硫酸バリウム、亜硫酸カルシウム等の硫酸塩を使用することが可能であり、さらに、二硫化モリブデン、チタン酸カリウム、炭化ケイ素等も使用することが可能である。
【0043】
また、有機系充填剤としては、リンター、リネン、サイザル木粉、絹、皮革粉、コラーゲン繊維、ビスコース、アセテート、ビニロン、テフロン(登録商標)粉等を使用することが可能である。
【0044】
また、ゴム層100に使用されるゴム組成物には、発泡剤を含有させることも可能である。発泡剤としては、例えば、重炭酸ナトリウム等の無機発泡剤、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン等のニトロソ化合物、アゾジカルボンアミド等のアゾ化合物、ベンゼンスルホニルヒドラジド、p,p’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)等のカルホニルヒドラジド系化合物等を含有させることが可能である。特に、p,p’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)等のカルホニルヒドラジド系化合物が好ましい。発泡剤の配合量は、ゴム組成物100重量部に対して、0.05〜25重量部、好ましくは1〜20重量部、より好ましくは3〜10重量部である。
【0045】
また、ゴム層100に使用されるゴム組成物には、加工助剤を含有させることも可能である。加工助剤としては、パラフィンワックス類、流動パラフィン、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド等を含有させることができる。具体的には、ポリエチレンワックス、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、サブ(ファクチス)等である。その他、市販の特殊加工助剤(例えば、スプレンダーR−100、エクストンK−1、サンエイドHP、ヨドプラスト−P、TE−80(Technical Processing社製品)、アクチプラスト、アフラックス42、ストラクトールWB212等)も含有させることができる。これらの加工助剤は、単独または2種以上を組み合わせて用いられる。加工助剤の配合量は、ゴム組成物100重量部に対して、0.1〜20重量部、好ましくは1〜15重量部、より好ましくは1〜10重量部である。
【0046】
また、ゴム層100に使用されるゴム組成物には、着色剤を含有させることも可能である。着色剤としては、酸化チタン、亜鉛華、鉛白、鉛丹、亜酸化銅、黄色酸化鉄、鉄黒、カドミウムイエロー、モリブデンレッド、銀朱、黄鉛、酸化クロム、紺青、ベンガラ等の無機顔料や、チオインジゴレッド、フタロシアニンブルー、キナクリドンレッド、キノフタロイエロー、縮合アゾイエロー、群青等の有機顔料等を含有させることができる。
【0047】
さらには、ゴム層100に使用されるゴム組成物には、補強材や難燃剤を含有させることも可能である。
補強材としては、カーボンブラック、シリカ等を用いることができる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック等を使用することができる。難燃剤としては、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム等を用いることができる。
【0048】
〔コーティング層〕
次に、コーティング層200は、樹脂コーティング層、若しくは、固体潤滑コーティング層で形成することができる。
【0049】
樹脂コーティング層を形成する樹脂は、例えば、フッ素樹脂やシリコーン樹脂等を使用することができる。
【0050】
固体潤滑コーティング層を形成する固体潤滑材は、例えば、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、黒鉛、窒化ホウ素、ボロンナイトライト等を使用することができる。
【0051】
フッ素樹脂としては、例えば、エチレンとテトラフルオロエチレンの共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(CTFE)、エチレンとクロロトリフルオロエチレンの共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデンとテトラフルオロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体(VDF−HFP系)、フッ化ビニリデンとテトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンの三元共重合体(VDF−HFP−TFE系)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルの共重合体(PFA)、フッ化ビニリデンとテトラフルオロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体等を使用することができる。また、これらは単独であるいは2種類以上併用される。このなかでも、加工性、耐久性が優れるという理由からFEPが好適に使用される。
【0052】
コーティング層200の材料としてフッ素樹脂を用いる場合は、物性改良の目的で充填剤を配合することが可能である。フッ素樹脂に含有される充填剤としては、例えば、酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ、カーボンブラック、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、酸化亜鉛、アルミナ、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、タルク、二酸化モリブデン、ウィスカー、短繊維類、黒鉛、金属粉、ケイ砂、軽石粉、スレート粉、雲母粉、アスベスト、ガラス球等を用いることが可能である。
充填剤の配合割合は、通常、フッ素樹脂100重量部に対し、30重量部以下に設定され、好ましくは、5〜20重量部の範囲に設定される。
【0053】
また、コーティング層200の材料としてフッ素樹脂を用いる場合は、フッ素樹脂は導電性を付与することが好ましい。なぜならば、本実施形態に係る積層体900は、後述するように、ガソリン等の燃料タンクの排出口とその排出口に取り付けられるキャップとの間に挟み込まれて使用される燃料用ガスケット等として使用されることがある。そうすると、積層体900に静電気が発生すると、燃料に引火する危険性があるからである。
【0054】
フッ素樹脂への導電性の付与は、例えば、フッ素樹脂に導電剤を配合することによりその目的を達成することができる。導電剤としては、カーボンブラック、微細なステンレス性金属繊維類等を用いることができる。導電剤の配合割合は、フッ素樹脂100重量部に対し、0.5〜30重量部の範囲で配合することが好ましい。なぜならば、かかる範囲で導電剤を配合すると、積層体900におけるコーティング層200の体積低効率が1010Ω・cm以下となって、静電気を積層体900の外部に放電して逃がすことが容易となるからである。
【0055】
二硫化モリブデンは、組成式MoSで表される黒色の固体である。六方晶型の層状結晶構造を持ち、各層はモリブデンの層の両面を硫黄で挟んだ構造となっている。モリブデンと硫黄との結合が強固であるのに対し、硫黄同士の結合は弱いので、せん断力が加わると容易に各層間がすべる。このため摩擦係数が低くなり、摺動性を有するため、二硫化モリブデンは好適に使用できる。
【0056】
また、シリコーン樹脂も優れた表面摺動性を有するため、好適に使用することができる。シリコーン樹脂としては、例えば、メチル基、ビニル基、フェニル基、フルオロ基含有の官能基等を有するオルガノポリシロキサン、具体的には、ジメチルポリシロキサン、メチルビニルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、γ−トリフルオロプロピルメチルポリシロキサン等のオルガノポリシロキサンからなるシリコーン樹脂を使用することができる。
【0057】
また、コーティング層200に使用される材料として変成シリコーン樹脂を用いることができる。変成シリコーン樹脂は、反応性ケイ素基含有オリゴマーがシロキサン結合を形成することにより硬化するものである。反応性ケイ素基含有オリゴマーとしては、例えば末端に反応性ケイ素基を有するオキシアルキレン系重合体等が挙げられる。反応性ケイ素基はケイ素原子に結合した水酸基又は加水分解性基を有し、シロキサン結合を形成することにより架橋しうる基である。
【0058】
シリコーン樹脂若しくは変成シリコーン樹脂の硬化触媒として、有機錫、無機錫、チタン触媒、ビスマス触媒、金属錯体、白金触媒、塩基性物質及び有機燐酸化物等が使用される。有機錫の具体例としては、ジブチル錫ジラウリレート、ジオクチル錫ジマレート、ジブチル錫フタレート、オクチル酸第一錫、ジブチル錫ジアセテート等、ジブチル錫塩と正珪酸エチルとの反応生成物等が挙げられる。金属錯体としては、テトラブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、トリエタノールアミンチタネート、エチルアセチルチタネート等のチタネート化合物類、オクチル酸鉛、ナフテン酸鉛、ナフテン酸ニッケル、ナフテン酸コバルト等のカルボン酸金属塩、アルミニウムアセチルアセテート錯体等の金属アセチルアセテート錯体、バナジウムアセチルアセトナート錯体等の金属アセチルアセトナート錯体等が挙げられる。
【0059】
シリコーン樹脂若しくは変成シリコーン樹脂には、充填材を含有させることができる。充填材は粘度調整、粘性調整、固形分調整等の目的で配合され、具体例として炭酸カルシウム、硅砂、タルク、カーボンブラック、酸化チタン、カオリン等の無機充填材、硬化樹脂の補強のためにガラス繊維等の補強材、軽量化及び粘度調整等のためにシラスバルーン、ガラスバルーン等の中空体等が挙げられる。なかでも、重質炭酸カルシウム、コロイド質炭酸カルシウム、表面処理炭酸カルシウム等炭酸カルシウム系充填材が樹脂との混和性、混和された樹脂の安定性、コスト等の面から好ましい。
【0060】
コーティング層200には、各種安定剤を配合することができる。安定剤としては、例えば、フェノール系、リン系、硫黄系等の酸化防止剤や、ヒンダードアミン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾエート系等の紫外線吸収剤等を含有させることが可能である。安定剤としては、リン系酸化防止剤の配合が好ましく、リン系酸化防止剤単独またはその他の酸化防止剤及び/又は紫外線吸収剤とを併用して用いられる。
【0061】
コーティング層200の厚みは、積層体900の用途により種々変更することが可能であるが、例えば2μm〜100μmとすることができる。厚みが2μmよりも小さいとコーティング層200の摩耗によりコーティング層200で覆われない部分が生じるおそれがあるからである。一方、厚みが100μmよりも大きいとコーティング層200にクラックやシワが発生する可能性があるからである。
【0062】
本実施形態に係る積層体900は、ゴム層100の主面は砥石にて研削した研削面110であり、該研削面110にコーティング層200が形成されている。そのため、コーティング層200は、研削面110を介してゴム層100に強固に接着されており、コーティング層200はゴム層100から剥離しにくく、コーティング層200のクラックの発生等が生じにくい。
【0063】
〔積層体の製造方法〕
以下に、本実施形態に係る積層体900の製造方法を説明する。なお、以下に説明する積層体900の製造方法は、金属ワーク上に積層体900を形成する例であるが、それは一具体例であり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0064】
まず、容器形状の金属ワークを準備する。金属ワークを形成する金属としてはSPCC、SUS、アルミニウム、黄銅、亜鉛、銅合金等が用いられる。
【0065】
そして、金属ワークにブラスト処理を行う。ブラスト処理は、ショットブラスト処理(投射材と呼ばれる粒体を金属ワークに衝突させる処理)にて行う。ブラスト処理は、金属ワークのバリの除去や、後述するように金属ワークとゴム層との接着性の向上等のために行われる。そして、金属ワークの脱脂及び洗浄を行う。
【0066】
次に、金属ワークに加硫接着剤を塗布する。加硫接着剤は、ニトリルゴム(NBR)と金属との接着には塩化ゴム系かフェノール系の接着剤が好適に用いられる。また、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)と金属とを接着させるにはハイパロン系接着剤が好適に用いられる。フッ素ゴム(FKM)と金属との接着にはシラン系接着剤が好適に用いられる。
【0067】
金属ワークに加硫接着剤を塗布した後は、室温にて約30〜60分、又は、120℃で数分乾燥させる。
【0068】
次に、ゴム層100を準備する。ゴム層100に対しては、必要に応じて上述した軟化剤(可塑剤)、架橋剤(加硫剤)、架橋助剤、架橋促進剤(加硫促進剤)、充填剤、発泡剤、補強材、難燃剤、加工助剤、着色剤等を所定の割合で含有させる。
【0069】
加硫接着剤を塗布した金属ワークに、ゴム層100をいれて、加圧接着を行なうことにより、ゴム層100と金属ワークとの加硫接着を行う。
【0070】
次に、ゴム層100の一方の主面を砥石で研削する(研削工程)。研削を仮にショットブラスト処理で行った場合は、できあがった研削面110が荒くなりすぎて、研削面110上に均一にコーティング層200を形成することが困難となりうる。また、研削を仮にプラズマ処理で行った場合は、ゴム層100を形成するゴム組成物が劣化するおそれがあり得る。したがって、ゴム層100の一方の主面の研削は砥石で行う。また、砥石での研削は常温で行うことができるので、ゴム層100を形成するゴム組成物を劣化させるおそれがないという利点もある。
【0071】
また、研削工程では、研削代(研削体積)を約30〜60μmにすることが好ましい。
【0072】
研削工程での研削作業は、ドレッサとしては、例えばロータリードレッサ、インプリドレッサ、ホイールドレッサ等を使用することができる。ドレッサは、砥石の砥石面の凹凸をなくして平坦に整形(ドレッシング)するためのものである。
研削液は、例えばエマルジョン型、ソリューブル型等のものを使用することができる。
【0073】
シート状のゴム層100の一方の主面を砥石で研削した後は、洗浄液で脱脂・洗浄を行う。洗浄液はアルコールを使用する。
【0074】
洗浄後は、研削面110にコーティング層200を形成する(コーティング工程)。コーティング層200は、上述したように、フッ素樹脂、二硫化モリブデン、シリコーン樹脂等で形成することができる。
【0075】
フッ素樹脂によるコーティング層200の形成は、フッ素樹脂をゴム層100の研削面110に塗布するか、若しくはフッ素ラテックスをスプレー塗布することで形成する。
【0076】
二硫化モリブデンによるコーティング層200の形成は、二硫化モリブデンの微細粉末を溶剤に分散させた分散液を研削面110に塗布することで形成する。溶剤としては、トルエン、キシレン、塩化メチレン、塩化アミル、ステアリン酸ブチル、酢酸イソプロピル、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、エピクロルヒドリン、ジオキサン、セロソルブアセテイト、メチルセロソルブ、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノール、フロン系溶剤、及びこれらの溶剤と水との混合溶剤等を使用することができる。
【0077】
シリコーン樹脂によるコーティング層200の形成は、シリコーン樹脂をゴム層100の研削面110に塗布することで行う。
【0078】
コーティング工程の後は、焼成を行う(焼成工程)。焼成の時間は、焼成温度によって異なるが、例えば30〜60分程度とすることが好ましい。焼成温度は、ゴム層100に使用されるゴム組成物の種類により異なる。例えばゴム組成物がフッ素ゴム(FKM)で形成されている場合は、フッ素ゴムは使用可能温度範囲が約−30〜230℃であるから、焼成を行うことができる温度範囲は、250℃近傍が望ましい。また例えばゴム組成物が水素化ニトリルゴム(HNBR)で形成されている場合は、水素化ニトリルゴムは使用可能温度範囲が約−40〜120℃であるから、焼成を行うことができる温度範囲は、160℃近傍が望ましい。また例えばゴム組成物がエチレンプロピレンゴム(EPM・EPDM)で形成されている場合は、EPDMは使用可能温度範囲が約−40〜150℃であるから、焼成を行うことができる温度範囲は、160℃近傍が望ましい。
焼成を行うことにより、実施形態に係る積層体900が得られる。
【0079】
〔シール部材〕
本実施形態に係る積層体はシール部材800として使用できる。シール部材800は、図5に示されるように、断面略C字形状のリングである。本実施形態に係るシール部材800は、例えば自動車の燃料キャップに装着されるガスケットである。
【0080】
シール部材800のC字の下先端部には第1リップ510が形成されており、C字の上先端部には第2リップ520が形成されている。第1リップ510と第2リップ520とは連結部530で連結されている。
【0081】
第1リップ510は、第1シール壁面511で、フィラーネック210に押しつけられる。第2リップ520は、第2シール壁面521で、シール保持部材230に押しつけられる。シール保持部材230の下部には、スクリュー状のタンク口220が設けられている。
【0082】
シール部材800は、外側をコーティング層200で形成し、内側をゴム層100で形成する。ゴム層100の主面は、砥石にて研削した研削面110であり、コーティング層200は研削面110に形成されている。
【0083】
ゴム層100を形成する材料は特に限定されないが、例えば、上述したように、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM・ANM)等で形成することができる。
また、コーティング層200は、上述したように、フッ素樹脂、二硫化モリブデン、シリコーン樹脂等で形成することが可能である。
【0084】
シール部材800の内側がゴム層100で形成されているから、タンク内部からの燃料が外部に流出するおそれはない。そして、シール部材800の外側がコーティング層200で形成されているから、フィラーネック210及びシール保持部材230と接する部分の摺動性を向上させることができる。さらに、コーティング層200は、ゴム層100の研削面110に形成されているから、たとえ低温領域若しくは高温領域で、シール部材800を使用したとしても、コーティング層200が剥離するおそれや、クラック等の発生する可能性は少ない。
【0085】
(実施形態2)
〔積層体〕
本実施形態に係る積層体900は、図3に示されるように、研削面110は、ゴム層100の主面の端部に砥石にて研削したテーパ面を有する。
【0086】
積層体900を金属ワークに形成する場合、金属ワークとゴム基材とを加硫接着すると、ゴム基材の中央部が凹む一方、ゴム基材の両端部が盛り上がることがある。そこで、加硫接着を行った後にゴム基材の主面の端部を砥石にて研削する。そうすると、たとえゴム基材の両端部が盛り上がったとしても、ゴム基材の主面を平坦に保つことができるから、コーティング層200の剥離や、クラック発生等が生じにくくなる。
【0087】
図4に示すように、テーパ面のテーパの角度Θは、5度以上15度以下とすることが好ましい。テーパの角度Θが5度よりも小さい場合は、テーパの角度が小さくてゴム基材の主面の平坦性が担保できない可能性があり得るからである。一方、テーパの角度Θが15度よりも大きい場合は、テーパ面に角度がつきすぎて、テーパ面の平坦性が失われるおそれがありうるからである。
【0088】
〔積層体の製造方法〕
以下に、本実施形態に係る積層体900の製造方法を説明する。
シート状のゴム層100の一方の主面を砥石で研削するところまでは、実施形態1に係る研削工程と同様である。
【0089】
次に、ゴム層100の一方の主面の端部を砥石にて研削することでテーパ面を形成する。テーパ面のテーパの角度は5度以上15度以下とすることが好ましい。
【0090】
砥石は、例えば、先端部が釣鐘状研削部で形成されている砥石を用いる。そして、砥石を釣鐘状研削部の垂線に対して所定角度で傾斜させた後、ゴム層100の一方の主面の端部に砥石を当接させる。そして砥石を回転させながら、所定の深さだけ研削除去し、これによってゴム層100の一方の主面の端部を粗仕上研削を行う。次に、砥石を僅かな距離だけゴム層100の一方の主面の端部にさらに接近させて、僅かの深さだけ研削除去して、これによって仕上研削を行う。
【0091】
シート状のゴム層100の一方の主面を砥石で研削した後は、実施形態1と同様に、研削面110にコーティング層200を形成する。そして、焼成を行う。これにより、実施形態2に係る積層体900を得ることができる。
【0092】
(その他の実施形態)
上述の実施形態では、積層体900は、シール部材に使用された。もっとも、これに限定されず、ロール材、パッキン、ダイヤフラム、バルブ、ホース部材等に使用することができる。尚、これら用途において剛体インサートは必須のものとなる。
【0093】
上述の積層体900の製造方法の実施形態では、金属ワークに積層体900を形成するものであったが、これに限定されない。金属ワークとは関係なく積層体900を形成することも可能である。かかる場合においても、研削面110を介してゴム層100に強固に接着されているから、コーティング層200はゴム層100から剥離しにくく、コーティング層200のクラック発生等が生じにくいという本発明の利益が享受される。
【0094】
上述の積層体900の製造方法の実施形態では、金属ワークは容器形状のものであったが、これに限定されず、管状、平板状、円錐状、球状、その他種々の形状の金属ワークを用いることが可能である。
【0095】
実施形態に係る積層体900は、シート状の積層体に限定されず、その形態は問わない。例えば、ガソリン等と接触する内層としてコーティング層200が形成され、この内層の外周面にゴム層100が形成されている燃料タンクや薬品タンク等の容器形状の積層体900も可能である。
【0096】
上述の実施形態では、研削に使用する砥石は、砥石の種類、粒度、結合度、結合剤、砥石の組織がそれぞれ同一の種類のものであった。しかし、このような実施形態に限定されない。研削に使用する砥石は、砥石の種類、粒度、結合度、結合剤及び砥石の組織において、少なくとも一つが異なる種類のものを使用する砥石であることも可能である。
【0097】
上述の実施形態では、コーティング層200は接着剤を使用せずに、ゴム層100の研削面110に形成された。もっともこのような実施形態に限定されず、接着剤を使用することも可能である。
【実施例】
【0098】
(実施例1)
〔実施例1に係る積層体900〕
実施例1に係る積層体900において、ゴム層100を形成するゴム組成物は水素化ニトリルゴム(HNBR)を用いた。HNBRは、日本ゼオン社製の「ZETPOL」を用いた。ゴム層100の厚みは2mmであった。
コーティング層200を形成する樹脂は、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)を使用した。
【0099】
〔実施例1に係る積層体900の製造〕
まず、銅で形成された容器形状の金属ワークを準備した。そして、金属ワークにショットブラスト処理を行った。次に、金属ワークに加硫接着剤を塗布した。加硫接着剤は、東洋化学社製の上塗り剤「メタロックF−16」/下塗り剤「メタロックPH−50」を塗布した。その後は、120℃で10分間、乾燥させた。そして、加硫接着剤を塗布した金属ワークに、ゴム層100をいれて、加圧接着を行なった。ゴム層100を形成するゴム組成物は水素化ニトリルゴム(HNBR)を用いた。
次に、ゴム層100の一方の主面を砥石で研削した。砥石は、ノリタケカンパニー社製の砥石(VRG)を使用した。ドレッサはロータリードレッサを使用した。
その後、エチルアルコールで脱脂・洗浄を行い、FEPをコーティングした。そして、160℃で焼成した。これにより実施例1に係る積層体900を得た。
【0100】
〔低温加圧試験〕
−35℃雰囲気下において、実施例1に係る積層体900につき、加圧時のクラック及びシワの発生の有無を試験した(低温加圧試験)。
低温加圧試験は、積層体900を静置させて、コーティング層200のほうからステンレス製の弁座と接触させた状態で−35℃雰囲気下に投入した。そしてステンレス製の弁座で積層体900にテンションを付加し、50Nに達するまで加圧した。ステンレス製の弁座での加圧は3回繰り返し、コーティング層200の表面にクラックやシワが発生しないかを目視で確認した。
低温加圧試験の結果、実施例1に係る積層体900については、クラックもシワも発生しなかった。
【0101】
〔高温加圧試験〕
また、120℃雰囲気下において、実施例1に係る積層体900につき、加圧時のクラック及びシワの発生の有無を試験した(高温加圧試験)。
高温加圧試験は、低温加圧試験において、雰囲気温度を−35℃から120℃に変更した以外は同一条件下で行った。
高温加圧試験の結果、実施例1に係る積層体900については、クラックもシワも発生しなかった。
【0102】
〔低温曲げ試験〕
次に、−35℃雰囲気下において、実施例1に係る積層体900につき、曲げ時のクラック及びシワの発生の有無を試験した(低温曲げ試験)。
低温曲げ試験は、−35℃雰囲気下で、積層体900の両端部を把持し、積層体900の中央部を折り曲げた。折り曲げは、ゴム層100が内側に、コーティング層200が外側になるように折り曲げた。折り曲げは、折り曲げたゴム層100が30度程度になるまで行った。そして、コーティング層200の表面にクラックやシワが発生しないかを目視で確認した(低温曲げ試験)。
低温曲げ試験の結果、実施例1に係る積層体900については、クラックもシワも発生しなかった。
【0103】
〔高温曲げ試験〕
また、120℃雰囲気下において、実施例1に係る積層体900につき、曲げ時のクラック及びシワの発生の有無を試験した(高温曲げ試験)。
高温曲げ試験は、低温曲げ試験において、雰囲気温度を−35℃から120℃に変更した以外は同一条件下で行った。
高温曲げ試験の結果、実施例1に係る積層体900については、クラックもシワも発生しなかった。
【0104】
〔低温復元試験〕
次に、実施例1に係る積層体900につき、一定の伸張を与えて凍結させた試験片を徐々に昇温させたときの伸びの回復率を測定した(TR試験〜JISK6261)。凍結温度は−70℃であり、そこから昇温速度2℃/2minで昇温させた。そして、ゴムが10%収縮したときの温度(TR10)を測定した。実施例1に係る積層体900は、TR10は−31℃であった。
一方、比較例として、コーティング層200を有さない、厚さ2mmの水素化ニトリルゴム(HNBR)のゴム層につき、同様に、TR10を測定したところ、−31℃であった。
低温復元試験の結果、実施例1に係る積層体900についてはクラックもシワも発生しなかった。
また、実施例1に係る積層体900の低温復元試験は、コーティング層200を有さないゴム層と、ほぼ同様であることが判明した。これにより、実施例1に係る積層体900は、コーティング層200を有しないゴム層と、ほぼ同様の剛性を有することが判明した。
【0105】
(実施例2)
〔実施例2に係る積層体900〕
実施例2に係る積層体900において、ゴム層100を形成するゴム組成物はフッ素ゴム(FKM)を用いた。それ以外は実施例1に係る積層体900と同様であった。フッ素ゴムは、デュポン社製の「バイトン」を使用した。
【0106】
〔実施例2に係る積層体900の製造〕
金属ワークとゴム層100との加硫接着を行うための加硫接着剤として、シラン系接着剤を用い、そして、コーティング層200を形成した後の焼成温度を250℃とした以外は実施例1に係る製造方法と同様であった。
【0107】
〔低温加圧試験〕
−35℃雰囲気下において、実施例2に係る積層体900につき、加圧時のクラック及びシワの発生の有無を試験した(低温加圧試験)。試験は実施例1と同様に行った。
低温加圧試験の結果、実施例2に係る積層体900については、クラックもシワも発生しなかった。
【0108】
〔高温加圧試験〕
また、120℃雰囲気下において、実施例2に係る積層体900につき、加圧時のクラック及びシワの発生の有無を試験した(高温加圧試験)。試験は実施例1と同様に行った。
高温加圧試験の結果、実施例2に係る積層体900については、クラックもシワも発生しなかった。
【0109】
〔低温曲げ試験〕
次に、−35℃雰囲気下において、実施例2に係る積層体900につき、曲げ時のクラック及びシワの発生の有無を試験した(低温曲げ試験)。試験は実施例1と同様に行った。
低温曲げ試験の結果、実施例2に係る積層体900については、クラックもシワも発生しなかった。
【0110】
〔高温曲げ試験〕
また、120℃雰囲気下において、実施例2に係る積層体900につき、曲げ時のクラック及びシワの発生の有無を試験した(高温曲げ試験)。試験は実施例1と同様に行った。
高温曲げ試験の結果、実施例2に係る積層体900については、クラックもシワも発生しなかった。
【0111】
〔低温復元試験〕
次に、実施例2に係る積層体900につき、一定の伸張を与えて凍結させた試験片を徐々に昇温させたときの伸びの回復率を測定した(TR試験〜JISK6261)。試験は実施例1と同様に行った。
実施例2に係る積層体900の低温復元試験は、コーティング層200を有さないゴム層と、ほぼ同様であることが判明した。
【0112】
(実施例3)
〔実施例3に係る積層体900〕
実施例3に係る積層体900において、ゴム層100を形成するゴム組成物はエチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)を用いた。それ以外は実施例1に係る積層体900と同様であった。EPDMは、住友化学株式会社製の「エスプレインEPDM」を使用した。
【0113】
〔実施例3に係る積層体900の製造〕
金属ワークとゴム層100との加硫接着を行うための加硫接着剤として、ハイパロン系接着剤を用い、その他は実施例1に係る製造方法と同様であった。
【0114】
〔低温加圧試験〕
−35℃雰囲気下において、実施例3に係る積層体900につき、加圧時のクラック及びシワの発生の有無を試験した(低温加圧試験)。試験は実施例1と同様に行った。
低温加圧試験の結果、実施例3に係る積層体900については、クラックもシワも発生しなかった。
【0115】
〔高温加圧試験〕
また、120℃雰囲気下において、実施例3に係る積層体900につき、加圧時のクラック及びシワの発生の有無を試験した(高温加圧試験)。試験は実施例1と同様に行った。
高温加圧試験の結果、実施例3に係る積層体900については、クラックもシワも発生しなかった。
【0116】
〔低温曲げ試験〕
次に、−35℃雰囲気下において、実施例3に係る積層体900につき、曲げ時のクラック及びシワの発生の有無を試験した(低温曲げ試験)。試験は実施例1と同様に行った。
低温曲げ試験の結果、実施例3に係る積層体900については、クラックもシワも発生しなかった。
【0117】
〔高温曲げ試験〕
また、120℃雰囲気下において、実施例3に係る積層体900につき、曲げ時のクラック及びシワの発生の有無を試験した(高温曲げ試験)。試験は実施例1と同様に行った。
高温曲げ試験の結果、実施例3に係る積層体900については、クラックもシワも発生しなかった。
【0118】
〔低温復元試験〕
次に、実施例3に係る積層体900につき、一定の伸張を与えて凍結させた試験片を徐々に昇温させたときの伸びの回復率を測定した(TR試験〜JISK6261)。試験は実施例1と同様に行った。
実施例3に係る積層体900の低温復元試験は、コーティング層200を有さないゴム層と、ほぼ同様であることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】実施形態1に係る積層体の断面を説明する図である。
【図2】実施形態1に係る積層体の研削面を拡大して説明する図である。
【図3】実施形態2に係る積層体の断面を説明する図であり、テーパ部が形成されている図である。
【図4】実施形態2に係る積層体の研削面のテーパ部を拡大して説明する図である。
【図5】実施形態に係る積層体を使用したシール部材を説明する図である。
【符号の説明】
【0120】
100 ゴム層
110 研削面
200 コーティング層
230 シール保持部材
510 第1リップ
511 第1シール壁面
520 第2リップ
521 第2シール壁面
530 連結部
800 シール部材
900 積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の主面を砥石にて研削した研削面を有する、基材としてのゴム層と、
前記ゴム層の研削面に形成されたコーティング層と、
を有することを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記研削面は平面である、
ことを特徴とする請求項1記載の積層体。
【請求項3】
前記研削面は、前記ゴム層の主面の端部に砥石にて研削したテーパ面を有する、
ことを特徴とする請求項1記載の積層体。
【請求項4】
前記テーパ面のテーパの角度は、5度以上15度以下である、
ことを特徴とする請求項3記載の積層体。
【請求項5】
前記研削面の表面粗さは、最大高さが3.2μm以上6.3μm以下である、
ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の積層体。
【請求項6】
前記ゴム層は、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、カルボキシル化ニトリルゴム(XNBR)、アクリロニトリル−ブタジエン−イソプレンゴム(NBIR)、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM・ANM)、ポリエステルウレタンゴム(AU)、ポリエーテルウレタンゴム(EU)、エチレンプロピレンゴム(EPM・EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム(CSM)、エピクロルヒドリンゴム(ECO)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム(IIR)、ビニルメチルシリコーンゴム(VMQ)、フッ素化シリコーンゴム(FVMQ)、多硫化ゴム(T)及びノルボルネンゴム(NOR)のうち少なくとも何れか一つを含有するゴムから形成される、
ことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の積層体。
【請求項7】
前記コーティング層は、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、黒鉛、窒化ホウ素及びボロンナイトライトのうち少なくとも何れか一つを含有する、
ことを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の積層体。
【請求項8】
ゴム層の一方の主面を砥石にて研削して研削面を形成する研削工程と、
前記ゴム層の研削面に、コーティング層を形成するコーティング工程と、
を有することを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項9】
前記研削工程において、前記研削面を平面に形成する、
ことを特徴とする請求項8記載の積層体の製造方法。
【請求項10】
前記研削工程では、さらに、前記ゴム層の一方の主面の端部を砥石にて研削してテーパ面を形成する、
ことを特徴とする請求項8記載の積層体の製造方法。
【請求項11】
前記テーパ面のテーパの角度は、5度以上15度以下である、
ことを特徴とする請求項10記載の積層体の製造方法。
【請求項12】
前記研削工程では、前記砥石にて研削した研削面の表面粗さは、最大高さが3.2μm以上6.3μm以下である、
ことを特徴とする請求項8乃至11の何れか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項13】
一方の部品が他方の部品に対して摺動する一対の部品間に挟み込まれてこれらの隙間をシールするシール部材であって、
前記シール部材の材質として、請求項1乃至7の何れかに記載の積層体を、前記コーティング層を前記一方の部品の側に配置させ、前記ゴム層を前記他方の部品の側に配置させて用いる、
ことを特徴とするシール部材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−172806(P2009−172806A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−12042(P2008−12042)
【出願日】平成20年1月22日(2008.1.22)
【出願人】(000005175)藤倉ゴム工業株式会社 (120)
【Fターム(参考)】