説明

積層体およびその製造方法

【課題】コート層を設けた熱可塑性樹脂フィルムと他方の熱可塑性樹脂フィルムとを接着剤を使用せずに接着した積層体であって、異物や残留溶剤等が滲出することがなく、かつ、密着性、ガスバリア性、強度に優れる積層体を提供する。
【解決手段】第一の熱可塑性樹脂フィルムと、第二の熱可塑性樹脂フィルムおよび前記第二の熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に設けられたコート層を備えた積層フィルムとが、前記第一の熱可塑性樹脂フィルムと前記コート層とが対向するように積層した積層体であって、前記第一の熱可塑性樹脂フィルムと前記コート層との界面の少なくとも一部で、前記第一の熱可塑性樹脂フィルム中の原子と、前記コート層中の原子との間に結合が形成されており、第一の熱可塑性樹脂フィルムおよび前記積層フィルムが、接着剤を介さずに接着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体に関し、さらに詳細には、第一の熱可塑性樹脂フィルムと、第二の熱可塑性樹脂フィルムおよび前記第二の熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に設けられたコート層を備えた積層フィルムとを、第一の熱可塑性樹脂フィルムとコート層とが対向するように、接着剤を介さずに接着した積層体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルム等を袋状に加工した包装体が使用されている。このような包装体は、充填される内容物に応じて所望される機能を発現させるために、使用するフィルムとして種々の材料を積層した多機能フィルム等が使用されている。このような多機能フィルムとして、内容物の保存や包装形態の維持、品質保証等において、飲食品や医薬品、電子部材等のパッケージ材料としてガスバリア性フィルムに、強度が高くガスバリア性にも優れるポリエステル樹脂フィルムを積層した積層フィルムが知られている。
【0003】
包装体は、一般的に長尺状のフィルムを加工することより行われているが、袋状に加工するには、フィルムどうしを重ね合わせてその端部を接着することが行われている。フィルムどうしを接着する方法としては、ラミネート樹脂(接着剤)を接着しようとするフィルムの端部に塗布してフィルムどうしを押圧してシールしたり、フィルムどうしを重ね合わせて、その端部に熱を加えて融着させるいわゆるヒートシール加工が行われるのが一般的である。また、包装体の材料となる積層フィルムも、溶融押出加工により2種以上のフィルムを積層したり、また、ラミネート樹脂を介して2種以上のフィルムを積層することが行われている。
【0004】
異種材料からなるフィルムどうしをラミネート樹脂を介して接着し包装体としたものは、ラミネート樹脂成分が徐々に包装体内に溶出または揮発し、内容物を変質させる場合があり、特に、安全性やクリーン性が重視される医療用分野においては、ラミネート樹脂による内容物の汚染が問題となることがあった。また、包装体の長期使用によりラミネート樹脂自体が劣化することもあり、特に屋外等で使用される外装用途においては、ラミネート加工した包装体の耐候性が問題となることもあった。また、接着剤を用いたラミネート技術においては、一般的に溶剤に希釈した樹脂成分を塗布することが行われるため、ラミネートして包装体等のような最終製品となった後にも溶剤が残留してしまうことがあった。
【0005】
ところで、放射線や電子線を用いて材料の表面改質を行うことが従来から行われている。例えば、特開2003−119293号公報(特許文献1)には、フッ素系樹脂に放射線を照射することにより架橋複合フッ素系樹脂が得られることが提案されている。また、Journal of Photopolymer Science and Technology Vol.19, No. 1 (2006), pp123-127(非特許文献1)には、ポリテトラフルオロエチレンフィルムとポリイミドフィルムとを積層させて高温下で電子線(以下、EBと略す場合もある)を照射することにより、互いを接着することが提案されている。また、Material Transactions Vol.50, No.7 (2009), pp1859-1863(非特許文献2)には、ポリカーボネート樹脂の表面をナイロンフィルムで覆い、その上から電子線(以下、EBと略す場合もある)を照射することにより、ポリカーボネート樹脂表面にナイロンフィルムを接着する技術が提案されている。さらに、日本金属学会誌第72巻第7号(2008)、pp526−531(非特許文献3)には、シリコーンゴム上に置いたナイロンフィルムの上からEBを照射することにより、互いを接着できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−119293号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of Photopolymer Science and Technology Vol.19, No. 1 (2006), pp123-127
【非特許文献2】Material Transactions Vol.50, No. 7(2009), pp1859-1863
【非特許文献3】日本金属学会誌第72巻第7号(2008)、pp526−531
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、今般、表面にコート層を設けた熱可塑性樹脂フィルムを積層した積層体の製造において、フィルム表面に電子線を照射することにより、ラミネート樹脂等を用いることなく、コート層を設けた熱可塑性樹脂フィルムと他方の熱可塑性樹脂フィルムとを強固に接着できることを見いだした。そして、コート層を設けた熱可塑性樹脂フィルムと他方の熱可塑性樹脂フィルムとを重ね合わせた積層体のように、従来、接着剤により互いを接着していた積層体であっても、電子線照射によれば、接着剤を使用しなくても、コート層を設けた熱可塑性樹脂フィルム側の原子と他方の熱可塑性樹脂フィルム側の原子との間に結合が形成されて、互いが強固に接着できる、との知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。
【0009】
したがって、本発明の目的は、コート層を設けた熱可塑性樹脂フィルムと他方の熱可塑性樹脂フィルムとを接着剤を使用せずに接着した積層体であって、異物や残留溶剤等が滲出することがなく、かつ、密着性、ガスバリア性、強度に優れる積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による積層体は、第一の熱可塑性樹脂フィルムと、第二の熱可塑性樹脂フィルムおよび前記第二の熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に設けられたコート層を備えた積層フィルムとが、前記第一の熱可塑性樹脂フィルムと前記コート層とが対向するように積層した積層体であって、
前記第一の熱可塑性樹脂フィルムと前記コート層との界面の少なくとも一部で、前記第一の熱可塑性樹脂フィルム中の原子と、前記コート層中の原子との間に結合が形成されており、第一の熱可塑性樹脂フィルムおよび前記積層フィルムが、接着剤を介さずに接着されていることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の態様として、前記第一の熱可塑性樹脂フィルムと前記コート層との界面の少なくとも一部で、前記第一の熱可塑性樹脂フィルム中の原子と、前記コート層中の原子との間で、酸素原子、窒素原子または水酸基を介して結合が形成されていることが好ましい。
【0012】
また、本発明の態様として、前記コート層が、プライマーコート剤、ウレタン系コート剤、ポリビニルアルコール系コート剤、ポリ塩化ビニリデン系コート剤、およびアクリル系コート剤からなる群から選択される塗布液を第一の熱可塑性樹脂フィルムの表面に塗布して乾燥させたものであることが好ましい。
【0013】
また、本発明の態様として、前記第二の熱可塑性樹脂フィルムと前記コート層との間に、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素からなる薄膜層が設けられてなることが好ましい。
【0014】
また、本発明の態様として、前記第一の熱可塑性樹脂フィルムの接着界面側に、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素からなる薄膜層およびコート層がこの順で設けられており、前記第一熱可塑性樹脂フィルム側のコート層と、前記積層フィルム側のコート層とが、接着剤を介さずに接着されていることが好ましい。
【0015】
また、本発明の態様として、前記第一の熱可塑性樹脂フィルムおよび第二の熱可塑性樹脂フィルムが、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート系樹脂、フッ素系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、アセタール系樹脂、ポリエステル系樹脂、およびポリアミド系樹脂からなる群から選択される樹脂からなることが好ましい。
【0016】
また、本発明の別の態様としての製造方法は、第一の熱可塑性樹脂フィルムと第二の熱可塑性樹脂フィルムおよび前記第二の熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に設けられたコート層を備えた積層フィルムとを積層した積層体を製造する方法であって、
前記第一の熱可塑性樹脂フィルムおよび/または前記積層フィルムのコート層の少なくとも一方の面、に電子線を照射し、
前記電子線が照射された前記第一の熱可塑性樹脂フィルム面および/または前記積層フィルムのコート層面を重ね合わせて接着する、ことを含んでなることを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明の態様として、前記第一の熱可塑性樹脂フィルム面および/または前記積層フィルムのコート層面を重ね合わせる前および/または重ね合わせた後に電子線照射を行うことが好ましい。
【0018】
また、本発明の別の態様として、前記接着を加圧して行うことが好ましく、また、前記接着を加熱して行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、第一の熱可塑性樹脂フィルムと、第二の熱可塑性樹脂フィルムおよび前記第二の熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に設けられたコート層を備えた積層フィルムとが、前記第一の熱可塑性樹脂フィルムと前記コート層とが対向するように積層した積層体において、前記第一の熱可塑性樹脂フィルムと前記コート層との界面の少なくとも一部で、前記第一の熱可塑性樹脂フィルム中の原子と、前記コート層中の原子との間に結合が形成されているため、第一の熱可塑性樹脂フィルムおよび前記積層フィルムが、接着剤を介さずに接着した積層体が得られる。その結果、異物や残留溶剤等が滲出することがなく、かつ、密着性、ガスバリア性、強度に優れる積層体を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の積層体の一実施形態を示した概略断面図である。
【図2】本発明の積層体の別の実施形態を示した概略断面図である。
【図3】本発明の積層体の別の実施形態を示した概略断面図である。
【図4】本発明の積層体の別の実施形態を示した概略断面図である。
【図5】本発明の積層体の別の実施形態を示した概略断面図である。
【図6】本発明による積層体の製造方法の一実施形態を示した概略模式図である。
【図7】製造工程の一部を拡大した概略模式図である。
【図8】本発明による積層体の製造方法の別の実施形態を示した概略模式図である。
【図9】本発明による積層体の製造方法の別の実施形態を示した概略模式図である。
【図10】本発明による積層体の製造方法の別の実施形態を示した概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明による積層体を、図面を参照しながら説明する。本発明による積層体は、図1に示すように、第一の熱可塑性樹脂フィルム1および積層フィルム2が、接着剤を介さずに積層された構造を有するものである。積層フィルム2は、コート層21が、熱可塑性樹脂フィルム23の少なくとも一方の面に設けられたものであり、本発明の積層体は、このコート層21と第一の熱可塑性樹脂フィルム1とが対向するように重ね合わせて積層したものである。
【0022】
本発明による積層体は、第一の熱可塑性樹脂フィルム1と、積層フィルム2のコート層21との接着面の少なくとも一部で、第一の熱可塑性樹脂フィルム1中の原子と、コート層21中の原子との間に結合が形成されることにより、第一の熱可塑性樹脂フィルム1と積層フィルム2とが強固に接着されている。通常、上記のような熱可塑性樹脂フィルムと積層フィルムとを積層しても、両者の間に水素結合や共有結合が形成されないため接着剤を使用しなければ両者を接着することはできない。本発明においては、後記するように熱可塑性樹脂フィルム1および/または積層フィルム2のコート層21の表面に電子線を照射してラジカルを発生させて、第一の熱可塑性樹脂フィルム1中の原子と積層フィルム2のコート層21表面の原子との間に結合を形成するか、あるいは、第一の熱可塑性樹脂フィルム1中の原子と積層フィルム2のコート層21表面の原子との間に、酸素原子、窒素原子または水酸基を介して結合を形成することにより、接着剤を介することなく第一の熱可塑性樹脂フィルム1と積層フィルム2とを強固に接着したものである。また、電子線照射により発生したラジカルと空気中の酸素とが結合して、第一の熱可塑性樹脂フィルム1および/または積層フィルム2のコート層21の表面にはOH基が存在することがあり、その場合、第一の熱可塑性樹脂フィルム1中の原子と積層フィルム2のコート層21表面の原子との間に水素結合が形成される場合もある。なお、電子線照射によるラジカルの発生は、電子スピン共鳴装置(以下、ESRともいう。)を用いて、電子線照射後のフィルムに存在するフリーラジカル種を同定することにより、その発生を確認することができる。
【0023】
また、電子線照射により第一の熱可塑性樹脂フィルム1と積層フィルム2とを貼り合わせて接着した積層体は、上記したように、第一の熱可塑性樹脂フィルム1中の原子と積層フィルム2のコート層21表面の原子との間で結合が形成されているため、接着剤を全く使用しなくても、剥離を生じない積層体とすることができる。水素結合の存在の確認は、積層体を水またはアルコール溶液中に浸積して剥離の有無を確認することにより行うことができる。水素結合のみによって両フィルムどうしが接着している場合、積層体を水またはアルコール溶液中に浸積すると、両者の間に形成されていた水素結合が破壊されて水またはアルコールの水素原子または酸素原子と水素結合が再形成されるため、接着力がなくなり両者が剥離する。よって、接着が、上記したような原子間の結合によるものなのか、水素結合のみによるものなのかを、確認することができる。
【0024】
本発明においては、積層フィルム2が、図2に示すように、第二の熱可塑性樹脂フィルム23とコート層21との間に、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素からなる薄膜層22が設けられていてもよい。このような層構成を有する積層フィルムは、酸素や水蒸気の透過を効果的に抑制できるため、ガスバリア性フィルムとして機能するものである。
【0025】
本発明による積層体は、図3に示すように、第一の熱可塑性樹脂フィルム1側にコート層11が設けられていてもよい。この場合、第一の熱可塑性樹脂フィルム1側のコート層中の原子と、積層フィルム2側のコート層21中の原子との間で、酸素原子、窒素原子または水酸基を介して結合が形成される。
【0026】
また、本発明による積層体は、図4に示したように、第一の熱可塑性樹脂フィルム1に設けられたコート層11と、第二の熱可塑性樹脂フィルム23とコート層21との間に、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素からなる薄膜層22が設けられていている積層フィルム2とを積層した構成であってもよい。
【0027】
さらに、本発明による積層体は、熱可塑性樹脂フィルム1、薄膜層12およびコート層11がこの順で積層した積層フィルムと、熱可塑性樹脂フィルム21、薄膜層22およびコート層23がこの順で積層した積層フィルム2とが、コート層11およびコート層21どうしが対向するように積層した構成であってもよい。また、図示しないが、薄膜層12(22)およびコート層11(21)を、熱可塑性樹脂フィルムの両方の面に設けたものであってもよい。
【0028】
以下、本発明による積層体を構成する各層について説明する。
【0029】
<熱可塑性樹脂フィルム>
第一の熱可塑性樹脂フィルムおよび積層フィルム2を構成する第二の熱可塑性樹脂フィルムは、同じ樹脂からなるものであっても、異なる樹脂からなるものであってもよい。使用できる樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート系樹脂、フッ素系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、アセタール系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)等のポリエステル系樹脂、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂、その他等の各種の樹脂のフィルムを使用することができる。これらのなかでも、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましく、透明であるものがより好ましい。
【0030】
熱可塑性樹脂フィルムは、一軸ないし二軸方向に延伸されているものでもよく、また、その厚さとしては、10〜200μm程度、特に、10〜100μm程度が好ましい。
【0031】
また、熱可塑性樹脂フィルムには、必要に応じて、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、充填剤、滑剤等、従来公知の各種添加剤を適宜添加することができる。光安定剤、紫外線吸収剤としては、従来公知のものを使用でき、例えば、フェノール系、リン系、ヒンダードアミン系の光吸収剤や、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリチル酸エステル系の紫外線吸収剤が使用できる。
【0032】
<薄膜層>
薄膜層は、一般式:AlO(式中、xは、0.5〜1.5の数を表す。)で表される酸化アルミニウムの薄膜、または、一般式:SiO(式中、xは、0〜2の数を表す)で表される酸化ケイ素の薄膜を、熱可塑性樹脂フィルムの表面に形成したものである。上記一般式で表される酸化アルミニウムの薄膜として、膜表面から内面に向かう深さ方向に向かってxの値が増加している酸化アルミニウムの薄膜を使用することもできる。上記において、xの値としては、基本的には、x=0.5以上のものを使用することができるが、x=1.0未満になると、着色し易く、かつ、透明性、電子レンジ適性に劣ることから、x=1.0以上のものを使用することが好ましい。上限としては、アルミニウムと酸素とが完全に酸化した状態のものであるx=1.5までのものを使用することができる。
【0033】
また、上記一般式で表される酸化ケイ素の薄膜として、xの値は1.3〜1.9が好ましい。また、酸化ケイ素薄膜は、酸化珪素を主体とし、さらに、炭素、水素、珪素または酸素の1種類、または2種類以上の元素からなる化合物の少なくとも1種類を化学結合等により含有してもよい。例えば、C−H結合を有する化合物、Si−H結合を有する化合物、または、炭素単位がグラファイト状、ダイヤモンド状、フラーレン状等になっている場合、更に、原料の有機珪素化合物やそれらの誘導体を化学結合等によって含有する場合があるものである。例えば、CH3部位を持つハイドロカーボン、SiHシリル、SiHシリレン等のハイドロシリカ、SiHOHシラノール等の水酸基誘導体等を挙げることができる。上記の化合物が酸化珪素の蒸着膜中に含有する含有量としては、0.1〜50質量%、好ましくは5〜20質量%である。また、酸化ケイ素薄膜が上記化合物を含有する場合、化合物の含有量が酸化珪素の蒸着膜の表面から深さ方向に向かって減少していることが好ましい。これにより、酸化珪素の蒸着膜の表面では上記化合物等により耐衝撃性等が高められ、他方、基材フィルムとの界面では、上記化合物の含有量が少ないために基材フィルムと酸化珪素の蒸着膜との密接着性が強固なものとなる。
【0034】
薄膜層の膜厚としては、例えば、10〜3000Å程度、特に、60〜1000Å程度の範囲内で任意に選択して形成することが好ましい。薄膜層は、結晶質のものでも非結晶質のものでもよい。
【0035】
本発明においては、バリア性フィルムを構成する熱可塑性樹脂フィルムの全光線透過率を100%としたとき、蒸着後の全光線透過率が90%未満になるように酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素を蒸着したものが望ましく、ベースフィルムの全光線透過率を100%としたとき、蒸着後の全光線透過率が85%以上で90%未満になるように酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素を蒸着したものは、特に好ましい。蒸着後の全光線透過率が蒸着後の全光線透過率が90%以上の場合には、透明度は十分であるものの、ガスバリア性、特に水蒸気に対するガスバリア性が十分に高くない場合がある。また、蒸着後の全光線透過率が85%未満の場合は、ガスバリア性には優れるものの最終的な透明度が熱可塑性樹脂フィルムの全光線透過率にまで達しない場合がある。
【0036】
次に、熱可塑性樹脂フィルム上に薄膜層を形成する方法について説明する。薄膜層を形成する方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理気相成長法(Physical Vapor Deposition法、PVD法)、あるいは、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等の化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition法、CVD法)等を挙げることができる。なお、包装用材料に用いられる透明積層体からなるフィルムを製造する場合には、主に、真空蒸着法を用い、一部、プラズマ化学気相成長法も用いられる。
【0037】
また、例えば、物理気相成長法と化学気相成長法の両者を併用して異種の無機酸化物の蒸着膜の2層以上からなる複合膜を形成して使用することもできる。酸化アルミニウム薄膜が、その膜表面から内面に向かう深さ方向に向かってxの値が増加している酸化アルミニウムの薄膜を形成する場合は、本出願人による特開平10−226011号公報に開示された方法により製造することができる。蒸着チャンバーの真空度としては、酸素導入前においては、10−2〜10−8mbar程度、特に、10−3〜10−7mbar程度が好ましく、酸素導入後においては、10−1〜10−6mbar程度、特に10−2〜10−5mbar程度が好ましい。なお、酸素導入量等は、蒸着機の大きさ等によって異なる。導入する酸素には、キャリヤーガスとしてアルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等の不活性ガスを支障のない範囲で使用してもよい。基材となる熱可塑性樹脂フィルムの搬送速度としては、10〜800m/分程度、特に50〜600m/分程度が好ましい。また、上記したような、化合物の含有量が酸化珪素の蒸着膜の表面から深さ方向に向かって減少している酸化ケイ素薄膜層は、出願人による特開2008−143097号公報に記載されたような方法により、形成することができる。
【0038】
また、本発明においては、上記のようにして形成した薄膜層の表面に酸素プラズマ処理を施してもよい。酸素プラズマ処理のために導入する酸素の量は、蒸着機の大きさ等によって異なるが、通常50sccm〜2000sccm程度であり、300sccm〜800sccm程度が特に好ましい。ここで、sccmは標準状態(STP:0℃、1atm)での1分当りの酸素の平均導入量(cc)を意味する。導入する酸素には、キャリヤーガスとしてアルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等の不活性ガスを支障のない範囲で使用してもよい。以上、熱可塑性樹脂フィルム上に酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素からなる薄膜を形成する方法、および、所望により酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素からなる薄膜の表面を酸素プラズマ処理する方法を説明したが、これらは一例であって、本発明がこれらの方法により得られたものに限定されるものではない。
【0039】
<コート層>
熱可塑性樹脂フィルムの表面、または、上記した薄膜層の表面に設けられるコート層は、プライマーコート剤、ウレタン系コート剤、ポリビニルアルコール系コート剤、ポリ塩化ビニリデン系コート剤、アクリル系コート剤、水溶性高分子−アルコキシシラン系複合コート剤からなる群から選択される塗布液を塗布・乾燥させることにより形成されるものでる。以下、各コート剤について説明する。
【0040】
本発明において使用できるプライマーコート剤は、積層体を得る際の各部材の密着性を向上させるために使用されている従来公知のプライマーコート剤およびアンカーコート剤を使用することができる。例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、シラン化合物(シランカップリング剤)。フェノール系樹脂、金属キレート剤、レゾルシノール・ホルムアルデヒド、アクリルグラフト・クロロプレンゴム等が挙げられる。具体的には、ポリエステル系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリウレタンポリ尿素樹脂を、イソシアネート系樹脂等の架橋剤によって架橋させたポリウレタン樹脂や、ポリウレタン樹脂の主鎖または側鎖にカルボン酸塩やスルホン酸塩などの親水基を導入した自己乳化性ポリウレタン系樹脂に、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、イミン系樹脂等の架橋剤を添加したもの、芳香族ジカルボン酸成分と、直鎖あるいは炭素数1以上の側鎖を有する脂肪族グリコールとを共重合させた共重合ポリエステル系樹脂に架橋剤としてイソシアネート系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、酸無水物系樹脂等を添加したもの、不飽和二重結合を有するポリオール成分からなる熱硬化ポリウレタン樹脂、または、ポリエステルポリオールとジイソシアネートとからなる熱可塑性ポリウレタン樹脂等が挙げられる。これら樹脂を水等の適当な溶剤に溶解させた塗布液を、熱可塑性樹脂フィルムの表面に塗布し、乾燥させることによりコート層を形成することができる。
【0041】
上記したプライマーコート剤は、熱可塑性樹脂フィルム上に設けられるものであるが、これらコート層が設けられた市販の積層フィルムを使用することもできる。例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムの一方の面に上記したようなプライマーコート層が設けられた積層フィルムとして、エンブレットPTM、エンブレットPTME(いずれもユニチカ社製)や、コスモシャインA4100、A4300(いずれも東洋紡績社製)等が挙げられる。また、ナイロン樹脂フィルムの一方の面に上記したようなプライマーコート層が設けられた積層フィルムとして、エンブレムONM、エンブレムNX(いずれもユニチカ社製)やハーデンフィルムNAP02(東洋紡績社製)等が挙げられる。
【0042】
本発明において用いられるウレタン系コート剤としては、ウレタン樹脂またはウレタンアクリレート樹脂等を好適に使用することができる。ウレタンアクリレート樹脂は、ポリオール化合物とジイソシアネート化合物とからなるオリゴマーをアクリレート化したものである。ウレタン系樹脂は、市販されているものを使用してもよく、例えば、タケラック(三井化学株式会社製)等を好適に使用することができる。
【0043】
本発明において用いられるポリビニルアルコール系コート剤としては、ポリビニルアルコール樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体等が挙げられる。これらは市販のものを使用してもよく、例えばエチレン・ビニルアルコール共重合体として、株式会社クラレ製、エバールEP−F101(エチレン含量;32モル%)、日本合成化学工業株式会社製、ソアノールD2908(エチレン含量;29モル%)等を使用することができる。また、ポリビニルアルコールとして、株式会社クラレ製のRSポリマーであるRS−110(ケン化度=99%、重合度=1,000)、同社製のクラレポバールLM−20SO(ケン化度=40%、重合度=2,000)、日本合成化学工業株式会社製のゴーセノールNM−14(ケン化度=99%、重合度=1,400)等を使用することができる。
【0044】
本発明において用いられるポリ塩化ビニリデン系コート剤としては、塩化ビニリデンモノマーと塩化ビニル、アクリル酸エステル、アクリロニトリルなどのモノマーと乳化共重合した樹脂等を挙げることができる。これらは市販のものを使用してもよく、例えば、サランラテックス(旭化成ケミカルズ社製)等を好適に使用することができる。
【0045】
本発明において用いられるアクリル系コート剤としては、アクリル酸やメタクリル酸樹脂等が挙げられる。これらは市販のものを使用してもよく、例えば、ダイヤナールBR−83(三菱レイヨン社製)等を好適に使用することができる。
【0046】
上記した樹脂には、テトラメトキシシラン:Si(OCH 、テトラエトキシシラン:Si(OC 、テトラプロポキシシラン:Si(OC 、テトラブトキシシラン:Si(OC等のアルコキシシランが添加されていてもよい。上記したポリビニルアルコール樹脂またはエチレン−ビニルアルコール共重合体にアルコキシシランを混合し、さらに所望によりゾル−ゲル法触媒、水、および、有機溶剤を添加した溶液を、酸化アルミニウム薄膜の表面に塗布し、重縮合することにより、ガスバリア性の高いコート層が得られる。
【0047】
さらに、上記した樹脂には、層状クレイやモンモリロナイト等の無機フィラーや、ナノサイズの無機微粒子が添加されていてもよい。
【0048】
上記した樹脂を適当な溶剤に溶解または分散させた塗布液を熱可塑性樹脂フィルムまたは薄膜層上に塗布し、乾燥させることによりコート層を形成することができる。塗布方法としては、通常用いられる、グラビアロールコーターなどのロールコート、スプレーコート、スピンコート、デイツピング、刷毛、バーコード、アプリケータ等の従来公知の手段が用いられる。塗布膜の厚さは塗布液の種類によって異なるが、乾燥後の厚さは、約0.01〜100μm、好ましくは0.01〜50μmである。
【0049】
<積層体の製造方法>
次に、上記したような積層体を製造する方法を、図面を参照しながら説明する。一例として、図1に示した積層体の製造方法を説明するが、図2〜5に示した積層体であっても、接着界面が異なる以外は、図1に示した積層体と同様であるため、説明を省略する。
【0050】
先ず、上記した第一の熱可塑性樹脂フィルム1と積層フィルム2とを準備し(図6(1))、両フィルムのいずれか一方または両方の、接着しようとする部分に電子線を照射する(図6(2))。その結果、図6(3)に示すように、電子線が照射された部分のみ、第一の熱可塑性樹脂フィルム1と積層フィルム2とが接着される。
【0051】
本発明においては、両方のフィルムまたは何れか一方のフィルムに電子線を照射した直後に、図4に示すようにローラー6等を用いて、重ね合わせたフィルム1,2を押圧することが好ましい。フィルム1,2の表面は、図7に示すようにミクロレベルで凹凸があるため、互いのフィルムを重ね合わせても完全に密着しておらず、両フィルムの接触界面での接触面積が小さい。本発明においては、電子線を照射した直後にローラー6等でフィルム1,2を押圧することにより、両フィルムの接着面での接触面積が増加するため、密着性が向上する。
【0052】
第一の熱可塑性樹脂フィルム1と積層フィルム2とを重ね合わせた後、両フィルム1,2を押圧する際には、加熱しながら両フィルム1,2を押圧することが好ましい。加熱しながら押圧することにより、第一の熱可塑性樹脂フィルム1および積層フィルム2の柔軟性が向上し、熱可塑性樹脂フィルム1と積層フィルム2との界面(接着面)での接触面積をより増加させることができるため、密着性がより向上する。加熱する温度は、使用するフィルムの種類にもよるが、フィルムが熱変形できる温度であればよく、例えば、フィルムを構成する樹脂のガラス転移温度以上に加熱することができる。例えば、熱可塑性樹脂フィルムとしてポリエステル樹脂フィルムを用いる場合には、加熱温度は80〜180℃、好ましくは100〜160℃である。加熱温度を高くしすぎると、発生したラジカルが失活してしまい、強固な結合を実現できなくなる。なお、押圧の力(接圧)を高くしてもよく、接圧を高くすることにより、加熱温度を低くすることができる。
【0053】
第一の熱可塑性樹脂フィルム1と積層フィルム2とを重ね合わせて押圧するには、上記したようにヒートローラ6等を好適に使用できる。また、図7に示すように、重ね合わせたフィルムがヒートローラ6と支持ローラー7との間で圧接可能となるように、ヒートローラ6と対向する位置に支持ローラー7を載置してもよい。このようにヒートローラ6と対向する位置に支持ローラー7を載置することにより、積層体(フィルム1とフィルム2の積層物)とヒートローラ6との接触を線接触に近づけて、ヒートローラ6からの熱により積層体に発生する変形を最小限に抑えることができる。
【0054】
図8は、本発明による別の製造方法の実施形態を示した概略図である。第一の熱可塑性樹脂フィルム1と積層フィルム2とを重ね合わせて接着する工程において、両フィルム1,2をそれぞれガイドローラにより電子線照射位置3まで導き、電子線4を両フィルム1,2に照射した後にヒートローラ6により両フィルム1,2を押圧する工程を連続的に行うものである。それぞれのフィルム1,2はロール状形態として供給されてもよい。
【0055】
電子線照射装置3からそれぞれのフィルム1,2に電子線4を照射する場合、厚みがより小さい方のフィルム側から電子線4を照射することが好ましい。電子線は加速電圧が増加するほどその透過力も増大する性質を有しているため、何れか一方のフィルム側から電子線を照射した場合に、フィルムの厚さによっては、他方のフィルムまで電子線が届かないことがある。その場合には、電子線の加速電圧を増加させることにより、他方のフィルムの深部まで電子線を到達させることができるが、電子線エネルギーが高くなるにしたがって、フィルム自体に不必要な照射が行われ劣化させてしまう。そのため、厚肉のフィルムと薄肉のフィルムとを重ね合わせて接着する際には、電子線エネルギーをそれほど増大させることなく、薄肉のフィルム側から電子線を照射するのが好ましい。例えば、第一の熱可塑性樹脂フィルム1の厚みが25μm以下であり、積層フィルム2の厚みが50μm以上である場合は、第一の熱可塑性樹脂フィルム1側から電子線を照射する。このような電子線照射方法を採用することにより、フィルムの劣化を最小限に留めることができる。
【0056】
重ね合わせるフィルム1,2が両方とも厚肉である場合には、図8に示すように両方のフィルム側から電子線が照射できるように、電子線照射装置3と対向する位置に、別の電子線照射装置3’を設けてもよい。この態様によれば、フィルムの厚みに応じて電子線の照射エネルギーを調整することができるため、フィルムを劣化させることなく両フィルムどうしを接着することができる。
【0057】
図9は、本発明による別の製造方法の実施形態を示した概略図である。この実施態様においては、電子線の照射が、第一の熱可塑性樹脂フィルム1と積層フィルム2とを重ね合わせる前に行われる。先ず、供給されてきた一対のフィルムは、両フィルム1,2が重ね合わされる前に、電子線照射装置3(3’)により、フィルム1(2)へ電子線4(4’)が照射される。図8に示した実施形態では、フィルム1,2の電子線照射側と反対側の面どうしが対向するように両フィルム1,2を重ね合わせたのに対し、図9に示す実施態様では、両フィルム1,2の電子線照射側の面どうしが対向するように両フィルム1,2を重ね合わせる点が相違している。このように、フィルム1へ電子線を照射した側の面に他方のフィルム2を重ね合わせることにより、フィルムの厚みによらず、電子線の照射エネルギーをより小さくすることができ、その結果、フィルムの電子線照射による劣化をより低減することができる。
【0058】
また、図9に示した実施態様においても、一対の電子線照射装置3,3’を設けて、図8に示した実施態様と同様に、第一の熱可塑性樹脂フィルム1および積層フィルム2のそれぞれへ電子線4,4’を照射してもよい。これらの組み合わせにより、よりフィルムの劣化を少なくして接着強度を向上させることができる。
【0059】
図10は、本発明による別の製造方法の実施形態を示した概略図である。この実施形態においては、第一の熱可塑性樹脂フィルム1および積層フィルム2を重ね合わせてヒートローラ6により押圧した後に電子線照射を行うものである。先ず、供給されてきた一対のフィルム1,2は、ガイドローラに導かれて重ね合わされる。続いて、ヒートローラ6と支持ローラー7とにより両フィルム1,2が押圧されるとともに、ヒートローラ6により加熱が行われる。その後、電子線照射装置3により第一の熱可塑性樹脂フィルム1および積層フィルム2の表面に電子線4が照射されて両者1,2の接着が連続的に行われる。また、図10に示した実施形態においても、一対の電子線照射装置3,3’を設けて、図8及び9に示した実施態様と同様に両方のフィルム1,2へそれぞれ電子線4,4’を照射してもよい。これらの組み合わせにより、よりフィルムの劣化を少なくして接着強度を向上させることができる。
【0060】
電子線の照射エネルギーは、上記したようにフィルム厚み等に応じて適宜調整する必要がある。本発明においては、20〜750kV、好ましくは25〜400kV、より好ましくは30〜300kV程度の照射エネルギー範囲で電子線を照射するが、より低い照射エネルギーとすることが好ましく、40〜200kVとすることができる。このように低い照射エネルギーとすることにより、フィルムの劣化を抑制できるだけでなく、フィルム表面のラジカル発生がより効率的におこるため、より強固な結合を実現することができる。また、電子線の吸収線量は、10〜2000kGy、好ましくは20〜1000kGyの範囲で行う。
【0061】
このような電子線照射装置としては、従来公知のものを使用でき、例えばカーテン型電子照射装置(LB1023、株式会社アイ・エレクトロンビーム社製)やライン照射型低エネルギー電子線照射装置(EB−ENGINE、浜松ホトニクス株式会社製)等を好適に使用することができる。
【0062】
電子線を照射する際には、酸素濃度を100ppm以下とすることが好ましい。酸素存在下で電子線を照射するとオゾンが発生するため環境に悪影響を及ぼす場合があるからである。酸素濃度を100ppm以下とするには、真空下または窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下において、フィルムに電子線を照射すればよく、例えば、電子線照射装置内を窒素充填することにより、酸素濃度100ppm以下を達成することができる。
【0063】
上記した接着方法によって得られた、第一の熱可塑性樹脂と積層フィルムとを積層した積層体は、従来のラミネート樹脂を用いて接着した場合と同等またはそれ以上の接着強度を実現できる。また、ラミネート樹脂等を全く用いていないため、積層体を使用する際にも異物や残留溶剤等が滲出することがなく、かつ、密着性、ガスバリア性、強度に優れるものとなる。
【実施例】
【0064】
実施例1
第一の熱可塑性樹脂フィルムとして、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(エボリューSP2020、株式会社プライムポリマー製)を厚み70μmに製膜したフィルムを準備した。また、積層フィルムとして、表面にコート層が形成された厚み38μmのPETフィルム(コスモシャインA4300、東洋紡績社製)を準備した。
【0065】
準備したフィルムを、それぞれ150mm×75mmの大きさに切り出した試料を準備し、電子線照射装置(ライン照射型低エネルギー電子線照射装置EES−L−DP01、浜松ホトニクス株式会社製)のサンプル台に並置した。この際、電子線が試料に照射されない部分を設けるために、両試料の一方の端部5〜10mm程度にマスキングしておいた。
【0066】
次いで、電子照射線装置のチャンバー内の酸素濃度が100ppm以下となるように窒素ガスでパージした後、下記の電子線照射条件により、試料の表面に電子線を照射した。なお、積層フィルムについては、コート層形成面に電子線を照射した。
電圧:70kV
吸収線量:200kGy
装置内酸素濃度:100ppm以下
【0067】
電子線を照射した後、試料を装置内から取り出し、すぐに両フィルムの電子線照射面側が対向するようにして重ね合わせ、熱ラミネート法により、両フィルムを接着して積層体を得た。
【0068】
実施例2
実施例1において、積層フィルムとして、表面にコート層が形成された厚み25μmのナイロンフィルム(エンブレムONM、ユニチカ社製)を使用した以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0069】
実施例3
厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを使用し、蒸着装置を用いて、下記の条件にて、そのフィルムの一方の面に、膜厚20nmとなるように酸化ケイ素薄膜を形成した。
蒸着条件:
蒸着チャンバー内の真空度(酸素導入後):2×10−4mbar
巻き取りチャンバー内の真空度:5×10−3mbar
電子ビーム電力:25kW
【0070】
次いで、下記の組成Iからなるポリビニルアルコール溶液とイソプロピルアルコールとイオン交換水とを含む混合液に、下記組成IIからなる加水分解液を加えて充分に攪拌し、コート層形成用塗工液と調製した。
組成I:
ポリビニルアルコール 2.33(質量%)
イソプロピルアルコール 2.70(質量%)
水 51.75(質量%)
【0071】
組成II(加水分解液):
エチルシリケート 16.60(質量%)
シランカップリング剤 1.66(質量%)
イソプロピルアルコール 3.90(質量%)
0.5N塩酸水溶液 0.53(質量%)
水 20.53(質量%)
合計 100.00(質量%)
【0072】
上記の塗工液を、酸化ケイ素薄膜上にグラビアロールコート法によりコーティングして、次いで、180℃で60秒間加熱処理を行い、厚み0.2μm(乾操状態)のコート層を形成することにより、積層フィルムを得た。
【0073】
上記のようにして得られた積層フィルム1を150mm×75mmの大きさに切り出した試料を2枚準備し、電子線照射装置(ライン照射型低エネルギー電子線照射装置EES−L−DP01、浜松ホトニクス株式会社製)のサンプル台に並置した。この際、電子線が試料に照射されない部分を設けるために、両試料の一方の端部5〜10mm程度にマスキングしておいた。
【0074】
次いで、電子照射線装置のチャンバー内の酸素濃度が100ppm以下となるように窒素ガスでパージした後、下記の電子線照射条件により、試料の表面(コート層面)に電子線を照射した。
電圧:40kV
吸収線量:400kGy
装置内酸素濃度:100ppm以下
【0075】
電子線を照射した後、試料を装置内から取り出し、すぐに両フィルムの電子線照射面側が対向するようにして重ね合わせ、熱ラミネート法により、両フィルムを接着して積層体を得た。
【0076】
実施例4
実施例3において、一方の積層フィルムを、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(エボリューSP2020、株式会社プライムポリマー製)を厚み70μmに製膜したフィルムに変更し、電子線の照射条件を表1に示す加速電圧および照射線量に変更した以外は、実施例3と同様にして積層体を得た。
【0077】
実施例5
実施例3において、一方の積層フィルムを、厚さ25μmのポリエステル樹脂フィルム(エスペット、東洋紡績株式会社製)に変更し、電子線の照射条件を表1に示す加速電圧および照射線量に変更した以外は、実施例3と同様にして積層体を得た。
【0078】
実施例6
実施例3において、一方の積層フィルムを、厚さ25μmのポリアミド樹脂フィルム(エンブレムON、ユニチカ株式会社製)に変更し、電子線の照射条件を表1に示す加速電圧および照射線量に変更した以外は、実施例3と同様にして積層体を得た。
【0079】
実施例7
実施例3において、積層フィルムの作製に用いたコート層形成用塗工液として、脂肪族ポリウレタン/芳香族ポリウレタン=20〜80/80〜20(重量%)からなるポリウレタン90重量%に、ポリイソシアネート10重量%を配合したものを用い、0.02g/mの塗布量で塗布膜を形成し、180℃で60秒間加熱処理を行いコート層を形成した以外は、実施例3と同様にして積層体を得た。
【0080】
実施例8〜9
実施例7において、電子線の照射条件を表1に示す加速電圧および照射線量に変更した以外は、実施例7と同様にして積層体を得た。
【0081】
実施例10
実施例4において、積層フィルムの作製に用いたコート層形成用塗工液として、脂肪族ポリウレタン/芳香族ポリウレタン=20〜80/80〜20(重量%)からなるポリウレタン90重量%に、ポリイソシアネート10重量%を配合したものを用い、0.02g/mの塗布量で塗布膜を形成し、180℃で60秒間加熱処理を行いコート層を形成した以外は、実施例4と同様にして積層体を得た。
【0082】
実施例11
実施例5において、積層フィルムの作製に用いたコート層形成用塗工液として、脂肪族ポリウレタン/芳香族ポリウレタン=20〜80/80〜20(重量%)からなるポリウレタン90重量%に、ポリイソシアネート10重量%を配合したものを用い、0.02g/mの塗布量で塗布膜を形成し、180℃で60秒間加熱処理を行いコート層を形成した以外は、実施例5と同様にして積層体を得た。
【0083】
実施例12
実施例6において、積層フィルムの作製に用いたコート層形成用塗工液として、脂肪族ポリウレタン/芳香族ポリウレタン=20〜80/80〜20(重量%)からなるポリウレタン90重量%に、ポリイソシアネート10重量%を配合したものを用い、0.02g/mの塗布量で塗布膜を形成し、180℃で60秒間加熱処理を行いコート層を形成した以外は、実施例6と同様にして積層体を得た。
【0084】
比較例1
電子照射を行わなかった以外は実施例1と同様にして積層体を得た。しかしながら、得られた積層体は熱可塑性樹脂フィルムと積層フィルムとが接着していなかった。
【0085】
比較例2
実施例1で用いた2種のフィルムを、2液硬化型芳香族エステル系接着剤(タケラックA−3、三井化学株式会社製)を介して貼り合わせるドライラミネート法により積層体を得た。
【0086】
<積層体の接着強度の評価>
得られた積層体を幅15mmの短冊状になるように切り出し、引張試験機(テンシロン万能材料試験機RTC−1310A、ORIENTEC社製)を用いて、50mm/分の速度で、90度剥離試験を行った。なお、上記したように比較例1の積層体は、バリア性フィルム1と樹脂フィルムとが接着しておらず、積層体の接着強度を測定することができなかった。評価結果は、下記の表1に示される通りであった。
【0087】
【表1】

【0088】
表1の評価結果からも明らかなように、電子線照射により接着した実施例1〜12の積層体は、接着剤を使用することなく、比較例2の接着剤によりラミネート加工した積層体と同程度の接着強度を有している。一方、電子線照射を行わなかった比較例1の積層体は、両フィルムが接着していなかった。
【符号の説明】
【0089】
1 第一の熱可塑性樹脂フィルム
11 コート層
12 薄膜層
2 積層フィルム
21 コート層
22 薄膜層
23 第二の熱可塑性樹脂フィルム
3、3’ 電子線照射装置
4、4’ 電子線
5 フィルム基材接触界面
6 ヒートローラ
7 支持ローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の熱可塑性樹脂フィルムと、第二の熱可塑性樹脂フィルムおよび前記第二の熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に設けられたコート層を備えた積層フィルムとが、前記第一の熱可塑性樹脂フィルムと前記コート層とが対向するように積層した積層体であって、
前記第一の熱可塑性樹脂フィルムと前記コート層との界面の少なくとも一部で、前記第一の熱可塑性樹脂フィルム中の原子と、前記コート層中の原子との間に結合が形成されており、第一の熱可塑性樹脂フィルムおよび前記積層フィルムが、接着剤を介さずに接着されていることを特徴とする、積層体。
【請求項2】
前記第一の熱可塑性樹脂フィルムと前記コート層との界面の少なくとも一部で、前記第一の熱可塑性樹脂フィルム中の原子と、前記コート層中の原子との間で、酸素原子、窒素原子または水酸基を介して結合が形成されている、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記コート層が、プライマーコート剤、ウレタン系コート剤、ポリビニルアルコール系コート剤、ポリ塩化ビニリデン系コート剤、およびアクリル系コート剤からなる群から選択される塗布液を第一の熱可塑性樹脂フィルムの表面に塗布して乾燥させたものである、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記第二の熱可塑性樹脂フィルムと前記コート層との間に、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素からなる薄膜層が設けられてなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項5】
前記第一の熱可塑性樹脂フィルムの接着界面側に、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素からなる薄膜層およびコート層がこの順で設けられており、前記第一熱可塑性樹脂フィルム側のコート層と、前記積層フィルム側のコート層とが、接着剤を介さずに接着されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項6】
前記第一の熱可塑性樹脂フィルムおよび第二の熱可塑性樹脂フィルムが、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート系樹脂、フッ素系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、アセタール系樹脂、ポリエステル系樹脂、およびポリアミド系樹脂からなる群から選択される樹脂からなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の、第一の熱可塑性樹脂フィルムと第二の熱可塑性樹脂フィルムおよび前記第二の熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に設けられたコート層を備えた積層フィルムとを積層した積層体を製造する方法であって、
前記第一の熱可塑性樹脂フィルムおよび/または前記積層フィルムのコート層の少なくとも一方の面、に電子線を照射し、
前記電子線が照射された前記第一の熱可塑性樹脂フィルム面および/または前記積層フィルムのコート層面を重ね合わせて接着する、ことを含んでなることを特徴とする、方法。
【請求項8】
前記第一の熱可塑性樹脂フィルム面および/または前記積層フィルムのコート層面を重ね合わせる前および/または重ね合わせた後に電子線照射を行う、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記接着を加圧して行う、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記接着を加熱して行う、請求項7〜9のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−18170(P2013−18170A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152262(P2011−152262)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】