説明

積層体

第1の層と、該第1の層に付着された、高靭性ヤーンを含む第2の層とを含有する積層体であって、第1の層が、金属、合板、固体熱可塑性または熱硬化性ポリマー、ならびに炭素繊維および/またはガラス繊維を含有する複合材料からなる群から選択される材料で製造され、高靭性ヤーンが少なくとも0.5GPaの靭性を有すると共に、格子構造に配置されることを特徴とする積層体。積層体は耐損傷性であり、航空貨物コンテナを製造するために適切に使用される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、第1の層と、該第1の層に付着された、高靭性ヤーンを含む第2の層とを含有する積層体に関する。
【0002】
このような積層体は、米国特許第5,180,190号明細書から知られている。この特許には、流体の輸送のためのコンテナが記載されている。コンテナの壁は、コンテナの壁を基本的に形成する第1の層を含有する積層構造体を有する。第1の層の上部には、高靭性ヤーンおよびマトリックスの布を含有する第2の層が付着される。マトリックスは、ヤーンおよび第1の層に接着する。
【0003】
第2の層の目的は、コンテナの耐損傷性を改良することである。
【0004】
既知の積層体は、不十分な耐損傷性を有するという不都合を有する。特に、積層体が大型鈍器の打撃を受けると、カスケード損傷とも呼ばれる長距離にわたる布の断裂のために損傷が激しい。この種の損傷は頻繁に起こる。例えば、コンテナの取り扱い中、コンテナの壁はフォークリフト車による打撃が生じることがある。コンテナ壁に衝突することによって、フォークは、縦糸方向および横糸方向の両方に、そして存在する場合には次の層においても、単一のヤーンを連続して破断する。
【0005】
本発明の目的は、改良された耐損傷性を有する積層体を提供することである。
【0006】
意外なことに、この目的は、第1の層と、該第1の層に付着された、少なくとも0.5GPaの靭性を有する高靭性ヤーン(該高靭性ヤーンは、格子構造に配置される)を含む第2の層とを含有する積層体を提供することによって得られる。
【0007】
本発明に従う積層体は、非常によく耐損傷性である。本発明に従う積層体は、特にカスケード損傷に対して耐性がある。
【0008】
本発明に従う積層体のさらなる利点は、低重量を有するので、可動性の構築物、軽量構築物、例えば航空貨物コンテナにおける使用のために非常に適することである。
【0009】
さらに意外なことに、本発明の積層体は、既知の積層体と比較すると、高速で動いている物体、すなわち、例えば積層体の周辺で起こる爆発または爆風のために40m/秒よりも速い速度で動く物体により激突されたときにより高いエネルギー吸収を有することが分かった。
【0010】
さらに、積層体は、その意図される用途により決定されるあらゆる種類の要求を満たすために様々な設計で製造することができる。
【0011】
第1の層の機能は、多くの場合、積層体に剛性を提供することである。そのため、第1の層の曲げ係数は好ましくは少なくとも10GPaであり、より好ましくは少なくとも30GPaであり、さらにより好ましくは少なくとも50GPaであり、最も好ましくは少なくとも70GPaである。第1の層は、金属(例えば、アルミニウム)製、マグネシウムなどを含む合金製でよい。第1の層は、合板、好ましくはバーチ合板であってもよい。また、第1の層はサンドイッチ構造またはハニカム構造を有することも可能である。
【0012】
好ましくは、第1の層は熱可塑性または熱硬化性ポリマーを含有する。第1の層がポリプロピレン製、ポリカーボネート製または熱可塑性ポリエステル製である場合、非常に良好な結果が得られる。さらにより好ましくは、第1の層は、炭素繊維および/またはガラス繊維および熱硬化性ポリマーを含有する複合材料で作られる。このような熱硬化性ポリマーの良好な例は、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂である。最も好ましくは、第1の層は、炭素繊維およびエポキシ樹脂またはビニルエステル樹脂を含む複合材料で作られる。当業者は、第1の層の厚さ、剛性およびさらなるパラメータをその意図される用途に適合させるように選択する方法を知っている。
【0013】
第2の層内の高靭性ヤーンの例は、アラミドフィラメント、S−ガラスフィラメント、高靭性ポリエステルフィラメントを含有するヤーン、および超高分子量ポリエチレンフィラメントを含むヤーンである。
【0014】
アラミドフィラメントを含むヤーンは、例えば、商品名ケブラー(Kevlar)TMおよびトワロン(Twaron)TMで販売されている。高靭性ポリエステルフィラメントを含むヤーンは、例えば、商品名ベクトラン(Vectran)TMで販売されており、超高分子量ポリエチレンフィラメントを含むヤーンは、例えば、商品名ダイニーマ(Dyneema)TMおよびスペクトラ(Spectra)TMで販売されている。
【0015】
好ましくは、超高分子量ポリエチレンフィラメントを含むヤーンは、第2の層内で格子構造に配置される高靭性ヤーンとして使用される。このようなヤーンは、好ましくは、例えば、EP0205960A号明細書、EP0213208A1号明細書、米国特許第4413110号明細書、GB2042414A号明細書、EP0200547B1号明細書、EP0472114B1号明細書、国際公開第01/73173A1号パンフレット、およびAdvanced Fiber Spinning Technology、T.ナカジマ(Nakajima)編、Woodhead Publ.Ltd(1994年)、ISBN 1−855−73182−7、ならびにこれらで引用される参考文献に記載されるようないわゆるゲル紡糸法に従って製造される。ゲル紡糸は、少なくとも、紡糸溶媒中の超高分子量ポリエチレンの溶液から少なくとも1本のフィラメントを紡糸するステップと、ゲルフィラメントから得られたフィラメントを冷却するステップと、ゲルフィラメントから紡糸溶媒を少なくとも部分的に除去するステップと、紡糸溶媒を除去する前、除去している間、あるいは除去した後に、少なくとも1回の延伸工程でフィラメントを延伸するステップとを含むと理解される。適切な紡糸溶媒としては、例えば、パラフィン、鉱油、ケロシンまたはデカリンが挙げられる。紡糸溶媒は、蒸発、抽出、あるいは蒸発および抽出手段の併用によって除去することができる。
【0016】
フィラメントの調製のために使用される超高分子量の線形ポリエチレンは、少なくとも400,000g/モルの重量平均分子量を有することができる。
【0017】
高靭性ヤーンは、好ましくは少なくとも1GPa、さらにより好ましくは少なくとも1.5GPa、最も好ましくは少なくとも2GPaの靭性を有する。
【0018】
格子構造において、格子内の隣接するヤーンの中心線の間の距離は、ヤーンの直径よりも大きい。これは、格子内の2本の隣接するヤーンの表面の間にはいつも特定の距離があることを意味する。好ましくは、配列内の2本の隣接するヤーンの中心線の間の距離は、ヤーンの直径の1.25倍に等しいかあるいはそれよりも大きく、より好ましくはヤーンの直径の1.5倍よりも大きく、より好ましくはヤーンの直径の2倍よりも大きく、最も好ましくはヤーンの直径の2.5倍よりも大きい。このために、非常に高い耐損傷性を有する積層体が得られる。
【0019】
ヤーンは、様々な方法で格子構造に配置することができる。例えば、格子構造を有する目の粗い布を製造し、この布を積層体に適用することが可能である。もう1つの可能性は、網を製造することである。
【0020】
高靭性ヤーンの配列を含む布を製造することによって高靭性ヤーンの格子構造を製造することも可能であり、格子内の高靭性ヤーンの間の開口は他のヤーンで満たされる。
【0021】
格子構造内のヤーンを第1の層の上部の所定位置に直接置くことが好ましい。
【0022】
好ましくは、格子構造は平行ヤーンの2つ以上の配列によって形成され、配列のヤーン間の角度は0°よりも大きく、好ましくは45°よりも大きく、より好ましくは60°よりも大きく、より好ましくは89°よりも大きく、最も好ましくは90°である。最も好ましくは、格子構造は、平行ヤーンの2つ以上の配列によって形成される。当業者は、このような配列を製造して所定の位置に配置する方法を知っている。
【0023】
ヤーンは、800〜35000dtexの間の力価を有し得る。
【0024】
超高分子量ポリエチレンフィラメントを含むヤーンが使用される場合、ヤーンは、好ましくは1000〜18000dtexの間、より好ましくは5000〜15000dtexの間、最も好ましくは8000〜12000dtexの間の力価を有する。このようにして、積層体の耐損傷性と重量との間の良好なバランスが得られる。
【0025】
第2の層が1平方メートルあたり200〜2000グラムの間の高靭性ヤーンを含有すれば(ヤーンは格子構造に配置される)、良好な結果が得られる。好ましくは、第2の層は、1平方メートルあたり200〜1000グラムの間、より好ましくは1平方メートルあたり300〜600グラムの間の高靭性ヤーンを含有する。
【0026】
第2の層の厚さがヤーンの直径の3倍よりも小さければ、良好な結果が得られる。好ましくは、厚さはヤーンの直径の2倍よりも小さい。このようにして、非常に高い耐損傷性を有するがそれでも低重量である積層体が得られる。
【0027】
高靭性ヤーンを含む第2の層は、いくつかの方法で第1の層に付着され得る。例えば、第2の層は第1の層へ鋲で打ちつけられてもよいし、糊で接着されてもよい。好ましくは、第2の層は、ヤーンおよび第1の層に接着するマトリックスを含有する。マトリックスを構成するために適切な材料の例としては、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂またはエチレン酢酸ビニルコポリマー(EVA)が挙げられる。
【0028】
非常に軽量であり、非常に堅く、そして非常に高い耐損傷性を有する本発明に従う非常に良好な積層体は、炭素繊維および熱硬化性ポリマーを含む第1の層を含有し、そして、超高分子量ポリエチレンフィラメントを含有するヤーンおよび熱硬化性ポリマーを含有する第2の層を含有する。
【0029】
第1の層内の炭素繊維は、好ましくは布を形成する。しかしながら、炭素繊維は、例えば格子構造、フェルトまたはチョップド炭素繊維のような他の形状で構成されてもよい。
【0030】
好ましくは、第1の層および第2の層は同一のポリマーを含む。
【0031】
本発明は、本発明に従う積層体を含有する構築物にも関する。
【0032】
積層体の用途の良好な例には、レーダードーム、流体輸送用タンク、特に、例えばガソリンのような危険な流体の輸送用タンクが含まれる。
【0033】
好ましい例は、本発明に従う積層体を含む航空輸送用のデバイスである。良好な例は、航空貨物コンテナおよび航空機の貨物倉(cargo hole)内の貨物倉ライナーである。このようなライナーは、例えば航空機に貨物が搭載される際、内壁に対する貨物品の衝突による衝撃のために損傷を受けることから航空機の内壁を保護する。
【0034】
意外なことに、本発明の積層体を含む航空貨物コンテナは、増大した爆風耐性、すなわち前記コンテナの内側または外側で発生する爆発または爆風に対して増大した耐損傷性を示すことが分かった。
【0035】
本発明の航空貨物コンテナのさらなる利点は、既知のコンテナと同じ爆風耐性のために、はるかに軽い重量を有することである。また、本発明の航空貨物コンテナのさらなる利点は、運搬航空機の内部に適合するように容易に成形できることである。さらに、前記コンテナは、同じ爆風耐性を提供する既知のコンテナよりも製造および保守するのが安価である。
【0036】
好ましくは、格子は構造体の衝撃の面に配置される。コンテナについては、これは外側の面である。貨物倉のライナーについは、これは航空機の内側に向けられた面である。
【0037】
本発明は、図面においてさらに説明される。図1は、超高分子量ポリエチレンフィラメント(14080dtexのダイニーマ(Dyneema)TMSK75)を含むヤーンの写真を示し、ヤーンは格子構造に位置決めされている。格子構造は、縦糸方向および横糸方向の両方において2.5ヤーン/cmである目の粗い平織布を製造することによって得られる。ヤーンの平行配列間の角度は90°である。
【0038】
[実施例1]
5280dtexのダイニーマ(登録商標)SK75繊維の二重縒り(double laid)は、両方向に2.5バンドル(束)/センチメートルの矩形の対称的な平面格子に配列される。隣接する2本のヤーンの中心線の間の格子内の距離は1本のヤーンの直径の約2倍なので、格子内の開口は、1本のヤーンの直径にほぼ等しいサイズを有する。格子は標準的なビニルエステル系樹脂を用いて、平坦なパネル板構成で炭素繊維布と結合される。ビニルエステル系樹脂は、炭素繊維布および格子の両方のためのマトリックスとして適用される。ビニルエステル系樹脂の硬化の後、格子様の表面パターンを有する約3mmの厚さの堅くて薄い耐衝撃性の積層体が得られる。この積層体は、約1kg/平方メートルの重量を有する。パネルは積層体から切り取られ、航空貨物コンテナフレームに取り付けられる。コンテナは、航空荷貨物をシミュレートする金属ブロックから通常生じる600kgの質量で満たされる。2フォークリフト(two−forklift)の電動中型トラックは、0.0メートルから2.5メートルまでの範囲のいくつかの距離からパネルに対して最大加速で疾走する。パネルは、少なくとも1.5メートルの距離からの打撃に耐える。
【0039】
パネル内に孔が開いたら、フォークリフト車は、コンテナに搭載された600kg全体を持ち上げることによってより大きい孔を引き裂くことはできないであろう。
【0040】
[比較実験A]
実施例1を繰り返したが、ダイニーマ(登録商標)SK75繊維の二重縒りの格子の代わりに、実施例1で使用された表面単位あたりのダイニーマ(登録商標)SK75の量と等しい空中密度(aerial density)を有するSK75繊維の密に織った布を使用した。
【0041】
既に1メートルの距離から2フォークリフト車により衝突され、かなりの損傷が生じた。さらに、コンテナを持ち上げる際、かなりの量のカスケード損傷が得られた。
【0042】
[比較実験B]
実施例1を繰り返したが、積層体の代わりに、0.7mmの厚さおよび1.9kg/平方メートルの重量を有するアルミニウムパネルを使用した。パネルは0.5mの距離からの2フォークリフト車による打撃にも耐えない。
【0043】
[実施例2]
1.1グラムの鋼のFragment Simulating Projectiles(FSP)を用いてSTANAG 2920に従う試験手順によって、弾丸が積層体に穴を開け得る確率が50%ある速度(V50)と、実施例1の積層体の比エネルギー吸収(SEA)とを21℃で決定した。約21℃および約65%の相対湿度で約24時間のコンディショニングの後、フレキシブルストラップを用いて、35℃でプレコンディショニングしたRoma Plastilinバッキング材料で満たされた支持体上に積層体を固定した。積層体の面積密度(AD)は1.3g/mであった。
【0044】
V50は、12.23J.m/kgのSEAにおいて170m/sであることが分かった。
【0045】
[比較実験C]
2.1g/mのADを有するF220品質(厚さ0.8mm)のアルミニウム板に、実施例2と同じ試験手順を受けさせた。
【0046】
アルミニウム板のV50は、3.17J.m/kgのSEAにおいて110m/sであることが分かった。
【0047】
実施例1の積層体およびアルミニウム板のSEAの値は、アルミニウム板が、実施例1の積層体よりもほぼ4倍小さい爆風耐性を有することを示す。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】超高分子量ポリエチレンフィラメント(14080dtexのダイニーマ(Dyneema)TMSK75)を含むヤーンの写真を示し、ヤーンは格子構造に位置決めされている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の層と、前記第1の層に付着された、高靭性ヤーンを含む第2の層とを含有する積層体であって、
前記第1の層が、金属、合板、熱可塑性または熱硬化性ポリマー、ならびに炭素繊維および/またはガラス繊維を含有する複合材料からなる群から選択される材料で製造され、前記高靭性ヤーンが少なくとも0.5GPaの靭性を有すると共に、格子構造に配置され、そして前記格子構造において、格子内の隣接するヤーンの中心線間の距離が、ヤーンの直径よりも大きいことを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記第1の層が、少なくとも10GPaの曲げ係数を有することを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記高靭性ヤーンが、アラミドフィラメント、S−ガラスフィラメント、高靭性ポリエステルフィラメントを含有することを特徴とする請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記高靭性ヤーンが、超高分子量ポリエチレンフィラメントを含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項5】
前記格子構造が平行なヤーンの2つ以上の配列によって形成され、前記配列のヤーン間の角度が0°よりも大きいことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項6】
前記高靭性ヤーンが、800〜35000dtexの間の厚さを有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項7】
前記第2の層が、1平方メートルあたり200〜2000グラムの間の高靭性ヤーンを含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の積層体を含有する航空輸送用の構築物。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の積層体を含む航空貨物コンテナ。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の積層体を含む貨物倉ライナー。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2009−533245(P2009−533245A)
【公表日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−504641(P2009−504641)
【出願日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際出願番号】PCT/EP2007/003246
【国際公開番号】WO2007/115833
【国際公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】