説明

積層体

【課題】プラスチック基材上に少なくとも接着層とシーラント層がこの順序で設けられている積層体であって、優れた初期ラミネート強度を有し、かつ揮発性物質を含む各種強浸透性内容物が作用してもプラスチック基材とシーラント層間のラミネート強度が低下せず、しかもこれらの優れた特性が極薄の接着層でも発揮できるようにした積層体を提供することにある。
【解決手段】前記接着層が、85重量%以上の2官能以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物と、該イソシアネート化合物に対して固形分比50〜1000重量ppmのフッ素系界面活性剤と、からなることを特徴とする積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック基材上に少なくとも接着層とシーラント層がこの順序で設けられてなる積層体であって、特に、優れたラミネート強度を有し、かつ揮発性物質を含む各種強浸透性内容物が作用してもプラスチック基材とシーラント層間のラミネート強度が低下しない積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、食品や医薬品などを包装するための包装材料として、例えば、層構成が、紙層/ポリエチレン層/アルミ箔層/ポリエステル層/シーラント層となっている積層体が広く使用されている。このような積層体のポリエステル層とシーラント層との貼り合わせは、通常はポリエステルフィルム上に二液硬化型ポリウレタン系のアンカーコート剤を塗布してから、シーラント層を押出ラミネートすることにより行っていた。そして、このような積層体は適度のラミネート強度やガスバリア性を有しており、食品や医薬品などを包装するための包装材料として広く使用されている。
【0003】
しかしながら、上述のような構成の積層体を包装材料として用い、例えば酸性物質、アルカリ性物質、香料、界面活性剤、有機溶剤などの揮発性物質を包装した場合、揮発性物質の強い浸透力によってアンカーコート剤が悪影響を受け、プラスチック基材とシーラント層間のラミネート強度が経時で低下し、その結果デラミネーション(剥離)を引き起こすことがあった。
【0004】
このようなデラミネーションは、前述したような構成の積層体の製造工程におけるラミネート加工に際して使用されるアンカーコート剤、例えばポリエステルポリオールなどの主剤とイソシアネート化合物からなる硬化剤を配合した二液硬化型ポリウレタン系のアンカーコート剤からなる接着層に上記のような強浸透性内容物が悪影響を及ぼし、接着層の主剤樹脂成分を膨潤させたり、分子量を低下させ、接着層の凝集力が低下した時に起きるものと考えられる。
【0005】
このような状況の下、プラスチック基材上に接着層を介してシーラント層が少なくとも設けられてなる積層体において、揮発性物質を含む各種強浸透性内容物が作用してもプラスチック基材とシーラント層間のラミネート強度が低下しない、包装材用途に好適に使用できる積層体の開発が強く望まれている。
【0006】
そして、前述のような構成の積層体の製造工程中におけるラミネート加工に際して使用される接着剤の検討が種々行われている。
【0007】
特許文献1によれば、プラスチック基材上に少なくとも接着層とシーラント層がこの順序で設けられていて、その接着層がポリエステルポリオールなどの主剤とイソシアネート化合物からなる硬化剤を配合した二液硬化型ポリウレタン系からなり、主剤と硬化剤の割合が1:99〜15:85であるものを使用する積層体であり、特に、優れたラミネート強度を有し、かつ揮発性物質を含む各種強浸透性内容物が作用しても基材とシーラント層間のラミネート強度が低下しない積層体が提案されている。
【0008】
しかし、上述のような接着剤は、プラスチック基材に対するレベリング性(濡れ性)が悪く、極薄塗工で接着層を構成すると、十分なラミネート強度が得られる部分とそうでない部分が交互に存在するようになり、ラミネート強度に不均一が生じることがあった。また、極薄塗工で接着層を形成するメリットとしては、接着層が非常に薄くなるので乾燥時
間がより少なくて済むこと、反応時間がより短くて済むこと、低いコストで作製できることなどを挙げることができるが、前述のような構成の積層体の接着層を構成する接着剤として用いた場合には、極薄塗工により所期の効果が発現できる接着層が形成できなかった。
【0009】
一般に、フィルム基材表面に対する液体のレベリング性(濡れ性)を向上させ、極薄塗工を可能にするためには、その液体中に表面張力を低下させ、薄く広がりやすくさせる化合物を添加する手法が取られている。この表面張力とは、分子同士が引き合う結果生じる力のことで、この力が小さい化合物を添加された液体は、物体の表面で薄く広がる傾向がある。その添加する化合物としては、水に溶解した時に親水基の部分が陰イオンに電離する陰イオン界面活性剤、水に溶解した時に親水基の部分が陽イオンに電離する陽イオン界面活性剤、水に溶解した時にアルカリ性領域では陰イオン界面活性剤の性質を、酸性領域では陽イオン界面活性剤の性質を示す両性界面活性剤、水に溶解した時にイオン化しない親水基を持っている非イオン系界面活性剤などがある。
【0010】
しかし、特許文献1の接着層を構成する、ポリエステルポリオールなどの主剤とイソシアネート化合物からなる硬化剤との混合物では希釈溶剤として酢酸エチルを用いており水には溶解しないため、上述の各種界面活性剤は使用することができず、その結果極薄塗工ができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−187908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記した従来の問題点を解決するためになされたものであり、その課題とするところは、プラスチック基材上に少なくとも接着層とシーラント層がこの順序で設けられている積層体であって、特に、優れた初期ラミネート強度を有し、かつ揮発性物質を含む各種強浸透性内容物が作用してもプラスチック基材とシーラント層間のラミネート強度が低下せず、しかもこれらの優れた特性が極薄の接着層でも発揮できるようにした積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の請求項1に係る発明は、プラスチック基材上に少なくとも接着層とシーラント層がこの順序で設けられていて、前記接着層が85重量%以上の2官能以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物と、該イソシアネート化合物に対して固形分比50〜1000重量ppmのフッ素系界面活性剤と、からなることを特徴とする積層体である。
【0014】
本発明の請求項2に係る発明は、前記イソシアネート化合物が、2官能のイソシアネートモノマー、またはそのアダクト、ビューレット、イソシアヌレートタイプの3官能化させたモノマーの誘導体のいずれかであることを特徴とする請求項1記載の積層体である。
【0015】
本発明の請求項3に係る発明は、前記接着層の厚みが、1μm以下であることを特徴とする請求項1または2記載の積層体である。
【0016】
本発明の請求項4に係る発明は、前記シーラント層が、ポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層体である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の積層体は、プラスチック基材上に少なくとも接着層とシーラント層がこの順序で設けられていて、その接着層が、85重量%以上の2官能以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物、詳しくは2官能のイソシアネートモノマー、またはそのアダクト、ビューレット、イソシアヌレートタイプの3官能化させたモノマーの誘導体のいずれかであり、かつ該イソシア化合物に対して固形分比50〜1000重量ppmのフッ素系界面活性剤を添加したものである。よって、強浸透性内容物の影響を受けず、かつ非常に薄くて緻密な層を形成しているため、プラスチック基材に対して優れたラミネート強度を示すことができる。よって、例えば酸性物質、アルカリ性物質、香料、界面活性剤、有機溶剤などの揮発性物質が含まれている各種強浸透性内容物を保存する包装材料として使用してもプラスチック基材とシーラント層間のラミネート強度が低下することがなく、デラミネーションを起こすことがない。しかも、プラスチック基材に対する接着層のレベリング性(濡れ性)が優れるため、極薄塗工で得られた1μm以下の薄い接着層であっても上記した優れた特性を確実に発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の積層体の構成の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明に係る積層体の構成の一例を示す説明図である。
【0021】
本発明の積層体1は、プラスチック基材2上に接着層3とシーラント層4がこの順序で積層されてなるものである。
【0022】
本発明の積層体を構成するプラスチック基材2としては、ポリエステルフィルムのノーマルタイプ、共重合タイプ、易接着タイプのものや、ナイロンフィルムのノーマルタイプ、易接着タイプのもの、あるいはポリプロピレンフィルムの未静防タイプ、静防タイプのものなど、様々なタイプのものが使用可能である。
【0023】
また、脂肪族ポリエステルフィルムや脂肪族芳香族ポリエステルフィルムも使用可能である。さらに、乳酸を主成分とするポリマー、例えば、乳酸のみからなるホモポリマーや、乳酸を主成分とし乳酸以外のモノマー、例えばリンゴ酸、グリコール酸などのオキシ酸、3−ヒドロキシブチレート、3−ヒドロキシヴァリレート、カプロラクトン、およびコハク酸、アジピン酸などのジカルボン酸類とエチレングリコール、1,4−ブタンジオールなどのジオール類などを共重合したコポリマー、あるいはこれらの混合物などが使用可能である。それに加えて、コハク酸、アジピン酸、テレフタル酸などのジカルボン酸類と、エチレングリコール、1,4−ブタンジオールなどのジオール類との共重合体、例えばテレフタル酸を有するポリエチレンテレフタレート−サクシネート、ポリブチレンアジペート−テレフタレート、ポリテトラメチレンアジペート−テレフタレートなども使用可能である。
【0024】
そして、このようなプラスチック基材2には、その一方の面にコロナ処理やプラズマ処理などの表面処理がなされていて、その上に後述する接着層が安定的に形成できるようになっていればより好ましい。プラスチック基材の厚みも特に限定されるものではない。
【0025】
また、プラスチック基材上に無機酸化物からなる蒸着薄膜層を設けたフィルムでも使用可能で、蒸着薄膜層は、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化錫ある
いはそれらの混合物などの蒸着薄膜からなり、酸素や水蒸気などに対するガスバリア性を有するものであればよい。その中でも特に、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、および酸化マグネシウムが酸素透過率および水蒸気透過率に優れるので好ましいが、上述した化合物に限定されず、上記条件に適合する材料であれば何でも使用可能である。
【0026】
前記プラスチック基材上に無機酸化物からなる蒸着薄膜層を設ける際には、蒸着薄膜層との密着性を良くするために前処理としてコロナ処理、低圧プラズマ処理、大気圧プラズマ処理、フレーム処理、イオンボンバード処理などの表面処理、さらには薬品処理、溶剤処理などの表面処理を施しておいてもかまわない。また、必要に応じて無機化合物を有する蒸着用プライマーの薄膜をプラスチック基材上に設けておいてもよい。さらに、金属箔並の高度なガスバリア性を付与するために蒸着薄膜層上に無機化合物を有するガスバリア性被膜層を設けてもかまわない。
【0027】
本発明の接着層3は、85重量%以上の2官能以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物と、該イソシア化合物に対して固形分比50〜1000重量ppmのフッ素系界面活性剤とからなるものである。
【0028】
前記プラスチック基材上に積層される接着層3は、その厚みが1μm以下とすることができ、85重量%以上の2官能以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物と、該イソシア化合物に対して固形分比50〜1000重量ppmのフッ素系界面活性剤とからなっている。
【0029】
その残りの約15重量%以下の成分は、好ましくは、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオールのほかにこれらをベースとしたポリエステルポリウレタンポリオール、ポリエーテルポリウレタンポリオールなどが使用できる。しかしイソシアネート基との反応性が高すぎてすぐにゲル化してしまう化合物でなく、かつイソシアネート基を有するイソシアネート化合物との相溶性の良好な化合物であればこれらに限られない。
【0030】
接着層を構成するイソシアネート基を有するイソシアネート化合物としては、例えば、2,4―トリレンジイソシアネート、2,6―トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4'―ジフェニルメタンジイソシアネートおよびその水素添加体などの各種ジイソシアネート系モノマーなどが挙げられる。また、これらのジイソシアネートモノマーを、トリメチロールプロパンやグリセロールなどの3官能の活性水素含有化合物と反応させたアダクトタイプや、水と反応させたビューレットタイプや、イソシアネート基の自己重合を利用したトリマー(イソシアヌレート)タイプなど3官能性の誘導体やそれ以上の多官能性の誘導体を使用してもかまわない。
【0031】
フッ素系界面活性剤とは、分子構造に疎水基と親水基をともに有する化合物でその疎水基が完全にフッ素化されたフルオロカーボン鎖(パーフルオロカーボン鎖)を持つ化合物である。また、フッ素系界面活性剤としては、アニオンタイプ、ノニオンタイプ、カチオンタイプ、両性タイプのいずれも使用可能で、具体的には、フルオロアルキル(C2〜10)カルボン酸、3−[フルオロアルキル(C6〜11)オキシ]−1−アルキル(C3〜4)スルホン酸ナトリウム、3−[ω−フルオロアルカノイル(C6〜8)−N−エチルアミノ]−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、フルオロアルキル(C11〜20)カルボン酸、N−パーフルオロオクタンスルホニルグルタミン酸ジナトリウム、N−[3−(パーフルオロオクタンスルホンアミド)プロピル]−N,N−ジメチル−N−カルボキシメチレンアンモニウムベタイン、パーフルオロアルキルカルボン酸(C7〜13)、パーフルオロオクタンスルホン酸ジエタノールアミド、パーフルオロアルキル(C4〜12)スルホン酸塩(Li,K,Na)、パーフルオロアルキル(C6〜10)スルホンアミドプロピルトリメチルアンモニウム塩、パーフルオロアルキル(C6〜10)−N−エチルスルホニルグリシン塩(K)、N−プロピル−N−(2−ヒドロキシエチル)パーフルオロオクタンスルホンアミド、リン酸ビス(N−パーフルオロオクチルスルホニル−N−エチルアミノエチル)、モノパーフルオロアルキル(C6〜16)エチルリン酸エステル、など様々なものが挙げられるが、上記イソシアネート基を有するイソシアネート化合物の希釈溶剤としては主に酢酸エチルが使用されることから、酢酸エチルに溶解するフッ素系界面活性剤が好適に使用できる。
【0032】
これらのフッ素系界面活性剤は、他の液体に比べて表面張力が非常に小さいため物体の表面で薄く広がる傾向がある。また、接着層の希釈溶剤として用いる酢酸エチルにも一部のものを除いてほとんど溶解することから、接着層を構成する85重量%以上の2官能以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物に、フッ素系界面活性剤を極少量添加することにより、プラスチック基材に対する接着層のレベリング性(濡れ性)を格段に向上させ、極薄塗工により均一な層厚の接着層の形成が可能となる。
【0033】
また、フッ素系界面活性剤の添加量は、85重量%以上の2官能以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物に対して、固形分比50〜1000重量ppmであればよいが、50〜500重量ppm程度であればより好ましい。50重量ppm未満の添加では、プラスチック基材に対する接着層のレベリング性(濡れ性)を向上させるのには不十分である。一方、1000重量ppmを超える添加は、プラスチック基材に対する接着層のレベリング性(濡れ性)を向上させるのには過剰な添加量であり、また反応後に接着層の凝集力低下に繋がる。
【0034】
前記接着層を構成する2官能以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物の割合について、例えば、ポリエステルポリオール90重量%とイソシアネート化合物10重量%の混合物のようにポリエステルポリオールリッチな接着層を形成すると、強浸透性内容物が悪影響を及ぼしてポリエステルポリオールを膨潤させたり、分子量を低下させ、その接着層の凝集力が低下するために、プラスチック基材とシーラント層間のラミネート強度が経時的に低下する。そのため、イソシアネート化合物をリッチにした接着層を形成すること、即ちイソシアネート化合物の割合を、85重量%以上、より好ましくは90重量%以上にすることにより強浸透性内容物の影響を受けない接着層が得られる。
【0035】
このような構成の接着層は、プラスチック基材上に、85重量%以上の2官能以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物と、該イソシア化合物に対して固形分比50〜1000重量ppmのフッ素系界面活性剤とからなる塗工液を、酢酸エチルを希釈溶剤として用い、その固形分割合を0.01〜3重量%、好ましくは0.05〜2重量%の割合の塗工液を塗工して薄膜を設ければよい。また、この接着層の厚みは薄い方が好ましく、具体的にはその乾燥時の厚みが1μm以下の薄膜層となるように設ければよい。
【0036】
接着層を非常に薄くすることで、積層体製造時の接着層の反応時間や乾燥時間を短くすることができ、低いコストで作製できるようになる。しかも、本発明の積層体は、接着層の厚みが1μm以下でも、そのレベリング性(濡れ性)が優れるため、優れたラミネート強度を確保することができ、さらにはその優れたラミネート強度は強浸透性物質が作用しても低下することがない。1μm以上では、溶剤を飛ばすための乾燥に時間がかかることや、接着層の反応に時間がかかるため、強浸透性内容物質耐性の発現が遅くなるという問題が生じる。接着層の厚みは、1μm以下がよく、好ましくは0.01μm〜0.5μmがよい。
【0037】
一方、接着層3上に積層されるシーラント層4としては、ポリエチレン系樹脂やポリプ
ロピレン系樹脂などのポリオレフィン系樹脂からなる層を具体的な例として挙げることができる。このようなシーラント層の形成材料としては、さらに、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、エチレン-αオレフィン共重合体などのエチレン系樹脂や、ホモ・ブロック・ランダムの各ポリプロピレン樹脂や、プロピレン-αオレフィン共重合体などのプロピレン系樹脂、エチレン-アクリル酸共重合体やエチレン-メタクリル酸共重合体などのエチレン-α,β不飽和カルボン酸共重合体、エチレン-アクリル酸メチルやエチレン-アクリル酸エチルやエチレン-メタクリル酸メチルやエチレン-メタクリル酸エチルなどのエチレン-α,β不飽和カルボン酸共重合体のエステル化物、カルボン酸部位をナトリウムイオン、亜鉛イオンで架橋した、エチレン-α,β不飽和カルボン酸共重合体のイオン架橋物、エチレン-無水マレイン酸グラフト共重合体やエチレン-アクリル酸エチル-無水マレイン酸のような三元共重合体に代表される酸無水物変性ポリオレフィン、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体などのエポキシ化合物変性ポリオレフィン、エチレン-酢酸ビニル共重合体から選ばれる樹脂の単体あるいは2種以上のブレンド物などが具体的に挙げられる。
【0038】
また、脂肪族ポリエステルや脂肪族芳香族ポリエステルも使用可能である。より具体的な例としては、コハク酸、アジピン酸などのジカルボン酸類と、エチレングリコール、1,4−ブタンジオールなどのジオール類との共重合体(例えば、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート−アジペート)、微生物産生のポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシブチレート−ヴァリレート、ポリヒドロキシブチレート−ヘクサノエート、乳酸、リンゴ酸、グリコール酸などのオキシ酸の重合体またはこれらの共重合体、ポリカプロラクトン、ポリカプロラクトン−ブチレンサクシネート、アミド結合を有するポリエステル、カーボネート結合を有するポリエステルなどの脂肪族ポリエステル、あるいはテレフタル酸を有するポリエチレンテレフタレート−サクシネート、ポリブチレンアジペート−テレフタレート、ポリテトラメチレンアジペート−テレフタレートなどの脂肪族芳香族ポリエステルから選ばれる樹脂の単体あるいは2種以上のブレンド物などが挙げられる。これらの構成材料には、必要に応じて各種添加剤(酸化防止剤、粘着付与剤、充填剤、各種フィラーなど)を添加してもかまわない。
【0039】
本発明の積層体において、プラスチック基材およびシーラント層としてともに脂肪族ポリエステルまたは脂肪族芳香族ポリエステルを使用すると、強浸透性内容物耐性だけでなく、生分解性機能も併せ持つこととなる。このときプラスチック基材とシーラント層間に存在する接着層は生分解性を有していないが、接着層の厚みが1μm以下の非常に薄い層であるために積層体の生分解性を阻害することはない。
【0040】
以上、本発明に係る積層体について説明したが、本発明の積層体は上記のような層構成のものに限定されるものではない。本発明のプラスチック基材/接着層/シーラント層構成では、各種強浸透性内容物の外部への透過、あるいは拡散の懸念があるため、例えば、PET/接着層/アルミ箔/接着層/プラスチック基材/接着層/シーラント層構成のように、プラスチック基材よりも外層にアルミ箔層を設けた構成を使用してもかまわない。さらに、包装材料としての用途を考慮し、包装材料として要求される剛性や耐久性などを向上させる目的で、他の層を介在させた構成であってもかまわない。
【0041】
そして、このような構成の積層体は、例えば、プラスチック基材上に、85重量%以上の2官能以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物と、該イソシア化合物に対して固形分比50〜1000重量ppmのフッ素系界面活性剤とからなる塗工液を、酢酸エチルを希釈溶剤として用い、その固形分割合を0.01〜3重量%、好ましくは0.05〜2重量%の割合の塗工液を作成する。その塗工液を、押出ラミネート機の塗工部にて塗工し、その後オーブンにて乾燥させ、塗工膜の厚みが1μm以下となるようにする。その後ポリエチレンなどをTダイから押し出してシーラント層を積層することにより得ることができる。
【0042】
以上のような製造方法によれば、プラスチック基材と接着層間、および接着層とシーラント層間の初期のラミネート強度が良好で、かつ揮発性物質が含まれている各種強浸透性内容物が作用してもプラスチック基材と接着層間、および接着層とシーラント層間のラミネート強度が低下しない積層体を得ることができる。しかも、プラスチック基材に対する接着層のレベリング性(濡れ性)が優れるため、その接着層を1μm以下の極薄なものとしても、優れたラミネート強度を確保することができるとともに、その優れたラミネート強度が各種強浸透性内容物が作用しても低下することがない。さらに、材料を選定することにより生分解性をも有する積層体を得ることが可能となった。
【0043】
以下、本発明の具体的実施例について説明する。
【実施例1】
【0044】
プラスチック基材として一方の面にコロナ処理を施した厚みが12μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを使用し、このコロナ処理面に酢酸エチルを希釈溶剤として用いたイソホロンジイソシアネートモノマーとこれに対して固形分比が50重量ppmのパーフルオロオクタンスルホン酸ジエタノールアミドを加え、固形分割合を0.5重量%とした塗工液を塗工して接着層を形成させ、オーブンにて乾燥後、シーラント層として厚み40μmの低密度ポリエチレンをダイ下温度320℃、加工速度80m/minで押出ラミネート法により押し出して前記プラスチック基材/接着層とシーラント層を積層させ、その後50℃で3日間のエージングを施し、実施例1に係る積層体を得た。接着層の乾燥後の厚みは50nmであった。
【実施例2】
【0045】
接着層形成用の塗工液として、トリレンジイソシアネートのアダクトタイプとポリエステルポリオールを、90:10(重量比)となるよう混合し、この混合物100重量%に対して固形分比が100重量ppmのN−プロピル−N−(2−ヒドロキシエチル)パーフルオロオクタンスルホンアミドを加え、固形分割合を0.5重量%とした塗工液を使用し、シーラント層の構成材料としてエチレン−メタクリル酸共重合体を使用した以外は実施例1と同様の方法で、実施例2に係る積層体を得た。接着層の乾燥後の厚みは50nm、シーラント層を押出ラミネート法により接着層上に押し出して形成したときのダイ下温度は280℃であった。
【実施例3】
【0046】
プラスチック基材として厚みが15μmのナイロンフィルムを使用し、接着層形成用の塗工液として、イソホロンジイソシアネートのアダクトタイプとポリエステルポリオールを、90:10(重量比)となるよう混合し、この混合物100重量%に対して固形分比が200重量ppmのパーフルオロウンデカン酸を加え、固形分割合を0.7重量%とした塗工液を使用し、シーラント層の構成材料として亜鉛アイオノマーを使用した以外は実施例1と同様の方法で、実施例3に係る積層体を得た。接着層の乾燥後の厚みは70nm、シーラント層を押出ラミネート法により接着層上に押し出して形成したときのダイ下温度は300℃であった。
【実施例4】
【0047】
プラスチック基材として厚みが15μmのナイロンフィルムを使用し、接着層形成用の塗工液として、ヘキサメチレンジイソシアネートのビューレットタイプとポリエーテルポリオールを、85:15(重量比)となるよう混合し、この混合物100重量%に対して固形分比が500重量ppmのペンタデカフルオロオクタン酸を加え、固形分割合を0.7重量%とした塗工液を使用し、シーラント層の構成材料としてランダムポリプロピレンを使用した以外は実施例1と同様の方法で、実施例4に係る積層体を得た。接着層の乾燥後の厚みは70nm、シーラント層を押出ラミネート法により接着層上に押し出して形成したときのダイ下温度は275℃であった。
【実施例5】
【0048】
プラスチック基材として厚みが20μmのポリ乳酸フィルムを使用し、接着層形成用の塗工液として、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレートタイプとアクリルポリオールを、85:15(重量比)となるよう混合し、この混合物100重量%に対して固形分比が1000重量ppmのヘプタフルオロブタン酸を加え、固形分割合を1.0重量%とした塗工液を使用し、シーラントの構成材料としてポリブチレンサクシネートを使用した以外は実施例1と同様の方法で、実施例5に係る積層体を得た。接着層の乾燥後の厚みは100nm、シーラント層を押出ラミネート法により接着層上に押し出して形成したときのダイ下温度は280℃であった。
【0049】
以下に、本発明の比較例について説明する。
【0050】
<比較例1>
接着層形成用の塗工液として、トリレンジイソシアネートのアダクトタイプを使用し、固形分割合を0.5重量%とした塗工液を使用した以外は実施例1と同様の方法で、比較のための比較例1に係る積層体を得た。接着層の乾燥後の厚みは50nmであった。
【0051】
<比較例2>
接着層形成用の塗工液として、イソホロンジイソシアネートのアダクトタイプとポリエステルポリオールを、85:15(重量比)となるよう混合し、固形分割合を0.7重量%とした塗工液を使用した以外は実施例1と同様の方法で、比較のための比較例2に係る積層体を得た。接着層の乾燥後の厚みは70nmであった。
<比較例3>
プラスチック基材として厚みが15μmのナイロンフィルムを使用し、接着層形成用の塗工液として、キシリレンジイソシアネートのアダクトタイプとポリエーテルポリオールを、20:80(重量比)となるよう混合し、固形分割合を1.0重量%とした塗工液を使用し、シーラント層の構成材料としてエチレン−メタクリル酸共重合体を使用した以外は実施例1と同様の方法で、比較のための比較例3に係る積層体を得た。接着層の乾燥後の厚みは100nm、シーラント層を押出ラミネート法により接着層上に押し出して形成したときのダイ下温度は280℃であった。
【0052】
以上のような製造方法により得られた、初期のラミネート強度が十分に得られた実施例1〜5、比較例6〜8のそれぞれの積層体を用いてパウチを作製し、内容物として湿布薬(揮発性の強浸透性物質としてサリチル酸メチルやメントールを含有)と、浴用剤(揮発性の強浸透性物質として香料成分を含有)をそれぞれ充填、密封し、40℃の恒温室内に放置した。
【0053】
3ヶ月経過後にこれらのパウチを恒温室から取り出し、それぞれのパウチの各種プラスチック基材とシーラント層間のラミネート強度[N/15mm]を測定し、恒温室に入れる前のパウチにおける初期のラミネート強度と比較した。このときのラミネート強度の測定条件は、試料幅15mmのT型剥離で、剥離速度300mm/minとした。恒温室投入前と後におけるラミネート強度の測定結果をまとめて表1に示す。
【0054】
<比較結果>
【0055】
【表1】

【0056】
表1からも明らかなように、実施例1〜5に係る積層体の各種プラスチック基材とシーラント層間における初期のラミネート強度は、シーラント切れを示すほど強固であった。また、揮発性物質を含む湿布薬や浴用剤を入れて40℃で3ヶ月間保存したパウチにおいてもラミネート強度に変化はなく、初期のラミネート強度を十分に保っていた。
【0057】
これに対して、比較例1、2に係る積層体のプラスチック基材とシーラント層間における初期のラミネート強度は、接着層のプラスチック基材に対してのレベリング性(濡れ性)が悪く、十分なラミネート強度が得られる部分とそうでない部分が交互に存在し、ラミネート強度に不均一が生じていたことから、包装材料への使用には適さないことが判明した。
【0058】
また、比較例3に係る積層体の接着層は、ポリエーテルポリオールリッチであり、プラスチック基材に対してのレベリング性(濡れ性)が良好なため、プラスチック基材とシーラント層間における初期のラミネート強度は、シーラント切れを示すほど強固であったが、揮発性物質を含む湿布薬や浴用剤を入れて40℃で3ヶ月間保存したパウチにおいては、ラミネート強度が著しく低下しており、湿布薬や浴用剤などの揮発性物質を含む内容物の包装材料への使用には適さないことが判明した。
【符号の説明】
【0059】
1:積層体
2:プラスチック基材
3:接着層
4:シーラント層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック基材上に少なくとも接着層とシーラント層がこの順序で設けられていて、前記接着層が85重量%以上の2官能以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物と、該イソシアネート化合物に対して固形分比50〜1000重量ppmのフッ素系界面活性剤と、からなることを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記イソシアネート化合物が、2官能のイソシアネートモノマー、またはそのアダクト、ビューレット、イソシアヌレートタイプの3官能化させたモノマーの誘導体のいずれかであることを特徴とする請求項1記載の積層体。
【請求項3】
前記接着層の厚みが、1μm以下であることを特徴とする請求項1または2記載の積層体。
【請求項4】
前記シーラント層が、ポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層体。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−16885(P2012−16885A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155677(P2010−155677)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】