積層型圧電体素子及びその製造方法
【課題】容易に弾性変形し、かつ充分な接着強度を有する取り出し電極を設けた積層型圧電体素子及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】積層型圧電体素子1は、圧電材料よりなる圧電層20と導電性を有する内部電極層21、22とを交互に積層してなるセラミック積層体10と、セラミック積層体10の側面101、102に導電性接着剤33を介して接合された電極供給用の取り出し電極34とを有している。また、取り出し電極34は、多数の貫通穴を有するメッシュ形状を呈し、貫通穴に導電性接着剤33を侵入させている。取り出し電極34と導電性接着剤33との接合面全体の面積の50%以上の領域において、貫通穴に進入する導電性接着剤33の厚みが、取り出し電極34の厚みよりも小さい。
【解決手段】積層型圧電体素子1は、圧電材料よりなる圧電層20と導電性を有する内部電極層21、22とを交互に積層してなるセラミック積層体10と、セラミック積層体10の側面101、102に導電性接着剤33を介して接合された電極供給用の取り出し電極34とを有している。また、取り出し電極34は、多数の貫通穴を有するメッシュ形状を呈し、貫通穴に導電性接着剤33を侵入させている。取り出し電極34と導電性接着剤33との接合面全体の面積の50%以上の領域において、貫通穴に進入する導電性接着剤33の厚みが、取り出し電極34の厚みよりも小さい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、圧電アクチュエータ等に適用される積層型圧電体素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層型圧電体素子は、一般的に圧電材料よりなる圧電層と導電性を有する内部電極層とを交互に積層してなるセラミック積層体を有し、このセラミック積層体の側面には、一層おきの内部電極層とそれぞれ電気的に接続された一対の側面電極を有している。そして、各側面電極とそれぞれ電気的に接続された一対の取り出し電極間に印加される駆動電圧により圧電変位を生じるように構成されている。
【0003】
ところが、このような積層型圧電体素子には、駆動時に生じる圧電層の変位によって取り出し電極の接合部位に応力が付与され、当該接合部位に位置する導電性接着剤にクラックが生じたり、取り出し電極がセラミック積層体の側面から剥離する等の不具合の発生及びそれによる信頼性の低下といった問題がある。
【0004】
従来、上記に示される問題を解決すべく、積層型圧電体素子の取り出し電極構造として、例えば特許文献1〜特許文献3が開示されている。
上記文献に示される取り出し電極構造は、取り出し電極とセラミック積層体側面とを部分的に接合するものや、導電性接着剤等を用いて接着させるものがある。これにより、圧電層の変位に対して取り出し電極の弾性変形が容易となる。しかしながら、上記の構造では、取り出し電極の接合強度及び接着強度は充分に得られない。そのため、圧電層の変位によって取り出し電極の接合部位に生じる応力により、取り出し電極が剥離する等の問題を確実に解消することは困難である。
【0005】
一方、取り出し電極の接合強度又は接着強度を充分に確保するために、取り出し電極を側面電極等に完全に埋設することも考えられる。しかし、この場合には、圧電層の変位に対して容易に弾性変形することが困難となり、取り出し電極の接合部位に生じる応力がより大きくなる。そのため、この場合にも、取り出し電極の接合部位でのクラック発生等を確実に防止することは困難である。
【0006】
【特許文献1】特開平2−251185号公報
【特許文献2】特開平4−167579号公報
【特許文献3】特開平10−229227号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、容易に弾性変形し、かつ充分な接着強度を有する取り出し電極を設けた積層型圧電体素子及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、圧電材料よりなる圧電層と導電性を有する内部電極層とを交互に積層してなるセラミック積層体と、該セラミック積層体の側面に導電性接着剤を介して接合された電力供給用の取り出し電極とを有する積層型圧電体素子において、
上記取り出し電極は、多数の貫通穴を有するメッシュ形状を呈していると共に、上記貫通穴に上記導電性接着剤を侵入させており、
上記取り出し電極と上記導電性接着剤との接合面全体の面積の50%以上の領域において、上記貫通穴に侵入する上記導電性接着剤の厚みが、上記取り出し電極の厚みよりも小さいことを特徴とする積層型圧電体素子にある(請求項1)。
【0009】
本発明の積層型圧電体素子は、上記取り出し電極が、多数の上記貫通穴を有するメッシュ形状を呈していると共に、上記貫通穴に上記導電性接着剤を侵入させている。また、上記取り出し電極と上記導電性接着剤との接合面全体の面積の50%以上の領域において、上記貫通穴に進入する上記導電性接着剤の厚みが、上記取り出し電極の厚みよりも小さい。
これにより、上記取り出し電極は、上記圧電層の変位に対して容易に弾性変形することができ、かつ上記導電性接着剤に対して充分な接着強度を確保することができる。
この理由は、次のように考えることができる。
【0010】
即ち、上記取り出し電極は、上記のごとくメッシュ形状を呈し、ある程度変位可能であり、長手方向に伸長する際には幅方向に収縮するという特性を有している。このような上記取り出し電極を上記導電性接着剤により強く拘束しすぎると両者の間に生じる応力が大きくなり、上述したクラック等の問題を解消することができない。
これに対し、本発明では、上記取り出し電極の上記貫通穴に上記導電性接着剤を侵入させて固定するものの、両者の接合面全体の面積の50%以上の領域において、上記貫通穴に侵入する上記導電性接着剤の厚みが、上記取り出し電極の厚みよりも小さいという構造を確保している。
【0011】
これにより、上記取り出し電極は、上記導電性接着剤に対して充分な接着強度を確保しながら、上記導電性接着剤に埋設される部分を少なくすることで拘束しすぎることを防止する。それ故、上記圧電層の変位によって生じる応力を緩和させ、クラックや剥離等の発生を抑制することができる。
【0012】
このように、本発明の積層型圧電体素子は、容易に弾性変形し、かつ充分な接着強度を有する取り出し電極を設けたものとなる。
【0013】
第2の発明は、圧電材料よりなる圧電層と導電性を有する内部電極層とを交互に積層してなるセラミック積層体と、該セラミック積層体の側面に導電性接着剤を介して接合された電力供給用の取り出し電極とを有する積層型圧電体素子を製造する方法において、
上記圧電層と上記内部電極層とを交互に積層してなる上記セラミック積層体を形成する積層体形成工程と、
上記セラミック積層体の側面に、上記取り出し電極の厚みよりも薄く上記導電性接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、
上記導電性接着剤の表面に、多数の貫通穴を有するメッシュ形状を呈する上記取り出し電極を配置し、その表面から押圧部材により上記取り出し電極を押圧した状態で上記導電性接着剤を硬化させることにより、上記押圧部材の当接部に、上記取り出し電極の上記貫通穴を貫通して該取り出し電極の表面側を露出する露出面を有する貫通露出部を1又は複数形成する取り出し電極配置工程とを有することを特徴とする積層型圧電体素子の製造方法にある(請求項8)。
【0014】
本発明の製造方法は、上記積層体形成工程と、上記接着剤塗布工程とを施した後、上記取り出し電極配置工程を実施する。
上記取り出し電極工程では、上記導電性接着剤の表面に、多数の上記貫通穴を有するメッシュ形状を呈する上記取り出し電極を配置する。そして、その表面から上記押圧部材により上記取り出し電極を押圧した状態で上記導電性接着剤を硬化させる。これにより、上記押圧部材の当接部に、上記取り出し電極の上記貫通穴を貫通して該取り出し電極の表面側を露出する上記露出面を有する上記貫通露出部を1又は複数形成する。
【0015】
即ち、上記取り出し電極配置工程では、上記貫通露出部を形成する部分に上記押圧部材を当接させて押圧する。この押圧時のわずかな変形等によって、上記押圧部材周辺に上記導電性接着剤が付着した状態となる。そして、この状態を維持したまま上記導電性接着剤を硬化するため、上記押圧部材を除去した後、上記貫通露出部が形成される。
一方、上記取り出し電極の厚みは、上記導電性接着剤よりも薄いので、上記押圧部材を当接させない領域において、上記導電性接着剤は上記取り出し電極を貫通しないで硬化する。
【0016】
このような上記貫通露出部を1又は複数設けることにより、上記取り出し電極は、上記導電性接着剤に対して充分な接着強度を確保しながら、上記導電性接着剤に埋設される部分を少なくすることで拘束しすぎることを防止する。それ故、上記圧電層の変位によって生じる応力を緩和させ、クラックや剥離等の発生を抑制することができる。
【0017】
このように、本発明の製造方法によって得られる積層型圧電体素子は、容易に弾性変形し、かつ充分な接着強度を有する取り出し電極を設けたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
上記第1の発明の積層型圧電体素子において、上記貫通穴に進入する上記導電性接着剤の厚みが、上記取り出し電極の厚みよりも小さい領域は、上記取り出し電極と上記導電性接着剤との接合面全体の面積の50〜95%の範囲内であることが好ましい。
上記面積が50%より小さい場合、上記取り出し電極は、上記圧電層の変位に対して容易に弾性変形することが困難となるおそれがある。また、上記面積が95%より大きい場合、上記取り出し電極は、上記導電性接着剤に対して充分な接着強度を得ることができないおそれがある。
【0019】
また、上記取り出し電極としては、多数の上記貫通穴を有するものであれば種々のものを適用できる。例えば、いわゆるエキスパンダメタル、パンチングメタル等の金属板を加工したものを用いることができる。また、素材としては、ステンレス鋼、銅、鉄−ニッケル合金等を用いることができる。また、上記取り出し電極の寸法としては、長さが積層素子長さの5〜100%、幅が積層素子幅の5〜100%、厚みが50〜500μmの範囲であることが好ましい。この場合には、通常用いられるサイズの圧電アクチュエータ等に適用することができる。
【0020】
また、上記圧電層は、Pb(Zr、Ti)O3系のペロブスカイト構造の酸化物であるジルコン酸チタン酸鉛よりなることが好ましい。ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)は、優れた圧電特性を有しており、上記積層型圧電体素子の特性を非常に優れたものとすることができる。なお、鉛を含まない鉛フリーの圧電セラミックスを適用することも環境上好ましい。
【0021】
また、上記セラミック積層体は、最終的に得ようとする積層数よりも少ない数の圧電層を積層してなる圧電ユニットごとに焼成し、それらを接着させたユニットタイプでもよいし、予め必要な数だけ圧電層を積層してから一体的に焼成した一体焼成タイプでもよい。
また、上記セラミック積層体は、部分電極構造でもよいし、全面電極構造でもよい。
また、上記セラミック積層体の側面に側面電極を設け、該側面電極に上記導電性接着剤を介して上記取り出し電極を接合することも可能である。この場合には、より高い導電性を確保することができる。
【0022】
また、上記導電性接着剤は、上記貫通穴を貫通して上記取り出し電極の表面側に露出する露出面を有する貫通露出部を1又は複数形成していることが好ましい(請求項2)。この場合には、上記貫通露出部の存在により、上記導電性接着剤と上記取り出し電極との密着性が向上し、剥離等がより生じにくくなる。
【0023】
また、上記貫通露出部は、上記露出面が点状形状を呈しており、複数箇所に点在して配置されていることが好ましい(請求項3)。この場合には、上記貫通露出部の配置、数等を調整することにより、比較的容易に接合強度等を最適化させることができる。
さらに、上記貫通露出部は、均一に分布されていることが好ましい。この場合には、上記取り出し電極が上記圧電層の変位に対して不均一に弾性変形することを抑制し、クラック・剥離等の防止効果をさらに高めることができる。
【0024】
また、上記貫通露出部の上記各露出面の大きさは、2×10-3〜13mm2の範囲にあることが好ましい(請求項4)。
上記各露出面の大きさが2×10-3mm2より小さい場合、上記取り出し電極は、上記導電性接着剤に対して充分な接着強度を得ることができないおそれがある。また、上記各露出面の大きさが13mm2より大きい場合、上記取り出し電極は、上記圧電層の変位に対して容易に弾性変形することが困難となるおそれがある。
【0025】
また、上記貫通露出部は、上記露出面の形状が、連続的又は断続的な直線又は曲線状を呈していることが好ましい(請求項5)。この場合には、上記貫通露出部を設けたことによる効果を得ることができる。
【0026】
また、上記貫通露出部は、上記露出面の少なくとも一部が上記取り出し電極の表面から突出しており、その突出量が0.01〜0.3mmの範囲にあることが好ましい(請求項6)。
上記突出量が0.01mmより小さい場合、上記取り出し電極は、上記導電性接着剤に対して充分な接着強度を得ることができないおそれがある。また、上記突出量が0.3mmより大きい場合、上記突出量が絶縁樹脂の厚みを超えてしまい、外部に対して充分な絶縁性を確保することができない。
【0027】
また、上記積層型圧電体素子は、インジェクタの駆動源として用いられるインジェクタ用圧電アクチュエータであることが好ましい(請求項7)。
上記インジェクタは、高温雰囲気下という過酷な状態で使用される。そのため、上記の優れた積層型圧電体素子をアクチュエータとして用いることにより、耐久性を向上させることができ、インジェクタ全体の性能向上及び信頼性向上を図ることができる。
【0028】
上記第2の発明の製造方法において、上記押圧部材は、上記取り出し電極に当接するピン部と、該ピン部を前進方向に付勢するスプリングとを有してなり、上記ピン部を上記取り出し電極に当接させた際に上記スプリングの付勢力に抗して上記ピン部が後退可能に構成されていることが好ましい(請求項9)。この場合には、上記貫通露出部を正確に配置することができる。また、上記押圧部材の先端形状、荷重等を調整することによって、上記貫通露出部の形状、突出量、上記露出面の大きさ等を制御することができる。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
本発明の実施例にかかる積層型圧電体素子及びその製造方法につき、図1〜図6を用いて説明する。
本例の積層型圧電体素子1は、図1に示すごとく、圧電材料よりなる圧電層20と導電性を有する内部電極層21、22とを交互に積層してなるセラミック積層体10と、セラミック積層体10の側面に導電性接着剤33を介して接合された電力供給用の取り出し電極34とを有している。
【0030】
また、取り出し電極34は、多数の貫通穴341を有するメッシュ形状を呈していると共に、貫通穴341(図1、図6において図示略)に導電性接着剤33を侵入させている。そして、取り出し電極34と導電性接着剤33との接合面全体の面積の50%以上の領域において、貫通穴341に進入する導電性接着剤33の厚みが、取り出し電極34の厚みよりも小さい。
以下、これを詳説する。
【0031】
本例の積層型圧電体素子1は、図1、図2に示すごとく、圧電材料よりなる圧電層20と導電性を有する内部電極層21、22とを交互に積層してなる圧電ユニット2をシリコーン樹脂よりなる接着剤11によって積層接着し、セラミック積層体10を形成している。
また、セラミック積層体10は、側面101に設けられた第1側面電極31と、側面102に設けられた第2側面電極32とを有している。また、第1側面電極31に導通する第1内部電極層21と、第2側面電極32に導通する第2内部電極層22とを交互に配置してなる。側面電極31、32は、圧電ユニット2の側面に予め設けたものである。
【0032】
また、同図に示すごとく、セラミック積層体10における第1側面電極31を設けた側面101には、第2内部電極層22の端部を露出しない。一方、第2側面電極32を設けた側面102には、第1内部電極層21の端部を露出しない。すなわち、本例のセラミック積層体10は、部分電極構造を有している。
また、第1側面電極31及び第2側面電極32には、導電性接着剤33を介して取り出し電極34が接着されている。なお、側面電極31、32を設けずに、セラミック積層体10の側面101、102に導電性接着剤33を介して取り出し電極34を接合することも可能である。
【0033】
また、同図に示すごとく、導電性接着剤33は、メッシュ形状を呈した取り出し電極34の貫通穴341を貫通し、取り出し電極34の表面側に露出する露出面332を有する貫通露出部331を形成している。
本例の貫通露出部331は、円柱形状であり、露出面332が円形の点状形状を呈し、取り出し電極34の長手方向に等間隔で一列に配置されている。
【0034】
また、取り出し電極34と導電性接着剤33との接合面全体の面積の50%以上の領域において、貫通穴341に侵入する導電性接着剤33の厚みが、取り出し電極34の厚みよりも小さい。すなわち、上記に示される領域には、貫通露出部331が形成されていない。
また、セラミック積層体10の側面全周は、取り出し電極34と貫通露出部331を覆うように絶縁樹脂であるシリコーン樹脂からなるモールド材35(図2では図示略)が設けてある。
【0035】
また、本例の内部電極層21、22は、導電ペースト210、220を焼結して形成される。導電ペースト210、220は、Ag(銀)とPd(パラジウム)とを含有したものである。なお、内部電極層21、22としては、Cu(銅)を主体とする材料に変更することも可能である。
また、側面電極31、32は、導電ペースト310、320を焼結して形成される。導電ペースト310、320は、Agとガラスフリットとを含有したものである。
また、導電性接着剤33は、Agフィラーをエポキシ樹脂中に含有させたものである。
【0036】
次に、上記積層型圧電体素子1の製造方法について説明する。
本例の積層型圧電体素子1を製造するに当たっては、少なくとも積層体形成工程と、接着剤塗布工程と、取り出し電極工程とを行う。
上記積層体形成工程は、圧電層20と内部電極層21、22とを交互に積層してなるセラミック積層体10を形成する工程である。
上記接着剤塗布工程は、セラミック積層体10の側面に、取り出し電極34の厚みよりも薄く導電性接着剤33を塗布する工程である。
【0037】
上記取り出し電極配置工程は、導電性接着剤33の表面に、多数の貫通穴341を有するメッシュ形状を呈する取り出し電極34を配置する。そして、その表面から押圧部材により取り出し電極34を押圧した状態で導電性接着剤33を硬化させる。これにより、押圧部材の当接部に、取り出し電極34の貫通穴341を貫通して取り出し電極34の表面側を露出する露出面を有する貫通露出部331を1又は複数形成する工程である。
【0038】
まず、圧電材料となるジルコン酸チタン酸鉛(PZT)粉末を準備し、800〜950℃で仮焼した。次に、仮焼粉に純水、分散剤を加えてスラリーとし、パールミルにより湿式粉砕した。この粉砕物を乾燥、粉脱脂した後、溶剤、バインダー、可塑剤、分散剤等を加えてボールミルにより混合した。その後、上記スラリーを真空装置内で撹拌機により撹拌しながら真空脱泡、粘度調整をした。
【0039】
そして、図3(a)に示すごとく、上記スラリーをドクターブレード装置により一定厚みのグリーンシート200に成形した。得られたグリーンシート200は、切断機により切断し、四角形にした。なお、得ようとする積層型圧電体素子の形状に応じて、形状を変更することもできる。
【0040】
次に、図3(b)に示すごとく、グリーンシート200の表面にAgとPdとを含有する導電ペースト210、220をスクリーン印刷した。なお、内部電極層21、22を形成しない控え部219、229には印刷しない。そして、図3(c)に示すごとく、印刷済みのシート20枚を積層圧着し、焼成した。このようにして、図3(d)に示すごとく、圧電層20と内部電極層21、22とを交互に積層してなる圧電ユニット2を得た。
【0041】
次に、図4(a)に示すごとく、圧電ユニット2の側面101、102にAgとガラスフリットとを含有させた導電ペースト310、320をスクリーン印刷した。その印刷面を治具によって挟持し、荷重を印加した加圧状態で加熱した。加熱終了後、冷却することによって導電ペーストを焼結させた状態とし、側面101、102にそれぞれ第1側面電極31、第2側面電極32を形成した。
【0042】
そして、図4(b)に示すごとく、側面電極31、32を設けた25個の圧電ユニット2を接着剤11によって接着した。得られた積層体を積層方向の両端から荷重を加え加熱硬化して、圧電ユニット2を一体化した。このようにして、図5に示すごとく、側面電極31、32を設けたセラミック積層体10を得た。
【0043】
次に、図6(a)に示すごとく、側面電極31、32上にAgフィラーをエポキシ樹脂中に含有させた導電性接着剤33をメタルマスク印刷した。そして、図6(b)に示すごとく、ステンレス鋼製のエキスパンダメタルよりなり、厚み方向に多数の貫通穴341を有し、長さ40mm、幅3mm、厚み150μmの取り出し電極34を導電性接着剤33上に配置した。
【0044】
さらに、図6(c)に示すごとく、取り出し電極34を押圧部材(図示略)のピン部41で固定した状態で導電性接着剤33を加熱硬化した。
ここで、上記押圧部材は、ピン部41と、ピン部41を前進方向に付勢するスプリング42とを有してなり、ピン部41を取り出し電極に当接させた際にスプリング42の付勢力に抗してピン部41が後退可能に構成されている。
【0045】
その後、押圧部材のピン部41を取り除くと、図6(d)に示すごとく、導電性接着剤33は貫通穴341を貫通し、取り出し電極34の表面側に露出した露出面332を有する貫通露出部331が形成された。各露出面332の面積は0.8mm2であり、貫通露出部331の突出量は0.02mmである。
最後に、モールド材35をセラミック積層体10の側面全周にディスペンス法で塗布し、加熱硬化してユニット式の積層型圧電体素子1を得た。
【0046】
次に、本例の積層型圧電体素子1における作用効果につき説明する。
本例の積層型圧電体素子1は、取り出し電極34が、多数の貫通穴341を有するメッシュ形状を呈していると共に、貫通穴341に導電性接着剤33を侵入させている。また、取り出し電極34と導電性接着剤33との接合面全体の面積の50%以上の領域において、貫通穴341に進入する導電性接着剤33の厚みが、取り出し電極34の厚みよりも小さい。
【0047】
即ち、取り出し電極34は、この貫通穴341に導電性接着剤33を侵入させ、露出面332を有する貫通露出部331を表面に形成して固定するものの、両者の接合面全体の面積の50%以上の領域において、貫通穴341に侵入する導電性接着剤33の厚みが、取り出し電極の厚みよりも小さいという構造を確保している。
これにより、取り出し電極34は、導電性接着剤33に対して充分な接着強度を確保しながら、導電性接着剤33に埋設される部分を少なくすることで拘束しすぎることを防止する。それ故、圧電層20の変位によって生じる応力を緩和させ、クラックや剥離等の発生を抑制することができる。
【0048】
特に本例では、形成された貫通露出部331は、露出面332が円形の点状形状を呈し、取り出し電極34の長手方向に等間隔で一列に配置されている。それ故、上記に示されるクラックや剥離等の発生を抑制する効果をさらに高めることができる。
このように、本例によって得られる積層型圧電体素子1は、容易に弾性変形し、かつ充分な接着強度を有する取り出し電極34を設けたものとなる。
【0049】
本例では、セラミック積層体10を作製するに当たって、圧電ユニットを焼成した後に接着剤により接着して積層体を形成する方法を用いたが、これに代えて、グリーンシート状態で積層してから一体焼成する方法等の他の方法を採用することも可能である。
また、セラミック積層体10は、部分電極構造を用いたが、全面電極構造とすることも可能である。
また、セラミック積層体10は、四角形のものを用いたが、その他、円形、六角形、八角形等の様々な形状を採用することができる。
【0050】
(実施例2)
本例は、図7、図8を用いて、導電性接着剤33が取り出し電極34の貫通穴341から貫通露出して形成された、露出面332を有する貫通露出部331の配置の例を示す。
図7(a)は、露出面332が点状形状を呈し、取り出し電極34の長手方向に貫通露出部331が一列に配置されている。
図7(b)は、露出面332が点状形状を呈し、取り出し電極34の長手方向に貫通露出部331が二列に配置されている。また、その二列の貫通露出部331は、互いにずれた位置に配置されている。
図7(c)は、露出面332が点状形状を呈し、取り出し電極34に貫通露出部331がランダムに配置されている。
【0051】
図8(a)は、露出面332が連続的な直線状を呈し、取り出し電極34の長手方向に貫通露出部331が直線状に1つ配置されている。
図8(b)は、露出面332が連続的な曲線状を呈し、取り出し電極34の長手方向に貫通露出部331が曲線状に1つ配置されている。
図8(c)は、露出面332が断続的な直線状を呈し、取り出し電極34の長手方向に貫通露出部331が複数配置されている。
図8(d)は、露出面332が断続的な曲線状を呈し、取り出し電極34の長手方向に貫通露出部331が複数配置されている。
いずれの貫通露出部331の配置であっても、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【0052】
(実施例3)
本例は、図9を用いて、導電性接着剤33が取り出し電極34の貫通穴341(図示略)から貫通露出して形成された、露出面332を有する貫通露出部331の形状の例を示す。
本例では、例えば実施例2の図7(a)〜(c)のように、露出面332が点状形状を呈し、1又は複数箇所に点在して配置された場合の貫通露出部331(以下、スポットという)の例について示す。
【0053】
図9(a)は、スポット331の形状が例えば円柱、角柱等であり、縦断面が略四角形のものである。
図9(b)は、スポット331の形状が例えば円錐台、角錐台等であり、縦断面が略台形のものである。
図9(c)は、スポット331の形状が例えば円錐、角錐等であり、縦断面が略三角形のものである。
図9(d)は、スポット331の形状が例えば円錐台の上面が平面でなく、凹凸を有するものである。
いずれのスポット331の形状であっても、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【0054】
(実施例4)
本例では、実施例1で得られた積層型圧電体素子1において、取り出し電極34の導電性接着剤33に対する接着強度と、積層型圧電体素子1に電界を繰り返し印加し、動作不良が生じるまでの作動回数とについてスポット間隔別に測定を行い、評価した。
スポット331は、実施例1と同様に円柱形状であり、等間隔で一列に配置されている。スポット面積は0.8mm2である。
【0055】
ここで、スポット間隔は、隣り合うスポット331同士の中心間に積層された圧電層の平均積層数(層)を表す。
また、スポット面積は、各スポット331の露出面332の平均面積(mm2)を表す。
以下、実施例5においても同様に用いる。
【0056】
測定結果を図10、図11に示す。各図は、縦軸にそれぞれ接着強度(N)、作動回数(回)、横軸にスポット間隔(層)をとったものである。
図10は、スポット間隔と接着強度との関係を示している。スポット間隔が100層より大きい場合には、接着強度の低下がみられる。
図11は、スポット間隔と作動回数との関係を示している。スポット間隔が5層より小さい場合には、作動回数の低下がみられる。
【0057】
以上の結果から、スポット間隔が5〜100層の範囲では、取り出し電極34の接着強度と積層型圧電体素子1の作動回数との両方を充分に満足させることができると共に、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【0058】
(実施例5)
本例では、実施例1で得られた積層型圧電体素子1において、取り出し電極34の導電性接着剤33に対する接着強度と、積層型圧電体素子1に電界を繰り返し印加し、動作不良が生じるまでの作動回数とについてスポット面積別に測定を行い、評価した。
スポット331は、実施例1と同様に円柱形状であり、等間隔で一列に配置されている。スポット間隔は30層である。
【0059】
測定結果を図12、図13に示す。各図は、縦軸にそれぞれ接着強度(N)、作動回数(回)、横軸にスポット面積(mm2)をとったものである。
図12は、スポット面積と接着強度との関係を示している。スポット間隔が2×10-3mm2より小さい場合には、接着強度の低下がみられる
図13、はスポット面積と作動回数との関係を示している。スポット間隔が13mm2層より大きい場合には、作動回数の低下がみられる。
【0060】
以上の結果から、スポット面積が2×10-3〜13mm2の範囲では、取り出し電極34の接着強度と積層型圧電体素子1の作動回数との両方を充分に満足させることができると共に、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【0061】
(実施例6)
本例は、実施例1の積層型圧電体素子1をインジェクタ6の圧電アクチュエータとして用いた例である。
本例のインジェクタ6は、図14に示すごとく、ディーゼルエンジンのコモンレール噴射システムに適用したものである。
このインジェクタ6は、同図に示すごとく、駆動部としての上記積層型圧電体素子1が収容される上部ハウジング62と、その下端に固定され、内部に噴射ノズル部64が形成される下部ハウジング63を有している。
【0062】
上部ハウジング62は略円柱状で、中心軸に対し偏心する縦穴621内に、積層型圧電体素子1が挿通固定されている。
縦穴621の側方には、高圧燃料通路622が平行に設けられ、その上端部は、上部ハウジング62上側部に突出する燃料導入管623内を経て外部のコモンレール(図示略)に連通している。
【0063】
上部ハウジング62上側部には、また、ドレーン通路624に連通する燃料導出管625が突設し、燃料導出管625から流出する燃料は、燃料タンク(図示略)へ戻される。
ドレーン通路624は、縦穴621と駆動部(積層型圧電体素子)1との間の隙間60を経由し、さらに、この隙間60から上下ハウジング62、63内を下方に延びる図示しない通路によって後述する3方弁651に連通してしる。
【0064】
噴射ノズル部64は、ピストンボデー631内を上下方向に摺動するノズルニードル641と、ノズルニードル641によって開閉されて燃料溜まり642から供給される高圧燃料をエンジンの各気筒に噴射する噴孔643を備えている。燃料溜まり642は、ノズルニードル641の中間部周りに設けられ、上記高圧燃料通路622の下端部がここに開口している。ノズルニードル641は、燃料溜まり642から開弁方向の燃料圧を受けるとともに、上端面に面して設けた背圧室644から閉弁方向の燃料圧を受けており、背圧室644の圧力が降下すると、ノズルニードル641がリフトして、噴孔643が開放され、燃料噴射がなされる。
【0065】
背圧室644の圧力は3方弁651によって増減される。3方弁651は、背圧室644と高圧燃料通路622、またはドレーン通路624と選択的に連通させる構成である。ここでは、高圧燃料通路622またはドレーン通路624へ連通するポートを開閉するボール状の弁体を有している。この弁体は、上記駆動部1により、その下方に配設される大径ピストン652、油圧室653、小径ピストン654を介して、駆動される。
【0066】
そして、本例においては、上記構成のインジェクタ6における駆動源として、実施例1で示した積層型圧電体素子1を用いている。この積層型圧電体素子1は、上記のごとく、圧電層の変位に対して容易に弾性変形し、かつ導電性接着剤に対して充分な接着強度を有する取り出し電極を設けている。そのため、インジェクタ6全体の性能向上及び信頼性向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】実施例1における、積層型圧電体素子の構造を示す説明図。
【図2】実施例1における、積層型圧電体素子の側面図。
【図3】実施例1における、圧電ユニットを形成する手順を示す説明図。
【図4】実施例1における、側面電極を配置すると共にセラミック積層体を形成する手順を示す説明図。
【図5】実施例1における、側面電極を設けたセラミック積層体の構造を示す説明図。
【図6】実施例1における、導電性接着剤を塗布すると共に取り出し電極を配置する手順を示す説明図。
【図7】実施例2における、貫通露出部の配置の例を示す説明図。
【図8】実施例2における、貫通露出部の配置の例を示す説明図。
【図9】実施例3における、スポットの形状の例を示す側面図。
【図10】実施例4における、スポット間隔と接着強度との関係を示す説明図。
【図11】実施例4における、スポット間隔と作動回数との関係を示す説明図。
【図12】実施例5における、スポット面積と接着強度との関係を示す説明図。
【図13】実施例5における、スポット面積と作動回数との関係を示す説明図。
【図14】実施例6における、インジェクタの構造を示す説明図。
【符号の説明】
【0068】
1 積層型圧電体素子
10 セラミック積層体
20 圧電層
21 第1内部電極層(内部電極層)
22 第2内部電極層(内部電極層)
33 導電性接着剤
331 貫通露出部
332 露出面
34 取り出し電極
341 貫通穴
6 インジェクタ
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、圧電アクチュエータ等に適用される積層型圧電体素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層型圧電体素子は、一般的に圧電材料よりなる圧電層と導電性を有する内部電極層とを交互に積層してなるセラミック積層体を有し、このセラミック積層体の側面には、一層おきの内部電極層とそれぞれ電気的に接続された一対の側面電極を有している。そして、各側面電極とそれぞれ電気的に接続された一対の取り出し電極間に印加される駆動電圧により圧電変位を生じるように構成されている。
【0003】
ところが、このような積層型圧電体素子には、駆動時に生じる圧電層の変位によって取り出し電極の接合部位に応力が付与され、当該接合部位に位置する導電性接着剤にクラックが生じたり、取り出し電極がセラミック積層体の側面から剥離する等の不具合の発生及びそれによる信頼性の低下といった問題がある。
【0004】
従来、上記に示される問題を解決すべく、積層型圧電体素子の取り出し電極構造として、例えば特許文献1〜特許文献3が開示されている。
上記文献に示される取り出し電極構造は、取り出し電極とセラミック積層体側面とを部分的に接合するものや、導電性接着剤等を用いて接着させるものがある。これにより、圧電層の変位に対して取り出し電極の弾性変形が容易となる。しかしながら、上記の構造では、取り出し電極の接合強度及び接着強度は充分に得られない。そのため、圧電層の変位によって取り出し電極の接合部位に生じる応力により、取り出し電極が剥離する等の問題を確実に解消することは困難である。
【0005】
一方、取り出し電極の接合強度又は接着強度を充分に確保するために、取り出し電極を側面電極等に完全に埋設することも考えられる。しかし、この場合には、圧電層の変位に対して容易に弾性変形することが困難となり、取り出し電極の接合部位に生じる応力がより大きくなる。そのため、この場合にも、取り出し電極の接合部位でのクラック発生等を確実に防止することは困難である。
【0006】
【特許文献1】特開平2−251185号公報
【特許文献2】特開平4−167579号公報
【特許文献3】特開平10−229227号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、容易に弾性変形し、かつ充分な接着強度を有する取り出し電極を設けた積層型圧電体素子及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、圧電材料よりなる圧電層と導電性を有する内部電極層とを交互に積層してなるセラミック積層体と、該セラミック積層体の側面に導電性接着剤を介して接合された電力供給用の取り出し電極とを有する積層型圧電体素子において、
上記取り出し電極は、多数の貫通穴を有するメッシュ形状を呈していると共に、上記貫通穴に上記導電性接着剤を侵入させており、
上記取り出し電極と上記導電性接着剤との接合面全体の面積の50%以上の領域において、上記貫通穴に侵入する上記導電性接着剤の厚みが、上記取り出し電極の厚みよりも小さいことを特徴とする積層型圧電体素子にある(請求項1)。
【0009】
本発明の積層型圧電体素子は、上記取り出し電極が、多数の上記貫通穴を有するメッシュ形状を呈していると共に、上記貫通穴に上記導電性接着剤を侵入させている。また、上記取り出し電極と上記導電性接着剤との接合面全体の面積の50%以上の領域において、上記貫通穴に進入する上記導電性接着剤の厚みが、上記取り出し電極の厚みよりも小さい。
これにより、上記取り出し電極は、上記圧電層の変位に対して容易に弾性変形することができ、かつ上記導電性接着剤に対して充分な接着強度を確保することができる。
この理由は、次のように考えることができる。
【0010】
即ち、上記取り出し電極は、上記のごとくメッシュ形状を呈し、ある程度変位可能であり、長手方向に伸長する際には幅方向に収縮するという特性を有している。このような上記取り出し電極を上記導電性接着剤により強く拘束しすぎると両者の間に生じる応力が大きくなり、上述したクラック等の問題を解消することができない。
これに対し、本発明では、上記取り出し電極の上記貫通穴に上記導電性接着剤を侵入させて固定するものの、両者の接合面全体の面積の50%以上の領域において、上記貫通穴に侵入する上記導電性接着剤の厚みが、上記取り出し電極の厚みよりも小さいという構造を確保している。
【0011】
これにより、上記取り出し電極は、上記導電性接着剤に対して充分な接着強度を確保しながら、上記導電性接着剤に埋設される部分を少なくすることで拘束しすぎることを防止する。それ故、上記圧電層の変位によって生じる応力を緩和させ、クラックや剥離等の発生を抑制することができる。
【0012】
このように、本発明の積層型圧電体素子は、容易に弾性変形し、かつ充分な接着強度を有する取り出し電極を設けたものとなる。
【0013】
第2の発明は、圧電材料よりなる圧電層と導電性を有する内部電極層とを交互に積層してなるセラミック積層体と、該セラミック積層体の側面に導電性接着剤を介して接合された電力供給用の取り出し電極とを有する積層型圧電体素子を製造する方法において、
上記圧電層と上記内部電極層とを交互に積層してなる上記セラミック積層体を形成する積層体形成工程と、
上記セラミック積層体の側面に、上記取り出し電極の厚みよりも薄く上記導電性接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、
上記導電性接着剤の表面に、多数の貫通穴を有するメッシュ形状を呈する上記取り出し電極を配置し、その表面から押圧部材により上記取り出し電極を押圧した状態で上記導電性接着剤を硬化させることにより、上記押圧部材の当接部に、上記取り出し電極の上記貫通穴を貫通して該取り出し電極の表面側を露出する露出面を有する貫通露出部を1又は複数形成する取り出し電極配置工程とを有することを特徴とする積層型圧電体素子の製造方法にある(請求項8)。
【0014】
本発明の製造方法は、上記積層体形成工程と、上記接着剤塗布工程とを施した後、上記取り出し電極配置工程を実施する。
上記取り出し電極工程では、上記導電性接着剤の表面に、多数の上記貫通穴を有するメッシュ形状を呈する上記取り出し電極を配置する。そして、その表面から上記押圧部材により上記取り出し電極を押圧した状態で上記導電性接着剤を硬化させる。これにより、上記押圧部材の当接部に、上記取り出し電極の上記貫通穴を貫通して該取り出し電極の表面側を露出する上記露出面を有する上記貫通露出部を1又は複数形成する。
【0015】
即ち、上記取り出し電極配置工程では、上記貫通露出部を形成する部分に上記押圧部材を当接させて押圧する。この押圧時のわずかな変形等によって、上記押圧部材周辺に上記導電性接着剤が付着した状態となる。そして、この状態を維持したまま上記導電性接着剤を硬化するため、上記押圧部材を除去した後、上記貫通露出部が形成される。
一方、上記取り出し電極の厚みは、上記導電性接着剤よりも薄いので、上記押圧部材を当接させない領域において、上記導電性接着剤は上記取り出し電極を貫通しないで硬化する。
【0016】
このような上記貫通露出部を1又は複数設けることにより、上記取り出し電極は、上記導電性接着剤に対して充分な接着強度を確保しながら、上記導電性接着剤に埋設される部分を少なくすることで拘束しすぎることを防止する。それ故、上記圧電層の変位によって生じる応力を緩和させ、クラックや剥離等の発生を抑制することができる。
【0017】
このように、本発明の製造方法によって得られる積層型圧電体素子は、容易に弾性変形し、かつ充分な接着強度を有する取り出し電極を設けたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
上記第1の発明の積層型圧電体素子において、上記貫通穴に進入する上記導電性接着剤の厚みが、上記取り出し電極の厚みよりも小さい領域は、上記取り出し電極と上記導電性接着剤との接合面全体の面積の50〜95%の範囲内であることが好ましい。
上記面積が50%より小さい場合、上記取り出し電極は、上記圧電層の変位に対して容易に弾性変形することが困難となるおそれがある。また、上記面積が95%より大きい場合、上記取り出し電極は、上記導電性接着剤に対して充分な接着強度を得ることができないおそれがある。
【0019】
また、上記取り出し電極としては、多数の上記貫通穴を有するものであれば種々のものを適用できる。例えば、いわゆるエキスパンダメタル、パンチングメタル等の金属板を加工したものを用いることができる。また、素材としては、ステンレス鋼、銅、鉄−ニッケル合金等を用いることができる。また、上記取り出し電極の寸法としては、長さが積層素子長さの5〜100%、幅が積層素子幅の5〜100%、厚みが50〜500μmの範囲であることが好ましい。この場合には、通常用いられるサイズの圧電アクチュエータ等に適用することができる。
【0020】
また、上記圧電層は、Pb(Zr、Ti)O3系のペロブスカイト構造の酸化物であるジルコン酸チタン酸鉛よりなることが好ましい。ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)は、優れた圧電特性を有しており、上記積層型圧電体素子の特性を非常に優れたものとすることができる。なお、鉛を含まない鉛フリーの圧電セラミックスを適用することも環境上好ましい。
【0021】
また、上記セラミック積層体は、最終的に得ようとする積層数よりも少ない数の圧電層を積層してなる圧電ユニットごとに焼成し、それらを接着させたユニットタイプでもよいし、予め必要な数だけ圧電層を積層してから一体的に焼成した一体焼成タイプでもよい。
また、上記セラミック積層体は、部分電極構造でもよいし、全面電極構造でもよい。
また、上記セラミック積層体の側面に側面電極を設け、該側面電極に上記導電性接着剤を介して上記取り出し電極を接合することも可能である。この場合には、より高い導電性を確保することができる。
【0022】
また、上記導電性接着剤は、上記貫通穴を貫通して上記取り出し電極の表面側に露出する露出面を有する貫通露出部を1又は複数形成していることが好ましい(請求項2)。この場合には、上記貫通露出部の存在により、上記導電性接着剤と上記取り出し電極との密着性が向上し、剥離等がより生じにくくなる。
【0023】
また、上記貫通露出部は、上記露出面が点状形状を呈しており、複数箇所に点在して配置されていることが好ましい(請求項3)。この場合には、上記貫通露出部の配置、数等を調整することにより、比較的容易に接合強度等を最適化させることができる。
さらに、上記貫通露出部は、均一に分布されていることが好ましい。この場合には、上記取り出し電極が上記圧電層の変位に対して不均一に弾性変形することを抑制し、クラック・剥離等の防止効果をさらに高めることができる。
【0024】
また、上記貫通露出部の上記各露出面の大きさは、2×10-3〜13mm2の範囲にあることが好ましい(請求項4)。
上記各露出面の大きさが2×10-3mm2より小さい場合、上記取り出し電極は、上記導電性接着剤に対して充分な接着強度を得ることができないおそれがある。また、上記各露出面の大きさが13mm2より大きい場合、上記取り出し電極は、上記圧電層の変位に対して容易に弾性変形することが困難となるおそれがある。
【0025】
また、上記貫通露出部は、上記露出面の形状が、連続的又は断続的な直線又は曲線状を呈していることが好ましい(請求項5)。この場合には、上記貫通露出部を設けたことによる効果を得ることができる。
【0026】
また、上記貫通露出部は、上記露出面の少なくとも一部が上記取り出し電極の表面から突出しており、その突出量が0.01〜0.3mmの範囲にあることが好ましい(請求項6)。
上記突出量が0.01mmより小さい場合、上記取り出し電極は、上記導電性接着剤に対して充分な接着強度を得ることができないおそれがある。また、上記突出量が0.3mmより大きい場合、上記突出量が絶縁樹脂の厚みを超えてしまい、外部に対して充分な絶縁性を確保することができない。
【0027】
また、上記積層型圧電体素子は、インジェクタの駆動源として用いられるインジェクタ用圧電アクチュエータであることが好ましい(請求項7)。
上記インジェクタは、高温雰囲気下という過酷な状態で使用される。そのため、上記の優れた積層型圧電体素子をアクチュエータとして用いることにより、耐久性を向上させることができ、インジェクタ全体の性能向上及び信頼性向上を図ることができる。
【0028】
上記第2の発明の製造方法において、上記押圧部材は、上記取り出し電極に当接するピン部と、該ピン部を前進方向に付勢するスプリングとを有してなり、上記ピン部を上記取り出し電極に当接させた際に上記スプリングの付勢力に抗して上記ピン部が後退可能に構成されていることが好ましい(請求項9)。この場合には、上記貫通露出部を正確に配置することができる。また、上記押圧部材の先端形状、荷重等を調整することによって、上記貫通露出部の形状、突出量、上記露出面の大きさ等を制御することができる。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
本発明の実施例にかかる積層型圧電体素子及びその製造方法につき、図1〜図6を用いて説明する。
本例の積層型圧電体素子1は、図1に示すごとく、圧電材料よりなる圧電層20と導電性を有する内部電極層21、22とを交互に積層してなるセラミック積層体10と、セラミック積層体10の側面に導電性接着剤33を介して接合された電力供給用の取り出し電極34とを有している。
【0030】
また、取り出し電極34は、多数の貫通穴341を有するメッシュ形状を呈していると共に、貫通穴341(図1、図6において図示略)に導電性接着剤33を侵入させている。そして、取り出し電極34と導電性接着剤33との接合面全体の面積の50%以上の領域において、貫通穴341に進入する導電性接着剤33の厚みが、取り出し電極34の厚みよりも小さい。
以下、これを詳説する。
【0031】
本例の積層型圧電体素子1は、図1、図2に示すごとく、圧電材料よりなる圧電層20と導電性を有する内部電極層21、22とを交互に積層してなる圧電ユニット2をシリコーン樹脂よりなる接着剤11によって積層接着し、セラミック積層体10を形成している。
また、セラミック積層体10は、側面101に設けられた第1側面電極31と、側面102に設けられた第2側面電極32とを有している。また、第1側面電極31に導通する第1内部電極層21と、第2側面電極32に導通する第2内部電極層22とを交互に配置してなる。側面電極31、32は、圧電ユニット2の側面に予め設けたものである。
【0032】
また、同図に示すごとく、セラミック積層体10における第1側面電極31を設けた側面101には、第2内部電極層22の端部を露出しない。一方、第2側面電極32を設けた側面102には、第1内部電極層21の端部を露出しない。すなわち、本例のセラミック積層体10は、部分電極構造を有している。
また、第1側面電極31及び第2側面電極32には、導電性接着剤33を介して取り出し電極34が接着されている。なお、側面電極31、32を設けずに、セラミック積層体10の側面101、102に導電性接着剤33を介して取り出し電極34を接合することも可能である。
【0033】
また、同図に示すごとく、導電性接着剤33は、メッシュ形状を呈した取り出し電極34の貫通穴341を貫通し、取り出し電極34の表面側に露出する露出面332を有する貫通露出部331を形成している。
本例の貫通露出部331は、円柱形状であり、露出面332が円形の点状形状を呈し、取り出し電極34の長手方向に等間隔で一列に配置されている。
【0034】
また、取り出し電極34と導電性接着剤33との接合面全体の面積の50%以上の領域において、貫通穴341に侵入する導電性接着剤33の厚みが、取り出し電極34の厚みよりも小さい。すなわち、上記に示される領域には、貫通露出部331が形成されていない。
また、セラミック積層体10の側面全周は、取り出し電極34と貫通露出部331を覆うように絶縁樹脂であるシリコーン樹脂からなるモールド材35(図2では図示略)が設けてある。
【0035】
また、本例の内部電極層21、22は、導電ペースト210、220を焼結して形成される。導電ペースト210、220は、Ag(銀)とPd(パラジウム)とを含有したものである。なお、内部電極層21、22としては、Cu(銅)を主体とする材料に変更することも可能である。
また、側面電極31、32は、導電ペースト310、320を焼結して形成される。導電ペースト310、320は、Agとガラスフリットとを含有したものである。
また、導電性接着剤33は、Agフィラーをエポキシ樹脂中に含有させたものである。
【0036】
次に、上記積層型圧電体素子1の製造方法について説明する。
本例の積層型圧電体素子1を製造するに当たっては、少なくとも積層体形成工程と、接着剤塗布工程と、取り出し電極工程とを行う。
上記積層体形成工程は、圧電層20と内部電極層21、22とを交互に積層してなるセラミック積層体10を形成する工程である。
上記接着剤塗布工程は、セラミック積層体10の側面に、取り出し電極34の厚みよりも薄く導電性接着剤33を塗布する工程である。
【0037】
上記取り出し電極配置工程は、導電性接着剤33の表面に、多数の貫通穴341を有するメッシュ形状を呈する取り出し電極34を配置する。そして、その表面から押圧部材により取り出し電極34を押圧した状態で導電性接着剤33を硬化させる。これにより、押圧部材の当接部に、取り出し電極34の貫通穴341を貫通して取り出し電極34の表面側を露出する露出面を有する貫通露出部331を1又は複数形成する工程である。
【0038】
まず、圧電材料となるジルコン酸チタン酸鉛(PZT)粉末を準備し、800〜950℃で仮焼した。次に、仮焼粉に純水、分散剤を加えてスラリーとし、パールミルにより湿式粉砕した。この粉砕物を乾燥、粉脱脂した後、溶剤、バインダー、可塑剤、分散剤等を加えてボールミルにより混合した。その後、上記スラリーを真空装置内で撹拌機により撹拌しながら真空脱泡、粘度調整をした。
【0039】
そして、図3(a)に示すごとく、上記スラリーをドクターブレード装置により一定厚みのグリーンシート200に成形した。得られたグリーンシート200は、切断機により切断し、四角形にした。なお、得ようとする積層型圧電体素子の形状に応じて、形状を変更することもできる。
【0040】
次に、図3(b)に示すごとく、グリーンシート200の表面にAgとPdとを含有する導電ペースト210、220をスクリーン印刷した。なお、内部電極層21、22を形成しない控え部219、229には印刷しない。そして、図3(c)に示すごとく、印刷済みのシート20枚を積層圧着し、焼成した。このようにして、図3(d)に示すごとく、圧電層20と内部電極層21、22とを交互に積層してなる圧電ユニット2を得た。
【0041】
次に、図4(a)に示すごとく、圧電ユニット2の側面101、102にAgとガラスフリットとを含有させた導電ペースト310、320をスクリーン印刷した。その印刷面を治具によって挟持し、荷重を印加した加圧状態で加熱した。加熱終了後、冷却することによって導電ペーストを焼結させた状態とし、側面101、102にそれぞれ第1側面電極31、第2側面電極32を形成した。
【0042】
そして、図4(b)に示すごとく、側面電極31、32を設けた25個の圧電ユニット2を接着剤11によって接着した。得られた積層体を積層方向の両端から荷重を加え加熱硬化して、圧電ユニット2を一体化した。このようにして、図5に示すごとく、側面電極31、32を設けたセラミック積層体10を得た。
【0043】
次に、図6(a)に示すごとく、側面電極31、32上にAgフィラーをエポキシ樹脂中に含有させた導電性接着剤33をメタルマスク印刷した。そして、図6(b)に示すごとく、ステンレス鋼製のエキスパンダメタルよりなり、厚み方向に多数の貫通穴341を有し、長さ40mm、幅3mm、厚み150μmの取り出し電極34を導電性接着剤33上に配置した。
【0044】
さらに、図6(c)に示すごとく、取り出し電極34を押圧部材(図示略)のピン部41で固定した状態で導電性接着剤33を加熱硬化した。
ここで、上記押圧部材は、ピン部41と、ピン部41を前進方向に付勢するスプリング42とを有してなり、ピン部41を取り出し電極に当接させた際にスプリング42の付勢力に抗してピン部41が後退可能に構成されている。
【0045】
その後、押圧部材のピン部41を取り除くと、図6(d)に示すごとく、導電性接着剤33は貫通穴341を貫通し、取り出し電極34の表面側に露出した露出面332を有する貫通露出部331が形成された。各露出面332の面積は0.8mm2であり、貫通露出部331の突出量は0.02mmである。
最後に、モールド材35をセラミック積層体10の側面全周にディスペンス法で塗布し、加熱硬化してユニット式の積層型圧電体素子1を得た。
【0046】
次に、本例の積層型圧電体素子1における作用効果につき説明する。
本例の積層型圧電体素子1は、取り出し電極34が、多数の貫通穴341を有するメッシュ形状を呈していると共に、貫通穴341に導電性接着剤33を侵入させている。また、取り出し電極34と導電性接着剤33との接合面全体の面積の50%以上の領域において、貫通穴341に進入する導電性接着剤33の厚みが、取り出し電極34の厚みよりも小さい。
【0047】
即ち、取り出し電極34は、この貫通穴341に導電性接着剤33を侵入させ、露出面332を有する貫通露出部331を表面に形成して固定するものの、両者の接合面全体の面積の50%以上の領域において、貫通穴341に侵入する導電性接着剤33の厚みが、取り出し電極の厚みよりも小さいという構造を確保している。
これにより、取り出し電極34は、導電性接着剤33に対して充分な接着強度を確保しながら、導電性接着剤33に埋設される部分を少なくすることで拘束しすぎることを防止する。それ故、圧電層20の変位によって生じる応力を緩和させ、クラックや剥離等の発生を抑制することができる。
【0048】
特に本例では、形成された貫通露出部331は、露出面332が円形の点状形状を呈し、取り出し電極34の長手方向に等間隔で一列に配置されている。それ故、上記に示されるクラックや剥離等の発生を抑制する効果をさらに高めることができる。
このように、本例によって得られる積層型圧電体素子1は、容易に弾性変形し、かつ充分な接着強度を有する取り出し電極34を設けたものとなる。
【0049】
本例では、セラミック積層体10を作製するに当たって、圧電ユニットを焼成した後に接着剤により接着して積層体を形成する方法を用いたが、これに代えて、グリーンシート状態で積層してから一体焼成する方法等の他の方法を採用することも可能である。
また、セラミック積層体10は、部分電極構造を用いたが、全面電極構造とすることも可能である。
また、セラミック積層体10は、四角形のものを用いたが、その他、円形、六角形、八角形等の様々な形状を採用することができる。
【0050】
(実施例2)
本例は、図7、図8を用いて、導電性接着剤33が取り出し電極34の貫通穴341から貫通露出して形成された、露出面332を有する貫通露出部331の配置の例を示す。
図7(a)は、露出面332が点状形状を呈し、取り出し電極34の長手方向に貫通露出部331が一列に配置されている。
図7(b)は、露出面332が点状形状を呈し、取り出し電極34の長手方向に貫通露出部331が二列に配置されている。また、その二列の貫通露出部331は、互いにずれた位置に配置されている。
図7(c)は、露出面332が点状形状を呈し、取り出し電極34に貫通露出部331がランダムに配置されている。
【0051】
図8(a)は、露出面332が連続的な直線状を呈し、取り出し電極34の長手方向に貫通露出部331が直線状に1つ配置されている。
図8(b)は、露出面332が連続的な曲線状を呈し、取り出し電極34の長手方向に貫通露出部331が曲線状に1つ配置されている。
図8(c)は、露出面332が断続的な直線状を呈し、取り出し電極34の長手方向に貫通露出部331が複数配置されている。
図8(d)は、露出面332が断続的な曲線状を呈し、取り出し電極34の長手方向に貫通露出部331が複数配置されている。
いずれの貫通露出部331の配置であっても、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【0052】
(実施例3)
本例は、図9を用いて、導電性接着剤33が取り出し電極34の貫通穴341(図示略)から貫通露出して形成された、露出面332を有する貫通露出部331の形状の例を示す。
本例では、例えば実施例2の図7(a)〜(c)のように、露出面332が点状形状を呈し、1又は複数箇所に点在して配置された場合の貫通露出部331(以下、スポットという)の例について示す。
【0053】
図9(a)は、スポット331の形状が例えば円柱、角柱等であり、縦断面が略四角形のものである。
図9(b)は、スポット331の形状が例えば円錐台、角錐台等であり、縦断面が略台形のものである。
図9(c)は、スポット331の形状が例えば円錐、角錐等であり、縦断面が略三角形のものである。
図9(d)は、スポット331の形状が例えば円錐台の上面が平面でなく、凹凸を有するものである。
いずれのスポット331の形状であっても、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【0054】
(実施例4)
本例では、実施例1で得られた積層型圧電体素子1において、取り出し電極34の導電性接着剤33に対する接着強度と、積層型圧電体素子1に電界を繰り返し印加し、動作不良が生じるまでの作動回数とについてスポット間隔別に測定を行い、評価した。
スポット331は、実施例1と同様に円柱形状であり、等間隔で一列に配置されている。スポット面積は0.8mm2である。
【0055】
ここで、スポット間隔は、隣り合うスポット331同士の中心間に積層された圧電層の平均積層数(層)を表す。
また、スポット面積は、各スポット331の露出面332の平均面積(mm2)を表す。
以下、実施例5においても同様に用いる。
【0056】
測定結果を図10、図11に示す。各図は、縦軸にそれぞれ接着強度(N)、作動回数(回)、横軸にスポット間隔(層)をとったものである。
図10は、スポット間隔と接着強度との関係を示している。スポット間隔が100層より大きい場合には、接着強度の低下がみられる。
図11は、スポット間隔と作動回数との関係を示している。スポット間隔が5層より小さい場合には、作動回数の低下がみられる。
【0057】
以上の結果から、スポット間隔が5〜100層の範囲では、取り出し電極34の接着強度と積層型圧電体素子1の作動回数との両方を充分に満足させることができると共に、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【0058】
(実施例5)
本例では、実施例1で得られた積層型圧電体素子1において、取り出し電極34の導電性接着剤33に対する接着強度と、積層型圧電体素子1に電界を繰り返し印加し、動作不良が生じるまでの作動回数とについてスポット面積別に測定を行い、評価した。
スポット331は、実施例1と同様に円柱形状であり、等間隔で一列に配置されている。スポット間隔は30層である。
【0059】
測定結果を図12、図13に示す。各図は、縦軸にそれぞれ接着強度(N)、作動回数(回)、横軸にスポット面積(mm2)をとったものである。
図12は、スポット面積と接着強度との関係を示している。スポット間隔が2×10-3mm2より小さい場合には、接着強度の低下がみられる
図13、はスポット面積と作動回数との関係を示している。スポット間隔が13mm2層より大きい場合には、作動回数の低下がみられる。
【0060】
以上の結果から、スポット面積が2×10-3〜13mm2の範囲では、取り出し電極34の接着強度と積層型圧電体素子1の作動回数との両方を充分に満足させることができると共に、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【0061】
(実施例6)
本例は、実施例1の積層型圧電体素子1をインジェクタ6の圧電アクチュエータとして用いた例である。
本例のインジェクタ6は、図14に示すごとく、ディーゼルエンジンのコモンレール噴射システムに適用したものである。
このインジェクタ6は、同図に示すごとく、駆動部としての上記積層型圧電体素子1が収容される上部ハウジング62と、その下端に固定され、内部に噴射ノズル部64が形成される下部ハウジング63を有している。
【0062】
上部ハウジング62は略円柱状で、中心軸に対し偏心する縦穴621内に、積層型圧電体素子1が挿通固定されている。
縦穴621の側方には、高圧燃料通路622が平行に設けられ、その上端部は、上部ハウジング62上側部に突出する燃料導入管623内を経て外部のコモンレール(図示略)に連通している。
【0063】
上部ハウジング62上側部には、また、ドレーン通路624に連通する燃料導出管625が突設し、燃料導出管625から流出する燃料は、燃料タンク(図示略)へ戻される。
ドレーン通路624は、縦穴621と駆動部(積層型圧電体素子)1との間の隙間60を経由し、さらに、この隙間60から上下ハウジング62、63内を下方に延びる図示しない通路によって後述する3方弁651に連通してしる。
【0064】
噴射ノズル部64は、ピストンボデー631内を上下方向に摺動するノズルニードル641と、ノズルニードル641によって開閉されて燃料溜まり642から供給される高圧燃料をエンジンの各気筒に噴射する噴孔643を備えている。燃料溜まり642は、ノズルニードル641の中間部周りに設けられ、上記高圧燃料通路622の下端部がここに開口している。ノズルニードル641は、燃料溜まり642から開弁方向の燃料圧を受けるとともに、上端面に面して設けた背圧室644から閉弁方向の燃料圧を受けており、背圧室644の圧力が降下すると、ノズルニードル641がリフトして、噴孔643が開放され、燃料噴射がなされる。
【0065】
背圧室644の圧力は3方弁651によって増減される。3方弁651は、背圧室644と高圧燃料通路622、またはドレーン通路624と選択的に連通させる構成である。ここでは、高圧燃料通路622またはドレーン通路624へ連通するポートを開閉するボール状の弁体を有している。この弁体は、上記駆動部1により、その下方に配設される大径ピストン652、油圧室653、小径ピストン654を介して、駆動される。
【0066】
そして、本例においては、上記構成のインジェクタ6における駆動源として、実施例1で示した積層型圧電体素子1を用いている。この積層型圧電体素子1は、上記のごとく、圧電層の変位に対して容易に弾性変形し、かつ導電性接着剤に対して充分な接着強度を有する取り出し電極を設けている。そのため、インジェクタ6全体の性能向上及び信頼性向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】実施例1における、積層型圧電体素子の構造を示す説明図。
【図2】実施例1における、積層型圧電体素子の側面図。
【図3】実施例1における、圧電ユニットを形成する手順を示す説明図。
【図4】実施例1における、側面電極を配置すると共にセラミック積層体を形成する手順を示す説明図。
【図5】実施例1における、側面電極を設けたセラミック積層体の構造を示す説明図。
【図6】実施例1における、導電性接着剤を塗布すると共に取り出し電極を配置する手順を示す説明図。
【図7】実施例2における、貫通露出部の配置の例を示す説明図。
【図8】実施例2における、貫通露出部の配置の例を示す説明図。
【図9】実施例3における、スポットの形状の例を示す側面図。
【図10】実施例4における、スポット間隔と接着強度との関係を示す説明図。
【図11】実施例4における、スポット間隔と作動回数との関係を示す説明図。
【図12】実施例5における、スポット面積と接着強度との関係を示す説明図。
【図13】実施例5における、スポット面積と作動回数との関係を示す説明図。
【図14】実施例6における、インジェクタの構造を示す説明図。
【符号の説明】
【0068】
1 積層型圧電体素子
10 セラミック積層体
20 圧電層
21 第1内部電極層(内部電極層)
22 第2内部電極層(内部電極層)
33 導電性接着剤
331 貫通露出部
332 露出面
34 取り出し電極
341 貫通穴
6 インジェクタ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電材料よりなる圧電層と導電性を有する内部電極層とを交互に積層してなるセラミック積層体と、該セラミック積層体の側面に導電性接着剤を介して接合された電力供給用の取り出し電極とを有する積層型圧電体素子において、
上記取り出し電極は、多数の貫通穴を有するメッシュ形状を呈していると共に、上記貫通穴に上記導電性接着剤を侵入させており、
上記取り出し電極と上記導電性接着剤との接合面全体の面積の50%以上の領域において、上記貫通穴に侵入する上記導電性接着剤の厚みが、上記取り出し電極の厚みよりも小さいことを特徴とする積層型圧電体素子。
【請求項2】
請求項1において、上記導電性接着剤は、上記貫通穴を貫通して上記取り出し電極の表面側に露出する露出面を有する貫通露出部を1又は複数形成していることを特徴とする積層型圧電体素子。
【請求項3】
請求項2において、上記貫通露出部は、上記露出面が点状形状を呈しており、複数箇所に点在して配置されていることを特徴とする積層型圧電体素子。
【請求項4】
請求項3において、上記貫通露出部の上記各露出面の大きさは、2×10-3〜13mm2の範囲にあることを特徴とする積層型圧電体素子。
【請求項5】
請求項2において、上記貫通露出部は、上記露出面の形状が、連続的又は断続的な直線又は曲線状を呈していることを特徴とする積層型圧電体素子。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれか1項において、上記貫通露出部は、上記露出面の少なくとも一部が上記取り出し電極の表面から突出しており、その突出量が0.01〜0.3mmの範囲にあることを特徴とする積層型圧電体素子。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項において、上記積層型圧電体素子は、インジェクタの駆動源として用いられるインジェクタ用圧電アクチュエータであることを特徴とする積層型圧電体素子。
【請求項8】
圧電材料よりなる圧電層と導電性を有する内部電極層とを交互に積層してなるセラミック積層体と、該セラミック積層体の側面に導電性接着剤を介して接合された電力供給用の取り出し電極とを有する積層型圧電体素子を製造する方法において、
上記圧電層と上記内部電極層とを交互に積層してなる上記セラミック積層体を形成する積層体形成工程と、
上記セラミック積層体の側面に、上記取り出し電極の厚みよりも薄く上記導電性接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、
上記導電性接着剤の表面に、多数の貫通穴を有するメッシュ形状を呈する上記取り出し電極を配置し、その表面から押圧部材により上記取り出し電極を押圧した状態で上記導電性接着剤を硬化させることにより、上記押圧部材の当接部に、上記取り出し電極の上記貫通穴を貫通して該取り出し電極の表面側を露出する露出面を有する貫通露出部を1又は複数形成する取り出し電極配置工程とを有することを特徴とする積層型圧電体素子の製造方法。
【請求項9】
請求項8において、上記押圧部材は、上記取り出し電極に当接するピン部と、該ピン部を前進方向に付勢するスプリングとを有してなり、上記ピン部を上記取り出し電極に当接させた際に上記スプリングの付勢力に抗して上記ピン部が後退可能に構成されていることを特徴とする積層型圧電体素子の製造方法。
【請求項1】
圧電材料よりなる圧電層と導電性を有する内部電極層とを交互に積層してなるセラミック積層体と、該セラミック積層体の側面に導電性接着剤を介して接合された電力供給用の取り出し電極とを有する積層型圧電体素子において、
上記取り出し電極は、多数の貫通穴を有するメッシュ形状を呈していると共に、上記貫通穴に上記導電性接着剤を侵入させており、
上記取り出し電極と上記導電性接着剤との接合面全体の面積の50%以上の領域において、上記貫通穴に侵入する上記導電性接着剤の厚みが、上記取り出し電極の厚みよりも小さいことを特徴とする積層型圧電体素子。
【請求項2】
請求項1において、上記導電性接着剤は、上記貫通穴を貫通して上記取り出し電極の表面側に露出する露出面を有する貫通露出部を1又は複数形成していることを特徴とする積層型圧電体素子。
【請求項3】
請求項2において、上記貫通露出部は、上記露出面が点状形状を呈しており、複数箇所に点在して配置されていることを特徴とする積層型圧電体素子。
【請求項4】
請求項3において、上記貫通露出部の上記各露出面の大きさは、2×10-3〜13mm2の範囲にあることを特徴とする積層型圧電体素子。
【請求項5】
請求項2において、上記貫通露出部は、上記露出面の形状が、連続的又は断続的な直線又は曲線状を呈していることを特徴とする積層型圧電体素子。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれか1項において、上記貫通露出部は、上記露出面の少なくとも一部が上記取り出し電極の表面から突出しており、その突出量が0.01〜0.3mmの範囲にあることを特徴とする積層型圧電体素子。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項において、上記積層型圧電体素子は、インジェクタの駆動源として用いられるインジェクタ用圧電アクチュエータであることを特徴とする積層型圧電体素子。
【請求項8】
圧電材料よりなる圧電層と導電性を有する内部電極層とを交互に積層してなるセラミック積層体と、該セラミック積層体の側面に導電性接着剤を介して接合された電力供給用の取り出し電極とを有する積層型圧電体素子を製造する方法において、
上記圧電層と上記内部電極層とを交互に積層してなる上記セラミック積層体を形成する積層体形成工程と、
上記セラミック積層体の側面に、上記取り出し電極の厚みよりも薄く上記導電性接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、
上記導電性接着剤の表面に、多数の貫通穴を有するメッシュ形状を呈する上記取り出し電極を配置し、その表面から押圧部材により上記取り出し電極を押圧した状態で上記導電性接着剤を硬化させることにより、上記押圧部材の当接部に、上記取り出し電極の上記貫通穴を貫通して該取り出し電極の表面側を露出する露出面を有する貫通露出部を1又は複数形成する取り出し電極配置工程とを有することを特徴とする積層型圧電体素子の製造方法。
【請求項9】
請求項8において、上記押圧部材は、上記取り出し電極に当接するピン部と、該ピン部を前進方向に付勢するスプリングとを有してなり、上記ピン部を上記取り出し電極に当接させた際に上記スプリングの付勢力に抗して上記ピン部が後退可能に構成されていることを特徴とする積層型圧電体素子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2006−41279(P2006−41279A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−220695(P2004−220695)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]