説明

積層管及びその接続構造

【課題】繊維強化樹脂製の管と別の管やフランジ付き短管との接続に際し、ゴム輪のような特殊部品や接続部の補強を必要とせず、施工性に優れた繊維強化樹脂製の管及びその接続構造を提供する提供する。
【解決手段】繊維強化樹脂層を含む積層管1を、外側から内側に向かって、熱可塑性樹脂である硬質ポリ塩化ビニル樹脂(以下、PVC)製の内周面にプライマー処理を施した外管2と、ビニルエステル樹脂を主成分とする硬化性樹脂3が外表面に塗布されたガラス繊維強化ビニルエステル樹脂製の内管4とから構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学工場、上下水道、農業・水産などの配管ラインに好適に使用される繊維強化樹脂製の管を内管とした積層管及びその接続構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維強化樹脂製の管に別の管やフランジ付き短管などを接続する場合、一般的には、図6に示すように、管101の管端部102とフランジ付き短管103の短管部104を突き合わせるように配置し、突合せ部105の両側の管端部102と短管部104の外周にハンドレイアップにて繊維強化樹脂層106を形成し管101とフランジ付き短管103を接続している。
【0003】
しかしながら、このような突合せ部105に繊維強化樹脂層106を形成する接続構造では施工に多大な時間を要するうえに、接続箇所の強度は管部107やフランジ部108より劣る場合が多く、この方法で繊維強化樹脂製の配管部材の配管が行われた場合には、管路にかかる応力によって接続箇所が破損するおそれがあった。
【0004】
上記従来の繊維強化樹脂製の管の接続構造の問題点を解決した接続構造が特許文献1に開示されている。これは、図7に示すように、繊維強化樹脂製の管201の管端部202とフランジ付き短管203の短管部204とを突合せ、突合せ部205の両側の管端部202と短管部204にゴム輪206が被覆して設けられ、かつゴム輪206の外側に繊維強化樹脂層207が設けられたものである。その効果は、管路にかかる応力に耐えて接続部が破損することが少なく、漏水等を起こす恐れが少ないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−205707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来のゴム輪206を用いた繊維強化樹脂製の管の接続構造は、一箇所の継ぎ目を接続するのに、ゴム輪206と繊維強化樹脂製の管201およびフランジ付き短管203とを接着する工程と、ゴム輪206の外周面に補強のために繊維強化樹脂層207を設ける工程の二種類の工程が必要となる。そのため、施工にゴム輪206という特殊な部品が必要になったり、施工に必要な工具や副資材の種類や量がかさむだけでなく、施工に多大な時間がかかるという問題があった。
【0007】
また、維強化樹脂製の管201およびフランジ付き短管203をゴム輪206に挿入しやすくするために、管201の管端部202およびフランジ付き短管203の短管部204の肉厚を薄く研削する必要がある。また、管201およびフランジ付き短管203とゴム輪206との接着力を高めるために、ゴム輪206の内周面を次亜塩素酸や硫酸などで表面処理する必要がある。そのため、前処理に手間や時間がかかるという問題があった。
【0008】
また、接続部の強度を高めるために、ゴム輪206の外周面に樹脂を含浸させたガラスロービングやガラスマット、ガラスロービングクロスをハンドレイアップ法などで交互に積層させて繊維強化樹脂層207を設ける必要があるため、接続部の補強に手間や時間がかかるとともに施工者に熟練を要し、施工者によって強度にばらつきが生じるという問題があった。
【0009】
また、繊維強化樹脂製の管201およびフランジ付き短管203とゴム輪206との接着部は異材質を機械的に接着しているに過ぎず、同材質を接着剤で溶融させ一体化させる場合と比較すると一般的に接着強度が劣るため、温度や圧力のかかる使用条件では信頼性に欠け不向きであるという問題があった。さらに、接着剤の塗布量やゴム輪206内周面の表面処理の程度によって接着強度が大きく変化するため、適切に接着するためには施工者に熟練を要するという問題があった。
【0010】
本発明は、以上のような問題点に鑑みなされたものであり、繊維強化樹脂製の管と別の管やフランジ付き短管との接続に際し、ゴム輪のような特殊部品や接続部の補強を必要とせず、施工性に優れた繊維強化樹脂製の管及びその接続構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明の積層管及びその接続構造について説明すると、樹脂層を含む積層管において、硬化性樹脂が外表面に塗布された繊維強化樹脂製の内管が熱可塑性樹脂製の外管に挿入接着して形成されることを第1の特徴とする。
【0012】
前記外管内径と前記内管外径の寸法差が0.3〜1.0mmであることを第2の特徴とする。
【0013】
前記硬化性樹脂の粘度が0.2〜2Pa・sであることを第3の特徴とする。
【0014】
前記外管の材質が非晶性樹脂であることを第4の特徴とする。
【0015】
前記内管の材質がガラス繊維補強ポリビニルエステル樹脂であり、前記外管の材質が硬質塩化ビニル樹脂であることを第5の特徴とする。
【0016】
前記硬化性樹脂がポリビニルエステル樹脂を主成分とすることを第6の特徴とする。
【0017】
前記積層管の端部の差口部が、内周面が前記熱可塑性樹脂で形成され、外周面が前記繊維強化樹脂で形成された管継手の受口に挿入接続されていることを第7の特徴とする。
【0018】
前記積層管の挿口部の端面が前記内管の樹脂成分と同じ樹脂で被覆されていることを第8の特徴とする。
【0019】
本発明において、硬化性樹脂とは、内管と外管との隙間を埋めるとともに内管と外管とを接着固定するものである。硬化性樹脂は外管に内管を挿入する時には液状で内管の外表面に塗布され、挿入後に硬化して外管と内管とを接着固定できるものであれば樹脂の材質は特に限定されない。例えば、エポキシ系接着剤やアクリル系接着剤などの接着剤のように単体で内管と外管とを接着固定するものでもよく、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂のようにプライマーを組み合わせることによって内管と外管とを接着固定するものでもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明は以上のような構成をしており、以下の優れた効果が得られる。
(1) 繊維強化樹脂製の積層管において、外層に熱可塑性樹脂の外管を有するので、継手を用いて接着や融着で簡単に接続することができ、そのため、極めて施工性が良く、施工者の熟練を必要としないことから、安定した接続強度が維持できる。
(2) 接着剤による溶融や加熱融着により配管部材を一体化して接続することができるので、接続部の強度を繊維強化樹脂製配管部材の管部などと同等程度の強度にすることができる。
(3) 接続部を繊維強化樹脂によって補強する必要がないので、工数を減らすことができ、工期や工事費用を削減することができる。
(4) 特に接着剤によって配管部材を接続するときは、特殊な部品や副資材、機器を準備する必要が無い。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の積層管を示す縦断面図である。
【図2】本発明の積層管の外管と内管を示す縦断面図である。
【図3】本発明の積層管と補強継手を示す縦断面図である。
【図4】本発明の接続構造を示す縦断面図である。
【図5】本発明の接続構造を示す別の縦断面図である。
【図6】従来の繊維強化樹脂製の管の接続構造を示す縦断面図である。
【図7】従来の繊維強化樹脂製の管の接続構造を示す別の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図面を参照にして説明するが、本発明が本実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0023】
図1において、積層管1は外側から内側に向かって、硬質ポリ塩化ビニル樹脂(以下、PVC)製の内周面にプライマー処理を施した外管2、ビニルエステル樹脂を主成分とする硬化性樹脂3、ガラス繊維強化ビニルエステル樹脂製の内管4から構成されている。
【0024】
本実施例では、内管4の材質としてガラス繊維強化ビニルエステル樹脂を挙げているが、配管材料として要求される強度を満たす繊維強化樹脂であれば特に限定されるものではなく、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂と、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維等の無機系繊維;延伸ポリオレフィン繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維等の有機系繊維の長繊維若しくは短繊維とが複合化されたもの等が挙げられる。また、内管4の内周面や外周面に耐腐食処理、耐候性処理、防汚処理、プライマー処理などの表面処理を施しても良い。
【0025】
本実施例では、外管2の材質としてPVCを用いているが、熱可塑性樹脂であれば特に限定されるものではなく、PVC、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニルサルフォン樹脂等の非晶性樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリビニリデンフルオライド樹脂等の結晶性樹脂が挙げられる。特に、接着剤により接続部を溶融して一体化することができる非晶性樹脂が好ましく、その中でも、安価で汎用性に優れたPVCがより好ましい。また、外管2の内周面や外周面に耐腐食処理、耐候性処理、防汚処理、プライマー処理などの表面処理を施しても良い。
【0026】
本実施例では、硬化性樹脂3はビニルエステル樹脂を基材とし、充填材や硬化剤、促進剤と混ぜ合わせたものを用いている。基材となる樹脂は不飽和ポリエステル樹脂やエポキシ樹脂でも良く、特に限定されないが、繊維強化樹脂製の内管4の主成分となる熱硬化性樹脂と同じ熱硬化性樹脂を用いると、硬化性樹脂3と内管4とがなじみやすくなるため好ましい。特に、内周面にプライマー処理を施したPVC製の外管2とビニルエステル樹脂を基材とした硬化性樹脂3と、ガラス繊維強化ビニルエステル樹脂製の内管4の組み合わせは耐薬品性や汎用性に優れるだけでなく、外管2と内管4の密着性に優れるため好適である。
【0027】
次に、前記積層管1の製造方法について図1乃至2を参照して説明する。まず、外径106.5mm、肉厚4mmのガラス繊維強化ビニルエステル樹脂製の内管4の端面と、内径107mm、肉厚3.5mmのPVC製の外管2の端部外周面に、プライマーや硬化性樹脂3で汚れないようにマスキング処理(図示せず)を施す。次に、外管2の内周面にプライマー処理を施し、ビニルエステル樹脂を主成分とする液状の硬化性樹脂3を均一に塗布する。その後、内管4の外周面にもビニルエステル樹脂を主成分とする液状の硬化性樹脂3を均一に塗布しながら、内管4を外管2に挿入する。このとき、内管4の挿入速度を一定に保ち、内管4と外管2の少なくとも一方を回転させながら挿入するか、内管4と外管2の両方を互いに逆の方向に回転させながら挿入すると、塗布された硬化性樹脂3が内管4の外表面にムラなく均一に塗布することができ、硬化性樹脂3の内部での空隙の発生を防ぎ均一な肉厚の層で形成することができる。また、内管4の長さを外管2の長さよりも少し長くしておくと、内管4を外管2に挿入するときの把持部を確保することができるため作業性がよくなる。そして、内管4と外管2の端面の長さをそろえ、マスキングを外し、硬化性樹脂3を十分に乾燥させる。
【0028】
本発明において、内管4の外径と外管2の内径との寸法差は0.3〜1.0mmであることが望ましい。これは、内管4の表面に硬化性樹脂3を介して、外管2に内管4を滑らかに挿入するには0.3mm以上が良く、硬化性樹脂3が外管2と内管4との間で偏らずに均一な分布となり、かつ、硬化性樹脂3の内部に空隙を作らないようにするためには1mm以下が良い。
【0029】
本発明において、硬化性樹脂3の粘度は0.2〜2Pa・sであることが望ましい。これは、未硬化の硬化性樹脂3が下方に垂れるのを防ぎ、外管2と内管4との間の挿入時に滑材の役割を果すと同時に硬化性樹脂3の分布をある一定の肉厚で均一にするためには0.2Pa・s以上が良く、未硬化の硬化性樹脂3を塗布するときに硬化性樹脂3を薄く均一に塗布するためには2Pa・s以下が良い。
【0030】
次に、前記積層管1の接続方法について図3乃至図5を参照して説明する。補強継手5は、外径130mmのPVC製のソケット形状の継手6の外側にガラス繊維強化ビニルエステル樹脂からなる繊維強化樹脂層7を加圧一体成形したソケット形状の継手である。受口部8は継手6の両端部に設けられており、受口部8の端部内径は114.7mmであり、奥部に向かって傾き0.0178°のテーパーで縮径するように設けられている。
【0031】
まず、積層管1を必要な長さに切断し、切断した積層管1の差口部9の端部をやすりや面取り器などを用いて内外面全周にわたりバリやカエリのないように面取りを行うと共に、差口部9の端面に内管4の樹脂製分と同じ樹脂10を塗布し、外管2と内管4の境目を被覆する。外管2と内管4の境目を被覆することによって、流体が外管2と内管4の界面に浸入するのを防ぎ、外管2と内管4が剥離するのを防ぐことができるので、積層管1の強度を維持することができる。
【0032】
次に、補強継手5の一方の受口部8内面および積層管1の差口部9外面を拭き上げ、補強継手5の受口部8内面および積層管1の差口部9外面に適量の接着剤を均一に塗布し、積層管1の差口部9を補強継手5の受口部8に差し込み、所定時間差し込み状態を保持するとともに接続部からはみだした接着剤を直ちに拭き取る。そして、他方の受口部8にも同様の方法で別の積層管1を挿入接続する。接着後は、十分な乾燥および洗浄により接着剤中の有機溶剤の蒸気を除去する。
【0033】
本実施例では、PVC製の継手6の外側に繊維強化樹脂層7を設けた補強継手5を用いているが、継手6の材質は、受口部8内周が積層管1の外管2と同じ材質であれば特に問題はない。また、温度や圧力があまりかからないような緩やかな使用条件では、繊維強化樹脂層7は必ずしも必要でなく、例えば、PVC製の継手だけでも良いが、積層管1と同等程度の強度を持たせるために、継手6の外周面に繊維強化樹脂層7を設けることが望ましい。
【0034】
また、本実施例では、積層管1を挿入する配管部材としてソケット形状の補強継手5を挙げているが、積層管1に接続されるような受口部を持っていれば特に限定されることはなく、受口部などを有するパイプ、エルボ形状やチーズ形状などの継手、バルブなどのいずれでも良い。
【0035】
また、本実施例では、積層管1と補強継手5の接続構造として、接着剤により接続部を溶融して一体化する接続構造を挙げているが、接着剤成分の流体中への溶出を避けたい使用条件や外管2と継手6の材質が接着剤による接続が不向きな結晶性樹脂である場合は熱融着による接続構造でも良い。
【0036】
また、本実施例では、外管2にPVC製の管を用いているため、配管施工後に積層管1の外周面にリブ(図示せず)やサポート(図示せず)などを接着や溶接により取付けることができる。また、外管2に種々の規格に準じた管を使用すると既製の配管保持具、配管支持具が使用できるため効果的である。
【0037】
以上のように、繊維強化樹脂製の内管4の外側に熱可塑性樹脂製の外管2を積層させることによって、繊維強化樹脂製の管を配管するときに、接続部を接着剤による溶融や加熱融着により一体化して接続することができるので、接続部の強度を管部と同等程度の強度にすることができるだけでなく、接続部を繊維強化樹脂によって補強する必要がないので、工数を減らすことができ、工期や工事費用を削減することができる。特に、接着剤を用いて施工する場合は施工が極めて簡単なだけでなく機材の必要もないため施工性が飛躍的に向上する。
【符号の説明】
【0038】
1 積層管
2 外管
3 硬化性樹脂
4 内管
5 補強継手
6 継手
7 繊維強化樹脂層
8 受口部
9 差口部
10 樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂層を含む積層管において、硬化性樹脂が外表面に塗布された繊維強化樹脂製の内管が熱可塑性樹脂製の外管に挿入接着して形成されることを特徴とする積層管。
【請求項2】
前記外管内径と前記内管外径の寸法差が0.3〜1.0mmであることを特徴とする請求項1記載の積層管。
【請求項3】
前記硬化性樹脂の粘度が0.2〜2Pa・sであることを特徴とする請求項1乃至請求項2のいずれかに記載の積層管。
【請求項4】
前記外管の材質が非晶性樹脂であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の積層管。
【請求項5】
前記内管の材質がガラス繊維補強ポリビニルエステル樹脂であり、前記外管の材質が硬質塩化ビニル樹脂であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の積層管。
【請求項6】
前記硬化性樹脂がポリビニルエステル樹脂を主成分とすることを特徴とする請求項5に記載の積層管。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の前記積層管の端部の差口部が、内周面が前記熱可塑性樹脂で形成され、外周面が前記繊維強化樹脂で形成された管継手の受口に挿入接続されていることを特徴とする積層管の接続構造。
【請求項8】
前記積層管の差口部の端面が前記内管の樹脂成分と同じ樹脂で被覆されていることを特徴とする請求項7に記載の積層管の接続構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−51109(P2012−51109A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193024(P2010−193024)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000117102)旭有機材工業株式会社 (235)
【Fターム(参考)】