積層1/4波長板
【課題】光学的一軸性結晶材料の第1及び第2波長板を光学軸が互いに90°の角度で交差するように配置した積層1/4波長板において、高い楕円率の偏光状態を実現する。
【解決手段】積層1/4波長板1は、第1波長板2の位相差をΓ1=360°+γ+n×360°(但し、−90°≦γ≦+90°、n:非負整数)、第2波長板3の位相差をΓ2=Γ1−90°又は270°とし、出射光の偏光状態が所望の楕円率を満足するように、第1波長板の位相差の許容偏差γを決定する。
【解決手段】積層1/4波長板1は、第1波長板2の位相差をΓ1=360°+γ+n×360°(但し、−90°≦γ≦+90°、n:非負整数)、第2波長板3の位相差をΓ2=Γ1−90°又は270°とし、出射光の偏光状態が所望の楕円率を満足するように、第1波長板の位相差の許容偏差γを決定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば光ピックアップ装置、液晶プロジェクタ、光学ローパスフィルタ等の光学装置に使用される1/4波長板に関し、特に水晶のような複屈折性を有する無機結晶材料からなる2枚の波長板を重ねて配置した積層1/4波長板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、直線偏光と円偏光との間で偏光状態を変換するために入射光の位相を1/4波長ずらす位相板即ち1/4波長板が、様々な光学的用途に使用されている。一般に1/4波長板は、延伸処理により複屈折性をもたせたポリカーボネート等の有機系材料からなる樹脂フィルム、高分子液晶層を透明基板で挟持した位相差板、水晶等の複屈折性を有する無機結晶材料の結晶板で作られる。特に光ディスク装置の記録再生に使用する光ピックアップ装置は、記録の高密度化大容量化を図るために非常に短波長で高出力の青紫色レーザを採用している。上述した樹脂フィルムや液晶材料が青紫色レーザ光を吸収して発熱し易く、材質自体が劣化して波長板の機能を損なう虞があるのに対し、水晶等の無機結晶材料は耐光性が極めて高いので、水晶波長板は青紫色レーザを使用するような光学系に特に有利である。
【0003】
水晶波長板の板厚tは、周知の位相差Γとの関係式Γ=(360/λ)・(ne−no)t、(但し、no:常光屈折率、ne:異常光屈折率)に従って決定される。そのため、光の入射面(又は出射面)に立てた法線と水晶の結晶光学軸即ちZ軸とが直交するように切り出した所謂Yカット(又はXカット)の水晶板でシングルモード(零次モード)の1/4波長板を形成すると、用いる水晶板の板厚が使用波長によって10〜26μm程度まで薄くなり、強度が著しく低下し、製造上取り扱いが非常に困難になる。そこで、2枚又はそれ以上の水晶波長板を貼り合わせた積層1/4波長板が使用されている(例えば、特許文献1、2を参照)。
【0004】
特許文献1記載の組み合わせ波長板は、水晶等の光学的一軸性結晶から光軸Zと平行に、即ち該光軸Zを光の入射面(又は出射面)に立てた法線に対して垂直に切り出した2枚の結晶板を、それらの光軸Zが互いに垂直になるように組み合わせ、それら1対の結晶板を通過する光の光路差ΔdがΔn(結晶板の常光線と異常光線との屈折率の差)×Δt(両結晶板の板厚の差)で表されるようにしたものである。これにより、板厚が薄くなる問題と共に、光学的一軸性結晶材料が有する旋光性や入射角度依存性の問題を解決している。
【0005】
特許文献2記載の組み合わせ波長板は、板面法線即ち光の入射面(又は出射面)に立てた放線と光学軸とが0°<β<90°の角度βをなすように加工した2枚の結晶板を貼り合わせたものである。これらの結晶板は、それらの光学軸が互いに貼合せ面に関して対称でありかつ板面の法線方向から見て互いに平行であるように貼り合わせる。これにより、ビーム入射角の変動によるリタデーションの変化をキャンセルすることができる。
【0006】
また、2枚の光学的異方性結晶を互いの遅相軸が略直交するように貼り合わせた1/4波長板が知られている(例えば、特許文献3を参照)。この1/4波長板は、かかる構成によって、ポリカーボネート等の樹脂フィルムを用いた場合に温度変化による熱収縮で生じる歪みを解消し、かつ光学的異方性結晶における入射光線角度に対するリタデーション値の依存性を解消して高コントラストを実現するものである。
【0007】
同様に2枚の光学結晶板を貼り合わせた積層1/4波長板において、光路より若干傾斜させて配置した場合にも、それに生じる両結晶板の光学軸のずれを見越して予めそれらの光学軸をずらして積層することにより、1/4波長板として所望の機能を発揮するようにした構造が知られている(例えば、特許文献4を参照)。
【0008】
また、積層1/4波長板は、より広帯域で1/4波長板としての機能を発揮させるためにも使用されている。例えば、旋光能を有する光学材料からなる2つの波長板を互いに光軸を交差するように重ね合わせて積層し、ポアンカレ球を用いた近似式により求めた両波長板の位相差、光学軸方位角度、旋光能、及び回転軸と中性軸のなす角が所定の関係式を満足するように構成することにより、旋光能による影響を低減しつつ、広帯域での特性を良くした1/4波長板が提案されている(例えば、特許文献5を参照)。
【0009】
更に広帯域で1/4波長板として機能するように、3枚の波長板を積層した偏光解消板が知られている(例えば、特許文献6を参照)。この1/4波長板では、各波長板の位相差、面内方位角がポアンカレ球を用いて最適値に設計される。
【0010】
【特許文献1】特開昭58−189605号公報
【特許文献2】特公平3−61921号公報
【特許文献3】特開2003−222724号公報
【特許文献4】特開2006−40359号公報
【特許文献5】特開2005−158121号公報
【特許文献6】特開2006−113123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の積層1/4波長板の典型例を図18に示す。この積層1/4波長板11は、光の入射方向Liから出射方向Loに順に、Yカット(又はXカット)水晶板のような光学的一軸性結晶材料からなる第1及び第2波長板12,13を有する。第1波長板12は、位相差Γ1=180°+n1×360°(但し、n1:非負整数)、光学軸方位角θ1=45°に設計する。第2波長板13は、位相差Γ2=90°(又は270°)+n2×360°(但し、n2:非負整数)、光学軸方位角θ2=135°に設計する。前記第1及び第2波長板は、それらの結晶光学軸14,15が互いに90°の角度で交差するように貼り合わせる。これら第1及び第2波長板の位相差の差Γ=|Γ1−Γ2|=90°(又は270°)が積層1/4波長板11の位相差となる。ここで、光学軸方位角θ1は、前記積層1/4波長板に入射する光の直線偏光の偏光面と第1波長板12の結晶光学軸14とがなす角度であり、光学軸方位角θ2は、前記直線偏光の偏光面と第2波長板13の結晶光学軸15とがなす角度である。
【0012】
この積層1/4波長板の偏光状態を図19のポアンカレ球を用いて説明する。入射光の基準点をP0=(1,0,0)として、第1波長板12の回転軸R1をS1軸から2θ1=90°回転した位置に設定し、第2波長板13の回転軸R2をS1軸から2θ2=270°回転した位置に設定する。先ず、回転軸R1を中心に基準点P0を位相差Γ1だけ右に回転させると、その球上の点P1=(−1,0,0)が前記第1波長板の出射光の位置となる。次に、回転軸R2を中心に点P1を位相差Γ2だけ右に回転させると、その球上の点P2=(0,0,1)が前記第2波長板の出射光の位置、即ち積層1/4波長板11の出射光の位置となる。
【0013】
しかしながら、実際に製造される積層1/4波長板において、図19のように理想的な偏光状態を実現することは困難である。先ず、第1及び第2波長板12,13の光学軸方位角θ1、θ2は、前記第1及び第2波長板を形成する母基板の水晶板を光学軸に対して機械的に切断する角度によって決定されるので、通常±0.5°前後の製造誤差が生じる。更に、切り出した母基板から波長板を個片化する際にも、光学軸方位角θ1、θ2に通常±0.5°前後の製造誤差が生じる。また更に、個片化した前記第1及び第2波長板をそれらの光学軸が90°で交差するように貼り合わせる際に、組立誤差が生じる。これら光学軸の切出し工程及び個片化工程での製造誤差並びに貼合せ工程での組立誤差は、合計すると±3.0°前後の誤差になるので、積層1/4波長板の出射光の偏光状態に直接悪影響を及ぼす虞がある。
【0014】
第1及び第2波長板12,13の各光学軸方位角にそれぞれ誤差±Δθ1,±Δθ2が生じた場合に、それが積層1/4波長板11の出射光の偏光状態に及ぼす影響を図20を用いて説明する。同図は、ポアンカレ球をS3即ち北極の方向から見たものである。入射光の基準点をP0=(1,0,0)として、光軸S1から2θ1=90°±Δθ1回転した位置に、それぞれ第1波長板12の回転軸R1+、R1−を設定する。同様に、第2波長板13の回転軸R2+、R2−を光軸S1から2θ2=270°±Δθ2回転した位置に設定する。
【0015】
先ず、回転軸R1+を中心に基準点P0を位相差Γ1だけ右に回転させると、球上における前記第1波長板の出射光の位置P1+は、図17の点P1=(−1,0,0)よりも左側に更に2Δθ1回転した位置にくる。次に、回転軸R2+又はR2−を中心に点P1+を位相差Γ2だけ右に回転させると、その球上の点P2++又はP2+−がそれぞれ前記第2波長板の出射光の位置、即ち積層1/4波長板11の出射光の位置となる。
【0016】
また、回転軸R1−を中心に基準点P0を位相差Γ1だけ右に回転させると、球上における前記第1波長板の出射光の位置P1−は、図19の点P1=(−1,0,0)よりも右側に戻すように2Δθ1回転した位置にくる。次に、回転軸R2+又はR2−を中心に点P1−を位相差Γ2だけ右に回転させると、その球上の点P2−+又はP2−−がそれぞれ前記記第2波長板の出射光の位置、即ち積層1/4波長板11の出射光の位置となる。これら出射光の位置は、いずれも図19のP2=(0,0,1)即ち北極の位置から大きくずれており、その楕円率が1から大きく低下し得ることが分かる。
【0017】
第二に、水晶板の位相差Γは、上述した板厚tとの関係式に基づき、板厚tをその発振周波数で制御することによって調整される。従って、板厚tの製造誤差は、そのまま位相差の誤差となる。例えば、Yカット水晶板で0.5μmの誤差はリタデーションで約3°の誤差になる。2枚の水晶波長板の板厚を双方共に高精度に製造しかつ組み合わせて用いることは非常に困難であり、かつ高価格になる。
【0018】
このように、第1,第2波長板の光学軸の製造誤差及び貼合せ工程の組立誤差と、各波長板の位相差の製造誤差とが加重的に作用することによって、積層1/4波長板の楕円率はより低下する。波長板同士の貼合せ誤差は、それらの光学軸の向きをX線装置等で確認しながら正確に行うことにより解消可能であるが、量産性に欠け、製造コストを増大させるという問題がある。
【0019】
本願発明者らは、実際にこれらの誤差が積層1/4波長板の楕円率にどの程度の影響を及ぼすかについて、具体的にシミュレーションを行った。図21は、市販のDVD規格の光ディスク記録再生装置に搭載する光ピックアップ装置で使用する波長660nmの積層1/4波長板において、第1波長板の位相差をΓ1=180°+7×360°=2700°、光学軸方位角をθ1=45°−2°=43°、第2波長板の位相差をΓ2=90°+7×360°=2610°、光学軸方位角をθ2=135°+2°=137°とした場合の楕円率の変化を、波長λ=620〜700nmの範囲で示している。同図から、使用波長範囲λ=640〜680nmの大部分で楕円率が目標基準値の0.85を下回っていることが分かる。
【0020】
図22は、同じくDVD規格の光ピックアップ装置に使用される波長660nmの積層1/4波長板において、第1波長板の光学軸方位角をθ1=45°−2°=43°、第2波長板の光学軸方位角をθ2=135°+2°=137°とし、第1波長板の位相差をΓ1=180°+7×360°=2700°を中心に±180°の範囲で変化させた場合の楕円率の変化を、波長λ=620〜700nmの範囲で示している。尚、第2波長板の位相差はΓ2=Γ1−90°である。同図から、第1波長板の位相差Γ1に拘わらず、使用波長範囲λ=640〜680nmで楕円率が不安定で、目標基準値の0.85を下回る範囲が常に存在することが分かる。
【0021】
図23は、市販のブルーレイ規格の光ディスク記録再生装置に搭載する光ピックアップ装置で使用する波長405nmの積層1/4波長板において、第1波長板の位相差をΓ1=180°+9×360°=3420°、光学軸方位角をθ1=45°−2°=43°、第2波長板の位相差をΓ2=90°+9×360°=3330°、光学軸方位角をθ2=135°+2°=137°とした場合の楕円率の変化を、波長λ=375〜435nmの範囲で示している。同図から、使用波長範囲λ=395〜415nmの大部分で楕円率が目標基準値の0.9を下回っていることが分かる。
【0022】
図24は、同じくブルーレイ規格の光ピックアップ装置に使用される波長405nmの積層1/4波長板において、第1波長板の光学軸方位角をθ1=45°−2°=43°、第2波長板の光学軸方位角をθ2=135°+2°=137°とし、第1波長板の位相差をΓ1=180°+9×360°=3420°を中心に±180°の範囲で変化させた場合の楕円率の変化を、波長λ=375〜435nmの範囲で示している。尚、第2波長板の位相差はΓ2=Γ1−90°である。同図から、第1波長板の位相差Γ1に拘わらず、使用波長範囲λ=395〜415nmで楕円率が不安定で、目標基準値の0.9を下回る範囲が常に存在することが分かる。
【0023】
本発明は、上述した従来の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、光学的一軸性結晶材料からなる第1波長板と第2波長板とを、それらの光学軸が互いに90°の角度で交差するように配置した積層1/4波長板において、各波長板の位相差及び光学軸の製造誤差と2枚の波長板の貼合せ誤差とによる楕円率の加重的な劣化を改善して、高い楕円率の偏光状態を実現すると共に、製造コストの低減化及び量産性の向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上述したように、水晶波長板の光学軸方位角において、製造上±3°程度の誤差は避けられない公差と考えられる。これに対し、水晶波長板の位相差は、上述したようにその板厚で決定されるから、比較的高い精度で制御することが可能である。そこで、本願発明者らは、第1及び/又は第2波長板の位相差を適当に設定することによって、積層1/4波長板の楕円率を改善できないかを検討した。
【0025】
本願発明者らは、積層1/4波長板において、第1波長板の位相差をΓ1=360°+n×360°(但し、n:非負整数)とし、かつ第2波長板の位相差をΓ2=Γ1−90°(又は270°)とすることにより、第1波長板の光学軸方位角θ1の製造誤差即ちずれを解消し得ることを見い出した。これを図1のポアンカレ球を用いて説明する。同図は、ポアンカレ球をS3軸即ち北極の方向から見たものである。
【0026】
図20の場合と同様に、第1及び第2波長板の光学軸方位角θ1、θ2にそれぞれ誤差±Δθ1,±Δθ2が生じた場合を考える。入射光の基準点をP0=(1,0,0)として、S1軸から2θ1=90°±2Δθ1回転した位置に、それぞれ第1波長板の回転軸R1+、R1−を設定する。同様に、第2波長板の回転軸R2+、R2−をS1軸から2θ2=270°±2Δθ2回転した位置に設定する。
【0027】
先ず、回転軸R1+を中心に基準点P0を位相差Γ1だけ右に回転させると、球上における前記第1波長板の出射光の位置P1は、必ず元の基準点P0の位置に戻る。同様に、回転軸R1−を中心に基準点P0を位相差Γ1だけ右に回転させる場合にも、球上における前記第1波長板の出射光の位置P1は、必ず元の基準点P0の位置に戻る。次に、回転軸R2+又はR2−を中心に点P1を位相差Γ2だけ右に回転させると、その球上の点P2+又はP2−がそれぞれ前記第2波長板の出射光の位置、即ち積層1/4波長板の出射光の位置となる。点P2+、P2−は、位置P1を通って回転軸R2+、R2−に直交する直線と回転軸R2+、R2−との交点である。従って、積層1/4波長板の出射光の偏光状態即ち楕円率は、第1波長板の光学軸方位角のずれ量に拘わらず、第2波長板の光学軸方位角の精度によって決定されることが分かる。
【0028】
実際には、前記第1波長板の位相差Γ1にも製造誤差が生じるから、その大きさに対応して点P1の位置が、図1において基準点P0を通って回転軸R1+、R1−に直交する直線上を移動する。この移動による偏光状態の変化は、実際の位相差Γ1の値に対応して前記第2波長板の位相差Γ2をその差が常に90°を維持するように設定することによって、解消し得ると考えられる。本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。
【0029】
本発明によれば、上記目的を達成するために、光学的一軸性結晶材料からなる第1波長板と第2波長板とを有し、それら第1、第2波長板を光の入射方向から順にかつそれらの光学軸が互いに90°の角度で交差するように配置した積層1/4波長板であって、第1波長板の位相差をΓ1=360°+γ+n×360°(但し、−90°≦γ≦+90°、n:非負整数)、第2波長板の位相差をΓ2=Γ1−90°又は270°とし、かつ第1波長板の光学軸の方位角をθ1=45°+k1、第2波長板の光学軸の方位角をθ2=135°+k2として、出射光の偏光状態が所望の楕円率を満足するように、第1波長板の位相差の許容偏差γ、第1及び第2波長板の光学軸方位角の許容偏差k1、k2を決定した積層1/4波長板が提供される。
【0030】
第1波長板は、その光学軸方位角の製造誤差が積層1/4波長板の楕円率に全く影響しないので、比較的低い精度で安価に製造することができる。そのようにした場合も、前記積層1/4波長板は、第2波長板の光学軸方位角θ2及び位相差Γ2の精度を高いレベルに確保することによって、従来よりも容易に所望の高い楕円率を実現できる。しかも、第1及び第2波長板を従来と同様に機械的な手法でかつ従来と同程度の位置決め精度で配置することができるので、製造コストの低減及び量産性の向上を図ることができる。尚、出射光の偏光状態は、第2波長板の位相差がΓ2=Γ1−90°の場合にポアンカレ球上で北極の位置にくるが、Γ2=Γ1−270°の場合にはポアンカレ球上で南極の位置にくることになる。
【0031】
或る実施例では、前記積層1/4波長板の中心波長が、一般にDVD規格の光ピックアップ装置に使用される660nm帯であり、第1波長板及び第2波長板の光学軸方位角をそれぞれ45°±4°、135°±4°の範囲に設定することにより、0.85以上の高い楕円率を達成することができる。
【0032】
別の実施例では、前記積層1/4波長板の中心波長が、一般にブルーレイ規格の光ピックアップ装置に使用される405nm帯であり、第1波長板及び第2波長板の光学軸方位角をそれぞれ45°±2.5°、135°±2.5°の範囲に設定することにより、0.9以上の高い楕円率を達成することができる。
【0033】
更に別の実施例によれば、第1及び第2波長板が例えば従来から多用されているYカット又はXカットの水晶板により形成され、水晶の旋光能の影響を受けないので、積層1/4波長板の楕円率を制御することが比較的容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下に、添付図面を参照しつつ、本発明の好適な実施例を詳細に説明する。
図2に示すように、本実施例の積層1/4波長板1は、Yカット(又はXカット)水晶板のような光学的一軸性結晶材料からなる第1波長板2と第2波長板3とを有する。第1波長板2と第2波長板3とは、光の入射方向Liから出射方向Loに順に、かつそれらの結晶光学軸4,5が互いに90°の角度で交差するように貼り合わせる。
【0035】
第1波長板2は、位相差をΓ1=360°+γ+n×360°(但し、−90°≦γ≦+90°、n:非負整数)、光学軸方位角をθ1=45°+k1に設計する。第2波長板3は、位相差をΓ2=Γ1−90°、光学軸方位角をθ2=135°+k2に設計する。ここで、γは第1波長板の位相差の許容偏差、k1及びk2はそれぞれ第1及び第2波長板2,3の光学軸方位角の許容偏差である。γ、k1及びk2は、積層1/4波長板1の出射光の偏光状態が所望の楕円率を満足するように決定する。ここで、光学軸方位角θ1は、前記積層1/4波長板に入射する光の直線偏光の偏光面と第1波長板の結晶光学軸4とがなす角度であり、光学軸方位角θ2は、前記直線偏光の偏光面と前記第2波長板3の結晶光学軸5とがなす角度である。
【0036】
図1のポアンカレ球において、楕円率1の点S3を中心に所望の楕円率η0を半径とする円を描いたとき、その円内に出射光の位置P2+及びP2−が常にあるように、γ、k1及びk2を設定する。位相差Γ1の許容偏差γが0の場合、点P1の位置は基準点P0に一致する。このとき、基準点P0を通ってη0を半径とする前記円に外接する直線とS1軸との間に画定される角度が2k2である。この光学軸方位角θ2の許容偏差k2の範囲内で、位置P2+及びP2−は確実にη0を半径とする前記円内に存在し、所望の楕円率η0を満足する。
【0037】
点P1の位置は、位相差Γ1の許容偏差γに対応して、基準点P0を通って回転軸R1+又はR1−に直交する直線上を移動する。このとき、基準点P0から移動した点P1を通ってη0を半径とする前記円に外接する直線に直交する回転軸R2+又はR2−とS2軸との間に画定される角度が2k2である。位相差Γ1に製造誤差がある場合にも、この光学軸方位角θ2の許容偏差k2の範囲内で、位置P2+及びP2−は確実にη0を半径とする前記円内に存在し、所望の楕円率η0を満足する。許容偏差k2が小さいほど、許容偏差γを大きくとれることが分かる。
【0038】
このように本発明の積層1/4波長板1は、第1波長板2の光学軸方位角θ1にずれがあっても、それが出射光の偏光状態即ち楕円率に直接影響することはなく、第2波長板3の光学軸方位角θ2及び位相差Γ2の精度を高レベルで確保することによって、第1波長板2の板厚即ち位相差に或る程度の幅即ち許容偏差を持たせながら、所望の高い楕円率を容易に実現することができる。従って、第1波長板2は、従来よりも比較的低い精度で安価に製造され、従来と同様に機械的な手法で第2波長板3と位置決めして貼り合わせることができるので、製造コストを低減することができる。
【0039】
本実施例の積層1/4波長板1は、その中心波長を660nmとして、市販のDVD規格の光ピックアップ装置に使用することができる。この場合、第1波長板2及び第2波長板3の各光学軸方位角θ1、θ2の許容偏差k1、k2を±4°に設定することにより、所望の0.85以上の高い楕円率が得られる。以下に、具体的なシミュレーション結果を示して説明する。
【0040】
図3は、中心波長660nmの積層1/4波長板において、第1波長板の位相差をΓ1=360°+γ+7×360°=2880°+γ、第2波長板の位相差をΓ2=Γ1−90°=2790°+γとした場合に、光学軸方位角θ1,θ2のずれ量=±0°〜±6°について位相差Γ1の許容偏差γに対する楕円率の変化を示している。同図から、光学軸方位角θ1,θ2の許容偏差k1、k2を±4°にかつ位相差Γ1の許容偏差γ=±90°に設定すると、常に目標基準値0.85以上の楕円率を実現し得ることが確認された。
【0041】
図4(A)は、同じく中心波長660nmの積層1/4波長板において、光学軸方位角θ1,θ2のずれ量をそれぞれ−2°,+2°とした場合に位相差Γ1=2880°±20°の範囲で波長に対する楕円率の変化を示している。この場合、使用波長範囲λ=660±15nmにおいて常に目標基準値0.85以上の楕円率を実現し得ることが分かる。更に(B)図は、位相差Γ1が−側に2880°−64°〜−55°まで大きく振れた場合の楕円率の変化を、(C)図は、位相差Γ1が+側に2880°+53°〜+62°まで大きく振れた場合の楕円率の変化をそれぞれ詳細に示している。これらの図から、目標基準値0.85以上の楕円率を達成し得る限界となる位相差Γ1の許容偏差γが判断される。
【0042】
図5(A)は、同じく中心波長660nmの積層1/4波長板において、光学軸方位角θ1,θ2のずれ量をそれぞれ−3°,+3°とした場合に位相差Γ1=2880°±40°の範囲で波長に対する楕円率の変化を示している。この場合にも、使用波長範囲λ=660±15nmにおいて常に目標基準値0.85以上の楕円率を実現し得ることが分かる。更に(B)図は、位相差Γ1の−側即ち2880°−40°〜−35°における楕円率の変化を、(C)図は位相差Γ1が上記範囲から+側に2880°+40°〜+45°まで振れた場合の楕円率の変化をそれぞれ詳細に示している。これらの図から、目標基準値0.85以上の楕円率を達成し得る限界となる位相差Γ1の許容偏差γが判断される。
【0043】
図6は、同じく中心波長660nmの積層1/4波長板において、光学軸方位角θ1,θ2のずれ量をそれぞれ−4°,+4°とした場合に位相差Γ1=2880°±40°の範囲で波長に対する楕円率の変化を示している。同図から、この場合にも、使用波長範囲λ=660±15nmにおいて常に目標基準値0.85以上の楕円率を実現し得ることが分かる。
【0044】
図7は、同じく中心波長660nmの積層1/4波長板において、光学軸方位角θ1,θ2のずれ量をそれぞれ−5°,+5°とした場合に位相差Γ1=2880°±40°の範囲で波長に対する楕円率の変化を示している。同図から、この場合には、使用波長範囲λ=660±15nmにおいて、楕円率が目標基準値0.85を下回る範囲が常に存在することが分かる。
【0045】
図8は、同じく中心波長660nmの積層1/4波長板において、光学軸方位角θ1,θ2のずれ量をそれぞれ−2°とした場合に位相差Γ1=2880°±20°の範囲で波長に対する楕円率の変化を示している。同図から、この場合にも、使用波長範囲λ=660±15nmを含む広範な範囲において、常に目標基準値0.85を大きく上回る高い楕円率を実現し得ることが分かる。
【0046】
これらのシミュレーション結果を総合すると、光学軸方位角θ1,θ2のずれ量±1°〜±5°に関して使用波長範囲λ=660±15nmにおいて目標基準値0.85以上の楕円率を達成し得る位相差Γ1の範囲、即ちその許容偏差γを以下の表1にまとめることができる。同表において、θずれ量は光学軸方位角θ1、θ2のずれ量である。
【0047】
【表1】
【0048】
また、本実施例の積層1/4波長板1は、その中心波長を405nmとして、市販のブルーレイ規格の光ピックアップ装置に使用することができる。この場合、第1波長板2及び第2波長板3の各光学軸方位角θ1、θ2の許容偏差k1、k2を±2.5°に設定することにより、所望の0.9以上の高い楕円率が得られる。同様に、具体的なシミュレーション結果を示して説明する。
【0049】
図9は、中心波長405nmの積層1/4波長板において、第1波長板の位相差をΓ1=360°+γ+9×360°=3600°+γ、第2波長板の位相差をΓ2=Γ1−90°=3510°+γとした場合に、光学軸方位角θ1,θ2のずれ量=±0°〜±5°について位相差Γ1の許容偏差γに対する楕円率の変化を示している。同図から、光学軸方位角θ1,θ2の許容偏差k1、k2を±3°にかつ位相差Γ1の許容偏差γ=±90°に設定すると、常に目標基準値0.9以上の楕円率を実現し得ることが確認された。
【0050】
図10(A)は、同じく中心波長405nmの積層1/4波長板において、光学軸方位角θ1,θ2のずれ量をそれぞれ−1°,+1°とした場合に、位相差Γ1が3600°−79°〜−70°まで−側に大きく振れた場合の楕円率の変化を示している。図10(B)は、位相差Γ1が3600°+61°〜+70°まで+側に大きく振れた場合の楕円率の変化を示している。同図から、この場合には、使用波長範囲λ=405±8nmにおいて常に目標基準値0.9以上の楕円率を実現し得ることが分かる。
【0051】
図11は、同じく中心波長405nmの積層1/4波長板において、光学軸方位角θ1,θ2のずれ量をそれぞれ−1.5°,+1.5°とした場合に位相差Γ1=3600°±40°の範囲で波長に対する楕円率の変化を示している。同図から、この場合、使用波長範囲λ=405±8nmにおいて常に目標基準値0.9以上の楕円率を実現し得ることが分かる。
【0052】
図12(A)は、同じく中心波長405nmの積層1/4波長板において、光学軸方位角θ1,θ2のずれ量をそれぞれ−2°,+2°とした場合に位相差Γ1=3600°±20°の範囲で波長に対する楕円率の変化を示している。この場合にも、使用波長範囲λ=405±8nmにおいて常に目標基準値0.9以上の楕円率を実現し得ることが分かる。更に(B)図は、位相差Γ1の−側即ち3600°−16°〜−10°における楕円率の変化を、(C)図は位相差Γ1の+側即ち3600°+5°〜+12°における楕円率の変化をそれぞれ詳細に示している。これらの図から、目標基準値0.9以上の楕円率を達成し得る限界となる位相差Γ1の許容偏差γが判断される。
【0053】
図13は、同じく中心波長405nmの積層1/4波長板において、光学軸方位角θ1,θ2のずれ量をそれぞれ−2.5°,+2.5°とした場合に位相差Γ1=3600°−20°〜+10°の範囲で波長に対する楕円率の変化を示している。同図から、この場合にも、使用波長範囲λ=405±8nmにおいて常に目標基準値0.9以上の楕円率を実現し得ることが分かる。
【0054】
図14は、同じく中心波長405nmの積層1/4波長板において、光学軸方位角θ1,θ2のずれ量をそれぞれ−3°,+3°とした場合に位相差Γ1=3600°±10°の範囲で波長に対する楕円率の変化を示している。同図から、この場合には、使用波長範囲λ=405±8nmにおいて目標基準値0.9以上の楕円率を実現し得ないことが確認された。
【0055】
図15は、同じく中心波長405nmの積層1/4波長板において、光学軸方位角θ1,θ2のずれ量をそれぞれ−2°とした場合に位相差Γ1=3600°±10°の範囲で波長に対する楕円率の変化を示している。同図から、この場合にも、使用波長範囲λ=405±8nmを含む広範な範囲において、常に目標基準値0.9を大きく上回る高い楕円率を実現し得ることが分かる。
【0056】
これらのシミュレーション結果を総合すると、光学軸方位角θ1,θ2のずれ量±1°〜±3°に関して使用波長範囲λ=405±8nmにおいて目標基準値0.9以上の楕円率を達成し得る位相差Γ1の範囲、即ちその許容偏差γを以下の表2にまとめることができる。
【0057】
【表2】
【0058】
図16は、本発明の積層1/4波長板を適用した光ピックアップ装置の実施例を示している。この光ピックアップ装置20は、例えばBlu-ray Disc(商標)等の光ディスク装置の記録再生に使用するためのもので、例えば波長405nmの青紫色光であるレーザ光を放射するレーザダイオードからなる光源21を有する。光ピックアップ装置20は、光源21からのレーザ光を回折して3ビーム化する回折格子22と、該回折格子を透過したレーザ光をP偏光成分とS偏光成分とに分離して透過又は反射する偏光ビームスプリッタ23と、該偏光ビームスプリッタに反射されたレーザ光を平行光にするコリメートレンズ24と、該コリメートレンズを透過したレーザ光を光ディスク25に向けて反射するミラー26と、該ミラーにより反射された直線偏光のレーザ光を円偏光に変換する1/4波長板27と、該1/4波長板を透過したレーザ光を集光する対物レンズ28と、光ディスク25から反射したレーザ光を検出する光検出器29とを備える。更に光ピックアップ装置20は、光源21から出射して偏光ビームスプリッタ23を透過したレーザ光を検出するモニタ用光検出器30を有する。
【0059】
光ピックアップ装置20の動作を以下に説明する。光源21から出射した直線偏光のレーザ光は、3ビーム法によるトラッキング制御のために回折格子22により3ビームに分離された後、S偏光成分が偏光ビームスプリッタ23で反射され、コリメートレンズ24により平行光となる。平行光のレーザ光はミラー26で全反射され、1/4波長板27により直線偏光から円偏光に変換され、対物レンズ28で集光されて、光ディスク25に形成した信号記録層のピットに照射される。該ピットで反射されたレーザ光は前記対物レンズを透過し、1/4波長板27により円偏光から直線偏光に変換され、ミラー26で全反射されてコリメートレンズ24及び偏光ビームスプリッタ23を透過し、光検出器29に入射して検出される。これにより、前記光ディスクに記録されている信号の読み取り動作が行われる。また、光源21から出射したレーザ光のP偏光成分は、偏光ビームスプリッタ23を透過してモニタ用光検出器30に入射して検出される。この検出出力によって、前記レーザーダイオードから出射するレーザ光の出力を制御する。
【0060】
前記光ピックアップ装置は、1/4波長板27に本発明の積層1/4波長板を使用する。これによって、直線偏光のレーザ光を、水晶の旋光能の影響を受けることなく、高い楕円率の実質的な円偏光に変換することができる。その結果、より高記録密度の光ディスク記録再生装置に適した光ピックアップ装置を実現することができる。
【0061】
図17は、本発明の積層1/4波長板を適用した反射型液晶表示装置の一例として、LCOS型液晶プロジェクタの実施例を示している。この液晶プロジェクタ40は、光源41と、第1及び第2のインテグレータレンズ42a、42bと、偏光変換素子43と、コールドミラー44と、色分解光学系を構成する第1及び第2のダイクロイックミラー45a、45bと、折り返しミラー46とを備える。更に前記プロジェクタは、赤色用、緑色用及び青色用の偏光ビームスプリッタ47a、47b、47cと、赤色用、緑色用及び青色用の1/4波長板48a、48b、48cと、赤色用、緑色用及び青色用のLCOS(Liquid Crystal on Silicon)からなる反射型液晶表示素子49a、49b、49cと、色合成光学系を構成するクロスプリズム50と、投写レンズ51と、スクリーン52とを備える。
【0062】
液晶プロジェクタ40の動作を以下に説明する。光源41から出射したランダム光は、第1のインテグレータレンズ42aにより平行光となり、PS変換素子43によりP偏光成分がS偏光に変換されかつS偏光はそのまま透過し、更に第2のインテグレータレンズ42bにより平行光となり、コールドミラー44に入射する。該コールドミラーで反射された光は、緑色光及び青色光が第1のダイクロイックミラー45aにより反射され、赤色光はこれを透過して、折り返しミラー46で反射される。前記赤色光はS偏光であることにより偏光ビームスプリッタ47aの偏光膜で反射され、1/4波長板48aを透過し、LCOS49aに入射して反射される。このとき前記赤色光は変調され、再度1/4波長板48aを透過してP偏光に変換され、偏光ビームスプリッタ47aの偏光膜を透過してクロスプリズム50に入射する。
【0063】
前記第1のダイクロイックミラーで反射された緑色光は、第2のダイクロイックミラー45bで反射され、S偏光であることにより偏光ビームスプリッタ47bの偏光膜で反射され、1/4波長板48bを透過し、LCOS49bに入射して反射される。このとき前記緑色光は変調され、再度1/4波長板48bを透過してP偏光に変換され、偏光ビームスプリッタ47bの偏光膜を透過してクロスプリズム50に入射する。同様に前記第1のダイクロイックミラーで反射された青色光は、第2のダイクロイックミラー45bを透過し、S偏光であることにより偏光ビームスプリッタ47で反射され、1/4波長板48cを透過し、LCOS49cに入射して反射される。このとき前記青色光は変調され、再度1/4波長板48cを透過してP偏光に変換され、偏光ビームスプリッタ47cを透過して、クロスプリズム50に入射する。
【0064】
クロスプリズム50は、入射した赤色光と青色光とを反射され、緑色光を透過させるように構成されている。従って、前記クロスプリズムに入射した赤色光、緑色光及び青色光は色合成され、投写レンズ51を介してスクリーン52上に投影され、カラー映像が得られる。
【0065】
前記液晶プロジェクタは、赤緑青各色用の1/4波長板48a、48b、48cにそれぞれ本発明の積層1/4波長板を使用する。これによって、直線偏光のレーザ光を、水晶の旋光能の影響を受けることなく、高い楕円率の実質的な円偏光に変換することがでる。その結果、従来よりもコントラストを改善した反射型液晶表示装置を実現することができる。
【0066】
本発明は、上記実施例に限定されるものでなく、その技術的範囲内で様々な変形又は変更を加えて実施することができる。例えば、第2波長板3の位相差をΓ2=Γ1−270°に設定することができる。この場合、積層1/4波長板の出射光は、ポアンカレ球上で南極の位置になり、その位相差は波長依存性を有するので、波長に関する楕円率の変化は傾きが上記実施例の場合よりも大きくなる。また、本発明は、第1及び第2波長板を例えば方解石のような水晶以外の光学的一軸性結晶材料で形成することができ、その場合にも同様の作用効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明による積層1/4波長板の偏光状態をポアンカレ球で説明する図。
【図2】本発明による積層1/4波長板の実施例を光の出射方向から見た斜視図。
【図3】中心波長660nmの積層1/4波長板において、θ1,θ2のずれ量=±0°〜±6°について位相差Γ1の許容偏差γに対する楕円率の変化を示す線図。
【図4】(A)図は積層1/4波長板のθ1,θ2のずれ量が−2°,+2°の場合に波長に対する楕円率の変化を示す線図、(B)図は位相差Γ1が−側に大きく振れた範囲で楕円率の変化を示す線図、(C)図は位相差Γ1が+側に大きく振れた範囲で楕円率の変化を示す線図。
【図5】(A)図は積層1/4波長板のθ1,θ2のずれ量が−3°,+3°の場合に波長に対する楕円率の変化を示す線図、(B)図は位相差Γ1の−側での楕円率の変化を示す線図、(C)図は位相差Γ1が+側に振れた範囲で楕円率の変化を示す線図。
【図6】積層1/4波長板のθ1,θ2のずれ量が−4°,+4°の場合に波長に対する楕円率の変化を示す線図。
【図7】積層1/4波長板のθ1,θ2のずれ量が−5°,+5°の場合に波長に対する楕円率の変化を示す線図。
【図8】積層1/4波長板のθ1,θ2のずれ量が−2°の場合に波長に対する楕円率の変化を示す線図。
【図9】中心波長405nmの積層1/4波長板において、θ1,θ2のずれ量=±0°〜±5°について位相差Γ1の許容偏差γに対する積層1/4波長板の楕円率の変化を示す線図。
【図10】(A)図は積層1/4波長板のθ1,θ2のずれ量が−1°,+1°の場合に位相差Γ1の−側の範囲で波長に対する楕円率の変化を示す線図、(B)図は位相差Γ1の+側の範囲で楕円率の変化を示す線図。
【図11】積層1/4波長板のθ1,θ2のずれ量が−1.5°,+1.5°の場合に波長に対する楕円率の変化を示す線図。
【図12】(A)図は積層1/4波長板のθ1,θ2のずれ量が−2°,+2°の場合に波長に対する楕円率の変化を示す線図、(B)図は位相差Γ1の−側での楕円率の変化を示す線図、(C)図は位相差Γ1の+側での楕円率の変化を示す線図。
【図13】積層1/4波長板のθ1,θ2のずれ量が−2.5°,+2.5°の場合に波長に対する楕円率の変化を示す線図。
【図14】積層1/4波長板のθ1,θ2のずれ量が−3°,+3°の場合に波長に対する楕円率の変化を示す線図。
【図15】積層1/4波長板のθ1,θ2のずれ量が−2°の場合に波長に対する楕円率の変化を示す線図。
【図16】本発明の1/4波長板を用いた光ピックアップ装置の実施例の構成を示す概略図。
【図17】本発明の1/4波長板を用いたLCOS型液晶プロジェクタの実施例の構成を示す概略図。
【図18】従来例の積層1/4波長板を光の出射方向から見た斜視図。
【図19】従来の理想的な積層1/4波長板の偏光状態をポアンカレ球で説明する図。
【図20】従来の積層1/4波長板の光学軸方位角に誤差がある場合の偏光状態をポアンカレ球で説明する図。
【図21】従来の波長660nmの積層1/4波長板において、光学軸方位角の誤差による楕円率の変化を示す線図。
【図22】従来の波長660nmの積層1/4波長板において、光学軸方位角の誤差による楕円率の変化を第1波長板の位相差の変動に関連して示す線図。
【図23】従来の波長405nmの積層1/4波長板において、光学軸方位角の誤差による楕円率の変化を示す線図。
【図24】従来の波長405nmの積層1/4波長板において、光学軸方位角の誤差による楕円率の変化を第1波長板の位相差の変動に関連して示す線図。
【符号の説明】
【0068】
1,11…積層1/4波長板、2,12…第1波長板、3,13…第2波長板、4,5,14,15…光学軸、27,48a,48b,48c…1/4波長板、20…光ピックアップ装置、21,41…光源、22…回折格子、23,47a,47b,47c…偏光ビームスプリッタ、24…コリメートレンズ、25…光ディスク、26…ミラー、28…対物レンズ、29…光検出器、30…モニタ用光検出器、40…液晶プロジェクタ、42a,42b…インテグレータレンズ、43…偏光変換素子、44…コールドミラー、45a,45b…ダイクロイックミラー、46…折り返しミラー、49a,49b,49c…反射型液晶表示素子、50…クロスプリズム、51…投写レンズ、52…スクリーン。
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば光ピックアップ装置、液晶プロジェクタ、光学ローパスフィルタ等の光学装置に使用される1/4波長板に関し、特に水晶のような複屈折性を有する無機結晶材料からなる2枚の波長板を重ねて配置した積層1/4波長板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、直線偏光と円偏光との間で偏光状態を変換するために入射光の位相を1/4波長ずらす位相板即ち1/4波長板が、様々な光学的用途に使用されている。一般に1/4波長板は、延伸処理により複屈折性をもたせたポリカーボネート等の有機系材料からなる樹脂フィルム、高分子液晶層を透明基板で挟持した位相差板、水晶等の複屈折性を有する無機結晶材料の結晶板で作られる。特に光ディスク装置の記録再生に使用する光ピックアップ装置は、記録の高密度化大容量化を図るために非常に短波長で高出力の青紫色レーザを採用している。上述した樹脂フィルムや液晶材料が青紫色レーザ光を吸収して発熱し易く、材質自体が劣化して波長板の機能を損なう虞があるのに対し、水晶等の無機結晶材料は耐光性が極めて高いので、水晶波長板は青紫色レーザを使用するような光学系に特に有利である。
【0003】
水晶波長板の板厚tは、周知の位相差Γとの関係式Γ=(360/λ)・(ne−no)t、(但し、no:常光屈折率、ne:異常光屈折率)に従って決定される。そのため、光の入射面(又は出射面)に立てた法線と水晶の結晶光学軸即ちZ軸とが直交するように切り出した所謂Yカット(又はXカット)の水晶板でシングルモード(零次モード)の1/4波長板を形成すると、用いる水晶板の板厚が使用波長によって10〜26μm程度まで薄くなり、強度が著しく低下し、製造上取り扱いが非常に困難になる。そこで、2枚又はそれ以上の水晶波長板を貼り合わせた積層1/4波長板が使用されている(例えば、特許文献1、2を参照)。
【0004】
特許文献1記載の組み合わせ波長板は、水晶等の光学的一軸性結晶から光軸Zと平行に、即ち該光軸Zを光の入射面(又は出射面)に立てた法線に対して垂直に切り出した2枚の結晶板を、それらの光軸Zが互いに垂直になるように組み合わせ、それら1対の結晶板を通過する光の光路差ΔdがΔn(結晶板の常光線と異常光線との屈折率の差)×Δt(両結晶板の板厚の差)で表されるようにしたものである。これにより、板厚が薄くなる問題と共に、光学的一軸性結晶材料が有する旋光性や入射角度依存性の問題を解決している。
【0005】
特許文献2記載の組み合わせ波長板は、板面法線即ち光の入射面(又は出射面)に立てた放線と光学軸とが0°<β<90°の角度βをなすように加工した2枚の結晶板を貼り合わせたものである。これらの結晶板は、それらの光学軸が互いに貼合せ面に関して対称でありかつ板面の法線方向から見て互いに平行であるように貼り合わせる。これにより、ビーム入射角の変動によるリタデーションの変化をキャンセルすることができる。
【0006】
また、2枚の光学的異方性結晶を互いの遅相軸が略直交するように貼り合わせた1/4波長板が知られている(例えば、特許文献3を参照)。この1/4波長板は、かかる構成によって、ポリカーボネート等の樹脂フィルムを用いた場合に温度変化による熱収縮で生じる歪みを解消し、かつ光学的異方性結晶における入射光線角度に対するリタデーション値の依存性を解消して高コントラストを実現するものである。
【0007】
同様に2枚の光学結晶板を貼り合わせた積層1/4波長板において、光路より若干傾斜させて配置した場合にも、それに生じる両結晶板の光学軸のずれを見越して予めそれらの光学軸をずらして積層することにより、1/4波長板として所望の機能を発揮するようにした構造が知られている(例えば、特許文献4を参照)。
【0008】
また、積層1/4波長板は、より広帯域で1/4波長板としての機能を発揮させるためにも使用されている。例えば、旋光能を有する光学材料からなる2つの波長板を互いに光軸を交差するように重ね合わせて積層し、ポアンカレ球を用いた近似式により求めた両波長板の位相差、光学軸方位角度、旋光能、及び回転軸と中性軸のなす角が所定の関係式を満足するように構成することにより、旋光能による影響を低減しつつ、広帯域での特性を良くした1/4波長板が提案されている(例えば、特許文献5を参照)。
【0009】
更に広帯域で1/4波長板として機能するように、3枚の波長板を積層した偏光解消板が知られている(例えば、特許文献6を参照)。この1/4波長板では、各波長板の位相差、面内方位角がポアンカレ球を用いて最適値に設計される。
【0010】
【特許文献1】特開昭58−189605号公報
【特許文献2】特公平3−61921号公報
【特許文献3】特開2003−222724号公報
【特許文献4】特開2006−40359号公報
【特許文献5】特開2005−158121号公報
【特許文献6】特開2006−113123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の積層1/4波長板の典型例を図18に示す。この積層1/4波長板11は、光の入射方向Liから出射方向Loに順に、Yカット(又はXカット)水晶板のような光学的一軸性結晶材料からなる第1及び第2波長板12,13を有する。第1波長板12は、位相差Γ1=180°+n1×360°(但し、n1:非負整数)、光学軸方位角θ1=45°に設計する。第2波長板13は、位相差Γ2=90°(又は270°)+n2×360°(但し、n2:非負整数)、光学軸方位角θ2=135°に設計する。前記第1及び第2波長板は、それらの結晶光学軸14,15が互いに90°の角度で交差するように貼り合わせる。これら第1及び第2波長板の位相差の差Γ=|Γ1−Γ2|=90°(又は270°)が積層1/4波長板11の位相差となる。ここで、光学軸方位角θ1は、前記積層1/4波長板に入射する光の直線偏光の偏光面と第1波長板12の結晶光学軸14とがなす角度であり、光学軸方位角θ2は、前記直線偏光の偏光面と第2波長板13の結晶光学軸15とがなす角度である。
【0012】
この積層1/4波長板の偏光状態を図19のポアンカレ球を用いて説明する。入射光の基準点をP0=(1,0,0)として、第1波長板12の回転軸R1をS1軸から2θ1=90°回転した位置に設定し、第2波長板13の回転軸R2をS1軸から2θ2=270°回転した位置に設定する。先ず、回転軸R1を中心に基準点P0を位相差Γ1だけ右に回転させると、その球上の点P1=(−1,0,0)が前記第1波長板の出射光の位置となる。次に、回転軸R2を中心に点P1を位相差Γ2だけ右に回転させると、その球上の点P2=(0,0,1)が前記第2波長板の出射光の位置、即ち積層1/4波長板11の出射光の位置となる。
【0013】
しかしながら、実際に製造される積層1/4波長板において、図19のように理想的な偏光状態を実現することは困難である。先ず、第1及び第2波長板12,13の光学軸方位角θ1、θ2は、前記第1及び第2波長板を形成する母基板の水晶板を光学軸に対して機械的に切断する角度によって決定されるので、通常±0.5°前後の製造誤差が生じる。更に、切り出した母基板から波長板を個片化する際にも、光学軸方位角θ1、θ2に通常±0.5°前後の製造誤差が生じる。また更に、個片化した前記第1及び第2波長板をそれらの光学軸が90°で交差するように貼り合わせる際に、組立誤差が生じる。これら光学軸の切出し工程及び個片化工程での製造誤差並びに貼合せ工程での組立誤差は、合計すると±3.0°前後の誤差になるので、積層1/4波長板の出射光の偏光状態に直接悪影響を及ぼす虞がある。
【0014】
第1及び第2波長板12,13の各光学軸方位角にそれぞれ誤差±Δθ1,±Δθ2が生じた場合に、それが積層1/4波長板11の出射光の偏光状態に及ぼす影響を図20を用いて説明する。同図は、ポアンカレ球をS3即ち北極の方向から見たものである。入射光の基準点をP0=(1,0,0)として、光軸S1から2θ1=90°±Δθ1回転した位置に、それぞれ第1波長板12の回転軸R1+、R1−を設定する。同様に、第2波長板13の回転軸R2+、R2−を光軸S1から2θ2=270°±Δθ2回転した位置に設定する。
【0015】
先ず、回転軸R1+を中心に基準点P0を位相差Γ1だけ右に回転させると、球上における前記第1波長板の出射光の位置P1+は、図17の点P1=(−1,0,0)よりも左側に更に2Δθ1回転した位置にくる。次に、回転軸R2+又はR2−を中心に点P1+を位相差Γ2だけ右に回転させると、その球上の点P2++又はP2+−がそれぞれ前記第2波長板の出射光の位置、即ち積層1/4波長板11の出射光の位置となる。
【0016】
また、回転軸R1−を中心に基準点P0を位相差Γ1だけ右に回転させると、球上における前記第1波長板の出射光の位置P1−は、図19の点P1=(−1,0,0)よりも右側に戻すように2Δθ1回転した位置にくる。次に、回転軸R2+又はR2−を中心に点P1−を位相差Γ2だけ右に回転させると、その球上の点P2−+又はP2−−がそれぞれ前記記第2波長板の出射光の位置、即ち積層1/4波長板11の出射光の位置となる。これら出射光の位置は、いずれも図19のP2=(0,0,1)即ち北極の位置から大きくずれており、その楕円率が1から大きく低下し得ることが分かる。
【0017】
第二に、水晶板の位相差Γは、上述した板厚tとの関係式に基づき、板厚tをその発振周波数で制御することによって調整される。従って、板厚tの製造誤差は、そのまま位相差の誤差となる。例えば、Yカット水晶板で0.5μmの誤差はリタデーションで約3°の誤差になる。2枚の水晶波長板の板厚を双方共に高精度に製造しかつ組み合わせて用いることは非常に困難であり、かつ高価格になる。
【0018】
このように、第1,第2波長板の光学軸の製造誤差及び貼合せ工程の組立誤差と、各波長板の位相差の製造誤差とが加重的に作用することによって、積層1/4波長板の楕円率はより低下する。波長板同士の貼合せ誤差は、それらの光学軸の向きをX線装置等で確認しながら正確に行うことにより解消可能であるが、量産性に欠け、製造コストを増大させるという問題がある。
【0019】
本願発明者らは、実際にこれらの誤差が積層1/4波長板の楕円率にどの程度の影響を及ぼすかについて、具体的にシミュレーションを行った。図21は、市販のDVD規格の光ディスク記録再生装置に搭載する光ピックアップ装置で使用する波長660nmの積層1/4波長板において、第1波長板の位相差をΓ1=180°+7×360°=2700°、光学軸方位角をθ1=45°−2°=43°、第2波長板の位相差をΓ2=90°+7×360°=2610°、光学軸方位角をθ2=135°+2°=137°とした場合の楕円率の変化を、波長λ=620〜700nmの範囲で示している。同図から、使用波長範囲λ=640〜680nmの大部分で楕円率が目標基準値の0.85を下回っていることが分かる。
【0020】
図22は、同じくDVD規格の光ピックアップ装置に使用される波長660nmの積層1/4波長板において、第1波長板の光学軸方位角をθ1=45°−2°=43°、第2波長板の光学軸方位角をθ2=135°+2°=137°とし、第1波長板の位相差をΓ1=180°+7×360°=2700°を中心に±180°の範囲で変化させた場合の楕円率の変化を、波長λ=620〜700nmの範囲で示している。尚、第2波長板の位相差はΓ2=Γ1−90°である。同図から、第1波長板の位相差Γ1に拘わらず、使用波長範囲λ=640〜680nmで楕円率が不安定で、目標基準値の0.85を下回る範囲が常に存在することが分かる。
【0021】
図23は、市販のブルーレイ規格の光ディスク記録再生装置に搭載する光ピックアップ装置で使用する波長405nmの積層1/4波長板において、第1波長板の位相差をΓ1=180°+9×360°=3420°、光学軸方位角をθ1=45°−2°=43°、第2波長板の位相差をΓ2=90°+9×360°=3330°、光学軸方位角をθ2=135°+2°=137°とした場合の楕円率の変化を、波長λ=375〜435nmの範囲で示している。同図から、使用波長範囲λ=395〜415nmの大部分で楕円率が目標基準値の0.9を下回っていることが分かる。
【0022】
図24は、同じくブルーレイ規格の光ピックアップ装置に使用される波長405nmの積層1/4波長板において、第1波長板の光学軸方位角をθ1=45°−2°=43°、第2波長板の光学軸方位角をθ2=135°+2°=137°とし、第1波長板の位相差をΓ1=180°+9×360°=3420°を中心に±180°の範囲で変化させた場合の楕円率の変化を、波長λ=375〜435nmの範囲で示している。尚、第2波長板の位相差はΓ2=Γ1−90°である。同図から、第1波長板の位相差Γ1に拘わらず、使用波長範囲λ=395〜415nmで楕円率が不安定で、目標基準値の0.9を下回る範囲が常に存在することが分かる。
【0023】
本発明は、上述した従来の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、光学的一軸性結晶材料からなる第1波長板と第2波長板とを、それらの光学軸が互いに90°の角度で交差するように配置した積層1/4波長板において、各波長板の位相差及び光学軸の製造誤差と2枚の波長板の貼合せ誤差とによる楕円率の加重的な劣化を改善して、高い楕円率の偏光状態を実現すると共に、製造コストの低減化及び量産性の向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上述したように、水晶波長板の光学軸方位角において、製造上±3°程度の誤差は避けられない公差と考えられる。これに対し、水晶波長板の位相差は、上述したようにその板厚で決定されるから、比較的高い精度で制御することが可能である。そこで、本願発明者らは、第1及び/又は第2波長板の位相差を適当に設定することによって、積層1/4波長板の楕円率を改善できないかを検討した。
【0025】
本願発明者らは、積層1/4波長板において、第1波長板の位相差をΓ1=360°+n×360°(但し、n:非負整数)とし、かつ第2波長板の位相差をΓ2=Γ1−90°(又は270°)とすることにより、第1波長板の光学軸方位角θ1の製造誤差即ちずれを解消し得ることを見い出した。これを図1のポアンカレ球を用いて説明する。同図は、ポアンカレ球をS3軸即ち北極の方向から見たものである。
【0026】
図20の場合と同様に、第1及び第2波長板の光学軸方位角θ1、θ2にそれぞれ誤差±Δθ1,±Δθ2が生じた場合を考える。入射光の基準点をP0=(1,0,0)として、S1軸から2θ1=90°±2Δθ1回転した位置に、それぞれ第1波長板の回転軸R1+、R1−を設定する。同様に、第2波長板の回転軸R2+、R2−をS1軸から2θ2=270°±2Δθ2回転した位置に設定する。
【0027】
先ず、回転軸R1+を中心に基準点P0を位相差Γ1だけ右に回転させると、球上における前記第1波長板の出射光の位置P1は、必ず元の基準点P0の位置に戻る。同様に、回転軸R1−を中心に基準点P0を位相差Γ1だけ右に回転させる場合にも、球上における前記第1波長板の出射光の位置P1は、必ず元の基準点P0の位置に戻る。次に、回転軸R2+又はR2−を中心に点P1を位相差Γ2だけ右に回転させると、その球上の点P2+又はP2−がそれぞれ前記第2波長板の出射光の位置、即ち積層1/4波長板の出射光の位置となる。点P2+、P2−は、位置P1を通って回転軸R2+、R2−に直交する直線と回転軸R2+、R2−との交点である。従って、積層1/4波長板の出射光の偏光状態即ち楕円率は、第1波長板の光学軸方位角のずれ量に拘わらず、第2波長板の光学軸方位角の精度によって決定されることが分かる。
【0028】
実際には、前記第1波長板の位相差Γ1にも製造誤差が生じるから、その大きさに対応して点P1の位置が、図1において基準点P0を通って回転軸R1+、R1−に直交する直線上を移動する。この移動による偏光状態の変化は、実際の位相差Γ1の値に対応して前記第2波長板の位相差Γ2をその差が常に90°を維持するように設定することによって、解消し得ると考えられる。本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。
【0029】
本発明によれば、上記目的を達成するために、光学的一軸性結晶材料からなる第1波長板と第2波長板とを有し、それら第1、第2波長板を光の入射方向から順にかつそれらの光学軸が互いに90°の角度で交差するように配置した積層1/4波長板であって、第1波長板の位相差をΓ1=360°+γ+n×360°(但し、−90°≦γ≦+90°、n:非負整数)、第2波長板の位相差をΓ2=Γ1−90°又は270°とし、かつ第1波長板の光学軸の方位角をθ1=45°+k1、第2波長板の光学軸の方位角をθ2=135°+k2として、出射光の偏光状態が所望の楕円率を満足するように、第1波長板の位相差の許容偏差γ、第1及び第2波長板の光学軸方位角の許容偏差k1、k2を決定した積層1/4波長板が提供される。
【0030】
第1波長板は、その光学軸方位角の製造誤差が積層1/4波長板の楕円率に全く影響しないので、比較的低い精度で安価に製造することができる。そのようにした場合も、前記積層1/4波長板は、第2波長板の光学軸方位角θ2及び位相差Γ2の精度を高いレベルに確保することによって、従来よりも容易に所望の高い楕円率を実現できる。しかも、第1及び第2波長板を従来と同様に機械的な手法でかつ従来と同程度の位置決め精度で配置することができるので、製造コストの低減及び量産性の向上を図ることができる。尚、出射光の偏光状態は、第2波長板の位相差がΓ2=Γ1−90°の場合にポアンカレ球上で北極の位置にくるが、Γ2=Γ1−270°の場合にはポアンカレ球上で南極の位置にくることになる。
【0031】
或る実施例では、前記積層1/4波長板の中心波長が、一般にDVD規格の光ピックアップ装置に使用される660nm帯であり、第1波長板及び第2波長板の光学軸方位角をそれぞれ45°±4°、135°±4°の範囲に設定することにより、0.85以上の高い楕円率を達成することができる。
【0032】
別の実施例では、前記積層1/4波長板の中心波長が、一般にブルーレイ規格の光ピックアップ装置に使用される405nm帯であり、第1波長板及び第2波長板の光学軸方位角をそれぞれ45°±2.5°、135°±2.5°の範囲に設定することにより、0.9以上の高い楕円率を達成することができる。
【0033】
更に別の実施例によれば、第1及び第2波長板が例えば従来から多用されているYカット又はXカットの水晶板により形成され、水晶の旋光能の影響を受けないので、積層1/4波長板の楕円率を制御することが比較的容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下に、添付図面を参照しつつ、本発明の好適な実施例を詳細に説明する。
図2に示すように、本実施例の積層1/4波長板1は、Yカット(又はXカット)水晶板のような光学的一軸性結晶材料からなる第1波長板2と第2波長板3とを有する。第1波長板2と第2波長板3とは、光の入射方向Liから出射方向Loに順に、かつそれらの結晶光学軸4,5が互いに90°の角度で交差するように貼り合わせる。
【0035】
第1波長板2は、位相差をΓ1=360°+γ+n×360°(但し、−90°≦γ≦+90°、n:非負整数)、光学軸方位角をθ1=45°+k1に設計する。第2波長板3は、位相差をΓ2=Γ1−90°、光学軸方位角をθ2=135°+k2に設計する。ここで、γは第1波長板の位相差の許容偏差、k1及びk2はそれぞれ第1及び第2波長板2,3の光学軸方位角の許容偏差である。γ、k1及びk2は、積層1/4波長板1の出射光の偏光状態が所望の楕円率を満足するように決定する。ここで、光学軸方位角θ1は、前記積層1/4波長板に入射する光の直線偏光の偏光面と第1波長板の結晶光学軸4とがなす角度であり、光学軸方位角θ2は、前記直線偏光の偏光面と前記第2波長板3の結晶光学軸5とがなす角度である。
【0036】
図1のポアンカレ球において、楕円率1の点S3を中心に所望の楕円率η0を半径とする円を描いたとき、その円内に出射光の位置P2+及びP2−が常にあるように、γ、k1及びk2を設定する。位相差Γ1の許容偏差γが0の場合、点P1の位置は基準点P0に一致する。このとき、基準点P0を通ってη0を半径とする前記円に外接する直線とS1軸との間に画定される角度が2k2である。この光学軸方位角θ2の許容偏差k2の範囲内で、位置P2+及びP2−は確実にη0を半径とする前記円内に存在し、所望の楕円率η0を満足する。
【0037】
点P1の位置は、位相差Γ1の許容偏差γに対応して、基準点P0を通って回転軸R1+又はR1−に直交する直線上を移動する。このとき、基準点P0から移動した点P1を通ってη0を半径とする前記円に外接する直線に直交する回転軸R2+又はR2−とS2軸との間に画定される角度が2k2である。位相差Γ1に製造誤差がある場合にも、この光学軸方位角θ2の許容偏差k2の範囲内で、位置P2+及びP2−は確実にη0を半径とする前記円内に存在し、所望の楕円率η0を満足する。許容偏差k2が小さいほど、許容偏差γを大きくとれることが分かる。
【0038】
このように本発明の積層1/4波長板1は、第1波長板2の光学軸方位角θ1にずれがあっても、それが出射光の偏光状態即ち楕円率に直接影響することはなく、第2波長板3の光学軸方位角θ2及び位相差Γ2の精度を高レベルで確保することによって、第1波長板2の板厚即ち位相差に或る程度の幅即ち許容偏差を持たせながら、所望の高い楕円率を容易に実現することができる。従って、第1波長板2は、従来よりも比較的低い精度で安価に製造され、従来と同様に機械的な手法で第2波長板3と位置決めして貼り合わせることができるので、製造コストを低減することができる。
【0039】
本実施例の積層1/4波長板1は、その中心波長を660nmとして、市販のDVD規格の光ピックアップ装置に使用することができる。この場合、第1波長板2及び第2波長板3の各光学軸方位角θ1、θ2の許容偏差k1、k2を±4°に設定することにより、所望の0.85以上の高い楕円率が得られる。以下に、具体的なシミュレーション結果を示して説明する。
【0040】
図3は、中心波長660nmの積層1/4波長板において、第1波長板の位相差をΓ1=360°+γ+7×360°=2880°+γ、第2波長板の位相差をΓ2=Γ1−90°=2790°+γとした場合に、光学軸方位角θ1,θ2のずれ量=±0°〜±6°について位相差Γ1の許容偏差γに対する楕円率の変化を示している。同図から、光学軸方位角θ1,θ2の許容偏差k1、k2を±4°にかつ位相差Γ1の許容偏差γ=±90°に設定すると、常に目標基準値0.85以上の楕円率を実現し得ることが確認された。
【0041】
図4(A)は、同じく中心波長660nmの積層1/4波長板において、光学軸方位角θ1,θ2のずれ量をそれぞれ−2°,+2°とした場合に位相差Γ1=2880°±20°の範囲で波長に対する楕円率の変化を示している。この場合、使用波長範囲λ=660±15nmにおいて常に目標基準値0.85以上の楕円率を実現し得ることが分かる。更に(B)図は、位相差Γ1が−側に2880°−64°〜−55°まで大きく振れた場合の楕円率の変化を、(C)図は、位相差Γ1が+側に2880°+53°〜+62°まで大きく振れた場合の楕円率の変化をそれぞれ詳細に示している。これらの図から、目標基準値0.85以上の楕円率を達成し得る限界となる位相差Γ1の許容偏差γが判断される。
【0042】
図5(A)は、同じく中心波長660nmの積層1/4波長板において、光学軸方位角θ1,θ2のずれ量をそれぞれ−3°,+3°とした場合に位相差Γ1=2880°±40°の範囲で波長に対する楕円率の変化を示している。この場合にも、使用波長範囲λ=660±15nmにおいて常に目標基準値0.85以上の楕円率を実現し得ることが分かる。更に(B)図は、位相差Γ1の−側即ち2880°−40°〜−35°における楕円率の変化を、(C)図は位相差Γ1が上記範囲から+側に2880°+40°〜+45°まで振れた場合の楕円率の変化をそれぞれ詳細に示している。これらの図から、目標基準値0.85以上の楕円率を達成し得る限界となる位相差Γ1の許容偏差γが判断される。
【0043】
図6は、同じく中心波長660nmの積層1/4波長板において、光学軸方位角θ1,θ2のずれ量をそれぞれ−4°,+4°とした場合に位相差Γ1=2880°±40°の範囲で波長に対する楕円率の変化を示している。同図から、この場合にも、使用波長範囲λ=660±15nmにおいて常に目標基準値0.85以上の楕円率を実現し得ることが分かる。
【0044】
図7は、同じく中心波長660nmの積層1/4波長板において、光学軸方位角θ1,θ2のずれ量をそれぞれ−5°,+5°とした場合に位相差Γ1=2880°±40°の範囲で波長に対する楕円率の変化を示している。同図から、この場合には、使用波長範囲λ=660±15nmにおいて、楕円率が目標基準値0.85を下回る範囲が常に存在することが分かる。
【0045】
図8は、同じく中心波長660nmの積層1/4波長板において、光学軸方位角θ1,θ2のずれ量をそれぞれ−2°とした場合に位相差Γ1=2880°±20°の範囲で波長に対する楕円率の変化を示している。同図から、この場合にも、使用波長範囲λ=660±15nmを含む広範な範囲において、常に目標基準値0.85を大きく上回る高い楕円率を実現し得ることが分かる。
【0046】
これらのシミュレーション結果を総合すると、光学軸方位角θ1,θ2のずれ量±1°〜±5°に関して使用波長範囲λ=660±15nmにおいて目標基準値0.85以上の楕円率を達成し得る位相差Γ1の範囲、即ちその許容偏差γを以下の表1にまとめることができる。同表において、θずれ量は光学軸方位角θ1、θ2のずれ量である。
【0047】
【表1】
【0048】
また、本実施例の積層1/4波長板1は、その中心波長を405nmとして、市販のブルーレイ規格の光ピックアップ装置に使用することができる。この場合、第1波長板2及び第2波長板3の各光学軸方位角θ1、θ2の許容偏差k1、k2を±2.5°に設定することにより、所望の0.9以上の高い楕円率が得られる。同様に、具体的なシミュレーション結果を示して説明する。
【0049】
図9は、中心波長405nmの積層1/4波長板において、第1波長板の位相差をΓ1=360°+γ+9×360°=3600°+γ、第2波長板の位相差をΓ2=Γ1−90°=3510°+γとした場合に、光学軸方位角θ1,θ2のずれ量=±0°〜±5°について位相差Γ1の許容偏差γに対する楕円率の変化を示している。同図から、光学軸方位角θ1,θ2の許容偏差k1、k2を±3°にかつ位相差Γ1の許容偏差γ=±90°に設定すると、常に目標基準値0.9以上の楕円率を実現し得ることが確認された。
【0050】
図10(A)は、同じく中心波長405nmの積層1/4波長板において、光学軸方位角θ1,θ2のずれ量をそれぞれ−1°,+1°とした場合に、位相差Γ1が3600°−79°〜−70°まで−側に大きく振れた場合の楕円率の変化を示している。図10(B)は、位相差Γ1が3600°+61°〜+70°まで+側に大きく振れた場合の楕円率の変化を示している。同図から、この場合には、使用波長範囲λ=405±8nmにおいて常に目標基準値0.9以上の楕円率を実現し得ることが分かる。
【0051】
図11は、同じく中心波長405nmの積層1/4波長板において、光学軸方位角θ1,θ2のずれ量をそれぞれ−1.5°,+1.5°とした場合に位相差Γ1=3600°±40°の範囲で波長に対する楕円率の変化を示している。同図から、この場合、使用波長範囲λ=405±8nmにおいて常に目標基準値0.9以上の楕円率を実現し得ることが分かる。
【0052】
図12(A)は、同じく中心波長405nmの積層1/4波長板において、光学軸方位角θ1,θ2のずれ量をそれぞれ−2°,+2°とした場合に位相差Γ1=3600°±20°の範囲で波長に対する楕円率の変化を示している。この場合にも、使用波長範囲λ=405±8nmにおいて常に目標基準値0.9以上の楕円率を実現し得ることが分かる。更に(B)図は、位相差Γ1の−側即ち3600°−16°〜−10°における楕円率の変化を、(C)図は位相差Γ1の+側即ち3600°+5°〜+12°における楕円率の変化をそれぞれ詳細に示している。これらの図から、目標基準値0.9以上の楕円率を達成し得る限界となる位相差Γ1の許容偏差γが判断される。
【0053】
図13は、同じく中心波長405nmの積層1/4波長板において、光学軸方位角θ1,θ2のずれ量をそれぞれ−2.5°,+2.5°とした場合に位相差Γ1=3600°−20°〜+10°の範囲で波長に対する楕円率の変化を示している。同図から、この場合にも、使用波長範囲λ=405±8nmにおいて常に目標基準値0.9以上の楕円率を実現し得ることが分かる。
【0054】
図14は、同じく中心波長405nmの積層1/4波長板において、光学軸方位角θ1,θ2のずれ量をそれぞれ−3°,+3°とした場合に位相差Γ1=3600°±10°の範囲で波長に対する楕円率の変化を示している。同図から、この場合には、使用波長範囲λ=405±8nmにおいて目標基準値0.9以上の楕円率を実現し得ないことが確認された。
【0055】
図15は、同じく中心波長405nmの積層1/4波長板において、光学軸方位角θ1,θ2のずれ量をそれぞれ−2°とした場合に位相差Γ1=3600°±10°の範囲で波長に対する楕円率の変化を示している。同図から、この場合にも、使用波長範囲λ=405±8nmを含む広範な範囲において、常に目標基準値0.9を大きく上回る高い楕円率を実現し得ることが分かる。
【0056】
これらのシミュレーション結果を総合すると、光学軸方位角θ1,θ2のずれ量±1°〜±3°に関して使用波長範囲λ=405±8nmにおいて目標基準値0.9以上の楕円率を達成し得る位相差Γ1の範囲、即ちその許容偏差γを以下の表2にまとめることができる。
【0057】
【表2】
【0058】
図16は、本発明の積層1/4波長板を適用した光ピックアップ装置の実施例を示している。この光ピックアップ装置20は、例えばBlu-ray Disc(商標)等の光ディスク装置の記録再生に使用するためのもので、例えば波長405nmの青紫色光であるレーザ光を放射するレーザダイオードからなる光源21を有する。光ピックアップ装置20は、光源21からのレーザ光を回折して3ビーム化する回折格子22と、該回折格子を透過したレーザ光をP偏光成分とS偏光成分とに分離して透過又は反射する偏光ビームスプリッタ23と、該偏光ビームスプリッタに反射されたレーザ光を平行光にするコリメートレンズ24と、該コリメートレンズを透過したレーザ光を光ディスク25に向けて反射するミラー26と、該ミラーにより反射された直線偏光のレーザ光を円偏光に変換する1/4波長板27と、該1/4波長板を透過したレーザ光を集光する対物レンズ28と、光ディスク25から反射したレーザ光を検出する光検出器29とを備える。更に光ピックアップ装置20は、光源21から出射して偏光ビームスプリッタ23を透過したレーザ光を検出するモニタ用光検出器30を有する。
【0059】
光ピックアップ装置20の動作を以下に説明する。光源21から出射した直線偏光のレーザ光は、3ビーム法によるトラッキング制御のために回折格子22により3ビームに分離された後、S偏光成分が偏光ビームスプリッタ23で反射され、コリメートレンズ24により平行光となる。平行光のレーザ光はミラー26で全反射され、1/4波長板27により直線偏光から円偏光に変換され、対物レンズ28で集光されて、光ディスク25に形成した信号記録層のピットに照射される。該ピットで反射されたレーザ光は前記対物レンズを透過し、1/4波長板27により円偏光から直線偏光に変換され、ミラー26で全反射されてコリメートレンズ24及び偏光ビームスプリッタ23を透過し、光検出器29に入射して検出される。これにより、前記光ディスクに記録されている信号の読み取り動作が行われる。また、光源21から出射したレーザ光のP偏光成分は、偏光ビームスプリッタ23を透過してモニタ用光検出器30に入射して検出される。この検出出力によって、前記レーザーダイオードから出射するレーザ光の出力を制御する。
【0060】
前記光ピックアップ装置は、1/4波長板27に本発明の積層1/4波長板を使用する。これによって、直線偏光のレーザ光を、水晶の旋光能の影響を受けることなく、高い楕円率の実質的な円偏光に変換することができる。その結果、より高記録密度の光ディスク記録再生装置に適した光ピックアップ装置を実現することができる。
【0061】
図17は、本発明の積層1/4波長板を適用した反射型液晶表示装置の一例として、LCOS型液晶プロジェクタの実施例を示している。この液晶プロジェクタ40は、光源41と、第1及び第2のインテグレータレンズ42a、42bと、偏光変換素子43と、コールドミラー44と、色分解光学系を構成する第1及び第2のダイクロイックミラー45a、45bと、折り返しミラー46とを備える。更に前記プロジェクタは、赤色用、緑色用及び青色用の偏光ビームスプリッタ47a、47b、47cと、赤色用、緑色用及び青色用の1/4波長板48a、48b、48cと、赤色用、緑色用及び青色用のLCOS(Liquid Crystal on Silicon)からなる反射型液晶表示素子49a、49b、49cと、色合成光学系を構成するクロスプリズム50と、投写レンズ51と、スクリーン52とを備える。
【0062】
液晶プロジェクタ40の動作を以下に説明する。光源41から出射したランダム光は、第1のインテグレータレンズ42aにより平行光となり、PS変換素子43によりP偏光成分がS偏光に変換されかつS偏光はそのまま透過し、更に第2のインテグレータレンズ42bにより平行光となり、コールドミラー44に入射する。該コールドミラーで反射された光は、緑色光及び青色光が第1のダイクロイックミラー45aにより反射され、赤色光はこれを透過して、折り返しミラー46で反射される。前記赤色光はS偏光であることにより偏光ビームスプリッタ47aの偏光膜で反射され、1/4波長板48aを透過し、LCOS49aに入射して反射される。このとき前記赤色光は変調され、再度1/4波長板48aを透過してP偏光に変換され、偏光ビームスプリッタ47aの偏光膜を透過してクロスプリズム50に入射する。
【0063】
前記第1のダイクロイックミラーで反射された緑色光は、第2のダイクロイックミラー45bで反射され、S偏光であることにより偏光ビームスプリッタ47bの偏光膜で反射され、1/4波長板48bを透過し、LCOS49bに入射して反射される。このとき前記緑色光は変調され、再度1/4波長板48bを透過してP偏光に変換され、偏光ビームスプリッタ47bの偏光膜を透過してクロスプリズム50に入射する。同様に前記第1のダイクロイックミラーで反射された青色光は、第2のダイクロイックミラー45bを透過し、S偏光であることにより偏光ビームスプリッタ47で反射され、1/4波長板48cを透過し、LCOS49cに入射して反射される。このとき前記青色光は変調され、再度1/4波長板48cを透過してP偏光に変換され、偏光ビームスプリッタ47cを透過して、クロスプリズム50に入射する。
【0064】
クロスプリズム50は、入射した赤色光と青色光とを反射され、緑色光を透過させるように構成されている。従って、前記クロスプリズムに入射した赤色光、緑色光及び青色光は色合成され、投写レンズ51を介してスクリーン52上に投影され、カラー映像が得られる。
【0065】
前記液晶プロジェクタは、赤緑青各色用の1/4波長板48a、48b、48cにそれぞれ本発明の積層1/4波長板を使用する。これによって、直線偏光のレーザ光を、水晶の旋光能の影響を受けることなく、高い楕円率の実質的な円偏光に変換することがでる。その結果、従来よりもコントラストを改善した反射型液晶表示装置を実現することができる。
【0066】
本発明は、上記実施例に限定されるものでなく、その技術的範囲内で様々な変形又は変更を加えて実施することができる。例えば、第2波長板3の位相差をΓ2=Γ1−270°に設定することができる。この場合、積層1/4波長板の出射光は、ポアンカレ球上で南極の位置になり、その位相差は波長依存性を有するので、波長に関する楕円率の変化は傾きが上記実施例の場合よりも大きくなる。また、本発明は、第1及び第2波長板を例えば方解石のような水晶以外の光学的一軸性結晶材料で形成することができ、その場合にも同様の作用効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明による積層1/4波長板の偏光状態をポアンカレ球で説明する図。
【図2】本発明による積層1/4波長板の実施例を光の出射方向から見た斜視図。
【図3】中心波長660nmの積層1/4波長板において、θ1,θ2のずれ量=±0°〜±6°について位相差Γ1の許容偏差γに対する楕円率の変化を示す線図。
【図4】(A)図は積層1/4波長板のθ1,θ2のずれ量が−2°,+2°の場合に波長に対する楕円率の変化を示す線図、(B)図は位相差Γ1が−側に大きく振れた範囲で楕円率の変化を示す線図、(C)図は位相差Γ1が+側に大きく振れた範囲で楕円率の変化を示す線図。
【図5】(A)図は積層1/4波長板のθ1,θ2のずれ量が−3°,+3°の場合に波長に対する楕円率の変化を示す線図、(B)図は位相差Γ1の−側での楕円率の変化を示す線図、(C)図は位相差Γ1が+側に振れた範囲で楕円率の変化を示す線図。
【図6】積層1/4波長板のθ1,θ2のずれ量が−4°,+4°の場合に波長に対する楕円率の変化を示す線図。
【図7】積層1/4波長板のθ1,θ2のずれ量が−5°,+5°の場合に波長に対する楕円率の変化を示す線図。
【図8】積層1/4波長板のθ1,θ2のずれ量が−2°の場合に波長に対する楕円率の変化を示す線図。
【図9】中心波長405nmの積層1/4波長板において、θ1,θ2のずれ量=±0°〜±5°について位相差Γ1の許容偏差γに対する積層1/4波長板の楕円率の変化を示す線図。
【図10】(A)図は積層1/4波長板のθ1,θ2のずれ量が−1°,+1°の場合に位相差Γ1の−側の範囲で波長に対する楕円率の変化を示す線図、(B)図は位相差Γ1の+側の範囲で楕円率の変化を示す線図。
【図11】積層1/4波長板のθ1,θ2のずれ量が−1.5°,+1.5°の場合に波長に対する楕円率の変化を示す線図。
【図12】(A)図は積層1/4波長板のθ1,θ2のずれ量が−2°,+2°の場合に波長に対する楕円率の変化を示す線図、(B)図は位相差Γ1の−側での楕円率の変化を示す線図、(C)図は位相差Γ1の+側での楕円率の変化を示す線図。
【図13】積層1/4波長板のθ1,θ2のずれ量が−2.5°,+2.5°の場合に波長に対する楕円率の変化を示す線図。
【図14】積層1/4波長板のθ1,θ2のずれ量が−3°,+3°の場合に波長に対する楕円率の変化を示す線図。
【図15】積層1/4波長板のθ1,θ2のずれ量が−2°の場合に波長に対する楕円率の変化を示す線図。
【図16】本発明の1/4波長板を用いた光ピックアップ装置の実施例の構成を示す概略図。
【図17】本発明の1/4波長板を用いたLCOS型液晶プロジェクタの実施例の構成を示す概略図。
【図18】従来例の積層1/4波長板を光の出射方向から見た斜視図。
【図19】従来の理想的な積層1/4波長板の偏光状態をポアンカレ球で説明する図。
【図20】従来の積層1/4波長板の光学軸方位角に誤差がある場合の偏光状態をポアンカレ球で説明する図。
【図21】従来の波長660nmの積層1/4波長板において、光学軸方位角の誤差による楕円率の変化を示す線図。
【図22】従来の波長660nmの積層1/4波長板において、光学軸方位角の誤差による楕円率の変化を第1波長板の位相差の変動に関連して示す線図。
【図23】従来の波長405nmの積層1/4波長板において、光学軸方位角の誤差による楕円率の変化を示す線図。
【図24】従来の波長405nmの積層1/4波長板において、光学軸方位角の誤差による楕円率の変化を第1波長板の位相差の変動に関連して示す線図。
【符号の説明】
【0068】
1,11…積層1/4波長板、2,12…第1波長板、3,13…第2波長板、4,5,14,15…光学軸、27,48a,48b,48c…1/4波長板、20…光ピックアップ装置、21,41…光源、22…回折格子、23,47a,47b,47c…偏光ビームスプリッタ、24…コリメートレンズ、25…光ディスク、26…ミラー、28…対物レンズ、29…光検出器、30…モニタ用光検出器、40…液晶プロジェクタ、42a,42b…インテグレータレンズ、43…偏光変換素子、44…コールドミラー、45a,45b…ダイクロイックミラー、46…折り返しミラー、49a,49b,49c…反射型液晶表示素子、50…クロスプリズム、51…投写レンズ、52…スクリーン。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学的一軸性結晶材料からなる第1波長板と第2波長板とを有し、前記第1波長板と前記第2波長板とを光の入射方向から順にかつそれらの光学軸が互いに90°の角度で交差するように配置した積層1/4波長板であって、
前記第1波長板の位相差をΓ1=360°+γ+n×360°(但し、−90°≦γ≦+90°、n:非負整数)、前記第2波長板の位相差をΓ2=Γ1−90°又は270°とし、かつ前記第1波長板の光学軸の方位角をθ1=45°+k1、前記第2波長板の光学軸の方位角をθ2=135°+k2として、出射光の偏光状態が所望の楕円率を満足するように、前記第1波長板の位相差の許容偏差γ、前記第1及び第2波長板の光学軸方位角の許容偏差k1、k2が決定されることを特徴とする積層1/4波長板。
【請求項2】
中心波長が660nmであり、前記第1波長板及び前記第2波長板の各光学軸方位角の許容偏差k1、k2がそれぞれ±4°であることを特徴とする請求項1記載の積層1/4波長板。
【請求項3】
中心波長が405nmであり、前記第1波長板及び前記第2波長板の各光学軸方位角の許容偏差k1、k2がそれぞれ±2.5°であることを特徴とする請求項1記載の積層1/4波長板。
【請求項4】
前記第1及び第2波長板が水晶板からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載の積層1/4波長板。
【請求項1】
光学的一軸性結晶材料からなる第1波長板と第2波長板とを有し、前記第1波長板と前記第2波長板とを光の入射方向から順にかつそれらの光学軸が互いに90°の角度で交差するように配置した積層1/4波長板であって、
前記第1波長板の位相差をΓ1=360°+γ+n×360°(但し、−90°≦γ≦+90°、n:非負整数)、前記第2波長板の位相差をΓ2=Γ1−90°又は270°とし、かつ前記第1波長板の光学軸の方位角をθ1=45°+k1、前記第2波長板の光学軸の方位角をθ2=135°+k2として、出射光の偏光状態が所望の楕円率を満足するように、前記第1波長板の位相差の許容偏差γ、前記第1及び第2波長板の光学軸方位角の許容偏差k1、k2が決定されることを特徴とする積層1/4波長板。
【請求項2】
中心波長が660nmであり、前記第1波長板及び前記第2波長板の各光学軸方位角の許容偏差k1、k2がそれぞれ±4°であることを特徴とする請求項1記載の積層1/4波長板。
【請求項3】
中心波長が405nmであり、前記第1波長板及び前記第2波長板の各光学軸方位角の許容偏差k1、k2がそれぞれ±2.5°であることを特徴とする請求項1記載の積層1/4波長板。
【請求項4】
前記第1及び第2波長板が水晶板からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載の積層1/4波長板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2010−107912(P2010−107912A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−282531(P2008−282531)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】
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