説明

空気入りタイヤの製造方法および空気入りタイヤ

【課題】特にタイヤの使用初期の氷上制動性能を向上させた空気入りタイヤの製造方法および、空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】トレッドゴムを形成する未加硫押し出しゴムシート1を加硫成型するに当たり、未加硫押し出しゴムシート1の一部をマスキングシート3で覆いトレッド踏面11の一部に、電子線照射装置2から電子線照射をした後に、加硫成型してトレッドゴムの接地面を形成することを特徴とし、好ましくはトレッドゴムに発泡ゴムを採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に氷上性能を向上させる空気入りタイヤの製造方法および空気入りタイヤを提案するものである。
【背景技術】
【0002】
氷雪路面上を走行するための空気入りタイヤとしては、いわゆるスタッドレスタイヤが多く用いられる。
このようなタイヤは、例えば、トレッドゴムに充填剤や気泡を混入して、トレッドゴムの表面に微細な凹凸が形成して、引っ掻き摩擦の向上や氷上の水を除去して氷上のグリップ性能を向上させる技術が一般的である。
【0003】
また、特許文献1には、ブロックのエッジ部分の剛性を高めるために、タイヤの加硫後にトレッド面を電子線で加速電圧40〜500kVで、照射線量30〜55kGyで照射処理する技術が提案されている。
【0004】
しかるに、特許文献1に記載のタイヤは、加硫後に電子線照射を行うため、所望の剛性や十分な氷上性能が得られず、更なる氷上性能を向上させる技術が望まれていた。
また、トレッドゴムの表面にポリマー被覆を形成することが多く、初期走行時には充填剤や発泡剤が露出することないため、その充填剤や発泡剤の効果が小さく、更なる氷上性能の向上が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−233020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、特にタイヤの使用初期の氷上制動性能を向上させた空気入りタイヤの製造方法および、空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明にかかる空気入りタイヤの製造方法は、トレッドゴムを形成する未加硫ゴムを加硫成型するに当たり、未加硫ゴムの一部に、電子線照射をした後に、加硫成型してトレッドゴムの接地面を形成する。
【0008】
このような空気入りタイヤの製造方法においてより好ましくは、電子線照射により、前記未加硫ゴムを硬化させる。
また好ましくは、前記トレッドゴムを形成する押出ゴムシートの一部に、電子線照射をする。
【0009】
そしてまた好ましくは、電子線の照射線量を50kGy以上とする。
好ましくは、前記トレッドゴムが発泡ゴムである。
【0010】
以上のような製造方法で製造された空気入りタイヤが好ましい。
【0011】
また好ましくは、前記トレッドゴムの、電子線照射部の加硫後のJIS A硬度を、電子線非照射部の加硫後のJIS A硬度より5以上とする。
ここで、ゴム硬度とは、JIS K6253に従うデュロメータ硬さ試験でタイプA試験機を用いて、20度の室温条件下で測定される硬度とする。
【0012】
そしてまた好ましくは、前記電子線照射部のトレッド周方向長さが、前記非照射部のトレッド周方向長さに対して1〜5倍の範囲とし、前記電子線照射部をトレッド周方向に0.05〜0.2mmの範囲で配置する。
【0013】
ここで、上記長さ等は、タイヤが生産され、使用される地域に有効な産業規格であって、日本ではJATMA(日本自動車タイヤ協会) YEAR BOOK、欧州ではETRTO(European Tyre and Rim Technical Organisation) STANDARDS MANUAL、米国ではTRA(THE TIRE and RIM ASSOCIATION INC.)YEAR BOOK等に規定されたリムに、タイヤを組み付けて、JATMA等の規格にタイヤサイズに応じて規定された、最高空気圧を充填した状態で、測定したものとする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る空気入りタイヤの製造方法では、未加硫ゴムの一部に、電子線照射をした後に、加硫を施してトレッドゴムの接地面を形成することで、トレッドゴムの接地面を形成する微細領域を硬化させることが可能となるため、未加硫ゴムのゴム成分の結合を切断した後に加硫することになり、トレッドゴム接地面の電子線の照射部および非照射部で硬度の異なる範囲を形成することができ、特にその硬度の異なる範囲の界面で、氷雪路面を引っ掻く効果を向上させることができる。その結果、特に氷上駆動性能を飛躍的に向上させることができ、またトレッドゴムの表面にポリマー被覆が形成されていても初期の氷上性能を良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の空気入りタイヤの製造方法での電子線照射の一工程を示す概略側面図である。
【図2】本発明の空気入りタイヤの製造方法に用いることができる、トレッドゴムの部分展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図面を参照しながら本発明の空気入りタイヤの製造方法および空気入りタイヤを詳細に説明する。
【0017】
図1は本発明の空気入りタイヤの製造方法での電子線照射の一工程を示す概略側面図を示す。
図1において、1は未加硫ゴムである押出ゴムシートを、2は電子線照射装置、3はマスキングシートをそれぞれ示す。
まず、押し出したゴムシート1にマスキングシート3によりマスキングを施し、次いで、その押し出したゴムシート1に電子線照射装置2から電子線を照射する。そして、そのゴムシートを通常のタイヤと同様に成型して加硫を行い、製品タイヤを製造することができる。
【0018】
マスキングシート3には、規定の周期で空隙が形成しており、その空隙に位置する未加硫ゴムの領域にのみ電子線を照射し、その領域を予備加硫することができる。また、このマスキングシート3の空隙の間隔は変更することができ、変更することでトレッドゴムに所望のゴムの硬度差を付与させることができる。
マスキングシート以外にも、例えば未加硫ゴムに直接電子線をパルス的(断続的)に照射することによっても硬度差をつけることもできる。
【0019】
このような未加硫ゴムは、ゴムシート以外にも、押出トレッドやグリーンタイヤにも適用することができる。
【0020】
また好ましくは、電子線照射装置3の電子線の照射線量は50kGy以上、より好ましくは50〜220kGyとし、この構成により、ゴムに所望の氷上性能を付与することができる。
【0021】
すなわち、照射線量は50kGy以上にすることで、電子線が加硫ゴムの透過が十分に行えるため、高い剛性を得ることができ、220kGy以下にすることで、適度にゴムの内部まで電子線が透過するのでブロック全体が硬くならず、トレッド部の駆動性能を維持するとともに、未加硫ゴムの分子鎖の切断によるゴム劣化を抑えることができる。
【0022】
次に図2は、本発明の空気入りタイヤの製造方法で製造した空気入りタイヤの一の実施形態を示す、トレッドゴムの部分展開図であり、11はトレッドゴムの接地面を形成することになるトレッド踏面を示す。
【0023】
このトレッド踏面11を形成するトレッドゴムは、未加硫ゴムの一部に、電子線照射をした後に、加硫成型した電子線照射部12と、電子線非照射で加硫成型した電子線非照射部13からなり、好ましくは、電子線照射部12のトレッド周方向長さを、電子線非照射部13のトレッド周方向長さに対して1〜5倍の範囲とし、電子線照射部12をトレッド周方向に0.05〜0.2mmの範囲で、電子線照射部12と電子線非照射部13をトレッド周方向に交互に配置する。
【0024】
このタイヤにおいてより好ましくは、電子線非照射部13のトレッド周方向長さD2に対する、電子線照射部12のトレッド周方向長さD1の比D1/D2を1〜5の範囲とし、電子線照射部12をトレッド周方向長さD1に0.05〜0.2mmとすることで、電子線照射部12による氷雪路面の引っ掻き効果を向上させることができる。
【0025】
すなわち、D1/D2が1以上またはトレッド周方向長さD1が0.05mm以上にすることで、所望の範囲で氷雪路面を引っ掻くことができ、一方、D1/D2が5以下、または、トレッド周方向長さD1が0.2mm以下とすることで、接地性が悪化することなく、所望の氷上性能を得ることができ、特に、トレッド周方向全体にわたってトレッドゴムのゴム硬度が高い場合にはこの傾向がある。
【0026】
また好ましくは、トレッドゴムの、電子線照射部12の加硫後のJIS A硬度が、電子線非照射部13の加硫後のJIS A硬度より5以上、好ましくは10以上、より好ましくは10〜15とし、この構成により、タイヤの接地性の悪化を回避しつつ、タイヤ転動時に氷雪路面を引っ掻く効果を向上させることができる。
【0027】
すなわち、硬度が5以上にすることで、耐摩耗性に低減することなく、氷雪路面を引っ掻く効果を得ることができ、一方20以下にすることで、接地性が悪化することなく、氷雪路面の制動性能や駆動性能が向上させることができる。
【0028】
ところで、未加硫ゴムには天然ゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエン共重合ゴム等のジエン系ゴムを一種またはこれらの混合物を主体とするゴム組成物を用いることができ、より好ましくは不飽和結合を多く含むゴム組成物である。
【0029】
また未加硫ゴムには通常のタイヤに用いられる配合剤を用いることができ、カーボンブラックおよびシリカ等の無機充填剤、オイル、硫黄、亜鉛華、加硫促進剤が適宜配合される。
【0030】
そして、トレッドゴムは発泡ゴムであることが好ましく、このゴムによりトレッド表面の水を除水することができ、氷路面とトレッドゴムとの接地性を高めて、氷上性能を向上させることができる。
【実施例】
【0031】
次に、スタッドレスタイヤの市場のトレッドパターンで、195/65R15のサイズのタイヤを試作し、それぞれの諸元を、表1に示すように変化させた実施例タイヤ1〜5および、比較例タイヤ1〜3とのそれぞれにつき、氷上制動性能を評価した。
なお、実施例タイヤ1〜5は、電子線照射の後に加硫して形成したものであり、照射線量を変えて、照射部/非照射部のゴム硬度を変更したものである。
【0032】
【表1】

【0033】
(氷上制動性能)
実施例タイヤ1〜5および、比較例タイヤ1〜3のそれぞれを、リムサイズ15×6.5Jのリムに装着し、内圧を220kPaとし、排気量2000ccの乗用車に4本装着し、水温−1℃の氷上で車速20km/hからフルブレーキ時の制動距離で計測し制動性能を評価した。その結果を、表2に指数で示す。
なお、比較例タイヤ1を100とし、指数が大きいほど、性能が良好なことを示す。
【0034】
【表2】

【0035】
表2の結果から、実施例タイヤ1〜5は、比較例タイヤ1〜3に対して、氷上制動性能を向上させることができた。
【符号の説明】
【0036】
1 押出ゴムシート
2 電子線照射装置
3 マスキングシート
11 トレッド踏面
12 電子線照射部
13 電子線非照射部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッドゴムを形成する未加硫ゴムを加硫成型するに当たり、
未加硫ゴムの一部に、電子線照射をした後に、加硫成型してトレッドゴムの接地面を形成する空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
電子線照射により、前記未加硫ゴムを硬化させる請求項1に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記トレッドゴムを形成する押出ゴムシートの一部に、電子線照射をする請求項1または2に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項4】
電子線の照射線量は50kGy以上である請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項5】
前記トレッドゴムが発泡ゴムである請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法で製造された空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記トレッドゴムの、電子線照射部の加硫後のJIS A硬度が、電子線非照射部の加硫後のJIS A硬度より5以上となる請求項6に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記電子線照射部のトレッド周方向長さが、前記非照射部のトレッド周方向長さに対して1〜5倍の範囲であり、
前記電子線照射部をトレッド周方向に0.05〜0.2mmの範囲で配置してなる請求項6または7に記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−218566(P2011−218566A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−86543(P2010−86543)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】