説明

空気入りタイヤ及びその製造方法

【課題】プライステアフォースを低減しつつ、タイヤの耐久性を向上させた空気入りタイヤ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】カーカス6と、ベルト層7とを具えた空気入りタイヤである。ベルト層7は、内層部7Aと外層部7Bとを具え、かつ該内層部7Aと外層部7Bとを該一方側のタイヤ軸方向端部である一方側縁と他方側のタイヤ軸方向端部である他方側縁とで連繋する連繋部とを有する断面偏平環状体である。かつ前記ベルト層7は、タイヤ赤道に対して角度θで傾斜して配列された第1ベルトコード群11Aと逆向きかつ同じ角度で配列された第2ベルトコード群11Bとを具える。前記第1ベルトコード群及び第2ベルトコード群は、前記連繋部10で折り返されてタイヤ周方向にのびる偏平螺旋運動を繰り返す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト層を具えた空気入りタイヤに関し、プライステアフォースを低減しつつ、耐久性を向上させた空気入りタイヤ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤには、カーカスを補強しトレッド部の剛性を高めるため、トレッド部の内部かつカーカスの外側にベルト層が設けられている。該ベルト層は、通常、複数のベルトプライからなり、かつ各ベルトプライのベルトコードが互いに交差するように重ね合わせて構成されている。
【0003】
しかしながら、このようなベルト層は、タイヤ半径方向最外側のベルトプライのベルトコードが、その全面に亘って同一方向に傾斜配列されているため、プライステアフォースが大となって、車両流れを発生させるなど、特に高速での操縦安定性を低下させるという問題があった。
【0004】
前記プライステアフォースを低減するために、例えば図10(a)に示されるように、ネット状に編成されたベルト層Aを用いた空気入りタイヤ(特許文献1参照)や、図10(b)に示されるように、従来のベルト層Bのタイヤ半径方向外側に、ネット状に編成された補強層Cを設けた空気入りタイヤ(特許文献2参照)が提案されている。しかしながら、上記のベルト層又は補強層は、タイヤ軸方向端部に各コードの切断端Dが現れるため、トレッドショルダー部付近のベルト層の拘束力が低下し、ひいては高速耐久性が低下するという問題がある。
【0005】
【特許文献1】特開平5−139113号公報
【特許文献2】特開平9−136507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような問題点に鑑み案出されたもので、ベルト層に、内層部と、外層部と、これらの両端部で夫々を連繋する連繋部とを具えた断面偏平環状体を用いるとともに、タイヤ赤道に対して互いに逆向きかつ同じ角度で配された第1ベルトコード及び第2ベルトコードを、偏平螺旋移動させながらタイヤ周方向に配することを基本として、プライステアフォースを低減しつつ、耐久性を向上させた空気入りタイヤ及びその製造方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本願請求項1の発明は、トレッド部からサイドウォール部をへてビード部に至るカーカスと、このカーカスのタイヤ半径方向外側かつトレッド部の内部に配されたベルト層とを具えた空気入りタイヤであって、前記ベルト層は、前記カーカスのタイヤ半径方向外側に配された内層部と、該内層部のタイヤ半径方向外側に配された外層部と、前記内層部と外層部とを、一方側のタイヤ軸方向端部である一方側縁と他方側のタイヤ軸方向端部である他方側縁とで連繋する連繋部とを有する断面偏平環状体であり、かつ前記ベルト層は、タイヤ赤道に対して角度θで傾斜して配列された複数の第1ベルトコードからなる第1ベルトコード群と、タイヤ赤道に対して前記第1ベルトコード群とは逆向きかつ同じ角度θで傾斜して配列された複数の第2ベルトコードからなる第2ベルトコード群とを具え、前記第1ベルトコード群は、前記内層部を前記他方側縁から一方側縁に向かってタイヤ周方向にのび、かつ前記一方側縁の連繋部で折り返されて前記外層部を前記他方側縁に向かってタイヤ周方向にのび、しかも前記他方側縁の連繋部で折り返されて前記内層部に至る第1の偏平螺旋移動を繰り返すとともに、前記第2ベルトコード群は、内層部を前記一方側縁から他方側縁に向かってタイヤ周方向にのび、かつ前記他方側縁の連繋部で折り返されて前記外層部を前記一方側縁に向かってタイヤ周方向にのび、しかも前記一方側縁で折り返され、前記内層部に至る第2の偏平螺旋移動を繰り返すことを特徴とする。
【0008】
また請求項2の発明は、前記第1のベルトコード及び第2のベルトコードは、夫々タイヤ周方向に巻き付けられる際の巻き付けの始端部と、巻き付けの終端部とを有し、前記始端部と終端部とが接着されている請求項1記載の空気入りタイヤである。
【0009】
また請求項3の発明は、前記ベルト層は、前記一方側縁及び他方側縁にタイヤ周方向にのびるリング状の補強部材を具え、前記第1のベルトコード群及び第2ベルトコード群は、前記補強部材のタイヤ軸方向外側を通って折り返される請求項1又は2に記載の空気入りタイヤである。
【0010】
また請求項4の発明は、前記ベルト層は、前記第1ベルトコード群と前記第2ベルトコード群とが前記内層部及び外層部で夫々編成されている請求項1乃至3のいずれかに記載の空気入りタイヤである。
【0011】
また請求項5の発明は、前記第1のベルトコード及び第2ベルトコードは、タイヤ赤道に関して線対称で配されている請求項1乃至4のいずれかに記載の空気入りタイヤである。
【0012】
また請求項6の発明は、トレッド部からサイドウォール部をへてビード部に至るカーカスと、このカーカスのタイヤ半径方向外側かつトレッド部の内部に配されたベルト層とを具えた空気入りタイヤを製造する方法であって、中心軸に対して傾斜角度βで螺旋巻きされる複数のベルトコードからなる第1ベルトコード群と、該第1ベルトコード群とは逆向きかつ同一の傾斜角度βで螺旋巻きされる複数のベルトコードからなる第2ベルトコード群とを、互いに編成することにより断面が環状に連続するネット体を成形するネット体成形工程と、前記ネット体を折りたたむことにより長尺かつ断面が偏平な偏平環状体を成形する偏平環状体成形工程と、前記偏平環状体を、ベルト層として前記カーカスのタイヤ半径方向外側に配するベルト層貼着工程とを含むことを特徴とする。
【0013】
また請求項7の発明は、前記ネット体は、前記螺旋巻きの中心軸が直線状にのびる円筒形状である請求項6記載の空気入りタイヤの製造方法である。
【0014】
また請求項8の発明は、前記ネット体は、前記螺旋巻きの中心軸が環状に連続するドーナツ形状である請求項6記載の空気入りタイヤの製造方法である。
【0015】
また請求項9の発明は、トレッド部からサイドウォール部をへてビード部に至るカーカスと、このカーカスのタイヤ半径方向外側かつトレッド部の内部に配されたベルト層とを具えた空気入りタイヤの製造方法であって、線状にのびる2本の補強部材を平行にして向かい合わせ、該2本の補強部材の外側で、中心軸に対して傾斜角度βで螺旋巻きされる複数のベルトコードからなる第1ベルトコード群と、該第1ベルトコード群とは逆向きかつ同一の傾斜角度βで螺旋巻きされる複数のベルトコードからなる第2のベルトコード群とを、夫々編成することにより断面が偏平な偏平環状体を成形する偏平環状体成形工程と、前記偏平環状体を、前記ベルト層として前記カーカスのタイヤ半径方向外側に配し、かつ前記2本の補強部材をそれぞれ前記ベルト層のタイヤ軸方向両端に配するベルト層貼着工程とを含むことを特徴とする。
【0016】
また請求項10の発明は、前記補強部材は、リング状である請求項9記載の空気入りタイヤ製造方法である。
【0017】
また請求項11の発明は、前記偏平環状体成形工程は、前記2本の補強部材を、成形しようとする前記ベルト層のタイヤ軸方向幅に配し、前記第1のベルトコード群及び第2ベルトコード群を、前記2本の補強部材に張力を作用させて螺旋巻きし、前記偏平環状体を成形する請求項9又は10記載の空気入りタイヤの製造方法である。
【0018】
また請求項12の発明は、前記第1のベルトコード及び第2ベルトコード群は、複数本並行して配置されたのベルトコードの束からなる請求項6乃至11のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の空気入りタイヤは、ベルト層が、カーカスのタイヤ半径方向外側に配された内層部と、該内層部のタイヤ半径方向外側に配された外層部と、前記内層部と外層部とを、一方側のタイヤ軸方向端部である一方側縁と他方側のタイヤ軸方向端部である他方側縁とで連繋する連繋部とを有する断面偏平環状体で構成される。
【0020】
また本発明の空気入りタイヤは、前記ベルト層が、タイヤ赤道に対して角度θで傾斜して配列された複数の第1ベルトコードからなる第1ベルトコード群と、タイヤ赤道に対して前記第1ベルトコード群とは逆向きかつ同じ角度θで傾斜して配列された複数の第2ベルトコードからなる第2ベルトコード群とを具える。前記第1ベルトコード群は、前記内層部を前記他方側縁から一方側縁に向かってタイヤ周方向にのび、かつ前記一方側縁の連繋部で折り返されて前記外層部を前記他方側縁に向かってタイヤ周方向にのび、しかも前記他方側縁の連繋部で折り返されて前記内層部に至る第1の偏平螺旋移動を繰り返す。また、前記第2ベルトコード群は、内層部を前記一方側縁から他方側縁に向かってタイヤ周方向にのび、かつ前記他方側縁の連繋部で折り返されて前記外層部を前記一方側縁に向かってタイヤ周方向にのび、しかも前記一方側縁で折り返され、前記内層部に至る第2の偏平螺旋移動を繰り返す。
【0021】
このような空気入りタイヤは、前記内層部と外層部とが、タイヤ軸方向の端部で連繋しているため、ベルト層のタイヤ軸方向端部に各ベルトコードの切断端が現れない。従って、ベルト層によるトレッドショルダー部付近のコードの拘束力が低下せず、ひいてはタイヤの高速耐久性が向上する。
【0022】
さらに、タイヤ赤道に対して逆向きかつ同じ角度で傾斜して配列された前記第1ベルトコード群及び第2ベルトコード群が、タイヤ半径方向最外側のベルトプライである前記外層部に現れるため、外層部全面に亘って2方向の向きを有するベルトコードが傾斜配列され、プライステアフォースが小となり、車両流れを減じて特に高速での操縦安定性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の空気入りタイヤの一実施形態を示す断面図である。
【図2】図1のベルト層の斜視図及び平面展開図である。
【図3】ベルトコードの軌跡を描いた図である。
【図4】(a)は補強部材を有するベルト層の斜視図、(b)はその断面図である。
【図5】編成されたベルトコード群の拡大図である。
【図6】円筒形状のネット体の斜視図である。
【図7】(a)は円筒形状のネット体の断面図、(b)はそれを用いて形成された偏平環状体の斜視図、(c)はその断面図、(d)それを用いて環状に形成されたベルト層の斜視図である。
【図8】(a)はドーナツ形状のネット体の側面図及び正面図、(b)はそれを用いて形成された偏平環状体の側面図及び正面図である。
【図9】(a)補強部材にベルトコード群が螺旋巻きされた偏平環状体の斜視図、(b)はリング状の補強部材を配した偏平環状体の斜視図である。
【図10】(a)はネット状に編成されたベルト層が配された空気入りタイヤの斜視図、(b)は従来のベルト層及びネット状に編成された補強層の正面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は本実施形態の空気入りタイヤ1の正規状態におけるタイヤ軸を含むタイヤ子午線断面図である。
【0025】
ここで、正規状態とは、タイヤを正規リム(図示省略)にリム組みし、かつ、正規内圧を充填した無負荷の状態とする。以下、特に言及しない場合、タイヤの各部の寸法等はこの正規状態で測定された値とする。
【0026】
また前記「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば標準リム、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" とする。さらに「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" とするが、タイヤが乗用車用である場合には180kPaとする。
【0027】
図1に示されるように、本実施形態の空気入りタイヤ1は、トレッド部2からサイドウォール部3を経てビード部4のビードコア5に至るカーカス6と、このカーカス6のタイヤ半径方向外側かつトレッド部2の内部に配されたベルト層7と、前記ビードコア5からタイヤ半径方向外方に向かって先細状にのびるビードエーペックスゴム8とが設けられており、この例では乗用車用のラジアルタイヤが示される。
【0028】
本実施形態では、前記カーカス6は、1枚のカーカスプライ6Aからなり、トレッド部2からサイドウォール部3をへてビード部4のビードコア5に至るトロイド状の本体部6aと、ビードコア5の周りでタイヤ軸方向内側から外側に折り返された折返し部6bとを含む。また、前記カーカスプライ6Aは、カーカスコードをトッピングゴムで被覆したコードプライであって、本実施形態では前記カーカスコードがタイヤ赤道Cに対して例えば75〜90゜の角度で傾けて配されている。カーカスコードには、ポリエステルコード、ナイロン、レーヨン、アラミドなどの有機繊維コードが好適であり、必要によりスチールコードを採用することができる。
【0029】
前記ビードエーペックスゴム8は、カーカスプライ6Aの本体部6aと折返し部6bとの間に配され、かつビードコア5からタイヤ半径方向外方に向かって先細状にのびる。
【0030】
前記ベルト層7は、カーカス6のタイヤ半径方向外側に配された内層部7Aと、該内層部7Aのタイヤ半径方向外側に配された外層部7Bとを具える。また、ベルト層7は、タイヤ軸方向縁9を有し、一方側のタイヤ軸方向端部である一方側縁9Aと他方側のタイヤ軸方向端部である他方側縁9Bとで、前記内層部7A及び外層部7Bが連繋する連繋部10を有する断面偏平環状体である。また、前記連繋部10は、一方側の連繋部10Aと、他方側の連繋部10Bとを有する。
【0031】
図2(a)は、ベルト層7の部分斜視図が、図2(b)にはその平面図が夫々示される。図2に示されるように、前記ベルト層7は、タイヤ赤道Cに対して角度θで傾斜して配列された複数の第1ベルトコード11aからなる第1ベルトコード群11Aと、タイヤ赤道Cに対して前記第1ベルトコード群11Aとは逆向きかつ同じ角度θで傾斜して配列された複数の第2ベルトコード11bからなる第2ベルトコード群Bとを具える。従って、第1ベルトコード群11Aの第1ベルトコード11aと、第2ベルトコード群11Bの第2ベルトコード11bとは、互いに交差する。
【0032】
第1ベルトコード11a及び第2ベルトコード11bのタイヤ赤道Cに対する角度θは特に限定されないが、例えば10〜45°に設定される。該角度θを大きくすることにより、トレッド部2のタイヤ軸方向の剛性を高めることができる。他方、前記角度θを小さくすることにより、トレッド部2のタイヤ周方向の剛性を高くすることができる。
【0033】
前記ベルトコード11a及び11bは、本実施形態では、有機繊維コードが用いられている。該有機繊維コードとしては、ナイロン、ポリエステル、アラミド、レーヨン等が挙げられ、これらの有機繊維コードでは、乗り心地性を向上させるのに役立つ他、タイヤを軽量化でき、転がり抵抗を低減させることができる。なお、ベルトコード11a及び11bには、スチールコードを用いることもできる。
【0034】
図2(b)は、タイヤ周方向に巻回されているベルト層7を、タイヤ周方向の任意の位置でタイヤ軸方向に切断し、該切断した一端を0°、他端を360°として、平面に展開して前記ベルトコード群11A及び11Bの配置を示した図である。また、図2(b)は、外層部7B側から見た図であり、ベルトコード群11A及び11Bが内層部7Aを通る場合は破線で、外層部7Bを通る場合は実線で夫々表されている。
【0035】
図2(b)に示されるように、前記第1ベルトコード群11Aは、0°の位置を起点として、内層部7Aを他方側縁9Bから一方側縁9Aに向かってタイヤ周方向にのび、かつ一方側縁9Aの連繋部10Aで折り返されて外層部7Bを他方側縁9Bに向かってタイヤ周方向にのび、しかも他方側縁9Bの連繋部10Bで折り返されて内層部7Aに至る第1の偏平螺旋移動を繰り返す。
【0036】
同様に、前記第2ベルトコード群11Bは、0°の位置を起点として、内層部7Aを一方側縁9Aから他方側縁9Bに向かってタイヤ周方向にのび、かつ前記他方側縁9Bの連繋部10Bで折り返されて前記外層部7Bを前記一方側縁9Aに向かってタイヤ周方向にのび、しかも前記一方側縁9Aの連繋部10Aで折り返されて前記内層部7Aに至る前記第1の偏平螺旋移動とは逆向きの第2の偏平螺旋移動を繰り返す。
【0037】
このようなベルト層7を有する空気入りタイヤは、前記内層部7Aと外層部7Bとが、連繋部10で連繋しているため、ベルト層7のタイヤ軸方向端部に各ベルトコード11a及び11bの切断端が現れない。従って、ベルト層7によるトレッドショルダー部付近のコードの拘束力が低下せず、ひいてはタイヤの高速耐久性が向上する。
【0038】
また、タイヤ赤道Cに対して逆向きかつ同じ角度で傾斜して配列された前記第1ベルトコード群11A及び第2ベルトコード群11Bが、タイヤ半径方向最外側のベルトプライである前記外層部7Bを通るため、外層部7B全面に亘って2方向の向きを有するベルトコードが傾斜配列され、プライステアフォースが小となり、車両流れを減じ、特に高速での操縦安定性が向上する。
【0039】
図3は、前記第1ベルトコード11a又は第2ベルトコード11bの周回の例を示す斜視図である。前記内層部7A及び外層部7Bは省略されている。本発明のベルトコード11a及び11bは、図3に示されるように、ベルト層7のタイヤ軸方向両端部である一方側縁9Aと他方側縁9Bとの間を往復しながらタイヤ周方向にのびている。
【0040】
前記第1ベルトコード群11A及び第2ベルトコード群11Bは、タイヤ周方向に1周だけ巻回するベルトコードが複数配されることで形成されていても構わないし、一本のベルトコードがタイヤ周方向に複数回巻回して形成されていても構わない。これらの周回数は、ベルトコードの前記角度θによって決定される。
【0041】
また、第1ベルトコード11a及び第2ベルトコード11bは、夫々タイヤ周方向に巻き付けられる際の巻き付けの始端部11sと、巻き付けの終端部11eとを有しており、該始端部11sと終端部11eとが、接着されて無端の環状体として形成されることが望ましい。このように、ベルトコードの始端部11s及び終端部11eを接着することにより、コード端がタイヤ損傷の起点となるのを確実に防止しうる。
【0042】
また、図4に示されるように、前記ベルト層7は、前記一方側縁9A及び他方側縁9Bに、夫々タイヤ周方向にのびるリング状の補強部材12を具えるものでも良い。そして、前記第1のベルトコード群11A及び第2ベルトコード群11Bは、前記一方側の補強部材12a及び他方側の補強部材12bのタイヤ軸方向外側を通って折り返されることが望ましい。このような補強部材12を具えることにより、トレッドショルダー部付近のコードの拘束力をより一層向上させ得る。
【0043】
さらに、前記第1ベルトコード群11Aと第2ベルトコード群11Bとは、前記内層部7A及び外層部7Bでそれぞれ編成されていることが望ましい。即ち、図5に示されるように、第1ベルトコード11aが外側となる交点13aと、第2ベルトコード11bが外側となる交点13bとが、交互に配されることが望ましい。このように、ベルトコード群11A及び11Bが編成されていることにより、一方のベルトコード群が傾斜配列されていることによるプライステアフォースの発生を、他方のベルトコード群が傾斜配列されていることによるプライステアフォースにより打ち消すことができ、車両流れをより一層低減し優れた直進安定性を発揮しうる。
【0044】
また、前記第1ベルトコード11a及び第2ベルトコード11bは、タイヤ赤道Cに関して線対称で配されていることが望ましい。即ち、角度θのみならず、各ベルトコード11a及び11bのエンズも同一であることが望ましい。さらに好ましくは、前記始端部11s及び終端部11eの位置も線対称で配されていることが望ましい。これにより、プライステアフォースの打ち消し効果がさらに向上して優れた直進安定性が発揮され、かつタイヤのユニフォミティも向上しうる。
【0045】
次に、上述のような空気入りタイヤの製造方法のいくつかの例が図面に基づき説明される。
図6は、ベルト層7を形成するためのネット体14を示す斜視図である。この実施形態では、先ず、中心軸CAに対して螺旋角度βで螺旋巻きされる複数のベルトコード11aからなる第1ベルトコード群11Aと、該第1ベルトコード群11Aとは逆向きかつ同一の傾斜角度βで螺旋巻きされる複数のベルトコード11bからなる第2ベルトコード群11Bとを、互いに編成することにより断面が環状に連続するネット体14を成形するネット体成形工程が行われる。本実施形態では、図6に示される前記ネット体14は、螺旋巻きの中心軸CAが直線状にのびる円筒形状である。
【0046】
次に、本実施形態では、前記ネット体14を中心軸CAに沿って偏平に折りたたむことにより、図7(b)及び(c)に示されるように、長尺かつ断面が偏平な偏平環状体15を成形する偏平環状体成形工程が行われる。偏平環状体15は、図7(b)に示されるように2層に重なったシート状となる。
【0047】
そして、本実施形態では、前記偏平環状体15の長手方向がタイヤ周方向となるベルト層として前記カーカス6のタイヤ半径方向外側に配するベルト層貼着工程が行われる。この際、前記偏平環状体15は、前記カーカス6のタイヤ半径方向外側を巻回して貼着され、図7(d)に示されるようにその始端部15sと終端部15eが突き合わせされたジョイント部16が形成される。
【0048】
前記ジョイント部16は、本実施例では、タイヤ軸方向に対して平行に配されているが、傾斜してもかまわない。また、ジョイント部16は、タイヤ損傷の起点となり易いため、偏平環状体15の始端部15s及び終端部15eは、ジョイント部16にて接着されることが望ましい。
【0049】
また、図8(a)に示されるように、前記ネット体14は、前記螺旋巻きの中心軸CAが環状に連続するドーナツ形状として形成されても良い。このようなドーナツ形状のネット体14を、断面偏平化することにより、図8(b)に示されるように、始端部15s及び終端部15eが繋がった偏平環状体15が形成され、タイヤ損傷の起点となり易いジョイント部16を有しないベルト層7を成形することができる。
【0050】
次に、ベルト層7に補強部材12を用いた製造方法が図面に基づき説明される。
本実施形態では、先ず、図9(a)に示されるように、2本の補強部材12a及び12bを平行かつ距離を隔てて配し、該2本の補強部材12a及び12bの周りを、中心軸CAに対して傾斜角度βで偏平に螺旋巻きされる複数のベルトコードからなる第1ベルトコード群11Aと、該第1ベルトコード群とは逆向きかつ同一の傾斜角度βで偏平に螺旋巻きされる複数のベルトコードからなる第2ベルトコード群11Bとを夫々周回させながら編成することにより、断面が偏平な偏平環状体15を成形する偏平環状体成形工程が行われる。本実施形態では、ベルトコード群11が螺旋巻きされた後、ベルトコード群11はトッピングゴムにて被覆されるが、予めトッピングゴムで被覆された1乃至複数本のベルトコード又は帯状プライを用いて、前記2本の補強部材12a及び12bの周りを螺旋巻きしても構わない。
【0051】
次に、前記偏平環状体15を前記ベルト層7として前記カーカス6のタイヤ半径方向外側に配し、かつ前記2本の補強部材12a及び12bをそれぞれベルト層7のタイヤ軸方向両端に配するベルト層貼着工程を有する。
【0052】
また、前記補強部材12は、直線状でも良いが、好ましくは図9(b)に示されるように、リング状であることが望ましい。これにより、前記第1ベルトコード群11A及び第2ベルトコード群11Bが、連続して補強部材12に螺旋巻きされるため、タイヤ損傷の起点となり易い前記ジョイント部16を有しない空気入りタイヤを成形することができる。
【0053】
また、前記偏平環状体成形工程は、前記2本の補強部材12a及び12bを、成形しようとする前記ベルト層7のタイヤ軸方向幅に配し、前記第1のベルトコード群11A及び第2ベルトコード群11Bを、前記2本の補強部材12a及び12bに張力を作用させて螺旋巻きし、前記偏平環状体15を成形することが望ましい。これによりベルトコード群11の余分な弛緩が少なくなり、走行時の小さな応力に対しても剛性が向上し、操縦安定性が向上しうる。
【0054】
また、前記第1のベルトコード群11A及び第2ベルトコード群11Bは、複数本並行して配列されたベルトコードの束からなることが望ましい。これにより、ベルトコード11の巻き付け回数が減少し、生産性が向上しうる。
【0055】
以上、本発明の空気入りタイヤ及びその製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記の具体的な実施形態に限定されることなく種々の態様に変更して実施しうるのはいうまでもない。
【実施例】
【0056】
ベルトコードとして、繊度1400dtexのナイロンコードが用いられ、これをタイヤ赤道に対して20°で傾けた下記の構造のベルト層をもつタイヤサイズが185/60R14の空気入りタイヤが製造された。
比較例1:従来のカットエンドのベルトプライ2枚からなるベルト層
比較例2:ネット状のベルトプライ1枚からなるベルト層(図10)
実施例1:偏平環状体の端部が突き合わされたジョイント部を有し、かつ補強部材が配されていないベルト層(図7)
実施例2:実施例1のジョイント部が無く、かつ補強部材が配されていないベルト層(図8)
実施例3:実施例1のジョイント部が無く、かつリング状の補強部材がベルト層のタイヤ軸方向両端に配されたベルト層(図9)
【0057】
上記試供タイヤについて、ドラム耐久性、高速耐久性、コーナリングパワー、及びタイヤ質量についての評価を実施し、かつテストコースでの実車走行にて、直進安定性及び操縦安定性の官能評価を実施した。各テスト方法は以下の通りである。
【0058】
<ドラム耐久性>
各試供タイヤをリム14×5.5Jに装着し、内圧180kPa、縦荷重4.66kN、速度80km/hで直径1.7mのドラムの上を走行させ、損傷が生じるまでの走行距離を測定したものである。結果は、比較例1を100とした指数であり、数値が大きいほどドラム耐久性が高いことを示す。
【0059】
<高速耐久性>
試供タイヤを前記リムに装着し、内圧280kPa、縦荷重3.73kNのもとで、初速170km/hから20分ごとに10km/hずつ上昇させてドラム試験機で走行させ、タイヤに損傷が生じた速度を測定したものである。結果は、比較例1を100とした指数であり、数値が大きいほど高速耐久性が高いことを示す。
【0060】
<コーナリングパワー>
室内試験器を用いて測定したコーナリングフォースからコーナリングパワーを求めたものである。結果は、比較例1を100とした指数であり、数値が大きいほどコーナリングパワーが高いことを示す。
【0061】
<タイヤ質量>
タイヤ1本当たりの質量が測定され、比較例1を100とする指数であり、数値が小さいほどタイヤ質量が小さいことを示す。
【0062】
<直進安定性>
試供タイヤを前記リムに装着し、内圧200kPaで、1500ccの前輪駆動車の4輪に装着するとともに、乾燥アスファルト路面のテストコースを実車走行し、直進安定性についてドライバーの官能評価により評価したものである。結果は、比較例1を5点とする10点法で評価し、数値が大きいほど、直進安定性が優れていることを示す。
【0063】
<操縦安定性>
試供タイヤを前記リムに装着し、内圧200kPaで、1500ccの前輪駆動車の4輪に装着するとともに、乾燥アスファルト路面のテストコースを実車走行し、ドライバーの官能評価により比較例1を5点とする10点法で評価した。数値が大きいほど、操縦安定性に優れている。
テスト結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
テストの結果、実施例1乃至3のタイヤは比較例1及び2のタイヤと比較して、ドラム耐久性、高速耐久性、及びコーナリングパワーが向上しつつ、直進安定性及び操縦安定性が向上していることが確認できる。
【0066】
また、実施例1乃至3のタイヤは比較例1及び2のタイヤと比較して、上記諸性能が向上しつつ、タイヤ質量が低減していることが確認できる。
【符号の説明】
【0067】
6 カーカス
7 ベルト層
9A 一方側縁
9B 他方側縁
10 連繋部
11 ベルトコード
12 補強部材
13 交点
14 ネット体
15 偏平環状体
16 ジョイント部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部からサイドウォール部をへてビード部に至るカーカスと、
このカーカスのタイヤ半径方向外側かつトレッド部の内部に配されたベルト層とを具えた空気入りタイヤであって、
前記ベルト層は、前記カーカスのタイヤ半径方向外側に配された内層部と、該内層部のタイヤ半径方向外側に配された外層部と、
前記内層部と外層部とを、一方側のタイヤ軸方向端部である一方側縁と他方側のタイヤ軸方向端部である他方側縁とで連繋する連繋部とを有する断面偏平環状体であり、
かつ前記ベルト層は、タイヤ赤道に対して角度θで傾斜して配列された複数の第1ベルトコードからなる第1ベルトコード群と、タイヤ赤道に対して前記第1ベルトコード群とは逆向きかつ同じ角度θで傾斜して配列された複数の第2ベルトコードからなる第2ベルトコード群とを具え、
前記第1ベルトコード群は、前記内層部を前記他方側縁から一方側縁に向かってタイヤ周方向にのび、かつ前記一方側縁の連繋部で折り返されて前記外層部を前記他方側縁に向かってタイヤ周方向にのび、しかも前記他方側縁の連繋部で折り返されて前記内層部に至る第1の偏平螺旋移動を繰り返すとともに、
前記第2ベルトコード群は、内層部を前記一方側縁から他方側縁に向かってタイヤ周方向にのび、かつ前記他方側縁の連繋部で折り返されて前記外層部を前記一方側縁に向かってタイヤ周方向にのび、しかも前記一方側縁で折り返され、前記内層部に至る第2の偏平螺旋移動を繰り返すことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記第1のベルトコード及び第2のベルトコードは、夫々タイヤ周方向に巻き付けられる際の巻き付けの始端部と、巻き付けの終端部とを有し、
前記始端部と終端部とが接着されている請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ベルト層は、前記一方側縁及び他方側縁にタイヤ周方向にのびるリング状の補強部材を具え、
前記第1のベルトコード群及び第2ベルトコード群は、前記補強部材のタイヤ軸方向外側を通って折り返される請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記ベルト層は、前記第1ベルトコード群と前記第2ベルトコード群とが前記内層部及び外層部で夫々編成されている請求項1乃至3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記第1のベルトコード及び第2ベルトコードは、タイヤ赤道に関して線対称で配されている請求項1乃至4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
トレッド部からサイドウォール部をへてビード部に至るカーカスと、
このカーカスのタイヤ半径方向外側かつトレッド部の内部に配されたベルト層とを具えた空気入りタイヤを製造する方法であって、
中心軸に対して傾斜角度βで螺旋巻きされる複数のベルトコードからなる第1ベルトコード群と、該第1ベルトコード群とは逆向きかつ同一の傾斜角度βで螺旋巻きされる複数のベルトコードからなる第2ベルトコード群とを、互いに編成することにより断面が環状に連続するネット体を成形するネット体成形工程と、
前記ネット体を折りたたむことにより長尺かつ断面が偏平な偏平環状体を成形する偏平環状体成形工程と、
前記偏平環状体を、ベルト層として前記カーカスのタイヤ半径方向外側に配するベルト層貼着工程とを含むことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項7】
前記ネット体は、前記螺旋巻きの中心軸が直線状にのびる円筒形状である請求項6記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項8】
前記ネット体は、前記螺旋巻きの中心軸が環状に連続するドーナツ形状である請求項6記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項9】
トレッド部からサイドウォール部をへてビード部に至るカーカスと、
このカーカスのタイヤ半径方向外側かつトレッド部の内部に配されたベルト層とを具えた空気入りタイヤの製造方法であって、
線状にのびる2本の補強部材を平行にして向かい合わせ、該2本の補強部材の外側で、中心軸に対して傾斜角度βで螺旋巻きされる複数のベルトコードからなる第1ベルトコード群と、該第1ベルトコード群とは逆向きかつ同一の傾斜角度βで螺旋巻きされる複数のベルトコードからなる第2のベルトコード群とを、夫々編成することにより断面が偏平な偏平環状体を成形する偏平環状体成形工程と、
前記偏平環状体を、前記ベルト層として前記カーカスのタイヤ半径方向外側に配し、かつ前記2本の補強部材をそれぞれ前記ベルト層のタイヤ軸方向両端に配するベルト層貼着工程とを含むことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項10】
前記補強部材は、リング状である請求項9記載の空気入りタイヤ製造方法。
【請求項11】
前記偏平環状体成形工程は、
前記2本の補強部材を、成形しようとする前記ベルト層のタイヤ軸方向幅に配し、
前記第1のベルトコード群及び第2ベルトコード群を、前記2本の補強部材に張力を作用させて螺旋巻きし、前記偏平環状体を成形する請求項9又は10記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項12】
前記第1のベルトコード及び第2ベルトコード群は、複数本並行して配置されたのベルトコードの束からなる請求項6乃至11のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−86684(P2013−86684A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229991(P2011−229991)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】