空気溜りのシミュレーション方法及びシミュレーションプログラム
【課題】板厚を無視できない部材に対しても、薄板要素による幾何学的手法と同様の手法で正確なシミュレーション結果を得る。
【解決手段】解析モデルを構築して重力方向を設定した後、解析モデルへの新規のメッシュの追加或いは所定のメッシュを選択或いは分離或いは削除することにより、フリーエッジとなる初期メッシュを設定する(S3)。そして、初期条件として初期メッシュの属性を気体から液体に変更し、エアポケット判定計算処理を実施する(S5)。これにより、底面に凹みのあるソリッド部品等にように全ての表面メッシュが連続し、フリーエッジが存在しない場合にも、フリーエッジとなる初期メッシュを意図的に設定して、薄板要素のみによる解析モデルと同様、フリーエッジによる初期条件を設定可能とし、正確なシミュレーション結果を得ることができる。
【解決手段】解析モデルを構築して重力方向を設定した後、解析モデルへの新規のメッシュの追加或いは所定のメッシュを選択或いは分離或いは削除することにより、フリーエッジとなる初期メッシュを設定する(S3)。そして、初期条件として初期メッシュの属性を気体から液体に変更し、エアポケット判定計算処理を実施する(S5)。これにより、底面に凹みのあるソリッド部品等にように全ての表面メッシュが連続し、フリーエッジが存在しない場合にも、フリーエッジとなる初期メッシュを意図的に設定して、薄板要素のみによる解析モデルと同様、フリーエッジによる初期条件を設定可能とし、正確なシミュレーション結果を得ることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸漬処理を施す際にワークに生じる空気溜りをシミュレーションする空気溜りのシミュレーション方法及びシミュレーションプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電着塗装やメッキ等におけるワークの浸漬工程においては、均一な塗膜やメッキ膜を形成させるために、ワークに空気溜り(エアポケット)を生じさせないことが重要である。このエアポケットは、複雑な形状のワークを浸漬した際に、その隙間にできる凹部、例えば、自動車等の車体であれば、フード内面、ルーフ内面、フロア下面等の凹部等の空間に空気が残留する現象であり、このエアポケットが発生すると、塗装不良やメッキ不良が発生してしまう。
【0003】
そこで、ワークを浸漬処理する状態をコンピュータを用いてシミュレーションし、エアポケットの発生状況を予測する手法が提案されている。エアポケットのコンピュータシミュレーションとしては、ワークをメッシュやノード等の複数の要素のデータでモデル化し、各要素の属性が気体であるか液体であるかを、要素の特徴点(例えば、重心点、頂点、内心点、外心点、垂心点)同士の重力方向の位置を比較して判定する幾何学的な手法が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ワークの各表面をその頂点座標データに基づいて任意数の三角ポリゴン(三角形の要素)に分割し、各々の三角ポリゴンについて空気と浸漬槽内の液体との状態変化を時々刻々と計算することにより、ワークを入槽角の姿勢にて浸漬槽に模擬浸漬した際にエアポケットとなりうる表面部位であるか否かの判定を行う手法が開示されている。
【0005】
ところで、ワークを複数の要素のデータでモデル化する幾何学的な手法においては、ワークを薄板要素でモデル化し、ワークの端部や穴の縁の部分をフリーエッジとして、このフリーエッジに接する要素を液体の属性に初期設定し、他の要素の属性を判定する際の初期条件とする手法がある(例えば、本出願人による特願2006−19413参照)。
【0006】
これは、ワークの端部や穴の縁の部分等は浸漬時に必ず液体に接することに着目したものであり、フリーエッジに接する要素を液体の属性に初期設定し、この初期設定された要素と他の要素との位置関係から個々の要素の属性を判断する処理を繰り返すことにより、最終的に全要素の属性を決定してエアポケットの有無を判定することができる。
【特許文献1】特開2000−51750号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このフリーエッジに接する要素を初期条件とする幾何学的手法は、板厚を考慮することなくシミュレーション可能な部材に適用する手法であり、簡便ではあるが、薄板要素のみで解析モデルを構築しているため、板厚を無視できない部材には適用困難である。すなわち、ワークの板厚を考慮して複数の表面要素でモデル化すると、全ての面で表面要素が連続するモデルとなり、フリーエッジが無くなってしまう。このため、ワークの板厚を考慮したモデルに、フリーエッジによる初期条件を適用しようとすると、シミュレーションを正常に実行できない。
【0008】
例えば、図15に示すように、底面に凹みのあるソリッド部品100を、複数の表面メッシュでモデル化すると、図16に示すように、全ての面で表面メッシュが連続したモデルSDMとなる。このモデルSDMにはフリーエッジが存在しないため、フリーエッジによる初期条件を設定しようとすると、初期条件設定の時点で異常終了してしまい、適正なシミュレーション結果を得ることができない。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、板厚を無視できない部材に対しても、薄板要素による幾何学的手法と同様の手法で正確なシミュレーション結果を得ることのできる空気溜りのシミュレーション方法及びシミュレーションプログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明による空気溜りのシミュレーション方法は、浸漬処理を施すワークを複数の要素のデータでモデル化し、各要素の属性が気体であるか液体であるかを決定して空気溜りをシミュレーションする空気溜りのシミュレーション方法において、上記ワークの表面形状を複数の表面要素で分割し、この複数の表面要素が上記ワークの全表面で連続した解析モデルを構築するモデル構築ステップと、上記解析モデルに、フリーエッジの浸漬条件を等価的に設定して液体の属性の初期要素を設定する初期要素設定ステップと、上記初期要素を含む任意の表面要素と、この任意の表面要素に隣接する他の表面要素とを、重力と反対方向の高さで比較し、各表面要素の属性を判定する判定ステップとを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明による空気溜りのシミュレーションプログラムは、浸漬処理を施すワークを複数の要素のデータでモデル化し、各要素の属性が気体であるか液体であるかを決定して空気溜りをシミュレーションするコンピュータが実行可能な空気溜りのシミュレーションプログラムにおいて、上記ワークの表面形状を複数の表面要素で分割し、この複数の表面要素が上記ワークの全表面で連続した解析モデルを構築するモデル構築ステップと、上記解析モデルに、フリーエッジの浸漬条件を等価的に設定して液体の属性の初期要素を設定する初期要素設定ステップと、上記初期要素を含む任意の表面要素と、この任意の表面要素に隣接する他の表面要素とを、重力と反対方向の高さで比較し、各表面要素の属性を判定する判定ステップとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、板厚を無視できない部材に対しても、薄板要素による幾何学的手法と同様の手法を適用することができ、簡便で正確なシミュレーション結果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1〜図7は本発明の実施の第1形態に係り、図1はシミュレーション装置の基本構成図、図2は車体の塗装ラインの概略説明図、図3はフリーエッジとなるメッシュの設定を示す説明図、図4は初期メッシュの選択条件を示す説明図、図5はエアポケットシミュレーションプログラムのフローチャート、図6はシミュレーション結果を示す説明図、図7は板厚を考慮したシミュレーション結果を示す説明図である。
【0014】
図1に示すように、本実施の形態におけるシミュレーション装置1は、自動車のボディシェル等のワークに電着塗装やめっき処理等の浸漬処理を施す際に、ワークに生じる空気溜り(エアポケット)をシミュレーションするものである。このエアポケットのシミュレーション装置1は、マイクロコンピュータやパーソナルコンピュータ等の単一のコンピュータ、或いはネットワークを介して相互に接続される複数のコンピュータを用いて構成される。
【0015】
以下では、便宜上、シミュレーション装置1を単一のコンピュータで構成する例について説明する。シミュレーション装置1は、演算装置10、キーボードやマウス等の入力装置11、CRTや液晶ディスプレイ等の表示装置12、磁気ディスクや光ディスク等の外部記憶装置13等を備えている。
【0016】
演算装置10は、CPU、ROM及びRAM等の内部メモリ、入出力インターフェース等を備えており、内部のROM、外部記憶装置13、外部の記憶媒体に記憶させたシミュレーションプログラム、或いは、図示しないネットワークや通信装置を介して外部からロードしたシミュレーションプログラムをCPUで実行し、入力装置11を介して指示された解析対象のワーク(対象物)を擬似的に浸漬槽内に浸漬させ、その浸漬によって対象物に発生するエアポケットをシミュレーションする。
【0017】
例えば、本発明によるシミュレーションの適用例として、車体ボディの電着塗装時における電着液及び空気の分布を数値解析し、被塗装物におけるエアポケットの発生を予測するシミュレーションが挙げられる。ここで、車体ボディの塗装ラインについて、図2を用いて簡単に説明する。
【0018】
図2に示すように、溶接等により複数の車体パネルを互いに接合して構成される自動車の車体ボディ20は、搬送装置21のハンガに搭載された状態で塗装ラインにて略水平方向へ搬送される。塗装ラインでは、電着塗装の前処理として、車体パネルに脱脂、水洗、表面調整、皮膜化成、水洗等の処理が施される。
【0019】
これらの処理の後、車体ボディ20は電着槽22に向かって降下し、電着液23に浸漬された状態で略水平に移動する。この状態で、車体ボディ20と電着槽22内の電極(図示せず)に電圧を加えることにより、車体パネルに塗料が析出するようになっている。この後、搬送装置21により車体ボディ20は電着槽22から引き上げられ、水洗により車体パネルに電着せずに付着している電着液23が除去される。
【0020】
演算装置10において実行されるシミュレーションプログラムの機能は、モデル構築部10a、初期メッシュ設定部10b、エアポケット判定部10c、ポスト処理部10dによって表現することができる。演算装置10は、対象物の形状を複数の要素のデータでモデル化した解析モデルによる幾何学的手法を用いてエアポケットの発生をシミュレーションし、シミュレーション結果を表示装置12に出力して表示させる。尚、表示装置12には、シミュレーション結果のみならずシミュレーション過程を表示させるようにしても良い。
【0021】
本発明によるエアポケットのシミュレーションは、対象物の表面形状を複数の表面要素に分割して構築したサーフェスモデルを用いており、薄板要素による解析モデルと同様の簡便な手法を用いながら、板厚を無視できない部材に対しても正確にエアポケットの発生をシミュレーションすることができる。以下、本実施の形態におけるエアポケットシミュレーションについて説明する。
【0022】
モデル構築部10aは、対象物の形状データを複数の表面要素に分割し、複数の表面要素が対象物の全表面で連続した解析モデルを構築する。解析モデルを構成する手法としては、対象物の表面形状を複数の所定の形状に分割して表現するメッシュを用いる手法や、対象物の表面に複数の節点(ノード)を配置する手法等を用いることができる。以下では、対象物の表面形状を三角形のメッシュで表現したサーフェスモデルを用い、このサーフェスモデルのメッシュデータを三次元空間に配置して解析モデルを構築する例について説明するが、解析モデルの要素としてノードを用いる場合においても処理は同様である。
【0023】
尚、解析モデルの表面要素としてのメッシュの形状は、三角形の形状に限られず、矩形や多角形の形状であっても良い。個々のメッシュには、例えば、自己を識別するためのメッシュ番号、メッシュの節点(ノード)の所定の基準点に対する座標値(三次元空間のXYZ座標軸における座標値)、メッシュの属性等のデータが付与される。以下では、便宜上、XYZ直交座標系におけるZ軸の方向は、重力と反対方向であるものとする。
【0024】
また、外部記憶装置13には、エアポケットのシミュレーション処理に必要な各種のデータが格納されている。例えば、外部記憶装置13は、対象物毎に個別の識別番号(レコード番号)が付された属性レコード群で構成されるデータベースを有し、個々の属性レコードに、各メッシュのメッシュ番号、ノード点座標値、属性データ等が対応付けて記述される。
【0025】
初期メッシュ設定部10bは、フリーエッジの浸漬条件を等価的に設定して液体の属性の初期メッシュを設定する。この初期メッシュは、解析モデルの全メッシュの属性を液体と気体とに分離・決定するための初期条件として用いられるものであり、各メッシュの属性を判定する処理に先立って、予め液体の属性に決定されている要素である。
【0026】
また、フリーエッジは、ワークの縁の部分、すなわちワークの端部やワークに形成された穴の縁の部分を意味し、浸漬時に無条件で液体に接する部分である。換言すれば、フリーエッジは、複数の要素で共有されることのない、単独の要素(メッシュ)のみに所属するエッジ(辺)であり、要素同士が接続されていない不連続な部分であり、必ず液体で浸漬されるという浸漬条件を有している。
【0027】
しかしながら、板厚を無視できない部材、例えば底面に凹みのあるソリッド部品(前述の図15参照)等においては、全ての表面メッシュが連続したモデルとなり、フリーエッジが存在しない。従って、初期メッシュ設定部10bでは、全ての表面メッシュが連続した解析モデルに対してフリーエッジの浸漬条件を等価的に設定し、このフリーエッジの浸漬条件を有するメッシュを初期メッシュとして設定することにより、薄板要素のみによる解析モデルと同様、フリーエッジによる初期条件を設定可能とし、正常にシミュレーションを実行させる。
【0028】
フリーエッジの浸漬条件は、解析モデルを構成する既存のメッシュとは別に、フリーエッジを有する新規のメッシュを生成し、この新規のメッシュを解析モデルの所定のメッシュに接合することにより設定することができ、フリーエッジとなる初期メッシュを得ることができる。この初期メッシュは、1箇所のみに設定しても良いが、ワークの形状に応じて、適宜、複数の部位に設定されることが望ましい。
【0029】
この場合、解析モデルに新規のメッシュを追加することなく、モニタ画面を見ながら予め初期条件となるメッシュを選択、或いは、事前に初期条件とするメッシュの属性を液体に分離することで、解析モデルを構成する既存のメッシュの中の所定のメッシュを初期メッシュとして設定するようにしても良い。
【0030】
更に、解析モデルを構成する既存のメッシュの中から、所定のメッシュを削除することにより、メッシュが不連続となる部分を強制的に作り出し、削除したメッシュに隣接していたメッシュを、フリーエッジとなる初期メッシュとして設定するようにしても良い。
【0031】
尚、隣接メッシュとは、判定対象となるメッシュに対して節点或いは辺を共有するメッシュである。
【0032】
新規に生成するメッシュや、選択或いは分離或いは削除対象となるメッシュは、ワークの外側面等のように浸漬液に確実に接触する部位であれば、任意の位置に設定することが可能である。一般的には、初期メッシュは、Z方向(重力と反対方向)の高さができるだけ高い位置に設定することが望ましい。
【0033】
例えば、図16に示す底面に凹みのあるソリッド部品の解析モデルSDMに対して、図3に示すように、Z方向(重力と反対方向)の高さが最も高いエッジに、新規のメッシュMFを接合し、解析モデルSDM’として再構築する。この解析モデルSDM’においては、追加されたメッシュMFは、空間に開放されたフリーエッジを有するメッシュであり、このメッシュMFを初期メッシュとして属性を液体に設定する。
【0034】
一方、解析モデルの既存のメッシュの中から初期メッシュを設定する場合には、比較的単純な形状の物体に適用範囲が限定されるが、各メッシュ表面の法線方向と重力方向との関係を調べることにより、初期メッシュとして設定可能なメッシュを選択することができる。
【0035】
例えば、図4に示すような解析モデルSDM2を例に取って説明すると、この解析モデルSDM2を構成する各メッシュに対して、各メッシュ表面の代表点(例えば重心点)から延出した法線と、当該代表点から重力方向に延出した線とで作られる角度が設定角度以上か否かを調べる。例えば、設定角度を90°として、或るメッシュの法線と重力方向との間の角度が90°以上である条件を満足する場合、当該メッシュは物体外側のメッシュであり、表面に空気が滞留することなく浸漬液に確実に接触するメッシュであると判断し、当該メッシュを等価的にフリーエッジの浸漬条件を有するメッシュとして選択する。そして、この選択したメッシュを初期メッシュとして設定し、属性を液体に設定する。
【0036】
エアポケット判定部10cは、解析モデルを形成する個々のメッシュに対して、エアポケットの箇所に相当する気体の属性と電着液等の浸漬個所に相当する液体の属性との何れかを設定する。このメッシュの属性は、当初、全メッシュが気体の属性に設定され(浸漬前)、その後、初期メッシュを含む隣接メッシュとのZ方向の高さの比較により、メッシュの属性が液体となるか気体のままであるか(つまり、エアポケットとなるか否か)を判定し、液体と判定されたとき、そのメッシュの属性を液体に変更し、属性データを書き換える。
【0037】
このエアポケットの判定は、基本的に、浸漬液の比重が空気の比重よりも大きいことを前提としている。すなわち、或るメッシュの属性を判定する際に、判定対象のメッシュと比較対象のメッシュとを、Z方向(重力と反対方向)の高さで比較する。そして、比較対象メッシュが判定対象メッシュよりも高く液体の属性を有していれば、相対的に低い判定対象メッシュにも浸漬液が空気を押しのけて浸入し、浸漬液により満たされるものと判断して、判定対象メッシュの属性データを液体とする。これに対して、相対的に高い比較対象メッシュの属性が気体である場合には、判定対象メッシュの属性データは変更せず、比較対象を変更して判定を繰り返す。そして、この判定を繰り返して全メッシュの属性が液体と気体とに分離・決定され、属性が気体と決定されたメッシュの存在によって示されるエアポケットの気液境界線が導き出される。この気液境界線は、複数本導き出される場合もある。
【0038】
ポスト処理部10dは、シミュレーション結果を容易に把握可能とするための可視化処理やシミュレーション結果のデータ出力を行う。シミュレーション結果の可視化処理においては、液体の属性に決定されたメッシュ、気体の属性に決定されたメッシュ、これらの境界線(気液境界線)を色相や濃淡等によって区分し、エアポケットの発生部位や大きさを明示的に表現する。
【0039】
以下、演算装置10のCPUで実行されるエアポケットのシミュレーション処理について、図5のフローチャートを用いて説明する。
【0040】
図5のシミュレーションプログラムでは、先ず、本発明のモデル構築ステップに相当するステップS1において、対象物の表面形状を複数の表面要素のデータでモデル化し、数値計算のための解析モデルを構築する。この解析モデルは、例えば、ワークの表面形状を複数の三角形のメッシュで分割したモデルで構築される。
【0041】
次に、ステップS2へ進んで解析モデルにおける重力方向を設定し、ステップS3で、対象物が電着液等に浸漬される前の周辺が空気で満たされた状態のシミュレーションとして、一旦、解析モデルの全てのメッシュを気体の属性に設定した後、解析モデルに初期メッシュを設定する。この初期メッシュは、解析モデルへの新規のメッシュの追加(図3参照)、解析モデルのメッシュの中から所定のメッシュを選択(図4参照)或いは分離或いは削除することにより、フリーエッジとなる初期メッシュを設定する。そして、ステップS4で、全メッシュの属性を液体と気体とに分離するための初期条件として、初期メッシュの属性を気体から液体に変更する。以上のステップS3,S4が本発明の初期要素設定ステップに相当する。
【0042】
次に、ステップS5へ進み、本発明の判定ステップに相当するエアポケット判定計算処理を実施する。このエアポケット判定計算処理は、各メッシュの重力と反対方向の高さの比較により、それぞれの属性を決定してエアポケットの発生を判定する処理であり、従来の手法を用いることができる。各メッシュの高さの比較は、例えば、それぞれのメッシュの重心点、内心点、外心点、垂心点等のZ方向(重力と反対方向)における位置や、それぞれのメッシュが有する各頂点のうちの最も高い頂点(Z方向の位置が最も高い頂点)等の特徴点を比較することで行う。
【0043】
例えば、重心点の位置を比較する場合には、判定対象とするメッシュと隣接メッシュとのそれぞれの重心点のZ方向における高さを比較し、隣接メッシュの重心点が判定対象メッシュの重心点よりも高い場合、隣接メッシュの属性が液体であれば、判定対象メッシュの属性を液体に決定する。一方、隣接メッシュの重心点が判定対象メッシュの重心点よりも低い場合には、判定対象メッシュの属性は変更せず、比較対象を変更して判定を繰り返す。この判定を初期メッシュを含む全メッシュについて実行し、液体の属性を有するメッシュと気体の属性を有するメッシュとの境界を気液境界線として検出し、必要に応じて気液境界線を修正する処理を行う。
【0044】
尚、気液境界線を修正する処理は、例えば、1つのエアポケットに所属する複数の境界線に同じ属性を与えて統一化し、各境界線の高さが異なる場合には、1つの水平線に近づけるように修正する。
【0045】
その後、ステップS6へ進み、ポスト処理を実行してメインルーチンを終了する。このポスト処理では、シミュレーション結果を容易に把握可能とするための可視化処理を行って表示装置12へ出力し、また、必要に応じてシミュレーション結果のデータをファイルに出力する。
【0046】
ポスト処理によって表示装置12に表示されるシミュレーション結果は、例えば、図6に例示される。図6の例は、初期メッシュを新規に生成して解析モデルに追加した図3のモデルに対するシミュレーション結果を示しており、底面に凹みが正しくエアポケットとして認識されていることがわかる。
【0047】
また、以上のシミュレーションプログラムは、図7(a)に示すように、下面が開放された突起部102をT字結合した部材101に対しても適用することができ、板厚を考慮することで正確なシミュレーション結果を得ることができる。
【0048】
例えば、部材101に対して、板厚を考慮することなく薄板要素のみで解析モデルを構築すると、図7(b)に示すような解析モデルSFM1が得られる。この解析モデルSFM1では、部材の端部がフリーエッジとなり、処理上は問題なくシミュレーションを実行できるが、突起部102内部に発生するエアポケットを把握することができず、エアポケット無しというシミュレーション結果になり、誤判断を生じる。
【0049】
これに対し、板厚を考慮した解析モデルを表面要素で構築すると、図7(c)に示すような解析モデルSFM2が得られ、全ての表面メッシュが連続してフリーエッジが無くなるが、新規のメッシュMF2を既存のメッシュに接合して追加することにより、フリーエッジとなる初期メッシュを設定することができる。これにより、図7(b)の解析モデルSFM1と同様の手法でシミュレーションを実行することができ、図7(c)に示すように、突起部102内部にエアポケットが発生することを正しく認識したシミュレーション結果を得ることができる。
【0050】
以上、本実施の第1形態によれば、板厚の無視できない部材を全ての表面要素が連続するモデルでシミュレーションする場合においても、意図的にフリーエッジとなる初期要素を設定することで、複雑な3次元モデルを用いることなく、薄板要素のみによる幾何学的手法と同様の手法を用いることができる。これにより、シミュレーションの演算時間の短縮化やコンピュータにかかる負荷の低減を図ることができ、簡便でありながら正確なシミュレーション結果を得ることができる。
【0051】
次に、本発明の実施の第2形態について説明する。図8は本発明の実施の第2形態に係り、エアポケットシミュレーションプログラムのフローチャートである。
【0052】
前述したように、表面要素で構築した解析モデルに初期メッシュを設定する際には、解析モデルの高い位置に初期メッシュを設定することが望ましい。従って、第2形態においては、ワークを液面に対して水平及び垂直方向から見て高い位置にあるメッシュのエッジを抽出し、この抽出したエッジに基づいて初期メッシュを設定する。
【0053】
このエッジ抽出処理を有する第2形態のシミュレーションプログラムは、図8のフローチャートに示される。このシミュレーションプログラムでは、先ず、最初のステップS11,S12において、第1形態のシミュレーションプログラム(図5参照)におけるステップS1,S2と同様、数値計算のための解析モデルを構築し、重力方向を設定する。次に、ステップS13で、ワークを模した解析モデルを水平及び上方方向から眺め、これらの方向から見える表面メッシュを抽出する。
【0054】
次に、ステップS14へ進み、メッシュのエッジ検出角度を、隣接するメッシュとの間の法線の交差角度として設定する。更に、ステップS15で、水平及び上方方向から見える表面メッシュに対して、法線の交差角が指定した値よりも大きいメッシュを抽出し、このメッシュのエッジを高い位置にある処理対象のエッジとして検出する。
【0055】
ステップS15に続くステップS16では、検出したエッジよりも代表点(重心点、内心点、垂心点等)の高さが高いメッシュがあるか否かを調べる。そして、検出したエッジより高いメッシュが無い場合には、ステップS16からステップS18へ進み、検出したエッジより高いメッシュがある場合、ステップS17で、そのメッシュを抽出し、抽出したメッシュのエッジを処理対象のエッジとして、ステップS18へ進む。
【0056】
ステップS18以降は、第1形態と同様であり、ステップS18において初期メッシュを設定する。この初期メッシュの設定は、検出した高い位置のエッジを処理対象として、このエッジに、フリーエッジとなる新たなメッシュを接合する、検出したエッジのメッシュそのものを初期メッシュとする、或いは、検出したエッジに接するメッシュを削除するといった処理を行うことで、初期メッシュを設定する。
【0057】
ステップS19,S20,S21は、第1形態のステップS4,S5,S6と同様であり、初期条件として初期メッシュの属性を気体から液体に変更した後、エアポケット判定計算処理を実施し、ポスト処理によりシミュレーション結果を表示する。
【0058】
第2形態においても、第1形態と同様、意図的にフリーエッジとなる初期要素を設定することで、板厚のある部材に対しても、複雑な3次元モデルを用いることなく、薄板要素のみによる幾何学的手法と同様の手法を適用して正常にシミュレーションを実行することができ、簡便且つ正確なシミュレーション結果を得ることができる。
【0059】
次に、本発明の実施の第3形態について説明する。図9及び図10は本発明の実施の第3形態に係り、図9は立体角の設定を示す説明図、図10は初期設定プログラムのフローチャートである。
【0060】
第3形態は、全ての表面メッシュが連続した解析モデルに対して、前述の第1形態の図4で説明した既存のメッシュの中から初期メッシュとして設定可能なメッシュを選択する手法を発展させ、適用範囲をより拡大するものである。
【0061】
すなわち、第3形態においては、解析モデルを構成する各メッシュに対して立体角ψgを設定し、判定対象とするメッシュの立体角ψgの範囲内の視線方向に他のメッシュが存在するか否かを調べることにより、初期メッシュとして設定可能な否かを判定する。立体角ψgは、図9に示すように、或る1つのメッシュに対して、そのメッシュの代表点(例えば、重心点、内心点、外心点等)を中心として重力方向と反対方向を頂点方向とする半球を想定したとき、その半球の作る角度である。
【0062】
或るメッシュを判定対象として、判定対象メッシュの代表点から立体角ψgの範囲内で他の方向を見たとき、どの方向を見ても他のメッシュが有る場合には、判定対象とするメッシュが他のメッシュ(壁)で囲まれていることを意味し、空気が滞留してエアポケットが発生する可能性が高いことを意味している。逆に、少なくとも1つの方向に他のメッシュが無い場合には、メッシュの無い方向から液体が浸入して判定対象メッシュが液体に浸漬されることを意味する。従って、判定対象メッシュの代表点から立体角ψgの範囲内で他の方向を見たとき、ある1方向のみでも他のメッシュが無い場合には、当該判定対象メッシュを初期メッシュとして設定することができる。
【0063】
尚、判定対象メッシュから立体角ψgの範囲内の視線方向で見て他のメッシュがあるか否かは、例えば、判定対象メッシュからの視線ベクトルと他のメッシュの法線ベクトルとの内積を調べる等して判断することができる。
【0064】
初期メッシュの設定は、具体的には、図10に示す初期設定プログラムに従って実施される。この初期設定プログラムは、前述した第1形態のシミュレーションプログラム(図5参照)におけるステップS3,S4に相当するものである。
【0065】
全体のシミュレーションプログラムにおいて、解析モデルの構築(図5のステップS1)、重力方向の設定(図5のステップS2)が済むと、初期設定プログラムが起動され、最初のステップS31において、解析モデルを構成する表面メッシュの中から、或る表面メッシュが判定対象メッシュとして選択される。
【0066】
次に、ステップS32へ進み、判定対象メッシュの代表点を中心として立体角ψgの範囲内で他の方向を見る。具体的には、判定対象メッシュの代表点を中心として水平方向及び水平より下方向から見上げることになる。そして、ステップS33で、見上げた先に他のメッシュが存在しない方向があるかを否かを調べ、立体角ψgの範囲内で他のメッシュが存在しない方向が1方向でもある場合は、ステップS34で判定対象メッシュを初期液内メッシュに設定する。ここで、初期液内メッシュは、初期条件として液体の属性に設定される初期メッシュである。
【0067】
一方、立体角ψgの範囲内でどの方向を見上げても他のメッシュが存在する場合には、ステップS33からステップS35へ進み、判定対象メッシュを初期液外メッシュに設定する。ここで、初期液外メッシュは、初期条件として気体の属性に設定されるメッシュである。
【0068】
ステップS34或いはステップS35で初期条件を設定した後は、ステップS36へ進み、解析モデルの全ての表面メッシュについて初期設定を実施したか否かを調べる。そして、全ての表面メッシュについての初期設定が完了していない場合には、ステップS31へ戻って次の判定対象メッシュを選択して以上の処理を繰返し、全ての表面メッシュに対して初期設定が完了した場合、本プログラムを終了してシミュレーションプログラムのエアポケット判定計算処理(図5のステップS5)へ進む。
【0069】
第3形態においては、前述の各形態と同様、板厚のある部材に対して複雑な3次元モデルを用いることなく、薄板要素のみによる幾何学的手法と同様の手法を適用して正常にシミュレーションを実行することができ、しかも、既存のモデルを構成する要素の中から初期条件を設定することができ、簡便な手法とすることができる。
【0070】
次に、本発明の実施の第4形態について説明する。図11〜図14は本発明の実施の第4形態に係り、図11は面ベクトルの設定を示す説明図、図12は立体角の定義を示す説明図、図13は面ベクトルと重力ベクトルとで作る角度を示す説明図、図14は初期設定プログラムのフローチャートである。
【0071】
第3形態で説明した立体角ψgを用いて初期メッシュを判定する処理は、立体角ψgの範囲内での全ての方向を見上げて判定処理を行うことになるため、比較的処理時間が掛かる。そこで、第4形態は、第3形態における立体角ψgを小さく絞り込むことにより、処理時間の短縮化を図る。
【0072】
先ず、立体角ψgを絞り込むための前処理として、表面メッシュの生成時に、各メッシュのノードによるベクトルから決定される法線ベクトル(面ベクトル)の方向が物体の外側を向くようにメッシュのノードのレイアウトを整える。図11に示すように、通常は、各メッシュmshの面ベクトルVfの方向を表面(物体外部側)、反対方向を裏面(物体内部側)として表面メッシュを生成する。
【0073】
この面ベクトルVfを用いて、第4形態における立体角ψは、図12に示すように、或る1つのメッシュに対して、そのメッシュの代表点(例えば、重心点、内心点、外心点等)を中心として、重力Gの方向と反対方向を頂点方向とする半球の立体角ψgと、面ベクトルVfの方向を頂点方向とする半球の立体角ψsとが重なる範囲の角度として定義される。
【0074】
第3形態と同様、或るメッシュを判定対象として、判定対象のメッシュの代表点から立体角ψの範囲内の視線方向で他の方向を見たとき、どの方向を見ても他のメッシュが有る場合には、判定対象とするメッシュが他のメッシュ(壁)で囲まれていることを意味し、空気が滞留する可能性が高いことを意味している。
【0075】
逆に、判定対象メッシュから立体角ψの範囲で他の方向を見たとき、ある1方向のみでも(少なくとも1方向に)他のメッシュが無い場合には、メッシュの無い方向から液体が浸入し、判定対象メッシュが液体に浸漬されることを意味し、当該判定対象メッシュを初期メッシュとして設定することができる。
【0076】
この場合、更に高速化を図るためには、初期メッシュの判定対象とするメッシュを絞り込むことが望ましい。以下では、判定対象メッシュの絞り込みを、面ベクトルの方向によって実施する例について説明する。判定対象メッシュの絞り込みは、具体的には、図13に示すように、面ベクトルVfの方向と重力Gの方向とで作る角度θの大きさを調べることで行い、角度θが設定角度(例えば、90°)以上の条件を満足するメッシュのみを抽出して判定対象とする。
【0077】
すなわち、図13(a)に示すようにメッシュの表面側が垂直より上方向を向いている場合には角度θは90°以上であり、図13(b)に示すようにメッシュの表面側が垂直より下方向を向いている場合には角度θは90°未満となるが、このθ<90°のメッシュは、空気が滞留してエアポケットを形成する可能性があるため、初期メッシュの判定対象から除外する。
【0078】
第4形態における初期設定プログラムは、図14に示される。このプログラムでは、最初のステップS41において、解析モデルを構成する表面メッシュの中から、或る表面メッシュを判定対象メッシュとして選択する。そして、ステップS42で、判定対象メッシュの面ベクトル方向と重力方向との間の角度θを算出し、ステップS43で、角度θが90°以上か否かを調べる。
【0079】
ステップS43において、θ<90°の場合には、選択したメッシュを判定対象から除外してステップS41へ戻り、次の判定対象メッシュを選択する。また、θ≧90°の場合、ステップS43からステップS44へ進み、判定対象メッシュの代表点を中心として重力方向と反対方向を頂点方向とする半球の立体角ψgと、判定対象メッシュの面ベクトル方向を頂点方向とする半球の立体角ψsとが重なる範囲の角度を、立体角ψとして算出する。
【0080】
次に、ステップS45へ進み、判定対象メッシュの代表点から立体角ψの範囲内で他の方向を見上げ、ステップS46で、見上げた先に他のメッシュが存在しない方向があるかを否かを調べる。その結果、立体角ψgの範囲内で他のメッシュが存在しない方向が1方向でもある場合は、ステップS47で判定対象メッシュを初期液内メッシュに設定し、立体角ψの範囲内でどの方向を見上げても他のメッシュが存在する場合には、ステップS48で、判定対象メッシュを初期液外メッシュに設定する。
【0081】
ステップS47或いはステップS48で初期条件を設定した後は、ステップS49へ進み、解析モデルの全ての表面メッシュについて初期設定を実施したか否かを調べる。そして、全ての表面メッシュについての初期設定が完了していない場合には、ステップS41へ戻って別の判定対象メッシュを選択して以上の処理を繰返し、全ての表面メッシュに対して初期設定が完了した場合、本プログラムを終了してシミュレーションプログラムのエアポケット判定計算処理(図5のステップS5)へ進む。
【0082】
第4形態では、第3形態に比較してメッシュの代表点を中心とする半球の立体角ψgを絞り込んだ立体角ψを用いることにより、判定処理の処理速度を向上することができる。また、この判定処理を実施する前に、エアポケットを形成する可能性のあるメッシュを予め除外しておくことにより、更なる処理速度の向上を期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の実施の第1形態に係り、シミュレーション装置の基本構成図
【図2】同上、車体の塗装ラインの概略説明図
【図3】同上、フリーエッジとなるメッシュの設定を示す説明図
【図4】同上、初期メッシュの選択条件を示す説明図
【図5】同上、エアポケットシミュレーションプログラムのフローチャート
【図6】同上、シミュレーション結果を示す説明図
【図7】同上、板厚を考慮したシミュレーション結果を示す説明図
【図8】本発明の実施の第2形態に係り、エアポケットシミュレーションプログラムのフローチャート
【図9】本発明の実施の第3形態に係り、立体角の設定を示す説明図
【図10】同上、初期設定プログラムのフローチャート
【図11】本発明の実施の第4形態に係り、面ベクトルの設定を示す説明図
【図12】同上、立体角の定義を示す説明図
【図13】同上、面ベクトルと重力ベクトルとで作る角度を示す説明図
【図14】同上、初期設定プログラムのフローチャート
【図15】底面に凹みのあるソリッド部品を示す説明図
【図16】図7のソリッド部品を表面メッシュでモデル化した例を示す説明図
【符号の説明】
【0084】
1 シミュレーション装置
10 演算装置
10a モデル構築部
10b 初期メッシュ設定部
10c エアポケット判定部
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸漬処理を施す際にワークに生じる空気溜りをシミュレーションする空気溜りのシミュレーション方法及びシミュレーションプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電着塗装やメッキ等におけるワークの浸漬工程においては、均一な塗膜やメッキ膜を形成させるために、ワークに空気溜り(エアポケット)を生じさせないことが重要である。このエアポケットは、複雑な形状のワークを浸漬した際に、その隙間にできる凹部、例えば、自動車等の車体であれば、フード内面、ルーフ内面、フロア下面等の凹部等の空間に空気が残留する現象であり、このエアポケットが発生すると、塗装不良やメッキ不良が発生してしまう。
【0003】
そこで、ワークを浸漬処理する状態をコンピュータを用いてシミュレーションし、エアポケットの発生状況を予測する手法が提案されている。エアポケットのコンピュータシミュレーションとしては、ワークをメッシュやノード等の複数の要素のデータでモデル化し、各要素の属性が気体であるか液体であるかを、要素の特徴点(例えば、重心点、頂点、内心点、外心点、垂心点)同士の重力方向の位置を比較して判定する幾何学的な手法が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ワークの各表面をその頂点座標データに基づいて任意数の三角ポリゴン(三角形の要素)に分割し、各々の三角ポリゴンについて空気と浸漬槽内の液体との状態変化を時々刻々と計算することにより、ワークを入槽角の姿勢にて浸漬槽に模擬浸漬した際にエアポケットとなりうる表面部位であるか否かの判定を行う手法が開示されている。
【0005】
ところで、ワークを複数の要素のデータでモデル化する幾何学的な手法においては、ワークを薄板要素でモデル化し、ワークの端部や穴の縁の部分をフリーエッジとして、このフリーエッジに接する要素を液体の属性に初期設定し、他の要素の属性を判定する際の初期条件とする手法がある(例えば、本出願人による特願2006−19413参照)。
【0006】
これは、ワークの端部や穴の縁の部分等は浸漬時に必ず液体に接することに着目したものであり、フリーエッジに接する要素を液体の属性に初期設定し、この初期設定された要素と他の要素との位置関係から個々の要素の属性を判断する処理を繰り返すことにより、最終的に全要素の属性を決定してエアポケットの有無を判定することができる。
【特許文献1】特開2000−51750号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このフリーエッジに接する要素を初期条件とする幾何学的手法は、板厚を考慮することなくシミュレーション可能な部材に適用する手法であり、簡便ではあるが、薄板要素のみで解析モデルを構築しているため、板厚を無視できない部材には適用困難である。すなわち、ワークの板厚を考慮して複数の表面要素でモデル化すると、全ての面で表面要素が連続するモデルとなり、フリーエッジが無くなってしまう。このため、ワークの板厚を考慮したモデルに、フリーエッジによる初期条件を適用しようとすると、シミュレーションを正常に実行できない。
【0008】
例えば、図15に示すように、底面に凹みのあるソリッド部品100を、複数の表面メッシュでモデル化すると、図16に示すように、全ての面で表面メッシュが連続したモデルSDMとなる。このモデルSDMにはフリーエッジが存在しないため、フリーエッジによる初期条件を設定しようとすると、初期条件設定の時点で異常終了してしまい、適正なシミュレーション結果を得ることができない。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、板厚を無視できない部材に対しても、薄板要素による幾何学的手法と同様の手法で正確なシミュレーション結果を得ることのできる空気溜りのシミュレーション方法及びシミュレーションプログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明による空気溜りのシミュレーション方法は、浸漬処理を施すワークを複数の要素のデータでモデル化し、各要素の属性が気体であるか液体であるかを決定して空気溜りをシミュレーションする空気溜りのシミュレーション方法において、上記ワークの表面形状を複数の表面要素で分割し、この複数の表面要素が上記ワークの全表面で連続した解析モデルを構築するモデル構築ステップと、上記解析モデルに、フリーエッジの浸漬条件を等価的に設定して液体の属性の初期要素を設定する初期要素設定ステップと、上記初期要素を含む任意の表面要素と、この任意の表面要素に隣接する他の表面要素とを、重力と反対方向の高さで比較し、各表面要素の属性を判定する判定ステップとを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明による空気溜りのシミュレーションプログラムは、浸漬処理を施すワークを複数の要素のデータでモデル化し、各要素の属性が気体であるか液体であるかを決定して空気溜りをシミュレーションするコンピュータが実行可能な空気溜りのシミュレーションプログラムにおいて、上記ワークの表面形状を複数の表面要素で分割し、この複数の表面要素が上記ワークの全表面で連続した解析モデルを構築するモデル構築ステップと、上記解析モデルに、フリーエッジの浸漬条件を等価的に設定して液体の属性の初期要素を設定する初期要素設定ステップと、上記初期要素を含む任意の表面要素と、この任意の表面要素に隣接する他の表面要素とを、重力と反対方向の高さで比較し、各表面要素の属性を判定する判定ステップとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、板厚を無視できない部材に対しても、薄板要素による幾何学的手法と同様の手法を適用することができ、簡便で正確なシミュレーション結果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1〜図7は本発明の実施の第1形態に係り、図1はシミュレーション装置の基本構成図、図2は車体の塗装ラインの概略説明図、図3はフリーエッジとなるメッシュの設定を示す説明図、図4は初期メッシュの選択条件を示す説明図、図5はエアポケットシミュレーションプログラムのフローチャート、図6はシミュレーション結果を示す説明図、図7は板厚を考慮したシミュレーション結果を示す説明図である。
【0014】
図1に示すように、本実施の形態におけるシミュレーション装置1は、自動車のボディシェル等のワークに電着塗装やめっき処理等の浸漬処理を施す際に、ワークに生じる空気溜り(エアポケット)をシミュレーションするものである。このエアポケットのシミュレーション装置1は、マイクロコンピュータやパーソナルコンピュータ等の単一のコンピュータ、或いはネットワークを介して相互に接続される複数のコンピュータを用いて構成される。
【0015】
以下では、便宜上、シミュレーション装置1を単一のコンピュータで構成する例について説明する。シミュレーション装置1は、演算装置10、キーボードやマウス等の入力装置11、CRTや液晶ディスプレイ等の表示装置12、磁気ディスクや光ディスク等の外部記憶装置13等を備えている。
【0016】
演算装置10は、CPU、ROM及びRAM等の内部メモリ、入出力インターフェース等を備えており、内部のROM、外部記憶装置13、外部の記憶媒体に記憶させたシミュレーションプログラム、或いは、図示しないネットワークや通信装置を介して外部からロードしたシミュレーションプログラムをCPUで実行し、入力装置11を介して指示された解析対象のワーク(対象物)を擬似的に浸漬槽内に浸漬させ、その浸漬によって対象物に発生するエアポケットをシミュレーションする。
【0017】
例えば、本発明によるシミュレーションの適用例として、車体ボディの電着塗装時における電着液及び空気の分布を数値解析し、被塗装物におけるエアポケットの発生を予測するシミュレーションが挙げられる。ここで、車体ボディの塗装ラインについて、図2を用いて簡単に説明する。
【0018】
図2に示すように、溶接等により複数の車体パネルを互いに接合して構成される自動車の車体ボディ20は、搬送装置21のハンガに搭載された状態で塗装ラインにて略水平方向へ搬送される。塗装ラインでは、電着塗装の前処理として、車体パネルに脱脂、水洗、表面調整、皮膜化成、水洗等の処理が施される。
【0019】
これらの処理の後、車体ボディ20は電着槽22に向かって降下し、電着液23に浸漬された状態で略水平に移動する。この状態で、車体ボディ20と電着槽22内の電極(図示せず)に電圧を加えることにより、車体パネルに塗料が析出するようになっている。この後、搬送装置21により車体ボディ20は電着槽22から引き上げられ、水洗により車体パネルに電着せずに付着している電着液23が除去される。
【0020】
演算装置10において実行されるシミュレーションプログラムの機能は、モデル構築部10a、初期メッシュ設定部10b、エアポケット判定部10c、ポスト処理部10dによって表現することができる。演算装置10は、対象物の形状を複数の要素のデータでモデル化した解析モデルによる幾何学的手法を用いてエアポケットの発生をシミュレーションし、シミュレーション結果を表示装置12に出力して表示させる。尚、表示装置12には、シミュレーション結果のみならずシミュレーション過程を表示させるようにしても良い。
【0021】
本発明によるエアポケットのシミュレーションは、対象物の表面形状を複数の表面要素に分割して構築したサーフェスモデルを用いており、薄板要素による解析モデルと同様の簡便な手法を用いながら、板厚を無視できない部材に対しても正確にエアポケットの発生をシミュレーションすることができる。以下、本実施の形態におけるエアポケットシミュレーションについて説明する。
【0022】
モデル構築部10aは、対象物の形状データを複数の表面要素に分割し、複数の表面要素が対象物の全表面で連続した解析モデルを構築する。解析モデルを構成する手法としては、対象物の表面形状を複数の所定の形状に分割して表現するメッシュを用いる手法や、対象物の表面に複数の節点(ノード)を配置する手法等を用いることができる。以下では、対象物の表面形状を三角形のメッシュで表現したサーフェスモデルを用い、このサーフェスモデルのメッシュデータを三次元空間に配置して解析モデルを構築する例について説明するが、解析モデルの要素としてノードを用いる場合においても処理は同様である。
【0023】
尚、解析モデルの表面要素としてのメッシュの形状は、三角形の形状に限られず、矩形や多角形の形状であっても良い。個々のメッシュには、例えば、自己を識別するためのメッシュ番号、メッシュの節点(ノード)の所定の基準点に対する座標値(三次元空間のXYZ座標軸における座標値)、メッシュの属性等のデータが付与される。以下では、便宜上、XYZ直交座標系におけるZ軸の方向は、重力と反対方向であるものとする。
【0024】
また、外部記憶装置13には、エアポケットのシミュレーション処理に必要な各種のデータが格納されている。例えば、外部記憶装置13は、対象物毎に個別の識別番号(レコード番号)が付された属性レコード群で構成されるデータベースを有し、個々の属性レコードに、各メッシュのメッシュ番号、ノード点座標値、属性データ等が対応付けて記述される。
【0025】
初期メッシュ設定部10bは、フリーエッジの浸漬条件を等価的に設定して液体の属性の初期メッシュを設定する。この初期メッシュは、解析モデルの全メッシュの属性を液体と気体とに分離・決定するための初期条件として用いられるものであり、各メッシュの属性を判定する処理に先立って、予め液体の属性に決定されている要素である。
【0026】
また、フリーエッジは、ワークの縁の部分、すなわちワークの端部やワークに形成された穴の縁の部分を意味し、浸漬時に無条件で液体に接する部分である。換言すれば、フリーエッジは、複数の要素で共有されることのない、単独の要素(メッシュ)のみに所属するエッジ(辺)であり、要素同士が接続されていない不連続な部分であり、必ず液体で浸漬されるという浸漬条件を有している。
【0027】
しかしながら、板厚を無視できない部材、例えば底面に凹みのあるソリッド部品(前述の図15参照)等においては、全ての表面メッシュが連続したモデルとなり、フリーエッジが存在しない。従って、初期メッシュ設定部10bでは、全ての表面メッシュが連続した解析モデルに対してフリーエッジの浸漬条件を等価的に設定し、このフリーエッジの浸漬条件を有するメッシュを初期メッシュとして設定することにより、薄板要素のみによる解析モデルと同様、フリーエッジによる初期条件を設定可能とし、正常にシミュレーションを実行させる。
【0028】
フリーエッジの浸漬条件は、解析モデルを構成する既存のメッシュとは別に、フリーエッジを有する新規のメッシュを生成し、この新規のメッシュを解析モデルの所定のメッシュに接合することにより設定することができ、フリーエッジとなる初期メッシュを得ることができる。この初期メッシュは、1箇所のみに設定しても良いが、ワークの形状に応じて、適宜、複数の部位に設定されることが望ましい。
【0029】
この場合、解析モデルに新規のメッシュを追加することなく、モニタ画面を見ながら予め初期条件となるメッシュを選択、或いは、事前に初期条件とするメッシュの属性を液体に分離することで、解析モデルを構成する既存のメッシュの中の所定のメッシュを初期メッシュとして設定するようにしても良い。
【0030】
更に、解析モデルを構成する既存のメッシュの中から、所定のメッシュを削除することにより、メッシュが不連続となる部分を強制的に作り出し、削除したメッシュに隣接していたメッシュを、フリーエッジとなる初期メッシュとして設定するようにしても良い。
【0031】
尚、隣接メッシュとは、判定対象となるメッシュに対して節点或いは辺を共有するメッシュである。
【0032】
新規に生成するメッシュや、選択或いは分離或いは削除対象となるメッシュは、ワークの外側面等のように浸漬液に確実に接触する部位であれば、任意の位置に設定することが可能である。一般的には、初期メッシュは、Z方向(重力と反対方向)の高さができるだけ高い位置に設定することが望ましい。
【0033】
例えば、図16に示す底面に凹みのあるソリッド部品の解析モデルSDMに対して、図3に示すように、Z方向(重力と反対方向)の高さが最も高いエッジに、新規のメッシュMFを接合し、解析モデルSDM’として再構築する。この解析モデルSDM’においては、追加されたメッシュMFは、空間に開放されたフリーエッジを有するメッシュであり、このメッシュMFを初期メッシュとして属性を液体に設定する。
【0034】
一方、解析モデルの既存のメッシュの中から初期メッシュを設定する場合には、比較的単純な形状の物体に適用範囲が限定されるが、各メッシュ表面の法線方向と重力方向との関係を調べることにより、初期メッシュとして設定可能なメッシュを選択することができる。
【0035】
例えば、図4に示すような解析モデルSDM2を例に取って説明すると、この解析モデルSDM2を構成する各メッシュに対して、各メッシュ表面の代表点(例えば重心点)から延出した法線と、当該代表点から重力方向に延出した線とで作られる角度が設定角度以上か否かを調べる。例えば、設定角度を90°として、或るメッシュの法線と重力方向との間の角度が90°以上である条件を満足する場合、当該メッシュは物体外側のメッシュであり、表面に空気が滞留することなく浸漬液に確実に接触するメッシュであると判断し、当該メッシュを等価的にフリーエッジの浸漬条件を有するメッシュとして選択する。そして、この選択したメッシュを初期メッシュとして設定し、属性を液体に設定する。
【0036】
エアポケット判定部10cは、解析モデルを形成する個々のメッシュに対して、エアポケットの箇所に相当する気体の属性と電着液等の浸漬個所に相当する液体の属性との何れかを設定する。このメッシュの属性は、当初、全メッシュが気体の属性に設定され(浸漬前)、その後、初期メッシュを含む隣接メッシュとのZ方向の高さの比較により、メッシュの属性が液体となるか気体のままであるか(つまり、エアポケットとなるか否か)を判定し、液体と判定されたとき、そのメッシュの属性を液体に変更し、属性データを書き換える。
【0037】
このエアポケットの判定は、基本的に、浸漬液の比重が空気の比重よりも大きいことを前提としている。すなわち、或るメッシュの属性を判定する際に、判定対象のメッシュと比較対象のメッシュとを、Z方向(重力と反対方向)の高さで比較する。そして、比較対象メッシュが判定対象メッシュよりも高く液体の属性を有していれば、相対的に低い判定対象メッシュにも浸漬液が空気を押しのけて浸入し、浸漬液により満たされるものと判断して、判定対象メッシュの属性データを液体とする。これに対して、相対的に高い比較対象メッシュの属性が気体である場合には、判定対象メッシュの属性データは変更せず、比較対象を変更して判定を繰り返す。そして、この判定を繰り返して全メッシュの属性が液体と気体とに分離・決定され、属性が気体と決定されたメッシュの存在によって示されるエアポケットの気液境界線が導き出される。この気液境界線は、複数本導き出される場合もある。
【0038】
ポスト処理部10dは、シミュレーション結果を容易に把握可能とするための可視化処理やシミュレーション結果のデータ出力を行う。シミュレーション結果の可視化処理においては、液体の属性に決定されたメッシュ、気体の属性に決定されたメッシュ、これらの境界線(気液境界線)を色相や濃淡等によって区分し、エアポケットの発生部位や大きさを明示的に表現する。
【0039】
以下、演算装置10のCPUで実行されるエアポケットのシミュレーション処理について、図5のフローチャートを用いて説明する。
【0040】
図5のシミュレーションプログラムでは、先ず、本発明のモデル構築ステップに相当するステップS1において、対象物の表面形状を複数の表面要素のデータでモデル化し、数値計算のための解析モデルを構築する。この解析モデルは、例えば、ワークの表面形状を複数の三角形のメッシュで分割したモデルで構築される。
【0041】
次に、ステップS2へ進んで解析モデルにおける重力方向を設定し、ステップS3で、対象物が電着液等に浸漬される前の周辺が空気で満たされた状態のシミュレーションとして、一旦、解析モデルの全てのメッシュを気体の属性に設定した後、解析モデルに初期メッシュを設定する。この初期メッシュは、解析モデルへの新規のメッシュの追加(図3参照)、解析モデルのメッシュの中から所定のメッシュを選択(図4参照)或いは分離或いは削除することにより、フリーエッジとなる初期メッシュを設定する。そして、ステップS4で、全メッシュの属性を液体と気体とに分離するための初期条件として、初期メッシュの属性を気体から液体に変更する。以上のステップS3,S4が本発明の初期要素設定ステップに相当する。
【0042】
次に、ステップS5へ進み、本発明の判定ステップに相当するエアポケット判定計算処理を実施する。このエアポケット判定計算処理は、各メッシュの重力と反対方向の高さの比較により、それぞれの属性を決定してエアポケットの発生を判定する処理であり、従来の手法を用いることができる。各メッシュの高さの比較は、例えば、それぞれのメッシュの重心点、内心点、外心点、垂心点等のZ方向(重力と反対方向)における位置や、それぞれのメッシュが有する各頂点のうちの最も高い頂点(Z方向の位置が最も高い頂点)等の特徴点を比較することで行う。
【0043】
例えば、重心点の位置を比較する場合には、判定対象とするメッシュと隣接メッシュとのそれぞれの重心点のZ方向における高さを比較し、隣接メッシュの重心点が判定対象メッシュの重心点よりも高い場合、隣接メッシュの属性が液体であれば、判定対象メッシュの属性を液体に決定する。一方、隣接メッシュの重心点が判定対象メッシュの重心点よりも低い場合には、判定対象メッシュの属性は変更せず、比較対象を変更して判定を繰り返す。この判定を初期メッシュを含む全メッシュについて実行し、液体の属性を有するメッシュと気体の属性を有するメッシュとの境界を気液境界線として検出し、必要に応じて気液境界線を修正する処理を行う。
【0044】
尚、気液境界線を修正する処理は、例えば、1つのエアポケットに所属する複数の境界線に同じ属性を与えて統一化し、各境界線の高さが異なる場合には、1つの水平線に近づけるように修正する。
【0045】
その後、ステップS6へ進み、ポスト処理を実行してメインルーチンを終了する。このポスト処理では、シミュレーション結果を容易に把握可能とするための可視化処理を行って表示装置12へ出力し、また、必要に応じてシミュレーション結果のデータをファイルに出力する。
【0046】
ポスト処理によって表示装置12に表示されるシミュレーション結果は、例えば、図6に例示される。図6の例は、初期メッシュを新規に生成して解析モデルに追加した図3のモデルに対するシミュレーション結果を示しており、底面に凹みが正しくエアポケットとして認識されていることがわかる。
【0047】
また、以上のシミュレーションプログラムは、図7(a)に示すように、下面が開放された突起部102をT字結合した部材101に対しても適用することができ、板厚を考慮することで正確なシミュレーション結果を得ることができる。
【0048】
例えば、部材101に対して、板厚を考慮することなく薄板要素のみで解析モデルを構築すると、図7(b)に示すような解析モデルSFM1が得られる。この解析モデルSFM1では、部材の端部がフリーエッジとなり、処理上は問題なくシミュレーションを実行できるが、突起部102内部に発生するエアポケットを把握することができず、エアポケット無しというシミュレーション結果になり、誤判断を生じる。
【0049】
これに対し、板厚を考慮した解析モデルを表面要素で構築すると、図7(c)に示すような解析モデルSFM2が得られ、全ての表面メッシュが連続してフリーエッジが無くなるが、新規のメッシュMF2を既存のメッシュに接合して追加することにより、フリーエッジとなる初期メッシュを設定することができる。これにより、図7(b)の解析モデルSFM1と同様の手法でシミュレーションを実行することができ、図7(c)に示すように、突起部102内部にエアポケットが発生することを正しく認識したシミュレーション結果を得ることができる。
【0050】
以上、本実施の第1形態によれば、板厚の無視できない部材を全ての表面要素が連続するモデルでシミュレーションする場合においても、意図的にフリーエッジとなる初期要素を設定することで、複雑な3次元モデルを用いることなく、薄板要素のみによる幾何学的手法と同様の手法を用いることができる。これにより、シミュレーションの演算時間の短縮化やコンピュータにかかる負荷の低減を図ることができ、簡便でありながら正確なシミュレーション結果を得ることができる。
【0051】
次に、本発明の実施の第2形態について説明する。図8は本発明の実施の第2形態に係り、エアポケットシミュレーションプログラムのフローチャートである。
【0052】
前述したように、表面要素で構築した解析モデルに初期メッシュを設定する際には、解析モデルの高い位置に初期メッシュを設定することが望ましい。従って、第2形態においては、ワークを液面に対して水平及び垂直方向から見て高い位置にあるメッシュのエッジを抽出し、この抽出したエッジに基づいて初期メッシュを設定する。
【0053】
このエッジ抽出処理を有する第2形態のシミュレーションプログラムは、図8のフローチャートに示される。このシミュレーションプログラムでは、先ず、最初のステップS11,S12において、第1形態のシミュレーションプログラム(図5参照)におけるステップS1,S2と同様、数値計算のための解析モデルを構築し、重力方向を設定する。次に、ステップS13で、ワークを模した解析モデルを水平及び上方方向から眺め、これらの方向から見える表面メッシュを抽出する。
【0054】
次に、ステップS14へ進み、メッシュのエッジ検出角度を、隣接するメッシュとの間の法線の交差角度として設定する。更に、ステップS15で、水平及び上方方向から見える表面メッシュに対して、法線の交差角が指定した値よりも大きいメッシュを抽出し、このメッシュのエッジを高い位置にある処理対象のエッジとして検出する。
【0055】
ステップS15に続くステップS16では、検出したエッジよりも代表点(重心点、内心点、垂心点等)の高さが高いメッシュがあるか否かを調べる。そして、検出したエッジより高いメッシュが無い場合には、ステップS16からステップS18へ進み、検出したエッジより高いメッシュがある場合、ステップS17で、そのメッシュを抽出し、抽出したメッシュのエッジを処理対象のエッジとして、ステップS18へ進む。
【0056】
ステップS18以降は、第1形態と同様であり、ステップS18において初期メッシュを設定する。この初期メッシュの設定は、検出した高い位置のエッジを処理対象として、このエッジに、フリーエッジとなる新たなメッシュを接合する、検出したエッジのメッシュそのものを初期メッシュとする、或いは、検出したエッジに接するメッシュを削除するといった処理を行うことで、初期メッシュを設定する。
【0057】
ステップS19,S20,S21は、第1形態のステップS4,S5,S6と同様であり、初期条件として初期メッシュの属性を気体から液体に変更した後、エアポケット判定計算処理を実施し、ポスト処理によりシミュレーション結果を表示する。
【0058】
第2形態においても、第1形態と同様、意図的にフリーエッジとなる初期要素を設定することで、板厚のある部材に対しても、複雑な3次元モデルを用いることなく、薄板要素のみによる幾何学的手法と同様の手法を適用して正常にシミュレーションを実行することができ、簡便且つ正確なシミュレーション結果を得ることができる。
【0059】
次に、本発明の実施の第3形態について説明する。図9及び図10は本発明の実施の第3形態に係り、図9は立体角の設定を示す説明図、図10は初期設定プログラムのフローチャートである。
【0060】
第3形態は、全ての表面メッシュが連続した解析モデルに対して、前述の第1形態の図4で説明した既存のメッシュの中から初期メッシュとして設定可能なメッシュを選択する手法を発展させ、適用範囲をより拡大するものである。
【0061】
すなわち、第3形態においては、解析モデルを構成する各メッシュに対して立体角ψgを設定し、判定対象とするメッシュの立体角ψgの範囲内の視線方向に他のメッシュが存在するか否かを調べることにより、初期メッシュとして設定可能な否かを判定する。立体角ψgは、図9に示すように、或る1つのメッシュに対して、そのメッシュの代表点(例えば、重心点、内心点、外心点等)を中心として重力方向と反対方向を頂点方向とする半球を想定したとき、その半球の作る角度である。
【0062】
或るメッシュを判定対象として、判定対象メッシュの代表点から立体角ψgの範囲内で他の方向を見たとき、どの方向を見ても他のメッシュが有る場合には、判定対象とするメッシュが他のメッシュ(壁)で囲まれていることを意味し、空気が滞留してエアポケットが発生する可能性が高いことを意味している。逆に、少なくとも1つの方向に他のメッシュが無い場合には、メッシュの無い方向から液体が浸入して判定対象メッシュが液体に浸漬されることを意味する。従って、判定対象メッシュの代表点から立体角ψgの範囲内で他の方向を見たとき、ある1方向のみでも他のメッシュが無い場合には、当該判定対象メッシュを初期メッシュとして設定することができる。
【0063】
尚、判定対象メッシュから立体角ψgの範囲内の視線方向で見て他のメッシュがあるか否かは、例えば、判定対象メッシュからの視線ベクトルと他のメッシュの法線ベクトルとの内積を調べる等して判断することができる。
【0064】
初期メッシュの設定は、具体的には、図10に示す初期設定プログラムに従って実施される。この初期設定プログラムは、前述した第1形態のシミュレーションプログラム(図5参照)におけるステップS3,S4に相当するものである。
【0065】
全体のシミュレーションプログラムにおいて、解析モデルの構築(図5のステップS1)、重力方向の設定(図5のステップS2)が済むと、初期設定プログラムが起動され、最初のステップS31において、解析モデルを構成する表面メッシュの中から、或る表面メッシュが判定対象メッシュとして選択される。
【0066】
次に、ステップS32へ進み、判定対象メッシュの代表点を中心として立体角ψgの範囲内で他の方向を見る。具体的には、判定対象メッシュの代表点を中心として水平方向及び水平より下方向から見上げることになる。そして、ステップS33で、見上げた先に他のメッシュが存在しない方向があるかを否かを調べ、立体角ψgの範囲内で他のメッシュが存在しない方向が1方向でもある場合は、ステップS34で判定対象メッシュを初期液内メッシュに設定する。ここで、初期液内メッシュは、初期条件として液体の属性に設定される初期メッシュである。
【0067】
一方、立体角ψgの範囲内でどの方向を見上げても他のメッシュが存在する場合には、ステップS33からステップS35へ進み、判定対象メッシュを初期液外メッシュに設定する。ここで、初期液外メッシュは、初期条件として気体の属性に設定されるメッシュである。
【0068】
ステップS34或いはステップS35で初期条件を設定した後は、ステップS36へ進み、解析モデルの全ての表面メッシュについて初期設定を実施したか否かを調べる。そして、全ての表面メッシュについての初期設定が完了していない場合には、ステップS31へ戻って次の判定対象メッシュを選択して以上の処理を繰返し、全ての表面メッシュに対して初期設定が完了した場合、本プログラムを終了してシミュレーションプログラムのエアポケット判定計算処理(図5のステップS5)へ進む。
【0069】
第3形態においては、前述の各形態と同様、板厚のある部材に対して複雑な3次元モデルを用いることなく、薄板要素のみによる幾何学的手法と同様の手法を適用して正常にシミュレーションを実行することができ、しかも、既存のモデルを構成する要素の中から初期条件を設定することができ、簡便な手法とすることができる。
【0070】
次に、本発明の実施の第4形態について説明する。図11〜図14は本発明の実施の第4形態に係り、図11は面ベクトルの設定を示す説明図、図12は立体角の定義を示す説明図、図13は面ベクトルと重力ベクトルとで作る角度を示す説明図、図14は初期設定プログラムのフローチャートである。
【0071】
第3形態で説明した立体角ψgを用いて初期メッシュを判定する処理は、立体角ψgの範囲内での全ての方向を見上げて判定処理を行うことになるため、比較的処理時間が掛かる。そこで、第4形態は、第3形態における立体角ψgを小さく絞り込むことにより、処理時間の短縮化を図る。
【0072】
先ず、立体角ψgを絞り込むための前処理として、表面メッシュの生成時に、各メッシュのノードによるベクトルから決定される法線ベクトル(面ベクトル)の方向が物体の外側を向くようにメッシュのノードのレイアウトを整える。図11に示すように、通常は、各メッシュmshの面ベクトルVfの方向を表面(物体外部側)、反対方向を裏面(物体内部側)として表面メッシュを生成する。
【0073】
この面ベクトルVfを用いて、第4形態における立体角ψは、図12に示すように、或る1つのメッシュに対して、そのメッシュの代表点(例えば、重心点、内心点、外心点等)を中心として、重力Gの方向と反対方向を頂点方向とする半球の立体角ψgと、面ベクトルVfの方向を頂点方向とする半球の立体角ψsとが重なる範囲の角度として定義される。
【0074】
第3形態と同様、或るメッシュを判定対象として、判定対象のメッシュの代表点から立体角ψの範囲内の視線方向で他の方向を見たとき、どの方向を見ても他のメッシュが有る場合には、判定対象とするメッシュが他のメッシュ(壁)で囲まれていることを意味し、空気が滞留する可能性が高いことを意味している。
【0075】
逆に、判定対象メッシュから立体角ψの範囲で他の方向を見たとき、ある1方向のみでも(少なくとも1方向に)他のメッシュが無い場合には、メッシュの無い方向から液体が浸入し、判定対象メッシュが液体に浸漬されることを意味し、当該判定対象メッシュを初期メッシュとして設定することができる。
【0076】
この場合、更に高速化を図るためには、初期メッシュの判定対象とするメッシュを絞り込むことが望ましい。以下では、判定対象メッシュの絞り込みを、面ベクトルの方向によって実施する例について説明する。判定対象メッシュの絞り込みは、具体的には、図13に示すように、面ベクトルVfの方向と重力Gの方向とで作る角度θの大きさを調べることで行い、角度θが設定角度(例えば、90°)以上の条件を満足するメッシュのみを抽出して判定対象とする。
【0077】
すなわち、図13(a)に示すようにメッシュの表面側が垂直より上方向を向いている場合には角度θは90°以上であり、図13(b)に示すようにメッシュの表面側が垂直より下方向を向いている場合には角度θは90°未満となるが、このθ<90°のメッシュは、空気が滞留してエアポケットを形成する可能性があるため、初期メッシュの判定対象から除外する。
【0078】
第4形態における初期設定プログラムは、図14に示される。このプログラムでは、最初のステップS41において、解析モデルを構成する表面メッシュの中から、或る表面メッシュを判定対象メッシュとして選択する。そして、ステップS42で、判定対象メッシュの面ベクトル方向と重力方向との間の角度θを算出し、ステップS43で、角度θが90°以上か否かを調べる。
【0079】
ステップS43において、θ<90°の場合には、選択したメッシュを判定対象から除外してステップS41へ戻り、次の判定対象メッシュを選択する。また、θ≧90°の場合、ステップS43からステップS44へ進み、判定対象メッシュの代表点を中心として重力方向と反対方向を頂点方向とする半球の立体角ψgと、判定対象メッシュの面ベクトル方向を頂点方向とする半球の立体角ψsとが重なる範囲の角度を、立体角ψとして算出する。
【0080】
次に、ステップS45へ進み、判定対象メッシュの代表点から立体角ψの範囲内で他の方向を見上げ、ステップS46で、見上げた先に他のメッシュが存在しない方向があるかを否かを調べる。その結果、立体角ψgの範囲内で他のメッシュが存在しない方向が1方向でもある場合は、ステップS47で判定対象メッシュを初期液内メッシュに設定し、立体角ψの範囲内でどの方向を見上げても他のメッシュが存在する場合には、ステップS48で、判定対象メッシュを初期液外メッシュに設定する。
【0081】
ステップS47或いはステップS48で初期条件を設定した後は、ステップS49へ進み、解析モデルの全ての表面メッシュについて初期設定を実施したか否かを調べる。そして、全ての表面メッシュについての初期設定が完了していない場合には、ステップS41へ戻って別の判定対象メッシュを選択して以上の処理を繰返し、全ての表面メッシュに対して初期設定が完了した場合、本プログラムを終了してシミュレーションプログラムのエアポケット判定計算処理(図5のステップS5)へ進む。
【0082】
第4形態では、第3形態に比較してメッシュの代表点を中心とする半球の立体角ψgを絞り込んだ立体角ψを用いることにより、判定処理の処理速度を向上することができる。また、この判定処理を実施する前に、エアポケットを形成する可能性のあるメッシュを予め除外しておくことにより、更なる処理速度の向上を期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の実施の第1形態に係り、シミュレーション装置の基本構成図
【図2】同上、車体の塗装ラインの概略説明図
【図3】同上、フリーエッジとなるメッシュの設定を示す説明図
【図4】同上、初期メッシュの選択条件を示す説明図
【図5】同上、エアポケットシミュレーションプログラムのフローチャート
【図6】同上、シミュレーション結果を示す説明図
【図7】同上、板厚を考慮したシミュレーション結果を示す説明図
【図8】本発明の実施の第2形態に係り、エアポケットシミュレーションプログラムのフローチャート
【図9】本発明の実施の第3形態に係り、立体角の設定を示す説明図
【図10】同上、初期設定プログラムのフローチャート
【図11】本発明の実施の第4形態に係り、面ベクトルの設定を示す説明図
【図12】同上、立体角の定義を示す説明図
【図13】同上、面ベクトルと重力ベクトルとで作る角度を示す説明図
【図14】同上、初期設定プログラムのフローチャート
【図15】底面に凹みのあるソリッド部品を示す説明図
【図16】図7のソリッド部品を表面メッシュでモデル化した例を示す説明図
【符号の説明】
【0084】
1 シミュレーション装置
10 演算装置
10a モデル構築部
10b 初期メッシュ設定部
10c エアポケット判定部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浸漬処理を施すワークを複数の要素のデータでモデル化し、重力方向の位置関係に基づいて各要素の属性が気体であるか液体であるかを決定して空気溜りをシミュレーションする空気溜りのシミュレーション方法において、
上記ワークの表面形状を複数の表面要素で分割し、この複数の表面要素が上記ワークの全表面で連続した解析モデルを構築するモデル構築ステップと、
上記解析モデルに、フリーエッジの浸漬条件を等価的に設定して液体の属性の初期要素を設定する初期要素設定ステップと、
上記初期要素を含む任意の表面要素と、この任意の表面要素に隣接する他の表面要素とを、重力と反対方向の高さで比較し、各表面要素の属性を判定する判定ステップと
を備えることを特徴とする空気溜まりのシミュレーション方法。
【請求項2】
上記初期要素設定ステップにおいては、
上記解析モデルに、上記フリーエッジを有する新たな要素を追加し、この追加した要素を上記初期要素として設定することを特徴とする請求項1記載の空気溜りのシミュレーション方法。
【請求項3】
上記初期要素設定ステップにおいては、
上記解析モデルから所定の表面要素を削除し、この削除した表面要素に隣接していた表面要素を上記初期要素として設定することを特徴とする請求項1記載の空気溜りのシミュレーション方法。
【請求項4】
上記初期要素設定ステップにおいては、
上記解析モデルの所定の表面要素を選択し、この選択した表面要素を上記初期要素として設定することを特徴とする請求項1記載の空気溜りのシミュレーション方法。
【請求項5】
上記初期要素設定ステップにおいては、
上記初期要素を、上記解析モデルにおける重力と反対方向の高さが最も高い位置に設定することを特徴とする請求項1〜4の何れか一に記載の空気溜りのシミュレーション方法。
【請求項6】
上記表面要素の法線方向が重力方向に対して設定角度以上の要素を選択し、上記初期要素として設定することを特徴とする請求項4記載の空気溜りのシミュレーション方法。
【請求項7】
上記表面要素の代表点を中心として重力方向と反対方向に立体角を設定した後、この立体角の範囲内の少なくとも1つの視線方向に他の表面要素が存在しない要素を選択し、上記初期要素として設定することを特徴とする請求項4記載の空気溜りのシミュレーション方法。
【請求項8】
上記表面要素の法線方向が重力方向に対して設定角度以上の要素を抽出した後、抽出した要素の中から上記立体角の範囲内の少なくとも1つの視線方向に他の表面要素が存在しない要素を選択し、上記初期要素として設定することを特徴とする請求項7記載の空気溜りのシミュレーション方法。
【請求項9】
浸漬処理を施すワークを複数の要素のデータでモデル化し、重力方向の位置関係に基づいて各要素の属性が気体であるか液体であるかを決定して空気溜りをシミュレーションするコンピュータが実行可能な空気溜りのシミュレーションプログラムにおいて、
上記ワークの表面形状を複数の表面要素で分割し、この複数の表面要素が上記ワークの全表面で連続した解析モデルを構築するモデル構築ステップと、
上記解析モデルに、フリーエッジの浸漬条件を等価的に設定して液体の属性の初期要素を設定する初期要素設定ステップと、
上記初期要素を含む任意の表面要素と、この任意の表面要素に隣接する他の表面要素とを、重力と反対方向の高さで比較し、各表面要素の属性を判定する判定ステップと
を備えることを特徴とする空気溜まりのシミュレーションプログラム。
【請求項10】
上記初期要素設定ステップにおいては、
上記解析モデルに、上記フリーエッジを有する新たな要素を追加し、この追加した要素を上記初期要素として設定することを特徴とする請求項9記載の空気溜りのシミュレーションプログラム。
【請求項11】
上記初期要素設定ステップにおいては、
上記解析モデルから所定の表面要素を削除し、この削除した表面要素に隣接していた表面要素を上記初期要素として設定することを特徴とする請求項9記載の空気溜りのシミュレーションプログラム。
【請求項12】
上記初期要素設定ステップにおいては、
上記解析モデルの所定の表面要素を選択し、この選択した表面要素を上記初期要素として設定することを特徴とする請求項9記載の空気溜りのシミュレーションプログラム。
【請求項13】
上記初期要素設定ステップにおいては、
上記初期要素を、上記解析モデルにおける重力と反対方向の高さが最も高い位置に設定することを特徴とする請求項9〜12の何れか一に記載の空気溜りのシミュレーションプログラム。
【請求項14】
上記表面要素の法線方向が重力方向に対して設定角度以上の要素を選択し、上記初期要素として設定することを特徴とする請求項12記載の空気溜りのシミュレーションプログラム。
【請求項15】
上記表面要素の代表点を中心として重力方向と反対方向に立体角を設定した後、この立体角の範囲内の少なくとも1つの視線方向に他の表面要素が存在しない要素を選択し、上記初期要素として設定することを特徴とする請求項12記載の空気溜りのシミュレーションプログラム。
【請求項16】
上記表面要素の法線方向が重力方向に対して設定角度以上の要素を抽出した後、抽出した要素の中から上記立体角の範囲内の少なくとも1つの視線方向に他の表面要素が存在しない要素を選択し、上記初期要素として設定することを特徴とする請求項15記載の空気溜りのシミュレーションプログラム。
【請求項1】
浸漬処理を施すワークを複数の要素のデータでモデル化し、重力方向の位置関係に基づいて各要素の属性が気体であるか液体であるかを決定して空気溜りをシミュレーションする空気溜りのシミュレーション方法において、
上記ワークの表面形状を複数の表面要素で分割し、この複数の表面要素が上記ワークの全表面で連続した解析モデルを構築するモデル構築ステップと、
上記解析モデルに、フリーエッジの浸漬条件を等価的に設定して液体の属性の初期要素を設定する初期要素設定ステップと、
上記初期要素を含む任意の表面要素と、この任意の表面要素に隣接する他の表面要素とを、重力と反対方向の高さで比較し、各表面要素の属性を判定する判定ステップと
を備えることを特徴とする空気溜まりのシミュレーション方法。
【請求項2】
上記初期要素設定ステップにおいては、
上記解析モデルに、上記フリーエッジを有する新たな要素を追加し、この追加した要素を上記初期要素として設定することを特徴とする請求項1記載の空気溜りのシミュレーション方法。
【請求項3】
上記初期要素設定ステップにおいては、
上記解析モデルから所定の表面要素を削除し、この削除した表面要素に隣接していた表面要素を上記初期要素として設定することを特徴とする請求項1記載の空気溜りのシミュレーション方法。
【請求項4】
上記初期要素設定ステップにおいては、
上記解析モデルの所定の表面要素を選択し、この選択した表面要素を上記初期要素として設定することを特徴とする請求項1記載の空気溜りのシミュレーション方法。
【請求項5】
上記初期要素設定ステップにおいては、
上記初期要素を、上記解析モデルにおける重力と反対方向の高さが最も高い位置に設定することを特徴とする請求項1〜4の何れか一に記載の空気溜りのシミュレーション方法。
【請求項6】
上記表面要素の法線方向が重力方向に対して設定角度以上の要素を選択し、上記初期要素として設定することを特徴とする請求項4記載の空気溜りのシミュレーション方法。
【請求項7】
上記表面要素の代表点を中心として重力方向と反対方向に立体角を設定した後、この立体角の範囲内の少なくとも1つの視線方向に他の表面要素が存在しない要素を選択し、上記初期要素として設定することを特徴とする請求項4記載の空気溜りのシミュレーション方法。
【請求項8】
上記表面要素の法線方向が重力方向に対して設定角度以上の要素を抽出した後、抽出した要素の中から上記立体角の範囲内の少なくとも1つの視線方向に他の表面要素が存在しない要素を選択し、上記初期要素として設定することを特徴とする請求項7記載の空気溜りのシミュレーション方法。
【請求項9】
浸漬処理を施すワークを複数の要素のデータでモデル化し、重力方向の位置関係に基づいて各要素の属性が気体であるか液体であるかを決定して空気溜りをシミュレーションするコンピュータが実行可能な空気溜りのシミュレーションプログラムにおいて、
上記ワークの表面形状を複数の表面要素で分割し、この複数の表面要素が上記ワークの全表面で連続した解析モデルを構築するモデル構築ステップと、
上記解析モデルに、フリーエッジの浸漬条件を等価的に設定して液体の属性の初期要素を設定する初期要素設定ステップと、
上記初期要素を含む任意の表面要素と、この任意の表面要素に隣接する他の表面要素とを、重力と反対方向の高さで比較し、各表面要素の属性を判定する判定ステップと
を備えることを特徴とする空気溜まりのシミュレーションプログラム。
【請求項10】
上記初期要素設定ステップにおいては、
上記解析モデルに、上記フリーエッジを有する新たな要素を追加し、この追加した要素を上記初期要素として設定することを特徴とする請求項9記載の空気溜りのシミュレーションプログラム。
【請求項11】
上記初期要素設定ステップにおいては、
上記解析モデルから所定の表面要素を削除し、この削除した表面要素に隣接していた表面要素を上記初期要素として設定することを特徴とする請求項9記載の空気溜りのシミュレーションプログラム。
【請求項12】
上記初期要素設定ステップにおいては、
上記解析モデルの所定の表面要素を選択し、この選択した表面要素を上記初期要素として設定することを特徴とする請求項9記載の空気溜りのシミュレーションプログラム。
【請求項13】
上記初期要素設定ステップにおいては、
上記初期要素を、上記解析モデルにおける重力と反対方向の高さが最も高い位置に設定することを特徴とする請求項9〜12の何れか一に記載の空気溜りのシミュレーションプログラム。
【請求項14】
上記表面要素の法線方向が重力方向に対して設定角度以上の要素を選択し、上記初期要素として設定することを特徴とする請求項12記載の空気溜りのシミュレーションプログラム。
【請求項15】
上記表面要素の代表点を中心として重力方向と反対方向に立体角を設定した後、この立体角の範囲内の少なくとも1つの視線方向に他の表面要素が存在しない要素を選択し、上記初期要素として設定することを特徴とする請求項12記載の空気溜りのシミュレーションプログラム。
【請求項16】
上記表面要素の法線方向が重力方向に対して設定角度以上の要素を抽出した後、抽出した要素の中から上記立体角の範囲内の少なくとも1つの視線方向に他の表面要素が存在しない要素を選択し、上記初期要素として設定することを特徴とする請求項15記載の空気溜りのシミュレーションプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2008−77347(P2008−77347A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−254787(P2006−254787)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】
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