説明

空気調和機

【課題】圧縮機の永久磁石同期モータにステータのコイル接続を直列接続と並列接続に切替えることにより2つの最高効率点を持たせた空気調和機を運転するとき、コイル接続の切替時にモータ制御が不安定になりやすいという問題がある。
【解決手段】アクティブモードとパッシブモードの制御モードを有するスイッチング手段を備えたコンバータと、ステータのコイルの接続変更を可能とするようにコイル接続線を出した圧縮機内部の永久磁石同期モータと、前記永久磁石モータのステータのコイルを並列接続,直列接続に接続変更を行うコイル接続切替手段とを備えた空気調和機においてコンバータのスイッチング手段をアクティブモードのときにコイル接続を切替えることにより安定な運転を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は永久磁石同期モータを用いる圧縮機を搭載した室外機と、室内機から構成される空気調和機において、運転状態の異なる中間能力や定格能力時のシステム効率の高効率化を両立させることで、通年エネルギー効率を大幅に改善する空気調和機に係わる。
【背景技術】
【0002】
空気調和機の室外機に搭載される圧縮機には永久磁石同期モータが広く用いられることが一般的である。その理由には直流モータの高効率性,回転制御の容易さなどがある。その永久磁石同期モータを駆動するには、三相交流電圧を印加する必要がある。具体的には、商用電源から直流電圧に変換した後、三相交流電圧に変換して与え、その電圧の周波数や大きさを回転子となるロータの角速度を一定とするために制御する必要がある。ここで、固定子となるステータのコイルには誘起電圧が発生するため、三相交流電圧は、その誘起電圧よりも大きな電圧が必要となる。これらは一般的に知られており、永久磁石同期モータを広範囲で且つ高効率に駆動する技術が多く提案されている。
【0003】
例えば特許文献1は永久磁石同期モータに印加する三相交流電圧を形成する前の直流電圧を低圧から高圧まで高効率でかつ任意に可変する手段が提案されている。以下、その内容を簡単に説明する。商用電源にはリアクトルを介して整流回路とコンデンサからなる平滑回路が接続されている。これにより商用電源を全波整流して直流電圧を得ている。また、リアクトルには整流回路を介して商用電源を短絡できるスイッチング素子が接続されており、このスイッチを制御することによりリアクトルのエネルギー蓄積効果による昇圧と、商用電源電流波形の波形整形による力率改善を行っている。また、整流回路と平滑回路を構成するコンデンサの接続点を短絡するスイッチを構成することで全波と倍電圧整流を可能としており、直流電圧を任意に可変するときにもスイッチング素子による昇圧に要する損失を最小にする工夫をしている。
【0004】
特許文献2では永久磁石同期モータの高回転駆動する際の直流電圧の昇圧による損失を低減する技術が提案されている。以下、その内容を簡単に説明する。ここでは永久磁石同期モータを駆動する制御技術としてベクトル制御を提案している。ベクトル制御の利点としては波形を正弦波状に整形できることからトルク脈動を最小にできることが知られているが、ここでは位相制御の容易性を利用した弱め磁束制御と、直流電圧制御の最適制御について空気調和機への適用例にて説明されている。空気調和機の圧縮機に用いる永久磁石同期モータは運転状態により低速から高速域までの広範囲で駆動する必要がある。一方、空気調和機では室内空調が安定する定格能力で運転される期間が総運転時間に対する高い割合であるため、定格能力で永久磁石同期モータの効率が最高点になるような最大回転数としている。なお、最大回転数とは直流電圧および負荷を一定として矩形波通電した際に最大運転できる回転数のことで前述の場合、定格能力における回転数および負荷のことである。その様な最大回転数である永久磁石モータを高回転で駆動するためには特許文献1のように直流電圧を昇圧する必要があるが、これでは直流電圧を昇圧する際の損失悪化が懸念される。その昇圧損失を最小とする、つまり直流電圧を大きくしないでも永久磁石モータを高回転域まで回す技術としてベクトル制御による弱め磁束制御が提案されている。具体的には負のd軸電流を流すことにより生じる減磁作用により、永久磁石同期モータに印加する直流電圧の昇圧を最小とする工夫している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−206130号公報
【特許文献2】特開2004−101151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、永久磁石同期モータを広範囲に駆動するためには直流電圧の昇圧、弱め磁束制御などを行う必要がある。これらは永久磁石同期モータがある一定の最高回転数を持っていて、その回転数が空気調和機において効率が要求される定格能力領域に設定される以上、それ以上の回転数を回すためには必要不可欠となるからである。しかしながら、近年では住宅の高気密,高断熱化などが進んでいることもあり、定格よりも低い運転領域である中間能力に重点を置く通年エネルギー効率の改善が空気調和機の最重要課題となっており、前述した2つの技術では中間能力を改善すべく、永久磁石同期モータの最高回転数を下げることには限界がある。その限界とは永久磁石同期モータの回転数を中間能力付近にすると、最大回転数を維持するための直流電圧の昇圧や、弱め界磁制御の掛け方が大きくなることにより、最大能力時の空気調和機の効率の悪化、最悪の場合は圧縮機を安定して高回転させることができなくなるなどの問題がある。
【0007】
そこで定格能力と中間能力の効率を両立させる高効率な永久磁石同期モータを搭載した圧縮機と、コイル接続切替手段と、を搭載した室外機と、室内機による空気調和機を運転状態に応じて円滑に運転することにより、あたかも1つの永久磁石同期モータでありながら2つの高効率点をもつような永久磁石同期モータを搭載した圧縮機と室外機,室内機から成る通年エネルギー効率が高い空気調和機を考案した。
【0008】
しかしながら上述した空気調和機においてコイル接続切替手段を切替えるとき、インバータ制御部はモータ制御をするためのモータ定数を切替える必要がある。コイル接続切替手段でコイルが切替える時間とインバータ制御で印加電圧を切替える時間の間には差があり、ここでインバータ制御が不安定になりやすいという問題があった。
【0009】
またコンバータの制御モードにより入力が変化するため空気調和機の最小入力運転のときに制御モードをどのようにするか明確にする必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した問題を解決するため、
請求項1の空気調和機はコンバータのスイッチング手段をアクティブモードのときにコイル接続を切替える。
【0011】
請求項2の空気調和機はコンバータのスイッチング手段をアクティブモードで一定時間一定回転数で運転した後でコイル接続を切替える。
【0012】
請求項3の空気調和機は設定温度と室温の差が3℃より大きい状態で運転開始する場合、コイル接続切替手段は並列にして運転開始する。
【0013】
請求項4の空気調和機は設定温度と室温の差が3℃より大きい状態で運転開始する場合、コイル接続切替手段は並列にして運転開始し、加速中にコンバータ制御をパッシブモードからアクティブモードへ変更する。
【0014】
請求項5の空気調和機は設定温度と室温の差が1℃より小さい状態で運転しているとき、コイル接続切替手段は直列にし、コンバータ制御はパッシブモードである。
【0015】
請求項6の空気調和機は定格能力の能力測定モードではコイル接続切替手段は直列にし、コンバータ制御はアクティブモードである。
【0016】
請求項7の空気調和機は中間能力の能力測定モードではコイル接続切替手段は並列にし、コンバータ制御はパッシブモードである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高効率運転を行う空気調和機において安定した制御が可能となる。また空気調和機の最小入力運転が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】空気調和機における室外機の主要部の内部構成を示したブロック図。
【図2】コイル接続切替手段と永久磁石モータの各相が直列に接続される構成図。
【図3】コイル接続切替手段と永久磁石モータの各相が並列に接続される構成図。
【図4】各相コイルを直並列接続した際のインバータ回路とモータ効率の比較したグラフ。
【図5】コンバータの構成を示したブロック図。
【図6】実施例1における空気調和機の設定温度と室温の関係とモータ周波数とコイル接続切替手段の制御とコンバータのスイッチング手段の制御と弱め界磁制御との関係を示したタイムチャート。
【図7】全波/倍電圧切替回路を含むコンバータの構成を示したブロック図。
【図8】実施例2における空気調和機の設定温度と室温の関係とモータ周波数とコイル接続切替手段の制御とコンバータのスイッチング手段の制御と全波/倍電圧切替回路の制御と弱め界磁制御との関係を示したタイムチャート。
【図9】実施例3における空気調和機の設定温度と室温の関係とモータ周波数とコイル接続切替手段の制御とコンバータのスイッチング手段の制御と弱め界磁制御との関係を示したタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明にかかる空気調和機について、具体的に説明する。
【実施例1】
【0020】
図1は本発明の空気調和機における室外機の主要部の内部構成を示したブロック図であり、1は商用電源、2は商用電源から供給される交流電圧を直流電圧にするコンバータ、3はコンバータから供給される直流電圧を三相交流電圧にするインバータ、4は永久磁石同期モータのステータのコイルの接続変更を行うコイル接続切替手段、5はステータのコイルの接続変更を可能とするようにコイル接続線を出した圧縮機内部の永久磁石同期モータ、6は室外機を制御するマイクロコンピュータ、601はコンバータ2を制御するコンバータ制御手段、602はインバータ3を制御するインバータ制御手段、603はコイル接続切替手段を制御するコイル接続切替制御手段である。
【0021】
図2にコイル接続切替手段4の接続状態が直列で永久磁石同期モータ5と接続される構成図を、図3にコイル接続切替手段4の接続状態が並列で永久磁石同期モータ5と接続される構成図を示す。図では接続切替手段には一般的な電磁接点をもつリレーを用いているが半導体スイッチでも構わない。
【0022】
図4は、ある一定のモータ最大回転数をもつ永久磁石同期モータの各相コイルを、空気調和機の中間能力における回転数で直並列接続に切替えた際のインバータ回路とモータ効率の比較したグラフである。一定回転数において、直列接続時を基準として並列接続時モータに印加される電圧と電流を比較すると、各相コイルに誘起される電圧は約2倍となり、各相電流は約1/2となることは既知の事実である。よって、中間能力などの回転数が比較的小さい状態では各相コイルを直列接続することによりインバータ及びモータ効率が大幅に改善されることは推測でき、その効果が実測としても現れた結果となっている。
【0023】
コイル接続切替手段4を切替えるとき、インバータ制御部はモータ制御をするためのモータ定数を切替える必要がある。コイル接続切替手段4でコイルが切替える時間とインバータ制御で印加電圧を切替える時間の間には差があり、ここでインバータ制御が不安定になりやすい。
【0024】
次にコンバータ2について図5を用いて説明する。交流電源1の交流電圧を整流回路202で整流し、平滑コンデンサ203で平滑して直流電圧に変換し、インバータ3に電力を供給する。
【0025】
通常平滑コンデンサ203に蓄えられた電荷による直流電圧のため、交流電圧がこの直流電圧を超えたときにしか電流は流れないので、通電区間は短く、電流波形は鋭くとがって力率が悪くなってしまう。これを改善するためリアクタ201を接続すると、電流波形の波高値は低くなり、通電区間が後ろに伸び力率が改善される。
【0026】
交流電源1がリアクタ201を介して短絡されるようにスイッチング手段204が設けられ、また、交流電源1のゼロクロス点を検出するゼロクロス検出手段205が接続されており、ゼロクロス検出手段205で検出されたゼロクロス点に同期させて、コンバータ制御手段601で制御信号を生成し、スイッチング素子駆動手段206でスイッチング手段204を駆動する駆動信号を生成し、スイッチング手段204を1〜数回もしくは数10kHz短絡する。このスイッチング手段204のスイッチングを行う動作状態をアクティブモードと呼び、スイッチング手段204のスイッチングを行わない動作状態をパッシブモードと呼ぶことにする。スイッチング手段204は双方向スイッチング素子とし、図では整流回路とIGBTの組み合わせとなっているが、双方向性スイッチング素子であれば、どのような構成でも構わない。またコンバータの目的が直流電圧を制御することであり、それが素子のスイッチングによって行われるものであれば回路方式によらず、スイッチングを行う動作状態をアクティブモードと呼び、スイッチングを行わない動作状態をパッシブモードと呼ぶことにする。
【0027】
スイッチング手段204を短絡する制御方法については種々の方法が提案されているが、例えば1回短絡する場合、予め実験もしくはシミュレーションにより求めておいたゼロクロスからの遅延時間の後、目標電圧となるように直流電圧検出手段207により検出した直流電圧を用いて短絡時間をフィードバック制御する。
【0028】
モータの設計点については例えば、コイル接続切替手段4が並列接続のときモータの誘起電圧定数を0.2[V/(rad/s)]となるようにする。直列接続のときは誘起電圧定数は倍になるので0.4[V/(rad/s)]となる。コイル接続切替手段4が並列接続のときモータ周波数が50Hzで誘起電圧は約63V,100Hzで約125Vとなる。コイル接続切替手段4が直列接続のときは50Hzで約125V、100Hzで約250Vとなる。直流電圧はモータ発生する誘起電圧の2倍必要となるが、弱め界磁制御を使うことで発生する誘起電圧より小さい直流電圧でモータを運転することができる。
【0029】
次にスイッチング手段204の制御とコイル接続切替手段4の制御と弱め界磁制御について空気調和機の運転開始からの時間に沿って図6を用いて説明する。図6には横軸運転開始からの経過時間、縦軸1に温度、縦軸2にモータ回転数、軸の下側にはコイル接続切替手段4の接続状態とスイッチング手段204の動作状態、弱め界磁制御の有無を示す。
【0030】
設定温度と室温の差が3℃以上ある状態で空気調和機運転する場合、運転開始前、コイル接続切替手段4は並列に切替える。設定温度と室温の差が3℃以上あると空気調和機は定格運転よりもさらに能力が出る最大能力運転を行い、このときの圧縮機の回転数は並列接続でないと運転できないためである。
【0031】
空気調和機の運転開始からt1まではコイル接続切替手段4は並列状態でスイッチング手段204はパッシブモードで弱め界磁制御無である。コンバータ2は運転開始直後の負荷が軽い状態でアクティブモードとすると制御不安定となるためであり、一方コイル接続状態を並列状態としているのは室温と設定温度の差が大きいため圧縮機の指令回転数はすぐに大きくなるので次の加速時にコイル接続切替えを行い制御不安定となるのを避けるためである。
【0032】
圧縮機が加速途中のt1で、スイッチング手段204はアクティブモードとなる。これは負荷がある程度大きくなった場合、直流電圧が変動しないようにアクティブモードとする。
【0033】
その後t2でモータが発生する誘起電圧がコンバータの直流電圧の1/2を超えると弱め界磁制御が有となる。この状態が最も高出力を実現できる制御となる。
【0034】
空気調和機の運転が続き室温が設定温度に近づいてくるとそれに応じて圧縮機回転数は下がる。
【0035】
t3でモータが発生する誘起電圧がコンバータの直流電圧の1/2より小さくなると弱め界磁制御が無となる。この運転が定格運転であり、空気調和機は能力を測定するとき、圧縮機の回転数が変化したりファン回転数が変化したりしないように能力測定モードを設けているが、定格能力の能力測定モードでこの運転状態となる。
【0036】
さらに圧縮機回転数がある値より下がって一定時間続いた場合のt4で、スイッチング手段204はアクティブモードのままコイル接続切替手段4の接続状態を直列に切替える。コイル接続切替手段を切替えたとき、インバータ制御のモータ定数が変化するためインバータ制御が不安定になる。このときインバータ制御が不安定になることにより直流圧が変化すると、インバータ制御はさらに不安定になり、最悪発散にいたる。そこでコンバータ制御で直流電圧を安定にしてインバータ制御の発散を防ぐ必要がある。したがって運転中にコイル接続切替手段4を切替えるときはスイッチング手段204をアクティブモードにする。またコイル接続切替手段4を切替えるときに負荷が変動すると、制御が不安定になりやすいためスイッチング手段204をアクティブモードにした状態で一定時間,一定回転数で運転してからコイル接続切替手段4を切替える。もちろん空調負荷性とも関係あるので一定時間とは10s〜180sの間である。
【0037】
t5でさらに低速になってスイッチング手段204をパッシブモードに切替えると最低入力運転となる。スイッチング動作が無くなるため最も高効率な運転となる。空気調和機の通年エネルギー効率を高めるためにはこの最も高効率な運転を長くつづけることが効果的である。空気調和機の設定温度と室温の差が1℃以下のときこの運転状態となる。また空気調和機は能力を測定するとき、圧縮機の回転数が変化したりファン回転数が変化したりしないように能力測定モードを設けているが、中間能力の能力測定モードでこの運転状態となる。本実施例では説明が容易なようにスイッチング手段204をパッシブモードに切替える前減速したが、減速を行わず、スイッチング手段204をアクティブモードにした状態でコイル接続切替手段を並列から直列に切替え、回転数は保ったままスイッチング手段208をアクティブモードからパッシブモードへ切替えてもよい。
【0038】
若干の圧縮機の加速があった場合はスイッチング手段204はアクティブモードとし、弱め界磁制御は有とする。さらなる加速が必要な場合、一度減速し弱め界磁制御無、スイッチング手段をアクティブモードにし、一定時間一定回転数で運転した後t10でコイル接続切替手段4は並列に切替え、その後加速する。
【0039】
以上の動作で空気調和機の定格能力と中間能力の高効率化を両立させたモータの安定した運転が可能となる。
【実施例2】
【0040】
次に図1のコンバータ2が全波/倍電圧切替回路を含む場合について説明する。図7に全波/倍電圧切替回路を含むコンバータ2のブロック図を示す。整流回路202には倍電圧コンデンサ203a,203bが接続され、203aと203bとの接続点と、整流回路202の交流側の一端と、の間には全波整流と倍電圧整流を切替える全波倍電圧切替手段208が接続される。
【0041】
全波倍電圧切替手段208の動作状態が開放のとき、全波モードと呼ぶことにする。この場合整流回路は全波整流となり、コンバータの動作は実施例1と同じである。
【0042】
全波倍電圧切替手段208の動作状態が短絡のとき、倍電圧モードと呼ぶことにする。この場合整流回路は倍電圧整流となる。得られる直流電圧は全波整流の場合よりおよそ2倍となり、スイッチング手段204との動作のパッシブモードとアクティブモードとの組み合わせで高力率で安定したコンバータ制御を得ることができる。
【0043】
次にスイッチング手段204の制御とコイル接続切替手段4の制御と全波倍電圧切替手段208の制御について空気調和機の運転開始からの時間に沿って図8を用いて説明する。図8には横軸運転開始からの経過時間、縦軸1に温度、縦軸2に圧縮機回転数、軸の下側にはコイル接続切替手段4の接続状態とスイッチング手段204の動作状態と全波倍電圧切替手段208の動作状態を示す。
【0044】
空気調和機の運転開始前は全波倍電圧切替手段208は全波モードである。これは全波モードの方が交流電源に接続された瞬間の突入電流が小さく、リアクタ201,整流回路202,倍電圧コンデンサ203a,203bに与える影響が小さいためである。
【0045】
空気調和機の運転開始からt1まではコイル接続切替手段4は並列状態でスイッチング手段204はパッシブモードで全波倍電圧切替手段208は全波モードである。コンバータ2は運転開始直後の負荷が軽い状態でアクティブモードとすると制御不安定となるためであり、一方コイル接続状態を並列状態としているのは室温と設定温度の差が大きいため圧縮機の指令回転数はすぐに大きくなるので次の加速時にコイル接続切替えを行い制御不安定となるのを避けるためである。
【0046】
圧縮機が加速途中のt1でスイッチング手段204はアクティブモードとなる。これは負荷がある程度大きくなった後、直流電圧が変動しないようにするためである。
【0047】
その後t2でモータが発生する誘起電圧がコンバータの直流電圧の1/2を超えると全波倍電圧切替手段208は倍電圧モードとする。
【0048】
さらに加速していくとt3では弱め界磁制御が有とする。この状態が最も高出力を実現できる制御となる。
【0049】
空気調和機の運転が続き室温が設定温度に近づいてくるとそれに応じて圧縮機回転数は下がる。
【0050】
t4で弱め界磁制御が無とする。
【0051】
そして圧縮機回転数がある値より下がって一定時間続いた場合のt5では、スイッチング手段204はアクティブモードのまま全波倍電圧切替手段を全波モードとする。
【0052】
さらに減速した場合のt6では、スイッチング手段204はアクティブモードのままコイル接続切替手段4の接続状態を直列に切替える。コイル接続切替手段を切替えたとき、インバータ制御のモータ定数が変化するためインバータ制御が不安定になる。このときインバータ制御が不安定になることにより直流電圧が変化すると、インバータ制御はさらに不安定になり、最悪発散にいたる。そこでコンバータ制御で直流電圧を安定にしてインバータ制御の発散を防ぐ必要がある。したがって運転中にコイル接続切替手段4を切替えるときはスイッチング手段204をアクティブモードにする。またコイル接続切替手段4を切替えるときに負荷が変動すると、制御が不安定になりやすいためスイッチング手段204をアクティブモードにした状態で一定時間,一定回転数で運転してからコイル接続切替手段4を切替える。もちろん空調負荷性とも関係あるので一定時間とは10s〜180sの間である。
【0053】
さらに低速運転が続いた後のt7ではスイッチング手段204をパッシブモードに切替える。これによりスイッチング手段204でのスイッチング動作が無くなるため最も高効率な運転となる。空気調和機の通年エネルギー効率を高めるためにはこの最も高効率な運転を長くつづけることが効果的である。
【0054】
この後窓が開放されたりしたため室温が上がり、空調機の能力を上げなければならないときについて圧縮機の回転数と制御モードについて説明する。
【0055】
加速を始めてt8でスイッチング手段はパッシブからアクティブモードにする。
【0056】
さらに加速が続き、コイル接続手段を直列接続から並列接続に切替えるときには、コイル接続切替手段4を切替えるときに負荷が変動すると、制御が不安定になりやすいためスイッチング手段204をアクティブモードにした状態で一定時間,一定回転数で運転してからt9でコイル接続切替手段4を直列接続から並列接続へ切替える。
【0057】
さらに加速した場合、t10で全波倍電圧切替手段を全波から倍電圧に切替える。その後の運転はt2からt8までの運転に重複するので説明を割愛する。
【0058】
以上の動作で空気調和機の定格能力と中間能力の高効率化を両立させた安定した運転が可能となる。
【実施例3】
【0059】
次にコイル接続切替手段でコイルの接続を並列から直列あるいは直列から並列に切替えるときに、より安定した制御を実現する実施例について説明する。
【0060】
実施例1ではコイル接続切替手段4を安定的に切替えるためにコンバータモードはアクティブにし、切替える前に圧縮機を一定回転で運転して負荷を安定してから切替えた。これに対してより安定的に切替えるために圧縮機を一度停止させる。このときのスイッチング手段204の制御とコイル接続切替手段4の制御と弱め界磁制御について空気調和機の運転開始からの時間に沿って図9を用いて説明する。
【0061】
t1からt3までは実施例1と同じため説明は省略する。
【0062】
さらに圧縮機回転数がある値より下がってコイル接続切替手段4を切替える場合t4で圧縮機を停止させる。圧縮機を停止させてからコイル接続切替手段を切替えることによりインバータ制御が不安定になることを防ぐためである。これはコイル接続切替手段4をリレー等で構成した場合に有効である。
【0063】
圧縮機を停止させた後コイル接続切替手段4を切替え、その後t5で圧縮機を起動する。この直後のコイル接続切替手段4が直列接続でスイッチング手段204がパッシブモードのときが最も高効率な運転となる。空気調和機の通年エネルギー効率を高めるためにはこの最も高効率な運転を長くつづけることが効果的である。空気調和機の設定温度と室温との差が1℃以下のとき、この運転状態となる。また空気調和機は能力を測定するとき、圧縮機の回転数が変化したりファン回転数が変化したりしないように能力測定モードを設けているが、中間能力の能力測定モードでこの運転状態となる。
【0064】
若干の圧縮機の加速があった場合はスイッチング手段204はt6にてアクティブモードとし、t7にて弱め界磁制御は有とする。さらなる加速が必要な場合、t8で圧縮機を一度停止させて、コイル接続切替手段4を直列接続から並列接続へ切替えてから圧縮機を再始動させる。
【0065】
以上の動作でコイル接続切替時の安定性を確保しながら空気調和機の定格能力と中間能力の高効率化を両立させたモータの安定した運転が可能となる。
【符号の説明】
【0066】
1 交流電源
2 コンバータ
3 インバータ
4 コイル接続切替手段
5 圧縮機用の永久磁石同期モータ
6 マイクロコンピュータ
201 リアクタ
202 整流回路
203 平滑コンデンサ
203a,203b 倍電圧コンデンサ
204 スイッチング手段
205 ゼロクロス検出手段
206 スイッチング素子駆動手段
207 直流電圧検出手段
601 コンバータ制御手段
602 インバータ制御手段
603 コイル接続切替制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクティブモードとパッシブモードの制御モードを有するスイッチング手段を備えたコンバータと、
ステータのコイルの接続変更を可能とするようにコイル接続線を出した圧縮機内部の永久磁石同期モータと、
前記永久磁石モータのステータのコイルを並列接続,直列接続に接続変更を行うコイル接続切替手段と
を備えた空気調和機において、
コンバータのスイッチング手段をアクティブモードのときにコイル接続を切替えることを特徴とする空気調和機。
【請求項2】
アクティブモードとパッシブモードの制御モードを有するスイッチング手段を備えたコンバータと、
ステータのコイルの接続変更を可能とするようにコイル接続線を出した圧縮機内部の永久磁石同期モータと、
前記永久磁石モータのステータのコイルを並列接続,直列接続に接続変更を行うコイル接続切替手段と
を備えた空気調和機において、
コンバータのスイッチング手段をアクティブモードで一定時間一定回転数で運転した後でコイル接続を切替えることを特徴とする空気調和機。
【請求項3】
ステータのコイルの接続変更を可能とするようにコイル接続線を出した圧縮機内部の永久磁石同期モータと、
前記永久磁石モータのステータのコイルを並列接続,直列接続に接続変更を行うコイル接続切替手段と
を備えた空気調和機において、
設定温度と室温の差が3℃より大きい状態で運転開始する場合、コイル接続切替手段は並列にして運転開始することを特徴とする空気調和機。
【請求項4】
アクティブモードとパッシブモードの制御モードを有するスイッチング手段を備えたコンバータと、
ステータのコイルの接続変更を可能とするようにコイル接続線を出した圧縮機内部の永久磁石同期モータと、
前記永久磁石モータのステータのコイルを並列接続,直列接続に接続変更を行うコイル接続切替手段と
を備えた空気調和機において、
設定温度と室温の差が3℃より大きい状態で運転開始する場合、コイル接続切替手段は並列にして運転開始することを特徴とする空気調和機。
【請求項5】
アクティブモードとパッシブモードの制御モードを有するスイッチング手段を備えたコンバータと、
ステータのコイルの接続変更を可能とするようにコイル接続線を出した圧縮機内部の永久磁石同期モータと、
前記永久磁石モータのステータのコイルを並列接続,直列接続に接続変更を行うコイル接続切替手段と
を備えた空気調和機において、
設定温度と室温の差が1℃より小さい状態で運転しているとき、コイル接続切替手段は直列にし、コンバータ制御はパッシブモードであることを特徴とする空気調和機。
【請求項6】
アクティブモードとパッシブモードの制御モードを有するスイッチング手段を備えたコンバータと、
ステータのコイルの接続変更を可能とするようにコイル接続線を出した圧縮機内部の永久磁石同期モータと、
前記永久磁石モータのステータのコイルを並列接続,直列接続に接続変更を行うコイル接続切替手段と
を備えた空気調和機において、
中間能力の能力測定モードではコイル接続切替手段は並列にし、コンバータ制御はパッシブモードであることを特徴とする空気調和機。
【請求項7】
アクティブモードとパッシブモードの制御モードを有するスイッチング手段を備えたコンバータと、
ステータのコイルの接続変更を可能とするようにコイル接続線を出した圧縮機内部の永久磁石同期モータと、
前記永久磁石モータのステータのコイルを並列接続,直列接続に接続変更を行うコイル接続切替手段と
を備えた空気調和機において、
定格能力の能力測定モードではコイル接続切替手段は直列にし、コンバータ制御はアクティブモードであることを特徴とする空気調和機。
【請求項8】
全波/倍電圧切替回路と、
アクティブモードとパッシブモードの制御モードを有するスイッチング手段を備えたコンバータと、
ステータのコイルの接続変更を可能とするようにコイル接続線を出した圧縮機内部の永久磁石同期モータと、
前記永久磁石モータのステータのコイルを並列接続,直列接続に接続変更を行うコイル接続切替手段と
を備えた空気調和機において、
設定温度と室温の差が1℃より小さい状態で運転しているとき、全波/倍電圧切替回路は全波モードにし、コイル接続切替手段は直列にし、コンバータ制御はパッシブモードであることを特徴とする空気調和機。
【請求項9】
全波/倍電圧切替回路と、
アクティブモードとパッシブモードの制御モードを有するスイッチング手段を備えたコンバータと、
ステータのコイルの接続変更を可能とするようにコイル接続線を出した圧縮機内部の永久磁石同期モータと、
前記永久磁石モータのステータのコイルを並列接続,直列接続に接続変更を行うコイル接続切替手段と
を備えた空気調和機において、
中間能力の能力測定モードでは全波/倍電圧切替回路は全波モードにし、コイル接続切替手段は並列にし、コンバータ制御はパッシブモードであることを特徴とする空気調和機。
【請求項10】
アクティブモードとパッシブモードの制御モードを有するスイッチング手段を備えたコンバータと、
ステータのコイルの接続変更を可能とするようにコイル接続線を出した圧縮機内部の永久磁石同期モータと、
前記永久磁石モータのステータのコイルを並列接続,直列接続に接続変更を行うコイル接続切替手段と
を備えた空気調和機において、
モータの運転を停止させた状態でコイル接続を切替えることを特徴とする空気調和機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−135161(P2012−135161A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286919(P2010−286919)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(399048917)日立アプライアンス株式会社 (3,043)
【Fターム(参考)】