空燃比推測検知装置
【課題】理論空燃比に対応して出力がステップ状に変化するλセンサを使って理論空燃比を外れた領域での空燃比を推測検知する。
【解決手段】エンジン回転速度算出部15はエンジンの平均回転速度NeAを算出する。クランク角速度算出部23は圧縮上死点近傍におけるクランクパルスの間隔に基づいてクランク角速度ω1を算出し、充填効率算出部14は平均回転速度NeAとクランク角速度ω1との差Δω1によって充填効率CEを算出する。燃料噴射量算出部12は燃料噴射弁6の駆動時間Toutに基づいてサイクル毎の燃料噴射量Gfを推測する。比例定数算出部17は、センサ3の出力値が遷移域Rにあるときに、推測された充填効率CEと燃料噴射量Gfを使用して比例定数Kを決定する。センサ出力値が遷移域R以外にあるときは、決定された比例定数K、充填効率CEおよび燃料噴射量Gfから空燃比A/Fを推測する。
【解決手段】エンジン回転速度算出部15はエンジンの平均回転速度NeAを算出する。クランク角速度算出部23は圧縮上死点近傍におけるクランクパルスの間隔に基づいてクランク角速度ω1を算出し、充填効率算出部14は平均回転速度NeAとクランク角速度ω1との差Δω1によって充填効率CEを算出する。燃料噴射量算出部12は燃料噴射弁6の駆動時間Toutに基づいてサイクル毎の燃料噴射量Gfを推測する。比例定数算出部17は、センサ3の出力値が遷移域Rにあるときに、推測された充填効率CEと燃料噴射量Gfを使用して比例定数Kを決定する。センサ出力値が遷移域R以外にあるときは、決定された比例定数K、充填効率CEおよび燃料噴射量Gfから空燃比A/Fを推測する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空燃比推測検知装置に係り、特に、いわゆる広域空燃比センサを用いることなく広域の空燃比を推測により検知することができる空燃比推測検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの排気ガス中の酸素濃度を検出することによって間接的に空燃比(以下、「A/F」とも呼ぶ)を検出し、その検出結果に基づいて点火制御や燃料噴射制御を含むエンジンの燃焼制御を行う技術が周知である。そして、排気ガス中の酸素濃度を検出する検出素子である酸素濃度センサとして、理論空燃比に対応する酸素濃度(空気過剰率λ=1)を境に起電力つまり検出出力が急峻に(ステップ状に)変化するいわゆるλセンサがその簡便さから広く使われている。このλセンサによれば、空燃比が理論空燃比よりも大きいか小さいかを容易に判断することができる。
【0003】
しかし、理論空燃比に対する空燃比の大小のみで酸素濃度を検出するλセンサでは理論空燃比から外れた領域で正確に空燃比を検出することができない。したがって、空燃比を理論空燃比以外のリッチ側およびリーン側の領域を含む任意の値に設定する制御にはλセンサは使用できない。一方、広域に亘って空燃比を検出することができる広域空燃比センサは構造が複雑であるため高価であるという課題がある。
【0004】
そこで、本出願人は、特許文献1に示すように、酸素濃度センサを使用することなくクランク角速度に基づいて空燃比を推測する空燃比推測検知装置を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−27061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されている空燃比推測検知装置によれば、酸素濃度センサを用いることなく空燃比を推測し、その推測値に基づいて点火制御や燃料噴射制御を適切に行うことができる。しかし、クランク角速度に基づく空燃比の推測だけでは不十分な場合があり、さらに精度の高い空燃比推測手段が要求されていた。
【0007】
本発明の目的は、いわゆる広域空燃比センサを用いることなく広域の空燃比を推測することができる空燃比推測検知装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は、エンジンのシリンダに導入される吸入空気量を推測する吸入空気量推測手段と、燃料噴射弁の駆動時間に基づいてサイクル毎の燃料噴射量を推測する燃料噴射量推測手段と、燃焼ガスの残留酸素濃度に応じた検出出力を生じ、理論空燃比に対応する残留酸素濃度に対応して検出出力がステップ状に変化する出力遷移域を有する酸素濃度検出素子と、前記酸素濃度検出素子の出力値が前記出力遷移域にあるときに前記吸入空気量推測手段で推測された吸入空気量および前記燃料噴射量推定手段で推定された燃料噴射量を使用して空燃比と理論空燃比との比例定数を決定する比例定数決定手段とを備え、前記酸素濃度検出素子の出力値が出力遷移域以外にあるときには、前記比例定数決定手段で決定された比例定数と前記吸入空気量および前記燃料噴射量から空燃比を推測するように構成されている点に第1の特徴がある。
【0009】
また、本発明は、エンジンのクランク軸の所定回転角度毎にクランクパルスを発生させるパルス発生手段と、前記エンジンの圧縮上死点または該該圧縮上死点を跨ぐ二つの連続するクランクパルスの間隔に基づいて第1のクランク角速度を算出するとともに、圧縮行程における任意の連続する2つのクランクパルスの間隔に基づいて第2のクランク角速度を算出するクランク角速度算出手段と、前記クランク角速度算出手段で算出された第2のクランク角速度と第1のクランク角速度との差によって吸入空気量の関数である充填効率を算出する充填効率算出手段と、燃料噴射弁の駆動時間に基づいてサイクル毎の燃料噴射量を推測する燃料噴射量推測手段と、燃焼ガスの残留酸素濃度に応じた検出出力を生じ、理論空燃比に対応する残留酸素濃度に対応して検出出力がステップ状に変化する出力遷移域を有する酸素濃度検出素子と、前記酸素濃度検出素子の出力値が前記出力遷移域にあるときに前記充填効率算出手段で推測された吸入空気量および前記燃料噴射量推定手段で推定された燃料噴射量を使用して空燃比と理論空燃比との比例定数を決定する比例定数決定手段とを備え、前記酸素濃度検出素子の出力値が出力遷移域以外にあるときには、前記比例定数決定手段で決定された比例定数と前記充填効率および前記燃料噴射量から空燃比を推測するように構成されている点に第2の特徴がある。
【0010】
また、本発明は、エンジンの吸入空気量を検知するエアフローセンサを備え、前記推定吸入空気量推測手段で推測される吸入空気量に代えて、前記エアフローセンサで検知された吸入空気量を前記比例定数決定手段での演算に使用するように構成されている点に第3の特徴がある。
【発明の効果】
【0011】
第1〜第3の特徴を有する本発明によれば、酸素濃度検出素子の出力をフィードバックして理論空燃比制御(ストイキ制御)しているときに、吸入空気量および燃料供給量を推測し、この吸入空気量および燃料供給量と理論空燃比とから、空燃比算出式を使って比例定数を逆算することができる。これにより、広域に亘って空燃比を検出できる高価な酸素濃度検出素子を使用することなく、理論空燃比から離れた広い領域でも空燃比を精度よく推測検知することができる。
【0012】
特に、第2の特徴を有する本発明によれば、吸入空気量の関数である充填効率を使って吸入空気量を推定するので、エアフローセンサを省略することができるという効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る空燃比推測検知装置を含むエンジン制御装置のシステム構成を示すブロック図である。
【図2】クランクパルサロータの正面図である。
【図3】酸素濃度センサの出力特性を示す図である。
【図4】ECUの要部機能を示すブロック図である。
【図5】充填効率CEを求めるためのマップを示す図である。
【図6】減速量Δω1を算出するECUの機能を示すブロック図である。
【図7】1サイクル中のクランクパルスとクランク角速度ωとの関係を示すタイムチャートである。
【図8】図7の一部拡大図である。
【図9】空燃比推定演算のメインフローチャートである。
【図10】充填効率CEを算出するフローチャートである。
【図11】燃料噴射量Gfを算出するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る空燃比推測検知装置を含むエンジン制御装置のシステム構成を示すブロック図である。図1において、エンジン制御装置1は、クランクパルサ2、酸素濃度センサ3、および負圧センサ4と、クランクパルサ2、酸素濃度センサ3、および負圧センサ4による検出信号を入力されて点火装置6および燃料噴射弁7を駆動する指令を出力するECU8とを備える。ECU8は図4等に関して後述する機能を実行するマイクロプロセッサを含む。酸素濃度センサ3は燃焼ガスの残留酸素濃度に応じた検出出力を生じ、理論空燃比に対応する残留酸素濃度において検出出力が、図3に関して後述するようにステップ状に変化する出力遷移域Rを有するセンサであり、図示しないエンジンの排気管内に素子部を臨ませて取り付けられる。負圧センサ4はエンジンの吸気管に取り付けられ、吸気管内の負圧を検知する。クランクパルサ2は、磁気ピックアップ式のパルス発生器であり、次に説明するクランクパルサロータの外周に対向して取り付けられる。
【0015】
図2は、クランクパルサロータの正面図である。図2において、4サイクル単気筒エンジンのクランク軸9には、クランクパルサロータ5が取り付けられている。クランクパルサロータ5は、円板状のロータ本体51とロータ本体51の外周に突出して形成されるリラクタ52とからなる。リラクタ52は、1箇所の歯欠け部(リラクタが無い部分)Hを除いて、一定角度間隔で複数設けられる。本実施形態では、11個のリラクタ52を30度の角度間隔で配置した構成としているが、一定角度間隔で配置され、かつ1箇所の歯欠け部Hを有していればリラクタ52の個数や配置角度間隔は任意に設定できる。クランクパルサロータ5の外周に対向してクランクパルサ2が配置される。クランクパルサ2はリラクタ52を検出してクランクパルスを出力する。
【0016】
図3は、酸素濃度センサ3の出力特性を示す図である。図3において、横軸は空気過剰率、縦軸は酸素濃度センサ3の出力を示す。空気過剰率が「1.0」の時が理論空燃比であり、この理論空燃比よりも空気過剰率が大きい領域は混合気が薄いリーン側、理論空燃比よりも空気過剰率が小さい領域は混合気が濃いリッチ側である。混合気がリッチ側からリーン側へ遷移したとき、センサ出力は急激に下降し、混合気がリーン側からリッチ側へ遷移するとき、センサ出力は急激に上昇する。このようなセンサ出力の遷移域Rでは、空燃比はほぼ理論空燃比であり、浄化率が良好な排気ガス状態である。
【0017】
図4は、ECU8の要部機能を示すブロック図である。ECU8において、空燃比算出部11は、エンジンの1サイクル毎の燃料噴射量(重量)Gfと、吸入空気量の関数である充填効率CEと、比例定数Kとを使用し、式1を使って空燃比A/Fを算出する。空燃比A/F=K×(CE/Gf)…(式1)。
【0018】
燃料噴射量算出部12は、燃料噴射制御部13から前記燃料噴射弁7へ1サイクル毎に供給される噴射弁開口時間Toutを抽出し、これに基づいて燃料噴射量Gfを算出し、空燃比算出部11に入力する。吸気管への燃料噴射は、圧力調整弁を用いて燃料供給配管系の圧力を一定とし、燃料噴射弁7を1サイクル毎に一定時間開口することにより行われる。この噴射弁開口時間Toutは燃料噴射制御部13における燃料噴射制御演算の制御パラメータである。燃料噴射量Gfは一定供給圧力のもとでは噴射弁開口時間Toutに比例し、式2を使って算出される。燃料噴射量Gf=a0+b0×Tout…(式2)。切片a0と比例定数b0は噴射弁開口時間を燃料の重量に補正するための数値である。
【0019】
吸入空気量推測手段としての充填効率算出部14は、圧縮行程におけるクランク角速度の減速量Δω1とエンジン回転速度検出部15から入力されるエンジンの平均回転速度NeAとによって、予め設定されたマップを検索して吸入空気量の関数である充填効率CEを算出し、空燃比算出部11に入力する。減速量Δω1はクランクパルサ2から得られるクランクパルス信号に基づいて、減速量算出部16で算出される。平均回転速度NeAと減速量Δω1の算出手法はさらに後述する。
【0020】
充填効率CEは排気量に対する吸入空気量の重量割合を表す値であり、一定のエンジン回転速度では、減速量Δω1は充填効率CEと比例する。一定のエンジン回転速度のもとでは、充填効率CEは式3の関係がある。充填効率CE=a1+b1×Δω1…(式3)。比例定数b1はエンジン回転速度が大きいほど大きくなる規則的な関係を有する。したがって、充填効率CEは減速量Δω1とエンジン回転速度の関数として求めることができる。
【0021】
図5は、充填効率CEを求めるためのマップである。図5において、横軸は減速量Δω1であり、縦軸は充填効率CEである。このようなマップはエンジン回転速度NeAをパラメータとして複数設けられる。図5には、高回転速度、中回転速度、および低回転速度のマップを示し、エンジン回転速度NeAによる傾向を示している。
【0022】
なお、このようなマップを使用するのに限らず、減速量Δω1を計算する式3をエンジン回転速度Ne毎に備え、計算によって充填効率CEを計算してもよい。その場合、検出されたエンジン回転速度NeAが、計算式のエンジン回転速度NexとNeyの間に位置するものであった場合は、直線補間計算により充填効率CEを求める。
【0023】
図4に戻り、比例定数算出部17は、燃料噴射量Gfおよび充填効率CEと、ストイキ検出信号STとから、上述の式1を使って比例定数Kを算出する。ストイキ検出信号STは、ストイキ検出部18で燃料噴射制御部13のストイキ制御中が検出されたときに出力される。
【0024】
酸素濃度センサ3の出力に基づいてO2フィードバックにより理論空燃比制御(ストイキ制御)をしている燃料噴射制御部13においては、ストイキ制御中は、制御上の管理演算から理論空燃比制御状態を示す指令(制御フラグ)が得られる。したがって、この制御フラグを検出した時の空燃比は理論空燃比である。但し、始動時や加速時等の高負荷運転中リッチ側寄りで制御されている場合は、空燃比は「14.7」より小さい「14.5」等である。そこで、ストイキ検出信号STが入力されたときに、運転状態に応じて、例えば空燃比「14.5」と特定し、この空燃比「14.5」と、充填効率CE、および燃料噴射量Gfを式1に代入して比例定数Kが求められる。
【0025】
次にクランク角速度の減速量Δω1の算出手法を説明する。図6は、減速量Δω1を算出するECU8の機能を示すブロック図である。ステージ設定部20は、クランクパルス検出部21によってクランクパルサ2の歯欠け部Hを検知したときにクランクパルサロータ5の基準位置を検知し、まず、リラクタ52の配置に基づいてクランク軸9の1回転を♯0〜♯10の合計11のステージで分割する。
【0026】
その後、負圧センサ4で検出される吸気管負圧PBの変動等に基づいて行程を判別・確定し、さらに、クランク軸9が1サイクル中の1回転目または2回転目のいずれであるかを判定するステージの表裏判定を行い、1サイクル(クランク回転角720度)が♯0〜♯21の合計22のステージに分割される。吸気管負圧PBの変動に基づく行程判別は、例えば、検知された負圧の変動パターンを、ステージと関連づけて実験等で求められた変動パターンと照合することによって行うことができる。行程判別は周知の行程判別手法を採用して行うことができる。
【0027】
クランク角速度算出部23はステージ設定部20で設定されたステージのうち、圧縮上死点直前または圧縮上死点を跨ぐ位置で発生される連続する2つのクランクパルスの間隔τ1(図8に関して後述)に基づいてクランク角速度ω1を算出する。同様にしてクランク角速度算出部23は、圧縮行程の任意のステージに相当する2つのクランクパルスの間隔τ2(図8に関して後述)に基づいてクランク角速度ω2を算出する。減速量算出部16は、圧縮行程中のクランク角速度ω2とエンジンの上死点位置に重なる所定区間で検知されるクランク角速度ω1との差(ω2−ω1)つまり圧縮行程における減速量Δω1を算出する。
【0028】
図7は、1サイクル中のクランクパルスとクランク角速度ωとの関係を示すタイムチャートであり、図8は、図7の一部拡大図である。図7、図8から理解されるように、クランク角速度ωは、エンジンの1サイクルすなわち圧縮、燃焼・膨張、排気、吸気の4行程に応じたシリンダ内圧によって周期的に変動している。具体的には、圧縮行程の後半区間では、シリンダ内圧の上昇による圧縮抵抗に起因してクランク角速度ωは減少する。また、燃焼・膨張行程では燃焼によるシリンダ内圧の上昇によってクランク回転エネルギが生じてクランク角速度ωは増加する。そして、燃焼・膨張行程の終了時にクランク角速度ωはピークの角速度ω2を迎え、その後、エンジン内の機械的な摩擦抵抗、排気行程および燃焼済みガスの排出抵抗、吸入行程における吸入抵抗等のポンプ仕事によるシリンダ内圧の変動によって低下する。このようなクランク角速度ωの変動によれば、クランク角速度ω1は平均回転速度NeAより小さい。
【0029】
なお、クランク角速度ωの変動ピークは、エンジンの発生トルクが大きいほど大きくなり、その後の低下量は、吸入空気量が大きいほど大きくなる。したがって、発生トルクが大きく、かつ吸入空気量が多いエンジンであるほど、クランク角速度ωの変動は大きくなる。さらに、この変動は、クランク軸の慣性力が小さい低回転域であるほど大きく、また、単気筒エンジンのように、クランク軸の慣性モーメントが比較的小さいエンジンでも大きくなる傾向にある。
【0030】
図8を参照して、クランク角速度ω1は、圧縮上死点直前に位置するクランクパルスP1の立ち下がり点C1から、圧縮上死点直後に位置するクランクパルスP2の立ち下がり点C2までの30度区間の通過時間τ1を計測し、この通過時間τ1とリラクタ52の配置角度間隔とを使用して算出される。また、圧縮行程中の任意にステージにおける2つのクランクパルスP3の立ち下がり点C3から、クランクパルスP4の立ち下がり点C4までの30度区間の通過時間τ2を計測し、この通過時間τ2とリラクタ52の配置角度間隔とを使用してクランク角速度ω2が算出される。
【0031】
なお、クランクパルスP1およびP2は圧縮上死点を跨ぐ2つのクランクパルスであるのに限らず、例えば、圧縮上死点直前の連続する2つのクランクパルスであってもよい。要は、圧縮上死点近傍または圧縮上死点を跨ぐ連続する2つのクランクパルスの発生間隔τ1に基づいてクランク角速度ω1を算出すればよい。
【0032】
続いて、フローチャートを参照して空燃比算出動作を説明する。図9は空燃比推定演算のメインフローチャートである。ステップS1では、ストイキ制御中であることを示す制御フラグを検索する。ステップS2では、ストイキ制御中であることを示す制御フラグが検出されたか否かが判断され、この判断が肯定となれば、ステップS3に進み、充填効率CEを算出する。ステップS4では、燃料噴射量Gfを算出する。ステップS5では充填効率CEを燃料噴射量Gfで除算した値CE/Gfの移動平均値を算出する。ステップS6では、式1中の比例定数Kを算出する。すなわち、ステップS5で算出した値CE/Gfとストイキ制御中の空燃比「14.5」を式1に代入して比例定数Kを算出する。
【0033】
こうして算出された比例定数Kは、酸素濃度センサ3の出力の遷移域R以外で空燃比を推測するために式1とともに使用することができる。
【0034】
図10は、充填効率CEを算出するフローチャートである。図10において、ステップS31では、減速量Δω1を取得する。減速量Δω1は前記減速量算出部16で算出される。ステップS32では平均エンジン回転速度NeAを取得する。エンジン回転速度NeAは前記エンジン回転速度算出部15で算出される。ステップS33では、例えば、図5のマップを使用して、減速量Δω1と平均エンジン回転速度NeAとの関数である充填効率CEを算出する。
【0035】
図11は、燃料噴射量Gfを算出するフローチャートである。図11において、ステップS41では、燃料噴射時間Toutを取得する。ステップS42では、式2を使って燃料噴射量Gfを算出する。
【0036】
このように、本実施形態では、充填効率CEと燃料噴射量Gfと比例定数Kを使って空燃比を求める際に、O2フィードバックによるストイキ制御中の空燃比(理論空燃比)を使って比例定数Kを決定し、酸素濃度センサ3の出力遷移域R以外の領域では、この比例定数Kを使って空燃比を推定することができるようにした。
【0037】
なお、本実施形態では、吸入空気量と充填効率CEとが比例関係にあることに着目して充填効率CEを計算し、その計算結果を使って式1の比例定数Kを求めたが、これに限らず、エアフローセンサで吸入空気量を検出し、式1にあてはめて比例定数Kを求めるようにしてもよい。
【0038】
要は、ステップ状に変化する出力特性を有する酸素濃度センサ3の出力が遷移域Rにあるときの空燃比つまり理論空燃比と、吸入空気量に関するパラメータおよび燃料噴射量とを使って理論空燃比と比例する比例定数Kを求め、この比例定数Kを使って、遷移域R以外の領域でも空燃比を推測するものであればよい。
【符号の説明】
【0039】
1…エンジン制御装置、 2…クランクパルサ、 3…酸素濃度センサ、 5…クランクパルサロータ、 6…燃料噴射弁、 8…ECU、 9…クランク軸、 11…空燃比算出部、 12…燃料噴射量算出部、 13…燃料噴射弁制御部、 14…充填効率算出部、 16…減速量算出部、 17…比例定数算出部、 18…ストイキ検出部
【技術分野】
【0001】
本発明は、空燃比推測検知装置に係り、特に、いわゆる広域空燃比センサを用いることなく広域の空燃比を推測により検知することができる空燃比推測検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの排気ガス中の酸素濃度を検出することによって間接的に空燃比(以下、「A/F」とも呼ぶ)を検出し、その検出結果に基づいて点火制御や燃料噴射制御を含むエンジンの燃焼制御を行う技術が周知である。そして、排気ガス中の酸素濃度を検出する検出素子である酸素濃度センサとして、理論空燃比に対応する酸素濃度(空気過剰率λ=1)を境に起電力つまり検出出力が急峻に(ステップ状に)変化するいわゆるλセンサがその簡便さから広く使われている。このλセンサによれば、空燃比が理論空燃比よりも大きいか小さいかを容易に判断することができる。
【0003】
しかし、理論空燃比に対する空燃比の大小のみで酸素濃度を検出するλセンサでは理論空燃比から外れた領域で正確に空燃比を検出することができない。したがって、空燃比を理論空燃比以外のリッチ側およびリーン側の領域を含む任意の値に設定する制御にはλセンサは使用できない。一方、広域に亘って空燃比を検出することができる広域空燃比センサは構造が複雑であるため高価であるという課題がある。
【0004】
そこで、本出願人は、特許文献1に示すように、酸素濃度センサを使用することなくクランク角速度に基づいて空燃比を推測する空燃比推測検知装置を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−27061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されている空燃比推測検知装置によれば、酸素濃度センサを用いることなく空燃比を推測し、その推測値に基づいて点火制御や燃料噴射制御を適切に行うことができる。しかし、クランク角速度に基づく空燃比の推測だけでは不十分な場合があり、さらに精度の高い空燃比推測手段が要求されていた。
【0007】
本発明の目的は、いわゆる広域空燃比センサを用いることなく広域の空燃比を推測することができる空燃比推測検知装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は、エンジンのシリンダに導入される吸入空気量を推測する吸入空気量推測手段と、燃料噴射弁の駆動時間に基づいてサイクル毎の燃料噴射量を推測する燃料噴射量推測手段と、燃焼ガスの残留酸素濃度に応じた検出出力を生じ、理論空燃比に対応する残留酸素濃度に対応して検出出力がステップ状に変化する出力遷移域を有する酸素濃度検出素子と、前記酸素濃度検出素子の出力値が前記出力遷移域にあるときに前記吸入空気量推測手段で推測された吸入空気量および前記燃料噴射量推定手段で推定された燃料噴射量を使用して空燃比と理論空燃比との比例定数を決定する比例定数決定手段とを備え、前記酸素濃度検出素子の出力値が出力遷移域以外にあるときには、前記比例定数決定手段で決定された比例定数と前記吸入空気量および前記燃料噴射量から空燃比を推測するように構成されている点に第1の特徴がある。
【0009】
また、本発明は、エンジンのクランク軸の所定回転角度毎にクランクパルスを発生させるパルス発生手段と、前記エンジンの圧縮上死点または該該圧縮上死点を跨ぐ二つの連続するクランクパルスの間隔に基づいて第1のクランク角速度を算出するとともに、圧縮行程における任意の連続する2つのクランクパルスの間隔に基づいて第2のクランク角速度を算出するクランク角速度算出手段と、前記クランク角速度算出手段で算出された第2のクランク角速度と第1のクランク角速度との差によって吸入空気量の関数である充填効率を算出する充填効率算出手段と、燃料噴射弁の駆動時間に基づいてサイクル毎の燃料噴射量を推測する燃料噴射量推測手段と、燃焼ガスの残留酸素濃度に応じた検出出力を生じ、理論空燃比に対応する残留酸素濃度に対応して検出出力がステップ状に変化する出力遷移域を有する酸素濃度検出素子と、前記酸素濃度検出素子の出力値が前記出力遷移域にあるときに前記充填効率算出手段で推測された吸入空気量および前記燃料噴射量推定手段で推定された燃料噴射量を使用して空燃比と理論空燃比との比例定数を決定する比例定数決定手段とを備え、前記酸素濃度検出素子の出力値が出力遷移域以外にあるときには、前記比例定数決定手段で決定された比例定数と前記充填効率および前記燃料噴射量から空燃比を推測するように構成されている点に第2の特徴がある。
【0010】
また、本発明は、エンジンの吸入空気量を検知するエアフローセンサを備え、前記推定吸入空気量推測手段で推測される吸入空気量に代えて、前記エアフローセンサで検知された吸入空気量を前記比例定数決定手段での演算に使用するように構成されている点に第3の特徴がある。
【発明の効果】
【0011】
第1〜第3の特徴を有する本発明によれば、酸素濃度検出素子の出力をフィードバックして理論空燃比制御(ストイキ制御)しているときに、吸入空気量および燃料供給量を推測し、この吸入空気量および燃料供給量と理論空燃比とから、空燃比算出式を使って比例定数を逆算することができる。これにより、広域に亘って空燃比を検出できる高価な酸素濃度検出素子を使用することなく、理論空燃比から離れた広い領域でも空燃比を精度よく推測検知することができる。
【0012】
特に、第2の特徴を有する本発明によれば、吸入空気量の関数である充填効率を使って吸入空気量を推定するので、エアフローセンサを省略することができるという効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る空燃比推測検知装置を含むエンジン制御装置のシステム構成を示すブロック図である。
【図2】クランクパルサロータの正面図である。
【図3】酸素濃度センサの出力特性を示す図である。
【図4】ECUの要部機能を示すブロック図である。
【図5】充填効率CEを求めるためのマップを示す図である。
【図6】減速量Δω1を算出するECUの機能を示すブロック図である。
【図7】1サイクル中のクランクパルスとクランク角速度ωとの関係を示すタイムチャートである。
【図8】図7の一部拡大図である。
【図9】空燃比推定演算のメインフローチャートである。
【図10】充填効率CEを算出するフローチャートである。
【図11】燃料噴射量Gfを算出するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る空燃比推測検知装置を含むエンジン制御装置のシステム構成を示すブロック図である。図1において、エンジン制御装置1は、クランクパルサ2、酸素濃度センサ3、および負圧センサ4と、クランクパルサ2、酸素濃度センサ3、および負圧センサ4による検出信号を入力されて点火装置6および燃料噴射弁7を駆動する指令を出力するECU8とを備える。ECU8は図4等に関して後述する機能を実行するマイクロプロセッサを含む。酸素濃度センサ3は燃焼ガスの残留酸素濃度に応じた検出出力を生じ、理論空燃比に対応する残留酸素濃度において検出出力が、図3に関して後述するようにステップ状に変化する出力遷移域Rを有するセンサであり、図示しないエンジンの排気管内に素子部を臨ませて取り付けられる。負圧センサ4はエンジンの吸気管に取り付けられ、吸気管内の負圧を検知する。クランクパルサ2は、磁気ピックアップ式のパルス発生器であり、次に説明するクランクパルサロータの外周に対向して取り付けられる。
【0015】
図2は、クランクパルサロータの正面図である。図2において、4サイクル単気筒エンジンのクランク軸9には、クランクパルサロータ5が取り付けられている。クランクパルサロータ5は、円板状のロータ本体51とロータ本体51の外周に突出して形成されるリラクタ52とからなる。リラクタ52は、1箇所の歯欠け部(リラクタが無い部分)Hを除いて、一定角度間隔で複数設けられる。本実施形態では、11個のリラクタ52を30度の角度間隔で配置した構成としているが、一定角度間隔で配置され、かつ1箇所の歯欠け部Hを有していればリラクタ52の個数や配置角度間隔は任意に設定できる。クランクパルサロータ5の外周に対向してクランクパルサ2が配置される。クランクパルサ2はリラクタ52を検出してクランクパルスを出力する。
【0016】
図3は、酸素濃度センサ3の出力特性を示す図である。図3において、横軸は空気過剰率、縦軸は酸素濃度センサ3の出力を示す。空気過剰率が「1.0」の時が理論空燃比であり、この理論空燃比よりも空気過剰率が大きい領域は混合気が薄いリーン側、理論空燃比よりも空気過剰率が小さい領域は混合気が濃いリッチ側である。混合気がリッチ側からリーン側へ遷移したとき、センサ出力は急激に下降し、混合気がリーン側からリッチ側へ遷移するとき、センサ出力は急激に上昇する。このようなセンサ出力の遷移域Rでは、空燃比はほぼ理論空燃比であり、浄化率が良好な排気ガス状態である。
【0017】
図4は、ECU8の要部機能を示すブロック図である。ECU8において、空燃比算出部11は、エンジンの1サイクル毎の燃料噴射量(重量)Gfと、吸入空気量の関数である充填効率CEと、比例定数Kとを使用し、式1を使って空燃比A/Fを算出する。空燃比A/F=K×(CE/Gf)…(式1)。
【0018】
燃料噴射量算出部12は、燃料噴射制御部13から前記燃料噴射弁7へ1サイクル毎に供給される噴射弁開口時間Toutを抽出し、これに基づいて燃料噴射量Gfを算出し、空燃比算出部11に入力する。吸気管への燃料噴射は、圧力調整弁を用いて燃料供給配管系の圧力を一定とし、燃料噴射弁7を1サイクル毎に一定時間開口することにより行われる。この噴射弁開口時間Toutは燃料噴射制御部13における燃料噴射制御演算の制御パラメータである。燃料噴射量Gfは一定供給圧力のもとでは噴射弁開口時間Toutに比例し、式2を使って算出される。燃料噴射量Gf=a0+b0×Tout…(式2)。切片a0と比例定数b0は噴射弁開口時間を燃料の重量に補正するための数値である。
【0019】
吸入空気量推測手段としての充填効率算出部14は、圧縮行程におけるクランク角速度の減速量Δω1とエンジン回転速度検出部15から入力されるエンジンの平均回転速度NeAとによって、予め設定されたマップを検索して吸入空気量の関数である充填効率CEを算出し、空燃比算出部11に入力する。減速量Δω1はクランクパルサ2から得られるクランクパルス信号に基づいて、減速量算出部16で算出される。平均回転速度NeAと減速量Δω1の算出手法はさらに後述する。
【0020】
充填効率CEは排気量に対する吸入空気量の重量割合を表す値であり、一定のエンジン回転速度では、減速量Δω1は充填効率CEと比例する。一定のエンジン回転速度のもとでは、充填効率CEは式3の関係がある。充填効率CE=a1+b1×Δω1…(式3)。比例定数b1はエンジン回転速度が大きいほど大きくなる規則的な関係を有する。したがって、充填効率CEは減速量Δω1とエンジン回転速度の関数として求めることができる。
【0021】
図5は、充填効率CEを求めるためのマップである。図5において、横軸は減速量Δω1であり、縦軸は充填効率CEである。このようなマップはエンジン回転速度NeAをパラメータとして複数設けられる。図5には、高回転速度、中回転速度、および低回転速度のマップを示し、エンジン回転速度NeAによる傾向を示している。
【0022】
なお、このようなマップを使用するのに限らず、減速量Δω1を計算する式3をエンジン回転速度Ne毎に備え、計算によって充填効率CEを計算してもよい。その場合、検出されたエンジン回転速度NeAが、計算式のエンジン回転速度NexとNeyの間に位置するものであった場合は、直線補間計算により充填効率CEを求める。
【0023】
図4に戻り、比例定数算出部17は、燃料噴射量Gfおよび充填効率CEと、ストイキ検出信号STとから、上述の式1を使って比例定数Kを算出する。ストイキ検出信号STは、ストイキ検出部18で燃料噴射制御部13のストイキ制御中が検出されたときに出力される。
【0024】
酸素濃度センサ3の出力に基づいてO2フィードバックにより理論空燃比制御(ストイキ制御)をしている燃料噴射制御部13においては、ストイキ制御中は、制御上の管理演算から理論空燃比制御状態を示す指令(制御フラグ)が得られる。したがって、この制御フラグを検出した時の空燃比は理論空燃比である。但し、始動時や加速時等の高負荷運転中リッチ側寄りで制御されている場合は、空燃比は「14.7」より小さい「14.5」等である。そこで、ストイキ検出信号STが入力されたときに、運転状態に応じて、例えば空燃比「14.5」と特定し、この空燃比「14.5」と、充填効率CE、および燃料噴射量Gfを式1に代入して比例定数Kが求められる。
【0025】
次にクランク角速度の減速量Δω1の算出手法を説明する。図6は、減速量Δω1を算出するECU8の機能を示すブロック図である。ステージ設定部20は、クランクパルス検出部21によってクランクパルサ2の歯欠け部Hを検知したときにクランクパルサロータ5の基準位置を検知し、まず、リラクタ52の配置に基づいてクランク軸9の1回転を♯0〜♯10の合計11のステージで分割する。
【0026】
その後、負圧センサ4で検出される吸気管負圧PBの変動等に基づいて行程を判別・確定し、さらに、クランク軸9が1サイクル中の1回転目または2回転目のいずれであるかを判定するステージの表裏判定を行い、1サイクル(クランク回転角720度)が♯0〜♯21の合計22のステージに分割される。吸気管負圧PBの変動に基づく行程判別は、例えば、検知された負圧の変動パターンを、ステージと関連づけて実験等で求められた変動パターンと照合することによって行うことができる。行程判別は周知の行程判別手法を採用して行うことができる。
【0027】
クランク角速度算出部23はステージ設定部20で設定されたステージのうち、圧縮上死点直前または圧縮上死点を跨ぐ位置で発生される連続する2つのクランクパルスの間隔τ1(図8に関して後述)に基づいてクランク角速度ω1を算出する。同様にしてクランク角速度算出部23は、圧縮行程の任意のステージに相当する2つのクランクパルスの間隔τ2(図8に関して後述)に基づいてクランク角速度ω2を算出する。減速量算出部16は、圧縮行程中のクランク角速度ω2とエンジンの上死点位置に重なる所定区間で検知されるクランク角速度ω1との差(ω2−ω1)つまり圧縮行程における減速量Δω1を算出する。
【0028】
図7は、1サイクル中のクランクパルスとクランク角速度ωとの関係を示すタイムチャートであり、図8は、図7の一部拡大図である。図7、図8から理解されるように、クランク角速度ωは、エンジンの1サイクルすなわち圧縮、燃焼・膨張、排気、吸気の4行程に応じたシリンダ内圧によって周期的に変動している。具体的には、圧縮行程の後半区間では、シリンダ内圧の上昇による圧縮抵抗に起因してクランク角速度ωは減少する。また、燃焼・膨張行程では燃焼によるシリンダ内圧の上昇によってクランク回転エネルギが生じてクランク角速度ωは増加する。そして、燃焼・膨張行程の終了時にクランク角速度ωはピークの角速度ω2を迎え、その後、エンジン内の機械的な摩擦抵抗、排気行程および燃焼済みガスの排出抵抗、吸入行程における吸入抵抗等のポンプ仕事によるシリンダ内圧の変動によって低下する。このようなクランク角速度ωの変動によれば、クランク角速度ω1は平均回転速度NeAより小さい。
【0029】
なお、クランク角速度ωの変動ピークは、エンジンの発生トルクが大きいほど大きくなり、その後の低下量は、吸入空気量が大きいほど大きくなる。したがって、発生トルクが大きく、かつ吸入空気量が多いエンジンであるほど、クランク角速度ωの変動は大きくなる。さらに、この変動は、クランク軸の慣性力が小さい低回転域であるほど大きく、また、単気筒エンジンのように、クランク軸の慣性モーメントが比較的小さいエンジンでも大きくなる傾向にある。
【0030】
図8を参照して、クランク角速度ω1は、圧縮上死点直前に位置するクランクパルスP1の立ち下がり点C1から、圧縮上死点直後に位置するクランクパルスP2の立ち下がり点C2までの30度区間の通過時間τ1を計測し、この通過時間τ1とリラクタ52の配置角度間隔とを使用して算出される。また、圧縮行程中の任意にステージにおける2つのクランクパルスP3の立ち下がり点C3から、クランクパルスP4の立ち下がり点C4までの30度区間の通過時間τ2を計測し、この通過時間τ2とリラクタ52の配置角度間隔とを使用してクランク角速度ω2が算出される。
【0031】
なお、クランクパルスP1およびP2は圧縮上死点を跨ぐ2つのクランクパルスであるのに限らず、例えば、圧縮上死点直前の連続する2つのクランクパルスであってもよい。要は、圧縮上死点近傍または圧縮上死点を跨ぐ連続する2つのクランクパルスの発生間隔τ1に基づいてクランク角速度ω1を算出すればよい。
【0032】
続いて、フローチャートを参照して空燃比算出動作を説明する。図9は空燃比推定演算のメインフローチャートである。ステップS1では、ストイキ制御中であることを示す制御フラグを検索する。ステップS2では、ストイキ制御中であることを示す制御フラグが検出されたか否かが判断され、この判断が肯定となれば、ステップS3に進み、充填効率CEを算出する。ステップS4では、燃料噴射量Gfを算出する。ステップS5では充填効率CEを燃料噴射量Gfで除算した値CE/Gfの移動平均値を算出する。ステップS6では、式1中の比例定数Kを算出する。すなわち、ステップS5で算出した値CE/Gfとストイキ制御中の空燃比「14.5」を式1に代入して比例定数Kを算出する。
【0033】
こうして算出された比例定数Kは、酸素濃度センサ3の出力の遷移域R以外で空燃比を推測するために式1とともに使用することができる。
【0034】
図10は、充填効率CEを算出するフローチャートである。図10において、ステップS31では、減速量Δω1を取得する。減速量Δω1は前記減速量算出部16で算出される。ステップS32では平均エンジン回転速度NeAを取得する。エンジン回転速度NeAは前記エンジン回転速度算出部15で算出される。ステップS33では、例えば、図5のマップを使用して、減速量Δω1と平均エンジン回転速度NeAとの関数である充填効率CEを算出する。
【0035】
図11は、燃料噴射量Gfを算出するフローチャートである。図11において、ステップS41では、燃料噴射時間Toutを取得する。ステップS42では、式2を使って燃料噴射量Gfを算出する。
【0036】
このように、本実施形態では、充填効率CEと燃料噴射量Gfと比例定数Kを使って空燃比を求める際に、O2フィードバックによるストイキ制御中の空燃比(理論空燃比)を使って比例定数Kを決定し、酸素濃度センサ3の出力遷移域R以外の領域では、この比例定数Kを使って空燃比を推定することができるようにした。
【0037】
なお、本実施形態では、吸入空気量と充填効率CEとが比例関係にあることに着目して充填効率CEを計算し、その計算結果を使って式1の比例定数Kを求めたが、これに限らず、エアフローセンサで吸入空気量を検出し、式1にあてはめて比例定数Kを求めるようにしてもよい。
【0038】
要は、ステップ状に変化する出力特性を有する酸素濃度センサ3の出力が遷移域Rにあるときの空燃比つまり理論空燃比と、吸入空気量に関するパラメータおよび燃料噴射量とを使って理論空燃比と比例する比例定数Kを求め、この比例定数Kを使って、遷移域R以外の領域でも空燃比を推測するものであればよい。
【符号の説明】
【0039】
1…エンジン制御装置、 2…クランクパルサ、 3…酸素濃度センサ、 5…クランクパルサロータ、 6…燃料噴射弁、 8…ECU、 9…クランク軸、 11…空燃比算出部、 12…燃料噴射量算出部、 13…燃料噴射弁制御部、 14…充填効率算出部、 16…減速量算出部、 17…比例定数算出部、 18…ストイキ検出部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのシリンダに導入される吸入空気量を推測する吸入空気量推測手段(14)と、
燃料噴射弁(6)の駆動時間(Tout)に基づいてサイクル毎の燃料噴射量(Gf)を推測する燃料噴射量推測手段(12)と、
燃焼ガスの残留酸素濃度に応じた検出出力を生じ、理論空燃比に対応する残留酸素濃度に対応して検出出力がステップ状に変化する出力遷移域(R)を有する酸素濃度検出素子(3)と、
前記酸素濃度検出素子(3)の出力値が前記出力遷移域(R)にあるときに前記吸入空気量推測手段(14)で推測された吸入空気量および前記燃料噴射量推定手段(12)で推定された燃料噴射量(Gf)を使用して空燃比と理論空燃比との比例定数(K)を決定する比例定数決定手段(17)とを備え、
前記酸素濃度検出素子(3)の出力値が出力遷移域(R)以外にあるときには、前記比例定数決定手段(17)で決定された比例定数(K)と前記吸入空気量および前記燃料噴射量(Gf)から空燃比(A/F)を推測するように構成されていることを特徴とする空燃比推測検知装置。
【請求項2】
エンジンのクランク軸(9)の所定回転角度毎にクランクパルスを発生させるパルス発生手段(2)と、
前記エンジンの圧縮上死点または該該圧縮上死点を跨ぐ二つの連続するクランクパルスの間隔(τ1)に基づいて第1のクランク角速度(ω1)を算出するとともに、圧縮行程における任意の連続する2つのクランクパルスの間隔(τ2)に基づいて第2のクランク角速度(ω2)を算出するクランク角速度算出手段(23)と、
前記クランク角速度算出手段(23)で算出された第2のクランク角速度(ω2)と第1のクランク角速度(ω1)との差(Δω1)によって吸入空気量の関数である充填効率(CE)を算出する充填効率算出手段(14)と、
燃料噴射弁(6)の駆動時間(Tout)に基づいてサイクル毎の燃料噴射量(Gf)を推測する燃料噴射量推測手段(12)と、
燃焼ガスの残留酸素濃度に応じた検出出力を生じ、理論空燃比に対応する残留酸素濃度に対応して検出出力がステップ状に変化する出力遷移域(R)を有する酸素濃度検出素子(3)と、
前記酸素濃度検出素子(3)の出力値が前記出力遷移域(R)にあるときに前記充填効率算出手段(14)で推測された吸入空気量および前記燃料噴射量推定手段(12)で推定された燃料噴射量(Gf)を使用して空燃比と理論空燃比との比例定数(K)を決定する比例定数決定手段(17)とを備え、
前記酸素濃度検出素子(3)の出力値が出力遷移域(R)以外にあるときには、前記比例定数決定手段(17)で決定された比例定数(K)と前記充填効率(CE)および前記燃料噴射量(Gf)から空燃比(A/F)を推測するように構成されていることを特徴とする空燃比推測検知装置。
【請求項3】
エンジンの吸入空気量を検知するエアフローセンサを備え、
前記推定吸入空気量推測手段(14)で推測される吸入空気量に代えて、前記エアフローセンサで検知された吸入空気量を前記比例定数決定手段(17)での演算に使用するように構成されていることを特徴とする請求項1記載の空燃比推測検知装置。
【請求項1】
エンジンのシリンダに導入される吸入空気量を推測する吸入空気量推測手段(14)と、
燃料噴射弁(6)の駆動時間(Tout)に基づいてサイクル毎の燃料噴射量(Gf)を推測する燃料噴射量推測手段(12)と、
燃焼ガスの残留酸素濃度に応じた検出出力を生じ、理論空燃比に対応する残留酸素濃度に対応して検出出力がステップ状に変化する出力遷移域(R)を有する酸素濃度検出素子(3)と、
前記酸素濃度検出素子(3)の出力値が前記出力遷移域(R)にあるときに前記吸入空気量推測手段(14)で推測された吸入空気量および前記燃料噴射量推定手段(12)で推定された燃料噴射量(Gf)を使用して空燃比と理論空燃比との比例定数(K)を決定する比例定数決定手段(17)とを備え、
前記酸素濃度検出素子(3)の出力値が出力遷移域(R)以外にあるときには、前記比例定数決定手段(17)で決定された比例定数(K)と前記吸入空気量および前記燃料噴射量(Gf)から空燃比(A/F)を推測するように構成されていることを特徴とする空燃比推測検知装置。
【請求項2】
エンジンのクランク軸(9)の所定回転角度毎にクランクパルスを発生させるパルス発生手段(2)と、
前記エンジンの圧縮上死点または該該圧縮上死点を跨ぐ二つの連続するクランクパルスの間隔(τ1)に基づいて第1のクランク角速度(ω1)を算出するとともに、圧縮行程における任意の連続する2つのクランクパルスの間隔(τ2)に基づいて第2のクランク角速度(ω2)を算出するクランク角速度算出手段(23)と、
前記クランク角速度算出手段(23)で算出された第2のクランク角速度(ω2)と第1のクランク角速度(ω1)との差(Δω1)によって吸入空気量の関数である充填効率(CE)を算出する充填効率算出手段(14)と、
燃料噴射弁(6)の駆動時間(Tout)に基づいてサイクル毎の燃料噴射量(Gf)を推測する燃料噴射量推測手段(12)と、
燃焼ガスの残留酸素濃度に応じた検出出力を生じ、理論空燃比に対応する残留酸素濃度に対応して検出出力がステップ状に変化する出力遷移域(R)を有する酸素濃度検出素子(3)と、
前記酸素濃度検出素子(3)の出力値が前記出力遷移域(R)にあるときに前記充填効率算出手段(14)で推測された吸入空気量および前記燃料噴射量推定手段(12)で推定された燃料噴射量(Gf)を使用して空燃比と理論空燃比との比例定数(K)を決定する比例定数決定手段(17)とを備え、
前記酸素濃度検出素子(3)の出力値が出力遷移域(R)以外にあるときには、前記比例定数決定手段(17)で決定された比例定数(K)と前記充填効率(CE)および前記燃料噴射量(Gf)から空燃比(A/F)を推測するように構成されていることを特徴とする空燃比推測検知装置。
【請求項3】
エンジンの吸入空気量を検知するエアフローセンサを備え、
前記推定吸入空気量推測手段(14)で推測される吸入空気量に代えて、前記エアフローセンサで検知された吸入空気量を前記比例定数決定手段(17)での演算に使用するように構成されていることを特徴とする請求項1記載の空燃比推測検知装置。
【図7】
【図8】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図9】
【図10】
【図11】
【図8】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−193654(P2012−193654A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57872(P2011−57872)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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