説明

空間光デバイス

【課題】可変減衰精度および動作の安定性の向上を実現することができる空間光デバイスを提供する。
【解決手段】出力ポート12に入射する信号光の割合を示す光透過率が、MEMSミラー装置100の電極に電圧を印加してミラー103を回動させたときに極大となるようにする。これにより、電極に印加する電圧の全電圧範囲に亘って光透過率の変化が線形に近くなるので、可変減衰精度および動作の安定性の向上を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間光デバイスに関し、特に静電引力により駆動するMEMSミラー装置を備えた空間光デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光通信分野では、様々な種類の空間光デバイスが用いられている。例えば、信号光の強度レベルを任意に調整可能な可変減衰器(VOA:Variable Optical Attenuator)、信号光の経路を切り替えるための光スイッチなどが挙げられる。この光スイッチとしては、1本の光ファイバに複数の信号光チャネルを波長多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)して効率的に伝送する波長多重伝送方式が主流になっており、WDM信号に対して波長チャネルごとにレベル調整や経路切り替えを行うことができる波長選択スイッチ(WSS:Wavelength-Selective Switch)が脚光を浴びている。このような光空間デバイスの具体例について以下に説明する。
【0003】
<従来のVOAの構成>
まず、図13に可変光減衰器(VOA)の一構成例を示す(例えば、非特許文献1を参照)。図13に示すVOA200は、光軸がZ軸方向に沿って配設された入力ポート201および出力ポート202と、マイクロレンズ203と、集光レンズ204と、後述するMEMS(Micro-Electro Mechanical Systems)ミラー装置100とを備えており、これらをこの順番でZ軸方向に沿って配列した構成を有する。
【0004】
VOA200において、入力ポート201から入力された信号光は、マイクロレンズ203で平行光とされ、集光レンズ204により収束され、MEMSミラー装置100の後述するミラー103に入射する。このミラー103はX軸回りに回動可能とされており、ミラー103に到達した信号光は、ミラー103により反射され、集光レンズ204を通過し、出力ポート202から出力される。図13の場合、ミラー103の平面をY軸方向に沿った状態としたとき、ミラー103により反射された信号光は、符号aに示すように光軸が出力ポート202の光軸と一致するので、そのほとんどが出力ポート202に到達して出力されることとなる。一方、符号bに示す方向にミラー103をX軸回りに回動させると、ミラー103により反射された信号光は、符号cに示すように、光軸が出力ポート202の光軸とY軸方向にずれてしまうので、そのほとんどが出力ポート202に到達せず、出力されないこととなる。
【0005】
このように、MEMSミラー装置を用いたVOA200では、ミラー103の回動角を変えて、出力ポート202の光軸と信号光の光軸の位置関係を調整して出力ポート202に到達する信号光の光量を調整することにより、信号光の透過率を変化させている。一般に、ミラー103の平面がY軸方向に沿った状態のとき、透過率が最大となり、ミラー103の回動角が大きくなるほど、透過率が下がるように設定されている。
【0006】
<従来のDCEの構成>
次に、図14にダイナミックチャネルイコライザ(DCE:Dynamic Channel Equalizer)の一構成例を示す(例えば、非特許文献2を参照)。
【0007】
図14に示すDCE300は、3つのポートを有するサーキュレータ303と、マイクロレンズ304と、回折格子305と、集光レンズ306と、信号のチャネル数m(波長数m)と等しい数だけMEMSミラー装置100をX軸方向に沿って配列したMEMSミラーアレイ307とを備えており、これらをこの順番でZ軸方向に沿って配列した構成を有する。
【0008】
このようなDCE300において、サーキュレータ303の入力ポート301に入力された信号光は、サーキュレータ303のマイクロレンズ側の出射ポート303から出射され、マイクロレンズ304で平行光とされる。この平行光とされた信号光は、回折格子305に到達し、この回折格子305を通過する際に信号波長に応じてX軸方向に分散され、集光レンズ306により互いに平行な光軸を有する信号光群となり、各信号波長に対応してX軸方向にアレイ化されている別々のMEMSミラー装置100のミラー103に入射する。なお、DCE300においては、ミラー103はY軸回りに回動可能に支持されている。したがって、ミラー103に到達した信号光は、そのミラーのY軸回りの角度に応じて反射される。
【0009】
図14の場合、ミラー103の平面をX軸方向に沿った状態としたとき、ミラー103により反射された信号光は、ミラー103に入射したときと同じ光路を逆向きに伝搬することとなる。すなわち、その信号光は、集光レンズ306により収束され、回折格子305により合波され、マイクロレンズ304により収束され、サーキュレータ303の出力ポート308に到達し、第2の出力ポート302より出力される。
【0010】
ところが、ミラー103をY軸回りに回動させた場合、ミラー103により反射された信号光は、符号d,eに示すように、ミラー103に入射したときと異なる光路を経て伝搬することとなる。まず、ミラー103により反射された信号光は、集光レンズ306に照射されるが、このときX軸方向において入射したときと異なる位置に照射される。したがって、集光レンズ306により収束された信号光は、回折格子305においても、X軸方向において入射したときと異なる位置に照射される。すると、回折格子305により合波された信号光は、その光軸がマイクロレンズ306の光軸と一致しないので、マイクロレンズ304に到達しないまたは一部のみしか到達せず、結果として、出力ポート302から出力されないまたは一部のみしか出力されないこととなる。
【0011】
このように、DCE300においては、各MEMSミラー装置100のミラー103のY軸回りの回動角を変化させることで、各チャネルの信号光の出力ポート302への結合効率(光透過率)を調整する。
【0012】
<従来のWSSの構成>
最後に、図15,図16に波長選択スイッチ(WSS)の一構成例を示す(例えば、特許文献1を参照)。ここで、図15はXZ面、図16はYZ面を示すものである。
【0013】
図15,図16に示すWSS400は、光軸がZ軸方向に沿って配設された光ファイバアレイ410と、マイクロレンズアレイ420と、回折格子430と、集光レンズ440と、MEMSミラーアレイ450とを備えており、これらをこの順番でZ軸方向に沿って配列した構成を有する。
【0014】
ここで、光ファイバアレイ410は、各々の光軸をZ軸方向に沿わせたN+1本の光ファイバをZ軸と直交するY軸方向に並設し、そのうちの1本を入力ポート、他のN本を出力ポートとする。または、1本を出力ポート、他のN本を入力ポートとする。これにより、1xNのDrop型WSSまたはNx1のAdd型WSSとして使用することができる。なお、図15,図16においては、光ファイバアレイ410は、入力ポート411と出力ポート412〜415とを備えたDrop形WSSの場合を例に説明する。
【0015】
マイクロレンズアレイ420は、複数のマイクロレンズ421〜425をY軸方向に並設したものである。このようなマイクロレンズアレイ420は、図16に示すように入出力ポート411〜415に対してZ軸方向の正の側に、各マイクロレンズ421〜425が対応する光入出力ポートと対向するように配設される。
【0016】
MEMSミラーアレイ450は、X軸方向に並設され、X軸回りおよびY軸回りに回動可能に支持されたミラー103を備える複数のMEMSミラー装置から構成されている。このMEMSミラー装置のミラー103は、X軸に対して、n本の出力ポートのうちの何れか1つのポートと1本の入力ポートとが結合する、すなわち、X軸回りの回動方向に関して何れかの出力ポートと1本の入力ポートの間が最小損失になるように回動する。これは、ちょうど、出力ポートが並んだ方向に信号光の向きを動かすように回動する。一方、Y軸に対して、ミラー103は、X軸に直交するY軸回りに回動するので、入力ポートが並んだ方向と直交する方向に信号光の向きを動かすように回動する。したがって、入力ポートから出力ポートへの結合率、すなわち損失を制御するには、X軸およびY軸のどちらを回動させても可能であるが、ポートの並び方向の動きを司るX軸回りの回動は、主にポートの選択、ポートの並び方向と直交する方向の動きを司るY軸回りの回動は、主に損失の制御に用いられる。
【0017】
このようなWSS400において、入力ポート411から入力された信号光は、入力ポート411に対向配置されたマイクロレンズ421で平行光とされる。この平行光とされた信号光は、回折格子430に到達し、この回折格子430を通過する際に信号波長に応じてX軸方向に分散され、集光レンズ440により互いに平行な光軸を有する信号光群となり、各信号波長に対応してX軸方向にアレイ化されている別々のMEMSミラー装置100のミラー103に入射する。このミラー103はX軸回りおよびY軸回りに回動可能に支持されている。したがって、ミラー103に到達した信号光は、そのミラーのX軸回りおよびY軸回りの角度に応じて反射される。
【0018】
Y軸回りの回動について説明すると、図15の場合、ミラー103の平面をX軸方向に沿った状態としたとき、ミラー103により反射された信号光はXZ平面では、ミラー103に入射したときと同じ光路を逆向きに伝搬することとなる。すなわち、その信号光は、集光レンズ440により収束され、回折格子430により合波され、マイクロレンズアレイ420により収束され、光ファイバアレイ410より出力される。
【0019】
一方、ミラー103をY軸回りに回動させると、図15の符号f,gに示すように、ミラー103に入射したときと異なる光路を経て伝搬することとなる。まず、ミラー103により反射された信号光は、集光レンズ440に照射されるが、このときX軸方向において入射したときと異なる位置に照射される。したがって、集光レンズ440により収束された信号光は、回折格子430においても、X軸方向において入射したときと異なる位置に照射される。すると、回折格子430により合波された信号光は、その光軸がマイクロレンズアレイ420の光軸と一致しないので、マイクロレンズ421〜425に到達しないまたは一部のみしか到達せず、結果として、光ファイバアレイ410から出力されないまたは一部のみしか出力されないこととなる。
【0020】
X軸回りの回動について説明すると、図16に示すように、入力ポート411および出力ポート412〜415がY軸方向に沿って並設されているので、MEMSミラー装置450のミラー103をX軸回りに回動させると、ミラー103により反射された光信号は、Y軸方向に移動する。これにより、ミラー103により反射された信号光は、集光レンズ440により収束され、回折格子430により合波されのち、マイクロレンズ421,422〜425のいずれかに到達し、このマイクロレンズに対応する出力ポート412〜415から出力されることとなる。
【0021】
図13〜図16を参照して説明した空間光デバイスはいずれも、同じ原理に基づいて光透過率(T)を制御している。すなわち、MEMSミラー装置のミラー103を回動させることによって、このミラー103により反射された信号光の光軸をずらすことにより、ポート(光ファイバ)への光結合損失を発生させるものである。そして、光学系の構成については、図13のVOAの場合はY軸方向、図14〜図16のDCEおよびWSSの場合はX軸方向に、ミラー103の平面が沿った状態のときに光透過率が最大となり、ミラー103をX軸回りまたはY軸回りに回動させるにつれて光透過率が低下するように設定されている。この空間光デバイスにおける光透過率とミラー103の回動角との関係(T−θ特性)を図17に示す。なお、図17において、透過率(T)は対数表示としている。
【0022】
このように、各種空間光デバイスの主要な構成要素であるMEMSミラー装置の一構成例を図18に示す(例えば、特許文献2参照。)。
【0023】
図18に示す平行平板型のMEMSミラー装置100は、一対のばね部材101,102によりこのばね部材101,102の延在方向(以下、X軸方向という)回りに回動可能に支持されるとともにグランドに接地されたミラー103と、このミラー103の平面に対して垂直な方向にミラー103と所定間隔離間した状態で対向配置され、X軸に対して線対称に設けられた一対の電極104,105とを備えている。このようなMEMSミラー装置は、電極104,105に電圧を印加し、電極104,105とミラー103との間の電位差により生じる静電引力によってミラー103を回動軸回りに回動させる装置である。このような平行平板電極構造を有する静電駆動型のMEMSミラー装置におけるミラー103の回動角度(θ)は、静電引力とばね部材101,102の復元力とのつりあいによって決定され、電極104,105への印加電圧(V)の2/3乗の関数となる。典型的な印加電圧と回動角度の特性(V−θ特性)を図19に示す。
【0024】
図19からわかるように、印加電圧が小さい領域ではミラー103の回動角変化は鈍く、印加電圧が高くなるほど、ミラー103の回動角が急峻に大きくなる。これは、ミラーが傾くにつれて、ミラー103の端部と電極104または電極105との距離が近くなり、静電引力も大きくなるためである。一般に、その間隔が、ミラー103と電極104,105とが互いに平行な初期状態の1/3以下となると、ミラー103が電極104,105に一気に引き寄せられるため、ミラー103の可動角を制御できなくなる「プルイン」と呼ばれる状態となる。このプルインが生じると、ミラー103は、電極104,105またはこの電極の周囲に予め形成されたストッパに衝突して静止する。このとき、電気的な短絡が発生すると、ミラー103が電極104,105などと固着してしまい、ミラー103は再び回動することはできなくなる。したがって、平行平板型のMEMSミラー装置は、プルインが生じない範囲内で使用しなければならない。
【0025】
ところで、光スイッチのポート数や光減衰量範囲を大きくするためには、ミラーにより反射する光ビームの偏向角を大きくしなければならないので、ミラーの回動角をプルインが生じる領域の近傍まで最大限利用した設計が行われる。ところが、MEMSミラー装置のV−θ特性や光学系の特性には温度依存性や経時変化があり、印加電圧にもノイズや設定分解能起因の誤差がある。また、MEMSミラー装置は、光学系の組立誤差、光学部品の製造精度、振動時の変動の影響も受ける。これらの要因によって、MEMSミラー装置では、実用時においてミラーの回動角がプルインが生じる領域を侵してしまう懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】米国特許第6661948号明細書
【特許文献2】国際公開公報 WO06/073111
【非特許文献】
【0027】
【非特許文献1】MEMS variable optical attenuator for DWDM optical amplifiers、OSA Technical Digest Series(Optical Society of America, 2000)、paper WM17
【非特許文献2】Ming C. Wu, Olav Solgaard and Joseph E. Ford、"Optical MEMS for Lightwave Communication"、J. Lightwave Technol. 24、4433-4454、2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
ここで、図17に示したT−θ特性と、図19に示したMEMSミラー装置のV−θ特性とからMEMSミラー装置への印加電圧(V)と光学系の光透過率(T)の関係(T−V特性)を表すと、図20に示すように、印加電圧が小さいときは光透過率の変化(低下)も小さいが、印加電圧が高くなると光透過率が急激に低下するという傾向を示す。このような非線形特性を示すのは、T−θ特性とV−θ特性とがともに非線形であり、これらの特性が相乗されるためである。したがって、光透過率の低い領域ほど、設定可能な光減衰量分解能が大きくなってしまうとともに、わずかな電圧変動によって光透過率が敏感に変化してしまう。このように、MEMSミラー装置を用いた従来の空間光デバイスでは、可変減衰器としての精度(VOA精度)を向上させることが困難であった。
【0029】
また、高い電圧を印加することにより実現する低透過率域は、ミラーが大きく回動している状態なので、プルインや角度ドリフトが発生しやすい。このため、温度変化や経時変化による角度ドリフトが発生すると、たとえその変化量がわずかであっても、T−V特性の急峻性によって光透過率が敏感に変動してしまうので、VOA精度や動作の安定性が低下してしまう。
【0030】
さらに、特にWSSにおいては、接続ポートを切り替える際に、他のポートへのクロストークを避けるためにミラーをY軸回りに大きく回動させる「ヒットレス」と呼ばれる動作が行われるが、このヒットレス動作時に印加電圧が高くなるので、プルインが発生しやすくなり、結果として、安定性が低下してしまう。
【0031】
そこで、本発明は、可変減衰精度および動作の安定性の向上を実現することができる空間光デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0032】
上述したような課題を解決するために、本発明に係る空間光デバイスは、信号光が入力される入力ポートと、信号光を出力する出力ポートと、少なくとも第1の軸回りに回動可能に支持されたミラーと、このミラーと対向配置された電極とを有し、この電極に印加される電圧により生じる静電引力によってミラーを回動させるミラー装置と、入力ポートから入射した信号光をミラーに照射し、ミラーにより反射される光信号を出力ポート側に出力するレンズとを備え、出力ポートに入射する信号光の割合を示す光透過率は、電極に電圧を印加してミラーを回動させたときに極大となることを特徴とするものである。
【0033】
上記空間光デバイスにおいて、入力ポートおよび出力ポートの少なくとも一方は、レンズの焦点を通る第2の軸および第1の軸に対して垂直な第3の軸方向において、当該第2の軸の延長線上に配設されないようにしてもよい。
【0034】
また、上記空間光デバイスにおいて、入力ポートおよび出力ポートは、第3の軸方向において、第2の軸を挟んで配設されるとともに、当該第2の軸に対して線対称に配設されないようにしてもよい。
【0035】
また、上記空間光デバイスにおいて、入力ポートおよび出力ポートが接続されるサーキュレータをさらに備え、サーキュレータの入出力端は、第2の軸方向において、光軸の延長線上に配設されないようにしてもよい。
【0036】
また、上記空間光デバイスにおいて、少なくとも1つの入力ポートおよび少なくとも1つの出力ポートを第3の軸方向に配列した入出力ポートアレイと、 複数のミラー装置を少なくとも第1の軸方向に配列したミラーアレイと、入出力ポートアレイとレンズとの間に配設され、入射した信号光を所定の波長毎に分散する分散素子とをさらに備え、ミラーは、第1の軸および第3の軸回りに回動可能に支持され、ミラーアレイは、第1の軸方向において、ミラーの法線が入力ポートおよび出力ポートの光軸と一致しない位置に配設されるようにしてもよい。
【0037】
また、上記空間光デバイスにおいて、入力ポートおよび出力ポートは、電極に印加する電圧Vとミラーの回動角θとの関係における二次微分係数d2θ/dV2の符号と、光透過率Tと回動角θとの関係における二次微分係数d2T/dθ2との符号とが互いに逆になるように配置されるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、出力ポートに入射する信号光の割合を示す光透過率が、電極に電圧を印加してミラーを回動させたときに極大となるようにすることにより、電極に印加する電圧の全電圧範囲に亘って光透過率の変化が線形に近くなるので、可変減衰精度および動作の安定性の向上を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は、本発明の第1の実施の形態に係るVOAをYZ平面から見たときの構成を模式的に示す図である。
【図2】図2は、図1のVOAのT−θ特性を示す図である。
【図3】図3は、図1のVOAのT−V特性を示す図である。
【図4】図4は、本発明の第1の実施の形態の変形例に係るVOAをXZ平面から見たときの構成を模式的に示す図である。
【図5】図5は、図4は、本発明の第1の実施の形態の変形例に係るDCEをXZ平面から見たときの構成を模式的に示す図である。
【図6】図6は、本発明の第2の実施の形態に係るWSSをXZ平面から見たときの構成を模式的に示す図である。
【図7】図7は、本発明の第2の実施の形態に係るWSSをYZ平面から見たときの構成を模式的に示す図である。
【図8】図8は、2つの軸回りに回動するMEMSミラー装置の構成を模式的に示す図である。
【図9】図9は、本発明の第2の実施の形態に係るWSSのT−θ特性を示す図である。
【図10】図10は、本発明の第2の実施の形態に係るWSSのT−V特性を示す図である。
【図11】図11は、本発明の第2の実施の形態の変形例に係るプリズムを備えたWSSをXZ平面から見たときの構成を模式的に示す図である。
【図12】図12は、本発明の第2の実施の形態の変形例に係る反射ミラーを備えたWSSをXZ平面から見たときの構成を模式的に示す図である。
【図13】図13は、従来のVOAをYZ平面から見たときの構成を模式的に示す図である。
【図14】図14は、従来のDCEをXZ平面から見たときの構成を模式的に示す図である。
【図15】図15は、従来のWSSをXZ平面から見たときの構成を模式的に示す図である。
【図16】図16は、従来のWSSをYZ平面から見たときの構成を模式的に示す図である。
【図17】図17は、従来の空間光デバイスのT−θ特性を示す図である。
【図18】図18は、1つの軸回りに回動するMEMSミラー装置の構成を模式的に示す図である。
【図19】図19は、図18のMEMSミラー装置におけるθ−V特性を示す図である。
【図20】図20は、従来の空間光デバイスのT−V特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0041】
[第1の実施の形態]
まず、本発明の第1の実施の形態に係る可変光減衰器(VOA)1について説明する。
【0042】
<VOAの構成>
図1に示すように、本実施の形態に係るVOA1は、光軸がZ軸方向に沿って配設された入力ポート11および出力ポート12と、マイクロレンズ13と、集光レンズ14と、MEMSミラー装置100とを備えており、これらをこの順番でZ軸方向に沿って配列した構成を有する。
【0043】
入力ポート11および出力ポート12は、公知の光ファイバからなり、各々の光軸をZ軸方向に沿わせた状態で、Z軸と直交するY軸方向に並設した構成を有する。その光ファイバにおいて、マイクロレンズ13側の端部から光信号を出射するものが、入力ポート11であり、光信号を受光するものが出力ポート12となる。
【0044】
ここで、入力ポート11は、Y軸方向において、集光レンズ14の光軸から負の方向にY1の距離だけ離れた位置に配設される。一方、出力ポート12は、集光レンズ14の光軸から正の方向にY2(≠Y1)の距離だけ離れた位置に配設される。したがって、入力ポート11と出力ポート12とは、Y軸方向に(Y1+Y2)の距離だけ離間していることとなる。このような入力ポート11および出力ポート12のY軸方向の配置の原理については後述する。
【0045】
マイクロレンズ13は、公知のマイクロレンズからなり、入力ポート11および出力ポート12に対してZ軸方向の正の側に配設される。
【0046】
集光レンズ14は、公知の凸レンズなどの集光レンズから構成され、マイクロレンズ13に対してZ軸方向の正の側に設けられている。
【0047】
MEMSミラー装置100は、図18で示した平行平板型のMEMSミラー装置からなり、集光レンズ14に対してZ軸方向の正の側で、かつ、ミラー103の回動軸が集光レンズ14の焦点面に位置するように設けられる。このようなMEMSミラー装置100は、X軸方向に延在する一対のばね部材101,102によりX軸方向回りに回動可能に支持されるとともにグランドに接地されたミラー103と、このミラー103の平面に対して垂直な方向にミラー103と所定間隔離間した状態で対向配置され、X軸に対して線対称に設けられた一対の電極104,105とを備えている。このようなMEMSミラー装置は、電極104,105に電圧を印加し、電極104,105とミラー103との間の電位差により生じる静電引力によってミラー103を回動軸回りに回動させる装置である。このような平行平板電極構造を有する静電駆動型のMEMSミラー装置におけるミラー103の回動角度θは、静電引力とばね部材101,102の復元力とのつりあいによって決定され、電極104,105への印加電圧(V)の2/3乗の関数となる。典型的な印加電圧と回動角度の特性(V−θ特性)は図19に示した通りである。
【0048】
<入出力ポートの配置原理>
次に、本実施の形態において、入力ポート11および出力ポート12の配置原理について説明する。
【0049】
ミラー103の回動角度θは、ミラー103の平面がY軸方向に沿った状態(初期状態)をゼロとし、Y軸の正の側に配置された電極104への電圧印加によってミラー103がX軸に対して時計回りに回動する方向を正(θ>0)とする。また、ミラー103のY軸方向の長さを2Lとすると、ミラー103の回動によるミラー103先端部の変位量Xは、下式(1)で表される。
【0050】
X=L・tanθ≒Lθ ・・・(1)
【0051】
また、ミラー103と電極104,105との間隔をd、誘電率をεとする。また、ミラー103と電極104または電極105との間で発生する静電引力の分布荷重を、ミラー端に作用する集中荷重として換算するため、静電引力が発生する仮想的なミラーおよび電極の面積をSとする。さらに、ばね部材101,102のばね定数をkとすると、ミラー103と電極104,105との間に働く静電引力とばね部材101,102によるばね復元力との平衡条件から、下式(2)が成立する。ここで、Vは電極104または電極105に印加する電圧である。
【0052】
k・θ=εSV2L/{2(d−X)2} ・・・(2)
【0053】
上式(1),(2)から以下に示すようにミラー103の回動角θと電極104,105への印加電圧Vとの関係を導出することができ、V−θ特性は最終的に下式(3)で近似することができる。ここで、θmaxは、ミラー103が電極104,105に接触した状態におけるミラー103の回動角である。
【0054】
(d−X)2・θ=εSV2L/2k
θ(d/L−θ)2=εSV2/2kL
θ(θmax−θ)2=εSV2/2kL ・・・(3)
【0055】
上式(3)のV−θ特性を図示したものが図19である。この図19からもわかるように、印加電圧が小さい領域ではミラー103の回動角変化は小さく、印加電圧を高くするほどミラー103の回動角が急激に大きくなる。これは、ミラー103が傾くにつれて、ミラー103と電極104,105とのギャップが小さくなり、より大きな静電引力が働くためである。
【0056】
ここで、上式(3)を微分すると、下式(4)が得られる。
【0057】
dV/dθ=(kL/εSV)・(θmax−θ)・(θmax−3θ) ・・・(4)
【0058】
したがって、上式(4)は、θ=(1/3)θmaxを変局点として有することがわかる。これにより、ミラー103は、θ=1/3・θmax以上に回動させるとプルインが発生するので、θ=0〜(1/3)θmaxの範囲で使用することになる。
【0059】
さらに、上式(3)を2回微分すると下式(5)が得られる。
【0060】
2V/dθ2=−(4kL/εS)・(θmax−3θ/2) ・・・(5)
【0061】
上述したように、θ=0〜(1/3)θmaxであるから、上式(5)は常に負の値となる。
【0062】
以上の計算では、簡略化のため、分布的に作用する静電力をミラー端に集中的に作用する作用力に換算する近似を行っている。厳密解では、プルインが発生する角度は(1/3)θmaxとは一致しないが、プルインしない範囲において、二回微分値が常に負になることは変わらない。
【0063】
また、ミラー103は、集光レンズ14の焦点面に配置され、初期状態(無電圧印加時)におけるミラー103中心の法線は、集光レンズ14の焦点を結ぶ光軸と一致している。この初期状態において、集光レンズ14の光軸からY軸方向の負の方向にY1だけ離間して配設された入力ポート11から出力され、マイクロレンズ13および集光レンズ14を介してミラー103に到達してこのミラー103で反射された光ビームは、図1の点線αで示すように進み、出力ポート12の出力ポートとは結合しない。ここで、ミラー103を符号βで示すようにX軸に対して時計回りに回動させると、出力ポート12への結合効率(光透過率)が大きくなる。このようなVOA1は、入出力ポートの配列面における信号光の位置Yとミラー103の回動角θとについて、位置−角度変換光学系をなしている。したがって、集光レンズ14の焦点距離をfとすれば、出力ポート面における信号光の位置Yは、概ね下式(6)で表すことができる。
【0064】
Y=−Y1+f・2θ ・・・(6)
【0065】
ミラー103の回動角がθ=θ0のときに、信号光が出力ポート12に最も結合する、すなわち光透過率が最大(極大)となるとすると、下式(7)が成り立つ。
【0066】
2=−Y1+f・2θ0 ・・・(7)
【0067】
ここで、マイクロレンズ13で形成されるコリメートされた信号光のビームウェスト半径をωとすると、本実施の形態に係るVOA1における光透過率T[dB]とミラー103の回動角θ[deg]との関係は、上式(6)、(7)を用いて、下式(8)で表すことができる。
【0068】
T=10・log(exp(−2((Y−Y2)/ω)2))
=10・log(exp(−2((f・2θ0−f・2θ)/ω)2))
=10・log(exp((−8f2/ω2)(θ0−θ)2)) ・・・(8)
【0069】
上式(8)を用いて、ミラー103の最大回動角を1度(θ0=1[deg])としたときの光透過率Tとミラー103の回動角θとの関係(T−θ特性)を図2に示す。この図2に示されるように、T−θ特性は、θ=1[deg]に頂点をもつ二次関数で表され、図17に示した従来のT−θ特性をθ0だけ横軸方向にオフセットしたものとなる。図2によく示されるように、本実施の形態におけるT−θ特性は、ミラー103が初期状態のときには光透過率が非常に低く、ミラー103の回動角が大きくなるにつれて光透過率が大きくなる。そして、ミラー103の回動角が最大(図2の場合は1度)のときに、光透過率は最大(0[dB])となる。このときのT−θ特性の一次微分の符号は正、二次微分の符号は負となる。したがって、上式(7)に基づいて、出力ポートのオフセット量Y2を設定すればよい。
【0070】
図2に示したT−θ特性、および、図19に示したV−θ特性から、電極104,105への印加電圧Vと光透過率Tとの関係(T−V特性)は、図3で表すことができる。なお、図3には、比較のため、図20に示した従来のT−V特性も点線で示している。
【0071】
図3に示すように、従来では、印加電圧が高くなるほど光透過率の変化が急になっていたが、本実施の形態では、全電圧範囲に亘って光透過率の変化が線形に近くなっており、急峻な変化を生じる領域がほとんど存在していない。すなわち、本実施の形態では、必要となるVOA範囲のすべてに亘って、VOA精度を向上させることができる。
【0072】
以上説明したように、本実施の形態によれば、出力ポート12に入射する信号光の割合を示す光透過率が、電極104,105に電圧を印加してミラー103を回動させたときに極大となるようにすることにより、電極104,105に印加する電圧の全電圧範囲に亘って光透過率の変化が線形に近くなるので、可変減衰精度および動作の安定性の向上を実現することができる。
【0073】
このような特性は、特に減衰量を大きくとる場合に顕著な効果をもたらす。電圧分解能が十分に高くない場合、または、角度ドリフトが発生する場合、従来では、高減衰時のV−θ特性が急峻であるために、わずかな電圧変化が発生してもすぐにプルインが生じる恐れがあった。このプルインによって固着が発生すると、MEMSミラーは再び回動動作をすることができなくなってしまう。しかしながら、本実施の形態によれば、T−V特性に急峻な箇所がなくなり、特に、回動角が大きい状態におけるT−V特性が緩やかになるので、精密な電圧制御が不要になり、プルインが発生する可能性を著しく減少させる。さらに、回動角が大きい場合における角度変動が透過率変化に及ぼす影響を小さくできるため、MEMSミラーにおいて常に懸念されていた角度ドリフトの影響も小さくなる。また、MEMSミラー特性の温度依存性や耐衝撃性、および、光学系の耐環境特性に関してもロバストとなり、空間光デバイスの長期安定性や信頼性をも向上させることができる。
【0074】
本実施の形態は、MEMSミラー装置のV−θ特性の非線形性をT−θ特性をオフセットさせた光学系と組み合わせることによって、空間光デバイスとしてのT−V特性の線形性を改善させるものである。したがって、図18に示したMEMSミラー装置に限定されるものではなく、対向した電極間に働く静電引力を利用したMEMSミラー装置であれば、いかなる電極構造、電極配置、ミラー構造、ミラー形状などに係わらず、上述したような作用効果を実現することができる。特に、例えば電極104または電極103のうちどちらか一方の電極しか有しない単電極構造のMEMSミラー装置においては、二組の対向電極を有するMEMSミラー装置を制御する際によく用いられるバイアス駆動方式を利用できないため、V−θ特性の非線形性を改善させることが困難であるので、上述した作用効果が特に顕著に現れる。
【0075】
なお、本実施の形態では、入力ポート11および出力ポート12のモードフィールド半径を拡大するためにマイクロレンズ13を用いているが、このマイクロレンズ13の替わりに、レンズを一体化した光ファイバコリメータを用いたり、モードフィールド径を拡大したTEC(Thermal Expanded Core)を用いたりするようにしてもよい。また、そのマイクロレンズ13を用いないようにしてもよい。
【0076】
また、本実施の形態は、可変光減衰器(VOA)に適用した場合を例に説明したが、図4に示すようなサーキュレータを備えたVOAや図5に示すようなダイナミックチャネルイコライザにも適用できることは言うまでもない。それぞれについて、以下に説明する。なお、以下において、上述したVOA1と同等の構成要素については、同じ名称および符号を付し、適宜説明を省略する。
【0077】
<サーキュレータを備えたVOA>
図4に示すVOA2は、入力ポート11および出力ポート12が接続され、入力ポート11からの入射光が出力される出射ポート15を備えたサーキュレータ21と、マイクロレンズ13と、集光レンズ14と、MEMSミラー装置100とを備えており、これらをこの順番でZ軸方向に沿って配列した構成を有する。なお、MEMSミラー装置100は、図1に示すVOA1の場合と異なり、Y軸回りに回動するものである。
【0078】
サーキュレータ21は、公知のサーキュレータから構成される。このようなサーキュレータ21は、X軸方向において、出射ポート15が集光レンズ14の光軸からΔXだけずれるように配設されている。
【0079】
マイクロレンズ13は、公知のマイクロレンズからなり、サーキュレータ21の出射ポート15に対してZ軸方向の正の側に配設される。
【0080】
このように、サーキュレータ21の出力ポートの配置を、集光レンズ14の光軸からΔXだけ離間させることにより、透過率が最大となるミラー傾斜角度を、電圧印加しないときのミラー角度からオフセットさせるよう、MEMSミラー装置への入射角をオフセットさせることができる。このような構成を採ることにより、上述したVOA1の場合と同等の作用効果を実現することができる。
【0081】
<ダイナミックチャネルイコライザ>
図5に示すダイナミックチャネルイコライザ(DCE)3は、入力ポート11および出力ポート12が接続され、入力ポート11からの入力光が出射する出射ポート15を備えたサーキュレータ21と、マイクロレンズ13と、回折格子31と、集光レンズ14と、信号のチャネル数m(波長数m)と等しい数だけMEMSミラー装置100をX軸方向に沿って配列したMEMSミラーアレイ32とを備えており、これらをこの順番でZ軸方向に沿って配列した構成を有する。なお、MEMSミラー装置100は、図1に示すVOA1の場合と異なり、Y軸回りに回動するものである。
【0082】
ここで、サーキュレータ21は、出射ポート15の延在方向が、集光レンズ14の光軸からX軸方向にΔXだけずれるように配設されている。
【0083】
このようなDCE3において、入力ポート11から入力された信号光は、サーキュレータ21の出射ポート15から出射され、マイクロレンズ13で平行光とされる。この平行光とされた信号光は、回折格子31に到達し、この回折格子31を通過する際に信号波長に応じてX軸方向に分散され、集光レンズ14により互いに平行な光軸を有する信号光群となり、各信号波長に対応してX軸方向にアレイ化されている別々のMEMSミラー装置100のミラー103に入射する。このミラー103はY軸回りに回動可能に支持されている。したがって、ミラー103に到達した信号光は、そのミラーのY軸回りの角度に応じて反射される。したがって、ミラー103の回動角を変化させることで、出力ポート12への結合効率(光透過率)を調整する。すなわち、ミラー103により反射された信号光は、集光レンズ14により収束され、回折格子31により合波され、マイクロレンズ13により収束され、ミラー103の回動角に応じて、少なくとも一部がサーキュレータ21の出射ポート15に到達して出力ポート12より出力されるか、または、サーキュレータ21に到達しない。
【0084】
このように、サーキュレータ21の出射ポート15の配置を、集光レンズ14の光軸からΔXだけ離間させることにより、予めMEMSミラー装置への入射角の最適値からのオフセットを生じさせる。このような構成を採ることにより、上述したVOA1の場合と同等の作用効果を実現することができる。
【0085】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、本実施の形態において、上述した第1の実施の形態と同等の構成要素については、同じ名称および符号を付し、適宜説明を省略する。
【0086】
図6,図7に示すように、本実施の形態に係るWSS4は、光軸がZ軸方向に沿って配設された光ファイバアレイ41と、マイクロレンズアレイ42と、回折格子31と、集光レンズ14と、MEMSミラーアレイ43とを備えており、これらをこの順番でZ軸方向に沿って配列した構成を有する。
【0087】
ここで、光ファイバアレイ41は、各々の光軸をZ軸方向に沿わせたN+1本の光ファイバをZ軸と直交するY軸方向に並設し、そのうちの1本を入力ポート、他を出力ポート、または、1本を出力ポート、他を入力ポートとする。これにより、1xNのDrop型WSSまたはNx1のAdd型WSSとして使用することができる。なお、図6,図7においては、光ファイバアレイ41は、入力ポート41aと、出力ポート41b〜41eとを備えたDrop形WSSの場合を例に説明する。
【0088】
このような光ファイバアレイ41において、入力ポート41aおよび出力ポート41b〜41eのX軸方向の位置は、集光レンズ14の光軸からΔXだけずれるように設定されている。
【0089】
マイクロレンズアレイ42は、複数のマイクロレンズ42a〜42eをY軸方向に並設したものである。このようなマイクロレンズアレイ42は、図7に示すように光ファイバアレイ41に対してZ軸方向の正の側に、各マイクロレンズ42a〜42eが対応する光入出力ポートと対向するように配設される。
【0090】
MEMSミラーアレイ43は、X軸方向に並設され、X軸回りおよびY軸回りに回動可能に支持されかつ、回動軸が集光レンズ14の焦点面に位置するように設けられたミラー103を備える複数のMEMSミラー装置50a〜50cから構成されている。ここで、MEMSミラー装置50a〜50cのうち、X軸方向における中央に配設されたMEMSミラー装置50bは、その回動軸の交点に集光レンズ14の光軸が通るように配設されている。
【0091】
MEMSミラー装置50a〜50cは、それぞれ図8に示すMEMSミラー装置50から構成される。このMEMSミラー装置50は、X軸方向に延在する一対のばね部材51,52によりX軸回りに回動可能に支持され、かつ、Y軸方向に延在する一対のばね部材53,54によりY軸回りに回動可能に支持されるとともにグランドに接地されたミラー103と、このミラー103の平面に対して垂直な方向にミラー103と所定間隔離間した状態で対向配置された複数の電極55〜58とを備えている。例えば、電極55および電極56に同時に電圧を印加することによってミラー103をX軸周りに回動させ、電極56及び電極57に同時に電圧を印加することによってミラー103をY軸周りに回動させる装置である。
【0092】
このMEMSミラー装置50a〜50cのミラー103は、X軸に対して、n本の出力ポートのうちの何れか1つのポートと1本の入力ポートとが結合する、すなわち、X軸回りの回動方向に関して何れかの出力ポートと1本の入力ポートの間が最小損失になるように回動する。これは、ちょうど、出力ポートが並んだ方向に信号光の向きを動かすように回動する。一方、Y軸に対して、ミラー103は、X軸に直交するY軸回りに回動するので、出力ポートが並んだ方向と直交する方向に信号光の向きを動かすように回動する。したがって、入力ポートから出力ポートへの結合率、すなわち損失を制御するには、X軸およびY軸のどちらを回動させても可能であるが、ポートの並び方向の動きを司るX軸回りの回動は、主にポートの選択、ポートの並び方向と直交する方向の動きを司るY軸回りの回動は、主に損失の制御に用いられる。
【0093】
このようなWSS4において、入力ポート41aから入力された信号光は、入力ポート41aに対向配置されたマイクロレンズ42aで平行光とされる。この平行光とされた信号光は、回折格子31に到達し、この回折格子31を通過する際に信号波長に応じてX軸方向に分散され、集光レンズ14により互いに平行な光軸を有する信号光群となり、各信号波長に対応してX軸方向にアレイ化されている別々のMEMSミラー装置50a〜50cのミラー103に入射する。このミラー103に到達した信号光は、そのミラーのX軸回りおよびY軸回りの角度に応じて反射され、集光レンズ14により収束され、回折格子31により合波され、その少なくとも一部がマイクロレンズ42b〜42eにより収束されて出力ポート41b〜41eより出力されるか、または、マイクロレンズ42b〜42eに到達しない。
【0094】
このようなWSS4におけるMEMSミラー装置50a〜50cも、第1の実施の形態で示したMEMSミラー装置100と同様、平行平板型のMEMSミラー装置であるので、そのV−θ特性は図19に示すような非線形性を示す。
【0095】
また、図6によく示されるように、本実施の形態では、入力ポート41aおよび出力ポート41b〜41eの光軸が、X軸方向において、集光レンズ14の光軸およびMEMSミラー装置50bの回動軸の交点からΔXだけずれるように設定されている。これにより、入力ポート41aから入射された信号光は、ミラー103の法線に対して斜め(無電圧印加時)に入射され、ミラー103で反射された光は、図6の点線で示す方向に進み、出力ポート出力ポート41b〜41eには結合されない。ミラー103をY軸に対して反時計回りに回動させてゆくことによって、ミラー103で反射された光は、出力ポート41b〜41eに結合してゆき、光透過率は増大してゆく。極大となる光透過率が得られるときのY軸回りの回動角をθ0とすると、このθ0は、下式(9)から求めることができる。なお、下式(9)において、fは集光レンズ14の焦点距離である。
【0096】
ΔX=f・tanθ0 ・・・(9)
【0097】
このようなWSS4における、光透過率Tとミラー103の回動角θとの関係(T−θ特性)は、下式(10)で表される。なお、下式(10)において、kは正の定数である。
【0098】
T=10・log(exp((−k)(θ0−θ)2)) ・・・(10)
【0099】
上式(10)を用いて、ミラー103の最大回動角を1度(θ0=1[deg])としたときの光透過率Tとミラー103の回動角θとの関係(T−θ特性)を図9に示す。この図9に示されるように、T−θ特性は、θ=1[deg]に頂点をもつ二次関数で表され、図17に示した従来のT−θ特性をθ0だけ横軸方向にオフセットしたものとなる。図9によく示されるように、本実施の形態におけるT−θ特性は、ミラー103が初期状態のときには光透過率が非常に低く、ミラー103の回動角が大きくなるにつれて光透過率が大きくなる。そして、ミラー103の回動角が最大(図9の場合は1度)のときに、光透過率は最大(0[dB])となる。集光レンズ14の焦点距離fが、100mmであれば上式(9)より、ΔX=1.75mmと算出されるので、集光レンズ14の光軸とMEMSミラー装置50bのY軸方向周りの回動軸を、X軸方向に1.75mmだけずらせばよいことがわかる。
【0100】
このようなT−θ特性を有する光学系と組み合わせることによって、T−V特性は、図10に示すような特性になる。上述した第1の実施の形態と同様、MEMSミラー装置のV−θ特性の非線形性を、T−θ特性をオフセットさせた光学系と組み合わせることによって、WSSとしてのT−V特性の線形性を改善させることができる。なお、図10における点線は、X軸方向にオフセットを行わない場合のT−V特性である。
【0101】
以上説明したように、本実施の形態によれば、入力ポート41aおよび出力ポート41b〜41eを、電極55〜58に電圧を印加してミラー103を回動させたときに、当該入力ポート41aから出射され当該ミラー103により反射された信号光が当該出力ポート41b〜41eに結合する位置に配設することにより、電極に印加する電圧の全電圧範囲に亘って光透過率の変化が線形に近くなるので、可変減衰精度および動作の安定性の向上を実現することができる。
【0102】
このような構成を採ることによって、本実施の形態では、VOA精度を向上させることができる。VOA精度向上の効果は、特に減衰量を大きくとる場合に顕著な効果をもたらす。すなわち、電圧分解能が十分に高くない場合、または、角度ドリフトが発生する場合、従来では、高減衰時のT−V特性が急峻であるために、わずかな電圧変化が発生しても透過率が大きく変動してしまう恐れがあった。しかしながら、本実施の形態によれば、T−V特性に急峻な箇所がなくなり、特に、高回動角の状態におけるT−V特性が緩やかになるため、精密な電圧制御が不要になり、透過率の制御精度を上げることができる。また、回動角度が大きい場合における角度変動が透過率変化に及ぼす影響が小さくなるので、MEMSミラー装置において常に懸念されていた角度ドリフトの影響も小さくすることができる。また、MEMSミラー装置の特性である温度依存性や耐衝撃性、および、光学系の耐環境特性に関してもロバストとなり、空間光デバイスの長期安定性や信頼性をも向上させることができる。
【0103】
なお、本実施の形態では、光学系のT−θ特性にθ方向のオフセットを与える手法として、集光レンズ14およびMEMSミラーアレイ43をX軸方向にシフトさせたが、そのオフセットを実現する手法はこれに限定されず各種手法を適用することができる。
【0104】
例えば、図11に示すWSS4’のように、集光レンズ14とMEMSミラーアレイ43との間にプリズム60を配置することによって、光信号の進行方向を変化させ、ミラー103への入射角をオフセットさせるようにしてもよい。
また、図12に示すWSS4”のように、集光レンズ14とMEMSミラーアレイ43との間に反射ミラー70を配置し、この反射ミラー70の配置角をY軸に対してZ軸に沿った状態から反時計方向にθm度だけ回動させた状態とすることにより、ミラー103への入射角をオフセットさせるようにしてもよい。このとき、例えば、集光レンズ14の光軸方向とミラー103の法線方向が互いに直交している場合であっても、θmを45度としないことで、ミラー103への入射角にオフセットを与えることができる。
さらに、上述したような反射ミラー70を用いずに、MEMSミラーアレイ43を集光レンズ14の光軸に対して予めY軸回りに回動させるようにしてもよい。
これらの何れの場合であっても、本実施の形態と同等の作用効果を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明は、VOA、DCE、WSSなど、電極との間の電位差により生じる静電引力によって駆動するミラーを備えた各種空間光デバイスに適用することができる。
【符号の説明】
【0106】
1,2…VOA、3…DCE、4…WSS、11…入力ポート、12…出力ポート、13…マイクロレンズ、14…集光レンズ、21…サーキュレータ、31…回折格子、32…MEMSミラーアレイ、41…光ファイバアレイ、41a…入力ポート、41b〜41e…出力ポート、42…マイクロレンズアレイ、42a〜42e…マイクロレンズ、43…MEMSミラーアレイ、50a〜50c…MEMSミラー装置、51〜54…ばね部材、60…プリズム、70…反射ミラー、100…MEMSミラー装置、101,102…ばね部材、103…ミラー、104,105…電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号光が入力される入力ポートと、
信号光を出力する出力ポートと、
少なくとも第1の軸回りに回動可能に支持されたミラーと、このミラーと対向配置された電極とを有し、この電極に印加される電圧により生じる静電引力によって前記ミラーを回動させるミラー装置と、
前記入力ポートから入射した信号光を前記ミラーに照射し、前記ミラーにより反射される光信号を前記出力ポート側に出力するレンズと
を備え、
前記出力ポートに入射する信号光の割合を示す光透過率は、前記電極に電圧を印加して前記ミラーを回動させたときに極大となる
ことを特徴とする空間光デバイス。
【請求項2】
前記入力ポートおよび前記出力ポートの少なくとも一方は、前記レンズの焦点を通る第2の軸および前記第1の軸に対して垂直な第3の軸方向において、当該第2の軸の延長線上に配設されない
ことを特徴とする請求項1記載の空間光デバイス。
【請求項3】
前記入力ポートおよび前記出力ポートは、前記第3の軸方向において、前記第2の軸を挟んで配設されるとともに、当該第2の軸に対して線対称に配設されない
ことを特徴とする請求項2記載の空間光デバイス。
【請求項4】
前記入力ポートおよび前記出力ポートが接続されるサーキュレータをさらに備え、
前記サーキュレータの入出力端は、前記第2の軸方向において、前記光軸の延長線上に配設されない
ことを特徴とする請求項2記載の空間光デバイス。
【請求項5】
少なくとも1つの前記入力ポートおよび少なくとも1つの前記出力ポートを前記第3の軸方向に配列した入出力ポートアレイと、
複数の前記ミラー装置を少なくとも前記第1の軸方向に配列したミラーアレイと、
前記入出力ポートアレイと前記レンズとの間に配設され、入射した信号光を所定の波長毎に分散する分散素子と
をさらに備え、
前記ミラーは、前記第1の軸および前記第3の軸回りに回動可能に支持され、
前記ミラーアレイは、前記第1の軸方向において、前記ミラーの法線が前記入力ポートおよび前記出力ポートの光軸と一致しない位置に配設される
ことを特徴とする請求項2記載の空間光デバイス。
【請求項6】
前記入力ポートおよび前記出力ポートは、前記電極に印加する電圧Vと前記ミラーの回動角θとの関係における二次微分係数d2θ/dV2の符号と、前記光透過率Tと前記回動角θとの関係における二次微分係数d2T/dθ2との符号とが互いに逆になるように配置される
ことを特徴とする請求項2乃至5の何れか1項に記載の空間光デバイス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate


【公開番号】特開2012−2883(P2012−2883A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135575(P2010−135575)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】