説明

穿孔圧延用工具

【課題】耐久性に優れた穿孔圧延用工具およびその製造方法を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.05〜0.5%、Si:0.1〜1.5%、Mn:0.1〜1.5%、Cr:0.1〜1.5%、Mo:0.6〜3.5%、W:0.5〜3.5%、Nb:0.1〜1.0%を含み、さらにCo:0.5〜3.5%、Ni:0.5〜4.0%を、1.0<Ni+Co<4.0を満足する基材の表面にスケール層を形成する。そのスケール層のうち基材側に形成されるスケール層を、深さ方向に10〜200μmの厚さを有する地鉄と複雑に絡み合ったネット状スケール層とし、該ネット状スケール層と基材との界面から深さ方向で少なくとも300μmの範囲の基材側組織を、面積率50%以上のフェライト相を含み、かつ該フェライト相が最大長さ:1〜60μmのフェライト粒を400個/mm以上含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、継目無鋼管の製造に係り、とくに穿孔圧延に使用されるプラグ等の穿孔圧延用工具の耐久性向上に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、継目無鋼管の製造方法として、マンネスマン式製管法が広く知られている。この方法は、まず、所定の温度に加熱された圧延素材(丸鋼材)を穿孔圧延機による穿孔圧延工程を経て中空素材としたのち、エロンゲータ、プラグミル、またはマンドレルミル等の延伸圧延機により肉厚を減少し、さらに、必要に応じて再加熱したのち、絞り圧延機あるいはその他の成形機により、主として外径を減じ所定の寸法の継目無鋼管を得る方法である。
【0003】
穿孔圧延機としては、2本の傾斜ロールと穿孔用プラグおよび2個のガイドシューを組合せた、いわゆるマンネスマンピアサ、3本の傾斜ロールと穿孔用プラグとを組み合わせた、いわゆる3ロールピアサ、或いは2本の孔型ロールと穿孔用プラグを組み合わせた、いわゆるプレスロールピアサが知られている。このような穿孔圧延機による穿孔圧延工程では、穿孔圧延用工具(プラグ)は、高温、高負荷の環境下に長時間晒され、摩耗、溶損等を生じやすい。このため、例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5に示されるように、従来から、高温でのスケール処理を施して、工具表面に数十〜数百μm厚の酸化スケールを形成して、穿孔圧延用工具(プラグ)の損耗を防止していた。
【0004】
しかし、最近では、熱間変形抵抗が高く、しかも表面に酸化スケールが形成されにくい、13Cr鋼、ステンレス鋼等の高合金鋼製継目無鋼管の需要が増加している。特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5に記載された各技術では、このような高合金鋼を穿孔圧延すると、早期に工具が損耗するという問題があった。
このような問題に対し、本発明者らは、特許文献6に、耐久性に優れた穿孔圧延用工具について提案した。特許文献6に記載された技術では、質量%で、C:0.05〜0.5%、Si:0.1〜1.5%、Mn:0.1〜0.5%、Cr:0.1〜1.0%、Mo:0.5〜3.0%、W:0.5〜3.0%、Nb:0.1〜1.5%を含み、さらにCo:0.1〜3.0%、Ni:0.5〜2.5%を、(Ni+Co)が4%未満1%超となる条件で含有する組成を有し、表層にスケール層を有し、スケール層のうち基材側に地鉄と複雑に絡み合ったネット状スケール層を有し、さらにスケール層の界面から基材側に面積率で50%以上のフェライト相を含む組織を形成した穿孔圧延用工具としている。これにより、工具の寿命が長寿命化させることができ、高合金鋼製継目無鋼管の穿孔圧延の生産性が向上するとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭59−9154号公報
【特許文献2】特開昭63−69948号公報
【特許文献3】特開平08−193241号公報
【特許文献4】特開平10−5821号公報
【特許文献5】特開平11−179407号公報
【特許文献6】特開2003−129184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
最近では、継目無鋼管の使用環境はますます苛酷なものとなっており、そのような苛酷化する使用環境に耐えるために、使用される継目無鋼管も高品質化が要求され、高合金化する傾向となっている。そのため、圧延用素材の熱間変形抵抗が高くなり、穿孔圧延用工具(プラグ)への圧延負荷はますます増大する傾向となっている。また、一方では、製造コスト削減の要求が強く、穿孔圧延用工具(プラグ)の更なる寿命延長が要望されている。そのため、特許文献6に記載された技術によっても、最近の穿孔圧延用工具(プラグ)への要求を充分に満足することができなくなっているという問題があり、穿孔圧延用工具に対する更なる長寿命化の要望がさらに高くなっている。とくに、穿孔圧延用工具(プラグ)の長寿命化のために、過剰にスケール付けを施す場合が多くなるため、スケールの部分的剥離や、脱落等が頻繁に発生し、プラグ表面の肌荒れ、工具径の減少を誘起し、管内面の欠陥発生、管寸法精度の低下等を招き、結果として工具寿命が低下するなどの問題があり、工具寿命の更なる延長等の耐久性向上に対する強い要望があった。
【0007】
本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、耐久性に優れた穿孔圧延用工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記した目的を達成するため、工具寿命に対する各種要因の影響について鋭意検討した。その結果、工具寿命が著しく長くなる穿孔圧延用工具(プラグ)がまれに存在することを見出した。そのような長寿命となった工具のミクロ組織を詳細に調査すると、基材の表面層に形成された、地鉄とスケールが複雑に絡み合ったネット状スケール層と基材(地鉄)との界面直下の基材(地鉄)側組織が、微細なフェライト粒を多数含むフェライト相からなる組織となっていることを知見した。
【0009】
そして、このようなミクロ組織を有する穿孔圧延用工具では、ネット状スケールが微細化しており、本発明者らは、このネット状スケールの微細化が、スケール層の耐剥離性を向上させて、工具の顕著な寿命延長をもたらしたものと考えた。
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は、つぎのとおりである。
(1)基材の表面層にスケール層を有する穿孔圧延用工具であって、前記基材が、質量%で、C:0.05〜0.5%、Si:0.1〜1.5%、Mn:0.1〜1.5%、Cr:0.1〜1.5%、Mo:0.6〜3.5%、W:0.5〜3.5%、Nb:0.1〜1.0%を含み、さらにCo:0.5〜3.5%、Ni:0.5〜4.0%を次(1)式
1.0<Ni+Co<4.0 ‥‥(1)
(ここで、Ni、Co:各元素の含有量(質量%))
を満足するように含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、前記スケール層のうち基材側に形成されるスケール層を、深さ方向に10〜200μmの厚さを有する地鉄と複雑に絡み合ったネット状スケール層とし、該ネット状スケール層と基材との界面から深さ方向で少なくとも300μmの範囲の基材側組織を、面積率で50%以上のフェライト相を含み、かつ該フェライト相が最大長さ:1〜60μmのフェライト粒を400個/mm以上含む相である組織とすることを特徴とする耐久性に優れた穿孔圧延用工具。
(2)(1)において、前記組成に加えてさらに、Al:0.05%以下含有することを特徴とする穿孔圧延用工具。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、穿孔圧延用工具の著しい長寿命化が達成でき、工具コストを低減でき、高合金鋼製継目無鋼管製造の生産性を向上できるとともに、高合金鋼製継目無鋼管の製造コストを低減でき、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】スケール層と地鉄との界面近傍の断面組織を模式的に示す説明図である。
【図2】本発明で適用する熱処理パターンを模式的に示す説明図である。
【図3】実施例で使用した熱処理パターンを模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明になる穿孔圧延用工具(プラグ)は、特定組成を有する基材の表面層にスケール層を有する穿孔圧延用工具である。まず、基材の組成限定理由について説明する。以下、とくに断わらない限り、質量%は単に%で記す。
C:0.05〜0.5%
Cは、固溶して基材の強度を増加させ、さらには炭化物を形成して基材の高温強度の低下を抑制する元素である。このような効果を得るためには、0.05%以上の含有を必要とする。一方、0.5%を超える含有は、基材組織をフェライト相が析出した組織とすることが困難となり、さらに融点が低下し高温強度が低下して、プラグ寿命が低下する。このため、Cは0.05〜0.5%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.1〜0.4%である。
【0013】
Si:0.1〜1.5%
Siは、固溶強化により基材の強度を増加させるとともに、基材の炭素活量を増加させて、脱炭層を形成しやすくし、基材組織をフェライト相が析出した組織を形成しやすくする作用を有する。このような効果を得るためには、0.1%以上の含有を必要とする。一方、1.5%を超える含有は、緻密な酸化物を基材表面に形成し、ネット状スケール層の形成を阻害する。このため、Siは0.1〜1.5%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.2〜1.0%である。
【0014】
Mn:0.1〜1.5%
Mnは、固溶して基材の強度を増加させるとともに、不純物として混入し材質に悪影響を及ぼすSと結合しMnSを形成し、Sの悪影響を抑制する。このような効果を得るためには、0.1%以上の含有を必要とする。一方、1.5%を超える含有は、ネット状スケールの成長を阻害する。このようなことから、Mnは0.1〜1.5%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.2〜1.0%である。
【0015】
Cr:0.1〜1.5%
Crは、固溶して基材の強度を増加させ、また炭化物を形成し高温強度を増加させ、プラグの耐熱性を高める作用を有する。また、CrはFeより酸化しやすい元素であり、選択酸化を助長する。このような効果を得るためには、0.1%以上の含有を必要とする。一方、1.5%を超える含有は、緻密なCr酸化物を形成し、ネット状スケール層の成長を阻害するとともに、基材の炭素活量を低下させて、脱炭層の成長を阻害し、フェライト相が析出した基地組織の形成を抑制する。このため、Crは0.1〜1.5%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.2〜1.0%である。
【0016】
Mo:0.6〜3.5%
Moは、フェライト相中にミクロ偏析し、選択酸化を誘起しネット状スケール層の形成を促進させる重要な元素である。また、Mo系酸化物は、650℃以上の温度で昇華を開始し、酸化反応に係るH、HO、CO、COの経路を形成し、選択酸化および脱炭層の形成を促進する。このような効果は、0.6%以上の含有で認められる。一方、3.5%を超える含有は、ミクロ偏析が粗くなり、ネット状スケール層の成長が抑制され、スケール層の密着性が低下するとともに、融点が低下しプラグの溶損を助長し、耐熱性が低下する。このため、Moは0.6〜3.5%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.8〜2.0%である。
【0017】
W:0.5〜3.5%
Wは、Moと同様に、フェライト相中にミクロ偏析し、選択酸化を助長するとともに、Ni、Coの負偏析部を形成しやすくして、ネット状スケール層の成長を助長する。また、Wは固溶強化により、基材の強度を増加し、炭化物を形成しプラグの高温強度を増加する。このような効果は、0.5%以上の含有で認められるが、3.5%を超える含有は、ミクロ偏析が粗くなり、ネット状スケール層の成長を阻害するとともに、スケール融点が低下しプラグの溶損を助長する。このため、Wは0.5〜3.5%の範囲に限定した。なお、好ましくは1.0〜3.0%である。
【0018】
Nb:0.1〜1.0%
Nbは、炭化物形成元素であり、Cと結合して炭化物を形成し、基材中の遊離Cを減少して、フェライト相の生成を助長し、フェライト相を主体とする基地組織の形成に寄与する。また、Nb炭化物は結晶粒界に生成しやすく、また同時に非常に酸化しやすいため、酸素の侵入経路となって、スケール層の成長を助長する作用を有する。また、NbはMoとの親和力が大きいため、Moのミクロ偏析を促進するという効果もある。このような効果を得るためには、Nbは0.1%以上含有する必要がある。一方、1.0%を超える含有は、炭化物が粗大化し、プラグを割損させやすくする。このため、Nbは0.1〜1.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.1〜0.8%である。
【0019】
Co:0.5〜3.5%
Coは、固溶して基材の高温強度を高めるとともに、FeやMoより酸化し難いため、Fe、Moの選択酸化を促進しネット状スケールの形成を助長する。そして、Coは、ネット状スケールの成長過程で選択酸化部近傍の地鉄中に濃縮される。Coが濃縮された地鉄領域はまた酸化が抑制されるため、地鉄とスケールが複雑に絡み合った形態を形成しやすくする。また、Coが濃縮された地鉄領域は展延性に富むため、地鉄とネット状スケールとのなじみが向上し、スケールの剥離を防止できる。このような効果を得るためには、Coを0.5%以上含有する必要がある。一方、3.5%を超えて含有すると、Coが基材とスケール層との界面に線状に濃縮するため、Mo、Feの選択酸化を抑制し、ネット状スケール層の成長が困難となる。このため、Coは0.5〜3.5%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.5〜3.0%である。
【0020】
Ni:0.5〜4.0%
Niは、固溶して基材の強度、靭性を向上させるとともに、FeやMoより酸化し難いため、Fe、Moの選択酸化を促進しネット状スケールの形成を助長する。そして、Niは、ネット状スケールの成長過程で選択酸化部近傍の地鉄中に濃縮される。Niが濃縮された地鉄領域はまた酸化が抑制されるため、地鉄とスケールが複雑に絡み合った形態を形成しやすくする。また、Niが濃縮された地鉄領域は展延性に富むため、地鉄とネット状スケールとのなじみが向上し、スケールの剥離を防止できる。このような効果を得るためには、0.5%以上の含有を必要とする。一方、4.0%を超えて含有すると、Niが基材とスケール層との界面に線状に濃縮するため、Mo、Feの選択酸化を抑制し、ネット状スケール層の成長が困難となる。このため、Niは0.5〜4.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは1.0〜3.0%である。
【0021】
なお、Ni、Coは、上記した含有範囲内で、かつ次(1)式
1.0<Ni+Co<4.0 ‥‥(1)
(ここで、Ni、Co:各元素の含有量(質量%))
を満足するように調整する。NiとCoの含有量の合計である(Ni+Co)が1.0以下では、ネット状スケール層の形成が不十分であり、一方、4.0以上では、Ni、Coが基材とスケール層の界面に過剰に濃縮し、Fe、Moの選択酸化を抑制し、ネット状スケール層の生成を困難とする。このようなことから、(Ni+Co)を1.0超え4.0未満に限定した。
【0022】
上記した成分が基本の成分であるが、基本の組成に加えてさらに、選択元素としてAl:0.05%以下を必要に応じて含有できる。
Al:0.05%以下
Alは、脱酸剤であり、必要に応じて含有できる。このような効果は0.005%以上の含有で顕著となる。一方、0.05%を超える含有は、鋳造性が低下し、ピンホール、引け巣等の欠陥が発生しやすくなる。一方、0.05%を超えて過剰に含有すると、熱処理時に表面に緻密なAlO膜が形成され、ネット状スケール層の形成を阻害する。このため、Alは、含有する場合には、0.05%以下に限定することが好ましい。
【0023】
なお、脱酸剤として、Alに代えて、REM:0.05%以下、Ca:0.01%以下を含有してもよい。
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。不可避的不純物としては、P:0.05%以下、S:0.03%以下、以外にN:0.06%以下、Ti:0.015%以下、Zr:0.03%以下、V:0.6%以下、Zr:0.03%以下、Pb:0.05%以下、Sn:0.05%以下、Zn:0.05%以下、Cu:0.2%以下が許容できる。
【0024】
つぎに、本発明になる穿孔圧延用工具(プラグ)の組織について説明する。
本発明になる穿孔圧延用工具(プラグ)は、図1に示すように、上記した組成の基材の表面層にスケール層を有する。そして、スケール層のうち基材側に形成されるスケール層を、地鉄と複雑に絡み合ったネット状スケール層とする。
ネット状スケール層は、基材の地鉄と複雑に絡み合ったスケール層である。地鉄とスケール層とが複雑に混ざり合った状態となっているため、スケール層の摩滅は、スケール層単体より著しく抑制される。また、このようなネット状スケール層が存在すると、スケール層の潤滑作用により被圧延材のプラグへの焼付きを防止できる。
【0025】
本発明穿孔圧延用工具(プラグ)では、このようなネット状スケール層は、深さ方向に10〜200μmの厚さを有する。ネット状スケール層の厚さが10μm未満では、被圧延材との摩擦で早期に摩耗し、ネット状スケール層が消滅する。このため、プラグが損傷し、プラグ寿命が低下する。一方、200μmを超えて厚くなると、密着性が低下し剥離が促進されるため、プラグが損傷し、プラグ寿命が低下する。しかも、過剰に厚いスケール層を形成すると、肌荒れ、スケールオフによるプラグ径の顕著な減少を誘発し、鋼管内面の欠陥発生につながり、鋼管寸法精度の劣化を生じる。このようなことから、ネット状スケール層の厚さは深さ方向に10〜200μmの範囲に限定した。
【0026】
そして、本発明穿孔圧延用工具(プラグ)では、図1に示すように、このネット状スケール層と基材との界面から深さ方向で少なくとも300μmの範囲の基材側組織を、面積率で50%以上のフェライト相を含み、かつ該フェライト相が最大長さ:1〜60μmのフェライト粒を400個/mm以上含む相である組織とする。
ネット状スケール層と基材(地鉄)との界面から深さ方向で少なくとも300μmの範囲の基材(地鉄)側組織を、面積率で50%以上のフェライト相とすることにより、Moのミクロ偏析が生じやすくなり、その領域が選択酸化され、ネット状スケール層の形成が容易となる。フェライト相が面積率で50%未満では、ネット状スケール層の形成が困難となる。
【0027】
また、界面から深さ方向で少なくとも300μmの範囲の基材側組織を、フェライト相を主体とする組織とすることにより、その後の酸化熱処理により、選択酸化された領域近傍の地鉄にNi、Co等がさらに濃縮され、ネット状スケール層の密着性がさらに向上する。また、ネット状スケール層との界面から深さ方向に少なくとも300μmの基材側の範囲を、面積率で50%以上のフェライト相を含む、フェライト相を主体とする組織にすることにより、スケールの耐剥離性、耐摩滅性が向上する。フェライト相を主体とする組織が、ネット状スケール層との界面から深さ方向に300μm未満では、所望のスケールの耐剥離性、耐摩滅性を確保できない。
【0028】
さらに、本発明では、ネット状スケール層との界面から深さ方向に少なくとも300μmの範囲の基材側の地鉄を、上記したようにフェライト相を主体とする組織とし、さらにそのフェライト相を、最大長さ:1〜60μmの微細フェライト粒を400個/mm以上含む相とする。これにより、ネット状スケール層が微細化し、プラグ寿命が顕著に向上する。フェライト粒の最大長さが60μm超の粗大なフェライト粒では、ネット状スケール層の微細化の程度が少なく、プラグ寿命の顕著な向上が認められない。一方、1μm未満では、フェライト粒が増加してもプラグ寿命の向上効果は小さい。
【0029】
また、微細フェライト粒の数が、400個/mm未満では、ネット状スケール層の微細化が不十分で、プラグ寿命の顕著な向上が得られない。このようなことから、ネット状スケール層と地鉄との界面から深さ方向に少なくとも300μmの基材側(地鉄)組織を、フェライト相を主体とする組織とし、さらにそのフェライト相を、最大長さ:1〜60μm未満の微細フェライト粒を400個/mm以上含む相である組織に限定した。
【0030】
ここで、フェライト粒の「最大長さ」とは、ネット状スケール層の平均界面と垂直な断面で観察し、各フェライト粒の長さを測定し、そのうちの最大をその粒の最大長さとした。
つぎに、本発明穿孔圧延用工具(プラグ)の好ましい製造方法について説明する。
上記した組成の溶鋼を、電気炉、高周波炉等の通常の方法で溶製し、減圧鋳造法、生型鋳造法、シェルモールド法など、通常、公知の方法で鋳造し鋳片としたのち、切削加工等で所定形状の基材(工具)とすることが好ましい。なお、鋼片から切削加工等で所定形状の基材(工具)としてもよい。
【0031】
得られた基材(工具)は、ついで熱処理(スケール付け熱処理)を施されて、基材表面層にスケール層を形成される。熱処理は、通常の、ガス燃焼炉、電気炉等を用いて行えばよく、また熱処理の雰囲気は大気雰囲気でよく、とくに雰囲気調整を行う必要はない。
熱処理としては、第一段と第二段の2段階の熱処理を適用する。
第一段の熱処理は、900〜1000℃の範囲の温度に加熱・保持したのち、少なくとも850〜650℃の温度領域を平均で40℃/h以下で冷却(徐冷)する処理とすることが好ましい。第一段の熱サイクルパターンを模式的に図2(a)に示す。
【0032】
これにより、表層にスケール層が形成され、基材(地鉄)組織がフェライトが析出した組織が形成されるとともに、さらに基地中に固溶されたMo、W等の合金元素が温度と冷却速度に応じて拡散し、炭化物として析出したり、結晶粒界近傍に濃縮したりして、基地中に合金元素のミクロ偏析が発生する。このミクロ偏析の存在により、その後の熱処理で、Fe、Mo等の不均一酸化(選択酸化)が生じ、地鉄と複雑に絡み合った界面を有するネット状スケール層が発達する。
【0033】
加熱温度が、900℃未満では、合金元素の固溶が促進されず、所望の合金元素のミクロ偏析分布を達成できない。一方、1000℃を超える加熱では、外層のスケール層の形成が顕著となり、密着性に優れたスケール層の形成が阻害される。なお、加熱温度での保持は、2〜8hとすることが好ましい。保持時間が2h未満では、合金元素の固溶が不十分となり、一方、8hを超えると、保持時間が長くなりすぎ、生産性が低下するとともに、形成されるスケール量が厚くなり、プラグ寸法精度が低下する。また、少なくとも850〜650℃の温度領域の平均冷却速度が40℃/hを超えると、冷却が速くなりすぎて、ネット状スケール層の成長に必須の合金偏析が抑制される。
【0034】
第二段の熱処理は、900〜1000℃の範囲の加熱温度に加熱・保持したのち、一旦、600〜700℃の範囲の温度まで30℃/h以上の平均冷却速度で冷却し、しかる後に750℃以上800℃以下の温度まで復熱させ、さらに3〜20℃/h の範囲の冷却速度で700℃以下の温度まで冷却(徐冷)し、その後放冷する熱処理とすることが好ましい。第二段の熱サイクルパターンを模式的に図2(b)に示す。
【0035】
第二段の熱処理における加熱温度が、900℃未満では、合金元素の拡散と凝集が促進されず、所望のネット状スケール層の形成、所望の地鉄組織(微細フェライト相)の形成を達成できない。一方、1000℃を超える加熱では、外層のスケール層の形成が顕著となり、密着性に優れたスケール層の形成が阻害される。なお、加熱温度での保持は、1〜8hとすることが好ましい。保持時間が1h未満では、スケールの成長が抑制されるとともに、合金元素の固溶が不十分となり、一方、8hを超えると、保持時間が長くなりすぎ、生産性が低下するとともに、形成されるスケール量が多くなりすぎ、プラグ寸法精度が低下する。
【0036】
加熱保持後、600〜700℃の範囲の温度までの冷却速度が、30℃/h未満では、フェライトの生成・成長が促進され、ネット状スケール層直下の基材側組織をフェライト相を主体とする組織で、しかも微細なフェライト相を析出した組織とすることができなくなる。
上記した冷却を600〜700℃の範囲の温度で停止して、750℃以上800℃以下の温度まで復熱させる。復熱後、3〜20℃/hの範囲の平均冷却速度で700℃以下の温度まで冷却(徐冷)する。これにより、ネット状スケール層直下の基材側組織をフェライト相を主体とする組織で、しかも微細なフェライト相が析出した組織とすることができる。第二段の熱処理を、上記したように、一旦所定の温度範囲にまで急冷した後、復熱させその後徐冷するサイクルの熱処理とすることにより、ネット状スケール層と基材側(地鉄)の界面より下の地鉄組織を、微細なフェライト粒が多数析出した組織とすることができる。
【0037】
なお、上記した第二段の熱処理に代えて、第二段の熱処理を、900〜1000℃の範囲の温度に加熱・保持したのち、20〜200℃/hの冷却速度で850〜800℃の温度域まで冷却する前段冷却と、該前段冷却後、前段冷却の冷却速度との差が10℃/h以上となるように3〜20℃/hの範囲の冷却速度で700℃まで冷却する後段冷却とからなる一次冷却を施し、ついで100℃/h以上の冷却速度で400℃以下まで冷却する二次冷却からなる熱処理としてもよい。この第二段の熱サイクルパターンを模式的に図2(c)に示す。
【0038】
この第二段の熱処理は、一次冷却を、急冷の前段冷却と、徐冷の後段冷却とを組み合わせた熱処理とすることに特徴がある。高温領域での冷却(前段冷却)を20℃/h未満の徐冷とすると、基材側ではフェライトの析出が顕著となり、冷却中に成長して粗大粒となるため、所望の基材側組織を確保できなくなる。高温領域での冷却(前段冷却)を急冷とし、さらに低温領域の冷却(後段冷却)を20℃/h以下の徐冷とすることによってはじめて、フェライト粒が微細に析出し、所望の基材側組織を確保できるようになる。
【0039】
このような熱処理を施すことにより、基材(地鉄)との境界に形成されるスケール層が深さ方向の厚さ:10〜200μmのネット状スケール層となるとともに、さらにネット状スケール層と地鉄(基材)との界面から深さ方向に少なくとも300μmまでの基材側(地鉄)組織がフェライト相を主体とする組織で、しかもフェライト相を、最大粒長さ:1〜60μmの微細なフェライト粒が400個/mm以上存在する相とすることができる。なお、前段冷却と、後段冷却とは、10℃/h以上の冷却速度差を持たせた冷却とすることが、微細なフェライト粒を多数析出されるために、有利となる。
【0040】
このような熱処理を施された穿孔圧延用工具(プラグ)は、複数回の穿孔圧延に供され、継目無鋼管の製造に寄与する。穿孔圧延用工具(プラグ)を穿孔圧延に供すると、表面に形成されたスケール層が摩滅し、溶損や焼付き、えぐれが発生する前に、再スケール付けを実施することにより、再使用することができる。なお、再スケール付け熱処理は、上記した第2段階の熱処理と同じ処理とすることが、穿孔圧延用工具の寿命延長に有利に寄与する。
【実施例】
【0041】
表1に示す組成の溶鋼を、大気雰囲気の高周波炉で溶製し、減圧鋳造法(Vプロセス)で鋳造し、最大外径:174mmφのピアサプラグ(穿孔圧延用工具)とした。得られたピアサプラグ(穿孔圧延用工具)を基材とし、該基材に、図3に示す熱処理(A)、(B)、(C)のいずれかを施し、表2に示す、スケール層と界面下の基材側組織を有する穿孔圧延用工具(プラグ)とし、穿孔圧延に供した。
【0042】
熱処理(A)では、加熱温度:920℃で4h保持したのち、40℃/hで700℃まで冷却する第一段の熱処理と、加熱温度:920℃で4h保持したのち、炉の蓋を開けて炉内中心部温度(雰囲気温度)が680℃になるまで急冷(30℃/h)し、ついで炉の蓋を閉めて炉内中心部温度(雰囲気温度)で790℃まで復熱させ、ついで平均で14℃/hの冷却速度で650℃になるまで徐冷する第二段の熱処理とを施す処理とした。
【0043】
また、熱処理(B)は、加熱温度:920℃で4h保持したのち、40℃/hで700℃まで冷却する第一段の熱処理と、加熱温度:920℃で4h保持したのち、炉内中心部温度(雰囲気温度)が840℃になるまで平均で30℃/hの冷却速度で冷却する前段冷却と、平均で10℃/hの冷却速度で650℃まで冷却する後段冷却とからなる一次冷却を施し、ついで、100℃/hの平均冷却速度で400℃以下まで冷却する二次冷却を施す第二段の熱処理とを施す処理とした。
【0044】
また、熱処理(C)は、従来の熱処理であり、加熱温度:970℃で4h保持したのち、平均で40℃/hの冷却速度で700℃まで冷却する第一段の熱処理と、加熱温度:970℃で4h保持したのち、40℃/hの平均冷却速度で500℃まで冷却する第二段の熱処理とを施す処理とした。
熱処理後に、プラグの断面組織を、ナイタール腐食して断面組織を光学顕微鏡(倍率:200倍)で観察し、ネット状スケール層の深さ方向の厚さを測定した。ネット状スケール層は、スケール中の地鉄の含有量が面積率で10〜80%の範囲となるスケール層とした。
また、ネット状スケール層と地鉄(基材)との界面下の基材側(地鉄)組織を、同様に観察し、フェライト相の面積率を測定し、面積率で50%以上のフェライト相が存在するフェライト相を主体とする組織の厚さを測定した。なお、フェライト相を主体とする組織の厚さは、フェライト相界面が凹凸を呈しているため、maxとminを10点ずつ測定し、その平均値を50μm単位でまとめて表記した。また、フェライト相におけるフェライト粒を観察し、その最大長さを測定し、最大長さが10μm以上60μm以下のフェライト粒の粒数を測定した。測定範囲は、界面下300μm角の範囲とした。
【0045】
上記した熱処理により、基材表面層に、厚さ;約700〜800μmのスケール層を形成した。ついで、表面層にスケール層を付与されたピアサプラグ(穿孔圧延用工具)は、まず、13Cr鋼ビレット(外径207mm×長さ1800mm:ビレット温度1050〜1150℃)の穿孔圧延に供した。ビレット2本を圧延するごとに、プラグ表面を目視観察し、計4本圧延した時点で、プラグに溶損、焼付き、えぐれ等がない場合に、プラグをさらに再使用するために、図3(A)〜(C)に示す熱処理を施し、繰り返し使用した。プラグ表面に溶損、焼付き、えぐれ等が発生するまでに、圧延した累積圧延本数をそのプラグの寿命と判定した。同じ条件のプラグを各3本用意し、それらの累積圧延本数の平均値を、そのプラグの寿命とした。なお、平均値は、小数点以下を四捨五入して整数値とした。
得られた結果を表2に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
本発明例はいずれも、表面に形成されたスケール層の基材側に、所望厚さのネット状スケール層が形成され、しかも、ネット状スケール層との界面直下の基材(地鉄)側に、微細なフェライト粒を多数含むフェライト層が形成され、従来例に比較して、プラグ寿命が格段に長寿命化している。これに対し、本発明の組成範囲を外れる比較例では、スケール付け処理が本発明範囲であっても、ネット状スケール層の厚さが少ないか、微細なフェライト粒が少ないか、してプラグ寿命の長寿命化を達成できていない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面層にスケール層を有する穿孔圧延用工具であって、前記基材が、質量%で、
C:0.05〜0.5%、 Si:0.1〜1.5%、
Mn:0.1〜1.5%、 Cr:0.1〜1.5%、
Mo:0.6〜3.5%、 W:0.5〜3.5%、
Nb:0.1〜1.0%
を含み、さらにCo:0.5〜3.5%、Ni:0.5〜4.0%を下記(1)式を満足するように含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、
前記スケール層のうち基材側に形成されるスケール層を、深さ方向に10〜200μmの厚さを有する地鉄と複雑に絡み合ったネット状スケール層とし、該ネット状スケール層と基材との界面から深さ方向で少なくとも300μmの範囲の基材側組織を、面積率で50%以上のフェライト相を含み、かつ該フェライト相が最大長さ:1〜60μmのフェライト粒を400個/mm以上含む相である組織とすることを特徴とする耐久性に優れた穿孔圧延用工具。

1.0<Ni+Co<4.0 ‥‥(1)
ここで、Ni、Co:各元素の含有量(質量%)
【請求項2】
前記組成に加えてさらに、Al:0.05%以下含有することを特徴とする請求項1に記載の穿孔圧延用工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−112869(P2013−112869A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261307(P2011−261307)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】