説明

突入カプセル、およびその頭頂部の製造方法

【課題】積層された炭素繊維布の層間剥離を防止でき、かつ、断熱性を高めることができる突入カプセルを提供する。
【解決手段】惑星の大気圏に突入する突入カプセルであって、繊維強化複合材料により形成される頭頂部10を有する。頭頂部10を形成する繊維強化複合材料は、頭頂部の外表面10aに垂直な方向に積層された繊維布3と、複数層の繊維布3を貫通する繊維糸5と、繊維布3および繊維糸5の繊維間に充填されることで、繊維布3および繊維糸5と一体化した樹脂7と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、惑星(例えば地球や火星)の大気圏に突入させる突入カプセルと、その頭頂部の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
突入カプセルが、惑星の大気圏に突入する時、大気(空気)は、突入カプセルに対し速度を持つ。この速度で、大気が、突入カプセルに衝突するため、大気の運動エネルギーが熱エネルギーに変換され、高温化する。従って、大気は、高温化して突入カプセルの外表面を加熱する。これを、いわゆる空力加熱現象という。
【0003】
そのために、突入カプセルには、熱防御系が設けられる。熱防御系は、突入カプセルが大気中を高速飛翔している時に、空力加熱現象から、内部のペイロードや電装品を保護する。
【0004】
熱防御系として、炭化アブレータを用いることが一般的である。炭化アブレータは、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を、積層した炭素繊維布(即ち、炭素繊維クロス)で補強したものである。この炭化アブレータは、加熱されると、樹脂の熱分解反応により、強固な炭化層が形成される。炭化層は、ほぼ炭素からなるので、耐熱温度が高く、輻射放熱能力が優れている。一方、熱分解反応により発生したガスは、その圧力により、積層された炭素繊維布の層間剥離を引き起こす可能性がある。炭素繊維は、流体抵抗となるからである。
【0005】
層間剥離の問題を解決するために、下記の特許文献1では、積層する炭素繊維布に、ガス抜き用のスリットを形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−289700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、積層する炭素繊維布に、ガス抜き用のスリットを多数形成した場合には、その分、強度が低下する可能性もあり得る。そのため、ガス抜き用のスリットを形成することなく、積層された炭素繊維布に層間剥離が生じる問題を解決することが望まれる。
【0008】
そこで、本発明の目的は、ガス抜き用のスリットを形成しなくても、積層された炭素繊維布の層間剥離を防止でき、かつ、断熱性を高めることができる突入カプセルを提供することにある。また、本発明の別の目的は、前記突入カプセルの頭頂部の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明によると、 惑星の大気圏に突入する突入カプセルであって、
繊維強化複合材料により形成される頭頂部を有し、
前記繊維強化複合材料は、
前記頭頂部の外表面に垂直な方向に積層された繊維布と、
複数層の前記繊維布を貫通する繊維糸と、
前記繊維布および前記繊維糸の繊維間に充填されることで、前記繊維布および前記繊維糸と一体化した樹脂と、を有する、ことを特徴とする突入カプセルが提供される。
【0010】
本発明の突入カプセルでは、繊維布が、前記頭頂部の外表面に垂直な方向に積層されるので、断熱性を高めることができる。即ち、繊維布の熱伝導率は、樹脂の熱伝導率よりも高いため、熱は、繊維布の積層方向(前記頭頂部の外表面に垂直な方向)よりも、繊維布に沿った方向に分散・伝達しやすくなる。これにより、頭頂部の断熱性が高まる。
また、本発明の突入カプセルでは、前記頭頂部の外表面に垂直な方向に、繊維布を積層しても、繊維布の層間剥離を防止できる。即ち、従来では、前記頭頂部の外表面に垂直な方向に繊維布を積層した場合、繊維布が流体抵抗となるので、繊維布の層間での熱分解ガス圧により、繊維布の層間剥離が生じやすい。これに対し、本発明では、繊維糸が、複数層の前記繊維布を貫通するので、樹脂から発生する熱分解ガスが、繊維糸に沿って繊維布の層間を通過しやすくなり、これにより、熱分解ガスの圧力による繊維布の層間剥離を防止できる。
【0011】
本発明の好ましい実施形態によると、前記繊維布の熱伝導率は、前記繊維糸の熱伝導率よりも高い。
【0012】
この構成により、次のように、突入カプセルの耐熱性を高く維持できる。
頭頂部の外表面に沿う方向に延びている前記繊維布の熱伝導率を、前記繊維糸の熱伝導率よりも高くすることで、頭頂部の外表面に沿って熱が伝わりやすくなる。従って、頭頂部の外表面において、高温となる箇所が局所的に発生することを防止できるので、突入カプセルの耐熱性を高く維持できる。
さらに、前記繊維糸の熱伝導率を、前記繊維布の熱伝導率よりも低くすることで、突入カプセルの厚み方向(頭頂部の外表面と垂直な方向)に熱が伝わり難くなる。従って、突入カプセルにおいて、樹脂が熱分解する厚み方向範囲を抑えることができるので、この観点からも、突入カプセルの耐熱性を高く維持できる。
【0013】
また、上記別の目的を達成するため、本発明によると、突入カプセルの頭頂部の製造方法であって、
前記頭頂部の原型となる繊維構造体を、繊維強化複合材料により形成する繊維構造体形成ステップと、
前記繊維構造体に樹脂を含浸させる含浸ステップと、を有し、
前記繊維構造体形成ステップは、
前記頭頂部の外表面に垂直となる方向に繊維布を積層する積層ステップと、
複数層の繊維布を貫通するように繊維糸を配置する糸配置ステップと、を有する、ことを特徴とする突入カプセルの製造方法が提供される。
【0014】
本発明の頭頂部の製造方法では、積層ステップにおいて、前記頭頂部の外表面に垂直な方向に繊維布を積層するので、上述のように断熱性を高めることができる。
また、糸配置ステップにおいて、複数層の繊維布を貫通するように繊維糸を配置するので、上述のように、樹脂から発生する熱分解ガスが、繊維糸に沿って繊維布の層間を通過しやすくなり、これにより、熱分解ガスの圧力による繊維布の層間剥離を防止できる。
【発明の効果】
【0015】
繊維強化複合材料を用いた突入カプセルの頭頂部において、ガス抜き用のスリットを形成しなくても、積層された炭素繊維布の層間剥離を防止でき、かつ、断熱性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態による突入カプセルの断面図である。
【図2】図1における頭頂部の拡大図である。
【図3】本発明の実施形態による突入カプセルの頭頂部の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を実施するための最良の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0018】
図1は、本発明の実施形態の突入カプセルの底部20の断面図である。即ち、図1は、突入カプセルの軸線Cを含む平面による断面図である。突入カプセルの底部20は、図1に示すように、その外表面が下方に突出した概略球面状をなしている。なお、図1の断面図は、前記軸線Cを含む平面の向きによらない。即ち、前記軸線Cを含むいずれの平面による突入カプセルの断面図であっても、図1に示す構成となる。図2は、図1における頭頂部10の拡大図である。以下、図1、図2に基づいて、突入カプセルの構造(材料や配置や材料の数など)を説明する。
【0019】
図1に示すように、突入カプセルの頭頂部10(即ち、先端部)は、前記底部20の中央部に位置し、繊維強化複合材料により形成される。この繊維強化複合材料は、繊維布3、繊維糸5および樹脂7からなる。
【0020】
繊維布3は、縦横に織ったクロスであり、頭頂部10の外表面10aに垂直な方向に積層される強化材である。従って、各層の繊維布3の面は、曲面状(この例では球面状)の外表面10aに沿った方向(言い換えると、軸線Cを回る周方向と、該周方向と直交する外表面10aに沿った方向)に延びる。即ち、図1、図2の断面図において、各層の繊維布3の面を示す実線は、頭頂部10の外表面10aを示す破線(曲線)と平行となっている。
繊維布3の熱伝導率は、好ましくは、繊維糸5の熱伝導率よりも高い。即ち、繊維布3は、高い熱伝導率を持つのがよい。例えば、高い弾性率を持つ連続糸は、一般に高い熱伝導率を持つので、繊維布3は、高い弾性率(即ち、高い熱伝導率)を持つPAN系やピッチ系の連続糸により形成されたものである。このように、繊維布3が、高い熱伝導率を持つことで、頭頂部10の外表面10aに沿って燃焼ガス熱が伝達しやすくなり、頭頂部10の外表面10aにおいて、高温となる箇所が局所的に発生することが防止される。従って、例えば、乱流等により、外表面10aにおいて加熱率に分布が生じても、熱負荷の平準化を図れる。
【0021】
繊維糸5は、複数層の繊維布3を貫通する。本実施形態では、多数の繊維糸5が、頭頂部10(即ち、繊維強化複合材料)の全体にわたって適切な密度で(好ましくは、密に)配置される。各繊維糸5は、複数層の繊維布3を貫通するように、前記垂直な方向に延びている。好ましくは、各繊維糸5の一端は、最下層(図1、図2の最も下側の層)の繊維布3の位置にあるか、または、該繊維布3よりも突入カプセルの前方側(図1の下側)の位置にあり、各繊維糸5の他端は、最上層(図1、図2の最も上側の層)の繊維布3の位置にあるか、または、該繊維布3よりも突入カプセルの後方側(図1の上側)の位置にある。また、好ましくは、繊維糸5は、前記垂直な方向に直線的に又はほぼ直線的に延びている。
繊維糸5の熱伝導率は、好ましくは、繊維布3の熱伝導率よりも低い。即ち、繊維糸5は、低い熱伝導率を持つのがよい。例えば、低い熱伝導率を持つ繊維糸5は、ピッチ系のXN−05である。このように、繊維糸5が、低い熱伝導率を持つことで、前記垂直な方向に熱が伝達し難くなるので、前記垂直な方向(即ち、頭頂部10の厚み方向)において、燃焼ガス熱による樹脂7が熱分解される範囲が小さく抑えられる。
【0022】
樹脂7は、繊維布3および繊維糸5の繊維間に充填されることで、繊維布3および繊維糸5と一体化される。後述するように、樹脂7は、繊維布3および繊維糸5で形成されたプリフォーム(繊維構造体)に含浸させられるので、プリフォームに含浸させる時(即ち、硬化前)の樹脂7の粘度は、プリフォームの内部全体に含浸する程度に低い。このような低粘度の樹脂7として、例えば、フラン樹脂を用いることができる。なお、図1、図2において、破線は、樹脂7の表面を示し、下側の樹脂7の表面は、頭頂部10の外表面10aでもある。
【0023】
図3は、上述した構造を有する繊維強化複合材料で形成された頭頂部10の製造方法を示すフローチャートである。本発明の実施形態による突入カプセルの製造方法は、繊維構造体形成ステップS1および含浸ステップS2を有する。
【0024】
繊維構造体形成ステップS1では、頭頂部10の原型となる繊維構造体(プリフォーム)を、繊維強化複合材料により形成する。繊維構造体形成ステップS1は、積層ステップS11と糸配置ステップS12とからなる。
積層ステップS11では、例えば、頭頂部10の外表面10aに垂直となる方向に繊維布3を積層する。具体的には、頭頂部10の外表面10aと整合した外表面を有する頭頂部10の型を用意し、該型の該外表面に、繊維布3を、複数枚、積層する。これにより、頭頂部10の外表面10aに垂直となる方向に繊維布3を積層できる。
糸配置ステップS12では、複数層の繊維布3を貫通するように繊維糸5を配置する。即ち、複数層の繊維布3を前記垂直な方向に繊維糸5が貫通した状態に繊維糸5を配置する。具体的には、多数本の繊維糸5を、所定の密度で、複数層の繊維布3を前記垂直な方向に貫通した状態に配置する。
【0025】
含浸ステップS2では、前記繊維構造体に樹脂7を含浸させて硬化させる。例えば、含浸ステップS2を、RTM等のLCM(Liquid Composite Molding)により行う。即ち、LCMでは、繊維構造体形成ステップS1で形成した繊維構造体(プリフォーム)を、バキュームバッグで密閉し、バキュームバッグ内を真空にし、この状態で、バキュームバッグ内へ樹脂7を流入させ繊維構造体に含浸させ、繊維構造体に含浸させられた樹脂7を加熱により硬化させる。これにより、頭頂部10が製造される。
【0026】
なお、図3に示す製造方法で使用される繊維布3、繊維糸5および樹脂7の材料や配置や数などは、図1、図2を参照して上述したものと同じであってよい。
【0027】
上述した本発明の実施形態によると以下の効果(1)〜(7)が得られる。
【0028】
(1)繊維布3が、頭頂部10の外表面10aに垂直な方向に積層されるので、断熱性を高めることができる。即ち、繊維布3の熱伝導率は、繊維糸5の熱伝導率よりも高いため、熱は、繊維布3の積層方向(頭頂部10の外表面10aに垂直な方向)よりも、繊維布3に沿った方向に分散・伝達しやすくなる。これにより、頭頂部10の断熱性が高まる。
【0029】
(2)頭頂部10の外表面10aに垂直な方向に、繊維布3を積層しても、繊維布3の層間剥離を防止できる。即ち、従来では、頭頂部10の外表面10aに垂直な方向に、繊維布3を積層した場合には、繊維布3が流体抵抗となるので、繊維布3の層間でのガス圧により、繊維布3の層間剥離が生じやすいのに対し、上述の実施形態では、繊維糸5が、複数層の繊維布3を貫通するので、樹脂7から発生する熱分解ガスが、繊維糸5に沿って繊維布3の層間を通過しやすくなり、これにより、熱分解ガスの圧力による繊維布3の層間剥離を防止できる。
【0030】
(3)頭頂部10の外表面10aに沿う方向に延びている繊維布3の熱伝導率を、繊維糸5の熱伝導率よりも高くすることで、頭頂部10の外表面10aに沿って熱が伝わりやすくなる。従って、頭頂部10の外表面10aにおいて、高温となる箇所が局所的に発生することを防止できるので、突入カプセルの耐熱性を高く維持できる。
さらに、繊維糸5の熱伝導率を、繊維布3の熱伝導率よりも低くすることで、突入カプセルの厚み方向(頭頂部10の外表面10aと垂直な方向)に熱が伝わり難くなる。従って、突入カプセルにおいて、樹脂7が熱分解する厚み方向範囲を抑えることができるので、この観点からも、突入カプセルの耐熱性を高く維持できる。
【0031】
(4)頭頂部10の外表面10aに沿って繊維布3の面が延びているので、外表面10aに沿って高速に流れる高温外気によって頭頂部10が機械的に損耗する量を低減することができる。
【0032】
(5)さらに、繊維糸5が、積層された繊維布3を貫通するように配置されているので、繊維糸5により、繊維布3の積層方向における頭頂部10の強度が高まる。
【0033】
(6)本実施形態では、頭頂部10の原型となるプリフォームに含浸させる樹脂7として、低粘度の樹脂7を用いるので、プリフォームの内部全体に樹脂7を十分に含浸させることができる。
【0034】
(7)LCMにより、プリフォームへの樹脂7含浸を行うので、製造コストのかさむオートクレーブ等の加圧硬化過程が不要になる。
【0035】
なお、突入カプセルの底部20は、頭頂部10の外周側に、外側積層部9を備える。外側積層部9は、軸線Cから外周側に向く方向において、底部20の外表面に対して鋭角θ(図1を参照)で交差する方向に延びる繊維布8を積層してなる。外側積層部9は、例えば.熱硬化性樹脂を含浸した繊維布8を積層し、その後、加圧および加熱後による硬化処理を施すことで、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)化したものである。また、外側積層部9は、頭頂部10と別個に成形した後、頭頂部10に、例えば硬化処理(即ち、外側積層部9と頭頂部10の接合面の樹脂を加熱で溶かした後、硬化させる)により接合してよい。外側積層部9と頭頂部10により、内部空間11が形成され、この内部空間11には、搭載機器が収容される。また。図1に示すように、断熱材13が、頭頂部10と外側積層部9の内側面に接触するように設けられる。
【0036】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0037】
3 繊維布、5 繊維糸、7 樹脂、9 外側積層部、
10 突入カプセルの頭頂部、10a 頭頂部の外表面、
11 内部空間、13 断熱材、20 突入カプセルの底部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
惑星の大気圏に突入する突入カプセルであって、
繊維強化複合材料により形成される頭頂部を有し、
前記繊維強化複合材料は、
前記頭頂部の外表面に垂直な方向に積層された繊維布と、
複数層の前記繊維布を貫通する繊維糸と、
前記繊維布および前記繊維糸の繊維間に充填されることで、前記繊維布および前記繊維糸と一体化した樹脂と、を有する、ことを特徴とする突入カプセル。
【請求項2】
前記繊維布の熱伝導率は、前記繊維糸の熱伝導率よりも高い、ことを特徴とする請求項1に記載の突入カプセル。
【請求項3】
突入カプセルの頭頂部の製造方法であって、
前記頭頂部の原型となる繊維構造体を、繊維強化複合材料により形成する繊維構造体形成ステップと、
前記繊維構造体に樹脂を含浸させる含浸ステップと、を有し、
前記繊維構造体形成ステップは、
前記頭頂部の外表面に垂直となる方向に繊維布を積層する積層ステップと、
複数層の繊維布を貫通するように繊維糸を配置する糸配置ステップと、を有する、ことを特徴とする突入カプセルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−921(P2011−921A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143972(P2009−143972)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(500302552)株式会社IHIエアロスペース (298)
【Fターム(参考)】