説明

窒化アルミニウム単結晶の製造方法

【課題】結晶性の高い窒化アルミニウム単結晶を高収率で製造することができる窒化アルミニウム単結晶の製造方法を提供すること。
【解決手段】成長容器7内に収容した窒化アルミニウム原料6を加熱して昇華させ、成長容器7の内壁面に固定した種結晶13の表面上に窒化アルミニウムの単結晶19を成長させて窒化アルミニウム単結晶を製造する単結晶成長工程を含む窒化アルミニウム単結晶の製造方法であって、単結晶成長工程が、種結晶13の表面のうち結晶成長面13aが窒化アルミニウム単結晶19で全面的に覆われるまでは成長容器7を開放し、成長容器7内に窒素ガスを導入する開放工程と、種結晶13の表面の結晶成長面13aが窒化アルミニウム単結晶19で全面的に覆われた後は成長容器7を密閉する密閉工程とを含む、窒化アルミニウム単結晶の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化アルミニウム単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウム系半導体は、6.2eVという広いバンドギャップを有することから、青色・紫外発光素子、白色LED、高耐圧・高周波電源ICなどへの利用が期待されている。また、窒化アルミニウム単結晶は、窒化ガリウムとの格子不整合が2.4%と小さいことから、窒化ガリウム系半導体を成長させる際の成長用基板としても期待されている。
【0003】
このような窒化アルミニウム単結晶の製造方法として、種々のものが知られている。中でも、昇華法は、一般的に成長速度が大きいため、バルク結晶の作製に対して有力な方法としてよく使用されている。昇華法は、成長容器を加熱して、成長容器の底部および上部に温度差を設け、底部に載置した原料を昇華させ、その昇華ガスを、底部より温度の低い上部に固定された種結晶にて再結晶させることで結晶を成長させる方法である。
【0004】
このような昇華法による窒化アルミニウム単結晶成長法として、単結晶成長を密閉された成長容器内で行う方法が知られている(下記特許文献1)。下記特許文献1には、成長チャンバを収容したケースを備える窒化アルミニウム単結晶の製造装置が開示されており、その成長チャンバは、内部に窒素ガスを残した状態で密閉される。また成長チャンバの底部には原料としてのAl源が収容され、成長チャンバの上部には炭化ケイ素などからなる種結晶が固定されている。そして、原料であるAl源を加熱して昇華させ、Al源から昇華したガスと成長容器内に導入された窒素ガスとの混合ガスが種結晶において冷却されることで再結晶して固相になり窒化アルミニウムの単結晶が成長する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2003−519064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、昇華法を用いた窒化アルミニウム単結晶の製造方法では、結晶性の高い窒化アルミニウム単結晶を高収率で製造することが重要である。
【0007】
しかし、上記特許文献1に記載の窒化アルミニウム結晶の製造方法のように、成長チャンバを密閉状態にして窒化アルミニウム単結晶を成長させると、得られる窒化アルミニウム単結晶においてドメインが形成され、結晶性が必ずしも高いとは言えないものであった。このため、特許文献1に記載の窒化アルミニム単結晶の製造方法には、結晶性の点で改良の余地があった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、結晶性の高い窒化アルミニウム単結晶を高収率で製造することができる窒化アルミニウム単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するため、特許文献1に記載の窒化アルミニム単結晶の製造方法によって得られる窒化アルミニウムの単結晶の結晶性が高くならない原因について検討した。その結果、本発明者らは、以下の理由により、得られる窒化アルミニウムの単結晶の結晶性が高くならないのではないかと考えた。すなわち、特許文献1に記載の窒化アルミニム単結晶の製造方法では、単結晶の成長が、成長チャンバを密閉状態にして行われる。このため、窒化アルミニウム原料の昇華ガスの線速度が不十分であり、成長初期は、種結晶に対して窒化アルミニウム原料の昇華ガスが十分に供給されなくなる。このとき、種結晶が昇華やエッチングされ易い結晶であると、種結晶が昇華したり、エッチングされたりするため、種結晶の表面のうち結晶が成長する結晶成長面の全面に窒化アルミニム単結晶が成長しなくなる。すなわち、種結晶の結晶成長面上に、窒化アルミニウム単結晶が部分的にしか成長しないこととなる。これにより、部分的に成長した島状の窒化アルミニウム結晶子同士が合一化して一つの単結晶として成長していく。しかし、合一化による結晶子同士間の界面は、ここで接触する結晶子同士の方位が揃わず、小傾角粒界となりやすい。その結果、得られる窒化アルミニウム単結晶においてドメインが形成され、結晶性の高くない窒化アルミニウム単結晶が得られるのではないかと本発明者らは考えた。そこで、本発明者らはさらに鋭意研究を重ねた結果、下記発明により上記課題を解決し得ることを見出した。
【0010】
すなわち本発明は、成長容器内に収容した窒化アルミニウム原料を加熱して昇華させ、前記成長容器の内壁面に固定した種結晶の表面上に窒化アルミニウムの単結晶を成長させて窒化アルミニウム単結晶を製造する単結晶成長工程を含む窒化アルミニウム単結晶の製造方法であって、前記単結晶成長工程が、前記種結晶の表面のうち結晶成長面が前記窒化アルミニウム単結晶で全面的に覆われるまでは前記成長容器を開放し、前記成長容器内に窒素ガスを導入する開放工程と、前記種結晶の表面の前記結晶成長面が前記窒化アルミニウム単結晶で全面的に覆われた後は前記成長容器を密閉する密閉工程とを含む、窒化アルミニウム単結晶の製造方法である。
【0011】
この製造方法によれば、単結晶成長工程において、成長容器内に収容した窒化アルミニウム原料を加熱して昇華させ、成長容器の内壁面に固定した種結晶の表面上に窒化アルミニウムの単結晶を成長させて窒化アルミニウム単結晶を製造する。このとき、種結晶の表面のうち窒化アルミニウムの単結晶が成長する結晶成長面が窒化アルミニウム単結晶で全面的に覆われるまでは成長容器が開放され、成長容器内に窒素ガスが導入される。このため、窒化アルミニウム原料の昇華ガスの線流速を高くすることができる。そのため、種結晶の結晶成長面が窒化アルミニウム単結晶で全面的に覆われるまでは、種結晶に対して窒化アルミニウム原料の昇華ガスが十分に供給され、種結晶の結晶成長面全面に窒化アルミニウム単結晶を成長させることができる。その結果、ドメインが形成されることが十分に抑制され、結晶性の高い窒化アルミニウム単結晶を得ることが可能となる。また種結晶の結晶成長面が窒化アルミニウム単結晶で全面的に覆われた後は、成長容器が密閉状態とされる。このため、窒化アルミニウム原料の昇華ガスが成長容器から無駄に排出されることがなくなる。したがって、窒化アルミニウム単結晶を高収率で得ることができる。
【0012】
上記窒化アルミニウム単結晶の製造方法は、種結晶が炭化ケイ素を含む場合に特に有用である。
【0013】
窒化アルミニウム原料の昇華ガスにはアルミニウムガスが含まれるところ、炭化ケイ素はアルミニウムガスによって腐食されやすい。このため、種結晶の結晶成長面が窒化アルミニウム単結晶で全面的に覆われるまでは、成長容器を開放して窒素ガスを成長容器内に導入することにより、窒化アルミニウム原料の昇華ガスの線流速を高くして、種結晶の結晶成長面の全面に窒化アルミニウム単結晶を成長させる必要性が高い。そのため、上記の通り、上記窒化アルミニウム単結晶の製造方法は、種結晶が炭化ケイ素を含む場合に特に有用である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、結晶性の高い窒化アルミニウム単結晶を高収率で製造することができる窒化アルミニウム単結晶の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る窒化アルミニウム単結晶の製造方法を実施するための装置の一例を示す断面図である。
【図2】本発明に係る窒化アルミニウム単結晶の製造方法の一工程である開放工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明に係る窒化アルミニウム単結晶の製造方法を実施するための装置の一例を示す断面図である。図1に示すように、窒化アルミニウム単結晶の製造装置(以下、単に「製造装置」と呼ぶ)100は、窒化アルミニウム単結晶19の成長が行われる結晶成長部1と、結晶成長部1を収容する収容部2と、収容部2の周囲に巻回される高周波コイル3とから構成されている。収容部2には、ガス導入口4と、ガス排出口5とが形成されており、不活性ガス供給装置(図示せず)からガス導入口4を通して窒素ガスが導入され、収容部2内のガスが、減圧装置(例えば真空ポンプ)によってガス排出口5を通して排出されるようになっている。また収容部2には、結晶成長部1を収容するための開口部(図示せず)も形成されている。
【0018】
結晶成長部1は、窒化アルミニウム原料6を収納する成長容器7と、成長容器7の外側に設けられる発熱体8と、発熱体8を覆う断熱材9と、成長容器7内に窒素ガスを導入する窒素ガス導入管20と、成長容器7内のガスを排出するガス排出管21とを備えている。窒素ガス導入管20には弁V1が設けられ、ガス排出管21には弁V2が設けられている。したがって、弁V1、V2の開閉により、成長容器7内への窒素ガスの導入量を制御することが可能となっている。
【0019】
成長容器7としては、例えばルツボが用いられる。したがって、成長容器7は、窒化アルミニウム原料6を収納する収納部10を有する本体部11と、本体部11の収納部10を密閉する蓋体12とを有している。蓋体12の収納部10側の面には種結晶13が固定されるようになっている。成長容器7は、アルミニウムガスに対して耐腐食性を有する材料からなる。このような材料としては、例えば炭化タンタル(TaC)、窒化ジルコニウム、窒化タングステン及び窒化タンタルなどが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、アルミニウムガスに対する耐腐食性に特に優れることから、炭化タンタルが好ましい。
【0020】
発熱体8としては、例えばルツボが用いられる。したがって、発熱体8は、成長容器7を収納する本体部14と、本体部14を密閉する蓋体15とを有している。発熱体8は、成長容器7を介して窒化アルミニウム原料6を加熱する発熱体として機能するものであり、成長容器7に接触している。発熱体8は、高周波コイル3によって高周波磁場を印加されることにより誘導電流が流され、発熱するようになっている。
【0021】
発熱体8としては、例えばグラファイト、タングステン単体、又は、タングステンと、レニウム、鉄、ニッケル若しくは銅などの金属との合金を用いることができる。中でも、成長容器7よりも、窒化アルミニウム原料6の昇華時に発生するアルミニウムガスに対する耐腐食性に優れることから、タングステン単体、タングステンとレニウムなど、タングステンを含む金属材料で構成されることが好ましい。特に、耐熱性に優れることから、タングステン単体が好ましい。
【0022】
断熱材9は、発熱体8を収納する本体部17と、本体部17を密閉する蓋体18とを有している。断熱材9は、発熱体8の熱を成長容器7に効率よく伝えるためのものであり、例えばカーボンなどで構成される。
【0023】
窒素ガス導入管20は、成長容器7内に窒素ガスを導入することが可能となっていればよく、例えば、図1に示すように、断熱材の蓋体18、発熱体8の蓋体15、および、成長容器7の蓋体12を貫通しており、蓋体12,15、18に固定されている。またガス排出管21も、成長容器7内のガスを排出することが可能となっていればよく、例えば図1に示すように、断熱材の蓋体18、発熱体8の蓋体15、および、成長容器7の蓋体12を貫通しており、蓋体12,15、18に固定されている。ここで、蓋体12,15,18も互いに結合されていることが好ましい。窒素ガス導入管20及びガス排出管21はそれぞれ、例えばタングステン、タリウムなどの耐熱性を有する材料で構成されている。
【0024】
次に、上記製造装置100を用いた窒化アルミニウム単結晶の製造方法について説明する。
【0025】
まず結晶成長部1において、断熱材9の蓋体18、発熱体8の蓋体15、成長容器7の蓋体12の全てが外れた状態で、成長容器7の収納部10に窒化アルミニウム原料6を収納する。一方、蓋体12には、種結晶13を固定する。本実施形態では、種結晶13としては通常、炭化ケイ素(SiC)が用いられるが、窒化アルミニウム(AlN)などを使用することも可能である。
【0026】
そして、蓋体12,15,18によって、成長容器7の本体部11の収納部10を密閉する。このとき、蓋体12は、種結晶13を収納部10側に向ける。
【0027】
そして、結晶成長部1を、収容部2の開口部から内部に収容する。
【0028】
次に、収容部2を減圧装置により真空引きする。その後、ガス導入口4から収容部2に窒素ガスを導入するとともにガス排出口5から収容部2内のガスを排出させる。こうして、結晶成長部1を窒素ガス雰囲気下に置く。またこのとき、収容部2の内部の圧力は、好ましくは1.3〜101kPaとし、より好ましくは13.3〜80.0kPaとする。
【0029】
次に、高周波コイル3に高周波電流を印加し、それにより発熱体8に高周波磁場を印加する。すると、発熱体8に誘導電流が流れ、発熱体8が発熱する。そして、発熱体8の蓋体15の熱が、成長容器7を介して窒化アルミニウム原料6に伝わり、窒化アルミニウム原料6が加熱され、昇華される。このとき、発熱体8と成長容器7とが接触しているため、発熱体8の熱は、成長容器7に効率よく伝わり、窒化アルミニウム原料6が効率よく加熱される。
【0030】
こうして窒化アルミニウム原料6が、昇華点以上の温度まで加熱されると、窒化アルミニウム原料6からアルミニウムガスと窒素ガスとが発生する。
【0031】
このとき、成長容器7においては、窒化アルミニウム原料6の温度(以下、「原料部温度」と呼ぶ)が、窒化アルミニウム結晶19の温度(以下、「成長部温度」と呼ぶ)よりも高くなるように設定する。ここで、原料部温度とは、具体的には、本体部11の底部の温度を言い、成長部温度とは、具体的には、蓋体12の温度を言う。このように成長容器7の温度プロファイルを設定することで、アルミニウムガスと窒素ガスとが、蓋体12に固定された種結晶13に付着して再結晶し、窒化アルミニウムの単結晶19が成長する。
【0032】
ここで、原料部温度は、1800℃以上の温度であることが好ましく、2000℃以上であることがより好ましい。この場合、原料部温度が、1800℃未満である場合に比べて、成長速度をより増大させることができる。但し、原料部温度は、好ましくは成長容器7の融点未満の温度にする。
【0033】
また成長部温度は、原料部温度よりも低い温度であればよいが、原料部温度よりも50℃〜200℃だけ低いことが好ましい。この場合、上記範囲を外れる場合に比べて、単結晶が得られやすい。すなわち、上記範囲を外れる場合に比べて、多結晶の析出がより十分に抑制されたり、結晶が成長しやすくなったりする。
【0034】
原料部温度および成長部温度の制御は、例えば、発熱体8の本体部14の底部、及び蓋体15にそれぞれ設けた放射温度計で原料部温度および成長部温度を測定し、その測定結果に基づいて高周波コイル3に流れる高周波電流の出力を制御することにより行うことができる。
【0035】
上記のようにして成長容器7内で種結晶13の結晶成長面13a上に窒化アルミニウムの単結晶19を成長させる(単結晶成長工程)。
【0036】
このとき、窒化アルミニウムの単結晶19が種結晶13の表面のうち結晶成長面13aの全面を覆うまでは、弁V1,V2を開くことにより成長容器7を開放状態とする(図2参照)。そして、窒素ガス導入管20を通して収容部2内の窒素ガスを成長容器7内に導入する(開放工程)。このとき、成長容器7内のガスは、ガス排出管21を通して排出し、収容部2のガス排出口5を通して収容部2の外へ排出する。
【0037】
ここで、窒化アルミニウムの単結晶19が種結晶13の表面のうち結晶成長面13aを全面的に覆ったかどうかについては、例えば成長容器7を開放状態とした時点から、種結晶13の結晶成長面13aの全面を窒化アルミニウム単結晶が覆うまでの経過時間を予め調べておけば、成長容器7を開放状態とした時点からの経過時間を測定することで、知ることができる。ここで、「表面」とは、種結晶13のうち蓋体12の内壁面と接続されている面を除く面を言う。結晶成長面13aは、例えば種結晶13が板状体である場合、蓋体12の内壁面から延びる種結晶の側面の先端に接続される面を言う。
【0038】
このとき、成長容器7の内部空間の圧力は、好ましくは10〜760Torrとし、より好ましくは100〜600Torrとする。また成長容器7内に導入する窒素ガスの流量は、好ましくは100〜10000sccmとし、より好ましくは500〜5000sccmとする。
【0039】
窒化アルミニウムの単結晶19が種結晶13の結晶成長面13aを全面的に覆った後は、弁V1,V2を閉じることにより成長容器7を密閉状態とする(密閉工程)。成長容器7を密閉状態としてからも、引き続き、種結晶13上に窒化アルミニウム単結晶19を成長させる。こうして種結晶13の結晶成長面13a上に窒化アルミニウム単結晶19が得られ、窒化アルミニウム単結晶19の製造が完了する。
【0040】
以上述べたように、本実施形態の製造方法によれば、成長容器7内に収容した窒化アルミニウム原料を加熱して昇華させ、成長容器7の蓋体12の内壁面に固定した種結晶13の表面上に窒化アルミニウムの単結晶19を成長させて窒化アルミニウム単結晶を製造する際、種結晶13の表面のうち窒化アルミニウムの単結晶19が成長する結晶成長面13aが窒化アルミニウム単結晶19で全面的に覆われるまでは成長容器7が開放され、成長容器7内に窒素ガスが導入される。このため、窒化アルミニウム原料の昇華ガスの線流速を高くすることができる。そのため、種結晶13の結晶成長面13aが窒化アルミニウム単結晶19で全面的に覆われるまでは、種結晶13に対して窒化アルミニウム原料の昇華ガスが十分に供給され、種結晶13の結晶成長面13aの全面に窒化アルミニウム単結晶19を成長させることができる。その結果、ドメインが形成されることが十分に抑制され、結晶性の高い窒化アルミニウム単結晶19を得ることが可能となる。また種結晶13の結晶成長面13aが窒化アルミニウム単結晶で全面的に覆われた後は、成長容器7が密閉状態とされる。このため、窒化アルミニウム原料の昇華ガスが成長容器7から無駄に排出されることがなくなる。したがって、窒化アルミニウム単結晶19を高収率で得ることができる。
【0041】
特に、本実施形態の製造方法は、種結晶13が炭化ケイ素を含む場合に有用である。窒化アルミニウム原料の昇華ガスにはアルミニウムガスが含まれるところ、炭化ケイ素はアルミニウムガスによって腐食されやすい。このため、種結晶13の結晶成長面13aが窒化アルミニウム単結晶19で全面的に覆われるまでは、成長容器7を開放して窒素ガスを成長容器7内に導入することにより、窒化アルミニウム原料の昇華ガスの線流速を高くして、種結晶13の結晶成長面13aの全面に窒化アルミニウム単結晶19を成長させる必要性が高い。そのため、上記の通り、上記窒化アルミニウム単結晶の製造方法は、種結晶13が炭化ケイ素を含む場合に特に有用である。
【0042】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、発熱体8は、高周波コイル3により誘導加熱によって発熱しているが、高周波コイル3は必ずしも必要ではない。この場合、抵抗加熱によって発熱体8を発熱させることが可能である。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の内容を、実施例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
図1に示す製造装置を用いて以下のようにして窒化アルミニウム単結晶を製造した。すなわち、まずカーボン繊維からなる断熱材9の蓋体18、グラファイトからなる発熱体8の蓋体15、炭化タンタル(TaC)からなる成長容器7の蓋体12の全てが外れた状態で、成長容器7の収納部10に、原料である窒化アルミニウム粉末を収納した。一方、蓋体12には、接着剤によって、直径2インチ、厚さ0.5mmの種結晶13を担持させた。このとき、種結晶としては、6H−SiC(0001)を用いた。
【0045】
そして、蓋体12,15,18によって、成長容器7の本体部11の収納部10を密閉した。このとき、蓋体12に固定した種結晶13は収納部10側に向けるようにした。
【0046】
そして、結晶成長部1を収容部2内に設置した。次に、収容部2の内部空間を、真空ポンプを用いて真空引きした。その後、ガス導入口4から収容部2に窒素ガスを500sccmの流量で導入するとともに、ガス排出口5から収容部2内のガスを排出させた。こうして収容部2内の圧力を100〜600Torrに保持した。
【0047】
次に、高周波コイル3に高周波電流を印加し、そのとき発生する誘導磁場によって発熱体8を発熱させ、成長容器7を介して窒化アルミニウム粉末を加熱した。このとき、成長容器7の原料部温度および成長部温度はそれぞれ、発熱体8の本体部14、蓋体15から放射される赤外線を放射温度計で測定し、その測定結果に基づいて1850℃及び1750℃となるように高周波コイル3に流れる高周波電流の出力を自動制御した。そして、1hにわたって窒化アルミニウム単結晶を成長させた。
【0048】
このとき、高周波コイル3に高周波電流を印加すると同時に、すなわち昇温時に、弁V1,V2を開くことにより成長容器7を開放状態とした。そして、窒素ガス導入管20を通して収容部2内の窒素ガスを成長容器7内に導入した。成長容器7内に導入した窒素ガスの流量は100sccmとした。このとき、成長容器7内のガスは、ガス排出管21を通して排出した。こうして成長容器7内の圧力を10Torrとした。
【0049】
窒素ガスの導入は、窒化アルミニウムの単結晶19が種結晶13の結晶成長面13aを全面的に覆うまで行った。具体的には、成長容器7を開放した時点から1時間経過するまで行った。なお、成長容器7を開放している間に成長部温度が目標温度に達したが、その後、そのままの状態を維持した。
【0050】
そして、成長容器7を開放した時点から1時間経過後、窒化アルミニウムの単結晶19が種結晶13の結晶成長面13aを全面的に覆ったものと判断し、弁V1,V2を閉じることにより成長容器7を密閉状態とした。成長容器7を密閉状態としてからも、引き続き、種結晶13上に窒化アルミニウム単結晶19を成長させた。成長容器7を密閉していた時間は250hであった。こうして種結晶13の結晶成長面13a上に窒化アルミニウム単結晶19を作製した。
【0051】
(実施例2及び3)
開放状態における成長容器内の圧力、原料部温度、成長部温度、及び成長容器を開放している間に成長容器内に導入された窒素ガスの流量を表1に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様にして窒化アルミニウム結晶を成長させた。
【0052】
(比較例1)
種結晶の結晶成長面13a上に窒化アルミニウム単結晶を成長させている間、成長容器を開放せず、成長容器を密閉状態とし続けたこと以外は実施例1と同様にして窒化アルミニウム結晶を成長させた。
【0053】
(比較例2)
種結晶の結晶成長面13a上に窒化アルミニウム単結晶を成長させている間、成長容器を開放し続け、成長容器を密閉状態としなかったこと以外は実施例1と同様にして窒化アルミニウム結晶を成長させた。
【0054】
実施例1〜3及び比較例1〜2で得られた窒化アルミニウムの単結晶について、結晶性、及び収率を以下のようにして調べた。
【0055】
(結晶性)
窒化アルミニウム単結晶について、X線回折装置を用いて窒化アルミニウム(0002)反射のロッキングカーブを得た。そして、このロッキングカーブの半値幅(FWHM:Full Width at Half Maximum)を測定した。結果を表1に示す。
【0056】
(収率)
窒化アルミニウム単結晶の重量、および、窒化アルミニウム原料の昇華量を測定し、下記式:
収率(%)=(窒化アルミニム単結晶の重量/窒化アルミニウム原料の昇華量)×100
に基づいて収率を算出した。結果を表1に示す。
【表1】

【0057】
表1に示す結果より、実施例1〜3の窒化アルミニウム単結晶はいずれも、小さいFWHMを示しており、高い結晶性を有することが分かった。これに対し、比較例1〜2の窒化アルミニウム単結晶は、FWHMが広く、結晶性が低いものであった。
【0058】
また実施例1〜3及び比較例1の窒化アルミニウム単結晶はいずれも、収率が高かった。これに対し、比較例2の窒化アルミニウム単結晶は、収率が低いものであった。
【0059】
以上より、本発明の窒化アルミニウム単結晶の製造方法によれば、結晶性の高い窒化アルミニウム単結晶を高収率で製造することができることが確認された。
【符号の説明】
【0060】
6…窒化アルミニウム原料
7…成長容器
13…種結晶
13a…結晶成長面
19…窒化アルミニウム単結晶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成長容器内に収容した窒化アルミニウム原料を加熱して昇華させ、前記成長容器の内壁面に固定した種結晶の表面上に窒化アルミニウムの単結晶を成長させて窒化アルミニウム単結晶を製造する単結晶成長工程を含む窒化アルミニウム単結晶の製造方法であって、
前記単結晶成長工程が、
前記種結晶の表面のうち結晶成長面が前記窒化アルミニウム単結晶で全面的に覆われるまでは前記成長容器を開放し、前記成長容器内に窒素ガスを導入する開放工程と、
前記種結晶の表面の前記結晶成長面が前記窒化アルミニウム単結晶で全面的に覆われた後は前記成長容器を密閉する密閉工程とを含む、窒化アルミニウム単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記種結晶が炭化ケイ素を含む、請求項1に記載の窒化アルミニウム単結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−43801(P2013−43801A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182300(P2011−182300)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】