説明

窒化シリコン膜のエッチング方法、エッチング装置及び記憶媒体

【課題】窒化シリコン膜及び酸化シリコン膜が表面に形成された被処理体について、窒化シリコン膜を選択的にエッチングすると共に速やかに窒化シリコン膜をエッチングすることができる技術を提供する。
【解決手段】フッ化アンモニウム水溶液と酸性薬液とを含みpHが制御された処理液を処理容器に供給する工程と、窒化シリコン膜及び酸化シリコン膜がその表面に形成された被処理体を前記処理容器内の前記処理液に浸漬する工程と、前記処理容器内の前記処理液を100℃よりも高い温度に加熱すると共に該処理容器内を加圧し、前記窒化シリコン膜を選択的にエッチングする工程と、からなるエッチング処理とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理容器内の被処理体に処理液を供給して、窒化シリコン膜をエッチングするエッチング方法、エッチング装置及び記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程において、SiN(窒化シリコン)膜とSiO2(酸化シリコン)膜とが表面に露出した基板について、前記SiN膜を選択的にエッチングして除去する工程が行われる。従来、特許文献1に記載されるようなこの工程は加熱したリン酸を用いたウエットエッチングにより行われていた。リン酸はSiO2膜に対してSiN膜を選択的にエッチングする。しかし、エッチングレートが遅いため、処理時間が長くなってしまうという問題がある。また、このように処理時間が長いことやリン酸のコストが高く、使用量を抑える必要があるため、枚葉処理には適さないことに加え、SiO2膜に対するSiN膜の選択比も比較的大きい為、用途が限定されてしまうという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−45660
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこのような事情の下になされたものであり、その目的は、窒化シリコン膜及び酸化シリコン膜が表面に形成された被処理体について、窒化シリコン膜を選択的にエッチングすると共に速やかに窒化シリコン膜をエッチングすることができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の窒化シリコン膜のエッチング方法は、フッ化アンモニウム水溶液と酸性薬液とを含む処理液を処理容器に供給する工程と、
窒化シリコン膜及び酸化シリコン膜がその表面に形成された被処理体を処理容器内の前記処理液に浸漬する工程と、
処理容器内の処理液を100℃よりも高い温度に加熱すると共に処理容器内を加圧し、
前記窒化シリコン膜を選択的にエッチングする工程と、
を備えたことを特徴とする。
【0006】
本発明の具体的な態様は以下の通りである。
(1)前記処理液は例えば150℃〜190℃に加熱される。
(2)前記酸性薬液は塩酸である。
(3)前記処理液において塩酸に対する水の体積比が1000:1〜3000:1である。
(4)前記処理液においてフッ化アンモニウム水溶液に対する水の体積比が3000:1〜10000:1である。
【0007】
本発明のエッチング装置は、表面に窒化シリコン膜及び酸化シリコン膜が形成された基板を収納するための処理容器と、
前記窒化シリコン膜を選択的にエッチングするためにフッ化アンモニウム水溶液と酸性溶液とを含む処理液を前記処理容器に供給するための供給機構と、
処理容器内を加圧する加圧機構と、
処理容器内の処理液を100℃よりも高い温度に加熱する加熱機構と、
基板をエッチング後に処理容器内の処理液を除去する排液路と、
を備えたことを特徴とし、前記加熱機構による処理液の加熱温度は例えば150℃〜190℃に設定されている。
【0008】
本発明の記憶媒体は、表面に窒化シリコン膜及び酸化シリコン膜が形成された基板をエッチングするエッチング装置に用いられるコンピュータプログラムが格納された記憶媒体であって、
前記コンピュータプログラムは、上述のエッチング方法を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、窒化シリコン膜及び酸化シリコン膜が表面に形成された被処理体について、窒化シリコン膜を選択的にエッチングすることができ、且つ当該窒化シリコン膜を速やかにエッチングすることができる。また、処理液としてリン酸を用いる必要が無いのでコストの削減を図ることができ、枚葉処理を行ってもコストの増加を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態に係るエッチング装置の縦断正面図である。
【図2】前記エッチング装置の縦断側面図である。
【図3】エッチング前のウエハの表面の断面図である。
【図4】エッチング後のウエハの表面の断面図である。
【図5】実験結果を示すグラフである。
【図6】実験結果を示すグラフである。
【図7】実験結果を示すグラフである。
【図8】実験結果を示すグラフである。
【図9】実験結果を示すグラフである。
【図10】実験結果を示すグラフである。
【図11】実験結果を示すグラフである。
【図12】実験結果を示すグラフである。
【図13】実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1の実施形態)
本発明の実施の形態に係るエッチング装置1について説明する。図1、図2は夫々エッチング装置1の縦断正面図、縦断側面図を示している。エッチング装置1は例えば角型の処理容器10を備え、処理容器10の内部は後述の処理液及び洗浄液が貯留される処理空間Sとして構成されている。処理容器10は、容器本体11と上蓋21とを備え、上蓋21は昇降機構12により容器本体11に対して昇降自在に構成されている。上蓋21が閉じられると、処理空間Sは密閉空間として構成される。
【0012】
容器本体11について説明すると、容器本体11は前記処理空間Sを構成する扁平な空間13を備え、空間13は上下に伸びるように形成されている。空間13の上部は容器本体11の上側に開口しており、半導体ウエハ(以下、ウエハと記載する)Wの当該空間13への搬入を容易にするために、上方に向かうに従ってその厚さが大きくなるように形成されている。空間13の下側には、容器本体11の厚さ方向に伸びる3本の支持ピン14が、当該空間13の周方向に3つ設けられている。各支持ピン14の側面には、ウエハWの周に対応するように切り欠き15が形成されており、各切り欠き15に当該ウエハWの側端部が進入して、ウエハWが垂直に支持される。また、容器本体11の前後には加熱機構及び加圧機構を構成するヒータ16、16が夫々設けられており、処理空間Sに貯留された処理液を加熱すると共に処理液を膨張させ、処理空間Sを加圧雰囲気にする。
【0013】
前記空間13の下端から容器本体の外側へ向かって伸びるように、下方側へ傾斜した通流路17が設けられている。この通流路17の上流側には処理液供給管31の一端が接続されており、処理液供給管31にはバルブV1、逆止弁V2が上流側に向かってこの順に介設されている。バルブV1は例えばミキシングバルブとして構成され、上流側から供給されたフッ酸及び純水を混合して下流側に供給する。バルブV1の上流側にて処理液供給管31は分岐し、第1の分岐管32A及び第2の分岐管32Bを形成している。第1の分岐管32Aの上流端、第2の分岐管32Bの上流端は、フッ酸供給源33A、純水供給源33Bに夫々接続されている。第1の分岐管32Aには上流側に向かって流量調整部34A、バルブVAがこの順に介設されている。第2の分岐管32Bには上流側に向かって流量調整部34B、バルブVBがこの順に介設されている。
【0014】
フッ酸供給源33Aには、例えば体積比で49%フッ化水素水溶液:純水=1:100に調整されたフッ酸が貯留されている。純水供給源33Bには純水が貯留されている。これらフッ酸供給源33A、純水供給源33Bは、図示しないポンプを備えており、貯留されているフッ酸、純水を夫々下流側へ圧送する。流量調整部34A、34Bは、後述のユーザの設定に応じて下流側へ供給されるフッ酸、純水の量を夫々制御する。
【0015】
また、容器本体11には配管35の一端が接続されており、この一端は前記通流路17に開口している。配管35にはリリーフバルブであるバルブV3が介設されており、処理空間Sが過度に加圧されると、閉じられていたバルブV3が自動で開き、配管35を介して処理空間Sの処理液が排出される。また、処理液供給管31において、その下流端とバルブV1との間には、排液管36の上流端が接続されている。排液管36にはバルブV4が介設されている。
【0016】
続いて、上蓋21について説明すると、上蓋21は扁平な空間22を備え、当該空間22は容器本体11の空間13と共にウエハWの処理空間Sを形成する。空間22には整流板23が、当該空間22を上下に仕切るように設けられており、整流板23の面内には、厚さ方向に穿孔された多数の孔24が設けられている。空間22の上方には排液管37が接続されており、排液管37にはバルブV5が介設されている。後述のように処理液及び洗浄液を処理空間Sに供給する際に、余剰の液はこの排液管37を介して排液される。
【0017】
ウエハWは、保持具30により処理空間Sに搬送される。この保持具30は垂直な板状に形成され、昇降自在且つ処理空間Sの厚さ方向に移動自在に構成されている。保持具30の表面には4つの支持ピン38が設けられており、各支持ピン38はウエハWの周に沿って配置され、その側面にウエハWの周に対応するように切り欠き39が形成されている。各切り欠き39にウエハWの側端部が進入して、当該ウエハWが保持具30に垂直に保持される。ウエハWを保持した状態で、保持具30が容器本体11の空間13に向けて下降すると、ウエハWが空間13内の支持ピン14に垂直に支持されると共に、当該ウエハWが前記切り欠き39から外れ、保持具30から処理容器10に受け渡される。
【0018】
エッチング装置1には、例えばコンピュータからなる制御部100が設けられている。制御部100はプログラム、メモリ、CPUからなるデータ処理部などを備えており、前記プログラムには制御部100からエッチング装置1の各部に制御信号を送り、各バルブの開閉、ウエハWの搬送、処理液及び洗浄液の供給や排出などを制御し、後述の処理工程を進行させるように命令(各ステップ)が組み込まれている。
【0019】
制御部100は、処理空間Sに供給する49%フッ化水素水溶液と水との体積比を設定するための入力部101を備えている。この体積比は、49%フッ化水素水溶液が1に対して純水が3000〜10000の範囲で、例えば所定の刻みごとに設定することができる。また、前記メモリにはこのように設定可能な体積比と、当該体積比を得るために流量制御部24A、24Bにより処理空間Sに供給されるフッ酸及び純水の流量とが対応付けられて記憶されており、ユーザが前記体積比を設定すると、それに対応するフッ酸及び純水の流量が読み出され、その読み出された流量で当該フッ酸及び純水が処理空間Sに供給される。
【0020】
例えばユーザが、処理空間Sに供給される処理液として、49%フッ化水素水溶液:純水が体積比で1:3000であるように設定すると、既述の流量調整部24A、24Bにより、フッ酸101に対して純水が2900の流量比で当該フッ酸及び純水が処理空間Sに供給される。また、処理液としてフッ化水素:純水が体積比で1:10000であるように設定すると、流量調整部24A、24Bによりフッ酸101に対して純水が9900の流量比でフッ酸及び純水が処理空間Sに供給される。また、ユーザは、入力部101から処理液の温度も設定することができ、設定可能な温度範囲としては100℃を越える温度である。
【0021】
前記プログラム(処理パラメータの入力操作や表示に関するプログラムも含む)は、コンピュータ記憶媒体例えばフレキシブルディスク、コンパクトディスク、ハードディスク、MO(光磁気ディスク)メモリーカードなどの記憶媒体に格納されて制御部100にインストールされる。
【0022】
エッチング装置1により処理されるウエハWの表面構造について、図3を参照しながら説明する。ウエハWは凹部42を備えたシリコン膜41を備え、シリコン膜41上にはSiO2膜43が積層されている。SiO2膜43上において、凹部42内にはSiO2膜44が埋め込まれ、SiO2膜44の上端は凹部42よりも高く位置している。また、凹部42の外側には、SiO2膜44に埋め込まれるようにSiN膜45が設けられており、SiO2膜44及びSiN膜45はウエハWの表面に露出している。
【0023】
このエッチング装置1の作用について説明する。各バルブが閉じられた状態で、ユーザが49%フッ化水素水溶液と水との体積比及び処理液の温度を設定する。続いて上蓋21が開かれ、ウエハWを保持した保持具30が、エッチング装置1の外側から容器本体11上に移動した後、下降して支持ピン14にウエハWが保持される。保持具30は容器本体11内で空間13の厚さ方向に移動した後、上昇して空間13から退避する。然る後、上蓋21が閉じられ、処理空間Sが密閉される。
【0024】
続いて、バルブV1、VA、VB、V5が開かれ、流量調整部24A、24Bにより、設定された体積比に対応した流量でフッ酸及び純水が処理液供給管31に夫々供給される。これらフッ酸及び純水はバルブV1で混合され、設定された体積比のフッ酸(処理液)になって処理空間Sに供給される。処理空間S全体に処理液が満たされると、バルブV1、VA、VB、V5が閉じられ、処理空間Sへのフッ酸及び純水の供給が停止する。
【0025】
続いて、ヒータ16の出力が上昇し、処理空間Sの処理液が加熱される。処理空間Sは密閉空間であるため、処理液の昇温により圧力が高くなり、加圧雰囲気となる。このため、フッ酸は大気圧の沸点よりも高くなり、100℃よりも高い設定した温度に加熱される。
【0026】
このようにフッ酸に含まれるフッ化水素の濃度が低く、100℃よりも高温の雰囲気では下記の式1の反応が促進され、式2の反応は抑制される。
(式1)H2O+HF→H3++F-
(式2)HF+F-→HF2-
-はSiN膜45のエッチング作用を有し、HF2-はSiO2膜44のエッチング作用を有する。従って、処理空間S中でSiN膜45が選択的にエッチングされる。
【0027】
図4に示すようにSiN膜45が除去され、SiO2膜43が露出すると、ヒータ16の出力が低下すると共にバルブV5が開かれ、処理空間Sの圧力が低下する。続いて、バルブV1、VBが開かれ、純水供給源33から所定の流量で純水が処理空間Sに供給される。そして、処理空間Sの処理液が洗浄液である純水に置換され、処理空間Sから処理液が除去されて、ウエハWが洗浄される。然る後、バルブV1及びVBが閉じて処理空間Sへの純水の供給が停止すると共にバルブV4が開き、処理空間Sから純水が排出される。処理空間Sから純水が除去されると、バルブV4が閉じられると共に上蓋21が開かれ、保持具30がウエハWの搬入時とは逆の動作でウエハWを受け取り、当該ウエハWを処理容器10から搬出する。
【0028】
上記のエッチング装置1によれば、SiN膜45及びSiO2膜44が表面に形成されたウエハWについて、SiN膜45を選択的に且つ当該SiN膜45を高いエッチングレートでエッチングすることができる。
【0029】
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、上記のエッチング装置1とは異なる処理液が用いられる。この処理液はフッ化アンモニウム(NH4F)と塩酸(HCl)とを含む水溶液である。そして、塩酸に対する水の体積比が3000:1〜1000:1であり、またフッ化アンモニウムに対する水の体積比が3000:1〜10000:1である。
【0030】
第2の実施形態では、第1の実施形態と同様のエッチング装置1が用いられるが、例えば前記供給源33Aには49%フッ化水素水溶液を純水で希釈したフッ酸の代わりに、塩酸を含んだフッ化アンモニウム水溶液が貯留される。そして、前記フッ化アンモニウム水溶液は、供給源33Aから処理空間Sへ供給される途中で供給源33Bから供給された純水と混合され、フッ化アンモニウム及び塩酸の水に対する体積比が上記の範囲に収まった処理液となり、処理空間Sに供給される。この処理液も処理空間Sで100℃よりも高い温度に加熱され、当該処理液により加圧雰囲気でウエハWがエッチングされる。この第2の実施形態では、第1の実施形態と同様の効果が得られるが、第1の実施形態よりも高い選択性を持ってSiN膜45をエッチングすることができる。
【0031】
後述の実験で示すように、フッ化アンモニウム水溶液のpHを下げることでSiN膜45のエッチングの選択性を上昇させることができる。従って、フッ化アンモニウム(NH4F)水溶液に塩酸を加えて処理液とすることに限られず、塩酸の代わりに硫酸、フッ酸などの酸性薬液を加えて処理液を調製してもよい。
【0032】
続いて、本発明の知見を得るに至った実験について説明する。
(実験1)
上記の実施形態と同様のエッチング装置1を用い、上記の実施形態の手順でウエハWにエッチング処理を行い、SiN膜45のエッチング量(Å/分)とSiO2膜44のエッチング量(Å/分)を測定し、選択比であるSiN膜45のエッチング量/SiO2膜44のエッチング量を算出した。また、この実験1では、ウエハW毎に49%フッ化水素水溶液:水の体積比が異なる処理液を用いてエッチング処理を行った。説明の便宜上、実験で用いたウエハに番号を付けてA1〜A5とする。ウエハA1は水:49%フッ化水素水溶液の体積比が100:1の処理液で、ウエハA2は500:1の処理液で、ウエハA3では1000:1の処理液で、ウエハA4では3000:1の処理液で、ウエハA5では10000:1の処理液で夫々処理を行った。なお、各%の記載は質量%である。また、この実験1では、処理液の温度は室温(23℃)に設定した。
【0033】
図5では、前記体積比ごとに無地の棒グラフ、斜線を付した棒グラフでSiO2膜44のエッチング量、SiN膜45のエッチング量を夫々示している。各棒グラフは、グラフ中左側の縦軸のスケールに対応して示されている。また各棒グラフ上に、数値でも各ウエハのエッチング量を示している。図中の各点は、前記選択比であり、グラフ中右側の縦軸の目盛りに対応してプロットされている。
【0034】
この実験1からは、フッ酸の濃度が低いほど、SiN膜45のエッチング量及びSiO2膜44のエッチング量は小さくなるが、選択比が大きくなることが分かる。グラフに示されるようにウエハA1〜A3では、SiN膜45のエッチング量よりもSiO2膜44のエッチング量が大きくなってしまっているが、ウエハA4、A5では、SiO2膜44のエッチング量よりもSiN膜45のエッチング量の方が大きくなっている。ただし、ウエハA4、A5では選択比が小さいため、これらウエハA4、A5への処理は実用的ではない。
【0035】
(実験2)
実験1と同様の実験を行った。ただし処理液の温度及び前記体積比をウエハWごとに変更した。説明の便宜上、実験で用いたウエハWに番号を付けてB1〜B3とすると、ウエハB1のエッチング処理では、処理液の温度が140℃に設定され、体積比が水:49%フッ化水素水溶液=1000:1に設定されている。ウエハB2のエッチング処理では、処理液の温度が170℃に設定され、体積比が水:49%フッ化水素水溶液=3000:1に設定されている。ウエハB3では処理液の温度が170℃に設定され、体積比が水:49%フッ化水素水溶液=10000:1に設定されている。なお、上記のように処理液の温度が100℃よりも高く設定されることで、エッチング処理において処理空間Sは加圧雰囲気となっている。
【0036】
図6において、実験1と同様にウエハの番号ごとに棒グラフでSiN膜45のエッチング量及びSiO2膜44のエッチング量を夫々示し、選択比をプロットしている。ウエハB1〜B3のSiN膜45のエッチング量は80Å/分以上と、実験1におけるウエハA1〜A5のSiN膜45のエッチング量と比較して大きいことが分かる。また、選択比について処理液の体積比が同じである実験2のウエハB1と実験1のウエハA3とを比較すると、ウエハB1の選択比の方が大きい。同様に、実験2のウエハB2と実験1のウエハA4とを比較すると、ウエハB2の選択比の方が大きく、実験2のウエハB3と実験1のウエハA5とを比較すると、ウエハB3の選択比の方が大きい。このような実験1、2の結果は、処理液を高温にすること、処理空間Sを加圧雰囲気にすることが、高い選択比及び高いSiN膜45のエッチング量を得るために重要であることを示しており、従って、処理空間Sに加圧雰囲気が発生する100℃よりも高い温度に処理液を加熱することが有効であると考えられる。
【0037】
ただし、ウエハB1で得られた選択比は実用的に十分な値とは言えず、ウエハB1に行った処理は好ましくない。それに対して、ウエハB2及びB3では比較的高い選択比が得られており、これらウエハに行った処理が有効であることが示された。特にウエハB2では高い選択比且つ大きなエッチング量が得られ、好ましい結果となっている。
【0038】
(実験3)
実験3では、ウエハW毎に処理液の温度を変えて、実験1と同様の処理を行った。この実験3で用いたウエハWに番号を付してC1〜C5とすると、ウエハC1、C2、C3、C4、C5は、夫々150℃、160℃、170℃、180℃、190℃に設定された処理液でエッチングされている。そして、ウエハC3、C4、C5については、エッチング後にSiN膜45の膜質を示す指標であるGOFについて測定した。このGOFとは、良好な膜質を有する試料SiN膜の散乱光スペクトルと、前記エッチング処理を行った後に残留したSiN膜45の散乱光スペクトルとを測定し、前記試料SiNの散乱光スペクトルに対するエッチング後のSiN膜45の散乱光スペクトルの同一性の程度を算出した結果である。従って、その値が1.0から低くなるほど膜質が劣化したと言える。この実験3では、処理液の体積比は水:49%フッ化水素水溶液=10000:1に設定し、エッチング時間は10分に設定した。
【0039】
図7において、実験1と同様に実験ごとに棒グラフでSiN膜45のエッチング量及びSiO2膜44のエッチング量を夫々示している。ただし、この実験3でのエッチング量の単位は実験1と異なりÅであり、グラフの縦軸のスケールもÅである。また、SiO2膜44のエッチング量については、ウエハC1、C4では測定を行っておらず、測定を行ったウエハC2、C3、C5については棒グラフの上にその数値(単位:Å)を示している。
【0040】
図7に示したように、ウエハC1〜C5のSiN膜45のエッチング量は500Å以上であり、実用できる量であった。また、SiO2膜44のエッチング量を測定したウエハC2、C3、C5では、当該SiO2膜44のエッチング量は5.0Å以下に抑えられ、各ウエハの選択比は100以上と十分に大きく、実用的な値となった。
【0041】
実験1、2で述べたように処理温度によって選択比は変化するが、この実験3のウエハC1、C4の各処理温度は、ウエハC2、C3、C5の各処理温度と大きく差が無い。従って、ウエハC1、C4でもSiO2膜44のエッチング量は低く抑えられ、前記選択比は十分大きいと推測される。即ち、この実験3の処理条件である体積比が水:49%フッ化水素水溶液=10000:1、処理温度が150℃〜190℃であり、且つ加圧雰囲気で処理する場合には、SiN膜45が高い選択性を持ってエッチングされると共にSiN膜45のエッチング量が大きいと言える。
【0042】
ところで、ウエハC2、C3の結果を比較すると、選択比についてはウエハC3の方が大きい。従って、温度を高くすることで選択比が上がることが分かる。しかし、ウエハC3、C5の結果を比較すると、選択比についてはウエハC3の方が大きい。即ち、温度を上げたことにより選択比が低くなっている。従って、温度を上げ過ぎた場合には、選択比は低くなると考えられる。また、ウエハC3ではGOFが0.97であり、膜質が良好であった。それに対して、ウエハC4、C5のGOFは夫々0.84、0.86であり、ウエハC3に対して若干低下している。このことは温度が高くなると、膜質の劣化が進むことを示している。このように膜質の観点からも、温度を上げ過ぎることは好ましくないと言える。
【0043】
(実験4)
実験4では、実験3と同様にウエハW毎に処理液の温度を変えて処理を行った。実験で用いたウエハWに番号を付してD1〜D3とすると、ウエハD1、D2、D3に対して、夫々処理液の温度を夫々150℃、160℃、170℃に設定して処理を行っている。この実験4では、処理液の体積比は水:49%フッ化水素水溶液=3000:1に設定し、エッチング時間は1分に設定した。
【0044】
図8において、実験3と同様にウエハの番号ごとに棒グラフでSiN膜45のエッチング量及びSiO2膜44のエッチング量を夫々示している。各ウエハD1〜D3のSiN膜45のエッチング量については700Å以上であり、実験3の対応するウエハのエッチング量よりも大きく、十分に高い値となっており、ウエハD3についてはSiN膜45が完全に除去されていた。エッチング量から各ウエハの選択比を算出すると、ウエハD1では68、ウエハD2では72、ウエハD3では87であり、実用可能な値であった。即ち、この実験4の処理条件である体積比が水:49%フッ化水素水溶液=3000:1、処理温度150℃〜170℃及び加圧雰囲気である場合には、SiN膜45が高い選択性を持ってエッチングされると共にSiN膜45のエッチング量が大きいことが示された。
【0045】
実験3、4では測定を行った全てのウエハについて、既述のように高い選択比と高いSiN膜のエッチング量が得られている。そして、実験4では150℃〜170℃の範囲で温度が高くなるほどSiN膜45のエッチング量が大きく増加することに対して、SiO2膜44のエッチング量はほとんど変化しないという実験3と同様の傾向が示されている。この傾向から、実験4で170℃よりも高い処理温度で処理を行った場合も実験3と同様の傾向、つまり比較的高い選択比と比較的高いSiN膜のエッチング量が得られると考えられ、従って150℃〜190℃の範囲では高い選択比と高いSiN膜のエッチング量とが得られると考えられる。このように実験3、4の結果から、処理液の体積比が水:49%フッ化水素水溶液=3000〜10000:1である範囲において、処理液の温度を150℃〜190℃の範囲にすることが好ましいと言える。
【0046】
(実験5)
実験5では、実験3と同様にウエハW毎に処理液の温度を変えて処理を行った。実験で用いたウエハWに番号を付してE1〜E3とすると、ウエハE1、E2、E3は、夫々110℃、130℃、140℃に設定して処理液で処理を行っている。この実験5では、処理液の体積比は水:49%フッ化水素水溶液=1000:1に設定し、エッチング時間は1分に設定した。
【0047】
図9において、実験3と同様にウエハの番号ごとに棒グラフでSiN膜45のエッチング量及びSiO2膜44のエッチング量を夫々示している。ウエハE3についてはSiN膜45が完全に除去されていた。エッチング量から各ウエハの選択比を算出すると、ウエハE1では12、ウエハE2では18、ウエハE3では26であり、いずれも実用性が低い値であった。この実験5から処理液の体積比が水:49%フッ化水素水溶液=1000:1であり、且つ110℃〜140℃の温度範囲では適切な選択性が得られないことが示された。
【0048】
(実験6)
実験6では40%NH4F水溶液と純水とを夫々所定の量混合した水溶液に、異なる量の37%HCl水溶液を添加して複数の処理液とし、各処理液をエッチング装置1の処理空間Sに供給してウエハWにエッチングを行った。前記各処理液における水と37%HCl水溶液との体積比は、10000:1、5000:1、3000:1、1500:1300:1、1000:1であり、これらの処理液を用いて行った処理に夫々番号を付して処理F1、処理F2、処理F3、処理F4、処理F5、処理F6とする。また、37%HCl水溶液HCl水溶液を加えず、NH4F水溶液と純水とからなる処理液を用いて、処理F1〜F6と同様にウエハWにエッチングを行った。この処理をF0とする。各処理液で処理した後、上記の各実験と同様にSiN膜45のエッチング量(Å)及びSiO2膜44のエッチング量(Å)を測定し、選択比を算出した。
【0049】
図10では各処理ごとに棒グラフでSiN膜45のエッチング量及びSiO2膜44のエッチング量を夫々示すと共に、選択比をグラフ中にプロットしている。HClを含まない処理液を用いた処理F0に比べて、HClを含む処理液を用いたF1〜F6は選択比が向上している。また、グラフからpHを下げすぎると、SiN膜45のエッチング量が小さくなってしまうことが分かる。十分な選択比及びSiN膜45のエッチング量が得られたのは処理F3、F4、F5であり、この中では、条件F3が最も選択比及びSiNのエッチング量が大きかった。この実験結果から処理液中の塩酸に対する水の体積比が1000:1〜3000:1にすることが好ましいとことが分かる。
【0050】
(実験7)
実験7では40%NH4F水溶液と37%HCl水溶液と純水との比率を夫々変えて処理液を調製し、エッチング装置1に供給した。そして、各処理液についてエッチング時間を変化させて複数のウエハWを各々エッチングした。このエッチング処理は室温で行った。エッチング後に各ウエハWのSiN膜45、SiO2膜44のエッチング量を測定し、使用した処理液ごとにSiN膜45のエッチングレート(Å/分)、SiO2膜44のエッチングレート(Å/分)及び選択比を算出した。上記の各処理液は、体積比で40%NH4F水溶液:37%HCl水溶液:純水=1:0:25、1:0:1、1:0.1:25、1:0.5:25、1:1:25、1:2:25に夫々調製され、これらの処理液を用いて行った処理を夫々処理G1、G2、G3、G4、G5、G6とする。
【0051】
下記の表1は、処理G1〜G6において処理液を構成する40%NH4F水溶液、37%HCl水溶液及び純水の各体積比と、算出されたSiN膜45及びSiO2膜44のエッチングレート(Å/分)と、選択比とを示している。また、図11に、他の実験と同様に算出された結果をグラフで示している。
【0052】
【表1】

【0053】
処理液にHClを含まない処理G1、G2では、SiN膜45のエッチングレート及びSiO2膜44のエッチングレートが極めて低いが、HClを含む処理G3〜G6では処理G1、G2に比べてSiN膜45及びSiO2膜44のエッチングレートが上昇している。そして、処理G3〜G6の結果からHClの混合比が大きいほど、SiN膜45のエッチングレート及びSiO2膜44のエッチングレートが高くなっていることが分かる。この実験から、SiN膜45及びSiO2膜44のエッチングレートを上げるためには、フッ化アンモニウム水溶液を単独で用いるよりも、フッ化アンモニウム水溶液に適切な量のHClを添加することが有効であることが分かる。
【0054】
(実験8)
実験8では実験7と同様に40%NH4F水溶液と37%HCl水溶液と純水との比率を夫々変えて処理液を調製し、処理液ごとにウエハWをエッチングした。実験7と異なり処理液の温度は150℃に設定しており、またエッチング時間は10分に設定した。エッチング後はSiN膜45及びSiO2膜44のエッチング量及び選択比を算出した。前記処理液は、純水:40%NH4F水溶液:37%HCl水溶液=300mL:0.3mL:0mL、300mL:0.1mL:0mL、300mL:0.1mL:0mL、300mL:0.1mL:0.1mL、300mL:0.1mL:0.15mL、300mL:0.1mL:0.3mLの容量で夫々混合して調製され、これらの処理液を用いて行った処理を夫々処理H1、H2、H3、H4、H5とする。下記の表2には、前記条件毎に処理液を構成する40%NH4F水溶液、37%HCl水溶液及び純水の各量と、純水と40%NH4F水溶液との体積比と、純水と37%HCl水溶液との体積比とをまとめて示している。
【0055】
【表2】

【0056】
下記の表3は、処理H1〜H5において、SiN膜45及びSiO2膜44のエッチング量(Å)と選択比とを示している。また、図12に、他の実験と同様に算出された結果をグラフで示している。
【0057】
【表3】

【0058】
図12のグラフ及び表3より、処理液にHClが含まれない処理H1、H2は、SiN膜45のエッチング量及び選択比が小さいが、HClを含む処理H3〜H5は、選択比及びSiN膜45のエッチング量ともに大きいことが分かる。この実験結果からフッ化アンモニウム水溶液において、塩酸に対する水の体積比が1000:1〜3000:1の範囲においては、選択比及びSiN膜45のエッチング量を大きくとれることが示された。
【0059】
(実験9)
実験8の処理H4と同様にウエハWをエッチングした。エッチング時間は1分に設定した。処理液の温度は実験8と同様に150℃に設定した。この処理をH4’とする。また、HClを加えたフッ酸からなる処理液を用いて複数枚のウエハWをエッチングした。エッチング時間、処理液の温度は、夫々処理H4’と同じく1分、150℃である。この処理をIとする。処理H4’及び処理Iで処理したウエハWについて、SiN膜45及びSiO2膜44のエッチング量と選択比とを計測した。そして、処理Iで最も選択比及びSiN膜45のエッチング量が優れていた結果と、処理H4’の結果とを比較した。図13は、その比較結果を示すグラフである。SiN膜のエッチング量は、処理Iの方が大きかったが選択比は、処理H4’の方が大きいことが分かる。従って、本発明の処理液を用いることにより、フッ酸により構成される処理液を用いる場合に比べて、選択比を大きくすることができることが示された。
【符号の説明】
【0060】
W ウエハ
S 処理空間
1 エッチング装置
10 処理容器
11 容器本体
12 上蓋
31 処理液供給管
33A フッ酸供給源
33B 純水供給源
100 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化アンモニウム水溶液と酸性薬液とを含む処理液を処理容器に供給する工程と、
窒化シリコン膜及び酸化シリコン膜がその表面に形成された被処理体を処理容器内の前記処理液に浸漬する工程と、
処理容器内の処理液を100℃よりも高い温度に加熱すると共に処理容器内を加圧し、
前記窒化シリコン膜を選択的にエッチングする工程と、
を備えたことを特徴とする窒化シリコン膜のエッチング方法。
【請求項2】
処理液は150℃〜190℃に加熱されることを特徴とする請求項1記載の窒化シリコン膜のエッチング方法。
【請求項3】
前記酸性薬液は塩酸であることを特徴とする請求項1または2記載の窒化シリコン膜のエッチング方法。
【請求項4】
前記処理液において塩酸に対する水の体積比が1000:1〜3000:1であることを特徴とする請求項3記載の窒化シリコン膜のエッチング方法。
【請求項5】
前記処理液においてフッ化アンモニウム水溶液に対する水の体積比が3000:1〜10000:1であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一つに記載の窒化シリコン膜のエッチング方法。
【請求項6】
表面に窒化シリコン膜及び酸化シリコン膜が形成された基板を収納するための処理容器と、
前記窒化シリコン膜を選択的にエッチングするためにフッ化アンモニウム水溶液と酸性溶液とを含む処理液を前記処理容器に供給するための供給機構と、
処理容器内を加圧する加圧機構と、
処理容器内の処理液を100℃よりも高い温度に加熱する加熱機構と、
基板をエッチング後に処理容器内の処理液を除去する排液路と、
を備えたことを特徴とするエッチング装置。
【請求項7】
前記加熱機構による処理液の加熱温度は150℃〜190℃に設定されていることを特徴とする請求項6記載のエッチング装置。
【請求項8】
表面に窒化シリコン膜及び酸化シリコン膜が形成された基板をエッチングするエッチング装置に用いられるコンピュータプログラムが格納された記憶媒体であって、
前記コンピュータプログラムは、請求項1ないし5のいずれか一つに記載のエッチング方法を実行することを特徴とする記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−119528(P2012−119528A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268660(P2010−268660)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】