説明

窒素ガス溶解水の製造方法

【課題】半導体、液晶などの電子材料を扱う産業において行われるウェット洗浄工程に使用される窒素ガス溶解水を、窒素ガスの使用量を低減して、効率的かつ経済的に製造することができる窒素ガス溶解水の製造方法を提供する。
【解決手段】超純水に窒素ガスを溶解して窒素ガス溶解水を製造する方法において、超純水がパラジウム触媒による脱酸素処理を受けた超純水であることを特徴とする窒素ガス溶解水の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素ガス溶解水の製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、半導体、液晶などの電子材料を扱う産業において行われるウェット洗浄工程に使用される窒素ガス溶解水を、窒素ガスの使用量を低減して、効率的かつ経済的に製造することができる窒素ガス溶解水の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体用シリコン基板、液晶用ガラス基板、フォトマスク用石英基板などの電子材料のような、極めて清浄な表面が求められる被洗浄物の洗浄用水として、微粒子、コロイダル物質、有機物、金属、陰イオンなどが可能な限りに除去された超純水が用いられている。
【0003】
超純水は、一般的には、工業用水、井水、表層水、排水などの原水を、前処理装置、一次純水装置及び二次純水装置で構成される超純水製造装置で処理して生産される。図7は、超純水製造装置の工程系統図の一例である。前処理装置においては、凝集沈殿装置、加圧浮上装置、砂ろ過装置、膜ろ過装置などを用いて、原水の除濁が行われる。次いで、一次純水装置において、活性炭ろ過装置、逆浸透膜装置、イオン交換装置、電気脱塩装置、脱気装置、精密ろ過膜装置、酸化処理装置などを任意の順序で用いて、前処理水中のイオン、有機物、気体などの溶存不純物が除去される。さらに、二次純水装置(サブシステム)において、紫外線照射装置、混床式ポリッシャ、限外ろ過膜装置や逆浸透膜装置のような膜処理装置などを用いて、一次純水中に微量に残留する微粒子、コロイダル物質、有機物、金属、イオンなどの不純物が除去されて超純水が得られる。ユースポイントにおいて、未使用の純水、希薄排水、濃厚排水が分別回収され、純水と希薄排水は循環して再精製され、濃厚排水は排水処理される。
【0004】
超純水製造装置で用いられる脱気装置としては、真空脱気、膜脱気、窒素脱気、加熱脱気、触媒樹脂脱気、これらの組み合わせなどがある。脱気により、超純水又は超純水製造過程の水から主に溶存酸素(DO)を除去する。通常、脱気装置としてよく用いられる真空脱気、膜脱気においては、溶存酸素とともに溶解している種々の溶存気体も除去される。なお、脱気により水中の重炭酸イオン及び炭酸イオンを炭酸ガスとして除去することができるが、これらの脱気装置とは別に脱炭酸塔を設ける場合もある。このような超純水製造装置で生産された超純水は、そのままで、あるいは、オゾンガス、水素ガス、炭酸ガス、窒素ガスなどの種々のガスを溶解させて、半導体用シリコン基板、液晶用ガラス基板などの電子材料用の洗浄水、リンス水として用いられる。
【0005】
電子材料の表面から、微粒子などの異物を除去することは、製品の品質、歩留まりを確保する上で極めて重要である。電子材料などを超音波洗浄する場合、ガスを溶解した洗浄水を用いると、良好な洗浄効果が得られることが分かってきた。一般に、溶存ガス濃度が高いほど望ましいが、過飽和になると過剰な気泡が発生し、それが超音波伝播の妨げになったり、被洗浄物の表面に付着して、洗浄ムラの原因になったりする。微粒子の除去には、水素ガスを溶解した洗浄水を用いる超音波洗浄が最も効果的であるが、ガスの取り扱いの容易さから、窒素ガスを溶解した窒素ガス溶解水が使われることも多くなった。
【0006】
原水中の溶存ガスを脱気処理により完全に除去したのち、ガス透過膜モジュールを用い、特定のガスを必要量だけ供給して溶解させることにより、原水に所定濃度のガスを溶解した水を、気泡を発生させることなく製造することができる。図8は、従来の窒素ガス溶解水の製造装置の一例の工程系統図である。超純水タンク22からポンプ23により送り出された超純水が、膜脱気装置24において溶存ガスが完全に除去され、膜式ガス溶解装置25において所定量の窒素ガスが溶解され、所定濃度の窒素ガス溶解水が製造される。
【0007】
半導体用シリコン基板、液晶用ガラス基板などの電子材料の洗浄では、前段の超純水製造装置の脱酸素工程において真空脱気塔を用い、あるいは、脱気膜の気相側を真空ポンプなどにより減圧し、かつ窒素ガスで置換するなどの方法により脱酸素処理を行い、窒素ガス溶解水などの機能水の原水としていた。従来は、脱塩、脱酸素などの超純水製造工程と機能水製造工程は、それぞれ独立した工程として検討され、全体として経済性の観点から検討されることは少なかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、半導体、液晶などの電子材料を扱う産業において行われるウェット洗浄工程に使用される窒素ガス溶解水を、窒素ガスの使用量を低減して、効率的かつ経済的に製造することができる窒素ガス溶解水の製造方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、超純水に溶解している窒素ガスを窒素ガス溶解水の窒素ガス源として利用することにより、窒素ガス溶解水の製造に必要な窒素ガスの量を大幅に低減し、窒素ガス溶解装置を小型化することができ、さらに超純水中の酸素ガスをパラジウム触媒を用いて還元除去することにより、超純水中の窒素ガスを溶存させたまま酸素ガスのみを選択的に除去し得ることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)超純水に窒素ガスを溶解して窒素ガス溶解水を製造する方法において、超純水がパラジウム触媒による脱酸素処理を受けた超純水であることを特徴とする窒素ガス溶解水の製造方法、
(2)パラジウム触媒による脱酸素処理が、超純水製造装置で生産された超純水に対して行われる(1)記載の窒素ガス溶解水の製造方法、
(3)パラジウム触媒による脱酸素処理が、超純水製造装置の中の一工程として行われる(1)記載の窒素ガス溶解水の製造方法、
(4)パラジウム触媒による脱酸素処理の後段側において、さらに脱酸素処理が行われる(1)ないし(3)のいずれか1項に記載の窒素ガス溶解水の製造方法、及び、
(5)後段における脱酸素処理が、膜分離である(4)記載の窒素ガス溶解水の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の窒素ガス溶解水の製造方法によれば、半導体用シリコン基板、液晶用ガラス基板、フォトマスク用石英基板などの電子材料のウェット洗浄工程に使用される窒素ガス溶解水を、原水に溶解している窒素ガスを利用することにより、新たな窒素ガスの使用量を低減し、小型化した窒素ガス溶解装置を用いて、短時間で、効率的かつ経済的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の窒素ガス溶解水の製造方法においては、超純水に窒素ガスを溶解して窒素ガス溶解水を製造する方法において、超純水がパラジウム触媒による脱酸素処理を受けた超純水である。
【0013】
超純水製造装置の性能によって、得られる超純水の水質は比抵抗値で満足すべきとしても、溶存酸素ガスが多い超純水となるときがある。このような超純水に特定のガスを溶解させて洗浄水を調製する際には、所望の溶存ガス濃度を得るために、溶存酸素ガスをあらかじめ除去したのちに特定のガスを溶解させる必要がある。
【0014】
本発明の窒素ガス溶解水の製造方法においては、パラジウム触媒を用いた脱酸素処理を行うことにより、窒素ガス溶解水の原水中の溶存酸素ガスを除去する。パラジウム触媒を用いた脱酸素処理においては、原水に水素源を添加し、あるいは、原水に紫外線を照射して、パラジウム触媒と接触させることにより、O2+2H2→2H2O の還元反応により溶存酸素ガスが水となって除去される。原水に添加する水素源としては、例えば、水素ガス、水素ガス溶解水、ヒドラジンなどの水素を発生する化合物などを挙げることができる。真空脱気、膜脱気などの通常用いられる脱気手段によると、溶存酸素ガスのほかに、溶存窒素ガスも除去されてしまう。本発明方法によれば、溶存窒素ガスが除去されることなく溶存酸素ガスのみを選択的に除去し、原水中の溶存窒素ガスを窒素ガス溶解水製造の窒素ガス源として利用することができるので、使用する窒素ガスの量を減少し、窒素ガス溶解装置を小型化し、窒素ガス溶解時間を短縮することができる。特に、原水タンクが窒素シールされているときには、原水に窒素ガスが多量に溶け込んでいるので、その溶存窒素ガスをそのまま利用することができる。25℃で大気と平衡状態にある原水には、8mg/L程度の酸素ガスと14mg/L程度の窒素ガスが溶解している。真空脱気により脱酸素処理すると、得られる脱酸素水の溶存窒素ガス濃度は1mg/L程度ないしはそれ以下にまで低下する。そのために、真空脱気による脱酸素水を用いて窒素ガス溶解水を製造すると、必要な窒素ガスの量が多く、溶解装置も大きくなり不経済である。
【0015】
図1は、本発明の窒素ガス溶解水の製造方法の一態様の工程系統図である。原水に水素ガスが添加され、パラジウム触媒塔に導かれる。水素ガスは、パラジウム触媒塔に直接注入することもできる。パラジウム触媒塔において溶存酸素ガスの大部分が除去され、溶存酸素ガス濃度50〜100μg/L程度の脱酸素水が得られる。脱酸素水は、二次純水装置へ送られ、紫外線照射装置、混床式ポリッシャ、膜処理装置などで処理されて超純水となる。超純水は、そのままユースポイントに送られて使用されるほかに、窒素ガス溶解装置に送られて窒素ガスが溶解され、窒素ガス溶解水としてユースポイントに送られて使用される。
【0016】
本発明方法においては、パラジウム触媒による脱酸素処理を、超純水製造装置で生産された超純水に対して行うことができる。図2は、本発明方法の他の態様の工程系統図である。凝集沈殿、砂ろ過などの処理をされた前処理水が、一次純水装置と二次純水装置からなる超純水製造装置で処理され、超純水となって装置から流出する。本態様においては、一次純水装置と二次純水装置にはパラジウム触媒による脱酸素処理装置が設けられていないので、流出する超純水には大気と平衡状態にある酸素ガスと窒素ガスが溶解している。超純水は、パラジウム触媒塔へ送られ、水素ガスが注入され、溶存酸素ガスが還元されて水となって除去される。溶存酸素ガスが除去された脱酸素水は、イオン交換樹脂塔と膜ろ過装置に送られる。パラジウム触媒から極微量のパラジウムイオンが溶出するとしても、イオン交換樹脂で捕捉することができ、パラジウム触媒、イオン交換樹脂などに由来する微粒子を膜ろ過装置で除去することができる。精製された超純水は、窒素ガス溶解装置で窒素ガスを溶解し窒素ガス溶解水が得られる。
【0017】
本発明方法においては、パラジウム触媒による脱酸素処理を、超純水製造装置の中の一工程として行うことができる。図3及び図4は、本発明方法の他の態様の工程系統図である。図3に示す態様においては、一次純水装置内にパラジウム触媒装置が設けられ、図4に示す態様においては、二次純水装置内にパラジウム触媒装置が設けられている。いずれの提要においても、超純水製造装置の中の一工程としてパラジウム触媒による脱酸素処理が行われるので、超純水製造装置から流出する超純水は溶存酸素ガス濃度が低く、そのまま窒素ガス溶解装置へ送って窒素ガスを溶解し、窒素ガス溶解水とすることができる。
【0018】
本発明の窒素ガス溶解水の製造方法においては、パラジウム触媒による脱酸素処理の後段側において、さらに脱酸素処理を行うことができる。後段における脱酸素処理の方法に特に制限はなく、例えば、触媒などを用いる化学的脱酸素処理、真空脱気、膜分離などによる物理的脱酸素処理などを挙げることができる。これらの中で、膜分離は脱酸素水の汚染のおそれがなく、効率的に溶存酸素ガス濃度を低下させることができるので好適に用いることができる。膜分離による脱酸素処理に際して、水中の溶存窒素ガスの一部が失われるが、パラジウム触媒による脱酸素処理を行うことなく、膜分離のみによって脱酸素処理を行う場合に比べて、溶存窒素ガスの損失ははるかに少ない。パラジウム触媒による脱酸素処理で溶存酸素ガス濃度が50〜100μg/L程度になった脱酸素水を膜分離することにより、溶存酸素ガス濃度を10μg/L程度まで低下させることができる。このような低溶存酸素ガス濃度の脱酸素水から製造される窒素ガス溶解水は、溶存酸素ガス濃度が低い窒素ガス溶解水が要求されるユースポイントにおいて好適に用いることができる。
【0019】
本発明の窒素ガス溶解水の製造方法に使用するパラジウム触媒は、常温常圧でO2+2H2→2H2O の還元反応に対して触媒作用を示すものであれば特に制限はなく、例えば、金属パラジウム、酸化パラジウム、水酸化パラジウムなどのパラジウム化合物のほかに、イオン交換樹脂、アルミナ、活性炭、ゼオライト、ステンレススチールなどの担体にパラジウムを担持させた触媒などを挙げることができる。
【0020】
パラジウム担持触媒のパラジウムの担持量は、通常、担体に対して0.1〜10重量%であることが好ましい。担体としてアニオン交換樹脂を用いた場合には、少ないパラジウム担持量で優れた効果を発揮するので、特に好適に用いることができる。アニオン交換樹脂にパラジウムを担持させたパラジウム担持樹脂は、アニオン交換樹脂を反応塔に充填し、塩化パラジウムの酸性溶液を通水することにより調製することができる。さらに、この反応塔にヒドラジン、ホルマリンなどの還元剤を加えて還元することにより、金属パラジウムを担持した触媒とすることができる。
【0021】
パラジウム触媒の形状に特に制限はなく、例えば、粉末状、粒状、ペレット状、あみ状など、いずれの形状でも使用することができる。粉末状の触媒は、反応槽を設けて反応槽に適当量を添加することができ、あるいは、反応塔などに充填して流動床として通水処理することもできる。粒状又はペレット状の触媒は、反応塔などに充填して触媒充填塔とし、連続的に通水処理することができる。パラジウム触媒は、異なる種類のもの、異なる形状のものを2種以上混合して用いることもできる。粒径0.1〜3mm程度の球状又はペレット状のアニオン交換樹脂にパラジウムを担持してなる触媒樹脂は、ハンドリング性が良好であり、特に好適に用いることができる。
【0022】
本発明の窒素ガス溶解水の製造方法においては、パラジウム触媒による脱酸素処理を受けた超純水に窒素ガスを溶解する。窒素ガスの溶解方法に特に制限はなく、例えば、充填塔、濡れ壁塔、段塔、スプレー塔、スクラバー、気泡塔、気泡撹拌槽、膜式ガス溶解装置などを用いて溶解することができる。これらの中で、膜式ガス溶解装置を好適に用いることができる。膜式ガス溶解装置は、ガス透過膜によって区画された気室と水室を有するので、気室の圧力の測定値に基づいて気室への窒素ガスの供給量を調整し、気室の圧力を設定値に維持することにより、所定の濃度の窒素ガスを溶解した窒素ガス溶解水を安定して製造することができる。
【0023】
図5は、本発明方法に用いる窒素ガス溶解装置の一態様の工程系統図である。脱酸素処理を受けた超純水が、ガス透過性膜によって区画された気室と水室とを備えた膜式ガス溶解装置1に送られる。膜式ガス溶解装置には、気室に窒素ガスを供給する窒素ガス供給管2と、気室の圧力を測定する圧力計3が設けられている。膜式ガス溶解装置において、ガス透過性膜を透過して窒素ガスが脱酸素処理を受けた超純水に溶解し、窒素ガス溶解水が排出管4から排出される。圧力計の測定値は信号として制御器5に送られ、制御器において設定値との差が自動計算され、信号がバルブ6に送られてバルブの開度により窒素ガス供給量が調整され、気室内の圧力が設定値に維持される。
【0024】
膜式ガス溶解装置の気室が窒素ガスで満たされ、その圧力が標準大気圧である0kPa(ゲージ圧)であると、窒素ガス溶解水の溶存窒素ガス濃度は飽和濃度となる。例えば、温度25℃、大気圧101.3kPaのときは、窒素ガス17.6mg/Lを溶解した窒素ガス溶解水が得られる。気室を完全に真空にして、圧力−101.3kPa(ゲージ圧)とすると、水室から排出される水の溶存窒素ガス濃度は0mg/Lとなる。温度t℃における水に対する窒素ガスの飽和溶解度をαtmg/Lとすると、膜式ガス溶解装置の気室の圧力を−101.3kPa(ゲージ圧)のx倍(0≦x≦1)としたとき、窒素ガス溶解水排出管から排出される窒素ガス溶解水の溶存窒素ガス濃度は、αt(1−x)mg/Lとなる。この関係を利用して、気室の圧力が設定値になるように窒素ガスを供給することにより、所定の溶存窒素ガス濃度の窒素ガス溶解水を製造することができる。
【0025】
本態様の装置によれば、窒素ガスで満たされた膜式ガス溶解装置の気室の圧力を調整して設定値に維持することにより、供給される脱酸素処理を受けた超純水の溶存窒素ガス濃度が変動しても、常に所定の溶存窒素ガス濃度の窒素ガス溶解水を安定して製造することができる。従来技術である窒素ガス溶解工程の前に脱気処理を行う方法では、原水中に成りゆき任せで溶解している窒素ガスをいったん除去したのち、必要量の窒素ガスを溶解させていた。脱酸素処理を受けた超純水は、溶存ガスとして窒素ガスのみが成りゆき任せで溶解しているので、これを除去することなく活用することにより、窒素ガス溶解水の製造装置を簡略化し、窒素ガスを無駄なく利用することができる。
【0026】
図5に示す態様の装置においては、膜式ガス溶解装置の気室にガス排出管7が設けられ、ガス排出管には、バルブ8とポンプ9が設けられている。ガス排出管は、装置の運転を開始するに際し、気室に窒素を送り込んで内部の空気を窒素で置換するとき、空気が混合したガスの排出に使用することができる。また、供給される脱酸素処理を受けた超純水の溶存窒素ガス濃度よりも、製造する窒素ガス溶解水の溶存窒素ガス濃度が低い場合は、ガス透過性膜を経由して抜き取った窒素ガスの排出に使用することができる。
【0027】
供給される脱酸素処理を受けた超純水の溶存窒素ガス濃度よりも、製造する窒素ガス溶解水の溶存窒素ガス濃度が低い場合は、膜式ガス溶解装置の気室の圧力は、窒素ガス溶解水を製造すると上昇する。このとき、圧力計3の測定値が信号として制御器5に送られ、制御器において設定値との差が自動計算され、信号がバルブ8に送られてバルブを開くことより窒素ガス排出量が調整され、気室内の圧力が設定値に維持される。バルブ8より下流側は、ポンプ9により大気圧以下に保たれる。
【0028】
図5に示す態様の装置により溶存窒素ガス濃度が一定した窒素ガス溶解水を製造するためには、膜式ガス溶解装置の気室の圧力を測定する圧力計を設置するだけでよく、また、圧力計を気室に設置するので試料水を用いる溶存窒素ガス濃度の測定の必要がなく、試料水を採取するための分岐管が不要であり、窒素ガス溶解水の製造装置として簡略化することができる。さらに、圧力を測定するのみであるので、濃度計による窒素ガス濃度測定のような煩雑な操作を必要とせず、排水を発生することもない。
【0029】
図5に示す態様の装置において、脱酸素処理を受けた超純水を原水とすると、窒素ガス以外のガスは溶解しておらず、圧力計で測定される圧力は、直ちに窒素ガス溶解水の溶存窒素ガス濃度に対応し、窒素ガス溶解水の溶存窒素ガス濃度を正確に制御することができる。また、膜式ガス溶解装置の気室に供給される窒素ガスは、通常は純度100体積%のガスであるために、圧力の測定値は溶存窒素ガス濃度に対応することになる。換言すれば、原水に脱酸素処理を受けた超純水を用い、供給する窒素ガスとして純度100体積%のガスを用いるために、気室の圧力を測定することにより、所定の溶存窒素ガス濃度の窒素ガス溶解水を製造することができる。
【0030】
膜式ガス溶解装置に用いるガス透過膜の材質に特に制限はなく、例えば、ポリプロピレン、ポリ(4−メチルペンテン−1)、ポリ(2,6−ジメチルフェニレンオキシド)、ポリジメチルシロキサン、ポリカーボネート−ポリジメチルシロキサンブロック共重合体、ポリビニルフェノール−ポリジメチルシロキサン−ポリスルホンブロック共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミドなどを挙げることができる。本発明方法においては、腐食性などのない窒素ガスを溶解させるので、ポリプロピレン、ポリ(4−メチルペンテン−1)などのポリオレフィン系のガス透過膜を好適に用いることができる。膜式ガス溶解装置において、ガス透過膜の形式に特に制限はなく、例えば、平面膜、管型、スパイラル、中空糸、モノリス型、槽浸漬型、回転円盤膜などを挙げることができる。
【0031】
本発明方法において、膜式ガス溶解装置への脱酸素処理を受けた超純水と窒素ガスの供給は、向流方式で行うことが好ましい。すなわち、膜式ガス溶解装置の水室の膜の長さ方向の一端側に超純水を供給し、他端側から窒素ガス溶解水を排出するのに対し、窒素ガスは気室の窒素ガス溶解水排出側から供給し、超純水の供給側から排出することが好ましい。超純水と窒素ガスを向流接触することにより、良好なガス溶解効率を得ることができる。
【0032】
図6は、本発明方法に用いる膜式ガス溶解装置の一態様の説明図である。本態様においては、膜式ガス溶解装置として中空糸膜式ガス溶解装置10が用いられ、中空糸膜11の内側に窒素ガスが供給され、中空糸膜の外側に脱酸素処理を受けた超純水が供給される。膜式ガス溶解装置の一端にガス供給室12、他端にガス排出室13が仕切板14、15を介して設けられ、仕切板を貫通して中空糸がガス供給室及びガス排出室に開口している。窒素ガス源16から流量調節弁17を経由して、窒素ガス供給管18がガス供給室に接続されている。また、ガス排出管19がガス排出室に接続されている。圧力計20によりガス排出室の圧力が測定され、圧力計の測定値が信号として制御器21に送られ、制御器において設定値との差が自動計算され、信号が流量調節弁に送られて弁の開度により窒素ガス供給量が調整され、中空糸膜の内側の圧力が設定値に維持される。
【0033】
図6に示す態様の装置において、膜式ガス溶解装置の気室に設置する圧力計に特に制限はなく、例えば、U字管型、単管型、零位法型などの液柱方式の圧力計、プルドン管型、ベローズ型、ダイヤフラム型などの弾性体方式又は力平衡方式の圧力計、単鐘式、複鐘式などの沈鐘方式の圧力計などを挙げることができる。
【0034】
膜式ガス溶解装置において、窒素ガス供給量調整手段に特に制限はなく、例えば、手動又は自動により、圧力の測定値が所定の溶存窒素ガス濃度に対応する設定値となるように、窒素ガス供給量を調整することができる。自動により窒素ガス供給量を調整する場合は、圧力の測定値を演算装置に入力し、圧力の設定値と比較演算し、その差に相当する信号を窒素ガス供給量調整手段に送り、窒素ガス供給量を調整することができる。窒素ガス供給量の調整手段としては、例えば、窒素ガス供給管又は窒素ガス排出管に設けた流量調整弁などを挙げることができる。手動による場合は、弁の開度を人手によって調整することができる。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
実施例1
超純水製造装置の逆浸透膜脱塩装置から流出する脱塩水のパラジウム触媒による脱酸素処理を行った。脱塩水の水量は100m3/hであり、溶存酸素ガス濃度は8,550μg/L、溶存窒素ガス濃度は13.5mg/Lであった。
この脱塩水を、パラジウム担持アニオン交換樹脂[Bayer社、Lewatit OC]2,000Lを充填した直径1,000mm、高さ4,600mmの触媒反応塔に通水し、触媒反応塔に水素ガス130g/hを注入した。触媒反応塔から流出する脱酸素水の溶存酸素ガス濃度は50μg/L、溶存窒素ガス濃度は13.5mg/Lであった。
この脱酸素水を、混床型イオン交換樹脂塔に通水し、いったんサブタンクに貯留した。サブタンクから脱酸素水80m3/hを抜き出し、非再生型純水器[栗田工業(株)、デミナー]と限外ろ過膜装置に通水し、超純水としてユースポイントで使用した。また、サブタンクから脱酸素水20m3/hを抜き出し、窒素ガス溶解膜装置に窒素ガス12.8g/hを供給しつつ通水し、窒素ガス溶解水を製造した。得られた窒素ガス溶解水の溶存窒素ガス濃度は、14.14mg/Lであった。得られた窒素ガス溶解水は、機能水としてユースポイントで使用した。
【0036】
比較例1
実施例1と同じ超純水製造装置の逆浸透膜脱塩装置から流出する溶存酸素ガス濃度8,550μg/L、溶存窒素ガス濃度13.5mg/Lの脱塩水を、混床型イオン交換樹脂塔に通水したのち、脱気膜装置に通水して脱酸素処理を行った。脱気膜装置から流出する脱酸素水の溶存酸素ガス濃度は50μg/L、溶存窒素ガス濃度は0.677mg/Lであった。
得られた脱酸素水を、いったんサブタンクに貯留した。サブタンクから脱酸素水80m3/hを抜き出し、非再生型純水器[栗田工業(株)、デミナー]と限外ろ過膜装置に通水し、超純水としてユースポイントで使用した。また、サブタンクから脱酸素水20m3/hを抜き出し、窒素ガス溶解膜装置に窒素ガス269g/hを供給しつつ通水し、窒素ガス溶解水を製造した。得られた窒素ガス溶解水の溶存窒素ガス濃度は、14.14mg/Lであった。得られた窒素ガス溶解水は、機能水としてユースポイントで使用した。
【0037】
実施例2
超純水製造装置の逆浸透膜脱塩装置から流出する脱塩水のパラジウム触媒による脱酸素処理と脱気膜装置による脱酸素処理を続けて行った。脱塩水の水量は100m3/hであり、溶存酸素ガス濃度は8,550μg/L、溶存窒素ガス濃度は13.5mg/Lであった。
この脱塩水を、実施例1と同じパラジウム担持アニオン交換樹脂を充填した触媒反応塔に通水し、触媒反応塔に水素ガス130g/hを注入した。触媒反応塔から流出する一次脱酸素水の溶存酸素ガス濃度は50μg/L、溶存窒素ガス濃度は13.5mg/Lであった。
この一次脱酸素水を、混床型イオン交換樹脂塔に通水し、さらに脱気膜装置に通水した。脱気膜装置から流出する二次脱酸素水の溶存酸素ガス濃度は10μg/L、溶存窒素ガス濃度は10.5mg/Lであった。得られた二次脱酸素水は、いったんサブタンクに貯留した。サブタンクから二次脱酸素水80m3/hを抜き出し、非再生型純水器[栗田工業(株)、デミナー]と限外ろ過膜装置に通水し、特に溶存酸素ガス濃度が低い超純水が要求されるユースポイントで使用した。また、サブタンクから二次脱酸素水20m3/hを抜き出し、窒素ガス溶解膜装置に窒素ガス72.8g/hを供給しつつ通水し、窒素ガス溶解水を製造した。得られた窒素ガス溶解水の溶存窒素ガス濃度は、14.14mg/Lであった。得られた窒素ガス溶解水は、溶存酸素ガス濃度の低い機能水としてユースポイントで使用した。
【0038】
比較例2
脱気膜のみを用いて溶存酸素ガス濃度10μg/Lの脱酸素水を調製し、窒素ガス溶解水を製造した。実施例1と同じ超純水製造装置の逆浸透膜脱塩装置から流出する溶存酸素ガス濃度8,550μg/L、溶存窒素ガス濃度13.5mg/Lの脱塩水を、混床型イオン交換樹脂塔に通水したのち、脱気膜装置に通水して脱酸素処理を行った。脱気膜装置から流出する脱酸素水の溶存酸素ガス濃度は10μg/L、溶存窒素ガス濃度は0.617mg/Lであった。
得られた脱酸素水を、いったんサブタンクに貯留した。サブタンクから脱酸素水80m3/hを抜き出し、非再生型純水器[栗田工業(株)、デミナー]と限外ろ過膜装置に通水し、溶存酸素ガス濃度が低い超純水が要求されるユースポイントで使用した。また、サブタンクから脱酸素水20m3/hを抜き出し、窒素ガス溶解膜装置に窒素ガス283g/hを供給しつつ通水し、窒素ガス溶解水を製造した。得られた窒素ガス溶解水の溶存窒素ガス濃度は、14.14mg/Lであった。得られた窒素ガス溶解水は、溶存酸素ガス濃度の低い機能水としてユースポイントで使用した。
実施例1〜2及び比較例1〜2の結果を、第1表に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
第1表に見られるように、同じ溶存窒素ガス濃度14.14mg/Lの窒素ガス溶解水を製造するために必要な窒素ガスの量は、実施例1では比較例1の21分の1であり、パラジウム触媒による脱酸素処理を行うことにより、窒素ガス溶解水の製造に必要な窒素ガスの量を大幅に低減し得ることが分かる。
パラジウム触媒による脱酸素処理を行った一次脱酸素水を、さらに脱気膜装置による脱酸素処理を行って二次脱酸素水とした実施例2では、パラジウム触媒による脱酸素処理のみを行った実施例1に比べて、同じ溶存窒素ガス濃度14.14mg/Lの窒素ガス溶解水を製造するために必要な窒素ガスの量が5.7倍となっている。しかし、脱気膜装置のみにより脱酸素処理を行った比較例2と比べると、同じ溶存窒素ガス濃度14.14mg/Lの窒素ガス溶解水を製造するために必要な窒素ガスの量は、実施例2では比較例2の3.9分の1であり、パラジウム触媒による脱酸素処理を行うことにより、窒素ガス溶解水の製造に必要な窒素ガスの量を低減し得ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の窒素ガス溶解水の製造方法によれば、半導体用シリコン基板、液晶用ガラス基板、フォトマスク用石英基板などの電子材料のウェット洗浄工程に使用される窒素ガス溶解水を、原水に溶解している窒素ガスを利用することにより、新たな窒素ガスの使用量を低減し、小型化した窒素ガス溶解装置を用いて、短時間で、効率的かつ経済的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明方法の一態様の工程系統図である。
【図2】本発明方法の他の態様の工程系統図である。
【図3】本発明方法の他の態様の工程系統図である。
【図4】本発明方法の他の態様の工程系統図である。
【図5】本発明方法に用いる窒素ガス溶解装置の一態様の工程系統図である。
【図6】本発明方法に用いる膜式ガス溶解装置の一態様の説明図である。
【図7】超純水製造装置の一例の工程系統図である。
【図8】従来の窒素ガス溶解水の製造装置の一例の工程系統図である。
【符号の説明】
【0043】
1 膜式ガス溶解装置
2 窒素ガス供給管
3 圧力計
4 排出管
5 制御器
6 バルブ
7 ガス排出管
8 バルブ
9 ポンプ
10 中空糸膜式ガス溶解装置
11 中空糸膜
12 ガス供給室
13 ガス排出室
14 仕切板
15 仕切板
16 窒素ガス源
17 流量調節弁
18 窒素ガス供給管
19 ガス排出管
20 圧力計
21 制御器
22 超純水タンク
23 ポンプ
24 膜脱気装置
25 膜式ガス溶解装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超純水に窒素ガスを溶解して窒素ガス溶解水を製造する方法において、超純水がパラジウム触媒による脱酸素処理を受けた超純水であることを特徴とする窒素ガス溶解水の製造方法。
【請求項2】
パラジウム触媒による脱酸素処理が、超純水製造装置で生産された超純水に対して行われる請求項1記載の窒素ガス溶解水の製造方法。
【請求項3】
パラジウム触媒による脱酸素処理が、超純水製造装置の中の一工程として行われる請求項1記載の窒素ガス溶解水の製造方法。
【請求項4】
パラジウム触媒による脱酸素処理の後段側において、さらに脱酸素処理が行われる請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の窒素ガス溶解水の製造方法。
【請求項5】
後段における脱酸素処理が、膜分離である請求項4記載の窒素ガス溶解水の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−699(P2007−699A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−180831(P2005−180831)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】