説明

立体ディスプレイ

【課題】本発明は、広い視域と広い視野角との双方を確保しながら光変調要素の総数を抑えることのできる立体ディスプレイを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の立体ディスプレイは、観察者の一方の観察眼(2)へ投光すべき単眼用の表示光束を生成する空間光変調部(1)と、前記表示光束の生成位置を前記観察眼の位置に追従させる制御手段(3,4,41,45)とを備えたことを特徴とする。したがって、広い視域が確保される。また、空間光変調部(1)のサイズを観察眼(2)の瞳と同等にまで抑えることができるので、個々の光変調要素のサイズを小さくしても光変調要素の必要数は膨大にならない。よって、光変調要素の必要数を抑えながら広い視野角を確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体の静止画像や立体の動画像を表示する立体ディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
光波面再生型の立体ディスプレイ(ホログラフィディスプレイ)は、立体から射出する光波面と同じ光波面を再生するものであり、その光波面再生の原理は光の回折作用である(特許文献1などを参照)。この立体ディスプレイによれば、観察者は様々な位置から自由に立体を観察することができる。
この立体ディスプレイで動画像表示を行う場合は、マイクロミラーや液晶などの光変調要素を密に2次元配列した空間光変調器が使用される。
【0003】
また、立体ディスプレイの視域を拡大するには、空間光変調器のサイズを拡大すればよい。また、空間光変調器のサイズを拡大せずに立体ディスプレイの視域を拡大するには、観察者の位置に応じて空間光変調器の角度と変調パターンとを制御すればよい(特許文献2などを参照)。
【特許文献1】特開2003−15079号公報
【特許文献2】特開2002−330452号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、立体ディスプレイで広い視野角を得るためには、例えばホログラフィディスプレイの場合、光変調要素のサイズを十分に小さくする必要がある。光変調要素のサイズが大き過ぎると、光の回折角度が小さくなり、大きな角度で射出する光線を再現できないからである。
例えば、図23に示すとおり空間光変調器にサイズ1.5μm×1.5μmの光変調要素19を密に配列し、それらを波長λ=633nmのコヒーレントな光で照明すると、個々の光変調要素19から射出する回折光の広がりは、図24に示すとおりになる。
【0005】
図24は、フレネル回折理論に基づくシミュレーションの結果であり、横軸は光変調要素19からの射出角度、縦軸は光強度である。図24によると、強度が十分なのは射出角度が−10°〜10°の光線なので、この場合の視野角は、±10°程度である。したがって、±10°以上の視野角を確保するためには、光変調要素19のサイズを1.5μm以下に抑える必要がある。
【0006】
因みに、図25に示すようにサイズが100mm×150mmである空間光変調器17’を用意すると、光変調要素19の必要数は(100mm/1.5μm)×(150mm/1.5μm)≒約66億個と膨大になる。仮に、特許文献2に記載の技術を利用して空間光変調器17’のサイズを半分に削減したとしても、光変調要素19の必要数は約33億個である。
【0007】
そこで本発明は、広い視域と広い視野角との双方を確保しながら光変調要素の総数を抑えることのできる立体ディスプレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の立体ディスプレイは、観察者の一方の観察眼へ投光すべき単眼用の表示光束を生成する空間光変調部と、前記表示光束の生成位置を前記観察眼の位置に追従させる制御手段とを備えたことを特徴とする。
なお、前記制御手段には、前記空間光変調部の位置を制御する機構が含まれてもよい。
また、前記制御手段には、前記空間光変調部の共役像を生成する光学系と、前記共役像の位置を制御する機構とが含まれてもよい。
【0009】
また、前記光学系は、両側テレセントリックな光学系であることが望ましい。
また、前記機構は、前記光学系を少なくとも光軸と垂直な方向へ移動させるステージを含んでもよい。
また、前記機構は、前記光学系から射出される光束が生成する前記共役像の位置を変化させるミラーであってもよい。
【0010】
また、前記制御手段には、前記観察眼の位置を検出するセンサが含まれることが望ましい。
また、前記空間光変調部には、1次元の空間光変調部と、前記空間光変調部からの射出光を、前記空間光変調部の共役像の位置を中心軸として角度走査するミラーとが含まれてもよい。
【0011】
また、前記空間光変調部は、前記観察眼が運動視差を感じるよう前記表示光束の生成位置に応じて前記表示光束の変調パターンを変化させることが望ましい。
また、前記空間光変調部は、入射光の位相と振幅との少なくとも一方を時間変調する複数の光変調要素を複数個配列してなることが望ましい。
また、本発明の何れかの立体ディスプレイは、前記観察眼に入射する光束の主光線の方向を可変できる機能を備え、前記観察眼の位置に応じて前記主光線の方向を制御してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、広い視域と広い視野角との双方を確保しながら光変調要素の総数を抑えることのできる立体ディスプレイが実現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態を説明する。本実施形態は、立体ディスプレイの実施形態である。
先ず、本ディスプレイの原理を説明する。
静止した観察眼が立体を観察するということは、図1に示すとおり、マスク20の開口APを介して観察眼2が立体21を覗くことと等価である。開口APから観察眼2までの距離が短かければ、開口APのサイズを観察眼2の瞳と同等にまで抑えることができる。
【0014】
したがって、図2に示すとおり開口APの位置に空間光変調器1を配置し、その空間光変調器1が生成する光束を、立体21から開口APへ向かう光束L(図1)と同じにすれば、観察眼2に立体21の虚像21’を観察させることができる。このとき、観察眼2の焦点距離を変化させると、立体感を得ることができる。以下、観察眼2が焦点調節したときの立体感を、観察眼2の位置が変化したときの立体感(=運動視差)と区別して「焦点調節視差」という。但し、観察眼2の瞳の位置がずれると、虚像21’を観察することはできなくなる。
【0015】
そこで、図3に示すとおり観察眼2の瞳の位置がずれた場合は、図4に示すとおり空間光変調器1の位置を観察眼2の瞳の直前へ移動させればよい。このとき、空間光変調器1が生成する光束を、立体21から開口AP’へ向かう光束L’(図3)と同じにすれば、観察眼2に立体21の虚像21’を観察させることができる。このようにすれば、観察眼2に運動視差を感じさせることができる。
【0016】
次に、本ディスプレイの具体的構成を説明する。
図5は、本ディスプレイの構成図である。図5に示すとおり、本ディスプレイには、観察者の一方の観察眼2の瞳の直前に配置される2次元の空間光変調器1と、空間光変調器1を移動させる3軸可動ステージ3と、観察眼2の瞳を捉えるモニタカメラ4とが備えられる。また、本ディスプレイには、眼位置算出回路41と、変調回路44と、ステージ駆動回路45と、データ格納部46とを備える。データ格納部46は、立体表示に必要なデータを格納している。このデータ格納部46は、例えば、立体から射出して各位置へ入射する各光束の波面のデータを、その入射位置に対応づけて記憶している。
【0017】
なお、本ディスプレイにおいて、空間光変調器1、3軸可動ステージ3、モニタカメラ4、眼位置算出回路41、変調回路44、ステージ駆動回路45からなる表示系は、観察者の左眼用と右眼用との2系統が用意されるが、図5では1系統のみを表した。左眼用の表示系の構成と右眼用の表示系の構成とは同じなので、以下ではそのうち一方を、ホログラフィによる立体表示法を例として説明する。
【0018】
2次元の空間光変調器1は、図6(a)に示すとおり、変調部1Bと照明部1Aとを備える。照明部1Aは、変調部1Bをコヒーレントな可視光(例えば633nmの光)で照明するものであり、変調部1Bは、液晶やマイクロミラーなどの光変調要素1Pを2次元配列した光波面再生型の空間光変調器である。個々の光変調要素1Pは、照明部1Aから入射する照明光の位相及び強度(=振幅)を変調する。個々の光変調要素1Pによる位相及び強度の変調量(つまり空間光変調器1の変調パターン)を時間変化させると、空間光変調器1から射出する光束Bの波面が時間変化する。
【0019】
ここで、個々の光変調要素1Pのサイズは、本ディスプレイの視野角を±10°程度に確保するため、図6(b)に示すとおり1.5μm程度に抑えられる。また、空間光変調器1のサイズを小型化するため、光変調要素1Pの配列面のサイズは、ヒトの眼の瞳をカバーできる程度に設定される。一般にヒトの眼の瞳は暗所で6〜7mm程度なので、光変調要素1Pの配列面のサイズは、例えば7mm×7mmに設定される。したがって、空間光変調器1における光変調要素1Pの必要数は、2178万個程度に抑えられる。
【0020】
なお、ここではホログラフィによる立体表示法を例に説明したので、空間光変調器1は回折光学素子であるが、光束の角度と振幅とを変更できる他の素子であっても、同様に要素数を大幅に低減することができる。
さて、以上の空間光変調器1は、図5に示したとおり、3軸可動ステージ3によって移動可能であり、その移動方向は、基準姿勢の観察眼2から見た上下方向、左右方向、前後方向の3方向である。以下では、基準姿勢の観察眼2から見た上下方向を「Y方向」、左右方向を「X方向」、前後方向を「Z方向」とする。
【0021】
また、モニタカメラ4は、観察眼2を常時捉える。モニタカメラ4からは、観察眼2へ向けて赤外光が照射され、観察眼2から戻る赤外光は、モニタカメラ4によって取り込まれる。モニタカメラ4が出力する検出信号は、眼位置算出回路41へ取り込まれ、観察眼2の瞳の座標を示す座標信号へと変換される。これによって、瞳の座標検出が行われる。この座標検出には、角膜反射法などの公知の座標検出方法が適用できる。瞳の座標は、X方向の座標と、Y方向の座標と、Z方向の座標とによって表される。眼位置算出回路41が生成した座標信号は、ステージ駆動回路45と変調回路44とへそれぞれ与えられる。
【0022】
ステージ駆動回路45は、眼位置算出回路41から与えられた座標信号を3軸可動ステージ3の制御信号へ変換し、それをを3軸可動ステージ3へ与える。これによって、空間光変調器1の位置が制御される。この位置の制御は、観察眼2の瞳と空間光変調器1との位置関係が保たれる方向に働く。また、この位置の制御の応答速度は、観察者が意識できない程度に十分に高い。よって、空間光変調器1の位置は、観察眼2の瞳の位置に追従する。
【0023】
例えば、図7に示すように観察眼2がY方向へ移動した場合は、空間光変調器1もY方向に等距離だけ移動する。また、図示しなかったが、観察眼2がX方向へ移動した場合は、空間光変調器1もX方向に等距離だけ移動する。また、図8に示すように観察眼2がZ方向へ移動した場合は、空間光変調器1もZ方向に等距離だけ移動する。
また、図5に示した変調回路44は、眼位置算出回路41から与えられた座標信号に応じて表示用データ格納部46を参照し、空間光変調器1の制御信号を生成すると、それを空間光変調器1へ与える。これによって、観察眼2の瞳へ入射する光束Bの波面が制御される。この波面の制御は、観察眼2に運動視差を感じさせるための制御である。また、波面の制御の応答速度は、観察者が意識できない程度に十分に高い。したがって、滑らかな立体表示が可能となる。
【0024】
以上、本ディスプレイの空間光変調器1は、観察者の一方の観察眼2へ投光すべき光束しか生成しないので、空間光変調器1の配置位置を観察眼2の瞳の直前とし、空間光変調器1のサイズを観察眼2の瞳と同等にまで抑えることができる。
したがって、個々の光変調要素1Pのサイズを小さくしても光変調要素1Pの必要数は膨大にはならない。よって、広い視野角を確保しながら光変調要素1Pの必要数を抑えることができる。
【0025】
しかも、本ディスプレイは、空間光変調器1の位置を観察眼2の瞳の位置に追従させるので、空間光変調器1のサイズが小さいにも拘わらず広い視域が確保される。
その結果、本ディスプレイは、広い視域と広い視野角との双方を確保しながら光変調要素1Pの必要数を抑えることができる。
また、本ディスプレイは、空間光変調器1として光波面再生型の空間光変調器を使用したので、観察眼2に焦点調節視差を感じさせることができる。
【0026】
(補足)
なお、本ディスプレイでは、左眼用の表示系と右眼用の表示系とを別々に用意したが、両者の一部又は全部を共通化してもよい。例えば、3軸可動ステージ3の移動速度が十分に高い場合は、1つの空間光変調器を左眼の直前と右眼の直前との間で高速に往復させながら、空間光変調器の変調パターンを左眼用の変調パターンと右眼用の変調パターンとの間で高速に切り替えてもよい。
【0027】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態を説明する。本実施形態も、立体ディスプレイの実施形態である。ここでは、第1実施形態との相違点のみ説明する。
図9は、本ディスプレイの光学系部分の構成図である。図9に示すとおり、本ディスプレイでは、空間光変調器1と観察眼2との間に光学系L1が挿入される。光学系L1は、両側テレセントリックな光学系である。この光学系L1には、空間光変調器1の表面の共役像1’を観察眼2の直前に形成する働きがある。共役像1’のサイズは、第1実施形態における空間光変調器1のサイズ(図6(b)参照)と同じであり、共役像1’に含まれる光変調要素の像の配列は、第1実施形態における光変調要素1Pの配列(図6(b)参照)と同じである。本ディスプレイでは、空間光変調器1から射出する光束の波面を制御することにより、共役像1’から射出する光束の波面を制御する。
【0028】
また、光学系L1と観察眼2との間には、ダイクロイックミラー5が挿入される。ダイクロイックミラー5には、可視光を透過し、赤外光を反射させる特性がある。モニタカメラ4から射出する赤外光は、ダイクロイックミラー5を反射してから観察眼2の側へ向かい、観察眼2から戻った赤外光はダイクロイックミラー5を反射してからモニタカメラ4へ向かう。また、光学系L1から射出する可視光は、ダイクロイックミラー5を透過して観察眼2へ向かう。
【0029】
さて、本ディスプレイでも、空間光変調器1の位置の制御が行われるが、この位置の制御は、共役像1’と観察眼2の瞳との位置関係が保たれる方向に働く。空間光変調器1のX方向の移動方向と共役像1’のX方向の移動方向とは反対であり、空間光変調器1のY方向の移動方向と共役像1’のY方向の移動方向とは反対なので、位置の制御は、次のとおりに行われる。
【0030】
図10に示すように、観察眼2が−Y方向に移動した場合は、空間光変調器1は+Y方向に移動する。また、図示省略したが、観察眼2が+X方向に移動した場合は、空間光変調器1は−X方向に移動する。また、図11に示すように、観察眼2が+Z方向に移動した場合は、空間光変調器1は+Z方向へ移動する。
以上、本ディスプレイでは、光学系L1により空間光変調器1の共役像1’を生成するので、観察眼2の前に空間を確保することができる。本ディスプレイでは、この空間へダイクロイックミラー5を挿入し、モニタカメラ4の光路と空間光変調器1の光路とを分離した。したがって、本ディスプレイは、立体の表示と観察眼2の瞳の位置検出との双方を高精度に行うことができる。
【0031】
(補足)
なお、本ディスプレイでは、左眼用の表示系と右眼用の表示系とを別々に用意したが、両者の一部又は全部を共通化してもよい。例えば、3軸可動ステージ3の移動速度が十分に高い場合は、共役像1’を左眼の直前と右眼の直前との間で高速に往復させながら、空間光変調器1の変調パターンを左眼用の変調パターンと右眼用の変調パターンとの間で高速に切り替えてもよい。
【0032】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態を説明する。本実施形態も立体ディスプレイの実施形態である。ここでは、第2実施形態(図9)との相違点のみ説明する。
図12は、本ディスプレイの光学系部分の構成図である。図12に示すとおり、本ディスプレイでは、3軸可動ステージ3の代わりに1軸可動ステージ7が使用されると共に、光学系L1を移動させる2軸可動ステージ6が追加される。1軸可動ステージ7は、空間光変調器1をZ方向へ移動させ、2軸可動ステージ6は、光学系L1をX方向及びY方向へ移動させる。
【0033】
本ディスプレイでは、共役像1’と観察眼2の瞳との位置関係を保つために、空間光変調器1のZ方向の位置と、光学系L1のX方向の位置と、光学系L1のY方向の位置とが制御される。光学系L1のXY方向の移動方向と共役像1’のXY方向の移動方向とは同じなので、位置の制御は、次のとおりに行われる。
図13に示すように、観察眼2が−Y方向に移動した場合は、光学系L1が−Y方向に移動する。また、図示省略したが、観察眼2が+X方向に移動した場合は、光学系L1は+X方向に移動する。また、図14に示すように、観察眼2が+Z方向に移動した場合は、空間光変調器1が+Z方向へ移動する。
【0034】
したがって、本ディスプレイでも、第2実施形態のディスプレイと同じ効果が得られる。
(補足)
なお、本ディスプレイでは、左眼用の表示系と右眼用の表示系とを別々に用意したが、両者の一部又は全部を共通化してもよい。例えば、2軸可動ステージ6及び1軸可動ステージ7の移動速度が十分に高い場合は、共役像1’を左眼の直前と右眼の直前との間で高速に往復させながら、空間光変調器1の変調パターンを左眼用の変調パターンと右眼用の変調パターンとの間で高速に切り替えてもよい。
【0035】
[第4実施形態]
本発明の第4実施形態を説明する。本実施形態も立体ディスプレイの実施形態である。ここでは、第3実施形態(図12)との相違点のみ説明する。
図15は、本ディスプレイの光学系部分の斜視図である。図15に示すとおり、本ディスプレイでは、光学系L1及び2軸可動ステージ6の代わりに、2つの光学系L3,L4がこの順で挿入される。光学系L3,L4は、何れも両側テレセントリックな光学系である。その内部に角度可変ミラー8,9をそれぞれ備える。これらの光学系L3,L4により、空間光変調器1の表面の共役像1’が観察眼2の瞳の直前に形成される。
【0036】
角度可変ミラー8,9は、例えば、反射面の配置角度を任意に設定することの可能な制御型のガルバノミラーである。光学系L3における角度可変ミラー8の回転軸は、光学系L3を構成する2つのレンズの焦平面の交差線上にある。光学系L4における角度可変ミラー9の回転軸は、光学系L4を構成する2つのレンズの焦平面の交差線上にある。このうち角度可変ミラー8が駆動されると、共役像1’がX方向へ移動し、角度可変ミラー9が駆動されると、共役像1’がY方向へ移動する。
【0037】
したがって、本ディスプレイでは、共役像1’と観察眼2の瞳との位置関係を保つために、空間光変調器1のZ方向の位置と、角度可変ミラー8の配置角度と、角度可変ミラー9の配置角度とが制御される。これらの位置及び配置角度の制御は、次のとおりに行われる。
図16に示すように、観察眼2が+Y方向へ移動する場合は、角度可変ミラー9の配置角度が+θY方向へ変化する。また、図17に示すように、観察眼2が+X方向へ移動する場合は、角度可変ミラー8の配置角度が+θX方向へ変化する。また、図18に示すように、観察眼2が+Z方向へ移動する場合は、空間光変調器1は+Z方向へ移動する。
【0038】
したがって、本ディスプレイでも、第3実施形態のディスプレイと同等の効果が得られる。
(補足)
なお、本ディスプレイでは、左眼用の表示系と右眼用の表示系とを別々に用意したが、両者の一部又は全部を共通化してもよい。例えば、1軸可動ステージ6の移動速度及び角度可変ミラー8,9の角度変化速度が十分に高い場合は、共役像1’を左眼の直前と右眼の直前との間で高速に往復させながら、空間光変調器1の変調パターンを左眼用の変調パターンと右眼用の変調パターンとの間で高速に切り替えてもよい。
【0039】
[第5実施形態]
本実施形態の第5実施形態を説明する。本実施形態も立体ディスプレイの実施形態である。ここでは、第2実施形態(図9)との相違点のみ説明する。
図19は、本ディスプレイの光学系部分の構成図である。図19に示すとおり、本ディスプレイでは、2次元の空間光変調器1の代わりに1次元の空間光変調器11と、光学系L10と、角度可変ミラー12とがこの順で配置される。角度可変ミラー12は、例えば、反射面の配置角度を任意に設定することの可能な制御型のガルバノミラー、又は、予め決められた周波数で配置角度が振動する共振型のガルバノミラーである。1次元の空間光変調器11における光変調要素の必要数は、2次元の空間光変調器1における光変調要素の必要数よりも格段に少なく、4667個程度である。
【0040】
光学系L10は、空間光変調器11の表面の共役像を角度可変ミラー12の回転軸上に形成する。光学系L1は、その共役像の共役像を観察眼2の瞳の直前に形成する。この共役像は、ライン状をしている。
そこで、本ディスプレイでは、角度可変ミラー12の配置角度を高速に振動させながら空間光変調器11の変調パターンを高速に変化させ、観察眼2の瞳の直前に第2実施形態の共役像1’と同等のスキャン像S1を形成する。本ディスプレイでは、このスキャン像S1を第2実施形態の共役像1’と同等に扱う。
【0041】
3軸可動ステージ3は、1次元の空間光変調器11と、光学系L10と、角度可変ミラー12とからなる光学系の全体をXYZ方向へ移動させる。この光学系の全体がこれら3方向へ移動すると、スキャン像S1もXYZ方向へ移動する。したがって、3軸可動ステージ3を第2実施形態のそれと同様に制御すれば、スキャン像S1の位置を観察眼2の瞳の位置に追従させることができる。
【0042】
但し、本ディスプレイで生成されるスキャン像S1は、第2実施形態の共役像1’とは異なり、ライン毎にずれたタイミングで生起するので、スキャン像S1が作る像の非ライン方向に対しては焦点調節視差が生じることは無く、第2実施形態の共役像1’(図9参照)のそれとは異なる。したがって、本ディスプレイでは、観察眼2が焦点調節視差を若干感じにくくなる。
【0043】
[第6実施形態]
本発明の第6実施形態を説明する。本実施形態も立体ディスプレイの実施形態である。ここでは、第3実施形態(図12)との相違点のみ説明する。
図20は、本ディスプレイの光学系部分の構成図である。図20に示すとおり、本ディスプレイでは、2次元の空間光変調器1の代わりに、1次元の空間光変調器11と、光学系L10と、角度可変ミラー12とがこの順で配置される。1次元の空間光変調器11における光変調要素の必要数は、2次元の空間光変調器1における光変調要素の必要数よりも格段に少なく、4667個程度である。
【0044】
光学系L10は、空間光変調器11の表面の共役像を角度可変ミラー12の回転軸上に形成する。光学系L1は、その共役像の共役像を観察眼2の瞳の直前に形成する。この共役像は、ライン状をしている。
そこで、本ディスプレイでは、角度可変ミラー12を高速に振動させながら空間光変調器11の変調パターンを高速に変化させ、観察眼2の瞳の直前に第3実施形態の共役像1’と同等のスキャン像S1を形成する。本ディスプレイでは、このスキャン像S1を第3実施形態の共役像1’と同等に扱う。
【0045】
1軸可動ステージ7は、1次元の空間光変調器11と、光学系L10と、角度可変ミラー12とからなる光学系の全体をZ方向へ移動させる。この光学系の全体がZ方向へ移動すると、スキャン像S1もZ方向へ移動する。また、2軸可動ステージ6が光学系L1をXY方向へ移動すると、スキャン像S1もXY方向へ移動する。したがって、1軸可動ステージ7及び2軸可動ステージ6を第3実施形態のそれと同様に制御すれば、スキャン像S1の位置を観察眼2の瞳の位置に追従させることができる。
【0046】
但し、本ディスプレイで生成されるスキャン像S1は、第3実施形態の共役像1’とは異なり、ライン毎にずれたタイミングで生起するので、スキャン像S1が作る像の非ライン方向に対しては焦点調節視差が生じることは無く、第3実施形態の共役像1’(図12参照)のそれとは異なる。このため、本ディスプレイでは、観察眼2が焦点調節視差を若干感じにくくなる。
【0047】
[第7実施形態]
本発明の第7実施形態を説明する。本実施形態も、立体ディスプレイの実施形態である。
ここでは、第4実施形態(図15)との相違点のみ説明する。
図21は、本ディスプレイの光学系部分の斜視図である。図21に示すとおり、本ディスプレイでは、2次元の空間光変調器1の代わりに1次元の空間光変調器11と、光学系L10と、角度可変ミラー12とがこの順で配置される。1次元の空間光変調器11における光変調要素の必要数は、2次元の空間光変調器1における光変調要素の必要数よりも格段に少なく、4667個程度である。
【0048】
光学系L10は、空間光変調器11の表面の共役像を角度可変ミラー12の回転軸上に形成する。光学系L1は、その共役像の共役像を観察眼2の瞳の直前に形成する。この共役像は、ライン状をしている。
そこで、本ディスプレイでは、角度可変ミラー12を高速に振動させながら空間光変調器11の変調パターンを高速に変化させ、観察眼2の瞳の直前に第4実施形態の共役像1’と同等のスキャン像S1を形成する。本ディスプレイでは、このスキャン像S1を第4実施形態の共役像1’と同等に扱う。
【0049】
1軸可動ステージ7は、1次元の空間光変調器11と、光学系L10と、角度可変ミラー12とからなる光学系の全体をZ方向へ移動させる。この光学系の全体がZ方向へ移動すると、スキャン像S1はZ方向へ移動する。また、角度可変ミラー8,9の配置角度が変化すると、スキャン像S1はXY方向へ移動する。したがって、1軸可動ステージ7及び角度可変ミラー8,9を第4実施形態のそれと同様に制御すれば、スキャン像S1の位置を観察眼2の瞳の位置に追従させることができる。
【0050】
但し、本ディスプレイで生成されるスキャン像S1は、第4実施形態の共役像1’とは異なり、ライン毎にずれたタイミングで生起するので、スキャン像S1が作る像の非ライン方向に対して焦点調節視差が生じることは無く、第4実施形態の共役像1’(図15参照)のそれとは異なる。このため、本ディスプレイでは、観察眼2が焦点調節視差を若干感じにくくなる。
【0051】
[第8実施形態]
本発明の第8実施形態を説明する。本実施形態は第1実施形態〜第7実施形態の一部に改良を加えたものであるが、ここでは第2実施形態を代表例として相違点を説明する。
図22は、図10の光学系のみを示した図であり、観察眼2がY方向へ移動した場合を示している。このとき、観察眼2は、図4に示すようにY方向の中心に位置する場合に対して虚像21’を斜め方向から観察することになる(但し、図22では虚像21’を下方向から観察している。)。また、図22では、図10に示した2次元の空間光変調器1を、液晶素子のように透過型の素子ELとしてあり、それに対する照明光束Bが斜め方向から照射されている様子を点線で表している。このようにすることで観察眼2に入射する光束の主光線の向きを変えることができる。したがって、2次元の空間光変調器1から射出される光束の角度範囲を広くすることと等価的な効果が得られるので、光変調要素のサイズをその分大きくすることが可能である。
【0052】
なお、本実施形態では透過型の液晶素子で説明したが、2次元の空間光変調器1から射出される光束の主光線の向きを変えられればよく、この方式に限られるものではない。また、本実施形態は2次元の空間光変調器1の代わりに1次元の空間光変調器11を使用する場合でも同様に適用可能である。この場合、特に観察眼2のX方向の移動に対して本実施形態を適用すると、光変調要素のサイズを大きくすることが可能となる。
【0053】
[その他]
なお、上述した説明では言及しなかったが、上述した各実施形態の立体ディスプレイは、光波面を時間変調可能な空間光変調器を使用するので、立体静止画像を表示するだけでなく、立体動画像を表示することもできる。
また、上述した第2実施形態,第3実施形態、第4実施形態、第5実施形態、第6実施形態、第7実施形態では、空間光変調器の共役像を生成するための光学系を使用したが、その光学系を縮小光学系としてもよい。その場合、空間光変調器における個々の光変調要素のサイズを小さくせずに視野角を拡大することが可能である。
【0054】
また、上述した各実施形態では、仮に空間光変調器が単色の光に対する空間光変調器であっても、小さな空間光変調器を用いることができるため、3色用の空間光変調器を合成することは容易である。つまり、カラー化が容易である。
また、上述した各実施形態では、眼位置算出回路41、ステージ駆動回路45、変調回路44、データ格納部46の一部又は全部の処理をコンピュータに実行させてもよい。但し、専用の回路に実行させた方が、前述した制御の応答速度を高めることができるので望ましい。
【0055】
さらに、上述した各実施形態では、観察眼にのみ光束を投光するので、空間光変調器から射出される光量を極めて低く抑えることが可能であり、省エネルギーの立体ディスプレイが得られる。
[第1実施例]
第1実施例として、第2実施形態(図9)、第3実施形態(図12)、第4実施形態(図15)の実施例を示す。
・2次元の空間光変調器1のサイズ:7mm×7mm
・光変調要素1Pのサイズ:1.5μm×1.5μm
・空間光変調器1から共役像1’までの光学系の倍率:1
したがって、本実施例における光変調要素1Pの必要数は、(7mm/1.5μm)×(7mm/1.5μm)≒約2178万個である。
【0056】
[第2実施例]
第2実施例として、第5実施形態(図19)、第6実施形態(図20)、第7実施形態(図21)の実施例を示す。
・1次元の空間光変調器11のサイズ:7mm
・光変調要素1Pのサイズ:1.5μm×1.5μm
・空間光変調器11からスキャン像S1までの光学系の倍率:1
したがって、光変調要素1Pの必要数は、7mm/1.5μm≒4667個である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の立体ディスプレイは、立体の動画表示などを必要とするシミュレータや3次元医療画像、顕微鏡像の立体観察、アミューズメント等に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】或る位置から観察眼2が立体21を覗く様子を示す図である。
【図2】或る位置における観察眼2へ立体21の虚像21’を表示する原理を説明する図である。
【図3】別の位置から観察眼2が立体21を覗く様子を示す図である。
【図4】別の位置における観察眼2へ立体21の虚像21’を表示する原理を説明する図である。
【図5】第1実施形態の全体構成図である。
【図6】空間光変調器1を説明する図である。
【図7】第1実施形態の動作を説明する図である(Y方向の移動時)。
【図8】第1実施形態の動作を説明する図である(Z方向の移動時)。
【図9】第2実施形態の光学系部分の構成図である。
【図10】第2実施形態の動作を説明する図である(Y方向の移動時)。
【図11】第2実施形態の動作を説明する図である(Z方向の移動時)。
【図12】第3実施形態の光学系部分の構成図である。
【図13】第3実施形態の動作を説明する図である(Y方向の移動時)。
【図14】第3実施形態の動作を説明する図である(Z方向の移動時)。
【図15】第4実施形態の光学系部分の斜視図である。
【図16】第4実施形態の動作を説明する図である(Y方向の移動時)。
【図17】第4実施形態の動作を説明する図である(X方向の移動時)。
【図18】第4実施形態の動作を説明する図である(Z方向の移動時)。
【図19】第5実施形態の光学系部分の構成図である。
【図20】第6実施形態の光学系部分の構成図である。
【図21】第7実施形態の光学系部分の斜視図である。
【図22】第8実施形態の動作を説明する図である(Y方向の移動時)。
【図23】光変調要素から射出する回折光の様子を示す図である。
【図24】光変調要素から射出する回折光の射出角度と強度との関係を示す図である 。
【図25】従来の空間光変調器における光変調要素の必要数を説明する図である。
【符号の説明】
【0059】
1…2次元の空間光変調器,2…観察眼,3…3軸可動ステージ,4:モニタカメラ,5…ダイクロイックミラー,6…2軸可動ステージ,7…1軸可動ステージ,8,9,12…角度可変ミラー,11…1次元の空間光変調器,1’…共役像,S1…スキャン像


【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察者の一方の観察眼へ投光すべき単眼用の表示光束を生成する空間光変調部と、
前記表示光束の生成位置を前記観察眼の位置に追従させる制御手段と、
を備えたことを特徴とする立体ディスプレイ。
【請求項2】
請求項1に記載の立体ディスプレイにおいて、
前記制御手段には、
前記空間光変調部の位置を制御する機構が含まれる
ことを特徴とする立体ディスプレイ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の立体ディスプレイにおいて、
前記制御手段には、
前記空間光変調部の共役像を生成する光学系と、前記共役像の位置を制御する機構とが含まれる
ことを特徴とする立体ディスプレイ。
【請求項4】
請求項3に記載の立体ディスプレイにおいて、
前記光学系は、
両側テレセントリックな光学系である
ことを特徴とする立体ディスプレイ。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載の立体ディスプレイにおいて、
前記機構は、
前記光学系を少なくとも光軸と垂直な方向へ移動させるステージを含む
ことを特徴とする立体ディスプレイ。
【請求項6】
請求項3〜請求項5の何れか一項に記載の立体ディスプレイにおいて、
前記機構は、
前記光学系から射出される光束が生成する前記共役像の位置を変化させるミラーである
ことを特徴とする立体ディスプレイ。
【請求項7】
請求項1〜請求項6の何れか一項に記載の立体ディスプレイにおいて、
前記制御手段には、
前記観察眼の位置を検出するセンサが含まれる
ことを特徴とする立体ディスプレイ。
【請求項8】
請求項1〜請求項7の何れか一項に記載の立体ディスプレイにおいて、
前記空間光変調部には、
1次元の空間光変調部と、
前記空間光変調部からの射出光を、前記空間光変調部の共役像の位置を中心軸として角度走査するミラーと
が含まれることを特徴とする立体ディスプレイ。
【請求項9】
請求項1〜請求項8の何れか一項に記載の立体ディスプレイにおいて、
前記空間光変調部は、
前記観察眼が運動視差を感じるよう前記表示光束の生成位置に応じて前記表示光束の変調パターンを変化させる
ことを特徴とする立体ディスプレイ。
【請求項10】
請求項9に記載の立体ディスプレイにおいて、
前記空間光変調部は、
入射光の位相と振幅との少なくとも一方を時間変調する複数の光変調要素を複数個配列してなる
ことを特徴とする立体ディスプレイ。
【請求項11】
請求項1〜請求項10の何れか一項に記載の立体ディスプレイにおいて、
前記観察眼に入射する光束の主光線の方向を可変できる機能を備え、
前記観察眼の位置に応じて前記主光線の方向を制御する
ことを特徴とする立体ディスプレイ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2008−134564(P2008−134564A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−322302(P2006−322302)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】