説明

立体映像表示用位相差板、偏光素子およびそれらの製造方法、ならびに立体映像表示装置

【課題】製造が容易な立体映像形成用位相差板およびこれを用いた立体映像表示装置および立体映像表示システムを提供する。
【解決手段】本発明の立体映像形成用位相差板10は、同一面内に複数の第1の位相差領域11と複数の第2の位相差領域12とを有する。前記第1の位相差領域の波長λにおける正面レターデーションは(1/4+m)×λであり、前記第2の位相差領域の正面レターデーションは(3/4+n)×λである。ただし、mおよびnは0または自然数であり、m=n=0であることが好ましい。第1の位相差領域の遅相軸方向111と第2の位相差領域の遅相軸方向121とが平行である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体映像の表示に適した位相差板、偏光素子およびそれらの製造方法に関する。また、本発明は該位相差板、偏光素子を用いた立体映像表示装置に関する。さらに、本発明は該立体映像表示装置を立体視するための偏光眼鏡、および立体映像表示装置と偏光眼鏡を組合せた立体映像表示システムに関する。
【背景技術】
【0002】
立体映像を表示させる方法として、右目用映像と左目用映像とを異なる偏光状態で現出させ、これを右目用レンズと左目用レンズとからなる立体視用眼鏡を介して視認する方法が提案されている。かかる方法によれば、右目には右目用映像のみが、左目には左目用映像のみが視認されるため、両眼の視差によって視認者は立体感を想起する。より具体的には、映像表示装置から右目用映像が第1の偏光状態を有し、左目用映像が第2の偏光状態を有する映像を現出させ、これを第1の偏光状態の光を透過し第2の偏光状態の光を遮蔽(吸収または反射)する第1の偏光板を備える右目用レンズと、第1の偏光状態の光を遮蔽し第2の偏光状態の光を透過する第2の偏光板を備える左目用レンズとからなる偏光眼鏡を介して視認することにより、立体表示が可能となる。
【0003】
このように異なる偏光状態を有する2種類の映像を1台の映像表示装置から現出させる方法として、例えば特許文献1では、透過軸方向が互いに直交する第1の領域と第2の領域とを有する偏光板を、表示装置の前面に密着させる方法が提案されている。
【0004】
また、第1の領域と第2の領域とを有する位相差板と、均一な透過軸を有する偏光板とを組合せて、第1の領域と第2の領域で現出される映像の透過軸方向が互いに直交するように構成する方法が提案されている。例えば特許文献2では、半波長(λ/2)のレターデーションを有する第1の領域およびレターデーションを有していない第2の領域とにパターニングされた位相差板と、均一な透過軸を有する偏光板とを用い、第1の領域の遅相軸方向と偏光板の透過軸方向とを45°に配置することによって、第1の領域の偏光の振動面と第2の領域の偏光の振動面を直交させる方法が提案されている。また、特許文献3では、偏光の振動面を90°回転させる旋光素子が配置された第1の領域および該旋光素子が除去された第2の領域からなる位相差板と偏光板とを用いる方法が提案されている。
【0005】
このような方法によれば、例えば第1の領域を右目用映像、第2の領域を左目用映像として現出し、第1の領域の偏光を透過し第2の偏光状態の光を遮蔽する第1の偏光板を備える右目用レンズと、第1の偏光板とは透過軸方向が直交である第2の偏光板を備える左目用レンズからなる立体視用偏光眼鏡を介して視認することにより、立体表示が可能となる。しかしながら、右目用映像および左目用映像として直交する2種類の偏光を現出させる場合、右目用映像および左目用映像の透過軸方向と視認者が装着する偏光眼鏡の偏光板の透過軸方向とを正確に一致させる必要がある。そのため、視認者の位置や顔の角度、あるいは偏光眼鏡の装着状態が異なると、各々の目に右目用映像と左目用映像とが混在して視認され、立体像が不鮮明となる。
【0006】
かかる観点から、第1の領域と第2の領域で極性の異なる円偏光(右円偏光と左円偏光)を現出させる方法が提案されている。例えば特許文献4においては、半波長のレターデーションを有する第1の領域とレターデーションを有していない第2の領域にパターニングされた第1の位相差部材と、4分の1波長(λ/4)のレターデーションを有する第2位相差部材とを両者の遅相軸が直交するように配置した積層位相差板が提案されている。かかる積層位相差板は、第1の領域のレターデーションが+λ/4、第2の領域のレターデーションが−λ/4となるため、偏光板軸方向のなす角45°で積層することにより、第1の領域と第2の領域とで極性の異なる円偏光が現出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭58−184929号公報
【特許文献2】特開2001−59948号公報
【特許文献3】特開2002−14301号公報
【特許文献4】特開平10−227998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、極性の異なる円偏光により立体映像を現出する場合は、映像表示装置と立体視用偏光眼鏡の軸方向を一致させる必要がないため、視認者の位置や顔の角度、あるいは偏光眼鏡の装着状態が変化した場合でも立体視が可能となる。しかしながら、特許文献4に開示されているように2枚の位相差部材を用いる方法によれば、λ/2板を2つの領域にパターニングする必要がある上に、さらにはλ/4板を必要とするため、部材の数が多くなり、位相差板の製造が容易ではなかった。かかる観点に鑑み、本発明は、製造が容易な立体映像表示用の位相差板の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の位相差板は、同一面内に複数の第1の位相差領域と複数の第2の位相差領域とを有し、第1の位相差領域の波長λにおける正面レターデーションが(1/4+m)×λであり、前記第2の位相差領域の波長λにおける正面レターデーションが(3/4+n)×λである。mおよびnは0または自然数であり、m=n=0であることが好ましい。第1の位相差領域の遅相軸方向と第2の位相差領域の遅相軸方向とは平行である。本発明によれば、第1の位相差領域と第2の位相差領域の遅相軸方向が平行であるため、レターデーションの異なる2つの領域を有する位相差板を容易に製造し得る。
【0010】
本発明の位相差板は、均一な正面レターデーションを有するフィルムを作製する第1の工程と、第1の位相差領域に対応する第1の領域および前記第2の位相差領域に対応する第2の領域の少なくともいずれか一方のレターデーションを低下させる第2の工程により製造することができる。かかる製造方法において、第1の工程によって得られるフィルムの正面レターデーションは(1/4+m)×λ以上、かつ(3/4+n)×λ以上であり、第2の工程における第1の領域のレターデーション低下量と第2の領域のレターデーション低下量の差の絶対値が(1/2+p)λであることが好ましい(ただし、pは0または自然数である)。
【0011】
上記製造方法において、第2の工程では、第1の領域および第2の領域のいずれか一方のみのレターデーションを低下させることが好ましい。
【0012】
また、第2の工程は、レターデーションを低下させる領域の分子配向度を低下させることにより実施し得る。レターデーションを局所的に低下させる方法としては、局所的な熱の付与や、フィルムを溶解若しくは膨潤させうる薬液を局所的に施与する方法等が挙げられる。
【0013】
本発明の一実施形態において、位相差板の第1の位相差領域および第2の位相差領域は、ともに可視光領域(400〜800nm)において長波長ほど大きな正面レターデーションを有することが好ましい。
【0014】
また、本発明の別の実施形態において、第1の位相差領域および第2の位相差領域は、それぞれ複数のサブ領域からなり、第1の位相差領域における各サブ領域は、映像表示装置の各サブ画素からの射出光の主波長λに対して(1/4+m)×λの正面レターデーションを有し、第2の領域における各サブ領域は、映像表示装置の各サブ画素からの射出光の主波長λに対して(3/4+n)×λの正面レターデーションを有することが好ましい。
【0015】
また、本発明の位相差板は、第1の位相差領域と第2の位相差領域とがストライプ状に配置されていることが好ましい。
【0016】
さらに、本発明は前記位相差板を備える偏光素子に関する。本発明の偏光素子は、前記位相差板と偏光板とが積層されており、位相差板の遅相軸方向と偏光板の透過軸方向とのなす角が45°であることが好ましい。
【0017】
また、本発明は、前記位相差板あるいは前記偏光素子を備える立体映像表示装置に関する。本発明の立体映像表示装置は、前記位相差板と、偏光板と映像表示セルとを備える。本発明の立体映像表示装置においては、映像表示セルの視認側に偏光板が配置され、偏光板よりも視認側に位相差板が配置されている。位相差板の遅相軸方向と偏光板の透過軸方向とのなす角は45°である。映像表示セルは第1の映像表示領域および第2の映像表示領域を有し、位相差板は、第1の位相差領域および第2の位相差領域が、映像表示セルの第1の映像表示領域および第2の映像表示領域にそれぞれ対応するように配置される。
【0018】
さらに、本発明は、前記立体映像表示装置を立体視するための立体視用偏光眼鏡に関する。本発明の立体視用偏光眼鏡は、右目用レンズおよび左目用レンズを備え、右目用レンズおよび左目用レンズの一方は第1の円偏光板を備え、他方は第2の円偏光板を備える。第1の円偏光板は、波長λにおける正面レターデーションが(1/4+m)×λである1/4波長板と偏光板とを備え、1/4波長板の遅相軸方向と偏光板の透過軸方向とのなす角は45°である。第2の円偏光板は、波長λにおける正面レターデーションが(3/4+n)×λである3/4波長板と偏光板とを備え、3/4波長板の遅相軸方向と偏光板の透過軸方向とのなす角は45°である。
【0019】
本発明の立体視用偏光眼鏡は、図9および図10に示すように、第1の円偏光板71における1/4波長板71Aの遅相軸方向711と偏光板71Bの透過軸方向712との配置関係と、第2の円偏光板72における3/4波長板72Aの遅相軸方向721と偏光板72Bの透過軸方向722との配置関係とが同一であることが好ましい。特に、図9に示すように、第1の円偏光板71を構成する1/4波長板71Aの遅相軸方向711と、第2の円偏光板72を構成する3/4波長板72Aの遅相軸方向721とが平行であることが好ましい。
【0020】
また、本発明は、前記立体映像表示装置と立体視用偏光眼鏡の組合せによる立体映像表示システムに関する。特に、本発明の立体映像表示システムにおいては、立体視用偏光眼鏡の第1の円偏光板を構成する1/4波長板の遅相軸方向と、第2の円偏光板を構成する3/4波長板の遅相軸方向とが平行であり、かつ、画面を正面視した場合に、立体映像表示装置の位相差板の遅相軸方向と、偏光眼鏡の第1の円偏光板を構成する1/4波長板の遅相軸方向および第2の円偏光板を構成する3/4波長板の遅相軸方向とが直交するように構成することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の位相差板は、同一面内に第1の位相差領域と第2の位相差領域を有しており、本発明の位相差板と偏光板とが積層された偏光素子により、第1の位相差領域と第2の位相差領域とで極性の異なる円偏光が現出されるため、立体映像の形成に用いることができる。本発明の位相差板は第1の位相差領域と第2の位相差領域の遅相軸方向が平行であるため、たとえば面内のレターデーションが均一なフィルムを作成し、所定領域のレターデーションを低下させる工程により製造することが可能であり、製造を容易になし得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態による位相差板を模式的に表す平面図である。
【図2A】本発明の一実施形態による偏光素子を模式的に表す断面図である。
【図2B】本発明の一実施形態による偏光素子の配置を概念的に表す斜視図である。
【図3A】本発明の一実施形態による立体映像表示装置を模式的に表す断面図である。
【図3B】本発明の一実施形態による立体映像表示装置の配置を概念的に表す斜視図である。
【図4】位相差板の各位相差領域が複数のサブ領域を有する実施形態の一例を模式的に表す平面図である。
【図5】位相差板の各位相差領域が複数のサブ領域を有する実施形態の一例を模式的に表す平面図である。
【図6】本発明の一実施形態による立体映像表示装置を模式的に表す断面図である。
【図7】本発明の一実施形態による立体映像表示装置を模式的に表す断面図である。
【図8】本発明の立体視用偏光眼鏡を模式的に表す斜視図である。
【図9】本発明の一実施形態による立体視用偏光眼鏡を構成する円偏光板の配置を模式的に表す斜視図である。
【図10】本発明の一実施形態による立体視用偏光眼鏡を構成する円偏光板の配置を模式的に表す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら本発明を説明する。図1は、本発明の位相差板の一実施形態を模式的に表す平面図である。位相差板10は面内に複数の第1の位相差領域11および第2の位相差領域12を有している。
【0024】
第1の位相差領域11は波長λの可視光に対して、(1/4+m)λの正面レターデーションを有し、第2の位相差領域は(3/4+n)λの正面レターデーションを有する。ここで、mおよびnは0または自然数である。例えば、m=n=0の場合、第1の位相差領域は1/4波長、第2の位相差領域は3/4波長の正面レターデーションを有する。また、第1の位相差領域の遅相軸方向111と第2の位相差領域の遅相軸方向121とは平行である。
【0025】
図2Aは本発明の位相差板10と偏光板20とが積層された偏光素子50を模式的に表す断面図であり、図2Bは偏光素子50を概念的に表す斜視図である。偏光板20の透過軸方向201と位相差板10の遅相軸方向111および121のなす角は45°である。
【0026】
図3Aは本発明の立体映像表示装置を模式的に表す断面図であり、図3Bは本発明の立体映像表示装置を概念的に表す斜視図である。なお、図2Bおよび図3Bにおいては、簡略のために第1の位相差領域11および第2の位相差領域をそれぞれ1つずつ図示しているが、実際の構成においては、第1の位相差領域11および第2の位相差領域12はいずれも複数存在している。
【0027】
本発明の立体映像表示装置80は、映像表示セル30の視認側に偏光板20が配置され、偏光板20のさらに視認側に位相差板10が配置される。映像表示セル30は面内に複数の第1の映像表示領域31および第2の映像表示領域32を有している。図3Aに示すように、位相差板10の第1の位相差領域11と第2の位相差領域12は、それぞれ映像表示セル30の第1の映像表示領域31と第2の映像表示領域32に対応するように配置される。
【0028】
上記構成によって立体映像を現出する原理について以下に説明する。映像表示セルの第1の映像表示領域31からは、自然偏光、あるいは所定の偏光状態を有する光r31が射出される。光r31は偏光板20を通過する際、偏光板20の透過軸方向201に振動を有する偏光成分r21のみが位相差板10側へ透過され、透過軸方向201と直交方向に振動を有する偏光成分は遮蔽される。
【0029】
偏光板20を透過した光r21は、位相差板10の第1の位相差領域11に到達する。ここで、光r21の振動方向と位相差板の遅相軸方向111とのなす角が45°であり、正面レターデーションReは波長λの(1/4+m)倍である(m=0の場合は波長の1/4倍)。そのため、位相差板10の第1の位相差領域11を透過した光r11は円偏光となる。
【0030】
一方、映像表示セルの第2の映像表示領域32からは、自然偏光、あるいは所定の偏光状態を有する光r32が射出される。光r32は偏光板20を通過する際、偏光板20の透過軸方向201に振動を有する偏光成分r22のみが位相差板10側へ透過され、透過軸方向201と直交方向に振動を有する偏光成分は遮蔽される。
【0031】
偏光板20を透過した光r22は、位相差板10の第2の位相差領域12に到達する。ここで、光r22の振動面と位相差板の遅相軸方向111とのなす角が45°であり、正面レターデーションReは波長λの(3/4+n)倍である(n=0の場合は波長の3/4倍)。そのため、位相差板10の第2の位相差領域12を透過した光r12も円偏光となる。
【0032】
ここで、位相差板10の第1の位相差領域11と第2の位相差領域12とはレターデーション値が半波長(または半波長+波長の整数倍)異なっている。すなわち、第1の位相差領域を通過した円偏光r11と、第2の位相差領域を通過した円偏光r12の位相はπずれている。そのため、r11とr12とは極性の異なる円偏光として現出される。
【0033】
例えば、映像表示セルの第1の映像表示領域31からは右目用映像を射出し、第2の映像表示領域32からは左目用映像を射出する場合、偏光板20と位相差板10の作用により、第1の映像表示領域の右目用映像は右円偏光r11として現出され、第2の領域の映像表示領域の左目用映像は左円偏光r12として現出される。視認者は、立体視用の偏光眼鏡70を装着して当該映像を視認する。偏光眼鏡70は、例えば右円偏光を透過し左円偏光を遮蔽する第1の円偏光板71を備える右目用レンズと、左円偏光を透過し右円偏光を遮蔽する第2の円偏光板72を備える右目用レンズとを備える。
【0034】
このような構成によれば、視認者の右目には右目用映像のみが視認され、左目には左目用映像のみが視認される。そのため視認者は右目用映像と左目用映像のずれ、すなわち両眼視差により奥行き感を想起し、立体映像を認識する。
【0035】
以下、第1の位相差領域11の正面レターデーションRe=λ/4、第2の位相差領域12の正面レターデーションRe=3λ/4、すなわち、m=n=0の例を中心に、本発明の実施形態をより詳細に説明する。なお、mおよび/またはnが1以上の場合においては、それぞれの正面レターデーションの値に波長の整数倍を加えることにより、m=n=0の場合と同様に実施し得る。
【0036】
本発明の位相差板10は、同一面内に第1の位相差領域11と第2の位相差領域12とを有する。本発明の位相差板を介して立体表示を実現する場合において、第1の位相差領域および第2の位相差領域は、それぞれ映像表示セルの右目用映像および左目用映像(あるいはその逆)の表示領域に対応する。
【0037】
図1においては、第1の位相差領域11と第2の位相差領域12とが交互にストライプ状に配置された実施形態を示しているが、本発明はかかる形態に限定されず、例えば第1の位相差領域11と第2の位相差領域12とが格子状に配置されていてもよい。第1の位相差領域と第2の位相差領域とがストライプ状に配置される場合には、各ストライプ列の幅が、画像表示セルの右目用映像表示列および左目用映像表示列の幅に対応することが好ましい。このような場合、各位相差領域の幅は小さい方が好ましく、具体的には映像表示装置の画素の1辺の長さ(画素の幅)に対応させることが好ましい。また、第1の位相差領域11と第2の位相差領域12とが格子状に配置される場合は、各位相差領域を映像表示装置の画素に対応させることが好ましい。
【0038】
なお、第1の位相差領域と第2の位相差領域との境界部分は映像表示に用いることができない場合がある。かかる観点からは第1の位相差領域と第2の位相差領域とを交互にストライプ状に配置し、位相差領域の境界部分の面積を小さくすることが好ましい。
【0039】
第1の位相差領域は波長λの(1/4+m)倍の正面レターデーションReを有し、第2の位相差領域は波長λの(3/4+n)倍の正面レターデーションReを有する。ただし、mおよびnは0または自然数である。なお、映像の色再現性を高める観点や、位相差板の製造容易性の観点からはm=n=0、すなわち、第1の位相差領域の正面レターデーションReが波長の1/4倍であり、第2の位相差領域の正面レターデーションReが波長の3/4倍であることが好ましい。
【0040】
第1の位相差領域の正面レターデーションReは、厳密に波長の1/4倍である必要はなく、直線偏光を略円偏光に変換する範囲であればよい。なお、「略円偏光」とは、完全な円偏光のみならず、完全な円偏光に近い、すなわち楕円率が1に近い楕円偏光をも含み得る。かかる観点から、第1の位相差領域の波長λ=550nmにおける正面レターデーションRe(550)は137.5±30nmであることが好ましく、137.5±20nmであることがより好ましい。
【0041】
同様に、第2の位相差領域の正面レターデーションReも、厳密に波長の3/4倍である必要はなく、直線偏光を略円偏光に変換する範囲であればよい。第2の位相差領域の波長λ=550nmにおける正面レターデーションRe(550)は412.5±90nmであることが好ましく、412.5±60nmであることがより好ましい。
【0042】
第1の位相差領域の遅相軸方向111と第2の位相差領域の遅相軸方向121とは平行である。このように、第1の位相差領域と第2の位相差領域の遅相軸方向を平行とすることで、後述するようにプリンタ等を用いて局所的にレターデーションを低下させる方法によって、レターデーションの異なる第1の位相差領域と第2の位相差領域とを同一面内に有する位相差板の製造が容易となる。ここで、平行とは両者のなす角が厳密に0°であることに限定されず、本発明の目的を達成し得る範囲であれば足り、例えば0±5°、好ましくは0±3°である。
【0043】
このように遅相軸方向が平行でレターデーションが異なる2つの位相差領域を同一面内に有する位相差板を製造する方法は特に限定されないが、例えば、均一な正面レターデーションを有するフィルムを作製する工程、および第1の領域および第2の領域の少なくともいずれか一方のレターデーションを低下させる工程を経ることによって製造が可能である。
【0044】
均一な正面レターデーションを有するフィルム(以下、「均一位相差板」と称する)は、例えば高分子フィルムを延伸して分子を配向させる方法や、基材上に分子の配向膜を形成する方法により形成することができる。また、市販の位相差板等を用いてもよい。
【0045】
高分子フィルムの延伸による分子の配向は、一軸又は二軸等の適宜な方式で延伸処理することにより行うことができる。このような延伸フィルムとしては、位相差制御の点などから、分子が可及的に均一に配向するなどして位相差の均一性に優れる延伸フィルムが好ましく用いうる。
【0046】
基材上に分子の配向膜を形成する方法としては、基材フィルム上で重合性液晶等を配向させる方法が挙げられる。基材としての透明フィルムは配向規制力が付与されたものを用いることが好ましい。透明フィルムに配向規制力を付与する方法としては、例えば、基材表面にラビング処理を施す方法や、ポリイミド等の配向膜を基材上に形成し、該配向膜表面にラビング処理を施す方法、基材上に光異性化、光二量化、あるいは光分解等の光反応を起こす化合物の膜を形成し、光を照射して方向性を付与した光配向膜を形成する方法等が挙げられる。
【0047】
このようにして得られた均一位相差板の正面レターデーション値Reは、目的とする位相差板の第1の位相差領域のレターデーション値Re以上であり、かつ、第2の位相差領域のレターデーション値Re以上である。すなわちRe=λ/4、Re=3λ/4の場合、Reは3λ/4であるか、あるいは3λ/4より大きい。均一位相差板の正面レターデーションを当該範囲である場合、レターデーションを低下させる工程を経ることで、第1の位相差領域と第2の位相差領域を有する本発明の位相差板を製造し得る。なお、均一位相差板の正面レターデーションは、製造公差等による数nm程度の面内バラツキがあってもよい。
【0048】
このようにして得られた均一位相差板の正面レターデーションReは、目的とする位相差板の第1の位相差領域のレターデーションRe以上であり、かつ、第2の位相差領域のレターデーションRe以上である。すなわちRe=λ/4、Re=3λ/4の場合、Reは3λ/4であるか、あるいは3λ/4より大きい。均一位相差板の正面レターデーションを当該範囲である場合、レターデーションを低下させる工程を経ることで、第1の位相差領域と第2の位相差領域を有する本発明の位相差板を製造し得る。
【0049】
レターデーションを低下させる工程は、均一位相差板の第1の領域と第2の領域の少なくとも一方のレターデーションを低下させる工程である。なお、均一位相差板の第1の領域と第2の領域は、位相差板10の第1の位相差領域11と第2の位相差領域12に対応している。
【0050】
レターデーションを低下させる工程は、第1の領域と第2の領域のいずれか一方のみのレターデーションを低下させてもよいし、第1の領域と第2の領域の両者のレターデーションを低下させてもよい。第1の領域と第2の領域の両者のレターデーションを低下させる場合は、両者のレターデーション低下量を相違させることによって、第1の位相差領域と第2の位相差領域が形成される。
【0051】
例えば、正面レターデーションRe=3λ/4の均一位相差板を用い、第1の領域のみレターデーションを低下させてλ/4とすることで、Re=λ/4、Re=3λ/4の位相差板が得られる。また、正面レターデーションReが3λ/4より大きい均一位相差板を用い、第1の領域のレターデーションの低下量を第2の領域のレターデーションの低下量よりもλ/2大きくすることによっても、Re=λ/4、Re=3λ/4の位相差板が得られる。
【0052】
なお、位相差板10第1の位相差領域11の正面レターデーションReがλ/4、第2の位相差領域12の正面レターデーションReが3λ/4の場合について前記したが、Re=(1/4+m)×λ、Re=(3/4+n)×λの場合に一般化すると、第2の工程における第1の領域のレターデーション低下量と第2の領域のレターデーション低下量の差の絶対値を(1/2+p)λとすればよい。ただし、pは0または自然数であり、p=0であることが好ましい。
【0053】
レターデーションを低下させる工程では、均一位相差板の遅相軸方向を変化させることなく、レターデーションを低下させる。かかる観点からは、フィルムの分子配向度の低下によってレターデーションを低下させることが好ましい。分子配向度の低下操作は、例えばガラス転移温度(熱変形温度)以上の熱を付与する方法や、フィルムを溶解若しくは膨潤させうる薬液を施与する方式にて行うことができる。熱の付与方式や薬液の施与方式については特に限定はなく、熱源を介した加熱方式や放電を介した熱の付与、あるいはフィルムを溶解又は膨潤させうる有機溶剤等の施与などの適宜な方法を採用することができる。また、熱の付与と薬液の施与の両者を併用してもよい。
【0054】
第1の位相差領域と第2の位相差領域とを微細領域にパターンニングする観点からは、熱転写式プリンタやインクジェット式プリンタなどの適宜な加熱式又は薬液噴射式のプリンタにて熱の付与又は薬液の施与を行う方式が好ましい。またレーザ光線による加熱方式やスタンプ式等のプレス加熱方式、あるいはマスク法や印刷法等にて薬剤を塗布する方式などによっても所定領域のレターデーションを低下させ、第1の位相差領域と第2の位相差領域のパターンを効率的に形成することができる。
【0055】
また、位相差板10の偏光板20と積層しない側、すなわち視認側の面には、ハードコート層や反射防止処理、スティッキング防止や、拡散ないしアンチグレアを目的とした処理を施してもよい。反射防止層、スティッキング防止層、拡散層やアンチグレア層等は、位相差板そのものに設けることができるほか、別途光学層として位相差板とは別体のものとして設けることもできる。
【0056】
ここで、一般に位相差板の正面レターデーションは波長によって異なる。このような特性はレターデーションの「波長分散」とも称される。この波長分散特性は、位相差板を構成する材料固有の値であり、一般のポリマーは、長波長ほどレターデーションが小さい特性を有するものが多い。そのため、波長分散の影響で、特定の波長λでλ/4のレターデーションを有していても、他の波長λにおけるレターデーションはλ/4からずれており、映像表示装置から現出される波長λの光は円偏光からのズレを生じる。映像表示装置から現出される光の円偏光からのズレが大きい波長では、右目用映像として右目のみで視認されるべき光の一部が右目では視認されずに左目で視認され、逆に左目用映像として左目で視認されるべき光の一部が右目で視認されるために、立体映像の色再現性が低下したり、立体映像にボヤケが生じる場合がある。
【0057】
このような色再現性の低下や立体映像のボヤケを抑止する観点から、本発明の一実施形態においては、位相差板の第1の位相差領域および第2の位相差領域は、可視光の広い帯域において、直線偏光を円偏光に変換し得る波長分散特性を有することが好ましい。より具体的には、第1の位相差領域および第2の位相差領域は、長波長ほど大きな正面レターデーションを有していることが好ましい。特に、波長λnmにおける第1の位相差領域および第2の位相差領域の正面レターデーションを、それぞれRe(λ)、Re(λ)とした場合に、Re(450)/Re(550)および、Re(450)/Re(550)は、理論的には0.82であることが最も好ましい。また、位相差フィルムを構成するポリマーの種類等により容易に調整し得る波長分散の範囲は、一般にRe(450)/Re(550)は0.80〜0.99程度であり、位相差板の製造容易性と立体画像の画質とを両立させる観点からは、Re(450)/Re(550)および、Re(450)/Re(550)は、0.85〜0.95であることがより好ましく、0.85〜0.90であることがさらに好ましい。
【0058】
レターデーションの波長分散特性は物質固有の値であるため、一般に第1の位相差領域のレターデーションの波長分散と第2の位相差領域のレターデーションの波長分散は略同じである。また、波長分散を前記範囲とするためには、位相差板を形成する材料として、特開2000−137116号公報等に開示されている所定の置換度を有するセルロース誘導体、WO00/26705号国際公開パンフレット等に開示されている共重合ポリカーボネート、特開2006−171235号公報、特開2006−89696号公報等に開示されているポリビニルアセタール系ポリマー等のように、長波長ほど大きなレターデーションを発現し得るポリマーを用いることが好ましい。
【0059】
また、位相差板のレターデーションの波長分散に関係なく色再現性の低下や立体映像のボヤケを抑止する観点から、位相差板10の各位相差領域を、複数のサブ領域に分割する方法を用いてもよい。一般に映像表示装置は、射出光の主波長の異なる複数のサブ画素を1つの画素として、映像表示を行っている。本発明の一実施形態において、位相差板の第1の位相差領域の各サブ領域は、映像表示セルの対応する各サブ画素からの射出光の主波長λにおいてλ/4の正面レターデーションを有し、第2の位相差領域の各サブ領域は、映像表示セルの対応する各サブ画素からの射出光の主波長λにおいて3λ/4の正面レターデーションを有する。
【0060】
透過主波長が650nmの赤色のカラーフィルタ(R)と透過主波長が550nmの緑色のカラーフィルタ(G)と透過主波長が440nmの青色のカラーフィルタ(B)を有するカラーフィルタ層を備え、RGBの3つのサブ画素を1つの画素として映像を表示する液晶表示装置に位相差板10を適用して立体映像表示装置とする場合を例にして説明する。図4に示すように第1の位相差領域11は、赤のサブ画素に対応したサブ領域11R、緑のサブ画素に対応したサブ領域11G、および青のサブ画素に対応したサブ領域11Bを有する。第2の位相差領域12は赤のサブ画素に対応したサブ領域12R、緑のサブ画素に対応したサブ領域12G、および青のサブ画素に対応したサブ領域12Bを有する。
【0061】
サブ領域11R、11G、11Bの正面レターデーションは、それぞれ赤色のカラーフィルタ(R)、緑色のカラーフィルタ(G)、青色のカラーフィルタ(B)の透過主波長の1/4倍、すなわち、162.5nm、138.5nm、110nmである。サブ領域12R、12G、12Bの正面レターデーションは、それぞれ赤色のカラーフィルタ(R)、緑色のカラーフィルタ(G)、青色のカラーフィルタ(B)の透過主波長の3/4倍、すなわち、487.5nm、412.5nm、330nmである。なお、各サブ領域の正面レターデーション値は、前記した値と厳密に一致している必要はなく、透過主波長において直線偏光を略円偏光に変換する範囲であればよく、例えば前記正面レターデーション値から±20nm、好ましくは±10nmの範囲は許容され得る。
【0062】
このように、各位相差領域が、複数のサブ領域を有し、各サブ領域が対応する各サブ画素の透過主波長の1/4波長あるいは3/4波長の正面レターデーションを有することによって、各サブ画素から射出される光の主波長が円偏光に変換される。そのため、位相差板のレターデーションの波長分散特性に関係なく、色再現性の低下や立体映像のボヤケが抑止可能となる。
【0063】
なお、図4においては、各サブ領域がストライプ状に配置された実施形態を示したが、本発明はかかる形態に限定されず、例えば図5に示すように1の位相差領域内に複数のサブ領域が繰り返しパターンを形成するように配置されていてもよい。また、液晶表示装置においては、各サブ領域の正面レターデーションは、カラーフィルタの透過主波長に対して1/4波長あるいは3/4波長に設定されるが、有機EL表示装置やプラズマ表示装置、ブラウン管等の自発光型の表示装置においては、各サブ領域の正面レターデーションは、各サブ画素から射出される光の主波長に対して1/4あるいは3/4波長に設定すればよい。
【0064】
次に本発明の偏光素子について説明する。本発明の偏光素子50は、図2Aおよび図2Bに模式的に示すように、前記位相差板10と偏光板20とが積層された構成を有する。偏光板20の透過軸方向201は位相差板10の遅相軸方向111および121と45°の角度をなす。かかる構成によって、偏光板20を透過した直線偏光が位相差板10によって、第1の領域と第2の領域とで異なる極性を有する円偏光に変換される。
【0065】
ここで、本明細書において45°とは、厳密に45°であることに限定されず、直線偏光が略円偏光に変換され得る範囲であれば足り、例えば45±5°、好ましくは45±3°である。また、特に明示がない限り、角度の符号は限定されず、半時計回り(+)でも時計回り(−)でもよい。
【0066】
偏光板20は、任意の偏光状態を有する光を直線偏光に変換するものであれば特に限定されず、各種のものを使用できる。このような偏光板としては、例えば、偏光子の一方または両方の主面に必要に応じて透明保護フィルムを積層したものが用いられる。偏光子としては、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて一軸延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン系配向フィルム等が挙げられる。また、米国特許5,523,863号等に開示されている二色性物質と液晶性化合物とを含む液晶性組成物を一定方向に配向させたゲスト・ホストタイプのO型偏光板、米国特許6,049,428号等に開示されているリオトロピック液晶を一定方向に配向させたE型偏光板等も用いることができる。
【0067】
偏光子の一方または両方の主面に積層される透明保護フィルムとしては、例えば、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性、等方性などに優れるものが好適に用いられる。また、本発明の位相差板を偏光板に積層して、偏光板保護フィルムとしての機能と立体映像表示用位相差板としての機能を兼用させてもよい。
【0068】
偏光素子の形成において、偏光板20と位相差板10は単に重ね合わせただけでもよいし、接着剤等を介して貼り合せてもよい。また、偏光板20と位相差板10との間には、偏光板保護フィルムやその他のフィルム、あるいは映像表示セルを形成するためのガラス基板等を介してもよい。
【0069】
本発明の位相差板10あるいは本発明の偏光素子50を、映像表示セル30の視認側に配置することによって立体映像表示装置が形成される。なお、「映像表示セルの視認側」との表現は、映像表示セルを形成する全ての部材よりも視認側に配置する形態のみならず、例えば液晶セルにおいては液晶層よりも視認側であればよく、液晶セルの視認側のガラス基板よりも視認側に配置されることは必ずしも要しない。
【0070】
図3Aに示すように、本発明の位相差板10は、偏光板20よりも視認側に配置される。また、位相差板の第1の位相差領域11と第2の位相差領域12とは、それぞれ映像表示セル30の第1の映像表示領域31と第2の映像表示領域32に対応するように画面の法線方向視認側に配置される。第1の映像表示領域31および第2の映像表示領域32は、一方が右目用映像表示領域、他方が左目用映像像表示領域に対応している。かかる構成によって、映像表示セルの第1の映像表示領域および第2の映像表示領域から射出される光は、偏光板20と位相差板10によって極性の異なる円偏光として射出されるため、立体表示が実現される。
【0071】
映像表示セル30は特に限定されず、例えば、有機ELセル、プラズマ表示セル、ブラウン管等の自発光型の表示セルや、液晶セル等のように、光源からの光の透過量を調整する表示セルを用いることができる。また、リアプロジェクションシステムのような投影型表示装置のスクリーンを適用することもできる。
【0072】
中でも液晶表示装置は、映像表示のために液晶セルの視認側に偏光板が配置されているため、別途偏光板を設けることなく、本発明の位相差板を付加することによって立体映像表示装置を形成可能である。また、視認側の偏光板とは別にもう1枚の偏光板を設けてもよい。有機EL表示装置の場合は、金属電極による外光の鏡面反射を遮蔽するために、有機発光層の視認側に、1/4波長板と偏光板が積層された円偏光板が配置される場合があるが、該円偏光板の視認側に本発明の位相差板を配置することによって、立体映像表示装置としてもよい。
【0073】
立体映像表示装置の映像表示セル30として液晶セルを採用する液晶表示装置について説明する。液晶セルとしては、外光を利用する反射型液晶セル、バックライト等の光源からの光を利用する透過型液晶セル、外部からの光と光源からの光の両者を利用する半透過半反射型液晶セルのいずれを用いてもよい。また、液晶セルの駆動方式としては、例えばVAモード、IPSモード、TNモード、STNモードやベンド配向(π型)等の任意なタイプのものを用い得る。
【0074】
図6を参照すると、液晶セル30は、一対の基板301、302と、基板間に挟持された表示媒体としての液晶層303とを有する。一般的な構成においては、一方の基板301側に、カラーフィルタ層306が設けられており、他方の基板302に、液晶の電気光学特性を制御するスイッチング素子307と、このスイッチング素子にゲート信号を与える走査線およびソース信号を与える信号線と、画素電極および対向電極とが設けられている。上記基板301、302の間隔(セルギャップ)は、スペーサー等によって制御できる。基板の液晶層303と接する側には、例えば、ポリイミドからなる配向膜等を設けることができる。カラーフィルタ層306は、例えば赤(R)、緑(G)、青(B)の各色に対応したカラーフィルタとブラックマトリクスを有している。
【0075】
視認側の基板301側に偏光板20および位相差板10が配置される。位相差板10は、第1の位相差領域11と第2の位相差領域12が、映像表示セル30の第1の映像表示領域31と第2の映像表示領域32にそれぞれ対応するように配置される。図4、図5に示すように位相差板10の第1の位相差領域11および第2の位相差領域12が、正面レターデーションの異なる複数のサブ領域に分割されている場合、各サブ領域は、画像表示装置の各サブ画素に対応するように配置される。
【0076】
位相差板10の遅相軸方向は、偏光板20の透過軸方向に対して45゜に配置される。位相差板10および偏光板20は、粘着剤または接着剤等を介して液晶セルの基板301に貼り合わされることが好ましい。液晶セル30として、透過型液晶セル、あるいは半透過半反射型液晶セルを採用する場合は、液晶セルの基板302側に偏光板40と光源60とが配置されることが好ましい。
【0077】
また、図7に示すように、液晶セル30を構成するガラス基板301の内側(液晶層303側)に偏光板20および位相差板10を配置することもできる。かかる実施形態によれば、液晶セルの形成時に位相差板10が配置されるため、液晶セル30の映像表示領域31および32と位相差板10の位相差領域11および12の位置あわせを容易になし得る。また、液晶セルの画素形成領域である液晶層303と位相差板10との距離が小さいために、斜め方向から映像表示装置を視認した場合でも液晶セルの映像表示領域と位相差板の位相差領域との対応関係を保持することができ、右目用画像と左目用画像の混在(クロストーク)を抑制することができる。
【0078】
なお、図7においては、カラーフィルタ層306の視認側(基板301側)に偏光板20および位相差板10を設けたが、カラーフィルタ層306は偏光板20と位相差板10との間や、位相差板10と基板301との間に配置することもできる。
【0079】
映像表示セルとして液晶セル以外のセル、例えば有機ELセルや、プラズマ表示セル、ブラウン管等の自発光型のセルを用いる場合においても、位相差板10の第1の位相差領域11と第2の位相差領域12を、映像表示セル30の第1の映像表示領域31と第2の映像表示領域32にそれぞれ対応するように配置することにより、立体映像表示装置が形成される。
【0080】
本発明の立体映像表示装置から現出される立体映像を、右目用レンズおよび左目用レンズとして極性の異なる2枚の円偏光板を備える立体視用偏光眼鏡を装着して視認することにより、視認者は立体表示を想起する。
【0081】
立体視用偏光眼鏡70は、右目用レンズおよび左目用レンズの一方に第1の円偏光板71、他方に第2の円偏光板72を備える。図8に模式的に示すように、第1の円偏光板71は、第1の映像表示領域31から第1の位相差領域11を透過して現出される第1の円偏光r11を透過し、第2の映像表示領域32から第2の位相差領域12を透過して現出される第2の円偏光r121を遮蔽する。一方、第2の円偏光板72は、第1の映像表示領域31から第1の位相差領域11を透過して現出される第1の円偏光r112を遮蔽し、第2の映像表示領域32から第2の位相差領域12を透過して現出される第2の円偏光r122を透過する。第1の円偏光と第2の円偏光は逆の極性を有している。すなわち、第1の円偏光と第2の円偏光の一方は右円偏光であり、他方は左円偏光である。
【0082】
なお、図8〜10においては、第1の円偏光板が第1円偏光r111を透過し、第2の円偏光板が第1の円偏光r112を遮蔽するように図示しているが、円偏光板の配置方向を調整することにより、第1の円偏光板が第1の円偏光r111を遮蔽し、第2の円偏光板が第1の円偏光r112を透過するように構成することも可能である。
【0083】
このような第1の円偏光板71と第2の円偏光板72としては、異なる極性の円偏光を透過する2枚の円偏光板の組合せが用いられる。このような2枚の円偏光板としては、捩れ方向の異なるコレステリック液晶による第1の反射型円偏光板と第2の反射型円偏光板の組合せや、偏光板と1/4波長板を積層した第1の円偏光板、および偏光板と3/4波長板を積層した第2の円偏光板の組合せ、偏光板と1/4波長板を積層した第1の円偏光板、および偏光板と1/4波長板の軸配置が第1の円偏光板とは鏡像関係にある第2の円偏光板の組合せ等を採用することができる。
【0084】
これらの中でも、本発明の立体映像表示装置に用いる立体視用偏光眼鏡としては、図9および図10に示すように、第1の偏光板71が、偏光板71Bと1/4波長板71Aとを積層した円偏光板であり、第2の偏光板72が、偏光板72Bと3/4波長板72Aとを積層した円偏光板であるものを好適に用い得る。かかる実施形態においては、第1の円偏光板71を構成する1/4波長板71Aの遅相軸方向711と偏光板71Bの透過軸方向712が45°の角度をなし、第2の円偏光板72を構成する1/4波長板72Aの遅相軸方向721と偏光板72Bの透過軸方向722も45°の角度をなす。そして、遅相軸方向711と透過軸方向712の配置関係と遅相軸方向721と透過軸方向722の配置関係は同一である。すなわち、視認者側から見て半時計周りを角度の+と定義した場合に、遅相軸方向711と透過軸方向712のなす角が+45°であれば、遅相軸方向721と透過軸方向722のなす角も+45°であり、遅相軸方向711と透過軸方向712のなす角が−45°であれば、遅相軸方向721と透過軸方向722のなす角も−45°である。
【0085】
なお、第1の円偏光板71を構成する偏光板71Bの透過軸方向712と第2の円偏光板72を構成する偏光板72Bの透過軸方向722は、平行であってもよく、図10に示すように直交しているか、あるいは所定の角度をなしていてもよい。
【0086】
このように偏光眼鏡の右目用レンズと左目用レンズを構成する2枚の円偏光板に1/4波長板と3/4波長板の組合せを用いる場合、この正面レターデーションの組合せは、位相差板10の第1の位相差領域と第2の位相差領域の正面レターデーションの組合せと同一となる。そのため、位相差板10の第1の位相差領域11の波長λにおける正面レターデーションのλ/4からのズレと、第1の円偏光板71を形成する1/4波長板の波長λにおける正面レターデーションのλ/4からのズレを等しくすることができる。同様に、位相差板10の第2の位相差領域12の波長λにおける正面レターデーションの3λ/4からのズレと、第2の円偏光板72を形成する3/4波長板72Aの波長λにおける正面レターデーションの3λ/4からのズレを等しくすることができる。そのため、偏光眼鏡によって、位相差板10における波長分散に起因する円偏光からのズレが偏光眼鏡における1/4波長板71Aと3/4波長板72Bによって打ち消され、色再現性の低下が抑止される。
【0087】
色再現性の低下を抑止する観点からは、立体映像表示装置を形成する位相差板10の正面レターデーションの波長分散と、偏光眼鏡の円偏光板71および72を形成する位相差板71Aおよび72Aのレターデーションの波長分散の差が小さいことが好ましい。波長分散の差を小さくする方法としては、例えば、位相差板10と位相差板71Aおよび72Aを同一の材料により形成すればよい。
【0088】
また、色再現性の低下やクロストークを抑止する観点からは、図9に示すように、偏光板71Bの透過軸方向712と偏光板72Bの透過軸方向722が平行となるように偏光眼鏡を構成することが好ましい。立体映像表示装置の視認側に配置される偏光板20の透過軸方向201と、偏光眼鏡の円偏光板を形成する偏光板の透過軸方向712、722とのなす角度は、位相差板10、71Aおよび72Aの正面レターデーションの波長分散特性等に応じて、立体表示特性が高められるように適宜に設定することができる。
【0089】
一例としては、立体映像表示装置の視認側に配置される偏光板20の透過軸方向201と、偏光眼鏡の円偏光板を形成する偏光板の透過軸方向712、722とが平行であり、立体映像表示装置を形成する位相差板10の遅相軸方向111、121と、偏光眼鏡の円偏光板を形成する位相差板の遅相軸方向711、721とが直交する構成が挙げられる。かかる構成によれば、立体映像表示装置を正面から視認した場合に、位相差板10の第1の位相差領域11の正面レターデーションと偏光眼鏡の第1の円偏光板を形成する1/4波長板71Aの正面レターデーションが打ち消しあい、位相差板10の第2の位相差領域12の正面レターデーションと偏光眼鏡の第2の円偏光板を形成する3/4波長板72Aの正面レターデーションが打ち消しあう。そのため、第1の映像表示領域31からの光は、偏光眼鏡70の第1の偏光板71によって吸収されず、第2の映像表示領域32からの光は、偏光眼鏡70の第2の偏光板72によって吸収されないため、色再現性が高められるとともに、画面の輝度の低下が抑制される。
【0090】
上記例示した角度配置以外にも、偏光板20の透過軸方向201と偏光板71B,72Bの透過軸方向712、722とが直交する構成や、平行でも直交でもない構成とすることもできる。このような角度配置は、白表示が黄色く着色したり、黒表示が青みがかることを抑制すること等を目的として適宜に設計でき、第1の円偏光板71と第2の円偏光板72とが極性の異なる円偏光を透過するように構成されていればよい。
【0091】
このような偏光眼鏡70は、本発明の立体映像表示装置以外に、極性の異なる円偏光を現出させる立体映像表示装置用を立体視するために用いることもできる。好ましい実施形態として、本発明の位相差板10が映像表示セル30の視認側に配置された立体映像表示装置80と前記立体視用偏光眼鏡70の組合せにより、立体映像表示システムを構成することができる。
【符号の説明】
【0092】
10 位相差板
11、12 位相差領域
111、121 遅相軸方向
20 偏光板
201 透過軸方向
30 映像表示セル(液晶セル)
301、302 基板
303 液晶層
306 カラーフィルタ層
307 スイッチング素子
31、32 映像表示領域
40 偏光板
50 偏光素子
60 光源
70 偏光眼鏡
71、72 円偏光板
71A、72A 位相差板
71B,72B 偏光板
711、721 遅相軸方向
712、722 透過軸方向
80 立体映像表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一面内に複数の第1の位相差領域(11)と複数の第2の位相差領域(12)とを有し、
前記第1の位相差領域(11)の波長λにおける正面レターデーションが(1/4+m)×λであり、前記第2の位相差領域(12)の波長λにおける正面レターデーションが(3/4+n)×λであり、
第1の位相差領域(11)の遅相軸方向(111)と第2の位相差領域(12)の遅相軸方向(121)とが平行である立体映像形成用位相差板(10)。(ただし、mおよびnは0または自然数である)
【請求項2】
前記第1の位相差領域の波長λにおける正面レターデーションがλ/4であり、前記第2の位相差領域の正面レターデーションが3λ/4である、請求項1記載の立体映像形成用位相差板。
【請求項3】
前記第1の位相差領域および第2の位相差領域は、ともに可視光領域において長波長ほど大きな正面レターデーションを有する、請求項1または2に記載の立体映像形成用位相差板。
【請求項4】
前記第1の位相差領域および第2の位相差領域は、それぞれ複数のサブ領域からなり、
第1の位相差領域における各サブ領域は、映像表示装置の各サブ画素からの射出光の主波長λに対して(1/4+m)×λの正面レターデーションを有し、
第2の領域における各サブ領域は、映像表示装置の各サブ画素からの射出光の主波長λに対して(3/4+n)×λの正面レターデーションを有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の立体映像形成用位相差板。
【請求項5】
前記第1の位相差領域と第2の位相差領域とがストライプ状に配置されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の立体映像形成用位相差板。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の位相差板を製造する方法であって、
均一な正面レターデーションを有するフィルムを作製する第1の工程、および
前記第1の位相差領域に対応する第1の領域および前記第2の位相差領域に対応する第2の領域の少なくともいずれか一方のレターデーションを低下させる第2の工程を有し、
前記第1の工程によって得られるフィルムの正面レターデーションは(1/4+m)×λ以上、かつ(3/4+n)×λ以上であり、
前記第2の工程における第1の領域のレターデーション低下量と第2の領域のレターデーション低下量の差の絶対値が(1/2+p)λである、立体映像形成用位相差板の製造方法。(ただし、pは0または自然数である)
【請求項7】
前記第2の工程において、前記第1の領域および前記第2の領域のいずれか一方のみのレターデーションを低下させる、請求項6に記載の立体映像形成用位相差板の製造方法。
【請求項8】
レターデーションを低下させる領域の分子配向度を低下させることにより前記第2の工程をおこなう、請求項6または7に記載の立体映像形成用位相差板の製造方法。
【請求項9】
局所的な熱の付与により前記分子配向度の低下をおこなう、請求項8に記載の立体映像形成用位相差板の製造方法。
【請求項10】
前記第1の工程によって得られたフィルムを溶解若しくは膨潤させうる薬液を施与して
前記分子配向度の低下をおこなう、請求項8に記載の立体映像形成用位相差板の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の立体映像形成用位相差板(10)と偏光板(20)とが積層されており、前記位相差板の遅相軸方向(111、121)と偏光板の透過軸方向(201)とのなす角が45°である偏光素子(50)。
【請求項12】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の位相差板(10)と、偏光板(20)と映像表示セル(30)とを備える立体映像表示装置(80)であって、
前記映像表示セル(30)の視認側に偏光板(20)が配置され、前記偏光板(20)よりも視認側に前記立体映像形成用位相差板(10)が配置されており、
前記位相差板(10)の遅相軸方向(111、121)と前記偏光板(20)の透過軸方向(201)とのなす角が45°であり、
前記映像表示セル(30)は第1の映像表示領域(31)および第2の映像表示領域(32)を有し、
前記位相差板(10)は、第1の位相差領域(11)および第2の位相差領域(12)が、前記映像表示セル(30)の第1の映像表示領域(31)および第2の映像表示領域(32)にそれぞれ対応するように配置された立体映像表示装置。
【請求項13】
請求項12に記載の立体映像表示装置を立体視するための立体視用偏光眼鏡(70)であって、右目用レンズおよび左目用レンズを備え、
前記右目用レンズおよび左目用レンズの一方は第1の円偏光板(71)を備え、他方は第2の円偏光板(72)を備え、
前記第1の円偏光板(71)は、波長λにおける正面レターデーションが(1/4+m)×λである1/4波長板(71A)と偏光板(71B)とを備え、1/4波長板(71A)の遅相軸方向(711)と偏光板(71B)の透過軸方向(712)とのなす角は45°であり、
前記第2の円偏光板(72)は、波長λにおける正面レターデーションが(3/4+n)×λである3/4波長板(72A)と偏光板(72B)とを備え、3/4波長板(72A)の遅相軸方向(721)と偏光板(72B)の透過軸方向(722)とのなす角は45°であり、
前記第1の円偏光板(71)および第2の円偏光板(72)はいずれも視認者側に偏光板(71B、72B)、立体映像表示装置側に位相差板(71A、71B)を備え、
第1の円偏光板(71)における1/4波長板(71A)の遅相軸方向(711)と偏光板(71B)の透過軸方向(712)との配置関係と、第2の円偏光板(72)における3/4波長板(72A)の遅相軸方向(721)と偏光板(72B)の透過軸方向(722)との配置関係とが同一である、立体視用偏光眼鏡(70)。
【請求項14】
前記第1の円偏光板(71)を構成する1/4波長板(71A)の遅相軸方向(711)と、前記第2の円偏光板(72)を構成する3/4波長板(72A)の遅相軸方向(721)とが平行である、請求項13に記載の立体視用偏光眼鏡。
【請求項15】
請求項12に記載の立体映像表示装置と、請求項13または14に記載の立体視用偏光眼鏡を有する立体映像表示システム。
【請求項16】
請求項12に記載の立体映像表示装置と、請求項14に記載の立体視用偏光眼鏡を有し、
立体映像表示装置を正面視した場合に、立体映像表示装置の位相差板(10)の遅相軸方向(111、112)と、偏光眼鏡の第1の円偏光板を構成する1/4波長板(71A)の遅相軸方向(711)および第2の円偏光板を構成する3/4波長板(72A)の遅相軸方向(721)とが直交するように構成された立体映像表示システム。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−137853(P2011−137853A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−295776(P2009−295776)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】