説明

竪型遠心分離装置及び遠心分離液の回収方法

【課題】遠心分離液の回収ロス分が少なく、目的物が遠心分離液である場合に適した竪型遠心分離装置及び遠心分離液の回収方法を提供する。
【解決手段】遠心分離の実行時には、鉛直軸廻りに回転する円筒状回転筒の下部から被処理液を供給すると共に、遠心分離された分離液を前記円筒状回転筒の上部から排出して回収する。そして、例えば円筒状回転筒を洗浄するために遠心分離を停止した際には、円筒状回転筒を第1の横転姿勢に設定して残存する分離液を回収し、さらに円筒状回転筒を第2の横転姿勢に設定してケーシング3から抜き出しする。このように構成したことにより、分離液の回収ロス分が少なく、目的物としての分離液を無駄なく回収することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、竪型遠心分離装置及び遠心分離液の回収方法に関し、特に、目的物が分離液である場合の遠心分離に適した竪型遠心分離装置及び遠心分離液の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遠心分離装置は、回転するボウル内に固形分を含有する被処理液を供給することにより、被処理液に遠心力を付与して固−液分離,液−液分離,或いは固−液−液分離などの目的に応じた分離操作を行うことのできる装置である。遠心分離装置は、分野を問わず各種の産業分野で広く採用されている。
【0003】
遠心分離装置には、鉛直軸を回転軸にしてボウルが回転する竪型遠心分離装置と、水平軸を回転軸にしてボウルが回転する横型遠心分離装置がある。竪型遠心分離装置は、横型に比べて、ボウルを収容するケーシングの気密性を高めた構造であるので、例えば薬品や化学の分野にも適用可能である。しかし、竪型遠心分離装置の場合、ボウルの洗浄作業を行う際の不便性がある。
【0004】
特許文献1は、円筒状回転筒であるボウルから固形物を排出する作業が容易に行える竪型遠心分離装置を開示する。竪型遠心分離装置は、固形物を排出するためにボウルをケーシングから抜き出す場合に、上方に広い空間が必要となる。そのため、装置の設置場所によってはボウルの抜き出しが難しくなる。特許文献1に開示されている竪型遠心分離装置は、ボウルが収容されたケーシングを少なくとも90°まで回転可能な構造とし、ケーシングを水平位置まで横転させてボウルを水平方向に抜き出しする。
【0005】
このように、特許文献1に開示されている竪型遠心分離装置は、ボウルの抜き出しが容易に行える構造である。従って、クリーンルームや無菌室などの制限された空間に設置することが可能であり、食品,薬品,薬品,医療品,バイオ関連分野に好適に使用することができる。
【0006】
しかしながら、目的物が遠心分離された固形分である場合には問題視されなかったが、例えば遠心分離によって分離される液(遠心分離液)が目的物である場合、特許文献1に開示されている竪型遠心分離装置では、ボウルをケーシングから抜き出しする度に、ボウル内に残存する液がロス分となってしまう。例えば、食品,薬品,医療品,バイオ関連分野においては、遠心分離される液の製造単価或いは原価が非常に高額な場合がある。このような場合、遠心分離の実行時に取得される分離液は勿論のこと、遠心分離を停止したときにボウル内に残存する液もできる限り回収したいという要望がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−220750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
すなわち、本発明は、一例として挙げた上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、遠心分離液の回収ロス分が少なく、目的物が遠心分離液である場合に適した竪型遠心分離装置及び遠心分離液の回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る竪型遠心分離装置は、被処理液の供給口が下部側に形成され、遠心分離された分離液の排出口が上部側に形成され、遠心分離の実行時において鉛直軸廻りに回転する円筒状回転筒と、前記円筒状回転筒が鉛直軸廻りに回転可能に収容されるケーシングと、前記ケーシングと円筒状回転筒とが一体的に横転可能に支持する支持装置と、を備え、前記支持装置は、遠心分離終了後に前記円筒状回転筒に残存する分離液を回収する第1の横転姿勢と、前記残存する分離液を回収した後に前記円筒状回転筒を前記ケーシングから抜き出しする第2の横転姿勢と、に設定可能であることを特徴とする。
【0010】
竪型遠心分離装置は、少なくとも第1の横転姿勢に設定したときに円筒状回転筒の上部とケーシングを固定する脱落防止装置をさらに備えていることが好ましい。この場合、脱落防止装置は、横転姿勢にされた円筒状回転筒の胴部をケーシング内で支持すると共に、ケーシング内から抜き出される回転円筒体の胴部がスライドされる支持面を有する胴部支持部材と、前記胴部支持部材の端部に形成され、円筒状回転筒の上端面を係止するL字係止部と、を備える構造とすることが好ましい。
【0011】
円筒状回転筒に残存する分離液を回収する第1の横転姿勢は、円筒状回転筒の上部が少なくとも水平姿勢よりも下方側に傾斜した姿勢であることが好ましい。第1の横転姿勢は、例えば円筒状回転筒が少なくとも120°以上回転された姿勢である。
【0012】
竪型遠心分離装置は、円筒状回転筒が鉛直軸廻りの回転を停止したときに被処理液の供給口を閉鎖するセルフシーリング装置をさらに備えていることが好ましい。この場合、セルフシーリング装置は、円筒状回転筒の下部に周方向に設けられ、円筒状回転筒を径方向に貫通する被処理液の供給孔と、前記供給孔を外側から覆って閉鎖する閉鎖部材と、を有し、遠心分離の実行時に円筒状回転筒が回転したときの遠心力の作用によって前記閉鎖部材が外側に向かって伸長又は移動して前記供給孔を開く構造であることが好ましい。
【0013】
前記竪型遠心分離装置は、分野を問わず各種の産業分野で使用可能であるが、とりわけ製造単価或いは原価が高額となり易い、食品,薬品,薬品,医療品,バイオ関連分野などで使用することが好ましい。その中でも、遺伝子組替え分野での使用が有益である。遺伝子組替え分野での用途としては、例えば遺伝子組替え微生物と、前記微生物によって生成又は分泌された遺伝子組替え物質を含有する液の遠心分離が好ましい。
【0014】
また、本発明に係る遠心分離液の回収方法は、鉛直軸廻りに回転する円筒状回転筒の下部から被処理液を供給すると共に、遠心分離された分離液を前記円筒状回転筒の上部から排出して回収する工程と、前記鉛直軸廻りの回転動作を停止すると共に、前記被処理液の供給を停止する工程と、前記円筒状回転筒を第1の横転姿勢に設定して、残存する分離液を回収する工程と、前記残存する分離液を回収した後に、前記円筒状回転筒を第2の横転姿勢に設定して、前記ケーシングから前記円筒状回転筒を抜き出しする工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る竪型遠心分離装置は、遠心分離の実行時には、鉛直軸廻りに回転する円筒状回転筒の下部から被処理液を供給すると共に、遠心分離された分離液を前記円筒状回転筒の上部から排出して回収する。そして、例えば円筒状回転筒を洗浄するために遠心分離を停止した際には、円筒状回転筒を第1の横転姿勢に設定して残存する分離液を回収し、さらに円筒状回転筒を第2の横転姿勢に設定してケーシングから抜き出しする。このように構成したことにより、本発明に係る竪型遠心分離装置は、分離液の回収ロス分が少なく、目的物としての分離液を無駄なく回収することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の好ましい実施形態に従う竪型遠心分離装置の縦断面図である。
【図2】上記竪型遠心分離装置の正面図である。
【図3】上記竪型遠心分離装置が備えるボウルの縦断面図である。
【図4】上記竪型遠心分離装置が備えるセルフシーリング装置の斜視図である。
【図5】上記竪型遠心分離装置が備える下部軸受の縦断面図である。
【図6】上記ボウルを第1の横転姿勢と第2の横転姿勢に設定した様子を示す。
【図7】上記竪型遠心分離装置に装着される脱落防止装置を示す。
【図8】上記セルフシーリング装置の変形例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施形態による竪型遠心分離装置について、添付図面を参照しながら詳しく説明する。但し、以下に説明する実施形態によって本発明の技術的範囲は何ら限定解釈されることはない。
【0018】
図1は、本実施形態に従う竪型遠心分離装置の縦断面図であり、図2は、竪型遠心分離装置の正面図である。また、図3は、ボウルの縦断面図であり、図4は、セルフシーリング装置の斜視図であり、図5は、下部軸受の縦断面図である。
【0019】
図1及び図2に示すように、本実施形態に従う竪型遠心分離装置1は、鉛直方向に配置された円筒状回転筒であるボウル2と、ボウル2を回転可能に収容する外装体をなすケーシング3と、遠心分離の実行時にボウル2を鉛直軸廻りに回転させる駆動装置としての駆動モータ4と、これらを支持する支持装置5を備えている。
【0020】
ケーシング3は、支持装置5に支持されるケーシング本体31と、このケーシング本体31の上部に脱着可能に設けられる上部ケーシング32を備えている。ケーシング本体31の内壁には、遠心分離の実行時に温度調節を行う温度調節装置33が配置されている。図1には、温度調節装置33の一例として、冷却コイルを配置しているが、加熱コイルであってもよく、また温度調節装置33を省略することもできる。なお、図1に示すケーシング3は、一例として上部に向かうにつれて内径が拡大する形状であるが、ケーシング3の形状がこれに限定されることはない。
【0021】
上部ケーシング32は、遠心分離の実行時において、遠心力の作用によってボウル2の上部側から排出される分離液を受け止めて回収ノズル34へと導く液受け部としての機能を有する。そのため、上部ケーシング32とボウル2の回転軸との隙間は、シール部材(不図示)によってシールされている。回収ノズル34には回収用の配管(不図示)が脱着可能に接続され、この回収用の配管は分離液の貯留タンクに接続されている。また、ボウル2をケーシング3から抜き出したり装置の保守作業を行ったりする際には、上部ケーシング32がケーシング本体31から取り外され、ケーシング本体31の上部側を開放する。後述する図6は、上部ケーシング32を外した状態を示している。
【0022】
ボウル2は、詳しくは図3に示すように、内部が空洞に形成された円筒形の胴部21を有し、下部側に被処理液の供給口22が形成され、上部側の回転軸から偏芯した位置に分離液の排出口23が形成されている。供給口22の下端側は、回転されるボウル2の内壁面と接触しないようにして被処理液の供給ノズル24が内挿されている。さらに、供給口22の上端側は、セルフシーリング装置6を介して胴部21の空洞と連通している。セルフシーリング装置6は、詳しくは後述するように、遠心力の作用によって自己的に被処理液の供給路を開閉する機能を有する。なお、図3からも分かるように、ボウル2には分離された固形分の排出口は設けていない。すなわち、本実施形態の竪型遠心分離装置は、遠心分離の実行時において、目的物である分離液は連続的に排出するが、固形分はボウル2をケーシング3から抜き出して排出するバッチ方式を採用する。ボウル2の寸法及び材質が限定されることはないが、一例として、内径を95〜160mm、長さを457〜720mm、材質をステンレスとすることができる。
【0023】
ボウル2は、脱着手段であるカップリングナット25によって、ベアリングアッセンブリ26の回転軸26aと脱着可能に連結されている。ベアリングアッセンブリ26は、回転ベルト41を通じて駆動モータ4の回転プーリ42と連結されている。従ってボウル2の回転軸の上端は、カップリングナット25と螺合するネジ部27が形成されている。遠心分離の実行時においては、ボウル2とベアリングアッセンブリ26とを連結することによってボウル2が懸架状態に支持され、駆動モータ4の動力によって鉛直軸廻りに回転可能となる。一方、ボウル2をケーシング3から抜き出す際には、カップリングナット25による連結を解除することによって、ボウル2とベアリングアッセンブリ26の連結状態を解除する。その際、本実施形態では、ネジ部27を利用して、ドレインキャップ7が接続される(図3(b)参照)。
【0024】
ドレインキャップ7は、ボウル側のネジ部27と螺合するネジ部71、ボウル2の側周面との気密を確保するシール部材であるO−リング72、ボウル2内の残留液を回収するためのバルブ73を備えており、分離液の排出口23を囲むようにキャッピングする構成である。バルブ73には、排出管であるチューブ74が接続される。このように構成することにより、後述するようにボウル2を横転させた際に、ボウル2内の残留液がこぼれ落ちないようにしている。但し、ドレインキャップ7は、分離液の排出口23を囲むようにキャッピングでき、ボウル2内の残留液を回収するバルブ73を有していればよく、図3に示す構造に限定されることはない。
【0025】
一方、セルフシーリング装置6は、図3及び図4に示すように、ボウル2の供給口22を覆うように配置されるカップ状のシールボディ61を有する。シールボディ61の側周面には、断面が円弧状の溝61aが形成されており、この溝61aに沿って複数の供給孔62が円周上に形成されている。そして、例えばゴム等の伸縮部材で形成されたO−リング63が溝61aに嵌め込まれることによって、これら供給孔62が外周側から塞がれている。また、シールボディ61の内部領域には、各供給孔62に均一に被処理液が分散するように、例えば十字形状の分散部材64が配置される。
【0026】
一方、シールボディ61の外周側には、O−リング63及び分散部材64を装着したシールボディ61をボウル2に固定するためのシールナット65が配置される。シールナット65の外周面にはボウル2への固定用のネジ部65aが形成されている。一方、シールナット65の内周面には、断面が円弧状の溝65bがシールボディ61の溝61aと対向するように形成されている。そして、この溝65bに沿って複数の供給孔66が円周上に形成されている。この溝65bは、O−リング63が脱落するのを防止すると共に、遠心力の作用によってO−リング63が伸長するための空間を形成している。
【0027】
すなわち、伸縮部材で形成されたO−リング63は、通常時にはその収縮力によって供給孔62を塞いでいる。一方、遠心分離の実行時にボウル2が回転されると、遠心力の作用によってO−リング63が外方側に伸長し、供給孔62の閉鎖が解除される。そしてさらに、ボウル2の回転が止まると、復元力によって再び供給孔62を塞ぐセルフシーリング機能を実行する。これにより、ボウル2の回転が停止されると直ちに供給孔62が塞がれ、ボウル内の液がドレインアウトするのを防止している。このような伸縮部材を利用した簡素な構造のセフルシーリング装置6は、例えばボウル2を10000G以上、とりわけ20000Gといった高速回転させる場合に有効である。
【0028】
さらに、ボウル2の回転軸の下端側には、例えばスリーブ部材28が固定配置されている。このスリーブ部材28は、例えばネジ部28aによってボウル2に固定されている。さらに、図5に示すように、スリーブ部材28と摺動するブッシング部材81がケーシング3に固定配置されている。符号82は、ドレインを排出するための排出路である。すなわち、スリーブ部材28とブッシング部材81によって、滑り軸受けからなる下部軸受8が構成され、ボウル2をケーシング3から抜き出すことが可能な構造となっている。なお、スリーブ部材28の材質としては、炭素鋼材が一例として挙げられ、ブッシング部材81の材質としては、黒鉛シートが一例として挙げられる。また、図中の符号83は、カップリングナット25を外した際に、ベアリングアッセンブリ26との連結が解除されたボウル2を受け止める支持部材であり、符号84は、その衝撃を緩和させる弾性部材としてのスプリングである。
【0029】
図1に説明を戻し、ケーシング3とボウル2を一体的に回転可能な支持装置5について説明する。支持装置5は、例えばケーシング3の重心位置の高さにて支持装置5を略水平方向に貫通するシャフト部材51を有する。このシャフト部材51は、ベアリング部材52による軸受け手段によって回転可能に軸支されている。そして、例えばウォームホイルとウォームからなるウォームギア53を介してハンドル54が連結されている。一方、シャフト部材51の他端側は、ケーシング3の側面と一体化又は固定手段55によって固定されている。従って、ハンドル54を回すことによってシャフト部材51が水平軸周りに回転し、これによりケーシング3とボウル2を一体的に回転(横転)させることが可能である。但し、遠心分離の実行時にケーシング3とボウル2が振動することを防止するため、シャフト部材51の上下位置に例えばハンドルナット56による解除可能な固定手段が配置されている。従って、ケーシング3とボウル2を一体的に回転(横転)させる際には、このハンドルナット56を外して固定状態を解除する。
【0030】
既述した特許文献1は、ケーシング3からボウル2を抜き出しするために水平位置(すなわち、90°)まで横転可能にしていたが、本実施形態においては、図6に示すように、遠心分離の停止後に、ボウル2内に残っている残留液を回収する第1の横転姿勢(図6(a)参照)と、残留液の回収後にボウル2をケーシング3から抜き出しする第2の横転姿勢(図6(b)に回転可能なように構成している。第2の横転姿勢は、排出口23が形成されているボウル2の上部が少なくとも水平位置よりも下方側になるように傾斜した姿勢であり、例えばθ=120°以上回転させた姿勢である。また、第2の横転姿勢は、例えば水平位置(すなわち、θ=90°)まで回転させた姿勢である。この場合、第1及び第2の横転姿勢で仮固定する手段(例えば、通りピンなど)を備えていることが好ましい。
【0031】
続いて、本実施形態の竪型遠心分離装置が付帯的に備える脱落防止装置について、図7を参照しながら説明する。図7(a)は、脱落防止装置の一例であるサポートロッドアッセンブリ9をケーシング3に装着した状態を示し、図7(b)は、前記サポートロッドアッセンブリ9の側面図である。
【0032】
図7に示すように、脱落防止装置であるサポートロッドアセンブリ9は、ボウル2の長さ方向に沿って延びる支持面を有するボウル支持板91と、ボウル2の上端を係止して脱落を防止するL字係止部92と、このサポートロッドアッセンブリ9をケーシング3に固定支持するための固定支持部材93を有している。サポートロッドアッセンブリ9は、例えば遠心分離を終了し、カップリングナット25による連結状態を解除し、さらに上部ケーシング32を外した後、ケーシング3内に挿入され、例えばボルト等の固定手段94を用いてケーシング3に固定される。そのとき、ボウル2の胴部がボウル支持板91に接し、且つ、ボウル2の上端がL字係止部92に係止されるように各寸法が設定されている。
【0033】
上記のように構成された竪型遠心分離装置1を用いて遠心分離を行い、目的物である分離液を回収する手順について説明する。なお、竪型遠心分離装置は、分野を問わず各種の産業分野で使用可能であるが、とりわけ製造単価或いは原価が高額となり易い、食品,薬品,薬品,医療品,バイオ関連分野などで使用することが好ましい。その中でも、遺伝子組替え分野での使用が有益である。遺伝子組替え分野での用途としては、例えば遺伝子組替え微生物と、前記微生物によって生成又は分泌された遺伝子組替え物質を含有する液の遠心分離が好ましい。遺伝子組替えの微生物には、体外分泌型と体内生成型がある。前者のものは、そのまま遠心分離して遺伝子組替え物質を含有する液を回収する。一方、後者のものは、微生物を粉砕して遺伝子組替え物質を液中に放出させてから遠心分離を行う。例えば後者の場合の遺伝子組替え薬品は、通常、遺伝子組替え微生物を培養し、遠心分離によって微生物を濃縮し、洗浄し、さらに遠心分離によって微生物を濃縮し、細胞を破砕し、破砕細胞膜(セルデブリス)を分離し、精製工程に送られ精製される。
【0034】
まず、図1に示されるような遠心分離を行える状態とする。そして、ボウル2を鉛直軸廻りに回転させると共に、供給ノズル24を通じてボウル2内に被処理液を供給する。このとき、下部軸受8には潤滑液を供給してもよい。回転されるボウル2内に被処理液が供給されると、遠心力の作用によって固形物と液に分離される。被処理液を供給し続けることにより、遠心力の作用も働いて分離液が排出口23から連続的に排出され、回収ノズル34を介して回収される。一方、固形物は、ボウル2の下部側に蓄積されていく。
【0035】
そして、例えば所定の時間が経過するか、ボウル2内の固形物が所定量蓄積されると、ボウル2の回転を停止すると共に、被処理液の供給を停止する。このとき、既述したセルフシーリング機能が働いて、ボウル2内の液はドレインアウトすることなくボウル2内に貯留される。
【0036】
続いて、ボウル2内の液(残留液)を回収する作業が行われる。まず上部ケーシング32を外し、さらにカップリングナット25を外してドレインキャップ7を装着する。次に、サポートロッドアッセンブリ9を図7のように装着する。その後、ハンドルナット56を外し、ハンドル54を回してケーシング3とボウル2を回転(横転)させて第1の横転姿勢に設定する。そして、例えば図6(a)に示すように、バルブ73に回収チューブ74を接続し、バルブ73を開いて回収容器75に残留液を回収する。
【0037】
残留液の回収が終わると、回収チューブ74をバルブ73から外し、ハンドル54を回して第2の横転姿勢に設定する。そして、ボウル2の先端(上部側)がL字係止部92を乗り越えるまでボウル2を持ち上げ、そのまま略水平方向にボウル2をスライドさせてケーシング3から抜き出す。抜き出されたボウル2は、図示しない荷台によって移送されて固形物の排出及び洗浄作業が行われる。
【0038】
以上のように、本実施形態に従う竪型遠心分離装置は、遠心分離の実行時には、回転するボウル2の上部から分離液を連続的に回収し、遠心分離を停止した際にはボウル2を第1の横転姿勢に設定して残存する分離液を回収し、そしてボウル2を第2の横転姿勢に設定してケーシング3から抜き出しすることが可能な構成である。これにより、ボウル2をケーシング3から抜き出しする度に、ボウル2内に残存する液がロス分となってしまうことがなく、目的物としての分離液を無駄なく回収することが可能となる。
【0039】
このように、本実施形態に従う竪型遠心分離装置は、回収ロス分の発生を抑制することができるので、例えば、食品,薬品,医療品,バイオ関連分野における製造単価或いは原価が非常に高額な分離液を可能な限り回収することが可能となる。特に、近年において開発が盛んに行われている遺伝子組替え分野では液の製造単価が極めて高額になる傾向にあるので、いわゆる一滴でも多く回収することが有効な手段となる。
【0040】
さらに、本実施形態に従う竪型遠心分離装置は、簡素な構造のサポートロッドアセンブリ9で脱落防止装置を実現しているので、自動化することによる装置の高額化を抑え、且つ、作業員が比較的苦労を要せず残留液の回収とボウル2の抜き出しを行うことが可能である。
【0041】
さらに、本実施形態に従う竪型遠心分離装置は、遠心力の作用によって供給孔62を開き、且つ、ボウル2の回転が停止されると速やかに自己作用によって供給孔62を塞ぐセルフシーリング装置6を備えたことにより、残留液がドレインアウトするのを防止し、回収効率を高めることができる。本実施形態に従う竪型遠心分離装置は、ボウル2を抜き出し可能にするため、図5に示したような滑り軸受で下部軸受8を構成している。そのため、残留液をドレインアウトすると、スリーブ部材28やブッシング部材81の削れカスなどが混入して製品として使えなくなる。このような事情により、残留液がドレインアウトするのを防止し、回収効率を高めることができるセルフシーリング装置6は、極めて有効な手段である。
【0042】
次に、セルフシーリング装置の他の構造例について図8を参照しながら説明する。すなわち、図8に示されるように、セルフシーリング装置100は、シールボディ101の側面に複数の供給孔102が形成されており、この供給孔102内に例えば球状の閉鎖部材であるボール103が配置されている。ボール103は、例えばバネ104によって付勢されて供給孔102を塞いでいる。そして、遠心分離の実行時にボウル2が回転されると、遠心力の作用でバネ104の付勢力に抗してボール103が外方側に移動することで供給孔102が開かれる。さらに、供給孔102の内周面側の口径はボール103の直径よりも小さくなるように形成され、外周面側に平面がリング状のストッパ105を配置することでボール103が抜け落ちることを防止した構造となっている。
【0043】
以上、本発明を具体的な実施形態に則して詳細に説明したが、形式や細部についての種々の置換、変形、変更等が、特許請求の範囲の記載により規定されるような本発明の精神及び範囲から逸脱することなく行われることが可能であることは、当該技術分野における通常の知識を有する者には明らかである。従って、本発明の範囲は、前述の実施形態及び添付図面に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載及びこれと均等なものに基づいて定められるべきである。
【符号の説明】
【0044】
1 竪型遠心分離装置
2 ボウル
3 ケーシング
4 駆動モータ
5 支持装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理液の供給口が下部側に形成され、遠心分離された分離液の排出口が上部側に形成され、遠心分離の実行時において鉛直軸廻りに回転する円筒状回転筒と、
前記円筒状回転筒が鉛直軸廻りに回転可能に収容されるケーシングと、
前記ケーシングと円筒状回転筒とが一体的に横転可能に支持する支持装置と、を備え、
前記支持装置は、遠心分離終了後に前記円筒状回転筒に残存する分離液を回収する第1の横転姿勢と、前記残存する分離液を回収した後に前記円筒状回転筒を前記ケーシングから抜き出しする第2の横転姿勢と、に設定可能であることを特徴とする竪型遠心分離装置。
【請求項2】
少なくとも第1の横転姿勢に設定したときに円筒状回転筒の上部とケーシングを固定する脱落防止装置をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の竪型遠心分離装置。
【請求項3】
前記脱落防止装置は、
横転姿勢にされた円筒状回転筒の胴部をケーシング内で支持し、ケーシング内から抜き出される回転円筒体の胴部をスライドさせる支持面を有する胴部支持部材と、
前記胴部支持部材の端部に形成され、円筒状回転筒の上端面を係止するL字係止部と、を備えることを特徴とする請求項2に記載の竪型遠心分離装置。
【請求項4】
前記第1の横転姿勢は、前記円筒状回転筒の上部が少なくとも水平姿勢よりも下方側に傾斜した姿勢であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の竪型遠心分離装置。
【請求項5】
前記第1の横転姿勢は、前記円筒状回転筒が少なくとも120°以上回転された姿勢であることを特徴とする請求項4に記載の竪型遠心分離装置。
【請求項6】
前記円筒状回転筒が鉛直軸廻りの回転を停止したときに前記被処理液の供給口を閉鎖するセルフシーリング装置をさらに備えていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の竪型遠心分離装置。
【請求項7】
前記セルフシーリング装置は、前記円筒状回転筒の下部に周方向に設けられ、円筒状回転筒を径方向に貫通する被処理液の供給孔と、前記供給孔を外側から覆って閉鎖する閉鎖部材と、を有し、
遠心分離の実行時に円筒状回転筒が回転したときの遠心力の作用によって前記閉鎖部材が外側に向かって伸長又は移動して前記供給孔を開くことを特徴とする請求項6に記載の竪型遠心分離装置。
【請求項8】
前記竪型遠心分離装置は、遠心分離の実行時に固形物を排出する排出口が設けられておらず、且つ、目的物が遠心分離によって分離された分離液であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の竪型遠心分離装置。
【請求項9】
前記被処理液は、遺伝子組替え微生物と、前記微生物によって生成又は分泌された遺伝子組替え物質を含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の竪型遠心分離装置。
【請求項10】
鉛直軸廻りに回転する円筒状回転筒の下部から被処理液を供給すると共に、遠心分離された分離液を前記円筒状回転筒の上部から排出して回収する工程と、
前記鉛直軸廻りの回転動作を停止すると共に、前記被処理液の供給を停止する工程と、
前記円筒状回転筒を第1の横転姿勢に設定して、残存する分離液を回収する工程と、
前記残存する分離液を回収した後に、前記円筒状回転筒を第2の横転姿勢に設定して、 前記ケーシングから前記円筒状回転筒を抜き出しする工程と、を含むことを特徴とする遠心分離液の回収方法。
【請求項11】
前記被処理液は、遺伝子組替え微生物と、前記微生物によって生成又は分泌された遺伝子組替え物質を含有するであることを特徴とする請求項10に記載の遠心分離液の回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−31152(P2011−31152A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−178754(P2009−178754)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(591162022)巴工業株式会社 (32)
【Fターム(参考)】