説明

端子圧着電線の製造方法、端子圧着電線、端子圧着装置

【課題】引張強度及び接触抵抗をより高性能に両立させること。
【解決手段】圧着端子5の導体圧着部7が、電線2の端部で露出される導体部2aに圧着された端子圧着電線の製造方法であって、(a)導体部2aの温度より導体圧着部7の温度の方が相対的に高くなるように、導体部2aと導体圧着部7との間に温度差を発生させる工程と、(b)導体部2aに対して導体圧着部7を圧着する工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
電線に端子を圧着する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電線に端子を接続する方法として圧着接続がある。例えば、U字型の導体圧着部(ワイヤーバレル)を有する圧着端子について、導体圧着部を塑性変形させて電線の導体部に圧着接続する方法がある。このような電線に対する圧着端子の圧着接続の技術分野では、信号線に流される電流値の微小化に伴い、電線の導体部と圧着端子の導体圧着部との接続抵抗を小さくすることが要求されている。
【0003】
圧着接続性能の指標として接触抵抗の他に引張強度があり、圧着接続の際には、引張強度と接触抵抗との兼合いが重要となっている。この引張強度及び接触抵抗は、電線の導体部に対して圧着される導体圧着部の圧着後の高さ(クリンプハイト)を変化させることにより、調整することができる。ここで、引張強度は、端子が圧着された電線の導体部に関する、引張試験における破断時又は引き抜け時の引張応力を指し、クリンプハイトが低すぎると導体部の断面積が小さくなって低下する。また、クリンプハイトが高すぎると端子と電線の固着力が低下する。
【0004】
なお、電線と端子との間の電気接続性能を向上させるための技術として、特許文献1に開示のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−152051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記接触抵抗、引張強度には、それぞれについて望ましい性能を得るための最適なクリンプハイトが存在する。しかしながら、一般的には、接触抵抗の望ましい値(最低値)を呈するポイントと引張強度の望ましい値(最大値)を呈するポイントとは、異なるクリンプハイトとなる。すなわち、接触抵抗の最低値が得られるクリンプハイトで圧着を行うと、導体圧着部が圧着された導体部の断面積が減少して引張強度が低下する恐れがある。逆に、引張強度の最大値が得られるクリンプハイトで圧着を行うと、接触抵抗が大きくなる恐れがある。そこで、安定した性能を得るためには、接触抵抗と引張強度との双方が許容(設計)範囲内に収まる妥協範囲(例えば電線断面積が圧着前の70〜90%となる範囲)を圧着特性の適正条件として採用し、クリンプハイトを決定することが必要であった。しかしながら、信号線に流される電流値の微小化に伴い、接触抵抗及び引張強度をより高性能に両立させることが要求される場合、所望の性能を得ることが困難であった。
【0007】
そこで、本発明は、引張強度及び接触抵抗をより高性能に両立させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様に係る端子圧着電線の製造方法は、メッキ処理された圧着端子の導体圧着部が、電線の端部で露出される導体部に圧着された端子圧着電線の製造方法であって、(a)前記導体部の温度より前記導体圧着部の温度の方が相対的に高くなるように、前記導体部と前記導体圧着部との間に温度差を発生させる工程と、(b)前記導体部に対して前記導体圧着部を圧着する工程とを備える。
【0009】
第2の態様に係る端子圧着電線の製造方法は、第1の態様に係る端子圧着電線の製造方法であって、前記工程(a)は、前記圧着端子のメッキが溶融しない温度範囲で前記導体圧着部を加熱する工程(a1)を有する。
【0010】
第3の態様に係る端子圧着電線の製造方法は、第1又は2の態様に係る端子圧着電線の製造方法であって、前記工程(a)は、前記導体部を冷却する工程(a2)を有する。
【0011】
第4の態様に係る端子圧着電線は、圧着端子の導体圧着部が、電線の端部で露出される導体部に圧着された端子圧着電線であって、前記導体部の温度より前記導体圧着部の温度の方が相対的に高くなるように、前記導体部と前記導体圧着部との間に温度差が付与された状態で、前記導体部に対して前記導体圧着部が圧着されることにより、圧着後に、前記導体部が膨張変形或いは前記導体圧着部が収縮変形した状態で、前記導体圧着部が前記導体部に対して圧着接続されている。
【0012】
第5の態様に係る端子圧着装置は、メッキ処理された圧着端子の導体圧着部を、電線の端部で露出される導体部に圧着する端子圧着装置であって、前記導体圧着部を前記導体部に圧着可能な圧着金型と、前記導体部の温度より前記導体圧着部の温度の方が相対的に高くなるように、前記導体部と前記導体圧着部との間に温度差を発生させる温度調節部とを備えている。
【0013】
第6の態様に係る端子圧着装置は、第5の態様に係る端子圧着装置であって、前記温度調節部は、前記圧着端子のメッキが溶融しない温度範囲で、前記導体圧着部を加熱可能な加熱機構部を有する。
【0014】
第7の態様に係る端子圧着装置は、第6の態様に係る端子圧着装置であって、前記圧着金型は、前記導体圧着部を載置状に支持可能な下金型と、前記下金型に対して接離移動可能に配設され、前記下金型上に載置状に支持される前記導体圧着部を前記下金型との間で前記導体部に圧着可能な上金型とを有し、前記加熱機構部は、前記上金型を加熱可能に構成され、前記上金型が前記下金型上に載置状に支持された前記導体圧着部に接触することにより、前記導体圧着部を加熱可能な第1の加熱機構部を有する。
【0015】
第8の態様に係る端子圧着装置は、第6又は7の態様に係る端子圧着装置であって、前記圧着金型は、前記導体圧着部を載置状に支持可能な下金型と、前記下金型に対して接離移動可能に配設され、前記下金型上に載置状に支持される前記導体圧着部を前記下金型との間で前記導体部に圧着可能な上金型とを有し、前記加熱機構部は、前記下金型を加熱可能に構成され、前記下金型上に載置状に支持される前記導体圧着部を加熱可能な第2の加熱機構部を有する。
【0016】
第9の態様に係る端子圧着装置は、第6〜8の態様のいずれか一態様に係る端子圧着装置であって、前記圧着端子を、前記導体圧着部を前記導体部に対して圧着する圧着位置に送給可能な端子送給機構部をさらに備え、前記加熱機構部は、前記端子送給機構部に送給されている前記圧着端子の前記導体圧着部を加熱可能な第3の加熱機構部を有する。
【0017】
第10の態様に係る端子圧着装置は、第5〜9の態様のいずれか一態様に係る端子圧着装置であって、前記温度調節部は、前記導体部を冷却可能な冷却機構部を有する。
【0018】
第11の態様に係る端子圧着装置は、第10の態様に係る端子圧着装置であって、前記冷却機構部は、前記電線の前記導体部を収容可能な導体収容穴部が形成されている本体部と、前記導体収容穴部内に冷却された窒素を供給する窒素供給部と、前記導体収容穴部内に供給された前記冷却された窒素を、前記導体収容穴部から排出可能な窒素排出部とを有し、前記冷却機構部の前記窒素供給部と前記窒素排出部とは、前記冷却された窒素が、前記導体収容穴部内に収容される前記導体部の長手方向に沿って前記導体収容穴部内を流動するように構成されている。
【発明の効果】
【0019】
第1の態様に係る端子圧着電線の製造方法によると、導体部より導体圧着部の温度の方が相対的に高くなるように、導体部と導体圧着部の間に温度差を発生させる。このため、圧着後に導体部及び導体圧着部が常温に戻るにつれて、導体部と導体圧着部との間の温度差により、導体部が導体圧着部に密着する方向に膨張変形、或いは、導体圧着部が導体部に密着する方向に収縮変形する。これにより、引張強度及び接触抵抗をより高性能に両立させることができる。
【0020】
第2の態様に係る端子圧着電線の製造方法によると、導体圧着部を加熱するため、導体部と導体圧着部との間に温度差を発生させることができる。そして、加熱により膨張した導体圧着部は、圧着後に収縮して導体部との間の接触抵抗を小さくすることができる。また、圧着端子のメッキが溶融しない温度範囲で加熱するため、安定して接触抵抗を小さくすることができる。
【0021】
第3の態様に係る端子圧着電線の製造方法によると、導体部を冷却するため、導体部と導体圧着部との間に温度差を発生させることができる。そして、冷却により収縮した導体部は、圧着後に膨張して導体圧着部との間の接触抵抗を小さくすることができる。
【0022】
第4の態様に係る端子圧着電線によると、導体部より導体圧着部の温度の方が相対的に高くなるように、導体部と導体圧着部の間に温度差が付与された状態で圧着が行われ、導体部が膨張変形或いは導体圧着部が収縮変形している。つまり、導体部が導体圧着部に密着する方向に膨張変形、或いは、導体圧着部が導体部に密着する方向に収縮変形している。このため、引張強度及び接触抵抗をより高性能に両立させることができる。
【0023】
第5の態様に係る端子圧着装置によると、導体部より導体圧着部の温度の方が相対的に高くなるように、温度調節部により導体部と導体圧着部の間に温度差を発生させるように構成されている。このため、圧着後に導体部及び導体圧着部が常温に戻るにつれ、導体部と導体圧着部との間の温度差により、導体部が導体圧着部に密着する方向に変形、或いは、導体圧着部が導体部に密着する方向に収縮変形する。これにより、引張強度及び接触抵抗をより高性能に両立させることができる。
【0024】
第6の態様に係る端子圧着装置によると、加熱機構部により、導体圧着部を加熱することができるため、導体部と導体圧着部との間に温度差を発生させることができる。そして、加熱により膨張した導体圧着部は、圧着後に収縮して導体部との間の残留応力から得られる接触力を向上させることができる。また、温度調節部は、圧着端子のメッキが溶融しない温度範囲で加熱するため、安定して接触抵抗を小さくすることができる。
【0025】
第7の態様に係る端子圧着装置によると、第1の加熱機構部が上金型を加熱し、上金型が下金型上に載置状に支持される導体圧着部に接触することにより導体圧着部を加熱するように構成されている。このように、上金型が導体圧着部に接触した位置から加熱が開始されるため、導体部に対する熱伝導を抑制することができる。これにより、より確実に導体部と導体圧着部との間に温度差を発生させて、接触抵抗を小さくすることができる。
【0026】
第8の態様に係る端子圧着装置によると、第2の加熱機構部が下金型を加熱し、下金型上に載置状に支持される導体圧着部を加熱するように構成されているため、圧着端子が載置状に支持されている比較的長期間に導体圧着部を加熱することができる。これにより、安定して導体部と導体圧着部との間に温度差を発生させることができ、接触抵抗を小さくすることができる。
【0027】
第9の態様に係る端子圧着装置によると、第3の加熱機構部が、端子送給機構部に送給されている圧着端子の導体圧着部を加熱するように構成されているため、導体圧着部が圧着位置に搬送されるまでの比較的長い期間、導体圧着部を加熱可能である。これにより、安定して導体部と導体圧着部との間に温度差を発生させることができ、接触抵抗を小さくすることができる。
【0028】
第10の態様に係る端子圧着装置によると、冷却機構部により導体部を冷却することができるため、導体部と導体圧着部との間に温度差を発生させることができる。そして、冷却により収縮した導体部は、圧着後に膨張して導体圧着部との間の接触抵抗を小さくすることができる。
【0029】
第11の態様に係る端子圧着装置によると、冷却機構部は、冷却された窒素が導体収容穴部内に収容される導体部の長手方向に沿って導体収容穴部内を流動するように構成されているため、より確実に導体部を冷却することができる。これにより、安定して導体部と導体圧着部との間に温度差を発生させることができ、接触抵抗を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】電線及び圧着端子を示す斜視図である。
【図2】電線に圧着端子を圧着した状態を示す図である。
【図3】図2のIII−III線断面図である。
【図4】端子圧着装置の概略正面図である。
【図5】端子圧着装置の概略正面図である。
【図6】第1の加熱機構部を示す図である。
【図7】第2の加熱機構部を示す図である。
【図8】第3の加熱機構部を示す図である。
【図9】第4の加熱機構部を示す図である。
【図10】第1の冷却機構部の概略全体図である。
【図11】図10のXI−XI線断面図である。
【図12】端子圧着処理における冷却工程の位置づけを示す図である。
【図13】第2の冷却機構部を示す図である。
【図14】圧着動作を示す図である。
【図15】圧着動作を示す図である。
【図16】圧着動作を示す図である。
【図17】圧着動作を示す図である。
【図18】圧着動作を示す図である。
【図19】導体部及び導体圧着部に作用する残留応力から得られる接触力を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
<1.圧着端子及び電線>
まず、端子圧着電線の製造方法、端子圧着装置の対象となる圧着端子5及び電線2について説明する(図1〜3参照)。本端子圧着装置が対象とする圧着端子5及び電線2は、自動車のワイヤーハーネス等に組込まれるものである。
【0032】
電線2は、導体部2aの外周部を被覆するように被覆部2bが形成された構成である(図1、図2の二点鎖線部分)。導体部2aは、軟銅、硬銅、ステンレス鋼、アルミニウム等の導電性材料により形成されている。この導体部2aは、単芯線でも、複数本の素線を撚って構成された撚り線であってもよい(ここでは図3に示すように後者)。被覆部2bは、樹脂等の絶縁材料、ここではポリ塩化ビニルにより形成されている。
【0033】
端子圧着装置に供給される電線2は、調尺、切断された後、その端部で所定長の被覆部2bが皮剥きされて導体部2aの端部が所定長露出されている(図1参照)。
【0034】
圧着端子5は、接続部6と圧着部とが長手方向に連続して形成された端子である。ここでは、圧着部が、導体圧着部7と被覆圧着部8とを有している例で説明する。圧着端子5は、黄銅、銅合金等の導電性を有する板材を適宜打抜き、屈曲加工すること等により形成されている。この圧着端子5は、メッキ(ここでは、スズメッキ)処理が施されているものとする。もっとも、圧着端子5は、スズメッキの他にも、亜鉛メッキ、金メッキ等のメッキ処理が施されていてもよい。
【0035】
接続部6は、他の導電性部材に対して接続される部分である、より具体的には、圧着端子5がコネクタ端子である場合、接続部6は、略長方形板状或いはピン状等のオス端子接続部、又は、略角筒状等のメス端子接続部に形成されている。ここでは、接続部6が略角筒状のメス端子接続部である例で説明する。他にも、接続部6は、圧着端子5がネジ止め等により他の導電性部材に接続可能な略円環状等に形成されていてもよい。
【0036】
導体圧着部7は、接続部6と連続する細長板状に形成された底部7aの両側部に対向する一対の導体圧着片7bが設けられ、圧着端子5の長手方向に直交する断面視において略U字形状に形成されている。導体圧着部7はワイヤーバレルとも呼ばれる。もっとも、導体圧着部7は、断面視略U字形状の形態に限られず、円筒形、角筒型に形成されていてもよい。
【0037】
また、被覆圧着部8は、底部7aと連続する細長板状に形成された底部8aの両側部に対向する一対の被覆圧着片8bが設けられ、圧着端子5の長手方向に直交する断面視において略U字形状に形成されている。この被覆圧着部8はインシュレーションバレルとも呼ばれる。
【0038】
そして、圧着端子5を電線2に圧着する際には、電線2の導体部2aを一対の導体圧着片7bの間に配設すると共に、被覆部2bの端部を一対の被覆圧着片8bの間に配設する(図1参照)。この状態で、一対の導体圧着片7bを内側かつ底部7a側に向けて変形させることにより、導体圧着部7が導体部2aに対して圧着され、機械的かつ電気的に接続される(図2参照)。図3は、導体部2aに対して導体圧着部7が圧着された状態を示す断面図である。また、一対の被覆圧着片8bを内側かつ底部8aに向けて変形させることにより、被覆圧着部8が被覆部2bに対して圧着され、機械的に接続される。図2には、電線2に対して圧着端子5が圧着された端子圧着電線1を示している。
【0039】
端子圧着電線1において、導体部2aに対する導体圧着部7の圧着性能として引張強度及び接触抵抗がある。当該引張強度は、完成した端子圧着電線1において、導体圧着部7が圧着された導体部2aに関する、引張試験における破断点の引張応力を指している。また、接触抵抗とは、導体部2aの素線同士の接触面及び導体圧着部7と導体部2aとの接触面における電気抵抗である。
【0040】
上記引張強度及び接触抵抗は、クリンプハイトを変化させることにより調節できるが、一般的に、引張強度と接触抵抗とでは最適値を呈するポイントが異なる。このため、クリンプハイトを下げて接触抵抗を小さくしようとすると、導体部2aの断面積が小さくなって引張強度が低下する恐れがある。また、引張強度を確保するようにクリンプハイトを決定すると、接触抵抗が大きくなる恐れがある。
【0041】
そこで、発明者は、接触抵抗には導体圧着部7と導体部2aとの接触荷重(残留応力から得られる接触力)が影響することに着目し、高い引張強度を呈するようなクリンプハイトで圧着を行ったうえで、小さい接触抵抗を得られるように残留応力から得られる接触力を向上させる圧着について検討した。そして、発明者は、導体圧着部7及び導体部2aの熱膨張或いは熱収縮を利用して端子圧着電線1を製造することを考えた。
【0042】
上記技術的思想に基づいて製造される本端子圧着電線1は、導体部2aの温度より導体圧着部7の温度の方が相対的に高くなるように、導体部2aと導体圧着部7との間に温度差が付与された状態で、導体部2aに対して導体圧着部7が圧着される。これにより、圧着後に、導体部2aが膨張変形或いは導体圧着部7が収縮変形した状態で導体圧着部7が導体部2aに圧着接続されている。より具体的には、導体部2aが常温より低い温度に冷却されて圧着されることにより、圧着後に導体部2aが導体圧着部7に密着する方向に膨張変形している。また、導体圧着部7が常温より高い温度に加熱されて圧着されることにより、圧着後に導体圧着部7が導体部2aに密着する方向に収縮変形している。つまり、端子圧着端子1は、導体部2aと導体圧着部7とが互いに密着するように作用する力がより大きく働くように圧着されている。ここで、常温とは、端子圧着電線1の製造場所の温度である。
【0043】
このような圧着後の導体部2a或いは導体圧着部7の変形により、導体部2aと導体圧着部7との間の残留応力から得られる接触力を向上させることができる。すなわち、導体部2aと導体圧着部7との間の接触抵抗を小さくすることができる。また、クリンプハイトを低くせずに接触抵抗を小さくしているため、圧着後の導体部2aの断面積が小さくなることを抑制でき、引張強度の低下を抑制できる。以上のように、導体部2aあるいは導体圧着部7が変形する作用により、本端子圧着電線1は、引張強度の低下を抑制すると共に接触抵抗を小さくでき、引張強度と接触抵抗とをより高性能に両立させることができる。
【0044】
なお、後述する端子圧着電線の製造方法、端子圧着装置が対象とする圧着端子5は、上記形態に限定されるものではなく、種々の圧着端子を適用することができる。例えば、本端子圧着電線の製造方法、端子圧着装置は、被覆圧着部8を有しない圧着端子、圧着部(導体圧着部7)が筒型の圧着端子の圧着処理にも適用可能である。以下の端子圧着電線の製造方法、端子圧着装置の説明においては、圧着端子が、接続部6と断面視略U字形状の導体圧着部7と被覆圧着部8とを有する圧着端子5である例で説明する。
【0045】
この圧着端子5は、端子圧着に際して、一つずつ供給されてもよいし、連鎖状に複数連結された形態で供給されてもよい。後述する端子圧着装置では、後者を採用しており、複数の圧着端子5が細長帯状の連結部9に対して長手方向に等間隔で並列状に連結された形態で供給される(図4参照)。このような連鎖状の複数の圧着端子5は、1つの板状部材から打抜き、屈曲加工により一体形成することができる。
【0046】
<2.端子圧着電線の製造方法>
上記電線2に対して圧着端子5を圧着した端子圧着電線1の製造方法について説明する。
【0047】
端子圧着電線1の製造方法は、導体部2aの温度より導体圧着部7の温度の方が相対的に高くなるように、導体部2aと導体圧着部7との間に温度差を発生させる工程(a)と、導体部2aに対して導体圧着部7を圧着する工程(b)とを備えている。
【0048】
工程(a)は、少なくとも圧着完了時に導体部2aと導体圧着部7との間に温度差が生じているように、導体部2aと導体圧着部7との間に温度差を発生させるようになっている。より具体的には、導体部2aと導体圧着部7との圧着前或いは圧着期間に、導体部2aと導体圧着部7との間に温度差を発生させるとよい。ここで、圧着前とは、導体圧着部7に対して圧縮力を作用させる前の状態を指し、圧着期間とは、導体圧着部7に対して圧縮力を作用させてから導体圧着部7が導体部2aに接触して導体部2aを圧縮変形させるまでの状態を指す。つまり、工程(a)及び工程(b)の順序としては、工程(a)の後に工程(b)が行われてもよいし、工程(a)と工程(b)とが同時期に行われてもよい。
【0049】
この工程(a)は、導体圧着部7を加熱する工程(a1)と、導体部2aを冷却する工程(a2)とを有している。
【0050】
工程(a1)では、常温より高く、圧着端子5のメッキが溶融しない温度範囲で導体圧着部7を加熱する。より具体的には、加熱の上限温度は、スズメッキ処理された圧着端子5のスズメッキの融点である230℃より低い温度に設定する。
【0051】
ところで、特開平9−263992号公報には、圧着端子5の製造に用いられるのと同様のスズメッキ鋼板のリフロー処理について開示されている。このリフロー処理においては、スズメッキの融点より若干低い約200℃までの温度に予熱している。そして、実施例においては、ライン速度、装置停止時の過加熱を防止することを考慮して、熱媒体温度を200度として予熱温度を150℃に設定している。
【0052】
本実施形態では、加熱の上限温度を、圧着端子5のバネ特性の維持の観点から、200℃より低く設定する。さらに、上記ライン速度低下及び装置停止時の過加熱を防止する観点からは、150℃を加熱の上限温度とすると良い。なお、上限温度150℃とすることにより、スズメッキの軟化を避けることもできると考えられる。そして、導体部2aと導体圧着部7との間により高い温度差を発生させるという観点も含めると、導体圧着部7を常温より50℃高い温度〜150℃の範囲に加熱するとよい。例えば、端子圧着電線1の製造場所の温度が15℃〜28℃の温度範囲に管理されている場合、加熱温度は78℃〜150℃の範囲で設定するとよい。
【0053】
もっとも、圧着端子5がスズメッキ以外のメッキ処理を施されたものである場合、メッキ材料に応じて、メッキ材料の融点、導体部2aと導体圧着部7との温度差等の観点から、実験的、経験的に加熱の温度範囲を決定すればよい。
【0054】
工程(a1)で導体圧着部7を加熱する方法としては、例えば、導体圧着部7に対してセラミックヒーター等の発熱部材を接触させて導体圧着部7の温度を上昇させる方法を採用することができる。他にも、導体圧着部7に対して熱風を噴射して温度上昇させる方法、或いは、予め圧着端子5自体を加熱媒体が収容された加熱槽で温度上昇させる方法でもよい。加熱槽を使用する場合、圧着端子5全体が加熱されるため、被覆圧着部8が接触する被覆部2bが溶融しない温度に設定するとよい。
【0055】
また、工程(a2)では、常温より低く、導体部2aの冷却に伴って導体部2aに被覆されている被覆部2bが脆化温度まで冷却されないような温度範囲で導体部2aを冷却する。より具体的には、例えば、脆化温度が−70℃のポリ塩化ビニル製の被覆部2bを有する電線2の場合、−70℃より高い温度範囲で導体部2aを冷却するとよい。導体部2aと導体圧着部7との間により高い温度差を発生させるという観点も含めると、導体部2aを常温より50℃低い温度〜−70℃までの範囲に冷却するとよい。例えば、端子圧着電線1の製造場所の温度が15℃〜28℃の温度範囲に管理されている場合、冷却温度は−35℃〜−70℃の範囲で設定するとよい。
【0056】
工程(a2)で導体部2aを冷却する方法としては、例えば、冷媒等で冷却された部材、ペルチェ素子等を接触させて導体部2aの温度を下降させる方法を採用することができる。他にも、導体部2aを冷却媒体が収容された冷却槽で温度下降させる方法、冷却した窒素を導体部2aに噴射して温度下降させる方法でもよい。
【0057】
より大きい温度差を得るという観点と圧着端子5及び電線2の性能劣化を防ぐ観点から言うと、工程(a)全体としては、導体部2aと導体圧着部7との温度差を50℃〜200℃とするとよい。より好ましくは、導体部2aを−50℃に冷却すると共に、導体圧着部7を150℃に加熱して、温度差を200℃にするように温度調節を行うとよい。
【0058】
なお、上記工程(a1)と工程(a2)とは、どちらか一工程が行われても、両工程が行われてもよいし、両工程が行われる場合には、各工程が順(前後不問)に行われても、同時期に行われてもよい。
【0059】
工程(b)では、まず、圧着端子5と電線2とを、導体部2aが一対の導体圧着片7bの間に配設されると共に、被覆部2bの先端部が一対の被覆圧着片8bの間に配設されるような位置関係で保持する。このとき、底部7a及び一対の圧着片7bに対して隙間をあけるように導体部2aを保持することが好ましい。すなわち、加熱された又はこれから加熱される導体圧着部7と、冷却された又はこれから冷却される導体部2aとが接触して熱伝導することにより導体圧着部7と導体部2aとの温度差が小さくならないようにするとよい。圧着端子5及び電線2の保持は、作業者が手で行ってもよいし、電動チャック等の保持機構により行ってもよい。
【0060】
次に、導体圧着部7を一対の導体圧着片7bの間に配設されている導体部2aに圧着する。より具体的には、一対の導体圧着片7bを、内側且つ底部7a側に向けて変形させる。これにより、導体圧着部7は、導体部2aに対して電気的且つ機械的に圧着接続される。圧着された導体圧着部7は、一対の導体圧着片7bが隣接して並ぶように、内側かつ底部7aに向けて湾曲状に変形した形状となる。
【0061】
さらに、被覆圧着部8を一対の被覆圧着片8bの間に配設されている被覆部2bに圧着する。より具体的には、一対の被覆圧着片8bを、内側且つ底部8a側に向けて変形させる。これにより、被覆圧着部8は、被覆部2bに対して機械的に圧着接続される。
【0062】
導体圧着部7と被覆圧着部8との圧着は、どちらかが先に行われても同時に行われてもよい。また、当該圧着は、圧着用のプライヤー等により手動で行われてもよいし、後述するような専用の端子圧着装置により自動的に行われてもよい。
【0063】
上記端子圧着電線の製造方法によると、導体部2aより導体圧着部7の温度の方が相対的に高くなるように導体部2aと導体圧着部7の間に温度差を発生させている。より具体的には、導体圧着部7を常温より高い温度に加熱して膨張した状態で圧着することにより、圧着後に常温に戻るにつれて収縮変形する。また、導体部2aを常温より低い温度に冷却して収縮した状態で圧着することにより、圧着後に常温に戻るにつれて膨張変形する。つまり、導体部2aの外周部を覆うように圧着された導体圧着部7が収縮変形することにより導体部2aに対して密着する方向に力が作用すると共に、導体部2aが膨張変形することにより導体圧着部7に対して密着する方向に力が作用する。これにより、導体部2aと導体圧着部7との間の残留応力から得られる接触力が向上して圧着完了時より強固に接続される。すなわち、温度差を設けない場合と比較して、クリンプハイトを低くするのと同様に高い残留応力から得られる接触力を得て接触抵抗を小さくすることができるため、導体圧着部7が圧着された部分の導体部2aの断面積を比較的大きく保つことができる。そして、結果的に、引張強度及び接触抵抗を高性能に両立させることができる。
【0064】
この端子圧着電線の製造方法は、上記圧着端子5だけでなく、被覆圧着部8を有しない圧着端子または筒状の導体圧着部を有する圧着端子についても、電線2に対して圧着して端子圧着電線を製造することができる。
【0065】
筒状の導体圧着部を有する圧着端子を圧着する場合にも、電線2の導体部2aを冷却すると共に導体圧着部を加熱してから圧着を行うとよい。例えば、このような圧着端子の圧着は、導体部2aを導体圧着部の内部に挿入し、導体圧着部の周方向複数箇所で導体圧着部をカシメて行うことができる。これにより、圧着後、導体部2aが常温に戻るにつれて膨張変形すると共に、導体圧着部が常温に戻るにつれて収縮変形して、導体部2aと導体圧着部7との間の残留応力から得られる接触力を向上させて接触抵抗を小さくすることができる。
【0066】
<3.端子圧着装置の構成>
次に、端子圧着電線1の製造に用いる装置の一例として、端子圧着装置10の構成を説明する(図4、図5参照)。
【0067】
端子圧着装置10は、下金型(アンビル)20と、上金型(クリンパ)30と、電線保持部40と、端子送給機構部50と、温度調節部60とを備えている。端子圧着装置10は、電線保持部40に保持される電線2に対して、端子送給機構部50により送給される圧着端子5を、下金型20と上金型30との間でその近接移動により圧着する装置である。さらに、この端子圧着装置10は、温度調節部60により、圧着完了時に電線2の導体部2aより圧着端子5の導体圧着部7の方が相対的に高温になるように温度差を発生させるように構成されている。すなわち、導体部2aと導体圧着部7との温度差による熱膨張、熱収縮変形量の差により、圧着後の導体部2aと導体圧着部7との間の残留応力から得られる接触力を向上させ、接触抵抗を小さくするようにされている。
【0068】
下金型20は、基台28上に固定されており、圧着端子5を載置状に支持可能に構成されている(図4参照)。下金型20は、圧着端子5の導体圧着部7を変形させるための第1下金型22と、被覆圧着部8を変形させるための第2下金型24とを有している(図5参照)。
【0069】
第1下金型22の先端部には、導体圧着部7(底部7a)を載置状に支持可能な第1下側圧着面22aが形成されている。第1下側圧着面22aは、上側に向けて凹となる、載置状に支持される圧着端子5の長手方向に沿った軸周りの弧状周面である(図5、図6参照)。同様に、第2下金型24の先端部には、被覆圧着部8(底部8a)を載置状に支持可能な第2下側圧着面24aが形成されている。そして、第1下金型22と第2下金型24とは、第1下側圧着面22a上に導体圧着部7を載置状に支持した状態で、第2下側圧着面24a上に被覆圧着部8を載置状に支持可能に配設されている。
【0070】
上金型30は、圧着端子5の導体圧着部7を圧着するための第1上金型32と、被覆圧着部8を圧着するための第2上金型34とを有している(図5参照)。
【0071】
第1上金型32は、第1下金型22上に載置状に支持される導体圧着部7を、第1下金型32との間で導体部2aに圧着可能に構成されている。この第1上金型32は、第1下金型22に対向する位置に配設され、モータを含む駆動機構、エアシリンダ、油圧シリンダ等の駆動機構部38により、第1下金型22の上方で、第1下金型22に対して接離移動可能に配設されている(図4、図5参照)。ここでは、後述するように第1上金型32の下降動作を設定位置等に基づいて停止或いは低速化することがあるため、駆動機構部38としてサーボモータを含む駆動機構を採用している。第1上金型32には、先端部から基端部に向けて深さ方向に延びる凹状に第1上側圧着面32aが形成されている。この第1上側圧着面32aの奥側面は、第1下側圧着面22aに対向している(図5参照)。
【0072】
第1上側圧着面32aは、奥部が先端側に向けて凹となる弧状周面を横並びにした形状に形成されると共に、先端側の対向する両内側面が先端側に向けて順次広がるテーパー形状に形成されている(図6参照)。そして、第1下金型22の第1下側圧着面22a上に導体圧着部7を載置状に支持した状態で、第1上金型32を第1下金型22に近接移動させると、一対の導体圧着片7bが第1上側圧着面32aに摺接しつつ内側及び底部7a側に向けて変形するようになっている。
【0073】
また、第2上金型34は、第2上側圧着面34aを有し、第2下金型24に対向する位置で、駆動機構部38により第2下金型24に対して接離移動可能に配設されている(図5参照)。そして、第1下金型22と第1上金型32との間で導体圧着部7を圧着する際、第2上金型34も第2下金型24に対して近接移動して、一対の被覆圧着片8bが第2上側圧着面34aに摺接しつつ変形するようになっている。
【0074】
電線保持部40は、第1下金型22上に載置状に支持される導体圧着部7の一対の導体圧着片7bの間に導体部2aが位置すると共に、第2下金型24上に載置状に支持される被覆圧着部8の一対の被覆圧着片8bの間に被覆部2bが位置するように、電線2を保持可能に構成されている(図4、図5参照)。ここでは、電線保持部40は、導体部2aが圧着端子5(少なくとも導体圧着部7)に対して隙間をあける位置で電線2を保持するようになっている。電線保持部40は、電動チャック機構等を含む一般的な把持機構を採用することができ、電線2の被覆部2bを把持して上記位置で電線2を保持可能であればよい。
【0075】
この電線保持部40は、図示省略の駆動機構に取り付けられているとよい。すなわち、電線保持部40は、調尺した電線2を切断するカッターユニットから電線2を受け取る位置と圧着端子5の圧着位置との間、及び、圧着位置と製品排出位置との間で、把持した電線2を移動可能に構成されているとよい。また、電線保持部40は、保持した電線2を、後述する冷却機構部72の導体収容穴部73に挿入可能なように、駆動機構により、保持する電線2の長手方向にも移動可能にされているとよい(図10、図11参照)。電線保持部40を移動する駆動機構としては、例えば、エアシリンダ、リニアモータ等を含む構成を採用することができる。
【0076】
端子送給機構部50は、圧着端子5を、導体圧着部7が第1下金型22上に載置状に支持され、被覆圧着部8が第2下金型24上に載置状に支持される位置に送給可能に構成されている(図4参照)。ここでは、端子送給機構部50が、連鎖状の複数の圧着端子5を上記位置に順次送給するものである例で説明する。この端子送給機構部50は、複数の圧着端子5の基端部(被覆圧着部8側端部)が細長帯状の連結部9に対して長手方向に等間隔で並列状に連結された形態で、圧着端子5を送給する構成である。
【0077】
より具体的には、端子送給機構部50は、基台28上に配設され、連鎖状の複数の圧着端子5を圧着端子5の1ピッチ毎に所定の送り方向Pに間欠送りする構造とされている。圧着端子5を1ピッチ毎に間欠送りする機構としては、例えば、図4の仮想線で示されるように、各圧着端子5に係脱自在な送り爪部材52が、各圧着端子5の移動軌跡上に出退自在に突出して、送り方向Pに所定距離移動することにより、圧着端子5を送り爪部材52で引っ掛けて送り方向Pに1ピッチ分間欠送りする構造とされている。この送り爪部材52は、駆動機構部38による上金型30の昇降動作を所定のカム又はリンク機構により送り方向Pに伝達し、上金型30の動作と連動して駆動されるように構成されているとよい。ここでは、端子送給機構部50は、連鎖状の複数の圧着端子5を載置状に支持可能な送給台54を有し、送り爪部材52により間欠送りされる連鎖状の複数の圧着端子5が送給台54上を滑って送給されるように構成されている。
【0078】
なお、端子送給機構部50は、駆動機構部38とは別のエアシリンダ等のアクチュエータで送り込む機構であってもよい。また、複数の圧着端子5がその長手方向に連結された形態で供給され、長手方向寸法を1ピッチとして間欠送りしてもよいし、圧着端子5を単体で送給する構成(例えば、一つずつ把持して送給する構成)であってもよい。
【0079】
そして、端子送給機構部50により下金型20上に載置状に支持される位置まで送給された圧着端子5は、図示省略の切断刃により連結部9から切り離されるように構成されているとよい。
【0080】
この端子圧着装置10は、駆動機構部38及び電線保持部40を、制御部80により動作制御するように構成されている。制御部80は、図示されないCPU、RAM、ROM、入出力回路等を有する一般的なコンピュータである。制御部80は、第1上金型32及び第2上金型34を昇降移動させるように、駆動機構部38に対して制御可能に接続されている。また、制御部80は、電線2を、把持及び把持解除可能であると共に、カッターユニット位置と圧着位置と製品排出位置とで移動可能かつ電線2の長手方向に移動可能なように、電線保持部40に対して制御可能に接続されている。さらに、制御部80は、端子送給機構部50が駆動機構部38と別にアクチュエータを備えている場合、圧着端子5を所定間隔で間欠送り可能なように、端子送給機構部50に対して制御可能に接続されているとよい。ここでは、制御部80は、駆動機構部38及び電線保持部40を、同期して動作制御するように構成されている。
【0081】
温度調節部60は、少なくとも圧着完了時に導体部2aの温度より導体圧着部7の温度の方が相対的に高くなるように、導体部2aと導体圧着部7との間に温度差を発生させる構成である。すなわち、温度調節部60は、圧着完了前に導体部2a及び導体圧着部7に対して温度調節を行うように構成されている。導体部2aと導体圧着部7との間に温度差を発生させる方法としては、導体部2aを常温より低い温度に冷却する方法と、導体圧着部7を常温より高い温度に加熱する方法とがある。
【0082】
本温度調節部60は、圧着端子5のメッキが溶融しない温度範囲で、導体圧着部7を加熱可能である。より具体的には、加熱の上限温度は、スズメッキ処理された圧着端子5のスズメッキの融点である230℃より低い温度、好ましくは、圧着端子5のバネ特性の維持の観点から200℃より低く設定されるとよい。さらに、ライン速度低下及び装置停止時の過加熱を防止する観点からは、150℃を加熱の上限温度とすると良い。なお、上限温度150℃とすることにより、スズメッキの軟化を避けることもできると考えられる。そして、導体部2aと導体圧着部7との間により高い温度差を発生させるという観点も含めると、温度調節部60は、導体圧着部7を常温より50℃高い温度〜150℃の範囲に加熱するとよい。例えば、端子圧着電線1の製造場所の温度が15℃〜28℃の温度範囲に管理されている場合、加熱温度は78℃〜150℃の範囲で設定するとよい。
【0083】
また、温度調節部60は、電線2の被覆部2bの脆化温度より高い温度範囲で、導体部2aを冷却可能に構成されている。より具体的には、例えば、脆化温度が−70℃のポリ塩化ビニル製の被覆部2bを有する電線2の場合、より高い温度差を発生させるという観点も含めると、温度調節部60は、導体部2aを常温より50℃低い温度〜−70℃までの範囲に冷却するとよい。例えば、端子圧着電線1の製造場所の温度が15℃〜28℃の温度範囲に管理されている場合、加熱温度は−35℃〜−70℃の範囲で設定するとよい。
【0084】
そして、より大きい温度差を得ると共に圧着端子5及び電線2の性能劣化を防ぐ観点から言うと、温度調節部60は、導体部2aと導体圧着部7との温度差を50℃〜200℃とするとよい。つまり、より好ましくは、導体部2aを−50℃に冷却すると共に、導体圧着部7を150℃に加熱して、温度差を200℃にするように温度調節を行うとよい。
【0085】
上記のように導体部2aと導体圧着部7との間に温度差を発生させるために、温度調節部60は、加熱機構部62と冷却機構部72とを有している(図4、図5参照)。
【0086】
加熱機構部62(第1の加熱機構部62)は、第1上金型32を加熱可能に構成され、第1上金型32が第1下金型22上に載置状に支持された導体圧着部7に接触することにより、導体圧着部7を加熱可能に構成されている(図6参照)。加熱機構部62は、発熱部64と、温度センサ66と、加熱制御部68とを有している。
【0087】
発熱部64は、第1上金型32に接触するように配設され、加熱制御部68に対して直列に導線により接続され、加熱制御部68から導線を通じて電流が流されることにより発熱するように構成されている。ここでは、図6に示すように2本の棒状の発熱部64が第1上金型32に対して挿通された状態で接触するように配設されている。もっとも、発熱部64は、棒状に限られるものではなく板状、筒状等の形状でもよいし、単数本或いは3本以上の複数本配設されていてもよい。また、第1上金型32には温度センサ66が取り付けられ、当該温度センサ66は、加熱制御部68に対して第1上金型32の温度情報を出力可能に接続されている。そして、加熱制御部68は、第1上金型32の温度が設定温度になるように、温度センサ66により取得される温度情報に基づいて発熱部64を発熱させ、第1上金型32を加熱するように構成されている。導体圧着部7を150℃に加熱したい場合には、例えば、第1上金型32を180℃程度まで加熱しておけばよい。
【0088】
上記加熱機構部62としては、一般的なセラミックヒーター等を含む各種加熱装置を採用することができる。
【0089】
そして、加熱機構部62により加熱された第1上金型32は、圧着時に、第1上側圧着面32aが一対の導体圧着片7bに接触することにより、導体圧着部7を加熱する。
【0090】
本端子圧着装置10では、導体圧着部7をより確実に加熱するため、端子圧着時に駆動機構部38による第1上金型32の下降動作を圧着下死点までの途中の位置で停止或いは低速化するように構成されている。より具体的には、加熱された第1上金型32は、第1上側圧着面32aが一対の導体圧着片7bに最初に接触する位置(図15参照)から、導体部2aが圧縮変形される前の位置(図16参照)までの範囲のうち少なくとも一箇所で停止或いは一部の範囲で低速化するように設定されている。つまり、導体圧着部7を設定温度まで温度上昇させると共に、導体部2aの温度を上昇させない範囲(例えば0.5秒間のように設定)で加熱するように停止或いは低速化するとよい。ここでは、第1上金型32を低速化しており、停止するより低速化する方が、再動作時の装置に掛かる負荷を小さくすることができる。より好ましくは、第1上側圧着面32aが一対の導体圧着片7bに最初に接触する位置から導体部2aが圧縮変形される前の位置までの範囲全体で第1上金型32の下降動作が前後の動作速度より低速化されるとよい。なお、低速化する期間の前後の昇降速度は、導体部2aに対して導体圧着部7の熱が伝導されることを抑制できるように速い速度であるとよい。
【0091】
本加熱機構部62を採用する場合、駆動機構部38としてサーボモータを含む構成を採用するとよい。すなわち、上金型30(第1上金型32)の下降速度を低速化する場合には、速度を調節可能なサーボモータが適している。
【0092】
そして、第1上金型32は、停止後或いは低速化期間の終了後、通常の速度で下降移動され、圧着下死点まで移動した(圧着完了)後、すぐに通常速度で上昇移動される。つまり、圧着完了前に、第1上金型32及び加熱された導体圧着部7の熱が導体部2aに伝導することを抑制するため、加熱期間以外では第1上金型32が導体圧着部7に接触する時間をなるべく短くするように構成されている。これにより、圧着完了時における導体圧着部7と導体部2aとの温度差をより確実に維持できる。低速化されるタイミング及び期間或いは位置は、第1上金型32と導体圧着部7との接触により十分に導体圧着部7が加熱され且つ導体圧着部7と導体部2aとの間の熱伝導によりその間の温度差が小さくならないようにするという観点から実験的、経験的に決定されるとよい。そして、低速化されるタイミング及び期間或いは位置は、プログラムにより予め設定され、その設定値に基づいて制御部80が駆動機構部38を制御して、上金型30を昇降動作させるように構成されているとよい。
【0093】
冷却機構部72(第1の冷却機構部72)は、本体部74と、窒素供給部76と、窒素排出部78とを有している(図10、図11参照)。
【0094】
本体部74は、電線2の導体部2aを収容可能な導体収容穴部73が形成されている部材である。導体収容穴部73は、一方側で開口し、直線状に延びる断面視略円形の穴状に形成されている。導体収容穴部73の開口側部分は、電線2を導体収容穴部73内に案内するため、開口側に向けて順次広がったテーパー形状に形成されている。また、テーパー部分の奥側には、導体収容穴部73内に挿入される電線2の被覆部2bの外周部に対して周方向全体に亘って密着可能なゴムパッキン75が設けられている(図11参照)。そして、電線2を、開口を通じて導体収容穴部73内に挿入すると、導体部2aが導体収容穴部73の奥側に配設され、被覆部2bがゴムパッキン75と密着した状態となる。ゴムパッキン75が被覆部2bの外周部に密着した状態で、導体収容穴部73の開口は気密性、水密性を保って閉塞される。
【0095】
なお、電線保持部40は、上述したように、電線2を導体収容穴部73に挿入するため、電線2を保持した状態で電線2の長手方向にも移動可能なようになっている(図10、図11参照)。
【0096】
窒素供給部76は、導体収容穴部73内に冷却された窒素Nを供給可能に構成されている。より具体的には、窒素供給部76は、液体窒素或いは液体窒素を設定温度になるよう気化した窒素Nを、供給管77を通じて導体収容穴部73内に供給可能となっている。ここでは、液体窒素を約−50℃になるよう気化した窒素Nを供給している。供給管77は、先端部が導体収容穴部73のゴムパッキン75より奥側の内部に開口するように、本体部74の外部から導体収容穴部73内に挿通配設されている。
【0097】
窒素排出部78は、導体収容穴部73内に供給された冷却された窒素Nを、導体収容穴部73から排出可能な部分である。より具体的には、窒素排出部78は、管状の部材であり、基端部が導体収容穴部73のゴムパッキン75より奥側の内部に開口するように、導体収容穴部73内から本体部74の外部に挿通配設されている。この窒素排出部78から排出される窒素Nは、外方に放散されてもよいし、窒素供給部76に循環されてもよい。また、窒素排出部78は、導体収容穴部73内に供給された冷却された窒素Nを、強制的に排出するように吸引可能に構成されていてもよい。
【0098】
上記窒素供給部76と窒素排出部78とは、冷却された窒素Nが、導体収容穴部73内に収容される導体部2aの長手方向に沿って導体収容穴部73内を流動するように構成されている(図11参照)。より具体的には、窒素供給部76の供給管77の先端部と窒素排出部78の基端部とは、導体収容穴部73の長手方向において離間した位置に開口するように形成されている。ここでは、窒素供給部76の供給管77の先端部がゴムパッキン75の直近の奥側(好ましくは、被覆部2bの冷却を抑制するように被覆部2bの先端部より奥側)の位置で開口すると共に、窒素排出部78の基端部が導体収容穴部73の奥部の直前の位置で開口するように形成されている。これにより、ゴムパッキン75側から供給される冷却された窒素Nが、ゴムパッキン75側から奥側に向けて流動し、奥側から排出される。
【0099】
もっとも、窒素供給部76の供給管77の先端部及び窒素排出部78の基端部の開口位置は、上記位置関係に限られず、導体収容穴部73の長手方向に離間していれば上記と逆の位置関係でもよい。また、図11では、窒素供給部76の供給管77の先端部及び窒素排出部78の基端部が、導体収容穴部73の長手方向に対して略直交する向きに開口しているが、これに限られず、例えば一方が導体収容穴部73の奥側端面で開口するように構成されていてもよい。
【0100】
また、この冷却機構部72は、上記のように開口から導体収容穴部73に挿入される構成に限られず、電線2を本体部74の側方から配設可能なように、図10の本体部74に付した一点鎖線の位置で導体収容穴部73の長手方向に沿った半割り状にされ、エアシリンダ等のアクチュエータにより開位置と閉位置との間で接離可能に構成されていてもよい。
【0101】
上記のように、冷却機構部72は、冷却された窒素Nが導体収容穴部73内を導体部2aの長手方向に沿って流れるように構成されているため、冷却された窒素Nが導体部2aに対して比較的長期間触れて、導体部2a全体を効率よく冷却することができる。また、導体収容穴部73の開口側部分にゴムパッキン75を設ける構造としているため、ゴムパッキン75が密着している位置より開口側に配設される被覆部2bには冷却された窒素Nが吹きかけられない。これにより、被覆部2bが冷却されて脆化することを抑制することができる。
【0102】
また、この冷却機構部72は、冷却された窒素Nにより導体圧着部7を冷却するため、酸素を使用する場合と比較して圧着端子5の酸化を避けることができ、引火性を低くすることができるという利点もある。
【0103】
この冷却機構部72は、端子圧着の前工程(例えば、圧接機において、カッターユニットと端子圧着装置10との間)に配設され、電線2が調尺切断、皮剥きされてから端子圧着装置10に供給(電線2が下金型20と上金型30との間に移動)されるまでの間に導体部2aを冷却するようにされている(図12参照)。好ましくは、圧着直前、すなわち、導体部2aが導体圧着部7の一対の導体圧着片7b間に配設される直前に冷却可能にされているとよい。
【0104】
上記のような加熱機構部62及び冷却機構部72の組合せにより、温度調節部60は、圧着端子5の導体圧着部7を加熱すると共に電線2の導体部2aを冷却し、圧着完了時に、導体部2aと導体圧着部7との間により大きな温度差(ここでは導体部2aが−50℃、導体圧着部7が150℃で200℃の温度差)を発生させることができる。これにより、導体圧着部7は膨張し、導体部2aは収縮する。この状態で導体圧着部7が導体部2aに圧着されると、圧着後、導体圧着部7は常温まで温度下降しつつ収縮し、導体部2aは常温まで温度上昇しつつ膨張する。すなわち、導体圧着部7は導体部2aに密着する方向に収縮変形し、導体部2aは導体圧着部7に密着する方向に膨張変形する。これにより、圧着直後より、導体圧着部7と導体部2aとの間の残留応力から得られる接触力が向上する。
【0105】
なお、ここでは、温度調節部60は、加熱機構部62と冷却機構部72とを有する構成で説明したが、どちらか一方だけで構成されていてもよい。
【0106】
また、加熱機構部62、冷却機構部72は上記の構成に限られるものではない。以下、加熱機構部62、冷却機構部72の他の形態について説明する。まず、加熱機構部62の他の形態について3つの例を説明する。
【0107】
第2の加熱機構部62aとしては、第1下金型22を加熱可能に構成され、第1下金型22上に載置状に支持される導体圧着部7を加熱可能な構成を採用することができる(図7参照)。この第2の加熱機構部62aは、前述の加熱機構部62と同様構成であり、発熱部64aと温度センサ66aと加熱制御部68aとを有している。そして、温度センサ66aにより取得される第1下金型22の温度情報に基づいて、加熱制御部68aが発熱部64aを発熱させ、第1下金型22を加熱するようになっている。すなわち、第1下金型22上に導体圧着部7が載置状に支持されると、第1下側圧着面22aに底部7aが接触して導体圧着部7が加熱される。
【0108】
第3の加熱機構部62bとしては、端子送給機構部50に送給されている圧着端子5の導体圧着部7を加熱可能な構成を採用することができる(図8参照)。この第3の加熱機構部62bは、前述の加熱機構部62と同様に発熱部64bと温度センサ66bと加熱制御部68bとを有し、端子送給機構部50の送給台54を全体的に或いは部分的に加熱するように構成されている。より具体的には、2本の発熱部64bが送給台54に接触するように配設されると共に温度センサ66bが取り付けられ、温度センサ66bにより取得される送給台54の温度情報に基づいて、加熱制御部68bが発熱部64bを発熱させ、送給台54を加熱するようになっている。これにより、圧着端子5の導体圧着部7は、加熱された送給台54上を滑るように移動され、圧着位置に移動されるまでに加熱される。
【0109】
送給台54は、少なくとも連鎖状の複数の圧着端子5のうち各導体圧着部7の底部7aと接触する部分が、熱伝導性の良い材料により構成され加熱されるようになっているとよい。部分的に加熱する例としては、導体圧着部7の底部7aの移動軌跡に対応する部分に帯状に熱伝導性の良い材料を配設した構成を採用することができる。
【0110】
第4の加熱機構部62cとしては、光を集光して導体圧着部7に照射することにより、導体圧着部7を加熱する構成を採用することができる(図9参照)。より具体的には、凹状球面に形成された反射板64cに光を照射し、反射板64cの反射光を、反射板64cの前方に配設された凸レンズ66cを通じて導体圧着部7に照射することにより、導体圧着部7を加熱可能である。この第4の加熱機構部62cは、下金型20上に載置状に支持された圧着端子5に対して導体圧着部7を加熱するものであってもよいし、圧着位置の上流側で、端子送給機構部50により送給されている圧着端子5に対して導体圧着部7を加熱するものであってもよい。ここで、反射板64cに照射する光の光源は、太陽光でも発光装置でもよい。なお、図9では、光路を破線で模式的に示している。
【0111】
他にも、圧着直前(圧着端子5が下金型20上に載置状に支持された状態或いは端子送給機構部50により送給されている状態)で、導体圧着部7に対してレーザー光を照射して加熱する構成、熱風を噴射して加熱する構成も採用することができる。
【0112】
次に、冷却機構部72の他の形態について説明する。第2の冷却機構部72aとしては、冷却された窒素Nを電線2の導体部2aに対して噴射して、導体部2aを冷却する構成を採用することができる(図13参照)。より具体的には、第2の冷却機構部72aは、液体窒素或いは液体窒素を設定温度になるよう気化した窒素Nを、圧着直前に一定量或いは一定時間導体部2aに対して吹きつけて、導体部2aを冷却するとよい。なお、図13では、噴射される冷却された窒素Nを破線で示している。
【0113】
上記他の加熱機構部62a、62b、62c及び冷却機構部72aは、加熱機構部62及び冷却機構部72と組み合わせて設けることができる。例えば、温度調節部60として加熱機構部62及び62aを設け、導体圧着部7を、加熱機構部62により一対の導体圧着片7b側から加熱すると共に加熱機構部62aにより底部7a側から加熱して、より確実に温度上昇させるように構成することができる。さらに、圧着端子5の送給段階での予備加熱手段として、第3の加熱機構部62bを補助的に設けることもできる。また、加熱機構部62a、62b、62c又は冷却機構部72aを、第1の加熱機構部62又は第1の冷却機構部72の代わりに単独で設けることによっても、導体圧着部7と導体部2aとの間に温度差を発生させる効果を得ることができる。
【0114】
<4.端子圧着装置の動作>
次に、上記構成の端子圧着装置10による端子圧着動作について説明する。
【0115】
以下説明において、初期状態として、連鎖状の複数の圧着端子5が端子送給機構部50の送給台54上にセットされ、調尺切断、皮剥きされた電線2が電線保持部40に保持されているものとする。また、上金型30は、駆動機構部38により下金型20に対して離間した位置に停止されている(図5参照)。
【0116】
まず、端子送給機構部50は、連鎖状の複数の圧着端子5を送り方向Pに1ピッチ分送る。より具体的には、一つの圧着端子5が送り爪部材52で引っ掛けられて連鎖状の複数の圧着端子5全体が送り方向Pに1ピッチ分送られる。これにより、複数の圧着端子5のうち圧着位置側の圧着端子5が、導体圧着部7が第1下金型22の第1下側圧着面22a上に載置状に支持されると共に、被覆圧着部8が第2下金型24の第2下側圧着面24a上に載置状に支持される位置で、下金型20と上金型30との間に配設される(図5参照)。
【0117】
圧着端子5が下金型20上に載置状に支持されると、電線保持部40により、電線2が圧着位置側に移動される。圧着位置に配設される直前に、電線保持部40に保持された電線2について、冷却機構部72により導体部2aを冷却する(図11参照)。より具体的には、電線保持部40により、開口を通じて導体収容穴部73内に電線2を挿入する。このとき、ゴムパッキン75が被覆部2bの先端部の外周部に密着して開口が閉塞され、導体部2aがゴムパッキン75より奥側に配設される。この状態で、冷却された窒素Nが、窒素供給部76により供給管77を通じて導体収容穴部73内に供給される。そして、導体収容穴部73内に供給された冷却された窒素Nは、導体収容穴部73内を長手方向に奥側に向かって流動して窒素排出部78から排出される。冷却された窒素Nが設定時間或いは設定量だけ供給されると、窒素供給部76は冷却された窒素Nの供給を停止して、電線保持部40により電線2を導体収容穴部73から抜出す。これにより、導体部2aは約−50℃に冷却された状態となる。
【0118】
導体部2aの冷却直後に、電線保持部40により、電線2を、導体部2aが導体圧着部7の一対の導体圧着片7b間に配設されると共に被覆部2bの先端部が被覆圧着部8の一対の被覆圧着片8b間に配設される位置に移動する(図5参照)。このとき、導体部2aは導体圧着部7に接触しない位置に維持されている。
【0119】
圧着端子5及び電線2をセットした後、駆動機構部38により、上金型30を下金型20に近接移動させる(図14参照)。
【0120】
加熱機構部62により加熱された第1上金型32は、一対の導体圧着片7bに接触した位置(図15参照)から導体圧着部7を加熱する。また、第1上金型32が一対の導体圧着片7bに接触した位置から、駆動機構部38は、上金型30を下降する速度を低速化する。第1下金型32は、低速化された速度で一対の導体圧着片7bに接触して導体圧着部7を加熱しつつ、一対の導体圧着片7bを第1上側圧着面32aに沿って内側かつ底部7a側に向けて変形させていく。そして、導体部2aが圧縮変形される直前の位置(図16参照)で低速駆動を終了して、通常速度で駆動する。低速駆動が終了した状態で、導体圧着部7は約150℃に加熱されている。さらに通常速度で第1上金型32が下降移動されると、一対の導体圧着片7bがさらに内側かつ底部7a側に変形すると共に、導体部2aが圧縮変形される。最終的に、第1上金型32が圧着下死点まで下降移動された状態で、導体圧着部7が導体部2aに対して電気的かつ機械的に圧着接続される(図17参照)。圧着された導体圧着部7は、一対の導体圧着片7bが内側かつ底部7aに向けて湾曲状に変形し、圧縮変形された導体部2aを包囲するようになっている。
【0121】
また、第2上金型34は、第1上金型32と一体となって駆動機構部38により下降され、一対の被覆圧着片8bを内向きかつ底部8a側に向けて変形させる。これにより、被覆圧着部8が被覆部2bの先端部に機械的に圧着接続される。
【0122】
さらに、下金型20上に載置状に支持されている圧着端子5が、複数の圧着端子5を連結している連結部9から切り離される(図示省略)。
【0123】
駆動機構部38は、上金型30を下死点まで下降移動した後、すぐに、上金型30を上昇移動させて初期位置に戻す(図18参照)。そして、圧着端子5が圧着された電線2は、電線保持部40に保持されたまま製品排出位置に移動され、完成品を収容するトレイ等に移されるとよい。
【0124】
圧着終了後、圧着端子5の導体圧着部7は、徐々に常温まで温度下降しつつ導体部2aに密着する方向に収縮変形する。また、電線2の導体部2aは、徐々に常温まで温度上昇しつつ導体圧着部7に密着する方向に膨張変形する(図19参照)。これにより、温度調節部60を設けない端子圧着装置により同じクリンプハイトで圧着を行った場合と比較して、圧着後に導体部2aと導体圧着部7との間で高い残留応力から得られる接触力を得て接触抵抗を小さくすることができる。
【0125】
以上の動作により、電線2に対して圧着端子5が圧着される(図2参照)。そして、上記動作と同様にして次の圧着端子5を電線2に圧着し、この動作を繰り返すことにより、連続して圧着端子付電線を製造することができる。
【0126】
上記のように構成された端子圧着装置10によると、少なくとも圧着完了時に、導体部2aより導体圧着部7の温度の方が相対的に高くなるように、温度調節部60により導体部2aと導体圧着部7の間に温度差を発生させるように構成されている。より具体的には、加熱機構部62により導体圧着部7が加熱され、加熱されて膨張した導体圧着部7は、圧着後に常温に戻るにつれて収縮する。また、冷却機構部72により導体部2aが冷却され、冷却されて収縮した導体部2aは、圧着後に常温に戻るにつれて膨張する。つまり、導体部2aの外周部を覆うように圧着された導体圧着部7が収縮変形することにより導体部2aに対して密着する方向に力が作用すると共に、導体部2aが膨張変形することにより導体圧着部7に対して密着する方向に力が作用する。これにより、導体圧着部7と導体部2aとの間に温度差を設けないで、導体部2aの断面積を同じに保つように同じクリンプハイトで圧着する場合と比較して、引張強度を確保しつつ、導体部2aと導体圧着部7との間に作用する接触抵抗を小さくするように残留応力から得られる接触力を向上させることができる。つまり、引張強度及び接触抵抗を高性能に両立させることができる。
【0127】
また、温度調節部60の加熱機構部62は、加熱の上限温度を圧着端子5に施されたスズメッキが軟化しないような温度に設定されているため、圧着時及び圧着後の導体圧着部7、導体部2aの温度変化に伴う変形時におけるスズメッキの変形を抑制でき、圧着端子5が常温まで温度下降する際に安定して残留応力から得られる接触力を得ることができる。そして、これにより、導体圧着部7と導体部2aとの間の接触抵抗を小さくすることができる。
【0128】
そして、加熱機構部62が第1上金型32を加熱し、第1上金型32が第1下金型22上に載置状に支持される導体圧着部7に接触することにより導体圧着部7を加熱する構成により、導体圧着部7に対する第1上金型32の接触位置から圧着途中まで導体圧着部7を加熱するようになっている。つまり、導体圧着部7を圧着変形させる期間で加熱するため、加熱された導体圧着部7の熱が導体部2aに伝導することを抑制でき、導体圧着部7と導体部2aとの温度差を最大限に維持することができる。また、第1上金型32の第1上側圧着面32aが導体圧着部7(一対の導体圧着片7b)に対して比較的大きい接触面をもって加熱するため、より効率的に温度上昇させることができる。これにより、より確実に導体部2aと導体圧着部7との間に温度差を発生させ、残留応力から得られる接触力を向上させて接触抵抗を小さくすることができる。
【0129】
また、加熱機構部62が第1下金型22を加熱する構成においては、第1下金型22上に載置状に支持される導体圧着部7を加熱するように構成されているため、圧着端子5が載置状に支持されている比較的長い期間に導体圧着部7を加熱することができる。これにより、導体圧着部7が加熱後圧着完了前に温度下降することを抑制でき、安定して導体部2aと導体圧着部7との間に温度差を発生させることができ、残留応力から得られる接触力を向上させて接触抵抗を小さくすることができる。
【0130】
また、加熱機構部62が、端子送給機構部50に送給されている圧着端子5の導体圧着部7を加熱する構成においては、導体圧着部7が第1下金型22上に載置状に支持される位置に搬送されるまでの比較的長い期間、導体圧着部7を加熱可能である。これにより、安定して導体部2aと導体圧着部7との間に温度差を発生させることができ、残留応力から得られる接触力を向上させて接触抵抗を小さくすることができる。
【0131】
また、温度調節部60の冷却機構部72は、導体部2aの冷却に伴って、導体部2aに被覆されている被覆部2bが脆化温度まで冷却されないような温度範囲で冷却するため、被覆部2bの脆性破壊を抑制して、残留応力から得られる接触力を向上させて接触抵抗を小さくすることができる。
【0132】
そして、冷却機構部72は、冷却された窒素Nが導体収容穴部73内に収容される導体部2aの長手方向に沿って導体収容穴部73内を流動するように構成されているため、より確実に導体部2aを冷却することができる。これにより、安定して導体部2aと導体圧着部7との間に温度差を発生させることができ、残留応力から得られる接触力を向上させて接触抵抗を小さくすることができる。
【0133】
また、筒状の導体圧着部を有する圧着端子を圧着するような場合にも、冷却機構部72、72aにより電線2の導体部2aを冷却すると共に加熱機構部62b、62cにより導体圧着部7を加熱してから圧着を行うとよい。例えば、このような圧着端子の圧着は、導体部2aを導体圧着部の内部に挿入した状態で、導体圧着部の周方向四方に配設された圧着金型を導体圧着部の中心軸に向けて近接移動させて導体圧着部をカシメて行うことができる。これにより、圧着後、導体部2aが常温に戻るにつれて膨張変形すると共に、導体圧着部が常温に戻るにつれて収縮変形して、導体部2aと導体圧着部7との間の残留応力から得られる接触力を向上させて接触抵抗を小さくすることができる。
【符号の説明】
【0134】
1 端子圧着電線
2 電線
2a 導体部
5 圧着端子
7 導体圧着部
10 端子圧着装置
22 第1下金型
32 第1上金型
50 端子送給機構部
60 温度調節部
62 第1の加熱機構部
62a 第2の加熱機構部
62b 第3の加熱機構部
72 第1の冷却機構部
73 導体収容穴部
76 窒素供給部
78 窒素排出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メッキ処理された圧着端子の導体圧着部が、電線の端部で露出される導体部に圧着された端子圧着電線の製造方法であって、
(a)前記導体部の温度より前記導体圧着部の温度の方が相対的に高くなるように、前記導体部と前記導体圧着部との間に温度差を発生させる工程と、
(b)前記導体部に対して前記導体圧着部を圧着する工程と、
を備える端子圧着電線の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の端子圧着電線の製造方法であって、
前記工程(a)は、前記圧着端子のメッキが溶融しない温度範囲で前記導体圧着部を加熱する工程(a1)を有する端子圧着電線の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の端子圧着電線の製造方法であって、
前記工程(a)は、前記導体部を冷却する工程(a2)を有する端子圧着電線の製造方法。
【請求項4】
圧着端子の導体圧着部が、電線の端部で露出される導体部に圧着された端子圧着電線であって、
前記導体部の温度より前記導体圧着部の温度の方が相対的に高くなるように、前記導体部と前記導体圧着部との間に温度差が付与された状態で、前記導体部に対して前記導体圧着部が圧着されることにより、圧着後に、前記導体部が膨張変形或いは前記導体圧着部が収縮変形した状態で、前記導体圧着部が前記導体部に対して圧着接続されている端子圧着電線。
【請求項5】
メッキ処理された圧着端子の導体圧着部を、電線の端部で露出される導体部に圧着する端子圧着装置であって、
前記導体圧着部を前記導体部に圧着可能な圧着金型と、
前記導体部の温度より前記導体圧着部の温度の方が相対的に高くなるように、前記導体部と前記導体圧着部との間に温度差を発生させる温度調節部と、
を備えている端子圧着装置。
【請求項6】
請求項5に記載の端子圧着装置であって、
前記温度調節部は、前記圧着端子のメッキが溶融しない温度範囲で、前記導体圧着部を加熱可能な加熱機構部を有する端子圧着装置。
【請求項7】
請求項6に記載の端子圧着装置であって、
前記圧着金型は、
前記導体圧着部を載置状に支持可能な下金型と、
前記下金型に対して接離移動可能に配設され、前記下金型上に載置状に支持される前記導体圧着部を前記下金型との間で前記導体部に圧着可能な上金型と、
を有し、
前記加熱機構部は、前記上金型を加熱可能に構成され、前記上金型が前記下金型上に載置状に支持された前記導体圧着部に接触することにより、前記導体圧着部を加熱可能な第1の加熱機構部を有する端子圧着装置。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の端子圧着装置であって、
圧着金型は、
前記導体圧着部を載置状に支持可能な下金型と、
前記下金型に対して接離移動可能に配設され、前記下金型上に載置状に支持される前記導体圧着部を前記下金型との間で前記導体部に圧着可能な上金型と、
を有し、
前記加熱機構部は、前記下金型を加熱可能に構成され、前記下金型上に載置状に支持される前記導体圧着部を加熱可能な第2の加熱機構部を有する端子圧着装置。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか一項に記載の端子圧着装置であって、
前記圧着端子を、前記導体圧着部を前記導体部に対して圧着する圧着位置に送給可能な端子送給機構部をさらに備え、
前記加熱機構部は、前記端子送給機構部に送給されている前記圧着端子の前記導体圧着部を加熱可能な第3の加熱機構部を有する端子圧着装置。
【請求項10】
請求項5〜9のいずれか一項に記載の端子圧着装置であって、
前記温度調節部は、前記導体部を冷却可能な冷却機構部を有する端子圧着装置。
【請求項11】
請求項10に記載の端子圧着装置であって、
前記冷却機構部は、
前記電線の前記導体部を収容可能な導体収容穴部が形成されている本体部と、
前記導体収容穴部内に冷却された窒素を供給する窒素供給部と、
前記導体収容穴部内に供給された前記冷却された窒素を、前記導体収容穴部から排出可能な窒素排出部と、
を有し、
前記冷却機構部の前記窒素供給部と前記窒素排出部とは、前記冷却された窒素が、前記導体収容穴部内に収容される前記導体部の長手方向に沿って前記導体収容穴部内を流動するように構成されている端子圧着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−216391(P2011−216391A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85040(P2010−85040)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】