説明

端面反射型表面波フィルタ

【課題】挿入損失の悪化をさほど招くことなく、帯域外減衰量の拡大を図り得る端面反射型表面波フィルタを提供する。
【解決手段】 SHタイプの表面波を利用した縦結合共振子型表面波フィルタであって、圧電基板2の上面2aにおいて、所定距離を隔てて互いに平行に第1,第2の溝2b,2cが形成されており、溝2b,2c間において、縦結合共振子型弾性表面波フィルタを構成するためのIDT5,6が形成されており、第1,第2の溝2b,2cのIDTが形成されている側の側面2b1,2c1が反射端面を構成しており、圧電基板2の上面2aにおいて、(a)IDT5,6の20%以上を覆うように樹脂被覆層3または(b)IDT5,6を覆うようにSiO2膜からなる保護層が形成されている、縦結合共振子型弾性表面波フィルタ1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯域フィルタとして用いられる表面波フィルタに関し、より詳細には、BGS波やラブ波のようなSHタイプの表面波を利用した端面反射型の表面波フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、BGS波やラブ波などのSHタイプの表面波を利用した端面反射型の表面波装置として、縦結合共振子型弾性表面波フィルタなどが知られている(下記の特許文献1)。端面反射型の表面波装置では、対向2端面間で表面波が反射される。従って、反射器を必要としないので、表面波フィルタなどの表面波装置の小型化を図ることができる。
【0003】
図14は、従来の端面反射型の縦結合共振子型表面波フィルタを示す。縦結合共振子型表面波フィルタ101は、圧電基板102を有する。圧電基板102の上面には、所定距離を隔てられ互いに平行に第1,第2の溝102a,102bが形成されている。溝102a,102b間に、縦結合共振子型弾性表面波フィルタを構成するために2個のIDT103,104が形成されている。
【0004】
なお、第1,第2の溝102a,102bのIDT103,104が構成されている側の側面がSHタイプの表面波を反射させる反射端面を構成している。
【特許文献1】特開2001−244789
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した縦結合共振子型弾性表面波フィルタ101では、反射器を必要としないため小型化を図り得るが、帯域外減衰量のより一層の拡大が求められている。
【0006】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、端面反射型の表面波フィルタであって、通過帯域外減衰量を大きくすることができ、選択度を高め得る端面反射型表面波フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明によれば、所定距離を隔てて平行に配置された第1,第2の反射端面と、上面と、下面と、前記第1,第2の反射端面の下端から外側に延びる第1,第2の圧電基板部分とを有し、第1,第2の反射端面と第1,第2の圧電基板部分とにより、それぞれ、第1,第2の溝または外側に開いた第1,第2の凹部が形成されている圧電基板と、前記圧電基板の上面において前記第1,第2の溝または凹部間の領域に形成された複数のインターデジタルトランスデューサとを備え、前記圧電基板の上面において少なくとも前記インターデジタルトランスデューサ及び第1,第2の溝または凹部が形成されている領域を覆うように設けられており、かつ柔軟性を有する樹脂からなる樹脂被覆層をさらに備え、前記樹脂被覆層が、前記インターデジタルトランスデューサの20%以上を被覆するように形成されていることを特徴とする、端面反射型表面波フィルタが提供される。
【0008】
本発明のある特定の局面では、上記柔軟性樹脂として、ショア硬さ30以下の樹脂が用いられる。ショア硬さ30以下の樹脂を用いることにより、密度、ヤング率、線膨張係数と同様、挿入損失の悪化を抑制しつつ、所望でないスプリアスを効果的に抑圧することができる。
【0009】
本発明の別の特定の局面では、上記柔軟性樹脂として、ゲル状樹脂が用いられ、それによって密度、ヤング率、線膨張係数と同様、挿入損失の悪化を抑制しつつ、所望でないスプリアスを効果的に抑圧することができる。
【0010】
また、本発明においては、上記柔軟性樹脂として、好ましくは、硬化後の密度が1.2g/cm3以下の樹脂、より好ましくは1.0g/cm3以下の樹脂が用いられ、それによって、挿入損失の悪化を抑制しつつ、所望でないスプリアスを効果的に抑圧することができる。
【0011】
本発明のさらに他の特定の局面では、上記柔軟性樹脂として、硬化後のヤング率が1MPa以下の樹脂が用いられ、それによって、挿入損失の悪化を抑制しつつ、所望でないスプリアスを効果的に抑圧することができる。
【0012】
また、本発明のさらに他の特定の局面では、上記柔軟性樹脂として硬化後の線膨張係数が1.9×10-4(/℃)以上の樹脂、より好ましくは2.3×10-4(/℃)以上の樹脂が用いられ、それによって、挿入損失の悪化を抑制しつつ、所望でないスプリアスを効果的に抑圧することができる。
【0013】
上記柔軟性樹脂としては、より好ましくは、ゲル状樹脂であって、硬化後の密度が1.0g/cm3以下、硬化後のヤング率が1MPa以下、硬化後の線膨張係数が2.3×10-4(/℃)以上である樹脂が用いられる。
【0014】
上記柔軟性樹脂としては、例えば、シリコーンゴム、エポキシ樹脂またはウレタンゴムが用いられ、より好ましくはシリコーンゴムが用いられる。
【0015】
第2の発明によれば、所定距離を隔てて平行に配置された第1,第2の反射端面と、上面と、下面と、前記第1,第2の反射端面の下端から外側に延びる第1,第2の圧電基板部分とを有し、第1,第2の反射端面と、第1,第2の圧電基板部分とにより、それぞれ、第1,第2の溝または外側に開いた第1,第2の凹部が形成されている圧電基板と、前記圧電基板の上面において前記第1,第2の溝または凹部間の領域に形成された複数のインターデジタルトランスデューサとを備え、前記複数のインターデジタルトランスデューサを覆うように形成されたSiO2からなる層をさらに備えることを特徴とする、端面反射型表面波フィルタが提供される。
【0016】
また、第2の発明に係る端面反射型表面波フィルタでは、好ましくは、インターデジタルトランスデューサ(IDT)の電極厚みHは、利用しようとする表面波の波長をλとしたときに、H/λ≦0.06、より好ましくはH/λ≦0.045である。この場合には、挿入損失の悪化を効果的に抑制することができる。
【0017】
また、本発明に係る端面反射型表面波フィルタでは、好ましくは、上記溝または凹部の深さは、利用しようとするSHタイプの表面波の1波長以上の深さを有するように構成される。SHタイプの表面波は、圧電基板面から1波長以下の深さの部分を中心に伝搬する。従って、溝または凹部の深さを上記範囲とすることにより、利用しようとするSHタイプの表面波が確実に端面により反射され、良好な特性を有する表面波フィルタを構成することができる。
【0018】
本発明に係る端面反射型表面波フィルタの具体的な構造は特に限定されず、端面反射共振子を利用したラダー型フィルタであってもよく、縦結合型共振子フィルタであってもよく、横結合型共振子フィルタであってもよい。
【発明の効果】
【0019】
第1の発明に係る端面反射型弾性表面波フィルタでは、上記柔軟性樹脂被覆層がIDTの20%以上を被覆するように形成されているので、挿入損失の悪化をさほど招くことなく、通過帯域外減衰量の拡大を図ることができ、従って、選択度に優れ、反射器を必要としない小型の表面波フィルタを提供することができる。
【0020】
第2の発明に係る端面反射型弾性表面波フィルタでは、圧電基板の上面においてIDTを覆うようにSiO2からなる層が形成されているので、第1,第2の発明と同様に、挿入損失の悪化をさほど招くことなく、通過帯域外減衰量の拡大を図ることができ、従って、選択度に優れ、反射器を必要としない小型の表面波フィルタを得ることができる。
【0021】
第1,第2の溝または凹部の深さが、利用しようとするSHタイプの表面波の1波長以上の深さを有する場合には、第1,第2の溝のIDTが形成されている側の側面において利用しようとするSHタイプの表面波が確実に反射され、良好な特性を有する端面反射型表面波フィルタを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明をより詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態に係る端面反射型縦結合共振子型弾性表面波フィルタ1を示す斜視図である。縦結合共振子型弾性表面波フィルタ1では、矩形板状の圧電基板2が用いられている。圧電基板2は、LiTaO3、LiNbO3,などの圧電単結晶、またはチタン酸ジルコン酸鉛系セラミックスなどの圧電セラミックスにより構成される。もっとも、圧電基板2は、サファイアなどの絶縁性基板上にZnO薄膜などの圧電薄膜を積層したものであってもよい。
【0024】
図2は、縦結合共振子型フィルタ1において、圧電基板2の上面を被覆している柔軟性樹脂層3を除去した状態を示す斜視図である。図2に示すように、圧電基板2の上面2aにおいては、所定距離を隔てて、第1,第2の溝2b,2cが互いに平行に形成されている。溝2b,2cは下面2dには至らない深さとされている。溝2b,2cの内側の側面が第1,第2の反射端面2b1,2c1として機能する。第1,第2の溝2b,2cの深さは、利用しようとする表面波の1波長以上の深さとされている。
【0025】
なお、図11に示すように、第1,第2の溝2b,2cに代えて、第1,第2の凹部2x,2yが形成されてもよい。すなわち、図11に示す圧電基板2A では、第1,第2の反射端面2b1,2c1が所定距離を隔てて平行に配置されており、該反射端面2b1,2c1の下端から外側に延びる圧電基板部分2x1,2y1が設けられており、それによって外側に開いた第1,第2の凹部2x,2yが形成されている。本発明においては、上記のように、第1,第2の溝に代えて、外側に向かって開いた第1,第2の凹部が形成されている圧電基板2Aを用いてもよい。
【0026】
第1,第2の溝2b,2c間には、縦結合共振子型フィルタ部が構成されている。縦結合共振子型表面波フィルタ部は、それぞれ、表面波伝搬方向に沿って一対のIDT5,6を配置した構造を有する。
【0027】
もっとも、本発明に係る縦結合共振子型表面波フィルタは、このような1段構成のものに限らず、2段以上の縦結合共振子型表面波フィルタであってもよく、目的とする表面波フィルタの構成に応じた複数のIDTが圧電基板2の上面に形成される。
【0028】
本実施形態の縦結合共振子型表面波フィルタ1の特徴は、上記圧電基板2の上面2aを覆うように、図1に示す柔軟性樹脂被覆層3が形成されていることである。柔軟性樹脂被覆層3は、上記IDT5,6及び第1,第2の溝2b,2cを覆うように形成されている。また、本実施例では、第1,第2の溝2b,2cの外側の圧電基板部分の上面をも覆うように構成されているが、第1,第2の溝2b,2cの外側の圧電基板部分の上面は必ずしも柔軟性樹脂被覆層3により被覆されずともよい。
【0029】
上記柔軟性樹脂被覆層3は、縦結合共振子型弾性表面波フィルタ1を動作させた場合に励振される表面波の伝搬を抑圧しないような柔軟性を有するような樹脂により構成される。このような樹脂としては、様々な樹脂を用いることができるが、ゲル状樹脂が好適に用いられる。また、上記柔軟性樹脂としては、シリコーンゴム、エポキシ樹脂またはウレタンゴムなどからなるものが好ましく用いられ、より好ましくはシリコーンゴムが用いられる。なお、柔軟性樹脂のより好ましい特性等については、後ほど実験例に基づきより具体的に説明する。
【0030】
また、図3に示すように、上記第1の溝2bにおいて、樹脂被覆層3が溝内に入り込むように形成されている。
【0031】
また、縦結合共振子型弾性表面波フィルタ1では、上記のように、IDT5,6が形成されている領域と、溝2b,2cとを被覆するように、かつ溝2bに入り込むように柔軟性樹脂被覆層3が形成されているため、帯域外減衰量の拡大を図ることができる。これを具体的な実験例に基づき説明する。
【0032】
上記実施形態の縦結合共振子型弾性表面波フィルタとして、LiTaO3からなり、外形寸法が0.9mm×1.7mm×厚み0.38mmの圧電基板を用意し、該圧電基板の上面において、IDT5,6を形成した。IDT5,6は、それぞれ、電極指のトータル対数は30対、波長は21.8μmである。また、IDT5,6を形成した後、幅0.17mm×深さ0.1mmの第1,第2の溝2a,2bを形成した。このようにして用意された縦結合共振子型弾性表面波フィルタを従来例とし、該縦結合共振子型弾性表面波フィルタの上面に、ゲル状シリコーン樹脂からなる柔軟性樹脂被覆層3を形成したものを実施例の縦結合共振子型弾性表面波フィルタとした。
【0033】
上記従来例及び実施例の縦結合共振子型弾性表面波フィルタの減衰量−周波数特性を測定した。結果を図4に示す。図4の実線は実施例の特性を、破線は従来例の特性を示す。また、図4の中央に示されている実線P及び破線Qは、実施例及び従来例の特性を縦軸の右側のスケールで拡大して示した特性である。
【0034】
図4から明らかなように、柔軟性樹脂被覆層3が設けられている実施例の縦結合共振子型表面波フィルタでは、通過帯域内において若干損失が増加するものの、通過帯域外減衰量を大幅に改善し得ることがわかる。これは、柔軟性樹脂被覆層3が第1の溝2b内に入り込むように形成されているため、反射端面での不要波の反射を抑圧しているものによるものと考えられる。
【0035】
本願発明者は、このような結果をもとに、柔軟性樹脂被覆層3の塗布面積を圧電基板2の上面において種々変更し、図4の矢印A1,A2で示すスプリアスがどの程度抑圧されるかを調べた。結果を図5に示す。
【0036】
なお、図5の横軸の塗布面積の割合(%)とは、圧電基板2の上面の全面に対する樹脂被覆層3の塗布面積の割合を言うものとする。
【0037】
図5から明らかなように、絶縁性樹脂被覆層の塗布面積が大きくなるにつれて、矢印A1,A2で示されるスプリアスが抑圧され、それによって通過帯域外減衰量の拡大を図り得ることがわかる。
【0038】
また、上記柔軟性樹脂被覆層3の第1,第2の溝内への浸入量と、帯域内の挿入損失及び前述した通過帯域外におけるスプリアスのレベルを測定した。結果を図6及び図7に示す。
【0039】
なお、図6及び図7における溝への浸入量における0とは、柔軟性樹脂被覆層がIDT5,6の設けられている領域にのみ付与されている場合を示し、0〜100%の範囲は、溝2bの断面積に対し、溝2bに対して浸入している柔軟性樹脂被覆層の対応の断面積の割合を示すものとする。
【0040】
図6から明らかなように、溝への柔軟性樹脂被覆層の浸入量が大きくなるにつれて、挿入損失は低下するものの、一方の溝2bへの柔軟性樹脂被覆層3の浸入量が50%以下であれば、挿入損失の悪化が2dB以下に抑制され得ることがわかる。従って、一方の溝2bへの柔軟性樹脂被覆層の割合を50%以下とすれば、挿入損失の悪化をさほど招くことなく、図7に示すように、通過帯域近傍におけるスプリアスを抑圧することができ、それによって帯域外減衰量の拡大を図り得ることがわかる。
【0041】
従って、好ましくは、第1,第2の溝2b,2cの一方の溝内において、柔軟性樹脂被覆層が50%以下の割合で入り込むように柔軟性樹脂被覆層が形成される。
【0042】
次に、本願発明者は、上記実験例において、柔軟性樹脂被覆層を構成する材料を種々変更し、挿入損失の変化と上述した矢印A1,A2で示すスプリアスの抑圧度の変化を調べた。結果を図8に示す。図8の横軸は、柔軟性樹脂被覆層の密度であり、この場合柔軟性樹脂被覆層の塗布面積は100%とした。また、図8において、●は、エポキシ樹脂からなる樹脂被覆層を用いた場合の挿入損失の結果を示し、+は、スプリアス抑圧度の結果を示し、〇は、シリコン樹脂を用いた場合の挿入損失の結果を、×は、シリコン樹脂を用いた場合のスプリアス抑圧度の結果を示す。
【0043】
さらに、柔軟性樹脂被覆層を構成する材料のヤング率と、上記挿入損失の変化及びスプリアス抑圧度の変化を図9に示す。図9における●、+、〇及び×は、図8の場合と同じ意味を表す。
【0044】
さらに、図10に、上記樹脂被覆層の線膨張係数(×10-4/℃)と、挿入損失の変化及びスプリアス抑圧度の変化を示す。図10における●、+、〇及び×は、図8の場合と同じ意味を表す。
【0045】
図8から明らかなように、柔軟性樹脂被覆層の硬化後の密度が1.2g/cm3以下、より好ましくは1.0g/cm3以下の場合、挿入損失の劣化を抑制しつつ、スプリアスを効果的に抑圧し得ることがわかる。
【0046】
同様に、図9から明らかなように、柔軟性樹脂被覆層の硬化後のヤング率が1MPa以下の場合、同様に挿入損失の悪化を抑制しつつ、上記スプリアスを効果的に抑圧し得ることがわかる。
【0047】
また、図10の結果から柔軟性樹脂被覆層の硬化後の線膨張係数が1.9×10-4(/℃)以上、より好ましくは2.3×10-4(/℃)以上である場合、挿入損失の悪化を抑制しつつ、スプリアスを効果的に抑圧し得ることがわかる。従って、好ましくは、上記柔軟性樹脂被覆層を構成する樹脂としては、ゲル状樹脂であり、硬化後の密度が1.0g/cm3以下、硬化後のヤング率が1MPa以下、硬化後の線膨張係数が2.3×10-4(/℃)以上であるものが好適に用いられる。
【0048】
また、本発明の他の実施形態においては、圧電基板2の上面2aにおいて、IDT5を覆うようにSiO2からなる保護層11が設けられる。なお、図12(a)では、IDT6が設けられている側の部分は示されていないが、IDT6をも覆うように保護層11が設けられている。
【0049】
図12(b)では、このような保護層11が設けられた縦結合共振子型弾性表面波フィルタの減衰量−周波数特性が実線で示されている。比較のために、保護層が設けられていないことを除いては、同様に構成された縦結合共振子型弾性表面波フィルタの減衰量−周波数特性を破線で示す。なお、圧電基板としては、36°LiTaO3を用い、IDT5,6を構成する金属としてはAlを用いた。または、SiO2膜の厚みhは、表面波の波長をλとして、h/λ=0.30とした。
【0050】
図12(b)から明らかなように、上記保護層11を設けることにより、大きな挿入損失の悪化を招くことなく帯域外スプリアスを効果的に低減し得ることがわかる。さらに、上記保護層を形成することにより、保護層が設けられていない弾性表面波フィルタと比較して、周波数温度係数をも低減することができる。
【0051】
図13は、上記構成の弾性表面波フィルタにおいて、IDT膜厚を変化させた際の挿入損失の悪化を示す。図13から明らかなように、IDT電極の厚みHは、利用しようとする表面波の波長をλとしたとき、H/λ≦0.06の範囲、より望ましくはH/λ≦0.045の範囲とすることにより、挿入損失の悪化を抑制することができる。
【0052】
なお、図13の例では、IDTとしてAlを用いているが、IDTとしてCu、Au等を用いた場合にも同様の特性を示すことが発明者により確かめられている。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の一実施形態に係る端面反射型の縦結合共振子型表面波フィルタを示す斜視図。
【図2】図1に示した縦結合共振子型表面波フィルタにおいて柔軟性を有する樹脂からなる樹脂被覆層を除去した状態を示す斜視図。
【図3】図1に示した実施形態の縦結合共振子型表面波フィルタの要部を説明するための部分切欠断面図。
【図4】実施例及び従来例縦結合共振子型弾性表面波フィルタの減衰量−周波数特性を示す図。
【図5】樹脂被覆層の塗布面積と、樹脂被覆層の形成によるスプリアスとの抑圧度との関係を示す図。
【図6】第1の溝への樹脂被覆層の浸入量と挿入損失との関係を示す図。
【図7】第1の溝への樹脂被覆層の浸入量と帯域外スプリアスの改善度との関係を示す図。
【図8】樹脂被覆層の硬化後の密度と、挿入損失の変化及びスプリアス抑圧度の変化との関係を示す図。
【図9】樹脂被覆層の硬化後のヤング率と、挿入損失の変化及びスプリアス抑圧度の変化との関係を示す図。
【図10】樹脂被覆層の硬化後の線膨張係数と、挿入損失の変化及びスプリアス抑圧度の変化との関係を示す図。
【図11】本発明の縦結合共振子型弾性表面波フィルタの変形例を示す斜視図。
【図12】(a)及び(b)は、本発明の縦結合共振子型弾性表面波フィルタのさらに他の変形例を示す部分切欠断面図及び該変形例と比較のために用意した弾性表面波フィルタの各減衰量−周波数特性を示す図。
【図13】図12(a)に示した表面波フィルタにおいて、IDTの膜厚を変化させた場合の挿入損失の変化を示す図。
【図14】従来の縦結合共振子型弾性表面波フィルタを示す斜視図。
【符号の説明】
【0054】
1…縦結合共振子型表面波フィルタ
2…圧電基板
2a…上面
2b,2c…第1,第2の溝
2b1,2b2…側面
2d…下面
2x,2y…第1,第2の凹部
3…樹脂被覆層
5,6…IDT
11…保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定距離を隔てて平行に配置された第1,第2の反射端面と、上面と、下面と、前記第1,第2の反射端面の下端から外側に延びる第1,第2の圧電基板部分とを有し、第1,第2の反射端面と第1,第2の圧電基板部分とにより、それぞれ、第1,第2の溝または外側に開いた第1,第2の凹部が形成されている圧電基板と、
前記圧電基板の上面において前記第1,第2の溝または凹部間の領域に形成された複数のインターデジタルトランスデューサとを備え、
前記圧電基板の上面において少なくとも前記インターデジタルトランスデューサ及び第1,第2の溝または凹部が形成されている領域を覆うように設けられており、かつ柔軟性を有する樹脂からなる樹脂被覆層をさらに備え、
前記樹脂被覆層が、前記インターデジタルトランスデューサの20%以上を被覆するように形成されていることを特徴とする、端面反射型表面波フィルタ。
【請求項2】
前記柔軟性樹脂が、ショア硬さ30以下の樹脂である、請求項1に記載の端面反射型表面波フィルタ。
【請求項3】
前記柔軟性樹脂がゲル状樹脂である、請求項1または2に記載の端面反射型表面波フィルタ。
【請求項4】
前記柔軟性樹脂が、硬化後の密度が1.2g/cm3以下の樹脂である、請求項1〜3のいずれかに記載の端面反射型表面波フィルタ。
【請求項5】
前記柔軟性樹脂が、硬化後の密度が1.0g/cm3以下の樹脂である、請求項4に記載の端面反射型表面波フィルタ。
【請求項6】
前記柔軟性樹脂が、硬化後のヤング率が1MPa以下の樹脂である、請求項1〜5のいずれかに記載の端面反射型表面波フィルタ。
【請求項7】
前記柔軟性樹脂は、硬化後の線膨張係数が1.9×10-4(1/℃)以上の樹脂であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の端面反射型表面波フィルタ。
【請求項8】
前記柔軟性樹脂は、硬化後の線膨張係数が2.3×10-4(1/℃)以上の樹脂であることを特徴とする、請求項7に記載の端面反射型表面波フィルタ。
【請求項9】
前記柔軟性樹脂はゲル状樹脂であり、かつ硬化後の密度が1.0g/cm3以下、硬化後のヤング率が1MPa以下、硬化後の線膨張係数が2.3×10-4(1/℃)以上である樹脂であることを特徴とする、請求項2または3に記載の端面反射型表面波フィルタ。
【請求項10】
前記柔軟性樹脂が、シリコーンゴム、エポキシ樹脂、ウレタンゴムのいずれかであることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の端面反射型表面波フィルタ。
【請求項11】
前記柔軟性樹脂が、シリコーンゴムであることを特徴とする、請求項10に記載の端面反射型表面波フィルタ。
【請求項12】
所定距離を隔てて平行に配置された第1,第2の反射端面と、上面と、下面と、前記第1,第2の反射端面の下端から外側に延びる第1,第2の圧電基板部分とを有し、第1,第2の反射端面と、第1,第2の圧電基板部分とにより、それぞれ、第1,第2の溝または外側に開いた第1,第2の凹部が形成されている圧電基板と、
前記圧電基板の上面において前記第1,第2の溝または凹部間の領域に形成された複数のインターデジタルトランスデューサとを備え、
前記複数のインターデジタルトランスデューサを覆うように形成されたSiO2からなる層をさらに備えることを特徴とする、端面反射型表面波フィルタ。
【請求項13】
インターデジタルトランスデューサの電極厚みHは、利用しようとする表面波の波長をλとしたとき、H/λ≦0.06である、請求項12に記載の端面反射型フィルタ。
【請求項14】
インターデジタルトランスデューサの電極厚みHは、利用しようとする表面波の波長をλとしたとき、H/λ≦0.045である、請求項13に記載の端面反射型フィルタ。
【請求項15】
溝または凹部の深さが、利用しようとするSHタイプの表面波の1波長以上の深さを有する、請求項1〜14のいずれかに記載の端面反射型フィルタ。
【請求項16】
端面反射共振子を利用したラダー型フィルタであることを特徴とする、請求項1〜15のいずれかに記載の端面反射型フィルタ。
【請求項17】
縦結合型共振子フィルタであることを特徴とする、請求項1〜15のいずれかに記載の端面反射型フィルタ。
【請求項18】
横結合型共振子フィルタであることを特徴とする、請求項1〜15のいずれかに記載の端面反射型フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−238497(P2006−238497A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−148695(P2006−148695)
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【分割の表示】特願2002−210355(P2002−210355)の分割
【原出願日】平成14年7月19日(2002.7.19)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】