説明

等しい共振周波数を有する共振器フィルタ構造

本発明は、無線周波数(RF)フィルタのための共振器フィルタ構造(10)、特にバルク音波(BAW)フィルタ構造に関する。本発明によれば、共振器フィルタ構造(10)は、BAW格子フィルタ部(20)を有して構成されている。BAW格子フィルタ部(20)内の総ての共振素子(20−1,20−2,20−3,20−4)はほぼ等しい共振周波数を有している。本発明によれば、BAW格子フィルタ部(20)の一方のブランチタイプのBAW共振器(20−2,20−3)に対して並列キャパシタンス(30−1,30−2)が並列に接続されている。従って、各BAW共振器(20−2,20−3)の反共振周波数が調整される。これにより、格子フィルタ部(20)の対角ブランチと水平ブランチとの間の反共振周波数の差にほぼ対応する非常に狭い通過帯域が得られる。並列キャパシタンス(30−1,30−2)は、帯域幅を調整するために使用される。即ち、キャパシタンスが小さければ小さいほど、帯域幅も小さくなる。また、用途の必要に応じて、格子構造により、共振器フィルタの一方のポートにおける信号誘導を平衡にし、他方のポートの信号誘導を非平衡又は平衡にすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部(プリアンブル部)に係る共振器フィルタ構造に関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、中心周波数f、下限遮断周波数f、上限遮断周波数f等の周波数によって規定することができる通過帯域を与えるために配置された共振器フィルタ構造、特に無線周波数(RF)フィルタ構造であって、入力ポートと出力ポートとの間に、格子ブランチ及び直列ブランチである二つの格子ブランチタイプを有する少なくとも一つの格子タイプフィルタ部を備え、共振素子が、共振周波数fX1R及び反共振周波数fX1Aを有する直列アームとして上記直列ブランチに配置され、共振素子が、共振周波数fX2R及び反共振周波数fX2Aを有する格子アームとして上記格子ブランチに配置されている共振器フィルタ構造に関する。
【背景技術】
【0003】
移動体通信の発達に伴って、携帯ユニットは、さらに小型になるとともに、益々複雑化している。これにより、移動体通信手段において使用される部品及び構造の小型化の要求が高まっている。このことは、小型化の要求が高まっているにも拘わらず、かなりの電力レベルに耐えることができなければならず、また、非常に切り立った(急峻な)通過帯域エッジと低い損失とを有していなければならず、また、望ましくは狭い通過帯域を与えなければならない無線周波数(RF)フィルタ構造に関係している。GHzの帯域において高周波を使用するため、RFフィルタ構造を形成する専用の回路素子が必要であり、また、高周波関連の懸案事項を処理しなければならない。
【0004】
従って、電気信号のためのフィルタ回路においては、機械的な共振器特性を使用することが知られている。これらの共振器は、利用された種類の機械的振動から導き出される二つの種類に分けることができる。第1の場合においては、固体表面の表面音響(弾性表面)振動モードが使用される。このモードにおいて、振動は、固体の表面に限定され、そのため、表面から離れると急速に減衰する。即ち、表面音波は、固体材料の表面上を伝播している。この場合、力学的な波又は音波はそれぞれ、周波数選択動作を引き起こす、適切に形成された電気接続部を介して接続されたり切り離されたりする。使用される表面音波に起因して、そのような素子は、表面音波(SAW)フィルタ又はSAW共振器と呼ばれる。SAW共振器は、一般に、圧電固体と、電極のような二つのインターデジタル構造とを備えている。共振素子を含むオシレータやフィルタのような様々な回路がSAW共振器を用いて製造される。このSAW共振器は、サイズが非常に小さいという利点を有するが、残念なことに、高い電力レベルに耐えるには弱い。
【0005】
第2の場合においては、電気的接続のために少なくとも二つの電極間に挟まれたバルク材料の機械的振動が使用される。一般に、バルク材料は、二つの電極間に配置された一つの圧電層(圧電)である。金属−圧電−金属サンドイッチの両端間に交流電圧が印加されると、バルク材料全体が拡張及び収縮し、これにより、機械的な振動が形成される。この振動は、SAWの場合のように、表面に制限されるのとは対照的に、材料のバルク中にある。従って、そのような素子は、バルク音波(BAW)共振器と呼ばれる。BAW共振器は、多くの場合、様々な位相幾何学的構造(接続形態)を有する帯域通過フィルタにおいて使用される。更なる公知のBAW共振素子は、薄膜バルク音響共振器、いわゆるFBARである。このFBARは、一般に基板に対して強固に実装される前述したBAWとは異なり、空気中において金属−圧電−金属サンドイッチを形成するために、薄膜半導体プロセスを使用して形成される。
【0006】
SAW共振器又はBAW共振器の電気的な作用は、添付の図2に示される等価回路によってかなり正確に特徴付けられる。図2には、等価インダクタンスLsと等価キャパシタンスCsと等価抵抗Rsとの直列の結合体を構成するブランチが存在する。Ls及びCsはそれぞれ動インダクタンス及び動キャパシタンスであり、Rsは共振器の音響損失を表わしている。これらの直列素子は、圧電材料の誘電特性から得られるキャパシタンスCpに対して並列に接続される。従って、各SAW又はBAW共振器は、直列共振周波数及び並列共振周波数である二つの特徴的な共振周波数を有している。前者は共振周波数fと呼ばれ、後者は反共振周波数fとしても知られている。
【0007】
BAW又はSAW素子を備える回路は、一般には、前述した素子等価回路を考慮するとさらに良く理解することができる。個々の共振素子の直列共振は、等価インダクタンスLs及び等価キャパシタンスCsによって引き起こされる。直列共振周波数よりも低い周波数において、共振素子のインピーダンスは容量的である。共振素子の直列共振周波数よりも高いが、並列キャパシタンスCpによって引き起こされる共振素子の並列共振周波数よりも低い周波数において、共振素子のインピーダンスは誘導的である。また、並列共振周波数よりも高い周波数においても、共振素子のインピーダンスは容量的である。
【0008】
信号周波数に関する共振素子のインピーダンス特性において、共振素子の(直列)共振周波数fでは、共振素子のインピーダンスは低い。即ち、素子の損失が無い理想的な場合には、共振素子が短絡回路のように機能する。並列共振周波数即ち反共振周波数fでは、共振素子のインピーダンスが高い。即ち、損失が無い理想的な場合には、インピーダンスが無限であり、装置は、反共振周波数において開回路のようなものである。従って、共振周波数及び反共振周波数(f及びf)は、フィルタの設計においては重要な設計パラメータである。共振周波数及び反共振周波数は、各共振素子の圧電層の厚さ及び/又は質量負荷の大きさのようなプロセスパラメータによって決定される。
【0009】
BAW共振素子に関する第1の公知のフィルタタイプは、ラダータイプの接続形態として知られる接続形態で構成される。この説明のため、BAW共振素子から主に形成されるラダータイプフィルタを「BAWラダーフィルタ」と称する。BAWラダーフィルタは、一般に、一つ又は複数のBAW共振器がフィルタ内で直列接続され且つ一つ又は複数のBAW共振器がフィルタ内で短絡接続されるように形成される。また、BAWラダーフィルタは、一般に、直列接続された「直列共振器」とも呼ばれる共振器が各フィルタの所望の周波数即ち設計周波数又は中心周波数とほぼ等しい若しくは当該周波数に近い周波数で直列共振を生じるように形成される。さらに、短絡接続された「短絡共振器」又は「並列共振器」とも呼ばれる共振器は、各フィルタの所望の中心周波数とほぼ等しい又は当該周波数に近い周波数で並列共振を生じる。
【0010】
フィルタのための第2の公知の回路接続形態は、回路接続形態が平衡ブリッジ構造とも呼ばれるBAW格子回路である。そのようなBAW格子回路は、総てのブランチがほぼ等しいインピーダンスを有する場合には所定の阻止帯域を有し、一方のブランチタイプ即ち直列アーム又は格子アームがそれぞれ誘導的に振る舞い且つ他方が容量的に振る舞う場合には所定の通過帯域を有する。図4は、一般にフィルタ設計において使用される二つの異なるBAW共振素子BAW−1,BAW−2のインピーダンス特性を示している。BAW−1及びBAW−2は、BAW−1の反共振周波数fA1がBAW−2の共振周波数fR2とほぼ等しくなるように形成される。従って、前述した回路接続形態に基づくそのような二つのタイプのBAW共振器を用いると、最低共振周波数(ここではfR1)と最高反共振周波数(ここではfA2)との間の差Δfにほぼ一致する通過帯域を有するBAW共振器フィルタを構成することができる。直列又は水平共振器が一方のタイプからなり且つ格子又は対角共振器が他のタイプからなる場合には、BAW直列共振素子及びBAW格子共振素子を交換してもよい。このように形成されたフィルタの帯域幅即ち通過帯域は、使用される共振素子の最高反共振周波数と最低共振周波数との間に差にほぼ対応する。BAW格子回路は、通過帯域からかけ離れた深い阻止帯域拒絶があるという利点を有している。
【0011】
しかしながら、例えばPCS等の最近の遠隔通信規格に対応する受信帯域フィルタの場合には、Tx及びRx帯域が厳密に分かれているため、阻止帯域から通過帯域への急な移行が必要である。例えば、拡張GSM(EGSM)、即ち、欧州第二世代1GHz移動体通信のための規格において、Rx及びTx帯域はそれぞれ942.5MHz及び897.5MHzに中心付けられる。両方の帯域は35MHzの帯域幅を有しており、そのため、Rx及びTxのそれぞれにおける帯域幅の比率は3.71%及び3.9%になる。また、いくつかのさらに新しい用途、例えばGPS又はTVアップコンバージョンフィルタは、さらに狭い帯域幅を必要とする。BAW格子フィルタのフィルタ帯域幅を減少させる方法は、BAW共振器の結合係数を減少させることである。しかしながら、共振周波数及び反共振周波数にわずかなオフセットを与えなければならない二つのタイプ共振器が必要である。即ち、必要なフィルタ帯域幅が狭くなればなるほど、二つのタイプの共振器間で必要な共振周波数のオフセットが小さくなり、従って、製造プロセス制御がさらに難しくなる。
【0012】
従って、米国公開特許公報第2001/0012237号(特許文献1)において、表面音波(SAW)フィルタ構造は、一つの圧電基板と、圧電基板上に実装された複数のSAW共振器とを有している。SAW共振器は、直列アーム共振器及び格子アーム共振器を有する格子タイプフィルタ回路を構成するように接続される。この場合、格子アーム共振器の共振周波数は、直列アーム共振器の反共振周波数とほぼ等しく、又は、その逆もまた同様である。米国公開特許公報第2001/0012237号(特許文献1)におけるそのようなフィルタの改良においては、SAW共振器と並列なキャパシタを使用することにより及び/又はSAW共振器の幾何学的構造を調整することにより、格子アーム共振器のガンマ値と直列アーム共振器のガンマ値とを互いに異なるものとすることが提案されている。
【特許文献1】米国公開特許公報第2001/0012237号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明の目的は、非常に狭い通過帯域を有するフィルタ構造、特に無線周波数(RF)フィルタ構造を提供することである。また、製造プロセスをさらに簡単に制御できる無線周波数(RF)フィルタ構造を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
従って、本発明の共振器フィルタ構造は、格子タイプフィルタ部内の共振素子がほぼ等しい共振周波数(即ち、fX1R≒fX2R)とほぼ等しい反共振周波数(即ち、fX1A≒fX2A)とを有することを特徴とする。換言すると、格子タイプフィルタ部の共振素子はほぼ等しく形成されている。即ち、格子アーム共振素子及び直列アーム共振素子の共振周波数及び反共振周波数はほぼ等しい。また、少なくとも、上記格子ブランチタイプのうちの一方の上記共振素子の上記反共振周波数fX1A若しくはfX2Aのそれぞれのうちの一方又は上記共振周波数fX1R若しくはfX2Rのそれぞれのうちの一方を動かすための手段が設けられている。
【0015】
本発明の第1の実施の形態においては、本発明に係る別個のキャパシタンスCを両方の格子アーム共振素子のそれぞれの両端間又は両方の直列アーム共振素子のそれぞれの両端間に並列に接続することによって、各並列キャパシタンスの影響によりこれらの共振素子の反共振周波数が動かされる。即ち、共振素子の反共振周波数が引き下げられる。これにより、共振器格子回路全体において非常に狭い通過帯域が有利に得られる。尚、そのような本発明に係る共振器格子フィルタ部内の直列及び格子ブランチは交換することができる。即ち、格子ブランチの反共振周波数が直列ブランチの反共振周波数に比べて引き下げられる場合にも、これと逆の場合と同じ有利な効果が得られる。
【0016】
本発明の第2の実施の形態においては、本発明に係る別個のキャパシタンスCを両方の格子アーム共振素子のそれぞれに対して又は両方の直列アーム共振素子のそれぞれに対して直列に接続することによって、各直列キャパシタンスの影響によりこれらの共振素子の共振周波数が動かされる。即ち、共振素子の共振周波数が引き上げられる。これにより、共振器格子回路全体において非常に狭い通過帯域が有利に得られる。尚、そのような本発明に係る共振器格子フィルタ部内の直列及び格子ブランチは交換することができる。即ち、格子ブランチの共振周波数が直列ブランチの共振周波数に比べて引き上げられる場合にも、これと逆の場合と同じ有利な効果が得られる。
【0017】
格子フィルタ部を設けることにより、内側が非平衡且つ外側が平衡となる良い信号誘導を行なうことができる。従って、入力ポート及び出力ポートのうちの一方を平衡信号ポートとして使用することができ、入力ポート及び出力ポートのうちの他方が非平衡信号ポートとなる。これは、平衡出力が好ましい場合、例えばフィルタを低雑音増幅器(LNA)の平衡入力部に接続しなければならない場合に有益である。そのため、フィルタ構造の入力ポート若しくは出力ポートが固定された基準電位、例えば回路の接地電位に接続されてもよく、又は、これらの両方のポートが接地電位に接続されなくてもよい。
【0018】
本発明の格子フィルタ構造によれば、一つの共振周波数を有する格子回路の一つのタイプの共振器を使用することにより、非常に狭いフィルタ帯域幅を実現することができる。共振素子としては、音波共振素子が使用され、好ましくは表面音波(SAW)共振器が使用され、さらに好ましくはバルク音波(BAW)共振器が使用される。従って、共振素子の共振周波数のオフセットを形成する過程を排除することにより、処理が著しく簡略化される。例えば、本発明においてBAW共振素子が使用される場合、そのようなBAW共振器は、少なくとも一つ又は複数の音響反射層、下部電極、バルク上部電極、上部電極の上端にある任意の質量負荷を有する積層体を基板上に備えている。これにより、BAW共振素子の大部分は、所定の厚さを有し且つ窒化アルミニウム(AlN)又は酸化亜鉛(ZnO)等の圧電材料からなるとともに例えばシリコン酸化物(SiO)等の任意の追加誘電体層を有する圧電層を備えている。BAW共振器においてシリコン酸化物(SiO)と窒化アルミニウム(AlN)とを組み合わせると、例えば帯域幅及び温度の安定性に関していくつかの用途において要求されるように、BAW共振素子の結合係数が減少する。そのようなBAW共振素子の製造プロセスにおいては、バルク及び/又は質量負荷の成分層の厚さ及び/又は各BAW共振素子における電極層の厚さを使用して、BAW共振素子が所定の共振周波数及び所定の反共振周波数を有するようにすることができるのが有益である。また、総てのBAW共振器は、圧電層を同じ厚さにして形成することができ、さらに、質量負荷が不要となる。
【0019】
いわゆる厚さモードにおいて、音響振動の周波数は、圧電層の厚さにほぼ反比例する。従って、圧電層の厚さは1ミクロン程度であり、そのため、一般に、薄膜半導体プロセスが使用される。強固実装バルク音波共振器(solidly−mouted bulk acoustic wave resonator)(時として、SBARと呼ばれる)の実施の一形態においては、圧電層と基板との間で一つ又は複数の音響層が使用される。薄膜BAW共振素子(時としてFBARと呼ばれる)の他の実施の形態は、金属−圧電−金属のサンドイッチが宙に吊るされた薄膜手法を使用する。BAW共振器は、多くの場合、様々な位相幾何学的構造(接続形態)を有する帯域通過フィルタにおいて使用される。BAW共振器の一つの利点は、特にインターデジタル構造のピッチがサブミクロンでなければならない近年の無線システムの周波数において、表面音波(SAW)共振器で使用されるインターデジタルな構造と比べ、電力の扱いが本質的に良好であるという点である。
【0020】
格子タイプフィルタ部の一方のブランチタイプの共振素子、即ち、直列アーム共振素子又は格子アーム共振素子に対して並列に接続される並列キャパシタンスCを用いると、これらの共振器の反共振周波数が低下する。従って、フィルタ帯域幅を調整するためにキャパシタンス値Cが使用される。この場合、キャパシタンスCが小さければ小さいほど、結果として生じるフィルタの帯域幅も小さくなる。本発明者等は、良好な阻止帯域拒絶を形成するためには阻止帯域において各ブランチの総キャパシタンスを等しくしなければならないことを見出した。従って、良好な阻止帯域拒絶即ち減衰は、並列キャパシタンスCの値が以下の式にほぼ対応する場合に得られた。
C=(1−x)・A・CAREA
【0021】
この方程式において、Aは、BAW共振素子が実装される基板上のBAW共振器の面積であって、格子タイプフィルタのブランチタイプのうちの一方におけるBAW共振器の面積である。また、基板上の上記面積は、単位面積当たりのキャパシタンスがCAREAである。係数xは上記面積Aに対する比率であり、x・Aは、格子タイプフィルタのそれぞれの他のブランチタイプのBAW共振器の面積である。そのようなキャパシタンスCは、並列キャパシタンスとして、装置の基板上に面積x・Aを有する各BAW共振器に対して並列に接続されなければならない。
【0022】
本発明のBAW格子フィルタ構成の実用的な実施に関し、BAW共振器は基本的に二つの電極からなり、これらの二つの電極間には圧電材料が封入されている。また、このシステム全体は音響反射媒体に封入されており、これにより、圧電層内で音響エネルギを維持している。総ての層は、共振器特性、例えば共振周波数、帯域幅、Q係数等に影響を与える。格子回路並びにカスケード格子及びラダー回路を商業的に魅力ある製品に変えるためには、ほとんどの場合、二つの電極を有することが必要条件である。これらの二つの電極は、BAW共振器に固有のものであり、相互に接続されたラインの必要な交差に解決策を与える。BAW素子とは異なり、SAW共振素子の電極は、一般に、一つの金属層内に形成され、従って、格子の相互接続配線が非常に複雑になる。
【0023】
本発明に係るインピーダンス整合のための手段に関しては、入力ポート及び出力ポートの一方又は両方に対して直列及び/又は並列に接続される誘導素子L及び/又は容量素子Cが存在する。実施の一形態において、インピーダンス整合のための手段は、一方のポートに対して直列に接続された直列容量素子と、他方のポートに対して直列に接続された直列容量素子とを備えている。尚、本発明者等は、特定の場合においては、別々のインピーダンス整合手段が不要であり、即ち、入力ポート又は出力ポートのうちの一方のポートでのみインピーダンス整合を行なえば済むことを見出した。
【0024】
本発明の前述した目的及び他の目的、特徴、利点は、本発明の好ましい実施の形態に関する以下の説明及び添付図面からさらに明らかとなる。尚、図面中の同一部品又は同等の部品は、同じ参照符号を用いている。総ての図面は、本発明のいくつかの態様及び実施の形態を説明しようとするものである。明確化のため、回路は簡単な方法で描かれている。総ての代替案及び選択肢を示していないことは言うまでもなく、従って、本発明は、添付図面の内容に限定されない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の一例を詳細に説明する。
【0026】
図1は、第1のポート1及び第2のポート2を備える本発明の第1の実施の形態に係る共振器フィルタ構造10を示している。第1のポート1には第1の負荷3が接続されており、また、第2のポート2に対して第2の負荷4が接続されている。第1のポート1は、固定された基準電位に対する接続部を有している。この例において、固定された上記基準電位は、回路のグランド5である。従って、入力ポート1は、信号誘導が非平衡なポートである。第1の負荷は、共振器フィルタ構造10のための入力として無線周波数信号を駆動している発生器の内部抵抗であってもよい。一つの用途において、そのような発生器は、例えば、通信ユニットの受信アンテナであってもよい。また、第2の負荷4は、例えば低雑音増幅器(LNA)のような次の段の入力抵抗であってもよい。信号誘導に関しては、第1のポート1がグランド5に接地されており、これにより、第1のポート1が非平衡なポートになっている。
【0027】
当業者であれば分かるように、電力の推移を最適化するためには、入力ポート1及び出力ポート2においてインピーダンス整合を行う必要がある。少なくとも、共振器フィルタ構造10の入力インピーダンスは、共振器フィルタ構造10の通過帯域に対応する周波数帯域内において各負荷3,4に従って整合されなければならない。通過帯域は、下限遮断周波数、中心周波数、上限遮断周波数によって規定される。この場合、遮断周波数は、信号が通過帯域から阻止帯域(拒絶帯域)へと低下した特定の信号出力レベルによって得られる。
【0028】
図1に示された共振器フィルタ構造10の中心部分は、四つのほぼ等しいBAW共振素子20−1,20−2,20−3,20−4を備える格子フィルタ部20である。このBAW格子フィルタ部20の回路構造即ち接続形態は、平衡ブリッジ回路における公知の原理であり、四つのBAW素子20−1,20−2,20−3,20−4を用いて構成されている。そのため、四つの共振素子のうちの対応する二つ、即ち、20−1,20−2が直列に接続されることにより第1の直列経路が形成されるとともに、20−3,20−4が直列に接続されることにより第2の直列経路が形成されている。第1及び第2の直列経路の二つのBAW素子間の接続ノードは、BAW格子回路の対応する一つの出力ノードを表している。また、ブリッジの第1及び第2の直列経路は、BAW格子回路の入力ノードに対して並列に接続されている。BAW格子フィルタ部20に示される構造から、共振素子20−1,20−4は、BAW格子回路の水平素子又は直列素子とも呼ばれ、また、BAW素子20−2,20−3は、BAW格子フィルタ部20の対角素子又は格子素子とも呼ばれる。さらに、この命名法に従って、BAW格子フィルタ部20の各ブランチは、格子回路のアームと呼ばれる。この場合、一つの水平素子がそれぞれ一つの水平又は直列アームを形成し、一つの対角素子がそれぞれ格子回路の一つの対角又は格子アームを形成する。
【0029】
図1において、BAW格子フィルタ部20の総てのBAW共振器20−1,20−2,20−3,20−4はほぼ等しい。即ち、個々のBAW素子は、同じ共振周波数及び同じ反共振周波数を有している。しかしながら、水平BAW共振素子20−1,20−4と対角BAW共振素子20−2,20−3との間には、その上にフィルタ回路が製造される基板上の面積において違いがある。対角BAW素子20−2,20−3に対して並列に接続される並列キャパシタンス30−1,30−2は、対応する対角BAW共振器20−2,20−3の反共振周波数を動かす。即ち、キャパシタンス30−1,30−2は、同調素子として、フィルタ通過帯域を調整し、従って、本発明に係るBAW格子フィルタ部20の製造プロセスを有利に軽減する。
【0030】
対向する水平BAW共振器20−1,20−4は面積Aを有しており、対角BAW共振器20−2,20−3は、この面積Aに対して所定の比率xをなす面積を基板上に有している。ここで、xは0と1との間の値である。BAW共振器の電極は、単位面積当たりのキャパシタンスCAREAをもたらす。並列キャパシタンス30の最適値に関し、本発明者等は、良好な阻止帯域拒絶のためにはBAW格子型フィルタ部20における各格子アームの総キャパシタンスが等しくなければならないことを見出した。即ち、以下の式に従って並列キャパシタンス30−1,30−2の値をとると、良好な阻止帯域拒絶を実現できる。
C=(1−x)・A・CAREA
【0031】
帯域幅に同じ影響をもたらすために、水平即ち直列アームBAWを対角即ち格子アームBAWと交換してもよいことは言うまでもない。BAW格子フィルタ部20は、その望ましい中心周波数又は設計周波数が、直列アームBAW共振素子20−1,20−4の反共振周波数と格子アームBAW共振素子20−2,20−3の反共振周波数との間のほぼ中央にある。
【0032】
電力推移の向上のためのインピーダンス整合に関しては、フィルタ構造10の入力ポート1にインピーダンス整合部40a,40bがある。インピーダンス整合部40aは、BAW格子フィルタ部20の入力インピーダンスと負荷3の出力インピーダンスとの間のインピーダンス整合のために設けられた直列キャパシタンス41を備えている。BAW格子フィルタ部20の出力ポート2には、二つの直列キャパシタンス42−1,42−2を有するインピーダンス整合部40bが設けられている。二つの直列キャパシタンス42−1,42−2は、平衡な信号誘導を行なうために出力ポート2に対して直列に対称的に接続されており、BAW格子フィルタ部10の出力インピーダンスと負荷4の入力インピーダンスとの間のインピーダンス整合のために設けられている。
【0033】
格子フィルタ技術においては非常に珍しく、総てのBAW格子素子20−1,20−2,20−3,20−4が等しい共振周波数及び反共振周波数を有しているため、共振周波数のオフセットを形成する過程を排除することにより、製造プロセスが有利に簡略化される。このことは、総ての共振器を圧電層の厚さを同じにして形成することができ、さらに質量負荷が不要になることを意味している。
【0034】
図2は、直列インダクタンスLsと直列キャパシタンスCsと直列抵抗Rsとを備えるBAW共振素子50の等価素子回路を示している。共振周波数fはLs及びCsに対応している。また、BAW共振器の電極に主に起因する並列キャパシタンスCpが存在する。BAW共振素子50の反共振周波数はLs及び両方のキャパシタンスCs,Cpに対応している。さらに、BAW共振器50の等価素子に対して並列に接続され且つ点線で示された並列キャパシタンス30が存在する。並列キャパシタンス30を用いると、実質的にCp及びCからなる有効並列キャパシタンスを増大させることにより反共振周波数を調整することができる。
【0035】
図3は、本発明に係るBAW格子フィルタ構造のBAW共振素子のインピーダンス特性図である。より明確には、BAW共振器Aの実線で示された第1のインピーダンス特性は、図1においてはBAW共振器20−1,20−4である並列キャパシタンスCが無いBAW共振器に対応している。BAW共振器Bの破線で示された第2のインピーダンス特性は、図1においてはBAW共振器20−2,20−3である並列キャパシタンスCを有するBAW共振器に対応している。図3から容易に分かるように、両方のタイプのBAW共振器は、等しい共振周波数fを有している。しかしながら、BAW共振器Aの反共振周波数fと、結果として生じるBAW共振器Bの反共振周波数fA*との間にはわずかな差がある。この差は、図1ではキャパシタンス30−1,30−2によって示され且つ図2ではキャパシタンス30によって示される並列キャパシタンスCを使用することにより形成される。
【0036】
図3を参照すると、BAW格子フィルタ部10がどのようにしてそのような非常に狭い通過帯域を与えることができるのかが分かる。本発明のBAW格子フィルタ部10は、総てのブランチが等しいインピーダンスを有する際には所定の阻止帯域を有し、一方のブランチタイプ即ち直列アーム又は格子アームがそれぞれ誘導的に振る舞い且つ他方が容量的に振る舞う場合には所定の通過帯域を有する。BAW格子フィルタ部20の総てのブランチにおいてはほぼ同じ周波数即ち共振周波数f及び反共振周波数fで共振するBAW共振器が使用されるという事実に起因して、BAW格子フィルタ部20の一方のブランチタイプ即ち直列アーム又は格子アームのそれぞれにおける両方のBAW共振器の反共振周波数がわずかに動かされる間、一方のブランチタイプが誘導的で且つ他方が容量的である場合にはわずかな周波数範囲Δfだけが存在する。このように、非常に狭い帯域通過フィルタが形成されるが、この場合、通過帯域は、一つのBAW共振器の共振周波数fと反共振周波数fとの間の差よりも十分に狭い。もたらされる通過帯域は、図3にΔfで示されるような、格子ブランチBAW共振器と直列ブランチBAW共振器との間の反共振周波数f,fA*の差によってほぼ決定することができる。BAW直列共振素子とBAW格子共振素子とを交換してもよいことは言うまでもない。
【0037】
本発明においては、無線周波数(RF)フィルタのための共振器フィルタ構造、特にバルク音波(BAW)フィルタ構造が提供される。本発明によれば、共振器フィルタは、BAW格子フィルタ部内の総てのBAW共振素子がほぼ等しい共振周波数を有するBAW格子フィルタ構造を用いて構成される。本発明によれば、BAW格子フィルタ部の一方のブランチタイプのBAW共振器に対して並列キャパシタンスが並列に接続される。従って、各BAW共振器の反共振周波数が調整される。これにより、格子フィルタ部の対角ブランチと水平ブランチとの間の反共振周波数の差にほぼ対応する非常に狭い通過帯域が得られる。並列キャパシタンスは、帯域幅を調整するために使用される。即ち、キャパシタンスが小さければ小さいほど、帯域幅も小さくなる。また、各用途においては必要に応じて、格子構造により、共振器フィルタの一方のポートにおける信号誘導を平衡にし、他方のポートの信号誘導を非平衡又は平衡にすることができる。
【0038】
尚、本発明は、本発明の実施の形態に限定されず、特に、この明細書で一例として使用された受信フィルタに限定されない。また、本発明の原理は、非常に狭い帯域幅及び高い阻止帯域を与えるフィルタを高周波環境において必要とする任意の用途に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】並列キャパシタンスが格子アームBAW共振器に対して並列に接続され且つインピーダンス整合キャパシタンスがフィルタのポートに対して直列に接続されたBAW格子フィルタ部を有する共振器フィルタ構造の回路図を示している。
【図2】並列キャパシタスがBAW共振器に対して並列に接続されたBAW共振素子の等価素子回路を示している。
【図3】二つのほぼ等しいBAW共振素子A,Bのインピーダンス特性であって、BAW共振器Bの反共振周波数に対する図2に示される並列キャパシタンスの影響が点線で示されたインピーダンス特性を示している。
【図4】信号周波数に関して描かれた二つのBAW共振素子のインピーダンス特性であって、共振周波数、反共振周波数、中心周波数が通常通りに設定されたインピーダンス特性を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心周波数f、下限遮断周波数f、上限遮断周波数f等の周波数によって規定することができる通過帯域を与えるために基板上に配置された共振器フィルタ構造、特に無線周波数(RF)フィルタ構造であって、入力ポートと出力ポートとの間に、格子ブランチ及び直列ブランチである二つの格子ブランチタイプを有する少なくとも一つの格子タイプフィルタ部を備え、共振素子が、共振周波数fX1R及び反共振周波数fX1Aを有する直列アームとして前記直列ブランチに配置され、共振素子が、共振周波数fX2R及び反共振周波数fX2Aを有する格子アームとして前記格子ブランチに配置されている共振器フィルタ構造において、前記格子タイプフィルタ部内の前記共振素子の総てがほぼ等しい共振周波数即ちfX1R≒fX2Rとほぼ等しい反共振周波数即ちfX1A≒fX2Aとを有し、少なくとも、前記格子ブランチタイプのうちの一方の前期共振素子の前記反共振周波数fX1A若しくはfX2Aのそれぞれのうちの一方又は前記共振周波数fX1R若しくはfX2Rのそれぞれのうちの一方を動かすための手段が設けられていることを特徴とする共振器フィルタ構造。
【請求項2】
少なくとも前記反共振周波数fX1A又はfX2Aのそれぞれのうちの一方を動かすための前記手段は、前記直列アーム共振器のそれぞれに対して又は前記格子アーム共振器のそれぞれに対して並列に接続された並列キャパシタンスCであることを特徴とする請求項1に記載の共振器フィルタ構造。
【請求項3】
少なくとも前記共振周波数fX1R又はfX2Rのそれぞれのうちの一方を動かすための前記手段は、前記直列アーム共振器のそれぞれに対して又は前記格子アーム共振器のそれぞれに対して直列に接続された直列キャパシタンスCであることを特徴とする請求項1に記載の共振器フィルタ構造。
【請求項4】
前記共振素子は、音波共振素子、好ましくはバルク音波(BAW)共振素子又は表面音波(SAW)共振素子であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の共振器フィルタ構造。
【請求項5】
前記BAW共振素子は、前記BAW共振素子の総てにおいて等しい厚さを有する少なくとも一つの圧電層を備えていることを特徴とする請求項4に記載の共振器フィルタ構造。
【請求項6】
前記圧電層は、窒化アルミニウム(AlN)及び/又は酸化亜鉛(ZnO)等の圧電材料からなる一つの層と、酸化シリコン(SiO)等の少なくとも一つの任意の追加誘電体層とを備えていることを特徴とする請求項5に記載の共振器フィルタ構造。
【請求項7】
前記格子タイプフィルタ部の総てのブランチの総キャパシタンスは、少なくとも前記通過帯域の外側においてほぼ等しいことを特徴とする請求項4乃至6のいずれか一項に記載の共振器フィルタ構造。
【請求項8】
前記並列キャパシタンスCは、
C=(1−x)・A・CAREA
に対応しており、Aは、前記BAW格子フィルタ部の前記ブランチタイプのうちの一方における前記BAW共振器のうちの一つの前記基板上の面積であり、前記面積は単位面積当たりのキャパシタンスCAREAを有し、xは前記面積Aに対する比率であり、x・Aは、前記BAW格子フィルタ部の前記それぞれの他のブランチタイプの前記BAW共振器のうちの一つの面積であることを特徴とする請求項7に記載の共振器フィルタ構造。
【請求項9】
インピーダンス整合のための手段が、前記入力ポート及び前記出力ポートのうちの少なくとも一方に接続されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の共振器フィルタ構造。
【請求項10】
インピーダンス整合のための前記手段は、前記各ポートに対して直列に及び/又は並列に接続された別個の誘導素子及び/又は別個の容量素子を備えていることを特徴とする請求項9に記載の共振器フィルタ構造。
【請求項11】
前記入力ポート及び出力ポートの少なくとも一方において信号誘導が平衡にされることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の共振器フィルタ構造。
【請求項12】
前記入力ポート及び出力ポートの少なくとも一方において信号誘導が非平衡にされることを特徴とする請求項11に記載の共振器フィルタ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−513662(P2006−513662A)
【公表日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−567077(P2004−567077)
【出願日】平成15年12月22日(2003.12.22)
【国際出願番号】PCT/IB2003/006368
【国際公開番号】WO2004/066490
【国際公開日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips Electronics N.V.
【住所又は居所原語表記】Groenewoudseweg 1,5621 BA Eindhoven, The Netherlands
【Fターム(参考)】