説明

等速自在継手の試験装置及び等速自在継手の試験方法

【課題】強度試験における等速自在継手の初期の破損箇所を特定することができる等速自在継手の試験装置を提供する。
【解決手段】等速自在継手にトルクを付与するトルク付与機構5を備えた等速自在継手の試験装置において、等速自在継手のトルク付与中に生じる音圧を非接触で検知する音圧センサ9と、音圧センサ9で検知した音圧の周波数成分の中から等速自在継手の破損に伴って生じる音圧の周波数成分を抽出する周波数分析装置11と、破損に伴って生じる音圧の周波数成分を抽出した前記周波数分析装置11からの信号を受けてトルク付与機構5を自動的に停止させる制御手段12とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や各種産業機械の動力伝達用等速自在継手に所定のトルクを付与して疲労強度を確認する試験装置、及びその試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の動力伝達用等速自在継手は、図1に示すように、内周面に軸方向の案内溝1aを形成した外側継手部材1と、外周面に軸方向の案内溝2aを形成した内側継手部材2と、両継手部材1,2の案内溝1a,2a間に転動自在に介装したトルク伝達ボール3と、トルク伝達ボール3を保持する保持器4等から成る多数の部品で構成されている。この等速自在継手の使用中、つまり回転中の安全性を確保するために、過酷な使用条件を設定してある。そして、等速自在継手の開発時には、等速自在継手の疲労強度を測定する捩り試験を実施して、上記使用条件を満たすか否かの判定を行っている。
【0003】
捩り試験に使用する装置は、等速自在継手の外側継手部材側と内側継手部材側をそれぞれ取り付ける一対の脱着部と、一方又は両方の脱着部に回転力を与える駆動部と、等速自在継手に付与されるトルク値を検出するためのトルクメータとを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。一対の脱着部に等速自在継手を取付けた後、一方の脱着部に対し他方の脱着部を相対的に回転させて、等速自在継手にトルクを付与し、捩り強度の大きさを測定する。
【特許文献1】特開2006−64668号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、捩り強度は破壊強度で評価されるため、捩り強度試験では、等速自在継手が破損するまで行われる。等速自在継手の強度向上を目的とした開発において、捩り強度試験の結果から、等速自在継手の捩り強度の特に弱い箇所を知ることは重要である。しかし、捩り試験を終えた後では、等速自在継手を構成する部品の多くが破損しているので、どの部品又はどの箇所の強度が最も弱いか、すなわち、どの部品が初期に破損したのかを特定することは困難であった。
【0005】
捩り試験中、等速自在継手の破損等に伴って音の発生がある。この等速自在継手の破損の音を聴感にて確認し、その後すぐにトルクの付与を停止すれば、初期の破損箇所(部品)を特定することが可能である。しかし、捩り試験中は、等速自在継手の摩擦音や、試験装置の駆動音等の様々なノイズがあり、破損音はこのノイズにうずもれているため、聴感によって破損音だけを的確に捉えるのは困難である。
【0006】
そこで、本発明は斯かる実情に鑑み、強度試験における等速自在継手の初期の破損箇所を特定することができる等速自在継手の試験装置、及びその試験方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、等速自在継手にトルクを付与するトルク付与機構を備えた等速自在継手の試験装置において、前記等速自在継手のトルク付与中に生じる音圧を非接触で検知する音圧センサと、前記音圧センサで検知した音圧の周波数成分の中から前記等速自在継手の破損に伴って生じる音圧の周波数成分を抽出する周波数分析装置と、前記破損に伴って生じる音圧の周波数成分を抽出した前記周波数分析装置からの信号を受けて前記トルク付与機構を自動的に停止させる制御手段とを備えた等速自在継手の試験装置である。
【0008】
請求項1の装置によれば、トルク付与中の等速自在継手に初期の破損が発生した場合、様々な雑音を含む音の中から、その破損に伴って生じる音を判別し、その後、すぐにトルクの付与を停止することができる。トルク付与機構の停止を人の操作で行うのではなく、自動的に行うので、初期の破損が起こってから次の破損が起こる前にトルクの停止を行うことができる。これにより、等速自在継手を初期の破損状態で留めることができる。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載の等速自在継手の試験装置において、前記周波数分析装置を、30kHz〜50kHzの周波数成分を抽出するように設定したものである。
【0010】
等速自在継手の破損に伴って発生する音の周波数成分は、他の打音や摩擦音に比べ周波数成分が高い30kHz〜50kHzの領域にあるので、この範囲の周波数を抽出することにより、等速自在継手の初期の破損の音を確認することができる。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1に記載の等速自在継手の試験装置において、前記音圧センサをAEセンサとしたものである。
【0012】
AEセンサによって、等速自在継手の初期に起こる僅かな破損の音も逃さずに検知することができる。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1に記載の等速自在継手の試験装置において、前記音圧センサを超音波マイクロフォンとしたものである。
【0014】
超音波マイクロフォンは所定の周波数領域の音を検知することができるので、等速自在継手の初期の破損の音を確実に検知することができる。
【0015】
請求項5の発明は、等速自在継手にトルクを付与する工程と、前記等速自在継手のトルク付与中に生じる音圧を非接触で検知する工程と、検知した音圧の周波数成分の中に前記等速自在継手の破損時に伴って生じる音圧の周波数成分があるか否かを判定する工程と、前記破損に伴って生じた音圧の周波数成分があると判定した直後に、前記等速自在継手へのトルクの付与を自動的に停止する工程を有する等速自在継手の試験方法である。
【0016】
ここで「直後」とは、等速自在継手の初期の破損に伴って生じる音圧の周波数成分があると判定した後であって、初期の破損箇所又は部品とは別の箇所又は部品が破損する前までの任意の時点をいうと定義する。
【0017】
請求項5の方法によれば、等速自在継手の初期の破損が起こった後、次の破損が起こる前に、等速自在継手へのトルクの付与を停止するので、等速自在継手を初期の破損状態で留めることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の等速自在継手の試験装置及びその試験方法によれば、試験中の等速自在継手に初期の破損が発生した後、すぐにトルクの付与を停止することができるので、等速自在継手を初期の破損状態で留めることができる。これにより、等速自在継手を構成する多数の部品のうち、初期に破損する部品、つまり強度の最も弱い部品又は箇所を特定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図2を参照して説明する。図2は、本発明の等速自在継手の試験装置の概略図であり、被検物である等速自在継手は、図1に示すものと同様の構成であるので説明を省略する。
【0020】
本発明の試験装置は、等速自在継手にトルクを付与してその捩り強度を測定するものであり、図2に示すように、トルクを付与するトルク付与機構5を備える。トルク付与機構5は、等速自在継手の両端、つまり外側継手部材1側と内側継手部材2側を、別々に取り付ける一対の脱着部6a,6bと、各脱着部6a,6bを回転させる駆動部7a,7b(ロータリーアクチュエーター)を備える。駆動部7a,7bによって、一方の脱着部6aが他方の脱着部6bに対し相対的に回転するようになっている。図2において、試験装置の左側の脱着部6aと駆動部7aの間にはトルクメータ8を設けている。
【0021】
また、この試験装置は、音圧センサ9、増幅器10、周波数分析装置11及び制御部12(制御手段)を備えている。これら音圧センサ9、増幅器10、周波数分析装置11、制御部12及び前記各駆動部7a,7bは電気的に接続されている。
【0022】
音圧センサ9は、一対の脱着部6a,6bにて保持される等速自在継手と非接触で上方位置に配設され、例えばAE(アコースティックエミッション)センサや超音波マイクロフォンを使用することが望ましい。AEセンサは、被検体(等速自在継手)が発生するAEを検知して、AE信号を発生させるものであり、被検体の微小な割れ等の破損に伴って生じるAEを検知することが可能である。また、超音波マイクロフォンは、被検体からの超音波帯域の音を収録して電気信号に変換するものである。
【0023】
増幅器10は、音圧センサ9からの信号を所定レベルまで増幅させるものであり、周波数分析装置11は、音圧センサ9で検知した音圧の周波数成分を分析する装置である。この周波数分析装置11は、所定の周波数帯域成分を抽出するフィルタを有し、この場合、等速自在継手の破損に伴って発生する音圧の周波数成分である30kHz〜50kHzの周波数成分を抽出可能に設定してある。そして、周波数分析装置11は、等速自在継手の破損に伴って発生する音圧を抽出した場合、制御部12へ信号を送るように構成されている。制御部12は、周波数分析装置11からの信号を受けて各駆動部7a,7bを停止させるものである。
【0024】
以下、本発明に係る等速自在継手の試験方法を、図2、図3のフローチャート図を参照して説明する。
まず、試験装置の各脱着部6a,6bに、等速自在継手の外側継手部材と内側継手部材を取り付ける。そして、駆動部7a,7bを作動して各脱着部6a,6bを回転させ、等速自在継手にトルクを付与する。等速自在継手にトルクを付与している状態では、試験装置の駆動音や、等速自在継手の構成部品相互間の摩擦音等、様々な音が発生しており、これらの音を音圧センサ9にて非接触で検知する。音圧センサ9で検知した音圧の周波数成分は電気信号に変換され、増幅器10へ送られて所定レベルに増幅される。
【0025】
次いで、増幅された音圧の周波数成分は周波数分析装置11に送られ、音圧の周波数成分の中に等速自在継手の破損に伴って生じる音圧の周波数成分があるかどうかを分析する。具体的には、音圧の周波数成分の中に予め定めた所定の周波数帯域、例えば30kHz〜50kHzの周波数が存在するか否かを判定する。周波数分析装置11にて、前記破損に伴って生じる音圧の周波数成分があると判定した場合は、周波数分析装置11から制御部12へ信号が送られ、その信号を受けた制御部12は、直ちに駆動部7a,7bの駆動を停止させる。すなわち、周波数分析装置11が等速自在継手の破損による音圧の周波数成分を抽出した直後に、等速自在継手へのトルクの付与が自動的に停止される。
【0026】
なお、破損に伴って生じる音圧の周波数成分が無いと判定した場合は、その周波数成分が抽出されるまで、引き続き音圧センサ9による音圧の非接触での検知工程と、周波数分析装置11による周波数成分の分析工程を繰り返す。
【0027】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更を加え得ることは勿論である。本試験に使用した等速自在継手は、図1に示すような固定式のものに限らず、摺動式の等速自在継手であってもよく、自動車以外の各種産業機械の動力伝達用等速自在継手を適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】固定式等速自在継手の縦断面図である。
【図2】本発明に係る等速自在継手の試験装置の概略図である。
【図3】本発明に係る等速自在継手の試験方法を示すフローチャート図である。
【符号の説明】
【0029】
1 外側継手部材
2 内側継手部材
3 トルク伝達ボール
4 保持器
5 トルク付与機構
6a 脱着部
6b 脱着部
7a 駆動部
7b 駆動部
8 トルクメータ
9 音圧センサ
10 増幅器
11 周波数分析装置
12 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
等速自在継手にトルクを付与するトルク付与機構を備えた等速自在継手の試験装置において、
前記等速自在継手のトルク付与中に生じる音圧を非接触で検知する音圧センサと、前記音圧センサで検知した音圧の周波数成分の中から前記等速自在継手の破損に伴って生じる音圧の周波数成分を抽出する周波数分析装置と、前記破損に伴って生じる音圧の周波数成分を抽出した前記周波数分析装置からの信号を受けて前記トルク付与機構を自動的に停止させる制御手段とを備えたことを特徴とする等速自在継手の試験装置。
【請求項2】
前記周波数分析装置を、30kHz〜50kHzの周波数成分を抽出するように設定したことを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手の試験装置。
【請求項3】
前記音圧センサをAEセンサとしたことを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手の試験装置。
【請求項4】
前記音圧センサを超音波マイクロフォンとしたことを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手の試験装置。
【請求項5】
等速自在継手にトルクを付与する工程と、前記等速自在継手のトルク付与中に生じる音圧を非接触で検知する工程と、検知した音圧の周波数成分の中に前記等速自在継手の破損に伴って生じる音圧の周波数成分があるか否かを判定する工程と、前記破損に伴って生じた音圧の周波数成分があると判定した直後に、前記等速自在継手へのトルクの付与を自動的に停止する工程を有することを特徴とする等速自在継手の試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−232858(P2008−232858A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−73510(P2007−73510)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】