説明

等速自在継手内の潤滑グリースの検査方法

【課題】等速ジョイントの内部潤滑グリースの移動状態を正確に調べることができる方法とし、グリースの移動性からみたグリースの当該等速ジョイントとの適合性、さらにはグリースの寿命や劣化状態、取替え時期などを判別できる等速自在継手内部グリースの適性検査方法とすることである。
【解決手段】潤滑グリースを内部に保持した等速自在継手の内輪の軸線を外輪の軸線に対して所定角度だけ傾け、その際に内輪と外輪のいずれか一方を他方に対して1回転以上回転させた後、内・外輪の軸線を同一線上に一致させてから等速自在継手の所定方向からX線透過像を撮影し、予め前記回転する以前に内・外輪の軸線が同一線上に一致させた状態で前記所定方向からの等速自在継手のX線透過像を撮影しておき、前記回転前後のX線透過像における濃色域の面積変化およびその位置変化を比較して潤滑グリースの移動量と存在位置を調べることにより潤滑グリースの適性を検査することからなる等速自在継手内の潤滑グリースの検査方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、等速自在継手のブーツの内部に充填された潤滑グリースの適性を検査する等速自在継手内の潤滑グリースの検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図4に示すように、一般的なグリース封入の等速自在継手(等速ジョイントとも称される。)の内部構造は、内輪1の外周面および外輪2の内周面には軸方向に延びる例えば6本程度の複数の溝3、4が周方向に間隔を開けて形成され、この溝3、4は内輪1と外輪2に形成されたものが対向配置されている。
【0003】
これら対の溝組に案内されて回転自在であるように装着される転動体5は、ケージ6で回転自在に保持されており、このようにして内輪1と外輪2の各軸1a、2aの交差角度が変動した際には転動体5は溝組内の軸方向の移動で交差角度変動を許容し、回転力は転動体5を介して各溝から内輪1と外輪2の相互間に伝達される機構である。
【0004】
このような等速自在継手には、外輪2の外周と内輪1が保持する軸1aとの外周部分に跨がるようにゴム製ブーツ8が装着されており、ブーツ8の内部を含めて内輪1と外輪2の間隙には潤滑グリース(図示せず。)が封入されている(特許文献1)。なお、図4中の符号9、10はブーツを締め付けて固定するための金属製のブーツバンドである。
【0005】
このような等速ジョイントの作動時の当初は、主として潤滑グリースが外輪と内輪の間の摺動部へ封入されていても徐々にブーツ内へ移動し、終には潤滑に必要な摺動部にグリースが枯渇する現象が起こる場合がある。
このようなグリース枯渇現象を起こさないように、通常の必要量以上に潤滑グリースを封入するが、その潤滑グリースの挙動を調べるときには等速ジョイントの分解検査を行なっている。
【0006】
【特許文献1】特開2001−159428号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記したように等速ジョイントの潤滑グリースの挙動を検査するには、ブーツその他の部品を取り外して分解する必要があり、分解とその後の組立には時間と手間がかかって煩雑であり、また部品を分解した状態では、実際の潤滑グリースの移動状態が正確に把握できない。
【0008】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決して、等速ジョイントの内部潤滑グリースの移動状態を正確に把握できる方法とし、しかも可及的に簡便な検査方法によって、グリースの移動性からみたグリースの当該等速ジョイントとの適合性、さらにはグリースの寿命や劣化状態、取替え時期などを判別できる等速自在継手内の潤滑グリースの検査方法とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、この発明においては、潤滑グリースを内部に保持した等速自在継手の内輪の軸線を外輪の軸線に対して所定角度だけ傾け、その際に内輪と外輪のいずれか一方を他方に対して1回転以上回転させた後、内・外輪の軸線を同一線上に一致させてから等速自在継手の所定方向からX線透過像を撮影し、予め前記回転する以前に内・外輪の軸線が同一線上に一致させた状態で前記所定方向からの等速自在継手のX線透過像を撮影しておき、前記回転前後のX線透過像における濃色域の面積変化およびその位置変化を比較して潤滑グリースの移動量と存在位置を調べることにより潤滑グリースの適性を検査することからなる等速自在継手内の潤滑グリースの検査方法としたのである。
【0010】
上記した工程からなるこの発明の等速自在継手内の潤滑グリース検査方法は、等速自在継手の内輪軸を外輪軸に対して所定角度だけ傾けた状態で内輪と外輪を少なくとも1回転以上相対回転させ、その後、前記ブーツ内を含めて等速自在継手内部のX線透過像を撮影することにより、実際の作動角に対応させた所定角度で回転した直後のグリースの移動状態を再現する。すなわち、等速自在継手内部では、潤滑グリースの一部が内・外輪から軸を伝ってブーツ先端方向に流出し、その流出状態が、X線透過像においてゴム製ブーツに比べて濃色に撮影される。
【0011】
また、予め、前記回転する以前に内・外輪の軸線が同一線上に一致している状態でゴム製ブーツ部分のX線透過像を撮影しておくことにより、非作動(静止)状態においてどの程度の量の潤滑グリースが内・外輪内部に収容されているのか、基準の状態が撮影される。
【0012】
このようにして撮影された2つの撮影像を比較し、相対回転の前後での濃色域面積の増減量および位置変化を調べると、潤滑グリースの移動量と存在位置によってその流動性がわかる。
【0013】
そして、潤滑グリースの移動量と存在位置が所期した程度を超えて多量であり、かつ内・外輪から離れている場合には内・外輪の摺動部にグリース枯渇が起こりやすくなっていると考えられる。
【0014】
一方、潤滑グリースの流動性を適当に調整するには、増ちょう剤の種類の変更と配合量を増減調整すればよく、等速自在継手の用途などに応じて必要な硬さの潤滑グリースを調整できる。そのようなちょう度に調整された潤滑グリースを使用できているか、または使用によってどの程度まで潤滑グリースが劣化しているか、その適性を直接に撮影像を見て確認することができる。
【0015】
このようにして等速自在継手内部グリースの適性検査をする際には、より明瞭なゴム製ブーツ内のX線透過像を撮影する必要があり、そのためには潤滑グリースがX線吸収材を含有する潤滑グリースであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
この発明は、以上説明したように、等速自在継手の内輪軸を外輪軸に対して所定角度だけ傾けた状態で内輪と外輪を相対回転させ、その後、前記ブーツ内のX線透過像を撮影し、予め前記回転する以前に内・外輪の軸線が同一線上にある状態でゴム製ブーツのX線透過像を撮影しておき、これら回転前後のX線透過像における濃色域の面積と位置を比較するようにしたので、等速ジョイントの内部潤滑グリースの移動状態を正確にかつ分解することなく調べることができ、しかもこのような簡便な検査により、グリースの移動性からみたグリースの当該等速ジョイントとの適合性、さらにはグリースの寿命や劣化状態、取替え時期などを判別できる等速自在継手内部グリースの適性検査方法となる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
この発明の実施形態を以下に添付図面に基づいて説明する。
等速ジョイントの内部潤滑グリースの移動状態を正確に調べるには、まず、図1および図4に示すように、等速自在継手の外輪2と内輪1の間に潤滑グリースを充填し、外輪2の大径部外周と内輪1の軸1aに跨がるようにゴム製のブーツ8を装着する。
【0018】
そして、調製された潤滑グリースをブーツ8の小径の先端部分および内輪1と外輪2の間隙に充填する。
【0019】
この発明に用いる潤滑グリースは、その種類を特に限定して採用することなく、例えば基油を金属石鹸系の増ちょう剤で増ちょうし、さらに二硫化モリブデンなどの極圧剤を添加したものなどの採用を例示できる。要するに、この発明に用いる潤滑グリースは、特に配合される基油と増ちょう剤その他の添加剤を特に限定したものではなく、等速ジョイントの各種用途に応じて適切な成分を含有するものを調製すればよい。
【0020】
前記の基油としては、鉱物油、エステル系合成油、エーテル系合成油、炭化水素系合成油などが挙げられ、また単独成分または混合成分の基油であってもよいのは勿論である。
【0021】
前記の増ちょう剤としては、リチウム石けん、リチウムコンプレックス石けん、カルシウム石けん、カルシウムコンプレックス石けん、アルミニウム石けん、アルミニウムコンプレックス石けん等の石けん類、ジウレア化合物、ポリウレア化合物などのウレア系化合物が挙げられ、このように増ちょう剤の種類も特に限定されない。
【0022】
この発明に用いるブーツは、ゴム材質からなるものであり、大気中の粉塵や水に対するシール性、耐引裂き性、耐油性、耐熱性、耐摩耗性などを使用に耐える程度に備えた材質であり、例えばクロロプレンゴムや熱可塑性ポリエステルエラストマー(東レ・デュポン社製:ハイトレル)などを採用できる。また、可塑剤、柔軟剤、滑剤、酸化防止剤、補強剤などが添加されていてもよい。
【0023】
このような潤滑グリースには、明瞭なゴム製ブーツ内のX線透過像を撮影するためにX線吸収材を配合することが好ましく、それは原子量が炭素より大きい元素を含む化合物などの物質である。たとえば、アルミニウム、鉄、亜鉛、鉛、チタンなどの金属またはそれらの酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどの炭酸塩、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウムなどのケイ酸塩、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどの水酸化物、リン酸カルシウムなどのリン酸塩、硫酸バリウム、硫酸カルシウムなどの硫酸塩、その他にカオリンクレー、ベントナイト、ゼオライト、タルク、各種金属含有のガラスその他のセラミックスなどが挙げられる。このようなX線吸収材は、たとえば潤滑グリース中に0.01〜30重量%を配合してゴム製ブーツ内のX線透過像を明瞭に撮影することができる。
【0024】
このような材料から調製された潤滑グリースは、等速自在継手の外輪と内輪の間に充填される。そして、図1および図4に示すように、外輪2の外周と内輪1の軸1aに跨がるようにゴム製のブーツ8を装着する。そして、内輪1と外輪2の軸線が同一線上に一致した図1または図4の状態でゴム製ブーツのX線透過像を撮影する。
【0025】
次に、図2(符号は図4参照)に示すように、グリース充填の等速自在継手は、その内輪1の軸1aを外輪2の軸2aに対して所定角度をとり、(例として図2では40度であるが、所定角度としては特に限定されることなく、使用状態を想定して回転前後で変動のない一定の角度であればよい。)この状態で好ましくは1回転以上回転させる。この後、図3に示すように、内・外輪の軸線が同一線上にある状態に戻してブーツ内のX線透過像を撮影する。
【0026】
図1および図3から所定作動角度で回転する前後の等速自在継手のX線透過像における濃色域の面積と位置を比較すると、相対回転の以前と以後では、濃色域面積の増え、また濃色部分が軸に沿ってブーツの尖端方向へ広がっていることがわかる。
【0027】
このような濃色域の面積変化と位置変化を潤滑グリースの移動量と移動位置と推定し、これらの情報により潤滑グリースの適性を判定できる。
【0028】
実際には、現像された写真の目視により経験的に判定することもできるが、正確に判定するために液晶ディスプレイやCRTなどの画面で観察し、さらにその画像をコンピュータに市販の画像処理プログラムにデジタル画像データとして取り込んで画像処理し、濃色部分の面積の増減量とその平均移動距離などを適宜に算出することができる。
【0029】
このようにすると等速ジョイントの内部潤滑グリースの移動状態を正確に調べることができ、さらに経験的データとの比較から、グリースの移動性からみたグリースの当該等速ジョイントとの適合性、さらにはグリースの寿命や劣化状態、取替え時期などを判別できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】等速自在継手の作動角0度におけるX線写真
【図2】等速自在継手の作動角40度におけるX線写真
【図3】作動角40度で内輪1回転後の等速自在継手のX線写真
【図4】潤滑グリース未封入状態での等速自在継手の要部断面図
【符号の説明】
【0031】
1 内輪
1a、2a 軸
2 外輪
3、4 溝
5 転動体
6 ケージ
8 ブーツ
9、10 ブーツバンド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑グリースを内部に保持した等速自在継手の内輪の軸線を外輪の軸線に対して所定角度だけ傾け、その際に内輪と外輪のいずれか一方を他方に対して1回転以上回転させた後、内・外輪の軸線を同一線上に一致させてから等速自在継手の所定方向からX線透過像を撮影し、予め前記回転する以前に内・外輪の軸線が同一線上に一致させた状態で前記所定方向からの等速自在継手のX線透過像を撮影しておき、前記回転前後のX線透過像における濃色域の面積変化およびその位置変化を比較して潤滑グリースの移動量と存在位置を調べることにより潤滑グリースの適性を検査することからなる等速自在継手内の潤滑グリースの検査方法。
【請求項2】
潤滑グリースが、X線吸収材を含有する潤滑グリースである請求項1に記載の等速自在継手内の潤滑グリースの検査方法。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−155534(P2007−155534A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−351984(P2005−351984)
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】