説明

等速自在継手

【課題】 ブーツの円周方向のずれを確実に防止すると共に、ブーツのシール性も十分に確保する。
【解決手段】 一端に開口部16を有する外側継手部材10と、その外側継手部材10との間でトルク伝達部材を介して角度変位を許容しながらトルクを伝達する内側継手部材とを備え、外側継手部材10の開口部16を閉塞する筒状のブーツの端部を、外側継手部材10の開口部と内側継手部材から延びる中間シャフトとにそれぞれ締め付け固定した等速自在継手であって、外側継手部材10の開口部16および中間シャフトの外周面でブーツの端部が接触するブーツ締着部18の軸方向中央部位のみに、ブーツずれ防止手段を設ける。ブーツずれ防止手段は、外側継手部材10の開口部16および中間シャフトの外周面の円周方向に沿って設けられた複数の凹部11とし、ブーツの端部の内周面に凹部11に嵌まり込む凸部を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や各種産業機械の動力伝達系において使用され、例えば自動車のドライブシャフトやプロペラシャフトに組み込まれ、継手外部からの異物侵入や継手内部からの潤滑剤漏洩を防止するブーツを備えた等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のエンジンから車輪に回転力を等速で伝達する手段として使用される等速自在継手には、固定式等速自在継手と摺動式等速自在継手の二種がある。これら両者の等速自在継手は、駆動側と従動側の二軸を連結してその二軸が作動角をとっても等速で回転トルクを伝達し得る構造を備えている。
【0003】
自動車のエンジンから駆動車輪に動力を伝達するドライブシャフトは、エンジンと車輪との相対的位置関係の変化による角度変位と軸方向変位に対応する必要があるため、一般的にエンジン側(インボード側)に摺動式等速自在継手を、駆動車輪側(アウトボード側)に固定式等速自在継手をそれぞれ装備し、両者の等速自在継手を中間シャフトで連結した構造を具備する。
【0004】
これら摺動式等速自在継手あるいは固定式等速自在継手では、継手内部に封入されたグリース等の潤滑剤の漏洩を防ぐと共に継手外部からの異物侵入を防止するため、等速自在継手と中間シャフトとの間にゴム製あるいは樹脂製の蛇腹状ブーツを装着して、等速自在継手の外側継手部材の開口部をブーツで閉塞した構造が一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
ブーツは、外側継手部材の開口部の外周面にブーツバンドにより締め付け固定された大径端部と、内側継手部材から延びる中間シャフトの外周面にブーツバンドにより締め付け固定された小径端部と、大径端部と小径端部とを繋ぎ、その大径端部から小径端部へ向けて縮径した伸縮自在な蛇腹部とで構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−95904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前述した等速自在継手においては、特に低温の環境下で高作動角をとりながら急激に回転すると、外側継手部材あるいは中間シャフトに対してその円周方向でブーツのずれが生じることがある。この時、外側継手部材側と中間シャフト側、つまり、ブーツの大径端部側と小径端部側とで円周方向のずれ量が異なるため、ブーツに捩れが生じる。このようにブールに捩れが生じた状態で等速自在継手が回転すると、そのブーツは短時間で損傷する。
【0008】
この問題を解消するため、前述した特許文献1に開示された等速自在継手では、外側継手部材の外周面に形成されたブーツ取り付け溝に凹凸を円周方向に沿って設けた構造を採用している。このブーツ取り付け溝の円周方向に沿って形成された凹凸にブーツの端部を食い込ませることにより、そのブーツが円周方向でずれることを未然に防止するようにしている。
【0009】
しかしながら、この特許文献1に開示された等速自在継手では、ブーツ取り付け溝の全体に凹凸を形成することにより、ブーツの円周方向のずれを防止することが可能となっているが、このようにブーツ取り付け溝の全体に凹凸が形成されていると、ブーツのシール性を確保することが困難となる。その結果、継手内部に封入されたグリース等の潤滑剤の漏洩を確実に防ぐと共に継手外部からの異物侵入(例えば砂や泥水等の侵入)を確実に防止することが難しくなる。
【0010】
そこで、本発明は前述の問題点に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、ブーツの円周方向のずれを確実に防止すると共にブーツのシール性も十分に確保し得る等速自在継手を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、一端に開口部を有する外側継手部材と、その外側継手部材との間でトルク伝達部材を介して角度変位を許容しながらトルクを伝達する内側継手部材とを備え、外側継手部材の開口部を閉塞する筒状のブーツの端部を、外側継手部材の開口端部と内側継手部材から延びる軸部材とにそれぞれ締め付け固定した等速自在継手であって、外側継手部材の開口端部および軸部材の外周面でブーツの端部が接触するブーツ締着部の軸方向中央部位のみに、ブーツずれ防止手段を設けたことを特徴とする。なお、ブーツは、ゴム製あるいは樹脂製のいずれであってもよい。
【0012】
本発明では、外側継手部材の開口端部および軸部材の外周面でブーツの端部が接触するブーツ締着部の軸方向中央部位のみに、ブーツずれ防止手段を設けたことにより、等速自在継手が低温の環境下で高作動角をとりながら急激に回転する場合であっても、外側継手部材あるいは軸部材に対するブーツの円周方向ずれを確実に抑止することができる。また、ブーツ締着部の軸方向中央部位を除く部位を平坦面とすることができるので、外側継手部材あるいは軸部材に対してブーツを確実に密着させることができ、ブーツのシール性を十分に確保できる。
【0013】
本発明におけるブーツずれ防止手段は、外側継手部材の開口端部および軸部材の外周面の円周方向に沿って設けられた複数の凹部とすることが望ましい。このようにすれば、ブーツの端部を外側継手部材および軸部材に締め付け固定するに際して、ブーツ端部の内周面が凹部に嵌まり込むことでブーツの円周方向のずれを抑止でき、さらに、軸方向のずれも抑制できる。また、ブーツの端部の内周面に、外側継手部材の凹部に嵌まり込む凸部を形成すれば、その凹凸嵌合によりブーツのずれをより一層確実に抑止できる。
【0014】
本発明におけるブーツずれ防止手段は、外側継手部材の開口端部および軸部材の外周面の円周方向に沿って設けられた複数の凸部とすることが望ましい。このようにすれば、ブーツの端部を外側継手部材および軸部材に締め付け固定するに際して、ブーツ端部の内周面に凸部が食い込むことでブーツの円周方向のずれを抑止でき、さらに、軸方向のずれも抑制できる。また、ブーツの端部の内周面に、外側継手部材の凸部に嵌まり込む凹部を形成すれば、その凹凸嵌合によりブーツのずれをより一層確実に抑止できる。
【0015】
本発明におけるブーツずれ防止手段は、外側継手部材の開口端部および軸部材の外周面の円周方向に沿って施されたローレット加工とすることが望ましい。このようにすれば、ブーツの端部を外側継手部材および軸部材に締め付け固定するに際して、ブーツ端部の内周面にローレット加工による筋目が食い込むことでブーツの円周方向のずれを抑止でき、さらに、軸方向のずれも抑制できる。
【0016】
本発明は、円筒状内周面に軸方向に延びる複数の直線状トラック溝が形成された外側継手部材と、その外側継手部材のトラック溝と対をなして球面状外周面に複数の直線状トラック溝が形成された内側継手部材と、外側継手部材の円筒状内周面と内側継手部材の球面状外周面との間に配されたケージにより保持された状態で、外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝との間に介在するトルク伝達部材としてのボールとで構成された等速自在継手、つまり、ダブルオフセット型やクロスグルーブ型の摺動式等速自在継手に適用可能である。
【0017】
また、本発明は、軸線方向に延びる三本のトラック溝が内周面に形成されると共に各トラック溝の内側壁に互いに対向するローラ案内面が形成された外側継手部材と、先端が外側継手部材のトラック溝内に挿入された三本の脚軸を有する内側継手部材であるトリポード部材と、トリポード部材の脚軸に回転自在に支持されると共に外側継手部材のトラック溝に挿入されてローラ案内面に沿って案内されるトルク伝達部材であるローラとで構成された等速自在継手、つまり、トリポード型の摺動式等速自在継手に適用可能である。
【0018】
さらに、本発明は、球面状内周面に軸方向に延びる複数の円弧状トラック溝が形成された外側継手部材と、その外側継手部材のトラック溝と対をなして球面状外周面に複数の円弧状トラック溝が形成された内側継手部材と、外側継手部材の球面状内周面と内側継手部材の球面状外周面との間に配されたケージにより保持された状態で、外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝との間に介在するトルク伝達部材としてのボールとで構成された等速自在継手、つまり、ツェッパ型やアンダーカットフリー型の固定式等速自在継手に適用可能である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、外側継手部材の開口端部および軸部材の外周面でブーツの端部が接触するブーツ締着部の軸方向中央部位のみに、ブーツずれ防止手段を設けたことにより、等速自在継手が低温の環境下で高作動角をとりながら急激に回転する場合であっても、外側継手部材あるいは軸部材に対するブーツの円周方向ずれを確実に抑止することができる。また、ブーツ締着部の軸方向中央部位を除く部位を平坦面とすることができるので、外側継手部材あるいは軸部材に対してブーツを確実に密着させることができ、ブーツのシール性を十分に確保できる。その結果、ブーツの円周方向のずれを確実に防止すると共にブーツのシール性も十分に確保できる信頼性の高い等速自在継手を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第一の実施形態で、(A)は外側継手部材の開口端部を示す部分拡大正面図、(B)は(A)のA−A線に沿う断面図である。
【図2】(A)は図1の外側継手部材の開口端部に締着されるブーツの大径端部を示す部分拡大断面図、(B)は(A)のB−B線に沿う断面図である。
【図3】本発明の第二の実施形態で、(A)は外側継手部材の開口端部を示す部分拡大正面図、(B)は(A)のC−C線に沿う断面図である。
【図4】(A)は図3の外側継手部材の開口端部に締着されるブーツの大径端部を示す部分拡大断面図、(B)は(A)のD−D線に沿う断面図である。
【図5】本発明の第三の実施形態の一例で、外側継手部材の開口端部を示す部分拡大正面図である。
【図6】本発明の第三の実施形態の他例で、外側継手部材の開口端部を示す部分拡大正面図である。
【図7】本発明の第四の実施形態の一例で、外側継手部材の開口端部を示す部分拡大正面図である。
【図8】本発明の第四の実施形態の他例で、外側継手部材の開口端部を示す部分拡大正面図である。
【図9】本発明の各実施形態におけるダブルオフセット型等速自在継手の全体構成を示し、図10のF−O−F線に沿う縦断面図である。
【図10】図9のE−E線に沿う横断面図である。
【図11】トリポード型等速自在継手の全体構成を示す縦断面図である。
【図12】アンダーカットフリー型等速自在継手の全体構成を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る等速自在継手の実施形態を以下に詳述する。以下の実施形態では、自動車のエンジン側(インボード側)に摺動式等速自在継手を、駆動車輪側(アウトボード側)に固定式等速自在継手をそれぞれ装備し、両者の等速自在継手を中間シャフトで連結した構造を具備するドライブシャフトに組み込まれ、駆動側と従動側の二軸を連結してその二軸が作動角をとっても等速で回転トルクを伝達し、しかも、軸方向の相対変位をも許容することができる構造を備えた摺動式等速自在継手の一つであるダブルオフセット型等速自在継手を例示する。
【0022】
図9および図10に示す実施形態のダブルオフセット型等速自在継手は、軸線に平行な複数の直線状トラック溝12が円筒状内周面14に円周方向等間隔で形成された円筒形状の外側継手部材10と、その外側継手部材10のトラック溝12と対応させて軸線に平行な複数の直線状トラック溝22が球面状外周面24に形成された内側継手部材20と、外側継手部材10のトラック溝12と内側継手部材20のトラック溝22との間に介在してトルクを伝達する複数のトルク伝達部材であるボール30と、外側継手部材10の内周面14と内側継手部材20の外周面24との間に配され、円周方向等間隔に形成されたポケット42に収容したボール30を保持するケージ40とを主要な構成要素としている。
【0023】
この等速自在継手は、内側継手部材20、ボール30およびケージ40からなる内部部品が外側継手部材10に軸方向摺動自在に収容された構造を具備する。また、内側継手部材20の軸孔26には軸部材である中間シャフト60の一端がスプライン嵌合により連結されている。なお、この中間シャフト60の他端には、固定式等速自在継手(図示せず)の内側継手部材がスプライン嵌合により連結されている。
【0024】
この種の等速自在継手は、継手内部に封入されたグリース等の潤滑剤の漏洩を防ぐと共に継手外部からの異物侵入を防止するため、外側継手部材10と中間シャフト60との間に筒状のブーツ70を装着して、外側継手部材10の開口部16をブーツ70で閉塞した構造を具備する。このように、外側継手部材10およびブーツ70の内部空間に潤滑剤を封入することにより、外側継手部材10に対して中間シャフト60が作動角をとりながら回転する動作時において、継手内部の摺動部位、つまり、外側継手部材10、内側継手部材20、ボール30およびケージ40で構成される摺動部位での潤滑性を確保するようにしている。
【0025】
ブーツ70は、外側継手部材10の開口部16の外周面に形成したブーツ締着部としてのブーツ取り付け溝18にブーツバンド56により締め付け固定された大径端部72と、内側継手部材20から延びる中間シャフト60の外周面に形成したブーツ締着部としてのブーツ取り付け溝62にブーツバンド58により締め付け固定された小径端部74と、大径端部72と小径端部74とを繋ぎ、その大径端部72から小径端部74へ向けて縮径した伸縮自在な蛇腹部76とで構成されている。このブーツ70としては、ゴム製あるいは樹脂製のものがある。
【0026】
この等速自在継手では、外側継手部材10の開口部16の外周面でブーツ70の大径端部72が接触するブーツ締着部としてのブーツ取り付け溝18の軸方向中央部位のみにブーツずれ防止手段を設けると共に、中間シャフト60の外周面でブーツ70の小径端部74が接触するブーツ締着部としてのブーツ取り付け溝62の軸方向中央部位のみにブーツずれ防止手段を設ける。このブーツずれ防止手段としては、以下の実施形態が可能である。なお、以下では、外側継手部材10の開口部16に締め付け固定されるブーツ70の大径端部72について説明するが、中間シャフト60に締め付け固定されるブーツ70の小径端部74についても同様である。
【0027】
図1(A)(B)に示す第一の実施形態におけるブーツずれ防止手段は、外側継手部材10の開口部16の外周面の円周方向に沿って設けられた複数の凹部11としている。各凹部11は、四角錐状に窪んだ形状をなす。一方、図2(A)(B)に示すように、ブーツ70の大径端部72の内周面に、外側継手部材10の凹部11に嵌まり込む凸部71を形成する。この凸部71は、外側継手部材10の凹部11に対応させて四角錐状に突出した形状をなし、ブーツ70の大径端部72の内周面の円周方向に外側継手部材10の凹部11と同一ピッチで形成されている。
【0028】
ブーツ70の大径端部72を外側継手部材10の開口部16に締め付け固定するに際して、ブーツ70の大径端部72の内周面の凸部71が外側継手部材10の開口部16の外周面の凹部11に嵌まり込む。これにより、等速自在継手が低温の環境下で高作動角をとりながら急激に回転する場合であっても、その凹凸嵌合によりブーツ70の円周方向のずれを抑止でき、さらに、軸方向のずれも抑制できる。また、凹部11が形成されたブーツ取り付け溝18の軸方向中央部位を除く部位を平坦面とすることができるので、外側継手部材10に対してブーツ70を確実に密着させることができ、ブーツ70のシール性を十分に確保できる。
【0029】
なお、この実施形態では、ブーツ70の大径端部72の内周面に凸部71を形成しているが、この凸部71を設けることなく、外側継手部材10の開口部16の外周面の凹部11のみであってもよい。この場合、ブーツ70の大径端部72の内周面が外側継手部材10の開口部16の外周面の凹部11に嵌まり込むことで、ブーツ70の円周方向のずれを抑止でき、さらに、軸方向のずれも抑制できる。また、外側継手部材10に対してブーツ70を確実に密着させることができ、ブーツ70のシール性を十分に確保できる。
【0030】
図3(A)(B)に示す第二の実施形態におけるブーツずれ防止手段は、外側継手部材10の開口部16の外周面の円周方向に沿って設けられた複数の凸部13としている。各凸部13は、四角錐状に突出した形状をなす。一方、図4(A)(B)に示すように、ブーツ70の大径端部72の内周面に、外側継手部材10の凸部13が嵌まり込む凹部73を形成する。この凹部73は、外側継手部材10の凸部13に対応させて四角錐状に窪んだ形状をなし、ブーツ70の大径端部72の内周面に外側継手部材10の凸部13と同一ピッチで形成されている。
【0031】
ブーツ70の大径端部72を外側継手部材10の開口部16に締め付け固定するに際して、外側継手部材10の開口部16の外周面の凸部13がブーツ70の大径端部72の内周面の凹部73に嵌まり込む。これにより、等速自在継手が低温の環境下で高作動角をとりながら急激に回転する場合であっても、その凹凸嵌合によりブーツ70の円周方向のずれを抑止でき、さらに、軸方向のずれも抑制できる。また、凸部13が形成されたブーツ取り付け溝18の軸方向中央部位を除く部位を平坦面とすることができるので、外側継手部材10に対してブーツ70を確実に密着させることができ、ブーツ70のシール性を十分に確保できる。
【0032】
なお、この実施形態では、ブーツ70の大径端部72の内周面に凹部73を形成しているが、この凹部73を設けることなく、外側継手部材10の開口部16の外周面の凸部13のみであってもよい。この場合、外側継手部材10の開口部16の外周面の凸部13がブーツ70の大径端部72の内周面に食い込むことで、ブーツ70の円周方向のずれを抑止でき、さらに、軸方向のずれも抑制できる。また、外側継手部材10に対してブーツ70を確実に密着させることができ、ブーツ70のシール性を十分に確保できる。
【0033】
図5および図6に示す第三の実施形態におけるブーツずれ防止手段は、外側継手部材10の開口部16の外周面の円周方向に沿って施されたローレット加工としている。このローレット加工としては、例えば平目15a(図5参照)やあや目15b(図6参照)が実現可能である。
【0034】
ブーツ70の大径端部72を外側継手部材10の開口部16に締め付け固定するに際して、外側継手部材10の開口部16の外周面のローレット加工による筋目(平目15a、あや目15b)がブーツ70の大径端部72の内周面に食い込むことで、等速自在継手が低温の環境下で高作動角をとりながら急激に回転する場合であっても、ブーツ70の円周方向のずれを抑止でき、特にあや目15bの場合、軸方向のずれも抑制できる点で有効である。また、ローレット加工による筋目が形成されたブーツ取り付け溝18の軸方向中央部位を除く部位を平坦面とすることができるので、外側継手部材10に対してブーツ70を確実に密着させることができ、ブーツ70のシール性を十分に確保できる。
【0035】
なお、この実施形態では、外側継手部材10の開口部16の外周面にブーツ取り付け溝18を形成し、このブーツ取り付け溝18をブーツ締着部とした場合について説明したが、前述のようなブーツ取り付け溝18を形成せず、図7および図8に示すように、ブーツ締着部を平坦面とすることも可能である。
【0036】
図7および図8に示す第四の実施形態におけるブーツずれ防止手段は、外側継手部材10の開口部16の外周面でブーツ70の大径端部72が接触する平坦なブーツ締着部18の軸方向中央部位のみに、その円周方向に沿って施されたローレット加工としている。このローレット加工としては、例えば+形17a(図7参照)や×形17b(図8参照)が実現可能である。
【0037】
ブーツ70の大径端部72を外側継手部材10の開口部16に締め付け固定するに際して、外側継手部材10の開口部16の外周面のローレット加工による筋目(+形17a、×形17b)がブーツ70の大径端部72の内周面に食い込むことで、等速自在継手が低温の環境下で高作動角をとりながら急激に回転する場合であっても、ブーツ70の円周方向のずれを抑止でき、また、軸方向のずれも抑制できる。また、ローレット加工による筋目が形成されたブーツ締着部18の軸方向中央部位を除く部位を平坦面とすることができるので、外側継手部材10に対してブーツ70を確実に密着させることができ、ブーツ70のシール性を十分に確保できる。また、この実施形態の場合、ブーツ締着部18としてブーツ取り付け溝を形成せずに平坦面としているので、溝加工を省略することで製作コストの低減を図ることもできる。
【0038】
なお、本発明は、図9に示すダブルオフセット型等速自在継手以外に、クロスグルーブ型等速自在継手やトリポード型等速自在継手などの他の摺動式等速自在継手にも適用可能である。図11はトリポード型等速自在継手の基本構成を例示する。この等速自在継手は、軸線方向に延びる三本のトラック溝112が内周面に形成されると共に各トラック溝112の内側壁に互いに対向するローラ案内面114が形成された外側継手部材110と、先端が外側継手部材110のトラック溝112内に挿入された三本の脚軸122を有する内側継手部材であるトリポード部材120と、トリポード部材120の脚軸122に回転自在に支持されると共に外側継手部材110のトラック溝112に挿入されてローラ案内面114に沿って案内されるトルク伝達部材であるローラ130とで主要部が構成されている。
【0039】
また、本発明は、ツェッパ型等速自在継手やアンダーカットフリー型等速自在継手などの固定式等速自在継手にも適用可能である。図12はアンダーカットフリー型等速自在継手の基本構成を例示する。この等速自在継手は、球面状内周面214に軸方向に延びる複数の円弧状トラック溝212が形成された外側継手部材210と、その外側継手部材210のトラック溝212と対をなして球面状外周面224に複数の円弧状トラック溝222が形成された内側継手部材220と、外側継手部材210の球面状内周面214と内側継手部材220の球面状外周面224との間に配されたケージ240により保持された状態で、外側継手部材210のトラック溝212と内側継手部材220のトラック溝222との間に介在するトルク伝達部材としてのボール230とで主要部が構成されている。
【0040】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0041】
10 外側継手部材
11 ブーツずれ防止手段(凹部)
13 ブーツずれ防止手段(凸部)
15a,15b ローレット加工
16 外側継手部材の開口部
17a,17b ローレット加工
18 ブーツ締着部(ブーツ取り付け溝)
20 内側継手部材
30 トルク伝達部材(ボール)
60 軸部材(中間シャフト)
70 ブーツ
71 凸部
72 ブーツの(大径)端部
73 凹部
74 ブーツの(小径)端部
62 ブーツ締着部(ブーツ取り付け溝)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に開口部を有する外側継手部材と、前記外側継手部材との間でトルク伝達部材を介して角度変位を許容しながらトルクを伝達する内側継手部材とを備え、前記外側継手部材の開口部を閉塞する筒状のブーツの端部を、前記外側継手部材の開口部と前記内側継手部材から延びる軸部材とにそれぞれ締め付け固定した等速自在継手であって、
前記外側継手部材の開口部および前記軸部材の外周面でブーツの端部が接触するブーツ締着部の軸方向中央部位のみに、ブーツずれ防止手段を設けたことを特徴とする等速自在継手。
【請求項2】
前記ブーツずれ防止手段は、外側継手部材の開口部および軸部材の外周面の円周方向に沿って設けられた複数の凹部とした請求項1に記載の等速自在継手。
【請求項3】
前記ブーツの端部の内周面に、前記外側継手部材の凹部に嵌まり込む凸部を形成した請求項2に記載の等速自在継手。
【請求項4】
前記ブーツずれ防止手段は、外側継手部材の開口部および軸部材の外周面の円周方向に沿って設けられた複数の凸部とした請求項1に記載の等速自在継手。
【請求項5】
前記ブーツの端部の内周面に、前記外側継手部材の凸部が嵌まり込む凹部を形成した請求項4に記載の等速自在継手。
【請求項6】
前記ブーツずれ防止手段は、外側継手部材の開口部および軸部材の外周面の円周方向に沿って施されたローレット加工とした請求項1に記載の等速自在継手。
【請求項7】
前記ブーツは、ゴム製である請求項1〜6のいずれか一項に記載の等速自在継手。
【請求項8】
前記ブーツは、樹脂製である請求項1〜6のいずれか一項に記載の等速自在継手。
【請求項9】
前記外側継手部材は、円筒状内周面に軸方向に延びる複数の直線状トラック溝が形成され、前記内側継手部材は、外側継手部材のトラック溝と対をなして球面状外周面に複数の直線状トラック溝が形成され、前記トルク伝達部材は、外側継手部材の円筒状内周面と内側継手部材の球面状外周面との間に配されたケージにより保持された状態で、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝との間に介在するボールである請求項1〜8のいずれか一項に記載の等速自在継手。
【請求項10】
前記外側継手部材は、軸線方向に延びる三本のトラック溝が内周面に形成されると共に各トラック溝の内側壁に互いに対向するローラ案内面が形成され、前記内側継手部材は、先端が前記トラック溝内に挿入された三本の脚軸を有するトリポード部材であり、前記トルク伝達部材は、前記脚軸に回転自在に支持されると共に前記外側継手部材のトラック溝に挿入されて前記ローラ案内面に沿って案内されるローラである請求項1〜8のいずれか一項に記載の等速自在継手。
【請求項11】
前記外側継手部材は、球面状内周面に軸方向に延びる複数の円弧状トラック溝が形成され、前記内側継手部材は、外側継手部材のトラック溝と対をなして球面状外周面に複数の円弧状トラック溝が形成され、前記トルク伝達部材は、外側継手部材の球面状内周面と内側継手部材の球面状外周面との間に配されたケージにより保持された状態で、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝との間に介在するボールである請求項1〜8のいずれか一項に記載の等速自在継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−127369(P2012−127369A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276926(P2010−276926)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】