説明

筋肉増強剤

【課 題】
安全性に優れ、水溶液が高い透明性を示し、苦味が少なく風味上の制限がないため、製品に使用する際の制限がなく、筋肉量増加効果を有するホエータンパク質加水分解物からなる筋肉増強剤の提供。
【解決手段】
分子量分布が10kDa以下でメインピーク200Da〜3kDa、APL(平均ペプチド鎖長)が2〜8、全ての構成成分に対する遊離アミノ酸含量が20%以下、抗原性はβ-ラクトグロブリンの抗原性の1/100,000以下であるホエータンパク質加水分解物を用いた筋肉増強剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋力増強効果に優れ、長期にわたる不活動や無重力状態で萎縮した筋肉の早期回復や、ハードなトレーニング後の筋肉回復に有効で、且つ苦味が少なく、安定性及び安全性に優れた筋肉増強剤に関する。
【0002】
本発明は、さらに当該筋肉増強剤を含有する筋肉増強用飲食品、筋肉増強用栄養組成物、又は筋肉増強用飼料に関する。
【背景技術】
【0003】
長期の不活動や無重力状態は、生物の身体に様々な生理学的変調(体重低下、骨の脱灰、骨格筋の萎縮など)を起こすことが知られている。例えば、骨折などによる長期間のギプス固定や長期間の寝たきり状態は、健康な人に比べて著しい筋肉量の減少を引き起こす。また、宇宙飛行士が長期の宇宙滞在後に地球へ帰還すると、筋肉量が減少しているために立つことさえも出来なくなることが知られている。このため、摂取する食餌成分、特にタンパク質やアミノ酸栄養による骨格筋萎縮の予防と早期回復に関する検討がなされている。例えば、非特許文献1では、食餌タンパク質源として大豆タンパク質を用いて、長期の無重力状態によって引き起こされる骨格筋の萎縮に対する軽減効果について検討しており、大豆タンパク質の摂取によって、腹筋の筋重量低下の抑制効果が示されている。
【0004】
また、運動選手等が激しいトレーニングを行った場合、筋肉は栄養素摂取の如何に関わらず、運動負荷によって適応的に増加するといわれているが、筋肉量増加の材料となるアミノ酸の不足は筋の合成を抑制する可能性がある。このことから、運動トレーニング中のタンパク質やペプチドの摂取が筋肉タンパク質の合成に与える影響についても検討されている。例えば、非特許文献2では、マウスを長期間持久運動させたときの筋肉の合成・維持に対する大豆ペプチド摂取の影響に関して検討しており、大豆ペプチドの摂取が腹筋と四頭筋の筋重量を増加させたことを報告している。
【0005】
しかしながら、大豆ペプチドには特有の苦味があり、また水に分散させた際に白濁するため、飲食品等に使用するには制限があり、特に透明性を求める製品には使用できない欠点があった。
牛乳中に含まれるホエータンパク質は大豆タンパク質と比較すると筋肉の合成に関わる分岐鎖アミノ酸含量が高く、またNPU(Net Protein Utilization ; 正味タンパク質利用率)も高いことが知られている。しかしながら、実際にホエータンパク質あるいはその加水分解物であるホエーペプチドの摂取が筋肉量の増加に与える影響について体系的にまとめた報告はない。
【0006】
また、乳タンパク質の加水分解物は、牛乳、乳製品における食物アレルギーを防止するために様々な製品に用いられている。特に牛乳のホエータンパク質は母乳中に含まれるタンパク質と異なり、アレルゲンになると考えられており、これを防止するためにホエータンパク質を酵素で加水分解することが知られ、特許文献1や特許文献2等の方法が報告されている。
【0007】
これらの方法、例えばホエータンパク質加水分解物を製造する際、酵素処理後に酵素を加熱失活し、さらに酵素処理を行う方法によると、1) 加熱失活後に精製するホエータンパク質の沈殿物・凝集物に対して酵素処理が難しく、抗原性の低下及び歩留まり向上につながらない、2) 予め酵素処理する前にホエータンパク質を加熱処理(90℃で10分間以上)すると歩留まりが低下する等、多くの問題があった。
【特許文献1】特開平2−002319号公報
【特許文献2】特開平2−138991号公報
【非特許文献1】多田ら、大豆たん白質研究 Vol.2 pp112-117 (1999)
【非特許文献2】伏木ら、大豆たん白質研究会会誌 Vol.16 pp1-3 (1995)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明では、筋肉量増加効果を有するホエータンパク質加水分解物からなる筋肉増強剤を提供することを課題とする。
【0009】
さらに筋肉増強作用を有し、安全性に優れ、風味上に問題のない経口的に摂取する筋肉増強用食品、筋肉増強用栄養組成物、筋肉増強用飼料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、発明者等は、上述するようにホエータンパク質を特定の条件で、耐熱性のタンパク質加水分解酵素を加えて、熱変性をさせながら酵素分解して得ることのできるホエータンパク質加水分解物について、鋭意検討したところ、本発明の特許請求の範囲に記載するような、分子量分布は10kDa以下でメインピーク200Da〜3kDa、APL(平均ペプチド鎖長)は2〜8、全ての構成成分に対する遊離アミノ酸含量20%以下、抗原性はβ-ラクトグロブリンの抗原性の1/100,000以下のホエータンパク質加水分解物が上記課題を満たす筋肉増強作用を有することを見出した。
【0011】
したがって、本発明は、下記の構成からなる発明である。
(1)以下の特徴を有するホエータンパク質加水分解物を有効成分として含有することを特徴とする筋肉増強剤。
1.分子量分布は10kDa以下でメインピーク200Da〜3kDa
2.APL(平均ペプチド鎖長)は2〜8
3.遊離アミノ酸含量20%以下
4.抗原性は、β-ラクトグロブリンの1/100,000以下
(2)有効成分として含有するホエータンパク質加水分解物が、ホエータンパク質をpH6〜10、50〜70℃において耐熱性のタンパク質加水分解酵素を用いて熱変性させながら分解し、これを加熱して酵素を失活させて得られるものであることを特徴とする(1)に記載の筋肉増強剤。
(3)有効成分として含有するホエータンパク質加水分解物が、ホエータンパク質をpH6〜10、20〜55℃においてタンパク質加水分解酵素を用いて分解し、これを50〜70℃に昇温させ、pH6〜10、50〜70℃において耐熱性のタンパク質加水分解酵素を用いて未分解のホエータンパク質を熱変性させながら分解し、これを加熱して酵素を失活させて得られるものであることを特徴とする(1)に記載の筋肉増強剤。
(4)前記ホエータンパク質加水分解物が、ホエータンパク質をpH6〜10、20〜55℃においてタンパク質加水分解酵素を用いて分解し、これを50〜70℃に昇温させ、pH6〜10、50〜70℃において耐熱性のタンパク質加水分解酵素を用いて未分解のホエータンパク質を熱変性させながら分解し、これを加熱して酵素を失活させた後に、分画分子量1〜20kDaの限外ろ過膜処理で未分解のタンパク質を除去し、さらに分画分子量100〜500Daの精密ろ過膜処理を行って低分子画分を除去して得られるものであることを特徴とする(1)に記載の筋肉増強剤。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載の筋肉増強剤を含むことを特徴とする筋肉増強用飲食品、筋肉増強用栄養組成物または筋肉増強用飼料。
(6)以下の特徴を有するホエータンパク質加水分解物を10g/日以上摂取することによる筋肉増強方法。
1.分子量分布が10kDa以下でメインピーク200Da〜3kDa
2.APL(平均ペプチド鎖長)は2〜8
3.遊離アミノ酸含量20%以下
4.抗原性が、β-ラクトグロブリンの1/100,000以下
【発明の効果】
【0012】
本発明の筋肉増強剤は、筋肉合成作用効果が顕著であり、筋萎縮状態からの回復や、激しいトレーニングで損傷した筋肉の回復に有用である。
【0013】
この筋肉増強剤の有効成分として用いるホエータンパク質加水分解物は、後述するように抗原性がβ-ラクトグロブリンに比べて1/100,000以下、ホエータンパク質に比べて1/100,000以下になることが確認されており、安全性が高いものである。
また、ホエータンパク質加水分解物を限外ろ過(UF)膜や精密ろ過(MF)膜処理することにより、水への溶解能を向上させることができる。
さらに、上記筋肉増強剤を有効成分として含有する筋肉増強能を有し、安全性に優れた筋肉増強用飲食品、筋肉増強用栄養組成物や筋肉増強用飼料を提供できる。
さらにまた、本発明の筋肉増強剤は、ホエータンパク質を原料としているため、簡便且つ経済的に容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の筋肉増強剤に含有されるホエータンパク質加水分解物は、ホエータンパク質をpH6〜10、50〜70℃とし、これに耐熱性のタンパク質加水分解酵素を加えて熱変性させながら分解した後、加熱して酵素を失活させることにより得られる筋肉増強作用を有するホエータンパク質加水分解物であり、さらにまた、上記酵素分解を行う前に、ホエータンパク質をpH6〜10、20〜55℃においてタンパク質加水分解酵素を用いて分解し、これを冷却することなくただちに上記条件で酵素分解すると収率を一層高めることができる。
【0015】
なお、上記のように調製したホエータンパク質加水分解物を、さらに分画分子量1kDa〜20kDa、好ましくは2kDa〜10kDaの限外ろ過(UF)膜及び/又は分画分子量100Da〜500Da、好ましくは150Da〜300Daの精密ろ過(MF)膜から選択される方法で濃縮することにより、一層筋肉増強作用を高めることができる。また、さらに苦味を低減し、透明性を高めることができる。
【0016】
本発明におけるホエータンパク質は、牛乳、水牛、山羊、ヒト等の哺乳動物のホエー、その凝集物、粉末、あるいは精製タンパク質をいい、これを酵素反応させるときは水溶液の状態で使用する。
この溶液をpH6〜10に調整するが、通常ホエータンパク質はこの範囲のpHになっているので格別pHの調整を行う必要はないが、必要な場合は塩酸、クエン酸及び乳酸等の酸溶液あるいは苛性ソーダ、水酸化カルシウム及びリン酸ソーダ等のアルカリ溶液を用いてpH6〜10とする。加熱によって50〜70℃まで昇温するが、耐熱性のタンパク質加水分解酵素は、昇温後に添加するよりも、加熱前に添加し、加温中も酵素分解を行っていた方が収率の面から好ましい。
【0017】
一般的なタンパク質加水分解酵素であるProtease(プロテアーゼ)の至適温度は40℃以下であるが、耐熱性のタンパク質加水分解酵素は45℃以上であり、耐熱性のタンパク質加水分解酵素としては、このような至適温度を有する耐熱性のタンパク質加水分解酵素であれば特に制限無く用いることができる。このような耐熱性のタンパク質加水分解物として、例えば、パパイン、プロテアーゼS(商品名)、プロレザー(商品名)、サモアーゼ(商品名)、アルカラーゼ(商品名)、プロチンA(商品名)等を例示することができる。耐熱性のタンパク質加水分解酵素は80℃で30分加熱して残存活性が10%あるいはそれ以上になるものが望ましい。また、単独よりも複数の酵素を併用するとより効果的である。反応は30分〜10時間程度行うことが好ましい。
最後に反応液を加熱して酵素を失活させる。酵素の失活は反応液を100℃以上で10秒間以上加熱することにより行うことができる。
酵素を失活させた後、反応液を遠心分離して上清を回収し、上清を乾燥して粉末製品とする。なお、遠心分離した時に生じる沈殿物は上清に比べて低アレルゲン化の程度が小さいので、除去した方が好ましいが、抗原性の問題がなければ、反応液をそのまま乾燥して使用しても差し支えない。
【0018】
この方法により得られるホエータンパク質加水分解物は、Inhibition ELISA法〔日本小児アレルギー学会誌、1、36(1987)〕で測定して、抗原性がβ-ラクトグロブリンに比べて1/100,000以下、ホエータンパク質に比べて1/100,000以下になることが確認されているため、安全が高いものである。
【0019】
本発明のホエータンパク質加水分解物は、そのまま筋肉増強剤として使用することが可能であるが、常法に従い、粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤等に製剤化して用いることも出来る。また、さらに限外ろ過(UF)膜や精密ろ過(MF)膜処理により得られたホエータンパク質加水分解物についても、そのまま筋肉増強剤として使用することも可能であり、そのまま乾燥しても使用できる。また、常法に従い、製剤化して用いることもできる。さらに、これらを製剤化した後、栄養剤やヨーグルト、飲料、乳飲料、ウエハース等の飲食品、飼料及びサプリメント等に配合することも可能である。
【0020】
筋肉増強用飲食品、筋肉増強用栄養組成物、筋肉増強用飼料におけるタンパク質分解物の配合量は、特に制限はないが、成人一人一日あたりホエータンパク質加水分解物を10g以上、好ましくは20g以上摂取できるように商品設計を行うことが好ましい。
【0021】
本発明の筋肉増強剤は、上記の有効成分に適当な助剤を添加して任意の形態に製剤化して、経口投与が可能な筋肉増強剤とすることができる。
【0022】
以下に実施例、比較例及び試験例を示し、本発明について詳細に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
なお、実施例においては透明性及び苦味の評価は下記の方法により評価した。

透明性評価法:1%ホエータンパク質加水分解物溶液を調製し、650nmにおける吸光度を測定した。

苦味評価法:10%ホエータンパク質加水分解物溶液を調製し、苦味物質である塩酸キニーネを添加して、苦味を評価する。表1に示すように、苦味点数が2点以下であれば、飲食品などに利用可能である。
【0023】
【表1】

【実施例1】
【0024】
ホエータンパク質10%水溶液1Lに、パパイン50U/g・ホエータンパク質、及びプロレザー(Proleather : 天野エンザイム社製)150U/g・ホエータンパク質となるように加え、pH8に調整し、55℃において6時間ホエータンパク質を変性させながら酵素分解を行った。反応液を100℃で15秒間以上加熱して酵素を失活させ、遠心分離して上清を回収し、これを乾燥してホエータンパク質加水分解物を得た。
【0025】
得られたホエータンパク質加水分解物の分子量分布は10kDa以下、メインピークは1.3kDa、APLは7.2、全ての構成成分に対する遊離アミノ酸含量は18.9%であった。また、Inhibition ELISA法によってβ-ラクトグロブリンに対する抗原性の低下を測定したところ、1/100,000以下で収率(酵素反応液を遠心分離し、仕込み量の乾燥重量に対する上清の乾燥重量の比率(%))80.3%、苦味度は2であった。得られたホエータンパク質加水分解物のアミノ酸組成を表2に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
このようにして得られたホエータンパク質加水分解物は、そのまま発明の筋肉増強剤として使用可能である。
本実施例で得られたホエータンパク質加水分解物の水溶液は透明であり、苦味度も2程度であることから、剤や食品、飲料などへの配合時に扱いやすいという特徴を有するものである。
【実施例2】
【0028】
ホエータンパク質10%水溶液1Lに、パパイン50U/g・ホエータンパク質、及びプロレザー150U/g・ホエータンパク質を加え、pH8、50℃で3時間酵素分解を行った。これを55℃に昇温させ、この温度で3時間維持し、タンパク質を変性させるとともに、タンパク質の酵素分解を行い、100℃で15秒間以上加熱して酵素を失活させた。この反応液を分画分子量10kDaのUF膜(STC社製)及び分画分子量300DaのMF膜(STC社製)処理を行い、濃縮液画分を回収し、これを乾燥してホエータンパク質加水分解物を得た。得られたホエータンパク質加水分解物の分子量分布は10kDa以下、メインピークは500Da、APLは3.0、全ての構成成分に対する遊離アミノ酸含量は15.2%であった。また、Inhibition ELISA法によってβ-ラクトグロブリンに対する抗原性の低下を測定したところ、1/100,000以下となっており、収率65.4%、苦味度は2であった。このようにして得られたホエータンパク質加水分解物は、そのまま本発明の筋肉増強剤として使用可能である。
【0029】
[比較例1]
ホエータンパク質120gを精製水1,800mLに溶解し、1M苛性ソーダ溶液でpHを7.0に調整した。次いで、60℃で10分間加熱して殺菌し、45℃に保持してアマノA(天野エンザイム社製)20gを添加し、2時間反応させた。80℃で10分間加熱して酵素を失活させ、凍結乾燥し、ホエータンパク質加水分解物を得た。
【0030】
得られたホエータンパク質加水分解物の分解率は18%、収率は80.6%であった。
[比較例2]
ホエータンパク質120gを精製水1,800mLに溶解し、1M苛性ソーダ溶液でpHを7.0に調整した。次いで、60℃で10分間加熱して殺菌し、45℃に保持してアマノA(天野エンザイム社性)20gを添加し、8時間反応させた。80℃で10分間加熱して酵素を失活させ、凍結乾燥し、ホエータンパク質加水分解物を得た。得られたホエータンパク質加水分解物の分解率は30%、収率は80.6%であった。
【0031】
[試験例1]
(透明性試験)
実施例1,2及び比較例1,2の各タンパク質加水分解物の1%水溶液を調製し、650nmにおける吸光度を測定した。その結果を表2に示す。
【0032】
【表3】

【0033】
実施例1、2のホエータンパク質加水分解物は吸光度が低いことからわかるように、透明性が高い。一方、比較試料においては、実施例1,2のホエータンパク質加水分解物に比べて吸光度が高く透明性が低いことがわかった。また、膜処理をした実施例2のホエータンパク質加水分解物の吸光度は、実施例1のホエータンパク質加水分解物より低く、透明性に優れていた。
【0034】
[試験例2]
(筋力回復試験)
実験動物として、日本SLCより購入した5週齢のWistar系雌ラットを6週齢時に各群の体重が等しくなるように4群に分類した(各群n=6〜7、144±6.8g)。餌はAIN93標準試料をベースにカゼインタンパク質を加水分解前のホエータンパク質、実施例1のホエータンパク質加水分解物、実施例2のホエータンパク質加水分解物で置き換えたものを与えた。摂取量は自由としたが、2〜3日毎に摂食量の測定を行った。後脚懸垂期間中(1週間)は全てのラットが標準試料を摂取した。後脚懸垂終了後、通常飼育ケージ内で1週間飼育し、試料条件の違いはこの回復期間中のみに適用した。なお、コントロールとしては、標準飼料を摂取しながら、後脚懸垂を行い群とした。回復期間終了後、ペントバルビタールナトリウム(50mg/kg)による麻酔下で、下腿骨格筋(ヒラメ筋 : SOL)を摘出し、筋タンパク重量の測定に供した。ヒラメ筋の体重あたりの相対筋タンパク質含量を測定した結果を表4に示す。
【0035】
【表4】

【0036】
体重あたりの相対筋タンパク質含量は、標準飼料群およびホエータンパク質群のみがコントロールに比べて優位な筋重量の低下を示した。また、実施例1および実施例2のホエータンパク質加水分解物を摂取した群においては、有意な筋重量の低下は認められなかった。
【実施例3】
【0037】
(筋肉増強用栄養組成物の調製)
実施例2で得られたホエータンパク質加水分解物50gを4,950gの脱イオン水に溶解し、50℃まで加熱後、TKホモミクサー(TK ROBO MICS;特殊機化工業社製)にて、6,000rpmで30分間撹拌混合してホエータンパク質加水分解物含量50g/5kgのホエータンパク質加水分解物溶液を得た。このホエータンパク質加水分解物溶液5.0kgに、カゼイン5.0kg、大豆タンパク質5.0kg、魚油1.0kg、シソ油3.0kg、デキストリン18.0kg、ミネラル混合物6.0kg、ビタミン混合物1.95kg、乳化剤2.0kg、安定剤4.0kg、香料0.05kgを配合し、200mlのレトルトパウチに充填し、レトルト殺菌機 (第1種圧力容器、TYPE: RCS-4CRTGN、日阪製作所製)で121℃、20分間殺菌して、本発明の筋肉増強用栄養組成物50kgを製造した。なお、この筋肉増強用栄養組成物には、100gあたり、ホエータンパク質加水分解物が100mg含まれていた。
【実施例4】
【0038】
(筋肉増強用飲料の調製)
脱脂粉乳 300gを409gの脱イオン水に溶解した後、実施例1で得られたホエータンパク質加水分解物1gを溶解し、50℃まで加熱後、ウルトラディスパーサー(ULTRA-TURRAX T-25;IKAジャパン社製)にて、9,500rpmで30分間撹拌混合した。マルチトール100g、酸味料 2g、還元水飴20g、香料2g、脱イオン水166gを添加した後、100mlのガラス瓶に充填し、90℃、15分間殺菌後、密栓し、本発明の筋肉増強用飲料10本(100ml入り)を調製した。なお、この筋肉増強用飲料には、100mlあたりホエータンパク質加水分解物が100mg含まれていた。
【実施例5】
【0039】
(イヌ用筋肉増強用飼料の調製)
実施例2で得られたホエータンパク質加水分解物200gを99.8kgの脱イオン水に溶解し、50℃まで加熱後、TKホモミクサー(MARK II 160型;特殊機化工業社製)にて、3,600rpmで40分間撹拌混合してホエータンパク質加水分解物含量2g/100gのホエータンパク質加水分解物溶液を得た。このホエータンパク質加水分解物溶液10kgに大豆粕12kg、脱脂粉乳14kg、大豆油4kg、コーン油2kg、パーム油23.2kg、トウモロコシ澱粉14kg、小麦粉9kg、ふすま2kg、ビタミン混合物5kg、セルロース2.8kg、ミネラル混合物2kgを配合し、120℃、4分間殺菌して、本発明のイヌ用筋肉増強用飼料100kgを製造した。なお、このイヌ用筋肉増強用飼料には、100gあたりホエータンパク質加水分解物が20mg含まれていた。












【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の特徴を有するホエータンパク質加水分解物を有効成分とする筋肉増強剤。
1.分子量分布が10kDa以下でメインピーク200Da〜3kDa
2.APL(平均ペプチド鎖長)は2〜8
3.遊離アミノ酸含量20%以下
4.抗原性が、β-ラクトグロブリンの1/100,000以下
【請求項2】
前記ホエータンパク質加水分解物が、ホエータンパク質をpH6〜10、50〜70℃において耐熱性のタンパク質加水分解酵素を用いて熱変性させながら分解し、これを加熱して酵素を失活させて得られるのものであることを特徴とする請求項1に記載の筋肉増強剤。
【請求項3】
前記ホエータンパク質加水分解物が、ホエータンパク質をpH6〜10、20〜55℃においてタンパク質加水分解酵素を用いて分解し、これを50〜70℃に昇温させ、pH6〜10、50〜70℃において耐熱性のタンパク質加水分解酵素を用いて未分解のホエータンパク質を熱変性させながら分解し、これを加熱して酵素を失活させて得られるものであることを特徴とする請求項1に記載の筋肉増強剤。
【請求項4】
前記ホエータンパク質加水分解物が、ホエータンパク質をpH6〜10、20〜55℃においてタンパク質加水分解酵素を用いて分解し、これを50〜70℃に昇温させ、pH6〜10、50〜70℃において耐熱性のタンパク質加水分解酵素を用いて未分解のホエータンパク質を熱変性させながら分解し、これを加熱して酵素を失活させた後に、分画分子量1〜20kDaの限外ろ過膜処理で未分解のタンパク質を除去し、さらに分画分子量100〜500Daの精密ろ過膜処理を行って低分子画分を除去して得られるものであることを特徴とする請求項1に記載の筋肉増強剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の筋肉増強剤を含むことを特徴とする筋肉増強用飲食品、栄養組成物又は飼料。
【請求項6】
以下の特徴を有するホエータンパク質加水分解物を10g/日以上摂取することによる筋肉増強方法。
1.分子量分布が10kDa以下でメインピーク200Da〜3kDa
2.APL(平均ペプチド鎖長)は2〜8
3.遊離アミノ酸含量20%以下
4.抗原性が、β-ラクトグロブリンの1/100,000以下

【公開番号】特開2010−150160(P2010−150160A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−328085(P2008−328085)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000006699)雪印乳業株式会社 (155)
【Fターム(参考)】