説明

簡易式噴霧機

【課題】電力を充電した蓄電池を用いる場合でも、噴霧作業をよりいっそう継続させることのできる簡易式噴霧機が求められている。
【解決手段】簡易式噴霧機1は、少なくとも1つの車輪8を有する手曳き式のカート体4と、カート体4に搭載された薬液タンク14および希釈液タンク15と、薬液タンク15内の薬液および希釈液タンク14内の希釈液を汲み上げるポンプと、薬液タンク15内からの薬液と希釈液タンク14内からの希釈液とを混合し、こん混合液をポンプに吸入させる混合器と、ポンプから吐出された混合液を噴射する噴霧ノズル50と、太陽光エネルギーを電力に変換する太陽電池パネル5と、太陽電池パネル5または外部電源からの電力を蓄える蓄電池と、太陽電池パネル5または蓄電池からの電力をポンプに供給する電力供給装置とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪走行するカート体に、液タンク、ポンプ、ポンプ駆動源、および噴霧ノズルを搭載した手曳き式の簡易式噴霧機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の噴霧機としては例えば下記の特許文献1に記載されたものが知られている。かかる文献記載の噴霧機は、手曳き式の2輪カート体の載置部に、原動機およびポンプなどの噴霧用動力機器、噴霧液タンク、および噴霧ノズルを搭載したものである。この噴霧機では、一方の手で把手を持ってカート体を曳きながら、他方の手で持った噴霧ノズルから除草剤などの薬液を散布するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−100185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記したような従来の噴霧機は原動機を搭載しているため、蓄電池を用いた場合のように充電量の消費を心配する必要はない。しかしながら、原動機は比較的重量があるため、山間の傾斜が急な農地での作業には不向きであると考えられる。
そこで、動力源として蓄電池の充電電力を用いてポンプを駆動することが考えられるが、蓄電池の充電容量には限りがあるため、長時間の散布作業ができないおそれがある。そのため、蓄電池を用いた場合の噴霧作業を、よりいっそう継続させることが嘱望される。他方で、山畑や傾斜のきつい農地では車輪走行ができない場所もある。
【0005】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであって、電力を充電した蓄電池を用いる場合でも、噴霧作業をよりいっそう継続させることのできる簡易式噴霧機の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る簡易式噴霧機は、少なくとも1つの車輪を有する手曳き式のカート体と、カート体に搭載された薬液タンクおよび希釈液タンクと、薬液タンク内の薬液および希釈液タンク内の希釈液を汲み上げるポンプと、薬液タンク内からの薬液と希釈液タンク内からの希釈液とを混合し該混合液をポンプに吸入させる混合器と、ポンプから吐出された混合液を噴射する噴霧ノズルと、太陽光エネルギーを電力に変換する太陽電池パネルと、太陽電池パネルまたは外部電源からの電力を蓄える蓄電池と、太陽電池パネルまたは蓄電池からの電力をポンプに供給する電力供給装置と、を備えた構成にしてある。
【0007】
また、前記構成において、カート体および太陽電池パネルからカートユニットが構成され、薬液タンク、希釈液タンク、ポンプ、混合器、噴霧ノズル、蓄電池および電力供給装置から噴霧ユニットが構成され、前記噴霧ユニットが前記カートユニットに着脱可能に装着されているものである。
【0008】
そして、前記した各構成において、太陽電池パネルが上下揺動自在にカート体に支持されているものである。
【0009】
更に、前記した各構成において、薬液タンク内の薬液を吸引し、吸引した所定量の薬液を希釈液タンク内の希釈液に注入する注入器を備えて成り、該注入器は、計量用シリンダ、および該計量用シリンダ内で摺動する計量用ピストンから成る計量部と、計量用シリンダよりも大径で計量用シリンダから延在して形成されたエア抜き用シリンダ、および計量用ピストンから延在して形成されていてエア抜き用シリンダ内で摺動するエア抜き用ピストンから成るエア抜き部と、一端が薬液タンク内の薬液中に投入され他端が計量用シリンダの先端開口に連結されていて計量用シリンダに向かう方向にのみ流体流通を許容する第1逆止弁を有する吸込み用管路と、一端がエア抜き用シリンダに連結され他端が薬液タンクに連結されていて薬液タンクに向かう方向にのみ流体流通を許容する第2逆止弁を有する戻し用管路と、一端が計量用シリンダの先端開口に連結され他端が希釈液タンクに連結されていて希釈液タンクに向かう方向にのみ流体流通を許容する第3逆止弁を有する注入用管路と、を備えて成るものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る簡易式噴霧機によれば、太陽光エネルギーを電力に変換する太陽電池パネルと、蓄電池と、太陽電池パネルまたは蓄電池からの電力をポンプに供給する電力供給装置とを備えているので、太陽光エネルギーを用いてポンプを駆動し噴霧ノズルから噴霧させることができる。これにより、蓄電池に充電されていた電力が噴霧作業により消費されて作業を継続させることが難しくなるような場合でも、太陽電池パネルからの電力を用いて噴霧作業をよりいっそう継続させることができる。あるいは、噴霧作業を行なわない場合には、次の作業に備えて太陽電池パネルからの電力を蓄電池に充電しておくことも可能となる。
【0011】
また、噴霧ユニットがカートユニットに着脱可能に装着されているものでは、噴霧ユニットをカートユニットから取り出して噴霧作業に使用できるので、カートユニットの車輪走行が困難または不可能な場所であっても、噴霧ユニットのみを人手で運んで噴霧作業ができるという効果を呈する。
【0012】
そして、太陽電池パネルが上下揺動自在にカート体に支持されているものでは、カート体の正立姿勢、噴霧作業時の傾斜姿勢、液取り扱いや噴霧ユニットの着脱操作時などの状況に応じて、太陽電池パネルを上下揺動させて好適な角度にすることができる。これにより、効率よく太陽光エネルギーを利用できるほか、各種作業を容易に行なうことができる。
【0013】
更に、薬液タンク内の薬液を吸引し、吸引した所定量の薬液を希釈液タンク内の希釈液に注入する注入器を備えているものでは、所定量の薬液を正確に計量して希釈液と希釈混合することができ、正確な希釈倍率の混合液を得ることができる。これにより、高希釈倍率の殺虫剤であっても適正に噴霧作業に使用することができる。また、誤計量しやすい小容量計量カップを使用する必要がなく、使用後のカップを洗浄する手間も省くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る簡易式噴霧機の外観図である。
【図2】前記簡易式噴霧機の希釈液タンクおよび薬液タンクの側断面図である。
【図3】前記希釈液タンクの正断面図である。
【図4】前記簡易式噴霧機の混合器の外観図である。
【図5】前記簡易式噴霧機の概略全体構成図である。
【図6】前記簡易式噴霧機の制御系統構成図である。
【図7】前記簡易式噴霧機の側面図である。
【図8】前記簡易式噴霧機の太陽電池パネルを水平に向けた状態を示す状態説明図である。
【図9】前記簡易式噴霧機を手曳きしながら薬液散布する状態を示す使用態様説明図である。
【図10】前記希釈液タンクおよび薬液タンクを斜めにした状態の側断面図である。
【図11】カートユニットから取り外した噴霧ユニットを使用する状態を示す使用態様説明図である。
【図12】前記簡易式噴霧機の注入器の外観図である。
【図13】前記注入器およびその付帯構成を示す側断面構成図である。
【図14】前記注入器の計量用シリンダおよびエア抜き用シリンダに薬液およびエアを吸い入れる動作を示す動作説明図である。
【図15】薬液およびエアを薬液タンクに戻す動作を示す動作説明図である。
【図16】計量用シリンダで計量後の薬液を希釈液タンクに送出した動作を示す動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下に述べる実施形態は本発明を具体化した一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものでない。図1は本発明の一実施形態に係る簡易式噴霧機の外観図、図2は前記簡易式噴霧機の希釈液タンクおよび薬液タンクの側断面図、図3は前記希釈液タンクの正断面図、図4は前記簡易式噴霧機の混合器の外観図、図5は前記簡易式噴霧機の概略全体構成図、図6は前記簡易式噴霧機の制御系統構成図である。
各図において、この実施形態に係る簡易式噴霧機1は、太陽光エネルギーSを電力に変換する太陽電池パネル5をカート体4に搭載したカートユニット2と、噴霧ノズル50などから成る噴霧ユニット3とから構成されている。前記の噴霧ユニット3は、薬液タンク15、希釈液タンク14、ポンプ46、混合器28、噴霧ノズル50、および、電力供給装置61を含む制御装置60から構成されている。
【0016】
カート体4は、平行に配置された前後フレーム9,9の前端部に竪フレーム11,11が立設され、前後フレーム9,9上に載置台13が設置されている。前後フレーム9,9の後部は下向きに曲げられてつなげられた脚部9Aとなっている。前後フレーム9,9の下方には、左右の車軸受10,10が垂設され、これらの車軸受10,10に2つの車輪8,8が回動自在に枢支されている。竪フレーム11,11の上端部には、手曳きのための把手部12が架け渡されている。カート体4の載置台13上には、希釈液タンク14が搭載されている。カート体4における左右の竪フレーム11,11の上下中央下部には、凹の字状の受け部材54,54が後向きに熔接などで固設されている。そして、希釈液タンク14の左右両側面に形成された雌ネジ穴(図示省略)に螺合するビス55,55が、カート体4の受け部材54,54に係脱自在に載置支持されることにより、噴霧ユニット3がカートユニット2に着脱可能に装着される。
【0017】
希釈液タンク14は、上面に液投入口16を有し希釈液W(例えば水)を貯留する矩形箱状の容器であり、その背面に格納凹部26が形成されている。希釈液タンク14の格納凹部26には、後述する駆動部40が収納される。希釈液タンク14の液投入口16はキャップ17で封止される。希釈液タンク14内の底部において前側の左右中央部は最も低い最下底面19となっている。最下底面19の左右両側には、最下底面19に液を集めるための傾斜底面20,20が形成されている。最下底面19近傍の側面には、液排出口18が形成されており、通常時、液排出口18はキャップで封止されている。希釈液タンク14の左右上端部にはリブ21,21が形成され、これらのリブ21,21には、後述するベルト69のスナップリング68(図11参照)を掛止するための吊穴22が形成されている。
【0018】
薬液タンク15は上部に液投入口34を有し薬液M(例えば殺虫剤)を貯留する箱状容器であり、多くの場合は希釈液タンク14よりも小さな容量で形成されている。薬液タンク15は、希釈液タンク14の格納凹部26に収納された駆動部40のケーシングの背面に取り付けられている。液投入口34は希釈液タンク14の背面に対し角度θだけ後方に傾けて配置されている。この角度θは、簡易式噴霧機1を直立させたとき(図7参照)に液投入口34から薬液Mを入れやすい角度であり、且つ、ノズル散布時に簡易式噴霧機1を手曳きのために傾けたときは液投入口34の口芯が縦向きとなる角度であり、例え液投入口34を封止するキャップ35が緩んでいた場合でも薬液Mが液投入口34からこぼれにくくなるようになっている。
【0019】
格納凹部26内における希釈液タンク14の側壁には中継管部23が貫通配備されている。中継管部23の両端には管路24,24が接続されている。一方の管路24の先端には、希釈液タンク14の最下底面19上に投入される錘付き吸込み口25が取り付けられている。他方の管路24の先端は、後述する混合器28の希釈液入側管路29に接続されている。そして、薬液タンク15の側壁および駆動部40のケーシングの側壁には中継管部38が貫通配備されている。中継管部38の両端には管路36,36が接続されている。一方の管路36の先端には、薬液タンク15の底面上に投入される錘付き吸込み口37が取り付けられている。他方の管路36の先端は混合器28の薬液入側管路31に接続されている。これら管路36,36のいずれかには、例えば手動で開閉される開閉弁56が配備されている。
【0020】
混合器28は、管体である本体ケーシング30と、本体ケーシング30の入側に分岐接続されて希釈液タンク14内の希釈液Wが導入される希釈液入側管路29と、本体ケーシング30の入側に分岐接続されて薬液タンク15内の薬液Mが導入される薬液入側管路31と、本体ケーシング30の出側に接続された液出側管路32とから構成されている。液出側管路32は管路45を介してポンプ46の吸込み側と接続されている。希釈液入側管路29および薬液入側管路31はそれぞれ分割可能に形成されていて、それぞれの分割部分はキャップ33,33により分離可能に連結される。希釈液入側管路29内にはポンプ46に向かう流体流通のみ許容する逆止弁42とオリフィス41が配備されている。薬液入側管路31内にもポンプ46に向かう流体流通のみ許容する逆止弁44と、オリフィス41の孔径φ1よりも小径の孔径φ2を有するオリフィス43が配備されている。オリフィス41とオリフィス43の孔径比(=φ1/φ2)は薬液Mの種類、用途、作業状態に応じて異なるが、薬液Mが例えば除草剤である場合、希釈倍率=9/1〜50/1程度とするように孔径比が選定される。この混合器28は、薬液タンク15内からの薬液Mと希釈液タンク14内からの希釈液Wとを所定比率で混合し、その混合液Yをポンプ46に吸入させるようになっている。
【0021】
ポンプ46の吐出側はホース47を介して散布杆の把手48の末端側に接続されている。把手48には、枢支部51回りに揺動するハンドル52により開閉される弁体(図示省略)と、ハンドル52の揺動を検出して弁体の開放を検知する手元スイッチ53が配備されている。把手48の先端には散布管49が接続され、散布管49の先端には混合器28で混合された混合液Yを噴射するノズル50が配備されている。
【0022】
上記した駆動部40には、ポンプ46の他に、制御装置60が配備されている。制御装置60は、電力供給装置61と、トグルスイッチ62と、ADコンバータ63と、コンセント64と、蓄電池65と、接続端子66とを備えている。接続端子66は太陽電池パネル5の接続端子67と分離可能に接続されるようになっている。尚、電力供給装置61の入力側には、太陽電池パネル5、手元スイッチ53、トグルスイッチ62、ADコンバータ63および蓄電池65が接続され、電力供給装置61の出力側には、ポンプ46のモータおよび蓄電池65が接続されている。トグルスイッチ62は、蓄電池65と電力供給装置61間の配線を断続して、不要時における蓄電池65からの無駄な放電を防ぐものである。
【0023】
この簡易式噴霧機1の諸元は、それぞれ一例であるが、希釈液タンク14の内容量が5L、薬液タンク15の内容量が500mL、総重量が4.4kg、把手部12までの高さが1m程度である。また、ポンプ46は、モータ出力が3W、噴霧量が0.1L/分、噴霧圧力が0.1〜0.15MPaである。太陽電池パネルの発電能力は5.6W(12V)である。この簡易式噴霧機1の連続使用可能時間は、曇天時で満充電状態から約2時間、晴天時で満充電状態から約4時間である。ここでは、薬液Mとして除草剤を用い、希釈倍率10/1に希釈した混合液Yを噴霧する例を示す。
【0024】
上記のように構成された簡易式噴霧機1の作用を次に説明する。太陽電池パネル5は、カート体4における左右の竪フレーム11,11の上下中央上部に後向きに熔接などで固設された支持板6,6に枢支軸7を介して矢印Rのように上下揺動自在に支持されている。そこで、希釈液タンク14に希釈液Wを投入する場合、または薬液タンク15に薬液Mを投入する場合は、図7に示すように、太陽電池パネル5を上にはね上げておくと、液投入作業や各機器のメンテナンスなどを容易かつ効率よく行なうことができる。
一方、噴霧作業前の待機時間中は、図8に示すように、太陽電池パネル5を水平姿勢にしておくとよい。これにより、太陽電池パネル5が多量の太陽光エネルギーを受けて多くの電力を発電することができる。太陽電池パネル5からの電力を受ける電力供給装置61は周知の充電・放電制御機能を備えており、ポンプ46が停止中で蓄電池65の充電容量が満量でない場合は、太陽電池パネル5からの電力を蓄電池65へ供して充電を行なう。ポンプ46が駆動中は太陽電池パネル5からの電力をポンプ46への供給するようになっている。
【0025】
そうして、噴霧作業の前に、商用交流電源(外部電源)のプラグをコンセント64に差し込み、ADコンバータ63で変換した直流電源を電力供給装置61により蓄電池65に満量充電させておくとよい。そして、噴霧作業に際しては、太陽電池パネル5を水平姿勢に竪フレーム11と直角の方向から角度αぶん下向きにしておく。この角度αは、手曳きされて前傾した簡易式噴霧機1の太陽電池パネル5がほぼ水平姿勢となる角度である。但し、太陽電池パネル5の姿勢は水平姿勢に限るものでなく、太陽の位置の応じた角度に設定するとよい。また、開閉弁56を開にしておく。
そこで、図9に示すように、簡易式噴霧機1の把手部12を手で持って前方(矢印F方向)に曳いていく。すると、竪フレーム11が前方に傾き、太陽電池パネル5がほぼ水平姿勢となる。これにより、太陽電池パネル5が太陽光エネルギーSを最大限に受けて多量の電力を発電して電力供給装置61に出力する。
そして、作業者がハンドル52を握ると、把手48内のバルブが開くとともに手元スイッチ53が入になる。これにより、電力供給装置61がポンプ46に給電をして駆動させる。
【0026】
このポンプ46の駆動により希釈液タンク14内の希釈液Wおよび薬液タンク15内の薬液Mが汲み上げられ、混合器28において所定比率(希釈液W/薬液M=9/1)で混合されて混合液Yにされる。この混合液Yはポンプ46から吐出され噴霧ノズル50から噴射される。尚、簡易式噴霧機1が前方に傾くと、図10に示すように、希釈液タンク14も傾くが、最下底面19は希釈液タンク14の前部に配置されているため、噴霧作業時に希釈液タンク14が傾いても、錘付き吸込み口25は常に最下位置にある。そのため、最後の希釈液Wまで噴霧に使用することができる。
【0027】
上記した簡易式噴霧機1によれば、太陽電池パネル5を備えているので、太陽光エネルギーSを用いてポンプ46を駆動し噴霧ノズル50から噴霧させることができる。これにより、蓄電池65に充電されていた電力が噴霧作業により消費されて作業を継続させることが難しくなるような場合でも、太陽電池パネル5からの電力も併用しながら噴霧作業を継続できるようになる。あるいは、作業を行なわない場合には、次の作業に備えて蓄電池65に充電しておくことも可能である。
そして、太陽電池パネル5は上下揺動自在にカート体4に支持されているので、カート体4の正立姿勢、噴霧作業時の傾斜姿勢、液取り扱いや噴霧ユニット3の着脱操作時などの状況に応じて、太陽電池パネル5を上下揺動させて好適な角度にすることができる。これにより、効率よく太陽光エネルギーSを利用できるほか、各種作業を容易に行なうことができる。
【0028】
また、簡易式噴霧機1の車輪走行が困難な場合は、ビス55と受け部材54との係合状態を解除し、噴霧ユニット3を手で持ち上げてカートユニット2から取り外し、太陽電池パネル5側の接続端子67を噴霧ユニット3側の接続端子66から取り外しておく。その後、図11に示すように、希釈液タンク14の吊穴22,22にベルト69両端のスナップリング68,68を掛止させる。これにより、ベルト69を肩に掛け、手で噴霧ノズル50の把手48を持って噴霧作業を行なえる。
すなわち、簡易式噴霧機1によれば、噴霧ユニット3がカートユニット2に着脱可能に装着されているので、噴霧ユニット3をカートユニット2から取り出して噴霧作業に使用することができる。従って、カートユニット2の車輪走行が困難または不可能な場所であっても、噴霧ユニット3のみを人手で運んで噴霧作業を行なうことができる。
【0029】
ところで、薬液Mはこれまで5mL〜100mL程度の各種の計量カップを用いて計量されていた。しかしながら、殺虫剤などのように大きな希釈倍率(例えば1000/1など)で使用される薬剤の場合、希釈倍率を間違えると、薄すぎて殺虫効果を逸失したり或いは濃すぎて人体に悪影響を及ぼしたりすることがある。特に、希釈倍率が大きい場合は、極めて小さな計量カップを使用せざるを得ず、精度よく計量できないことがあった。また、計量後は安全上の注意から、使用済みの計量カップを丁寧に洗う手間を必要としていた。
【0030】
そこで、簡易式噴霧機1は、図12および図13に示すような注入器80を備えている。この注入器80は、筒状容器である本体ケーシング81内に、計量用シリンダ82、および計量用シリンダ82内で摺動するOリング84を備えた計量用ピストン83から成る計量部85と、計量用シリンダ82よりも大径で計量用シリンダ82から上方に延在して形成されたエア抜き用シリンダ86、および計量用ピストン83から上方に延在して形成されていてエア抜き用シリンダ86内で摺動するOリング88を備えたエア抜き用ピストン87から成るエア抜き部89とを備えている。そして、本体ケーシング81は、計量用シリンダ82の先端開口95につながる接続管部90と、エア抜き用シリンダ86の入側につながる接続管部110と、計量用シリンダ82の先端開口95につながる接続管部101とを備えている。
【0031】
前記の接続管部90には、一端が薬液タンク15内の薬液M中に投入された吸込み用管路91の他端が接続される。吸込み用管路91は、その途中に計量用シリンダ82に向かう方向(矢印C方向)にのみ流体流通を許容する第1逆止弁92を有している。第1逆止弁92は、上向きに配置された弁座93と、自重および薬液Mの流動により弁座93を開閉する玉弁94とから構成される。前記の接続管部110には、一端がエア抜き用シリンダ86に連結された戻し用管路96の他端が接続される。戻し用管路96は、その途中に薬液タンク15に向かう方向(矢印E方向)にのみ流体流通を許容する第2逆止弁97を有している。第2逆止弁97は、上向きに配置された弁座98と、自重および薬液Mの流動により弁座98を開閉する玉弁99とから構成される。
【0032】
前記の接続管部101には、一端が希釈液タンク14に連結された注入用管路105の他端が接続される。注入用管路105は、希釈液タンク14に向かう方向(矢印G方向)にのみ流体流通を許容する第3逆止弁100を有している。第3逆止弁100は、弁座103と、コイルバネ104のバネ力により弁座103を開閉する弁体103とから構成される。前記の計量用ピストン83およびエア抜き用ピストン87はピストンロッド106の一部として一体に形成されている。ピストンロッド106の上端部は手で上げ下げ駆動される手操作部107となっている。ピストンロッド106は、ロック片108によるロック、ロック解除により上下動が規制されたり解除されたりする。エア抜き用シリンダ86の上面開口はキャップ109で蓋止される。
【0033】
この注入器80は、薬液タンク15内の薬液Mを吸引し、吸引した所定量の薬液Mを希釈液タンク14内の希釈液Wに注入するために使用される。この場合、定量した薬液Mは希釈液タンク14内の希釈液Wに投入されて混合されたものが噴霧に使用され、混合器28での薬液Mの混合は行なわないため、開閉弁56は閉にしておく。
そこで、図14に示すように、作業者が手操作部107を矢印Bのように持ち上げると、エア抜き用ピストン87がエア抜き用シリンダ86内を上端まで摺動して、吸込み用管路91内の薬液Mおよびエアを計量用シリンダ82内およびエア抜き用シリンダ86内に吸い入れる。このとき、第1逆止弁92の玉弁94は弁座93を開き、第2逆止弁97の玉弁99は弁座98を閉じている。
次に、図15に示すように、作業者が手操作部107を矢印Dのように押し下げると、第1逆止弁92の玉弁94が弁座93を閉じ、第2逆止弁97の玉弁99が弁座98を開く。これにより、エア抜き用シリンダ86内にあった薬液Mおよびエアが、矢印Eのように、戻し用管路96および第2逆止弁97を経て薬液タンク15に戻される。
図14および図15に示したエア抜き用シリンダ86内でのエア抜き用ピストン87の上げ下げ操作が適宜回数繰り返されることにより、注入器80の吸込み側の経路(吸込み用管路91、第1逆止弁92、接続管路90、先端開口95および計量用シリンダ82)内からエアが排除され薬液Mのみに置換される。
【0034】
そうした後、図16に示すように、ロック片108をロック解除にして手操作部107が更に押し下げられ、計量用ピストン83が計量用シリンダ82内をシリンダ下端まで摺動する。このとき、第1逆止弁92および第2逆止弁97は閉じ、第3逆止弁100の弁座102は開いている。これにより、計量用シリンダ82の内容積に相当する計量分として計量された薬液Mが、矢印Gで示すように第3逆止弁100、接続管部101および注入用管路105を経て希釈液タンク14内の希釈液Wに投入されるのである。この場合、希釈液タンク14内の希釈液Wの量を10Lとすると、計量用シリンダ82による1回の計量分が例えば5mLであるから、200倍希釈にするためには、上記した計量投入操作が10回ぶん行なわれる。目的とする計量投入操作を終えると、ロック片108を戻して手操作部107をロック状態にしておく。
【0035】
以上述べたように、この注入器80によれば、エア抜き用シリンダ86およびエア抜き用ピストン87により吸込み側のエアを排除したうえで、計量用シリンダ82および計量用ピストン83により薬液Mを計量して希釈タンク14に送るようになっているので、所定量の薬液Mを正確に計量して希釈液Wと希釈混合することができ、正確な希釈倍率の混合液Yを得ることができる。これにより、高希釈倍率にされる殺虫剤であっても適正に噴霧作業に使用することができる。また、誤計量しやすい小容量計量カップを使用する必要がなく、使用後のカップを洗浄する手間も省けるという効果を呈する。
【0036】
尚、上記の実施形態では、カート体4の車輪8として、2輪のものを例示したが1輪または3輪以上のカート体であっても構わない。
【符号の説明】
【0037】
1 簡易式噴霧機
2 カートユニット
3 噴霧ユニット
4 カート体
5 太陽電池パネル
6 支持板
7 枢支軸
8 車輪
11 竪フレーム
12 把手部
13 載置台
14 希釈液タンク
15 薬液タンク
28 混合器
29 希釈液入側管路
31 薬液入側管路
32 液出側管路
46 ポンプ
50 噴霧ノズル
54 受け部材
55 ビス
60 制御装置
61 電力供給装置
63 ADコンバータ
64 コンセント
65 蓄電池
66 接続端子
67 接続端子
80 注入器
82 計量用シリンダ
83 計量用ピストン
85 計量部
86 エア抜き用シリンダ
87 エア抜き用ピストン
89 エア抜き部
91 吸込み用管路
92 第1逆止弁
95 先端開口
96 戻し用管路
97 第2逆止弁
100 第3逆止弁
105 注入用管路
B,C,D,E,F,G,R 矢印
M 薬液
S 太陽光エネルギー
W 希釈液
Y 混合液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの車輪を有する手曳き式のカート体と、
カート体に搭載された薬液タンクおよび希釈液タンクと、
薬液タンク内の薬液および希釈液タンク内の希釈液を汲み上げるポンプと、
薬液タンク内からの薬液と希釈液タンク内からの希釈液とを混合し該混合液をポンプに吸入させる混合器と、
ポンプから吐出された混合液を噴射する噴霧ノズルと、
太陽光エネルギーを電力に変換する太陽電池パネルと、
太陽電池パネルまたは外部電源からの電力を蓄える蓄電池と、
太陽電池パネルまたは蓄電池からの電力をポンプに供給する電力供給装置と、
を備えて成ることを特徴とする簡易式噴霧機。
【請求項2】
カート体および太陽電池パネルからカートユニットが構成され、
薬液タンク、希釈液タンク、ポンプ、混合器、噴霧ノズル、蓄電池および電力供給装置から噴霧ユニットが構成され、
前記噴霧ユニットが前記カートユニットに着脱可能に装着されている請求項1に記載の簡易式噴霧機。
【請求項3】
太陽電池パネルが上下揺動自在にカート体に支持されている請求項1または請求項2に記載の簡易式噴霧機。
【請求項4】
薬液タンク内の薬液を吸引し、吸引した所定量の薬液を希釈液タンク内の希釈液に注入する注入器を備えて成り、
該注入器は、
計量用シリンダ、および該計量用シリンダ内で摺動する計量用ピストンから成る計量部と、
計量用シリンダよりも大径で計量用シリンダから延在して形成されたエア抜き用シリンダ、および計量用ピストンから延在して形成されていてエア抜き用シリンダ内で摺動するエア抜き用ピストンから成るエア抜き部と、
一端が薬液タンク内の薬液中に投入され他端が計量用シリンダの先端開口に連結されていて計量用シリンダに向かう方向にのみ流体流通を許容する第1逆止弁を有する吸込み用管路と、
一端がエア抜き用シリンダに連結され他端が薬液タンクに連結されていて薬液タンクに向かう方向にのみ流体流通を許容する第2逆止弁を有する戻し用管路と、
一端が計量用シリンダの先端開口に連結され他端が希釈液タンクに連結されていて希釈液タンクに向かう方向にのみ流体流通を許容する第3逆止弁を有する注入用管路と、
を備えて成る請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の簡易式噴霧機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−231768(P2012−231768A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104242(P2011−104242)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(397002360)ヤマホ工業株式会社 (14)
【Fターム(参考)】