説明

粉体の合成方法及び電子部品の製造方法

【課題】高い生産性で粉体を合成することができる粉体の合成方法を提供する。
【解決手段】原料と溶媒が混合された原料スラリーを加圧及び加熱する工程と、加圧及び加熱した原料スラリーと、水を含む反応加速剤を別々に反応経路に供給し、亜臨界または超臨界状態で反応させる反応工程と、反応したスラリーを冷却により反応を止める冷却工程と、を有することで、水単独の場合よりも超臨界状態とするための臨界条件を緩和できるようにし、さらに、スラリーの割合を高くできるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物の粉体を製造するための粉体の合成及び電子部品の製造技術の分野に属し、特に、コンデンサやPTC素子などの電子部品を製造するために用いられる誘電材料、圧電材料、半導体などの電子材料となるチタン酸バリウム微粒子を製造するための粉体の合成方法及び電子部品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、正方晶チタン酸バリウム(BaTiO)は、非常に高い比誘電率を有することから、積層セラミックコンデンサへ適用することにより、誘電体層の厚さを数μm程度に抑えることが可能となり、コンデンサを小型・大容量化し得ることが知られている。そして、コンデンサの小型化に伴い、誘電体層の厚みも益々薄層化されていく傾向にあり、このため、誘電体層に使用される誘電体材料となるチタン酸バリウム粉末をナノ粒子としてnmオーダに微粒子化する各種提案がなされている。
【0003】
このようなチタン酸バリウム微粒子の製造方法としては、固相反応法、シュウ酸法、ゾルゲル法等の各種方式が提案されている。また、温度と圧力は、化学反応の重要なパラメータであるが、反応温度を液体媒体の沸点以上に加熱し、システムの圧力を上昇させて大気圧より高くして、液相を反応させる液相反応がある。このような液相反応としては、水熱合成法、ソルボサーマル法(反応)、超臨界水熱法等がある。なお、反応温度を液体媒体の沸点以上に加熱し、システムの圧力を上昇させて大気圧より高くして、液相を反応させる液相反応において、水を使う場合は“水熱反応”と、他の有機溶剤を反応媒体としたら“ソルボサーマル反応”と呼ばれる。また、ソルボサーマル法は、数ナノ程度のナノ粒子を作製することはできるが、ナノ粒子の作製に数時間ないし数日間かかるケースが良く見られる。このため、効率よく、数十ナノ程度の微粒子を作製することが困難である。
【0004】
これに対して、液体の臨界温度と臨界圧を越えた超臨界水熱法によれば、イオン反応速度が速く、ナノ粒子を作りやすく、大量生産向きの流通式製造プロセスにも適用可能であるという利点がある。超臨界水熱法は、チタン化合物水溶液とバリウム塩水溶液とを混合し、アルカリ水溶液を添加後、亜臨界または超臨界状態の水中にて水熱反応させることにより、30nm以下の立方晶または50nm以下の正方晶チタン酸バリウムのナノ粒子を製造するものである(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−261329号公報
【特許文献2】特開2005−289737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2等に示される従来の流通式超臨界水熱法により粉体を合成する場合、室温である原料スラリーを急激に超臨界状態まで加熱するために、多量な高温水が必要となる。例えば、室温のスラリーと約500℃の高温水を混合する場合では、水の臨界温度374℃を超えるために、原料スラリー流量の約4倍以上の超臨界水が必要になる。このため、反応物の濃度が低くなり、合成効率が低下してしまう。一方、混合する前に、スラリーを加熱すると、加熱時に水熱合成が発生してしまい、超臨界反応を実現できないという課題がある。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、従来の流通式超臨界水熱合成の場合よりも、反応領域における原料の濃度を高く(例えば約1桁高くすることができ、より多量なナノ粒子を作る方法、その粉体を用いた電子部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる粉体の合成方法は、原料と、水単独の場合よりも低い圧力及び低い温度で超臨界状態になる溶媒が混合された原料スラリーが混合された原料スラリーを加圧及び加熱する第1の工程と、加圧及び加熱した原料スラリーと、水を含む反応加速剤を別々に反応経路に供給し、かつ、前記反応経路に加圧により亜臨界または超臨界状態の反応環境を生成する第2の工程と、生成された亜臨界または超臨界状態の前記反応環境を反応場として前記原料スラリーを該反応場に所定時間滞在させて粉体微粒子を生成する第3の工程と、生成した粉体微粒子を冷却し、前記粉体微粒子の成長を止める第4の工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明にかかる粉体の合成方法は、上記発明において、前記第2の工程は、加熱した前記原料スラリーを、前記反応加速剤に含まれる水よりも高い体積比率で反応経路に供給することを特徴とする。
【0010】
また、本発明にかかる粉体の合成方法は、上記発明において、さらに、前記反応加速剤を加熱する工程を有し、前記第2の工程は、加熱された前記反応加速剤を前記反応経路に供給することを特徴とする。
【0011】
また、本発明にかかる粉体の合成方法は、上記発明において、前記溶媒は、水単独の場合よりも低い圧力で超臨界状態になる溶媒であり、前記第2の工程は、加圧により亜臨界または超臨界状態を生成することを特徴とする。
【0012】
また、本発明にかかる粉体の合成方法は、上記発明において、前記溶媒は、超臨界状態で水と連続溶解できる有機溶媒を含むことを特徴とする。
【0013】
また、本発明にかかる粉体の合成方法は、上記発明において、前記反応加速剤は、水を含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明にかかる電子部品の製造方法は、上記発明の粉体の合成方法により生成された粉体微粒子用いて製造された電子材料を構成要素として含む電子部品を製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、水を含む反応加速剤を用いて、亜臨界または超臨界状態の反応環境を生成するようにしたので、亜臨界または超臨界状態とするための臨界温度及び/または臨界圧力を低くすることができ、よって、臨界条件の緩和により、反応容器等の腐食や、腐食による生成物中への不純物の混入を低減させたり、反応容器等の材質の選択肢を広げたりすることができるという効果を奏する。また、混合溶媒のアルコールの比率を増やすことで、純水合成の非常に高い反応速度を大幅に抑制し、合成された粒子が溶媒によりブラン運動等によって速く拡散し、よりよい分散状態を得ることが可能となる。
【0016】
さらに、アルコールなどの溶剤で調整した原料スラリーを先に高温高圧にさせてもあまり反応しないことを利用し、原料スラリーを加圧及び加熱した後、反応経路に投入することで、大量の反応加速剤により原料スラリーを加熱することなく亜臨界または超臨界状態を生成することができる。これにより、従来の超臨界水と原料スラリーの混合比を逆転、つまり、反応加速剤よりも原料スラリーの量を多くでき、従来の超臨界水熱合成の場合よりも、反応領域における原料の濃度を約1桁高くすることができ、より多量なナノ粒子を作ることができる。また、高温原料スラリーの採用によって、反応経路に投入する反応加速剤の温度を低くすることができる。例えば、混合後の温度を300℃にするときに、スラリー及び水の予熱温度を300℃以上に加熱する必要がなくなる。特に、水の比率が数%の場合は、室温の水を用いることも可能となる。このように、水を含む反応加速剤を400℃〜500℃まで予熱する必要がなくなることで、高温水による腐食を低減でき、高温高圧となる反応領域の安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1−1】図1−1は、本発明の概要を説明するための水とエタノール混合溶媒の臨界温度条件を示す特性図である。
【図1−2】図1−2は、本発明の概要を説明するための水とエタノール混合溶媒の臨界圧力条件を示す特性図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態1に適用される連続流通式製造装置を模式的に示す概略構成図である。
【図3】図3は、連続流通式製造装置を用いた本発明の実施の形態1のチタン酸バリウム製造方法を示す概略工程図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態2が適用される積層セラミックコンデンサの構成例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の粉体の合成方法及び電子部品の製造方法を実施するための最良の形態について詳細に説明する。本発明は、実施の形態に限らず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば、種々の変形が可能である。
【0019】
(本発明の概要)
本発明の粉体の合成方法は、水と、水単独の場合よりも低い温度及び低い圧力で超臨界状態になる溶媒との混合溶媒を用いて、加熱及び加圧により超臨界状態の反応環境を生成し、その反応環境で粉体を合成するようにしたものである。これにより、水単独の場合よりも、亜臨界または超臨界状態とするための臨界条件が緩和される。
【0020】
このような溶媒として、純水よりも低い臨界温度・臨界圧力を有する極性有機溶媒がある。本発明に用いることができる有機溶媒としては、例えば、エタノール(約241℃、6MPa)メタノール(約239℃、8MPa)、イソプロパノール(約235℃、4.8MPa)、メチルエーテル(127℃、5.3MPa)、アセトン(235℃、4.6MPa)がある。ここでは、溶媒としてエタノールを用いる場合を例に挙げて説明する。図1−1及び図1−2は、水とエタノールとを混合した混合溶媒の臨界条件を示す特性図である。なお、図1−1は、臨界温度とエタノール濃度との関係を示し、図1−2は、臨界圧力とエタノール濃度との関係を示す。また、臨界条件は、文献「A. A. Abdurashidova, A. R. Bazaev, E. A. Bazaev and I. M. Abdulagatov、“The thermal properties of water-ethanol system in the near-critical and supercritical states”、High Temperature Vol.45 No.2, 2007, p178-186」(以下、参考文献1という。)に記載されている臨界条件を用いて算出した。まず、水単独の場合の臨界温度Twは約374℃、臨界圧力Pwは約22MPaである。一方、エタノール単独の場合、超臨界エタノールの分解力は超臨界水よりやや落ちるが、臨界温度Teは約241℃、臨界圧力Peは約6.1MPaであり、水の場合よりも低い臨界条件を有する。このような水とエタノールとを混合させた混合溶媒にあっては、エタノールの重量分率に応じて、図1−1及び図1−2に示すように、臨界温度Tmと臨界圧力Pmとが変化する。具体的には、水にエタノールを混合することで、水単独の場合よりも臨界温度及び臨界圧力が低下し、エタノールの重量分率が高くなるほど、臨界温度及び臨界圧力が低下する。
【0021】
よって、混合溶媒の組成(水とエタノール)の比率調整によって、混合溶媒の臨界温度・臨界圧力を調整することで、反応速度、粒子成長速度、結晶性の制御、生成物粉の分散性の制御などを実現することができる。例えば、原料蓚酸バリウムチタニルを100%のエタノールに入れて、300℃、20MPaの超臨界状態で1時間以上保持しても、分解反応がほとんど起こらず、チタン酸バリウムBaTiOの合成ができなかった。一方、400℃、30MPaの超臨界水に入れると、1秒でもチタン酸バリウムを生成した。この特性により、水の比率を増やすことで、有機物の分解速度と反応物の反応速度を高めることができ、チタン酸バリウム微粒子等を高速で生成することが可能となる。また、高温高圧水のイオン積[H][OH]は、200℃〜300℃の温度帯で最大値約10−11となり、水の分解能力も最大となるとともに、イオン反応を促進することもできる。また、図1に示すように、エタノールのモル分率が約30%以上であれば、水とエタノールの混合溶媒が十分な分解力を持ちながら、約300℃以下、10MPa台の純水よりかなり低い臨界条件とすることができる。
【0022】
また、エタノールの比率を増やせば、混合溶媒の臨界温度・臨界圧力を一層低下させることができ、分解速度や微粒子の生成速度を緩めることができ、取扱いが容易になることで操作性を向上させることが可能となる。また、臨界温度・臨界圧力を一層低下させ、温度、圧力条件の緩和することで、反応器での腐食の発生も低減できる。例えば、エタノールの比率の増加により、混合溶媒の臨界温度を374℃から260℃程度まで低下させ、臨界圧力を22MPaから6〜7MPa程度まで低下させることができる。この結果、例えばSUSや耐食性のハステロイ材質などによるFe、Ni系材質の反応容器や配管を使った場合でも、その腐食性が弱まり、生成物に対する不純物含有量が低減する。あるいは、混合溶媒の臨界温度・臨界圧力が大幅に低下し、例えば臨界温度を300℃以下に下げることができるので、反応容器等の材質の選択肢が広がり、耐食性に優れたTiを用いることも可能となる。なお、エタノールの比率を増やしても、水は必ず含まれるように調整することが必要である。水を含まないと、分解力が低下する又はイオン反応速度不足する恐れがあるからである。
【0023】
すなわち、水とエタノールとの混合溶媒は、同じ温度・圧力であっても、単純な亜臨界水環境と同様の分解力を保持しながら、単一相の超臨界反応環境状態を提供することができるものである。よって、例えばチタン酸バリウムの製造に利用することで、均一性の高いチタン酸バリウムの形成に有利となり、事後に高温焼結しなくても高結晶性のチタン酸バリウムナノ粒子を製造することができる。
【0024】
加えて、エタノールなどのアルコールは、水より微粒子に対する優れた分散力を有するので、原料及び生成物の分散に役立つ。例えば、超臨界水だけで合成したチタン酸バリウム微粒子の場合、一次粒子が数十nmであるが、凝集によってサブミクロン程度の塊状となった場合もある。これに対して、エタノールを添加した混合溶媒による超臨界状態の反応環境とすることで、塊状のチタン酸バリウム微粒子が消えて、ほとんど分散した数十nmのチタン酸バリウム微粒子に合成することができる。つまり、チタン酸バリウム微粒子の凝集の発生を抑制することができる。
【0025】
水と混合する溶媒としては、エタノールに限らず、純水の場合よりも臨界温度・臨界圧力を下げることができ、水に可溶な有機溶剤であればよい。例えば、値段が安く毒性の低いアルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、IPA、(イソプロパノール)ブタノールなど)や、アセトンなどのケトン類などを用いることができる。
【0026】
ここで、水で調製した原料スラリーは、予熱されると、原料スラリー内で水熱反応が発生する。このため、従来の流通式超臨界反応では、室温の原料スラリーに高温水を混合することによって急速に超臨界反応環境を実現する。しかし、このように高温水を混合して超臨界状態とするためには、室温の原料スラリーの数倍程度の高温水が必要となる。つまり、超臨界状態とするためには、高温水に対して混合できる原料スラリーの割合に限界がある。そのため、合成できる原料の仕込み量に制限を受ける。これに対して、アルコールなどの有機溶媒で調製した原料スラリーは、水を含まない限り超臨界にしても、高温高圧水と原料との高速反応に比べて、原料スラリーの反応速度が非常に遅い。本発明では、この反応速度の差を利用し、水を含まない原料スラリーを加熱、加圧し目標温度及び目標圧力にさせてから、水を含む反応加速剤と混合して反応させる。このように、原料スラリーを予熱することで、高温水により原料スラリーを加熱する必要が無くなりまたは小さくなるため、従来の超臨界流通式反応の場合よりも原料スラリーの仕込み量を大幅に向上させることができる。この結果、量産性に優れる連続流通式による製造プロセスの適用に可能となり、チタン酸バリウム微粒子の製造プロセスの効率を大幅に向上させることができる。
【0027】
(実施の形態1)
本実施の形態1は、超臨界状態を生成しやすい連続流通式による製造プロセスを用いたチタン酸バリウム微粒子の製造方法への適用例を示す。図2は、本実施の形態1に適用される連続流通式製造装置を模式的に示す概略構成図である。この連続流通式製造装置は、原料を含むスラリーを攪拌するスラリー攪拌機1からバルブ2を介して供給されるスラリーを加熱し、高温スラリーを生成するヒータ13と、ヒータ13による加熱を経て生成された高温スラリーを高圧高温スラリーとして反応場を構成する反応管3に供給するスラリーポンプ4と、タンク5からバルブ6を介して供給される純水を加熱し、高温水を生成するヒータ7と、該ヒータ7による加熱を経て生成された高温水を高温高圧スラリーと混合させて反応管3に供給する送液ポンプ8と、反応管3の排出側に配置された冷却槽9と、冷却槽9の排出側にバルブ10を介して連結された回収タンク11と、を備える。また、連続流通式製造装置は、反応管3の周囲にも、反応管3内部を超臨界状態(または、亜臨界状態)にするための加熱用のヒータ12を備える。
【0028】
なお、図2に示す連続流通式製造装置の例では、流体を下側から上側に流すようにしているが、上流側となる高温水と高温高圧スラリーの2つのラインを反応管3の上部に設置し、流体を上側から下側に流すようにしてもよい。また、反応管3の太さとしては、市販されている直径1/32インチないし数cmまでの配管を用いるようにしてもよい。
【0029】
ここで、原料スラリーを加熱しない場合は、混合後の流体を高温高圧にさせるために、超臨界水を臨界条件よりも高い温度(例えば臨界温度よりも200℃から300℃高い温度)に予熱し、超臨界水と原料スラリーとの混合比を超臨界水の方が多い割合、つまり、予熱された超臨界水を原料スラリーより多く混合しなければならない。例えば、水の超臨界条件を超えるために、超臨界水:原料スラリーの混合比を約4:1以上とする必要がある。そのため、混合後流体中の原料の濃度が低くなってしまう。これに対して、ヒータ13により反応管3に供給するスラリーも高温高圧とすることで、水(超臨界水)によりスラリーを加熱する必要が少なくまたは必要がなくなり、原料スラリー:水の混合比を1:1以上、つまり、原料スラリーの量を水よりも多くすることが可能となる。なお、送液ポンプ8側から水と溶媒との混合溶液を供給する場合も同様に、原料スラリー:混合溶液の混合比を1:1以上とすることができる。つまり、(原料(金属塩原料)を含むスラリー全体の容積流量(cc/min))/(原料を含まない水(または混合溶液)の容積流量)を1以上とすることができる。これにより、反応部の原料濃度を高くすることができ、生産性を高くすることができる。
【0030】
さらには、図2に示す例では、ヒータ7を用いて水を加熱するようにしたが、本発明はこれに限定されず、水を室温のまま、つまり室温水として反応管3に供給するようにしてもよい。原料スラリーを高温とし、かつ、混合させる水の割合を少なくすることができるため、反応管3に供給する水を室温水としても反応管3の内部を亜臨界または超臨界状態にすることができる。
【0031】
ついで、本実施の形態1のチタン酸バリウム微粒子の製造方法について説明する。図3は、図2に示したような連続流通式製造装置を用いたチタン酸バリウム製造方法を示す概略工程図である。
【0032】
A.原料調製工程
まず、原料調製工程を行う。原料調製工程では、原料を用意し、原料の粉砕と、スラリーの調製と、スラリーの分散との各処理を順次行う。
【0033】
原料の粉砕処理では、スラリーポンプ4から送り出しやすくするため、ボールミル、ビーズミル、遊星粉砕のいずれかによって、原料粒子を数μm程度の大きさに粉砕する。生成物のバラツキを低減するため、さらにサブミクロン程度の大きさに粉砕するのが望ましい。ここで、本実施の形態1では、原料として市販のTiO粉がサブミクロンになっているから、粉砕処理の必要がない。また、蓚酸バリウムチタニルを原料とした場合は、下記処理で原料粒子を粉砕する。粉砕方法としては、ボールにジルコニア、溶媒にイオン交換水及び極性溶媒であるエタノールを用いた湿式のボールミル方式を用いることができる。粉砕時間は24時間、体積比は原料:ボール:溶媒=1:4:8、ボールミルのポット容積は700mL、ポットに対する内容物体積率は70%以上、粉砕前原料粉サイズは平均で約70μm、粉砕後原料粉サイズは平均で約0.5μmとした。
【0034】
蓚酸バリウムチタニルスラリーの調製処理では、チタン酸バリウムの安定条件としてpH>12のアルカリ雰囲気とすることが必要なため、アルカリ性水溶液(電解質添加、あるいはアルカリ水またはアンモニア水)を添加してpHを調整する。本実施の形態1では、NaOHを添加する。NaOHの具体的な添加量は、原料に含まれるCOの量に依存されるが、目安として、NaOH:COの比が2:1より大きくなるように設定される。BaCOの形成を防止するためである。なお、TiOとBa(OH)を原料とする場合、アルカリ剤を入れないか、NaOHやTMAHなどのpH調整剤を添加しても良い。
【0035】
スラリーの分散処理では、反応前に超音波により5分〜10分程度分散させる。そして、反応処理に際して、スラリー攪拌機1で攪拌しながらスラリーポンプ4側に送る。また、反応加速剤混合する前に、原料スラリー側の溶媒、例えばエタノールの臨界条件以上にして、低い表面張力を持つ超臨界エタノールの超臨界状態を実現する。反応前の原料粉を良い分散状態を保つ。
【0036】
B.反応環境生成工程
反応環境生成工程は、亜臨界混合溶媒または超臨界混合溶媒状態の反応環境を生成する工程であり、混合溶媒臨界条件の調整、加熱と加圧と混合との各処理を行う。
【0037】
混合溶媒臨界条件の調整処理としては、水と溶媒(エタノール)との比率を調整する。ここでは、重量%で、水の量を約5wt%〜95wt%とする。これにより、混合溶媒の臨界温度は、260℃〜370℃、臨界圧力は、8MPa〜22MPaの間で調整される。
【0038】
加熱処理では、スラリーをヒータ13により加熱し、高温スラリーの状態とする。また、純水をヒータ7により加熱して高温水の状態にする。また、高温水と有機溶媒(エタノールなど)を含むスラリーが混合される反応管3をヒータ12により、調整された混合溶媒の臨界温度以上に保持する。
【0039】
加圧処理では、スラリー攪拌機1から、供給される原料、有機溶媒(エタノールなど)を含むスラリーをスラリーポンプ4により、前記有機溶媒の臨界圧力以上に加圧し、さらに、上述したようにヒータ13で加熱することで、原料スラリーを高温高圧スラリーとして反応管3側に供給させる。また、純水も、送液ポンプ8により加圧し、ヒータ7により加熱することで、純水を高温高圧水として反応管3側に供給させる。なお、純水は、加熱せず、室温高圧水としてもよい。
【0040】
混合処理では、高温高圧水と高温高圧スラリーとを混合、または室温高圧水と高温高圧スラリーを混合させて反応管3に供給させる。混合状態において、反応管3内の反応環境は、混合溶媒の臨界条件に近い条件とし、臨界温度及び臨界圧力を超える超臨界状態とすることが望ましい。
【0041】
特に、正方晶のチタン酸バリウムに合成できる最低温度は215℃より大きく、最低圧力は5MPaよりも大きい。このため、正方性を向上させるには、反応管3内における反応環境としては、混合溶媒の臨界条件より高い温度及び圧力であることが望ましい。
【0042】
C.粉体生成工程
粉体生成工程は、超臨界混合溶媒状態(または、亜臨界混合溶媒状態)の反応環境として生成された反応管3中に、シュウ酸バリウムチタニルを含むスラリーを所定時間滞在させることでチタン酸バリウム微粒子を生成する工程であり、分解又は溶解工程と結晶化工程とが連続して行われる。
【0043】
C−1.分解又は溶解工程
分解又は溶解工程では、反応管3中の超臨界混合溶媒状態(または、亜臨界混合溶媒状態)の反応環境に反応物(金属の酸化物、水酸化物又は複合金属錯体など)を含むスラリーを供給することにより、反応物成分は超臨界加溶媒分解により分解又は溶解される。より詳細には、例えば、TiO+Ba(OH)を原料としたら、Ba+2、TiO水和物、Ti(OH)水和物、Ti(OH)+1、Ti(OH)−1などのイオンとして溶解される。また、蓚酸塩を例としたら、分子と亜臨界混合溶媒または超臨界混合溶媒との激しい衝突による分解力によって、複雑な分子構造が完全に破壊される。例えば、酸化チタンは、Ti(OH)(aq)又はTi(OH)+1やTi(OH)−1などのイオンになり、シュウ酸塩の有機成分はCO、CO、HOのような簡単な分子レベルまで完全に分解される。そして、分解されたTi、Baなどの成分は、亜臨界混合溶媒または超臨界混合溶媒に溶解する。この結果、分解された無機成分は高い飽和度(過飽和度)を達成する。すなわち、粉末のTiO、Ba(OH)、シュウ酸バリウムチタニルを原料として用いているので、亜臨界混合溶媒または超臨界混合溶媒に分解したときには、局部により高い過飽和度を簡単に実現できるものであり、生成されるチタン酸バリウム微粒子のナノ化に好適となる。この分解又は溶解工程の所要時間は、温度、圧力、反応物の種類によって異なる。
【0044】
C−2.結晶化工程
結晶化工程では、シュウ酸バリウムチタニルが分解された後、反応管3中において亜臨界混合溶媒または超臨界混合溶媒状態の反応環境を反応場としてさらに所定の反応時間滞在させて、分解されたBaやTiを含むイオンを合成する超臨界混合溶媒の合成処理により、チタン酸バリウムの核を形成し結晶化することで、結晶性の高いnmオーダの粒径のチタン酸バリウムを生成する。
【0045】
この際、反応場を構成する反応管3内に滞在する時間(反応時間)を調整制御する。結晶化工程の処理においては、上述したような亜臨界混合溶媒または超臨界混合溶媒状態となる温度と圧力の条件を同時に満たす条件下で、最低、数秒以上滞在することが必要である。そして、より高い結晶性を得るためには、亜臨界混合溶媒または超臨界混合溶媒状態下で数秒以上滞在させて安定して結晶化させることが望ましい。反応管長さの制限を受けないように(つまり、長さが長くなりすぎないようにし)、また、所望サイズの粒径以上に成長しないようにするため、反応時間を数十秒以内とすることが望ましい。これにより、50nm〜150nm程度の最適サイズで結晶性の高いチタン酸バリウムが生成される。チタン酸バリウムに関しては、50nm〜150nm程度が、最高比誘電率を持つ最適サイズとされており、このようなサイズより小さ過ぎても大き過ぎてもチタン酸バリウム粉の比誘電率は下がる傾向にあることが知られている。
【0046】
ここで、チタン酸バリウムの結晶性と粒径を制御するために滞在させる反応時間は、反応管3の管径や長さの調整、或いはポンプ4、8やバルブ2、6調整による流速の調整、さらには、反応を停止させる急激な冷却タイミングの調整により制御される。
【0047】
チタン酸バリウム(BaTiO)粒子成長の停止は、冷却槽9を用いた急激な冷却により行われる。冷却速度は、例えば、約30℃/秒以上の急激なものであり、室温まで冷却させる。さらに、超臨界混合溶媒の中にある有機溶媒の優れた分散特性によって、生成されたチタン酸バリウム粒子を素早く超臨界混合溶媒に流して拡散し、チタン酸バリウム粒子を分散させる。このように、生成直後の粒子同士の接触を低減することで、粒子凝集を抑制することができる。なお、結晶化工程後の粒子凝集防止を重視する場合は、混合溶媒の有機溶媒の比率が高くなるように混合比を調整すればよい。
【0048】
D.回収工程
回収工程では、バルブ10により大気圧まで減圧し、気体を放出させることで、気液分離を行い、スラリーを回収タンク11に回収する。回収されたスラリーにつき、添加物Naなどを除去するために、イオン交換水で洗浄する。また、チタン酸バリウム粉と液体とを最低数千rpm以上の高速回転による遠心分離によって分離する。さらに、pH調整は、中性になるまで繰り返し行い、その後、乾燥機によって約100℃で乾燥することで、最終的にチタン酸バリウム微粒子が得られる。
【0049】
なお、本実施の形態では、混合溶媒を構成するエタノールを、イオン交換水とともにスラリーに混入させるようにしたが、これに限らず、例えば、高温水の供給経路中でエタノールを水と混合させるようにしてもよい。いずれの場合であっても、水とエタノールとの混合比率が分かる状態であればよい。なお、参考文献1によると、約350℃以下であれば、エタノール自身は超臨界水によって分解されない。また、実際の実験で、400℃〜500℃の温度でもエタノールの加水分解速度が遅いので、本発明の混合溶媒を生成できた。
【0050】
また、本実施の形態では、反応管(反応領域)3でスラリーと混合させる液体は、粉体の合成を加速させる水を少なくとも含む反応加速剤であればよく、上述したようにエタノール(有機溶媒)との混合溶媒としても、反応とは関係のない他の溶媒との混合溶液としてもよい。なお、スラリーと反応加速剤とが混合される反応管3内では、亜臨界または超臨界状態となる必要はある。また、スラリーは、水を含んでいなければ液体を含有している状態でもよい。本実施形態では、原料スラリーには、原料スラリーに含まれる結晶水やアルコールに含まれる水をより少ない状態とすることが望ましいが、Ba(OH)・2HO、Ba(OH)・8HOのような結晶水のある反応物、市販されている約99%以上のアルコールも用いることができる。
【0051】
このように、水を含まないスラリーを攪拌するスラリー攪拌機1からバルブ2、スラリーポンプ4、ヒータ13を介して、供給されるスラリーを高温高圧スラリーとして反応場を構成する反応管3に供給する。このようにスラリーを高温にして反応場に供給することで、混合させる水でスラリーを加熱しなくとも亜臨界または超臨界状態とすることができる。これにより、溶媒の比率または原料の濃度が高い条件、つまり、スラリーと混合させる水の割合を少ない条件で粉体の合成を実施することが可能となる。また、基本的に、水によりスラリーを加熱する必要がなくなるため、水を高温にする必要がなくなる。また、大量の高温水によりスラリーを加熱し亜臨界または超臨界状態にする必要がなくなる。これにより、反応管に供給する水の温度を低くすることが可能となり、水を供給する配管が高温に加熱され、腐食等が発生することを抑制することができる。
【0052】
また、スラリーは、加熱され亜臨界または超臨界状態となっても、水を含まない状態では反応速度(原材料が分解され、粒子が生成される速度)が遅いため、反応(原料分解又は粒子の生成)は進まない。これにより、先に加熱しても基本的に粉体の合成は進まず、反応管3で、水と混合され、かつ、亜臨界または超臨界状態となったときに合成され、粉体が生成される。
【0053】
(実施の形態2)
本実施の形態2は、実施の形態1の製造方法により製造された粉体であるチタン酸バリウム微粒子を用いて製造した電子材料を構成要素として含む電子部品を製造する電子部品の製造方法への適用例を示す。本実施の形態2では、電子部品として積層セラミックコンデンサの例を示す。
【0054】
図4は、積層セラミックコンデンサ30の構成例を示す断面図である。この積層セラミックコンデンサ30は、誘電体層31と内部電極層32とが交互に積層された構成のコンデンサ素子本体40を有する。コンデンサ素子本体40の両端部には、コンデンサ素子本体40の内部で交互に配置された内部電極層32とそれぞれ導通する一対の外部電極33が形成されている。
【0055】
内部電極層32は、各端面がコンデンサ素子本体40の対向する2端部の表面に交互に露出するように積層されている。この内部電極層32に含有される導電材は特に限定されず、貴金属や卑金属(例えば、NiやNi合金)を用いることができる。また、一対の外部電極33は、交互に配置された内部電極層32の露出端面に接続されて、コンデンサ回路を構成している。この外部電極33に含有される導電材は特に限定されないが、安価なNi、Cuやこれらの合金を用いることができる。
【0056】
誘電体層31は、実施の形態1の製造方法により製造されたチタン酸バリウム微粒子を原料とする誘電体材料の薄膜層である。
【0057】
このような構成からなる積層セラミックコンデンサ30は、ペーストを用いた通常の印刷法やシート法によりグリーンチップを作製し、これを焼成した後、外部電極33を印刷または転写して焼成することにより製造される。
【0058】
印刷法を用いる場合、誘電体層用ペースト及び内部電極層用ペーストを、PET等の基板上に印刷、積層し、所定形状に切断した後、基板から剥離してグリーンチップとする。また、シート法を用いる場合、誘電体層用ペーストを用いてグリーンシートを形成し、この上に内部電極層用ペーストを印刷した後、これらを積層してグリーンチップとする。また、焼成前には、グリーンチップに脱バインダ処理を施す。
【0059】
グリーンチップ焼成時の雰囲気は、内部電極層用ペースト中の導電材の種類に応じて適宜決定すればよいが、導電材としてNiやNi合金等の卑金属を用いている場合には、還元焼成雰囲気が好ましい。また、焼成時の保持温度は、好ましくは1000℃〜1400℃である。
【0060】
上記のようにして得られたコンデンサ素子本体40に、端面研磨を施し、外部電極用ペーストを塗布して焼成し、外部電極33を形成する。そして、必要に応じて、外部電極33の表面にめっき等による被覆層を形成する。
【0061】
チタン酸バリウム微粒子を原料とする誘電体材料の薄膜層を誘電体層31として含み、このようにして製造された積層セラミックコンデンサ30は、半田付け等によりプリント基板などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0062】
なお、本実施の形態2では、実施の形態1の製造方法により製造されたチタン酸バリウム微粒子を誘電材料として用いるコンデンサなる電子部品の製造方法への適用例として説明したが、これに限らず、チタン酸バリウム微粒子を圧電材料、半導体などの電子材料として用いる電子部品、例えばPTC素子等についても同様に適用可能である。
【0063】
また、製造装置は、原材料を反応させ粒子を合成する領域、つまり、原材料と接触する面に金メッキを施すことが好ましい。例えば、連続流通式製造装置の場合は、少なくとも反応管に金メッキを施すことが好ましい。このように、粒子、原材料の流路に金メッキを施すことで、粒子に混入する不純物を低減することができる。また、原材料や粒子が通過する領域、配管等にも金メッキを施すことがさらに好ましい。なお、原材料を反応させ粒子を合成する領域、さらには、原材料や粒子が通過する領域に施す処理は、金メッキに限定されず、反応性をより低減することができればよく、原材料と接触する面を白金や金で構成するようにしてもよい。また、本実施形態のようにチタン酸バリウムを合成する場合は、原材料と接触する面をチタンで構成するようにしてもよい。原材料と接触する面を、チタン酸バリウムと同一元素となるチタンで構成することで、生成される粒子に不純物が混入することを防止することができる。
【0064】
なお、上記実施形態では、チタン酸バリウムを合成して生成する場合として説明したが、本発明の方法は、チタン酸バリウム以外にも、さまざまな金属酸化物ナノ粒子の合成方法、例えば、フェライト、圧電材料、リチウム二次電池の正極材、蛍光体等の合成方法として用いることができる。
【0065】
また、従来の超臨界水熱合成法を用いることで、誘電体、フェライト、リチウム二次電池の正極材、蛍光体などの微粒子の合成ができる。これら、各種微粒子を合成する場合も、同様に本発明の方法を適用することで、以上のよりよい特性のナノ粒子を作ることができる。例えば、誘電体ナノ粒子の合成例として、BaTiO以外に、SrTiO、(Ba、Sr)TiO、(Ba、Ca)TiO、(Ca0.25Cu0.75)TiOが挙げられる。リチウム二次電池の正極材としてLiCoOやLiFePOの合成、フェライトナノ粒子の合成としてBaO・6Fなどの合成にも用いることができる。
【実施例】
【0066】
(測定例1)
測定例1として、図2に示すような連続流通式製造装置を用いて、室温のスラリーと高温高圧水の混合実験を行った。例えば、20MPa・480℃の高温高圧水とエタノールの混合液(エタノール約80%)を20cc/minの流量で、調整された室温の原料スラリー(シュウ酸バリウムチタニル、NaOH、エタノール)4cc/minと混合した。反応管3に導入した混合流体の温度は約280℃になった。このように、室温のスラリーを用い、20MPa〜35MPaの広い圧力で、混合後のエタノール比率を約4mol%〜74mol%にする場合に、混合後の温度を250〜300℃にさせるためには、室温スラリー:高温水溶液の混合比を約1:5〜8とする必要があった。
【0067】
(実施例1)
次に、図2に示したような連続流通式製造装置を用い、原料スラリーを加熱した後、水を含む反応加速剤と混合してチタン酸バリウムの合成を行った場合について説明する。なお、配管の直径を1/8インチとした。実施例1では、まず、調整された室温の原料スラリー(メタノール、TiOとBa(OH)の仕込み量2g/L)を20MPaまでに増圧し、約400℃まで加熱し、20cc/minの流量で、反応管3側に供給した。また、室温のNaOH(4g/L)水溶液を約4cc/minの流量で反応管3側に流れるスラリーに合流させた。つまり、原料スラリー:水溶液=約5:1の混合条件で混合させた。反応管3に導入した混合流体の混合後の温度は、295℃になった。そして、反応管3の混合流体は、温度と圧力を推算した混合溶媒の臨界条件より高い値になり、反応管3内に超臨界混合溶媒による反応環境を生成した。また、スラリーを含む混合溶媒が反応管3を通過する通過時間は3秒程度とした。そして、反応管3を通過した混合流体(反応管3で生成された生成物)を、冷却槽9によって数秒で室温まで冷却させた。
【0068】
スラリーと水の混合比は約5:1にしたので、測定例1の場合より約10倍以上高い混合比(スラリーと水の割合)の条件下でチタン酸バリウムの合成することができた。これにより、高い混合比でも、同じ高い結晶性と数十ナノの平均サイズを持ちチタン酸バリウムを合成することができ、量産性を高くでき、反応管に供給する水に対する原料の量の割合を、約1桁向上することが可能となることがわかる。
【0069】
(実施例2)
さらに他の例として、実施例1と同様、図2に示したような連続流通式製造装置を用いて、スラリー:高温水の混合比を6:1とした測定も行った。具体的には、調整された原料スラリー(シュウ酸バリウムチタニル仕込み量2g/L、NaOH添加量1.5g/L、メタノール)を315℃に加熱し、18cc/minの流量で室温の水と6:1の比率で混合し、反応管3に導入した。そして、温度と圧力を、推算した混合溶媒の臨界条件より高い275℃、15MPaとして、反応管3内に超臨界混合溶媒による反応環境を生成した。また、スラリーを含む混合溶媒が反応管3を通過する通過時間は、3秒程度とした。そして、冷却槽9によって生成物を数秒で室温まで冷却した。
【0070】
以上の条件で生成した結果、粒子の平均サイズd50は約30nm、FWHM(111)は0.35、比表面積SSAが42.4m/gであった。このように、合成された粒子は、混合比を6:1とした場合も好適に粒子を合成して生成することができた。これにより、高い混合比でも、同じ高い結晶性と数十ナノの平均サイズを持ちチタン酸バリウムを合成することができ、量産性を高くでき、反応管に供給する水に対する原料の量の割合を、約1桁向上することが可能となることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上のように、本発明にかかる粉体の合成方法及び電子部品の製造方法は、金属酸化物の粉体の合成に有用であり、特に、チタン酸バリウムの粉体の合成に適している。
【符号の説明】
【0072】
1 スラリー攪拌機
2、10 バルブ
3 反応管
4 スラリーポンプ
5 タンク
6 バルブ
7、12、13 ヒータ
8 送液ポンプ
9 冷却槽
11 回収タンク
30 積層セラミックコンデンサ
31 誘電体層
32 内部電極層
33 外部電極
40 コンデンサ素子本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料と、水単独の場合よりも低い圧力及び低い温度で超臨界状態になる溶媒が混合された原料スラリーを加圧及び加熱する第1の工程と、
加圧及び加熱した原料スラリーと、水を含む反応加速剤を別々に反応経路に供給し、かつ、前記反応経路に加圧により亜臨界または超臨界状態の反応環境を生成する第2の工程と、
生成された亜臨界または超臨界状態の前記反応環境を反応場として前記原料スラリーを該反応場に所定時間滞在させて粉体微粒子を生成する第3の工程と、
生成した粉体微粒子を冷却し、前記粉体微粒子の成長を止める第4の工程と、を有することを特徴とする粉体の合成方法。
【請求項2】
前記第2の工程は、加圧及び加熱した前記原料スラリーを、前記反応加速剤に含まれる水よりも高い体積比率で反応経路に供給することを特徴とする請求項1に記載の粉体の合成方法。
【請求項3】
さらに、前記反応加速剤を加熱する工程を有し、
前記第2の工程は、加熱された前記反応加速剤を前記反応経路に供給することを特徴とする請求項1または2に記載の粉体の合成方法。
【請求項4】
前記第2の工程は、前記原料スラリーと前記反応加速剤とが混合される前に、前記原料スラリーを超臨界状態とすることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の粉体の合成方法。
【請求項5】
前記溶媒は、超臨界状態で水と連続溶解できる有機溶媒を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の粉体の合成方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の粉体の合成方法により生成された粉体微粒子を用いて製造された電子材料を構成要素として含む電子部品を製造することを特徴とする電子部品の製造方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−45859(P2011−45859A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198509(P2009−198509)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】