説明

粉体塗料

【課題】 熱衝撃を受けた後においても良好な耐衝撃性を有する塗膜を得ることのできる粉体塗料を提供すること。
【解決手段】 下記の構造単位(1)を含有するエチレン−ビニルアルコール共重合体からなり、好適には3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、ビニルエステル系モノマーおよびエチレンを共重合して得られた共重合体をケン化することによって得られる。
【化1】


(ここで、Xは結合鎖であってエーテル結合を除く任意の結合鎖で、R1〜R4はそれぞれ独立して任意の置換基であり、nは0または1を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと略記する)を用いた粉体塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、EVOHは、ガスバリア性、透明性、保香性、耐溶剤性、耐油性などに優れており、食品包装材料、医薬品包装材料、工業薬品包装材料、農薬包装材料等の各種包装材料に用いられることが多いが、EVOHのガスバリア性や熱溶融性等の特性を利用して、粉体塗料としての活用も検討されている。
【0003】
すなわち、ガスバリア性に優れるため、金属表面をEVOHで被覆することにより酸素による金属の酸化劣化を防止することができ、また、熱溶融性があるため、EVOH粉末を金属表面に散布した後加熱することにより該表面にEVOHの皮膜を形成することも可能で、従来のポリエステル系樹脂等の粉体塗料と同様に用いることができる。
このようなEVOHを用いた粉体塗料としては、1)EVOHとポリアミド系樹脂及びオレフィン−不飽和カルボン酸共重合体からなる粉体塗装用樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、さらに耐アルカリ接着性、耐衝撃性に優れた塗膜の得られる粉体塗料として、2)EVOHと融点が160℃以下のポリアミド系樹脂からなる粉体塗料用樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2000−248205号公報
【特許文献2】特開2002−363476号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の樹脂組成物について本発明者が詳細に検討したところ、上記の1)の樹脂組成物では耐衝撃性が不足しており、2)の樹脂組成物では耐衝撃性に優れた塗膜が得られるものの、熱衝撃(ヒートショック)を受けた後においては耐衝撃性が低下することが判明し、熱衝撃を受けた後においても耐衝撃性(塗膜の強度、接着性)に優れた塗膜を得ることができる粉体塗料が望まれるところである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明者は、かかる現況に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、下記の構造単位(1)を含有するEVOHからなる粉体塗料が上記の目的に合致することを見出して本発明を完成するに至った。
【化1】

(ここで、Xは結合鎖であってエーテル結合を除く任意の結合鎖で、R1〜R4はそれぞれ独立して任意の置換基であり、nは0または1を表す。)
本発明においては、エチレン含有量が10〜60モル%であること、上記の構造単位(1)を0.1〜30モル%含有すること、等が好ましい実施態様である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の粉体塗料は、特定の構造単位を含有しているEVOHからなる為、熱衝撃を受けた後においても耐衝撃性に優れた粉体塗料を得ることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明の粉体塗料は、上記の構造単位(1)、すなわち側鎖に1,2−グリコール結合を有する構造単位を含有することを特徴とするEVOHからなり、その分子鎖と1,2−グリコール結合構造とを結合する結合鎖(X)に関しては、エーテル結合を除くいずれの結合鎖を適応することも可能で、その結合鎖としては特に限定されないが、アルキレン、アルケニレン、アルキニレンの他、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素(これらの炭化水素はフッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていても良い)の他、−CO−、−COCO−、−CO(CHCO−、−CO(C)CO−、−S−、−CS−、−SO−、−SO−、−NR−、−CONR−、−NRCO−、−CSNR−、−NRCS−、−NRNR−、−HPO−、−Si(OR)−、−OSi(OR)−、−OSi(OR)O−、−Ti(OR)−、−OTi(OR)−、−OTi(OR)O−、−Al(OR)−、−OAl(OR)−、−OAl(OR)O−、等が挙げられるが(Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基が好ましく、またmは自然数である)、エーテル結合は溶融成形時に分解し、EVOHの熱溶融安定性が低下する点で好ましくない。その中でも熱溶融安定性の点では結合種としてはアルキレンが好ましく、さらには炭素数が6以下のアルキレンが好ましい。また、EVOHのガスバリア性能が良好となる点で、炭素数はより少ないものが好ましく、n=0である1,2−グリコール結合構造が直接、分子鎖に結合している構造が最も好ましい。また、R1〜R4に関しては任意の置換基であり、とくに限定されないが水素原子、アルキル基がモノマーの入手が容易である点で好ましく、さらには水素原子がEVOHのガスバリア性が良好である点で好ましい。
本発明に用いるEVOHの製造方法については特に限定されないが、最も好ましい構造である主鎖に直接1,2−グリコール結合構造を結合した構造単位を例とすると、3,4−ジオール−1−ブテン、ビニルエステル系モノマーおよびエチレンを共重合して得られた共重合体をケン化する方法、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、ビニルエステル系モノマーおよびエチレンを共重合して得られた共重合体をケン化する方法、3−アシロキシ−4−オール−1−ブテン、ビニルエステル系モノマーおよびエチレンを共重合して得られた共重合体をケン化する方法、4−アシロキシ−3−オール−1−ブテン、ビニルエステル系モノマーおよびエチレンを共重合して得られた共重合体をケン化する方法、3,4−ジアシロキシ−2−メチル−1−ブテン、ビニルエステル系モノマーおよびエチレンを共重合して得られた共重合体をケン化する方法があげられ、また、結合鎖(X)としてアルキレンを有するものとしては4,5−ジオール−1−ペンテンや4,5−ジアシロキシ−1−ペンテン、4,5−ジオール−3−メチル−1−ペンテン、4,5−ジオール−3−メチル−1−ペンテン、5,6−ジオール−1−ヘキセン、5,6−ジアシロキシ−1−ヘキセン等とビニルエステル系モノマーおよびエチレンを共重合して得られた共重合体をケン化する方法が挙げられるが、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、ビニルエステル系モノマーおよびエチレンを共重合して得られた共重合体をケン化する方法が共重合反応性に優れる点で好ましく、さらには3,4−ジアシロキシ−1−ブテンとして、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを用いることが好ましい。また、これらのモノマーの混合物を用いてもよい。また、少量の不純物として3,4−ジアセトキシ−1−ブタンや1,4−ジアセトキシ−1−ブテン、1,4−ジアセトキシ−1−ブタン等を含んでいても良い。また、かかる共重合方法について以下に説明するが、これに限定されるものではない。
【0008】
なお、かかる3,4−ジオール−1−ブテンとは、下記(2)式、3,4−ジアシロキシ−1−ブテンとは、下記(3)式、3−アシロキシ−4−オール−1−ブテンは下記(4)式、4−アシロキシ−3−オール−1−ブテンは下記(5)式で示されるものである。
【化2】

【化3】

(ここで、Rはアルキル基であり、好ましくはメチル基である。)
【化4】

(ここで、Rはアルキル基であり、好ましくはメチル基である。)
【化5】

(ここで、Rはアルキル基であり、好ましくはメチル基である。)
なお、上記の(2)式で示される化合物は、イーストマンケミカル社から、上記(3)式で示される化合物はイーストマンケミカル社やアクロス社から入手することができる。
【0009】
又、ビニルエステル系モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、経済的にみて中でも酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0010】
3,4−ジアシロキシ−1−ブテン等と、ビニルエステル系モノマー及びエチレン単量体を共重合するに当たっては、特に制限はなく、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、分散重合、またはエマルジョン重合等の公知の方法を採用することができるが、通常は溶液重合が行われる。
【0011】
共重合時のモノマー成分の仕込み方法としては特に制限されず、一括仕込み、分割仕込み、連続仕込み等任意の方法が採用される。
【0012】
なお、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン等の共重合割合は特に限定されないが、前述の構造単位(1)の導入量に合わせて共重合割合を決定すればよい。
【0013】
かかる共重合で用いられる溶媒としては、通常、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコールやアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等が挙げられ、工業的には、メタノールが好適に使用される。
溶媒の使用量は、目的とする共重合体の重合度に合わせて、溶媒の連鎖移動定数を考慮して適宜選択すればよく、例えば、溶媒がメタノールの時は、S(溶媒)/M(モノマー)=0.01〜10(重量比)、好ましくは0.05〜7(重量比)程度の範囲から選択される。
【0014】
共重合に当たっては重合触媒が用いられ、かかる重合触媒としては、例えばアゾビスイソブチロニトリル、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウリル等の公知のラジカル重合触媒やt−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、α,α’ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3,−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート等のパーオキシエステル類、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ−iso−プロピルパーオキシジカーボネート]、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジメトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチルパーオキシ)ジカーボネート等のパーオキシジカーボネート類、3,3,5−トリメチルヘキサノイルパーオキシド、ジイソブチリルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド等のジアシルパーオキシド類などの低温活性ラジカル重合触媒等が挙げられ、重合触媒の使用量は、触媒の種類により異なり一概には決められないが、重合速度に応じて任意に選択される。例えば、アゾビスイソブチロニトリルや過酸化アセチルを用いる場合、ビニルエステル系モノマーに対して10〜2000ppmが好ましく、特には50〜1000ppmが好ましい。
また、共重合反応の反応温度は、使用する溶媒や圧力により40℃〜沸点程度の範囲から選択することが好ましい。
【0015】
本発明では、上記触媒とともにヒドロキシラクトン系化合物またはヒドロキシカルボン酸を共存させることが得られるEVOHの色調を良好(無色に近づける)にする点で好ましく、該ヒドロキシラクトン系化合物としては、分子内にラクトン環と水酸基を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、L−アスコルビン酸、エリソルビン酸、グルコノデルタラクトン等を挙げることができ、好適にはL−アスコルビン酸、エリソルビン酸が用いられ、また、ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、乳酸、グリセリン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、サリチル酸等を挙げることができ、好適にはクエン酸が用いられる。
【0016】
かかるヒドロキシラクトン系化合物またはヒドロキシカルボン酸の使用量は、回分式及び連続式いずれの場合でも、酢酸ビニル100重量部に対して0.0001〜0.1重量部(さらには0.0005〜0.05重量部、特には0.001〜0.03重量部)が好ましく、かかる使用量が0.0001重量部未満ではこれらの添加効果が得られないことがあり、逆に0.1重量部を越えると酢酸ビニルの重合を阻害する結果となって好ましくない。かかる化合物を重合系に仕込むにあたっては、特に限定はされないが、通常は低級脂肪族アルコールや酢酸ビニルを含む脂肪族エステルや水等の溶媒又はこれらの混合溶媒で希釈されて重合反応系に仕込まれる。
【0017】
また、本発明では、上記の共重合時に本発明の効果を阻害しない範囲で共重合可能なエチレン性不飽和単量体を共重合していてもよく、かかる単量体としては、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいは炭素数1〜18のモノまたはジアルキルエステル類、アクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド類、メタクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、2−メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のメタクリルアミド類、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等のN−ビニルアミド類、アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類、炭素数1〜18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル類、ビニルシラン類、酢酸アリル、塩化アリル、アリルアルコール、ジメチルアリルアルコール、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ビニルエチレンカーボネート、エチレンカーボネート等が挙げられる。
【0018】
さらに、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、2−アクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−メタクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、3−ブテントリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、ジエチルジアリルアンモニウムクロライド等のカチオン基含有単量体、アセトアセチル基含有単量体等も挙げられる。
【0019】
さらにビニルシラン類としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、ビニルイソブチルジメトキシシラン、ビニルエチルジメトキシシラン、ビニルメトキシジブトキシシラン、ビニルジメトキシブトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルメトキシジヘキシロキシシラン、ビニルジメトキシヘキシロキシシラン、ビニルトリヘキシロキシシラン、ビニルメトキシジオクチロキシシラン、ビニルジメトキシオクチロキシシラン、ビニルトリオクチロキシシラン、ビニルメトキシジラウリロキシシラン、ビニルジメトキシラウリロキシシラン、ビニルメトキシジオレイロキシシラン、ビニルジメトキシオレイロキシシラン等を挙げることができる。
【0020】
得られた共重合体は、次いでケン化されるのであるが、かかるケン化にあたっては、上記で得られた共重合体をアルコール又は含水アルコールに溶解された状態で、アルカリ触媒又は酸触媒を用いて行われる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、tert−ブタノール等が挙げられるが、メタノールが特に好ましく用いられる。アルコール中の共重合体の濃度は系の粘度により適宜選択されるが、通常は10〜60重量%の範囲から選ばれる。ケン化に使用される触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、リチウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートの如きアルカリ触媒、硫酸、塩酸、硝酸、メタスルフォン酸、ゼオライト、カチオン交換樹脂等の酸触媒が挙げられる。
【0021】
かかるケン化触媒の使用量については、ケン化方法、目標とするケン化度等により適宜選択されるが、アルカリ触媒を使用する場合は通常、ビニルエステル系モノマー及び3,4−ジアシロキシ−1−ブテン等のモノマーの合計量に対して0.001〜0.1当量、好ましくは0.005〜0.05当量が適当である。かかるケン化方法に関しては目標とする鹸化度等に応じて、バッチ鹸化、ベルト上の連続鹸化、塔式の連続鹸化の何れも可能で、鹸化時のアルカリ触媒量の低減できることや鹸化反応が高効率で進み易い等の理由より、好ましくは、一定加圧下での塔式鹸化が用いられる。また、ケン化時の圧力は目的とするエチレン含有量により一概に言えないが、2〜7kg/cmの範囲から選択され、このときの温度は80〜150℃、好ましくは100〜130℃から選択される。
【0022】
かくして、目的とするEVOHが得られるのであるが、本発明においては、得られたEVOHのエチレン含有量やケン化度は、特に限定されないが、エチレン含有量は10〜60モル%(さらには20〜50モル%、特には25〜48モル%)が、ケン化度は90モル%以上(さらには95モル%以上、特には99モル%以上)のものが好適に用いられ、該エチレン含有量が10モル%未満では耐衝撃性が低下する傾向にあり、逆に60モル%を越えると粉体塗料から得られた塗膜のガスバリア性が低下する傾向にあり、さらにケン化度が90モル%未満でも塗膜のガスバリア性が低下し、また耐湿性が低下する傾向にあり好ましくない。
【0023】
また、該EVOHのメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)についても特に限定はされないが、0.1〜100g/10分(さらには0.5〜50g/10分、特には1〜30g/10分)が好ましく、該メルトフローレートが該範囲よりも小さい場合には、粉体塗料に粉砕した時の粒径が均一になり難い傾向にあり好ましくなく、また該範囲よりも大きい場合には、耐衝撃性が低下するため好ましくない。
【0024】
さらに、得られたEVOH中に導入される上記の構造単位(1)(1,2−グリコール結合を有する構造単位)量としては特に制限はされないが、0.1〜30モル%(さらには0.5〜20モル%、特には1〜10モル%)が好ましく、かかる導入量が0.1モル%未満では本発明の効果が十分に発現されず、逆に30モル%を越えると粉体塗料の粒子が粘着して均一な塗膜が得にくい傾向にあり好ましくない。また、1,2−グリコール結合を有する構造単位量を調整するにあたっては、1,2−グリコール結合を有する構造単位の導入量の異なる少なくとも2種のEVOHをブレンドして調整することも可能であるがその際のEVOHのエチレン含有量の差は2モル%未満であることが好ましく、また、そのうちの少なくとも1種が1,2−グリコール結合を有する構造単位を有していなくても構わない。
【0025】
かくして得られた本発明に使用されるEVOHは、このままで粉体塗料として供することもできるが、本発明においては、かかるEVOHに本発明の目的を阻害しない範囲において、飽和脂肪族アミド(例えばステアリン酸アミド等)、不飽和脂肪酸アミド(例えばオレイン酸アミド等)、ビス脂肪酸アミド(例えばエチレンビスステアリン酸アミド等)、脂肪酸金属塩(例えばステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等)、低分子量ポリオレフィン(例えば分子量500〜10,000程度の低分子量ポリエチレン、又は低分子量ポリプロピレン等)などの滑剤、無機塩(例えばハイドロタルサイト等)、可塑剤(例えばエチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール等の脂肪族多価アルコールなど)、酸素吸収剤(例えば無機系酸素吸収剤として、還元鉄粉類、さらにこれに吸水性物質や電解質等を加えたもの、アルミニウム粉、亜硫酸カリウム、光触媒酸化チタン等が、有機化合物系酸素吸収剤として、アスコルビン酸、さらにその脂肪酸エステルや金属塩等、ハイドロキノン、没食子酸、水酸基含有フェノールアルデヒド樹脂等の多価フェノール類、ビス−サリチルアルデヒド−イミンコバルト、テトラエチレンペンタミンコバルト、コバルト−シッフ塩基錯体、ポルフィリン類、大環状ポリアミン錯体、ポリエチレンイミン−コバルト錯体等の含窒素化合物と遷移金属との配位結合体、テルペン化合物、アミノ酸類とヒドロキシル基含有還元性物質の反応物、トリフェニルメチル化合物等が、高分子系酸素吸収剤として、窒素含有樹脂と遷移金属との配位結合体(例:MXDナイロンとコバルトの組合せ)、三級水素含有樹脂と遷移金属とのブレンド物(例:ポリプロピレンとコバルトの組合せ)、炭素−炭素不飽和結合含有樹脂と遷移金属とのブレンド物(例:ポリブタジエンとコバルトの組合せ)、光酸化崩壊性樹脂(例:ポリケトン)、アントラキノン重合体(例:ポリビニルアントラキノン)等や、さらにこれらの配合物に光開始剤(ベンゾフェノン等)や過酸化物補足剤(市販の酸化防止剤等)や消臭剤(活性炭等)を添加したものなど)、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、界面活性剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、充填材(例えば無機フィラー等)、他樹脂(例えばポリオレフィン、ポリアミド等)等を配合しても良い。
【0026】
さらには、本発明の目的を阻害しない範囲において、本発明のEVOHに酢酸、リン酸等の酸類やそのアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属等の金属塩を添加させることが、ホウ素化合物としてホウ酸またはその金属塩を添加させることが樹脂の熱安定性を向上させる点で好ましい。
酢酸の添加量としてはEVOH100重量部に対して0.001〜1重量部(さらには0.005〜0.2重量部、特には0.010〜0.1重量部)とすることが好ましく、かかる添加量が0.001重量部未満ではその含有効果が十分に得られないことがあり、逆に1重量部を越えると得られる成形物の外観が悪化する傾向にあり好ましくない。
ホウ酸金属塩としてはホウ酸カルシウム、ホウ酸コバルト、ホウ酸亜鉛(四ホウ酸亜鉛,メタホウ酸亜鉛等)、ホウ酸アルミニウム・カリウム、ホウ酸アンモニウム(メタホウ酸アンモニウム、四ホウ酸アンモニウム、五ホウ酸アンモニウム、八ホウ酸アンモニウム等)、ホウ酸カドミウム(オルトホウ酸カドミウム、四ホウ酸カドミウム等)、ホウ酸カリウム(メタホウ酸カリウム、四ホウ酸カリウム、五ホウ酸カリウム、六ホウ酸カリウム、八ホウ酸カリウム等)、ホウ酸銀(メタホウ酸銀、四ホウ酸銀等)、ホウ酸銅(ホウ酸第2銅、メタホウ酸銅、四ホウ酸銅等)、ホウ酸ナトリウム(メタホウ酸ナトリウム、二ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム、八ホウ酸ナトリウム等)、ホウ酸鉛(メタホウ酸鉛、六ホウ酸鉛等)、ホウ酸ニッケル(オルトホウ酸ニッケル、二ホウ酸ニッケル、四ホウ酸ニッケル、八ホウ酸ニッケル等)、ホウ酸バリウム(オルトホウ酸バリウム、メタホウ酸バリウム、二ホウ酸バリウム、四ホウ酸バリウム等)、ホウ酸ビスマス、ホウ酸マグネシウム(オルトホウ酸マグネシウム、二ホウ酸マグネシウム、メタホウ酸マグネシウム、四ホウ酸三マグネシウム、四ホウ酸五マグネシウム等)、ホウ酸マンガン(ホウ酸第1マンガン、メタホウ酸マンガン、四ホウ酸マンガン等)、ホウ酸リチウム(メタホウ酸リチウム、四ホウ酸リチウム、五ホウ酸リチウム等)などの他、ホウ砂、カーナイト、インヨーアイト、コトウ石、スイアン石、ザイベリ石等のホウ酸塩鉱物などが挙げられ、好適にはホウ砂、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム(メタホウ酸ナトリウム、二ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム、八ホウ酸ナトリウム等)があげられる。またホウ素化合物の添加量としては、組成物中の全EVOH100重量部に対してホウ素換算で0.001〜1重量部(さらには0.002〜0.2重量部、特には0.005〜0.1重量部)とすることが好ましく、かかる添加量が0.001重量部未満ではその含有効果が十分に得られないことがあり、逆に1重量部を越えると得られる成形物の外観が悪化する傾向にあり好ましくない。
【0027】
また、かかる金属塩としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等の、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリル酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等の有機酸や、硫酸、亜硫酸、炭酸、リン酸等の無機酸の金属塩が挙げられ、好適には酢酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩である。また、該金属塩の添加量としては、EVOH100重量部に対して金属換算で0.0005〜0.1重量部(さらには0.001〜0.05重量部、特には0.002〜0.03重量部)とすることが好ましく、かかる添加量が0.0005重量部未満ではその含有効果が十分に得られないことがあり、逆に0.01重量部を越えると得られる成形物の外観が悪化する傾向にあり好ましくない。尚、EVOHに2種以上のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩を添加する場合は、その総計が上記の添加量の範囲にあることが好ましい。
【0028】
EVOHに酸類やその金属塩を添加する方法については、特に限定されず、ア)含水率20〜80重量%のEVOHの多孔性析出物を、酸類やその金属塩の水溶液と接触させて、酸類やその金属塩を含有させてから乾燥する方法、イ)EVOHの均一溶液(水/アルコール溶液等)に酸類やその金属塩を含有させた後、凝固液中にストランド状に押し出し、次いで得られたストランドを切断してペレットとして、さらに乾燥処理をする方法、ウ)EVOHと酸類やその金属塩を一括して混合してから押出機等で溶融混練する方法、エ)EVOHの製造時において、ケン化工程で使用したアルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)を酢酸等の酸類で中和して、残存する酢酸等の酸類や副生成する酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等のアルカリ金属塩の量を水洗処理により調整したりする方法等を挙げることができる。本発明の効果をより顕著に得るためには、酸類やその金属塩の分散性に優れるア)、イ)またはエ)の方法が好ましい。
【0029】
上記ア)、イ)またはエ)の方法で得られたEVOH組成物は、塩類や金属塩が添加された後、乾燥が行われる。
かかる乾燥方法としては、種々の乾燥方法を採用することが可能である。例えば、実質的にペレット状のEVOH組成物が、機械的にもしくは熱風により撹拌分散されながら行われる流動乾燥や、実質的にペレット状のEVOH組成物が、撹拌、分散などの動的な作用を与えられずに行われる静置乾燥が挙げられ、流動乾燥を行うための乾燥器としては、円筒・溝型撹拌乾燥器、円管乾燥器、回転乾燥器、流動層乾燥器、振動流動層乾燥器、円錐回転型乾燥器等が挙げられ、また、静置乾燥を行うための乾燥器として、材料静置型としては回分式箱型乾燥器が、材料移送型としてはバンド乾燥器、トンネル乾燥器、竪型乾燥器等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。流動乾燥と静置乾燥を組み合わせて行うことも可能である。
【0030】
該乾燥処理時に用いられる加熱ガスとしては空気または不活性ガス(窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等)が用いられ、該加熱ガスの温度としては、40〜150℃が、生産性とEVOHの熱劣化防止の点で好ましい。該乾燥処理の時間としては、EVOH組成物の含水量やその処理量にもよるが、通常は15分〜72時間程度が、生産性とEVOHの熱劣化防止の点で好ましい。
【0031】
上記の条件でEVOH組成物が乾燥処理されるのであるが、該乾燥処理後のEVOH組成物の含水率は0.001〜5重量%(さらには0.01〜2重量%、特には0.1〜1重量%)になるようにするのが好ましく、該含水率が0.001重量%未満では、ロングラン成形性が低下する傾向にあり、逆に5重量%を越えると、押出成形時時に発泡が発生する虞があり好ましくない。
【0032】
かくして目的とするEVOHあるいはその組成物(以下、まとめてEVOH組成物と記す)が得られるわけであるが、かかるEVOH組成物には、本発明の目的を阻害しない範囲において、多少のモノマー残査(3,4−ジオール−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、3−アシロキシ−4−オール−1−ブテン、4−アシロキシ−3−オール−1−ブテン、4,5−ジオール−1−ペンテン、4,5−ジアシロキシ−1−ペンテン、4,5−ジオール−3−メチル−1−ペンテン、4,5−ジオール−3−メチル−1−ペンテン、5,6−ジオール−1−ヘキセン、5,6−ジアシロキシ−1−ヘキセン、4,5−ジアシロキシ−2−メチル−1−ブテン等)やモノマーのケン化物(3,4−ジオール−1−ブテン、4,5−ジオール−1−ペンテン、4,5−ジオール−3−メチル−1−ペンテン、4,5−ジオール−3−メチル−1−ペンテン、5,6−ジオール−1−ヘキセン等)を含んでいてもよい。
【0033】
かくして、本発明の粉体塗料が得られるのであるが、通常EVOH(組成物)はペレット状で製造されることもあり、この場合は、得られたペレットを低温粉砕器にかけてふるい取る等の方法により、50mesh以下の篩を通過する粉体に粉砕すればよい。
また、本発明の粉体塗料には、上述以外の一般的な紛体塗料に添加される添加物を配合することも可能である。
【0034】
得られた紛体塗料を用いて粉体塗装を行うにあたっては、公知の方法を採用することができ、例えば、静電吹付け塗装法、流動浸漬法、静電流動浸漬法、散布法、溶射法、デスパージョン法、粉体電着塗装法等を挙げることができるが、本発明においては、静電吹付け塗装法が好適に採用される。
【0035】
かかる静電吹付け塗装法に用いられる該紛体塗料の粒子径は、30〜70μmが好ましく、また、紛体塗料を塗布した後の溶融温度は150〜300℃の範囲から選択することが好ましい。
塗装基材としては、金属が一般的であるが、セラミックス、ガラス、プラスチックス等で上記の溶融温度に耐えうるものも基材とすることが可能である。
【0036】
また、塗装厚みは、基材の種類や用途により一概に言えないが、50〜1000μm程度の範囲から選択することが可能である。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例を挙げて本発明の方法を具体的に説明する。なお、以下「%」「部」とあるのは、特にことわりのない限り、重量基準を意味する。
【0038】
重合例1
下記の方法によりEVOH(A1)組成物を得た。
冷却コイルを持つ1mの重合缶に酢酸ビニルを500kg、メタノール100kg、アセチルパーオキシド500ppm(対酢酸ビニル)、クエン酸20ppm、および3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを14kgを仕込み、系を窒素ガスで一旦置換した後、次いでエチレンで置換して、エチレン圧が35kg/cm2となるまで圧入して、攪拌した後、67℃まで昇温して、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを15g/分で全量4.5kgを添加しながら重合し、重合率が50%になるまで6時間重合した。その後、重合反応を停止してエチレン含有量29モル%のエチレン-酢酸ビニル共重合体を得た。
【0039】
該エチレン−酢酸ビニル共重合体のメタノール溶液を棚段塔(ケン化塔)の塔上部より10kg/時の速度で供給し、同時に該共重合体中の残存酢酸基に対して、0.012当量の水酸化ナトリウムを含むメタノール溶液を塔上部より供給した。一方、塔下部から15kg/時でメタノールを供給した。塔内温度は100〜110℃、塔圧は3kg/cmGであった。仕込み開始後30分から、1,2−グリコール結合を有する構造単位を有するEVOHのメタノール溶液(EVOH30%、メタノール70%)が取出された。かかるEVOHの酢酸ビニル成分のケン化度は99.5モル%であった。
【0040】
次いで、得られた該EVOHのメタノール溶液をメタノール/水溶液調整塔の塔上部から10kg/時で供給し、120℃のメタノール蒸気を4kg/時、水蒸気を2.5kg/時の速度で塔下部から仕込み、塔頂部よりメタノールを8kg/時で留出させると同時に、ケン化で用いた水酸化ナトリウム量に対して6当量の酢酸メチルを塔内温95〜110℃の塔中部から仕込んで塔底部からEVOHの水/アルコール溶液(樹脂濃度35%)を得た。
【0041】
得られたEVOHの水/アルコール溶液を、孔径4mmのノズルより、メタノール5%、水95%よりなる5℃に維持された凝固液槽にストランド状に押し出して、凝固終了後、ストランド状物をカッターで切断し、直径3.8mm、長さ4mmの含水率45%のEVOHの多孔性ペレットを得た。
【0042】
該多孔性ペレット100部に対して水100部で洗浄した後、0.032%のホウ酸及び0.007%のリン酸二水素カルシウムを含有する混合液中に投入し、30℃で5時間撹拌した。さらにかかる多孔性ペレットを回分式通気箱型乾燥器にて、温度70℃、水分含有率0.6%の窒素ガスを通過させて12時間乾燥を行って、含水率を30%とした後に、回分式塔型流動層乾燥器を用いて、温度120℃、水分含有率0.5%の窒素ガスで12時間乾燥を行って目的とするEVOH組成物(A1)のペレットを得た。かかるペレットは、EVOH100重量部に対して、ホウ酸およびリン酸二水素カルシウムをそれぞれ0.015重量部(ホウ素換算)および0.005重量部(リン酸根換算)含有していた。また、このEVOH組成物のMFRは4.0g/10分(210℃ 2160g)であった。
【0043】
また、1,2−グリコール結合の導入量は、ケン化前のエチレン−酢酸ビニル共重合体をH−NMR(内部標準物質:テトラメチルシラン、溶媒:d6−DMSO)で測定して算出したところ、2.5モル%であった。なお、NMR測定には日本ブルカー社製「AVANCE DPX400」を用いた。
【化6】

【0044】
H−NMR](図1参照)
1.0〜1.8ppm:メチレンプロトン(図1の積分値a)
1.87〜2.06ppm:メチルプロトン
3.95〜4.3ppm:構造(I)のメチレン側のプロトン+未反応の3,4−ジア セトキシ−1−ブテンのプロトン(図1の積分値b)
4.6〜5.1ppm:メチンプロトン+構造(I)のメチン側のプロトン(図1の積 分値c)
5.2〜5.9ppm:未反応の3,4−ジアセトキシ−1−ブテンのプロトン(図1 の積分値d)
【0045】
[算出法]
5.2〜5.9ppmに4つのプロトンが存在するため、1つのプロトンの積分値はd/4、積分値bはジオールとモノマーのプロトンが含まれた積分値であるため、ジオールの1つのプロトンの積分値(A)は、A=(b−d/2)/2、積分値cは酢酸ビニル側とジオール側のプロトンが含まれた積分値であるため、酢酸ビニルの1つプロトンの積分値(B)は、B=1−(b−d/2)/2、積分値aはエチレンとメチレンが含まれた積分値であるため、エチレンの1つのプロトンの積分値(C)は、C=(a−2×A−2×B)/4=(a−2)/4と計算し、構造単位(1)の導入量は、100×{A/(A+B+C)} =100×(2×b−d)/(a+2)より算出した。
【0046】
また、ケン化後のEVOHに関しても同様にH−NMR測定を行った結果を図2に示す。1.87〜2.06ppmのメチルプロトンに相当するピークが大幅に減少していることから、共重合された3,4−ジアセトキシ−1−ブテンもケン化され、1,2−グリコール構造となっていることは明らかである。
【0047】
重合例2
重合例1において、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの替わりに3,4−ジアセトキシ−1−ブテンと3−アセトキシ−4−オール−1−ブテンと1,4−ジアセトキシ−1−ブテンの70:20:10の混合物を用いた以外は同様に行い、で側鎖に1,2−グリコール結合を有する構造単位の導入量が2.0モル%のEVOH組成物(A2)を得た。このEVOH共重合体のMFRは3.7g/10分で、のEVOH組成物であった。
【0048】
また、別途、1,2−グリコール結合を有する構造単位を含有しないエチレン含有量が29モル%、
ホウ酸含0.015重量部(ホウ素換算)リン酸二水素カルシウム0.005重量部(リン酸根換算)含有のMFRが3.2g/10分のEVOH組成物(A3)を準備した。
【0049】
実施例1
重合例1で得られたEVOH組成物(A1)を低温粉砕器にて、粉砕して80meshの篩を通過する粉体塗料[ホウ素300ppm含有、ナトリウム95ppm含有]を得た。
【0050】
ついで、上記で得られた粉体塗料をゲマ社製静電粉体塗装ガンを用いて、磨き軟鋼板に塗装して、150℃で20分焼き付けを行って塗装鋼板を得た。なお、塗膜厚みは60μmであった。
【0051】
得られた塗装鋼板について、以下の評価を行った。
(熱衝撃後の耐衝撃性)
得られた塗装鋼板をタバイエスペック社製ヒートショック試験器「TSA−100L(A/W))」にて−40℃で1時間放置した後、75℃まで昇温して1時間放置した後、−40℃まで降温するというサイクルを5サイクル繰り返した後、塗装鋼板上に、−40℃雰囲気中で、2mの高さから、1.2kgの鋼球を自然落下させ、塗装表面を目視観察して、以下のように評価した。
◎・・・塗膜表面にクラックは全くみられなかった
○・・・塗膜表面にクラックが若干見られるが塗膜の剥離はなかった
×・・・塗膜の剥離が見られた
【0052】
実施例2
実施例1において、EVOH組成物(A1)の代わりにEVOH組成物(A2)を使用した以外は同様に粉体塗料を得て、評価を行った。
【0053】
比較例1
実施例1において、EVOH組成物(A1)の代わりにEVOH組成物(A3)を使用した以外は同様に粉体塗料を得て、評価を行った。
【0054】
比較例2
実施例1において、EVOH(A1)組成物の代わりにEVOH(A3)と融点が124℃のエムスジャパン社製『グリロンCF6S』(ナイロン6/12の共重合体)の重量比90/10の溶融混合物をEVOH組成物(A1)の代わりに使用した以外は同様に粉体塗料を得て、評価を行った。
【0055】
実施例及び比較例の評価結果を表1にまとめて示す。
【0056】
〔表1〕
熱衝撃後の耐衝撃性
実施例1 ○
〃 2 ○
比較例1 ×
〃 2 ×
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の1,2−グリコール結合を含有する構造単位を有するEVOHの粉体塗料は耐衝撃性に優れ、さらに熱衝撃を受けた後においても耐衝撃が優れ、金属製タンクの内外面、ポンプインペラーの表面、金属製パイプの内外面、金網・フェンス表面等の塗装用途に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】重合例1で得られたEVOHのケン化前のH−NMRチャートである。
【図2】重合例1で得られたEVOHのH−NMRチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の構造単位(1)を含有するエチレン−ビニルアルコール共重合体からなることを特徴とする粉体塗料。
【化1】

(ここで、Xは結合鎖であってエーテル結合を除く任意の結合鎖で、R1〜R4はそれぞれ独立して任意の置換基であり、nは0または1を表す。)
【請求項2】
構造単位(1)のR1〜R4がそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜8の炭化水素基、炭素数3〜8の環状炭化水素基又は芳香族炭化水素基のいずれかであることを特徴とする請求項1記載の粉体塗料。
【請求項3】
構造単位(1)のR1〜R4がいずれも水素原子であることを特徴とする請求項1または2記載の粉体塗料。
【請求項4】
構造単位(1)のXが炭素数6以下のアルキレン基であることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の粉体塗料。
【請求項5】
構造単位(1)のnが0であることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の粉体塗料。
【請求項6】
構造単位(1)が共重合によりエチレン−ビニルアルコール共重合体の分子鎖中に導入されたものであることを特徴とする請求項1〜5いずれか記載の粉体塗料。
【請求項7】
エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン含有量が10〜60モル%であることを特徴とする請求項1〜6いずれか記載の粉体塗料。
【請求項8】
エチレン−ビニルアルコール共重合体の分子鎖中に構造単位(1)を0.1〜30モル%含有することを特徴とする請求項1〜7いずれか記載の粉体塗料。
【請求項9】
エチレン−ビニルアルコール共重合体が3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、ビニルエステル系モノマーおよびエチレンの共重合体をケン化して得られたものであることを特徴とする請求項1〜8いずれか記載の粉体塗料。
【請求項10】
エチレン−ビニルアルコール共重合体が3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、ビニルエステル系モノマーおよびエチレンの共重合体をケン化して得られたものであることを特徴とする請求項1〜9いずれか記載の粉体塗料。
【請求項11】
エチレン−ビニルアルコール共重合体がホウ素化合物をエチレン−ビニルアルコール共重合体100重量部に対してホウ素換算で0.001〜1重量部含有することを特徴とする請求項1〜10いずれか記載の粉体塗料。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−96817(P2006−96817A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−282141(P2004−282141)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】