説明

粉末合金圧延用ケースおよび圧延材の製造方法

【課題】安価で、かつ、圧延加工時に破損が生じることがない、粉末合金圧延用ケースとこの粉末合金圧延用ケースを利用した圧延材の製造方法を提案する。
【解決手段】粉末合金圧延用ケース1は、2つの部材10a,10aを組み合わせて矩形枠状に形成され、金属粉末2の側面を囲う側面構成部材10と、側面構成部材10の一方の開口部に覆設され、金属粉末2の上面を覆う上蓋構成部材11と、側面構成部材10の他方の開口部に覆設され、金属粉末2の下面を覆う下蓋構成部材12とにより箱型に形成されていて、側面構成部材10を構成する部材10a同士の接合部10b,10bが、側面構成部材10の四つの側面のうち対向する2つの側面にそれぞれ設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末冶金法によりアルミニウム粉末合金の圧延材を製造する場合において使用される粉末合金圧延用ケースおよびこの粉末合金圧延用ケースを使用した圧延材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造により製造する金属の溶製合金と比較して、アルミニウム粉末合金は、結晶粒を微細にでき、他元素を多く添加でき、さらに、強化材を均一に分散できるという利点を有している。そのため、昨今では、自動車、車両、航空機を始め、建設・土木関係等、アルミニウム粉末合金の用途が拡大しつつある。
【0003】
従来、アルミニウム粉末合金の製造は、冷間静水圧成形やホットプレス成形などにより仮成形した状態、仮成形した粉末合金を容器に収容した状態、あるいはさらに缶等に封入し加圧焼結した状態で、さらに、熱間塑性加工をすることで、所望の形状に成形するとともに加圧焼結されていた。
【0004】
ところが、アルミニウム粉末合金に、強化材等を多く含有させると、複合材が脆くなるため、前記従来の加工方法では、所望の形状に成形することが困難になるという問題点を有していた。
【0005】
このため、本出願人等は、金属粉末を金属製容器に収容した状態で、この金属容器ごと通電加圧焼結した後、熱間圧延することにより、塑性加工性を確保する圧延材の製造方法を提案し、実用化に至っている。
【0006】
このような圧延材の製造方法において金属粉末102を収容する金属製容器101として、図6(a)および(b)に示すように、4枚の金属板111,112,113,114を溶接等により組み合わせることで、矩形状の枠材110を形成し、枠材110の開口部を矩形状の金属板からなる蓋材115,115により閉塞することで箱状に形成されたものを使用する場合がある。
【0007】
【特許文献1】国際公開第2006/070879号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記従来の金属製容器101は、圧延時に大きな力が作用する角部において金属板111,112,113,114が接合されているため、アルミニウム粉末合金の圧延加工を行うと、枠材110の角部(接合部)において、破損が生じて、圧延ができない場合があった。
【0009】
なお、枠材を構成する金属板同士の接合部における破損を防止することを目的として、図6(c)および(d)に示すように、金属板同士の接合部を無くし、一体成形した枠材120を使用する場合がある。ところが、枠材120を一体成形するためには、大型の押出成形用の装置を用意する必要があるなど、製造に要する費用が嵩むという問題点を有していた。
【0010】
本発明は、前記の問題点を解決するためになされたものであり、安価で、かつ、圧延加工時に破損が生じることがない、粉末合金圧延用ケースとこの粉末合金圧延用ケースを利用した圧延材の製造方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような課題を解決するために、本発明に係る粉末合金圧延用ケースは、複数の部材を組み合わせて矩形枠状に形成され、金属粉末の側面を囲う側面構成部材と、前記側面構成部材の一方の開口部に覆設され、前記金属粉末の上面を覆う上蓋構成部材と、前記側面構成部材の他方の開口部に覆設され、前記金属粉末の下面を覆う下蓋構成部材と、により箱型に形成されていて、前記側面構成部材を構成する前記部材同士の接合部のすべてが、前記側面構成部材の四つの側面のうち対向する2つの側面に設けられていることを特徴としている。
【0012】
かかる粉末合金圧延用ケースによれば、側面構成部材が、折り曲げ加工や押出し成形等により形成が可能な形状の部材を組み合わせることにより構成されているため、製造費が安価になる。また、側面構成部材を構成する各部材の接合部のすべてが、圧延時に大きな力が作用する粉末合金圧延用ケースの角部で接合されているのではなく、側面構成部材を平面視した際に矩形枠の辺を構成する部材である一対の側面に設けられているため、圧延時における破損を抑止することができる。さらに、圧延を、接合部が設けられた面と交差する方向から行えば、圧延時に接合部が分離することが抑止される。つまり、圧延方向と平行な面に接合部が配置されていると、接合部が引き伸ばされるため、分離する虞があるが、引き伸ばされる方向と交差する面に接合部を配置すれば、圧延時に作用する応力が小さく、接合部において部材同士が分離することが抑止される。
【0013】
また、前記接合部が、前記側面の幅方向の中央部からずれた位置に配置されていれば、より大きな応力が作用する中央部を避けた位置に接合部が配置されているため、接合部が分離することが抑止されて好適である。ここで、側面の幅方向とは、矩形枠状に形成された側面構成部材を、その開口面が上下となるように配置した状態で、該面を正面視した際の左右方向をいう。
【0014】
さらに、前記粉末合金圧延用ケースにおいて、前記部材同士が、嵌合により結合されていれば、圧延時に接合部が分離する等の不具合が生じることがないため、好適である。
【0015】
また、本発明に係る圧延材の製造方法は、複数の部材を組み合わせて矩形枠状に形成され、金属粉末の側面を囲う側面構成部材と、前記側面構成部材の一方の開口部に覆設され、前記金属粉末の上面を覆う上蓋構成部材と、前記側面構成部材の他方の開口部に覆設され、前記金属粉末の下面を覆う下蓋構成部材と、により箱型に形成された粉末合金圧延用ケースに、金属粉末を収容する工程と、前記金属粉末が収容された粉末合金圧延用ケースを圧延する工程と、を備える圧延材の製造方法であって、前記側面構成部材の接合部は、前記側面構成部材の四つの側面のうち対向する2つの側面に配置されていて、前記圧延する工程において、まず、前記接合部が形成された側面と交差する方向に前記粉末合金圧延用ケースを圧延することを特徴としている。
【0016】
かかる圧延材の製造方法によれば、圧延時に作用する応力が小さくなる位置に側面構成部材を構成する部材同士の接合部が設けられているため、圧延時の粉末合金圧延用ケース等の破損が防止されて好適である。
【0017】
前記圧延材の製造方法において、前記収容する工程の後であって、前記圧延する工程の前に、前記金属粉末が収容された粉末合金圧延用ケースを焼結する工程を含んでいてもよい。
【0018】
前記圧延材の製造方法において、前記接合部が形成された側面に圧延補強材が固定されていれば、粉末合金圧延用ケースへの圧延荷重を効率的に作用させることが可能となり、また、圧延を行う装置への粉末合金圧延用ケースの挿入を容易にすることが可能となり、好適である。
【0019】
また、前記圧延材の成形方法において、前記収容する工程の後であって、前記圧延する工程の前に、前記粉末合金圧延用ケースの外側の側面を金属箔で覆う工程を備えていれば、完成品に粉末合金圧延用ケースの接合部が表面に現れないため、好適である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の粉末合金圧延用ケースとこの粉末合金圧延用ケースを利用した圧延材の製造方法によれば、圧延加工時に破損が生じることがなく、また、安価にアルミニウム粉末合金を製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の好適な実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一要素には同一の符号を用い、重複する説明は省略する。
ここで、図1は、本実施形態に係る粉末合金圧延用ケースの全体を示す斜視図である。図2は、図1に示す粉末合金圧延用ケースを示す図であって、(a)は平断面図、(b)は縦断面図である。図3は、図1に示す粉末合金圧延用ケースを示す分解斜視図である。図4の(a)〜(d)は、粉末合金圧延用ケースの側面構成部材の接合部を示す側面図であって、(e)は(d)の平面図である。さらに、図5の(a)〜(g)は、粉末合金圧延用ケースの側面構成部材と上蓋部材および下蓋部材との接合部を示す部分断面図である。
【0022】
本実施形態に係る圧延材の製造方法は、図1および図2に示すように、箱型に形成された粉末合金圧延用ケース1に、金属粉末の集合体(以下、単に「金属粉末」という)2を収容した状態で、加圧焼結した後、圧延成形するものである。この粉末合金圧延用ケース1の圧延方向に対する前後の面(圧延方向と交差する面)には、圧延補強材3が一体に固定されている。また、粉末合金圧延用ケース1の側面は、金属箔4により覆われている。
【0023】
粉末合金圧延用ケース1は、図2(a)および(b)に示すように、矩形枠状に形成され、圧縮成形された金属粉末2の側面を覆う側面構成部材10と、側面構成部材10の一方の開口部に覆設され、金属粉末2の上面を覆う上蓋構成部材11と、側面構成部材10の他方の開口部に覆設され、金属粉末2の下面を覆う下蓋構成部材12と、により形成されている。粉末合金圧延用ケース1を構成する材質は、金属部材であれば限定されるものではなく、例えば、アルミニウムやステンレス等により構成する。
【0024】
側面構成部材10は、図2(a)および(b)に示すように、2つの部材10a,10aを組み合わせることにより、内部に金属粉末2を収容するための空間が形成された、平面視が矩形の筒状(矩形枠状)に構成されている。
【0025】
図2(a)に示すように、側面構成部材10を構成する部材10a,10a同士の接合部10b,10bは、側面構成部材の四つの側面のうち対向する2つの側面に設けられている。そして、この接合部10b,10bは、この側面において、該面の幅方向(図2(a)において左右方向)の中央部からずれた位置に配置されている。
【0026】
本実施形態では、一方の側面(図2(a)において上の辺)に形成された接合部10bを平面視で右側方向に、他方の側面(図2(a)において下の辺)に形成された接合部10bを平面視で左側方向に、それぞれの側面の中央から同じ距離だけずらした位置に配置されている。したがって、両部材10a,10aは、同形状に形成されている。
【0027】
なお、本実施形態では、側面構成部材10を2つの部材10a,10aにより構成するものとしたが、側面構成部材10の分割数は限定されるものではなく、適宜設定すればよい。また、2つの部材10a,10aは必ずしも同形状に形成されている必要はない。
【0028】
図3および図5(a)に示すように、側面構成部材10の外周面には、周方向に沿って高さ方向中央に突条10cが形成されている。突条10cは、後記する上蓋構成部材11および下蓋構成部材12の縁壁11b,12bの肉厚と同じ高さ(厚み)となるように側面構成部材10から突出している。そして、側面構成部材10の突条10cより上の部分を、上蓋構成部材11の縁壁11bにより形成された空間に挿入し、突条10cより下の部分を、下蓋構成部材12の縁壁12bにより形成された空間に挿入することで、側面構成部材10と上蓋構成部材11および下蓋構成部材12とが嵌合される。
【0029】
側面構成部材10を構成する部材10a,10aの端部(接合部10bに対応する箇所)は、図3および図4(a)に示すように、鉤形に形成されており、接合部10bにおいて、互いに嵌合するように形成されている。したがって、側面構成部材10は、部材10a,10a同士が、接合部10bにおいて互いに嵌合されているため、圧延時の応力により接合部10bに目開きが生じることが防止されている。
【0030】
上蓋構成部材11は、図3に示すように、側面構成部材10の外周形状に応じて形成された矩形板状の蓋部材本体11aと、蓋部材本体11aの周縁に立設された縁壁11bとを備えて構成されている。
【0031】
上蓋構成部材11は、図5(a)に示すように、縁壁11bが側面構成部材10の突条10cよりも上の部分の外周面を覆うように配置されることで、側面構成部材10と嵌合される。
【0032】
下蓋構成部材12は、図3に示すように、側面構成部材10の外周形状に応じて形成された矩形板状の蓋部材本体12aと、蓋部材本体12aの周縁に立設された縁壁12bとを備えて構成されている。
【0033】
下蓋構成部材12は、図5(a)に示すように、縁壁12bが側面構成部材10の突条10cよりも下の部分の外周面を覆うように配置されることで、側面構成部材10と嵌合される。
このように、側面構成部材10と上蓋構成部材11および下蓋構成部材12とが嵌合されることで粉末合金圧延用ケース1を構成している。
【0034】
圧延補強材3は、図1に示すように、粉末合金圧延用ケース1の前後の側面に固定された部材であって、先端に行くに従い、肉厚が薄くなるように、テーパが形成されて断面が台形に形成されている。先端の肉厚が薄くなるように形成された圧延補強材3により、圧延時における圧延荷重が側面構成部材10に流れやすくなる。なお、本実施形態では、圧延補強材3として、粉末合金圧延用ケース1の圧延方向と交差する面に固定するものとしたが、これに限定されるものではなく、粉末合金圧延用ケース1の外周面を覆うように配置してもよい。また、圧延補強材3を省略してもよいことはいうまでもない。また、本実施形態では、図2(b)に示すように、圧延補強材3の粉末合金圧延用ケース1側の厚み(高さ)が、粉末合金圧延用ケースの厚み(高さ)と同等となるように構成するものとしたが、圧延補強材3の厚みを若干薄くすることで、粉末合金圧延用ケース1へ圧力が初期からかかるようにしてもよい。
【0035】
金属箔4は、図1に示すように、粉末合金圧延用ケース1の外側の側面を覆っており、側面構成部材10と上蓋構成部材11と下蓋構成部材12との側面における接合部を覆い隠している。これにより、完成品(アルミニウム粉末合金)の側面に接合部の溝(線)が現れることがない。なお、金属箔4は、必要に応じて設置すればよく、必ずしも設置する必要はない。
【0036】
本実施形態に係る圧延材の製造方法は、粉末合金圧延用ケース1に、金属粉末2を収容する収容工程と、金属粉末2を収容した粉末合金圧延用ケース1の側面に金属箔4を覆う金属箔設置工程と、金属箔4で覆われた粉末合金圧延用ケース1を焼結することでクラッド材を製造する焼結工程と、このクラッド材を圧延する圧延工程と、により行われる。
【0037】
収容工程は、部材10a,10a同士を組み合わせることにより構成された側面構成部材10の内部空間に金属粉末2を収容した状態で、上蓋構成部材11および下蓋構成部材12により金属粉末2の上下面を覆う。このとき、金属粉末2と、粉末合金圧延用ケース1とは、密着している。また、側面構成部材10の突条10cより上の部分の外周面と上蓋構成部材11の縁壁11bおよび側面構成部材10の突条10cより下の部分の外周面と下蓋構成部材12の縁壁12bが互いに密着した状態で、側面構成部材10と上蓋構成部材11および下蓋構成部材12とが嵌合している。なお、本実施形態では、金属粉末2として、アルミニウムとセラミックスとの混合粉末を、予め所定の形状に固めた粉末の仮成形体を使用するものとする。ここで、金属粉末(粉末の仮成形体)2は、例えば、100tプレスによりかさ密度1.65となるように成形されたものであって、密度が小さく、ハンドリング等により容易に崩れる程度に固められたものである。
【0038】
粉末合金圧延用ケース1の組立ては、金属粉末2の周囲を覆うように、金属粉末2を予め所定の個所に配置した後、側面構成部材10、上蓋構成部材11、下蓋構成部材12を組み立ててもいいし、予め組み立てられた側面構成部材10の内部に金属粉末2を挿入してもよく、その順序は限定されるものではない。
【0039】
なお、金属粉末(粉末の仮成形体)2の成形方法等は限定されるものではなく、適宜公知の方法により整形すればよい。また、金属粉末2を構成する材料は限定されるものではなく、例えば、アルミニウムのみで構成するなど、完成後のアルミニウム粉末合金の用途等に応じて適宜設定すればよい。さらに、金属粉末2として、粉末の仮成形体を使用するのではなく、粉末状の状態で、直接、粉末合金圧延用ケース1の内部に収容してもよい。
【0040】
金属箔設置工程では、金属粉末2を収容した粉末合金圧延用ケース1の側面外周を金属箔4で覆うことで、上蓋構成部材11および下蓋構成部材12と、側面構成部材10との接合部が露出しないようにする。
【0041】
焼結工程では、金属粉末2が収容された粉末合金圧延用ケース1に通電加圧焼結を施す工程である。通電加圧焼結は、公知の方法により行えばよく、例えば、真空容器を密封して真空ポンプなどで焼結炉内を減圧状態とし、必要に応じて真空容器内に不活性雰囲気ガスを充填した後、上パンチ部材と下パンチ部材を作動させ、成形ダイ内の材料を所定圧で押圧圧縮した後、得られた高密度圧縮体に上パンチ部材と下パンチ部材を通して直流パルス電流を通電し、材料を加圧焼結する。通電加圧焼結の条件は、例えば、真空度0.1torr以下の真空雰囲気下で、電流5000〜30000アンペア、昇温速度10〜300℃/分、焼結温度500〜650℃、保持時間5分以上、圧力5〜10MPaにて行う。
【0042】
圧延工程は、焼結工程において通電加圧焼結されたクラッド材に溶接等により圧延補強材3を固定した後、上下から圧力を加えつつ引き伸ばすことでアルミニウム粉末合金を生成(圧延材を製造)する工程である。クラッド材の圧延は、接合部10bが配置された面と直交する方向(圧延方向A)に対して行うものとする。そして、圧延方向Aに対して十分な圧延を行った後、必要に応じて、クラッド材を回転させて、他方向に対する圧延を行う。なお、圧延補強材3は、焼結工程において、粉末合金圧延用ケース1とともに通電加圧してもよい。
【0043】
なお、焼結工程の後であって圧延工程の前に、必要に応じて、クラッド材の側面構成部材10と上蓋構成部材11と下蓋構成部材12を溶接接合する溶接工程を備えていてもよい。
溶接工程では、クラッド材の側面において、側面構成部材10の突条10cと上蓋構成部材11の縁壁11bと下蓋構成部材12の縁壁12bとを溶接接合する。本実施形態にかかる粉末合金圧延用ケース1は、側面構成部材10と上蓋構成部材11と下蓋構成部材12を溶接接合をグラッド材の側面において行えるため、溶接ビードがクラッド材の上下面に形成されることがなく、圧延作業に悪影響を及ぼすことがない。つまり、溶接ビードによって、クラッド材の上下面の凹凸が形成されて、均等に圧延加圧が作用しないという不具合が生じることがない。したがって、溶接ビードを削り落とす作業を必要としないため、溶接工程における作業工数を削減することが可能となり、コストダウンも図ることが可能となる。
【0044】
以上、本実施形態の粉末合金圧延用ケースおよび圧延材の製造方法によれば、圧延時に大きな力が加わる粉末合金圧延用ケース1の角部に、部材10a,10a同士の接合部10bが配置されていないため、粉末合金圧延用ケース1に破損が生じることがなく、好適である。
【0045】
また、部材10a同士の接合は、互いに嵌合することにより行われているため、加圧焼結により一体化がなされ、圧延時の目開きが生じることがない。また、接合部10bを、圧延時の引張力が最も大きく作用する圧延方向Aと交差する面の中央からずらした位置に配置することで、破損することが防止されている。
【0046】
また、側面構成部材10と上蓋構成部材11および下蓋構成部材12との接合は、上蓋構成部材11および下蓋構成部材12の縁壁11b,12bが、側面構成部材10の外周面を覆うように嵌合されているため、上蓋構成部材11または下蓋構成部材12と側面構成部材10との間に金属粉末が介在することで圧延時に破損が生じることが防止されている。
【0047】
粉末合金圧延用ケース1の側面は、金属箔4により覆われているため、側面構成部材10と上蓋構成部材11と下蓋構成部材12との接合部が外部に露出することがない。そのため、製造されたアルミニウム粉末合金の使用用途の自由度が増す。
【0048】
圧延時には、圧延補強材3が固定されているため、圧延作業を効率的に行うことが可能であるとともに、粉末合金圧延用ケース(クラッド材)1が補強されて、破損が生じることがない。
【0049】
以上、本発明について、好適な実施形態について説明したが、本発明は前記各実施形態に限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、圧延前に、焼結工程において金属粉末2が収容された粉末合金圧延用ケース1に通電加圧焼結を施してクラッド材を製造するものとしたが、焼結工程を省略して、金属粉末2が収容された粉末合金圧延ケース1をそのまま圧延してもよい。
【0050】
また、前記実施形態では、図4(a)に示すように、側面構成部材を構成する部材同士の接合部において、互いの端部に形成されたL字状の鉤形部分を嵌合させることで、接合部における横方向(図4(a)において左右方向)の目開きを防止する構成としたが、端部の形状はこれに限定されるものではない。つまり、図4(b)に示すように、鉤形の形状を、上下方向にも離間しにくい構成としてもよい。また、図4(c)に示すように、一方の部材10aの端部に横T字状の突部10eを形成し、他方の部材10aの端部には突部10eの形状に対応して形成された溝部10fを形成することで、互いに嵌合する構成としてもよい。なお、図4(c)では、突部10eを略T字に形成するものとしたが、突部10eの形状は限定されるものではない。
【0051】
また、前記実施形態では、部材10a同士の接合部10bを嵌合により接合するものとしたが、これに限定されるものではなく、適宜公知の接合方法により接合してもよい。例えば、図4(d)および(e)に示すように、溶接により接合してもよい。なお、図4(d)では、部材10a,10aの端部にテーパを形成し、接合部10bにおいてV形の開先10hを形成することで、溶接ビード10gの突出部分を少なくする。
【0052】
また、前記実施形態では、図5(a)に示すように、側面構成部材10の外周面に突条10cを形成する構成としたが、側面構成部材10の形状はこれに限定されるものではない。例えば、図5(b)に示すように、側面構成部材10の外周面を、突条10c(図5(a)参照)を有していない、平面としてもよい。この場合には、上蓋構成部材11および下蓋構成部材12の縁壁11b,12bを側面構成部材10の外周面に沿って配置させればよい。なお、図5(c)に示すように、上蓋構成部材11または下蓋構成部材12のいずれか一方にのみ縁壁11bを形成し、側面構成部材10の外周面を覆う構成としてもよい。
【0053】
また、図5(b)に示すように、側面構成部材10と側壁11b、12bとの接合部について、継ぎ目にアルミテープ13等を貼着させてもよい。これにより、継ぎ目を遮蔽して目開きを防止するとともに、圧延時に金属粉末が継ぎ目から抜け出すことを防止する。また、アルミテープ13が継ぎ目に貼着されていることにより、側面構成部材10と側壁11b、12bとの接合部の継ぎ目が外部に露出することがない。また、図5(c)に示すように、上蓋構成部材11と下蓋構成部材12とを直接接合させる場合には、上蓋構成部材11と下蓋構成部材12との接合部について、継ぎ目にアルミテープ13等を貼着させてもよい。なお、アルミテープ13は、必要に応じて貼着すればよいことはいうまでもない。
【0054】
また、上蓋構成部材11および下蓋構成部材12には、必ずしも縁壁11b,12bを形成する必要はなく、図5(d)に示すように、側面構成部材10の上面および下面にそれぞれ上蓋構成部材11および下蓋構成部材12を接合する構成としてもよい。この場合において、側面構成部材10と上蓋構成部材11および下蓋構成部材12との接合方法は限定されるものではなく、例えば溶接接合を行う等、適宜公知の方法により行えばよい。また、側面構成部材10の上面および下面に上蓋構成部材11および下蓋構成部材12を載置した状態で、加圧焼結することで、粉末合金圧延用ケース1の一体化を図る構成としてもよい。
【0055】
また、前記実施形態では、粉末合金圧延用ケース1の側面を、金属箔4により覆う構成としたが、例えば、完成品の側面に上蓋構成部材11や下蓋構成部材12と側面構成部材10との接合部の線が露出するのを許容する場合は、図5(e)に示すように、金属箔4を省略してもよい。また、側面構成部材10として、図5(f)に示すように、上蓋構成部材11および下蓋構成部材12の縁壁11b,12bを挿入可能な凹部10d,10dを、側面構成部材10の厚み方向略中央に形成することで、接合部が外部に露出しない構成としてもよい。
【0056】
また、側面構成部材10について、図5(g)に示すように表面を切り欠くことで波型の凹凸面10iを形成し、側面構成部材10が圧延時に圧縮されすい構成としてもよい。このように側面構成部材10に凹凸面10iを形成することで、圧延時に側面構成部材10が座屈することを防止し、アルミニウム粉末合金を所望の形状に形成することが可能となる。なお、凹凸面10iの形状は限定されるものではなく、適宜設定することが可能であるが、側面構成部材10の断面積が、凹凸面10iの切り欠き部分を含む断面積の80%程度となるのが望ましい。また、図5(g)では、側面構成部材10の外周面のみに切り欠きを形成するものとしたが、切り欠きは内周面に形成されていても、両面に形成されていてもよい。
【0057】
また、前記実施形態では、側面構成部材10を構成する部材10a,10a同士の接合部10bを、圧延方向Aと交差する面に形成するものとしたが、部材10a,10a同士の接合が強固に行われて、圧延時に目開きが生じることがない場合には、圧延方向と平行な面において接合してもよい。
【0058】
また、部材10a,10a同士の接合が強固に行われて、圧延時に目開きが生じることがない場合には、同部材10a,10a同士の接合部10bを、圧延方向Aと交差する面において幅方向の中央に配置してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の好適な実施の形態に係る粉末合金圧延用ケースの全体を示す斜視図である。
【図2】本発明の好適な実施の形態に係る粉末合金圧延用ケースを示す図であって、(a)は平断面図、(b)は縦断面図である。
【図3】本発明の好適な実施の形態に係る粉末合金圧延用ケースを示す分解斜視図である。
【図4】(a)〜(d)は、本発明の好適な実施の形態に係る粉末合金圧延用ケースの側面構成部材の接合部を示す側面図であって、(e)は(d)の平面図である。
【図5】(a)〜(g)は、本発明の好適な実施の形態に係る粉末合金圧延用ケースの側面構成部材と上蓋部材および下蓋部材との接合部を示す部分断面図である。
【図6】(a)および(c)は従来の粉末合金圧延用ケースを示す平断面図、(b)および(d)は同縦断面図である。
【符号の説明】
【0060】
1 粉末合金圧延用ケース
10 側面構成部材
10a 部材
10b 接合部
10c 突条
11 上蓋構成部材
12 下蓋構成部材
2 金属粉末
3 圧延補強材
4 金属箔
A 圧延方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の部材を組み合わせて矩形枠状に形成され、金属粉末の側面を囲う側面構成部材と、
前記側面構成部材の一方の開口部に覆設され、前記金属粉末の上面を覆う上蓋構成部材と、
前記側面構成部材の他方の開口部に覆設され、前記金属粉末の下面を覆う下蓋構成部材と、により箱型に形成された粉末合金圧延用ケースであって、
前記側面構成部材を構成する前記部材同士の接合部のすべてが、前記側面構成部材の四つの側面のうち対向する2つの側面に設けられていることを特徴とする、粉末合金圧延用ケース。
【請求項2】
前記接合部が、前記側面の幅方向の中央部からずれた位置に配置されることを特徴とする、請求項1に記載の粉末合金圧延用ケース。
【請求項3】
前記部材同士が、嵌合により結合されていることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の粉末合金圧延用ケース。
【請求項4】
複数の部材を組み合わせて矩形枠状に形成され、金属粉末の側面を囲う側面構成部材と、前記側面構成部材の一方の開口部に覆設され、前記金属粉末の上面を覆う上蓋構成部材と、前記側面構成部材の他方の開口部に覆設され、前記金属粉末の下面を覆う下蓋構成部材と、により箱型に形成された粉末合金圧延用ケースに、金属粉末を収容する工程と、
前記金属粉末が収容された粉末合金圧延用ケースを圧延する工程と、を備える圧延材の製造方法であって、
前記側面構成部材の接合部は、前記側面構成部材の四つの側面のうち対向する2つの側面に配置されていて、
前記圧延する工程において、まず、前記接合部が形成された側面と交差する方向に前記粉末合金圧延用ケースを圧延することを特徴とする、圧延材の製造方法。
【請求項5】
前記収容する工程の後であって、前記圧延する工程の前に、前記金属粉末が収容された粉末合金圧延用ケースを焼結する工程を含むことを特徴とする、請求項4に記載の圧延材の製造方法。
【請求項6】
前記接合部が形成された側面に圧延補強材が固定されていることを特徴とする、請求項4または請求項5に記載の圧延材の製造方法。
【請求項7】
前記収容する工程の後であって、前記圧延する工程の前に、前記粉末合金圧延用ケースの外側の側面を金属箔で覆う工程を備えることを特徴とする、請求項4乃至請求項6のいずれか1項に記載の圧延材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−231482(P2008−231482A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−70734(P2007−70734)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(502444733)日軽金アクト株式会社 (107)
【Fターム(参考)】