説明

粉末金属部品を接着および接合する方法

接着剤を用いて複数の粉末金属部品を接合して粉末金属部品組立体を得る方法が開示される。粉末金属部品の少なくとも一方を接着剤による接合に先立って機械加工することで、そうしない場合には困難であろうところの機械的構成部分に対してより一層容易に、低コストかつ高生産速度にて機械加工を施すことができる。高温接合技術とは異なり、前記接着剤は、粉末金属部品どうしを常温で接合させる。この常温接着接合は、ろう付けや溶接といった高温接合技術において典型的に生じる、接合の間に構成部分がその製品仕様に適合しなくなる事態を惹起しうるところの接合前に機械加工された構成部分に生じる熱的変形をなくす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の粉末金属部品を接合する方法に関するものである。特に、本発明は、ロータおよびアダプタなどの複数の粉末金属部品を、接着剤を用いて接合する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
比較的複雑な形状を有する構成部品を許容しうる費用で製造するうえで、粉末冶金(powder metallurgy)は費用効率的な方法であり、かかる粉末冶金によれば、粉末金属を圧縮して予備成形物を形成し、この予備成形物を焼結して焼結部品を形成することで、最終的に所望される構成部品に近い寸法を有する多孔質状物体を形成することができる。前記焼結部品を製品仕様上の寸法的範囲内に収めるために、機械加工(machining)や研削ないし研磨(grinding)といった二次的作業を行うことが必要になることもある。粉末冶金で利用されるニアネットシェイプ製造(near net shape fabrication)技術を用いると、かかる二次的作業を完了するための所要時間を短縮させることができ、製品として最終的に所望される形状に寸法的に非常に近い焼結部品を形成することができるので、生じるスクラップの量を最小化することもできる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、一部の複雑な部品は、粉末冶金を用いても製造が難しいような寸法的要件を有している。例えば、可変バルブタイミング機構(variable valve timing;VVT)を採用したロータは、様々な機能部分を有しておりその寸法的要件も多様であるので製造が難しい。VVTロータは、極めて平滑な平坦表面を有していなければならず(総許容誤差で15ミクロン)、この平坦表面(フラットな表面)に対して垂直にかつ外側へ延在された隣接表面を有していなければならない。部品を製造する間、前記隣接表面が存在しているためにこの平坦表面を研削することは容易ではない。かかる平坦表面を許容しうる範囲内に収めるには、複数の態様がある。
【0004】
複雑な機械加工技術を用いてこの平坦面に仕上げ加工を施すことも考えられる。しかしながら、そのような技術は非常に高価であり、しかも熟練した労働力が必要とされ、そのうえ処理に時間がかかる。さらに、この種の複雑な形状を有する部品の初期圧縮には、最先端のプレスが必要となることもあって、費用がかかるだけでなく運用・保守も難しい。
【0005】
代替的には、VVTロータを2つの別体構成部品からなるものとして製造することもできる。例えば、製品仕様に適合させるべく平坦表面を研削し、当該2つの構成部品どうしをろう付け(brazing)または溶接(welding)するなどである。しかしながら、かかるプロセスであっても、部品がろう付けまたは溶接された段階で追加的な仕上げ加工が必要となり、構成部品どうしを熱的に接合させる場合には当該構成部品に応力を生じさせ、歪みを生じさせることになり、その結果、平坦表面がその許容しうる範囲内に収まらなくなる可能性がある。
【0006】
したがって、寸法的要件をみたすのが難しい粉末金属部品を製造するための改善された方法と、かかる粉末金属部品とが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、複数の粉末金属部品どうしを接合するにあたり接着剤を使用する。複数の粉末金属部品を別々に製造しそれらを接着剤により接合させて組立体からなる部品を構成することで、当該部品を組立体としてではなく単一体として構成した場合には機械加工が困難であるような表面を機械加工する機会(延在された部位のある平坦表面を研削するなど)を、構成部品どうしを接合する前に確保することができる。さらに、粉末金属部品は、常温または常温近辺の温度で接合されるので、ろう付けや溶接とは異なり、粉末金属部品どうしを接着接合させても、接合前の寸法をその許容範囲から逸脱させてしまうような応力や熱的変形が粉末金属部品において生じることがない。
【0008】
両構成部品の接合面において接着および/またはシールを確保するとともに、当該構成部品どうしを相互的に位置決めするとともに組立体の構成部分として位置決めするために、前記接合面にリブ構造を設けることができる。
【0009】
複数の粉末金属部品どうしの接着剤による接合は、複数のタイプの任意の粉末金属組立体において用いることができる。一の特に有利な形態においては、VVTエンジン用のロータ組立体を、ここに記載した接着剤による接合を用いて形成することができる。このロータ組立体は、前記ロータにおける平坦表面とこの平坦表面から延在されたアダプタとを有している。前記ロータにおける平坦表面を研削して許容しうる範囲内に収めてから、接合工程において、ロータとアダプタとを、前記平坦表面がその許容しうる範囲を逸脱しないように、接着により接合させることができる。さらに、前記ロータおよび前記アダプタを接合させてロータ組立体を形成するので、両者の内径を回転させて、許容しうる範囲の同心性を有する単一の貫通孔を備えた仕上げ処理後のロータ組立体を製造することができる。
【0010】
本発明の前述した目的およびその他の目的ならびに利点は、以下に記載された詳細な説明において理解されるであろう。前記説明は、本発明の好ましい実施形態を示す添付の図面を参照してされるものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る組立型の2つの粉末金属部品を前側からみた展開図である。
【図2】図1に示す構成部品を後側からみた展開斜視図である。
【図3】構成部品が組立てられた状態を前側からみた斜視図である。
【図4】組立てられた構成部品を後側からみた斜視図である。
【図5】仕上げ処理されたロータ組立体を製造する工程を示したフローチャートである。
【図6】本発明を適用することができる部品の斜視図である。
【図7】本発明の適用のために複数構成部品に分解された図6に示す部品の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず図1および図2を参照すると、打ち抜き成形した(すなわち「blank」である)アダプタ10と、ロータ12とで構成されたロータ組立体14が示されており、アダプタ10とロータ12とは、互いに対して接着剤により接合されるように構成されており、ロータ組立体14に仕上げ作業を施すと仕上げ処理を施された(finished)ロータ組立体(仕上がり済みロータ組立体)が構成される。
【0013】
アダプタ10およびロータ12は、いずれも粉末冶金法を用いて形成される。典型的には、粉末金属とバインダー材料とを工具・金型一式内で一軸圧縮して、粉末金属で構成された予備成形物を形成した後、当該粉末金属で構成された予備成形物を焼結して焼結部品を形成する。なお、この成形プロセスの間に当業者に知られた他の工程を用いてもよい。例えば、以下のものに限定される趣旨ではないが、炭素含有量を下げるために焼結に先立ってバインダー材料を部分的に焼き取る、焼結部品に対する鍛造処理、鋳造処理または熱処理を施す、などである。また、複数の外側給油孔58A、内側給油孔58Bからなる孔部を説明の便宜上図1ないし図4には記載するものとしたが、かかる外側給油孔58A、内側給油孔58Bは典型的には圧縮または焼結処理の間に形成されるのではなく、典型的には焼結処理の後で、あるいは両部品を組立てた後で穴開けされると考えられる。
【0014】
図1ないし図4を参照すると、打ち抜き成形したアダプタ10の細部が図示されている。この打ち抜き成形したアダプタ10(以下、単に「アダプタ10」と表記する)は、略筒状とされたアダプタ本体18を有しており、このアダプタ本体18には、径方向内側に向いている内表面21または内径と、軸方向に延在されたアダプタ貫通孔20とが設けられている。また、アダプタ10には、ロータ12と係合される接続端部22が設けられており、この接続端部22には、径方向外側に向いている複数のアダプタ側接合面24(インタフェース表面)とそれらの間に配置された複数のリセス26とが設けられている。複数のリセス26は、アダプタ側接合面24に対して径方向にずらして設けられている。
【0015】
ロータ12の細部についても同じく図1ないし図4に図示されている。ロータ12は、第1の平坦表面30から第2の平坦表面32へ延在された略筒状の形状を有するロータ本体28を有している。第1の平坦表面30および第2の平坦表面32は、本質的に互いに平行とされかつともに回転軸A−A線に対して垂直に設けられている。また、ロータ本体28には、その径方向外側に向いている外表面34に対して所定の角度をつけて離隔するように延在された複数の歯部36が設けられている。
【0016】
ロータ本体28には、アダプタ10の接続端部22と係合する接続部分と、ロータ12およびアダプタ10を接合させて仕上げ加工を施した後で組立体貫通孔の一部分をなす部分とを有する、軸方向に延在されたアダプタ接続用貫通孔38が設けられている。そして、回転軸A−A線に対して垂直に延在された棚状部(ledge)40によって、これらの2つの部位が分離されている。棚状部40の一方側に設けられていて、アダプタ10の接続端部22と係合するように構成された、アダプタ接続用貫通孔38の部位には、径方向内側に向いている複数のロータ側接合面42(インタフェース表面)が設けられており、これらのロータ側接合面42の間には、複数のリセス44が設けられている。複数のリセス44は、複数のロータ側接合面42に対して径方向にずらして設けられている。
【0017】
棚状部40の他方側には、径方向内側に向いている内表面46が設けられており、この内表面46によってロータ貫通孔48が規定されている。このロータ貫通孔48は、ロータ12とアダプタ10とが接着剤により接合(以下、「接着接合」という)された後で、回転されて仕上げ処理を施した組立体貫通孔56の一部をなすように構成されている。
【0018】
ロータ12およびアダプタ10は、図5に概略を示した態様により接合されて、仕上げ処理前のロータ組立体14を構成するものとされており、ステップ118を経た後、仕上げ処理済みロータ組立体を構成するものとされている。仕上げ処理済みロータ組立体は、組立て後に仕上げ加工を施す表面(ボアの内径IDなど)が機械加工されるであろう点を除けば、図3および4において前記仕上げ処理前の組立体と同じような外観を呈している。
【0019】
まず、圧縮ステップ(compaction step)110において、アダプタ10およびロータ12を各別に圧縮し、続いて焼結ステップ(sintering step)112において各別に焼結して、図1および図2に分離した状態で記載した各構成部品として構成する。次に、接合前機械加工工程(pre‐joining machining step)114において、ロータ12の第1の平坦表面30および第2の平坦表面32に対して、ロータ12とアダプタ10との接合に先立って研削を施す。図示した形態においては、第1の平坦表面30および第2の平坦表面32に対して精密研削(fine grinding)およびブラシデバリング(brush deburring)を用いて仕上げ加工を施すことで、総許容誤差15ミクロン未満のものが得られる。しかしながら、他のタイプの粉末金属部品どうしを接合する場合には、接合前機械加工工程114は、当業者において周知の他のタイプの機械加工作業を含むことができる。
【0020】
さらに、接合工程(joining step)116において、ロータ12の接続部分とアダプタ10の接続端部22とを互いに接着剤により接合して、図3および図4に示すロータ組立体14を構成する。ここでは、まず、ビード状の接着剤50を、図2に示すごとくロータ12のロータ側接合面42に塗りつける。その後、アダプタ10の接続端部22を、アダプタ10が棚状部40と当接またはそれに接近するまで、ロータ12のアダプタ接続用貫通孔38の接続部分内に伸縮自在にスライド挿入させる。この挿入動作の間、接着剤50が、ロータ12の接合面42とアダプタ10の接合面24とをそれぞれ濡らし、接着剤50によってロータ12およびアダプタ10の間のシールが構成される。このシールは、仕上げ処理済みロータ組立体16における接着接合された接合面における後述する給油孔58を介しての油圧油の漏れ出しを防ぐものである。接着剤50は、常温(例えば典型的には摂氏120度以下)または常温に近い温度にて、好ましくは外部熱を加えずに、放置されて硬化させ、それにより、ロータ12をアダプタ10に接合ないし接着させる。
【0021】
接着剤50は、ビードを(ロータ12およびアダプタ10のいずれかの)接合面に塗りつける方法とは異なる他の様々な態様にて適用されることができる。また、接着剤50をロータ12のロータ側接合面42に塗りつけるのに加えてまたはそれに代えて、接着剤50を、アダプタ10の接合面24にも塗りつけてもよい。さらに、接着剤50は、複数の他の態様にて、例えば、以下に示すものに限るものではないが、接合面の上でそれをブラッシングする、あるいは接合面に噴霧するといった具合に、アダプタ側接合面24およびロータ側接合面42上に塗り拡げることができる。接着剤50は、部分的にロータ12およびアダプタ10の細孔内に進入してもよく、それにより前記2つの構成部品間の接合がより一層強化される。
【0022】
接着剤としては様々なタイプのものを用いることができる。接着剤50は、好ましくは、硬化するのに酸素への暴露を必要としない嫌気性の接着剤である。また、接着剤50は、2以上の成分を混合することで活性化するエポキシ樹脂であってもよい。しかしながら、金属とともに使用するのに適した任意の接着剤を用いて前記構成部品どうしを接合させることができる。
【0023】
特に注目すべきは、常温で硬化する(すなわち外部熱を加えなくても硬化する)接着剤50を、ロータ12とアダプタ10とを接合する手段として用いれば、第1の平坦表面30または第2の平坦表面32が許容しうる寸法的範囲から逸脱してしまうような応力の発生や熱的変形が惹起されない点である。対照的に、もしロータ12およびアダプタ10が、ろう付け、溶接または金属構成部品どうしを接合するのに用いられるその他の高温接合工程によって接合されるならば、熱的変形が生じやすく、それにより平坦表面30,32を接合前機械加工で得られた許容しうる範囲から逸脱しまうことがある。
【0024】
アダプタ10およびロータ12に、前記接合面に沿って複数の連結部を設けることも考えられる。これらの連結部は、アダプタ10側のリセス26およびロータ12側のリセス44が設けられた場所に設けられる。これらの連結部は、構成部品どうしの接着剤による接合に代替するものではなくそれを補助するためのものである。就役中のロータ組立体16が回転軸A−A周りに高度の回転ストレスに晒されると、かかる複数の連結部は、アダプタが、前記接着面に沿って前記ロータ12から乖離しようとする作用を防ぐ干渉部として機能することができる。
【0025】
図1および図2に示したような一の形態において、径方向に延在された一または複数の連結部としての畝部(ridge)および溝部(groove)の組み合わせが、前記接合面に沿って形成されており、かかる畝部と溝部とにより2つの構成部品どうしが相互に連結される。すなわち、アダプタ10には、ロータ12のリセス44の1つと密に嵌合する畝部27が設けられている。
【0026】
アダプタ10の接続端部22を伸縮自在にアダプタ接続用貫通孔38内に挿入すると、アダプタ10に設けられた畝部27が、ロータ12に設けられた相手方のリセス44内にスライド進入して、構成部品どうしを相対的回転がないように連結させる。もちろん、複数組の畝部と溝部とが、接合面に沿って設けられてもよい。さらに、第1の構成部品は、相手方溝部および畝部を有する第2の構成部品と相互連結するための複数の畝部と複数の溝部とを有してもよい。
【0027】
複数の畝部と複数の溝部とで構成された連結部を一例として説明したが、構成部品どうしを連結するのに適した他の形状の連結部であってもよい。第1の構成部品の一部分が第2の構成部品の一部分と連結されて極度の応力下における構成部品どうしの剪断作用を防ぐためのものであれば任意の形状で好適である。さらに、ある形態においては、第1の構成部品に設けられたリセスと前記第2の構成部品に設けられたリセスとの間に連結部と同じ機能を果たすようなキー部を設けてもよいであろう。
【0028】
また、アダプタ10は、複数の態様にてロータ12内に挿入することができることに留意すべきである。しかしながら、好ましい形態においては、アダプタ10とロータ12との係合部分の形状は、アダプタ10とロータ12とをぴったり拘束するのに必要な嵌合を実現することができるようなサイズを有するものであれば十分であろう。
【0029】
ロータ12とアダプタ10とが接着により接合されて仕上げ処理前のロータ組立体14が形成された後、接合後機械加工ステップ118において、仕上げ処理前のロータ組立体14に対して様々な接合後機械加工作業を施して、接着接合されたうえで接合後機械加工作業を施された組立体としての、仕上げ処理済みのロータ組立体16(図4)を形成することができる。
【0030】
図示した形態においては、これらの接合後機械加工作業には、アダプタ10の外表面(外径)を回転させて径方向外側に向いている仕上げ処理後の(ないし仕上がり済みの)アダプタ外表面57を形成する、あるいは組立体貫通孔56の内表面(内径)を回転させるなどが含まれるところ、この組立体貫通孔56は、アダプタ10のアダプタ貫通孔20とロータ12のロータ貫通孔48とで構成されるものである。これらの直径を、アダプタ10およびロータ12が接着により接合された後で回転させることで、仕上げ処理後のロータ組立体16において非常に厳格な同心性要件が実質的に保証されることになる。
【0031】
さらに、アダプタ10とロータ12との接合後、ロータ12における外側給油孔58Aとアダプタ10における内側給油孔58Bとからなる給油孔58を、仕上げ処理後のロータ組立体16の外側表面60から組立体貫通孔56まで延在する給油孔58として機械加工により設けることができる。給油孔58が接着面の領域を貫通して延在されているので、接合面にわたって接着剤50によって形成された前述したシールの存在が、オイルが仕上がり済みアダプタ52および仕上がり済みロータ54の間の接合部において漏れ出さないように確保するうえで重要となる、なんとなれば、接合面に沿ってオイルが漏れ出すのは、完成品としての仕上げ済みロータ組立体16のパフォーマンスの観点から有害であるからである。
【0032】
ロータ側接合面42には、ロータ側リブ構造70が設けられており、このロータ側リブ構造70は、ロータ側接合面42に包囲された部分に突出形成されており、互いに離隔して設けられた複数の脚部72であって、周方向に延在されたリブ基部76によってそれらの内側端部において互いに接続された当該複数の脚部72を有している。
【0033】
給油孔58は複数の脚部72の間に設けられており、ロータ12の複数の脚部72の各端部は、アダプタ10の複数の脚部78の間に嵌合し、およびアダプタ側リブ構造82におけるリブ基部80の側部に当接するように構成されている。このアダプタ側リブ構造82は、外側へ向いているアダプタ側接合面24の一部をなしかつアダプタ側接合面24の周囲部分から突出形成されている。組立てられた状態では、給油孔58は、ロータ側リブ構造70とアダプタ側リブ構造82とによって包囲され、アダプタ10におけるリブ基部80の側部に当接するロータ12の複数の脚部72が、給油孔58を四方から包囲して、リブ72の端部付近における漏出経路を遮断する。理想的には、ロータ12の複数の脚部72の側部は、アダプタ10の複数の脚部78の側部とも当接するのがよく、それにより複数の脚部72の端部付近における漏出がないように確保するべきである。
【0034】
接着剤50は、一のリセス44から次のリセス44へと、ロータ側接合面42と平坦表面30とが出合うエッジ部分に沿って延在するように塗りつけた、ロータ側接合面42上のビードとして適用されてもよい。アダプタ10がロータ12に挿入されると、アダプタ10が、ビード状の接着剤50をロータ側接合面42に沿ってロータ12の内側へと拭いとり、ここで、軸方向に延在している複数の脚部72に沿ってアダプタ側接合面24とロータ側接合面42との重なる部分が接着剤50によって、接着剤50の先端部の後側においてロータ側接合面42に沿って内側へと濡らされていく。挿入作業によって横断方向に延在されたリブ基部76が到達されると、アダプタ10がロータ12内に挿入される挿入方向に対して横方向に延在されている複数の脚部72間のリブ基部76の先端部が、さらなるロータ12の挿入に対応して接着剤50をふき取り、接着剤50が棚状部40上に到達(sag onto)することを防ぐ。これは、接着剤50をアダプタ側接合面24およびロータ側接合面42の間に保持すること、特に、複数の脚部72の間の領域に保持することを助け、そして、アダプタ側接合面24とロータ側接合面42とを接合する接着剤50の十分な量を確保することを助ける。
【0035】
ロータ側リブ構造70およびアダプタ側リブ構造82は、ロータ側接合面42およびアダプタ側接合面24の近接する部位の上にそれぞれ突出形成されており、各リブ構造70,82および各対向している接合面24,42との間の小さなクリアランス(例えば直径上で140ミクロン)に対して、小さな干渉部が創出されるようになっている(例えば直径上で90ミクロン)。リブ構造を設けることで、ロータ12およびアダプタ10の間の接合部における給油孔58の漏れ出しの可能性を小さくし、ロータ12およびアダプタ10を互いに対して径方向に位置付けるのがより一層容易となる。
【0036】
加えて、これらのリブ構造は、リブ構造によって互いに対して離隔された近接するアダプタ側接合面24およびロータ側接合面42の間の接着剤50が存在しているところの小さなクリアランスを維持する。これにより、部品が組立てられるときに接着剤50が接合面から完全にきれいにふき取られないように確保される(完全にふき取られる状態は、接合面の間にクリアランスが存在しない場合に起こりうる事態である)。また、リブ構造および対向する接合面の間にクリアランスが存在すれば、接着剤50は、それらのスペースにも充填されるであろう。また、リブ構造を設けることで、ロータ12とアダプタ10とを組立てるのに必要な挿入力が低減される。例えば、接合面どうしの間に干渉部が存在する状態で、リブ構造なければ挿入力は数千ポンドに達しうるであろうけれども、リブ構造を設ければ、挿入力は150ないし200ポンドに低減させることができる。
【0037】
前述した実施形態は、ロータ12とアダプタ10とを接合して仕上げ処理後のロータ組立体16を得ることを記載したものであるが、この方法は、第1の粉末金属部品と第2の粉末金属部品とから形成される任意の点数の粉末金属部品アセンブリを形成するためにも用いることができる。さらに、雄型/雌型接合部は、構成部品間で入れ替えてもよく、例えば、ロータ12が接合の間にアダプタ内に延在される部分を有してもよい。
【0038】
図6には、変形例100が図示されており、2つの略筒状とされた部品(すなわち一方の部品102および他方の部品104)が、それらの間に介在された小部材106を介して接合されている。この小部材106に隣接している精密表面108および精密表面110が精度を要求される表面である場合、または、もしこれらの表面の間のスペーシングが精確でなければならないならば、あるいは、一方の部品102および他方の部品104の個々の長さが、部品全体としての全長を維持すべく精確でなければならない場合には、機械加工では克服すべき課題が生じる。かかる課題は、小部材106が非円形であるとさらに深刻化する。
【0039】
このような問題を解決するために、本発明を適用することができ、部品どうしは図7に示すごとく分離される。各部品は、焼結された粉末金属で構成されており、機械加工困難な精密表面108および精密表面110は、組立体を形成するのに先立って、精密研削(fine grinding)またはラッピング(lapping)といった通常の機械加工を用いて精確に機械加工される。部品どうしは、その後、本発明にしたがって接着接合されることができ、任意の後工程的な機械加工または仕上げ加工工程を施すこともできる。
【0040】
本発明の好ましい実施形態を相当程度の詳細性をもって説明したところであるが、以上説明したところの好ましい実施形態に対して様々な変更や変形が可能であることは当業者において明らかであると思われる。したがって、本発明は、ここに記載した実施形態に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上説明したとおり、粉末金属部品の組立体を形成するために構成部品どうしを接着接合する方法を用いることで、ろう付けまたは溶接といった高温接合方法を用いて複数の粉末金属部品どうしを接合する従来の方法と比較して多くの顕著な利便性が提供される。前述した方法により製造された組立体における複数の粉末金属部品は、高温接合方法を用いて製造されたものに比べてはるかに良好な程度に接合前の形状を保持するであろう。したがって、複雑な形状を有しつつも、一体成形されるべき部位において実現するには時間がかかるおよび/または費用がかかる厳格な寸法的要件をみたすことができるような組立体を提供することができる。
【符号の説明】
【0042】
10 アダプタ
12 ロータ
14 ロータ組立体(仕上げ処理前のロータ組立体)
16 ロータ組立体(仕上げ処理済みロータ組立体)
18 アダプタ本体
20 アダプタ貫通孔
21 内表面(内径)
22 接続端部
24 アダプタ側接合面(インタフェース表面)
26 リセス
27 畝部
28 ロータ本体
30 第1の平坦表面
32 第2の平坦表面
34 外表面
36 複数の歯部
38 アダプタ接続用貫通孔
40 棚状部
42 ロータ側接合面(インタフェース表面)
44 複数のリセス
46 内表面
48 ロータ貫通孔
50 接着剤
52 仕上がり済みアダプタ
54 仕上がり済みロータ
56 組立体貫通孔
57 アダプタ外表面
58 給油孔
58A 外側給油孔
58B 内側給油孔
60 外側表面
70 ロータ側リブ構造
72 脚部
76 リブ基部
80 リブ基部
82 アダプタ側リブ構造
102 一方の部品
104 他方の部品
106 小部材
108 精密表面
110 精密表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の粉末金属部品と、前記第1の粉末金属部品に接合された第2の粉末金属部品とで構成された粉末金属部品組立体において、
(イ)前記第1の粉末金属部品および前記第2の粉末金属部品には、該第1の粉末金属部品と該第2の粉末金属部品との接合部をなす接合面がそれぞれ設けられ、
(ロ)前記第1の粉末金属部品および前記第2の粉末金属部品の少なくともいずれか一方には、該第1の粉末金属部品の接合面および該第2の粉末金属部品の接合面に隣接した少なくとも1つの表面が設けられ、
(ハ)前記少なくとも1つの表面が、前記第1の粉末金属部品と前記第2の粉末金属部品とが接合されるのに先立って機械加工を施された該表面とされ、かつ、
(ニ)前記第1の粉末金属部品の接合面と前記第2の粉末金属部品の接合面とが、接着剤によって互いに接合されている
ことを特徴とする粉末金属部品組立体。
【請求項2】
前記第1の粉末金属部品がアダプタで構成され、前記第2の粉末金属部品が研削された平坦面を有するロータで構成され、かつ、前記粉末金属部品組立体が、VVTエンジン用ロータ組立体で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の粉末金属部品組立体。
【請求項3】
前記粉末金属部品組立体には、その軸方向に延在されていて、仕上げ処理を施された、貫通孔が設けられ、かつ、前記貫通孔が、前記アダプタと前記ロータとを前記接着剤によって接合させた後に該貫通孔となるように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の粉末金属部品組立体。
【請求項4】
前記第1の構成部品および前記第2の構成部品には、それぞれ、前記複数の接合面に隣接して、径方向に延在された少なくとも1つの連結部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の粉末金属部品組立体。
【請求項5】
前記接着剤が、外部熱を加えなくても硬化する接着剤で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の粉末金属部品組立体。
【請求項6】
前記接着剤が、前記第1の粉末金属部品と前記第2の粉末金属部品との間におけるシールをなしていることを特徴とする請求項1に記載の粉末金属部品組立体。
【請求項7】
前記複数の接合面の少なくとも一方には、該少なくとも一方の接合面から突出されたリブ構造が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の粉末金属部品組立体。
【請求項8】
前記複数の接合面には、それぞれ、該複数の接合面から突出されたリブ構造が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の粉末金属部品組立体。
【請求項9】
前記複数のリブ構造が、前記第1の粉末金属部品と前記第2の粉末金属部品とが組立てられた状態において互いに干渉しあうように構成されていることを特徴とする請求項8に記載の粉末金属部品組立体。
【請求項10】
前記複数の接合面には、該複数の接合面を貫通して給油孔が延在され、かつ、前記給油孔が、前記複数の接合面の少なくとも一方から突出された前記少なくとも1つのリブ構造によって少なくとも部分的にシールされていることを特徴とする請求項1に記載の粉末金属部品組立体。
【請求項11】
前記複数の接合面の少なくとも一方には、リブ構造が設けられ、前記リブ構造が、前記第1の粉末金属部品および前記第2の粉末金属部品の少なくともいずれか一方をその他方に対して挿入する挿入方向に対して横断方向に延在され、かつ、前記リブ構造には、前記接着剤を前記複数の接合面どうしの間に維持するための横断方向エッジが設けられていることを特徴とする請求項1に記載の粉末金属部品組立体。
【請求項12】
共通の回転軸を有する仕上がり済みロータと仕上がり済みアダプタとからなる組立体で構成された、VVTエンジン用の粉末金属ロータにおいて、
(イ)前記仕上がり済みロータと前記仕上がり済みアダプタとが、粉末金属材料で構成され、
(ロ)前記仕上がり済みロータには、互いに平行に延在されかつ前記回転軸に対して垂直に延在された、一対の機械加工を施された表面が設けられ、かつ、
(ハ)前記仕上がり済みロータと前記仕上がり済みアダプタとが、該仕上がり済みアダプタの接合面とこの接合面に対向している該仕上がり済みロータの接合面との間に設けられた接着剤によって、該複数の接合面によって規定された接合部を介して、互いに接合されている
ことを特徴とする粉末金属ロータ。
【請求項13】
前記仕上がり済みロータと前記仕上がり済みアダプタとの間の接合部が、前記仕上がり済みロータの前記一対の機械加工を施された表面に対して垂直方向に延在されていることを特徴とする請求項12に記載の粉末金属ロータ組立体。
【請求項14】
前記仕上がり済みロータおよび前記仕上がり済みアダプタには、それぞれ、前記接合部の近くに設けられかつ前記粉末金属ロータ組立体の径方向に延在された少なくとも1つの連結部が設けられていることを特徴とする請求項13に記載の粉末金属ロータ組立体。
【請求項15】
(イ)前記接着剤が前記複数の接合面どうしを濡らすことで、該接着剤によって前記仕上がり済みロータと前記仕上がり済みアダプタとの間のシールが構成され、(ロ)前記シールには、該シールを貫通して延在された給油孔が設けられ、かつ、(ハ)前記シールが、前記粉末金属ロータ組立体内の油圧油が前記給油孔を介して漏れ出すことを防ぐように設けられていることを特徴とする請求項12に記載の前記粉末金属ロータ組立体。
【請求項16】
前記複数の接合面の少なくとも一方には、該接合面から突出されたリブ構造が設けられていることを特徴とする請求項12に記載の粉末金属部品組立体。
【請求項17】
前記複数の接合面が、該複数の接合面から突出されたリブ構造をそれぞれ有していることを特徴とする請求項12に記載の粉末金属部品組立体。
【請求項18】
前記複数のリブ構造が、前記仕上がり済みロータと前記仕上がり済みアダプタとが組立てられた状態において互いに干渉しあうように構成されていることを特徴とする請求項17に記載の粉末金属部品組立体。
【請求項19】
前記複数の接合面には、該複数の接合面を貫通して延在された給油孔が設けられ、かつ、前記給油孔が、前記複数の接合面の少なくとも一方から突出された少なくとも1つのリブ構造によって少なくとも部分的にシールされていることを特徴とする請求項12に記載の粉末金属部品組立体。
【請求項20】
前記複数の接合面の少なくとも一方には、リブ構造が設けられ、前記リブ構造が、前記一方の接合面をその他方に対して挿入する挿入方向に対して横断方向に延在され、かつ、前記リブ構造には、前記接着剤を前記複数の接合面どうしの間に維持するための横断方向エッジが設けられていることを特徴とする請求項12に記載の粉末金属部品組立体。
【請求項21】
(a)第1の粉末金属予備成形物と第2の粉末金属予備成形物とをそれぞれ圧縮する工程と、
(b)前記第1の粉末金属予備成形物を焼結して第1の粉末金属部品を成形するとともに前記第2の粉末金属予備成形物を焼結して第2の粉末金属部品を成形する工程と、
(c)前記第1の粉末金属部品および前記第2の粉末金属部品の少なくともいずれか一方における少なくとも1つの表面に対して機械加工を施す工程と、
(d)前記第1の粉末金属部品と前記第2の粉末金属部品とを、接着剤を用いて接合部に沿って互いに接合して粉末金属部品組立体を構成する工程と、
を有する複数の粉末金属部品を接合する方法であって、
前記機械加工を施した少なくとも1つの表面を、前記第1の粉末金属部品と前記第2の粉末金属部品とを接合する前記接着剤を有する前記接合部に近接して設ける
ことを特徴とする複数の粉末金属部品を接合する方法。
【請求項22】
(イ)前記第1の粉末金属部品をロータとして構成し、前記第2の粉末金属部品を打ち抜き成形したアダプタとして構成し、(ロ)前記第1の粉末金属部品および前記第2の粉末金属部品の一方の少なくとも1つの表面に対して機械加工を施す(c)工程において、前記ロータの研削された平坦表面を研削して仕上がり済みロータを形成し、かつ、(ハ)前記接着剤によって、前記仕上がり済みロータと前記打ち抜き成形したアダプタとの間のシールを構成する
ことを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記第1の粉末金属部品と前記第2の粉末金属部品とを接合する(d)工程に続いて、前記打ち抜き成形したアダプタの内径と外径とを回転させて、前記仕上がり済みロータに接着剤で接合させた仕上がり済みアダプタを形成することを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記仕上がり済みアダプタと前記仕上がり済みロータとが、共通の回転軸を有していることを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記仕上がり済みアダプタと前記仕上がり済みロータとに、それぞれ、前記接合部の近くに、回転応力が作用する状態における前記粉末金属部品組立体の強度を増大させる連結部を設ける
ことを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記第1の粉末金属部品と前記第2の粉末金属部品とを接合する(d)工程を、外部熱を加えずに行うことを特徴とする請求項21に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−526189(P2012−526189A)
【公表日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−508453(P2012−508453)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【国際出願番号】PCT/US2009/046423
【国際公開番号】WO2010/128976
【国際公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(507341356)ジーケーエヌ シンター メタルズ、エル・エル・シー (20)
【Fターム(参考)】