説明

粒子線照射システムおよびその制御方法

【課題】スポット照射中における異常発生時のビーム出射処理を適切に行うことにより、荷電粒子ビームを用いた治療における実照射線量の検出および評価を正確に行うことができる粒子線照システムおよびその制御方法を提供する。
【解決手段】シンクロトロン12と、走査電磁石5A,5Bを有し、シンクロトロン12から出射されたイオンビームを走査するスキャニング照射装置15と、シンクロトロン12からのイオンビームの出射をビーム出射停止指令に基づいて停止させ、この状態で走査電磁石5A,5Bを制御することによりイオンビームの照射位置を変更させ、この変更後にシンクロトロン12からのイオンビームの出射を開始させる。ビームの照射中に、照射継続可能な比較的軽度な異常が発生した場合に、直ちにビーム出射を停止せず、その時点での照射位置に対する照射が目標線量値に到達した時点で、ビーム出射を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粒子線照射システムおよびその制御方法に係り、特に、陽子および炭素イオン等の荷電粒子ビームを患部に照射して治療する粒子線照射システムおよびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌などの患者の患部に陽子および炭素イオン等のいずれかの荷電粒子ビーム(イオンビーム)を照射する治療方法が知られている。この治療に用いる粒子線照射システムは、荷電粒子ビーム発生装置,ビーム輸送系、および照射装置を備えている。
【0003】
照射装置の照射方式としては、散乱体によってビームを広げた後に患部形状に合わせて切り出す散乱体方式や、細かいビームを患部領域内に走査させるスキャニング方式が知られている。
【0004】
スキャニング方式を用いた粒子線照射システムにおいて、荷電粒子ビーム発生装置の加速器で加速された荷電粒子ビームは、ビーム輸送系を経て照射装置に達し、照射装置に備えられた走査用電磁石で走査された後、照射装置から患者の患部に照射される。
【0005】
この方式では、照射対象への積算照射量に対応して、荷電粒子ビームの出力を停止させ、荷電粒子ビームの出力を停止した状態で、エネルギーおよび、走査電磁石を制御することにより荷電粒子ビームの照射位置(スポット)を変更し、この変更完了後に前記出射装置からの荷電粒子ビームの出力を再開させることで、順次、照射位置を切替えながら照射対象(患部)に対して照射が行われる(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特許3681744号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の粒子線治療システムにおいて、健全な細胞への被爆を極力防止し過不足ない正しい照射治療を行うために、照射装置には、電磁石の下流側でかつ照射対象である患者の直前に、照射位置への荷電粒子ビームの照射量を計測する照射量検出装置として、ビーム位置モニタおよび照射線量モニタが設置されている。
【0008】
ビーム位置モニタは、一般に、ビームの通過によって電離した電荷量をコンデンサに蓄積し、スポット照射後にコンデンサに誘起された電圧を読み出す方式であることが多く、コンデンサの容量は、想定される照射線量の中で最も値の多いスポットでの電離電荷量を許容できるよう決められる。また、上記方式での分解能は、コンデンサの容量が小さいほど分解能が高くなり、大きくなるほど分解能が低くなる。
【0009】
スキャニング方式の粒子線照射システムにおいては、照射対象をいくつかのスポット(照射位置)に分割することや、分割照射をするための照射回数と1回当たりの照射量を事前に設定し、1つのスポットに対する照射を複数回に分割して行うことで、各スポットに対する1回の照射量(照射時間)を小さくし、ばらつきを抑え、より正確に実際の照射線量の検出および評価(線量分布等の評価)を行うことができるよう工夫がされている。
【0010】
一方で、粒子線照射システムにおける全体の制御システムは、設備および構成機器の異常や加速器内のビーム状態等を監視し、発生した要因の種類やそのレベルにより、あるスポットへの照射途中であっても、照射を中止または中断するためのインターロックを設けている。また、手動操作(ボタン操作等)により中断または、中止操作を行うことが可能である。
【0011】
従って、あるスポットに対する照射中に、異常発生により、照射が途中で中止・中断された場合、発生タイミングによっては、そのスポットに対する照射量(照射時間)は、予定量に対し、微小な値となることが考えられ、上述した位置モニタの特質や、バックグラウンドノイズ等の影響も考慮すると、照射位置を正確に検出することは困難となり、その結果、照射線量モニタを含めた照射位置検出装置として、その照射位置での実照射量の正確な検出が困難となり、その評価(線量分布等の評価)を正確に行うことも困難となる。また、この場合、異常発生により、1つのスポットに対する照射が予定照射量よりも少ない量で複数回に分割して行われることとなり、そのスポットに対する実照射量の正確な検出・評価がさらに困難となるだけでなく、システム全体を考えた場合に、システムの効率的な運転を妨げる一因となる。
【0012】
本発明の目的は、スポット照射中における異常発生時のビーム出射処理を適切に行うことにより、荷電粒子ビームを用いた治療における実照射線量の検出および評価を正確に行うことができる粒子線照システムおよびその制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した目的を達成するための本発明の特徴は、あるスポットに対する照射中に、(照射継続可能な)比較的軽度な異常が発生した場合に、荷電粒子ビームの出射(照射)を直ちに停止させず、そのスポットに対する照射線量が目標線量値に達するのを待ってから停止させることにある。
【0014】
これによりあるスポット対する照射中に異常が発生した場合でも、そのスポットに対する照射を継続するため、1つのスポットに対する照射を途中の段階で2回以上の複数回に分割することなく、確実に1回の照射で行うことが可能で、予定照射量(照射時間)に対し、実照射量が微小になることがなく、通常のスポット照射時と同等に、正確な実照射線量の検出および評価(線量分布等の評価)を行うことができる。
【0015】
ただし、本発明は、異常発生時においても、発生した要因の種類、レベルにより、照射継続を可能とするものであり、患者ならびに操作者の安全の観点から、照射継続可能な要因の種類、レベルの選定が非常に重要となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、あるスポットへの照射中に比較的軽度な異常が発生した場合に、照射を継続し、スポットに対する照射を1回の照射で確実に行うことで、スポット毎の実照射線量の検出および評価(線量分布等の評価)をより正確に行うことが可能である。
【0017】
また、1つのスポットに対する照射が、途中の段階で複数回に分割されることを抑制することは、治療時間の短縮等につながり、システムの効率な運用の面においても有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施の形態である粒子線照射システムについて、図面を用いて詳細に説明する。
【0019】
図1は、本実施の形態の粒子線照射システムである陽子線照射システムの概略図であり、図2は、本実施の形態の粒子線照射システムを構成するスキャニング照射装置の概略図である。
【0020】
図1において、粒子線治療システムは、治療室内の治療ベッドに固定された患者の患部に荷電粒子ビーム(例えば陽子線)を照射して治療を施すものであり、荷電粒子ビーム発生装置1と、荷電粒子ビーム発生装置1の下流側に接続されたビーム輸送系4と、この輸送系4に接続され、荷電粒子を患者の患部に照射するスキャニング照射装置15と、これら荷電粒子ビーム発生装置、ビーム輸送系、およびスキャニング照射装置15を治療計画に基づいて制御する制御システム90を備えている。
【0021】
荷電粒子ビーム発生装置1は、イオン源(図示せず)、前段荷電粒子ビーム発生装置(ライナック)11およびシンクロトロン(加速器)12を有する。シンクロトロン12は、高周波印加装置9および加速装置10を有する。高周波印加装置9は、シンクロトロン12の周回軌道に配置された高周波印加電極93と高周波電源91とを開閉スイッチ92にて接続して構成される。
【0022】
加速装置(荷電粒子ビームエネルギー変更装置)10は、その周回軌道に配置された高周波加速空胴(図示せず)、および高周波加速空胴に高周波電力を印加する高周波電源(図示せず)を備える。
【0023】
イオン源で発生したイオン(例えば、陽子イオン(または炭素イオン))は前段荷電粒子ビーム発生装置11(例えば直線荷電粒子ビーム発生装置)で加速される。
【0024】
前段荷電粒子ビーム発生装置11から出射されたイオンビーム(陽子ビーム)はシンクロトロン12に入射される。
【0025】
荷電粒子ビーム(粒子線)であるそのイオンビームは、シンクロトロン12で、高周波電源から高周波加速空胴を経てイオンビームに印加される高周波電力によってエネルギーを与えられて加速される。
【0026】
シンクロトロン12内を周回するイオンビームのエネルギーが設定されたエネルギー(例えば100〜200MeV)までに高められた後、高周波電源91からの出射用の高周波が、閉じられた開閉スイッチ92を経て高周波印加電極93に達し、高周波印加電極93よりイオンビームに印加される。
【0027】
安定限界内で周回しているイオンビームは、この高周波の印加によって安定限界外に移行し、出射用デフレクタ8を通ってシンクロトロン12から出射される。イオンビームの出射の際には、シンクロトロン12に設けられた四極電磁石13および偏向電磁石14に導かれる電流が電流設定値に保持され、安定限界もほぼ一定に保持されている。
【0028】
開閉スイッチ92を開いて高周波印加電極93への高周波電力の印加を停止することによって、シンクロトロン12からのイオンビームの出射が停止される。
【0029】
シンクロトロン12から出射されたイオンビームは、ビーム輸送系4より下流側へ輸送される。ビーム輸送系4は、四極電磁石18および偏向電磁石17と、治療室内に配置されたスキャニング照射装置15に連絡されるビーム経路62にビーム進行方向上流側より配置された四極電磁石21、四極電磁石22、偏向電磁石23、偏向電磁石24とを備える。ビーム輸送系4へ導入されたイオンビームは、ビーム経路62を通ってスキャニング照射装置15へと輸送される。
【0030】
治療室の内部には回転ガントリー(図示せず)が設置され、スキャニング照射装置15は、ビーム輸送系の一部とともに、この回転ガントリー(図示せず)の略筒状の回転胴(図示せず)に設置されている。回転胴はモータ(図示せず)により回転可能であり、回転胴内には治療ゲージ(図示せず)が形成される。
【0031】
スキャニング照射装置15のケーシング(図示せず)内には、ビーム進行方向(図1および図2中下方向、図2中Z方向)上流側から、ビームの入射位置を検出する入射位置モニタ(図示せず)、ビームを走査するための走査電磁石5A,5B、およびビーム走査位置を検出するビーム位置モニタ6A、ビーム走査位置での照射線量を検出する線量モニタ6B等が設置される。
【0032】
走査電磁石5A,5Bは、例えばビーム軸と垂直な平面上において互いに直交する方向(X方向,Y方向)にビームを偏向し照射位置をX方向およびY方向に動かすためのものである。
【0033】
図2に示すように、これらの走査電磁石5A,5Bは、走査電磁石電源7A,7Bに接続されており、この走査電磁石電源7A,7Bから走査電磁石5A,5Bへの供給電流を制御する電源制御装置42が設けられている。電源制御装置42は、スキャニング照射制御装置15からの制御信号に応じて走査電磁石5A,5Bへの供給電流を制御し、走査電磁石5A,5Bの励磁磁場をそれぞれ制御する。このように制御された走査電磁石5A,5Bの励磁磁場により、それぞれ荷電粒子ビームを偏向するようになっている。
【0034】
ビーム位置モニタ6Aは、走査電磁石5A,5Bによるビーム走査位置が制御位置(設定値)にあるかどうかを検出するものであり、その検出信号が走査位置計測装置11Aに出力されてビーム走査位置が演算され、その演算データがスキャニング照射制御装置15に出力されるようになっている。
【0035】
線量モニタ6Bは、ビーム位置モニタ6Aにより検出されたビーム走査位置における照射線量を検出するものであり、その検出信号が線量計測装置11Bに出力されて線量値が演算され、その演算データがスキャニング照射制御装置15に出力されるようになっている。
【0036】
ビーム位置モニタ6Aおよび線量モニタ6Bはそのときの照射位置への荷電粒子ビームの照射量を計測し、照射線量分布を測定する照射量検出装置を構成する。
【0037】
図1に戻り、治療用ベッド29は、スキャニング照射装置15からイオンビームを照射する前に、ベッド駆動装置(図示せず)によって移動され上記治療ゲージ内に挿入されるとともに、スキャニング照射装置15に対する照射にあたっての位置決めが行われる。回転胴はガントリーコントローラ(図示せず)によってモータの回転を制御することによって回転され、スキャニング照射装置15のビーム軸が患者30の患部を向くようになる。
【0038】
ビーム経路62を経て逆U字状のビーム輸送装置からスキャニング照射装置15内へ導入されたイオンビームは、走査電磁石(荷電粒子ビーム走査装置)5A,5Bによって順次照射位置を走査され、患者30の患部(例えば癌や腫瘍の発生部位)に照射される。照射されたイオンビームは、患部においてそのエネルギーを放出し、高線量領域を形成する。
【0039】
次に、本実施の形態の粒子線照射システムが備えている制御システム90を、図1および図2を用いて説明する。
【0040】
制御システム90は、治療計画装置140で作成した治療計画データを格納するデータベース110と、荷電子粒子ビーム発生装置1およびビーム輸送系4を制御する加速器・輸送系コントローラ40(以下、加速器コントローラ40という)、スキャニング照射装置15を制御するスキャニング照射制御装置41(以下、スキャニングコントローラ41という)と、データベース110から読み込んだ治療計画データに基づき、加速器コントローラ40およびスキャニングコントローラ41をそれぞれ制御する中央制御装置100とを有する。
【0041】
データベースに記憶されている患者毎の上記治療計画情報(患者情報)は、特に図示を行わないが、患者IDナンバー、照射量(一回当たり)、照射エネルギー、照射方向、照射位置等のデータを含んでいる。
【0042】
中央制御装置100は、例えばキーボードやマウス等の入力装置から入力された患者識別情報に応じて、データベース110から、これから治療を行う患者30に関する上記の治療計画情報を読み込む。この患者別治療計画情報内の照射エネルギー値によって、既に述べた各電磁石への励磁電力供給の制御パターンが決定する。
【0043】
中央制御装置100内のメモリには、予め電力供給制御テーブルが記憶されており、照射エネルギーの各種の値(70,80,90,…[Mev]等)に応じて、シンクロトロン12を含む荷電粒子ビーム発生装置1における四極電磁石13および偏向電磁石14、ビーム輸送系4の四極電磁石18、偏向電磁石17、四極電磁石21,22、偏向電磁石23,24に対する供給励磁電力値またはそのパターンが予め設定されている。
【0044】
また、中央制御装置100内のCPUでは、上記治療計画情報と上記電力供給制御テーブルとを用いて、これから治療を受けようとする患者に関する荷電粒子ビーム発生装置1や各ビーム経路に配置された電磁石を制御するための制御指令データ(制御指令情報)が作成される。このようにして作成された制御指令データは、スキャニングコントローラ41および加速器コントローラ40へ出力される。
【0045】
本実施の形態の陽子線照射システムでは、治療計画装置140により作成した治療計画情報に基づき、中央制御装置100、スキャニングコントローラ41、加速器コントローラ40が互いに連携して制御を行う。これらの制御について説明する。
【0046】
まず、標的の深さとイオンビーム(荷電粒子ビーム)のエネルギーとの関係を説明する。標的は、患部を含むイオンビームの照射対象領域であり、患部よりもいくらか大きくなる。図3に体内の深さとイオンビームによる線量の関係の例を示す。荷電粒子ビームは、エネルギーを失って止まる際に周囲に極めて大きなエネルギーを付与するため、その到達深度で線量ピークを有する。この線量のピークをブラッグピークと呼ぶ。
【0047】
標的へのイオンビームの照射はブラッグピークの位置で行われる。ブラッグピークの位置は、イオンビームのエネルギーにより変化する。従って、標的を深さ方向(体内でのイオンビームの進行方向)において複数の層(スライス)に分割し、イオンビームのエネルギーを深さ(各層)に応じて変えることによって、深さ方向に厚みを持つ標的(標的領域)の全域に一様にイオンビームを照射することができる。治療計画装置140は、このような観点に基づき、標的領域を深さ方向に分割する層の数を決定する。
【0048】
図4は、上記のようにして決定した層の一例を表す図である。この例では、患部が最下層より患者30の体表面に向かって層1,2,3,4の4つの層に分割されている。各層はX方向に20cmY方向に10cmの広がりをもっている例である。図3の線量分布は、図4のA−A′断面での深さ方向の線量分布である。
【0049】
以上のようにして、層数が決定した後、治療計画装置140は、各層(標的断面)内で深さ方向と直角方向に分割するスポット(照射位置)数を決定する。更に、1つのスポットを分割照射する場合は、全てのスポットにおいて、各スポットに対する照射線量のばらつきをある範囲内におさえ、標的全域で線量分布がほぼ一様となるよう、各スポットでの照射回数と1回当たりの照射量(目標照射量)が決定する。分割照射の概念は特許文献1(特許3681744号公報)に詳しい。
【0050】
上記のようにして計画され、データベース110に格納された治療計画情報を、中央制御装置100が読み出しメモリに格納する。中央制御装置100のCPUは、メモリに格納した治療計画情報に基づき、イオンビームの照射に関する情報(層数、照射位置の数(スポットの数)、各層内での照射位置、各照射位置での目標照射量(設定照射量)、および各層の全スポットに関する走査電磁石5A,5Bの電流値等の情報)を生成し、スキャニングコントローラ41(第1制御装置)へ送信する。
【0051】
送信される治療計画情報の一部を図5に示す。層内の各照射位置に対する、照射位置(スポット)のX方向位置(X位置)およびY方向位置(Y位置)の情報、および各照射位置での目標照射量(設定線量)、更に層変更フラグ情報が含まれ、照射する順番にスポット番号が割り付けられる。本実施例では、体表面から一番深い層から順に照射が行なわれる。なお、各照射位置での目標照射量(設定線量)は、患部への最初の照射開始を起点とする積算照射量(積算線量)としており、中央制御装置100は、各照射位置に対して設定された個々の照射量を順次積算することによって、スキャニングコントローラ41へ送信する目標照射量の情報を生成している。スキャニングコントローラ41は、これらの治療計画情報をメモリに記憶する。
【0052】
なお、図5は分割照射をしない場合の例であり、分割照射をする場合は、更に、分割照射の回数だけ、照射位置(スポット)のX方向位置(X位置)およびY方向位置(Y位置)および各照射位置での目標照射量(設定線量)の情報が必要であり、図5の治療計画情報にはそれらの情報も含まれる。
【0053】
更に、中央制御装置100のCPUは、治療計画情報の内、全ての層に関するシンクロトロン12の加速パラメータの全てを、加速器コントローラ40に送信する。ここで送信されるこれらの加速パラメータのデータは、予め複数の加速パターンに分類されている。
【0054】
次に、本実施の形態においてスポットスキャニング照射を行う際の中央制御装置100、スキャニングコントローラ41および加速器コントローラ40の各制御を、図6を用いて説明する。図6は、それらの各制御を実行する制御フローの一例を示したものである。
【0055】
まず、治療室内にある照射開始指示装置(図示なし)が操作されると、それに応じ、中央制御装置100は、ステップ201にて、層番号を表す演算iおよびスポット番号を表す演算子jを1に初期設定し、それらを加速器コントローラ40に出力する。
【0056】
加速器コントローラ40は、それに応じて初期設定を行い、初期設定完了後に、ステップ202にて、メモリに格納した複数パターンの加速パラメータの中から、i番目の層(この時点では、i=1)に対する加速器パラメータを読み出し設定する。
【0057】
ステップ203にて、これら設定パラメータをシンクロトロン12およびビーム輸送系4に出力し、各電磁石電源が設定された所定の電流で励磁されるよう電源を制御し、また、高周波加速空胴に高周波電力を印加する高周波電源を制御して、その高周波電力と周波数を所定の値まで増加させる。
【0058】
以上により、シンクロトロン12内を周回するイオンビームのエネルギーが治療計画で定められた値まで増大された時点で、加速器コントローラ40は、ステップ204に移行し、中央制御装置100を経由して、スキャニングコントローラに対し、出射準備指令を出力する。
【0059】
この出射準備指令を受けて、スキャニングコントローラ41(第1制御装置)は、ステップ205にて、メモリに格納した電流値データ(図5の「X位置」、「Y位置」の欄に示されたデータ)および目標照射量データ(図5の「目標照射量」の欄に示されたデータ)から、j番目のスポット(この時点ではj=1)の電流値データおよび目標照射量データを読み出して設定する。ここで、スキャニングコントローラ41は、走査電磁石5A,5Bがj番目スポットの電流値で励磁されるように該当する電源を制御する。
【0060】
以上により、当該スポットへの照射準備が完了した後、スキャニングコントローラ41は、ステップ206にて、中央制御装置100を経由し、加速器コントローラ40(第3制御装置)に対してビーム出射開始信号を出力する。
【0061】
これにより、加速器コントローラ40は、ステップ207にて、高周波印加装置9を制御してシンクロトロン12からイオンビームを出射させる。すなわち、加速器コントローラ40からのビーム出射開始信号によって、開閉スイッチ92が閉じられ、高周波が高周波印加電極93よりイオンビームに印加されるため、イオンビームがシンクロトロン12から出射される。
【0062】
走査電磁石5A,5Bはj番目のスポットの位置にイオンビームが達するように励磁されているため、そのイオンビームは、ステップ208にて、スキャニング照射装置15より該当する層のj番目のスポットに照射される。
【0063】
j番目のスポット(照射位置)はビーム位置モニタ6Aにより検出され、走査位置計測装置11Aにてビーム走査位置が演算され、j番目のスポットへの照射線量は、線量モニタ6Bにより検出され、線量計測装置11Bにて線量値が演算され、それらの演算結果がスキャニングコントローラ41に入力される。
【0064】
スキャニングコントローラ41は、ステップ209にて、設定された目標照射量と入力された演算結果を比較し、j番目のスポットへの照射線量が目標照射量に達した時点で、ステップ210に移行し、中央制御装置100を経由し、加速器コントローラ40に対して、ビーム出射停止指令を出力する。
【0065】
これにより、ステップ211にて、加速器コントローラ40を通過して開閉スイッチ92が開き、イオンビームの出射が停止される。
【0066】
以上により、最初のスポットに対する照射が終了すると、ステップ212にて層内最終スポットかどうかの判定が行われ、判定が「No」であるため、ステップ213に移り、スポット番号に1が加えられる(すなわち、照射位置が次のスポットに移動される)。
【0067】
そして、ステップ205〜213の処理が繰り返し行われる。すなわち、1番目の層の全スポットへの照射が終了するまで、走査電磁石5A,5Bにより、イオンビームを隣接するスポットへと次々に移動させながら(移動中はイオンビームの照射を停止させつつ)、イオンビームの照射が行われる(スポットスキャニング照射)。
【0068】
1番目の層の全スポットに対する照射か終了すると、ステップ212にて、判定が「Yes」となり、スキャニングコントローラ41は、中央制御装置100を経由し、加速器コントローラ40に対し、層変更指令を出力する。
【0069】
なお、分割照射を行う場合は、ステップ212にて層変更指令を出力する前に、次の処理が行われる。すなわち、スポット番号を表す演算子jを1に初期設定し、分割照射の照射回数を表す演算子nが予め設定された分割数に達したかどうかを判定し、判定が「No」である場合は、照射回数番号nに1が加えられ(すなわち、分割照射が次の照射回数に変更され)、ステップ205〜213の処理が繰り返し行われ、分割照射の照射回数番号nが予め設定された分割数に達した時点で、ステップ212にて、加速器コントローラ40に対し層変更指令を出力する。
【0070】
スキャニングコントローラ41から層変更指令が出力されると、それを受け、加速器コントローラ40は、ステップ214にて、層番号iに1を加え(すなわち、照射位置が2番目の層に変更される。)、ステップ215にて、シンクロトロン12へビーム減速指令を出力する。
【0071】
加速器コントローラ40は、ビーム減速指令の出力により、シンクロトロン12の各電磁石の電源を制御して各電磁石の励磁電流を徐々に低減させ、最後には予め決められた値、例えば、次のイオンビーム入射に適した励磁電流にする。これにより、シンクロトロン12内を周回するイオンビームが減速される。
【0072】
この時点では、1番目の層に対する照射が終了しただけであり、ステップ216の判定が「No」であるため、ステップ202に戻り、2番目の層に対して、ステップ203〜215の処理が繰り返し行われる。
【0073】
同様に、全ての層に対して、ステップ202〜215の処理が実行された後、ステップ216の判定が「Yes」となり、患者30の患部における全層内の全スポットへの所定の照射が完了する。これにより、加速器コントローラ40は、ステップ217にて、中央制御装置100にCPUに対し照射終了信号を出力する。
【0074】
以上により、患者30の患部に対する一連の照射処理が終了となる。
【0075】
次に、本実施の形態において特徴をなす制御処理(ビーム打ち切り処理)について説明する。
【0076】
本実施の形態における制御システム90は、設備および構成機器の異常や加速器内のビーム状態等を監視し、発生した要因の種類やそのレベルにより、あるスポットへの照射途中であっても、照射を中止または中断するためのインターロックを設けている。
【0077】
また、治療室内に設けられた照射中止指示装置(図示なし)、または照射中断指示装置(図示なし)により操作者の判断により手動で照射中止または、照射中断が可能な構成となっている。
【0078】
この中でも、本実施の形態は、あるスポットへの照射途中に照射中断要因が発生した場合のイオンビームの出射停止方法に着目したものであり、以下、それについて、図6、図7、図8を用いて説明する。
【0079】
なお、設備および構成機器の異常や加速器内のビーム状態等による照射中止・中断要因の内、本発明の制御処理が扱う要因は照射中断要因であって、照射継続可能な比較的軽度な要因に限られる。
【0080】
図7は、従来システムにおいて、あるスポットに対する照射中に照射中断要因が発生した場合の、制御フローを示したものである。
【0081】
従来のシステムでは、あるスポットに対する照射中に照射中断要因が発生した場合、中央処理装置100はその照射中断要因が発生したことを知らせる指令を受けて、ステップ301にて、直ちに、加速器コントローラ40およびスキャニングコントローラ41に対し、ビーム出射(照射)停止指令を出力する。これを受け、スキャニングコントローラ41および加速器コントローラ40は、直ちに、ステップ302にて、その時点でのj番目のスポットに対する照射を停止し、ステップ303にて、シンクロトロン12からのビーム出射を停止させ、ステップ304に移行後、シンクロトロン内の残ビームを減速させる。
【0082】
その後、中央制御装置100は、ステップ305にて、発生した照射中断要因の復帰状況を判定する。照射中断要因の復帰方法は、要因の種類により異なるものの、自動もしくは、治療室内に設けられた照射再開指示装置(図示なし)の手動操作により復帰可能である。
【0083】
ステップ305の判定が「Yes」となった後、加速器コントローラ40は、ステップ306にて、再度、各電磁石電源が設定された所定の電流で励磁されるよう電源を制御し、また、高周波加速空胴に高周波電力を印加する高周波電源を制御して、その高周波電力と周波数を所定の値まで増加させる。
【0084】
ステップ306の加速器コントローラの動作に合わせて、スキャニングコントローラ41は、ステップ307にて、再度、スキャニングコントローラ41は、走査電磁石5A,5Bがj番目スポットの電流値で励磁されるように該当する電源を制御する。
【0085】
以上により、シンクロトロン12内を周回するイオンビームのエネルギーが、治療計画で定められた値まで増大された時点で、ステップ307に移行し、加速器コントローラ40は、中央制御装置100を経由し、スキャニングコントローラ41に対し、出射準備指令を出力する。
【0086】
スキャニングコントローラ41は、この出射準備指令を受けて、ステップ308にて、再度、走査電磁石5A,5Bがj番目スポットの電流値で励磁されるように該当する電源を制御する。この際、j番目のスポットに対する電流値および目標線量の設定は、ステップ205にて既に行われているため不要となる。
【0087】
以上により、当該スポットへの照射準備が完了した後、スキャニングコントローラ41は、ステップ309にて、中央制御装置100を経由し、加速器コントローラ40に対し、ビーム出射開始信号を出力する。
【0088】
これにより、加速器コントローラ40は、ステップ310にて、高周波印加装置9を制御してシンクロトロン12からイオンビームを出射させる。既に、走査電磁石5A,5Bはj番目のスポットの位置にイオンビームが達するように励磁されているため、そのイオンビームは、ステップ311にて、スキャニング照射装置15より該当する層のj番目のスポットに照射される。
【0089】
以上により、照射途中で照射中断要因の発生により、照射が中断されたj番目のスポットに対する照射が再開され、ステップ209にて、照射線量が目標照射量に達した時点で、ステップ210に移り、このスポットに対する照射が終了する。
【0090】
ところで、従来システムでは、あるスポットに対する照射中に照射中断要因が発生した場合、直ちにビーム出射(照射)が停止され、そのスポットへの照射が途中で停止されるため、結果として、1つのスポットに対する照射を途中の段階で強制的に2回以上に分割して行うこととなり、その結果、照射中断要因が発生するタイミングによっては、照射中断までの照射量および(または)照射再開後、目標照射量到達までの残りの照射量が予定照射量に対し、微小量となる。
【0091】
本実施の形態における特徴は、あるスポットへの照射途中に照射中断要因が発生した場合に、直ちにビーム出射(照射)を停止させず、その時点でのスポットに対する照射が完了した時点(すなわち、目標照射量を打ち切った時点)でビーム出射(照射)を停止させるように制御することで、スポットへの照射が途中の段階で終了することを回避する点にある。
【0092】
次に、本実施の形態において、あるスポットに対する照射中に照射中断要因が発生した場合の制御システムの動作について説明する。図8は、あるスポットに対する照射中に照射中断要因が発生した場合の、本実施の形態における制御フローを示したものである。
【0093】
本実施の形態では、照射中に照射中断要因が発生した場合、中央処理装置100は照射中断指令を受け取ると、ステップ401にて、はじめに、いずれかのスポットに対する照射中であるかを判定する。この判定は、スキャニングコントローラ41のステップ210におけるビーム出射停止指令が出力有無を確認することで容易に判定すること可能である。
【0094】
判定の結果が「Yes」の場合(つまり、あるスポットへの照射中に照射中断要因が発生した場合)、中央制御装置100は、判定が「No」となるまで、以降の照射中断処理を停止する。判定結果が「No」の場合(つまり、あるスポットへの照射中以外に照射中断要因が発生した場合、もしくは、あるスポットへの照射中に照射中断要因発生し、その後、そのスポットに対する照射が終了した場合)、中央制御装置100は、ステップ402に移行し、加速器コントローラ40およびスキャニングコントローラ41に対し、それぞれ、ビーム出射停止指令およびビーム照射停止指令を出力する。
【0095】
これを受けたスキャニングコントローラ41は、ステップ403にて、以降のj番目のスポットに対する照射処理を中断する(具体的には、ステップ210の処理を実施後、処理を中断する)。
【0096】
また、加速器コントローラ40は、ステップ404にて、シンクロトロン12からのビーム出射を停止させ、その後、ステップ405に移行し、シンクロトロン12に対し残ビーム減速指令を出力してシンクロトロン内の残ビームを減速させる。
【0097】
このように中央処理装置100(第2制御装置)は、あるスポット(照射位置)への荷電粒子ビームの照射中に、照射を中断しなければならない事象が発生した場合に、ステップ401にて、そのスポットへの照射量が目標照射量に達するまでスキャニングコントローラ41(第1制御装置)の制御を継続し、ステップ401〜404にて、スポットへの照射量が目標照射量に達した時点でスキャニングコントローラ41の制御を中断しかつシンクロトロン12(加速器)からの荷電粒子ビームの出射を停止させる。
【0098】
中央制御装置100は、ステップ406にて、照射中断要因が解消して復帰状態になったかどうかを判定し、その判定が「Yes」となった後、加速器コントローラ40は、ステップ407にて、シンクロトロン12に対してビーム加速指令を出力して、再度、各電磁石電源が設定された所定の電流で励磁されるよう電源を制御し、また、高周波加速空胴に高周波電力を印加する高周波電源を制御して、その高周波電力と周波数を所定の値まで増加させる。
【0099】
これと同時に、加速器コントローラ40は、スキャニングコントローラ41に対して復帰指令を出力し、スキャニングコントローラ41はその復帰指令を受け取ると、ステップ408にて、中断していたj番目のスポットに対する照射処理を再開する。ただし、本実施の形態では、j番目のスポットにへの照射線量は目標照射量に達しているので(ステップ209)、このスポットに対する照射処理は直ちに終了させ、ステップ212にて、層内最終スポットかどうかの判定が行われ、判定が「No」であれば、ステップ213に移り、スポット番号に1が加えられる(すなわち、照射位置が次のスポットに移動される)。そしてステップ205,206に移り、スキャニング照射装置15の走査電磁石5A,5B(荷電粒子ビーム走査装置)を制御することによりスポット(照射位置)を変更させかつこの変更後にシンクロトロン12(加速器)からの荷電粒子ビームの出射を再開させる。その後は、従来システム同様に各ステップの処理が繰り返し行われ、患者30の患部に対する一連の照射処理が終了する。
【0100】
このように中央処理装置100(第2制御装置)は、ステップ402,404にて荷電粒子ビームの出射停止後、照射を中断しなければならない事象が解消した場合は、ステップ407,408にてスキャニングコントローラ41(第1制御装置)の制御を復帰させ、スキャニングコントローラ41は、その復帰後に、ステップ213,205,206にて直ちに走査電磁石5A,5B(荷電粒子ビーム走査装置)を制御することによりスポット(照射位置)を変更させかつこの変更後にシンクロトロン12(加速器)からの荷電粒子ビームの出射を再開させる。
【0101】
図9および図10は、従来のシステムおよび本実施の形態のあるエネルギーにおけるシンクロトロン12内のイオンビームの制御パターンと、スポットに対する照射の関係を示した例である。照射中断要因発生時、従来システムでは、直ちに、出射(照射)を停止し、即減速動作へ移行するのに対し、本実施の形態では、照射中断要因発生時、照射中のスポットに対する照射が完了した時点で、出射(照射)を停止し、減速動作へ移行する(すなわち、スポットに対する照射が完了するのを待って出射(照射)を停止し、減速動作へ移行する)。
【0102】
図9および図10の比較により、本実施の形態では、層1の全てのスポットに対する照射が完了するタイミングが従来システムのそれと比較し、短縮されることが分かる。
【0103】
以上ように、照射中断要因が発生した際の処理として、中央制御装置100内に図8に示す新たな判定処理を追加し、中央制御装置100、加速器コントローラ40、およびスキャニングコントローラ41が連携して動作することで、スキャニング方式による照射において、あるスポットに対する照射中に照射中断要因が発生した場合に、ビーム出射(照射)を直ちに停止させず、そのスポットに対する照射が完了した時点で停止させることが可能となる。これにより、スポットへの照射途中で照射が終了することを回避することができ、1つのスポットに対する照射が途中の段階で複数回に分割されず、1回の照射で確実に行われる。
【0104】
なお、本実施の形態は、粒子線治療システムにおいて、照射中断事象が発生した際の処理に関するものであり、照射中止事象が発生した場合は、安全の観点から、従来システム同様、直ちに、出射(照射)を停止し、一連の照射処理が中止される。
【0105】
以上のように構成した本実施の形態の粒子線照射システムは、以下のような効果を得る。
【0106】
通常、この種の粒子線照射システムにおいては、健全な細胞への被爆を極力防止し、過不足ない正しい照射治療を行うために、照射装置には、電磁石の下流側でかつ照射対象である患者の直前に、ビームの照射線量分布を測定するビーム位置モニタおよび照射線量モニタが設置されている。ビーム位置モニタは、一般に、ビームの通過によって電離した電荷量をコンデンサに蓄積し、スポット照射後にコンデンサに誘起された電圧を読み出す方式であることが多く、コンデンサの容量は、想定される照射線量の中で最も値の多いスポットでの電離電荷量を許容できるよう決められる。また、上記方式での分解能は、コンデンサの容量が小さいほど分解能が高くなり、大きくなるほど分解能が低くなる。
【0107】
よって、スキャニング方式の粒子線照射システムにおいては、照射対象をいくつかのスポットに分割することや、1つのスポットに対する照射を複数回に分割して行うことで、各スポットに対する1回の照射量(照射時間)を小さくし、ばらつきを抑え、より正確に実際の照射線量を検出・評価できるよう工夫している。
【0108】
しかし、粒子線照射システムにおける全体の制御システムは、設備および構成機器の異常や加速器内のビーム状態等を監視し、発生した要因の種類やそのレベルにより、あるスポットへの照射途中であっても、照射を中止または中断するためのインターロックを設けており、また、手動操作(ボタン操作等)により中断または、中止操作を行うことが可能である。従って、あるスポットに対する照射中に、異常発生により、照射が途中で中断された場合、発生タイミングによっては、そのスポットに対する照射量(照射時間)は、予定量に対し、微小な値となることが考えられ、これは、照射量(照射時間)のばらつきとなり、上述したモニタの特質や、微小照射量に対するバックグラウンドノイズ等の影響も考慮すると、そのスポットに対する実際の照射線量を正確に検出・評価することが困難となる。また、異常発生により、1つのスポットに対する照射が、予定照射量に対して少ない量での複数回の照射に分割されて行われることになり、そのスポットに対する実照射量の正確な検出・評価は、さらに困難なものとなる。
【0109】
また、あるスポットに対する照射を途中の段階で複数回に分割して行うことは、システム全体として考えた場合には、治療時間の遅延など、システムの効率的な運転を妨げる一因となる可能性がある。
【0110】
これらの問題に対し、本実施の形態では、あるスポットに対する照射中に、照射中断要因(照射継続可能な比較的軽度な異常)が発生した場合に関して、直ちにビーム出射(照射)を停止せず継続し、設定された予定照射量(照射時間)を、1回の照射で確実に行うことがで、実照射線量が想定外の微小になることがなく、通常のスポット照射時と同様に正確な実照射線量の検出および評価(線量分布等)を行うことができる。
【0111】
さらに、あるスポットに対する照射を途中の段階で複数回に分割して行う頻度を抑制することにより、照射時間の短縮などシステムの効率化にも有効である。
【0112】
ただし、本発明は、異常発生時においても、発生した要因の種類、レベルにより、照射継続を可能とするものであり、患者ならびに操作者の安全の観点から、照射継続可能な要因の種類、レベルの選定が非常に重要となる。
【0113】
なお、以上に述べたスポットスキャニングによるイオンビーム照射は、加速器としてサ
イクロトロンを用いた陽子線照射システムに適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の粒子線照射システムの一実施の形態である陽子線照射システムの全体構成を示す概念図である。
【図2】本発明の粒子線照射システムの一実施の形態である陽子線照射システムのスキャニング照射装置の詳細を表す概念図である。
【図3】患部領域における線量分布の一様性を確保するために各層で照射する線量分布の一例を表す概念図である。
【図4】図1に示した粒子線照射システムの照射対象である患部領域の層分けの一例を表す図である。
【図5】図1に示した治療計画装置で計画した治療計画情報の一部であって、照射時における各層のスキャニング照射を実施する指令信号の内容を示す図である。
【図6】通常照射において、図1に示した制御システム(中央処理装置、スキャニングコントローラ、加速器コントローラ)が実行する制御フローの一例を示したものである。
【図7】従来システムにおいて、スポット照射中に照射中断要因が発生した場合に制御システム(中央処理装置、スキャニングコントローラ、加速器コントローラ)が実行する制御フローの一例を示したものである。
【図8】本実施の形態において、スポット照射中に照射中断要因が発生した場合に、図1に示した制御システム(中央処理装置、スキャニングコントローラ、加速器コントローラ)が実行する制御フローの一例を示したものである。
【図9】従来システムにおけるイオンビームの制御パターンと各スポットへの照射の関係の一例を示すタイムチャートである。
【図10】本実施の形態におけるイオンビームの制御パターンと各スポットへの照射の関係の一例を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0115】
1…荷電粒子ビーム発生装置
4…ビーム輸送系
5A,5B…走査電磁石(荷電粒子ビーム走査装置)
6A…走査位置モニタ(照射量検出装置)
6B…線量モニタ(照射量検出装置)
7A…走査電磁石電源(X方向)
7B…走査電磁石電源(Y方向)
8…走査電磁石電源制御装置
9…高周波印加装置
11A、11B…走査位置計測装置
12…シンクロトロン(加速器)
15…スキャニング照射装置
40…加速器・輸送系コントローラ(第3制御装置)
41…スキャニングコントローラ(第1制御装置)
70…制御システム(制御装置)
91…高周波電源
92…開閉スイッチ
93…高周波印加電極
100…中央制御装置(第2制御装置)
140…治療計画装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを出射する加速器と、
荷電粒子ビーム走査装置を有し、前記加速器から出射された荷電粒子ビームを照射対象の照射位置に照射する照射装置と、
前記照射位置への荷電粒子ビームの照射中に、照射を中断しなければならない事象が発生した場合に、前記加速器からの前記荷電粒子ビームの出射を直ちに停止させずに、そのときの照射位置への照射量が目標照射量に達した時点で前記加速器からの前記荷電粒子ビームの出射を停止させる制御装置とを備えることを特徴とする粒子線照射システム。
【請求項2】
請求項1記載の粒子線照射システムにおいて、
前記制御装置は、前記荷電粒子ビームの出射停止後、前記照射を中断しなければならない事象が解消した場合は、直ちに前記照射位置を変更させかつ前記加速器からの前記荷電粒子ビームの出射を再開させることを特徴とする粒子線照射システム。
【請求項3】
荷電粒子ビームを出射する加速器と、
荷電粒子ビーム走査装置を有し、前記加速器から出射された荷電粒子ビームを照射対象の照射位置に照射する照射装置と、
前記照射位置への照射量が目標照射量に達したとき、前記加速器からの前記荷電粒子ビームの出射を停止させ、この荷電粒子ビームの出力を停止した状態で、前記荷電粒子ビーム走査装置を制御することにより前記照射位置を変更させ、この照射位置の変更後に前記加速器からの荷電粒子ビームの出力を開始させる第1制御装置と、
前記照射位置への荷電粒子ビームの照射中に、照射を中断しなければならない事象が発生した場合に、前記照射位置への照射量が目標照射量に達するまで前記第1制御装置の制御を継続し、前記照射位置への照射量が目標照射量に達した時点で前記第1制御装置の制御を中断しかつ前記加速器からの前記荷電粒子ビームの出射を停止させる第2制御装置とを備えることを特徴とする粒子線照射システム。
【請求項4】
請求項3記載の粒子線照射システムにおいて、
前記第2制御装置は、前記荷電粒子ビームの出射停止後、前記照射を中断しなければならない事象が解消した場合、前記第1制御装置の制御を復帰させ、
前記第1制御手段は、復帰後に、直ちに前記荷電粒子ビーム走査装置を制御することにより前記照射位置を変更させかつこの変更後に前記加速器からの前記荷電粒子ビームの出射を再開させることを特徴とする粒子線照射システム。
【請求項5】
請求項3記載の粒子線照射システムにおいて、
前記加速器からの前記荷電粒子ビームの出射・停止を制御する第3制御装置を更に備え、
前記第1制御装置は、前記照射位置への照射量が目標照射量に達したとき前記第3制御装置にビーム出射停止指令を出力して前記加速器からの前記荷電粒子ビームの出射を停止させ、この荷電粒子ビームの出力を停止した状態で、前記荷電粒子ビーム走査装置を制御することにより照射位置を変更させ、この照射位置の変更後に前記第3制御装置にビーム出射開始指令を出力して前記加速器からの荷電粒子ビームの出力を開始させ、
前記第2制御装置は、前記照射を中断しなければならない事象が発生した場合に、前記第1制御装置が前記ビーム出射停止指令を出力するまでは前記第1制御装置の制御を継続し、第1制御装置が前記ビーム出射停止指令を出力したときに前記第1制御装置にビーム照射停止指令を出力して前記第1制御装置の制御を中断しかつ前記加速器からの前記荷電粒子ビームの出射を停止させることを特徴とする粒子線照射システム。
【請求項6】
請求項5記載の粒子線照射システムにおいて、
前記第2制御装置は、前記荷電粒子ビームの出射停止後、前記照射を中断しなければならない事象が解消した場合、前記第1制御装置に復帰指令を出力し、
前記第1制御手段は、前記第2制御装置が前記復帰指令を出力したときは、直ちに前記荷電粒子ビーム走査装置を制御することにより前記照射位置を変更させ、かつこの照射位置の変更後に前記第3制御装置に前記ビーム出射開始指令を出力させることを特徴とする粒子線照射システム。
【請求項7】
請求項3記載の粒子線照射システムにおいて、
前記照射位置への前記荷電粒子ビームの照射量を計測する照射量検出装置を更に備え、
前記第1および第2制御装置は、前記照射量検出装置で計測された照射量を入力し、その積算量が目標照射量に達したとき前記照射位置への照射量が目標照射量に達したと判断することを特徴とする粒子線照射システム。
【請求項8】
請求項3記載の粒子線照射システムにおいて、
前記第1照射装置は、照射位置毎の分割照射の分割数が予め設定されており、前記荷電粒子ビームの出射の停止、前記照射位置の変更、この照射位置の変更後の荷電粒子ビームの出力の開始を前記予め設定された分割数だけ繰り返すことを特徴とする粒子線照射システム。
【請求項9】
荷電粒子ビームを出射する加速器と、
荷電粒子ビーム走査装置を有し、前記加速器から出射された荷電粒子ビームを照射対象の照射位置に照射する照射装置とを備えた粒子線照射システムの制御方法において、
前記照射位置への荷電粒子ビームの照射中に、照射を中断しなければならない事象が発生した場合に、前記加速器からの前記荷電粒子ビームの出射を直ちに停止させずに、そのときの照射位置への照射量が目標照射量に達した時点で前記加速器からの前記荷電粒子ビームの出射を停止させることを特徴とする粒子線照射システムの制御方法。
【請求項10】
請求項9記載の粒子線照射システムの制御方法において、
前記荷電粒子ビームの出射停止後、前記照射を中断しなければならない事象が解消した場合は、直ちに前記照射位置を変更させかつ前記加速器からの前記荷電粒子ビームの出射を再開させることを特徴とする粒子線照射システムの制御方法。
【請求項11】
荷電粒子ビームを出射する加速器と、
荷電粒子ビーム走査装置を有し、前記加速器から出射された荷電粒子ビームを照射対象の照射位置に照射する照射装置とを備えた粒子線照射システムの制御方法において、
前記照射位置への照射量が目標照射量に達したとき、前記加速器からの前記荷電粒子ビームの出射を停止させ、この荷電粒子ビームの出力を停止した状態で、前記荷電粒子ビーム走査装置を制御することにより前記照射位置を変更させ、この照射位置の変更後に前記加速器からの荷電粒子ビームの出力を開始させる第1手順と、
前記照射位置への荷電粒子ビームの照射中に、照射を中断しなければならない事象が発生した場合に、前記照射位置への照射量が目標照射量に達するまで前記第1手順の制御を継続し、前記照射位置への照射量が目標照射量に達した時点で前記第1手順の制御を中断しかつ前記加速器からの前記荷電粒子ビームの出射を停止させる第2手順とを備えることを特徴とする粒子線照射システムの制御方法。
【請求項12】
請求項11記載の粒子線照射システムの制御方法において、
前記第2手順は、前記荷電粒子ビームの出射停止後、前記照射を中断しなければならない事象が解消した場合、前記第1手順の制御を復帰させ、
前記第1手順は、復帰後に、直ちに前記荷電粒子ビーム走査装置を制御することにより前記照射位置を変更させかつこの変更後に前記加速器からの前記荷電粒子ビームの出射を再開させることを特徴とする粒子線照射システムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−237687(P2008−237687A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−84533(P2007−84533)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000153443)株式会社日立情報制御ソリューションズ (359)
【Fターム(参考)】