説明

粒子線照射システム

【課題】
ビーム出射停止信号が出力されてから、加速器からの荷電粒子ビームの出射が停止されるまでに時間を要する場合であっても、照射対象の線量分布をより均一化する。
【解決手段】
シンクロトロン12と、走査電磁石5A,5Bを有し、シンクロトロン12から出射されたイオンビームを出力する照射装置15と、照射装置15からのイオンビームの出力をビーム出射停止信号に基づいて停止させ、イオンビームの出力を停止した状態で、走査電磁石5A,5Bを制御することによりイオンビームの照射位置を変更させ、この変更後に、照射装置15からのイオンビームの出力を開始させ、ビーム出射停止信号を起点とした積算照射量の増分が、予め記憶された設定照射量に達したことに基づいて次のビームの出射停止信号を出力する制御装置とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子線照射システムに係り、特に、陽子及び炭素イオン等の荷電粒子ビームを患部に照射して治療する粒子線照射システムに関する。
【背景技術】
【0002】
癌などの患者の患部に陽子及び炭素イオン等のいずれかの荷電粒子ビーム(イオンビーム)を照射する治療方法が知られている。この治療に用いる粒子線照射システムは、荷電粒子ビーム発生装置,ビーム輸送系、及び治療室を備えている。荷電粒子ビーム発生装置の加速器で加速された荷電粒子ビームは、ビーム輸送系を経て治療室の照射装置に達し、照射装置に備えられた走査用電磁石で走査された後、照射装置から患者の患部に照射される。また、このような出射システムにおいて、従来、照射装置からの荷電粒子ビームの出力を停止させ、荷電粒子ビームの出力を停止した状態で、走査用電磁石を制御することにより荷電粒子ビームの照射位置(スポット)を変更(スキャン)させ、この変更後に、前記照射装置からの荷電粒子ビームの出力を開始させるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特許第2833602号公報(図1等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の粒子線照射システムにおいて、健全な細胞への被ばくを極力防止し過不足のない正しい照射治療を行うために、照射装置には、電磁石の下流側でかつ照射対象である患者の直前に、ビームの照射線量分布を測定する照射線量モニタ,ビーム位置モニタが設置されている。
【0005】
各スポットへの照射時には、各スポットごとの目標照射線量が設定されており、上記照射線量モニタによる照射線量の積算値がその目標値に達したときに、加速器へビーム出射停止指令が出力され、加速器がこれに応じて荷電粒子ビームの出射を停止するようになっている。しかしながら、加速器は、一般に、ビーム出射停止指令が入力された後若干の応答遅れが生じる可能性がある。例えば加速器の一形態であるシンクロトロンを用いる場合、前段加速器から入射された低エネルギーのイオンを周回させるとともに、その周回する荷電粒子ビームに高周波電磁界を印加して荷電粒子ビームのベータトロン振動を増加し、共鳴の安定限界を超えさせ、荷電粒子ビームのベータトロン振動を共鳴状態にして出射する構成となっている。この結果、上記のようにしてビーム出射停止指令が入力されても、厳密には、直ちに荷電粒子ビームの出力が停止するのではなく、若干の応答遅れが生じる可能性が生じることを、発明者らが発見した。このような場合、上記目標値に達した後も、その応答遅れ時間の間継続して荷電粒子ビームが当該スポットに照射されることになる。
【0006】
本発明の目的は、照射対象の線量分布をより均一化できる粒子線照射システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成する本発明の特徴は、第2の照射位置の1つ前の第1の照射位置における、ビーム出射停止信号出力後の第1の照射量と、第2の照射位置への第2の照射量との積算量が設定照射量に達したとき、第2の照射位置に照射する荷電粒子ビームの出射を停止させるビーム出射停止信号を出力することにある。
【0008】
本発明は、第1照射量と第2照射量の積算量が設定照射量に達したとき、第2の照射位置に照射する荷電粒子ビームの出射を停止させるビーム出射停止信号を出力するため、ビーム出射停止信号が出力された後で、加速器からの荷電粒子ビームの出射が停止されるまでの期間に、第1の照射位置に照射される照射量が、第2の照射位置の照射量に加えることができる。このため、各照射位置への照射量を実質的に設定照射量にすることができ、ビーム出射停止信号が出力されてから、加速器からの荷電粒子ビームの出射が停止されるまでに時間を要する場合であっても、照射対象の線量分布をより均一化できる。
【0009】
好ましくは、ビーム出射停止信号の出力の後、加速器からの荷電粒子ビームの出射が停止されるまでの期間に第1の照射位置に照射される照射量に基づいて異常判定を行うことが望ましい。この異常判定によって、ビーム出射停止信号の出力後に荷電粒子ビームの出射が確実に停止していることを確認することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ビーム出射停止信号が出力されてから、加速器からの荷電粒子ビームの出射が停止されるまでに時間を要する場合であっても、照射対象の線量分布をより均一化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の第1の実施形態である粒子線照射システムを図面を参照しつつ説明する。
【0012】
本実施例の粒子線照射システムである陽子線照射システムは、図1に示すように、荷電粒子ビーム発生装置1と、荷電粒子ビーム発生装置1の下流側に接続されたビーム輸送系4とを有している。
【0013】
荷電粒子ビーム発生装置1は、イオン源(図示せず),前段荷電粒子ビーム発生装置
(ライナック)11及びシンクロトロン(加速器)12を有する。シンクロトロン12は、高周波印加装置9、及び加速装置10を有する。高周波印加装置9は、シンクロトロン12の周回軌道に配置された高周波印加電極93と高周波電源91とを開閉スイッチ92にて接続して構成される。加速装置(第2エレメント,荷電粒子ビームエネルギー変更装置)10は、その周回軌道に配置された高周波加速空胴(図示せず)、及び高周波加速空胴に高周波電力を印加する高周波電源(図示せず)を備える。イオン源で発生したイオン(例えば、陽子イオン(または炭素イオン))は前段荷電粒子ビーム発生装置(例えば直線荷電粒子ビーム発生装置)11で加速される。前段荷電粒子ビーム発生装置11から出射されたイオンビーム(陽子ビーム)はシンクロトロン12に入射される。荷電粒子ビーム(粒子線)であるそのイオンビームは、シンクロトロン12で、高周波電源から高周波加速空胴を経てイオンビームに印加される高周波電力によってエネルギーを与えられて加速される。シンクロトロン12内を周回するイオンビームのエネルギーが設定されたエネルギー(例えば100〜200MeV)までに高められた後、高周波電源91からの出射用の高周波が、閉じられた開閉スイッチ92を経て高周波印加電極93に達し、高周波印加電極93よりイオンビームに印加される。安定限界内で周回しているイオンビームは、この高周波の印加によって安定限界外に移行し、出射用デフレクタ8を通ってシンクロトロン12から出射される。イオンビームの出射の際には、シンクロトロン12に設けられた四極電磁石13及び偏向電磁石14に導かれる電流が電流設定値に保持され、安定限界もほぼ一定に保持されている。開閉スイッチ92を開いて高周波印加電極93への高周波電力の印加を停止することによって、シンクロトロン12からのイオンビームの出射が停止される。
【0014】
シンクロトロン12から出射されたイオンビームは、ビーム輸送系4より下流側へ輸送される。ビーム輸送系4は、四極電磁石18及び偏向電磁石17と、治療室内に配置された照射装置15に連絡されるビーム経路62にビーム進行方向上流側より配置された四極電磁石21,四極電磁石22,偏向電磁石23,偏向電磁石24(それぞれの電磁石が第1エレメント)とを備える。ビーム輸送系4へ導入されたイオンビームは、ビーム経路
62を通って照射装置15へと輸送される。
【0015】
治療室は、内部に設置された回転ガントリー(図示せず)に取り付けられた照射装置
15を備える。ビーム輸送系4のビーム経路62の一部を含む逆U字状のビーム輸送装置及び照射装置15は、回転ガントリー(図示せず)の略筒状の回転胴(図示せず)に設置されている。回転胴はモータ(図示せず)により回転可能に構成されている。回転胴内には治療ゲージ(図示せず)が形成される。
【0016】
照射装置15は、回転胴に取り付けられ前述の逆U字状のビーム輸送装置に接続されるケーシング(図示せず)を有している。ビームを走査するための走査電磁石5A,5B、及び線量モニタ6A,位置モニタ6B等がケーシング内に設置される。走査電磁石5A,5Bは、例えばビーム軸と垂直な平面上において互いに直交する方向(X方向,Y方向)にビームを偏向し照射位置をX方向およびY方向に動かすためのものである。
【0017】
治療用ベッド29は、照射装置15からイオンビームを照射する前に、ベッド駆動装置(図示せず)によって移動され上記治療ゲージ内に挿入されるとともに、照射装置15に対する照射にあたっての位置決めが行われる。回転胴はガントリーコントローラ(図示せず)によってモータの回転を制御することによって回転され、照射装置15のビーム軸が患者30の患部を向くようになる。ビーム経路62を経て逆U字状のビーム輸送装置から照射装置15内へ導入されたイオンビームは、走査電磁石(荷電粒子ビーム走査装置)
5A,5Bによって順次照射位置を走査され、患者30の患部(例えば癌や腫瘍の発生部位)に照射される。そのイオンビームは、患部においてそのエネルギーを放出し、高線量領域を形成する。照射装置15内の走査電磁石5A,5Bは、例えば治療装置内のガントリー室に配置されたスキャニングコントローラ41によって制御される。
【0018】
本実施例の陽子線照射システムが備えている制御システムを、図1を用いて説明する。その制御システム90は、中央制御装置100,治療計画情報を格納した記憶装置110,スキャニングコントローラ41,加速器・輸送系コントローラ(以下、加速器コントローラという)40を有する。更に、本実施例の陽子線照射システムは、治療計画装置140を有している。
【0019】
記憶装置110に記憶されている各患者毎の上記治療計画情報(患者情報)は、特に図示を行わないが、患者IDナンバー,照射量(一回当たり),照射エネルギー,照射方向,照射位置等のデータを含んでいる。
【0020】
中央制御装置100は、CPU101と、メモリ103とを備えている。CPU101は、入力した患者識別情報を用いて、これから治療を行う患者に関する上記の治療計画情報を記憶装置110から読み込む。この患者別治療計画情報のうち照射エネルギーの値によって、既に述べた各電磁石への励磁電力供給の制御パターンが決まる。
【0021】
メモリ103には、電力供給制御テーブルが予め記憶されている。すなわち、例えば、照射エネルギーの各種の値(70,80,90,…[Mev]等)に応じて、シンクロトロン12を含む荷電粒子ビーム発生装置1における四極電磁石13及び偏向電磁石14,ビーム輸送系4の四極電磁石18,偏向電磁石17,四極電磁石21,22,偏向電磁石
23,24に対する供給励磁電力値又はそのパターンが予め設定されている。
【0022】
また、CPU101は、制御情報作成装置として、上記治療計画情報と上記電力供給制御テーブルとを用いて、これから治療を受けようとする患者について、荷電粒子ビーム発生装置1や各ビーム経路に配置された電磁石を制御するための制御指令データ(制御指令情報)を作成する。そしてCPU101は、このようにして作成した制御指令データを、スキャニングコントローラ41及び加速器コントローラ40へ出力する。
【0023】
本実施例の陽子線照射システムでは、中央制御装置100,スキャニングコントローラ41,加速器コントローラ40が、治療計画装置140により作成した治療計画情報に基づいて、互いに連携して制御を行う。この制御により、シンクロトロン12からのイオンビームの出射が停止され、イオンビームの出射を停止した状態で、走査電磁石5A,5Bを走査してイオンビームの照射位置(スポット)を変更させ、この変更後に、シンクロトロン12からのイオンビームの出射が開始される。シンクロトロン12からのイオンビームの出射停止は照射装置15からのイオンビームの照射停止となり、シンクロトロン12からのイオンビームの出射は照射装置15からのイオンビームの照射となる。
【0024】
以下、各制御装置の連携制御の詳細を図2〜図10を用いて説明する。
【0025】
まず、標的の深さとイオンビームのエネルギーとの関係を説明する。標的は、患部を含むイオンビームの照射対象領域であり、患部よりもいくらか大きい。図2に体内の深さとイオンビームによる線量の関係の例を示す。図2の線量のピークをブラッグピークと呼ぶ。標的へのイオンビームの照射はブラッグピークの位置で行われる。ブラッグピークの位置は、イオンビームのエネルギーにより変化する。従って、標的を深さ方向(体内でのイオンビームの進行方向)において複数の層(スライス)に分割し、イオンビームのエネルギーを深さ(各層)に応じて変えることによって、深さ方向に厚みを持つ標的(標的領域)の全域に一様にイオンビームを照射することができる。治療計画装置140はこのような観点に基づき、標的領域を深さ方向に分割する層の数を決定する。
【0026】
図3は、上記のようにして決定した層の一例を表す図である。この例では、患部が最下層より患者30の体表面に向かって層1,2,3,4の4つの層に分割されている。各層はX方向に20cmY方向に10cmの広がりをもっている例である。図2の線量分布は、図3のA−A′断面での深さ方向の線量分布である。
【0027】
更に、治療計画装置140は、治療に適切な線量分布が形成されるよう、各層(標的断面)内で深さ方向と直角方向のスポットの位置、及び、各スポットに対する照射量を決定する。
【0028】
次に、上記のようにして計画され、記憶装置110に格納された治療計画情報を、中央制御装置100が読み出してメモリ103に格納する。CPU101は、メモリ103に格納した治療計画情報に基づき、イオンビームの照射に関する情報(層数,照射位置の数(スポットの数),各層内での照射位置,各照射位置での目標照射量(設定照射量)、及び各層の全スポットに関する走査電磁石5A,5Bの電流値等の情報)を生成し、スキャニングコントローラ41に送信する。ここで各照射位置での目標照射量(設定線量)は、患部への最初の照射開始を起点とする積算照射量(積算線量)とする。よって、治療計画情報が各照射位置それぞれに対する照射量を設定している場合には、中央制御装置100は、この各照射位置に対して設定された個々の照射量を順次積算することによって、スキャニングコントローラ41へ送信する目標照射量の情報を生成する。スキャニングコントローラ41はその治療計画情報をメモリ41M1(図6)に記憶する。また、CPU101は、治療計画情報のうち全ての層に関するシンクロトロン12の加速パラメータのデータの全てを、加速器コントローラ40に伝える。加速パラメータのデータは、各層に照射するイオンビームのエネルギーによって定まる、シンクロトロン12及びビーム輸送系の各電磁石励磁電流値、及び高周波加速空胴に印加する高周波電力値を含む。それらの加速パラメータのデータは予め例えば複数の加速パターンに分類されている。
【0029】
スキャニングコントローラ41のメモリ41M1に記憶された治療計画情報の一部を、図4を用いて説明する。その一部の情報は、照射パラメータ、すなわち、層内の各照射位置に対する、照射位置(スポット)のX方向位置(X位置)及びY方向位置(Y位置)の情報、及び各照射位置での目標照射量(設定線量)である。更に層変更フラグ情報も含まれている。各層全てのスポットに対して、スポット番号(後述のスポット数j)が照射する順番に付されている。本実施例での各照射位置に対する個々の照射量は、第1の層では70ずつ、第2の層では25ずつ、第3の層では18ずつである。目標照射量は、これを照射順に積算した値となっている。
【0030】
本実施例におけるスポットスキャニングを実施する際のスキャニングコントローラ41及び加速器コントローラ40による各制御を、図5を用いて具体的に説明する。
【0031】
治療室内にある図示しない照射開始指示装置が操作されると、加速器コントローラ40は、それに応じてステップ201で層番号を表す演算子iを1、スポット番号を表す演算子jを1に初期設定する。加速器コントローラ40は、ステップ201の初期設定を終了した後、ステップ202で、メモリに格納した複数パターンの加速パラメータの中から、i番目(この時点ではi=1)の層に対する加速器パラメータを読み出して設定し、ステップ203でそれをシンクロトロン12へ出力する。加速器コントローラ40は、ステップ203で、シンクロトロン12及びビーム輸送系5の各電磁石の電源に対してi番目の加速器パラメータに含まれるそれらの電磁石に対する励磁電流情報を出力し、それらの励磁電流情報により各電磁石が所定の電流で励磁されるように該当する電源を制御する。また、加速器コントローラ40は、ステップ203で、高周波加速空胴に高周波電力を印加する高周波電源を制御してその高周波電力と周波数を所定の値まで増加させる。これにより、シンクロトロン12内を周回するイオンビームのエネルギーが治療計画で定められた値まで増大される。その後、ステップ204に移り、スキャニングコントローラ41へ出射準備指令を出力する。
【0032】
スキャニングコントローラ41は、ステップ201の初期設定の情報、及びステップ
204における出射準備指令を加速器コントローラ40から受けて、ステップ205で、前述のように既にメモリ41M1に格納した電流値データ(図4の「X位置」,「Y位置」の欄に示されたデータ)及び目標照射量データ(図4の「目標照射量」の欄に示されたデータ)から、j番目(この時点ではj=1)スポットの電流値データ及び目標照射量データを読み出して設定する(後述の図6も参照)。また同様に、メモリ41M1に格納した後述の目標カウント数についても、j番目(この時点ではj=1)スポットのデータを読み出して設定する。ここで、スキャニングコントローラ41は、走査電磁石5A,5Bがそのj番目スポットの電流値で励磁されるように該当する電源を制御する。
【0033】
以上のようにして当該スポットへの照射準備が完了した後、スキャニングコントローラ41は、ステップ300においてビーム出射開始信号を出力し、高周波印加装置9を制御してシンクロトロン12からイオンビームを出射させる。すなわち、加速器コントローラ40を通過したビーム出射開始信号によって開閉スイッチ92が閉じられて高周波が高周波印加電極93よりイオンビームに印加されるため、イオンビームがシンクロトロン12から出射される。走査電磁石5A,5Bは1番目のスポットの位置にイオンビームが達するように励磁されているため、そのイオンビームは照射装置15より該当する層の1番目のスポットに照射される。1番目のスポットへの照射量が該当する目標照射量に達したとき、スキャニングコントローラ41は、ステップ300においてビーム出射停止信号を出力する。ビーム出射停止信号は加速器コントローラ40を通過して開閉スイッチ92を開く。これにより、イオンビームの出射が停止される。
【0034】
この時点では層1の1番目のスポットへの照射が終了しただけである。ステップ208の判定が「No」であるためステップ209に移ってスポット番号jに1が加えられる
(すなわち照射位置を隣のスポットへと移動)。そして、ステップ205,300,208の処理が繰り返される。すなわち、層1の全スポットへの照射が終了するまで、走査電磁石5A,5Bにより、イオンビームを隣接するスポットへと次々に移動させながら(移動中はイオンビームの照射を停止させつつ)、イオンビームの照射が行われる(スポットスキャニング照射)。
【0035】
層1の全スポットへの照射が終了したとき、ステップ208の判定が「Yes」となる。このとき、スキャニングコントローラ41は、加速器コントローラ40のCPUに対し層変更指令を出力する。層変更指令を入力した加速器コントローラ40のCPUは、ステップ213で層番号iに1を加え(すなわち照射対象を層2に変更)、ステップ214でシンクロトロン12へ残ビーム減速指令を出力する。加速器コントローラ40は、残ビーム減速指令の出力により、シンクロトロン12の各電磁石の電源を制御して各電磁石の励磁電流を徐々に低減させ、最後には予め決められた値、例えばイオンビーム入射に適した励磁電流にする。これにより、シンクロトロン12内を周回するイオンビームが減速される。結果的に、ビーム出射可能な期間は、層内のスポット数,照射量によって異なる。この時点では層1への照射が終了しただけであり、ステップ215の判定が「No」となる。ステップ202で、2番目の層(層2)に対する加速器パラメータを加速器・輸送系コントローラ40のメモリから読み出して設定される。以下、層2に対して、ステップ203〜215の処理が実行される。また、層4における全スポットに対する照射が終了するまで、ステップ202〜215の処理が実行される。
【0036】
加速器コントローラ40のCPUは、ステップ215の判定で「Yes」となった場合(患者30の標的における全層内の全スポットへの所定の照射が完了)に、CPU101に対し照射終了信号を出力する。
【0037】
以上説明したようにして、シンクロトロン12で加速されてシンクロトロン12から出射されたイオンビームがビーム輸送系4を輸送される。そして、イオンビームは、照射対象の患者が在室する治療室の照射装置15を介し、当該患者30の標的に治療計画通りの最適な態様で照射される。なお、このとき、照射装置15内に設けた線量モニタ6Aの検出信号がスキャニングコントローラ41に入力される。本実施例の特徴は、この検出信号を用いた積算照射量に基づくビーム照射量制御にある。
【0038】
以下、その詳細を図6〜図9を用いて説明する。
【0039】
図6は、スキャニングコントローラ41の機能的構成を詳細に表す機能ブロック図である。図6において、スキャニングコントローラ41は、照射量の検出に関わるものとしてカウンタ41cを備えている。ここで、線量モニタ6Aは、ビームの通過によって電離した電荷量に応じてパルスを出力する公知のものを用いている。線量モニタ6Aは、具体的には所定の微小電荷量ごとに1つのパルスを出力する。カウンタ41cは、線量モニタ
6Aから出力されるパルスの数をカウントすることによって照射量を求めるものである。
【0040】
スキャニングコントローラ41は、カウンタ41cのほかに、メモリ41M1,41M2,第1遅延タイマー41Ba,第2遅延タイマー41Bb,第1レジスタ41Bc,第2レジスタ41Bd,差計算部41Be,判定部41Bf,NOT回路41Bg,AND回路41D及びビームON/OFF信号生成部41Eを備えている。また、カウンタ41cは、パルス入力部41ca,設定値入力部41cb,初期化(クリア)信号入力部41cc,カウント値読み出し部41ce及び設定値比較結果出力部41cfを備える。
【0041】
スキャニングコントローラ41が実行する、図5のステップ205及び300の詳細手順を、図7を用いて説明する。前述のように、演算子iが1、演算子jがあらかじめ1に初期化されている。スキャニングコントローラ41は、ステップ301で、既にメモリ
41M1に格納されているカウンタ41aの目標カウント数に対応するカウンタ設定指令をカウンタ41cのカウンタ設定値入力部41cbに出力する。カウンタ41cは、ステップ302で、その設定指令に基づいて層1の1番目のスポットにおける目標カウント数を設定する。目標カウント数は、図4において示した「目標照射量」の欄における該当する層内の該当するスポットまでの目標照射量に対応した値である。この目標カウント数は、スキャニングコントローラ41において、イオンビームの照射開始前に、各スポットまでの目標照射量に基づいて算出される。なお、目標照射量を用いた目標カウント数の算出は、カウンタ41cがその設定指令を受信する直前でもよいし、中央制御装置100が算出するのであれば中央制御装置100からスキャニングコントローラ41へデータを送信する前でもよい。
【0042】
ステップ301の処理が終了するとステップ303へ移り、当該スポットについての走査電磁石5A,5Bの電流設定指令(図4におけるX位置及びY位置のそれぞれに対する電流値データ)を走査電磁石5A,5Bの電源へ出力する。走査電磁石5A,5Bは、該当する電流値にて偏向電磁力を発生させるとともに、そのような状態が完成したことを示す電流設定完了信号をスキャニングコントローラ41に出力する。
【0043】
スキャニングコントローラ41は、ステップ305で、電流設定指令が出力され(ステップ303)、かつ走査電磁石5A,5Bからの電流設定完了信号が入力された(ステップ304)ことを条件として、ビーム出射開始信号を出力する。ビーム出射開始信号は、加速器コントローラ40を通過して開閉スイッチ92を閉じる。高周波印加電極93に高周波電力が印加されてシンクロトロン12からイオンビームが出射され、該当するスポット(例えば層1の1番目のスポット)にイオンビームが照射される。
【0044】
ステップ305のビーム出射開始信号の出力によってビーム照射が開始されると、前述のように線量モニタ6Aの検出信号が電流/周波数変換器(I/Fコンバータ、図示せず)により線量パルス列に変換された後、スキャニングコントローラ41のカウンタパルス入力部41caに入力されパルス数がカウントされる。このカウント数は、カウント開始からの照射量を表す。
【0045】
カウンタ41cは、パルス入力部41caからの入力パルスに基づくカウント値がステップ302で設定した目標カウント数の設定値以上となった場合に(ステップ309)、ステップ310で設定値比較結果出力部41cfよりトリガー信号を出力する。
【0046】
スキャニングコントローラ41は、そのトリガー信号に基づきビーム出射停止信号を生成し、加速器コントローラ40にそのビーム出射停止信号を出力する(ステップ312)。ビーム出射停止信号は加速器コントローラ40を通過して開閉スイッチ92に到達する。スキャニングコントローラ41は、実質的にビーム出射停止信号により開閉スイッチ
92を制御して開閉スイッチ92を開く。これによって、前述したようにシンクロトロン12からのイオンビームの出射が停止され、患者へのイオンビームの照射が停止される。
【0047】
図6を用いて、スキャニングコントローラ41からのビーム出射開始信号及びビーム出射停止信号の出力について説明する。走査電磁石5A,5Bから出力された電流設定完了信号はスキャニングコントローラ41のAND回路41Dに入力される。この状態で、カウンタ41cからトリガー信号が出力されない場合には、NOT回路41Bgは「1」をAND回路41Dに出力する。AND回路41Dは、ビーム出射停止信号、及びNOT回路41Bgからの「1」を入力するとき、「1」をビームON/OFF信号生成部41Eに出力する。
【0048】
NOT回路41Bgは、カウンタ41cからトリガー信号が出力された場合には、「0」をAND回路41Dに出力する。AND回路41Dは、ビーム出射停止信号を入力しているときに、NOT回路41Bgから出力された「0」を入力したとき、「0」をビームON/OFF信号生成部41Eに出力する。
【0049】
ビームON/OFF信号生成部41Eは、「1」を入力したときにビーム出射開始信号を出力し、「0」を入力したときにビーム出射停止信号を出力する。
【0050】
スキャニングコントローラ41は、第1遅延タイマー41Ba及び第2遅延タイマー
41Bbを備えている。上記トリガー信号は、第1遅延タイマー41Baをスタートさせる指令信号として入力される(ステップ314)。このスタート後の経過時間があらかじめ定められた所定の設定時間(=第1遅延時間、後述の図8の「遅延1」に相当)となった場合に第1遅延時間到達信号が第1レジスタ41Bcに出力される(ステップ315)。第1遅延時間到達信号、及び第1遅延タイマースタート指令信号の入力を条件として、ステップ316において、第1レジスタ41Bcよりカウンタ読み出し信号がカウンタ
41cへと出力され、そのときのカウント値がカウンタカウント値読み出し部41ceより第1レジスタ41Bcへ入力される。このとき、図7では煩雑防止のため図示を省略しているが、第1時間到達信号は、第2遅延タイマー41Bbをスタートさせる指令信号として第2遅延タイマー41Bbに入力される。そして、第1遅延タイマー41Ba同様、第2遅延タイマー41Bbのスタート後の経過時間があらかじめ定められた所定の設定時間(=第2遅延時間、後述の図8の「遅延2」に相当)となった場合に、第2時間到達信号が第2レジスタ41Bcに出力される。第2時間到達信号、及び第2遅延タイマースタート指令信号の入力を条件として、第2レジスタ41Bdよりカウンタ読み出し信号がカウンタ41cへと出力され、そのときのカウント値がカウンタカウント値読み出し部41ceより第2レジスタ41Bdへ入力される。
【0051】
第1レジスタ41Bcに入力されたカウント値及び第2レジスタ41Bdに入力されたカウント値は、差計算部41Beに入力される。差計算部41Beは、それらのカウント値の差を算出し、この差を判定部41Bfに入力する。
【0052】
判定部41Bfは、カウント数が正常な値であるかどうか(上記の算出された差が所定の適正範囲内に入っているかどうか)を判定し(ステップ317)、ステップ317で異常な値であると判定した場合は異常信号を中央制御装置100へと出力する(ステップ
318)。中央制御装置100は、異常信号を入力して、前述した所定の異常処理を行う。ステップ317で正常な値であると判定された場合は、カウント値が判定部41Bfより実績照射量情報としてメモリ41M2に記録され、中央制御装置100へと出力される。ここで実績照射量情報の中央制御装置100への出力は、各スポット照射毎に出力しても良いし、各層や各照射が終了した時点でまとめて出力しても良い。また、カウント数から照射量への換算は、スキャニングコントローラ内で処理しても良いし、中央制御装置で処理しても良い。なお、図8は、以上説明したカウンタ41cの一連の動作をタイミングチャートとして表したものである。
【0053】
以上のように構成した本実施例の粒子線照射システムによれば、以下のような効果を得る。
【0054】
通常、この種の粒子線照射システムにおいては、健全な細胞への被ばくを極力防止し過不足のない正しい照射治療を行うために、イオンビームの照射量を測定する線量モニタが設置される。各スポットへの照射時には、各スポットごとの目標照射量が設定されている。線量モニタによる照射量の積算値がその目標照射量に達したとき、加速器へビーム出射停止信号(ビーム停止指令)が出力され、加速器がこれに応じて荷電粒子ビームの出射を停止するようになっている。ここで、加速器は、ビーム停止指令が入力された後若干の応答遅れが生じる可能性がある。本実施例の加速器であるシンクロトロンの場合、前段加速器から入射された低エネルギーのイオンを周回させるとともに、必要エネルギーまで加速し、その後、周回する高エネルギーの荷電粒子ビームのベータトロン振動を共鳴状態にし、荷電粒子ビームに高周波電磁界を印加して荷電粒子ビームのベータトロン振動を増加し、共鳴の安定限界を超えさせて出射する構成となっている。この結果、上記のようにしてビーム停止指令が入力されても、厳密には、直ちに荷電粒子ビームの出力が停止するのではなく、若干の応答遅れが生じる可能性がないとは言えない。
【0055】
本実施例においては、カウンタ制御部41Aは、線量モニタ6Aの出力に基づいてカウンタ41cでカウントされた照射量が目標照射量に到達したとき(ステップ309参照)、スキャニングコントローラ41が高周波印加装置9にビーム出射停止信号の出力のトリガーとなるトリガー信号を出力する(ステップ312参照)。ここでカウンタ41cはカウント数をクリアすることなく、引き続き積算を継続する。
【0056】
図8はこのときのカウンタ41cの挙動を表すタイムチャートである。図8に示すように、ビーム出射停止信号が出力された後、実際にシンクロトロン12からのイオンビームの出射が停止するまでには応答遅れが生じうる(図中の「遅れ」)。しかし、ビーム出射停止信号が出力されてからイオンビームの出射が実際に停止するまで(応答遅れ)の間、シンクロトロン12から出射されたイオンビームに基づく照射量が線量モニタ6Aで計測されてカウンタ41cによって積算される。イオンビームの出射が実際に停止した後、ステップ209,ステップ205の処理によって照射位置が次の照射位置(スポット)へ変更され(図5参照)、ステップ302で次の照射位置に対する目標カウント数(目標線照射量)が設定される(図8では例えば条件A(ある位置のスポットを照射し終えるまでの目標照射量)から条件B(その次のスポットし終えるまでの目標照射量)への変更)。目標カウント数は目標照射量に対応するカウント数である。更に、ステップ303において出力される電流設定指令に基づいて、走査電磁石5A,5Bが制御され、イオンビームの照射位置が次のスポットに合わされる。ステップ305のビーム出射開始信号に基づいて、シンクロトロン12からのイオンビームの出射が再開される。このとき、次のスポットに対するカウント数は、イオンビームの出射再開後における線量モニタ6Aの計測値に基づいたカウント数だけでなく、1つ前のスポットに対する、ビーム出射停止信号が出力されてからイオンビームの出射が実際に停止するまでの応答遅れの期間におけるカウント数も含まれている。すなわち、次のスポットに対するカウント数は、1つ前のスポットに対するその応答遅れ期間におけるカウント数を初期値とし、この初期値にイオンビームの出射再開後のカウント数を積算した値となる。このような次のスポットに対するカウント数が、そのスポットの目標カウント数(図8中の「目標照射量」で表される照射量)に達したとき、スキャニングコントローラ41がビーム出射停止信号を出力する。その後、そのスポットに、その応答遅れ期間においてイオンビームが照射される。この応答遅れ期間の照射量は、前のスポットでの応答遅れ期間における照射量(前述の初期値)にほぼ等しいので、そのスポットへ実際に照射した照射量(図8中の「実績照射量」で表される照射量)は目標照射量にほぼ等しくなる。この応答遅れの間の照射量は、さらに次の移動後のスポット照射時の初期値として積算され、以降、同様に繰り返される。
【0057】
以上に述べたような、カウント数に基づいた制御をスキャニングコントローラ41が行うことにより、各スポット照射時においては、常時、1つ前のスポット照射時に生じた応答遅れ期間における照射量を初期値として含んでいる当該スポットの照射量が、そのスポットの目標線量になるまで、そのスポットに対してイオンビームが照射される。前述の応答遅れを考慮せず照射量制御を行う場合には、前述の初期値分の余剰照射(本来照射したい値を1.0 で示す)が行われ、図9に示すように、全スポットにおいて例えば照射量
1.2 となる可能性があった。これに対し、本実施例では上記のような制御を行うことにより、図10に示すように一番最初に照射を行うスポット(図示左端のスポット)を除くほぼ全部のスポットについて、前述の初期値分の余剰照射がなく、それらのスポットに本来設定された目標照射量にほぼ等しい(照射量がほぼ1.0 となる)イオンビームを高精度に照射することが可能となる。これにより、患部(照射対象)に対して、イオンビームをより均一に照射することができ、患部の線量分布を均一化できる。
【0058】
また、以上のように、ビーム出射停止信号の出力後に予め決められた遅延時間(第1遅延時間)が経過した後に照射量を読み出す制御を行うことで、前述の加速器ビーム停止の応答遅れがある場合にも、各スポットへ照射した照射量を精度良く計測することが可能となる。
【0059】
また、第1遅延時間が経過した後の照射量と、続く第2遅延時間が経過した後の照射量とを読み出し、これらの差が適切な値以下(或いは未満)になっていることを判定する制御を行うことで、加速器からのイオンビームが間違いなく停止していることを確認でき、イオンビームの照射精度を向上させることができる。
【0060】
また本実施例のスキャニングコントローラ41によれば、照射量の積算値を計測するカウンタは、照射開始時に0クリアされる以外は計測を続ける。計数の0クリア,スタート,ストップ制御がなく、誤動作の恐れが少ない。
【0061】
なお、実績照射量と目標照射量の差を算出し、算出結果が予め決めた許容範囲を超えている場合に異常信号を出力する判定機能を設けても良い。これにより加速器応答遅れに起因するイオンビームの照射量が大きくばらつかないことを監視することができ、装置の異常を検出して安全性を向上させることができる。
【0062】
また、線量モニタとその出力によって照射量を積算するカウンタを複数設け、一方の目標照射量を元々治療計画で計画した照射量よりも多くすることで、線量モニタ及びカウンタの誤動作による過照射のリスクを低減することができる。この際、2つの線量モニタ及び/又はカウンタを別々の電源装置からの電力供給にて動作させることや、信号経路を変えることによって独立性を高めることで、単一故障による同時誤作動のリスクを低減し、より安全性を向上させることができる。
【0063】
次に、本発明の第2の実施例の陽子線照射システムについて説明する。本実施例の陽子線照射システムは、第1実施例の陽子線照射システムとスキャニングコントローラが異なっているだけである。本実施例の陽子線照射システムは、スキャニングコントローラとして、図13に示すスキャニングコントローラ41Aを有する。第1実施例同様、本実施例の陽子線照射システムも、治療計画装置140により作成した治療計画情報に基づき、中央制御装置100,スキャニングコントローラ41A,加速器コントローラ40が互いに連携して制御を行う。この制御の結果として、照射装置15からのイオンビームの出力を停止させ、イオンビームの出力を停止した状態で、走査電磁石5A,5Bを制御することによりイオンビームの照射位置(スポット)を変更させ、この変更後に、照射装置15からのイオンビームの出力を開始させる(いわゆるスキャニング)ように、シンクロトロン12及び照射装置15を制御する。
【0064】
第1実施例と同様に、図1に示す中央制御装置100のCPU101がメモリ103に格納した治療計画情報を記憶装置110から読み出してスキャニングコントローラ41のメモリ(図示せず)に記憶させる。ここで第1の実施例と異なり、スキャニングコントローラへ送信する各スポットに対する目標照射量は、個々のスポットに対する照射量とする。また、第1の実施例と同様、CPU101は、治療計画情報のうち全ての層に関する運転パラメータのデータ(各層に照射するイオンビームのエネルギーによって定まる、ディグレーダ番号及びビーム輸送系の各電磁石の励磁電流値)を、加速器コントローラ40Aに伝える。
【0065】
本実施形態におけるスポットスキャニングを実施する際のスキャニングコントローラ
41A及び加速器コントローラ40による各制御においても、図5に示された制御手順が実行される。しかしながら、前述のように各照射位置での目標照射量が積算値でないことに基づき、スキャニングコントローラ41Aの機能的構成と内部の動作がスキャニングコントローラ41と異なっている。
【0066】
図12は、スキャニングコントローラ41Aの機能的構成を詳細に表す機能ブロック図である。図12において、スキャニングコントローラ41Aは、照射量の検出に関わるものとして、プリセットカウンタ41a,記録カウンタ41bを備えている。プリセットカウンタ41a及び記録カウンタ41bは、線量モニタ6Aから出力されるパルスの数をカウントすることによって照射量を求めるものである。
【0067】
スキャニングコントローラ41Aは、カウンタ41cの替りにプリセットカウンタ41a,記録カウンタ41bを用いたことが、スキャニングコントローラ41と異なっている部分である。プリセットカウンタ41aは、パルス入力部41aa,設定値入力部41ab,初期化(クリア)信号入力部41ac,設定値比較結果出力部41afを備えている。また、記録カウンタ41bは、パルス入力部41ba,初期化(0クリア)信号入力部
41bc,カウント値読み出し部41beを備えている。
【0068】
スキャニングコントローラ41Aが実行する、図5のステップ205及び300の詳細手順を、図13を用いて説明する。ステップ303〜305,312,314,315,317及び318の処理は、スキャニングコントローラ41で行われるそれらの処理と同じである。ステップ302,309〜311の処理はプリセットカウンタ41aで行われ、ステップ316,319の処理が記録カウンタ41bで行われる。演算子iが1、演算子jがあらかじめ1に初期化されている。以下に、スキャニングコントローラ41と異なる、スキャニングコントローラ41Aの処理を中心に説明する。
【0069】
ステップ301で、既にメモリ41M1に格納されているプリセットカウンタ41aの目標カウント数に対応するプリセットカウンタ設定指令をプリセットカウンタ設定値入力部41abに出力する。プリセットカウンタ41aは、ステップ302で、その設定指令に応じて層1の1番目のスポットにおける目標カウント数を設定する。目標カウント数は、図11に示した「目標照射量」の欄における、該当する層内の該当するスポットに対する目標照射量である。
【0070】
ステップ301の処理の終了後に、ステップ303〜305の処理が実行される。ステップ305でのビーム出射許可信号の出力によって患者30へのビーム照射が開始されると、線量モニタ6Aの検出信号(パルス)が、線量パルス列に変換された後、プリセットカウンタ41aのパルス入力部41aa及び記録カウンタ41bのパルス入力部41baに入力される。これらのカウンタ41a,41bはそのパルスを同時にカウントする。このカウント数は、カウント開始からの照射量を表す。
【0071】
プリセットカウンタ41aは、線量モニタ6Aの検出信号に基づいたカウント数が設定された目標カウント数以上となった場合に(ステップ309)、設定値比較結果出力部
41afよりトリガー信号を出力する(ステップ310)。このトリガー信号は第1リセット信号としてプリセットカウンタ41aの初期化(0クリア)信号入力部41acに入力され、プリセットカウンタ41aのカウント数が0にリセットされる(ステップ311)。リセット後、プリセットカウンタ41aは、再び、線量モニタ6Aの検出信号に基づいてカウントが開始する。
【0072】
スキャニングコントローラ41Aは、ステップ312でトリガー信号に基づいてビーム出射停止信号を出力する(ステップ312)。これにより、前述したようにシンクロトロン12からのイオンビームの出射が停止され、患者への照射が停止される。このようにして照射が停止される。スキャニングコントローラ41Aも、スキャニングコントローラ
41と同様に、ビームON/OFF信号生成部41Eでビーム出射開始信号及びビーム出射停止信号を生成する。
【0073】
スキャニングコントローラ41Aは、ステップ314において、上記トリガー信号の入力によって第1遅延タイマー41Baをスタートさせる。第1遅延時間が経過した後、第1遅延時間到達信号が第1レジスタ41Bcに出力される(ステップ315)。ステップ316において、第1レジスタ41Bcより記録カウンタ読み出し信号が記録カウンタ
41bへと出力され、そのときのカウント数がカウント値読み出し部41beより第1レジスタ41Bcに出力される。第2レジスタ41Bdよりカウンタ読み出し信号が記録カウンタ41bに出力されたとき、第2レジスタ41Bdにも、カウント値読み出し部41beより、そのときのカウント数が入力される。差計算部41Beは、第1及び第2レジスタ41Bc,41Bdのそれぞれから入力したカウント数の差を算出し、値は、差計算部
41Beに入力されてそれらの偏差が算出され、算出された差が判定部41Bfに入力される。判定部41Bfはカウント数が正常な値であるかどうか(上記の算出された差が所定の適正範囲内に入っているかどうか)を判定する(ステップ317)。ステップ317の判定が「No」である場合、すなわち「カウント数が異常な値である」と判定された場合は、ステップ318で異常信号が中央制御装置100に出力される。ステップ317で正常な値であると判定された場合は、判定部41Bfは、記録カウンタ41bをリセットする第2リセット信号をOR回路を介して記録カウンタ41bの初期化(0クリア)信号入力部41bcに入力してリセットされて再カウントが開始される(ステップ319)。また、このとき、カウント数が判定部41Bfより実績照射量記録としてメモリ41M2に記録され、中央制御装置100へと出力される。ここで実績照射量記録の中央制御装置100への出力は、各スポット照射毎に出力しても良いし、各層や各照射が終了した時点でまとめて出力しても良い。また、カウント数から照射量への換算は、スキャニングコントローラ内で処理しても良いし、中央制御装置で処理しても良い。
【0074】
なお、図14は、以上説明したカウンタ41cの一連の動作をタイミングチャートとして表したものである。
【0075】
以上のように構成した第2の実施形態の粒子線照射システムによって、第1の実施形態と同様の効果を得る。
【0076】
更に本実施形態においては、プリセットカウンタ及び記録カウンタによるカウント数は各スポット照射量で決まるため、第1実施例のように積算にした場合に比べて最大カウント数が小さくできる。これにより、中央制御装置100とスキャニングコントローラの間でのデータの送受信量を小さくすることができ、送受信時間を短縮することができる。規模の小さな回路で構成することができる。これにより、カウント数設定値比較の高速化が可能となる。
【0077】
第2実施例では、あるスポット照射時に生じたシンクロトロン12の応答遅れ期間の照射量が次のスポットへの照射量であるとして、そのスポットの目標線量になるまでそのスポットにイオンビームを照射したが、以下の(1)及び(2)の方法でも同じ効果を得ることができる。
【0078】
(1)プリセットカウンタ41aにおけるステップ309で、あるスポットに対する目標照射量から1つ前のスポットへの照射時に生じた上記応答遅れ期間の照射量を差し引き、更に残りの照射量からあるスポットに対する照射時におけるカウント数を差し引いて残りの照射量が0になったことに基づいて、ステップ310でトリガー信号を出力する。
【0079】
(2)プリセットカウントにおけるステップ302で設定される目標カウント数として、あるスポットに対する目標照射量から1つ前のスポットへの照射時に生じた上記応答遅れ期間の照射量を差し引いた照射量を設定することである。
【0080】
なお、以上に述べたスポットスキャニングによるイオンビーム照射は、加速器としてサイクロトロンを用いた陽子線照射システムに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の粒子線照射システムの一実施例である陽子線照射システムの全体構成を表す概念図である。
【図2】患部領域における一様性を確保するために各層で照射する線量分布の一例を表す概念図である。
【図3】図1に示した粒子線出射装置の照射対象の患部領域の一例を表す図である。
【図4】図1に示した治療計画装置で計画した照射時における各層のスキャニング態様を実施する、第1実施例での指令信号の内容を表す図である。
【図5】図1に示したスキャニングコントローラ及び加速器・輸送系コントローラが実行する制御手順を表すフローチャートである。
【図6】第1実施例でのスキャニングコントローラの機能的構成を詳細に表す機能ブロック図である。
【図7】第1の実施例でのスキャニングコントローラが実行する制御手順の詳細を表すフローチャートである。
【図8】図7に示した、スキャニングコントローラが実行する制御手順によって実現される各カウンタ及び実際のビーム動作の態様の一例を表すフローチャートである。
【図9】比較例によって実現される照射線量分布の一例を表す図である。
【図10】図7に示したスキャニングコントローラが実行する制御手順によって実現される照射線量分布の一例を表す図である。
【図11】本発明の第2実施例の陽子線照射システムにおける治療計画装置で計画した照射時における各層のスキャニング態様を実施する指令信号の内容を表す図である。
【図12】第2の実施例でのスキャニングコントローラ41の機能的構成を詳細に表す機能ブロック図である。
【図13】第2の実施例でのスキャニングコントローラが実行する制御手順の詳細を表すフローチャートである。
【図14】図13に示した第2の実施例でのスキャニングコントローラが実行する制御手順によって実現される各カウンタ及び実際のビーム動作の態様の一例を表すフローチャートである。
【符号の説明】
【0082】
1…荷電粒子ビーム発生装置、4…ビーム輸送系、5A,5B…走査電磁石(荷電粒子ビーム走査装置)、6A…線量モニタ(照射量検出装置)、9…高周波印加装置、12…シンクロトロン(加速器)、15…照射装置、40…加速器・輸送系コントローラ、41,41A…スキャニングコントローラ、91…高周波電源、92…開閉スイッチ、93…高周波印加電極、100…中央制御装置、140…治療計画装置。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを出射する加速器と、
荷電粒子ビーム走査装置を有し、前記加速器から出射された荷電粒子ビームを照射対象の照射位置に照射する照射装置と、
前記照射位置への前記荷電粒子ビームの照射量を計測する照射量検出装置と、
前記照射量検出装置で計測された前記照射量を入力し、第2の前記照射位置の1つ前の第1の前記照射位置における、ビーム出射停止信号出力後の第1の前記照射量と、前記第2の照射位置への第2の前記照射量との積算量が設定照射量に達したとき、前記第2の照射位置に照射する前記荷電粒子ビームの出射を停止させるビーム出射停止信号を出力する制御装置とを備えたことを特徴とする粒子線照射システム。
【請求項2】
荷電粒子ビームを出射する加速器と、
荷電粒子ビーム走査装置を有し、前記加速器から出射された荷電粒子ビームを照射対象の照射位置に照射する照射装置と、
前記照射位置への前記荷電粒子ビームの照射量を計測する照射量検出装置と、
前記照射量検出装置で計測された前記照射量を入力し、第2の前記照射位置の1つ前の第1の前記照射位置における、ビーム出射停止信号の出力後の前記第1の照射量を含む、前記第2の照射位置に対する積算照射量が、設定照射量に達したとき、前記第2の照射位置に照射する前記荷電粒子ビームの出射を停止させるビーム出射停止信号を出力する制御装置とを備えたことを特徴とする粒子線照射システム。
【請求項3】
前記ビーム出射停止信号に基づいて前記加速器からの荷電粒子ビームの出力を停止させ、荷電粒子ビームの出力を停止した状態で、前記荷電粒子ビーム走査装置を制御することにより照射位置を前記第2の照射位置に変更させ、この変更後に、ビーム出射開始信号に基づいて前記加速器からの荷電粒子ビームの出力を開始させる前記制御装置を備えた請求項1または請求項2に記載の粒子線照射システム。
【請求項4】
前記照射量が、前記照射対象への前記荷電粒子ビームの照射開始を実質的な起点とした積算照射量である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の粒子線照射システム。
【請求項5】
前記照射量が、ビーム出射停止信号の出力を実質的な起点とした積算照射量である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の粒子線照射システム。
【請求項6】
前記ビーム出射停止信号の出力の後で設定された時間が経過したとき、前記積算照射量を読み出す請求項4または請求項5に記載の粒子線照射システム。
【請求項7】
前記ビーム出射停止信号の出力時から前記積算照射量の読み出しまでの時間が、前記加速器からの前記荷電粒子ビームの出射が実質的に停止するのに必要な時間よりも長い請求項6に記載の粒子線照射システム。
【請求項8】
前記制御装置が、前記ビーム出射停止信号の出力から設定された時間が経過するまでの期間に前記第1の照射位置に照射される照射量に基づいて異常判定を行う請求項1または請求項2に記載の粒子線照射システム。
【請求項9】
前記ビーム出射停止信号の出力から前記設定された時間までの期間が、前記荷電粒子ビームが実質的に停止するのに必要な時間よりも長いことを特徴とする、前記請求項8に記載の粒子線照射システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−145213(P2006−145213A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−331325(P2004−331325)
【出願日】平成16年11月16日(2004.11.16)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】