粒子群、複合構造物形成方法、および形成システム
【課題】本発明は、エアロゾル中の微粒子濃度をより安定させることができ、かつ安定した状態を長時間にわたり維持することができる粒子群、複合構造物形成方法、および形成システムを提供する。
【解決手段】エアロゾルデポジション法に用いる粒子群であって、前記粒子群は、複数の脆性材料微粒子を含む微粒子を固めた集合体であり、前記粒子群のスパチュラ角が46.2°以下であること、を特徴とする粒子群が提供される。
【解決手段】エアロゾルデポジション法に用いる粒子群であって、前記粒子群は、複数の脆性材料微粒子を含む微粒子を固めた集合体であり、前記粒子群のスパチュラ角が46.2°以下であること、を特徴とする粒子群が提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子群、複合構造物形成方法、および形成システムに関し、より詳細には、脆性材料の微粒子をガス中に分散させたエアロゾルを基材に吹き付け、微粒子の構成材料からなる構造物を基材上に形成させるエアロゾルデポジション法に用いる粒子群、複合構造物の形成方法および形成システムに関する。
【背景技術】
【0002】
基材の表面に脆性材料からなる構造物を形成させる方法として、「エアロゾルデポジション法」がある(例えば、特許文献1〜3)。これは、脆性材料を含む微粒子をガス中に分散させたエアロゾルを吐出口から基材に向けて噴射し、金属やガラス、セラミックスやプラスチックなどの基材に微粒子を衝突させ、この衝突の衝撃により脆性材料微粒子に変形や破砕を起させしめてこれらを接合させ、基材上に微粒子の構成材料からなる膜状構造物をダイレクトに形成させる方法である。この方法によれば、特に加熱手段などを必要とせず、常温で膜状構造物の形成が可能であり、焼成体と比較して同等以上の機械的強度を有する膜状構造物を得ることができる。また、微粒子を衝突させる条件や微粒子の形状、組成などを制御することにより、構造物の密度や機械強度、電気特性などを多様に変化させることが可能である。
【0003】
このエアロゾルデポジション法において大面積の膜状構造物の形成を実施する場合、微粒子を所定時間供給し続けることが必要となる。特に、膜厚精度が要求される場合においては、微粒子の供給量が常に安定していることが望まれる。
【0004】
しかし、特許文献1のように、原料となる微粒子が収容される収容機構内でエアロゾル化をさせるようにすると、エアロゾル化させるための容積を稼ぐために収容機構の容積を微粒子の体積よりはるかに大きくする必要があり、大規模な装置が必要となるおそれがある。また、大量の微粒子を収容した場合には、時間の経過とともに微粒子の状態が変化するなどのおそれがあり、エアロゾルの安定供給に課題を有していた。
【0005】
そこで、特許文献2や3に開示をされているように、微粒子を収容する収容機構と、微粒子をガスと混合してエアロゾル化させるエアロゾル化機構とを分離し、収容機構からエアロゾル化機構に微粒子を必要量ずつ搬送する技術が提案されている。
【0006】
しかし、一次粒子としてサブミクロン以下の微粒子を用いる場合、粘性、付着性が強いため、収容機構内部や収容機構からエアロゾル化機構へ搬送する過程において壁面への付着やスタックなどの問題が発生しやすく、確実な搬送を実現することが困難となるおそれがある。例えば、収容機構内部での微粒子の攪拌や移動によって微粒子が凝集しやすくなり、その流動性が変化する。そして、ついには収容機構内部でスタックが生じ、このスタックが生じるとエアロゾル化機構への粉体の移動が妨げられるので、供給量の定量性が失われる。また、収容機構内部で付着が発生すると、計画通りの粉体使用量が達成できないといった弊害が生ずるおそれもある。
【0007】
また、収容機構から搬出される際に、微粒子または所定の大きさや形状に分割される微粒子の集団の形状や密度が不均一となる場合、所定の解砕能力を有するエアロゾル化機構を用いたとしても、終始安定した微粒子濃度のエアロゾルを発生させることが困難となるおそれがある。また、搬送の過程において、所定の大きさや形状に分割された微粒子の集団の形状や密度が変化した場合にも、エアロゾルの微粒子濃度を正確に制御することが困難となるおそれがある。
【特許文献1】特許第3348154号公報
【特許文献2】特開2006−200013号公報
【特許文献3】特開2006−233334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、エアロゾル中の微粒子濃度をより安定させることができ、かつ安定した状態を長時間にわたり維持することができる粒子群、複合構造物形成方法、および形成システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、エアロゾルデポジション法に用いる粒子群であって、前記粒子群は、複数の脆性材料微粒子を含む微粒子を固めた集合体であり、前記粒子群のスパチュラ角が46.2°以下であること、を特徴とする粒子群が提供される。
また、本発明の他の一態様によれば、エアロゾルデポジション法に用いる粒子群であって、前記粒子群は複数の微粒子を含み、前記微粒子の平均粒径が0.1マイクロメータ以上10マイクロメータ以下、前記粒子群の平均粒子径が10マイクロメータ以上500マイクロメータ以下、前記粒子群のスパチュラ角が46.2°以下であること、を特徴とする粒子群が提供される。
【0010】
また、本発明の他の一態様によれば、収容機構に収容された上記の粒子群を前記収容機構から搬出してガス供給機構から供給されたガスとともにエアロゾル化機構に搬送し、前記搬送された前記粒子群を解砕させてエアロゾルを形成し、前記エアロゾルを基材に向けて噴射することにより前記粒子群の構成材料からなる構造物と前記基材との複合構造物を形成すること、を特徴とする複合構造物形成方法が提供される。
また、本発明の他の一態様によれば、収容機構に収容された上記の粒子群を前記収容機構から搬出してエアロゾル化機構に搬送し、ガス供給機構から供給されたガスとともに前記搬送された前記粒子群を解砕させてエアロゾルを形成し、前記エアロゾルを基材に向けて噴射することにより前記粒子群の構成材料からなる構造物と前記基材との複合構造物を形成すること、を特徴とする複合構造物形成方法が提供される。
【0011】
さらにまた、本発明の他の一態様によれば、微粒子をガス中に分散させたエアロゾルを基材に衝突させて前記微粒子の構成材料からなる構造物と前記基材との複合構造物を形成する複合構造物形成システムであって、上記の粒子群を収容する収容機構と、前記収容機構から前記粒子群を搬出する供給機構と、前記搬出された粒子群に向けてガスを供給するガス供給機構と、前記ガスを混流した前記粒子群に対して衝撃を加えることで複数の微粒子に解砕しエアロゾルを形成させるエアロゾル化機構と、前記エアロゾルを基板上に噴射する吐出口と、を備えることを特徴とする複合構造物形成システムが提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、エアロゾル中の微粒子濃度をより安定させることができ、かつ安定した状態を長時間にわたり維持することができる粒子群、複合構造物形成方法、および形成システムが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施の形態について説明をする前に、まず、本明細書において用いる用語について説明をする。
本明細書において「微粒子」とは、緻密質粒子である場合は、走査型電子顕微鏡などにより同定される平均粒径が0.1マイクロメータ以上10マイクロメータ以下のものをいう。また、「一次粒子」とは、微粒子の最小単位(一粒)のことをいう。走査型電子顕微鏡での平均粒径の同定においては、観察像中、任意に100ヶの微粒子を選択し、その長軸と短軸の平均値を採用して、観察した微粒子全ての平均値から算出することができる。前記微粒子中の脆性材料粒子は、エアロゾルデポジション法における構造物形成の主体となるものであり、一次粒子の平均粒径は0.01マイクロメータ以上、10マイクロメータ以下、より望ましくは0.1マイクロメータ以上、5マイクロメータ以下である。
【0014】
また、「粒子群」とは、複数の脆性材料微粒子を含む微粒子を固めた集合体であって、その形状・密度が意図的に制御されている状態のものをいう。ここで、粒子群の平均粒子径としては、10マイクロメータ以上500マイクロメータ以下とすることが好ましい。そして、粒子群の粒径の標準偏差/粒子群の平均粒子径が33%以内であることが好ましい。
【0015】
そして、粒子群の中においては、微粒子の殆どが互いに分離したままの状態、または、微粒子が静電気、ファンデルワールス力、水分、微量のバインダー成分による架橋、などによって固められて互いに軽く結合したような状態であることが好ましい。微粒子を意図的に固めることにより、その結合強度、形状、の少なくともいずれかが制御されている。このとき含有される微粒子同士が化学的結合により一次粒子の径より著しく大きく接合固化をしていないことが望ましい。微粒子を固める方法としては、例えば、スプレードライヤー法、パン型造粒機、ポット型造粒機などを用いて製造することができる。固めるにあたりバインダーを加えても良いし、水などを加えても良い。尚、スプレードライヤー法、パン型造粒機、ポット型造粒機などについては既知の技術を用いることができるのでその説明は省略する。
【0016】
粒子群の平均粒子径及び標準偏差は、例えば、ランダムに選別した100個の粒子群を光学顕微鏡により径を計測して算出することができる。この場合、粒子群の形状が真球でない場合においては、粒子の投影像の長軸と短軸の平均値を採用して算出することができる。
【0017】
また、「固気混相流」とは、所定の大きさに制御された前述の粒子群が、ガス流に乗って移動している状態を指す。
【0018】
また、「凝集体」とは、微粒子の集合体であって、意図的に所定の大きさや形状にされた微粒子の集団でなく、自然発生的に形成され、微粒子が互いに結合した状態をいい、その大きさ、形状や結合の強度についても、制御されていない状態をいうものとする。
【0019】
また、「エアロゾル」とは、ヘリウムガスやアルゴンガスのような不活性ガス、窒素ガス、酸素ガス、乾燥空気、水素ガス、有機ガス、フッ素ガス、これらを含む混合ガスなどのガス中に前述の微粒子を分散させた状態を指し、一部凝集体を含む場合もあるが、実質的には微粒子が単独で分散している状態をいう。エアロゾルのガス圧力と温度は任意であるが、ガス中の微粒子の濃度は、ガス圧を1気圧、温度を摂氏20度に換算した場合に、吐出口から噴射される時点において0.0003mL/L〜10mL/Lの範囲内であることが膜状構造物の形成にとって好ましい。
また、「スタック」とは、容器内や粒子が通過する通路などにおいて、粒子の付着や粒子自体の凝集により粒子の移動が妨げられること、または、そのようになる状態をいう。スタックは、粒子が通過する通路の断面形状が小さくなった場所で発生しやすく、例えば、後述する収容機構の出口、供給機構の入口、搬送路などで発生しやすい。
【0020】
次に、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明をする。
図1は、本発明の実施の形態にかかる複合構造物形成システムの基本構成を例示するためのブロック図である。すなわち、同図は、エアロゾルデポジション装置の構成を例示するためのブロック図である。
【0021】
本実施の形態に係るエアロゾルデポジション装置は、収容機構1と、供給機構2と、ガス供給機構3と、エアロゾル化機構4と、吐出口5と、を備えている。
収容機構1の後段には、供給機構2が設置されている。また、供給機構2の後段には、エアロゾル化機構4が設置され、さらにエアロゾル化機構4の後段には、吐出口5が設置されている。そして、ガス供給機構3が、供給機構2に接続されている。
【0022】
収容機構1には、予め形成された粒子群が収容される。そして、供給機構2は、収容機構1に収容された粒子群を、後段のエアロゾル化機構4に対して粒子群の形状、状態を損なうことなく所定の量供給する。
【0023】
供給機構2により供給された粒子群はガス供給機構3により供給されたガスと共に固気混相流を形成し(固気混相流発生部)、搬送部(搬送路)を通じてエアロゾル化機構4へと搬送される。搬送された粒子群は、エアロゾル化機構4内で解砕され、微粒子がガス中に分散することでエアロゾルが形成される。エアロゾルは吐出口5より基材7に向けて噴射され、基材7上には膜状構造物6(図5を参照)が形成される。
尚、固気混相流を形成させないで、供給機構2から粒子群を搬送部(搬送路)を通じてエアロゾル化機構4へと搬送し、搬送された粒子群と、ガス供給機構3により供給されたガスとを用いて、エアロゾル化機構4内で粒子群を解砕して、微粒子がガス中に分散したエアロゾルを形成させるようにすることもできる。
ただし、固気混相流を形成させるものとすれば、粒子群を単に搬送するのみならず、エアロゾル化機構4に向けて粒子群を加速させることができるので、エアロゾル化が円滑に行われることになる。
【0024】
尚、ガス供給機構3は、粒子群を確実にエアロゾル化機構4へと搬送させるために、収容機構1と接続してもよく、エアロゾル中の微粒子濃度を調節するためにエアロゾル化機構4と接続してもよい。
【0025】
ここで、エアロゾルデポジション法の原理について説明をする。
エアロゾルデポジション法において利用される微粒子は、セラミックスや半導体などの脆性材料を主体とし、同一材質の微粒子を単独であるいは粒径の異なる微粒子を混合させて用いることができるほか、異種の脆性材料微粒子を混合させたり、複合させて用いることも可能である。また、金属材料や有機物材料などの微粒子を脆性材料微粒子に混合させたり、脆性材料微粒子の表面にコーティングさせて用いることも可能である。ただし、これらの場合でも、膜状構造物を形成させる際に主となるものは、脆性材料である。
【0026】
エアロゾルデポジション法において、微粒子を基材に対して50〜450m/sの速度で衝突させるようにすれば、微粒子中の脆性材料微粒子の構成材料からなる構造物を得るのに好適である。
【0027】
エアロゾルデポジション法のプロセスは、通常は常温で実施され、微粒子材料の融点より十分に低い温度、すなわち摂氏数100度以下で膜状構造物の形成が可能であるところにひとつの特徴がある。
【0028】
結晶性の脆性材料微粒子を原料として用いる場合、エアロゾルデポジション法によって形成される複合構造物のうち膜状構造物の部分において、その結晶粒子サイズは原料微粒子のそれに比べて小さい多結晶体となっており、その結晶は実質的に結晶配向性がない場合が多い。また、脆性材料結晶同士の界面には、ガラス層からなる粒界層が実質的に存在しない。また多くの場合、膜状構造物の部分において、基材の表面に食い込む「アンカー層」が形成されている。膜状構造物は、このアンカー層が形成されているため基材に対して極めて高い強度で強固に付着して形成される。
【0029】
エアロゾルデポジション法により形成される膜状構造物は、微粒子同士が圧力によりパッキングされ物理的な付着で形態を保っている状態のいわゆる「圧粉体」とは明らかに異なり、十分な強度を有している。
【0030】
この場合、エアロゾルデポジション法において、飛来してきた脆性材料微粒子が基材の上で破砕・変形を起していることは、原料として用いる脆性材料微粒子と、形成された脆性材料構造物の結晶子サイズとをX線回折法などで測定することにより確認することができる。
【0031】
エアロゾルデポジション法で形成された膜状構造物の結晶子サイズは、原料微粒子の結晶子サイズよりも小さい。また、微粒子が破砕や変形をすることで形成される「ずれ面」や「破面」には、もともとの微粒子の内部に存在し別の原子と結合していた原子が剥き出しの状態となった「新生面」が形成される。そして、表面エネルギーが高く活性なこの新生面が、隣接した脆性材料微粒子の表面や同じく隣接した脆性材料の新生面あるいは基材の表面と接合することにより膜状構造物が形成されるものと考えられる。
【0032】
また、エアロゾル中の微粒子の表面に水酸基がほどよく存在する場合には、微粒子の衝突時に微粒子同士や微粒子と構造物との間に生じる局部のずれ応力などにより、メカノケミカルな酸塩基脱水反応が起き、これら同士が接合するということも考えられる。外部からの連続した機械的衝撃力の付加は、これらの現象を継続的に発生させ、微粒子の変形、破砕などの繰り返しにより接合の進展、緻密化が行われ、脆性材料からなる膜状構造物が成長するものと考えられる。
これまでに得られた知見として、微粒子の大きさは平均粒径が0.1マイクロメータ以上、10マイクロメータ以下の範囲であれば、エアロゾルデポジション法による膜状構造物が得られ、平均粒径が0.1マイクロメータ以下では前記「圧粉体」となる傾向がある。また、10マイクロメータ以上であれば、基材をブラストする傾向があり、エアロゾルデポジション法に用いる粒子径としては不適当である。
【0033】
エアロゾル化機構において粒子群を解砕する手法としては、粒子群を壁、突起、回転体などに衝突させることによる機械的衝撃力を利用することが有効である。特に、粒子群をガスと混合させた固気混相流の状態で加速させれば、質量をもった粒子群を慣性力によって壁などに衝突させることが容易となる。この際、解砕エネルギーは、粒子群の質量と速度によって決定されるが、解砕に必要な速度を得るためにはエアロゾル化機構前後の圧力差が必要となる。
【0034】
ここで、目標とする膜状構造物の厚みや表面粗さなどの品質をより正確にするためには、粒子群の平均粒子径が10マイクロメータ以上500マイクロメータ以下に制御されていることが好ましい。微粒子の平均粒径が0.1マイクロメータ以上10マイクロメータ以下の場合、粒子群の大きさを10マイクロメータ以上とすると球形により近い粒子群を作りやすいため好適である。また、500マイクロメータ以下とすることで粒子群を解砕してエアロゾル化させるのに好適である。
更に粒子群の粒径の標準偏差/粒子群の平均粒子径が33%以内に制御されていることが好ましい。粒子群の粒径が前記範囲とすることで、エアロゾル中の微粒子濃度を安定なものとすることが可能となる。
また、本発明者の得た知見によれば、ガスの種類として、例えば、空気、窒素、酸素のいずれか、或いは前記ガスを主成分とした混合気体を用い、1気圧25℃換算の場合において、ガスの供給量を搬送路の最小断面積に対して、0.05L/(分・mm2)以上、50.0L/(分・mm2)以下の体積流量とすれば、固気混相流中の粒子群を効率よく加速させることができ、エアロゾル化を確実且つ容易に実施することができる。
ここで、エアロゾルデポジション法において、得られる膜状構造物が大面積にわたって均質で、均一な厚みを持たせるためには、吹き付けるエアロゾル中の微粒子濃度が常に安定していることが必要となる。すなわち、膜の品質・品位を安定させるためには、如何にして安定した微粒子濃度のエアロゾルを形成させるかが、本手法の重要な技術要素となる。
【0035】
この場合、特許文献1に開示されているような技術では、収容機構に収容された微粒子の状態が時間の経過とともに変化するなどして、安定した微粒子濃度のエアロゾルの発生が困難となるおそれがある。
また、特許文献2や3に開示されているような技術でも、一次粒子としてサブミクロン以下の微粒子を用いる場合、粘性、付着性が強いため、収容機構内部や収容機構からエアロゾル化機構に搬送する過程において壁面への付着やスタックなどの問題が発生しやすく、安定した微粒子濃度のエアロゾルの発生が困難となるおそれがある。
【0036】
そして、最も安定した微粒子濃度のエアロゾルを形成させることができる特許文献3に開示されている技術でも、収容機構から供給される際、あるいは搬送の過程において、微粒子または所定の大きさや形状に分割される微粒子の集団の形状や密度が不均一となる場合が生じ、瞬間的ではあるが安定した微粒子濃度のエアロゾルを形成させることが困難となるおそれがある。
【0037】
これに対し、本実施の形態によれば、粘性・付着性の強い微粒子を、予め形状の揃った状態、または結合強度が一定の状態の粒子群とし、そのような状態の粒子群を収容機構に収容することとしている。そして、この粒子群の形状を維持したまま定量的に供給することとしているため、後段に設置されているエアロゾル化機構において、短期的に見ても微粒子濃度が大きく変動することがなく、正確かつ長期間安定した微粒子濃度のエアロゾルを形成させることができる。その結果、吐出口から噴射されるエアロゾル中の微粒子の量を確実に制御することができ、基材上に形成される膜状構造物の膜厚や膜質も確実に制御することができる。
【0038】
ここで、収容機構内部あるいは搬送の過程において粒子群を安定的、定量的に供給するためには、粒子群の形状が重要となる。
本発明者は検討の結果、スパチュラ角が46.2°以下となるような粒子群の形状とすれば、収容機構内部や搬送の過程における壁面への付着やスタックなどを抑制することができ、長期間安定した微粒子濃度のエアロゾルを形成させることができるとの知見を得た。
【0039】
表1は、本発明者が検討をした粒子群のスパチュラ角を例示するための表である。
【表1】
また、図2〜図4は、それぞれのスパチュラ角における搬送の安定性の評価結果を例示するためのグラフ図である。
尚、図2〜図4の図中、実線で示すものは搬送速度(5sec(秒)あたりの搬送量)、破線で表すものは搬送速度の設定値(目標値)、一点鎖線で表すものは累積の搬送量である。
【0040】
本検討においては、粒子群を形成する微粒子を平均粒子径0.3マイクロメートルの高純度チタン酸バリウムとした。また、スパチュラ角はホソカワミクロン社製パウダーテスター「PT−R」を用いて計測した。そして、供給の安定性を評価する手段として、粒子群の供給に振動フィーダーを用いた。尚、供給の安定性の評価は振動フィーダに限定されるわけではなく、例えば、オリフィスやメッシュを通じて落下させるなどで評価することもできる。
【0041】
図2からは、微粒子が未処理の状態(スパチュラ角が調整されていない状態)では搬送量が安定せず、収容器内でのスタックにより微粒子が供給されない時間帯(図2における10min付近)があるなど、安定した供給ができないことがわかる。
【0042】
一方、図3や図4からわかるように、粒子群のスパチュラ角を46.2°以下とすれば、搬送量が安定し、スタックも無く目標どおりの安定した供給を達成することができる。
【0043】
尚、粒子群のスパチュラ角の調整は、転動造粒法、押出し造粒法、圧縮造粒法などの既知の造粒法を用いて粒子群を形成させる際に行うことができるため、その説明は省略する。
【0044】
図5は、本発明の実施の形態に係る複合構造物形成システム(エアロゾルデポジション装置)の第1の具体例を例示するための模式図である。
尚、図1で説明をしたものと同様の部分には同じ符号を付し説明は省略する。
【0045】
本具体例においては、構造物形成室8が設けられ、吐出口5の少なくとも先端部分と基材7を支持する支持走査機構10とが、構造物形成室8の中に配置されている。構造物形成室8の中に搬入された基材7は、支持走査機構13に内蔵されている、例えば、静電チャックなどで支持される。
【0046】
構造物形成室8の内部空間は、排気機構9によって減圧状態が維持可能とされている。排気機構9としては、例えば、ロータリーポンプなどを用いることができ、構造物形成室8の内部を大気圧よりも低い減圧雰囲気に維持することができる。
【0047】
エアロゾル化機構4において生成されたエアロゾルは、吐出口5から基材7に向けて噴射され、基材7上には原料微粒子からなる膜状構造物6が形成される。この時、構造物形成室8内が減圧環境にあるために、エアロゾルは圧力差により加速されて基材7に衝突する。その結果、前述したように強固な膜状構造物を基材7上に形成することができる。
【0048】
また、構造物形成室8を減圧状態に維持することにより、エアロゾルが基材7に衝突して形成される「新生面」がより長い時間、活性状態を維持することができ、膜状構造物の緻密性や強度を上げることが可能となる。
【0049】
また、基材7は、支持走査機構10の上に支持され、XYZθ方向の少なくともいずれかの方向にその位置を適宜移動させながら膜状構造物6を形成させることができる。すなわち、支持走査機構10により基材7を適宜走査しつつエアロゾルを吹き付けることで、吐出口5から噴射されるエアロゾルのビームサイズよりも大面積の基材7の表面に膜状構造物6を形成させることができる。
【0050】
本具体例によれば、所定の形状に調整された粒子群を収容機構1に収納し、その粒子群を供給機構2により確実に供給することで、供給量を容易に定量化することができる。そのため、エアロゾル中の微粒子濃度を一定にすることができる。その結果、吐出口5と基材7とを相対的に走査させることにより大面積の基材7の表面に膜状構造物6を形成させる場合において、エアロゾル中の微粒子濃度を一定に維持することができるので、大面積に亘り膜厚や膜質を均一にすることができる。
【0051】
図6は、本発明の実施の形態に係る複合構造物形成システム(エアロゾルデポジション装置)の第2の具体例を例示するための模式図である。
尚、図1、図5で説明をしたものと同様の部分には同じ符号を付し説明は省略する。
【0052】
本具体例においても、収容機構1内部の粒子群が供給機構2によってエアロゾル化機構4に供給される。さらに本具体例においては、図示しない加速手段及び、整流手段を有する吐出口11を具備し、吐出口11には支持走査機構12が接続されている。エアロゾル化機構4において生成されたエアロゾルは、配管13を介して吐出口11から基材7aに向けて噴射される。吐出口11が有する図示しない加速手段や流路径に差を設けることにより得られるジェット気流、圧縮効果などを利用すればエアロゾルを加速させることができる。
【0053】
本具体例においては、吐出口11が支持走査機構12により支持され、XYZθの少なくともいずれかの方向に移動可能とされている。基材7aが立体形状を有している、あるいは膜状構造物6aを形成させる場所が点在するなどの場合に応じて、吐出口11と基材7a表面との直線距離を保った状態で、吐出口11を移動させつつエアロゾルを噴射させ、基材7a上に大面積に亘り均一な膜状構造物6aを形成させることができる。尚、この場合、可撓性を有する配管13を設けるものとすれば、吐出口11の移動による変位を吸収させることができる。可撓性を有する配管13としては、例えば、ゴムなどの弾性材料からなる配管や、ベローズ(じゃばら)などの配管を例示することができる。尚、吐出口11と基材7aは相対的に移動すればよく、支持走査機構10をXYZθの少なくともいずれかの方向に移動可能としてもよい。
【0054】
本具体例においても、所定の形状に調整された粒子群を収容機構1に収納し、その粒子群を供給機構2により確実に供給することで、供給量を容易に定量化することができる。そのため、エアロゾル中の微粒子濃度を一定にすることができる。その結果、吐出口11と基材7aとを相対的に走査させることにより、立体形状あるいは膜状構造物6aを形成させる場所が点在する基材7aの表面に膜状構造物6aを形成させる場合においても、エアロゾル中の微粒子濃度を一定に維持することができるので、大面積に亘り膜厚や膜質を均一にすることができる。
【0055】
図7は、本発明の実施の形態に係る複合構造物形成システム(エアロゾルデポジション装置)の第3の具体例を例示するための模式図である。
尚、図1、図5で説明をしたものと同様の部分には同じ符号を付し説明は省略する。
【0056】
本具体例においては、吐出口5と基材7との間で、エアロゾル中の微粒子濃度を計量する計量機構14が設けられている。計量機構14は、制御機構15と電気的に接続されている。また、制御機構15は、後述するフィードバック制御のために、供給機構2、ガス供給機構3、排気機構9とも電気的に接続されている。尚、後述するフィードバック制御のための接続においては、少なくとも供給機構2と電気的に接続されていればよい。
【0057】
また、計量機構14は微粒子の量あるいはエアロゾルに含まれる微粒子の濃度を計量可能な場所に設けるようにすることができる。その場合、例えば、図7に示すように、計量機構14を構造物形成室8の外側または内側に設けるようにしてもよいし、構造物形成室8の内外に設けるようにしてもよい。また、設ける個数についても適宜変更することができる。
本具体例においては、吐出口5から噴射されるエアロゾルに含まれる微粒子の濃度が計量機構14で計量され、計量された情報が計量機構14から制御機構15へと送信される。制御機構15は、送信されてきた情報に基づいて供給機構2、ガス供給機構3、排気機構9へのフィードバック制御を行う。尚、フィードバック制御は、少なくとも供給機構2に対して行うようにすればよい。
【0058】
図8は、本実施の形態において用いることができる計量機構を例示する模式図である。 図8に示すように、計量機構14は、例えば、レーザなどの投光手段1402と、その光をモニタする受光手段1404などを備えたものとすることができる。この場合、エアロゾルに投光手段1402からのレーザを照射し、その透過量をモニタすることにより、エアロゾルに含まれる微粒子の濃度を計量することができる。
【0059】
尚、図9に例示するように、レーザなどの投光手段1402からエアロゾルにレーザを照射し、その反射光をCCD(Charge Coupled Device)センサなどの受光手段1404aによりモニタしてもよい。
【0060】
また、図10に例示するように、供給機構2にロードセルを設け、供給機構2の重量変化を計量することで、供給量を計量することもできる。そして、重量の変化によって振動子の振幅などを変化させるようにすれば、常に一定の重量の粒子群を供給することができる。この場合、重量変化を読み取り易くするために、多段式の供給機構2を設けるようにすれば、より精度の高い供給量の計量とその制御をすることができる。
【0061】
本具体例においても、所定の形状に調整された粒子群を収容機構1に収納し、その粒子群を供給機構2により確実に供給することで、供給量を容易に定量化することができる。そのため、エアロゾル中の微粒子濃度を一定にすることができる。
また、計量機構14を設け、制御機構15により少なくとも供給機構2に対してフィードバック制御をすることで、吐出後のエアロゾルに含まれる微粒子の濃度に揺らぎや経時変化があった場合でも、エアロゾルに含まれる微粒子の濃度を精密に制御することができる。
その結果、エアロゾル中の微粒子濃度を一定に維持することができるので、大面積に亘り膜厚や膜質を均一にすることができる。
以上、本発明の実施の形態に係る複合構造物形成システム(エアロゾルデポジション装置)の全体構成について例示をした。
【0062】
次に、供給機構2の具体例について例示をする。
図11は、供給機構2の第1の具体例を例示するための模式図である。
すなわち、図11は、供給機構2の要部の模式斜視図である。
【0063】
本具体例においては、粒子群31が収容された収容機構1の鉛直下方に開口が設けられ、この開口を塞ぐようにローラ210が設けられている。ローラ210は、その表面に複数の凹部212が設けられ、矢印Aの方向あるいはその反対の方向に回転する。凹部212は粒子群31よりも十分に大きな容積を有している。収容機構1の内部側壁と、ローラ210の表面と、の間の隙間はローラ210の回転を妨げない範囲で十分に狭くされ、この隙間から粒子群31がこぼれ落ちないようにされている。尚、収容機構1の内部側壁あるいは開口端に、ゴムなどの弾力性を有するシールを設けてローラ210の表面に接触させるようにしてもよい。
【0064】
収容機構1の中で、粒子群31はその自重により、ローラ210の凹部212に充填され、ローラ210が回転することにより、収容機構1の外側(下側)に搬出され、凹部212が鉛直下方を向くと、粒子群31は、自重によって落下する。この落下先にエアロゾル化機構4を設けることにより、微粒子の濃度が一定なエアロゾルを形成させることが可能となる。
【0065】
本具体例においては、凹部212に充填された所定量の粒子群31がローラ210の回転に伴って、収容機構1から搬出され、エアロゾル化機構4に向けて落下する。つまり、所定量の粒子群31を次々に供給することができる。
【0066】
また、収容機構1の中で、粒子群31は、その自重によりローラ210の凹部212に充填されるので、過度に押し固められることはない。つまり、粒子群31はつぶれることなく搬出されるため、供給機構2から形状の変化した粒子群31が供給されることを抑制することができる。
またさらに、粒子群31が凹部212の中に過度に押し固められないので、ローラ210の回転により凹部212が鉛直下方を向いた時に、その中の粒子群31は、自重により円滑に落下できる。つまり、粒子群31が凹部212の中から落ちにくくなるという問題も抑制することができ、粒子群31を安定的に供給することができる。そのため、スパチュラ角の調整がされた粒子群31をそのまま供給することができるので、搬送量が安定し、スタックも無く目標どおりの安定した供給を達成することができる。
【0067】
図12は、供給機構2の第2の具体例を例示するための模式図である。
本具体例においても、粒子群31が収容された収容機構1の鉛直下方に開口が設けられている。そして、この開口を塞ぐようにローラ222が設けられている。ローラ222の表面には複数の凸部224が設けられ、矢印Aの方向あるいはその反対の方向に回転する。
【0068】
本具体例においては、ローラ222の表面には凸部224が設けられているので、ローラ222の表面と、収容機構1の内部側壁と、の間には、凸部224の高さに対応した隙間が生ずる。ただし、凸部224をローラ222の表面にある程度、密に設けたり、凸部224の形状や配列を適宜調節することにより、収容機構1の下端の開口とローラ222の表面との隙間から粒子群31が連続的にこぼれ落ちることを防止することができる。
【0069】
そして、ローラ222の回転に伴い、収容機構1の中に収容されている粒子群31が凸部224により押し出され、自重により落下してエアロゾル化機構4に供給される。収容機構1に収容されている粒子群31は、それぞれの凸部224により外部に掻き出されるようにして取り出されるので、凸部224の形状や頻度、回転数によって粒子群31の量を制御することができる。
【0070】
本具体例においては、収容機構1の中で、粒子群31は、その自重によりローラ222の表面に接触し、凸部224により外部に押し出されるので、過度に押し固められることはない。つまり、粒子群31はつぶれることなく搬出されるため、供給機構2から形状の変化した粒子群31が供給されることを抑制することができる。そのため、スパチュラ角の調整がされた粒子群31をそのまま供給することができるので、搬送量が安定し、スタックも無く目標どおりの安定した供給を達成することができる。
【0071】
図13は、供給機構2の第3の具体例を例示するための模式図である。
本具体例においては、粒子群31が収容された収容機構1の鉛直下方に略円形の開口が設けられている。そして、この開口にはメッシュ230が設けられている。メッシュ230は収容機構1の底面に接触しながら、矢印Aの方向あるいはその反対の方向に回転する。
【0072】
本具体例においては、メッシュ230が回転することにより、粒子群31がメッシュ230の開口を通過して落下する。粒子群31の落下の量は、メッシュ230の開口サイズや回転速度などに応じて変化する。このとき、メッシュの開口サイズの大きさを、粒子群31の平均粒子径の2倍から7倍の範囲としておけば、メッシュ230の静止時に粒子群31同士をブリッジさせることができるため、不必要な落下を抑制することができる。その結果、メッシュ230の回転による粒子群31の搬送量の制御が容易となる。
【0073】
本具体例においては、収容機構1の中で、粒子群31は、その自重によりメッシュ230の表面に接触し、開口を通過して外部に落下するので、過度に押し固められることはない。つまり、粒子群31はつぶれることなく搬出されるため、供給機構2から形状の変化した粒子群31が供給されることを抑制することができる。そのため、スパチュラ角の調整がされた粒子群31をそのまま供給することができるので、搬送量が安定し、スタックも無く目標どおりの安定した供給を達成することができる。
【0074】
またさらに、メッシュ230の複数の開口を介して複数の粒子群31がほぼ同時および連続的に供給される。つまり、エアロゾル化機構4においては、常に多数の粒子群31が連続的に供給され、粒子群31の供給量は時間的にみて平均化される。従って、エアロゾル化機構4において、常に一定量の粒子群31が安定して供給され、一定の微粒子濃度のエアロゾルを安定して発生させることができる。
【0075】
図14は、供給機構2の第4の具体例を例示するための模式図である。
本具体例においても、第3の具体例に関して前述したものと同様に、粒子群31が収容された収容機構1の鉛直下方に円形の開口が設けられている。そして、この開口にはメッシュ230が設けられている。メッシュ230の上にはブラシ232が設置され、メッシュ230に接触しながら、矢印Aの方向あるいはその反対の方向に回転する。そしてさらに、収容機構1には振動子234が付設されている。振動子234は、収容機構1の壁面などを振動させ、収容機構1に収容されている粒子群31を円滑にブラシ232及びメッシュ230に向けて落下供給させる作用を奏する。また、収容機構1の中の粒子群31に振動を与えることにより、流動性を向上させる効果も得られる。
【0076】
尚、振動子234は、第1〜第3の各具体例についても同様に設けて同様の作用効果を得ることができる。
【0077】
本具体例においては、ブラシ232の回転に伴い、粒子群31がメッシュ230の開口を通過して落下する。粒子群31の落下の量は、メッシュ230の開口サイズと、ブラシ232の刷毛の密度や回転速度と、に応じて変化する。このとき、メッシュの開口サイズの大きさを、粒子群31の平均粒子径の2倍から7倍の範囲としておけば、メッシュ230の静止時に粒子群31同士をブリッジさせることができるため、不必要な落下を抑制することができる。その結果、メッシュ230の回転による粒子群31の搬送量の制御が容易となる。
【0078】
そして、ブラシ232のそれぞれの刷毛の先がメッシュ230の開口を通過する動作に応じて粒子群31が開口から押し出される。つまり、微視的にみると、粒子群31は軽くメッシュから押し出され、落下してエアロゾル機構4に供給される。つまり、粒子群31はつぶれることなく搬出されるため、供給機構2から形状の変化した粒子群31が供給されることを抑制することができる。そのため、スパチュラ角の調整がされた粒子群31をそのまま供給することができるので、搬送量が安定し、スタックも無く目標どおりの安定した供給を達成することができる。
【0079】
またさらに、メッシュ230の複数の開口を介して複数の粒子群31がほぼ同時および連続的に供給される。つまり、エアロゾル化機構4においては、常に多数の粒子群31が連続的に供給され、粒子群31の供給量は時間的にみて平均化される。従って、エアロゾル化機構4において、常に一定量の粒子群31が安定して供給され、一定の微粒子濃度のエアロゾルを安定して発生させることができる。
【0080】
図15は、供給機構2の第5の具体例を例示するための模式図である。
本具体例においては、粒子群31が収容された収容機構1の下部には供給路235が設けられ、その供給路235には振動子234が設置されている。収容機構1に収容された粒子群31は、図示しないオリフィスを通過して所定の量が供給路235に供給される。供給路235に供給された粒子群31は、振動子234の振動により供給路235から搬出される。
【0081】
本具体例においては、収容機構1の中で、粒子群31は、その自重により図示しないオリフィスを通過して外部(供給路235)に落下するので、過度に押し固められることはない。また、供給路235に供給された粒子群31も振動子234の振動により外部に落下するので、粒子群31の形状が変化することはない。つまり、粒子群31はその形状が変化することなく供給機構2から外部に供給される。そのため、スパチュラ角の調整がされた粒子群31をそのまま供給することができるので、搬送量が安定し、スタックも無く目標どおりの安定した供給を達成することができる。
【0082】
またさらに、複数の粒子群31がほぼ同時および連続的に供給されることになる。つまり、エアロゾル化機構4においては、常に多数の粒子群31が連続的に供給され、粒子群31の供給量は時間的にみて平均化される。従って、エアロゾル化機構4において、常に一定量の粒子群31が安定して供給され、一定の微粒子濃度のエアロゾルを安定して発生させることができる。
【0083】
図16は、供給機構2の第6の具体例を例示するための模式図である。
本具体例においては、粒子群31が収容された収容機構1の下部に溝が形成された回転盤が配置され、回転盤の回転方向の先にはスクレーパーが配置されている。
【0084】
回転盤の溝に導入された粒子群31は、回転盤が回転することで収容機構1より搬出される。そして、溝に導入された粒子群31はスクレーパーによって掻き出される。
【0085】
本具体例においては、収容機構1の中で、粒子群31は、その自重により回転盤の表面に接触し、溝に導入された後スクレーパーによって掻き出されるので、過度に押し固められることはない。つまり、粒子群31はつぶれることなく搬出されるため、供給機構2から形状の変化した粒子群31が供給されることを抑制することができる。そのため、スパチュラ角の調整がされた粒子群31をそのまま供給することができるので、搬送量が安定し、スタックも無く目標どおりの安定した供給を達成することができる。
【0086】
またさらに、回転盤の複数の溝を介して複数の粒子群31がほぼ同時および連続的に供給される。つまり、エアロゾル化機構4においては、常に多数の粒子群31が連続的に供給され、粒子群31の供給量は時間的にみて平均化される。従って、エアロゾル化機構4において、常に一定量の粒子群31が安定して供給され、一定の微粒子濃度のエアロゾルを安定して発生させることができる。
【0087】
図17は、供給機構2の第7の具体例を例示するための模式図である。
本具体例においては、粒子群31が収容された収容機構1の下部に、スクリューが設けられ、スクリューの端部にはスクリューを回転させるための図示しないモータが備えられている。また、スクリューをスムーズに回転させるために、スクリューには一定の長さの外壁が設けられており、外壁の両端部は開放されている。スクリューの溝に導入された粒子群31は、スクリューが回転することで収容機構1より搬出される。このとき、粒子群31は外壁とのクリアランスで一定量にすりきられて移動し、外壁の端部より一定速度で落下する。
【0088】
本具体例においては、収容機構1の中で、粒子群31は、その自重によりスクリューの表面に接触するので、過度に押し固められることはない。つまり、粒子群31はつぶれることなく搬出されるため、供給機構2から形状の変化した粒子群31が供給されることを抑制することができる。そのため、スパチュラ角の調整がされた粒子群31をそのまま供給することができるので、搬送量が安定し、スタックも無く目標どおりの安定した供給を達成することができる。
【0089】
またさらに、スクリューにより複数の粒子群31がほぼ同時および連続的に供給される。つまり、エアロゾル化機構4においては、常に多数の粒子群31が連続的に供給され、粒子群31の供給量は時間的にみて平均化される。従って、エアロゾル化機構4において、常に一定量の粒子群31が安定して供給され、一定の微粒子濃度のエアロゾルを安定して発生させることができる。
【0090】
図18は、供給機構2の第8の具体例を例示するための模式図である。
本具体例においては、粒子群31が収容された収容機構1の下部には、オリフィス237が設けられ、その下方にはベルトコンベア236が地軸に対してほぼ水平に配置されている。
【0091】
オリフィス237によってすりきられた粒子群31はベルトコンベア236の上部に乗って搬出される。ベルトコンベア236は一定速度で運転されるため、粒子群31は所定の長さを移動した後に、ベルトコンベア236の端部より一定速度で落下する。
【0092】
本具体例においては、収容機構1の中で、粒子群31は、その自重によりオリフィス237を通過してベルトコンベア236の上に落下するので、過度に押し固められることはない。つまり、粒子群31はつぶれることなく搬出されるため、供給機構2から形状の変化した粒子群31が供給されることを抑制することができる。そのため、スパチュラ角の調整がされた粒子群31をそのまま供給することができるので、搬送量が安定し、スタックも無く目標どおりの安定した供給を達成することができる。
【0093】
またさらに、ベルトコンベア236を介して複数の粒子群31がほぼ同時および連続的に供給される。つまり、エアロゾル化機構4においては、常に多数の粒子群31が連続的に供給され、粒子群31の供給量は時間的にみて平均化される。従って、エアロゾル化機構4において、常に一定量の粒子群31が安定して供給され、一定の微粒子濃度のエアロゾルを安定して発生させることができる。
【0094】
図19は、供給機構2の第9の具体例を例示するための模式図である。
本具体例においては、粒子群31が収容された収容機構1の下部にオリフィス238が設けられ、更にそのオリフィス238を開閉するためのシャッター239が設けられている。オリフィス238の開口形状は粒子群31の大きさに応じて適宜決定されており、シャッター239を開閉することで、粒子群31の供給と停止をさせることができる。
【0095】
本具体例においては、収容機構1の中で、粒子群31は、その自重によりオリフィス238を通過して外部に落下するので、過度に押し固められることはない。つまり、粒子群31はつぶれることなく搬出されるため、供給機構2から形状の変化した粒子群31が供給されることを抑制することができる。そのため、スパチュラ角の調整がされた粒子群31をそのまま供給することができるので、搬送量が安定し、スタックも無く目標どおりの安定した供給を達成することができる。
【0096】
またさらに、オリフィス238を介して複数の粒子群31がほぼ同時および連続的に供給される。つまり、エアロゾル化機構4においては、常に多数の粒子群31が連続的に供給され、粒子群31の供給量は時間的にみて平均化される。従って、エアロゾル化機構4において、常に一定量の粒子群31が安定して供給され、一定の微粒子濃度のエアロゾルを安定して発生させることができる。
【0097】
次に、エアロゾル化機構4について具体例を例示しながら説明する。
図20は、エアロゾル化機構の第1の具体例を例示するための模式図である。
エアロゾル化機構4aには、粒子群31をガスと共に噴出する供給口1502と、その前方に設けられた機械的障壁としての衝撃板1504と、排出口1505とが設けられている。
【0098】
供給口1502から噴出された粒子群31は、衝撃板1504に衝突した時に、衝撃力を受ける。この衝撃力により、粒子群31が解砕し、一次粒子30P、または数個の一次粒子30Pが凝集した程度の凝集粒30Qを含んだ状態のものがガス中に分散してエアロゾル32となる。エアロゾル32はガス流にのって排出口1505より排出される。
【0099】
また、衝撃板1504を回転させるようにすれば、粒子群31の衝突点の運動ベクトルが、エアロゾル32の噴射の運動ベクトルと略対向するようになるので、粒子群31に対する衝撃力を増加させることができる。その結果、エアロゾル32中の微粒子濃度の均質化をより図ることができる。
【0100】
図21は、エアロゾル化機構の第2の具体例を例示するための模式図である。
エアロゾル化機構4bには、粒子群31を供給する供給口1502と、その前方に設けられた機械的障壁としての衝突板1504aと、排出口1505とが設けられている。ガス供給口1507は、衝突板1504aに対して略平行となるように設けられ、ガス供給口1507の前方には排出口1505が設けられている。
【0101】
粒子群31はガス流に乗って供給され、衝突板1504aと衝突することで一次粒子30P、または数個の一次粒子30Pが凝集した程度の凝集粒30Qに解砕される。衝突した地点へガス供給口1507からガスを噴射することで、衝突板1505aに付着する圧粉体を吹き飛ばすことができ、均一なエアロゾルを発生させることができる。
【0102】
図22は、エアロゾル化機構の第3の具体例を例示するための模式図である。
エアロゾル化機構4cには、粒子群31を供給する供給口1502と、その前方に圧力障壁を形成させるためのガス供給口1507aと、排出口1505とが設けられている。また、ガス供給口1507aは、排出口1505が設けられた管路と略同軸に設けられている。
【0103】
粒子群31はガス流に乗って供給され、ガス供給口1507aにより形成された圧力障壁と衝突する。このとき、粒子群31には剪断力が働くので、粒子群31は一次粒子30P、または数個の一次粒子30Pが凝集した程度の凝集粒30Qに解砕される。そして、ガス供給口1507から噴射されるガスにより、均一なエアロゾルが形成される。
【0104】
図23は、エアロゾル化機構の第4の具体例を例示するための模式図である。
エアロゾル化機構4dには、エアロゾルが流れる流路に沿って、流路径の大きい箇所1506と小さい箇所1508とが交互に設けられている。このようにすると、流路径の小さい箇所1508においてはガスが圧縮され、流路径の大きい箇所1506においてはガスが膨張する。このような圧縮と膨張とを繰り返すと、エアロゾルに含まれる粒子群31に剪断力が作用する。この剪断力により、粒子群31は一次粒子30P、または数個の一次粒子30Pが凝集した程度の凝集粒30Qに解砕される。
【0105】
尚、流路径の大きい箇所1506と小さい箇所1508の数は、例示したものに限定されるわけではなく、供給される粒子群31の大きさなどに応じて適宜変更することができる。
【0106】
図24は、エアロゾル化機構の第5の具体例を例示するための模式図である。
エアロゾル化機構4eには、第1のガス供給口1507bと、第2のガス供給口1507cとが設けられている。そして、第1のガス供給口1507bと、第2のガス供給口1507cとは、その軸線が互いに交差するようにして設けられている。
【0107】
そのため、第1のガス供給口1507b、第2のガス供給口1507cから供給された粒子群31同士を衝突させることができる。この衝突により、粒子群31は一次粒子30P、または数個の一次粒子30Pが凝集した程度の凝集粒30Qに解砕される。尚、本実施の形態によれば、粒子群31の壁面への衝突が避けられ、不純物が入りにくいという利点がある。
【0108】
次に、本発明者が本発明をするに至った過程で行った実験について説明をする。
図25は、比較実験に用いたエアロゾル発生器を説明するための模式図である。
図25に示すように、エアロゾル発生器100には、微粒子30を収納するための収容部101と、収容部101にガスを導入するためのガス導入口102と、収容部101からエアロゾルを導出させるためのエアロゾル導出口103と、収容部101に水平方向の振動を与えるための振動発生手段104と、モータ106の出力軸に設けられ回転運動を往復直線運動に変換するクランク105と、クランク105と振動発生手段104とを連結するリンク107と、を備えている。
【0109】
図示しないガス供給手段からガス導入口102を介して収容部101内に導入されたガスは、微粒子30をまき上げるようにしてエアロゾルを形成し、エアロゾル導出口103から外部に導出される。また、モータ106による回転運動はクランク105により往復直線運動に変換され、リンク107を介して振動発生手段104に伝達される。そのため、振動発生手段104が水平方向に往復直線運動をするので、収容部101内部の微粒子30が攪拌されることになる。
【0110】
まず、図25に示したエアロゾル発生器100を用いた場合と、図13に例示をした本発明の実施の形態に係る供給機構2を用いた場合におけるエアロゾル中の微粒子濃度(ビーム濃度)の変化を測定した。この際、微粒子は、平均粒子径0.3マイクロメートルの高純度チタン酸バリウムを用いた。また、ガスはヘリウムガスとし、供給量は14.4L/minとした。
【0111】
尚、微粒子濃度はビーム濃度(吐出口より吐出したエアロゾル中の濃度)とし、吐出口より吐出したエアロゾルに対してレーザー光を照射し、散乱光の強度をCCDセンサーで検知してそれを数値化した。
【0112】
図26は、ビーム濃度の変化を例示するためのグラフ図であり、図26(a)は図25に示したエアロゾル発生器100を用いた場合、図26(b)は図13に例示をした本発明の実施の形態に係る供給機構2を用いた場合である。
図26(a)から分かるように、図25に示したエアロゾル発生器100を用いた場合においては、ビーム濃度は安定せず、また、エアロゾル供給量も高く維持することができなかった。これは、エアロゾル発生容器100内でチタン酸バリウム微粒子が凝集し、エアロゾルが発生しにくい状態へと変化したためである。
【0113】
一方、図26(b)から分かるように、本発明の実施の形態に係る供給機構2を用いた場合においては、高いビーム濃度を長時間にわたり安定して維持することができる。これは、連続的かつ安定的に粒子群がエアロゾル発生機構へ供給されているためであり、また、供給される粒子の状態も終始安定しているためでもある。
【0114】
図27は、本発明の実施の形態に係る供給機構2を用いた場合における膜厚の時間変化を例示するためのグラフ図である。
成膜は、X方向×Y方向=250ミリメートル×200ミリメートルの矩形の試料上に行った。そして、吐出口の相対位置をX方向においては往復、Y方向においては1方向に走査することで膜状構造物を形成させた。膜厚は、X方向の中央部の膜厚を計測するものとした。そして、膜厚の計測は、中央部に設けたマスキングにより生じた段差を段差計で計測し、Y方向に計測位置をずらしながら行った。そうすることで、成膜の経時変化を知ることができる。尚、微粒子は、平均粒子径0.3マイクロメートルの高純度チタン酸バリウムを用いた。
【0115】
図27から分かるように、本発明の実施の形態に係る供給機構2を用いるものとすれば、膜厚の精度を±7%程度とすることができ、経時的にも膜厚を均一にすることができる。
【0116】
図28は、本発明の実施の形態に係る粒子群を用いた場合における成膜性を例示するためのグラフ図である。
成膜は、X方向×Y方向=250ミリメートル×200ミリメートルの矩形の試料上に行った。そして、吐出口の相対位置をX方向においては往復、Y方向においては1方向に走査することで膜状構造物を形成させた。X方向の往復走査は走査速度を10mm/secとし、Y方向には0.5mmずつステップさせるようにした。また、この場合の延べ成膜時間はおよそ190分であった。得られた膜の膜厚は、試料上の各所に設けたマスキングにより生じた段差を段差計により計測した。
【0117】
尚、粒子群は、平均粒子径0.3マイクロメートルの高純度チタン酸バリウムからなるものとし、スパチュラ角が46.2°以下となるような形状とした。
また、成膜条件として、ヘリウムガスの供給量を大気圧換算で14L/min、粒子群の供給量を2.0g/minとした。この場合の粒子群使用量は、およそ400gであった。
【0118】
図28から分かるように、平均膜厚を4.5マイクロメートル、標準偏差0.25、膜厚精度を±5%程度とすることができ、経時的にも膜厚を均一とすることができることが確認できた。
【0119】
これは、エアロゾル化機構4へ連続的、安定的に粒子群が供給されているためであり、供給、搬送される粒子群の状態も終始安定していることを示唆している。
【0120】
次に、微粒子または粒子群を用いた場合の搬送実験について説明をする。
微粒子は、平均粒子径0.3マイクロメートルの高純度チタン酸バリウムを用いた。また、本発明の実施の形態に係る粒子群も平均粒子径0.3マイクロメートルの高純度チタン酸バリウムから形成させた。尚、粒子群は、スパチュラ角が46.2°以下となるような形状としている。
搬送実験には、図15に例示をしたような振動フィーダを用いた。そして、予め粒子群を形成した状態のもの(本発明の実施の形態に係る粒子群)と、微粒子に対して手を加えていない状態のものとを用い、振動フィーダの搬送設定値を一定にした場合におけるそれぞれの搬送重量を計測した。
【0121】
図29は、搬送実験の結果を例示するためのグラフ図であり、図29(a)は累積の搬送量、図29(b)は5sec(秒)あたりの搬送量(搬送速度)を示している。
図29から分かるように、微粒子に対して手を加えていない状態のもの(粒子群が形成されていない状態のもの)では、目標搬送量に対して正確な搬送ができず、収容機構内で微粒子がスタックを起こし、供給が停止する現象(図29における10min付近)がみられた。
【0122】
一方、本発明の実施の形態に係る粒子群では、目標値に対して安定した搬送性能を維持することができ、収容機構内でのスタックなどの不具合も見られなかった。
【0123】
次に、供給機構2の構成に対する微粒子、粒子群の適合性について説明をする。 、本発明の実施の形態に係る粒子群と、微粒子に対して手を加えていない状態のものとを同じ装置構成の供給機構2を用いて供給し、その適合性について検討をした。
【0124】
表2は、適合性の検討結果を例示したものである。
【表2】
表2から分かるように、微粒子に対して手を加えていない状態のものを供給するものとすれば、いずれの装置構成の供給機構2を用いたとしても、スタック性(スタックの起こりやすさ)、定量供給性に問題が生ずる。
一方、本発明の実施の形態に係る粒子群を供給するものとすれば、スタック性、定量供給性に優れた供給をすることができる。その結果、エアロゾル中の微粒子濃度を一定にすることができ、大面積を成膜する場合であっても膜厚や膜質を均一にすることができる。
【0125】
次に、ガス流量と成膜性能との関係を説明する。
本発明の実施の形態に係る粒子群を用い、成膜時に使用するガス流量を変化させた場合における成膜性能を評価した。
粒子群としては、酸化アルミニウムからなるものを用いた。また、ガスは窒素ガス、ヘリウムガスとし、その流量を、大気圧25℃換算でエアロゾルが通過する流路の最小断面積に対して0.01〜10L/(min・mm2)とした。
また、吐出口の相対位置を30mm移動させ、それを30回往復運動させることで得られた膜の膜厚を計測した。
【0126】
図30は、ガス流量と成膜性能との関係を例示するためのグラフ図である。
図30から分かるように、窒素ガス、ヘリウムガスの流量が0.01L/(min・mm2)以下では粒子群がそのまま吐出している様子が観察され、圧粉体状の付着物が基材上に付着した程度で、いわゆるエアロゾルデポジション法で得られる構造物が形成されることはなかった。これは機械的衝撃力が不十分であったことを示唆している。
【0127】
一方、ガス流量を増加させれば膜厚を増加させることができ、良好な構造物が得られることが確認できた。尚、窒素ガスの場合は、およそ6L/(min・mm2)程度で膜厚が最大となった。
【0128】
以上、本発明の実施の形態について説明をした。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。
【0129】
前述の実施の形態、具体例に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。
【0130】
例えば、複合構造物形成システム(エアロゾルデポジション装置)、複合構造物形成方法に関して当業者が適宜設計変更して採用したものも、本発明の要旨を有する限りにおいては本発明の範囲に包含される。
【0131】
また、微粒子も例示したものに限定されるわけではなく、例えば、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化珪素、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛等の酸化物の他、窒化物、ホウ化物、炭化物、フッ化物などの脆性材料、脆性材料を主成分とした金属や樹脂との複合材料等でもよい。
【0132】
また、ガスも例示したものに限定されるわけではなく、例えば、空気、水素ガス、窒素ガス、酸素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどの不活性ガスの他、メタンガス、エタンガス、エチレンガス、アセチレンガスなどの有機ガス、また、フッ素ガスなどの腐食性のあるガス等でも良く、必要に応じてこれらの混合ガスを使用してもよい。
【0133】
また、前述した各実施の形態、各具体例が備える各要素は、可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】本発明の実施の形態にかかる複合構造物形成システムの基本構成を例示するためのブロック図である。
【図2】搬送の安定性の評価結果を例示するためのグラフ図である。
【図3】搬送の安定性の評価結果を例示するためのグラフ図である。
【図4】搬送の安定性の評価結果を例示するためのグラフ図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る複合構造物形成システム(エアロゾルデポジション装置)の第1の具体例を例示するための模式図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る複合構造物形成システム(エアロゾルデポジション装置)の第2の具体例を例示するための模式図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る複合構造物形成システム(エアロゾルデポジション装置)の第3の具体例を例示するための模式図である。
【図8】本実施の形態において用いることができる計量機構を例示する模式図である。
【図9】本実施の形態において用いることができる計量機構を例示する模式図である。
【図10】本実施の形態において用いることができる計量機構を例示する模式図である。
【図11】供給機構の第1の具体例を例示するための模式図である。
【図12】供給機構の第2の具体例を例示するための模式図である。
【図13】供給機構の第3の具体例を例示するための模式図である。
【図14】供給機構の第4の具体例を例示するための模式図である。
【図15】供給機構の第5の具体例を例示するための模式図である。
【図16】供給機構の第6の具体例を例示するための模式図である。
【図17】供給機構の第7の具体例を例示するための模式図である。
【図18】供給機構の第8の具体例を例示するための模式図である。
【図19】供給機構の第9の具体例を例示するための模式図である。
【図20】エアロゾル化機構の第1の具体例を例示するための模式図である。
【図21】エアロゾル化機構の第2の具体例を例示するための模式図である。
【図22】エアロゾル化機構の第3の具体例を例示するための模式図である。
【図23】エアロゾル化機構の第4の具体例を例示するための模式図である。
【図24】エアロゾル化機構の第5の具体例を例示するための模式図である。
【図25】比較実験に用いたエアロゾル発生器を説明するための模式図である。
【図26】ビーム濃度の変化を例示するためのグラフ図である。
【図27】本発明の実施の形態に係る供給機構を用いた場合における膜厚の時間変化を例示するためのグラフ図である。
【図28】本発明の実施の形態に係る粒子群を用いた場合における成膜性を例示するためのグラフ図である。
【図29】搬送実験の結果を例示するためのグラフ図である。
【図30】ガス流量と成膜性能との関係を例示するためのグラフ図である。
【符号の説明】
【0135】
1 収容機構、2 供給機構、3 ガス供給機構、4 エアロゾル化機構、4a〜4e エアロゾル化機構、5 吐出口、6 膜状構造物、6a 膜状構造物、7 基材、7a 基材、8 構造物形成室、9 排気機構、10 支持走査機構、11 吐出口、12 支持走査機構、13 配管、14 計量機構、15 制御機構、30P 一次粒子、30Q 凝集粒、31 粒子群、100 エアロゾル発生器、1402 投光手段、1404 受光手段、1404a 受光手段、
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子群、複合構造物形成方法、および形成システムに関し、より詳細には、脆性材料の微粒子をガス中に分散させたエアロゾルを基材に吹き付け、微粒子の構成材料からなる構造物を基材上に形成させるエアロゾルデポジション法に用いる粒子群、複合構造物の形成方法および形成システムに関する。
【背景技術】
【0002】
基材の表面に脆性材料からなる構造物を形成させる方法として、「エアロゾルデポジション法」がある(例えば、特許文献1〜3)。これは、脆性材料を含む微粒子をガス中に分散させたエアロゾルを吐出口から基材に向けて噴射し、金属やガラス、セラミックスやプラスチックなどの基材に微粒子を衝突させ、この衝突の衝撃により脆性材料微粒子に変形や破砕を起させしめてこれらを接合させ、基材上に微粒子の構成材料からなる膜状構造物をダイレクトに形成させる方法である。この方法によれば、特に加熱手段などを必要とせず、常温で膜状構造物の形成が可能であり、焼成体と比較して同等以上の機械的強度を有する膜状構造物を得ることができる。また、微粒子を衝突させる条件や微粒子の形状、組成などを制御することにより、構造物の密度や機械強度、電気特性などを多様に変化させることが可能である。
【0003】
このエアロゾルデポジション法において大面積の膜状構造物の形成を実施する場合、微粒子を所定時間供給し続けることが必要となる。特に、膜厚精度が要求される場合においては、微粒子の供給量が常に安定していることが望まれる。
【0004】
しかし、特許文献1のように、原料となる微粒子が収容される収容機構内でエアロゾル化をさせるようにすると、エアロゾル化させるための容積を稼ぐために収容機構の容積を微粒子の体積よりはるかに大きくする必要があり、大規模な装置が必要となるおそれがある。また、大量の微粒子を収容した場合には、時間の経過とともに微粒子の状態が変化するなどのおそれがあり、エアロゾルの安定供給に課題を有していた。
【0005】
そこで、特許文献2や3に開示をされているように、微粒子を収容する収容機構と、微粒子をガスと混合してエアロゾル化させるエアロゾル化機構とを分離し、収容機構からエアロゾル化機構に微粒子を必要量ずつ搬送する技術が提案されている。
【0006】
しかし、一次粒子としてサブミクロン以下の微粒子を用いる場合、粘性、付着性が強いため、収容機構内部や収容機構からエアロゾル化機構へ搬送する過程において壁面への付着やスタックなどの問題が発生しやすく、確実な搬送を実現することが困難となるおそれがある。例えば、収容機構内部での微粒子の攪拌や移動によって微粒子が凝集しやすくなり、その流動性が変化する。そして、ついには収容機構内部でスタックが生じ、このスタックが生じるとエアロゾル化機構への粉体の移動が妨げられるので、供給量の定量性が失われる。また、収容機構内部で付着が発生すると、計画通りの粉体使用量が達成できないといった弊害が生ずるおそれもある。
【0007】
また、収容機構から搬出される際に、微粒子または所定の大きさや形状に分割される微粒子の集団の形状や密度が不均一となる場合、所定の解砕能力を有するエアロゾル化機構を用いたとしても、終始安定した微粒子濃度のエアロゾルを発生させることが困難となるおそれがある。また、搬送の過程において、所定の大きさや形状に分割された微粒子の集団の形状や密度が変化した場合にも、エアロゾルの微粒子濃度を正確に制御することが困難となるおそれがある。
【特許文献1】特許第3348154号公報
【特許文献2】特開2006−200013号公報
【特許文献3】特開2006−233334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、エアロゾル中の微粒子濃度をより安定させることができ、かつ安定した状態を長時間にわたり維持することができる粒子群、複合構造物形成方法、および形成システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、エアロゾルデポジション法に用いる粒子群であって、前記粒子群は、複数の脆性材料微粒子を含む微粒子を固めた集合体であり、前記粒子群のスパチュラ角が46.2°以下であること、を特徴とする粒子群が提供される。
また、本発明の他の一態様によれば、エアロゾルデポジション法に用いる粒子群であって、前記粒子群は複数の微粒子を含み、前記微粒子の平均粒径が0.1マイクロメータ以上10マイクロメータ以下、前記粒子群の平均粒子径が10マイクロメータ以上500マイクロメータ以下、前記粒子群のスパチュラ角が46.2°以下であること、を特徴とする粒子群が提供される。
【0010】
また、本発明の他の一態様によれば、収容機構に収容された上記の粒子群を前記収容機構から搬出してガス供給機構から供給されたガスとともにエアロゾル化機構に搬送し、前記搬送された前記粒子群を解砕させてエアロゾルを形成し、前記エアロゾルを基材に向けて噴射することにより前記粒子群の構成材料からなる構造物と前記基材との複合構造物を形成すること、を特徴とする複合構造物形成方法が提供される。
また、本発明の他の一態様によれば、収容機構に収容された上記の粒子群を前記収容機構から搬出してエアロゾル化機構に搬送し、ガス供給機構から供給されたガスとともに前記搬送された前記粒子群を解砕させてエアロゾルを形成し、前記エアロゾルを基材に向けて噴射することにより前記粒子群の構成材料からなる構造物と前記基材との複合構造物を形成すること、を特徴とする複合構造物形成方法が提供される。
【0011】
さらにまた、本発明の他の一態様によれば、微粒子をガス中に分散させたエアロゾルを基材に衝突させて前記微粒子の構成材料からなる構造物と前記基材との複合構造物を形成する複合構造物形成システムであって、上記の粒子群を収容する収容機構と、前記収容機構から前記粒子群を搬出する供給機構と、前記搬出された粒子群に向けてガスを供給するガス供給機構と、前記ガスを混流した前記粒子群に対して衝撃を加えることで複数の微粒子に解砕しエアロゾルを形成させるエアロゾル化機構と、前記エアロゾルを基板上に噴射する吐出口と、を備えることを特徴とする複合構造物形成システムが提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、エアロゾル中の微粒子濃度をより安定させることができ、かつ安定した状態を長時間にわたり維持することができる粒子群、複合構造物形成方法、および形成システムが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施の形態について説明をする前に、まず、本明細書において用いる用語について説明をする。
本明細書において「微粒子」とは、緻密質粒子である場合は、走査型電子顕微鏡などにより同定される平均粒径が0.1マイクロメータ以上10マイクロメータ以下のものをいう。また、「一次粒子」とは、微粒子の最小単位(一粒)のことをいう。走査型電子顕微鏡での平均粒径の同定においては、観察像中、任意に100ヶの微粒子を選択し、その長軸と短軸の平均値を採用して、観察した微粒子全ての平均値から算出することができる。前記微粒子中の脆性材料粒子は、エアロゾルデポジション法における構造物形成の主体となるものであり、一次粒子の平均粒径は0.01マイクロメータ以上、10マイクロメータ以下、より望ましくは0.1マイクロメータ以上、5マイクロメータ以下である。
【0014】
また、「粒子群」とは、複数の脆性材料微粒子を含む微粒子を固めた集合体であって、その形状・密度が意図的に制御されている状態のものをいう。ここで、粒子群の平均粒子径としては、10マイクロメータ以上500マイクロメータ以下とすることが好ましい。そして、粒子群の粒径の標準偏差/粒子群の平均粒子径が33%以内であることが好ましい。
【0015】
そして、粒子群の中においては、微粒子の殆どが互いに分離したままの状態、または、微粒子が静電気、ファンデルワールス力、水分、微量のバインダー成分による架橋、などによって固められて互いに軽く結合したような状態であることが好ましい。微粒子を意図的に固めることにより、その結合強度、形状、の少なくともいずれかが制御されている。このとき含有される微粒子同士が化学的結合により一次粒子の径より著しく大きく接合固化をしていないことが望ましい。微粒子を固める方法としては、例えば、スプレードライヤー法、パン型造粒機、ポット型造粒機などを用いて製造することができる。固めるにあたりバインダーを加えても良いし、水などを加えても良い。尚、スプレードライヤー法、パン型造粒機、ポット型造粒機などについては既知の技術を用いることができるのでその説明は省略する。
【0016】
粒子群の平均粒子径及び標準偏差は、例えば、ランダムに選別した100個の粒子群を光学顕微鏡により径を計測して算出することができる。この場合、粒子群の形状が真球でない場合においては、粒子の投影像の長軸と短軸の平均値を採用して算出することができる。
【0017】
また、「固気混相流」とは、所定の大きさに制御された前述の粒子群が、ガス流に乗って移動している状態を指す。
【0018】
また、「凝集体」とは、微粒子の集合体であって、意図的に所定の大きさや形状にされた微粒子の集団でなく、自然発生的に形成され、微粒子が互いに結合した状態をいい、その大きさ、形状や結合の強度についても、制御されていない状態をいうものとする。
【0019】
また、「エアロゾル」とは、ヘリウムガスやアルゴンガスのような不活性ガス、窒素ガス、酸素ガス、乾燥空気、水素ガス、有機ガス、フッ素ガス、これらを含む混合ガスなどのガス中に前述の微粒子を分散させた状態を指し、一部凝集体を含む場合もあるが、実質的には微粒子が単独で分散している状態をいう。エアロゾルのガス圧力と温度は任意であるが、ガス中の微粒子の濃度は、ガス圧を1気圧、温度を摂氏20度に換算した場合に、吐出口から噴射される時点において0.0003mL/L〜10mL/Lの範囲内であることが膜状構造物の形成にとって好ましい。
また、「スタック」とは、容器内や粒子が通過する通路などにおいて、粒子の付着や粒子自体の凝集により粒子の移動が妨げられること、または、そのようになる状態をいう。スタックは、粒子が通過する通路の断面形状が小さくなった場所で発生しやすく、例えば、後述する収容機構の出口、供給機構の入口、搬送路などで発生しやすい。
【0020】
次に、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明をする。
図1は、本発明の実施の形態にかかる複合構造物形成システムの基本構成を例示するためのブロック図である。すなわち、同図は、エアロゾルデポジション装置の構成を例示するためのブロック図である。
【0021】
本実施の形態に係るエアロゾルデポジション装置は、収容機構1と、供給機構2と、ガス供給機構3と、エアロゾル化機構4と、吐出口5と、を備えている。
収容機構1の後段には、供給機構2が設置されている。また、供給機構2の後段には、エアロゾル化機構4が設置され、さらにエアロゾル化機構4の後段には、吐出口5が設置されている。そして、ガス供給機構3が、供給機構2に接続されている。
【0022】
収容機構1には、予め形成された粒子群が収容される。そして、供給機構2は、収容機構1に収容された粒子群を、後段のエアロゾル化機構4に対して粒子群の形状、状態を損なうことなく所定の量供給する。
【0023】
供給機構2により供給された粒子群はガス供給機構3により供給されたガスと共に固気混相流を形成し(固気混相流発生部)、搬送部(搬送路)を通じてエアロゾル化機構4へと搬送される。搬送された粒子群は、エアロゾル化機構4内で解砕され、微粒子がガス中に分散することでエアロゾルが形成される。エアロゾルは吐出口5より基材7に向けて噴射され、基材7上には膜状構造物6(図5を参照)が形成される。
尚、固気混相流を形成させないで、供給機構2から粒子群を搬送部(搬送路)を通じてエアロゾル化機構4へと搬送し、搬送された粒子群と、ガス供給機構3により供給されたガスとを用いて、エアロゾル化機構4内で粒子群を解砕して、微粒子がガス中に分散したエアロゾルを形成させるようにすることもできる。
ただし、固気混相流を形成させるものとすれば、粒子群を単に搬送するのみならず、エアロゾル化機構4に向けて粒子群を加速させることができるので、エアロゾル化が円滑に行われることになる。
【0024】
尚、ガス供給機構3は、粒子群を確実にエアロゾル化機構4へと搬送させるために、収容機構1と接続してもよく、エアロゾル中の微粒子濃度を調節するためにエアロゾル化機構4と接続してもよい。
【0025】
ここで、エアロゾルデポジション法の原理について説明をする。
エアロゾルデポジション法において利用される微粒子は、セラミックスや半導体などの脆性材料を主体とし、同一材質の微粒子を単独であるいは粒径の異なる微粒子を混合させて用いることができるほか、異種の脆性材料微粒子を混合させたり、複合させて用いることも可能である。また、金属材料や有機物材料などの微粒子を脆性材料微粒子に混合させたり、脆性材料微粒子の表面にコーティングさせて用いることも可能である。ただし、これらの場合でも、膜状構造物を形成させる際に主となるものは、脆性材料である。
【0026】
エアロゾルデポジション法において、微粒子を基材に対して50〜450m/sの速度で衝突させるようにすれば、微粒子中の脆性材料微粒子の構成材料からなる構造物を得るのに好適である。
【0027】
エアロゾルデポジション法のプロセスは、通常は常温で実施され、微粒子材料の融点より十分に低い温度、すなわち摂氏数100度以下で膜状構造物の形成が可能であるところにひとつの特徴がある。
【0028】
結晶性の脆性材料微粒子を原料として用いる場合、エアロゾルデポジション法によって形成される複合構造物のうち膜状構造物の部分において、その結晶粒子サイズは原料微粒子のそれに比べて小さい多結晶体となっており、その結晶は実質的に結晶配向性がない場合が多い。また、脆性材料結晶同士の界面には、ガラス層からなる粒界層が実質的に存在しない。また多くの場合、膜状構造物の部分において、基材の表面に食い込む「アンカー層」が形成されている。膜状構造物は、このアンカー層が形成されているため基材に対して極めて高い強度で強固に付着して形成される。
【0029】
エアロゾルデポジション法により形成される膜状構造物は、微粒子同士が圧力によりパッキングされ物理的な付着で形態を保っている状態のいわゆる「圧粉体」とは明らかに異なり、十分な強度を有している。
【0030】
この場合、エアロゾルデポジション法において、飛来してきた脆性材料微粒子が基材の上で破砕・変形を起していることは、原料として用いる脆性材料微粒子と、形成された脆性材料構造物の結晶子サイズとをX線回折法などで測定することにより確認することができる。
【0031】
エアロゾルデポジション法で形成された膜状構造物の結晶子サイズは、原料微粒子の結晶子サイズよりも小さい。また、微粒子が破砕や変形をすることで形成される「ずれ面」や「破面」には、もともとの微粒子の内部に存在し別の原子と結合していた原子が剥き出しの状態となった「新生面」が形成される。そして、表面エネルギーが高く活性なこの新生面が、隣接した脆性材料微粒子の表面や同じく隣接した脆性材料の新生面あるいは基材の表面と接合することにより膜状構造物が形成されるものと考えられる。
【0032】
また、エアロゾル中の微粒子の表面に水酸基がほどよく存在する場合には、微粒子の衝突時に微粒子同士や微粒子と構造物との間に生じる局部のずれ応力などにより、メカノケミカルな酸塩基脱水反応が起き、これら同士が接合するということも考えられる。外部からの連続した機械的衝撃力の付加は、これらの現象を継続的に発生させ、微粒子の変形、破砕などの繰り返しにより接合の進展、緻密化が行われ、脆性材料からなる膜状構造物が成長するものと考えられる。
これまでに得られた知見として、微粒子の大きさは平均粒径が0.1マイクロメータ以上、10マイクロメータ以下の範囲であれば、エアロゾルデポジション法による膜状構造物が得られ、平均粒径が0.1マイクロメータ以下では前記「圧粉体」となる傾向がある。また、10マイクロメータ以上であれば、基材をブラストする傾向があり、エアロゾルデポジション法に用いる粒子径としては不適当である。
【0033】
エアロゾル化機構において粒子群を解砕する手法としては、粒子群を壁、突起、回転体などに衝突させることによる機械的衝撃力を利用することが有効である。特に、粒子群をガスと混合させた固気混相流の状態で加速させれば、質量をもった粒子群を慣性力によって壁などに衝突させることが容易となる。この際、解砕エネルギーは、粒子群の質量と速度によって決定されるが、解砕に必要な速度を得るためにはエアロゾル化機構前後の圧力差が必要となる。
【0034】
ここで、目標とする膜状構造物の厚みや表面粗さなどの品質をより正確にするためには、粒子群の平均粒子径が10マイクロメータ以上500マイクロメータ以下に制御されていることが好ましい。微粒子の平均粒径が0.1マイクロメータ以上10マイクロメータ以下の場合、粒子群の大きさを10マイクロメータ以上とすると球形により近い粒子群を作りやすいため好適である。また、500マイクロメータ以下とすることで粒子群を解砕してエアロゾル化させるのに好適である。
更に粒子群の粒径の標準偏差/粒子群の平均粒子径が33%以内に制御されていることが好ましい。粒子群の粒径が前記範囲とすることで、エアロゾル中の微粒子濃度を安定なものとすることが可能となる。
また、本発明者の得た知見によれば、ガスの種類として、例えば、空気、窒素、酸素のいずれか、或いは前記ガスを主成分とした混合気体を用い、1気圧25℃換算の場合において、ガスの供給量を搬送路の最小断面積に対して、0.05L/(分・mm2)以上、50.0L/(分・mm2)以下の体積流量とすれば、固気混相流中の粒子群を効率よく加速させることができ、エアロゾル化を確実且つ容易に実施することができる。
ここで、エアロゾルデポジション法において、得られる膜状構造物が大面積にわたって均質で、均一な厚みを持たせるためには、吹き付けるエアロゾル中の微粒子濃度が常に安定していることが必要となる。すなわち、膜の品質・品位を安定させるためには、如何にして安定した微粒子濃度のエアロゾルを形成させるかが、本手法の重要な技術要素となる。
【0035】
この場合、特許文献1に開示されているような技術では、収容機構に収容された微粒子の状態が時間の経過とともに変化するなどして、安定した微粒子濃度のエアロゾルの発生が困難となるおそれがある。
また、特許文献2や3に開示されているような技術でも、一次粒子としてサブミクロン以下の微粒子を用いる場合、粘性、付着性が強いため、収容機構内部や収容機構からエアロゾル化機構に搬送する過程において壁面への付着やスタックなどの問題が発生しやすく、安定した微粒子濃度のエアロゾルの発生が困難となるおそれがある。
【0036】
そして、最も安定した微粒子濃度のエアロゾルを形成させることができる特許文献3に開示されている技術でも、収容機構から供給される際、あるいは搬送の過程において、微粒子または所定の大きさや形状に分割される微粒子の集団の形状や密度が不均一となる場合が生じ、瞬間的ではあるが安定した微粒子濃度のエアロゾルを形成させることが困難となるおそれがある。
【0037】
これに対し、本実施の形態によれば、粘性・付着性の強い微粒子を、予め形状の揃った状態、または結合強度が一定の状態の粒子群とし、そのような状態の粒子群を収容機構に収容することとしている。そして、この粒子群の形状を維持したまま定量的に供給することとしているため、後段に設置されているエアロゾル化機構において、短期的に見ても微粒子濃度が大きく変動することがなく、正確かつ長期間安定した微粒子濃度のエアロゾルを形成させることができる。その結果、吐出口から噴射されるエアロゾル中の微粒子の量を確実に制御することができ、基材上に形成される膜状構造物の膜厚や膜質も確実に制御することができる。
【0038】
ここで、収容機構内部あるいは搬送の過程において粒子群を安定的、定量的に供給するためには、粒子群の形状が重要となる。
本発明者は検討の結果、スパチュラ角が46.2°以下となるような粒子群の形状とすれば、収容機構内部や搬送の過程における壁面への付着やスタックなどを抑制することができ、長期間安定した微粒子濃度のエアロゾルを形成させることができるとの知見を得た。
【0039】
表1は、本発明者が検討をした粒子群のスパチュラ角を例示するための表である。
【表1】
また、図2〜図4は、それぞれのスパチュラ角における搬送の安定性の評価結果を例示するためのグラフ図である。
尚、図2〜図4の図中、実線で示すものは搬送速度(5sec(秒)あたりの搬送量)、破線で表すものは搬送速度の設定値(目標値)、一点鎖線で表すものは累積の搬送量である。
【0040】
本検討においては、粒子群を形成する微粒子を平均粒子径0.3マイクロメートルの高純度チタン酸バリウムとした。また、スパチュラ角はホソカワミクロン社製パウダーテスター「PT−R」を用いて計測した。そして、供給の安定性を評価する手段として、粒子群の供給に振動フィーダーを用いた。尚、供給の安定性の評価は振動フィーダに限定されるわけではなく、例えば、オリフィスやメッシュを通じて落下させるなどで評価することもできる。
【0041】
図2からは、微粒子が未処理の状態(スパチュラ角が調整されていない状態)では搬送量が安定せず、収容器内でのスタックにより微粒子が供給されない時間帯(図2における10min付近)があるなど、安定した供給ができないことがわかる。
【0042】
一方、図3や図4からわかるように、粒子群のスパチュラ角を46.2°以下とすれば、搬送量が安定し、スタックも無く目標どおりの安定した供給を達成することができる。
【0043】
尚、粒子群のスパチュラ角の調整は、転動造粒法、押出し造粒法、圧縮造粒法などの既知の造粒法を用いて粒子群を形成させる際に行うことができるため、その説明は省略する。
【0044】
図5は、本発明の実施の形態に係る複合構造物形成システム(エアロゾルデポジション装置)の第1の具体例を例示するための模式図である。
尚、図1で説明をしたものと同様の部分には同じ符号を付し説明は省略する。
【0045】
本具体例においては、構造物形成室8が設けられ、吐出口5の少なくとも先端部分と基材7を支持する支持走査機構10とが、構造物形成室8の中に配置されている。構造物形成室8の中に搬入された基材7は、支持走査機構13に内蔵されている、例えば、静電チャックなどで支持される。
【0046】
構造物形成室8の内部空間は、排気機構9によって減圧状態が維持可能とされている。排気機構9としては、例えば、ロータリーポンプなどを用いることができ、構造物形成室8の内部を大気圧よりも低い減圧雰囲気に維持することができる。
【0047】
エアロゾル化機構4において生成されたエアロゾルは、吐出口5から基材7に向けて噴射され、基材7上には原料微粒子からなる膜状構造物6が形成される。この時、構造物形成室8内が減圧環境にあるために、エアロゾルは圧力差により加速されて基材7に衝突する。その結果、前述したように強固な膜状構造物を基材7上に形成することができる。
【0048】
また、構造物形成室8を減圧状態に維持することにより、エアロゾルが基材7に衝突して形成される「新生面」がより長い時間、活性状態を維持することができ、膜状構造物の緻密性や強度を上げることが可能となる。
【0049】
また、基材7は、支持走査機構10の上に支持され、XYZθ方向の少なくともいずれかの方向にその位置を適宜移動させながら膜状構造物6を形成させることができる。すなわち、支持走査機構10により基材7を適宜走査しつつエアロゾルを吹き付けることで、吐出口5から噴射されるエアロゾルのビームサイズよりも大面積の基材7の表面に膜状構造物6を形成させることができる。
【0050】
本具体例によれば、所定の形状に調整された粒子群を収容機構1に収納し、その粒子群を供給機構2により確実に供給することで、供給量を容易に定量化することができる。そのため、エアロゾル中の微粒子濃度を一定にすることができる。その結果、吐出口5と基材7とを相対的に走査させることにより大面積の基材7の表面に膜状構造物6を形成させる場合において、エアロゾル中の微粒子濃度を一定に維持することができるので、大面積に亘り膜厚や膜質を均一にすることができる。
【0051】
図6は、本発明の実施の形態に係る複合構造物形成システム(エアロゾルデポジション装置)の第2の具体例を例示するための模式図である。
尚、図1、図5で説明をしたものと同様の部分には同じ符号を付し説明は省略する。
【0052】
本具体例においても、収容機構1内部の粒子群が供給機構2によってエアロゾル化機構4に供給される。さらに本具体例においては、図示しない加速手段及び、整流手段を有する吐出口11を具備し、吐出口11には支持走査機構12が接続されている。エアロゾル化機構4において生成されたエアロゾルは、配管13を介して吐出口11から基材7aに向けて噴射される。吐出口11が有する図示しない加速手段や流路径に差を設けることにより得られるジェット気流、圧縮効果などを利用すればエアロゾルを加速させることができる。
【0053】
本具体例においては、吐出口11が支持走査機構12により支持され、XYZθの少なくともいずれかの方向に移動可能とされている。基材7aが立体形状を有している、あるいは膜状構造物6aを形成させる場所が点在するなどの場合に応じて、吐出口11と基材7a表面との直線距離を保った状態で、吐出口11を移動させつつエアロゾルを噴射させ、基材7a上に大面積に亘り均一な膜状構造物6aを形成させることができる。尚、この場合、可撓性を有する配管13を設けるものとすれば、吐出口11の移動による変位を吸収させることができる。可撓性を有する配管13としては、例えば、ゴムなどの弾性材料からなる配管や、ベローズ(じゃばら)などの配管を例示することができる。尚、吐出口11と基材7aは相対的に移動すればよく、支持走査機構10をXYZθの少なくともいずれかの方向に移動可能としてもよい。
【0054】
本具体例においても、所定の形状に調整された粒子群を収容機構1に収納し、その粒子群を供給機構2により確実に供給することで、供給量を容易に定量化することができる。そのため、エアロゾル中の微粒子濃度を一定にすることができる。その結果、吐出口11と基材7aとを相対的に走査させることにより、立体形状あるいは膜状構造物6aを形成させる場所が点在する基材7aの表面に膜状構造物6aを形成させる場合においても、エアロゾル中の微粒子濃度を一定に維持することができるので、大面積に亘り膜厚や膜質を均一にすることができる。
【0055】
図7は、本発明の実施の形態に係る複合構造物形成システム(エアロゾルデポジション装置)の第3の具体例を例示するための模式図である。
尚、図1、図5で説明をしたものと同様の部分には同じ符号を付し説明は省略する。
【0056】
本具体例においては、吐出口5と基材7との間で、エアロゾル中の微粒子濃度を計量する計量機構14が設けられている。計量機構14は、制御機構15と電気的に接続されている。また、制御機構15は、後述するフィードバック制御のために、供給機構2、ガス供給機構3、排気機構9とも電気的に接続されている。尚、後述するフィードバック制御のための接続においては、少なくとも供給機構2と電気的に接続されていればよい。
【0057】
また、計量機構14は微粒子の量あるいはエアロゾルに含まれる微粒子の濃度を計量可能な場所に設けるようにすることができる。その場合、例えば、図7に示すように、計量機構14を構造物形成室8の外側または内側に設けるようにしてもよいし、構造物形成室8の内外に設けるようにしてもよい。また、設ける個数についても適宜変更することができる。
本具体例においては、吐出口5から噴射されるエアロゾルに含まれる微粒子の濃度が計量機構14で計量され、計量された情報が計量機構14から制御機構15へと送信される。制御機構15は、送信されてきた情報に基づいて供給機構2、ガス供給機構3、排気機構9へのフィードバック制御を行う。尚、フィードバック制御は、少なくとも供給機構2に対して行うようにすればよい。
【0058】
図8は、本実施の形態において用いることができる計量機構を例示する模式図である。 図8に示すように、計量機構14は、例えば、レーザなどの投光手段1402と、その光をモニタする受光手段1404などを備えたものとすることができる。この場合、エアロゾルに投光手段1402からのレーザを照射し、その透過量をモニタすることにより、エアロゾルに含まれる微粒子の濃度を計量することができる。
【0059】
尚、図9に例示するように、レーザなどの投光手段1402からエアロゾルにレーザを照射し、その反射光をCCD(Charge Coupled Device)センサなどの受光手段1404aによりモニタしてもよい。
【0060】
また、図10に例示するように、供給機構2にロードセルを設け、供給機構2の重量変化を計量することで、供給量を計量することもできる。そして、重量の変化によって振動子の振幅などを変化させるようにすれば、常に一定の重量の粒子群を供給することができる。この場合、重量変化を読み取り易くするために、多段式の供給機構2を設けるようにすれば、より精度の高い供給量の計量とその制御をすることができる。
【0061】
本具体例においても、所定の形状に調整された粒子群を収容機構1に収納し、その粒子群を供給機構2により確実に供給することで、供給量を容易に定量化することができる。そのため、エアロゾル中の微粒子濃度を一定にすることができる。
また、計量機構14を設け、制御機構15により少なくとも供給機構2に対してフィードバック制御をすることで、吐出後のエアロゾルに含まれる微粒子の濃度に揺らぎや経時変化があった場合でも、エアロゾルに含まれる微粒子の濃度を精密に制御することができる。
その結果、エアロゾル中の微粒子濃度を一定に維持することができるので、大面積に亘り膜厚や膜質を均一にすることができる。
以上、本発明の実施の形態に係る複合構造物形成システム(エアロゾルデポジション装置)の全体構成について例示をした。
【0062】
次に、供給機構2の具体例について例示をする。
図11は、供給機構2の第1の具体例を例示するための模式図である。
すなわち、図11は、供給機構2の要部の模式斜視図である。
【0063】
本具体例においては、粒子群31が収容された収容機構1の鉛直下方に開口が設けられ、この開口を塞ぐようにローラ210が設けられている。ローラ210は、その表面に複数の凹部212が設けられ、矢印Aの方向あるいはその反対の方向に回転する。凹部212は粒子群31よりも十分に大きな容積を有している。収容機構1の内部側壁と、ローラ210の表面と、の間の隙間はローラ210の回転を妨げない範囲で十分に狭くされ、この隙間から粒子群31がこぼれ落ちないようにされている。尚、収容機構1の内部側壁あるいは開口端に、ゴムなどの弾力性を有するシールを設けてローラ210の表面に接触させるようにしてもよい。
【0064】
収容機構1の中で、粒子群31はその自重により、ローラ210の凹部212に充填され、ローラ210が回転することにより、収容機構1の外側(下側)に搬出され、凹部212が鉛直下方を向くと、粒子群31は、自重によって落下する。この落下先にエアロゾル化機構4を設けることにより、微粒子の濃度が一定なエアロゾルを形成させることが可能となる。
【0065】
本具体例においては、凹部212に充填された所定量の粒子群31がローラ210の回転に伴って、収容機構1から搬出され、エアロゾル化機構4に向けて落下する。つまり、所定量の粒子群31を次々に供給することができる。
【0066】
また、収容機構1の中で、粒子群31は、その自重によりローラ210の凹部212に充填されるので、過度に押し固められることはない。つまり、粒子群31はつぶれることなく搬出されるため、供給機構2から形状の変化した粒子群31が供給されることを抑制することができる。
またさらに、粒子群31が凹部212の中に過度に押し固められないので、ローラ210の回転により凹部212が鉛直下方を向いた時に、その中の粒子群31は、自重により円滑に落下できる。つまり、粒子群31が凹部212の中から落ちにくくなるという問題も抑制することができ、粒子群31を安定的に供給することができる。そのため、スパチュラ角の調整がされた粒子群31をそのまま供給することができるので、搬送量が安定し、スタックも無く目標どおりの安定した供給を達成することができる。
【0067】
図12は、供給機構2の第2の具体例を例示するための模式図である。
本具体例においても、粒子群31が収容された収容機構1の鉛直下方に開口が設けられている。そして、この開口を塞ぐようにローラ222が設けられている。ローラ222の表面には複数の凸部224が設けられ、矢印Aの方向あるいはその反対の方向に回転する。
【0068】
本具体例においては、ローラ222の表面には凸部224が設けられているので、ローラ222の表面と、収容機構1の内部側壁と、の間には、凸部224の高さに対応した隙間が生ずる。ただし、凸部224をローラ222の表面にある程度、密に設けたり、凸部224の形状や配列を適宜調節することにより、収容機構1の下端の開口とローラ222の表面との隙間から粒子群31が連続的にこぼれ落ちることを防止することができる。
【0069】
そして、ローラ222の回転に伴い、収容機構1の中に収容されている粒子群31が凸部224により押し出され、自重により落下してエアロゾル化機構4に供給される。収容機構1に収容されている粒子群31は、それぞれの凸部224により外部に掻き出されるようにして取り出されるので、凸部224の形状や頻度、回転数によって粒子群31の量を制御することができる。
【0070】
本具体例においては、収容機構1の中で、粒子群31は、その自重によりローラ222の表面に接触し、凸部224により外部に押し出されるので、過度に押し固められることはない。つまり、粒子群31はつぶれることなく搬出されるため、供給機構2から形状の変化した粒子群31が供給されることを抑制することができる。そのため、スパチュラ角の調整がされた粒子群31をそのまま供給することができるので、搬送量が安定し、スタックも無く目標どおりの安定した供給を達成することができる。
【0071】
図13は、供給機構2の第3の具体例を例示するための模式図である。
本具体例においては、粒子群31が収容された収容機構1の鉛直下方に略円形の開口が設けられている。そして、この開口にはメッシュ230が設けられている。メッシュ230は収容機構1の底面に接触しながら、矢印Aの方向あるいはその反対の方向に回転する。
【0072】
本具体例においては、メッシュ230が回転することにより、粒子群31がメッシュ230の開口を通過して落下する。粒子群31の落下の量は、メッシュ230の開口サイズや回転速度などに応じて変化する。このとき、メッシュの開口サイズの大きさを、粒子群31の平均粒子径の2倍から7倍の範囲としておけば、メッシュ230の静止時に粒子群31同士をブリッジさせることができるため、不必要な落下を抑制することができる。その結果、メッシュ230の回転による粒子群31の搬送量の制御が容易となる。
【0073】
本具体例においては、収容機構1の中で、粒子群31は、その自重によりメッシュ230の表面に接触し、開口を通過して外部に落下するので、過度に押し固められることはない。つまり、粒子群31はつぶれることなく搬出されるため、供給機構2から形状の変化した粒子群31が供給されることを抑制することができる。そのため、スパチュラ角の調整がされた粒子群31をそのまま供給することができるので、搬送量が安定し、スタックも無く目標どおりの安定した供給を達成することができる。
【0074】
またさらに、メッシュ230の複数の開口を介して複数の粒子群31がほぼ同時および連続的に供給される。つまり、エアロゾル化機構4においては、常に多数の粒子群31が連続的に供給され、粒子群31の供給量は時間的にみて平均化される。従って、エアロゾル化機構4において、常に一定量の粒子群31が安定して供給され、一定の微粒子濃度のエアロゾルを安定して発生させることができる。
【0075】
図14は、供給機構2の第4の具体例を例示するための模式図である。
本具体例においても、第3の具体例に関して前述したものと同様に、粒子群31が収容された収容機構1の鉛直下方に円形の開口が設けられている。そして、この開口にはメッシュ230が設けられている。メッシュ230の上にはブラシ232が設置され、メッシュ230に接触しながら、矢印Aの方向あるいはその反対の方向に回転する。そしてさらに、収容機構1には振動子234が付設されている。振動子234は、収容機構1の壁面などを振動させ、収容機構1に収容されている粒子群31を円滑にブラシ232及びメッシュ230に向けて落下供給させる作用を奏する。また、収容機構1の中の粒子群31に振動を与えることにより、流動性を向上させる効果も得られる。
【0076】
尚、振動子234は、第1〜第3の各具体例についても同様に設けて同様の作用効果を得ることができる。
【0077】
本具体例においては、ブラシ232の回転に伴い、粒子群31がメッシュ230の開口を通過して落下する。粒子群31の落下の量は、メッシュ230の開口サイズと、ブラシ232の刷毛の密度や回転速度と、に応じて変化する。このとき、メッシュの開口サイズの大きさを、粒子群31の平均粒子径の2倍から7倍の範囲としておけば、メッシュ230の静止時に粒子群31同士をブリッジさせることができるため、不必要な落下を抑制することができる。その結果、メッシュ230の回転による粒子群31の搬送量の制御が容易となる。
【0078】
そして、ブラシ232のそれぞれの刷毛の先がメッシュ230の開口を通過する動作に応じて粒子群31が開口から押し出される。つまり、微視的にみると、粒子群31は軽くメッシュから押し出され、落下してエアロゾル機構4に供給される。つまり、粒子群31はつぶれることなく搬出されるため、供給機構2から形状の変化した粒子群31が供給されることを抑制することができる。そのため、スパチュラ角の調整がされた粒子群31をそのまま供給することができるので、搬送量が安定し、スタックも無く目標どおりの安定した供給を達成することができる。
【0079】
またさらに、メッシュ230の複数の開口を介して複数の粒子群31がほぼ同時および連続的に供給される。つまり、エアロゾル化機構4においては、常に多数の粒子群31が連続的に供給され、粒子群31の供給量は時間的にみて平均化される。従って、エアロゾル化機構4において、常に一定量の粒子群31が安定して供給され、一定の微粒子濃度のエアロゾルを安定して発生させることができる。
【0080】
図15は、供給機構2の第5の具体例を例示するための模式図である。
本具体例においては、粒子群31が収容された収容機構1の下部には供給路235が設けられ、その供給路235には振動子234が設置されている。収容機構1に収容された粒子群31は、図示しないオリフィスを通過して所定の量が供給路235に供給される。供給路235に供給された粒子群31は、振動子234の振動により供給路235から搬出される。
【0081】
本具体例においては、収容機構1の中で、粒子群31は、その自重により図示しないオリフィスを通過して外部(供給路235)に落下するので、過度に押し固められることはない。また、供給路235に供給された粒子群31も振動子234の振動により外部に落下するので、粒子群31の形状が変化することはない。つまり、粒子群31はその形状が変化することなく供給機構2から外部に供給される。そのため、スパチュラ角の調整がされた粒子群31をそのまま供給することができるので、搬送量が安定し、スタックも無く目標どおりの安定した供給を達成することができる。
【0082】
またさらに、複数の粒子群31がほぼ同時および連続的に供給されることになる。つまり、エアロゾル化機構4においては、常に多数の粒子群31が連続的に供給され、粒子群31の供給量は時間的にみて平均化される。従って、エアロゾル化機構4において、常に一定量の粒子群31が安定して供給され、一定の微粒子濃度のエアロゾルを安定して発生させることができる。
【0083】
図16は、供給機構2の第6の具体例を例示するための模式図である。
本具体例においては、粒子群31が収容された収容機構1の下部に溝が形成された回転盤が配置され、回転盤の回転方向の先にはスクレーパーが配置されている。
【0084】
回転盤の溝に導入された粒子群31は、回転盤が回転することで収容機構1より搬出される。そして、溝に導入された粒子群31はスクレーパーによって掻き出される。
【0085】
本具体例においては、収容機構1の中で、粒子群31は、その自重により回転盤の表面に接触し、溝に導入された後スクレーパーによって掻き出されるので、過度に押し固められることはない。つまり、粒子群31はつぶれることなく搬出されるため、供給機構2から形状の変化した粒子群31が供給されることを抑制することができる。そのため、スパチュラ角の調整がされた粒子群31をそのまま供給することができるので、搬送量が安定し、スタックも無く目標どおりの安定した供給を達成することができる。
【0086】
またさらに、回転盤の複数の溝を介して複数の粒子群31がほぼ同時および連続的に供給される。つまり、エアロゾル化機構4においては、常に多数の粒子群31が連続的に供給され、粒子群31の供給量は時間的にみて平均化される。従って、エアロゾル化機構4において、常に一定量の粒子群31が安定して供給され、一定の微粒子濃度のエアロゾルを安定して発生させることができる。
【0087】
図17は、供給機構2の第7の具体例を例示するための模式図である。
本具体例においては、粒子群31が収容された収容機構1の下部に、スクリューが設けられ、スクリューの端部にはスクリューを回転させるための図示しないモータが備えられている。また、スクリューをスムーズに回転させるために、スクリューには一定の長さの外壁が設けられており、外壁の両端部は開放されている。スクリューの溝に導入された粒子群31は、スクリューが回転することで収容機構1より搬出される。このとき、粒子群31は外壁とのクリアランスで一定量にすりきられて移動し、外壁の端部より一定速度で落下する。
【0088】
本具体例においては、収容機構1の中で、粒子群31は、その自重によりスクリューの表面に接触するので、過度に押し固められることはない。つまり、粒子群31はつぶれることなく搬出されるため、供給機構2から形状の変化した粒子群31が供給されることを抑制することができる。そのため、スパチュラ角の調整がされた粒子群31をそのまま供給することができるので、搬送量が安定し、スタックも無く目標どおりの安定した供給を達成することができる。
【0089】
またさらに、スクリューにより複数の粒子群31がほぼ同時および連続的に供給される。つまり、エアロゾル化機構4においては、常に多数の粒子群31が連続的に供給され、粒子群31の供給量は時間的にみて平均化される。従って、エアロゾル化機構4において、常に一定量の粒子群31が安定して供給され、一定の微粒子濃度のエアロゾルを安定して発生させることができる。
【0090】
図18は、供給機構2の第8の具体例を例示するための模式図である。
本具体例においては、粒子群31が収容された収容機構1の下部には、オリフィス237が設けられ、その下方にはベルトコンベア236が地軸に対してほぼ水平に配置されている。
【0091】
オリフィス237によってすりきられた粒子群31はベルトコンベア236の上部に乗って搬出される。ベルトコンベア236は一定速度で運転されるため、粒子群31は所定の長さを移動した後に、ベルトコンベア236の端部より一定速度で落下する。
【0092】
本具体例においては、収容機構1の中で、粒子群31は、その自重によりオリフィス237を通過してベルトコンベア236の上に落下するので、過度に押し固められることはない。つまり、粒子群31はつぶれることなく搬出されるため、供給機構2から形状の変化した粒子群31が供給されることを抑制することができる。そのため、スパチュラ角の調整がされた粒子群31をそのまま供給することができるので、搬送量が安定し、スタックも無く目標どおりの安定した供給を達成することができる。
【0093】
またさらに、ベルトコンベア236を介して複数の粒子群31がほぼ同時および連続的に供給される。つまり、エアロゾル化機構4においては、常に多数の粒子群31が連続的に供給され、粒子群31の供給量は時間的にみて平均化される。従って、エアロゾル化機構4において、常に一定量の粒子群31が安定して供給され、一定の微粒子濃度のエアロゾルを安定して発生させることができる。
【0094】
図19は、供給機構2の第9の具体例を例示するための模式図である。
本具体例においては、粒子群31が収容された収容機構1の下部にオリフィス238が設けられ、更にそのオリフィス238を開閉するためのシャッター239が設けられている。オリフィス238の開口形状は粒子群31の大きさに応じて適宜決定されており、シャッター239を開閉することで、粒子群31の供給と停止をさせることができる。
【0095】
本具体例においては、収容機構1の中で、粒子群31は、その自重によりオリフィス238を通過して外部に落下するので、過度に押し固められることはない。つまり、粒子群31はつぶれることなく搬出されるため、供給機構2から形状の変化した粒子群31が供給されることを抑制することができる。そのため、スパチュラ角の調整がされた粒子群31をそのまま供給することができるので、搬送量が安定し、スタックも無く目標どおりの安定した供給を達成することができる。
【0096】
またさらに、オリフィス238を介して複数の粒子群31がほぼ同時および連続的に供給される。つまり、エアロゾル化機構4においては、常に多数の粒子群31が連続的に供給され、粒子群31の供給量は時間的にみて平均化される。従って、エアロゾル化機構4において、常に一定量の粒子群31が安定して供給され、一定の微粒子濃度のエアロゾルを安定して発生させることができる。
【0097】
次に、エアロゾル化機構4について具体例を例示しながら説明する。
図20は、エアロゾル化機構の第1の具体例を例示するための模式図である。
エアロゾル化機構4aには、粒子群31をガスと共に噴出する供給口1502と、その前方に設けられた機械的障壁としての衝撃板1504と、排出口1505とが設けられている。
【0098】
供給口1502から噴出された粒子群31は、衝撃板1504に衝突した時に、衝撃力を受ける。この衝撃力により、粒子群31が解砕し、一次粒子30P、または数個の一次粒子30Pが凝集した程度の凝集粒30Qを含んだ状態のものがガス中に分散してエアロゾル32となる。エアロゾル32はガス流にのって排出口1505より排出される。
【0099】
また、衝撃板1504を回転させるようにすれば、粒子群31の衝突点の運動ベクトルが、エアロゾル32の噴射の運動ベクトルと略対向するようになるので、粒子群31に対する衝撃力を増加させることができる。その結果、エアロゾル32中の微粒子濃度の均質化をより図ることができる。
【0100】
図21は、エアロゾル化機構の第2の具体例を例示するための模式図である。
エアロゾル化機構4bには、粒子群31を供給する供給口1502と、その前方に設けられた機械的障壁としての衝突板1504aと、排出口1505とが設けられている。ガス供給口1507は、衝突板1504aに対して略平行となるように設けられ、ガス供給口1507の前方には排出口1505が設けられている。
【0101】
粒子群31はガス流に乗って供給され、衝突板1504aと衝突することで一次粒子30P、または数個の一次粒子30Pが凝集した程度の凝集粒30Qに解砕される。衝突した地点へガス供給口1507からガスを噴射することで、衝突板1505aに付着する圧粉体を吹き飛ばすことができ、均一なエアロゾルを発生させることができる。
【0102】
図22は、エアロゾル化機構の第3の具体例を例示するための模式図である。
エアロゾル化機構4cには、粒子群31を供給する供給口1502と、その前方に圧力障壁を形成させるためのガス供給口1507aと、排出口1505とが設けられている。また、ガス供給口1507aは、排出口1505が設けられた管路と略同軸に設けられている。
【0103】
粒子群31はガス流に乗って供給され、ガス供給口1507aにより形成された圧力障壁と衝突する。このとき、粒子群31には剪断力が働くので、粒子群31は一次粒子30P、または数個の一次粒子30Pが凝集した程度の凝集粒30Qに解砕される。そして、ガス供給口1507から噴射されるガスにより、均一なエアロゾルが形成される。
【0104】
図23は、エアロゾル化機構の第4の具体例を例示するための模式図である。
エアロゾル化機構4dには、エアロゾルが流れる流路に沿って、流路径の大きい箇所1506と小さい箇所1508とが交互に設けられている。このようにすると、流路径の小さい箇所1508においてはガスが圧縮され、流路径の大きい箇所1506においてはガスが膨張する。このような圧縮と膨張とを繰り返すと、エアロゾルに含まれる粒子群31に剪断力が作用する。この剪断力により、粒子群31は一次粒子30P、または数個の一次粒子30Pが凝集した程度の凝集粒30Qに解砕される。
【0105】
尚、流路径の大きい箇所1506と小さい箇所1508の数は、例示したものに限定されるわけではなく、供給される粒子群31の大きさなどに応じて適宜変更することができる。
【0106】
図24は、エアロゾル化機構の第5の具体例を例示するための模式図である。
エアロゾル化機構4eには、第1のガス供給口1507bと、第2のガス供給口1507cとが設けられている。そして、第1のガス供給口1507bと、第2のガス供給口1507cとは、その軸線が互いに交差するようにして設けられている。
【0107】
そのため、第1のガス供給口1507b、第2のガス供給口1507cから供給された粒子群31同士を衝突させることができる。この衝突により、粒子群31は一次粒子30P、または数個の一次粒子30Pが凝集した程度の凝集粒30Qに解砕される。尚、本実施の形態によれば、粒子群31の壁面への衝突が避けられ、不純物が入りにくいという利点がある。
【0108】
次に、本発明者が本発明をするに至った過程で行った実験について説明をする。
図25は、比較実験に用いたエアロゾル発生器を説明するための模式図である。
図25に示すように、エアロゾル発生器100には、微粒子30を収納するための収容部101と、収容部101にガスを導入するためのガス導入口102と、収容部101からエアロゾルを導出させるためのエアロゾル導出口103と、収容部101に水平方向の振動を与えるための振動発生手段104と、モータ106の出力軸に設けられ回転運動を往復直線運動に変換するクランク105と、クランク105と振動発生手段104とを連結するリンク107と、を備えている。
【0109】
図示しないガス供給手段からガス導入口102を介して収容部101内に導入されたガスは、微粒子30をまき上げるようにしてエアロゾルを形成し、エアロゾル導出口103から外部に導出される。また、モータ106による回転運動はクランク105により往復直線運動に変換され、リンク107を介して振動発生手段104に伝達される。そのため、振動発生手段104が水平方向に往復直線運動をするので、収容部101内部の微粒子30が攪拌されることになる。
【0110】
まず、図25に示したエアロゾル発生器100を用いた場合と、図13に例示をした本発明の実施の形態に係る供給機構2を用いた場合におけるエアロゾル中の微粒子濃度(ビーム濃度)の変化を測定した。この際、微粒子は、平均粒子径0.3マイクロメートルの高純度チタン酸バリウムを用いた。また、ガスはヘリウムガスとし、供給量は14.4L/minとした。
【0111】
尚、微粒子濃度はビーム濃度(吐出口より吐出したエアロゾル中の濃度)とし、吐出口より吐出したエアロゾルに対してレーザー光を照射し、散乱光の強度をCCDセンサーで検知してそれを数値化した。
【0112】
図26は、ビーム濃度の変化を例示するためのグラフ図であり、図26(a)は図25に示したエアロゾル発生器100を用いた場合、図26(b)は図13に例示をした本発明の実施の形態に係る供給機構2を用いた場合である。
図26(a)から分かるように、図25に示したエアロゾル発生器100を用いた場合においては、ビーム濃度は安定せず、また、エアロゾル供給量も高く維持することができなかった。これは、エアロゾル発生容器100内でチタン酸バリウム微粒子が凝集し、エアロゾルが発生しにくい状態へと変化したためである。
【0113】
一方、図26(b)から分かるように、本発明の実施の形態に係る供給機構2を用いた場合においては、高いビーム濃度を長時間にわたり安定して維持することができる。これは、連続的かつ安定的に粒子群がエアロゾル発生機構へ供給されているためであり、また、供給される粒子の状態も終始安定しているためでもある。
【0114】
図27は、本発明の実施の形態に係る供給機構2を用いた場合における膜厚の時間変化を例示するためのグラフ図である。
成膜は、X方向×Y方向=250ミリメートル×200ミリメートルの矩形の試料上に行った。そして、吐出口の相対位置をX方向においては往復、Y方向においては1方向に走査することで膜状構造物を形成させた。膜厚は、X方向の中央部の膜厚を計測するものとした。そして、膜厚の計測は、中央部に設けたマスキングにより生じた段差を段差計で計測し、Y方向に計測位置をずらしながら行った。そうすることで、成膜の経時変化を知ることができる。尚、微粒子は、平均粒子径0.3マイクロメートルの高純度チタン酸バリウムを用いた。
【0115】
図27から分かるように、本発明の実施の形態に係る供給機構2を用いるものとすれば、膜厚の精度を±7%程度とすることができ、経時的にも膜厚を均一にすることができる。
【0116】
図28は、本発明の実施の形態に係る粒子群を用いた場合における成膜性を例示するためのグラフ図である。
成膜は、X方向×Y方向=250ミリメートル×200ミリメートルの矩形の試料上に行った。そして、吐出口の相対位置をX方向においては往復、Y方向においては1方向に走査することで膜状構造物を形成させた。X方向の往復走査は走査速度を10mm/secとし、Y方向には0.5mmずつステップさせるようにした。また、この場合の延べ成膜時間はおよそ190分であった。得られた膜の膜厚は、試料上の各所に設けたマスキングにより生じた段差を段差計により計測した。
【0117】
尚、粒子群は、平均粒子径0.3マイクロメートルの高純度チタン酸バリウムからなるものとし、スパチュラ角が46.2°以下となるような形状とした。
また、成膜条件として、ヘリウムガスの供給量を大気圧換算で14L/min、粒子群の供給量を2.0g/minとした。この場合の粒子群使用量は、およそ400gであった。
【0118】
図28から分かるように、平均膜厚を4.5マイクロメートル、標準偏差0.25、膜厚精度を±5%程度とすることができ、経時的にも膜厚を均一とすることができることが確認できた。
【0119】
これは、エアロゾル化機構4へ連続的、安定的に粒子群が供給されているためであり、供給、搬送される粒子群の状態も終始安定していることを示唆している。
【0120】
次に、微粒子または粒子群を用いた場合の搬送実験について説明をする。
微粒子は、平均粒子径0.3マイクロメートルの高純度チタン酸バリウムを用いた。また、本発明の実施の形態に係る粒子群も平均粒子径0.3マイクロメートルの高純度チタン酸バリウムから形成させた。尚、粒子群は、スパチュラ角が46.2°以下となるような形状としている。
搬送実験には、図15に例示をしたような振動フィーダを用いた。そして、予め粒子群を形成した状態のもの(本発明の実施の形態に係る粒子群)と、微粒子に対して手を加えていない状態のものとを用い、振動フィーダの搬送設定値を一定にした場合におけるそれぞれの搬送重量を計測した。
【0121】
図29は、搬送実験の結果を例示するためのグラフ図であり、図29(a)は累積の搬送量、図29(b)は5sec(秒)あたりの搬送量(搬送速度)を示している。
図29から分かるように、微粒子に対して手を加えていない状態のもの(粒子群が形成されていない状態のもの)では、目標搬送量に対して正確な搬送ができず、収容機構内で微粒子がスタックを起こし、供給が停止する現象(図29における10min付近)がみられた。
【0122】
一方、本発明の実施の形態に係る粒子群では、目標値に対して安定した搬送性能を維持することができ、収容機構内でのスタックなどの不具合も見られなかった。
【0123】
次に、供給機構2の構成に対する微粒子、粒子群の適合性について説明をする。 、本発明の実施の形態に係る粒子群と、微粒子に対して手を加えていない状態のものとを同じ装置構成の供給機構2を用いて供給し、その適合性について検討をした。
【0124】
表2は、適合性の検討結果を例示したものである。
【表2】
表2から分かるように、微粒子に対して手を加えていない状態のものを供給するものとすれば、いずれの装置構成の供給機構2を用いたとしても、スタック性(スタックの起こりやすさ)、定量供給性に問題が生ずる。
一方、本発明の実施の形態に係る粒子群を供給するものとすれば、スタック性、定量供給性に優れた供給をすることができる。その結果、エアロゾル中の微粒子濃度を一定にすることができ、大面積を成膜する場合であっても膜厚や膜質を均一にすることができる。
【0125】
次に、ガス流量と成膜性能との関係を説明する。
本発明の実施の形態に係る粒子群を用い、成膜時に使用するガス流量を変化させた場合における成膜性能を評価した。
粒子群としては、酸化アルミニウムからなるものを用いた。また、ガスは窒素ガス、ヘリウムガスとし、その流量を、大気圧25℃換算でエアロゾルが通過する流路の最小断面積に対して0.01〜10L/(min・mm2)とした。
また、吐出口の相対位置を30mm移動させ、それを30回往復運動させることで得られた膜の膜厚を計測した。
【0126】
図30は、ガス流量と成膜性能との関係を例示するためのグラフ図である。
図30から分かるように、窒素ガス、ヘリウムガスの流量が0.01L/(min・mm2)以下では粒子群がそのまま吐出している様子が観察され、圧粉体状の付着物が基材上に付着した程度で、いわゆるエアロゾルデポジション法で得られる構造物が形成されることはなかった。これは機械的衝撃力が不十分であったことを示唆している。
【0127】
一方、ガス流量を増加させれば膜厚を増加させることができ、良好な構造物が得られることが確認できた。尚、窒素ガスの場合は、およそ6L/(min・mm2)程度で膜厚が最大となった。
【0128】
以上、本発明の実施の形態について説明をした。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。
【0129】
前述の実施の形態、具体例に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。
【0130】
例えば、複合構造物形成システム(エアロゾルデポジション装置)、複合構造物形成方法に関して当業者が適宜設計変更して採用したものも、本発明の要旨を有する限りにおいては本発明の範囲に包含される。
【0131】
また、微粒子も例示したものに限定されるわけではなく、例えば、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化珪素、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛等の酸化物の他、窒化物、ホウ化物、炭化物、フッ化物などの脆性材料、脆性材料を主成分とした金属や樹脂との複合材料等でもよい。
【0132】
また、ガスも例示したものに限定されるわけではなく、例えば、空気、水素ガス、窒素ガス、酸素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどの不活性ガスの他、メタンガス、エタンガス、エチレンガス、アセチレンガスなどの有機ガス、また、フッ素ガスなどの腐食性のあるガス等でも良く、必要に応じてこれらの混合ガスを使用してもよい。
【0133】
また、前述した各実施の形態、各具体例が備える各要素は、可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】本発明の実施の形態にかかる複合構造物形成システムの基本構成を例示するためのブロック図である。
【図2】搬送の安定性の評価結果を例示するためのグラフ図である。
【図3】搬送の安定性の評価結果を例示するためのグラフ図である。
【図4】搬送の安定性の評価結果を例示するためのグラフ図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る複合構造物形成システム(エアロゾルデポジション装置)の第1の具体例を例示するための模式図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る複合構造物形成システム(エアロゾルデポジション装置)の第2の具体例を例示するための模式図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る複合構造物形成システム(エアロゾルデポジション装置)の第3の具体例を例示するための模式図である。
【図8】本実施の形態において用いることができる計量機構を例示する模式図である。
【図9】本実施の形態において用いることができる計量機構を例示する模式図である。
【図10】本実施の形態において用いることができる計量機構を例示する模式図である。
【図11】供給機構の第1の具体例を例示するための模式図である。
【図12】供給機構の第2の具体例を例示するための模式図である。
【図13】供給機構の第3の具体例を例示するための模式図である。
【図14】供給機構の第4の具体例を例示するための模式図である。
【図15】供給機構の第5の具体例を例示するための模式図である。
【図16】供給機構の第6の具体例を例示するための模式図である。
【図17】供給機構の第7の具体例を例示するための模式図である。
【図18】供給機構の第8の具体例を例示するための模式図である。
【図19】供給機構の第9の具体例を例示するための模式図である。
【図20】エアロゾル化機構の第1の具体例を例示するための模式図である。
【図21】エアロゾル化機構の第2の具体例を例示するための模式図である。
【図22】エアロゾル化機構の第3の具体例を例示するための模式図である。
【図23】エアロゾル化機構の第4の具体例を例示するための模式図である。
【図24】エアロゾル化機構の第5の具体例を例示するための模式図である。
【図25】比較実験に用いたエアロゾル発生器を説明するための模式図である。
【図26】ビーム濃度の変化を例示するためのグラフ図である。
【図27】本発明の実施の形態に係る供給機構を用いた場合における膜厚の時間変化を例示するためのグラフ図である。
【図28】本発明の実施の形態に係る粒子群を用いた場合における成膜性を例示するためのグラフ図である。
【図29】搬送実験の結果を例示するためのグラフ図である。
【図30】ガス流量と成膜性能との関係を例示するためのグラフ図である。
【符号の説明】
【0135】
1 収容機構、2 供給機構、3 ガス供給機構、4 エアロゾル化機構、4a〜4e エアロゾル化機構、5 吐出口、6 膜状構造物、6a 膜状構造物、7 基材、7a 基材、8 構造物形成室、9 排気機構、10 支持走査機構、11 吐出口、12 支持走査機構、13 配管、14 計量機構、15 制御機構、30P 一次粒子、30Q 凝集粒、31 粒子群、100 エアロゾル発生器、1402 投光手段、1404 受光手段、1404a 受光手段、
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアロゾルデポジション法に用いる粒子群であって、
前記粒子群は、複数の脆性材料微粒子を含む微粒子を固めた集合体であり、前記粒子群のスパチュラ角が46.2°以下であること、を特徴とする粒子群。
【請求項2】
エアロゾルデポジション法に用いる粒子群であって、
前記粒子群は複数の微粒子を含み、前記微粒子の平均粒径が0.1マイクロメータ以上10マイクロメータ以下、前記粒子群の平均粒子径が10マイクロメータ以上500マイクロメータ以下、前記粒子群のスパチュラ角が46.2°以下であること、を特徴とする粒子群。
【請求項3】
前記粒子群の「粒径の標準偏差/平均粒子径」が33%以内であること、を特徴とする請求項1または2に記載の粒子群。
【請求項4】
収容機構に収容された請求項1〜3のいずれか1つに記載の粒子群を前記収容機構から搬出してガス供給機構から供給されたガスとともにエアロゾル化機構に搬送し、
前記搬送された前記粒子群を解砕させてエアロゾルを形成し、
前記エアロゾルを基材に向けて噴射することにより前記粒子群の構成材料からなる構造物と前記基材との複合構造物を形成すること、を特徴とする複合構造物形成方法。
【請求項5】
前記エアロゾル化機構への搬送は、前記収容機構から搬出された前記粒子群と、前記ガス供給機構から供給されたガスと、により形成された固気混相流により行われること、を特徴とする請求項4記載の複合構造物形成方法。
【請求項6】
収容機構に収容された請求項1〜3のいずれか1つに記載の粒子群を前記収容機構から搬出してエアロゾル化機構に搬送し、
ガス供給機構から供給されたガスとともに前記搬送された前記粒子群を解砕させてエアロゾルを形成し、
前記エアロゾルを基材に向けて噴射することにより前記粒子群の構成材料からなる構造物と前記基材との複合構造物を形成すること、を特徴とする複合構造物形成方法。
【請求項7】
前記ガスの体積流量は、前記エアロゾル化機構への搬送路の最小断面積に対して、1気圧25℃換算において0.05L/(分・mm2)以上、50.0L/(分・mm2)以下であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1つに記載の複合構造物形成方法。
【請求項8】
微粒子をガス中に分散させたエアロゾルを基材に衝突させて前記微粒子の構成材料からなる構造物と前記基材との複合構造物を形成する複合構造物形成システムであって、
請求項1〜3のいずれか1つに記載の粒子群を収容する収容機構と、
前記収容機構から前記粒子群を搬出する供給機構と、
前記搬出された粒子群に向けてガスを供給するガス供給機構と、
前記ガスを混流した前記粒子群に対して衝撃を加えることで複数の微粒子に解砕しエアロゾルを形成させるエアロゾル化機構と、
前記エアロゾルを基板上に噴射する吐出口と、を備えることを特徴とする複合構造物形成システム。
【請求項9】
前記衝撃は、機械的障壁、圧力障壁、前記粒子群同士の衝突の群より選択された少なくとも1つにより加えられること、を特徴とする請求項8記載の複合構造物形成システム。
【請求項10】
前記ガスの体積流量は、前記エアロゾル化機構への搬送路の最小断面積に対して、1気圧25℃換算において0.05L/(分・mm2)以上、50.0L/(分・mm2)以下であることを特徴とする請求項8または9に記載の複合構造物形成システム。
【請求項1】
エアロゾルデポジション法に用いる粒子群であって、
前記粒子群は、複数の脆性材料微粒子を含む微粒子を固めた集合体であり、前記粒子群のスパチュラ角が46.2°以下であること、を特徴とする粒子群。
【請求項2】
エアロゾルデポジション法に用いる粒子群であって、
前記粒子群は複数の微粒子を含み、前記微粒子の平均粒径が0.1マイクロメータ以上10マイクロメータ以下、前記粒子群の平均粒子径が10マイクロメータ以上500マイクロメータ以下、前記粒子群のスパチュラ角が46.2°以下であること、を特徴とする粒子群。
【請求項3】
前記粒子群の「粒径の標準偏差/平均粒子径」が33%以内であること、を特徴とする請求項1または2に記載の粒子群。
【請求項4】
収容機構に収容された請求項1〜3のいずれか1つに記載の粒子群を前記収容機構から搬出してガス供給機構から供給されたガスとともにエアロゾル化機構に搬送し、
前記搬送された前記粒子群を解砕させてエアロゾルを形成し、
前記エアロゾルを基材に向けて噴射することにより前記粒子群の構成材料からなる構造物と前記基材との複合構造物を形成すること、を特徴とする複合構造物形成方法。
【請求項5】
前記エアロゾル化機構への搬送は、前記収容機構から搬出された前記粒子群と、前記ガス供給機構から供給されたガスと、により形成された固気混相流により行われること、を特徴とする請求項4記載の複合構造物形成方法。
【請求項6】
収容機構に収容された請求項1〜3のいずれか1つに記載の粒子群を前記収容機構から搬出してエアロゾル化機構に搬送し、
ガス供給機構から供給されたガスとともに前記搬送された前記粒子群を解砕させてエアロゾルを形成し、
前記エアロゾルを基材に向けて噴射することにより前記粒子群の構成材料からなる構造物と前記基材との複合構造物を形成すること、を特徴とする複合構造物形成方法。
【請求項7】
前記ガスの体積流量は、前記エアロゾル化機構への搬送路の最小断面積に対して、1気圧25℃換算において0.05L/(分・mm2)以上、50.0L/(分・mm2)以下であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1つに記載の複合構造物形成方法。
【請求項8】
微粒子をガス中に分散させたエアロゾルを基材に衝突させて前記微粒子の構成材料からなる構造物と前記基材との複合構造物を形成する複合構造物形成システムであって、
請求項1〜3のいずれか1つに記載の粒子群を収容する収容機構と、
前記収容機構から前記粒子群を搬出する供給機構と、
前記搬出された粒子群に向けてガスを供給するガス供給機構と、
前記ガスを混流した前記粒子群に対して衝撃を加えることで複数の微粒子に解砕しエアロゾルを形成させるエアロゾル化機構と、
前記エアロゾルを基板上に噴射する吐出口と、を備えることを特徴とする複合構造物形成システム。
【請求項9】
前記衝撃は、機械的障壁、圧力障壁、前記粒子群同士の衝突の群より選択された少なくとも1つにより加えられること、を特徴とする請求項8記載の複合構造物形成システム。
【請求項10】
前記ガスの体積流量は、前記エアロゾル化機構への搬送路の最小断面積に対して、1気圧25℃換算において0.05L/(分・mm2)以上、50.0L/(分・mm2)以下であることを特徴とする請求項8または9に記載の複合構造物形成システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
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【図8】
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【図10】
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【図14】
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【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【公開番号】特開2008−274422(P2008−274422A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88460(P2008−88460)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】
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