説明

粒状ポリマー安定剤及びその製造方法

【課題】従来の方法で得られたポリマー安定剤は、粉末状の結晶であり、粉立ちが生じて取扱いが困難であるという問題があった。
【解決手段】式(1)で示される化合物を含有する粒状ポリマー安定剤。


(式中、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基を表し、R3は水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表す。Xは、単結合、硫黄原子、酸素原子、炭素数1〜8のアルキリデン基又は炭素数5〜8のシクロアルキリデン基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒状ポリマー安定剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブタジエン等のポリマーを熱などに対して安定化させるためのポリマー安定剤としては、式(1−1)で示される化合物(2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−t−ペンチルフェニル アクリレート;以下、化合物(1−1)と記すことがある)が知られている(特許文献1参照)。

【0003】
また、ポリマー安定剤が配合されたポリブタジエンの製造方法としては、一般に、炭化水素溶媒中にて重合し、重合反応終了後のポリブタジエンを含む溶液に、ポリマー安定剤を炭化水素溶媒に溶解させた溶解液を混合した後、炭化水素溶媒を除去する方法が採用されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、前記式(1−1)で示される化合物の製造方法としては、ビスフェノールとアクリル酸とを有機溶媒下に反応させたのち、水洗した反応マスを冷却させて結晶を生成させる方法(特許文献1)、該反応マスから有機溶媒を蒸発留去したのち、メタノールを加えて結晶を生成させる方法(特許文献2)が開示されている。
【特許文献1】特開平1−168643号公報
【特許文献2】特開平4−264051号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記の方法で得られたポリマー安定剤は、粉末状の結晶であり、粉立ちが生じて取扱いが困難であるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、以下[1]〜[11]で示される本発明に至った。
[1] 式(1)で示される化合物を含有する粒状ポリマー安定剤。

(式中、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基を表し、R3は水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表す。Xは、単結合、硫黄原子、酸素原子、炭素数1〜8のアルキリデン基又は炭素数5〜8のシクロアルキリデン基を表す。)
[2] 粒状ポリマー安定剤1粒当りの重量が5mg〜25mgであることを特徴とする前記[1]記載の粒状ポリマー安定剤。
[3] 式(1)で示される化合物が、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−t−ペンチルフェニル アクリレート又は2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニル アクリレートであることを特徴とする前記[1]又は[2]記載の粒状ポリマー安定剤。
[4] 粒状ポリマー安定剤の形状が、円板状、略球状又は略半球状であることを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれか記載の粒状ポリマー安定剤。
[5] 融点T℃を有する式(1)で示される化合物を溶融する第1工程と、
前記第1工程で得られた溶融物をT℃(但し、T℃はT℃未満の温度である)にて固化させる第2工程と、
前記第2工程で得られた固化物を式(I)
<T≦T (I)
を充足するT℃の温度雰囲気下で加熱する第3工程と
を含むことを特徴とする、式(1)で示される化合物を含有する粒状ポリマー安定剤の製造方法。

(式中、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基を表し、R3 は水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表す。Xは、単結合、硫黄原子、酸素原子、炭素数1〜8のアルキリデン基又は炭素数5〜8のシクロアルキリデン基を表す。)
[6] 前記第2工程において、前記第1工程で得られた溶融物を式(II)を充足するT℃にて固化させることを特徴とする前記[5]記載の粒状ポリマー安定剤の製造方法。
5<T<T−40 (II)
[7] 前記第2工程において、前記第1工程で得られた溶融物を板に滴下して固化させることを特徴とする前記[5]又は[6]記載の粒状ポリマー安定剤の製造方法。
[8] 前記第3工程において、前記第2工程で得られた固化物を、さらに式(III)を充足するT℃の温度雰囲気下で加熱させることを特徴とする前記[5]〜[7]のいずれか記載の粒状ポリマー安定剤の製造方法。
−30<T≦T (III)
[9] さらに、前記第3工程で得られた加熱物をT℃未満にて冷却させる第4工程を含むことを特徴とする前記[5]〜[8]のいずれか記載の粒状ポリマー安定剤の製造方法。
[10] 前記第4工程において、式(II)を充足するT℃の温度雰囲気下で冷却させることを特徴とする前記[9]記載の粒状ポリマー安定剤の製造方法。
5<T<T−40 (II)
[11] 前記[1]〜[4]のいずれか記載の粒状ポリマー安定剤の、熱可塑性ポリマーへの使用。
【発明の効果】
【0007】
本発明の粒状ポリマー安定剤は、粉立ちが少なく取扱いが容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の粒状ポリマー安定剤は、式(1)で示される化合物(以下、化合物(1)と記すことがある)を含有する。

【0009】
式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基を表す。ここで、アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、t−ペンチル基、2−エチルヘキシル基などが例示され、シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、3−メチルシクロペンチル、4−メチルシクロペンチル基、3−メチルシクロヘキシル基などが例示される。
【0010】
3は水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表す。R3のアルキル基としては、R1で例示されたアルキル基などが具体的に例示される。
【0011】
Xは、単結合、硫黄原子、酸素原子、炭素数1〜8のアルキリデン基又は炭素数5〜8のシクロアルキリデン基を表す。
ここで、アルキリデン基としては、メチレン基、エチリデン基、プロピリデン基、ブチリデン基などが例示され、シクロアルキリデン基としては、シクロペンチリデン基、シクロヘキシリデン基などが例示される。
【0012】
化合物(1)の融点は、通常、70〜220℃、好ましくは、100〜140℃である。
【0013】
化合物(1)としては、例えば、2−〔1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル〕−4,6−ジ−t−ペンチルフェニル アクリレート、2−〔1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル〕−4,6−ジ−t−ペンチルフェニル メタクリレート、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルベンジル)−4,6−ジ−t−ペンチルフェニル アクリレート、2,4−ジ−t−ブチル−6−〔1−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)エチル〕フェニル アクリレート、2,4−ジ−t−ブチル−6−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシベンジル)フェニル アクリレート、2,4−ジ−t−ブチル−6−〔1−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)エチル〕フェニル メタクリレート、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニル アクリレート、2−t−ブチル−6−〔1−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)エチル〕−4−メチルフェニル アクリレート、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニル メタクリレート、2−t−ブチル−6−〔1−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピル〕−4−メチルフェニル アクリレート、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−5−エチル−2−ヒドロキシベンジル)−4−エチルフェニル アクリレート、2−t−ブチル−6−〔1−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−プロピルフェニル)エチル〕−4−プロピルフェニル アクリレート、2−t−ブチル−6−〔1−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−イソプロピルフェニル)エチル〕−4−イソプロピルフェニル アクリレートなどが例示される。
好ましくは、例えば、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−t−ペンチルフェニル アクリレート、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニル アクリレート、2,4−ジ−t−ブチル−6−〔1−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)エチル〕フェニル アクリレート、2−t−ブチル−6−〔1−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)エチル〕−4−メチルフェニル アクリレート、2−t−ブチル−6−〔1−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピル〕−4−メチルフェニル アクリレート、2−t−ブチル−6−〔1−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−プロピルフェニル)エチル〕−4−プロピルフェニル アクリレート、2−t−ブチル−6−〔1−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−イソプロピルフェニル)エチル〕−4−イソプロピルフェニル アクリレートなどが挙げられる。
とりわけ好ましくは2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−t−ペンチルフェニル アクリレート又は2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニル アクリレートである。
【0014】
前記化合物(1)は、例えば、特開昭59−144733号公報、特開平1−168643号公報、特開平4−264051号公報、米国特許第4,525,514号明細書、同第4,562,281号明細書、及び同第4,365,032号明細書等に記載の方法にしたがって、製造することができる。
【0015】
本発明の粒状ポリマー安定剤の製造方法としては、例えば、融点T℃を有する化合物(1)を溶融する第1工程と、前記第1工程で得られた溶融物をT℃(但し、T℃はT℃未満の温度である)にて固化させる第2工程と、前記第2工程で得られた固化物を式(I)
<T≦T (I)
を充足するT℃の温度雰囲気下で加熱する第3工程とを含む方法が挙げられる。
【0016】
前記第1工程は、化合物(1)を溶融する工程である。具体的には、化合物(1)を、化合物(1)の融点T℃以上で加熱して溶融する。化合物(1)を加熱して溶融する温度としては、T℃以上であれば特に限定されるものではないが、T℃から(T+50)℃の範囲が好ましく、(T+5)℃から(T+40)℃の範囲がより好ましく、(T+10)℃から(T+30)℃の範囲が特に好ましい。
【0017】
前記第2工程は、前記第1工程で得られた溶融物をT℃(但し、T℃はT℃未満の温度である)にて固化(冷却)させる工程である。
好ましい固化温度T℃は、式(II)
5<T<T−40 (II)
で示される範囲である。
より好ましい固化温度T℃は、式(II)’
10<T<T−50 (II)’
で示される範囲である。
固化温度が5℃を超える温度であると次の第3工程で再加熱した時に結晶化が促進されやすく、(T−40)℃未満の温度であると固化した時に形状を保持できるので好ましい。固化時間は特に限定されるものではないが、好ましくは、上述の温度範囲になった直後から1分以上、特に好ましくは2分以上保持する。また、生産性の観点から固化時間は24時間以下であることが好ましい。
【0018】
固化する方法は特に限定されるものではないが、例えば、好ましくは所定の温度(T℃)に冷却された、板(好ましくはステンレスなどの金属の熱交換板)上に、溶融した化合物(1)を噴霧或いは滴下し、球状または略半球状で冷却、固化させる方法、或いは、好ましくは所定の温度(T℃)に冷却された、ベルト上に、溶融した化合物(1)を連結して押出し、棒状、板状等の形状で冷却、固化させる方法などが挙げられる。
【0019】
前記溶融した化合物(1)を噴霧或いは滴下する板は、好ましくは、所定の温度(T℃)に冷却されたステンレスなどの金属の熱交換板であり、具体的には、水などで冷却されたステンレス製のベルト、冷風などで冷却されたステンレス製のベルト、水などで冷却されたステンレス板、冷風などで冷却されたステンレス板などが例示される。
【0020】
前記溶融した化合物(1)を噴霧或いは滴下する方法としては、具体的には、前記溶融した化合物(1)を、例えば、滴下管から滴下する方法;ロールドロップ式造粒機、ロートフォーム式造粒機等に充填したのちに滴下する方法;などが挙げられる。
ここで、ロールドロップ式造粒機とは、通常、突起を有する回転ドラムを有しており、溶融物は該突起の先端部に掻き取られ、該回転ドラムが回転して得られる遠心力及び/又は重力の作用にて板上に該溶融物が滴下する機構を有する造粒機である。
ロートフォーム式造粒機とは、通常、円筒部を有しており、該円筒部は孔を有し、該円筒部の内部に溶融物を受け入れる構造を有しており、該孔から板上に該溶融物が滴下する機構を有する造粒機である。
特にロートフォーム式造粒機による滴下が好ましい。
【0021】
また、前記溶融した化合物(1)を連結して押出すベルトは、好ましくは、所定の温度(T℃)に冷却されたステンレスなどの金属の熱交換板から構成されるベルトであり、具体的には、水などで冷却されたステンレス製のベルト、冷風などで冷却されたステンレス製のベルトなどが例示される。
【0022】
また、前記溶融した化合物(1)を連結して押出す方法としては、具体的には、ストリップフォーマーで棒状に押出す方法、ダブルロールフィーダーやオーバーフローフィーダーで板状に押出す方法が挙げられる。
このように棒状、板状等で押出された物は、後記のように粒状化することができる。
【0023】
前記第2工程においては、通常、滴下物又は連結して押出された物は板上にて冷却されて固化するが、その際、これらに化合物(1)の結晶などを種晶として混合して固化させてもよい。
板はベルトであれば、ベルトを動かしながら冷却すればよく、静置された板で固化されれば、固化した後、板から取り出せばよい。
【0024】
前記第3工程は、前記第2工程で得られた該固化物を式(I)
<T≦T (I)
を充足するT℃の温度雰囲気下で加熱する工程である。このような温度範囲内で再加熱することで、短時間で結晶化が可能となり、ブロッキングしない安定剤が得られる。
これら現象がより発現する点において、再加熱温度Tは、さらに、式(III)
−30<T≦T (III)
を充足する範囲が好ましく、式(III)’
−20<T≦T−5(III)’
を充足する範囲がより好ましい。
また、再加熱時間は、前記第2工程で得られた固化物が流動しない程度まで加熱してもよく、1分以上10時間以内が好ましい。短時間で結晶化できる点から2分以上5時間以内がより好ましく、生産性の観点から5分以上30分以内がなおいっそう好ましい。
【0025】
再加熱は、前記第2工程で使用した同一のステンレス等の金属板やベルト上で行っても、別途用意した金属板やベルト上で行ってもよい。また、球状又は半球状の化合物(1)を再加熱する場合には、ブロッキングの観点から、互いが接触しない状態で再加熱することが好ましい。この様にすることで、冷却時に付形化した形状を保持することができる。
【0026】
本発明の粒状ポリマー安定剤の製造方法は、必要に応じて、前記第3工程で得られた加熱物をT℃未満にて冷却させる第4工程を含む。
当該第4工程における好ましい冷却温度T℃は、式(II)
5<T<T−40 (II)
で示される範囲である。
より好ましい冷却温度T℃は、式(II)’
10<T<T−50 (II)’
で示される範囲である。
冷却温度が5℃を超える温度であると生産性の観点から好ましく、(T−40)℃未満の温度であると冷却した時に形状を保持できるので好ましい。冷却時間は特に限定されるものではないが、上述の温度範囲になった直後から1分以上保持することが形状を形作る上で好ましい。
【0027】
また、前記第2工程において化合物(1)の溶融物を連結して押出し、棒状、板状等の形状で冷却、固化させた場合、前記第3工程又は第4工程の前に、その途中に、或いはその後に、該棒状物、板状物等を、既知の方法で粉砕し、必要により整粒して、所望の粒状物にすることができる。
該棒状物、板状物等の粉砕方法としては、具体的には、ブレーカーローラーを用いて回転ローラーにより粉砕する方法などが挙げられる。
また、整粒方法としては、例えば、棒状のものをストリップグラニュレーターでフレーク状に裁断する方法、例えば、板状のものをブレーカーローラーで不定形に破砕したのち、篩に掛ける方法などが挙げられる。
【0028】
本発明の粒状ポリマー安定剤は、例えば、板状、フレーク状、棒状、円板状、略球状、略半球状等の粒状物である。円板状、略球状又は略半球状の粒状ポリマー安定剤は、化合物(1)を含む溶融物を滴下して得られる形状である。粒径が小さいと通常、球状となり、大きくなると通常、自重により扁平して半球状となる。
粒状ポリマー安定剤が球状である場合、通常、その粒径は1mm〜5mmであり、略半球状である場合、その粒径は1mm〜4mm、その高さは1mm〜4mmである。また、熱可塑性ポリマーへの分散性の観点から、球状である場合、その粒径が1mm〜4mmであることが好ましく、略半球状である場合、その粒径が2mm〜4mm、その高さが1mm〜3mmであることが好ましい。
【0029】
本発明の粒状ポリマー安定剤は、該粒状ポリマー安定剤1粒あたりの重量が、例えば、5mg〜25mg、好ましくは6mg〜20mgである。また、前記範囲であると粉立ちが抑制され、粒状物同士が固結しにくい傾向があることから好ましい。
粒状ポリマー安定剤の重量は、固化させる工程において滴下する場合、滴下管の場合には、孔の大きさや、溶融物の粘度などにより、溶融物の滴下量を制御すればよく、ロールドロップ式造粒機の場合には、突起の先端部に掻き取る溶融物の量を制御すればよく、ロートフォーム式造粒機の場合には、孔の大きさや、溶融物の粘度などにより、溶融物の滴下量を制御すればよい。
また、固化させる工程において連結して押出す場合には、押出された板状、棒状の固化物を前記重量範囲になるように切断したり、破砕したりすればよい。
【0030】
本発明の粒状ポリマー安定剤は、結晶性粒状物である。すなわち、本発明の粒状ポリマー安定剤は、示差走査熱量測定装置(DSC)にて、10℃/分の割合で昇温させたときに、110〜130℃にて吸熱ピークを有する。
【0031】
本発明の粒状ポリマー安定剤は、化合物(1)を含有するものであり、通常、粒状ポリマー安定剤中に、化合物(1)を95重量%以上、好ましくは99重量%以上、特に好ましくは化合物(1)のみを含有する。
本発明の粒状ポリマー安定剤は、該安定剤が110〜130℃にて吸熱ピークを示し得るものを含有することができ、例えば、フェノール系酸化防止剤などを含有していてもよい。
【0032】
本発明の粒状ポリマー安定剤は、粉立ちが少なく取り扱いが容易であり、また、長期間保存してもブロッキング(固結)が生じない、いわゆる耐ブロッキング性に優れる。
さらに、本発明の粒状ポリマー安定剤は、ポリプロピレンなどの熱可塑性ポリマーに溶融混練する際に配合する場合、粒状ポリマー安定剤が粒状のままであっても、従来の粉末状の粒状ポリマー安定剤と同様の優れた分散性を示す。
【0033】
ここで、熱可塑性ポリマーとしては、例えば、エチレン−プロピレン共重合体などのポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂(高密度ポリエチレン(HD−PE)、低密度ポリエチレン(LD−PE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)など)、メチルペンテンポリマー、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン類(ポリ(p−メチルスチレン)、ポリ(α−メチルスチレン)などのポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、特殊アクリルゴム−アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−塩素化ポリエチレン−スチレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体など)、塩素化ポリエチレン、ポリクロロプレン、塩素化ゴム、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、メタクリル樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体、フッ素樹脂、ポリアセタール、グラフト化ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル樹脂(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなど)、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、芳香族ポリエステル樹脂、ジアリルフタレートプリポリマー、シリコーン樹脂、1,2−ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエン/アクリロニトリル共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体などが挙げられ、特に、成形加工性の良さから、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン類が好ましく、とりわけ、ポリプロピレン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体が好ましい。
【0034】
ここで、ポリプロピレン系樹脂とは、プロピレンに由来する構造単位を含有するポリオレフィンを意味し、具体的には、結晶性プロピレン単独重合体、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−α−オレフィン共重合体、プロピレン単独重合体成分または主にプロピレンからなる共重合体成分と、プロピレンとエチレンおよび/またはα−オレフィンの共重合体成分からなるポリプロピレン系ブロック共重合体などが挙げられる。
【0035】
本発明において熱可塑性ポリマーとしてポリプロピレン系樹脂を用いる場合、ポリプロピレン系樹脂としては1種類で使用してもよく、2種以上をブレンドして使用してもよい。
【0036】
α−オレフィンとしては、通常、炭素原子数4〜12のα−オレフィンであり、例えば1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセンなどが挙げられ、さらに好ましくは1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンである。
【0037】
プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体としては、例えば、プロピレン−1−ブテンランダム共重合体、プロピレン−1−ヘキセンランダム共重合体、プロピレン−1−オクテンランダム共重合体などが挙げられる。
【0038】
プロピレン−エチレン−α−オレフィン共重合体としては、例えば、プロピレン−エチレン−1−ブテン共重合体、プロピレン−エチレン−1−ヘキセン共重合体、プロピレン−エチレン−1−オクテン共重合体などが挙げられる。
【0039】
プロピレン単独重合体成分または主にプロピレンからなる共重合体成分と、プロピレンとエチレンおよび/またはα−オレフィンの共重合体成分からなるポリプロピレン系ブロック共重合体における主にプロピレンからなる共重合体成分としては、例えば、プロピレン−エチレン共重合体成分、プロピレン−1−ブテン共重合体成分、プロピレン−1−ヘキセン共重合体成分などが挙げられ、プロピレンとエチレンおよび/またはα−オレフィンの共重合体成分としては、例えば、プロピレン−エチレン共重合体成分、プロピレン−エチレン−1−ブテン共重合体成分、プロピレン−エチレン−1−ヘキセン共重合体成分、プロピレン−エチレン−1−オクテン共重合体成分、プロピレン−1−ブテン共重合体成分、プロピレン−1−ヘキセン共重合体成分、プロピレン−1−オクテン共重合体成分などが挙げられる。なお、プロピレンとエチレンおよび/またはα−オレフィンの共重合体成分におけるエチレンおよび/または炭素原子数4〜12のα−オレフィンの含有量は、通常、0.01〜20重量%である。
【0040】
また、プロピレン単独重合体成分または主にプロピレンからなる共重合体成分と、プロピレンとエチレンおよび/またはα−オレフィンの共重合体成分からなるポリプロピレン系ブロック共重合体としては、例えば、プロピレン−エチレンブロック共重合体、(プロピレン)−(プロピレン−エチレン)ブロック共重合体、(プロピレン)−(プロピレン−エチレン−1−ブテン)ブロック共重合体、(プロピレン)−(プロピレン−エチレン−1−ヘキセン)ブロック共重合体、(プロピレン)−(プロピレン−1−ブテン)ブロック共重合体、(プロピレン)−(プロピレン−1−ヘキセン)ブロック共重合体、(プロピレン−エチレン)−(プロピレン−エチレン−1−ブテン)ブロック共重合体、(プロピレン−エチレン)−(プロピレン−エチレン−1−ヘキセン)ブロック共重合体、(プロピレン−エチレン)−(プロピレン−1−ブテン)ブロック共重合体、(プロピレン−エチレン)−(プロピレン−1−ヘキセン)ブロック共重合体、(プロピレン−1−ブテン)−(プロピレン−エチレン)ブロック共重合体、(プロピレン−1−ブテン)−(プロピレン−エチレン−1−ブテン)ブロック共重合体、(プロピレン−1−ブテン)−(プロピレン−エチレン−1−ヘキセン)ブロック共重合体、(プロピレン−1−ブテン)−(プロピレン−1−ブテン)ブロック共重合体、(プロピレン−1−ブテン)−(プロピレン−1−ヘキセン)ブロック共重合体などが挙げられる。
【0041】
また本発明において熱可塑性ポリマーとしてポリプロピレン系樹脂を用いる場合、好ましくは、結晶性プロピレン単独重合体、プロピレン単独重合体成分または主にプロピレンからなる共重合体成分と、プロピレンとエチレンおよび/または炭素原子数4〜12のα−オレフィンの共重合体成分からなるポリプロピレン系ブロック共重合体である。さらに好ましくは、プロピレン単独重合体成分または主にプロピレンからなる共重合体成分と、プロピレンとエチレンおよび/または炭素原子数4〜12のα−オレフィンの共重合体成分からなるポリプロピレン系ブロック共重合体である。
【0042】
本発明の粒状ポリマー安定剤は、通常、熱可塑性ポリマー100重量部に対して、本発明の粒状ポリマー安定剤を2重量部以下配合させればよく、具体的には、0.01重量部以上、2重量部以下、好ましくは0.01重量部以上、1重量部以下配合させればよい。2重量部以下であると熱可塑性ポリマー組成物表面に安定剤が現れる、いわゆる、ブリード現象が抑制される傾向があることから好ましい。
【実施例】
【0043】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0044】
以下の実施例及び比較例において、化合物(1)として、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−t−ペンチルフェニル アクリレート(以下、化合物(1−1)と記載する。融点119℃)を使用した。
また、粒状ポリマー安定剤の特性を、以下のように測定及び評価した。
【0045】
[耐ブロッキング試験]
粒状ポリマー安定剤を50g計量し、断面積28.3cmの円筒状ケースに入れ、そこに荷重2kgの錘を乗せた(71g/cm)。この状態で40℃、湿度80%の恒温槽に7日間保持した後に室温(約25℃)に戻し、圧力を開放した後に粒状ポリマー安定剤のブロッキング状態を評価した。
○:粒状ポリマー安定剤が固結しておらず、容器から出すと自然にもとに戻る。
×:粒状ポリマー安定剤が固結しており、もとには戻らない。
【0046】
[粒径測定方法]
ノギスのジョウ部にて、得られた粒状ポリマー安定剤の水平方向を粒径、垂直方向を高さとして目盛を読み取った。同様の測定を各試料10回繰り返して測定し、その平均値をそれぞれ、粒径(幅)、高さとした。
【0047】
[粒状ポリマー安定剤一粒の重量測定方法]
メトラー・トレド社製精密天秤を用いて得られた粒状ポリマー安定剤一粒の数値を読み取った。同様の測定を各試料20回繰り返して測定し、その平均値をそれぞれ粒状ポリマー安定剤一粒の重量とした。
【0048】
[示差走査熱量分析]
粒状ポリマー安定剤を、示差走査熱量測定装置(DSC)[島津製作所製DSC−60A]にて、10℃/分の割合で昇温させ、吸熱ピーク(℃)を測定した。
【0049】
(比較例1)
温度計、撹拌機および冷却管を備えた4つ口フラスコに、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−t−ペンチルフェノール)494.8g(1.0モル)、アクリル酸72.1g(1.0モル)、n−ヘプタン400gおよびトリエチルアミン212.5g(2.1モル)を仕込み、容器内を窒素置換した後、撹拌しながらオキシ塩化リン107.3g(0.7モル)を滴下した。滴下終了後80℃で1時間保温し、次に水500gを仕込み、60℃で水洗、分液した。油層部分の水洗と分液を中性になるまで繰り返し、油層を5℃まで撹拌冷却して、結晶を析出させた。同温度においてさらに撹拌を実施し、結晶を析出させた後、結晶をろ別し、冷n−ヘプタンで洗浄、減圧乾燥して結晶性粉末状の化合物(1−1)235.6gを得た。得られた粉末の平均粒径(メディアン径;イオン交換水に中性洗剤を微量混合したものを分散媒として使用し、島津レーザ回折式粒度分布測定装置SALD2200にて測定した粒度分布を体積基準で微粒側から積算した場合の50%粒子径)は65.0μmであった。得られた粉末は、一粒の重量が<1.0mgであり、及び120.5℃に吸熱ピークを有していた。当該粉末の耐ブロッキング性試験の結果を表1に示す。また、当該粉末は、激しく粉立ちした。
【0050】
(実施例1)
比較例1で得られた粉末状の化合物(1−1)を、容器内で140℃まで加熱撹拌して溶融させた後、化合物(1−1)の溶融物を25℃に調整されたアルミ板上に滴下して50℃以下になるまで冷却して、固化物を得た。該固化物を約25℃で1.5時間保持後、110℃の乾燥器内で5分間再加熱を行なった。乾燥器から取り出し、再度25℃で冷却することで、粒径3.3mm、高さ2mmの略半球状の2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−t−ペンチルフェニル アクリレートを得た。得られた粒状ポリマー安定剤は、一粒の重量が16.2mgであり、及び120.5℃に吸熱ピークを有していた。当該粒状ポリマー安定剤の耐ブロッキング性試験の結果を表1に示す。また、当該粒状ポリマー安定剤は、全く粉立ちせず、取扱いが容易であった。
【0051】
(参考例1)
化合物(1−1)の溶融物を得るまでは実施例1と同様に行った。その後、化合物(1−1)の溶融物を25℃に調整されたアルミ板状に滴下して室温(約25℃)下で固化するまで冷却し、粒径3.6mm、高さ2.2mmの化合物(1−1)513.3gを得た。得られた粒状ポリマー安定剤は、一粒の重量が15.5mgであり、及び20.6℃にガラス転移温度に由来する吸熱ピークを有するが、120℃付近に吸熱ピークを有していなかった。当該粒状ポリマー安定剤の耐ブロッキング性試験の結果を表1に示す。また、当該粒状ポリマー安定剤は、全く粉立ちせず、取扱いが容易であった。
【0052】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の粒状ポリマー安定剤は、粉立ちが少なく取扱いが容易である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示される化合物を含有する粒状ポリマー安定剤。

(式中、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基を表し、R3は水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表す。Xは、単結合、硫黄原子、酸素原子、炭素数1〜8のアルキリデン基又は炭素数5〜8のシクロアルキリデン基を表す。)
【請求項2】
粒状ポリマー安定剤1粒当りの重量が5mg〜25mgであることを特徴とする請求項1記載の粒状ポリマー安定剤。
【請求項3】
式(1)で示される化合物が、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−t−ペンチルフェニル アクリレート又は2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニル アクリレートであることを特徴とする請求項1又は2記載の粒状ポリマー安定剤。
【請求項4】
粒状ポリマー安定剤の形状が、円板状、略球状又は略半球状であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の粒状ポリマー安定剤。
【請求項5】
融点T℃を有する式(1)で示される化合物を溶融する第1工程と、
前記第1工程で得られた溶融物をT℃(但し、T℃はT℃未満の温度である)にて固化させる第2工程と、
前記第2工程で得られた固化物を式(I)
<T≦T (I)
を充足するT℃の温度雰囲気下で加熱する第3工程と
を含むことを特徴とする、式(1)で示される化合物を含有する粒状ポリマー安定剤の製造方法。

(式中、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基を表し、R3 は水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表す。Xは、単結合、硫黄原子、酸素原子、炭素数1〜8のアルキリデン基又は炭素数5〜8のシクロアルキリデン基を表す。)
【請求項6】
前記第2工程において、前記第1工程で得られた溶融物を式(II)を充足するT℃にて固化させることを特徴とする請求項5記載の粒状ポリマー安定剤の製造方法。
5<T<T−40 (II)
【請求項7】
前記第2工程において、前記第1工程で得られた溶融物を板に滴下して固化させることを特徴とする請求項5又は6記載の粒状ポリマー安定剤の製造方法。
【請求項8】
前記第3工程において、前記第2工程で得られた固化物を、さらに式(III)を充足するT℃の温度雰囲気下で加熱させることを特徴とする請求項5〜7のいずれか記載の粒状ポリマー安定剤の製造方法。
−30<T≦T (III)
【請求項9】
さらに、前記第3工程で得られた加熱物をT℃未満にて冷却させる第4工程を含むことを特徴とする請求項5〜8のいずれか記載の粒状ポリマー安定剤の製造方法。
【請求項10】
前記第4工程において、式(II)を充足するT℃の温度雰囲気下で冷却させることを特徴とする請求項9記載の粒状ポリマー安定剤の製造方法。
5<T<T−40 (II)
【請求項11】
請求項1〜4のいずれか記載の粒状ポリマー安定剤の、熱可塑性ポリマーへの使用。

【公開番号】特開2010−144138(P2010−144138A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−325940(P2008−325940)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】