説明

粘弾性ダンパー用プライマー組成物および粘弾性ダンパー

【課題】様々なアクリル系粘弾性体層間の接着性を高める粘弾性ダンパー用プライマー組成物、および上記プライマー組成物を含むことにより粘弾性体層間の接着性を高め、繰り返しの振動に対して層間の剥がれを防止する粘弾性ダンパーを提供する。
【解決手段】ジアルキル(メタ)アクリルアミド、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、N−ビニルイミダゾールから成る群より選択される少なくとも1種の窒素含有モノマーと、炭素数が4から22のアルキル基を有する(メタ)アクリルモノマー(C4−22モノマー)とを含むモノマー混合物を重合して得られる粘弾性ダンパー用プライマー組成物20であって、前記窒素含有モノマーは、上記C4−22モノマーを含むその他のモノマー混合物100質量部に対して、5.0質量部〜40質量部含まれている粘弾性ダンパー用プライマー組成物20。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘弾性ダンパー用プライマー組成物および上記プライマー組成物を含む粘弾性ダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
粘弾性ダンパーは種々の分野で使用されている。例えば、風や地震などによる変位や振動を吸収することを目的として建築分野におけるビルの骨格構造形成材料に用いられ、また、振動による破損又は誤作動を防止する目的でコンピュータディスクドライブなどの電子部品に用いられている。
【0003】
粘弾性ダンパーとして設置する際には、所望するダンパー性能またはダンパー形状のために、様々な厚さの粘弾性ダンパーが必要とされる。様々な厚さの粘弾性ダンパーを製造するためには、厚さのより薄い粘弾性体層を作成し、それを積層して所望の厚さの粘弾性ダンパーを作成することが効率的に製造するために有用である。
【0004】
しかしながら、粘弾性体層どうしの接着性が悪いと、繰り返される振動や変位のために層間での剥がれが起こり、粘弾性ダンパーとしての性能が発揮できない。そこで粘弾性体層の間にプライマー層を設け、粘弾性体層どうしの接着性を上げることが好ましい。
【0005】
粘弾性体層の材料としては、広い範囲の振動数および使用温度において安定した制振性能を発揮することが望ましく、ゴム系、シリコーン系、アクリル系等の樹脂が提案されている。このうち、アクリル系樹脂は一般的に耐候性、耐熱性に優れているため、長期間使用される粘弾性ダンパーに好適であり、様々なアクリル系粘弾性体層どうしの接着性を上げるプライマーが必要とされていた。
【0006】
本発明者らは、幅広い使用温度において安定した制振性能を発揮する、温度依存性の少ないアクリル系粘弾性体として、炭素数が14から22のアルキル基を有する(メタ)アクリルモノマーを含む混合物を重合して得られるアクリル系粘弾性体を開発しているが(特許文献1)、このようなアクリル系粘弾性体層はお互いの接着性が低く、層間の接着性を上げるプライマーが望まれていた。
【0007】
一方、窒素含有モノマーを含むアクリル系粘着剤が記載されているが(特許文献2、3)、これらの粘着剤は高い耐可塑剤性を有することにより可塑化ビニル樹脂に使用できることを目的としている。特許文献4および5に開示されるように、酸性雨耐性自動車用塗料に対して優れた接着性能を発揮するものもある。
【0008】
また、高い相対湿度、および高い温度でポリカーボネート基板に対して卓越した結合強さを示す接着剤組成物として、N−ビニル含有モノマーと、4〜20個の炭素原子を含むアルキル基を有するアクリル酸エステルモノマーとの反応性生物を含む接着剤ポリマーが記載されている(特許文献6)。
【0009】
また、凹凸面を持つ可塑化したビニル基板に対して優れた接着力を保つストレッチリリーステープに、窒素含有ビニルモノマーを含む粘着剤を使用することが記載されている(特許文献7)。
【0010】
また、被着体における糊残りを生じたり被着体の損傷を引き起こしたりすることがない再剥離性の粘着テープに、窒素含有(メタ)アクリル系共重合体を含む粘着剤組成物を用いることが記載されている(特許文献8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特願2008−98445号
【特許文献2】特開平2−018486号公報
【特許文献3】特開平8−311414号公報
【特許文献4】特開2000−096012号公報
【特許文献5】特開平7−003236号公報
【特許文献6】特表2003−501296号公報
【特許文献7】米国特許出願公開第2008/0135159号明細書
【特許文献8】特開2005−194525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、様々なアクリル系粘弾性体層間の接着性を高める、粘弾性ダンパー用プライマー組成物を提供することを目的とする。また本発明は、上記プライマー組成物を含むことにより粘弾性体層間の接着性を高め、繰り返しの振動に対して層間の剥がれを防止する粘弾性ダンパーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち本発明は、ジアルキル(メタ)アクリルアミド、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、N−ビニルイミダゾールから成る群より選択される少なくとも1種の窒素含有モノマーと、炭素数が4から22のアルキル基を有する(メタ)アクリルモノマー(C4−22モノマー)とを含むモノマー混合物を重合して得られる粘弾性ダンパー用プライマー組成物であって、前記窒素含有モノマーは、上記C4−22モノマーを含むその他のモノマー混合物100質量部に対して、5.0質量部〜40質量部含まれている粘弾性ダンパー用プライマー組成物を提供するものである。
【0014】
さらに本発明は、前記粘弾性ダンパー用プライマー組成物を粘弾性体層の層間に配置した粘弾性ダンパーを提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の粘弾性ダンパー用プライマー組成物は、様々なアクリル系粘弾性体層間の接着性を高めることができる。好適には、炭素数が14から22のアルキル基を有する(メタ)アクリル系モノマーを含む混合物を重合して得られる重合体、ポリオレフィンブロックと芳香族ビニルモノマーブロックとを含むブロック共重合体、ポリオレフィン、およびこれらの混合物から成る群より選択される樹脂を含むアクリル系粘弾性体を積層する際に用いられ、層間の接着性を高めることができる。
【0016】
さらに、本発明の粘弾性ダンパーは、上記プライマー組成物を含むことにより粘弾性体層間の接着性を高め、繰り返しの振動に対して層間の剥がれを防ぎ、粘弾性ダンパーとしての性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の粘弾性ダンパーの断面図を模式的に示した図である。
【図2】Tピール強度の測定サンプルの断面図を模式的に示した図である。
【図3】Tピール強度の測定サンプルの断面図を模式的に示した図である。
【図4】繰り返し振動前後の貯蔵弾性率G1’、G2’測定サンプルの断面図を模式的に示した図である。
【図5】繰り返し振動前後の貯蔵弾性率G1’、G2’測定サンプルの断面図を模式的に示した図である。
【図6】実施例13の応力−歪み曲線である。
【図7】実施例14の応力−歪み曲線である。
【図8】比較例7の応力−歪み曲線である。
【図9】比較例8の応力−歪み曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の粘弾性ダンパー用プライマー組成物は、ジアルキル(メタ)アクリルアミド、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、N−ビニルイミダゾール(Vim)から成る群より選択される少なくとも1種の窒素含有モノマーと、炭素数が4から22のアルキル基を有する(メタ)アクリルモノマー(C4−22モノマー)とを含むモノマー混合物を重合して得られる。
【0019】
ジアルキル(メタ)アクリルアミドとしては、N,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA)、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミド、およびそれらの混合物から成る群より選択されるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートとしては、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、およびそれらの混合物から成る群より選択されるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
窒素含有モノマーのうち、粘弾性体層間の接着性を高くするという観点から、Vimが好適に用いられる。
【0022】
窒素含有モノマーは、C4−22モノマーを含むその他のモノマー混合物100質量部に対して、5.0質量部以上添加されることが好ましい。5.0質量部未満であると、十分な接着性が出ない。
【0023】
C4−22モノマーは、一般には式CH2=CRCOOR2 (式中、R1は水素又はメチル基であり、R2はアルキル基である。)で表される。C4−22モノマーとしては、例えば、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−メチルブチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、n−ステアリル(メタ)アクリレート、n−ベヘニル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、イソパルミチル(メタ)アクリレートなどを用いることができる。なお、本明細書において「(メタ)アクリル」とは、アクリル又はメタクリルを意味する。
【0024】
重合されるモノマー混合物は、上記した窒素含有モノマーおよびC4−22モノマー以外のモノマーを含んでもよい。例えば、不飽和カルボン酸、不飽和スルホン酸、および不飽和リン酸を包含する酸性モノマーを含んでもよい。酸性モノマーの例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、クロトン酸、マレイン酸、スルホエチルメタクリレートなど、およびこれらの混合物から成る群より選択されるものを包含するが、これらには限定されない。
【0025】
モノマー混合物を重合させる方法の例としては、溶液重合、懸濁重合、乳化重合、塊状重合等の公知の重合方法を挙げることができる。
【0026】
特に厚み0.05mm以上のプライマー層を得るためには、環境に配慮した無溶剤プロセスおよび生産性に優れた光重合による塊状重合を用いることが好ましく、この場合、モノマー混合物に光重合開始剤を含有させ光を照射することによって重合させる。以下において、紫外線による光重合を例にとって重合方法について述べる。
【0027】
適当な反応容器に、C4−22モノマーと窒素含有モノマーとを含むモノマー混合物、および光重合開始剤を入れ、さらに、必要に応じて架橋剤や他の添加剤を添加して適量の紫外線などの光照射により重合反応を行い、プライマー組成物を得る。反応は、通常、窒素雰囲気下などの不活性雰囲気で行なわれる。
【0028】
光重合開始剤として、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、α−アクリルベンゾイン等のベンゾイン系、2、2−ジメトキシ−1、2−ジフェニルエタン−1−オン(チバ・スペシャルティケミカルズ社製 イルガキュア651)、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(チバ・スペシャルティケミカルズ社製 イルガキュア184)、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(チバ・スペシャルティケミカルズ社製 ダロキュア1173)、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン(チバ・スペシャルティケミカルズ社製 イルガキュア2959)、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン(チバ・スペシャルティケミカルズ社製 イルガキュア907)、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1(チバ・スペシャルティケミカルズ社製 イルガキュア369)、ビス(2、4、6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド(チバ・スペシャルティケミカルズ社製 イルガキュア819)、2、4、6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(チバ・スペシャルティケミカルズ社製 Darocur(商標)TPO)、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン(チバ・スペシャルティケミカルズ社製 イルガキュア127)、2−ジメチルアミノ−2−(4−メチル−ベンジル)−1−(4−モルフォリン−4−イル−フェニル)−ブタン−1−オン(チバ・スペシャルティケミカルズ社製 イルガキュア379)などを示すことができる。
【0029】
光重合開始剤は、モノマー混合物100質量部に対して0.01〜5.0質量部で配合される。
【0030】
光照射には通常紫外線ランプが用いられる。紫外線ランプとしては、光波長300〜400nmに発光スペクトル分布を有するものが用いられ、その例としてはケミカルランプ、ブラックライトランプ(東芝電材社製)、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯などが挙げられる。
【0031】
光照射は一度に行なってもよいが、二段階以上に分けて行なってもよい。例えば、重合開始剤を含む混合物に光照射して部分的に反応させて、適度の粘度の重合性プレポリマーシロップを得る。その後、追加のモノマーをシロップ中に入れ、この混合物を、剥離処理したポリエチレンテレフタレート(PET)などの基材2枚の間に導入し、その後、光照射することで最終的なプライマー組成物を得ることもできる。
【0032】
得られるプライマー組成物の接着強度や熱特性を上げるために架橋剤を用いることもできる。架橋剤としては多価アクリレートなどの架橋性モノマーを用いることができる。架橋剤として使用可能な多価アクリレートとしては1 , 6 −ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどのポリアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールなどのポリエーテルアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルのアクリル酸付加物などのエポキシポリアクリレート、ポリエステルポリアクリレート、ポリウレタンポリアクリレートなどが挙げられる。
【0033】
プライマー組成物には、粘弾性ダンパー層との接着性をより高めるために粘着付与剤を含有させることもできる。このような粘着付与剤としては、ロジン系樹脂、変性ロジン系樹脂(水素添加ロジン系樹脂、不均化ロジン樹脂、重合ロジン系樹脂など)、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、C 5 及びC 9 系石油樹脂、クマロン樹脂などがある。これらのうち、好ましくは、耐候性の良好である飽和炭化水素系樹脂を用いることができる。
【0034】
本発明の効果を損なわない限度において、他の添加剤、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、および充填剤等のうち1種類以上をプライマー組成物に添加してもよい。
【0035】
本発明のプライマー組成物をプライマー層として粘弾性体層間に配置する場合、プライマー層の厚さは0.01〜0.30mmであり、好ましくは0.05〜0.30mmとすることができる。
【0036】
プライマー組成物が配置される粘弾性体としてはアクリル系粘弾性体が挙げられる。炭素数が14から22のアルキル基を有する(メタ)アクリル系モノマー(以下、C14−22モノマーとする。)を含む混合物を重合して得られる重合体、ポリオレフィン、ポリオレフィンブロックと芳香族ビニルモノマーブロックとを含むブロック共重合体(以下、ブロック共重合体)、およびこれらの混合物から成る群より選択される樹脂を粘弾性ダンパーとして用いた場合にも本発明のプライマー組成物は使用できる。
【0037】
C14−22モノマーとしては、例えば、イソステアリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、n-ステアリル(メタ)アクリレート、n-ベヘニル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、イソパルミチル(メタ)アクリレートなどを用いることができる。所望の特性を得るために、目的に応じて1種又は2種以上のC14−22モノマーを使用できる。
【0038】
ポリオレフィンの例としては、ポリエチレン、ポリブテン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリα−オレフィン、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・α−オレフィン共重合体、プロピレン・α−オレフィン共重合体、水添ポリブタジエンなどが挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上で組み合わせて用いてもよい。
【0039】
ブロック共重合体は、ポリオレフィンからなるブロックと、芳香族ビニルモノマーからなるブロックとを含む。芳香族ビニルモノマーとしては、スチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、インデン等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上で組み合わせて用いてもよい。ブロック共重合体としては、たとえば、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン−プロピレンブロック共重合体、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体などが挙げられる。
【0040】
ポリオレフィンには、飽和ポリオレフィンを用いてもよい。飽和ポリオレフィンとは、実質的に炭素間二重結合や三重結合を持たないポリオレフィンであり、より具体的には、飽和ポリオレフィンに含まれる炭素間結合のうち、90%以上が単結合であるポリオレフィンである。
【0041】
飽和ポリオレフィン、および/またはブロック共重合体の配合比は、(メタ)アクリル系モノマー混合物100質量部に対して、2〜40質量部とすることもできる。2質量部未満であると温度依存性の小さい粘弾性ダンパーを得ることが困難になり、40質量部を超えると耐候性、耐熱性に劣り、長期の使用の信頼性が低くなり、また、被着体への接着性も悪化するからである。
【0042】
飽和ポリオレフィン、およびブロック共重合体の重量平均分子量は10,000から2,000,000の範囲とすることもできる。分子量が低下すると、弾性率が下がる傾向にあり、耐熱性に劣り、長期使用の信頼性が低くなる恐れがあるからである。
【0043】
C14−22モノマーを含む(メタ)アクリル系モノマー混合物を重合させる方法の例としては、溶液重合、懸濁重合、乳化重合、塊状重合等の公知の重合方法を挙げることができる。C14−22モノマーを含む(メタ)アクリル系モノマー混合物を重合させた後、ポリオレフィンおよび/またはブロック共重合体を加えても粘弾性ダンパーを得ることができるが、ポリオレフィンおよび/またはブロック共重合体の存在下で、C14−22モノマーを含む(メタ)アクリル系モノマー混合物を重合させることもできる。
【0044】
厚みがある粘弾性体を得るには光重合を用いることが好ましく、この場合、光重合開始剤を含有させ光を照射することによって重合させる。また、光照射は一度に行なってもよいが、二段階以上に分けて行なってもよい。例えば、重合開始剤を含む混合物に光照射して部分的に反応させて、適度の粘度の重合性プレポリマーシロップを得る。その後、追加のモノマーをシロップ中に入れ、この混合物を、剥離処理したポリエチレンテレフタレート(PET)などの基材2枚の間に導入し、その後、光照射することで粘弾性ダンパーとなる。
【0045】
このようにして得られた粘弾性体は、0℃と40℃でのせん断貯蔵弾性率の比(G’0/G’40)が小さく、温度依存性の少ない粘弾性体となる。より温度依存性を少なくするには、このG’0/G’40の値が15.0を超えない粘弾性体を使用することが好ましい。
【0046】
0℃から40℃の範囲において、せん断貯蔵弾性率G’が1.5×10〜5.0×10パスカル(Pa)になる粘弾性体を使用することもできる。凝集力をより高くするためには、G’が1.5×10Pa以上の粘弾性体を使用することが好ましく、被着体への接着性をより高くするには、G’が5.0×10Pa以下の粘弾性体を使用することが好ましい。
【0047】
振動吸収性をより高くするためには、損失正接tanδが0.5以上の粘弾性体を使用することができる。
【0048】
せん断貯蔵弾性率G’と損失正接tanδの測定方法
Rheometric Scientific 社製 Advanced Rheometric Expansion System (A R E S)を用い、周波数それぞれ0.1、0.3、1.0、3.0および10.0 Hzにおいて、温度それぞれ0、10、20、30、及び40℃におけるせん断貯蔵弾性率G’と損失正接tanδ をせん断モードで測定する。
【0049】
光重合を用いて得られた粘弾性体の厚さは、通常0.5〜2.0mmであり、所望するダンパー性能および形状を得るために、この粘弾性体を層状に重ねて、より厚みのある粘弾性ダンパーを作製する。
【0050】
粘弾性体層を積層して粘弾性ダンパーを作製する際に、本発明のプライマー組成物からなるプライマー層を粘弾性体層の間に配置し、圧力や温度をかけることで本発明の粘弾性ダンパーを得ることができる。本発明の粘弾性ダンパーは、図1に示すように、少なくとも2層の粘弾性ダンパー層とその間にプライマー層を積層した多層構造体である。
【0051】
本発明のプライマー組成物を使用することで、粘弾性体層間の接着性を高めることができる。層間の接着性は、Tピール強度で測定した値が27N/25mm以上であることが好ましく、より好適には30N/25mm以上である。
【0052】
Tピール強度の測定方法
Tピール強度については以下の方法で測定することもできる。
アノダイズドアルミフィルム(3M社製)、粘弾性体層、プライマー層、粘弾性体層、アノダイズドアルミフィルムの順にラミネートし、図2に示すように積層する。プライマー層を配置しないサンプルについては、図3に示すように積層する。2枚のアノダイズドアルミフィルムの端を引っ張り、剥離させた時の剥離強度を以下の条件で測定する。
測定装置:ORIENTEC社製 TENSILON RTC−1325
測定温度:25℃
剥離速度:50mm/分
【0053】
本発明のプライマー組成物を使用することで、粘弾性ダンパーの繰り返し振動に対する信頼性を高めることができる。粘弾性ダンパーに50%、100%、200%、300%、350%、400%、450%、500%のせん断変形を与えることで、繰り返し振動を与え、繰り返し振動前後の貯蔵弾性率G1’、G2’で、その保持率(G2’/ G1’)は70%以上あることが好ましく、より好適には80%以上である。
【0054】
繰り返し振動前後の貯蔵弾性率G1’、G2’の測定方法
繰り返し振動前後の貯蔵弾性率G1’、G2’については以下の方法で測定することもできる。
50mm×50mm×1.2mm の粘弾性体層4枚とプライマー層3枚を図4のように積層し、さらに3枚の鋼板の間に接着させ、測定サンプルを作製する。この測定サンプルにせん断変形を与え、下記条件で貯蔵弾性率G1’(N/cm)の動的粘弾性特性を求める。
試験装置:MTS社製1軸加振装置MTS 810(最大変位250mm、最大速度75kine、最大荷重25kN)
測定温度:20℃
測定周波数:1.0Hz
せん断歪み:50%、100%、200%、300%、350%、400%、450%、500%
さらに、各せん断歪みにおける貯蔵弾性率G1’を測定後に、測定温度20℃、周波数1.0Hz、せん断歪み50%の条件で、再度、上記と同様にして繰り返し振動後の貯蔵弾性率G2’を測定する。
【実施例】
【0055】
本明細書においては、以下の略称を用いることがある。
ISA: イソステアリルアクリレート(新中村化学工業社製 NKエステルISA)
HEDA16: イソパルミチルアクリレート(東邦化学工業社製 HEDA16)
2−EHA: 2-エチルヘキシルアクリレート(東亜合成社製 AEH)
IOA:イソオクチルアクリレート(3M社製)
BA:n−ブチルアクリレート(三菱化学社製)
AA: アクリル酸(東亜合成社製)
Vim: N−ビニルイミダゾール(東京化成工業社製)
DMAA: N,N−ジメチルアクリルアミド(株式会社興人社製)
DMAEA: N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート(株式会社興人社製)
NVP: N−ビニルピロリドン(和光純薬工業社製)
V−CAP: N−ビニルカプロラクタム(アイエスピー・ジャパン社製V-CAP/RC)
HDDA: 1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(共栄社化学社製 ライトアクリレートTM 1,6HX−A)
OppanolTM B−100: ポリイソブチレン(BASF社製 OppanolTM B−100、重量平均分子量 1,100,000)
SeptonTM 1001: スチレン−エチレン−プロピレンブロック共重合体(クラレ社製 SeptonTM 1001、35wt%スチレン含有, 重量平均分子量190,000)
RR6108: (イーストマン化学社製 RegalrezTM 6108、部分水添炭化水素系粘着付与剤、軟化点 108℃、重量平均分子量1,400)
DarocurTM TPO: 2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド(チバスペシャルティケミカルズ社製 DarocurTM TPO)
IrgacureTM 651: 2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(チバスペシャルティケミカルズ社製 IrgacureTM 651)
【0056】
次に実施例、比較例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0057】
粘弾性体の製造
粘弾性体(VEM−1)
92重量部のISA、8重量部のAA、5.5重量部のOppanolTM B−100、0.1重量部のHDDA、光重合開始剤として0.3重量部のDarocurTM TPOを混合した。できた混合溶液を、2枚の剥離処理した厚み50μmのPETフィルムに膜厚1.2mmになるように挟み、蛍光黒色電球(Sylvania(商標) F20T12B)で積算量3000mJ/cmの紫外線を照射し反応硬化させて、粘弾性体層VEM−1を作製した。
【0058】
粘弾性体(VEM−2)
VEM−1と同様に、92重量部のHEDA16、8重量部のAA、8重量部のSeptonTM 1001、0.1重量部のHDDA、光重合開始剤として0.3重量部のDarocurTM TPOを混合した。できた混合溶液を、2枚の剥離処理した厚み50μmのPETフィルムに膜厚1.2mmになるように挟み、SylvaniaTM F20T12Bで積算量3000mJ/cmの紫外線を照射し反応硬化させ、粘弾性体層VEM−2を作成した。
【0059】
これらの粘弾性体単層のせん断貯蔵弾性率G’と損失正接tanδの測定結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
実施例1
100質量部の2−EHA、7.5質量部のVim、0.11質量部のHDDA、光重合開始剤として0.16重量部のIrgacureTM 651を混合した。できた混合溶液を2枚の剥離処理した厚み50μmのPETフィルムに膜厚0.1mmになるように挟み、SylvaniaTM F20T12Bで積算量3000mJ/cmの紫外線を照射し反応硬化させ、厚さが0.1mmの実施例1のプライマー層を作製した。
【0062】
上記プライマー層を、VEM−1、VEM−2それぞれと図2の様に積層し、Tピール強度を測定した。アノダイズドアルミと粘弾性体層との界面の剥離は観察されず、粘弾性体層とプライマー層との界面または凝集破壊で剥離していた。結果を表2に示す。
【0063】
実施例2〜実施例8
実施例1と同様に、表2に示す配合で混合溶液を作成し、紫外線により反応硬化させプライマー層を作成した。上記プライマー層のVEM−1およびVEM−2に対する接着性を実施例1と同様にTピール強度で評価した結果、すべてのプライマー層において、アノダイズドアルミと粘弾性体層との界面の剥離は観察されず、粘弾性体層とプライマー層との界面または凝集破壊で剥離していた。結果を表2に示す。
【0064】
比較例1
プライマー層を使用せず、図3のようにVEM−1、VEM−2をそれぞれ積層し、粘弾性体の自着性を評価した。VEM−1では25N/25mm、VEM−2では11N/25mmと低剥離強度であり、どちらも自身の凝集破壊は観察されず、界面で剥離していた。
【0065】
比較例2〜5
実施例1と同様に、表2に示す配合で混合溶液を作成し、紫外線により反応硬化させプライマー層を作成した。上記プライマー層のVEM−1およびVEM−2に対する接着性をTピール強度で評価した結果を表2に示す。すべての配合において、粘弾性体層とプライマー層との界面での剥離が起こっていた。
【0066】
【表2】

【0067】
実施例9〜12、比較例6
実施例1と同様に、表3に示す配合で混合溶液を作成し、紫外線により反応硬化させプライマー層を作成した。できたプライマー層のVEM−1層に対する接着性をTピール強度で評価した。結果を表3に示す。比較例6の配合を除き、30N/25mm以上の十分な強接着性を示した。
【0068】
【表3】

【0069】
実施例13
本発明による成果が建築構造の制振装置として用いられる場合を模擬し、その実用形態に近い状況で動的粘弾性測定を行った。
50mm×50mm×1.2mmサイズのVEM−1層4枚と実施例9で用いたプライマー層3枚を図4のように積層し、さらに3枚の鋼板(60mm×150mmサイズ、中央は12mm厚、外側は9mm厚)の間に接着させた。せん断変形を与え、下記条件で貯蔵弾性率(繰り返し振動前の貯蔵弾性率G1’)(N/cm)と損失係数(tanδ1)を求めた。
試験装置:MTS社製1軸加振装置MTS 810(最大変位250mm、最大速度75kine、最大荷重25kN)
測定温度:20℃
測定周波数:1.0Hz
せん断歪み:50%、100%、200%、300%、350%、400%、450%、500%
さらに、各せん断歪みにおける貯蔵弾性率G1’を測定後に、測定温度20℃、周波数1.0Hz、せん断歪み50%の条件で、再度、上記と同様にして繰り返し振動後の貯蔵弾性率G2’を測定した。表4に各せん断歪みにおける貯蔵弾性率G1’および損失係数tanδ1を示し、図6に応力−歪み曲線を示した。
【0070】
結果より、粘弾性体の応力−歪み曲線が楕円を示し、エネルギーを吸収することがわかり粘弾性ダンパーとして有用であることが確認された。
【0071】
さらに500%のせん断歪みに対しても、80%以上の貯蔵弾性率保持率を示し、プライマー層が剥離による破断を抑え、繰り返しの振動に対して十分な信頼性を発揮することがわかった。
【0072】
実施例14
実施例13と同様にして、VEM−2層と実施例3で用いたプライマー層を使用し、動的粘弾性測定を行った。図7に応力−歪み曲線を示し、表4に各せん断歪みに対する貯蔵弾性率および損失係数を示す。結果より、粘弾性体の応力−歪み曲線が楕円を示し、エネルギーを吸収することがわかり粘弾性ダンパーとして有用であることが確認された。さらに500%のせん断歪みに対しても、80%以上の貯蔵弾性率保持率を示し、プライマー層が剥離による破断を抑え、繰り返しの振動に対して十分な信頼性を発揮することがわかった。
【0073】
【表4】

【0074】
比較例7
プライマー層を使用しない以外は実施例13と同様にして、50mm×50mm×1.2mmサイズのVEM−1層4枚のみを図5のように積層し、3枚の鋼板の間に接着させた。実施例13と同様に動的粘弾性測定を行った。図8に応力−歪み曲線を示し、表5に各せん断歪みに対する貯蔵弾性率および損失係数を示す。
【0075】
450%を超えるせん断歪みにより、剥離による破断が確認され、500%のせん断歪みにより、応力−歪み曲線形状が大幅に崩れ、貯蔵弾性率の低下が顕著となった。この結果より、繰り返しの振動に対して信頼性に劣ることがわかった。
【0076】
比較例8
プライマー層を使用しない以外は実施例13と同様にして、50mm×50mm×1.2mmサイズのVEM−2層4枚のみを図5のように積層し、3枚の鋼板の間に接着させた。実施例13と同様に動的粘弾性測定を行った。図9に応力−歪み曲線を示し、表5に各せん断歪みに対する貯蔵弾性率および損失係数を示す。
【0077】
300%を超えるせん断歪みにより剥離による破断が確認され、応力−歪み曲線形状が大幅に崩れ、貯蔵弾性率の低下が顕著となり、繰り返しの振動に対して信頼性に劣ることがわかった。
【0078】
【表5】

【符号の説明】
【0079】
10 粘弾性ダンパー
20 プライマー層
30 粘弾性体層
32 粘弾性体層(VEM−1またはVEM−2)
40 Tピール強度の測定サンプル1
42 Tピール強度の測定サンプル2
50 アノダイズドアルミフィルム
60 繰り返し振動前後の貯蔵弾性率G1’、G2’測定サンプル1
62 繰り返し振動前後の貯蔵弾性率G1’、G2’測定サンプル2
70 鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアルキル(メタ)アクリルアミド、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、N−ビニルイミダゾールから成る群より選択される少なくとも1種の窒素含有モノマーと、炭素数が4から22のアルキル基を有する(メタ)アクリルモノマー(C4−22モノマー)とを含むモノマー混合物を重合して得られる粘弾性ダンパー用プライマー組成物であって、
前記窒素含有モノマーは、上記C4−22モノマーを含むその他のモノマー混合物100質量部に対して、5.0質量部〜40質量部含まれている粘弾性ダンパー用プライマー組成物。
【請求項2】
前記窒素含有モノマーがN−ビニルイミダゾールである請求項1に記載の粘弾性ダンパー用プライマー組成物。
【請求項3】
粘着付与剤をさらに加えた請求項1または2に記載の粘弾性ダンパー用プライマー組成物。
【請求項4】
アクリル系粘弾性体層を含む粘弾性ダンパーであって、請求項1〜3のいずれかに記載の粘弾性ダンパー用プライマー組成物を前記粘弾性体層の層間に配置した粘弾性ダンパー。
【請求項5】
前記アクリル系粘弾性体層が、炭素数が14から22のアルキル基を有する(メタ)アクリル系モノマーを含む混合物を重合して得られる重合体、ポリオレフィンブロックと芳香族ビニルモノマーブロックとを含むブロック共重合体、ポリオレフィン、およびこれらの混合物から成る群より選択される樹脂を含む請求項4に記載の粘弾性ダンパー。
【請求項6】
前記粘弾性ダンパー用プライマー組成物の厚さが0.01〜0.30mmである請求項4または5に記載の粘弾性ダンパー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−16963(P2011−16963A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164066(P2009−164066)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】