説明

粘性・流体ダンパ装置

【課題】本発明は、減衰方向とは異なる方向への偏荷重による変位が発生しても振動減衰性能を効果的に発揮でき、且つ、横転したような場合でも内部の粘性液体の流出を防止できる粘性・流体ダンパ装置を提供する。
【解決手段】本発明の粘性・流体ダンパ装置は、設置体21と支持体22との間に配置して支持体22を一定量浮上させた位置を基点としてその振動減衰を行う粘性・流体ダンパ装置1であって、設置体21上に配置する粘性流体4を収納したダンパ本体6と、支持体22に固定する取り付けプレート8に一端を連結し他端をダンパ本体6の開口側から前記粘性流体4内に臨ませたシャフト3と、粘性流体4内でダンパ本体6の内壁との間にクリアランスtをもって、且つ、シャフト3に対して直交する方向の自由度を持って連結した粘性流体4との間で減衰力を得る減衰プレート5と、ダンパ本体6の開口側を密封状態で閉塞するカバー体2とを有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘性・流体ダンパ装置に関し、詳しくは、精密製造機器や測定機及び製品検査機器等、外乱振動を排除したい機器を柔らかい弾性体にて振動絶縁する際の減衰要素として好適な粘性・流体ダンパ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から柔軟な弾性体を用いる弾性支持装置の減衰要素としてオイルダンパや粘性ダンパが使用されている。
従来のオイルダンパや粘性ダンパは、減衰方向以外の方向への自由度に制約があり、弾性体の横剛性不足と偏荷重による横方向スライドに対応するために別途弾性体の横ズレ防止機構又は発生した横ズレをダンパ部に伝えない機構を設ける必要がある。また、従来の粘性流体にシャフトやプレートを浸すタイプの粘性ダンパでは、密封処理が不完全であり、横転させると内部の液体が流出してしまう。
【0003】
特許文献1には、制御対象物の鉛直方向の振動を減衰させることを目的として、シリンダー内にシリコーンオイルを収容し、シリンダー内に配置した円板をロッドにて制御対象物に連結するピストンを備えた構成の精密除振台が提案されている。
【0004】
しかし、この特許文献1の精密除振台の場合、上述した場合と同様、減衰方向以外の方向への自由度に制約があるとともに、シリンダーの密封処理が万全でなく、横転させると内部の液体が流出してしまう惧れがある。
【特許文献1】特開平09−158979号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする問題点は、減衰方向とは異なる方向への偏荷重による変位が発生しても振動減衰性能を効果的に発揮でき、且つ、横転したような場合でも内部の粘性液体の流出防止対策が万全な粘性・流体ダンパ装置が存在しない点である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の粘性・流体ダンパ装置は、設置体と支持体との間に配置して前記支持体を一定量浮上させた位置を基点としてその振動減衰を行う粘性・流体ダンパ装置であって、前記設置体上に配置する粘性流体を収納したダンパ本体と、前記支持体に固定する取り付けプレートに一端を連結し他端を前記粘性流体内に臨ませたシャフトと、前記粘性流体内で前記ダンパ本体の内壁との間にクリアランスをもって、且つ、前記シャフトに対して自由度を持って連結した前記粘性流体との間で減衰力を得る減衰プレートとを有することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
請求項1記載の発明によれば、減衰プレートにより本来の振動減衰効果を発揮するとともに、減衰方向とは異なる方向への偏荷重による変位が発生しても振動減衰性能を効果的に発揮でき、更にロッキング運動に対しても振動減衰効果を発揮でき、横剛性の低い弾性体で支持する弾性支持装置に取り付ける減衰要素としても使用可能な粘性・流体ダンパ装置を提供することができる。
【0008】
請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果に加え、許容以上の横方向スライドが生じダンパ本体の内壁と減衰プレートの外周が接触した場合においても、減衰プレート自体の振動吸収作用によりダンパ本体の内壁への振動伝達を抑えることができ、更に、横転したような場合でも内部の粘性液体の流出防止できる粘性・流体ダンパ装置を提供することができる。
【0009】
請求項3記載の発明によれば、シャフトに対して長穴嵌合によりこのシャフトと直交する方向にスライド及び回転可能に連結した減衰プレートを備える構成で請求項2記載の発明と同様な効果を発揮する粘性・流体ダンパ装置を提供することができる。
【0010】
請求項4記載の発明によれば、シャフトに対して筒状カラーを介在させた長穴嵌合によりこのシャフトと直交する方向にスライド及び回転可能に連結した減衰プレートを備え、設置体にボルト止め固定したダンパ本体、支持体にボルト止め固定した取り付けプレートを備える構成で、請求項2記載の発明と同様な効果を発揮する粘性・流体ダンパ装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、減衰方向とは異なる方向への偏荷重による変位が発生しても振動減衰性能を効果的に発揮でき、且つ、横転したような場合でも内部の粘性液体の流出防止対策を万全とするという目的を、設置体と支持体との間に配置して前記支持体を一定量浮上させた位置を基点としてその振動減衰を行う粘性・流体ダンパ装置であって、前記設置体上に配置する粘性流体を収納したダンパ本体と、前記支持体に固定する取り付けプレートに一端を連結し他端をダンパ本体の開口側から前記粘性流体内に臨ませたシャフトと、前記粘性流体内で前記ダンパ本体の内壁との間にクリアランスをもって、且つ、前記シャフトに対してこのシャフトと直交する方向の自由度を持って連結した前記粘性流体との間で減衰力を得る減衰プレートと、前記ダンパ本体の開口側を密封状態で閉塞するカバー体とを有する構成により実現した。
【実施例】
【0012】
以下に、本発明の実施例を詳細に説明する。
図1、図2は本実施例の粘性・流体ダンパ装置1を示すものであり、この粘性・流体ダンパ装置1は、図2に拡大して示すように、例えば床等の設置体21と減衰対象物である支持体22との間に配置して前記支持体22を一定量浮上させた位置を基点としてその振動減衰を行うものである。
【0013】
本実施例の粘性・流体ダンパ装置1は、図1、図2に示すように、前記設置体21上にボルト23を用いてボルト止め固定するとともに粘性流体4を内部に収納した有底筒状のダンパ本体6と、前記支持体22にボルト23を用いてボルト止め固定する例えば円板状の取り付けプレート8に一端を連結し、他端をダンパ本体6の開口側から前記粘性流体4内に臨ませたシャフト3と、前記粘性流体4内で前記ダンパ本体6の内壁との間に図2に示すクリアランスtをもって、且つ、前記シャフト3の他端に対して図3に示す筒状カラー7を介在させた長穴嵌合により連結した例えば円板状で弾性材からなる減衰プレート5と、前記ダンパ本体6の開口側を密封状態で閉塞する柔軟性を有する蛇腹状のカバー体2とを有している。
【0014】
前記減衰プレート5は、拡大して示す図3及び図4に示すように、その中心部に長穴11が形成され、筒状カラー7を嵌装した固定ネジ12を前記減衰プレート5の下面側から長穴11を貫通して前記シャフト3にねじ込むことで、図5に示すように、前記減衰プレート5をシャフト3の回りを回転可能に、且つ、前記減衰プレート5とシャフト3とを相対的にシャフト3と直交する方向にスライド可能に構成している。
なお、図3中、13は固定ネジ12と減衰プレート5の下面との間に介在させるワッシャーである。
【0015】
次に、上述した構成の本実施例の粘性・流体ダンパ装置1の作用を図5、図6を参照して説明する。
本実施例の粘性・流体ダンパ装置1によれば、前記減衰プレート5と粘性流体4との作用で本来の垂直方向の振動減衰作用を発揮する。
【0016】
また、前記シャフト3が偏荷重等により初期設定のクリアランスtの値を超えて横方向(水平方向)に大きく偏心しても、減衰プレート5が図5に示すように回転し、且つ、減衰プレート5とシャフト3とが前記長穴11に拘束されつつ相対的にシャフト3と直交する方向にスライドすることで、水平面全方向に対してダンパ本体6の内壁と減衰プレート5との接触を受け流すことができる。
【0017】
また、偏荷重による横方向へのスライド発生を想定して前記クリアランスtを設定し、且つ、減衰プレート5の形状や粘性流体4の粘性を調整することによって、所望の減衰力を実現することができる。
【0018】
また、本実施例の粘性・流体ダンパ装置1によれば、減衰プレート5が全方向への変位に対して自由度を有するため、粘性・流体ダンパ装置1のロッキング運動に対しても減衰性能を発揮する。
【0019】
更に、減衰プレート5の材質を弾性体とすることで、許容以上の横方向スライドが生じダンパ本体6の内壁と減衰プレート5の外周が接触した場合においても、減衰プレート5自体の振動吸収作用によりダンパ本体6の内壁への振動伝達を抑えることができる。
【0020】
また、前記柔軟性を有する蛇腹状のカバー体2により、前記ダンパ本体6の開口側を密封状態で閉塞するように構成しているので、図6に矢印で示すように、偏荷重等によりシャフト3がダンパ本体6の中心からいずれかの方向に偏心しても、前記カバー体2がダンパ本体6の開口に対する密封性を保ちつつ追従して変形するので、粘性流体の流出を確実に防止することができる。
【0021】
更に、本実施例の粘性・流体ダンパ装置1によれば、複雑な機構等を用いることなく、単純な構造にて上述した種々の作用効果を発揮させることが可能であり、後述するような横剛性の低い空気バネのような弾性体を使用する弾性支持装置へ減衰要素として適用することが可能であるとともに、弾性支持装置内部へ簡易に取り付けることもできる。
【0022】
図7は、本実施例の粘性・流体ダンパ装置1の弾性支持装置30への取り付け例を示すものであり、この弾性支持装置は、横剛性の低い空気バネ31を床等の設置体21と減衰対象物である精密製造機器等のような支持体22との間に配置して、前記支持体22を一定量浮上させた状態で振動減衰を行うものである。この場合に、本実施例の粘性・流体ダンパ装置1を弾性支持装置30に付加することによって、空気バネ31の横剛性の低い点に対しては、粘性・流体ダンパ装置1の上述した作用により受け流すことができるという前提のもとに、緻密な機構を要せず全体として効果的な振動減衰効果を発揮させることができるシステムを容易に実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、上述した場合の他、地震、交通振動等の影響を抑えたい建物等のよあな各種の構造物等にも幅広く適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施例の粘性・流体ダンパ装置の正面図である。
【図2】本実施例の粘性・流体ダンパ装置の一部切欠拡大断面図である。
【図3】本実施例の粘性・流体ダンパ装置の減衰プレートとシャフトとの連結状態を示す部分拡大断面図である。
【図4】図1のA−A線断面図である。
【図5】本実施例の粘性・流体ダンパ装置のシャフトの偏心及び減衰プレートの回転変位を示す説明図である。
【図6】本発明の実施例のシャフト及び取り付けプレートの偏心状態を示す説明図である。
【図7】本実施例の粘性・流体ダンパ装置の使用例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0025】
1 粘性・流体ダンパ装置
2 カバー体
3 シャフト
4 粘性流体
5 減衰プレート
6 ダンパ本体
7 筒状カラー
8 取り付けプレート
11 長穴
12 固定ネジ
21 設置体
22 支持体
23 ボルト
31 空気バネ
30 弾性支持装置
t クリアランス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
設置体と支持体との間に配置して前記支持体を一定量浮上させた位置を基点としてその振動減衰を行う粘性・流体ダンパ装置であって、
前記設置体上に配置する粘性流体を収納したダンパ本体と、
前記支持体に固定する取り付けプレートに一端を連結し他端を前記粘性流体内に臨ませたシャフトと、
前記粘性流体内で前記ダンパ本体の内壁との間にクリアランスをもって、且つ、前記シャフトに対して自由度を持って連結した前記粘性流体との間で減衰力を得る減衰プレートと、
を有することを特徴とする粘性・流体ダンパ装置。
【請求項2】
設置体と支持体との間に配置して前記支持体を一定量浮上させた位置を基点としてその振動減衰を行う粘性・流体ダンパ装置であって、
前記設置体上に配置する粘性流体を収納したダンパ本体と、
前記支持体に固定する取り付けプレートに一端を連結し他端をダンパ本体の開口側から前記粘性流体内に臨ませたシャフトと、
前記粘性流体内で前記ダンパ本体の内壁との間にクリアランスをもって、且つ、前記シャフトに対してこのシャフトと直交する方向の自由度を持って連結した前記粘性流体との間で減衰力を得る減衰プレートと、
前記ダンパ本体の開口側を密封状態で閉塞するカバー体と、
を有することを特徴とする粘性・流体ダンパ装置。
【請求項3】
設置体と支持体との間に配置して前記支持体を一定量浮上させた位置を基点としてその振動減衰を行う粘性・流体ダンパ装置であって、
前記設置体上に配置する粘性流体を収納したダンパ本体と、
前記支持体に固定する取り付けプレートに一端を連結し他端をダンパ本体の開口側から前記粘性流体内に臨ませたシャフトと、
前記粘性流体内で前記ダンパ本体の内壁との間にクリアランスをもって、且つ、前記シャフトに対して長穴嵌合によりこのシャフトと直交する方向にスライド及び回転可能に連結するとともに、前記粘性流体との間で減衰力を得る弾性材からなる減衰プレートと、
前記ダンパ本体の開口側を密封状態で閉塞する柔軟性を有する蛇腹状のカバー体と、
を有することを特徴とする粘性・流体ダンパ装置。
【請求項4】
設置体と支持体との間に配置して前記支持体を一定量浮上させた位置を基点としてその振動減衰を行う粘性・流体ダンパ装置であって、
前記設置体上にボルト止め固定する粘性流体を収納した有底筒状のダンパ本体と、
前記支持体にボルト止め固定する取り付けプレートに一端を連結し他端をダンパ本体の開口側から前記粘性流体内に臨ませたシャフトと、
前記粘性流体内で前記ダンパ本体の内壁との間にクリアランスをもって、且つ、前記シャフトに対して筒状カラーを介在させた長穴嵌合によりこのシャフトと直交する方向にスライド及び回転可能に連結するとともに、前記粘性流体との間で減衰力を得る弾性材からなる円板形状の減衰プレートと、
前記ダンパ本体の開口側を密封状態で閉塞する柔軟性を有する蛇腹状のカバー体と、
を有することを特徴とする粘性・流体ダンパ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−17203(P2006−17203A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−194947(P2004−194947)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(591167898)ヤクモ株式会社 (18)
【Fターム(参考)】